JP4960203B2 - 誘電体磁器およびコンデンサ - Google Patents

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Description

本発明は、チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子によって形成された誘電体磁器とそれを用いたコンデンサに関する。
現在、モバイルコンピュータや携帯電話をはじめとするデジタル方式の電子機器の普及が目覚ましく、近い将来、地上デジタル放送が全国に展開されようとしている。地上デジタル放送用の受信機であるデジタル方式の電子機器として液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどがあるが、これらデジタル方式の電子機器には多くのLSIが用いられている。
そのため、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなど、これらデジタル方式の電子機器を構成する電源回路にはバイパス用のコンデンサが数多く実装されているが、ここで用いられているコンデンサは高い静電容量を必要とする場合には高誘電率の積層セラミックコンデンサ(例えば、特許文献1を参照)が採用され、一方、低容量でも温度特性を重視する場合には容量変化率の小さい温度補償型の積層セラミックコンデンサ(例えば、特許文献2を参照)が採用されている。
特開2001−89231号公報 特開2001−294481号公報
しかしながら、特許文献1に開示された高誘電率の積層セラミックコンデンサは、強誘電性を有する誘電体磁器の結晶粒子によって構成されているために比誘電率の温度変化率が大きく、かつ電界−誘電分極特性におけるヒステリシスが大きいという不具合があった。
また、特許文献1に開示された強誘電性の誘電体磁器を用いて形成されたコンデンサでは、電源回路上において電気誘起歪に起因するノイズ音を発生させやすいことから、プラズマディスプレイなどに使用する際の障害となっていた。
一方、温度補償型の積層セラミックコンデンサは、それを構成する誘電体磁器が、常誘電性であるため電界−誘電分極特性におけるヒステリシスが小さく、強誘電性特有の電気誘起歪が起こらないという利点があるものの、誘電体磁器の比誘電率が低いために蓄電能力が低くバイパスコンデンサとしての性能を満たさないという問題があった。
従って、本発明は、高誘電率で、比誘電率の温度変化率が小さく、かつ電界−誘電分極特性におけるヒステリシスの小さい誘電体磁器と、それを用いたコンデンサを提供することを目的とする。
本発明の誘電体磁器は、チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子と、該結晶粒子間に形成された粒界相とからなる誘電体磁器であって、前記チタン酸バリウムを構成するバリウム1モルに対して、マグネシウムをMgO換算で0.006〜0.054モル、イットリウムをYO3/2換算で0.001〜0.027モル、マンガンをMnO換算で0.0035〜0.027モル、イッテルビウムをYbO3/2換算で0.035〜0.167モル含有し、前記結晶粒子の平均結晶粒径が0.1〜0.25μmであるとともに、前記結晶粒子は、前記イッテルビウム濃度が0.5原子%以下の結晶粒子からなる第1の結晶群と、前記イッテルビウム濃度が1原子%以上の結晶粒子からなる第2の結晶群とを有し、前記第1の結晶群を構成する結晶粒子の面積をa、第2の結晶群を構成する結晶粒子の面積をbとしたときに、a/(a+b)が0.1〜0.4であることを特徴とする。
また、本発明の誘電体磁器では、前記チタン酸バリウムを構成するバリウム1モルに対して、前記マグネシウムをMgO換算で0.012〜0.016モル、前記イットリウムをYO3/2換算で0.007〜0.008モル、前記マンガンをMnO換算で0.0056〜0.0091モル、前記イッテルビウムをYbO3/2換算で0.048〜0.079モル含有し、前記結晶粒子の平均結晶粒径が0.15〜0.22μmであるとともに、前記a/(a+b)が0.25〜0.35であることが望ましい。
また、本発明の誘電体磁器では、電圧を±1250Vの範囲で変化させた時の、0Vにおける電荷量が30nC/cm 以下であることが望ましい。
