本発明は、スイッチング操作により変換した電力を負荷装置へ供給する電力変換装置の制御装置及び制御方法に係り、特にスイッチングのキャリア周波数に起因する電磁ノイズの影響を抑制する技術に関する。
従来、パルス幅変調(Pulse Width Modulation、以下PWMと略す)信号のキャリア周波数およびその高調波の周波数に起因するスイッチングノイズを低減する技術として、下記特許文献1が知られている。この技術によれば、PWMキャリア周波数に対して、さらに低い周波数を有する正弦波で周波数変調をかけるようにしている。
特開平7−99795号公報
しかしながら、上記従来技術においては、周波数変調を行うようにしているため、周波数を変更した直後に、スイッチングノイズを低減することができないという問題点があった。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、受信周波数に対応する周波数帯域の変更に応じて、キャリア周波数を変更した際に、スイッチングノイズの低減効果が迅速に得られることを目的とする。
上記問題点を解決するために本発明は、PWM制御で駆動する電力変換装置の制御装置において、電力変換装置のスイッチング素子を開閉するための制御信号の周波数であるキャリア周波数を時間と共に変化させるキャリア周波数可変部と、受信周波数に対応する周波数帯域をキャリア周波数可変部へ指令する周波数帯域設定部とを備える。
キャリア周波数可変部は、周波数帯域設定部で指令される周波数帯域毎にキャリア周波数の高調波が含まれないキャリア周波数の集合であるキャリア周波数群を有する。周波数帯域設定部が、周波数帯域を変更して新たな周波数帯域をキャリア周波数可変部に指令すると、キャリア周波数可変部は、変更前の周波数帯域である第1周波数帯域に対応する第1キャリア周波数群から、変更後の周波数帯域である第2周波数帯域に対応する第2キャリア周波数群へ遷移させるとともに、遷移先の第2キャリア周波数群の平均値または中央値以下のキャリア周波数を選択して使用開始する。
上記構成による本発明によれば、第2キャリア周波数群の平均値または中央値の周波数以下の周波数よりキャリア周波数として選択するため、スイッチングノイズを迅速に低減することができる。
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。尚、特に限定されないが、以下に説明する各実施例は、ハイブリッド車両や電動車両の駆動用モータに電力を供給する電力変換装置に好適な制御装置及び制御方法である。
図1は、本発明に係る電力変換装置の制御装置の実施例1の構成を説明する電力制御システム1の構成図である。図1において、実施例1の電力制御システム1は、直流電力を三相交流電力に変換するインバータである電力変換装置2と、三相交流モータである負荷装置3と、負荷装置に供給される電流を検出する電流検出部4と、負荷装置に供給すべき電流指令を発生する電流指令発生部5と、電力変換装置2を制御する制御装置6とを備えている。
制御装置6は、スイッチング信号生成部7と、キャリア信号生成部8と、キャリア周波数可変部9と、電流制御部10と、EMI抑制帯域決定部11とを備えている。
制御装置6は、電流指令発生部5からの電流指令値と電流検出部4からの電流検出値を電流制御部10で演算し、電流制御部10から電圧指令を出力する。電流制御部10からの電圧指令がスイッチング信号生成部7へ入力されるとスイッチング信号生成部7ではPWM比較を行い電力変換装置2へ、オン/オフ信号を出力する。EMI抑制帯域決定部11は、EMIノイズを抑制する帯域指令をキャリア周波数可変部9へ出力する。キャリア周波数可変部9は、キャリア信号生成部8から出力されるキャリア信号の周波数(キャリア周波数)を変化させる。スイッチング信号生成部7から出力されたオン/オフ信号(PWMパターン)に従って、電力変換装置2の内部にあるスイッチング素子をオン/オフ動作することで負荷装置3へ電力を供給する。
図2は、図1における電流制御部10の構成例を示す図である。図2に示すように、電流制御部10は、電流指令発生部5からの電流指令値と電流検出部4で検出された電流値の偏差を演算する演算部101と、演算部101で演算された値を比例積分制御(PI制御)することで電圧指令値を出力する比例積分制御部102を構成要素として備えている。図2では電流制御部10の例として、比例積分制御で説明を行うがこの限りではない。比例制御(P制御)や比例積分微分制御(PID制御)でもよい。ここで、電流検出部4で検出された電流値とは、例えば電力変換装置2(インバータ)から負荷装置3(交流モータ)に供給されるU相、V相、W相の電流値を電流検出部4で検出し、座標変換器41を介して三相量(U相、V相、W相)から二相量であるd軸座標、q軸座標の電流に変換する三相/二相の座標変換されたものを示す。
