複数のターン部が形成された複数のコイル線材を互いに編込む方法としては、さらに以下の各方法が考えられる。例えば、公知の撚り線機で行われているように、固定した一のコイル線材の周りに他のコイル線材を回転(公転)させ、1公転でコイルピッチ分をコイル長手方向に移動することで編込む方法や、二つのコイル線材の編込み箇所を中心に所定角度で保持し、互いに相手の周りを回転(公転)させて編込む方法である。
しかしながら、これらの方法には、ターン部同士の干渉を回避するために、一のコイル線材の軸線と他のコイル線材の軸線とのなす角度を大きく設定しなければならず、コイル線材が変形し易いという問題や、コイル線材を大きく回転動作させるために装置サイズが大型化して装置コストが高くなり、高速化が困難であるという問題があった。
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、コイルの変形が少なく、サイズの小型化および編込みの高速化が可能な回転電機用コイル組立体の編込み機を提供することを解決すべき課題とするものである。
以下、上記課題を解決するのに敵した各手段について、必要に応じて作用効果等を付記しつつ説明する。
〔手段1〕 複数のターン部が形成された複数のコイル線材を互いに編込んで回転電機のコイル組立体を製造する編込み機であって、前記コイル線材が搬送される第1搬送通路を有する複数のコイル供給用マガジンと、各前記第1搬送通路を搬送される各前記コイル線材の各軸線が、各前記第1搬送通路の出口側で交差し入口側で離間するように所定範囲の角度をなす状態に各前記コイル供給用マガジンを支持する支持装置と、各前記第1搬送通路を搬送される各前記コイル線材をそれぞれの軸線周りに同一方向へ回転させることにより、各前記第1搬送通路の出口から搬出された各前記コイル線材の各前記ターン部同士を交差させるコイル回転装置と、各前記コイル供給用マガジンの出口側に配置され、各前記ターン部同士が交差した状態の編込み済みコイル線材が搬送される第2搬送通路を有する編込み済みコイル用マガジンと、前記第2搬送通路の入口側で前記編込み済みコイル線材の端部を把持して前記編込み済みコイル線材を出口側へ搬送するコイル搬送装置と、を備え、前記支持装置は、前記コイル回転装置による各前記コイル線材の回転動作と同期して、各前記コイル供給用マガジンの入口側を揺動させることにより、各前記第1搬送通路を搬送される各前記コイル線材の各軸線のなす角度を変化させる揺動機構を備えていることを特徴とする回転電機用コイル組立体の編込み機。
手段1の編込み機により回転電機用コイル組立体を製造する際には、その編込み機に対して、複数のターン部が形成されたコイル線材を次のようにセットして準備する。先ず、各コイル供給用マガジンの各第1搬送通路にそれぞれコイル線材を入口側から挿入し、各第1搬送通路の出口側で各コイル線材の各軸線が交差する位置において、各コイル線材のターン部同士を交差させた状態にする。その後、編込み済みコイル用マガジンの第2搬送通路の入口側において、ターン部同士が交差して編込み済みとなった状態のコイル線材の端部をコイル搬送装置の把持部で把持させることにより準備完了となる。
その状態で編込み機の運転が開始されると、上記のようにセットされた各コイル線材は、コイル搬送装置により、各コイル供給用マガジンの各第1搬送通路から各コイル線材の各軸線が交差する位置を経由して、編込み済みコイル用マガジンの第2搬送通路出口側へと向かって搬送される。これと同時に、各コイル供給用マガジンの各第1搬送通路を搬送される各コイル線材は、コイル回転装置の作動により、それぞれの軸線周りに同一方向へ回転させられる。
これにより、各第1搬送通路の出口から回転しつつ搬出される各コイル線材は、それらの各軸線が交差する位置を通過する際に、各コイル線材のターン部同士が干渉し合うことなく順次交差していくことによって編込みが行われる。その後、各ターン部同士が交差した状態の編込み済みコイル線材は、編込み済みコイル用マガジンの第2搬送通路に案内され出口側へ向かって搬送される。このようにして、各コイル線材の後続のターン部同士も順次交差していくことによって最終のターン部同士まで編込みが行われる。