また、本発明のコンデンサは、上記誘電体磁器からなる誘電体層と導体層との積層体から構成されていることを特徴とする。
本発明の誘電体磁器によれば、従来の常誘電性を有する誘電体磁器に比較して高誘電率で、比誘電率の温度変化率が小さく、誘電分極の小さい誘電体磁器を得ることができる。
また、本発明のコンデンサによれば、誘電体層として、高誘電率で、比誘電率の温度変化率が小さく、かつ誘電分極の小さい上記誘電体磁器を適用することにより、従来のコンデンサよりも高容量のコンデンサを形成できる。また、このコンデンサを電源回路に用いた場合でも、電気誘起歪に起因するノイズ音の発生を抑制できる。
本発明の誘電体磁器は、チタン酸バリウムを主成分とし、これにマグネシウム、イットリウム、マンガンおよびイッテルビウムを含有するものであり、その含有量は前記チタン酸バリウムを構成するバリウム1モルに対して、マグネシウムをMgO換算で0.006〜0.054モル、イットリウムをYO3/2換算で0.001〜0.027モル、マンガンをMnO換算で0.0035〜0.027モル、イッテルビウムをYbO3/2換算で0.035〜0.167モル含有するとともに、結晶粒子の平均結晶粒径が0.1〜0.25μmであり、さらに、結晶粒子として、イッテルビウム濃度の異なる第1および第2の結晶群を構成する2種類の結晶粒子を有し、第1の結晶群を構成する結晶粒子の面積をa、第2の結晶群を構成する結晶粒子の面積をbとしたときに、a/(a+b)が0.1〜0.4であることを特徴とする。
このような誘電体磁器は、室温(25℃)における比誘電率が600以上、−55〜+125℃において25℃を基準にしたときの比誘電率の最大の温度変化率が絶対値で20%以下であり、かつ電界0Vにおける分極電荷が30nC/cm以下と誘電分極を小さくすることができる。
図1は、本発明の誘電体磁器の微構造を示す断面模式図である。本発明の誘電体磁器は、チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子1と、粒界相2とから構成されており、結晶粒子1は、イッテルビウム濃度が0.5原子%以下の結晶粒子1aからなる第1の結晶群と、イッテルビウム濃度が1原子%以上の結晶粒子1bからなる第2の結晶群とを有している。
本発明の誘電体磁器では、結晶粒子1の平均結晶粒径は0.1〜0.25μmであることが重要である。
即ち、結晶粒子1の平均結晶粒径が0.1μmよりも小さい場合には誘電体磁器の比誘電率が600よりも低いものとなり、結晶粒子1の平均結晶粒径が0.25μmよりも大きい場合には誘電体磁器の比誘電率は高くなるものの、比誘電率の−55〜+125℃の範囲における最大の温度変化率が20%よりも大きくなるか、あるいは電界0Vにおける分極電荷が30nC/cmよりも大きくなるからである。
ここで、結晶粒子1の平均結晶粒径は、誘電体磁器の断面を研磨盤により研磨し、最終的にダイヤモンドペーストにより光沢面がでるように仕上げた研磨面について、走査型電子顕微鏡を用いて、複数箇所の内部組織の写真を撮り、その写真に映し出されている画像をコンピュータに取り込んで、その画面上で対角線を引き、その対角線上に存在する結晶粒子の輪郭を画像処理し、各粒子の面積を求めて、同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径を算出し、算出した結晶粒子約50個の平均値より求める。
また、本発明の誘電体磁器の第1の結晶群を構成する結晶粒子1aは、上述のようにイッテルビウム濃度が0.5原子%以下であり、このようにイッテルビウム濃度が0.5原子%以下であることにより、強誘電性を有するものとなり、高誘電率化へ寄与するものと考えられる。
一方、第2の結晶群を構成する結晶粒子1bは、イッテルビウム濃度が1原子%以上であり、このようにチタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子1にイッテルビウムが1原子%以上固溶することにより、チタン酸バリウムの強誘電性を低下させるとともに、結晶粒子1の粗大化を抑制する働きをもつ。