図3は、図1におけるスイッチング信号生成部7の構成例を示す図である。図3に示すように、スイッチング信号生成部7は、電流制御部10から出力された電圧指令値を座標変換する座標変換部71と、前記座標変換された値と、キャリア信号生成部8が生成したキャリア信号の値との大小関係を比較する比較器72a、72b、72cと、比較器72a、72b、72cの出力信号をそれぞれ反転する信号反転器(インバータ)73a、73b、73cとを構成要素として備えている。
座標変換部71は、電流制御部10から供給される電圧指令値をd軸座標、q軸座標の値からU相、V相、W相の値に変換する二相/三相の座標変換を行っている。座標変換された電圧指令値と、キャリア信号生成部8からの三角波状のキャリア信号とを比較器72a、72b、72cで比較し、その大小関係に応じて電力変換装置2のTu+、Tv+、Tw+へオン/オフ信号を出力する。また信号反転器73a、73b、73cは、それぞれTu+、Tv+、Tw+への信号を反転したTu−、Tv−、Tw−への信号を電力変換装置2へのオン/オフ信号として出力する。
次に、図4を参照してキャリア周波数(fc)の時間変化について説明する。本実施例におけるキャリア周波数の制御は、マイクロコンピュータ等のCPUによって行われる。したがって、本実施例においてキャリア周波数を変化させる場合、キャリア周波数は連続的に変化するのではなく、離散的な値で変化する。例えば、キャリア周波数を三角波状に変化させる場合、キャリア周波数は、図4に示されるように、小さなステップの階段が連続する変化となる。即ち、キャリア周波数の最小値から最大値へ向けて上り階段が続き、最大値に達すると、最小値へ向けて下り階段が続く。最小値に達すると、また上り階段が続くように繰り返している。
キャリア周期の値は、CPUのクロック周期をΔtとすると、Δtの整数倍になる。キャリア周波数はその逆数になる。システム要件(例えばインバータのスイッチング素子の発熱の抑制、音響ノイズの発生の抑制、等)から、キャリア周波数として使用可能な範囲がfcmin 以上fcmax 以下と与えられたとする。またCPUのクロック周期がΔtだとすると、キャリア周波数の変化に用いることができるキャリア周波数値は、Δtの整数倍の逆数で、かつfcmin 以上fcmax 以下の値となる。
図5にスイッチング信号生成部7におけるキャリア信号の波形例を示す。図5に示すように、キャリア信号は三角波状であり、キャリア信号の周波数(キャリア周波数)が一定の場合、三角波のピークとピークの間隔は一定である(破線)。キャリア周波数を時間と共に変化させたものを実線で示す。図示のように、キャリア周波数を時間と共に変化させると、キャリア信号のピークとピークの間隔が変化することで、周波数が変化する。
図6は、図1における電力変換装置2の構成例を示す要部回路図である。図6に示すように、電力変換装置2は、バッテリなどの直流電源21、コンデンサ22、6個のスイッチング素子を含むスイッチング回路23を備える。スイッチング回路23を構成する各スイッチング素子(Tu+,Tu−,Tv+,Tv−,Tw+,Tw−)は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)やMOS−FET等の半導体素子により構成されている。
電流検出部4は、それぞれ電力変換装置2(インバータ)から負荷装置3(モータ)に供給されるU相、V相、W相の電流値を検出する。スイッチング回路23はスイッチング信号生成部7の比較器72a、72b、72c、及び信号反転器73a、73b、73cから出力されるオン/オフ信号に従って、直流電源21およびコンデンサ22からなる直流電源の正極または負極を選択し、選択した電極と負荷装置3(モータ)のU相、V相、W相の各電極とを導電し、負荷装置3(三相モータ)へ交流電力を供給する。
次に、図7を参照してキャリア周波数可変部を説明する。図7に示すように、キャリア周波数可変部9はキャリア周波数群91を構成要素として備えている。周波数群91はキャリア周波数を時間と共に変化させることで所望の帯域を空乏化する為のキャリア周波数値の集合である。キャリア周波数可変部9は、EMI抑制帯域決定部11よりEMIノイズを抑制する帯域指令が入力されると、入力された帯域指令に対応した周波数群を周波数群91から選択し、選択された周波数群内の最小キャリア周波数値からキャリア周波数値の変化をスタートさせる。
