<第1の実施形態>
以下、図1〜図7を参照して、本発明の第1実施形態に係るシートベルト装置10について説明する。なお、各図中矢印FRは車両前方向を示し、矢印UPは車両上方向を示し、矢印INは車室内側を示している。
図1に示されるように、本実施形態に係るシートベルト装置10は、長尺帯状に形成された乗員拘束用のウエビングベルト12を備えている。ウエビングベルト12の基端部(長手方向一端部)は、車両14のセンターピラー16の下端部に固定されたリトラクタ18の巻取軸(図示省略)に係止されており、巻取軸は付勢部材(図示省略)の付勢力によって常にウエビングベルト12の巻取回転方向に付勢されている。
ウエビングベルト12の中間部(長手方向中間部)は、センターピラー16の上部に設けられたスリップジョイント20に巻き掛けられて折り返されており、ウエビングベルト12の先端部(長手方向他端部)は、センターピラー16の下端部付近に設けられたプリテンショナ装置22に連結されている。
また、ウエビングベルト12の中間部には、スリップジョイント20とプリテンショナ装置22との間において、タング24が摺動可能に取り付けられている。タング24は、車両用シート26に対してリトラクタ18と反対側で車体に取り付けられたバックル28に連結されるようになっている。
車両用シート26に着座した乗員30がタング24をバックル28に装着すると、ウエビングベルト12のうちタング24とウエビングベルト12の先端部(プリテンショナ装置22)との間の部位が乗員30の臀部を拘束するラップベルト12Aとなり、ウエビングベルト12のうちスリップジョイント20とタング24との間の部位が乗員30の上体を拘束するショルダベルト12Bとなる。なお、本実施形態では、車両用シート26の前後、左右、上下の方向性は、車両の前後、左右、上下の方向性と略一致している。
一方、前述したプリテンショナ装置22は、図1に示される車両用シート26の後方側でかつ下方側において、車両用シート26と車体側部との間に配置されている。このプリテンショナ装置22は、図2及び図3に示されるように、車両用シート26のシートスライドレール32を構成するシートレールアッパ34の上面に取り付けられたブラケット36を備えている。
ブラケット36は、板金材料によって形成されたものであり、シートレールアッパ34の上面にボルト38及びナット41によって締結固定された固定部36Aと、この固定部36Aのシート幅方向外側端部から上方側へ向けて延出された縦壁部36Bとを有している。
縦壁部36Bの上端側には、軸線方向がシート幅方向に沿った段付ボルトである支持軸40を介して第2リンク部材42が連結されている。この第2リンク部材42は、長尺な板状に形成されており、その下端側(長手方向一端側)が縦壁部36Bの上端側に対してシート幅方向外側に重合して配置されている。縦壁部36Bの上端側及び第2リンク部材42の下端側には、それぞれ円形のボルト孔44、46が形成されており、これらのボルト孔44、46を貫通した支持軸40にナット48が螺合することにより、第2リンク部材42の下端側が縦壁部36Bの上端側に回転可能に連結されている(車両用シート26側に回転可能に連結されている)。
なお、第2リンク部材42の下端側と縦壁部36Bの上端側との間には、ワッシャ50が介在しており、縦壁部36B(ブラケット36)に対する第2リンク部材42の回転には所定の抗力(摩擦力)が付与される構成になっている。このため、第2リンク部材42は、シート前方側又はシート後方側への荷重が作用しない状態では、ブラケット36に対して不用意に回転しないようになっている。
第2リンク部材42の上端側には、軸線方向がシート幅方向に沿った段付ボルトである連結軸52を介して第1リンク部材54が連結されている。この第1リンク部材54は、長尺な板状に形成されており、その上下方向中間部(長手方向中間部)が第2リンク部材42の上端側に対してシート幅方向外側に重合して配置されている。
ここで、図3及び図4に示されるように、第1リンク部材54の上下方向中間部には、円形のボルト孔58が形成されており、第2リンク部材42の上端側には、長孔56が形成されている。この長孔56は、長手方向が第2リンク部材42の長手方向に対して所定角度傾斜している。つまり、この長孔56は、第2リンク部材42の長手方向が上下方向に沿うように第2リンク部材42が起立した状態で、上端側(長手方向一端側)が下端側(長手方向他端側)よりもシート前方側に配置されるように傾斜して配置されている。これらの長孔56及びボルト孔58には連結軸52が貫通しており、この連結軸52(段付ボルト)の先端側にナット60(図3参照)が螺合することにより、第1リンク部材54の上下方向中間部が第2リンク部材42の上端側に回転可能に連結されている。
