JP5314972B2 - 多層フィルム及び多層フィルムを用いた薬剤容器 - Google Patents
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Description
しかし、ポリエチレンやポリプロピレンは水蒸気バリア性に乏しく、容器内の水分が外部に揮散し、薬液が減少する可能性が示唆されている。更にある種の薬剤は、ポリエチレンやポリプロピレンに吸着されやすく、薬剤容器に保存されている薬剤の濃度低下が問題となっている。
しかしながら、環状オレフィン系樹脂は他の樹脂との相溶性、接着性に乏しく、多層フィルムを成形した際に層間剥離が生じ易いという問題がある。このような層間接着性に乏しい多層フィルムを用いた薬剤容器は、高温、高圧下で行われる滅菌操作によって、容器の変形や液漏れ等を起こす可能性もある。
よって、環状オレフィン系樹脂からなる層と他の樹脂からなる層との層間接着性の向上が望まれている。
特許文献2で示される多層フィルムは内側から、エチレン‐αオレフィン共重合体層、環状オレフィン系樹脂にエチレン‐αオレフィン共重合体を配合した層、エチレン‐αオレフィン共重合体層を順に積層している。ここでは、各層に環状オレフィン系樹脂と相溶性の良好なエチレン‐αオレフィン共重合体を含有させることで、各層間の層間接着性を向上させている。
また、環状オレフィン系樹脂には硬くて脆いという性質がある。しかしながら、エチレン‐αオレフィン共重合体は環状オレフィン系樹脂に柔軟性を付与できるものではなく、多層フィルム化した際、薬剤容器としての柔軟性に乏しいため落袋強度が得にくい等の問題がある。
〔多層フィルム〕
本発明の多層フィルム10は、図1に示すように少なくとも、バリア層11と接着層12と表面層13とがこの順に積層し、バリア層11と接着層12とが密着しているものである。
バリア層11は、環状オレフィン系樹脂と熱可塑性エラストマーとを含む混合樹脂を用いてなるものである。
環状オレフィン系樹脂は、環状構造を有するポリオレフィン樹脂であり、α−オレフィンと二重結合を有する脂環式化合物(環状オレフィン)との共重合体が挙げられる。前記α−オレフィンとしては、エチレン、プロピレン等が挙げられ、前記脂環式化合物としては、シクロヘキセン、ノルボルネン、テトラシクロドデセン等が挙げられる。具体的には、エチレン−ノルボルネン共重合体等が挙げられる。
環状オレフィン系樹脂の市販品として、ティコナ社製の「TOPAS(登録商標)」等が挙げられる。
一方、熱可塑性エラストマーの含有率は、5〜40質量%であり、5〜30質量%であると好ましく、10〜20質量%であると更に好ましい。
環状オレフィン系樹脂の含有率が60質量%未満(熱可塑性エラストマーの含有率が40質量%を超える)であれば、バリア層11の薬剤吸着抑制効果が低下する傾向にある。一方、環状オレフィン系樹脂の含有率が95質量%を超えると(熱可塑性エラストマーの含有率が5質量%未満)、多層フィルム全体の柔軟性が低下すると共に、バリア層11と接着層12との層間接着性が低下する傾向にある。
接着層12は、熱可塑性エラストマーとポリプロピレン系樹脂とを含む混合樹脂を用いてなるものである。
熱可塑性エラストマーとしては、層間接着性の観点から、前記バリア層11に用いられる熱可塑性エラストマーと同様のものが挙げられ、いずれかを1種又は2種以上用いると好ましい。
ポリプロピレン系樹脂としては、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ホモポリプロピレン、リアクターポリプロピレン及びポリプロピレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられ、いずれかを1種又は2種以上用いると好ましい。
中でもブロックポリプロピレンは耐熱性、透明性、及び柔軟性に優れており、本発明での使用が好ましい。
また、リアクターポリプロピレン系樹脂とは、リアクターブレンド法により共重合されたプロピレン系共重合体を指す。ここで、リアクターブレンド法とは、重合が1回で終了するのではなく、2段階以上の多段階の重合を行うことにより複数の種類のポリマーを連続して製造する重合法である。リアクターポリプロピレン系樹脂は耐熱性、柔軟性及び透明性に優れており本発明での使用が好ましい。
一方、ポリプロピレン系樹脂の含有率は、5〜50質量%であり、20〜50質量%であると好ましく、40〜50質量%であると更に好ましい。
熱可塑性エラストマーの含有率が50質量%未満(ポリプロピレン系樹脂の含有率が50質量%を超える)であると、十分な柔軟性と、バリア層との層間接着性を得ることができない。一方、熱可塑性エラストマーの含有率が95質量%を超えると(ポリプロピレン系樹脂の含有率が5質量%未満)、安定した製膜が困難となる傾向にある。
表面層13は、融点が130℃以上のポリプロピレン系樹脂を用いてなるものである。