つまり、本発明の誘電体磁器では、主として結晶粒子1中に含まれるイッテルビウム濃度を異ならせることにより、誘電体磁器中に、主体的に、強誘電性を示す第1の結晶群を構成する結晶粒子1aと常誘電性を示す第2の結晶群を構成する結晶粒子1bとを共存させることができ、こうして高誘電率で、比誘電率の温度変化率が小さく、かつ電界−誘電分極特性におけるヒステリシスの小さい誘電体磁器が得られる。
また、結晶粒子1には、イッテルビウム以外に、マグネシウム、イットリウムおよびマンガンが固溶しており、イッテルビウムの他にマグネシウム、イットリウムおよびマンガンが固溶した誘電体磁器は25℃を基準としたときの比誘電率の温度変化率を小さくすることができる。
なお、第1の結晶群を構成する結晶粒子1aのサイズが大きくなると強誘電性に起因して、比誘電率の温度特性や分極電荷が大きくなることから、第1の結晶群を構成する結晶粒子1aの平均結晶粒径は第2の結晶群を構成する結晶粒子1bの平均結晶粒径よりも小さいことが望ましく、その平均結晶粒径が0.1μm以下であることが第1の結晶群を構成する結晶粒子1aに起因して発現する強誘電性の寄与を制限するうえで好ましい。
また、本発明の誘電体磁器は、上述のように、結晶粒子1として、第1の結晶群を構成する結晶粒子1aと第2の結晶群を構成する結晶粒子1bとを有するものであるが、その割合は、第1の結晶群を構成する結晶粒子1aの面積をa、第2の結晶群を構成する結晶粒子1bの面積をbとしたときに、a/(a+b)が0.1〜0.4であることが重要である。
即ち、第1の結晶群を構成する結晶粒子1aの面積と第2の結晶群を構成する結晶粒子1bの面積との割合であるa/(a+b)が0.1よりも小さい場合には、−55〜+125℃の範囲における比誘電率の最大の温度変化率が絶対値で20%よりも大きくなり、a/(a+b)が0.4よりも大きい場合には、−55〜+125℃において25℃を基準にしたときの比誘電率の最大の温度変化率が絶対値で20%よりも大きくなるとともに、電界0Vにおける分極電荷が30nC/cmよりも大きくなるからである。
なお、結晶粒子中のイッテルビウム濃度については、誘電体磁器の断面を試料に穴が開くまでイオンミリングした研磨面に存在する約30個の結晶粒子に対して、元素分析機器を付設した透過型電子顕微鏡を用いて元素分析を行う。このとき電子線のスポットサイズは5nmとし、分析する箇所は結晶粒子の粒界付近から中央部の中心の位置までの範囲で、その中心へ向けて引いた直線上のほぼ等間隔に位置する点とし、分析値は粒界付近と中心との間で4〜5点ほど分析した値の平均値とし、結晶粒子の各測定点から検出されるバリウム(Ba)、チタン(Ti)、イッテルビウム(Yb)、マグネシウム(Mg)、イッテルビウム(Y)およびマンガン(Mn)の全量を100%として、そのときのイッテルビウム濃度を求める。但し、選択する結晶粒子は、その輪郭から画像処理にて各粒子の面積を求め、同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径を算出し、求めた結晶粒子の直径が平均結晶粒径の±80%の範囲にある結晶粒子とする。
なお、結晶粒子の中央部とは、当該結晶粒子の内接円の中心から当該内接円の半径の1/3の長さを半径とする円で囲まれる範囲をいい、また、結晶粒子の粒界付近とは、当該結晶粒子の粒界から5nm内側までの領域のことである。そして、結晶粒子の内接円は、透過電子顕微鏡にて映し出されている画像をコンピュータに取り込んで、その画面上で結晶粒子に対して内接円を描き、結晶粒子の中央部を決定する。
誘電体磁器を構成する第1の結晶群を構成する結晶粒子1aおよび第2の結晶群を構成する結晶粒子1bの面積割合は、上記平均結晶粒径を求める際に用いた面積のデータを使って算出する。
本発明の誘電体磁器は、チタン酸バリウムを構成するバリウム1モルに対して、マグネシウムをMgO換算で0.006〜0.054モル、イットリウムをYO3/2換算で0.001〜0.027モル、マンガンをMnO換算で0.0035〜0.027モル、イッテルビウムをYbO3/2換算で0.035〜0.167モル含むことが重要である。
即ち、チタン酸バリウムを構成するバリウム1モルに対するマグネシウムの含有量がMgO換算で0.006モルよりも少ない場合、または、イットリウムがYO3/2換算で0.001モルよりも少ない場合には、−55〜+125℃の範囲における誘電体磁器の比誘電率の最大の温度変化率が絶対値で20%よりも大きくなるとともに、電界0Vにおける分極電荷が30nC/cmよりも大きくなるからである。