また、図3及び図4に示されるように、第2リンク部材42の上端側と第1リンク部材54の上下方向中間部との間には、樹脂材料によって形成された樹脂プレート62(可撓性部材、破損予定部材)の本体部62Aが介在している。この本体部62Aは、板状に形成されており、第1リンク部材54及び第2リンク部材42に対して板厚方向に重合して配置されている。本体部62Aの中央部には、円形のボルト孔64が形成されており、このボルト孔64を連結軸52が貫通している。
ボルト孔64の半径方向外側で本体部62Aの上端側には、第1リンク部材54側へ突出した円柱状の突起62Bが設けられており、この突起62Bは、第1リンク部材54に形成された円孔66に挿入されている。また、本体部62Aの一端側には、第2リンク部材42側へ突出した円柱状の突起62Cが設けられており、この突起62Cは、第2リンク部材42に形成された円孔68に挿入されている。これにより、第1リンク部材54と第2リンク部材42は、両者の長手方向が沿う状態で連結軸52回りの相対回転を規制されている。
さらに、ボルト孔64の孔縁部には、第2リンク部材42側へ突出した断面略半月形の変形予定部62Dが設けられている。この変形予定部62Dは、ボルト孔64を介して突起62Bとは反対側に配置されており、連結軸52の下側で長孔56内に配置されている。これにより、連結軸52は、変形予定部62Dによって長孔56の上側(長手方向一側)に拘束されている。なお、この変形予定部62Dの剛性は、突起62B、62Cの剛性よりも高く設定されている。
一方、第1リンク部材54の上端側(長手方向一端側)には、スリット状のウエビング挿通孔70が形成されている。このウエビング挿通孔70には、図2及び図3に示されるように、ウエビングベルト12の先端部が挿通されて折り返されており、折り返し前後の部分が縫合されている。これにより、ウエビングベルト12の先端部が第1リンク部材54の上端側に係止されている。
また、図3に示されるように、第1リンク部材54の下端側(長手方向他端側)には、軸線方向がシート幅方向に沿った段付ボルトである係止軸72を介して、プリテンショナ本体74(図2参照)を構成するジョイントアンカ75が連結されている。このジョイントアンカ75は、プリテンショナ装置22のプリテンショナ本体74を構成しており、板状に形成された上端側が第1リンク部材の下端側に対してシート幅方向外側に重合して配置されている。第1リンク部材54の下端側及びジョイントアンカ75の上端側には、それぞれ円形のボルト孔76、78が形成されており、これらのボルト孔76、78を貫通した係止軸72の先端側にナット79が螺合することにより、ジョイントアンカ75の上端側が第1リンク部材54の下端側に回転可能に連結されている。なお、本実施形態では、上述の係止軸72が第1リンク部材54の「被引張部」とされている。
一方、ジョイントアンカ75の下端側は、下方側へ開口した円筒状に形成されており、プリテンショナ本体74を構成するワイヤ80の長手方向一端部が係止されている。このワイヤ80は、第1リンク部材54のシート後方側の下方側においてブラケット36のシート幅方向外側に配置されたベースカートリッジ82(作動源)と共にプリテンショナ本体74を構成しており、このワイヤ80の長手方向他端側はベースカートリッジ82内に挿入されている。このベースカートリッジ82は、ボルト84及びナット86によってブラケット36の下端側に締結されている。このベースカートリッジ82の前端側には、円弧状のワイヤ巻掛部82Aが設けられており、ベースカートリッジ82の前端側からベースカートリッジ82内に挿入されたワイヤ80の長手方向他端側は、ワイヤ巻掛部82Aに巻き掛けられた後にベースカートリッジ82の後端側へ向けて延出されている。
ベースカートリッジ82の後端側には、長尺な円筒状に形成されたシリンダ88が設けられている。シリンダ88は、軸線方向がシート前後方向に沿う状態で配置されており、前端部(軸線方向一端部)がベースカートリッジ82に固定されている。シリンダ88の内部には、図示しないピストンが設けられており、ワイヤ80の長手方向他端部は、このピストンに係止されている。
また、ベースカートリッジ82には、図示しないガスジェネレータ(ガス発生器)が取り付けられている。このガスジェネレータは、作動することによりシリンダ88内へ高圧のガスを送り込むようになっており、このガスの圧力によって図示しないピストンがシリンダ88の後端側へと移動され、ワイヤ80がベースカートリッジ82内へと引き込まれる。これにより、ワイヤ80及びジョイントアンカ75を介して第1リンク部材54の係止軸72が、ワイヤ巻掛部82Aへ向けて引っ張られる構成になっている。
