本発明の積層セラミックコンデンサについて、図1の概略断面図をもとに詳細に説明する。図1は、本発明の積層セラミックコンデンサの一例を示す概略断面図である。
この実施形態の積層セラミックコンデンサは、コンデンサ本体1の両端部に外部電極3が形成されている。外部電極3は、例えば、CuもしくはCuとNiの合金ペーストを焼き付けて形成されている。
コンデンサ本体1は、誘電体磁器からなる誘電体層5と内部電極層7とが交互に積層されて構成されている。図1では誘電体層5と内部電極層7との積層状態を単純化して示しているが、この実施形態の積層セラミックコンデンサは誘電体層5と内部電極層7とが数百層にも及ぶ積層体となっている。
誘電体磁器からなる誘電体層5は、結晶粒子と粒界相とから構成されており、その厚みは10μm以下、特に、5μm以下が望ましく、これにより積層セラミックコンデンサを小型、高容量化することが可能となる。なお、誘電体層5の厚みが2μm以上であると、容量温度特性を安定化させることが可能になる。
内部電極層7は、高積層化しても製造コストを抑制できるという点で、ニッケル(Ni)や銅(Cu)などの卑金属が望ましく、特に、この実施形態における誘電体層5との同時焼成が図れるという点でニッケル(Ni)がより望ましい。
この実施形態の積層セラミックコンデンサは、誘電体層5を構成する誘電体磁器が、チタン酸バリウムを主成分とする結晶相を主結晶相とし、この主結晶相が立方晶系を主体とする結晶構造を有するとともに、前記結晶相を構成する結晶粒子の平均粒径が0.06〜0.20μmであり、イットリウム、マンガン、マグネシウムおよびイッテルビウムを含有する誘電体磁器からなる。
また、この実施形態の積層セラミックコンデンサは、積層セラミックコンデンサを酸に溶解させて求められる元素の含有量が、バリウム1モルに対して、イットリウムがY2O3換算で0.0007〜0.015モル、マンガンがMnO換算で0.0002〜0.045モル、マグネシウムがMgO換算で0.0075〜0.04モル、イッテルビウムがYb2O3換算で0.0125〜0.07モルである。
さらに、この実施形態の積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層は、X線回折分析のリートベルト法解析において、バリウム1モルに対して、Yb2O3の含有量が0.0075〜0.023モルである。
積層セラミックコンデンサが、上記組成および平均粒径の範囲を有し、かつ結晶構造が立方晶系を主体とするものであると、積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層5の室温における比誘電率が730以上であるとともに、比誘電率のばらつき(CV)が3%以下であり、かつ室温における分極電荷(電圧0Vにおける残留分極)が25nC/cm2以下と低い電歪特性を有する積層セラミックコンデンサとすることができる。
ここで、比誘電率のばらつき(CV)とは、変動係数(Coefficient of variation)のことであり、複数の積層セラミックコンデンサの静電容量を測定し、内部電極の有効面積と誘電体層5の平均厚みから誘電体層5の比誘電率を算出し、その平均値(x)と標準偏差(σ)を求め、σ/xの関係として表される値である。
すなわち、この実施形態の積層セラミックコンデンサでは、誘電体層5が、チタン酸バリウムに、イットリウム、マンガン、マグネシウムおよびイッテルビウムを固溶させて、立方晶系を主体とする結晶相により構成されるものであるが、その結晶相を構成する結晶粒子の平均粒径を特定の範囲とするとともに、誘電体層5を構成する誘電体磁器中に、X線回折分析のリートベルト法解析において検出されるYb2O3を含有する。