図8は、キャリア周波数可変部9における周波数群91の詳細を示す図である。図8(a)は周波数群91の構成要素であるキャリア周波数(fc)の選択方法である。図8(b)は各周波数群の内容を示す周波数マップである。図8(a)に示すように、本実施例で用いるキャリア周波数fcは、キャリア周波数fcの整数倍の周波数の値、すなわち各fcの高調波に相当する周波数が、所望の周波数帯域(fch)に入らないfcの値を選択して、所望の周波数帯域毎にそれぞれ周波数群を構成する。このようなfcを選択して周波数群とすることで、周波数群の中の周波数の選択を時間変化とともに順次変更しても、所望の周波数帯域(fch)のEMIスペクトルのレベルを局所的に低減させることができる。
図8(b)は、図8(a)で説明した所望の周波数帯域にキャリア周波数の整数倍の高調波が入らないようなキャリア周波数値の集合である周波数群91をマップにしたものである。カウンタ欄の数値(1,2,…,m)は各キャリア周波数値に付与された番号であり、各周波数群が有するキャリア周波数の個数はm個とする。なお、キャリア周波数値の低い値から昇順に番号を付与している。また、横軸に示した周波数群(周波数群1、周波数群2、…、周波数群n)は、各々の所望周波数帯域(fch1、fch2、…、fchn)のEMIスペクトルのレベルを局所的に低減させるためのキャリア周波数の集合である。表記したfc(m、n)は、mがキャリア周波数値の番号であり、nが周波数群の番号である(m、nは自然数)。例えば、fc(4、1)とは、周波数群1(所望帯域fch1)における、4番目のキャリア周波数値を示す。
次に周波数群91の各要素であるキャリア周波数値の個数(図8(b)のカウンタ数)について説明する。キャリア周波数を時間とともに離散的な値で変化させた場合に形成されるEMIスペクトルは、その時に用いるキャリア周波数の離散的な値をそれぞれ用いて、キャリア周波数一定の条件のもとで動作させた場合に形成される各EMIスペクトルを平均した値と、ほぼ一致する。
またキャリア周波数を一定とした場合のEMIスペクトルは、キャリア周波数の整数倍の周波数にピークを示すスペクトルとなる。このように考えると、キャリア周波数を時間とともに変化させる場合に用いるキャリア周波数の値の個数が少ない場合、ノイズスペクトルは大きな凹凸形状を示すことになる。また、キャリア周波数を時間とともに変化させた場合のEMIスペクトルのエネルギの合計は、キャリア周波数を一定とした場合と比較して、同一であると考えられる。
これは、EMIノイズの発生要因であるスイッチングの回数の時間平均で同一となることから理解できる。したがって、キャリア周波数を時間とともに変化させる場合に用いるキャリア周波数の値の個数が少ないほど、EMIノイズスペクトルにおいて凹凸が大きくなり、EMIスペクトルのピークレベルは高くなる傾向となる。EMIスペクトルを局所的にレベル低減(所望の帯域にキャリア周波数の整数倍の高調波を入れない)をするだけでなく、その他の帯域においても広帯域にレベル低減をすることが望まれていることから、所望の帯域以外のレベルを低減するためにはスペクトルを平坦にすることが望まれ、そのためにはキャリア周波数を変化させる場合のキャリア周波数として用いる値の個数がある程度以上必要となる。
ここで注意したいのは、各々の周波数群(周波数群1、周波数群2、…、周波数群n)におけるキャリア周波数値に相関性はない。つまり、周波数群1のキャリア周波数値は所望の帯域1(fch1)にキャリア周波数の整数倍の高調波が入らないようなキャリア周波数値の集合であり、周波数群2のキャリア周波数値は所望の帯域2(fch2)にキャリア周波数の整数倍の高調波が入らないようなキャリア周波数値の集合である。
ここで、所望の周波数帯域について説明する。本発明では、「第一の所望周波数帯域(EMIノイズレベルを局所的に低減する帯域)から第二の所望周波数帯域へ遷移させる際に、遷移時間(変化時間)を小さくする」ことが目的である。
例えば、ラジオ放送を例に所望の帯域について説明する。日本国内におけるAM放送搬送波は、531kHzから1602kHzの範囲で、各局の放送波のチャンネル周波数は9kHzの倍数の周波数である。またそのチャンネル周波数の±6kHzの範囲がチャンネル周波数帯域である。つまり12kHzが一つの放送波の帯域である。関東地方で受信可能なJOLF(コールサイン)は、1242kHzを受信チャンネルとしており、側帯波を含めた帯域は1236kHzから1248kHzである。ここでキャリア周波数の整数倍の高調波が、ラジオ聴取に与える影響を考える。例えばキャリア周波数が20kHzである場合、62次高調波の周波数は1240kHzである。これはJOLFのチャンネルの帯域に入ることから、音声出力に雑音が混入し、その聴取に影響する可能性がある。この場合、所望の帯域とは1236kHzから1248kHzである。このようにして、所望の帯域を決定する。