つまり、本実施形態では、ベースカートリッジ82に設けられたワイヤ巻掛部82Aがプリテンショナ本体74の「引張位置」とされている。このワイヤ巻掛部82Aは、第1リンク部材54及び第2リンク部材42に対してシート後方側でかつ下方側(シート後方側の斜め下方側)に配置されており、車両用シート26に着座した乗員30がウエビングベルト12を装着した状態では、第1リンク部材54及び第2リンク部材42を介してウエビングベルト12の先端部とは反対側に配置される。
但し、第1リンク部材54及び第2リンク部材42は、ウエビングベルト12に作用する張力の作用方向に応じて支持軸40周りに回転する。このため、ウエビングベルト12の先端部の位置は、車両用シート26上での乗員30の着座姿勢などに応じて変化する。
つまり、乗員30の臀部が車両用シート26のシートクッション26Aの後端部付近に位置するように乗員30が車両用シート26に深く腰掛けた状態(以下、「通常着座状態」という)では、ウエビングベルト12の先端部は、シートクッション26Aの後端部付近に配置される。この通常着座状態では、第1リンク部材54及び第2リンク部材42は、図5(A)に示されるように、仮想直線Xよりもシート後方側に傾いて(シート幅方向から見て略起立して)配置される。
ここで、この仮想直線Xは、支持軸40の軸心とワイヤ巻掛部82A(図5(A)では図示省略)とを通る仮想の直線である(図6(A)及び図7(A)においても同様)。以下の説明では、シート幅方向から見て係止軸72と、支持軸40と、ワイヤ巻掛部82Aとが仮想直線X上に直線的に並んだ状態を「中立状態」という。つまり、この中立状態では、シート幅方向から見て係止軸72と支持軸40とワイヤ巻掛部82Aとが並ぶ方向が、仮想直線Xに沿った方向になる。
一方、上記通常着座状態よりも乗員30の臀部がシートクッション26Aの前端側に位置するように乗員30が車両用シート26に浅く腰掛けた状態(以下、「前方着座状態」という)では、ウエビングベルト12の先端部は、上記通常着座状態よりもシート前方側に配置される。この前方着座状態では、第1リンク部材54及び第2リンク部材42は、図6(A)に示されるように、仮想直線Xよりもシート前方側に傾いて配置される構成になっている。
次に、本第1の実施形態の作用について説明する。
上記構成のシートベルト装置10では、図1に示されるように、車両用シート26に着座した乗員30がウエビングベルト12の中間部に設けられたタング24をバックル28に連結すると、ラップベルト12Aによって乗員30の臀部が拘束され、ショルダベルト12Bによって乗員30の上体が拘束される。これにより、乗員30がウエビングベルト12を装着した状態となる。このウエビング装着状態で、車両が急減速し、車両に搭載された図示しない加速度センサが所定の加速度(減速度)を検知すると、車両に搭載された図示しない制御装置がベースカートリッジ82に設けられた図示しないガスジェネレータを作動させる。
ガスジェネレータが作動すると、ベースカートリッジ82内に高圧のガスが発生し、図示しないピストンがシリンダ88の後端側へと移動され、ワイヤ80がベースカートリッジ82内へと引き込まれる。これにより、ジョイントアンカ75を介してワイヤ80の長手方向一端部が係止(連結)された第1リンク部材54の係止軸72が、ベースカートリッジ82のワイヤ巻掛部82A(引張位置)へ向けて引っ張られる。
ここで、このシートベルト装置10では、乗員30が通常着座状態にあるとき、つまり、図5(A)に示されるように第1リンク部材54及び第2リンク部材42が中立状態よりもシート後方側に傾いて配置されているときに、上述の如く係止軸72がワイヤ巻掛部82Aへ向けて引っ張られると、第1リンク部材54及び第2リンク部材42にはシート後方側へ向いた分力が作用する。これにより、第1リンク部材54及び第2リンク部材42が支持軸40周りにシート後方側へ回転されると共に、第1リンク部材54と第2リンク部材42との間に相対的な回転力が作用する。この回転力によって、樹脂プレート62の突起62Bが破断すると、第1リンク部材54が第2リンク部材42に対して相対回すると共に、第1リンク部材54及び第2リンク部材42がシート後方側の下方側へ回転される(図5(B)参照)。これにより、ウエビングベルト12の先端部が下方側へ移動させられるので、乗員30の身体は、ウエビングベルト12(特にラップベルト12A)によって更にシートクッション26Aに押し付けられるように拘束される。
