JP5326575B2 - ポリラジカル化合物−導電性物質複合体の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、容量密度が高く、かつ大きな電流を取り出すことができる電極活物質と導電付与剤の複合体、その製造方法、および、エネルギー密度が高く、かつ大きな出力をだすことができる電池に関する。
近年、ノート型パソコン、携帯電話などの携帯電子機器は、通信システムの発展に伴い急激に普及しており、またその性能も年々向上している。特に、携帯機器は、性能の向上に伴い消費電力も大きくなる傾向にある。そこで、その電源である電池に対して、高エネルギー密度、大出力などの要求が高まっている。
高エネルギー密度の電池としては、リチウムイオン電池が開発され1990年代以降に広く用いられるようになった。このリチウムイオン電池は電極活物質として、例えば正極にマンガン酸リチウムやコバルト酸リチウムといったリチウム含有遷移金属酸化物、負極に炭素を用いたものであり、これら電極活物質へのリチウムイオンの挿入、脱離反応を利用して充放電を行っている。このようなリチウムイオン電池はエネルギー密度が大きく、サイクル特性に優れており、携帯電話をはじめとした種々の電子機器に利用されている。しかしながら、電極反応の反応速度が小さいため、大きな電流を取り出すと電池性能は著しく低下する。そのため、大きな出力をだすことが難しく、また充電のためにも長時間要するという欠点があった。
大きな出力をだすことができる蓄電デバイスとして、電気二重層キャパシタが知られている。大電流を一度に放出できるため大きな出力をだすことが可能であり、サイクル特性にも優れており、バックアップ電源として開発が進められている。しかしながら、エネルギー密度は非常に小さく、小型化が困難であることから、携帯電子機器の電源には適していない。
軽量でエネルギー密度の大きな電極材料を得る目的で、電極活物質に硫黄化合物や有機化合物を用いた電池も開発されてきた。例えば、特許文献1(米国特許第4,833,048号明細書)、特許文献2(特許第2715778号公報)にはジスルフィド結合を有する有機化合物を正極に用いた電池が開示されている。これはジスルフィド結合の生成、解離を伴う電気化学的酸化還元反応を電池の原理として利用したものである。この電池は硫黄や炭素といった比重の小さな元素を主成分とする電極材料から構成されているため、高エネルギー密度の大容量電池という点において一定の効果を奏している。しかし、解離した結合が再度結合する効率が小さいことや電極活物質の電解液への拡散のため、充放電サイクルを重ねると容量が低下しやすいという欠点がある。
また、有機化合物を利用した電池として、導電性高分子を電極材料に用いた電池が提案されている。これは導電性高分子に対する電解質イオンのドープ、脱ドープ反応を原理とした電池である。ドープ反応とは、導電性高分子の酸化もしくは還元によって生ずる荷電ラジカルを、対イオンによって安定化させる反応のことである。特許文献3(米国特許第4,442,187号明細書)には、このような導電性高分子を正極もしくは負極の材料とする電池が開示されている。この電池は、炭素や窒素といった比重の小さな元素のみから構成されたものであり、高容量電池として期待された。しかし、導電性高分子には、酸化還元によって生じる荷電ラジカルがπ電子共役系の広い範囲に亘って非局在化し、それらが静電反発やラジカルの消失をもたらす相互作用をするという特性がある。これは発生する荷電ラジカルすなわちドープ濃度に限界をもたらすものであり、電池の容量を制限するものである。例えば、ポリアニリンを正極に用いた電池のドープ率は50%以下であり、またポリアセチレンの場合は7%であると報告されている。導電性高分子を電極材料とする電池では軽量化という点では一定の効果を奏しているものの、大きなエネルギー密度をもつ電池は得られていない。
有機化合物を電池の電極活物質と用いる電池として、ラジカル化合物の酸化還元反応を用いる電池が提案されている。例えば、特許文献4(特開2002−151084公報)には、ニトロキシドラジカル化合物、アリールオキシラジカル化合物および特定のアミノトリアジン構造を有する高分子化合物などの有機ラジカル化合物が活物質として開示されており、また有機ラジカル化合物を正極もしくは負極の材料として用いる電池が開示されている。さらに、特許文献5(特開2002−304996号公報)には、ニトロキシド化合物の中でも、特に環状ニトロキシド構造を有する化合物を電極活物質として用いる蓄電デバイスが開示されている。また、そこで電極活物質として用いられるポリラジカル化合物は、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン メタクリレートを重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリルと反応させて重合した後、m−クロロ過安息香酸を用いて酸化することで合成されている。一方、特許文献6(特開2002−313344号公報)には、ポリラジカル化合物であるニトロキシルラジカルポリマーを電極用のバインダとして用いる電池も開示されている。
ところで、電池の電極は一般的に活物質の他に電子伝導性を高めるために導電付与剤が入れられている。活物質の電子伝導性の低さを効率的に補うために活物質と導電付与剤の複合化を行い、高エネルギー密度や高出力の電池を得ようという提案がなされている。例えば、特許文献7(特開2003−292309)には、リチウムリン酸鉄化合物かならなる粒子の表面を導電性の炭素で被覆した複合体が開示されている。
一方、ポリマー二次電池用電極を作成する方法として熱プレスする方法が開示されている。特許文献8(特開2001−118570)には、ポリマー活物質の粉末と導電補助剤の粉末の混合粉末の熱プレスによる電極製造方法が開示されている。