図9にEMI抑制帯域決定部11よりEMIノイズを抑制する帯域指令が入力された際のキャリア周波数可変部9におけるキャリア周波数群91の選択方法および切り替え方法を説明する。ここでは、周波数群1と周波数群2を用いて説明するが、特に2つに限定されるものではない。
例えば、図8(b)のキャリア周波数群において、m=10、n=2とすると、周波数群1および周波数群2の配列組み合わせは10×10=100通り考えられる。この中から最適な要素であるキャリア周波数値の配列および、周波数群1から周波数群2へ遷移(変化)させる際の最適な遷移方法(周波数群1から周波数群2への遷移時間が最小になる方法)を以下に説明する。
[キャリア周波数遷移方法および周波数配列]
いま、キャリア周波数可変部9が周波数群1(所望帯域1に対するEMIを局所的に低減する周波数群)を使用している状態で、EMI抑制帯域決定部11が新たな所望帯域2を決定し、その帯域指令を出力したとする。この帯域指令を入力したキャリア周波数可変部9は、所望帯域2に対応する周波数群2の中で平均値または中央値より低い周波数のキャリア周波数値を選択し、選択した低いキャリア周波数に遷移させて周波数群2の使用を開始する。以下、所望帯域2に対するEMIを局所的に低減する周波数群2を使用する。
さらに、周波数群2におけるキャリア周波数値の最良の選択方法は、周波数群1を使用している状態で、EMI抑制帯域決定部11が新たな所望帯域2を決定し、その帯域指令を出力した場合、キャリア周波数可変部9は、周波数群2の中で最小のキャリア周波数値に遷移させて周波数群2を使用する。それゆえ、各々の周波数群はキャリア周波数値の低い方から配置しておくのがよい。
図9において、EMI抑制帯域決定部11より周波数群1から周波数群2への所望帯域変更指令が入ったら、指令が入った時に使用している周波数選択番号(カウンタ値)に関わらず、周波数群2の最小キャリア周波数値fc(1,2)に移して、周波数群2を使用する。
なお、図9には、周波数群1から周波数群2へ遷移する際の最良の選択方法を示しているが、本発明では、遷移先の周波数の選択は、最小キャリア周波数値とは限らず、周波数群2の中から平均値または中央値より低い周波数を選択して、選択した周波数を使用することである。つまり、遷移する際に最初に選択する周波数は、周波数群2のfc(1,2)、fc(2,2)、fc(3,2)、…、中央値であるfc(m/2,2)でもよい。また、中央値に代えて周波数群2の平均値までで打ち切ってもよい。ただし、最良の選択は周波数群2中の最小キャリア周波数値であるfc(1,2)である。
図10に、実際のラジオ放送のチャンネル周波数を所望の帯域として、具体的なキャリア周波数値を用いて説明する。図10(a)は、ラジオ放送を所望の帯域とした場合の周波数群である。周波数群1は、関東地方のJOKR(AM搬送波954kHz、帯域948〜960kHz、ここではch1とする)の受信に影響を与えないキャリア周波数群であり、単位はkHzである。例えば、カウンタ値1に対応するキャリア周波数20.52kHzの46次高調波は943.92kHzであり、47次高調波は964.44kHzであり、JOKRの帯域948〜960kHzを外れている。同様に、カウンタ値10に対応するキャリア周波数25.44kHzの37次高調波は941.28kHzであり、38次高調波は966.72kHzであり、JOKRの帯域948〜960kHzを外れている。
周波数群2は関東地方のJOLF(AM搬送波1242kHz、帯域1236〜1248kHz、ここではch2とする)の受信に影響を与えないキャリア周波数群であり、単位はkHzである。例えば、カウンタ値1に対応するキャリア周波数20.87kHzの59次高調波は1231.33kHzであり、60次高調波は1252.2kHzであり、JOLFの帯域1236〜1248kHzを外れている。同様に、カウンタ値10に対応するキャリア周波数24.59kHzの50次高調波は1229.5kHzであり、51次高調波は1254.09kHzであり、JOLFの帯域1236〜1248kHzを外れている。
図10(b)は、図10(a)周波数群1、周波数群2のキャリア周波数(fc)の変化例を示したものである。まず、カウンタ値1に対応する最も低いキャリア周波数から初めて、カウンタ値を1ずつ増加させて順次高いキャリア周波数を選択し、カウンタ値10の最も高いキャリア周波数まで変化させる。その後、カウンタ値を1ずつ減少させて、最も高いキャリア周波数から順次最も低いキャリア周波数へ変化させる。図4で説明したようにキャリア周波数を三角波状に変化させた場合、周波数群1および周波数群2の変調周期は、それぞれの周波数群で用いたキャリア周波数値の各々の逆数(1/fc)の総和であるt1[ms]およびt2[ms]である。なお、図10(b)では、三角波状に連続的に示しているが、制御装置6の制御はマイクロコンピュータ等のCPUによって行われる為、キャリア周波数は連続的に変化するのではなく、離散的な階段状の値で変化する。また、t1およびt2は数msのオーダとしている。