また、チタン酸バリウムを構成するバリウム1モルに対するマンガンの含有量がMnO換算で0.0035モルよりも少ない場合には、電界0Vにおける分極電荷が30nC/cmよりも大きくなるからである。
さらに、チタン酸バリウムを構成するバリウム1モルに対するイッテルビウムの含有量がYbO3/2換算で0.035モルよりも少ない場合には、室温(25℃)における誘電体磁器の比誘電率は高いものの、電界0Vにおける分極電荷が30nC/cmよりも大きくなるからである。
一方、チタン酸バリウムを構成するバリウム1モルに対するマグネシウムの含有量がMgO換算で0.054モルよりも多い場合、イットリウムがYO3/2換算で0.027モルよりも多い場合、マンガンがMnO換算で0.027モルよりも多い場合、およびイッテルビウムがYbO3/2換算で0.0167モルよりも多い場合のうちいずれかの場合には、いずれも誘電体磁器の室温(25℃)における誘電体磁器の比誘電率が600未満となるおそれがある。
好ましいマグネシウム、イットリウム、マンガンおよびイッテルビウムの含有量としては、チタン酸バリウムを構成するバリウム1モルに対して、マグネシウムをMgO換算で0.012〜0.016モル、イットリウムをYO3/2換算で0.007〜0.008モル、マンガンをMnO換算で0.0056〜0.0091モル、イッテルビウムをYbO3/2換算で0.048〜0.079モルの範囲であるものが良く、このような組成範囲とするとともに、結晶粒子1の平均結晶粒径を0.15〜0.22μmとし、さらに、a/(a+b)を0.25〜0.35とすることにより、室温(25℃)における比誘電率が800以上、−55〜+125℃において25℃を基準にしたときの比誘電率の最大の温度変化率が絶対値で17%以下、かつ電界0Vにおける分極電荷が25nC/cm以下の誘電体磁器を得ることができる。
また、本発明の誘電体磁器は、チタン酸バリウム、マグネシウム、イットリウム、マンガンおよびイッテルビウム以外の成分を、チタン酸バリウムおよびマグネシウム、イットリウム、マンガンおよびイッテルビウムの各酸化物の合計量100質量部に対して2質量%以下の範囲で含んでいても良く、例えば、焼結性を高めるために酸化珪素等の焼結助剤を含有することができる。
次に、本発明の誘電体磁器の製法について説明する。まず、焼成後に第1の結晶群を構成する結晶粒子1aとなる第1の粉末と、焼成後に第2の結晶群を構成する結晶粒子1bとなる第2の粉末とを用意する。
第1の粉末については、純度が99.9%以上であり、格子定数比c/aが1より大きく、結晶構造が正方晶系であり、平均粒径が0.03〜0.1μmであるチタン酸バリウム粉末を用いる。このようなチタン酸バリウム粉末は固相法や水熱合成法などの製法により調製することができる。
第2の粉末については、素原料粉末として、純度がいずれも99%以上のBaCO粉末、TiO粉末、MgO粉末、Y粉末、MnCO粉末およびYb粉末を準備し、これらの素原料粉末を、チタン酸バリウムを構成するバリウム1モルに対して、MgO粉末を0.01〜0.06モルの割合で、Y粉末をYO3/2換算で0.015〜0.03モルの割合で、MnCO粉末を0.005〜0.03モルの割合で、Yb粉末をYbO3/2換算で0.049〜0.185モルの割合で混合する。
次に、上記素原料粉末の混合物を湿式混合する。このとき分散剤としてポリアクリル酸系分散剤、ポリアクリル酸アンモニウム系分散剤、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルのグラフト化物系分散剤等から選ばれる1種を用い、また溶剤として、水、エタノール、およびトルエンの混合溶液から選ばれる1種を選択して用いることにより、混合粉末の分散性を高めることができる。