つまり、チタン酸バリウムに対して、イットリウム、マンガンおよびマグネシウムを所定量含有させると、室温(25℃)以上のキュリー温度を示し、比誘電率の温度係数が正の値を示す誘電特性を示す誘電体磁器となる。また、このような誘電特性を示す誘電体磁器に対して、さらに誘電体磁器中にイッテルビウムの一部を固溶させるとともに、このイッテルビウムを酸化物であるYb2O3相として誘電体磁器中に主結晶相と共存させた場合に、主結晶粒子の平均粒径のばらつき(CV)を小さくすることができ、このため、比誘電率のばらつきが小さくなり、それとともに誘電分極のヒステリシスも小さくなるのである。
ここで、チタン酸バリウムを主成分とする結晶相を主結晶相とし、この主結晶相が立方晶系を主体とする結晶構造を有するとは、チタン酸バリウムを主成分とし、少なくともイットリウム、マンガン、マグネシウムおよびイッテルビウムが含まれており、X線回折により求められる結晶構造として、例えば、図2に示すように、2θ=97°〜104°の範囲(面指数(400))にピークを有しているもののことであり、図2に見られるように、ペロブスカイト型結晶構造の面指数(400)のピークが分離していない程度の状態を示すものをいう。なお、立方晶系以外の結晶構造を有する結晶相が少量含まれていてもよい。
この実施形態の積層セラミックコンデンサは、誘電体層5を構成する誘電体磁器の組成を特定の範囲とするものである。すなわち、積層セラミックコンデンサを酸に溶解させて求められる元素の含有量が、バリウム1モルに対して、イットリウムがY2O3換算で0.0007〜0.015モル、マンガンがMnO換算で0.0002〜0.045モル、マグネシウムがMgO換算で0.0075〜0.04モル、イッテルビウムがYb2O3換算で0.0125〜0.07モルである。
この場合、積層セラミックコンデンサを溶解させるために用いる酸としては、誘電体磁器を溶解することができるものであれば良く、塩酸、硝酸、硫酸、あるいは、硼酸および炭酸ナトリウムを含む塩酸の溶液等が好適である。
ここで、イッテルビウムは、チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子の粗大化を抑制する働きをもち、バリウム1モルに対して、イッテルビウムをYb2O3換算で0.0125〜0.07モル含有するものである。
バリウム1モルに対するYbの含有量がYb2O3換算で0.0125モルよりも少ないと、積層セラミックコンデンサの静電容量から求められる誘電体層5における比誘電率が高いものの、比誘電率のばらつき(CV)が3%よりも大きくなるとともに、誘電分極も25nC/cm2よりも著しく大きいものとなる。一方、バリウム1モルに対するYbの含有量がYb2O3換算で0.07モルよりも多いと、25℃における積層セラミックコンデンサの誘電体層5の比誘電率が730よりも低くなる。
また、この実施形態の積層セラミックコンデンサは、誘電体層5のX線回折分析のリートベルト法解析において、バリウム1モルに対して、Yb2O3の含有量が0.0075〜0.023モルとなっている。
この場合、誘電体層5のX線回折分析のリートベルト法解析において、バリウム1モルに対して、Yb2O3の含有量が0.0075モルよりも少ない場合には、誘電体層5における比誘電率のばらつき(CV)が3%よりも大きくなり、一方、同解析において、バリウム1モルに対して、Yb2O3の含有量が0.023モルよりも多い場合には、積層セラミックコンデンサの静電容量から求められる誘電体層5における比誘電率が730未満になるか、または誘電分極が25nC/cm2よりも大きいものとなる。
なお、誘電体層5のX線回折分析のリートベルト法解析は、以下に示す方法で行う。まず、積層セラミックコンデンサを粉砕し、粉砕した誘電体磁器についてX線回折(PANalytical社製 X‘PertPRO 2θ=10〜120°、Cu−Kα1、出力45kV 40mA)を用いて結晶相の同定を行う。結晶相の定量は、リートベルト法による解析により精密化する。リートベルト法は、解析ソフトRIETANにより解析を行う。ここで、結晶構造モデルとしては、例えば、以下に示す化合物および金属のモデルをそれぞれ用いる。