また、特許文献9(特開2002−298850号公報)には、ラジカル化合物を含む活物質が2つ以上の組成からなる粒子である電池が開示されている。導電性物質の表面にラジカル化合物を被覆することによりラジカル化合物の表面積を拡大し、大きな出力密度を得ることができるとしている。しかし、ラジカル化合物で導電性物質を被覆した場合には、導電性物質の電子伝導パスが外部に形成されないために、十分な出力密度を得ることはできない。また同特許文献9には、高分子物質でラジカル化合物と導電性物質を結着すると、電池動作の際に粒子の変形が起こっても結着が維持されてサイクル寿命が優れるとしている。しかしながら、結着剤として用いる高分子物質は電子伝導性に乏しいため、電極抵抗の増加原因となり出力密度の低減がおこるといった課題がある。
米国特許第4,833,048号明細書 特許第2715778号公報 米国特許第4,442,187号明細書 特開2002−151084公報 特開2002−304996号公報 特開2002−313344号公報 特開2003−292309号公報 特開2001−118570号公報 特開2002−298850号公報
上記で述べたように、正極に遷移金属酸化物を用いたリチウムイオン電池では、重量あたりのエネルギー密度が高く、かつ大きな出力をだせる電池の製造が困難であった。また、電気二重層キャパシタは大きな出力を有するものの、重量あたりのエネルギー密度が低く、高容量化が困難であった。また、硫黄化合物や導電性有機化合物を電極活物質に利用した電池では、未だエネルギー密度の高い電池が得られていない。
また、有機ラジカル化合物の酸化還元反応を用いる電池は、その電池の製造方法によって電極にひび割れが発生してしまい、簡便に製造ができないといった問題や、有機ラジカルポリマーの低い電子伝導性のために全体が充放電に寄与せずエネルギー密度が低くなるといった問題があった。このため、より簡便な新しい電極製造プロセスが望まれている。
本発明は、容量密度が高く、かつ大きな電流を取り出すことができる電極活物質と導電付与剤の複合体、その製造方法、および、エネルギー密度が高く、かつ大きな出力を出すことができる電池を提供することを目的としている。
本発明は、ポリラジカル化合物と導電性物質とを、前記ポリラジカル化合物の軟化温度以上分解温度未満で加熱混合する処理を行うことを特徴とするポリラジカル化合物−導電性物質複合体の製造方法である。
また、本発明は、前記の方法により製造されるポリラジカル化合物−導電性物質複合体である。
また、本発明は、少なくとも、正極、負極、及び電解質を構成要素とする電池であって、正極及び負極の少なくとも一方に、前記のポリラジカル化合物−導電性物質複合体を用いることを特徴とする電池である。
本発明によれば、容量密度が高く、かつ大きな電流を取り出すことができる電極活物質と導電付与剤の複合体、その製造方法、および、エネルギー密度が高く、かつ大きな出力を出すことができる電池を提供できる。
本実施形態の電池の構成の一例を示す概念図である。
符号の説明
1 SUS外装
2 絶縁パッキン
3 負極集電体
4 負極
5 セパレータ
6 正極
7 正極集電体
本発明者らが、鋭意検討した結果、ポリラジカル化合物には分解温度未満に軟化温度が存在し、軟化した温度領域を利用することで前記課題を解決できることを見出した。すなわち、本実施形態によれば、電極活物質としてのポリラジカル化合物と、導電性物質とをポリラジカル化合物の軟化温度以上分解温度未満で加熱混合する処理を行うことにより、ポリラジカル化合物と導電性物質の複合体を製造し、これを用いて電極を作成することにより、高エネルギー密度かつ大出力(より具体的には大電流を放電できる)の新規な二次電池を提供することができる。特に、下記一般式(1)で表される部分構造を有するポリラジカル化合物を電極活物質として用い、この部位の酸化還元を利用した新規な電池とすることにより、高エネルギー密度かつ大きな出力をだすことができる新規な電池を提供することができる。
Figure 0005326575
(一般式(1)において、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子またはメチル基、R〜Rは、それぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を示す。)
また、本実施形態では、正極もしくは負極での電極反応に、ポリラジカル化合物が直接寄与していればよく、電極活物質材料として用いる電極は正極もしくは負極のいずれかに限定されるものではない。ただし、エネルギー密度の観点から、特にこの一般式(1)で表される部分構造を有するポリラジカル化合物を正極の電極活物質として用いることが好ましい。また、本実施形態の電池は、高い電圧、大きな容量が得られるという点から負極に金属リチウムあるいはリチウムイオンが挿入・脱着可能な炭素を用いたリチウム電池、特にリチウム二次電池であることが好ましい。
本実施形態は、軟化温度をもつポリラジカル化合物を含有する電極活物質と導電性物質との複合体を用いた新しい電池を提案したものである。これにより、エネルギー密度が高く、かつ大きな出力を出すことができる電池を提供できる。したがって、本実施形態によれば、電極活物質として重金属を含まない軽くて安全な元素から構成される電池を作製することを可能とするものであり、また、高容量(質量当たり)で充放電サイクルの安定性に優れ、さらに大きな出力をだすことができる電池を実現できる。
図1に本実施形態に係る電池の一実施形態の構成を示す。図1に示された電池は、正極6と、負極集電体3に配置した負極4とを電解質を含むセパレータ5を介して対向するように重ね合わせ、さらに正極6上に正極集電体7を重ね合わせた構成を有している。これらは負極側のSUS外装1と正極側のSUS外装1とで外装され、その間には、両者の電気的接触を防ぐ目的で、プラスチック樹脂等の絶縁性材料からなる絶縁パッキン2が配置される。なお、電解質として固体電解質やゲル電解質を用いる場合は、セパレータ5に代えてこれら電解質を電極間に介在させる形態にすることもできる。
