JP5327109B2 - 液晶ポリエステル繊維および巻取パッケージ - Google Patents

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本発明は高強度、高弾性率であり、繊維長手方向の均一性に優れ、耐摩耗性に優れる液晶ポリエステル繊維に関するものである。
液晶ポリエステルは剛直な分子鎖からなるポリマーであり、溶融紡糸においてはその分子鎖を繊維軸方向に高度に配向させ、さらに熱処理(固相重合)を施すことにより溶融紡糸で得られる繊維の中では最も高い強度、弾性率が得られることが知られている。また液晶ポリエステルは固相重合により分子量が増加し、融点が上昇するため耐熱性、寸法安定性が向上することも知られている(非特許文献1参照)。このように液晶ポリエステル繊維においては固相重合を施すことにより高強度、高弾性率、優れた耐熱性、熱寸法安定性が発現する。その一方で、液晶ポリエステル繊維は剛直な分子鎖が繊維軸方向へ高配向しており緻密な結晶が生成されるため、繊維軸垂直方向への相互作用が低く、摩擦によりフィブリルが発生しやすく耐摩耗性に劣るという欠点も持つ。
近年、特にモノフィラメントからなるフィルター、スクリーン印刷用紗に対し、性能向上のため織密度の高密度化(高メッシュ化)、開口部(オープニング)の大面積化の要望が強まっている。これを達成するために単繊維繊度の細繊度化、高強度、高弾性率化が強く要求されており、液晶ポリエステル繊維は高強度、高弾性率であるため期待が集まっている。一方、高性能化のために開口部の欠点減少も同時に要求されているが、液晶ポリエステル繊維は耐摩耗性に劣るため、この点では不利である。液晶ポリエステル繊維においては、前記したフィブリルが固相重合での融着欠陥または高次加工工程での摩擦により生じるため、融着欠陥の減少、すなわち繊維長手方向の強度、繊度の均一性向上、繊維の耐摩耗性の向上が求められている。さらに製織など繊維高次加工工程での工程通過性悪化および製織性そのものの悪化もフィブリルの引っ掛かり、あるいはガイドへのフィブリルの堆積による張力変動が要因であり、繊維長手方向の強度、繊度の均一性向上、繊維の耐摩耗性の向上が求められている。
液晶ポリエステル繊維の耐摩耗性改善については、液晶ポリエステル繊維を、示差熱量測定において50℃から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)+10℃以上の温度で熱処理する技術が提案されている(特許文献1、2参照)。この技術は耐摩耗性改善の点では優れているが、繊維長手方向の均一性の点では不十分であった。特許文献1、2に記載の技術は液晶ポリエステル繊維を繊維の状態で固相重合した後、これを解舒して一旦巻き取る工程、巻き取ったパッケージから繊維をもう一度解舒しつつ高温熱処理を施す工程の2工程からなる。固相重合後の解舒と高温熱処理が2工程となる理由は、固相重合後の解舒は速度を一定にすることが困難であり、速度一定の工程である高温熱処理と連続化することが不可能なためである。固相重合後の解舒の速度が一定でない理由は、固相重合したパッケージはわずかに融着しており、融着部分を強引に剥がすと繊維がフィブリル化するため低張力で解舒したいという背景があり、このためパッケージを積極駆動により回転させ、繊維を送り出すことが好ましく、回転数一定ならばパッケージの巻量の減少とともに送り出し速度が徐々に遅くなるためである。なお、送り出し速度が一定となるよう回転数を制御する方法も存在するが、液晶ポリエステルのように伸度が小さく、弾性率が高い繊維では短時間での速度(回転数)変化に対する張力変動が大きいため糸切れしやすく、適用が難しい。
特許文献1、2の技術では固相重合した繊維を解舒して一度巻き取る点に課題がある。繊維の巻き取りにおいては繊維が緩まないよう張力をかけ、糸道ガイドを用いてトラバースさせつつパッケージに巻き上げる必要があるが、耐摩耗性が低い固相重合糸に張力をかけてガイドでトラバースさせると、特にトラバースの両端で張力が高くなるため繊維がわずかにフィブリル化してしまう。このわずかなフィブリル化は繊維の繊度や強度に対する影響は小さいが、剥がれたフィブリルがトラバースガイドに蓄積されることで、時間の経過、すなわち巻き量の増加と共に張力変動が大きくなり、突発的な張力異常による糸切れや激しいフィブリル化を招き、繊度や強度の局所低下を引き起こすのである。また、蓄積されたフィブリルが繊維に巻きこまれるケースもあり、この場合は繊度の局所増加となってしまうのである。さらに、このような繊度が局所的に異常である固相重合糸を高温熱処理すると、フィブリルのため走行安定性が悪化し、高温熱処理での張力変動が大きくなり、繊度の異常をより悪化させる他、繊維の溶断も引き起こしてしまうのである。
加えて、固相重合での融着防止のためには油剤を付与することが好ましいが、固相重合温度よりも固相重合後の高温熱処理温度は高いため、油剤は高温熱処理装置内に昇華物として堆積し、時間の経過に伴い走行する繊維と接触して張力変動するという問題を引き起こす他、堆積物が巻き込まれて最終製品に残存した場合、織機でのガイド等に再度堆積し、走行不良や糸切れを引き起こすという課題がある。このため固相重合用の油剤は、固相重合後の解舒時に洗浄除去することが好ましいが、洗浄除去すると油剤が持つ摩擦抵抗の低減効果も失われるため、走行張力が高くなり、フィブリル化しやすくなるため、固相重合糸の巻き取りは一層不利となってしまう。
このように特許文献1、2の技術では比較的少量である数万m程度では問題が顕在化しにくいが、連続して処理する量が増えると繊維の長手方向に局所的な異常が発生してしまうという課題がある。これは、固相重合後の繊維を解舒して一旦巻き取ることが原因である。
なお、特許文献1では高温熱処理に関し「パッケージから繊維を解舒しつつ連続しても良い」との記載があるが、解舒にあたっては固相重合パッケージを「積極駆動により回転させることが好ましい」とも記載されている。前述したように固相重合したパッケージを回転させると繊維の走行速度が一定とならないため、このような状態で解舒と高温熱処理を連続して行うと熱処理速度が一定とならず、長手方向に強度や耐摩耗性のムラが生じる他、解舒張力の変動がそのまま高温熱処理工程に伝わるため張力が変動し、糸切れや繊度の異常を招いてしまうという課題がある。また特許文献1には固相重合油剤の洗浄除去の記載はなく、油剤を除去した固相重合糸の解舒−熱処理連続処理に関しては何ら示唆がない。
特開2008−240228号公報(第1頁) 特開2008−240230号公報(第1頁)
技術情報協会編、「液晶ポリマーの改質と最新応用技術」(2006)(第235頁〜第256頁)
本発明の課題は高強度、高弾性率、優れた耐摩耗性を併せ持ち、かつ長手方向の均一性に特に優れた液晶ポリエステル繊維を提供することにある。
本発明者等は高強度、高弾性率、優れた耐摩耗性を達成し得る溶融紡糸、固相重合前の巻き返し、固相重合、固相重合後の解舒、高温熱処理というプロセスを検討した結果、繊維長手方向の均一性悪化の要因が固相重合後の解舒での巻き取りにあり、この巻き取りを行わないことで均一性を向上できることを見出し、上記した課題の解決に至った。
すなわち、本発明は示差熱量測定において、50℃から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク(Tm1)におけるピーク半値幅が15℃以上であり、ポリスチレン換算の重量平均分子量が25.0万以上200.0万以下であり、ウースター糸むら試験機でのハーフイナートダイアグラムマス波形における変動波形が10%未満であることを特徴とする液晶ポリエステル繊維である。
本発明の液晶ポリエステル繊維は、高強度、高弾性率で、優れた耐摩耗性を有することから、織り編みなどの繊維の高次加工での工程通過性に優れ、織密度の高密度化、製織性を向上できることに加え、長手方向の均一性に優れることから織物品位を向上させることができる。特にハイメッシュ織物が必要とされるフィルター、スクリーン紗用途に対しては、性能向上のため織密度の高密度化(高メッシュ化)、開口部(オープニング)の大面積化、開口部の欠点減少、製織性向上が達成できる。
以下、本発明の液晶ポリエステル繊維について詳細に説明する。
本発明で用いられる液晶ポリエステルとは、溶融時に異方性溶融相(液晶性)を形成し得るポリエステルである。この特性は例えば、液晶ポリエステルからなる試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を偏光下で観察することにより確認できる。
本発明に用いる液晶ポリエステルとしては、例えばa.芳香族オキシカルボン酸の重合物、b.芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、脂肪族ジオールの重合物、c.aとbとの共重合物などが挙げられるが、高強度、高弾性率、高耐熱のためには脂肪族ジオールを用いない全芳香族ポリエステルが好ましい。ここで芳香族オキシカルボン酸としては、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸など、または上記芳香族オキシカルボン酸のアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられる。また、芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸など、または上記芳香族ジカルボン酸のアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられる。さらに、芳香族ジオールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、ジオキシジフェニール、ナフタレンジオールなど、または上記芳香族ジオールのアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられ、脂肪族ジオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。
本発明に用いる液晶ポリエステルとしては、p−ヒドロキシ安息香酸成分と4,4’−ジヒドロキシビフェニル成分とハイドロキノン成分とテレフタル酸成分および/またはイソフタル酸成分とが共重合されたもの、p−ヒドロキシ安息香酸成分と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸成分とが共重合されたもの、p−ヒドロキシ安息香酸成分と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸成分とハイドロキノン成分とテレフタル酸成分とが共重合されたもの、などが紡糸性に優れ、高強度、高弾性率化が達成でき、固相重合後の高温熱処理を行うことで耐摩耗性が向上することから、好ましい例として挙げられる。
本発明では、特に下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)からなる液晶ポリエステルであることが好ましい。なお本発明において構造単位とはポリマーの主鎖における繰り返し構造を構成し得る単位を指す。
Figure 0005327109
この組み合わせにより分子鎖は適切な結晶性と非直線性すなわち溶融紡糸可能な融点を有するようになる。したがってポリマーの融点と熱分解温度の間で設定される紡糸温度において良好な製糸性を有するようになり長手方向に均一な繊維が得られ、かつ適度な結晶性を有するため繊維の強度、弾性率を高めることができる。
さらに構造単位(II)、(III)のような嵩高くなく、直線性の高いジオールからなる成分を組み合わせることが重要であり、この成分を組み合わせることにより繊維中で分子鎖は秩序だった乱れの少ない構造を取ると共に、結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持できる。これにより高い強度、弾性率が得られることに加えて、固相重合後に高温熱処理を施すことで特に優れた耐摩耗性も得られるのである。
また、上記した構造単位(I)は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40〜85モル%が好ましく、より好ましくは65〜80モル%、さらに好ましくは68〜75モル%である。このような範囲とすることで結晶性を適切な範囲とすることができ高い強度、弾性率が得られ、かつ融点も溶融紡糸可能な範囲となる。
構造単位(II)は構造単位(II)および(III)の合計に対して60〜90モル%が好ましく、より好ましくは60〜80モル%、さらに好ましくは65〜75モル%である。このような範囲とすることで結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持できるため、固相重合後に高温熱処理を施すことで耐摩耗性を高めることができる。
構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して40〜95モル%が好ましく、より好ましくは50〜90モル%、さらに好ましくは60〜85モル%である。このような範囲とすることでポリマーの融点が適切な範囲となり、ポリマーの融点と熱分解温度の間で設定される紡糸温度において良好な紡糸性を有するため長手方向に均一な繊維が得られる他、ポリマーの直線性が適度に乱れるため、固相重合後の高温熱処理によりフィブリル構造が乱れやすくなり繊維軸垂直方向の相互作用が高まり耐摩耗性を向上させることができる。
本発明に用いる液晶ポリエステルの各構造単位の好ましい範囲は以下のとおりである。この範囲の中で上記した条件を満たすよう組成を調整することで本発明の液晶ポリエステル繊維が好適に得られる。
構造単位(I)45〜65モル%
構造単位(II)12〜18モル%
構造単位(III)3〜10モル%
構造単位(IV)5〜20モル%
構造単位(V)2〜15モル%
なお本発明で用いる液晶ポリエステルには上記構造単位以外に3,3’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸(1,4−シクロヘキサンジカルボン酸)などの脂環式ジカルボン酸、クロロハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン等の芳香族ジオールおよびp−アミノフェノールなどを本発明の効果を損なわない5モル%程度以下の範囲で共重合させても良い。