図10(a)の説明に戻る。いま、AM放送の1chであるJOKRを受信中に、キャリア周波数可変部9は、JOKRの帯域に対するEMIを局所的に低減する周波数群1の中から図10(b)のようなカウンタ値が上下に往復するようなキャリア周波数の選択を繰り返しているとする。この周波数群1を使用中に、EMI抑制帯域決定部11より、受信チャンネルが2chへ変更されて、新たにJOLFが選局されたという情報がキャリア周波数可変部9へ伝えられたとする。このとき、キャリア周波数可変部9は、使用中の周波数群1の中の周波数値が何れの周波数であっても、言い換えれば、カウンタ値が1〜10の何れの値であっても、カウンタ値を1に設定し直して、周波数群2の中からカウンタ値1に対応するキャリア周波数fc=20.87kHzを選択して、この選択した周波数から周波数群2の使用を開始する。
なお、図10(a)は、周波数群2へ遷移する際の最良のキャリア周波数の選択方法を示している。しかし、本発明の範囲は、遷移先の周波数選択は、周波数郡2中の最小キャリア周波数値とは限らず、周波数群2の中から平均値または中央値以下の周波数を選択し、選択した周波数から使用を開始することである。例えば中央値以下の周波数を選択する場合、周波数群2中のカウンタ値1、カウンタ値2、カウンタ値3、カウンタ値4、カウンタ値5のいずれかに対応するキャリア周波数値でもよい。ただし、最良の状態は周波数群2中の最小キャリア周波数値であるカウンタ値1のfc=20.87kHzである。
以上説明した本実施例によれば、キャリア周波数の高調波によるEMIノイズレベルを局所的に低減したい第1の所望周波数帯域から第2の所望周波数帯域へ遷移させる際に、遷移時間が短くなり、第2の所望周波数帯域におけるノイズレベル抑制を早く始めることができるという効果がある。
また、第2の所望周波数帯域に対応するキャリア周波数群の中から最低キャリア周波数を選択して使用開始することにより、第2の所望周波数帯域におけるノイズレベル抑制を最も早く始めることができるという効果がある。
さらに、電力変換装置の近傍に配置された受信機の受信チャンネルの切換に対応して、素早くノイズレベル抑制を早く始めることができるという効果がある。
次に図11から図12を参照して、本発明の電力変換装置の制御装置および制御方法の実施例2を説明する。
実施例2が実施例1と異なる点は、EMI抑制帯域決定部11よりEMIノイズを抑制する帯域指令が入力された際のキャリア周波数可変部9におけるキャリア周波数群91の選択方法および切り替え方法である。その他の構成や制御方法は実施例1と同様であるので省略する。
図11に、図9と同様にEMI抑制帯域決定部11よりEMIノイズを抑制する帯域指令が入力された際のキャリア周波数可変部9におけるキャリア周波数群91の選択方法および切り替え方法を説明する。ここでは、周波数群1と周波数群2を用いて説明するが、特に2つに限定されるものではない。
[キャリア周波数遷移方法および周波数配列]
現在、周波数群1(所望帯域1を局所的に低減)を使用している状態で、EMI抑制帯域決定部11より別の帯域の入力指令(所望帯域2を局所的に低減)が入ってきた際、まず現在まで使用していた周波数群1の中で平均値または中央値以下の低い周波数のキャリア周波数値を選択し、選択したキャリア周波数に遷移させて周波数群2を使用する。
さらに、周波数群1におけるキャリア周波数値の最良の選択方法は、現在、周波数群1(所望帯域1を局所的に低減)を使用している状態で、EMI抑制帯域決定部11より別の帯域の入力指令(所望帯域2を局所的に低減)が入ってきた際、まず現在まで使用していた周波数群1の中で最小のキャリア周波数値に移してから、周波数群2の中で最小のキャリア周波数値に遷移させて周波数群2を使用する。それゆえ、各々の周波数群はキャリア周波数値の低い方から配置しておくのがよい。
図11において、EMI抑制帯域決定部11より周波数群1から周波数群2への所望帯域変更指令が入ったら、指令が入った時に使用している周波数値(カウンタ値)に関わらず、まず周波数群1の最小キャリア周波数値fc(1、1)に移してから、周波数群2の最小キャリア周波数値fc(1、2)に遷移させて、周波数群2を使用する。