本実施形態では、このような構成において、負極4もしくは正極6または両電極に、後述するポリラジカル化合物と導電性物質の複合体を用いる。
本実施形態の電池は、電池容量の点から、正極に上記の複合体を用いたリチウム電池、特にリチウム二次電池とすることが好ましい。
[1]電極活物質
本実施形態における電極の電極活物質とは、充電反応および放電反応等の電極反応に直接寄与する物質のことであり、電池システムの中心的役割を果たすものである。
本実施形態では、電極活物質としてポリラジカル化合物を用いるが、特に一般式(1)で表される部分構造を有するポリラジカル化合物を用いることが好ましい。
Figure 0005326575
(一般式(1)においてR〜Rは、それぞれ独立に水素原子またはメチル基、R〜Rは、それぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を示す。)
上記一般式(1)において、R〜Rは、それぞれ独立にメチル基またはエチル基が好ましい。
本実施形態の電池において電極活物質は電極に固定された状態であっても、また、電解質へ溶解または分散した状態であってもよい。ただし、電極に固定された状態で用いる場合、電解液への溶解による容量低下を抑制するために、固体状態でさらに電解液に対し不溶性または低溶解性であることが好ましい。この際、電解液に対して不溶性または低溶解性であれば、膨潤しても良い。電解液への溶解性が高い場合、電極から電解液中に電極活物質が溶出することで、充放電サイクルに伴い容量が低下する場合があるためである。
このため、一般式(1)で表される部分構造を有するポリラジカル化合物は、数平均分子量が500以上であることが好ましく、数平均分子量が5000以上であることがより好ましく、数平均分子量が10000以上であることがさらに好ましく、数平均分子量が40000以上が特に好ましく、数平均分子量が70000以上が最も好ましい。これは、数平均分子量が500以上であると電池用電解液に溶解しづらくなり、さらに数平均分子量が5000以上になるとほぼ不溶となるからである。形状としては鎖状、分岐状、網目状のいずれでもよい。また、数平均分子量の上限には特に制限はないが、合成の都合上、数平均分子量が5000000以下、より好ましくは数平均分子量が1000000以下、さらに好ましくは数平均分子量が200000以下、特に好ましくは100000以下のポリラジカル化合物を好適に使用できる。また、架橋剤で架橋したような構造でもよい。なお、上記数平均分子量は、ジメチルホルムアミド(DMF)を溶離液としたGPCにより、試料のDMF可溶部について測定を行うことで算出される値とする。
一般式(1)で表される部分構造を有するポリラジカル化合物の軟化温度(ガラス転移温度)は、電極製造プロセス、使用条件等の都合上、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。また、軟化温度の上限は特に制限はないが、ポリラジカル化合物と導電材料の複合体製造プロセスの都合上、200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、160℃以下がさらに好ましく、150℃以下が特に好ましい。なお、上記軟化温度は、昇温速度2℃/分、荷重100mNのTMAにより材料が収縮を始める温度とする。
上記の重合体としては、一般式(1)で表される部分構造のみを繰り返し単位構造として有する単独重合体を用いることも、さらに他の部分構造を繰り返し単位構造として有する共重合体を用いることもできる。合成の都合上、単独重合体が好ましい。共重合体の場合、一般式(1)で表される部分構造が、高分子化合物全体に対して、70〜99モル%であることが好ましく、80〜95モル%であることがより好ましい。
一般式(1)で表される部分構造の例として、下記式(2)から(5)で表される部分構造が挙げられる。
Figure 0005326575
Figure 0005326575
Figure 0005326575
Figure 0005326575
上記式(2)で表される部分構造を有するポリラジカル化合物は、例えば、下記の合成スキーム(12)に示すルートで合成することができる。すなわち、カチオン重合触媒存在下、ラジカル置換ビニルエーテル化合物をカチオン重合する方法で行うことができる。カチオン重合触媒としては、例えば三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を用い、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−ビニルオキシ−1−オキシルを重合することで合成することができる。また、上記式(2)〜(5)で表される化合物についても、類似の方法で合成することが可能である。
Figure 0005326575
また、重合に用いるカチオン重合触媒は、上記の他、一般的なカチオン重合に用いられる触媒が使用できるが、ルイス酸を使用することが好ましい。カチオン重合触媒としてプロトン酸を用いることも可能であるが、その際はラジカルを含有するモノマーと副反応が起きないような条件で行うことが好ましい。ルイス酸としては、塩化アルミニウム、四塩化スズ、塩化鉄などが使用できる。また、四塩化スズ、四塩化チタン、三塩化チタン、四塩化バナジウム、三塩化酸化バナジウムなどの遷移金属化合物とトリエチルアルミニウム、エチルアルミニウムジクロリド、トリエチルオキソニウム ヘキサフルオロボレートなどの典型金属の有機金属化合物を組み合わせた触媒なども使用できる。その場合、合成スキーム、使用する原料、反応条件等を適宜変更し、また公知の合成技術を組み合わせることで、目的とするポリラジカル化合物を合成することができる。この重合は、有機溶媒中で行うことが好ましい。さらに、モノマーの溶解性の観点から、ハロゲン系有機溶媒中で行うことが好ましい。ハロゲン系有機溶媒としては、ジクロロメタンまたはクロロホルムを用いることが好ましい。