また本発明の効果を損なわない5重量%程度以下の範囲で、ポリエステル、ポリオレフィンやポリスチレンなどのビニル系重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、芳香族ポリケトン、脂肪族ポリケトン、半芳香族ポリエステルアミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂などのポリマーを添加しても良く、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロン9T、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、ポリエステル99Mなどが好適な例として挙げられる。なおこれらのポリマーを添加する場合、その融点は液晶ポリエステルの融点±30℃以内にすることが製糸性を損なわないために好ましい。
さらに本発明の効果を損なわない範囲内で、各種金属酸化物、カオリン、シリカなどの無機物や、着色剤、艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤、相溶化剤等の各種添加剤を少量含有しても良い。
本発明の繊維のポリスチレン換算の重量平均分子量(以下、分子量と記載する)は25.0万以上200.0万以下である。25.0万以上の高い分子量を有することで高い強度、弾性率、伸度を有する。分子量は高いほど強度、弾性率、伸度が向上するため、30.0万以上が好ましく、35.0万以上がより好ましい。分子量の上限は特に限定されないが、本発明で達し得る上限としては200.0万程度である。なお本発明で言う分子量とは実施例記載の方法により求められた値とする。
本発明の繊維は、示差熱量測定において、50℃から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク(Tm1)におけるピーク半値幅が15℃以上である。この測定法におけるTm1は繊維の融点を表し、ピーク形状はその面積が広いほど、即ち融解熱量ΔHm1が大きいほど結晶化度が高く、またその半値幅が狭いほど結晶の完全性は高いと言える。液晶ポリエステルは紡糸した後固相重合を施すことでTm1が上昇、ΔHm1が増加、半値幅は減少し、結晶化度、結晶の完全性が高くなることで繊維の強度、伸度、弾性率が増加、耐熱性が向上する。一方で耐摩耗性が悪化するが、これは結晶の完全性が高まることにより、結晶部と非晶部の構造差が顕著となるため、その界面で破壊が起こるためと考えられる。そこで本発明の繊維では固相重合した繊維の特徴である高いTm1、高い強度、伸度、弾性率を維持したまま、ピーク半値幅を、固相重合していない液晶ポリエステル繊維のような15℃以上という値に増加させることで、結晶性を低下させて破壊の起点となる結晶/非晶の構造差を減少させ、フィブリル構造を乱し、繊維全体を柔軟化させることで耐摩耗性を高めることができるのである。Tm1におけるピーク半値幅は、高い方が耐摩耗性は高いため、好ましくは20℃以上である。なお、上限は特に制限されないが、工業的に達し得る上限は80℃程度である。
なお、本発明の液晶ポリエステル繊維においては、吸熱ピークは1つであるが、固相重合が不十分な場合など繊維構造によっては2つ以上のピークが観測されることがある。この場合のピーク半値幅はそれぞれのピークの半値幅を合計した値とする。
また、本発明の繊維は示差熱量測定において50℃から20℃/分の昇温条件で測定した際に実質的に発熱ピークが見られないことが好ましい。実質的に発熱ピークが見られないとは、発熱量が3.0J/g以上、好ましくは1.0J/g以上、さらに好ましくは0.5J/g以上のピークが見られないことを指し、ベースラインの微小なあるいは緩やかな変動はピークとは見なさない。発熱ピークが見られるのは、結晶性高分子が非晶状態で繊維に含まれる場合であり、発熱ピークが見られないことは繊維が実質的に液晶ポリエステル単成分であることを表す。繊維が実質的に液晶ポリエステル単成分であることで液晶ポリエステルの特性を十分に発揮でき、強度、弾性率、耐熱性、熱寸法安定性に優れる。
本発明の繊維の融点(Tm1)は290℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、310℃以上がさらに好ましい。このような高い融点を有することで繊維としての耐熱性が優れる。繊維の高融点化を達成するためには、高融点の液晶ポリエステルポリマーを製糸するなどの方法があるが、特に高い強度、弾性率を有し、さらに長手方向の均一性に優れる繊維を得るためには溶融紡糸した繊維を固相重合することが好ましい。なお、融点の上限は特に限定されないが、本発明で達しえる上限としては400℃程度である。
また融解熱量ΔHm1の値は、液晶ポリエステルの構成単位の組成により変化するが、6.0J/g以下であることが好ましい。△Hm1が6.0J/g以下に低下することで結晶化度は低下し、フィブリル構造が乱れ、繊維全体が柔軟化し、かつ破壊の起点となる結晶/非晶の構造差が減少することで耐摩耗性が向上する。△Hm1は低いほど耐摩耗性は向上するため5.0J/g以下がより好ましい。なおΔHm1の下限は特に限定されないが、高い強度、弾性率を得るためには0.5J/g以上が好ましい。
分子量が25.0万以上と高いにも関わらず、ΔHm1が6.0J/g以下と低いことは驚くべきことである。分子量が25.0万以上の液晶ポリエステルは融点を超えても粘度が著しく高く流動せず溶融紡糸が困難であり、このような高分子量の液晶ポリエステル繊維は低分子量の液晶ポリエステルを溶融紡糸し、この繊維を固相重合することで得られる。液晶ポリエステル繊維を固相重合すると分子量が増加し強度、伸度、弾性率、耐熱性は向上し、同時に結晶化度も高まりΔHm1が増加する。結晶化度が高まると強度、伸度、弾性率、耐熱性はさらに向上するが、結晶部と非晶部の構造差が顕著となり、その界面が破壊されやすくなり耐摩耗性は低下してしまう。これに対し本発明では固相重合した繊維の1つの特徴である高い分子量を持つことで高い強度、伸度、弾性率、耐熱性を保持すると共に、固相重合をしていない液晶ポリエステル繊維のような低い結晶化度すなわち低いΔHm1を有することで耐摩耗性を向上できるのである。本発明では実質的に液晶ポリエステルのみからなる繊維を、構造変化すなわち結晶化度を低下させることにより耐摩耗性向上を達成した点で技術的進歩がある。
このような繊維構造を達成できれば、その製造方法は特に限定されないが、構造の均一化、生産性の向上のためには後述するような固相重合した液晶ポリエステル繊維を連続的に走行させつつ、その液晶ポリエステル繊維のTm1+10℃以上で熱処理することが好ましい。
本発明の繊維のTcは組成により変化するが、耐熱性を高めるためには250℃以上350℃以下が好ましい。ΔHcは低すぎると結晶化度の低下のため強度、弾性率が低下し、過度に大きいと結晶化度が高まりすぎ、耐摩耗性の向上が難しくなることから2.0J/g以上5.0J/g以下が好ましい。なお、本発明の液晶ポリエステル繊維においては上記した測定条件における冷却時の発熱ピークは1つであるが、固相重合後の熱処理などによる構造変化によっては2つ以上のピークが観測されることがある。この場合のΔHcはそれぞれのピークのΔHcを合計した値とする。
また本発明の繊維のTm2は組成により変化するが、耐熱性を高めるためには300℃以上が好ましい。Tm2の上限は特に制限されないが、本発明で到達し得る上限としては400℃程度である。ΔHm2は過度に大きいとポリマーそのものの結晶性が高くなり、耐摩耗性の向上が難しくなるため5.0J/g以下が好ましく、2.0J/g以下がより好ましい。なお、本発明の液晶ポリエステル繊維においては上記した測定条件における冷却後の再昇温時の吸熱ピークは1つであるが、2つ以上のピークが観測されることがある。この場合のΔHm2はそれぞれのピークのΔHm2を合計した値とする。
本発明の繊維は、ウースター糸むら試験機でのハーフイナートダイアグラムマス波形(以下、U%Hと記す。)における変動波形が10%未満である。本発明で言うU%Hにおける変動波形とは実施例記載の方法により求められた値とする。U%Hで検出されるのは1m程度以上の波長の繊維直径異常であり、このような異常が見られるのは例えば蓄積したフィブリルが繊維に混入した場合に見られる繊維直径の高め異常(多く堆積したフィブリルは一瞬で全てが混入せず、数段階に分かれるため長い周期の異常となる)、フィブリルが高温熱処理前のロールに付着し走行安定性が悪化したときの繊維直径異常(ヒーターの長さ程度の長い周期の異常になる)が挙げられる。本発明の繊維は変動波形が10%未満であることで、繊維の削れやフィブリル化に起因する長い周期の異常がなく、長手方向に繊維直径が均一であることを表す。このように繊維径が長手方向に均一であることで製織等の高次工程での工程通過性および製織性が良好となり、織物とした際にも繊維の目開き(オープニング)が均一となり、織物品位が良好となる。変動波形は小さいほど繊維長手方向の均一性が高いため、8%未満がより好ましい。
本発明の繊維は、外径測定における変動値が30%未満であることが好ましい。本発明で言う外径測定での変動値とは実施例記載の方法により求められた値とする。外径測定で検出されるのは数cm程度の波長の繊維直径異常であり、このような異常が見られるのは、繊維の局所的な削れによる繊維直径低め異常、フィブリルの混入による繊維直径高め異常(大きく堆積する前に混入する場合は小さい周期の異常となる)などが挙げられる。外径測定での変動値が30%未満であることは、比較的短い周期でも長手方向に繊維直径が均一であることを表すため、製織等の高次工程での工程通過性および製織性が良好となり、織物品位が良好となる。外径測定での変動値が小さいほど繊維長手方向の均一性は高いため、変動値は20%未満であることがより好ましく、15%未満であることがさらに好ましい。
繊維の長手方向の繊維直径の均一性は、特にモノフィラメントからなる印刷用スクリーン紗やフィルター用メッシュ織物で重要視される項目である。このような織物を連続して数十m以上製作する場合、緯糸は数十万m必要となるが、従来技術でも述べたように、特許文献1、2では糸長が長くなると固相重合糸の巻き取りに起因して繊維直径の均一性が悪化する。これに対し、本発明では固相重合の巻き取りそのものをなくすことで均一性に優れる繊維が得られ、数十mの連続した織物の品位を向上できるのである。このとき特にU%Hで表されるような長い周期の異常がないことで、織物中に連続した異常が発生せず、製品のロスを最小限に抑えることができるのである。
本発明の繊維の強度は織物の強度を高めるため12.0cN/dtex以上が好ましく、14.0cN/dtex以上がより好ましく、15.0cN/dtex以上がさらに好ましい。強度の上限は特に限定されないが、本発明で達し得る上限としては30.0cN/dtex程度である。なお本発明で言う強度とはJISL1013:1999記載の引張強さを指す。
また弾性率は織物の弾性率を高めるため500cN/dtex以上が好ましく、600cN/dtex以上がより好ましく、700cN/dtex以上がさらに好ましい。弾性率の上限は特に限定されないが、本発明で達しえる上限としては弾性率1200cN/dtex程度である。なお本発明で言う弾性率とはJISL1013:1999記載の初期引張抵抗度を指す。
強度、弾性率が高いことによりロープ、テンションメンバー等の補強用繊維、印刷用スクリーン紗、フィルター用メッシュ等の用途に好適に使用できる他、細繊度でも高い強力を発現させ得るため繊維材料の軽量化、薄物化が達成でき、製織など高次加工工程での糸切れも抑制できる。本発明の繊維においては分子量が25.0万以上であることで高い強度、弾性率が得られる。
本発明の繊維の単繊維繊度は18.0dtex以下が好ましい。単繊維繊度を18.0dtex以下と細くすることで、繊維状態で固相重合した際に分子量が増加しやすく、強度、伸度、弾性率が向上する。さらに繊維のしなやかさが向上し繊維の加工性が向上する、表面積が増加するため接着剤などの薬液との密着性が高まると言った特性を有することに加え、モノフィラメントからなる紗とする場合は厚みを薄くできる、織密度を高くできる、オープニング(開口部の面積)を広くできるという利点を持つ。単繊維繊度はより好ましくは10.0dtex以下、さらに好ましくは7.0dtex以下である。なお、単繊維繊度の下限は特に限定されないが、本発明で達しえる下限としては1.0dtex程度である。
本発明の繊維の繊度変動率は30%以下が好ましく、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下である。本発明で言う繊度変動率とは実施例記載の手法により測定された値を指す。繊度変動率が30%以下であることで長手方向の繊度の均一性が高く、繊維の強力(強度と繊度の積)変動も小さくなるため、繊維製品の欠陥が減少する他、モノフィラメントの場合には直径変動が小さくなるため、紗とした際のオープニング(開口部の面積)の均一性が高まり紗の性能が向上できる。
本発明の繊維の強力変動率は20%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。なお本発明で言う強力とはJISL1013:1999記載の引張強さの測定における切断時の強さを指し、強力変動率とは実施例記載の手法により測定された値を指す。強力変動率が20%以下であることで長手方向の強力の均一性が高まり、織物の欠陥が減少する他、低強度部分に起因する高次加工工程での糸切れも抑制できる。
本発明の繊維の伸度は1.0%以上が好ましく2.0%以上がより好ましい。伸度が1.0%以上あることで繊維の衝撃吸収性が高まり、高次加工工程での工程通過性、取り扱い性に優れる他、衝撃吸収性が高まるため耐摩耗性も高まる。なお、伸度の上限は特に限定されないが、本発明で達しえる上限としては10.0%程度である。本発明の繊維においては分子量が25.0万以上であることで高い伸度が得られる。