ここで、注意すべき点は、ある時から現在まで周波数群1(所望帯域1を局所的に低減)を使用している状態で、EMI抑制帯域決定部11より別の帯域の入力指令(所望帯域2を局所的に低減)が入ってきた際、「まず現在まで使用していた周波数群1の中で最小のキャリア周波数値に移してから」と述べているが、瞬時に移す(例えば、カウンタ5のfc(5,1)から入力と同時にカウンタ1のfc(1,1)に移す)のではなく、カウンタ値が最小になった時点で移してもよい。例えば、入力が入った時点で、カウンタ5のfc(5,1)を使用していた場合、カウンタ値に従って、カウンタ6、カウンタ7、カウンタ8、…とし、最小キャリア周波数値であるカウンタ1のfc(1,1)になった時点で、周波数群2に遷移させてもよい。
なお、図11には、周波数群2におけるの最良の選択方法を示している(最小のキャリア周波数値を選択)が、本発明においては、最小キャリア周波数値とは限らず、周波数群2の中から周波数の平均値または中央値以下の周波数を選択し、選択した周波数から使用開始することである。例えば中央値以下の周波数を選択する場合、周波数群2のfc(2,1)、fc(2,2)、fc(3,2)、…、fc(m/2,2)でもよい。また平均値以下の周波数でもよい。ただし、最良の状態は周波数群2中の最小キャリア周波数値であるfc(1,2)である。
図12に、実際のラジオ放送のチャンネル周波数を所望の帯域として、具体的なキャリア周波数値を用いて説明する。使用するキャリア周波数群、キャリア周波数値、ラジオのチャンネル(ch)は図10と同様である。図12は、ラジオ放送を所望の帯域とした場合の周波数群である。図12(a)の周波数群1は、関東地方のJOKR(AM搬送波954kHz、帯域948〜960kHz、ここではch1とする)の受信に影響を与えないキャリア周波数群であり、単位はkHzである。図12(b)の周波数群2は、関東地方のJOLF(AM搬送波1242kHz、帯域1236〜1248kHz、ここではch2とする)の受信に影響を与えないキャリア周波数群であり、単位はkHzである。
[キャリア周波数遷移方法および周波数配列]
現在の受信チャンネルをch1のJOKRとし、ch1の周波数帯域に対する高調波の影響を低減した周波数群1を使用している状態で、EMI抑制帯域決定部11からキャリア周波数可変部9へ、新たに受信チャンネルとしてch2のJOLFが選択された情報が入力されたとする。キャリア周波数可変部9は、まず現在使用中の周波数群1の中で周波数群1の平均値または中央値以下の周波数のキャリア周波数値を選択し、選択したキャリア周波数に遷移させてから、周波数群2の中からその平均値または中央値以下の周波数のキャリア周波数値を選択し、選択したキャリア周波数から周波数群2の使用を開始する。
さらに、周波数群1、2におけるキャリア周波数値の最良の選択方法は、(ある時から現在まで)周波数群1(所望帯域1を局所的に低減)を使用している状態で、EMI抑制帯域決定部11より別の帯域の入力指令(所望帯域2を局所的に低減)が入ってきた際、その時に使用している周波数値(カウンタ値)に関わらず、まず周波数群1の最小キャリア周波数値に移してから、周波数群2の最小キャリア周波数値に遷移させて周波数群2を使用する。つまり、周波数群1を使用している際に、EMI抑制帯域決定部11より入力指令が入ってきたら(周波数群1の使用している周波数値(カウンタ値)に関わらず)、まず周波数群1の最小キャリア周波数値(この場合は、カウンタ値1のfc=20.52kHz)に移してから、周波数群2の最小キャリア周波数値(この場合はカウンタ値1fc=20.87kHz)に遷移させて、周波数群2を使用する。
ここで、注意すべき点は、(ある時から現在まで)周波数群1(所望帯域1を局所的に低減)を使用している状態で、EMI抑制帯域決定部11より別の帯域の入力指令(所望帯域2を局所的に低減)が入ってきた際、「まず現在まで使用していた周波数群1の中で最小のキャリア周波数値に移してから」と述べているが、瞬時に移す(例えば、カウンタ5のfc(5,1)から入力と同時にカウンタ1のfc=20.87kHzに移す)のではなく、カウンタ値が最小になった時点で移してもよい。例えば、入力が入った時点で、カウンタ5のfc=22.45kHzを使用していた場合、カウンタ値に従って、カウンタ6、カウンタ7、カウンタ8、…、とし、最小キャリア周波数値であるカウンタ1のfc=20.52になった時点で、周波数群2に遷移させてもよい。
なお、図12には、周波数群2におけるの最良の選択方法を示している(最小のキャリア周波数値を選択)が、本発明においては、最小キャリア周波数値とは限らず、周波数群2の中から平均値または中央値以下の周波数を選択し、選択した周波数から使用開始することである。つまり、図11に示す周波数群2のfc(1,2)、fc(2,2)、fc(3,2)、…、fc(5,2)でもよい。ただ、最良の状態は周波数群2中の最小キャリア周波数値であるfc(1,2)である。