一方、乗員30が前方着座状態にあるとき、つまり、図6(A)に示されるように第1リンク部材54及び第2リンク部材42が中立状態よりもシート前方側に傾いて配置されているときに、上述の如く係止軸72がワイヤ巻掛部82Aへ向けて引っ張られると、第1リンク部材54及び第2リンク部材42にはシート前方側へ向いた分力が作用する。これにより、第1リンク部材54及び第2リンク部材42が支持軸40周りにシート前方側へ回転されると共に、第1リンク部材54と第2リンク部材42との間に相対的な回転力が作用する。この回転力によって、第1リンク部材54と第2リンク部材42との間に配置された樹脂プレート62の突起62Bが破断すると、第1リンク部材54が第2リンク部材に対して相対回転すると共に、第1リンク部材54及び第2リンク部材42がシート前方側の下方側へ回転される(図6(B)参照)。これにより、ウエビングベルト12の先端部が下方側へ移動させられるので、乗員30の身体は、ウエビングベルト12(特にラップベルト12A)によって更にシートクッション26Aに押し付けられるように拘束される。このようにしてラップベルト12Aの拘束を高めることで、車両急減速時に乗員30の身体がシートクッション26Aに沈み込む所謂「サブマリン現象」を防止又は効果的に抑制できる。
このように、このシートベルト装置10では、通常着座状態と前方着座状態とでウエビングベルト12の先端部を強制移動させる向きを異ならせることにより、ウエビングベルト12によって車両用シート26上での乗員30の着座姿勢に応じた効果的な向きに乗員30の身体をシートに押し付けて拘束することができる。
しかも、このシートベルト装置10では、第1リンク部材54及び第2リンク部材42が中立状態にあるとき、つまり、図7(A)に示されるように、車幅方向から見て係止軸72及び支持軸40が仮想直線X上に直線的に並んだ状態で図示しないガスジェネレータが作動すると、第1リンク部材54がワイヤ80を介してワイヤ巻掛部82A側へ引っ張られることにより、樹脂プレート62の突起62B、62Cが破断されると共に、第2リンク部材42の長孔56の内周面と連結軸52との間で樹脂プレート62の変形予定部62Dが圧縮される。これにより、変形予定部62Dが押し潰されると、長孔56の長手方向他側(下側)への連結軸52の移動を伴った第2リンク部材42に対する第1リンク部材54の相対移動(相対回転)が許容される(図7(B)参照)。これにより、中立状態が解消されるため、第1リンク部材54及び第2リンク部材42の支持軸40周りの円滑な回転を保証することができる。
つまり、中立状態では、ワイヤ80の引張力が第1リンク部材54及び第2リンク部材42に対して回転力として作用しない。このため、プリテンショナ本体74が第1リンク部材54をワイヤ巻掛部82Aへ向けて引っ張ることができなくなるが、本実施形態では、上述の如く樹脂プレート62の変形予定部62Dが押し潰されることで、中立状態が解消する。したがって、第1リンク部材54及び第2リンク部材42の円滑な回転を保証することができ、プリテンショナ装置22の作動の信頼性を向上させることができる。
なお、図7(B)に示されるように変形予定部62Dが押し潰された際には、第1リンク部材54及び第2リンク部材42が中立状態よりもシート後方側へ傾くため、前述した通常着座状態の場合と同様に、第1リンク部材54及び第2リンク部材42がシート後方側の下方側へ回転される。これにより、前述した通常着座状態の場合と同様に、ウエビングベルト12による乗員30の拘束性が向上する。
また、このシートベルト装置10では、通常時には樹脂プレート62の変形予定部62Dによって連結軸52を長孔56の長手方向一側に拘束すると共に、中立状態でプリテンショナ本体74が作動した際に上記拘束を解除することにより、中立状態を解消するため、第1リンク部材54及び第2リンク部材42の回転が阻害されることを回避するための手段(回転阻害回避手段)を簡単な構成にすることができる。
また、このシートベルト装置10では、樹脂プレート62の変形予定部62Dが長孔56の内周面と連結軸52との間で押し潰されることにより、長孔56の長手方向他側への連結軸52の移動を許容するため、移動許容手段を簡単な構成にすることができる。
さらに、このシートベルト装置10では、樹脂プレート62に設けられた突起62B、62Cが第1リンク部材54の円孔66及び第2リンク部材42の円孔86に挿入されることで、第1リンク部材54と第2リンク部材42との相対回転が規制されると共に、ベースカートリッジ82の作動時に突起62Cを破断させることにより、上記回転規制を解除するため、回転規制手段を簡単な構成にすることができる。
なお、上記第1実施形態では、第1リンク部材54の上端側にウエビングベルト12の先端部が係止された構成にしたが、本発明はこれに限らず、第1リンク部材54の上端側にバックル28が係止された構成にしてもよい。