本発明の繊維の繊維軸垂直方向の圧縮弾性率(以下、圧縮弾性率と記載する)は0.50GPa以下が好ましい。本発明の液晶ポリエステル繊維は引張方向には高い強度、弾性率を有するが、圧縮弾性率が低いことで、高次加工工程、あるいは織機で繊維がガイドや筬に押し付けられた際にその接触面積を広げ、荷重を分散する効果が発現する。この効果により繊維への押しつけ応力は低下し耐摩耗性が向上する。圧縮弾性率の下限は特に限定されないが、0.10GPa以上であれば繊維が押しつぶされて変形する量は小さく、印刷用スクリーン紗に用いる場合には紗厚を高いレベルで維持できるため紗の性能を損ねない。なお本発明で言う圧縮弾性率とは実施例記載の手法により求められた値を指す。
本発明の繊維の複屈折率(△n)は0.250以上0.450以下が好ましい。△nがこの範囲であれば繊維軸方向の分子配向は十分に高く、高い強度、弾性率が得られる。
本発明の繊維は広角X線回折において繊維軸に対し赤道線方向の2θ=18〜22°に観測されるピークの半値幅(Δ2θ)が1.8°以上であることが好ましく、2.0°以上がより好ましく、2.2°以上であることがさらに好ましい。結晶性高分子では一般に結晶サイズの減少に伴いΔ2θも大きくなるが、液晶ポリエステルでは回折を与えるのがフェニレン環のスタッキングであることからスタッキングの乱れの寄与が大きいとΔ2θが大きくなると考えられる。液晶ポリエステルでは固相重合に伴いスタッキング構造が安定化し結晶化するためΔ2θが減少する。Δ2θが1.8°以上と大きいことで結晶性は低下し繊維全体が柔軟化し、かつ破壊の起点となる結晶/非晶の構造差が減少することで耐摩耗性が向上する。Δ2θの上限は特に限定されないが、本発明で達しえる上限としては4.0°程度である。なお本発明で言うΔ2θとは実施例記載の手法により求められた値を指す。
本発明で得られる繊維には表面平滑性向上による耐摩耗性向上、工程通過性向上などのために油分が付着されていることが好ましく、油分付着量は繊維重量に対し0.01重量%以上が好ましい。なお本発明で言う油分付着量とは実施例記載の手法により求められた値を指す。油分は多いほどその効果は高まるため、0.05重量%以上がより好ましい。ただし油分が多すぎると繊維同士の接着力が高まり、走行張力が不安定になる、ガイドなどに油分が堆積し工程通過性が悪化し、時には製品に混入し欠点となるなどの問題を引き起こすため、2.0重量%以下が好ましく、1.0重量%以下がより好ましい。
液晶ポリエステル繊維の表面に残存する油分付着量は、加工工程である製経や製織におけるガイド部分などへのスカム発生の要因となることに加え、液晶ポリエステル繊維を製造する工程でのスカム発生による糸切れも抑制して、工程安定性を向上させることができる観点から、0.5重量%未満であるとさらに好ましい態様である。油分付着量が0.5重量%未満であると、得られた液晶ポリエステル繊維を解舒する際に好適に用いられるテンション付与装置等において、スカムの発生が極めて抑制される。テンション付与装置等で発生したスカムは、例えばテンション付与機構である擦過体の部分に堆積し、擦過体の摩擦抵抗を変化させるほか、走行する繊維の擦過体上の位置を変えてしまうなどの理由から、張力変動の要因となる。張力が変動してしまうと、その後の工程において液晶ポリエステル繊維が突っ張る部分と弛む部分ができてしまい、中間工程や最終工程における製品の品質を低下させてしまう原因になるほか、最悪の場合には工程を止めてしまい、大きな損失となる可能性がある。このことから油分付着量は、0.3重量%未満であることがさらに好ましい態様である。
本発明の液晶ポリエステル繊維の解舒張力変動率は、30%未満であることが好ましい。解舒張力変動率は、実施例記載の方法で測定されるパラメータである。解舒張力の変動は、特に織物を製造する際に、製織時の製経工程や緯打込み工程での液晶ポリエステル繊維の弛みを誘発するため、得られる織物において、弛みや引きつれの原因となる。このような弛みや引きつれは、織物の品位を悪化させるため、発生させないこと、つまり解舒張力の変動を極力抑えることが好ましい態様である。解舒張力の変動は、さまざまな要因によって引き起こされるが、数ある要因のうちの一つとして、繊維表面に残存した油分が、例えば糸道ガイドに堆積することで、解舒張力の変動を引き起こすことがある。このため解舒張力変動率を低減させ、走行糸条を安定させる観点からも油分付着量は、液晶ポリエステル繊維の表面に実質的に付着していないことが、より好ましい態様である。
上記の通り織物品位向上の観点から解舒張力変動率は、30%未満であることが好ましく、20%未満であるとより好ましく、15%未満であると最も好ましい。
また付着させる油剤種は繊維に一般的に使用されるものであれば特に制限はないが、液晶ポリエステル繊維に対しては、固相重合での融着防止と表面平滑性向上の両方の効果を併せ持つポリシロキサン系化合物を少なくとも用いることが好ましく、中でも繊維への塗布が容易である常温で液体状のポリシロキサン系化合物(いわゆるシリコーンオイル)、特に水エマルジョン化に適し環境負荷の低いポリジメチルシロキサン系化合物を含むことが特に好ましい。付着した油分にポリシロキサン系化合物を含むことの判定は、本発明においては実施例記載の方法で行う。
本発明の繊維の耐摩耗性Cは20秒以上が好ましく、50秒以上がより好ましく、60秒以上がさらに好ましく、70秒以上が特に好ましい。本発明で言う耐摩耗性Cとは実施例記載の手法により測定された値を指す。耐摩耗性Cが20秒以上であることで液晶ポリエステル繊維の高次加工工程でのフィブリル化が抑制でき、フィブリル堆積による工程通過性や製織性の悪化、堆積したフィブリルが織り込まれることによる開口部の目詰まりが抑制できる他、ガイド類へのフィブリルの堆積が減ずることから洗浄、交換周期を長くできる。
本発明の繊維のフィラメント数は、繊維製品の薄物化、軽量化のためにはフィラメント数50以下が好ましく、20以下がより好ましい。特にフィラメント数が1であるモノフィラメントは細繊度、高強度、高弾性率、単繊維繊度の均一性が強く望まれる分野であるため本発明の繊維は特に好適に用いることができる。
本発明の繊維の糸長は15万m以上が好ましい。糸長が長いことで織物の緯糸とした場合に製織長さを長くできる他、製品の輸送時の容積を減らすことができる。糸長が長いほどこの効果は高められるため、糸長は20万m以上がより好ましい。特に油分付着率が0.5重量%未満の液晶ポリエステル繊維は、その巻取パッケージにおける繊維長が20万m以上であることが好ましい。
従来は、油分付着率が高すぎて、液晶ポリエステル繊維の製造工程中でのガイド部などへスカムが堆積することにより、長時間連続して液晶ポリエステル繊維を巻き取ることが難しかった。本発明に記載される好ましい製造方法で得られた油分付着率が0.5重量%未満の液晶ポリエステル繊維は、製造工程中でのスカム堆積を抑制することができるため、安定して20万m以上の巻取パッケージを得ることができるため、好ましい態様である。
また織物や編物、ロープなどの資材に代表される最終製品を製造する工程において、長時間機械を停止せずに製造できることから、巻取パッケージの繊維長は20万m以上であると好ましく、30万m以上であると更に好ましい。上限は特に定められたものではないが、パッケージの重量やハンドリングの面から、繊維長400万m、パッケージ重量20kg程度で十分である。
また本発明の繊維は糸長が長いため、繊維を芯材に巻きパッケージとすることが好ましい。パッケージ形態としては特にモノフィラメントの場合、端面での崩れが起きやすいため、端面がテーパー状であることが好ましく、テーパーエンドチーズ巻やパーン巻であることがより好ましい。端面のテーパー角は過度に大きいと端面が崩れるため70°以下が好ましく、60°以下がより好ましい。またテーパー角が小さいと巻量を多くできないため30°以上が好ましく、40°以上がより好ましい。なお本発明で言うテーパー角とは以下の式で定義される。
Figure 0005327109
以下、本発明の液晶ポリエステル繊維の製造例を詳細に説明する。
本発明に用いる液晶ポリエステルの製造方法は公知の製造方法に準じて製造でき、例えば以下の製造方法が好ましく挙げられる。
(1)p−アセトキシ安息香酸などのアセトキシカルボン酸および4,4’−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物のジアセチル化物とテレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸から脱酢酸縮重合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法。
(2)p−ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸および4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物とテレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法。
(3)p−ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸のフェニルエステルおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物とテレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸のジフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルを製造する方法。
(4)p−ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸およびテレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれジフェニルエステルとした後、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルを製造する方法。
中でもp−ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸および4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法が好ましい。さらに、4,4’−ジヒドロキシビフェニルおよびハイドロキノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物の合計使用量とテレフタル酸およびイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸の合計使用量は、実質的に等モルであることが好ましい。無水酢酸の使用量は、p−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニルおよびハイドロキノンのフェノール性水酸基の合計の1.12当量以下であることが好ましく、1.10当量以下であることがより好ましく、下限については1.00当量以上であることが好ましい。
本発明で用いる液晶ポリエステルを脱酢酸重縮合反応により製造する際には、液晶ポリエステルが溶融する温度で減圧下反応させ、重縮合反応を完了させる溶融重合法が、均一なポリマーを製造でき、ガス発生量がより少なく、製糸性に優れるポリマーを得ることができるため好ましい。例えば、所定量のp−ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸および4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、無水酢酸を攪拌翼、留出管を備え、下部に吐出口を備えた反応容器中に仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら加熱し水酸基をアセチル化させた後、液晶性樹脂の溶融温度まで昇温し、減圧により重縮合し、反応を完了させる方法が挙げられる。アセチル化させる条件は、通常140〜180℃の範囲で、1〜6時間反応させる。重縮合させる温度は液晶ポリエステルの溶融温度、例えば250〜350℃の範囲であり、好ましくは液晶ポリエステルポリマーの融点+10℃以上の温度である。重縮合させるときの減圧度は通常665Pa以下である。
得られたポリマーは、それが溶融する温度で反応容器内を例えば、およそ0.1±0.05MPaに加圧し、反応容器下部に設けられた吐出口よりストランド状に吐出することができる。
本発明に用いる液晶ポリエステルを製造する際に、固相重合法により重縮合反応を完了させることも可能である。例えば、液晶ポリエステルポリマーまたはオリゴマーを粉砕機で粉砕し、窒素気流下または減圧下、液晶ポリエステルの融点(Tm)−5℃〜融点(Tm)−50℃(例えば、200〜300℃)の範囲で1〜50時間加熱し、所望の重合度まで重縮合し、反応を完了させる方法が挙げられる。
ただし紡糸においては、固相重合法により製造した液晶性樹脂をそのまま用いると、固相重合によって生じた高結晶化部分が未溶融で残り、紡糸パック圧の上昇や糸中の異物の原因となる可能性があるため、一度二軸押出機などで混練して(リペレタイズ)、高結晶化部分を完全に溶融することが好ましい。
上記液晶ポリエステルの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を使用することもできる。
本発明に用いる液晶ポリエステルポリマーの融点は、溶融紡糸可能な温度範囲を広くするため好ましくは200〜380℃であり、紡糸性を高めるためにより好ましいのは250〜360℃である。なお液晶ポリエステルポリマーの融点は実施例記載の方法で測定される値を指す。
本発明に用いる液晶ポリエステルポリマーの溶融粘度は、0.5〜200Pa・sであり、高い紡糸性を得るため10〜50Pa・sがより好ましい。なお、この溶融粘度は、融点(Tm)+10℃の条件で、ずり速度1,000(1/s)の条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