そのモデルは、BaTiO3(tetragonal:P4mm,No.99)、Ni(cubic:Fm−3m、No.225)、Yb2O3(cubic:Ia−3、No.206)、Yb2TiO5(cubic:F−43m、No.216)、MgO(cubic:Fm−3m、No.225)、BaO(tetragonal:P4/nmm、No.129)、Ba2TiSi2O8(cubic:tetragonal:P4bn、No.100)である。なお、解析にあたっては、結晶構造の情報がないYb3O4や存在の可能性の低い結晶相については解析モデルとして採用しないものとする。ここで、リートベルト法解析において、Yb2O3はY2O3と同じ結晶構造であるが、この実施形態の積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層5では、図2のX線回折パターンから明らかなように、ペロブスカイト型結晶構造の面指数(400)のピークが分離していない程度の状態を示すものであることから、Y2O3は、その殆どがチタン酸バリウムを主成分とする主結晶相中に固溶しているため、リートベルト法解析において定量されるのはYb2O3となる。
次に、バリウム1モルに対するマグネシウムの含有量は、MgO換算で0.0075〜0.04モルである。バリウム1モルに対するマグネシウムの含有量がMgO換算で0.0075モルより少ない場合には、誘電体層5における比誘電率のばらつき(CV)が3%よりも大きくなるとともに、誘電分極も25nC/cm2よりも著しく大きいものとなる。一方、バリウム1モルに対するマグネシウムの含有量がMgO換算で0.04モルより多い場合には、積層セラミックコンデンサの静電容量から求められる誘電体層5における比誘電率が730未満に低下する。
バリウム1モルに対するイットリウムの含有量は、バリウム1モルに対して、イットリウムをY2O3換算で0.0007〜0.015モルであり、また、バリウム1モルに対するマンガンの含有量は、バリウム1モルに対して、マンガンをMnO換算で0.0002〜0.045モルである。
バリウム1モルに対するイットリウムの含有量がY2O3換算で0.0007モルよりも少ない場合には、誘電体層5における比誘電率のばらつき(CV)が3%よりも大きくなるとともに、誘電分極も25nC/cm2よりも大きいものとなる。一方、バリウム1モルに対するイットリウムの含有量がY2O3換算で0.015モルよりも多い場合には、積層セラミックコンデンサの誘電分極が25nC/cm2よりも大きいものとなる。
バリウム1モルに対するマンガンの含有量がMnO換算で0.0002モルよりも少ない場合には、誘電体層5における比誘電率のばらつき(CV)が3%よりも大きくなるとともに、誘電分極も25nC/cm2よりも大きいものとなる。一方、マンガンの含有量がMnO換算で0.045モルよりも多い場合には、積層セラミックコンデンサの静電容量から求められる誘電体層5における比誘電率が730未満に低下する。
また、この実施形態の積層セラミックコンデンサでは、所望の誘電特性を維持できる範囲であれば焼結性を高めるための助剤としてガラス成分や他の添加成分を誘電体磁器中に4質量%以下の割合で含有させてもよい。
この実施形態の積層セラミックコンデンサでは、チタン酸バリウムを主成分とする結晶相を構成する主結晶粒子の平均粒径が0.06〜0.20μmである。
すなわち、チタン酸バリウムを主成分とする結晶相により構成される結晶粒子の平均粒径を0.06〜0.20μmとすることで、誘電分極のヒステリシスが小さく常誘電性に近い特性を示すものにできる。
これに対して、結晶粒子の平均粒径が0.06μmよりも小さい場合には配向分極の寄与が小さくなるため、積層セラミックコンデンサの静電容量から求められる誘電体層5における比誘電率が低下する。一方、結晶粒子の平均粒径が0.20μmよりも大きい場合には、誘電体層5における比誘電率を高められるものの、比誘電率のばらつき(CV)が3%より大きくなるとともに、誘電分極が大きくなる。