したがって、手段1の編込み機によれば、各コイル供給用マガジンの各第1搬送通路を搬送される各コイル線材を、それぞれ軸線周りに回転させるようにしているので、ターン部同士が干渉することなく編込みを行うことが可能となる。そのため、一方のコイル線材の周りに他方のコイル線材を公転させる場合や、両方のコイル線材を互いに公転させる場合と比較して、各コイル線材の各軸線なす角度を小さくすることが可能となるため、コイル線材の編込み時に生じる変形を抑えることができる。
また、各コイル線材をそれぞれ軸線周りに回転させるコイル回転装置は、コイル線材を互いに公転させるタイプの回転装置よりも小型化することが可能であるので、編込み機の小型化および低コスト化を図ることができる。さらに、各コイル線材の回転動作が小さいので、容易に高速回転させることができ、編込みの高速化を実現することが可能となる。また、支持装置は、コイル回転装置による各コイル線材の回転動作と同期して、各コイル供給用マガジンの入口側を揺動させることにより、各第1搬送通路を搬送される各コイル線材の各軸線のなす角度を変化させる揺動機構を備えている。そのため、それぞれ軸線周りに回転している各コイル線材の位相に応じて、各コイル線材の各軸線のなす角度が最小となるように変化させることができることから、ターン部同士の干渉を回避しつつ、対応するターン部同士を確実に順次交差させることが可能となり、コイル線材の編込みを確実に且つ安定的に行うことができる。
手段1において、コイル線材が搬送される第1搬送通路を有するコイル供給用マガジンは、編込まれるコイル線材の本数に応じて適数のものが用いられる。但し、複数のコイル線材が編込まれたり組付けられたりして一体化されたものを用いる場合には、それらは1本のコイル線材と見なすことができるので、その本数に応じて適数のものが用いられる。用いられるコイル供給用マガジンが2つの場合には、2つのコイル供給用マガジンは所定の角度を有するようにして並列状に設置される。また、用いられるコイル供給用マガジンが3つ以上の場合には、それらのコイル供給用マガジンは円周上で等間隔となるように設置される。
複数のコイル供給用マガジンは、第1搬送通路を搬送される各コイル線材の各軸線のなす角度が10度以上90度以下の範囲となるように設置されるのが好ましい。第1搬送通路は、用いられるコイル線材の大きさや形状に合わせてその断面形状を適宜設定することができる。この第1搬送通路は、コイル線材の搬送を円滑にしたり、搬送時のコイル線材の変形を防止したりするために、できるだけ直線状に延びるように形成されているのが好ましい。また、第1搬送通路の搬送面は、できるだけ摩擦抵抗が小さくされている方が好ましい。
手段1における支持装置は、各第1搬送通路を搬送される各コイル線材の各軸線のなす角度が所定範囲となるようにして各コイル供給用マガジンを支持するものである。この支持装置は、支持する各コイル供給用マガジンのなす角度、即ち、第1搬送通路を搬送される各コイル線材の各軸線のなす角度を任意の角度に調整可能なものを採用するのが好ましい。
手段1におけるコイル回転装置は、各第1搬送通路を搬送される各コイル線材をそれぞれの軸線周りに同一方向へ回転させるものである。このコイル回転装置は、各第1搬送通路を搬送される各コイル線材を、直接または間接的にそれぞれの軸線周りに回転させるものであればよい。例えば、第1搬送通路の軸線とコイル供給用マガジンの軸線とが同軸となるようにすれば、コイル供給用マガジンをその軸線周りに回転させることによって、第1搬送通路を搬送される各コイル線材を軸線周りに回転させることができる。また、第1搬送通路を形成する搬送通路形成部材を、コイル供給用マガジン本体と別体で相対回転可能に形成し、その搬送通路形成部材を、コイル回転装置により各コイル線材の軸線周りに各コイル線材と共に回転させるように構成してもよい。