本発明に用いる液晶ポリエステルのポリスチレン換算の重量平均分子量(以下、分子量と記載)は3.0万以上が好ましい。分子量を3.0万以上とすることで紡糸温度において適切な粘度を持ち製糸性を高めることができる。分子量が高いほど得られる繊維の強度、伸度、弾性率は高まるが、分子量が高すぎると粘度が高くなり流動性が悪くなり、ついには流動しなくなるため分子量は25.0万未満が好ましく、20.0万未満がより好ましい。
本発明に用いる液晶ポリエステルは溶融紡糸に供する前に乾燥することが水分混入による発泡を抑え、製糸性を高めるうえで好ましい。また真空乾燥を行うことで、液晶ポリエステルに残存するモノマーも除去できるため、製糸性をさらに高めることができ、より好ましい。乾燥温度は通常100〜200℃にて、8〜24時間の真空乾燥を行う。
溶融紡糸において、液晶ポリエステルの溶融押出は公知の手法を用いることができるが、重合時に生成する秩序構造をなくすためにエクストルーダー型の押出機を用いることが好ましい。押し出されたポリマーは配管を経由しギアーポンプなど公知の計量装置により計量され、異物除去のフィルターを通過した後、口金へと導かれる。このときポリマー配管から口金までの温度(紡糸温度)は流動性を高めるため液晶ポリエステルの融点以上とすることが好ましく、液晶ポリエステルの融点+10℃以上がより好ましい。ただし紡糸温度が過度に高いと液晶ポリエステルの粘度が増加し、流動性の悪化、製糸性の悪化を招くため500℃以下とすることが好ましく、400℃以下がより好ましい。なお、ポリマー配管から口金までの温度をそれぞれ独立して調整することも可能である。この場合、口金に近い部位の温度をその上流側の温度より高くすることで吐出が安定する。
吐出においては口金孔の孔径を小さくするとともに、ランド長(口金孔の孔径と同一の直管部の長さ)を長くすることが製糸性を高め、繊度の均一性を高める点で重要である。ただし孔径が過度に小さいと孔の詰まりが発生しやすくなるため直径0.03mm以上0.30mm以下が好ましく、0.08mm以上0.20mm以下がより好ましい。ランド長は過度に長いと圧力損失が高くなるため、ランド長を孔径で除した商で定義されるL/Dは0.5以上3.0以下が好ましく0.8以上2.5以下がより好ましい。
また均一性を維持するために1つの口金の孔数は50孔以下が好ましく、20孔以下がより好ましい。なお、口金孔の直上に位置する導入孔はストレート孔とすることが圧力損失を高めない点で好ましい。導入孔と口金孔の接続部分はテーパーとすることが異常滞留を抑制する上で好ましいい。
口金孔より吐出されたポリマーは保温、冷却領域を通過させ固化させた後、一定速度で回転するローラー(ゴデットローラー)により引き取られる。保温領域は過度に長いと製糸性が悪くなるため口金面から200mmまでとすることが好ましく、100mmまでとすることがより好ましい。保温領域は加熱手段を用いて雰囲気温度を高めることも可能であり、その温度範囲は100℃以上500℃以下が好ましく、200℃以上400℃以下がより好ましい。冷却は不活性ガス、空気、水蒸気等を用いることができるが、平行あるいは環状に噴き出す空気流を用いることが環境負荷を低くする点から好ましい。
引き取り速度は生産性、単糸繊度の低減のため50m/分以上が好ましく、500m/分以上がより好ましい。本発明で好ましい例として挙げた液晶ポリエステルは紡糸温度において好適な曳糸性を有することから引き取り速度を高速にでき、上限は特に制限されないが、曳糸性の点から2000m/分程度となる。
引き取り速度を吐出線速度で除した商で定義される紡糸ドラフトは1以上500以下とすることが好ましく製糸性を高め、繊度の均一性を高める点で10以上100以下とすることがより好ましい。
溶融紡糸においてはポリマーの冷却固化から巻き取りまでの間に油剤を付与することが繊維の取り扱い性を向上させる上で好ましい。油剤は公知のものを使用できるが、固相重合前巻き返しにおいて溶融紡糸で得られた繊維(以下、紡糸原糸と記載する)を解舒する際の解舒性を向上させる点でポリエーテル化合物を主体とする平滑剤とラウリルアルコールを主体とする乳化剤の水エマルジョンを用いることが好ましい。
巻き取りは公知の巻取機を用いパーン、チーズ、コーンなどの形態のパッケージとすることができるが、巻き取り時にパッケージ表面にローラーが接触しないパーン巻きとすることが繊維に摩擦力を与えずフィブリル化させない点で好ましい。
次に、本発明の分子量25.0万以上、200.0万以下の液晶ポリエステル繊維を得るためには、紡糸原糸を固相重合する。固相重合を行うことで分子量が高まり、これにより強度、弾性率、伸度が高まる。固相重合はカセ状、トウ状(例えば金属網等にのせて行う)、あるいはローラー間で連続的に糸条として処理することも可能であるが、設備が簡素化でき、生産性も向上できる点から繊維を芯材に巻き取ったパッケージ状で行うことが好ましい。
パッケージ状で固相重合を行う場合、単繊維繊度を細くした際に顕著となる融着を防止することが重要となり、このため固相重合を行う際の繊維パッケージの巻き密度を小さくすることが好ましい。一方、巻き密度を小さくし過ぎるとパッケージの巻き崩れや端面での綾落ちが生じ、固相重合後に繊維を一定速度で解舒する際に張力変動や糸切れを招く。したがって本発明の繊維を得るためには巻き密度が小さく、かつ巻崩れや綾落ちが少ないパッケージを得ることが重要となる。
このようなパッケージを溶融紡糸での巻き取りで形成することは、設備生産性、生産効率が向上するために望ましいが、紡糸原糸を巻き返して形成する方が、巻き形状を整えつつ、巻き張力を小さくすることができ、巻き密度を小さくできるため好ましい。
巻き返しは紡糸原糸を解舒しつつ巻取機にて巻き取る。巻取機の一般的な制御方法は調速ローラーを介し、張力あるいは速度を検知して巻取機の速度を制御するものであるが、張力検知方式では巻き張力が高くなり、速度検知方式では伸度が小さく弾性率が高い液晶ポリエステル繊維の場合、速度の微小な変化による張力変動が大きくなり綾落ち、糸切れの問題を起こす。このことから巻き返しは紡糸原糸パッケージから調速ローラーを介せず直接、回転数が制御された巻取機で巻き取ることが好ましい。この場合、糸速度は時間の経過に伴い徐々に変化することもあるが、短時間での変化は小さく、張力は低い値をほぼ一定に保つことができ、巻き密度が小さく、かつ巻崩れや綾落ちが少ないパッケージを得ることができる。
巻き張力は、小さくするほど巻き密度は小さくできるので、1.0cN/dtex以下が好ましく、0.60cN/dtex以下がより好ましい。下限は特に定められないが本発明で達し得る下限は0.10cN/dtex程度である。
巻き取り速度は500m/分以下、特に400m/分以下とすることが巻き密度を低くするために有効であるが、一方、巻き取り速度は生産性のためには高い方が有利であり、100m/分以上、特に200m/分以上とすることが好ましい。なお巻き返しの際に、回転数が制御された巻取機で直接巻き取る方式では、時間の経過と共に速度が変化する場合があるが、この場合の巻き取り速度は最高速度を指すものとする。
巻き取りにおいてはパッケージ形状を整え巻き取り張力を安定化させるために用いられるコンタクトロール等の接圧(面圧)を小さくすること重要であり、接圧は400gf以下が好ましく、より好ましくは200gf以下である。接圧が過度に低いとコンタクトロールがパッケージから浮き、綾落ちすることから、接圧は50gf以上が好ましい。なお接圧はコンタクトロールとパッケージの接触長(巻きストローク、トラバース長とも言う)とも関係し、接触長が長いほど接圧は高くする必要がある。接触長が長いほどパッケージの巻き量は高まるため、接触長は100mm以上が好ましい。一方、接触長が過度に長いと固相重合後の解舒での端面での張力変動が大きくなるため、接触長は500mm以下が好ましい。
低張力巻き取りにおいても綾落ちが少ないパッケージを形成するためには、巻き形態は両端にテーパーがついたテーパーエンド巻取とすることが好ましい。この際、テーパー角は70°以下が好ましく、60°以下がより好ましい。またテーパー角が小さい場合、繊維パッケージを大きくすることができないため、30°以上が好ましく、40°以上がより好ましい。なお本発明で言うテーパー角とは以下の式で定義される。
Figure 0005327109
融着抑制にはワインド数も重要である。ここで言うワインド数とはトラバースが半往復する間にスピンドルが回転する回数であり、トラバース半往復の時間(分)とスピンドル回転数(rpm)の積で定義され、ワインド数が高いことは綾角が小さいことを示す。ワインド数は小さい方が繊維間の接触面積が小さく融着回避には有利であるが、本発明で好適な巻取条件となる低張力、低接圧などの条件においてはワインド数が高いほど端面での綾落ちが軽減でき、パッケージ形状が良好となる。これらの点からワインド数は3.0以上15.0以下が好ましく、5.0以上10.0以下がより好ましい。
本発明において、固相重合に供するパッケージの巻き密度は0.60g/cc以下が好ましい。ここで巻き密度とは、パッケージ外寸法と心材となるボビンの寸法から求められるパッケージの占有体積Vf(cc)と繊維の重量Wf(g)からWf/Vfにより計算される値である。なお占有体積Vfはパッケージの外形寸法を実測するか、写真を撮影し写真上で外形寸法を測定し、パッケージが回転対称であることを仮定し計算することで求められる値であり、Wfは繊度と巻取長から計算される値、もしくは巻取前後での重量差により実測される値である。巻き密度が小さいほどパッケージにおける繊維間の密着力が弱まり融着が抑制できるため、0.50g/cc以下がより好ましい。また巻き密度は過度に小さいとパッケージの巻き崩れや端面での綾落ちが生じるため0.05g/cc以上とすることが好ましく、0.20g/cc以上がより好ましい。
該繊維パッケージを形成するために用いられるボビンは円筒形状のものであればいかなるものでも良く、巻き返す際に巻取機に取り付け、これを回転させることで繊維を巻き取り、パッケージを形成する。固相重合に際しては繊維パッケージをボビンと一体で処理することもできるが、繊維パッケージからボビンのみを抜き取って処理することもできる。ボビンに巻いたまま処理する場合、該ボビンは固相重合温度に耐える必要があり、アルミや真鍮、鉄、ステンレスなどの金属製であることが好ましい。またこの場合、ボビンには多数の穴の空いていることが、重合反応副生物を速やかに除去でき固相重合を効率的に行えるため好ましい。また繊維パッケージからボビンを抜き取って処理する場合には、ボビン外層に外皮を装着しておくことが好ましい。また、いずれの場合にもボビンの外層にはクッション材を巻き付け、その上に液晶ポリエステル溶融紡糸繊維を巻き取っていくことが好ましい。クッション材の材質は、固相重合時の液晶ポリエステルとの融着を防ぐため耐熱性の高い有機繊維、例えばパラアラミド繊維やメタアラミド繊維からなるフェルトが好ましく、厚みは0.1mm以上、20mm以下が好ましい。前述の外皮を該クッション材で代用することもできる。
固相重合に供するパッケージの糸長は、生産性、並びに高次加工での連続性を高めるため15万m以上が好ましく、20万m以上がより好ましい。繊維の重量としては15g以上が好ましく、100g以上がより好ましい。各々、上限は特に定められないが本発明で達し得る上限は400万m、20kg程度である。
固相重合時の融着を防ぐためには、繊維表面に油分、離型剤(以下、両者を油分と記載する)を付着させることも重要である。油分の付着は溶融紡糸から巻き取りまでの間に行っても良いが、付着効率を高めるためには紡糸原糸の巻き返しの際に行う、あるいは溶融紡糸で少量を付着させ、巻き返しの際にさらに追加することが好ましい。
油分付着方法はガイド給油法でも良いが、モノフィラメントなど総繊度の細い繊維に均一に付着させるためには金属製あるいはセラミック製のキスロール(オイリングロール)による付着が好ましい。油分の成分としては固相重合での高温熱処理で揮発させないため耐熱性が高い方が良く、塩やタルク、スメクタイトなどの無機物質、フッ素系化合物、シロキサン系化合物(ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンなど)およびこれらの混合物などが好ましい。中でもシロキサン系化合物は固相重合での融着防止効果に加え、易滑性にも効果を示すため特に好ましい。
これらの成分は固体付着、液体の直接塗布でも構わないが付着量を適正化しつつ均一塗布するためにはエマルジョン塗布が好ましく、安全性の点から水エマルジョンが特に好ましい。したがって成分としては水溶性あるいは水エマルジョンを形成しやすいことが望ましく、ジメチルポリシロキサンの水エマルジョンを主体とし、これに塩や水膨潤性のスメクタイトを添加した混合油剤が最も好ましい。
繊維への油分の付着量は、油分が多いほど融着は抑制できるため、2.0重量%以上が好ましく、4.0重量%以上がより好ましい。一方、多すぎると繊維がべたつきハンドリングを悪化させる他、後工程で工程通過性を悪化させるため10.0重量%以下が好ましく、6.0重量%以下がより好ましい。なお繊維への油分付着量は実施例に記載した手法により求められる値を指す。
固相重合は窒素等の不活性ガス雰囲気中や、空気のような酸素含有の活性ガス雰囲気中または減圧下で行うことが可能であるが、設備の簡素化および繊維あるいは付着物の酸化防止のため窒素雰囲気下で行うことが好ましい。この際、固相重合の雰囲気は露点が−40℃以下の低湿気体が好ましい。
固相重合温度は、固相重合に供する液晶ポリエステル繊維の吸熱ピーク温度をTm1(℃)とした場合、最高到達温度がTm1−60℃以上であることが好ましい。このような融点近傍の高温とすることで固相重合が速やかに進行し、繊維の強度を向上させることができる。なお、ここで言うTm1は一般には液晶ポリエステル繊維の融点であり、本発明においては実施例記載の測定方法により求められた値を指す。なお最高到達温度はTm1(℃)未満とすることが融着防止のために好ましい。また固相重合温度を時間に対し段階的にあるいは連続的に高めることは、融着を防ぐと共に固相重合の時間効率を高めることができ、より好ましい。この場合、固相重合の進行と共に液晶ポリエステル繊維の融点は上昇するため、固相重合温度は、固相重合前の液晶ポリエステル繊維のTm1+100℃程度まで高めることができる。ただしこの場合においても固相重合での最高到達温度は固相重合後の繊維のTm1−60(℃)以上Tm1(℃)未満とすることが固相重合速度を高めかつ融着を防止できる点から好ましい。