表面層13の融点は130℃以上であり、140℃以上であると好ましく、160℃以上であると更に好ましい。また、表面層13の融点の上限値は170℃であると好ましい。表面層13の融点が130℃未満であると、耐熱性が不足し、121℃高圧蒸気滅菌時に破損してしまうため好ましくない。一方、表面層13の融点が170℃を超えると柔軟性、耐熱性が失われる傾向が見られ、好ましくない。
ポリプロピレン系樹脂としては、融点が130℃以上のものであればよく、接着層と同様のブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ホモポリプロピレン、リアクターポリプロピレン及びポリプロピレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられ、いずれかを1種又は2種以上用いると好ましい。
中でもブロックポリプロピレン及びホモポリプロピレンは、耐熱性及び透明性に優れており、本発明での使用が好ましい。
以上各層を有する多層フィルムは、共押出しインフレーション法、共押出しTダイ法等、公知の方法を採用して成形することができる。
本発明の薬剤容器は、前記多層フィルムを用いて製造したもので、そのバリア層が最内面に配置されているものである。
一例を図2に示す。薬剤容器20は、本発明の多層フィルム2枚を通常の方法で断裁し、それぞれのバリア層が最内面となるように重ね合わせて、その周縁部21をヒートシールにより接着して製造する。なお、図2のように、該周縁部21に口部材22をヒートシール等の手段を用いて取り付けることも可能である。
薬剤容器20の製造法は、前記の方法に限定するものではなく、例えば、多層フィルムのバリア層を最内面としたチューブ状フィルムを成形した上で、周縁部21をヒートシールすることで製造することも可能である。
また、該多層フィルムを用いて製袋した本発明の薬剤容器は、環状オレフィン系樹脂を主成分としたバリア層を最内層として製袋した。従って、薬剤吸着抑制効果や水蒸気バリア性を付与することが可能となった。また、バリア層には、医薬的に認可されている熱可塑性エラストマーも配合しており、製袋時の接着性を良好にするだけでなく、医療材料としての適合性にも優れている。
更には、表面層に融点が130℃以上のポリプロピレン系樹脂を用いており、121℃高圧蒸気滅菌の際などに耐熱効果を発揮する。
なお、以下ガラス転移温度は「Tg」と表記し、メルトフローレートは「MFR」と表記する。
樹脂A:エチレン−ノルボルネン共重合樹脂(Tg80℃、密度1.02g/cm3、MFR32g/10分(260℃))
樹脂B:水素添加スチレン−ブタジエン共重合エラストマー(Tg−15℃、密度0.90g/cm3、MFR4g/10分(230℃))
樹脂C:リアクターポリプロピレン(Tg−15℃、密度0.90g/cm3、MFR4g/10分(230℃))
樹脂D:結晶性エチレン・エチレン‐非晶性エチレン・ブテンブロック共重合エラストマー(Tg−52℃、密度0.88g/cm3、MFR2.5g/10分(230℃))
樹脂E:ポリプロピレン系熱可塑性エラストマー(融点164℃、密度0.90g/cm3、MFR2.6g/10分(230℃))
樹脂F:ランダムポリプロピレン(融点125℃、密度0.90g/cm3、MFR2.0g/10分(230℃))
バリア層には樹脂Aと樹脂Bを、接着層には樹脂Cと樹脂Dを、表面層には樹脂Eをそれぞれ用い、表1に示す配合割合で配合した混合樹脂をそれぞれ用いた。
これら各層の混合樹脂を、押出機を用いて溶融させ、インフレーション装置を用い、各層を表1に示す厚さとして、多層フィルムを成形した。
得られた多層フィルムについて以下の(1)〜(5)の評価を行った。結果を表1に示す。
各実施例及び比較例において、バリア層50μm、接着層100μm、表面層50μmである多層フィルムをインフレーション法にて成形し、得られた多層フィルムの製膜状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
(評価基準)
○:フィルム製膜可能
×:フィルム製膜不可能
各実施例及び比較例において得られた多層フィルムのバリア層を内側にして、インパルス式ヒートシール機を用いて、容積100mLの薬剤容器を作成した。
得られた薬剤容器に100mLの水を封入し、高さ1.3mから自由落下させて、その後の薬剤容器の状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
(評価基準)
○:破袋なし
×:破袋あり
−:評価不能(薬剤容器作成不能)
各実施例及び比較例において得られた多層フィルムのバリア層を内側にして、インパルス式ヒートシール機を用いて、容積100mLの薬剤容器を作成した。
得られた薬剤容器を高圧蒸気滅菌法(121℃、約2000hPa)にて20分消毒して、その後の薬剤容器を目視で観察し、以下の基準で評価した。