なお、上記のポリラジカル化合物合成に用いられるビニルエーテルモノマーは、以下の方法を用いて合成することができる。例えば、W.Reppe(ダブル レッペ)ら、アンナーレンデアへミー(Ann.)、601巻、81〜111頁(1956年)に記載されているように、加圧下(約20〜50気圧)、触媒量の水酸化カリウム、水酸化ナトリウム存在下、アセチレンと相当するアルコールを高温(180〜200℃)で反応させることで合成することができる。また、Warren H.ら、ジャーナルオブジアメリカンケミカルソサエティ(Journal of The American Chemical Society)、79巻、2828頁〜2833(1957年)に記載されているように、酢酸第二水銀触媒存在下、相当するアルコールとアルキルビニルエーテルを加熱還流することで合成することができる。さらに、石井康敬ら、ジャーナルオブジアメリカンケミカルソサエティ(Journal of The American Chemical Society)、124巻,1590〜1591頁(2002年)、及び特開2003−73321公報に記載されているように、イリジウム触媒存在下、相当するアルコールと酢酸ビニルを加熱還流することでも合成することができる。
また、ポリラジカル化合物は、単独で用いることができるが、二種類以上を組み合わせて用いても良い。また、他の電極活物質と組み合わせて用いても良い。
一般式(1)で表される部分構造を有するポリラジカル化合物を正極に用いる場合、他の電極活物質として、金属酸化物、ジスルフィド化合物、他の安定ラジカル化合物、および導電性高分子等を組み合わせることができる。ここで、金属酸化物としては、例えば、LiMnO、LiMn(0<x<2)等のマンガン酸リチウムまたはスピネル構造を有するマンガン酸リチウム、MnO、LiCoO、LiNiO、あるいはLi(0<y<2)、オリビン系材料であるLiFePO、スピネル構造中のMnの一部を他の遷移金属で置換した材料であるLiNi0.5Mn1.5、LiCr0.5Mn1.5、LiCo0.5Mn1.5、LiCoMnO、LiNi0.5Mn0.5、LiNi0.33Mn0,33Co0.33、LiNi0.8Co0.2、LiN0.5Mn1.5−zTi(0<z<1.5)、等が挙げられる。ジスルフィド化合物としては、ジチオグリコール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、S−トリアジン−2,4,6−トリチオール等が挙げられる。他の安定ラジカル化合物としては、ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシル−4−イル メタクリレート)等が挙げられる。また、導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリアニリン、ポリピロール等が挙げられる。これらの中でも特に、マンガン酸リチウムまたはLiCoOと組み合わせることが好ましい。本実施形態では、これらの他の電極活物質を単独、もしくは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
一般式(1)で表される部分構造を有するポリラジカル化合物を負極に用いる場合、他の電極活物質として、グラファイトや非晶質カーボン、金属リチウムやリチウム合金、リチウムイオン吸蔵炭素、金属ナトリウム、導電性高分子等を用いることができる。また、他の安定ラジカル化合物を用いてもよい。他の安定ラジカル化合物としては、ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシル−4−イル メタクリレート)などが挙げられる。これらの形状としては特に限定されず、例えば金属リチウムでは薄膜状のものに限らず、バルク状のもの、粉末を固めたもの、繊維状のもの、フレーク状のもの等であっても良い。これらの中でも特に、金属リチウムまたはグラファイトと組み合わせることが好ましい。また、これらの他の電極活物質を単独、もしくは2種以上を組み合わせて使用できる。
一般式(1)で表される部分構造を有するポリラジカル化合物を一方の電極にのみ用いる場合、他方の電極の電極活物質としては、前述の他の電極活物質を用いることができる。
[2]導電付与剤(補助導電材)およびイオン伝導補助材
ポリラジカル化合物を用いて電極を形成する場合に、インピーダンスを低下させ、エネルギー密度、出力特性を向上させる目的で、導電付与剤(補助導電材)やイオン伝導補助材となる導電性物質を使用する。これらの材料としては、補助導電材となる導電性物質としては、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子や、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ等の炭素繊維等の炭素材料;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子;Sn,TiまたはIn等の金属酸化物の微粉末;Au,Ag,PtまたはAl等の金属粉末;が挙げられる。イオン伝導補助材となる導電性物質としては、高分子ゲル電解質、高分子固体電解質等が挙げられる。これらの中でも、炭素繊維を混合することが好ましい。炭素繊維を混合することで電極の引張り強度がより大きくなり、電極にひびが入ったり剥がれたりすることが少なくなる。より好ましくは、気相成長炭素繊維を混合することがより好ましい。これらの材料は、単独でまたは2種類以上混合して用いることもできる。電極中のこれらの材料の割合としては、10〜80質量%が好ましい。