固相重合時間は、繊維の分子量すなわち強度、弾性率、伸度を十分に高くするためには最高到達温度で5時間以上とすることが好ましく、10時間以上がより好ましい。一方、強度、弾性率、伸度増加の効果は経過時間と共に飽和するため、生産性を高めるためには50時間以下とすることが好ましい。
次に、固相重合されたパッケージから繊維を解舒するが、固相重合で生じる軽微な融着を剥がす際のフィブリル化を抑制するためには固相重合パッケージを回転させながら、回転軸と垂直方向(繊維周回方向)に糸を解舒する、いわゆる横取りにより解舒することが好ましい。固相重合パッケージの回転について、モーター等を用いて回転数一定で積極駆動すると、解舒に伴い巻き径が減少し速度が徐々に遅くなるため、解舒以降の工程を連続して行う場合に速度一定での処理ができなくなるという問題がある。このため固相重合パッケージの回転は、ダンサーローラーを用いて回転数を制御する調速解舒方式とすることもできるが、耐摩耗性に劣る固相重合糸がダンサーローラーを通過するとフィブリル化するため、固相重合パッケージは積極駆動を行わず、フリーロールに固相重合パッケージをかけて、調速ローラーにより繊維を引っ張りつつ解舒することが、固相重合糸のフィブリル化を抑制しつつ解舒できるため好ましい。フリーロールは、軸とベアリング、並びに外層部の構成となるが、ベアリングの摺動抵抗によりブレーキ作用が働くため、回転数はほぼ一定ながらもわずかに変化し、解舒張力の変動を抑えることができるのである。
解舒された固相重合糸には融着防止用の油分が付着しているため、これを除去することが好ましい。油分は融着抑制には効果的であるが、固相重合以降の工程や製織工程では油分が多すぎるとガイド等への堆積による工程通過性の悪化、堆積物の製品への混入による欠点生成などを招くため油分付着量は低下させた方が好ましい。すなわち固相重合前に付着させた油分を固相重合後に除去することで、融着抑制と、長手方向の繊度、強度の均一性向上および工程通過性向上を両立できる。
油分除去方法は、例えば繊維を連続的に走行させながら布や紙で拭き取る方法などが挙げられるが、固相重合糸に力学的な負荷を与えるとフィブリル化するため、油分が溶解あるいは分散できる液体に繊維を浸す方法が好ましい。この時、単位時間当たりの処理量を増加させるため、繊維をパッケージの状態で液体に浸しても良いが、繊維長手方向の均一な除去を行うために、繊維を連続的に走行させつつ液体に浸すことが好ましい。繊維を連続的に液体に浸す方法は、ガイド等を用いて繊維を浴内に導く方法でも良いが、ガイドとの接触抵抗による固相重合繊維のフィブリル化を抑制するため、浴の両端にスリットを設け、このスリットを通って繊維が浴内を通過できるようにし、かつ浴内には糸道ガイドを設けないことが好ましい。
除去に用いる液体は、環境負荷を低減するために水とすることが好ましい。液体の温度は高い方が除去効率を高めることができ、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。ただし温度が高すぎる場合には液体の蒸発が著しくなるため、液体の沸点−20℃以下が好ましく、沸点−30℃以下がより好ましい。
除去に用いる液体には、油分に応じて、例えば非イオン・アニオン系等の界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤の添加量は除去効率を高め、かつ環境負荷を低下させるため0.01〜1重量%が好ましく、0.1〜0.5重量%がより好ましい。
液晶ポリエステル繊維をパッケージの状態で液体に浸し、そのまま解舒する方法は、油分を効率的に除去することが可能であるため、好ましい態様である。特に固相重合後のパッケージからの解舒と高温熱処理工程を連続化することで、擦過による毛羽が発生しやすい油分付着量の少ない高温熱処理前の液晶ポリエステル繊維を一旦巻取る必要がなく、品質を保ったまま、油分付着量を低減させた高温熱処理後の液晶ポリエステル繊維を得ることができるため、好ましい態様である。
このとき液体に浸されたパッケージから解舒された液晶ポリエステル繊維は、未乾燥の液体や固相重合前に付与した油剤変性物の溶解物等を液晶ポリエステル繊維表面に残しているため、流体を用いて吹き飛ばすことや、すすぐことも好ましい態様である。未乾燥の液体や固相重合前に付与した油剤変性物の溶解物等のいわゆる汚れは、液晶ポリエステル繊維表面に残存すると最終的に乾燥してスカム成分となるため、これを吹き飛ばすことや、すすぐことでより液晶ポリエステル繊維表面に付着した油分を低減することができ、スカム発生による解舒張力の変動を抑制することが可能になる。
このことから吹き飛ばしに用いる流体は、空気または水であることが好ましい。特に流体に空気を用いる場合は、液晶ポリエステル繊維表面を乾燥させる効果も期待することが可能になるため、その後の工程中で汚れが堆積することを防止し、すなわち収率の改善が見込まれることから、好ましい態様である。
またすすぎに用いる流体は、水であることが好ましい。すすぎは、液晶ポリエステル繊維表面に付着した未乾燥の汚れや洗浄水を除去する目的で行われるため、汚れを溶解させることができる水を用いると、効率的に洗浄を行うことができる。また汚れの水への溶解度を増すことを目的に、水を加温することも好ましい態様である。加温する温度は、高温ほど溶解度が高まるため、すすぎの効率があがることが期待できるため、上限は特に限定されるものではないが、加温に要するエネルギー消費を抑え、エネルギーコストを低減することや、蒸発によるロスを考慮すると、80℃を目安にすると良い。
またすすぎと吹き飛ばしを組み合わせることも好ましい態様である。すすぎによる汚れの溶解除去と、吹き飛ばしによる液晶ポリエステル繊維表面に残存した水分の除去を組み合わせることで、更に効率的に油分を除去することが可能になる。この場合の組み合わせは、先にすすぎを行って汚れを溶解除去し、次いで吹き飛ばしを行うと、より好ましい態様となる。
さらに、除去効率を高めるため、除去に用いる液体に振動・液流を付与することが好ましい。この場合、液体を超音波振動させるなどの手法もあるが、設備簡素化、省エネの観点から液流を付与することが好ましい。液流付与の方法は液浴内の撹拌、ノズルでの液流付与等の方法があるが、液浴を循環する際の供給をノズルで行うことで簡単に実施できることからノズルでの液流付与が好ましい。
油分除去の程度は目的に応じ適宜調整されるが、高次加工工程や製織工程での繊維の工程通過性向上の観点から油分付着量として2.0重量%以下とすることが好ましい。なお、油分付着量は実施例に記載した手法により求められる値を指す。
ただし油分付着量を0.5重量%未満とした固相重合後の高温熱処理を受けていない液晶ポリエステル繊維は、擦過によって毛羽が発生しやすいため、高温熱処理前の工程では、極力擦過を避けることが毛羽抑制の観点から好ましい態様である。特に糸道を規制するガイドは、直接液晶ポリエステル繊維と擦過されるため、回転式のガイドを用いることが好ましい。更には、液晶ポリエステル繊維が屈曲する部分を極力避けることも好ましい態様の一つであり、このため工程を直線的に構成することが好ましい。
次に、本発明のTm1におけるピーク半値幅が15℃以上の繊維を得るには、液晶ポリエステル固相重合糸に高温熱処理を施す。加えて、本発明のU%Hが10%未満である繊維を得るには、固相重合パッケージから解舒、油分除去を施した後、一旦巻き取ることなく、高温熱処理を施す。この理由は従来技術で述べた通りであり、本発明の繊維を得るための重要な技術ポイントである。
固相重合パッケージから解舒、油分除去した後、一旦巻き取らずに高温熱処理を施すためには、例えば油分除去した繊維を一旦キャンに受け、そこから繊維を取り出して高温熱処理を施す等の方法もあるが、取り出し時の張力変動が大きいことから、処理張力の安定性を高め、長手方向の繊維直径の均一性を高めるために解舒、油分除去の後、連続して高温熱処理を施すことが好ましい。特に油分付着量を0.5重量%未満とした液晶ポリエステル繊維は、高温熱処理時の擦過によって毛羽が発生しやすいため、固相重合パッケージから解舒、油分除去した後に、直接高温熱処理を施すと、工程中の擦過を低減できるほか、工程を単純化することもでき、更にはガイド部分へのスカム発生を抑制し、工程中での糸切れ頻度を低減せしめる効果も期待できることから、好ましい態様である。
解舒、油分除去の後、連続して高温熱処理を施すためには解舒速度を一定にする必要があり、このためには固相重合パッケージに綾落ちが少なく、巻崩れがないことが重要となる。このためには巻き密度を高め、面圧を付与し巻き取ることが有効である。しかしその場合、繊維同士の密着性が高まるため固相重合時に融着しやすくなり、繊維長手方向の均一性が悪化する等の問題が生じる。従来技術では、融着抑制のため巻き密度を極限まで低下することを重視しており、面圧を付与せず、巻き張力を低くすることで、これを実現した。その場合、端面での綾落ちが生じやすくなるため、テーパー角を小さくし、かつトラバースを周期的に揺動させることにより意図的に端面を崩し、全体の巻姿を整えていた。しかし端面を崩す、すなわちパッケージのテーパー部分に繊維を重ねて巻き上げると、テーパー部では径が変化するため、一定速度での解舒では、テーパー部と中央部でボビンの回転数を変化させる必要がある。このような回転数の制御は特に伸度が小さく、また耐摩耗性に劣る液晶ポリエステル固相重合繊維では不可能であり、このため従来技術では固相重合パッケージを積極駆動し、速度は一定ではないものの張力をほぼ一定として解舒していた。
これに対し、本発明の繊維を得るには、固相重合前の巻き返しにおいて面圧を低いレベルで与え、トラバースの揺動を行わないことで、巻き密度が低く、かつ綾落ちの少ないパッケージを形成し、これにより一定速度での解舒が可能となり、解舒−油分除去−高温熱処理の連続処理が可能となるのである。この際、巻き密度は低いとは言え、従来技術よりは高いため、融着しやすくなるが、固相重合用の油分付着量を高めることで融着を抑制できるのである。さらに固相重合糸を解舒した後、油分を除去することで、繊維への最終的な付着量は低くできるのである。
固相重合した繊維の高温熱処理は、Tm1+10℃以上の温度とすることが好ましい。なお、ここで言うTm1は実施例記載の測定方法により求められた値を指す。Tm1は繊維の融点であるが、液晶ポリエステル繊維に融点+10℃以上もの高温で熱処理を施すことでTm1におけるピーク半値幅は15℃以上となり、耐摩耗性は大きく向上する。なお単繊維繊度が小さい場合にその効果は顕著となる。
液晶ポリエステルのように剛直な分子鎖は緩和時間が長く、表層が緩和する時間のうちに内層も緩和し繊維が溶融してしまう。このため、液晶ポリエステル繊維に適した耐摩耗性向上技術を検討したところ、液晶ポリエステルの場合、分子鎖を緩和させるのではなく加熱により繊維全体の結晶化度、結晶の完全性を低下させることで耐摩耗性を向上できることを見出した。
さらに結晶性を低下させるためには繊維を融点以上に加熱する必要があるが、熱可塑性合成繊維においてはこのような高温では、特に単繊維繊度が小さい場合には強度、弾性率が低下し、さらには熱変形、溶融(溶断)してしまう。液晶ポリエステルでもこのような挙動は見られるが、本発明者らは固相重合した液晶ポリエステル繊維では分子量増加により緩和時間は非常に長くなっているため分子運動性が低く、融点以上の高温で熱処理しても短時間であれば、分子鎖の配向を高いレベルで維持したまま結晶化度を低下させることができ、強度、弾性率の低下が小さいことを見出した。これらのことから特に単糸繊度が小さい液晶ポリエステル繊維に対し、Tm1+10℃以上の高温熱処理を短時間行うことで、液晶ポリエステル繊維の強度、弾性率、耐熱性を大きく損なうことなく耐摩耗性を向上できることを見出したのである。
高温熱処理温度は繊維の結晶化度の低下、結晶の完全性の低下のために固相重合した繊維のTm1+40℃以上とすることがより好ましく、固相重合した繊維のTm1+60℃以上とすることがさらに好ましく、Tm1+80℃以上が特に好ましい。処理温度の上限は繊維が溶断する温度であり、張力、速度、単繊維繊度、処理長で異なるがTm1+300℃程度である。
なお、従来でも液晶ポリエステル繊維の熱処理を行う例はあるが、液晶ポリエステルは融点以下の温度でも応力により熱変形(流動)するため融点以下で行うことが一般的である。熱処理という点では液晶ポリエステル繊維の固相重合があるが、この場合でも処理温度は繊維の融点以下としないと繊維が融着、溶断してしまう。固相重合の場合、処理に伴い繊維の融点が上昇するため、最終の固相重合温度は処理前の繊維の融点以上となることがあるが、その場合でも処理温度は処理されている繊維の融点、すなわち熱処理後の繊維の融点よりも低い。
本発明における高温熱処理は固相重合を行うことではなく、固相重合によって形成された緻密な結晶部分と非晶部分の構造差を減少させること、つまり結晶化度、結晶の完全性を低下させることで耐摩耗性を高めるものである。したがって処理温度は熱処理によりTm1が変化しても、変化後の繊維のTm1+10℃以上とすることが好ましく、この点から処理温度は処理後の繊維のTm1+10℃以上とすることが好ましく、Tm1+40℃以上がより好ましく、Tm1+60℃以上とすることがさらに好ましく、Tm1+80℃以上とすることが特に好ましい。
また、別の熱処理として液晶ポリエステル繊維の熱延伸があるが、熱延伸は高温で繊維を緊張させるものであり、繊維構造は分子鎖の配向が高くなり、強度、弾性率は増加し、結晶化度、結晶の完全性は維持したまま、すなわちΔHm1は高いまま、Tm1のピーク半値幅は小さいままである。したがって耐摩耗性に劣る繊維構造となり、結晶化度を低下(ΔHm1減少)、結晶の完全性を低下(ピーク半値幅増加)させて耐摩耗性を向上させることを目的とする本発明の熱処理とは異なる。なお本発明で言う高温熱処理では結晶化度が低下するため、強度、弾性率は増加しない。
高温熱処理は、繊維を連続的に走行させながら行うことが繊維間の融着を防ぎ、処理の均一性を高められるため好ましい。このときフィブリルの発生を防ぎ、かつ均一な処理を行うため、非接触熱処理を行うことが好ましい。加熱手段としては雰囲気の加熱、レーザーや赤外線を用いた輻射加熱などがあるがブロックまたはプレートヒーターを用いたスリットヒーターによる加熱は雰囲気加熱、輻射加熱の両方の効果を併せ持ち、処理の安定性が高まるため好ましい。