また、上記第1実施形態では、樹脂プレート62に設けられた変形予定部62Dが拘束手段として適用された構成としたが、本発明はこれに限らず、拘束手段の構成は適宜変更することができる。例えば、長孔56の内周部に設けた突起を拘束手段とし、この突起によって連結軸52を長孔56の長手方向一側に拘束する構成にしてもよい。この場合、プリテンショナ本体74の作動時に上述の突起が変形されることにより、長孔56の長手方向他側への連結軸52の移動を許容する構成となる。
次に、本発明の他の実施形態について説明する。なお、前記第1実施形態と基本的に同様の構成・作用については、前記第1実施形態と同符号を付与し、その説明を省略する。
<第2の実施形態>
図8には、本発明の第2の実施形態に係るシートベルト装置の構成部材であるプリテンショナ装置100の主要部の構成が分解斜視図にて示されている。この実施形態は、前記第1実施形態と基本的に同様の構成とされているが、プリテンショナ装置100の構成が、前記第1実施形態に係るプリテンショナ装置22とは異なっている。
このプリテンショナ装置100は、前記第1実施形態に係るプリテンショナ本体74とは異なるプリテンショナ本体102を備えている。このプリテンショナ本体102は、ケーシング106と、ケーシング106のシート幅方向内側に配置された内側カバー108と、ケーシング106のシート幅方向外側に配置された外側カバー110とを備えている。
ケーシング106は、金属材料によって略箱状に形成されたものであり、シート幅方向両側及びシート前方側が開口している。また、内側カバー108及び外側カバー110は、板金材料によって略矩形平板状に形成されている。内側カバー108は、ケーシング106のシート幅方向内側の開口を閉塞しており、外側カバー110は、ケーシング106のシート幅方向外側の開口を閉塞している。これらのケーシング106、内側カバー108及び外側カバー110は、四隅がビス112によって一体に締結されている。
内側カバー108の下端部からは、シート前後方向両側へ向けて締結片108A、108Bが延出されている。これらの締結片108A、108Bには、円孔114が形成されており、これらの円孔114及びシートレールアッパ34(図8〜図11では図示省略)に形成された円孔を貫通したボルトにナットが螺合することによりプリテンショナ本体102がシートレールアッパ34に締結固定されている。
ケーシング106の内部には、ケーシング106の内部をシート幅方向に仕切る仕切壁106Aが設けられている。この仕切壁106Aの中央部には、円形の貫通孔116が形成されており、略円柱状に形成された回転部材118がこの貫通孔116を貫通している。
回転部材118は、軸線方向がシート幅方向に沿う状態で配置されており、軸線方向一端部に設けられた円柱状の支軸部118Aが内側カバー108に形成された円孔120に挿入されると共に、軸線方向他端部に設けられた支軸部118Bが外側カバー110に形成された円孔122に挿入されている。これにより、回転部材118は、内側カバー108及び外側カバー110によって回転可能に支持されている。
仕切壁106Aと外側カバー110との間に配置された回転部材118の軸線方向一端側には、円柱状に形成された巻取部118Cが設けられている。この巻取部118Cは、後述するスチールリボン140に対応している。また、仕切壁106Aと内側カバー108との間に配置された回転部材118の軸線方向他端側には、外周部にピニオン歯が形成されたピニオン部118Dが設けられている。このピニオン部118Dは、ケーシング106の後端側に配置されたベースカートリッジ124(作動源)の構成部材であるラック126に対応している。
ベースカートリッジ124は、ケーシング106の後端部の上部側に取り付けられたシリンダ128を備えている。シリンダ128は軸線方向がシート前後方向に沿う状態でケーシング106の後方側へ突出して配置されている。シリンダ128内には、長尺状に形成されたラック126が収容されている。このラック126の下縁側には、歯が形成されている。また、シリンダ128の後端部にはガスジェネレータ130が設けられている。このガスジェネレータ130は作動することにより、シリンダ128内にガスを発生し、当該ガスの圧力でラック126をシリンダ128のシート前方側へ突出させる。シリンダ128から突出したラック126は、下縁側の歯が回転部材118のピニオン部118Dのピニオン歯に噛み合うことで、回転部材118をその軸線周り一方へ回転させるようになっている。
一方、外側カバー110の上端部からは、シート前方側の斜め上方側へ向けて長尺平板状のリンク支持部110Aが延出されている。このリンク支持部110Aの先端部(上端部)には、支持軸40を介して第2リンク部材42が連結されている。