手段1における編込み済みコイル用マガジンは、各コイル供給用マガジンの出口側の所定位置に配置される。即ち、編込み済みコイル用マガジンは、第2搬送通路の入口から各ターン部が交差した状態の各コイル線材が搬入されるように設置される。また、この編込み済みコイル用マガジンは、各第コイル供給用マガジンの軸線の角度(第1搬送通路を搬送される各コイル線材の各軸線のなす角度)の二等分線上にその軸線が位置するように設置されるのが好ましい。このようにすれば、コイル線材の搬送をより円滑にすることが可能となる。
この編込み済みコイル用マガジンは、各ターン部同士が交差した状態の編込み済みコイル線材が搬送される第2搬送通路を有する。第2搬送通路は、搬送されるコイル線材の大きさや形状に合わせてその断面形状を適宜設定することができる。なお、この第2搬送通路には、搬送される編込み済みコイル線材を把持するコイル搬送装置の把持部が配置されるので、そのコイル把持部が移動可能となるように考慮して第2搬送通路の断面形状が設定される。また、第2搬送通路は、第1搬送通路の場合と同様に、できるだけ直線状に延びるように形成されているのが好ましく、また、第2搬送通路の搬送面は、できるだけ摩擦抵抗が小さくされている方が好ましい。
手段1におけるコイル搬送装置は、第2搬送通路の入口側で編込み済みコイル線材の端部を把持して編込み済みコイル線材を出口側へ搬送するものである。このコイル搬送装置として、例えば、先端部に編込み済みコイル線材を把持するクランパが設けられたコイル引出棒と、クランパでコイル線材を把持したコイル引出棒を移動させる移動手段と、を備えたものを採用することができる。この場合、コイル引出棒を、駆動モータ等で回転駆動可能に設けるようにすれば、編込み前の各コイル線材と編込み済みコイル線材との間に生じる回転ねじれを解消し、コイル線材の変形を防止することが可能となる。また、コイル引出棒を、駆動モータによりそれぞれ回転駆動可能に設けられた複数の棒状部材で構成し、各棒状部材の先端にそれぞれコイル線材を把持するクランパを設けるようにすれば、各コイル線材を各クランパで個別に把持することができるので、編込まれる各コイル線材の位相角差が編込み途中で変化する場合でも対応可能となる。
なお、手段1の編込み機は、2本以上の複数のコイル線材の編込みを行うことが可能である。また、複数のコイル線材が編込まれたり組付けられたりして一体化されたもの同士の編込みを行うことも、例えばコイル搬送装置のコイル把持部等の部品を必要に応じて交換することにより可能である。
なお、手段1の編込み機により製造されるコイル組立体は、例えば、周方向に交互に異なる複数の磁極を形成している回転子と内周側または外周側で向き合う固定子とを有する回転電機に用いられ、断面形状が略矩形状の線材により形成され固定子コアの周方向に設けられた複数のスロットに設置される多相固定子巻線を構成するものである。
また、コイル線材は、例えば、周方向の異なるスロットに設置されているスロット収容部と、スロットの外部でスロット収容部同士を接続しているターン部とを有し、スロットから突出するターン部の突出箇所は、コイル線材がまたがって設置されているスロット同士に向けたクランク形状に形成されたものである。また、ターン部の略中央部はねじりを伴わないクランク形状に形成されたものであってもよく、コイル線材のクランク形状が形成されている略中央部が、コイル線材の略幅分クランク形状にずれたものであってもよい。また、コイル線材は、固定子コアの全周にわたって連続して形成されたものであってもよい。
〔手段2〕 各前記コイル供給用マガジンは、各前記第1搬送通路を搬送される各前記コイル線材の各軸線のなす角度が10度以上90度以下の範囲となるように設置されていることを特徴とする手段1に記載の回転電機用コイル組立体の編込み機。
手段2によれば、各コイル線材の各軸線のなす角度が10度以上に設定されるので、ターン部同士の干渉を回避しつつ編込みを行うことができる。また、各コイル線材の各軸線のなす角度が90度以下に設定され、コイル線材の形状に適合した最小の角度で編込み動作させることができるので、各コイル線材の変形を確実に少なく抑えることができると共に、編込み機の小型化および低コスト化を図りつつ、編込みの高速化を実現することができる。