(評価基準)
○:高圧蒸気滅菌後も異常なし
×:高圧蒸気滅菌後、容器の変形、溶着部の剥がれ等の異常発生
−:評価不能(薬剤容器作成不能)
各実施例及び比較例において得られた多層フィルムのバリア層を内側にして、インパルス式ヒートシール機を用いて、容積100mLの薬剤容器を作成した。
得られた薬剤容器に、以下の配合で調製した塩酸ブロムヘキシン溶液を100mL封入し、40℃で3週間保存した。
保存後の塩酸ブロムヘキシンの濃度を高速液体クロマトグラフィーによって以下の測定条件で測定し、保存前の塩酸ブロムヘキシンの濃度と比較し、以下の基準で評価した。
(塩酸ブロムヘキシン溶液(濃度:0.2質量%)の配合)
水 :96.55質量%
塩酸ブロムヘキシン :0.2質量%
パラオキシ安息香酸メチル(安定剤) :0.15質量%
プロピレングリコール(溶解補助剤) :3.0質量%
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油‐60(界面活性剤) :0.1質量%
(高速液体クロマトグラフィーの測定条件)
検出器 :紫外分光検出器(測定波長254nm)
カラム :INERSIL ODS−3 5μm、4.6×150mm
カラム温度 :40℃
移動層 :25mMリン酸−ナトリウム緩衝液(リン酸でpH2.5に調整、5mMラウリル酸ナトリウムを含む):アセトニトリル(1:1)
移動層流量 :1.0mL/min
内部標準物質 :パラオキシ安息香酸ブチル
(評価基準)
○:保存前と保存後の塩酸ブロムヘキシンの濃度に変化なし
×:保存後に塩酸ブロムヘキシンの濃度低下
−:評価不能(薬剤容器作成不能)
各実施例・比較例で得た多層フィルムを2枚用い、バリア層を内側にして重ねて200℃でヒートシールを行い、幅15mm、長さ200mmの試験片を作製した。
得られた試験片について、オートグラフ(島津製作所製)を用いて、180℃剥離試験を行い、試験片のいずれかの層間が剥離する剥離強度を測定した。剥離強度は5回測定し、その平均値をとり、以下の基準で評価した。
(評価基準)
○:500g/15mm以上
△:200g/15mm以上〜500g/15mm未満
×:200g/15mm未満
−:測定不可(製膜状態または溶着状態が不良)
バリア層、接着層、表面層の各層で用いる混合樹脂の樹脂配合率を表1又は表2に示すものとした他は、実施例1と同様にして、多層フィルムを成形した。
得られた多層フィルムについて、実施例1と同様に上記(1)〜(5)の評価を行った。結果を表1又は2に示す。
対して、比較例1、3及び5では、接着層に使用した混合樹脂における熱可塑性エラストマーの配合率が少ないので、バリア層との好ましい層間接着性が得られなかった。
比較例2、4及び6では接着層に使用した樹脂が熱可塑性エラストマーだけであるので、安定した製膜が困難であり、試験に用いることのできる多層フィルムを得ることができなかった。
比較例7では、バリア層に環状オレフィン系樹脂のみを用いたので、接着層と全く接着することができず多層フィルムを製造することができなかった。
比較例8では、バリア層における熱可塑性エラストマーの配合率が多すぎるため、薬剤吸着抑制効果を得ることができなかった。
比較例9では、接着層にポリプロピレン系熱可塑性エラストマーのみを用いており、多層フィルムを得ることはできたが、接着層とバリア層の層間接着性が低く、落袋強度試験をした際に破袋してしまった。
比較例10は、表面層に融点が130℃未満のランダムポリプロピレンを用いている。従って、121℃の高圧蒸気滅菌試験を行うと試験検体である薬剤容器が破裂・破損し、更に変形してしまった。
バリア層、接着層、表面層の各層の樹脂配合率を実施例4と同様にして、各層で用いる混合樹脂を得た。
これら各層の混合樹脂を、押出機を用いて溶融させ、インフレーション装置を用い、各層を表3に示す厚さとして、多層フィルムを成形した。
得られた各多層フィルム及び実施例4の多層フィルムについて以下の(6)の評価を行った。結果を表3に示す。
ASTM D−822に準拠し、23℃で測定した。
11:バリア層
12:接着層
13:表面層
20:薬剤容器
21:周縁部
22:口部材
Claims (2)
- バリア層と接着層と表面層とがこの順に積層し、
バリア層と接着層とが密着しており、
バリア層が、環状オレフィン系樹脂60〜95質量%と熱可塑性エラストマー5〜40質量%とを含む、厚さ10〜80μmの層であり、
接着層が、熱可塑性エラストマー50〜95質量%とポリプロピレン系樹脂5〜50質量%とを含む、厚さ10〜300μmの層であり、
表面層が、融点が130℃以上のポリプロピレン系樹脂からなる、厚さ5〜80μmの層である多層フィルム。 - 前記バリア層が最内面となるように、請求項1記載の多層フィルムを用いて形成した薬剤容器。
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