[3]ポリラジカル化合物−導電性物質複合体の製造方法
ポリラジカル化合物と導電付与剤となる導電性物質の接触を良好かつ安定にすることを目的として複合体を形成する。複合体は、ボールミルや乳鉢により粉砕し粉末としたポリラジカル化合物と導電付与剤を混合し、ポリラジカル化合物の軟化温度以上に加熱することにより得ることができる。ポリラジカル化合物の軟化温度以上にすることによりポリラジカル化合物の表面に接着性が発現し導電付与剤を付着することが可能となる。ただし、ポリラジカル化合物を電極活物質として使用することから、加熱温度は、ポリラジカル化合物の分解温度未満とする。なお、上記分解温度は、昇温速度10℃/分のDSCにより軟化温度より高い温度で発熱を始める温度とする。
上記加熱混合する処理を行う前のポリラジカル化合物の粒径に関しては、接触面積を増加させ、より良好な複合体を得るため、平均粒径は100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましい。また、下限は0.02μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。ポリラジカル化合物粉末の平均粒径が大きすぎると、表面に付着した導電付与剤とポリラジカル化合物の中心部との距離が長くなり実効的な充放電が行なわれにくくなるため、電池のエネルギー密度が低下してしまう場合がある。また、ポリラジカル化合物粉末の平均粒径が小さすぎると、電極を作製したときに電極表面に固定することが難しく、容量減少や自己放電を引き起こすといった問題が生じる場合がある。なお、上記ポリラジカル化合物の平均粒径は、島津製作所製粒度分布測定装置SALD−2200(商品名)を用い、乾式測定して得た値とする。
製造方法の詳細を次に示す。ポリラジカル化合物粒子と導電付与剤を入れたフラスコを常温で攪拌する。つぎに、攪拌しながらフラスコをポリラジカル複合体の軟化温度以上に加熱する。このときの加熱はオイルバスやマントルヒーターで行なうことが出来るが、これに限らない。このときフラスコ内のガスをアルゴン等の不活性ガスに置換することが好ましい。つぎに、一定時間一定温度で加熱したのちに室温まで冷却することによりポリラジカル化合物、導電付与剤複合体を得ることができる。このとき、加熱温度は軟化温度以上、分解温度以下であれば複合体を得ることができるが、軟化温度+5℃以上、分解温度未満がより好ましい。軟化温度近傍ではポリラジカル化合物の軟化が不十分で導電付与剤がポリラジカル内に入り込みにくい場合があるためである。このとき加熱時間は3時間以内が好ましく、1時間以内がより好ましい。加熱時間が3時間を越えると、ポリラジカル化合物の変質がおこり電池機能が劣化するおそれがある。
このとき、複合体には、電池の活物質として、ポリラジカル化合物以外の粒子を加えてもかまわない。また、導電付与剤としては単独もしくは2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
複合体の製造では、上記のようなガラス器具の他に、二軸混練機等の混練機を用いることも出来る。
[3]結着剤
電極の各構成材料間の結びつきを強めるために、結着剤を用いることもできる。このような結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフロライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、各種ポリウレタン等の樹脂バインダが挙げられる。これらの樹脂バインダは、単独でまたは2種類以上混合して用いることもできる。電極中の結着剤の割合としては、5〜30質量%が好ましい。
[4]触媒
電極反応をより潤滑に行うために、酸化還元反応を助ける触媒を用いることもできる。このような触媒としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子;ピリジン誘導体、ピロリドン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、アクリジン誘導体等の塩基性化合物;金属イオン錯体等が挙げられる。これらの触媒は、単独でまたは2種類以上混合して用いることもできる。電極中の触媒の割合としては、10質量%以下が好ましい。
[5]集電体およびセパレータ
負極集電体、正極集電体としては、ニッケル、アルミニウム、銅、金、銀、アルミニウム合金、ステンレス、炭素等からなる箔、金属平板、メッシュ状などの形状のものを用いることができる。また、集電体に触媒効果を持たせたり、電極活物質と集電体とを化学結合させたりしてもよい。
一方、上記の正極、および負極が接触しないようにポリエチレン、ポリプロピレン等からなる多孔質フィルムや不織布などのセパレータを用いることもできる。
[6]電解質
電解質は、負極と正極の両極間の荷電担体輸送を行うものであり、一般には20℃で10−5〜10−1S/cmのイオン伝導性を有していることが好ましい。電解質としては、例えば電解質塩を溶剤に溶解した電解液を利用することができる。電解質塩としては、例えばLiPF、LiClO、LiBF、LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSON、Li(CFSOC、Li(CSOC等のLi塩を用いることができる。これらの電解質塩は、単独でまたは2種類以上混合して用いることもできる。また、溶剤としては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶媒を用いることができる。これらの溶剤を単独もしくは2種類以上混合して用いることもできる。