〔手段3〕 前記揺動機構は、各前記コイル供給用マガジンをそれぞれ支持する複数の支持基板と、各該支持基板にそれぞれ連結された複数のリンク部材と、各該リンク部材と螺合されて回転駆動されることにより各該リンク部材を移動させるボールねじ部材とを備え、該ボールねじ部材が回転駆動されることにより、前記リンク部材を介して各前記コイル供給用マガジンの入口側端部同士が接近移動および離間移動するように構成されていることを特徴とする手段1または2に記載の回転電機用コイル組立体の編込み機。
手段3によれば、各第1搬送通路を搬送される各コイル線材の各軸線のなす角度を変化させる揺動機構を、簡易な構成で実現することができる。
〔手段4〕 前記揺動機構は、各前記コイル供給用マガジンをそれぞれ支持する支持基板と、各該支持基板にそれぞれ一端が揺動自在に連結された複数のリンク部材と、各該リンク部材の他端部同士が1箇所で揺動自在に連結されたリンク駆動部材とを備え、該リンク駆動部材を駆動させることにより、前記リンク部材を介して各前記コイル供給用マガジンの入口側端部同士が接近移動および離間移動するように構成されていることを特徴とする手段1または2に記載の回転電機用コイル組立体の編込み機。
手段4によれば、各第1搬送通路を搬送される各コイル線材の各軸線のなす角度を変化させる揺動機構を、簡易な構成で実現することができる。
〔手段5〕 前記コイル回転装置は、各前記コイル供給用マガジンに設けられた従動歯車と、該従動歯車と噛合された駆動歯車とを備え、該駆動歯車の駆動により、各前記第1搬送通路を搬送される各前記コイル線材と共に各前記コイル供給用マガジンを各前記コイル線材の各軸線周りに回転させるように構成されていることを特徴とする手段1〜4の何れかに記載の回転電機用コイル組立体の編込み機。
手段5によれば、各第1搬送通路を搬送される各コイル線材をそれぞれの軸線周りに同一方向へ回転させる回転装置を、簡易な構成で実現することができる。
〔手段6〕 前記コイル回転装置は、各前記コイル線材を各軸線周りに同期を取りながら回転させることを特徴とする手段1〜5の何れか一つに記載の回転電機用コイル組立体の編込み機。
手段6によれば、コイル回転装置によって、各コイル線材を各軸線周りに同期をとりながら回転させるので、各コイル線材の各ターン部同士を一端側から他端側に向かって順次、円滑に交差させていくことができる。
〔手段7〕 前記コイル回転装置は、各前記コイル線材を同一位相で回転させることを特徴とする手段1〜6の何れか一つに記載の回転電機用コイル組立体の編込み機。
手段7によれば、コイル回転装置によって、各コイル線材を同一位相(即ち、位相角差0度)で回転させるので、ターン部同士の干渉を回避しつつ、対応するターン部同士を確実に順次交差させることができる。
〔手段8〕 前記コイル回転装置は、各前記コイル線材を0度より大きく且つ90度以下の位相角差で回転させることを特徴とする手段1〜7の何れか一つに記載の回転電機用コイル組立体の編込み機。
手段8によれば、コイル回転装置によって、各コイル線材を0度より大きく且つ90度以下の位相角差で回転させるので、ターン部同士の干渉が生じない範囲で各コイル線材の各軸線のなす角度をより小さく設定しつつ、対応するターン部同士を確実に順次交差させることができる。
〔手段9〕 前記コイル回転装置は、各前記コイル線材を位相角差0度以上90度以下の範囲で可変させながら回転させることを特徴とする手段1〜8の何れか一つに記載の回転電機用コイル組立体の編込み機。
手段9によれば、コイル回転装置によって、各コイル線材を位相角差0度以上90度以下の範囲で可変させながら回転させるので、各コイル線材の各軸線のなす角度を、各ターン部同士が乗り越える時やすれ違う時などの編込み動作中の各コイル線材間の関係において最小に設定することができる。
〔手段10〕 前記コイル搬送装置は、前記編込み済みコイル用マガジンの出口側に配置される基台と、該基台に基端部が回転自在に保持されて前記第2搬送通路内に挿通配置されるコイル引出棒と、該コイル引出棒の先端に設けられ前記編込み済みコイル線材を把持するクランパと、前記コイル引出棒が前記第2搬送通路から抜け出る方向へ前記基台を移動させる移動手段と、から構成されていることを特徴とする手段1〜9の何れか一つに記載の回転電機用コイル組立体の編込み機。