以上説明した本実施例によれば、キャリア周波数の高調波によるEMIノイズレベルを局所的に低減したい第1の所望周波数帯域から第2の所望周波数帯域へ遷移させる際に、遷移時間が短くなり、第2の所望周波数帯域におけるノイズレベル抑制を早くすることができるという効果がある。
また本実施例によれば、第2の所望周波数帯域に対応するキャリア周波数群の中から最低キャリア周波数を選択して使用開始することにより、第2の所望周波数帯域におけるノイズレベル抑制をさらに早くすることができるという効果がある。
また本実施例によれば、電力変換装置の近傍に配置された受信機の受信チャンネルの切換に対応して、素早くノイズレベル抑制を早く始めることができるという効果がある。
さらに本実施例によれば、第1の所望周波数帯域に対応するキャリア周波数群の中の最低キャリア周波数へ切り換えてから、第2の所望周波数帯域に対応するキャリア周波数群の中の最低キャリア周波数へ切り換えるので、第2の所望周波数帯域におけるノイズレベル抑制を最も早くすることができるという効果がある。
次に、図13を参照して、本発明の効果を説明する。図13は実施例1および実施例2の効果を説明する図である。図13において、縦軸は、EMI抑制帯域決定部11より所望帯域1(実施例におけるch1のJOKR)から所望帯域2(実施例におけるch2のJOLF)へ切り替えた際のラジオの反応時間を計測したものである。この反応時間とは、ラジオのスピーカ出力に騒音計(人の耳の特性に沿って音圧レベルを測定するもの)を接続し、騒音計の音圧レベルがch2を検知し十分静かになる(人の耳に聞こえない音圧レベル)まで時間とする。EMI抑制帯域決定部11から指令が入力されるまでは、ラジオはch1に設定されている為、ch1からch2へ遷移するまでに時間を要する。
図13の横軸の実施例1、実施例2、比較例であるランダムについて説明する。図13の実施例1とは、周波数群1を使用している際に、EMI抑制帯域決定部11より入力指令が入ってきたら、周波数群1の使用している周波数値(カウンタ値)に関わらず、周波数群2の最小キャリア周波数(この場合は、カウンタ値1のfc=20.87kHz)に移してから周波数群2を使用する。ここで、図13では、EMI抑制帯域決定部11より入力指令が入った際の周波数群1のキャリア周波数値を最高キャリア周波数値(この場合は、カウンタ値10のfc=25.44kHz)とした。なぜなら、実施例1は、周波数群1の使用している周波数値に関わらずであるが、たまたま最小キャリア周波数値(この場合は、カウンタ値1のfc=20.52kHz)時点で入力が入ると、実施例2と同様になるので、ここでは最高キャリア周波数値からとしている。
図13の実施例2とは、周波数群1を使用している際に、EMI抑制帯域決定部11より入力指令が入ってきたら(周波数群1の使用している周波数値(カウンタ値)に関わらず)、まず周波数群1の最小キャリア周波数値、(この場合は、カウンタ値1のfc=20.52kH)zに移してから、周波数群2の最小キャリア周波数値(この場合はカウンタ値1fc=20.87kHz)に遷移させて、周波数群2を使用する。
図13のランダムとは、比較例であり、本発明の様な周波数群の配置および遷移(変化)方法を使用しない場合のことである。例えば、周波数群1を使用している際に、EMI抑制帯域決定部11より入力指令が入ってきたら、あるカウンタ値により現在選択されて使用いる周波数群1の周波数値から、カウンタ値を変更することなく維持して、このカウンタ値で選択される周波数群2のキャリア周波数値に移り、周波数群2を使用する。
たまたま、EMI抑制帯域決定部11より入力指令が入った際に、周波数群1の最小キャリア周波数値(この場合は、カウンタ値1のfc=20.52kHz)を使用しており、周波数群2の最小キャリア周波数値(この場合は、カウンタ値1のfc=20.87kHz)に移り、周波数群2を使用すると実施例2の場合と同様の効果となるが、常にそうなるとは限らない。ここでは、最悪の場合、つまり、EMI抑制帯域決定部11より入力指令が入った際に、周波数群1の最高キャリア周波数値(この場合は、カウンタ値10のfc=25.44kHz)を使用しており、周波数群2の最高キャリア周波数値(この場合は、カウンタ値10のfc=24.59kHz)に移った場合を示す。
ただし、この改善の割合は本実施例のキャリア周波数値を使用して実験した結果であり、常に最高で25%の改善があるわけではない。これは、使用するラジオやキャリア周波数によって改善の程度は変わる。しかし、実施例2、実施例1、ランダムの順で反応時間が長くなる、言い換えれば、本発明によりラジオ反応時間が短縮するという効果の傾向は同じである。