支持軸40及び第2リンク部材42は、前記第1実施形態と基本的に同様構成とされており、第2リンク部材42の下端部に形成された円孔46及びリンク支持部110Aの上端部に形成された円孔132を貫通した支持軸40の先端側に図示しないナットが螺合することにより、第2リンク部材42がリンク支持部110Aに回転可能に連結されている。
この第2リンク部材42の上端部には、連結軸52を介して第1リンク部材54が連結されている。連結軸52及び第1リンク部材54は、前記第1実施形態と基本的に同様構成とされており、第1リンク部材54の上下方向中間部に形成された円孔58及び第2リンク部材42の上端部に形成された円孔56を貫通した連結軸52の先端側に図示しないナットが螺合することにより、第1リンク部材54が第2リンク部材42に回転可能に連結されている。
但し、この実施形態では、第1リンク部材54は、上下方向中間部が第2リンク部材42の上端側に対してシート幅方向内側に重合する状態で配置されている。また、第1リンク部材54と第2リンク部材42との間には、シェアピン136(図9参照。図8では図示省略)が掛け渡されている。このシェアピン136は、円柱状に形成されており、第1リンク部材54に形成された円孔135及び第2リンク部材42に形成された円孔137に挿入されている。これにより、第1リンク部材54及び第2リンク部材42は、両者の長手方向が沿う状態で連結軸52周りの相対回転を規制されている。
また、この実施形態では、第1リンク部材54の下端側には、シート幅方向内側へ向けて突出した円柱状のピン138が設けられている。このピン138は、第1リンク部材54の「被引張部」を構成しており、弾性部材としてのスチールリボン140に対応している。
スチールリボン140は、バネ材によって長尺平板状に形成されたものであり、長手方向一端部がピン138に係止されている。また、スチールリボン140の長手方向他端部は、前述した回転部材118の巻取部118Cの外周部に形成された溝に挿入されて当該巻取部118Cに係止されている。このため、前述した如く回転部材118が軸線周り一方へ回転された際には、スチールリボン140がその長手方向他端側から巻取部118Cに巻取られることで、第1リンク部材54のピン138がスチールリボン140を介して巻取部118Cへ向けて引っ張られるようになっている。つまり、この実施形態では、回転部材118の巻取部118Cが、プリテンショナ本体102の「引張位置」とされている。
ここで、上述のスチールリボン140は、長手方向中間部が円弧状に湾曲するように巻き癖が付けられている。これにより、図9(A)に示されるように、ピン138、支持軸40、及び巻取部118Cがシート幅方向から見て直線的に並んだ状態(以下、「中立状態」という)にあるときには、第1リンク部材54がスチールリボン140によってシート前方側又はシート後方側へ付勢されるようになっている。
つまり、図9(B)に示されるように第1リンク部材54及び第2リンク部材42が中立状態よりも前傾した前傾状態にあるときのピン138と巻取部118Cとの距離LEは、図9(A)に示される中立状態でのピン138と巻取部118Cとの距離L0よりも短い(LE<L0)。また、図9(C)に示されるように第1リンク部材54及び第2リンク部材42が中立状態よりも後傾した後傾状態にあるときのピン138と巻取部118Cとの距離LRは、距離L0よりも短い(LR<L0)。このため、中立状態にあるときには、スチールリボン140が伸ばされることにより、スチールリボン140に復元力が発生し、第1リンク部材54が前傾状態又は後傾状態へ付勢される構成になっている。
そして、本実施形態では、乗員30(図8〜図11では図示省略)が前方着座状態にあるときには、第1リンク部材54及び第2リンク部材42がウエビングベルト12に引っ張られて前傾状態となる一方、乗員30が通常着座状態にあるときには、第1リンク部材54及び第2リンク部材42がウエビングベルト12に引っ張られて後傾状態となるように各構成部材が配置されている。
次に、本第2実施形態の作用及び効果について説明する。
本第2実施形態では、乗員30が通常着座状態にあるとき、つまり、図10(A)に示されるように、第1リンク部材54及び第2リンク部材42が後傾状態にあるときに、プリテンショナ本体102のガスジェネレータ130が作動すると、シリンダ128からラック126が突出し、回転部材118を軸線周り一方へ回転させる。これにより、図10(B)に示されるように、スチールリボン140がその長手方向他端側から回転部材118の巻取部118Cに巻取られ、第1リンク部材54のピン138が巻取部118Cへ向けて引っ張られる。この場合、第1リンク部材54及び第2リンク部材42にはシート後方側へ向いた分力が作用する。これにより、第1リンク部材54及び第2リンク部材42が支持軸40周りにシート後方側へ回転されると共に、第1リンク部材54と第2リンク部材42との間に相対的な回転力が作用する。この回転力によって、第1リンク部材54と第2リンク部材42との間に掛け渡されたシェアピン136が破断すると、第1リンク部材54が第2リンク部材42に対して相対回転しつつ、第1リンク部材54及び第2リンク部材42がシート前方側の下方側へ回転される(図10(B)図示状態)。これにより、ウエビングベルト12の先端部が下方側へ移動させられるので、乗員30の身体は、ウエビングベルト12(特にラップベルト12A)によって更にシートクッション26Aに押し付けられるように拘束される。