手段10によれば、第2搬送通路の入口側で編込み済みコイル線材の端部を把持して編込み済みコイル線材を出口側へ搬送するコイル搬送装置を、簡易な構成で実現することができる。
〔手段11〕 前記コイル引出棒は、駆動モータにより回転駆動可能に設けられていることを特徴とする手段10に記載の回転電機用コイル組立体の編込み機。
手段11によれば、コイル引出棒を回転駆動させて、コイル引出棒の先端に設けられたクランパで把持した編込み済みコイル線材を、編込み前の各コイル線材と同じ回転方向へ回転させることにより、編込み前の各コイル線材と編込み済みコイル線材との間に生じる回転ねじれを解消することができる。これにより、編込み前および編込み済みのコイル線材の変形を効果的に防止することができる。なお、コイル引出棒の回転と編込み前の各コイル線材の回転は同期させるようにするのが好ましい。
〔手段12〕 前記コイル引出棒は、駆動モータによりそれぞれ回転駆動可能に設けられた複数の棒状部材からなり、各該棒状部材の先端には、前記編込み済みコイル線材の各コイル線材を個別に把持するクランパがそれぞれ設けられていることを特徴とする手段10に記載の回転電機用コイル組立体の編込み機。
手段12によれば、コイル引出棒が、それぞれ先端にクランパが設けられた複数の棒状部材により構成されているので、編込み済みコイル線材の各コイル線材を各クランパで個別に把持することができる。そのため、編込まれる各コイル線材の位相角差が編込み途中で変化する場合でも、各クランパで個別に把持した各コイル線材を、編込み前の各コイル線材と同じ回転方向へそれぞれ回転させることにより、編込み前の各コイル線材と編込み済みコイル線材との間に生じる回転ねじれを解消することができるので、コイル線材の変形を効果的に防止することができる。なお、この場合にも、コイル引出棒の回転と編込み前の各コイル線材の回転は同期させるようにするのが好ましい。
〔手段13〕 前記編込み済みコイル用マガジンに設けられた従動歯車と、該従動歯車と噛合された駆動歯車とを有し、該駆動歯車の駆動により、前記第2搬送通路を搬送される前記編込み済みコイル線材と共に前記編込み済みコイル用マガジンを、編込み前の各前記コイル線材と同一方向へ軸線周りに回転させる編込み済みコイル回転装置を備えていることを特徴とする手段1〜12の何れか一つに記載の回転電機用コイル組立体の編込み機。
手段13によれば、編込み済みコイル回転装置を作動させることによって、コイル回転装置により回転された編込み前の各コイル線材と編込み済みコイル線材との間に生じる回転ねじれを解消することができるので、コイル線材の変形を効果的に防止することができる。
以下、本発明の回転電機用コイル組立体の編込み機を具体化した一実施形態について図面を参照しつつ具体的に説明する。最初に、本発明の一実施形態の編込み機により製造されるコイル組立体20を適用した回転電機の固定子10の概略構成について説明する。図1(A)はコイル組立体20を適用した回転電機」の固定子10の外観を示す斜視図であり、図1(B)は固定子10を側方から見た図である。図2は固定子10の一部を拡大して示す斜視図である。
図1に示す固定子10は、例えば車両の電動機および発電機を兼ねる回転電機に使用される。固定子10は、内周側に回転子(図示せず)を回転自在に収容する。回転子は、永久磁石により周方向に交互に異なる磁極を、固定子10の内周側と向き合う外周側に複数形成している。固定子コア12は、所定厚さの磁性鋼板を軸方向に積層して環状に形成されている。固定子コア12には、図2に示すように、軸方向に沿い周方向に隣接するスロット14,15を一組として固定子コア12の内周側の周方向に複数組のスロットが形成されている。固定子巻線としてのコイル組立体20は三相巻線であり、周方向に隣接する一組のスロット14、15に各相の固定子巻線が設置されている。そして、スロット14、15を一組として周方向に隣接する三組のスロット14、15に異なる相の固定子巻線が設置されている。