また、本発明の積層セラミックコンデンサでは、前記結晶粒子の平均粒径が0.10〜0.16μmであるとともに、主結晶相を構成する結晶粒子の粒径のばらつき(CV)が60%以下であり、かつ前記誘電体層のX線回折分析のリートベルト法解析において、バリウム1モルに対して、Yb2O3の含有量が0.009〜0.018モルであることが望ましい。この範囲の結晶粒子の平均粒径および粒径のばらつき(CV)、ならびにリートベルト法解析により求められる上述した組成を有する誘電体磁器からなる誘電体層5を備える積層セラミックコンデンサは、25℃における比誘電率を830以上、比誘電率のばらつき(CV)を2.6%以下、誘電分極を24nC/cm2以下にすることが可能になる。
誘電体磁器中の主結晶相を構成する結晶粒子の平均粒径は、以下の手順で測定する。まず、焼成後のコンデンサ本体1である試料の破断面を研磨する。この後、研磨した試料を走査型電子顕微鏡を用いて内部組織の写真を撮り、その写真上で結晶粒子が50〜100個入る円を描き、円内および円周にかかった結晶粒子を選択する。次いで、各結晶粒子の輪郭を画像処理して、各結晶粒子の面積を求め、同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径を算出し、その平均値より求める。ここで、結晶粒子の粒径のばらつき(CV)は、結晶粒子の平均粒径(x)を求める際に得られたデータから粒径の標準偏差(σ)を求め、σ/xの関係から求められる。
次に、本発明の積層セラミックコンデンサを製造する方法について説明する。
この実施形態の積層セラミックコンデンサを製造する際に用いる誘電体粉末としては、後述のチタン酸バリウムを主成分とし、これに所定の添加剤を加えて仮焼し、チタン酸バリウムに各種の添加剤を固溶させた仮焼粉末と、他の添加剤を加えたものを用いる。
誘電体粉末の元になる素原料粉末は、純度がいずれも99%以上のBaCO3粉末、TiO2粉末、Y2O3粉末、MnCO3粉末およびYb2O3粉末を用い、これらの素原料粉末を、チタン酸バリウムを構成するバリウム1モルに対して、TiO2粉末を0.97〜0.99モル、Y2O3粉末をY2O3換算で0.0007〜0.015モル、MnCO3粉末を0.0002〜0.045モル、Yb2O3粉末をYb2O3換算で0.0125〜0.07モルの割合でそれぞれ配合して得られる。ただし、本発明においては、上述したYb2O3の含有量のうち、一部の量(半分程度)は仮焼粉末を調製する際に先に添加し、残りのYb2O3は後述する内部電極ペースト中に添加して、焼成時に内部電極ペースト中のYb2O3を誘電体層5へ拡散させるようにする。
次に、上述した素原料粉末を湿式混合し、乾燥させた後、温度850〜1100℃で仮焼し、次いで粉砕して仮焼粉末を得る。このときの仮焼粉末は、その結晶構造が立方晶系を主体とするものであり、また、平均粒径が0.04〜0.15μmであることが好ましい。
仮焼粉末の平均粒径は、後述するように、仮焼粉末を電子顕微鏡用試料台上に分散させて走査型電子顕微鏡により写真を撮り、その写真上で結晶粒子が50〜100個入る円を描き、円内および円周にかかった結晶粒子を選択する。次に、その写真に映し出されている仮焼粉末の輪郭を画像処理して各粒子の面積を求め、同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径を算出し、その平均値より求める。
次いで、得られた仮焼粉末100質量部に対して、MgO粉末を0.065〜0.35質量部の割合で混合して誘電体粉末を得る。そして、この誘電体粉末をポリビニルブチラール樹脂などの有機樹脂やトルエンおよびアルコールなどの溶媒とともにボールミルなどを用いてセラミックスラリを調製し、次いで、セラミックスラリをドクターブレード法やダイコータ法などのシート成形法を用いて基材上にセラミックグリーンシートを形成する。セラミックグリーンシートの厚みは誘電体層5の高容量化のための薄層化、高絶縁性を維持するという点で1〜20μmが好ましい。