一方、乗員30が前方着座状態にあるとき、つまり、図11(A)に示されるように、第1リンク部材54及び第2リンク部材42が前傾状態にあるときに、プリテンショナ本体102のガスジェネレータ130が作動すると、シリンダ128からラック126が突出し、回転部材118を軸線周り一方へ回転させる。これにより、図11(B)に示されるように、スチールリボン140がその長手方向他端側から回転部材118の巻取部118Cに巻取られ、第1リンク部材54のピン138が巻取部118Cへ向けて引っ張られる。この場合、第1リンク部材54及び第2リンク部材42にはシート前方側へ向いた分力が作用する。これにより、第1リンク部材54及び第2リンク部材42が支持軸40周りにシート前方側へ回転されると共に、第1リンク部材54と第2リンク部材42との間に相対的な回転力が作用する。この回転力によって、第1リンク部材54と第2リンク部材42との間に掛け渡されたシェアピン136が破断すると、第1リンク部材54が第2リンク部材42に対して相対回転しつつ、第1リンク部材54及び第2リンク部材42がシート前方側の下方側へ回転される(図11(B)図示状態)。これにより、ウエビングベルト12の先端部が下方側へ移動させられるので、乗員30の身体は、ウエビングベルト12(特にラップベルト12A)によって更にシートクッション26Aに押し付けられるように拘束される。したがって、前記第1実施形態と同様に所謂「サブマリン現象」を防止又は効果的に抑制できる。
このように、本第2実施形態では、通常着座状態と前方着座状態とでウエビングベルト12の先端部を強制移動させる向きを異ならせることにより、ウエビングベルト12によって車両用シート26上での乗員30の着座姿勢に応じた効果的な向きに乗員30の身体をシートに押し付けて拘束することができる。
しかも、本第2実施形態では、通常時においては、ピン138、支持軸40、巻取部118Cがシート幅方向から見て直線的に並んだ中立状態を避けるように、スチールリボン140が第1リンク部材54及び第2リンク部材42を付勢する。したがって、中立状態でプリテンショナ本体102が作動することにより第1リンク部材54及び第2リンク部材42の支持軸40周りの回転が阻害されることを回避することができる。これにより、プリテンショナ装置100の作動の信頼性を向上させることができると共に、簡単な構成で回転阻害回避手段を成立させることができる。
また、本第2実施形態では、弾性部材としてスチールリボン140が適用されているため、第1リンク部材54に付与する付勢力の調整が容易であると共に、回転部材118の巻取部118Cの外周部にスチールリボン140をコンパクトに巻取ることができるため、プリテンショナ本体102の小型化を図ることもできる。
なお、上記第2実施形態では、スチールリボン140が弾性部材として適用された場合について説明したが、本発明はこれに限らず、ワイヤなどの他の長尺状弾性部材を適用して構成することもできる。
また、上記第2実施形態では、プリテンショナ本体102が回転部材118と、この回転部材118を回転させるベースカートリッジ124とを備えた構成にしたが、本発明はこれに限らず、前記第1実施形態に係るプリテンショナ本体74を適用して構成することもできる。
<第3の実施形態>
図12には、本発明の第3の実施形態に係るシートベルト装置の構成部材であるプリテンショナ装置150の部分的な構成が断面図にて示されている。また、図13には、このプリテンショナ装置150の部分的な構成が概略的な側面図にて示されている。
本第3実施形態に係るプリテンショナ装置150は、前記第1実施形態に係るプリテンショナ装置22と基本的に同様の構成とされている。但し、このプリテンショナ装置150では、前記第1実施形態に係る第1リンク部材54及び第2リンク部材42の代わりに、長尺板状に形成された単一のリンク部材152を備えている。このリンク部材152は、第2リンク部材42と同様に、長手方向一端側(下端側)が支持軸40を介してブラケット36の縦壁部36Bに回転可能に連結されている。