次に、コイル組立体20の構成について説明する。図3は、コイル組立体20の外観を示す斜視図である。図4は、コイル組立体20のコイルエンド部を示す正面図である。図5は、コイル線材30の全体形状を示す正面図である。図6は、コイル線材30の断面図である。図7は、コイル線材のターン部42の形状を示す斜視図である。
コイル組立体20のコイル線材30は、図5に示すように、複数のターン部42が所定ピッチで複数形成されたものであり、1本の長さは約3mである。また、コイル線材30は、図6に示すように、鋼製の導体32と、導体32の外周を覆い導体32を絶縁する内層34および外層36からなる絶縁被覆とから形成されている。内層34は導体32の外周を覆い、外層36は内層34の外周を覆っている。内層34および外層36を合わせた絶縁被覆の厚みは、100μm〜200μmの間に設定されている。このように、内層34および外層36からなる絶縁被覆の厚みが厚いので、コイル線材30同士を絶縁するためにコイル線材30同士の間に絶縁紙等を挟み込んで絶縁する必要がない。
外層36はナイロン等の絶縁材、内層34は外層36よりもガラス転移温度の高い熱可塑性樹脂またはガラス転移温度の無いポリアミドイミド等の絶縁材で形成されている。これにより、回転電機に発生する熱により外層36は内層34よりも早く軟化するので、同じスロット14に設置されているコイル線材30同士が外層36同士で熱接着する。その結果、同じスロット14に設置されている複数のコイル線材30が一体化しコイル線材30同士が剛体化するので、スロット14内のコイル線材30の機械的強度が向上する。また、過剰な振動が発生しても、内層34と導体32の接着箇所よりも内層34と外層36との接着箇所が先に剥離するので、内層34と導体32との接着を維持し絶縁を確保できる。
コイル線材30は、図2に示すように、固定子コア12のスロット14、15内に設置されるスロット収容部40と、スロット14、15から固定子コア12の外に突出し、周方向に異なるスロットに設置されているスロット収容部40同士を接続しているターン部42とを有しており、固定子コア12に波巻されることにより固定子巻線(コイル組立体)20を形成している。ターン部42は固定子コア12の軸方向両側にそれぞれ形成されている。ターン部42の略中央部には、図7に示すように、ねじりを伴わないクランク部44が形成されている。クランク部44は、固定子コア12の端面13に沿ってクランク形状に形成されている。このクランク部44のクランク形状によるずれ量は、コイル線材30の略幅分である。これにより、径方向に隣接しているコイル線材30のターン部42同士を密に巻回できる。その結果、コイルエンドの径方向の幅が小さくなるので、コイル組立体20が径方向外側に張り出すことを防止する。
また、スロット14、15から固定子コア12の外に突出するターン部42の突出箇所に、コイル線材30がまたがって設置されているスロット同士に向けて固定子コア12の軸方向両側の端面13に沿ってクランク部46が形成されている。これにより、スロット14、15から突出しているコイル線材30のターン部42の突出箇所の間隔、言い換えればターン部42が形成する三角形状部分の底辺の長さは、コイル線材30がまたがって設置されているスロット同士の間隔よりも狭くなっている。その結果、コイルエンドの高さhが低くなる。
また、固定子コア12の端面13に沿ったクランク部46の長さをd1、周方向に隣接するスロット同士の間隔をd2とすると、d1≦d2になっている。これにより、コイル線材30のクランク部46が周方向に隣り合うスロットから突出するコイル線材30と干渉することを防止できる。これにより、周方向に隣接するスロットから突出するコイル線材30同士が互いに干渉することを避けるために、コイルエンドの高さが高くなったり、あるいはコイルエンドの径方向の幅が大きくなったりすることを防止できる。その結果、コイルエンドの高さが低くなる。さらに、コイルエンドの径方向の幅が小さくなるので、コイル組立体20が径方向外側に張り出すことを防止する。