処理時間は結晶化度、結晶の完全性を低下させるためには長い方が好ましく、0.01秒以上が好ましく、0.05秒以上がより好ましく、0.1秒以上がさらに好ましい。また処理時間の上限は、設備負荷を小さくするため、また処理時間が長いと分子鎖の配向が緩和し強度、弾性率が低下するため5.0秒以下が好ましく、3.0秒以下がより好ましく、2.0秒以下とすることがさらに好ましい。
処理する際の繊維の張力は過度に高いと溶断が発生しやすく、また過度の張力がかかった状態で熱処理を行う場合、結晶化度の低下が小さく耐摩耗性の向上効果が低くなるため、できるだけ低張力にすることが好ましい。この点において熱延伸とは明らかに異なる。しかしながら、張力が低いと繊維の走行が不安定となり処理が不均一になることから、0.001cN/dtex以上1.0cN/dtex以下が好ましく、0.1cN/dtex以上0.3cN/dtex以下がより好ましい。
また走行させつつ高温熱処理する場合、張力はできるだけ低いほうが好ましいが、適宜ストレッチおよびリラックスを加えても良い。しかしながら、張力が低すぎると繊維の走行が不安定となり処理が不均一になることから、リラックス率は2%以下(延伸倍率0.98倍以上)が好ましい。また、張力が高いと熱による溶断が発生しやすく、また過度の張力がかかった状態で熱処理を行う場合、結晶化度の低下が小さく耐摩耗性の向上効果が低くなるため、ストレッチ率は熱処理温度にもよるが、10%(延伸倍率1.10倍)未満が好ましい。より好ましくは5%(延伸倍率1.05倍)未満、さらに好ましくは3%(1.03倍)未満である。
処理速度は処理長にもよるが高速であるほど高温短時間処理が可能となり、耐摩耗向上効果が高まり、さらに生産性も向上するため100m/分以上が好ましく、200m/分以上がより好ましく、300m/分以上がさらに好ましい。処理速度の上限は繊維の走行安定性から1000m/分程度である。
処理長は加熱方法にもよるが、非接触加熱の場合には均一な処理を行うために100mm以上が好ましく、500mm以上がさらに好ましい。また処理長が過度に長いとヒーター内部での糸揺れにより処理ムラ、繊維の溶断が発生するため3000mm以下が好ましく、1000mm以下がさらに好ましい。
高温熱処理に供する繊維の固相重合用油分の付着量は低い方が好ましいが、製品となる高温熱処理後の繊維には、次工程以降の工程通過性、さらには織機での製織性を向上させるために平滑性向上のための工程油剤を追油することが好ましい。油剤成分は公知の物を使用でき、例えばポリエーテル化合物を主体とする平滑剤とラウリルアルコールを主体とする乳化剤の水エマルジョンが好適な例として挙げられる。
ここで高温熱処理での繊維構造変化について処理前後での繊維特性の違いから述べる。
この熱処理は、繊維の融点以上の高温で短時間の熱処理を施すものであり、結晶化度は低下するが配向は緩和しない。このことは熱処理によりΔHm1は減少、Tm1における半値幅は増加、Δ2θは増加するが、Δnはほとんど変化しないという構造変化に示されている。また処理時間が短いため分子量は変化しない。結晶化度の低下は力学特性の大幅な低下を引き起こすことが一般的であり、本発明の熱処理においても強度、弾性率は増加することはなく低下するものの、本発明の方法では高い分子量と配向を維持するために、高いレベルで強度、弾性率を維持し、かつ高い融点(Tm1)、耐熱性を維持するのである。また熱処理により圧縮弾性率は低下する。耐摩耗性向上は結晶性低下により繊維全体が柔軟化し、かつ破壊の起点となる結晶/非晶の構造差が減少することが要因であるが、圧縮弾性率の低下による荷重分散効果によって、さらに耐摩耗性は高まるのである。
本発明の液晶ポリエステル繊維は高強度、高弾性率、高耐熱の特徴を有しながら、耐摩耗性が改善されたものであり、一般産業用資材、土木・建築資材、スポーツ用途、防護衣、ゴム補強資材、電気材料(特に、テンションメンバーとして)、音響材料、一般衣料等の分野で広く用いられる。有効な用途としては、スクリーン紗、フィルター、ロープ、ネット、魚網、コンピューターリボン、プリント基板用基布、抄紙用のカンバス、エアーバッグ、飛行船、ドーム用等の基布、ライダースーツ、釣糸、各種ライン(ヨット、パラグライダー、気球、凧糸)、ブラインドコード、網戸用支持コード、自動車や航空機内各種コード、電気製品やロボットの力伝達コード等が挙げられ、特に有効な用途として工業資材用織物等に用いるモノフィラメントが挙げられ、中でも高強度、高弾性率、細繊度化の要求が強く、製織性向上、織物品位向上のため耐摩耗性を必要とする印刷用スクリーン紗用モノフィラメントに最も好適である。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。なお、本発明の各種特性の評価は次の方法で行った。
(1)ポリスチレン換算の重量平均分子量(分子量)
溶媒としてペンタフルオロフェノール/クロロホルム=35/65(重量比)の混合溶媒を用い、液晶ポリエステルの濃度が0.04〜0.08重量/体積%となるように溶解させGPC測定用試料とした。なお、室温24時間の放置でも不溶物がある場合は、さらに24時間静置し、上澄み液を試料とした。これを、Waters社製GPC測定装置を用いて測定し、ポリスチレン換算により重量平均分子量(Mw)を求めた。
カラム:ShodexK−806M 2本、K−802 1本
検出器:示差屈折率検出器RI(2414型)
温度 :23±2℃
流速 :0.8mL/分
注入量:200μL
(2)液晶ポリエステル繊維のTm1、Tm1におけるピーク半値幅、ΔHm1、Tc、ΔHc、Tm2、ΔHm2、液晶ポリエステルポリマーの融点
TA instruments社製DSC2920により示差熱量測定を行い、50℃から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピークの温度をTm1(℃)とし、Tm1におけるピーク半値幅(℃)、融解熱量(ΔHm1)(J/g)を測定した。
なお、この測定において発熱ピークの有無を判定し、ピークが見られる場合には発熱量を求めた。続いて、Tm1の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で測定した際に観測される発熱ピークの温度をTc(℃)とし、Tcにおける結晶化熱量(ΔHc)(J/g)を測定した。続けて50℃まで冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピークをTm2とし、Tm2における融解熱量(ΔHm2)(J/g)を測定した。
なお、参考例に示した液晶ポリエステルポリマーについてはTm1の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で50℃まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピークをTm2とし、Tm2をもってポリマーの融点とした。
(3)ウースター糸むら試験機でのハーフイナートダイアグラムマス波形(U%H)での変動波形
ツェルベガーウースター社製糸むら試験機UT−4により、ツイスターを用いず、200m/分にて5分の測定を行い、ハーフイナートダイアグラムマス波形を求める。1本の繊維パッケージに対し、最外層より1万m以内で3回、最内層より1万m以内で3回の測定を行い、1本の繊維パッケージ当たり合計6つの波形を求める。それぞれの波形にて絶対値が最も大きい変動のピークをチャートから読み取り、6つの波形の中で最大の値の絶対値をそのサンプルのU%H変動波形(%)とする。
(4)外径測定での変動値
Zimmer社製外形測定器D−6101 ROSSDORF1を用い、サンプリングレート0.002秒の条件で400m/分にて3分の測定を行う。1本の繊維パッケージに対し、最外層より1万m以内で3回、最内層より1万m以内で3回の測定を行い、1本の繊維パッケージ当たり合計6つの外径測定を行う。一つの外径測定結果のデータ群に対し、データ全体の平均値からの差(偏差)を求め、絶対値が最も大きい値と平均値から、以下の式で変動値(%)を求める。6つの外径測定結果のうち、変動値の絶対値が最も大きい値の絶対値をそのサンプルの外径測定での変動値(%)とする。
(絶対値が最大の偏差)×100/平均値=変動値(%)
(5)単繊維繊度および繊度変動率
検尺機にて繊維を10mカセ取りし、その重量(g)を1000倍し、1水準当たり10回の測定を行い、平均値を繊度(dtex)とした。これをフィラメント数で除した商を単繊維繊度(dtex)とした。繊度変動率は繊度の10回の平均値からの最大もしくは最小値の差の絶対値のうち、いずれか大きい方の値を用いて下式により算出した。
繊度変動率(%)=((|最大値もしくは最小値−平均値|/平均値)×100)
(6)強度、伸度、弾性率および強力変動率
JIS L1013:1999記載の方法に準じて、試料長100mm、引張速度50mm/分の条件で、オリエンテック社製テンシロンUCT−100を用い1水準当たり10回の測定を行い、平均値を強力(cN)、強度(cN/dtex)、伸度(%)、弾性率(cN/dtex)とした。強力変動率は強力の10回の平均値からの最大もしくは最小値の差の絶対値のうち、いずれか大きい方の値を用いて下式により算出した。
強力変動率(%)=((|最大値もしくは最小値−平均値|/平均値)×100)
(7)繊維軸垂直方向の圧縮弾性率(圧縮弾性率)
単繊維1本をセラミックス製等の剛性の高いステージに静置し、圧子の辺を繊維とほぼ平行とした状態で、下記条件において直径方向に圧子を用いて圧縮負荷を一定の試験速度で加え、荷重−変位曲線を得た後、次式から繊維軸垂直方向の圧縮弾性率を算出した。
なお測定に当たっては、装置系の変形量の補正を行うため試料を置かない状態で荷重−変位曲線を得て、これを直線近似して荷重に対する装置の変形量を算出し、試料を置いて荷重−変位曲線を測定した際の各々のデータ点の変位から、その荷重に対する装置の変形量を減じて試料そのものの変位を求め、これを以下の算出に用いた。
算出に当たっては、荷重−変位曲線で線形性が成立する2点での荷重と変位を用いて圧縮弾性率を算出した。その低荷重側の点は荷重をかけた初期では圧子がサンプル全面にあたっていない可能性があるため、荷重約30mNの点とした。ただしここで定めた低荷重点が非線形領域内の場合には、降伏点を通過するように荷重−変位曲線に沿って低荷重側に直線を引き、その直線と変位のずれが0.1μm以内となる最小荷重の点とした。また高荷重側は荷重約100mNの点とした。なお高荷重側の点が降伏点荷重を超える場合には、低荷重側の点を通過するように荷重−変位曲線に沿って高荷重側に直線を引き、その直線との変位のずれが0.1μm以内となる最大荷重の点を高荷重側の点とした。なお下式中のlは500μmとして計算を行い、単繊維半径は試験前に光学顕微鏡を用いて試料の直径を10回測定し、これを平均して求めた平均直径を1/2にした値を用いた。また荷重−変位曲線は試料1水準について5回測定し、圧縮弾性率も5回算出し、これを平均したものを圧縮弾性率とした。
Figure 0005327109
装置 :Instron社製超精密材料試験機Model5848
圧子 :ダイヤモンド製平面圧子(1辺500μmの正方形)
試験速度 :50μm/分
サンプリング速度 :0.1秒
データ処理システム:Instron社製“Merlin”
測定雰囲気 :室温大気中(23±2℃、50±5%RH)
(8)広角X線回折でのピーク半値幅(Δ2θ)
繊維を4cmに切り出し、その20mgを秤量し試料とした。測定は繊維軸方向に対し赤道線方向に行い、その条件は下記とした。このとき2θ=18〜22°に観測されるピークの半値幅(Δ2θ)を測定した。
X線発生装置 :理学電気社製4036A2型
X線源 :CuKα線(Niフィルター使用)
出力 :40kV−20mA
ゴニオメーター:理学電気社製2155D型
スリット :2mmφ−1°−1°
検出器 :シンチレーションカウンター
計数記録装置 :理学電気社製RAD−C型
測定範囲 :2θ=5〜60°
ステップ :0.05°
積算時間 :2秒
(9)複屈折率(△n)
偏光顕微鏡(OLYMPUS社製BH−2)を用いコンペンセーター法により試料1水準当たり5回の測定を行い、平均値として求めた。
(10)耐摩耗性C
1.23cN/dtexの荷重をかけた繊維を垂直に垂らし、繊維に対して垂直になるように直径4mmのセラミック棒ガイド(湯浅糸道工業(株)社製、材質YM−99C)を接触角2.7°で押し付け、ストローク長30mm、ストローク速度600回/分でガイドを繊維軸方向に擦過させ、15秒おきに実体顕微鏡観察を行い、棒ガイド上もしくは繊維表面上に白粉またはフィブリルの発生が確認されるまでの時間を測定し、7回の測定のうち最大値および最小値を除いた5回の平均値を求め耐摩耗性Cとした。なお耐摩耗性Cの評価はマルチフィラメントでも同様の試験法で行った。
(11)油分付着量、ポリシロキサン系化合物付着の判定
100mg以上の繊維を採取し、60℃にて10分間乾燥させた後の重量を測定し(W0)、繊維重量に対し100倍以上の水にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを繊維重量に対し2.0重量%添加した溶液に繊維を浸漬させ、室温にて20分超音波洗浄し、洗浄後の繊維を水洗し、60℃にて10分間乾燥させた後の重量を測定し(W1)、次式により油分付着量を算出した。
(油分付着量(重量%))=(W0−W1)×100/W1
またポリシロキサン系化合物付着の判定は超音波洗浄後の溶液を採取し、これをIR測定し、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのスルホン酸基に由来する1150〜1250cm−1のピーク強度に対しポリシロキサンに由来する1050〜1150cm−1のピーク強度が0.1倍以上あればポリシロキサンが繊維に付着していると判断した。
(12)走行張力、走行応力
東レ・エンジニアリング社製テンションメーター(MODEL TTM−101)を用いて測定した。また、極低張力用には上記テンションメーターを改造したフルスケール5g、精度0.01g測定可能な張力計を用いた。計測した走行張力は単位を換算し、処理後繊維の繊度で除してcN/dtexの単位として走行応力とした。