次に、湿式混合した混合粉末を乾燥させた後、温度900〜1150℃の温度範囲で仮焼し、粉砕することにより、主成分であるチタン酸バリウムに対して、マグネシウム、イットリウム、マンガンおよびイッテルビウムが固溶し、結晶構造が主として立方晶系を示す第2の粉末を作製する。このとき、仮焼温度を900℃以上にすると、未反応物が少なく、均質で立方晶性の高い仮焼粉末が得られるという利点があり、一方、仮焼温度が1150℃以下であると、高い焼結性ととともに、粗大粒の生成が少なく、後述するような立方晶性の高い微粒の仮焼粉末を得ることができる。次いで、仮焼粉末を粉砕して平均粒径が0.1μm以下となるようにする。このような平均粒径とし、焼成の際に粒成長を制御して焼結させることにより常誘電性で高誘電率の誘電体磁器を得ることが可能になる。なお、仮焼粉末の粉砕にビーズミル装置を採用することにより仮焼粉末の組成や粒径の均一性を高めることができる。
次に、第1の粉末を10〜40質量部、第2の粉末を60〜90質量部の割合で混合する。そして、この混合粉末をペレット状に成形し、大気中もしくは還元雰囲気中にて、1150℃以上、1250℃以下の温度範囲で本焼成を行うことにより本発明の誘電体磁器を得ることができる。
ここで、本焼成の温度を1150℃以上、1250℃以下とするのは、焼成温度が1150℃よりも低い場合には誘電体磁器を十分に緻密化することができず、未反応物が多く存在するため、焼成後にほとんど立方晶系からなる誘電体磁器を得ることが困難となるからであり、焼成温度が1250℃よりも高い場合には、第1の結晶群を構成する結晶粒子1aおよび第2の結晶群を構成する結晶粒子1bが粒成長し、誘電体磁器中に正方晶系の結晶相が多くなる傾向があるからである。
また、誘電体磁器の焼結性を高めるために、第1および第2の粉末100質量部に対して、焼結助剤としてSiOを主成分として含むガラス粉末を0.5〜2質量部の割合で混合しても構わない。
図2は、本発明のコンデンサの一例を示す断面模式図である。本発明のコンデンサは、コンデンサ本体10の端部に外部電極12が設けられたものであり、また、コンデンサ本体10は誘電体層13と内部電極層である導体層14とが交互に積層された積層体10Aから構成されている。そして、誘電体層13は上述した本発明の誘電体磁器によって形成されることが重要である。
このような本発明のコンデンサによれば、誘電体層13として、高誘電率かつ安定な比誘電率の温度特性を示し、自発分極の小さい上記誘電体磁器を適用することにより、従来のコンデンサよりも高容量かつ容量温度特性の安定なコンデンサを形成できる。その為、このコンデンサを電源回路に用いた場合、電気誘起歪に起因するノイズ音の発生を抑制できる。
なお、導体層14は高積層化しても製造コストを抑制できるという点でNiやCuなどの卑金属が望ましく、特に、本発明のコンデンサを構成する誘電体層13との同時焼成を図るという点でNiがより望ましい。この導体層14の厚みは平均で1μm以下が好ましい。
また、このようなコンデンサを作製する場合には、上述した混合粉末を用いてグリーンシートを成形するとともに、導体層14となる導体ペーストを調製して前記グリーンシートの表面に印刷したものを順次積層してグリーンシート積層体を形成し、これを焼成して積層体10Aを形成する。しかる後、積層体10Aの端面にさらに導体ペーストを印刷して焼成し、外部電極12を形成することによりコンデンサを得ることができる。なお、グリーンシートを形成するための混合粉末としては、第1の粉末および第2の粉末に対して焼結助剤としてSiOを主成分として含むガラス粉末を0.5〜2質量部の割合で混合したものを用いることが好ましく、このように焼結助剤を含有させることにより内部電極層である導体層14と同時に焼成することが可能となる。
以下、本発明の誘電体磁器および本発明外の誘電体磁器をそれぞれ作製し、比誘電率とその温度変化率および分極電荷の測定を行なった。
第1の粉末として、純度が99.9%、格子定数比c/aが1.005であり、平均粒径が0.06μmのチタン酸バリウム粉末を用いた。
次に、いずれも純度が99.9%のBaCO粉末、TiO粉末、MgO粉末、Y粉末、MnCO粉末およびをYb粉末を用意し、表1の第2の粉末の欄に示す割合で調合した混合粉末を温度1000℃にて仮焼して仮焼粉末を作製したあと、得られた仮焼粉末を平均粒径が0.1μmとなるように粉砕して第2の粉末を得た。ただし、試料No.39は仮焼粉末の平均粒径が0.05μmのものを用いた。