さらに、コイル線材30には、ターン部42の略中央部のクランク部44と、ターン部42の突出箇所に形成したクランク部46との間に、それぞれ2個のクランク部48が形成されている。つまり、固定子コア12の一方の軸方向の端面13側のコイル線材30のターン部42には、合計7個のクランク部が形成されている。これにより、クランク部を形成しない三角形状のターン部の高さに比べ、ターン部42の高さhが低くなる。クランク部48のクランク形状も、クランク部44、46と同様に、固定子コア12の端面13に沿ったクランク形状に形成されている。したがって、コイル線材30のターン部42は、クランク部44を挟んで両側を階段状に形成している。
ここで、三相の固定子巻線としてのコイル組立体20に於いて、回転子の1極当たり各相のコイル線材30は2個のスロット14、15に設置されている。つまり、周方向に連続して隣接しているコイル組立体20の回転子の1極当たりのスロットの総数は3×2=6である。その結果、周方向の異なるスロットにまたがって設置されているコイル線材30は、周方向に6個離れたスロット同士に設置されるので、コイル線材30の略中央部の1個のクランク部44を加え、周方向に隣接しているスロットから突出するコイル線材30同士の干渉を避けるため、(3×2+1)個のクランク部をターン部42に形成することが望ましい。このように固定子コア12の一方の軸方向側のコイルエンドでコイル線材30に7個のクランク部を形成したことにより、コイルエンドの高さを低くし、コイルエンドの径方向の幅を小さくすることができる。
次に、上記の2本のコイル線材30、30を用いて上記の回転電機用コイル組立体を製造する編込み機について説明する。図8は本実施形態に係る回転電機用コイル組立体の編込み機の平面図であり、図9は図8の編込み機の側面図である。
本実施形態の編込み機は、図8および図9に示すように、2本のコイル供給用マガジン50、50と、両コイル供給用マガジン50、50を支持する支持装置60と、各コイル供給用マガジン50、50を回転させることにより各コイル線材30、30をそれぞれ回転させる2個のコイル回転装置70、70と、各コイル供給用マガジン50、50の出口側の所定位置に配置された編込み済みコイル用マガジン80と、両コイル線材30、30を搬送するコイル搬送装置90と、編込み済みコイル用マガジン80を回転させることにより編込み済みコイル線材30、30を回転させる編込み済みコイル回転装置75と、から構成されている。
各コイル供給用マガジン50、50は、外周断面形状が円形で直線状に延びる筒状に形成されており、その内部にはそれぞれのコイル線材30、30が搬送される第1搬送通路51、51を有する(図10参照)。各第1搬送通路51、51は、搬送されるコイル線材30の幅および厚みよりも僅かに大きい大きさの矩形の断面形状に形成されている。各第1搬送通路51、51は、その軸線が各コイル供給用マガジン50、50の軸線と同軸となるように形成されている。
各第1搬送通路51、51の通路面は、摩擦係数の小さい例えば樹脂等の材料を用いていることにより摩擦抵抗が小さくされており、これにより各コイル線材30、30の円滑な搬送が可能とされている。また、各第1搬送通路51、51は、直線状に延びるように形成されていることにより、各コイル線材30、30の円滑な搬送が助長され、搬送時のコイル線材の変形が防止される。各コイル供給用マガジン50、50は、その長手方向の略中央部を回転自在に保持するコイル回転装置70、70を介して支持装置60上に設置されている。
支持装置60は、各コイル供給用マガジン50、50をそれぞれコイル回転装置70、70を介して支持する2枚の支持基板61、61を有する。両支持基板61、61は、図示しないベース上に設けられた軸部材62に、一端部(図8、図9において左側端部)が重ね合わされた状態で枢支されており、軸部材62を中心にして水平方向へ揺動可能とされている。これにより、各支持基板61、61上に設置される各コイル供給用マガジン50、50は、各第1搬送通路51、51を搬送される各コイル線材30、30の各軸線が、各第1搬送通路51、51の出口側にある軸部材62上の位置で交差し、各第1搬送通路51、51の入口側で離間するように所定範囲の角度(10度〜90度)をなす状態に配置されている。