なお、この実施形態の積層セラミックコンデンサを製造するに際しては、所望の誘電特性を維持できる範囲であれば、焼結助剤としてガラス粉末を添加しても良い。その添加量は、仮焼粉末に、MgO粉末を加えた誘電体粉末の合計量100質量部に対して0.5〜4質量部が好ましい。
次に、得られたセラミックグリーンシートの主面上に内部電極ペーストを印刷して矩形状の内部電極パターンを形成する。内部電極パターンとなる内部電極ペーストは、NiもしくはNiの合金粉末を主成分金属とし、これにセラミック粉末を混合し、有機バインダ、溶剤および分散剤を添加して調製する。内部電極ペースト中に添加するセラミック粉末としては、チタン酸バリウムを主体とする粉末とYb2O3粉末とを用いる。チタン酸バリウムを主体とする粉末としては、誘電体層5の誘電特性を損なわないという理由からチタン酸バリウム粉末もしくは誘電体粉末と同じ仮焼粉末を用いるのが好ましい。
内部電極ペースト中に、セラミック粉末として、チタン酸バリウムを主体とする粉末とYb2O3粉末とを混合することにより、焼成時にYb2O3が誘電体層5の方へ拡散し、誘電体層5を構成する誘電体磁器中においてYb2O3の結晶として存在させることが可能となる。そのため、誘電体層5である誘電体磁器中の主結晶を構成する結晶粒子の粒成長を抑制でき、これにより結晶粒子の平均粒径が0.06〜0.20μmであるとともに、粒径のばらつき(CV)を63%以下にできる。
次に、内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを所望枚数重ねて、その上下に内部電極パターンを形成していないセラミックグリーンシートを複数枚、上下層が同様の枚数になるように重ねて仮積層体を形成する。仮積層体中における内部電極パターンは長寸方向に半パターンずつずらしてある。このような積層工法により切断後の積層体の端面に内部電極パターンが交互に露出されるように形成できる。
なお、この実施形態における積層セラミックコンデンサは、セラミックグリーンシートの主面に内部電極パターンを予め形成した後に積層する工法の他に、セラミックグリーンシートを一旦下層側の基材に密着させた後に、内部電極パターンを印刷し、乾燥させ、印刷・乾燥された内部電極パターン上に、内部電極パターンを印刷していないセラミックグリーンシートを重ねて仮密着させ、セラミックグリーンシートの密着と内部電極パターンの印刷を逐次行う工法によっても形成できる。
仮積層体を仮積層時の温度および圧力よりも高温、高圧の条件にてプレスを行い、セラミックグリーンシートと内部電極パターンとが強固に密着された積層体を形成する。
次に、積層体を格子状に切断することにより内部電極パターンの端部が露出するコンデンサ本体成形体を形成する。
次いで、得られたコンデンサ本体成形体を脱脂した後、焼成する。焼成は最高温度を1100〜1200℃、保持時間を1〜3時間とし、水素−窒素の雰囲気中にて行う。焼成をこのような条件で行うことにより、誘電体層5を構成する結晶粒子の平均粒径を0.06〜0.20μmの範囲とすることができるとともに、内部電極ペースト中のYb2O3を誘電体層5へ拡散させることができ、誘電体層5を構成する誘電体磁器中にYb2O3が結晶の状態で所定量含まれたコンデンサ本体1を得ることができる。この後、必要に応じて、900〜1100℃の温度範囲で窒素雰囲気中での加熱処理を行う。なお、必要に応じてコンデンサ本体1の稜線部分の面取りを行うとともに、コンデンサ本体1の対向する端面から露出する内部電極層7を露出させるためにバレル研磨を施しても良い。
次に、このコンデンサ本体1の対向する端部に、外部電極ペーストを塗布して焼付けることにより外部電極3を形成して積層セラミックコンデンサを得ることができる。また、場合によっては、外部電極3の表面に実装性を高めるためにメッキ膜を形成しても良い。
まず、いずれも純度が99.9%のBaCO3粉末、TiO2粉末、Y2O3粉末、MnCO3粉末およびYb2O3粉末を用意し、表1に示す割合で調合して混合粉末を調製した。