そして、第1の粉末および第2の粉末を表1の混合比で混ぜるとともに、この混合粉末100質量部に対して、SiO−B(モル比で60:40)組成のガラス粉末を1質量部の割合で混合した。この後、混合粉末を造粒し、直径16.5mm、厚さ1mmの形状のペレット状に成形した。
次に、各組成のペレットを10個ずつ、H−Nの混合ガス雰囲気中にて、表1に示す温度で焼成して試料となる誘電体磁器を製作した。
誘電体磁器を構成する結晶粒子の平均結晶粒径は以下のように測定した。まず、誘電体磁器の破断面を研磨盤を用いて研磨し、最終的にダイヤモンドペーストにより光沢面がでるように仕上げた。次に、その研磨面を走査型電子顕微鏡を用いて内部組織の写真を撮り、画像をコンピュータに取り込んで、その画面上で対角線を引き、その対角線上に存在する結晶粒子の輪郭を画像処理し、各粒子の面積を求め、同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径を算出し、算出した結晶粒子約50個の平均値として求めた。写真の倍率は約30000倍とした。
結晶粒子中のイッテルビウム濃度については、誘電体磁器の断面を研磨盤により研磨した後、試料に穴が開く程度にまでイオンミリングし、その研磨面に存在する約30個の結晶粒子に対して、元素分析機器を付設した透過型電子顕微鏡を用いて元素分析を行った。このとき電子線のスポットサイズは5nmとし、分析する箇所は結晶粒子の粒界付近から中央部の中心の位置までの範囲で、その中心へ向けて引いた直線上のほぼ等間隔に位置する点とし、分析値は粒界付近と中心との間で4〜5点ほど分析した値の平均値とし、結晶粒子の各測定点から検出されるバリウム(Ba)、チタン(Ti)、イッテルビウム(Yb)、マグネシウム(Mg)、イッテルビウム(Y)およびマンガン(Mn)の全量を100%として、そのときのイッテルビウム濃度を求めた。但し、選択する結晶粒子は、その輪郭から画像処理にて各粒子の面積を求め、同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径を算出し、求めた結晶粒子の直径が平均結晶粒径の±80%の範囲にある結晶粒子とした。
ここで、結晶粒子の中央部は、当該結晶粒子の内接円の中心から当該内接円の半径の1/3の長さを半径とする円で囲まれる範囲とし、また、結晶粒子の粒界付近は、当該結晶粒子の粒界から5nm内側までの領域とした。また、結晶粒子の内接円は、透過電子顕微鏡にて映し出されている画像をコンピュータに取り込んで、その画面上で結晶粒子に対して内接円を描き、結晶粒子の中央部を決定する。このとき内接円は結晶粒子の輪郭に対して最大となるものとした。
誘電体磁器を構成する第1の結晶群を構成する結晶粒子および第2の結晶群を構成する結晶粒子の面積割合は、上記平均結晶粒径を求める際に用いた面積のデータを使って算出した。作製した試料における第1の結晶群を構成する結晶粒子と第2の結晶群を構成する結晶粒子の割合(面積比)は、第1の粉末と第2の粉末の混合比と同等であった。
また、試料の表面にインジウム・ガリウムの導体層を印刷し、LCRメーター4284Aを用いて周波数1.0kHz、入力信号レベル1.0Vにて静電容量を測定し、試料の直径と厚みおよび導体層の面積から比誘電率を算出した。これらの測定は試料数を各10個とし、その平均値より求めた。
また、比誘電率の温度変化率は、導体層を形成した試料を恒温槽にセットし、上記静電容量を測定したのと同じ条件で、−55〜+125℃の範囲で静電容量を測定し、25℃を基準としたときの最大の変化率を求めた。
また、得られた誘電体磁器について電気誘起歪の大きさ(分極電荷)を誘電分極の測定によって求めた。この場合、電圧を±1250Vの範囲で変化させた時の、0Vにおける電荷量(残留分極)の値で評価した。
さらに、試料の組成分析はICP(Inductively Coupled Plasma)分析もしくは原子吸光分析により行った。この場合、得られた誘電体磁器を硼酸および炭酸ナトリウムと混合し溶融させたものを塩酸に溶解させて、まず、原子吸光分析により誘電体磁器に含まれる元素の定性分析を行い、次いで、特定した各元素について標準液を希釈したものを標準試料として、ICP発光分光分析にかけて定量化した。また、各元素の価数を周期表に示される価数として酸素量を求めた。この場合、作製した試料の組成は表1に示す組成に一致した。