さらに、電解質として固体電解質を用いることもできる。固体電解質に用いられる高分子化合物としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−モノフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体等のフッ化ビニリデン系重合体;アクリロニトリル−メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸共重合体、アクリロニトリル−ビニルアセテート共重合体等のアクリルニトリル系重合体;ポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、これらのアクリレート体やメタクリレート体の重合体などが挙げられる。これらの高分子化合物に電解液を含ませてゲル状にしたものを用いても、電解質塩を含有させた高分子化合物のみをそのまま用いても良い。
さらに、電解質としてイオン液体を用いることもできる。イオン液体としては、例えば1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(EMI)カチオンとビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(TFSI)アニオンからなるEMI−TFSI、N,N−ジメチルN−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウム(DEME)カチオンとTFSIアニオンからなるDEME−TFSIなどが挙げられるが、これに限らずリチウムイオン二次電池で用いられるイオン液体を利用することができる。
[7]電池形状
電池の形状は特に限定されない。電池形状としては、電極積層体、あるいは巻回体を金属ケース、樹脂ケース、あるいはアルミニウム箔などの金属箔と合成樹脂フィルムからなるラミネートフィルム等によって封止したもの等が挙げられ、円筒型、角型、コイン型、およびシート型等で作製されるが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
[8]電池の製造方法
電池の製造方法としては特に限定されず、材料に応じて適宜選択した方法を用いることができる。例えば、電極活物質−導電付与剤複合体、追加の導電付与剤などに分散媒を加えスラリー状にして電極集電体に塗布し、加熱もしくは常温で分散媒を揮発させることにより電極を作製し、さらにこの電極を対極、セパレータを挟んで積層または巻回して外装体で包み、電解液を注入して封止するといった方法である。スラリー化のための分散媒としては、水;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒;N、N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミン系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトンなどのアルキルケトン系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。また、電極の作製法としては、電極活物質−導電付与剤複合体、結着剤などを乾式で混練した後、薄膜化し電極集電体上に積層する方法もある。
本実施形態において、電極からのリードの取り出し、外装等のその他の製造条件は限定されない。
以下、本実施形態の詳細について製造例、実施例により具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
(製造例1)
下記式(2)で表される部分構造を有するポリラジカル化合物(PTVE)を使用したポリラジカル化合物−導電付与剤複合体を、以下に示す製造スキームで製造した。なお、このポリラジカル化合物(PTVE)は下記式(2)で表される部分構造のみを有する単独重合体であり、この数平均分子量は80000である。また、このポリラジカル化合物(PTVE)の軟化温度は110℃であり、分解温度は150℃である。
Figure 0005326575
ポリラジカル化合物(PTVE)を自動メノウ乳鉢を用いて24時間粉砕した。つぎに目開き50μmのSUS製ふるいを用いて分級し、大きい粒径のPTVEを除いた。分級による粒径調整後のPTVEの平均粒径は21.8μmであった。つぎにアルゴン雰囲気下、200mL3口丸底フラスコに、粒径調整後のPTVEを7g、気相成長炭素繊維(VGCF)2.5gを加え攪拌し均一にした。つぎに、攪拌した状態でオイルバスにより135℃に加熱した。1時間加熱攪拌した後、室温まで自然冷却することでPTVE:VGCF=70:25の重量比からなるポリラジカル化合物−導電付与剤複合体(a)を得た。得られた複合体(a)を電子顕微鏡で観察したところ、PTVE粒子表面にVGCFが付着し、一部PTVE内部に入り込み複合体を形成していることを確認した。
(製造例2)
式(2)で表される部分構造を有するポリラジカル化合物(PTVE、製造例1で使用したものと同じ)を使用したポリラジカル化合物−導電付与剤複合体を、以下に示す製造スキームで製造した。
ポリラジカル化合物(PTVE)を自動メノウ乳鉢を用いて24時間粉砕した。つぎに目開き30μmのSUS製ふるいを用いて分級し、大きい粒径のPTVEを除いた。分級による粒径調整後のPTVEの平均粒径は14.4μmであった。つぎにアルゴン雰囲気下、200mL3口丸底フラスコに、粒径調整後のPTVEを7g、気相成長炭素繊維(VGCF)2.5gを加え攪拌し均一にした。つぎに、攪拌した状態でオイルバスにより135℃に加熱した。1時間加熱攪拌した後、室温まで自然冷却することでPTVE:VGCF=70:25の重量比からなるポリラジカル化合物−導電付与剤複合体(b)を得た。得られた複合体(b)を電子顕微鏡で観察したところ、PTVE粒子表面にVGCFが付着し、一部PTVE内部に入り込み複合体を形成していることを確認した。