以上の実施例では、ある周波数群から他の周波数群へ遷移(変化)する際、キャリア周波数値の低いものから変化させる方法を記してきた。以下、この理由を説明する。
例えば、周波数帯域500kHzから1500kHzにおいて、キャリア周波数fc=10kHzとfc=20kHzの高調波の本数を比較する。fc=10kHzは100本の高調波があるのに対し、fc=20kHzは50本の高調波である。スペクトル(高調波)のエネルギは一定である為、高調波1本あたりのエネルギはfc=20kHzに比べ、fc=10kHzの方が小さい。
これより、周波数値が低い程、エネルギが小さいため、ラジオに対するノイズも等価的に小さくなると考えられる。
そのため本発明では、キャリア周波数を周波数群1から周波数群2へ遷移(変化)させる場合、実施例1では、周波数群1を使用している際に、EMI抑制帯域決定部11より入力指令が入ってきたら、周波数群1の使用している周波数値(カウンタ値)に関わらず、周波数群2の最小キャリア周波数に移してから周波数群2を使用する。
実施例2では、さらに新たなEMI抑制帯域におけるEMI抑制効果が始まる反応時間を短縮するために、周波数群1を使用している際に、EMI抑制帯域決定部11より入力指令が入ってきたら、周波数群1の使用している周波数値(カウンタ値)に関わらず、まず周波数群1の最小キャリア周波数値に移してから、周波数群2の最小キャリア周波数値に遷移させて、周波数群2を使用する。
ただし、周波数群1および周波数群2共に選択されるキャリア周波数値は、必ずしも最小のキャリア周波数値でなくてもよい。ただ、上記でも説明したように、周波数値が低い程、エネルギが小さいため、ラジオに対するノイズも等価的に小さくなると考えられるため、周波数群1から周波数群2への遷移時間が短くなる。
以上は、電力変換装置の制御装置および制御方法として、直流から交流へ変換するインバータシステムを例として説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、Hブリッジのスイッチ素子構成で負荷を駆動するものや、直流電力を任意の大きさ直流電圧に変換して負荷を駆動するDC/DCコンバータ等、スイッチ素子を開閉することでスイッチング周波数(キャリア周波数)およびその整数倍にEMIノイズを発生するものについて適用することができる。
また、本実施例では周波数群として、周波数群1および周波数群2を用いて説明してきたが、周波数群の個数は2個に限定されるものではない。電力変換装置のスイッチングに伴うEMIを抑制したい所望周波数帯域の数と同数の周波数群の個数を備えることは明らかである。
例えば、EMI抑制帯域決定部は、受信した受信機のチャンネル周波数を検出する受信チャンネル周波数検出部を備えているため、周波数群の個数は受信する際のラジオチャンネルの個数分はあるということである。
さらに本発明では、キャリア周波数の変化は三角波状変化に限定されない。例えば、正弦波状変化、鋸波状変化をはじめ、さまざまなキャリア周波数の時間変化に適用できる。キャリア周波数の時間変化を三角波状のような周期関数状に配列することにより、キャリア周波数を変えたことに起因する指令値、例えば、インバータのデューティ指令や、電圧指令値等の変動を抑制し易くなるという効果がある。
本発明に係る電力変換装置の制御装置の実施例1の構成を説明する図である。
電流制御部の詳細を説明する図である。
スイッチング信号生成部の詳細を説明する図である。
キャリア周波数の三角波状変化を説明する図である。
キャリア信号を説明する図である。
電力変換部を説明する図である。
キャリア周波数可変部を説明する図である。
キャリア周波数可変部における周波数群を説明する図である。
実施例1におけるキャリア周波数可変部におけるキャリア周波数群の選択方法および切り替え方法を説明する図である。
実施例1におけるキャリア周波数可変部におけるキャリア周波数群の選択方法および切り替え方法を説明する図(具体的数値使用)である。
実施例2におけるキャリア周波数可変部におけるキャリア周波数群の選択方法および切り替え方法を説明する図である。
実施例2におけるキャリア周波数可変部におけるキャリア周波数群の選択方法および切り替え方法を説明する図(具体的数値使用)である。
本発明の効果を説明する図である。
符号の説明
1 電力制御システム
2 電力変換装置
3 負荷装置
4 電流検出部
5 電流指令発生部
6 制御装置
7 スイッチング信号発生部
8 キャリア信号生成部
9 キャリア周波数可変部
10 電流制御部
11 EMI抑制帯域決定部