表1に組成と焼成温度を、表2に焼成後の誘電体磁器の組成特性の結果をそれぞれ示す。
Figure 0004960203
Figure 0004960203
表1、2の結果から明らかなように、本発明の誘電体磁器である試料No.3〜7、10〜13、16〜20、22〜26、28、29、32〜36、39〜41、43〜46および48〜52では、室温(25℃)における比誘電率が600以上、−55〜+125℃において25℃を基準にしたときの比誘電率の最大の温度変化率が絶対値で20%以下であり、かつ電界0Vにおける分極電荷が30nC/cm以下である誘電分極の小さい誘電体磁器を形成できた。
特に、誘電体磁器の組成として、バリウム1モルに対して、マグネシウムがMgO換算で0.012〜0.016モル、イットリウムがYO3/2換算で0.007〜0.008モル、マンガンがMnO換算で0.0056〜0.0091モル、イッテルビウムがYbO3/2換算で0.048〜0.079モルの範囲であり、結晶粒子の平均結晶粒径が0.15〜0.22μmであり、さらに、第1の結晶群を構成する結晶粒子の面積をa、第2の結晶群を構成する結晶粒子の面積をbとしたときに、a/(a+b)が0.25〜0.35の範囲である試料No.4、6、17、18、23、24、29、34、35、50および51では、室温(25℃)における比誘電率を800以上、−55〜+125℃において25℃を基準にしたときの比誘電率の最大の温度変化率が絶対値で17%以下であり、かつ電界0Vにおける分極電荷を25nC/cm以下にまで高めることができた。
これに対して、本発明の範囲外の試料では、25℃における比誘電率が600未満であるか、−55〜+125℃において25℃を基準にしたときの比誘電率の最大の温度変化率が絶対値で20%より大きいか、または電界0Vにおける分極電荷が30nC/cmよりも大きかった。
本発明の誘電体磁器の微構造を示す断面模式図である。 本発明のコンデンサの例を示す断面模式図である。
符号の説明
10 コンデンサ本体
10A 積層体
12 外部電極
13 誘電体層
14 導体層

Claims (4)

  1. チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子と、該結晶粒子間に形成された粒界相とからなる誘電体磁器であって、
    前記チタン酸バリウムを構成するバリウム1モルに対して、
    マグネシウムをMgO換算で0.006〜0.054モル、
    イットリウムをYO3/2換算で0.001〜0.027モル、
    マンガンをMnO換算で0.0035〜0.027モル、
    イッテルビウムをYbO3/2換算で0.035〜0.167モル含有し、
    前記結晶粒子の平均結晶粒径が0.1〜0.25μmであるとともに、
    前記結晶粒子は、前記イッテルビウム濃度が0.5原子%以下の結晶粒子からなる第1の結晶群と、前記イッテルビウム濃度が1原子%以上の結晶粒子からなる第2の結晶群とを有し、
    前記第1の結晶群を構成する結晶粒子の面積をa、第2の結晶群を構成する結晶粒子の面積をbとしたときに、a/(a+b)が0.1〜0.4であることを特徴とする誘電体磁器。
  2. 前記チタン酸バリウムを構成するバリウム1モルに対して、前記マグネシウムをMgO換算で0.012〜0.016モル、前記イットリウムをYO3/2換算で0.007〜0.008モル、前記マンガンをMnO換算で0.0056〜0.0091モル、前記イッテルビウムをYbO3/2換算で0.048〜0.079モル含有し、前記結晶粒子の平均結晶粒径が0.15〜0.22μmであるとともに、前記a/(a+b)が0.25〜0.35であることを特徴とする請求項1に記載の誘電体磁器。
  3. 電圧を±1250Vの範囲で変化させた時の、0Vにおける電荷量が30nC/cm 以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の誘電体磁器。
  4. 請求項1乃至3のうちいずれかに記載の誘電体磁器からなる誘電体層と導体層との積層体から構成されていることを特徴とするコンデンサ。
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