(製造例3)
式(2)で表される部分構造を有するポリラジカル化合物(PTVE、製造例1で使用したものと同じ)を使用したポリラジカル化合物−導電付与剤複合体を、以下に示す製造スキームで製造した。
ポリラジカル化合物(PTVE)を自動メノウ乳鉢を用いて24時間粉砕した。つぎに目開き50μmのSUS製ふるいを用いて分級し、大きい粒径のPTVEを除いた。分級による粒径調整後のPTVEの平均粒径は21.8μmであった。つぎにアルゴン雰囲気下、200mL3口丸底フラスコに、粒径調整後のPTVEを7g、気相成長炭素繊維(VGCF)2.5gを加え攪拌し均一にした。つぎに、攪拌した状態でオイルバスにより135℃に加熱した。10分加熱攪拌した後、液体窒素にて急冷することでPTVE:VGCF=70:25の重量比からなるポリラジカル化合物−導電付与剤複合体(c)を得た。得られた複合体(c)を電子顕微鏡で観察したところ、PTVE粒子表面にVGCFが付着し、一部PTVE内部に入り込み複合体を形成していることを確認した。
(製造例4)
式(2)で表される部分構造を有するポリラジカル化合物(PTVE、製造例1で使用したものと同じ)を使用したポリラジカル化合物−導電付与剤複合体を、以下に示す製造スキームで製造した。
ポリラジカル化合物(PTVE)を自動メノウ乳鉢を用いて24時間粉砕した。粉砕後のPTVEの平均粒径は24.1μmであった。つぎに2軸混練押出装置に、PTVEを14g、気相成長炭素繊維(VGCF)5gを加えて135℃で混練した。つぎに混練押出装置により得られた複合体を、メノウ乳鉢を用いて粉砕した。つぎに目開き50μmのSUS製ふるいを用いて分級し、大きい粒径を除いて、PTVE:VGCF=70:25の重量比からなるポリラジカル化合物−導電付与剤複合体(d)を得た。得られた複合体(d)を電子顕微鏡で観察したところ、PTVE粒子表面にVGCFが付着し、一部PTVE内部に入り込み複合体を形成していることを確認した。
(実施例1)
小型ホモジナイザ容器に純水40gをはかりとり、カルボキシメチルセルロース(CMC)400mgを加え、30分間撹拌し完全に溶解させた。つぎに、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)100mgを加え、さらに30分間攪拌し完全に分散させた。そこに、製造例1で製造したポリラジカル化合物−導電付与剤複合体(a)9.5g(PTVE/VGCF重量比:7対2.5)を加え全体が均一になるまで30分間撹拌することによりスラリーを得た。得られたスラリーをアルミニウム箔上に塗布し、50℃で乾燥させて正極を作製した。正極層の厚みは100μmだった。作製した電極に、剥がれ、ひび割れ等は見られなく、表面は均一であった。これを、直径12mmの円形に打ち抜き、コイン電池用電極を成型した。なお、この電極の質量は9.1mgだった。
次に、得られた電極を電解液に浸して、電極中の空隙に電解液を染み込ませた。電解液としては、1.0mol/LのLiBETI(Li(CSON)電解質塩を含むエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート混合溶液(体積比3:7)を用いた。電解液を含浸させた電極は、正極集電体(アルミ箔)上に置き、その上に同じく電解液を含浸させたポリプロピレン多孔質フィルムセパレータを積層した。さらに負極となるリチウム金属箔を片面に付した銅箔を積層し、周囲に絶縁パッキンを配置した状態で正極側及び負極側からそれぞれのアルミ外装(Hohsen製)を重ね合わせた。これを、かしめ機によって圧力を加えることで、正極活物質としてポリラジカル化合物複合体−導電付与剤複合体、負極活物質としてグラファイトを用いた密閉型のコイン型電池とした。
(充放電試験)
コイン電池を、0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、0.1mAの定電流で3.0Vまで放電を行ったときの放電容量を測定した。このときの放電容量は、正極活物質重量当りで規格化した値を求めた。また、この充電放電を50回繰り返し、初回の放電容量に対する50サイクル後の放電容量を測定した。また、別途0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、1mAの定電流で3.0Vまで放電を行ったときの放電容量を、0.1mAで放電した場合の放電容量に対する比として測定した。結果を下記表1に示す。
(実施例2)
ポリラジカル化合物−導電付与剤複合体(a)の代わりに、製造例2で製造したポリラジカル化合物−導電付与剤複合体(b)を用いること以外は、実施例1と同様の方法によりコイン電池を作製した。作製した電極に、剥がれ、ひび割れ等は見られなく、表面は均一であった。このコイン電池の正極の重さは10.1mgであった。以下、実施例1と同様の充放電試験を行なった結果を表1に示す。
(実施例3)
ポリラジカル化合物−導電付与剤複合体(a)の代わりに、製造例3で製造したポリラジカル化合物−導電付与剤複合体(c)を用いること以外は、実施例1と同様の方法によりコイン電池を作製した。作製した電極に、剥がれ、ひび割れ等は見られなく、表面は均一であった。このコイン電池の正極の重さは9.5mgであった。以下、実施例1と同様の充放電試験を行なった結果を表1に示す。
(実施例4)
ポリラジカル化合物−導電付与剤複合体(a)の代わりに、製造例3で製造したポリラジカル化合物−導電付与剤複合体(d)を用いること以外は、実施例1と同様の方法によりコイン電池を作製した。作製した電極に、剥がれ、ひび割れ等は見られなく、表面は均一であった。このコイン電池の正極の重さは9.5mgであった。以下、実施例1と同様の充放電試験を行った結果を表1に示す。
(比較例1)