(13)製織性、織物特性評価
レピア織機にて経糸に13dtexのポリエステルモノフィラメントを用い、織密度を経、緯とも250本/インチ(2.54cm)とし、打ち込み速度を100回/分とし、緯糸を液晶ポリエステル繊維として緯打ち込み試織を行った。この時、幅180cm、長さ5mの試織における給糸口(セラミックガイド)へのフィブリル、スカムの堆積から工程通過性を評価し、糸切れによる停台回数から製織性を評価し、織物開口部へのフィブリル、スカムの混入個数から織物品位を評価した。それぞれの判断基準を下記する。なお織り上がった織物の厚みはピーコック社製ダイアルシックネスゲージを用い測定した。
<工程通過性>
製織後も目視にてフィブリル、スカムの堆積が認められない;優良(◎)
製織後にフィブリル、スカムは認められるが繊維走行には支障なし;良好(○)
製織中にフィブリル、スカムが認められ、繊維走行張力が増加する;不合格(△)
製織中にフィブリル、スカムが認められ、試織を停止した;不良(×)
<製織性>
停台5回以下;優良(◎)、6〜10回;良好(○)、11回以上;不良(×)
<織物品位>
フィブリル、スカム混入個数5個以下;優良(◎)、6〜10個;良好(○)、11個以上;不良(×)
(14)解舒張力変動率
得られた液晶ポリエステル繊維を、速度400m/分で20分間、湯浅糸道製ワッシャーテンサーY−601L(金属梨地ワッシャー一枚使用)を介して、東レエンジニアリング社製TTM−101型張力測定装置(DAMPINGなし)により走行糸条の張力を測定した。得られた走行糸条の張力から、以下の式に従って解舒張力変動率を算出した。
解舒張力変動率(%)=(解舒張力標準偏差)/(解舒張力平均値)×100
(15)糸条弛み
得られた液晶ポリエステル繊維をクリールにかけて、湯浅糸道製ワッシャーテンサーY−601L(金属梨地ワッシャーをバー2本に対してそれぞれ一枚使用)を介して引き出し、周長1mの検尺器に、100m/分の速度で100回の巻取を行い、得られた巻き上がりの糸条を目視点検して、糸条の弛み状況を評価した。
糸条弛みが全く見られないものを○、弛みが5本以下のものを△、弛みが6本以上見られるものを×として評価を行った。
参考例1
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル327重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸292重量部、イソフタル酸157重量部および無水酢酸1460重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、335℃まで4時間で昇温した。
重合温度を335℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に40分間反応を続け、トルクが28kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
参考例2
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル327重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸292重量部、イソフタル酸157重量部および無水酢酸1433重量部(フェノール性水酸基合計の1.08当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、330℃まで4時間で昇温した。
重合温度を330℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に20分間反応を続け、トルクが15kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
参考例3
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器に p−ヒドロキシ安息香酸1008重量部と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸508重量部及び無水酢酸1071重量部(フェノール性水酸基合計の1.05モル当量)を攪拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、325℃まで4時間で昇温した。
重合温度を325℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に20分間反応を続け、トルクが15kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
参考例4
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器に6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸38重量部、2,6−ナフタレンジカルボン酸259重量部、p−ヒドロキシ安息香酸1022重量部、ハイドロキノン132重量部、及び無水酢酸1071重量部(フェノール性水酸基合計の1.05モル当量)を攪拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、335℃まで4時間で昇温した。
重合温度を335℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に30分間反応を続け、トルクが20kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
参考例5
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸808重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル411重量部、ハイドロキノン104重量部、テレフタル酸314重量部、イソフタル酸209重量部および無水酢酸1364重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、300℃まで4時間で昇温した。
重合温度を300℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に20分間反応を続け、トルクが15kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
参考例6
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸323重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル436重量部、ハイドロキノン109重量部、テレフタル酸359重量部、イソフタル酸194重量部および無水酢酸1011重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、325℃まで4時間で昇温した。
重合温度を325℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に20分間反応を続け、トルクが15kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
参考例7
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸895重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル168重量部、ハイドロキノン40重量部、テレフタル酸135重量部、イソフタル酸75重量部および無水酢酸1011重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、365℃まで4時間で昇温した。
重合温度を365℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に20分間反応を続け、トルクが15kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
参考例8
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸671重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル235重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸224重量部、イソフタル酸120重量部および無水酢酸1011重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、340℃まで4時間で昇温した。
重合温度を340℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に20分間反応を続け、トルクが15kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
参考例9
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸671重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル335重量部、ハイドロキノン30重量部、テレフタル酸224重量部、イソフタル酸120重量部および無水酢酸1011重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、305℃まで4時間で昇温した。
重合温度を305℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に20分間反応を続け、トルクが15kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
参考例10
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸671重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル268重量部、ハイドロキノン69重量部、テレフタル酸314重量部、イソフタル酸30重量部および無水酢酸1011重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、355℃まで4時間で昇温した。
重合温度を355℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に20分間反応を続け、トルクが15kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
参考例11
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸671重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル268重量部、ハイドロキノン69重量部、テレフタル酸150重量部、イソフタル酸194重量部および無水酢酸1011重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、310℃まで4時間で昇温した。
重合温度を310℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に20分間反応を続け、トルクが15kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
参考例1〜11で得られた液晶性ポリエステルの特性を表1に示す。いずれの樹脂もホットステージにて窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を偏光下で観察したところ光学的異方性(液晶性)が確認された。なお、溶融粘度は高化式フローテスターを用い、温度を融点+10℃、剪断速度を1000/sとして測定した。
Figure 0005327109
本発明の液晶ポリエステル繊維の最適な実施形態について、実施例1、比較例1〜4により説明する。
実施例1
参考例1の液晶ポリエステルを用い、160℃、12時間の真空乾燥を行った後、大阪精機工作株式会社製φ15mm単軸エクストルーダーにて溶融押し出しし、ギアーポンプで計量しつつ紡糸パックにポリマーを供給した。紡糸パックでは金属不織布フィルターを用いてポリマーを濾過し、口金よりポリマーを吐出した。吐出したポリマーは40mmの保温領域を通過させた後、25℃、空気流の環状冷却風により糸条の外側から冷却し固化させ、その後、ポリエーテル化合物を主体とする平滑剤とラウリルアルコールを主体とする乳化剤の水エマルジョンからなる油剤を付与し全フィラメントを第1ゴデットロールに引き取った。これを同じ速度である第2ゴデットロールを介した後、全フィラメント中の1本以外はサクションガンにて吸引し、残り1本はダンサーアームを介しパーンワインダー(神津製作所社製EFT型テークアップワインダー、巻取パッケージに接触するコンタクトロール無し)にてパーンの形状に巻き取った。巻取中、糸切れは発生せず製糸性は良好であった。紡糸条件、紡糸繊維物性を表2に示す。
この紡糸繊維パッケージから神津製作所社製SSP−MV型リワインダー(接触長200mm、ワインド数8.7、テーパー角45°)を用いて固相重合前巻き返しを行った。紡糸繊維の解舒は、縦方向(繊維周回方向に対し垂直方向)に行い、調速ローラーは用いず、オイリングローラー(梨地仕上げのステンレスロール)を用いてポリジメチルシロキサン(東レ・ダウコーニング社製SH200)が5.0重量%の水エマルジョンを油剤とし、給油を行った。巻き返しの心材にはステンレス製の穴あきボビンにケブラーフェルト(目付280g/m、厚み1.5mm)を巻いたものを用い、面圧は100gfとした。巻き返し条件を表3に示す。