次に、混合粉末を温度1000℃にて仮焼した後、粉砕して仮焼粉末を得た。このとき粉砕した仮焼粉末の平均粒径は0.1μmとした。なお、仮焼粉末の平均粒径は、まず、粉砕した仮焼粉末を電子顕微鏡用試料台上に分散させて走査型電子顕微鏡により写真を撮り、その写真上で仮焼粉末が50〜100個入る円を描き、円内および円周にかかった仮焼粉末を選択した。そして、その写真に映し出されている仮焼粉末の輪郭を画像処理して各粒子の面積を求め、同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径を算出し、その平均値より求めた。
次に、仮焼粉末に対して、MgO粉末を表1に示す割合で添加し、さらに、焼結助剤として、SiO2を主成分とするガラス粉末(SiO2:40〜60モル%、BaO:10〜30モル%、CaO:10〜30モル%、Li2O:5〜15モル%)を添加した。ガラス粉末の添加量は、仮焼粉末100質量部に対して3質量部とした。
この後、仮焼粉末とMgO粉末とガラス粉末との混合粉末を、トルエンおよびアルコールの混合溶媒中に投入し、直径1mmのジルコニアボールを用いて湿式混合してセラミックスラリを調製し、ドクターブレード法により厚み13μmのセラミックグリーンシートを作製した。
次に、このセラミックグリーンシートの上面にNiを主成分とする矩形状の内部電極パターンを複数形成した。内部電極パターンを形成するための内部電極ペーストは、平均粒径が0.3μmのNi粉末100質量部に対して、Yb2O3粉末を表1に示す割合だけ配合したものを用いた。なお、内部電極ペーストに用いるセラミック粉末の添加量は金属粉末を100質量部としたときに15質量部とした。
次に、内部電極パターンを印刷したセラミックグリーンシートを100枚積層し、その上下面に内部電極パターンを印刷していないセラミックグリーンシートをそれぞれ20枚積層し、プレス機を用いて温度60℃、圧力107Pa、時間10分の条件で密着させて積層体を作製し、しかる後、この積層体を、所定の寸法に切断してコンデンサ本体成形体を形成した。
次に、コンデンサ本体成形体を大気中で脱バインダ処理した後、水素−窒素中、11130〜1180℃で焼成した。作製したコンデンサ本体は、続いて、窒素雰囲気中1000℃で4時間の再酸化処理を行った。このコンデンサ本体の大きさは3.1mm×1.5mm×1.5mm、誘電体層の厚みは10μm、内部電極層の1層の有効面積は1.2mm2であった。なお、有効面積とは、コンデンサ本体の異なる端面にそれぞれ露出するように積層方向に交互に形成された内部電極層同士の重なる部分の面積のことである。
次に、焼成したコンデンサ本体をバレル研磨した後、コンデンサ本体の両端部にCu粉末とガラスとを含んだ外部電極ペーストを塗布し、850℃で焼き付けを行って外部電極を形成した。その後、電解バレル機を用いて、この外部電極の表面に、順にNiメッキ及びSnメッキを行い、積層セラミックコンデンサを作製した。
なお、本発明の範囲外の試料として、仮焼粉末に対して、MgO粉末およびガラス粉末とともに、さらにYb2O3粉末を後添加し、内部電極ペースト中にはセラミック粉末としてYb2O3粉末を添加せずに製造した積層セラミックコンデンサも用意した。
得られた積層セラミックコンデンサについて以下の評価を行った。25℃における比誘電率とそのばらつき(CV)の評価は、いずれも試料数100個とし、その平均値と標準偏差を求めた。分極電荷については、試料数を10個とし、平均値から求めた。結晶粒子の平均粒径とそのばらつき(CV)については試料数を1個とした。
室温(25℃)における誘電体層の比誘電率は、静電容量をLCRメータ(ヒューレットパッカード社製)を用いて、温度25℃、周波数1.0kHz、測定電圧を1Vrmsとして測定し、誘電体層の厚みと内部電極層の有効面積から求めた。また、比誘電率のCV値(変動係数)は、計算で求めた比誘電率の平均値とその標準偏差を用いて、標準偏差を比誘電率の平均値で除して求めた。