リンク部材152の長手方向他端側(上端側)には、第1リンク部材54のウエビング挿通孔70と同様のウエビング挿通孔が形成されており、ウエビングベルト12の先端部が係止されている。
また、リンク部材152の長手方向中間部には、前記第1実施形態に係る長孔56と同様の長孔154が形成されている。この長孔154は、リンク部材152の長手方向が上下方向に沿うようにリンク部材152が起立した状態で、上端側(長手方向一端側)が下端側(長手方向他端側)よりもシート前方側に配置されるように傾斜して配置されている。この長孔154は、被引張軸156に対応している。
被引張軸156は、前記第1実施形態に係る連結軸52と同様の構成とされている。この被引張軸156は、ジョイントアンカ75の上端側に形成されたボルト孔78及び長孔154を貫通している。被引張軸156の先端側にはナット60が螺合しており、これにより、ジョイントアンカ75の上端側がリンク部材152の長手方向中間部に回転可能に連結されている。このジョイントアンカ75は、前記第1実施形態に係るプリテンショナ本体74と同様のプリテンショナ本体74を構成しており、リンク部材152に対してシート後方側の下方側に配置されたベースカートリッジ82(図12、図13では図示省略)から引き出されたワイヤ80の一端部が、ジョイントアンカ75の下端側に係止されている。
さらに、このプリテンショナ装置150では、リンク部材152とジョイントアンカ75との間には、前記第1実施形態に係る樹脂プレート62と同様の樹脂プレート62が配置されており(図13では図示省略)、被引張軸156が樹脂プレート62の本体部62Aに形成されたボルト孔64を貫通している。この本体部62Aに設けられた変形予定部62Dは、被引張軸156の下側で長孔154内に配置されている。これにより、被引張軸156は、変形予定部62Dによって長孔154の上側(長手方向一側)に拘束されている。なお、この実施形態では、樹脂プレート62の突起62B、62Cが省略されている。
ここで、この実施形態では、前記第1実施形態と同様に、シート幅方向から見て被引張軸156、支持軸40、及びベースカートリッジ82のワイヤ巻掛部82A(図12、図13では図示省略)が直線状に並んだ状態が「中立状態」とされている。そして、乗員30が通常着座状態にあるときには、リンク部材152が中立状態よりもシート後方側に傾いて配置される。この状態で、プリテンショナ本体74が作動し、被引張軸156がワイヤ巻掛部82Aへ向けて引っ張られると、リンク部材152が支持軸40周りにシート後方側へ回転される。これにより、ウエビングベルト12の先端部が下方側へ移動させられるので、乗員30の身体は、ウエビングベルト12(特にラップベルト12A)によって更にシートクッション26Aに押し付けられるように拘束される。
一方、この実施形態では、乗員30が前方着座状態にあるときには、リンク部材152が中立状態よりもシート前方側に傾いて配置される構成になっている。この状態で、プリテンショナ本体74が作動し、被引張軸156がワイヤ巻掛部82Aへ向けて引っ張られると、リンク部材152が支持軸40周りにシート前方側へ回転される(図13参照)。これにより、ウエビングベルト12の先端部が下方側へ移動させられるので、乗員30の身体は、ウエビングベルト12(特にラップベルト12A)によって更にシートクッション26Aに押し付けられるように拘束される。このようにしてラップベルト12Aの拘束を高めることで、車両急減速時に乗員30の身体がシートクッション26Aに沈み込む所謂「サブマリン現象」を防止又は効果的に抑制できる。
しかも、この実施形態では、リンク部材152が中立状態にあるとき、つまり、シート幅方向から見て被引張軸156、支持軸40、及びワイヤ巻掛部82Aが直線的に並んだ状態でベースカートリッジ82が作動すると、リンク部材152がワイヤ80を介してワイヤ巻掛部82A側へ引っ張られることにより、樹脂プレート62の変形予定部62Dがリンク部材152の長孔154の内周面と被引張軸156との間で圧縮される。これにより、変形予定部62Dが押し潰されると、長孔154の長手方向他側(下側)への被引張軸156の移動が許容される。これにより、中立状態が解消されるため、リンク部材152の支持軸40周りの円滑な回転を保証することができる。
したがって、この実施形態においても、前記第1実施形態と基本的に同様の作用効果を奏する。しかも、この実施形態は、単一のリンク部材152によって成立しているため、構成を極めて簡素なものにすることができ、大幅なコストダウンを図ることができる。
なお、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できるものであり、本発明の権利範囲が上記各実施形態に限定されないことは言うまでもない。