次に巻き返したパッケージからステンレスの穴あきボビンを外し、ケブラーフェルトに繊維を巻き取ったパッケージの状態として固相重合を行なった。固相重合は、密閉型オーブンを用い、室温から240℃までは約30分で昇温し、240℃にて3時間保持した後、4℃/時間で最終温度まで昇温し、最終温度で保持する温度プログラムとした。なお雰囲気は除湿窒素を流量20NL/分にて供給し、庫内が加圧にならないよう排気口より排気させた。固相重合条件、固相重合繊維物性も表3に示す。
最後に、固相重合後のパッケージから繊維を解舒し、連続して油分除去(洗浄)、高温非接触熱処理を行なった。固相重合後のパッケージをフリーロールクリール(軸およびベアリングを有し、外層部は自由に回転できる。ブレーキおよび駆動源なし。)にはめ、ここから糸を横方向(繊維周回方向)に引き出し、連続して、繊維を両端にスリットを設けた浴槽(内部に繊維と接触するガイドなし)内に通し、油剤を洗浄除去した。洗浄液は非イオン・アニオン系の界面活性剤(三洋化成社製グランアップUS−30)を0.1重量%含有した50℃の温水とし、外部タンクにてこれを温調し、ポンプにて水槽に供給した。水槽への供給に際しては、水槽内に5cm置きに穴を開けたパイプを通し、このパイプに供給することで水槽内に液流を与えるようにした。なおスリットおよび液面調整用穴からあふれた洗浄液は回収し、外部タンクに戻す機構を設けている。
洗浄後の繊維はベアリングローラーガイドを通した後、セパレートローラー付きの第1ローラーに通した。なお、クリールはフリーロールであるため、このローラーにより繊維を引っ張ることで、固相重合パッケージからの解舒を行ない、繊維を走行させることになる。ローラーを通過した繊維をスリットヒーターに通し、高温熱処理を行なった。スリットヒーター内にはガイド類を設けず、またヒーターと繊維も非接触としている。ヒーター通過後の繊維はセパレートローラー付きの第2ローラーに通した。第1ローラーと第2ローラーは同速度とした。第2ローラーを通過した繊維は、セラミック製のオイリングローラーによりポリエーテル化合物を主体とする平滑剤とラウリルアルコールを主体とする乳化剤の水エマルジョンからなる油剤を付与し、ワインダー(神津製作所社製ET−8T型調速巻取機、巻取張力15gf、面圧120gf、テーパー角60°、ワインド数8.7、接触長200mm)にて巻き取った。解舒、洗浄、高温熱処理の条件、および高温熱処理後の繊維物性を表4に示す。なお、この液晶ポリエステル繊維の△nは0.35であり高い配向を有していた。
表4から分かるように、実施例1の繊維は高強度、高弾性率、高伸度であり、かつ高い耐摩耗性を持つものである。加えてU%Hの変動波形、外径測定の変動値も小さく、長手方向の繊維直径の均一性にも優れている。
この繊維を用いた試織評価結果も表4に合わせて示す。高い耐摩耗性を持ち、長手方向の繊維直径の均一性に優れることから工程通過性、製織性、織物品位は優良であった。繊維直径の異常、目開きの異常がないことから、印刷用スクリーン紗、フィルター用メッシュとした際には欠点がなく、良好な特性を有することが期待できる。
Figure 0005327109
Figure 0005327109
Figure 0005327109
比較例1
実施例1と同様の方法で得た固相重合後のパッケージから、実施例1と同様に解舒、洗浄を行った後、神津製作所社製ET−8T型調速巻取機にて一旦巻き取った。実施例1との関係で言うと、第1ローラーを通過した後、巻き取ることにあたる。このときの巻き取り条件は、張力15gf、面圧120gf、テーパー角60°、ワインド数8.7、接触長200mmとした。最初に実施例1と同様、400m/分の解舒、洗浄を行い巻き取ったが、巻取機で糸切れが頻発したため、200m/分に速度を下げ、巻き取った。巻き取った繊維パッケージから繊維を縦方向(繊維周回方向に対し垂直方向)に引き出し、実施例1と同様に高温熱処理を行なった。実施例1との関係で言うと、第1ローラーの前にパッケージを置き、縦取り解舒して繊維を供給することにあたる。高温熱処理中、第1ローラーにフィブリルと推測される毛羽が巻き付き、特に処理の後半では第1ローラーからの糸離れが不安定となり、走行安定性が悪化した。解舒、洗浄、高温熱処理の条件、および高温熱処理後の繊維物性を表4に示す。
表4から分かるように、比較例1の繊維は高強度、高弾性率、高伸度であり、かつ高い耐摩耗性を持つものであるが、U%Hの変動波形、外径測定での変動値が大きく、長手方向の繊維直径の均一性に劣っている。これは固相重合された液晶ポリエステル繊維を一旦巻き取ることでフィブリルが発生するためと考えられる。
この繊維を用いた試織評価結果も表4に合わせて示すが、工程通過性は不合格、製織性、織物品位は不良であった。特に製織の後半で織物品位の欠点が目立ったことから、熱処理後の繊維の内層部、したがって固相重合後の繊維を一旦巻き取った際の外層部にフィブリル化、フィブリル堆積物の巻き込み等の欠点が多く、工程通過性、製織性、織物品位を悪化させたことが推測される。
比較例2
実施例1と同様の方法で得た紡糸繊維パッケージから、特許文献2の実施例1と同様に繊維を縦方向に解舒し、調速ローラーを介さず、速度を一定とした巻取機(神津製作所社製ET−68S調速巻取機)にて巻き返しを行った。巻き返しの心材は実施例1と同様としたが、面圧は付与せず、さらにパッケージ形態はテーパー角20°のテーパーエンド巻きとし、テーパー幅調整機構の改造によりトラバース幅を常に揺動させるようにした。巻き返し条件を表3に示す。
これを実施例1と同様に固相重合した。固相重合後の繊維物性を表3に示すが、この段階での物性値は実施例1と同様である。これを実施例1と同様の方法で解舒、洗浄を行おうとしたが糸切れが頻発し、速度を200m/分まで低下させても糸切れが生じるため評価を中止した。
このように特許文献2の実施例1と同様の手法で、固相重合前の巻き返しにおいてテーパー幅を常に揺動させて端面を崩したことにより、端面がテーパー部に形成されてしまい、直径が変化して一定速度での解舒が困難となったため糸切れが発生したと考えられる。
比較例3
比較例2と同様の方法(特許文献2の実施例1と同様の手法)で得た固相重合後のパッケージを、送り出しロール(モーター駆動による回転数一定送り出し)に装着し、調速ローラーを通すことなく、実施例1と同様の方法で洗浄、高温熱処理、追油を行い巻き取ることを試みた。しかし高温熱処理ヒーターを通過させると巻取機の速度変動が大きくなり、200m/分でも糸切れが発生した。巻き取り張力が高温熱処理内の繊維に伝わることで、熱処理張力が過度に大きくなり溶断が発生したと考えられる。
このように特許文献2の実施例1と同様に固相重合後のパッケージを送り出しロールで送り出すことでは解舒−洗浄−熱処理の連続化は行うことができず、本発明の繊維は得られない。
比較例4
比較例1と同様の方法で得た解舒、洗浄後の固相重合糸を用いて、高温熱処理を行うことなく製織評価を行った。繊維物性を表4に示すが洗浄を行ったことにより耐摩耗性は固相重合糸に比べても低下している。製織評価では1mも織らないうちに糸切れ、フィブリル堆積が著しくなり、工程通過性不良となったため評価を中止した。
このように高温熱処理を施さず、Tm1におけるピーク半値幅が15℃未満の液晶ポリエステル繊維では耐摩耗性に劣り、高次工程通過性、製織性に劣る。
実施例2〜4
ここでは繊維直径(繊度)、フィラメント数について評価を行った。
紡糸条件を表2に記載の条件とすること以外は実施例1と同様の方法で溶融紡糸を行った。なお実施例4では吐出したフィラメントを全てまとめて巻き取っている。製糸性については良好であったが、実施例2では1回糸切れが発生したため、再度糸掛けを行ったが、その後糸切れは見られなかった。得られた紡糸繊維物性も表2に示す。
これを、巻き返し条件を表3記載の条件とすること以外は実施例1と同様の方法で固相重合前巻き返しを行った。次に、実施例1と同様の方法で固相重合を行った。得られた固相重合繊維物性を表3に示す。
これを解舒、洗浄、高温熱処理の条件を表4に記載の条件とすること以外は実施例1と同様の方法で解舒−洗浄−高温熱処理を連続して行った。実施例2では第1ローラーからの糸離れが不安定となり、走行安定性がやや悪化したが糸切れは生じなかった。得られた高温熱処理後繊維物性を表4に示す。
得られた繊維を用いて製織評価を行った結果も表4に併せて示す。実施例3、4では工程通過性、製織性、織物品位は優良であった。実施例2では評価開始直後に糸切れによる停台が発生し、フィブリルの混入も見られたが、後半は順調であった。耐摩耗性がやや劣るため、解舒−洗浄−高温熱処理工程でわずかなフィブリルが蓄積し、高温熱処理後のパッケージの外層部にフィブリルの堆積物が混入したためと考えられる。
実施例5〜14
ここでは樹脂組成について評価を行った。
参考例2〜11で得た液晶ポリエステルを用い、紡糸条件を表2に示す条件とすること以外は実施例1と同様の方法で溶融紡糸を行った。実施例6、実施例7、実施例10では紡糸中にそれぞれ1度ずつ糸切れが発生したが、再度糸掛けした後は、糸切れは発生しなかった。得られた紡糸繊維物性を表2に示す。
これを、巻き返し条件を表3に示す条件とすること以外は実施例1と同様の方法で固相重合前巻き返しを行った。さらに固相重合の最終温度を表3に記載の条件とすること以外は実施例1と同様の方法で固相重合を行った。得られた固相重合繊維物性を表3に示す。
これを解舒、洗浄、高温熱処理の条件を表4に記載の条件とすること以外は実施例1と同様の方法で解舒−洗浄−高温熱処理を連続して行った。実施例6、7では第1ローラーからの糸離れが不安定となり、糸切れがそれぞれ1回発生した。また実施例13、14では走行安定性がやや悪化したが糸切れは生じなかった。得られた高温熱処理後繊維物性を表4に示す。
得られた繊維を用いて製織評価を行った結果も表4に併せて示す。実施例5では工程通過性、製織性、織物品位は優良であった。実施例6〜14では評価開始直後に糸切れによる停台が発生し、フィブリルの混入も見られたが、後半は順調であった。耐摩耗性がやや劣るため、解舒−洗浄−高温熱処理工程でわずかなフィブリルが蓄積し、高温熱処理後のパッケージの外層部にフィブリルの堆積物が混入したためと考えられる。実施例6、7では製織後に工程中のガイド類にフィブリルの堆積が見られた。また糸切れによる停台や、フィブリルの混入もやや多かった。実施例6、7は耐摩耗性がより劣るため、フィブリルの発生量が多く、U%Hの変動波形、外径測定の変動値がやや大きくなっていることから工程通過性、製織性、織物品位にやや劣る結果になったと考えられる。
実施例15
紡糸条件のうち巻き時間を400分、巻き返しの巻き量を40万mとし、固相重合後のパッケージから解舒を行うに際して、固相重合後のパッケージそのものを、50℃に保温した界面活性剤入りの洗浄浴へ巻取糸の層が全て埋没するように浸漬し、糸を縦方向(繊維周回方向と垂直方向)に引き出しつつ解舒し、両端にスリットを設けた浴槽(内部に繊維と接触するガイドなし)内に通し、界面活性剤入りの洗浄水をすすいで除去した。浴槽へは、外部タンクにて温調された50℃の温水を、ポンプにて供給した。なおスリットおよび液面調整用穴からあふれた温水は回収し、外部タンクに戻す機構を設けたこと以外は、実施例1と同様の方法で液晶ポリエステル繊維を得た。
得られた液晶ポリエステル繊維の油分付着量は、0.05重量%であった。また解舒張力変動率は、12.7%であり、解舒張力変動を優れたレベルで抑制でき、糸条弛みもなく、良好な工程通過性を示した。
更に液晶ポリエステル繊維の製造工程中でのスカム発生、糸切れもなく、繊維長40万mの巻取パッケージを得ることができた。
Figure 0005327109
実施例16
温水の温度を18℃とした以外は、実施例15と同様の方法で液晶ポリエステル繊維を得た。
得られた液晶ポリエステル繊維の油分付着量は、0.26重量%であった。また解舒張力変動率は、19.1%であり、解舒張力変動を良好なレベルで抑制でき、糸条弛みもほとんどなく、良好な工程通過性を示した。
更に液晶ポリエステル繊維の製造工程中でのスカム発生も少なく、平均して繊維長26万mの巻取パッケージを得ることができた。
実施例17
両端にスリットを設けたすすぎ用の浴槽を用いなかったこと以外は、実施例15と同様の方法で液晶ポリエステル繊維を得た。
得られた液晶ポリエステル繊維の油分付着量は、0.35重量%であった。また解舒張力変動率は、23.2%であり、解舒張力変動を問題ないレベルで抑制でき、糸条弛みもほとんどなく、良好な工程通過性を示した。
更に液晶ポリエステル繊維の製造工程中でのスカム発生も少なく、平均して繊維長22万mの巻取パッケージを得ることができた。
実施例18
界面活性剤入りの洗浄浴を18℃に保温したこと以外は、実施例15と同様の方法で液晶ポリエステル繊維を得た。
得られた液晶ポリエステル繊維の油分付着量は、0.39重量%であった。また解舒張力変動率は、26.9%であり、解舒張力変動を問題ないレベルで抑制でき、糸条弛みもほとんどなく、良好な工程通過性を示した。
更に液晶ポリエステル繊維の製造工程中でのスカム発生も少なく、平均して繊維長20万mの巻取パッケージを得ることができた。

Claims (6)

  1. 示差熱量測定において、50℃から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク(Tm1)におけるピーク半値幅が15℃以上であり、ポリスチレン換算の重量平均分子量が25.0万以上200.0万以下であり、ウースター糸むら試験機でのハーフイナートダイアグラムマス波形における変動波形が10%未満であることを特徴とする液晶ポリエステル繊維。
  2. モノフィラメントであることを特徴とする請求項1記載の液晶ポリエステル繊維。
  3. 油分付着量が0.5重量%未満であることを特徴とする請求項1または2記載の液晶ポリエステル繊維。
  4. 請求項1または2記載の液晶ポリエステル繊維からなり、巻き取られた繊維長が15万m以上であることを特徴とする巻取パッケージ。
  5. 請求項1または2記載の液晶ポリエステル繊維からなる印刷用スクリーン紗。
  6. 請求項1または2記載の液晶ポリエステル繊維からなるフィルター用メッシュ織物。
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