小型ホモジナイザ容器に純水40gをはかりとり、カルボキシメチルセルロース(CMC)400mgを加え、30分間撹拌し完全に溶解させた。つぎに、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)100mgを加え、さらに30分間攪拌し完全に分散させた。そこに、VGCF2.5gを加え、1時間攪拌し、完全に分散させた。さらに、式(2)で表される部分構造を有するポリラジカル化合物(PTVE、製造例1で使用したものと同じ)7g加え全体が均一になるまで30分間撹拌することによりスラリーを得た。このスラリーを用いること以外は実施例1と同様な方法で、コイン電池を作製した。作製した電極に、剥がれ、ひび割れ等は見られなく、表面は均一であった。このコイン電池の正極の重さは8.8mgであった。以下、実施例1と同様の充放電試験を行った結果を表1に示す。
(比較例2)
式(2)で表される部分構造を有するポリラジカル化合物(PTVE、製造例1で使用したものと同じ)を自動メノウ乳鉢を用いて24時間粉砕した。つぎに目開き50μmのSUS製ふるいを用いて分級し、大きい粒径のPTVEを除いた。分級による粒径調整後のPTVEの平均粒径は21.8μmであった。つぎに粒径調整後のPTVEを7g、気相成長炭素繊維(VGCF)2.5gを攪拌し均一にしてポリラジカル化合物−導電付与剤混合物(e)を得た。
ポリラジカル化合物−導電付与剤複合体(a)の代わりにポリラジカル化合物−導電付与剤混合物(e)を用いること以外は、実施例1と同様の方法によりコイン電池を作製した。作製した電極に、剥がれ、ひび割れ等は見られなく、表面は均一であった。このコイン電池の正極の重さは9.1mgであった。以下、実施例1と同様の充放電試験を行った結果を表1に示す。
(比較例3)
加熱温度を135℃から180℃に変更した以外は、製造例1と同様の方法で、ポリラジカル化合物−導電付与剤複合体(f)を得た。得られた複合体(f)を電子顕微鏡で観察したところ、PTVE粒子表面にVGCFが付着し、一部PTVE内部に入り込み複合体を形成していることを確認した。
ポリラジカル化合物−導電付与剤複合体(a)の代わりにポリラジカル化合物−導電付与剤複合体(f)を用いること以外は、実施例1と同様の方法によりコイン電池を作製した。作製した電極に、剥がれ、ひび割れ等は見られなく、表面は均一であった。このコイン電池の正極の重さは8.4mgであった。以下、実施例1と同様の充放電試験を行った結果を表1に示す。
Figure 0005326575
実施例1〜4で製造した電池は、比較例1〜3で製造した電池と比較して初回放電容量が向上し、サイクルによる容量減少が抑制され、より大電流での放電特性が向上している。すなわち、導電付与剤とポリラジカル化合物を所定温度で加熱混合して複合体にすることで、活物質利用の効率化と安定性の向上によりエネルギー密度、出力密度が向上し、サイクル安定性が改善していることが確認された。
実施例1に示した電池は、比較例2と比較して初回放電容量が向上している。すなわち、ポリラジカル化合物と導電付与剤を物理的に混合するよりも、加熱混合して複合体とすることによりエネルギー密度が向上していることが確認された。
実施例1に示した電池は、比較例3と比較してすべての特性が向上している。比較例3のように複合体を形成するプロセス温度が高いと、ポリラジカル化合物の変質がおこり充放電しない電池となる。したがって、加熱温度の重要性を示すものである。
実施例1に示した電池は、実施例2と比較して大電流での放電特性が向上している。これは、加熱混合前のポリラジカル化合物の粒径を小さくすることで導電付与剤との接触面積が増えたことによるものと考えられる。
この出願は、2007年1月25日に出願された日本特許出願特願2007−014997を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てを参照してここに取り込む。

Claims (7)

  1. ポリラジカル化合物と導電性物質とを、前記ポリラジカル化合物の軟化温度以上分解温度未満で加熱混合する処理を行うことを特徴とするポリラジカル化合物−導電性物質複合体の製造方法。
  2. 前記ポリラジカル化合物が、下記一般式(1)で表される部分構造を有することを特徴とする請求項1に記載のポリラジカル化合物−導電性物質複合体の製造方法。
    Figure 0005326575
    (一般式(1)において、R1〜R3は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基、R4〜R7は、それぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を示す。)
  3. 前記導電性物質が、炭素材料であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリラジカル化合物−導電性物質複合体の製造方法。
  4. 前記導電性物質が、炭素繊維であることを特徴とする請求項3に記載のポリラジカル化合物−導電性物質複合体の製造方法。
  5. 前記加熱混合する処理を不活性ガス雰囲気下で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリラジカル化合物−導電性物質複合体の製造方法。
  6. 前記加熱混合する処理を行う時間が3時間以内であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリラジカル化合物−導電性物質複合体の製造方法。
  7. 前記加熱混合する処理を行う前のポリラジカル化合物粉末の平均粒径が0.02μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリラジカル化合物−導電性物質複合体の製造方法。
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