また、得られた誘電体磁器について電気誘起歪の大きさを誘電分極の測定によって求めた。この場合、電圧を±1250Vの範囲で変化させた時の、0Vにおける電荷量(残留分極)の値で分極電荷を評価した。
また、得られた誘電体磁器を粉砕し、X線回折(PANalytical社製 X‘PertPRO 2θ=10〜120°、Cu−Kα1、出力45kV 40mA)を用いて結晶相の同定を行った。結晶相の定量は、リートベルト法による解析により精密化した。リートベルト法は、解析ソフトRIETANにより解析した。結晶構造モデルは、以下に示すモデルをそれぞれ用いた。BaTiO3(tetragonal:P4mm,No.99)、Ni(cubic:Fm−3m、No.225)、Yb2O3(cubic:Ia−3、No.206)、Yb2TiO5(cubic:F−43m、No.216)、MgO(cubic:Fm−3m、No.225)、BaO(tetragonal:P4/nmm、No.129)、Ba2TiSi2O8(cubic:tetragonal:P4bn、No.100)。解析にあたっては、結晶構造の情報がないYb3O4や存在の可能性の低い結晶相については解析も出るとして採用しなかった。
誘電体層である誘電体磁器中の主結晶相を構成する結晶粒子の平均粒径は、焼成後のコンデンサ本体である試料の破断面を研磨した後、走査型電子顕微鏡を用いて内部組織の写真を撮り、その写真上で結晶粒子が50〜100個入る円を描き、円内および円周にかかった結晶粒子を選択し、各結晶粒子の輪郭を画像処理して、各粒子の面積を求め、同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径を算出し、その平均値より求めた。結晶粒径のばらつき(CV)に関しては、標準偏差の値を平均粒径で除して、CV値(変動係数)を求めて比較した。
また、得られた誘電体磁器である試料の組成分析はICP(Inductively Coupled Plasma)分析および原子吸光分析により行った。この場合、得られた積層セラミックコンデンサを硼酸と炭酸ナトリウムと混合し溶融させたものを塩酸に溶解させて、まず、原子吸光分析により誘電体磁器に含まれる元素の定性分析を行い、次いで、特定した各元素について標準液を希釈したものを標準試料として、ICP発光分光分析にかけて定量化した。また、各元素の価数を周期表に示される価数として酸素量を求めた。
調合組成および焼成条件を表1に、誘電体磁器中の各元素の酸化物換算での組成を表2に、主結晶相を構成する結晶粒子の平均粒径と粒径のばらつき(CV)および焼成後における特性(25℃における比誘電率とそのばらつき(CV),分極電荷)の結果を表3にそれぞれ示す。
表1〜3の結果から明らかなように、本発明の誘電体磁器である試料No.3〜9,12〜16,19〜22,25〜29および34では、25℃における比誘電率が730以上あるとともに、比誘電率のばらつき(CV)が3%以下であり、かつ分極電荷(電圧0Vでの残留分極の値)が25nC/cm2以下であった。
また、結晶粒子の平均粒径が0.10〜0.16μmであるとともに、結晶粒子の粒径のばらつき(CV)が60%以下であり、かつ誘電体層のX線回折分析のリートベルト法解析において、バリウム1モルに対して、Yb2O3の含有量が0.009〜0.018モルである試料No.4〜7,12〜15および25〜27では、25℃における比誘電率が830以上であるとともに、比誘電率のばらつき(CV)が2.6%以下であり、分極電荷(電圧0Vでの残留分極の値)が24nC/cm2以下であった。
これに対して、本発明の範囲外の試料No.1,2,10,11,17,18,23,24,30〜33および35では、25℃における比誘電率を730以上、比誘電率のばらつき(CV)が3%以下および分極電荷(電圧0Vでの残留分極の値)が25nC/cm2以下のいずれかの特性を満足しないものであった。