各支持基板61、61の他端部(図8、図9において右側端部)は、1本のボールねじ部材63に螺合されて移動可能な2個のリンク部材62、62にそれぞれ連結されて支持されている。各リンク部材62、62は、ボールねじ部材63の雄ねじ部に螺合された図示しない雌ねじ穴を有する可動部62a、62aと、各可動部62a、62aから軸部材62側へ水平方向に延出する支持部62b、62bとからなる。各支持部62b、62bには、軸部材62側に向かって長く延びる長穴62c、62cが設けられている。各長穴62c、62cには、各支持基板61、61の他端部に固着されたピン61a、61aが各長穴62c、62cの延びる方向に沿って摺動自在に嵌合保持されている。
各可動部62a、62aが螺着されているボールねじ部材63は、2本のコイル供給用マガジン50、50のなす角度の中心線に対して直角方向に延びるように配置されている。このボールねじ部材63の雄ねじ部は、長手方向の中央を境にして一端側と他端側とで逆方向のねじが切られている。即ち、図8において、ボールねじ部材63の中央から上方部分には右ねじが切られており、ボールねじ部材63の中央から下方部分には左ねじが切られている。そして、一方のリンク部材62の可動部62aがボールねじ部材63の右ねじ部に螺着され、他方のリンク部材62の可動部62aがボールねじ部材63の左ねじ部に螺着されている。
このボールねじ部材63は、駆動モータ64により両方向に回転駆動可能であり、駆動モータ64により回転駆動されると、両リンク部材62、62が図示しない支持部材により同じ姿勢を維持した状態で、互いに接近および離間するように移動する。これにより、各コイル供給用マガジン50、50の入口側端部同士が接近および離間するように揺動して、各第1搬送通路51、51を搬送される各コイル線材30、30の各軸線のなす角度θを、駆動モータ64の制御により変化させるように構成されている。即ち、この支持装置60は、支持基板61、61と、リンク部材62、62と、ボールねじ部材63と、駆動モータ(サーボモータ)64とからなる、各第1搬送通路51、51を搬送される各コイル線材30、30の各軸線のなす角度θを変化させる揺動機構を備えている。
このような揺動機構を備えた支持装置60により、両コイル供給用マガジン50、50のなす角度、即ち、各第1搬送通路51、51を搬送される各コイル線材30、30の各軸線のなす角度θは、初期設定として、用いられるコイル線材30、30の大きさ等に応じて10度〜90度の範囲で適宜調整される。また、この支持装置60は、次に詳述するコイル回転装置70、70による各コイル線材30、30の回転動作と同期して、各コイル線材30,30の各軸線のなす角度θを変化させるように作動する。
コイル回転装置70、70は、各コイル供給用マガジン50、50を回転させることによって、各第1搬送通路51、51を搬送される各コイル線材30、30をそれぞれの軸線周りに同一方向へ回転させるものである。このコイル回転装置70、70は、図10(A)(B)に示すように、各コイル供給用マガジン50、50の略中央部を、軸受71a、71aを介して回転自在に保持し、各支持基板61、61上の所定位置に固定されたケース71、71を有する。各ケース71、71の内部には、各コイル供給用マガジン50、50の外周面に同軸状に嵌着された従動歯車72、72と、従動歯車72、72にそれぞれ噛合され駆動モータ(サーボモータ)74、74により回転駆動される駆動歯車73、73が収納配置されている。
このコイル回転装置70、70は、駆動モータ74、74で同期を取りながら各コイル供給用マガジン50、50を回転させるように設定されている。また、本実施形態では、各コイル線材30、30を同一位相で回転させるように設定されている。なお、従動歯車72、72が嵌着される各コイル供給用マガジン50、50は、外周断面形状が全長に亘って円形のものであるが、図11(A)(B)に示すように、従動歯車72、72が嵌着される中央部のみを丸外形部分55とし、その両側部分を角外形部分56、56とするようにしてもよい。また、駆動歯車73、73と従動歯車72、72とによる動力伝達方式に代えて、例えばタイミングベルト等のベルトによる動力伝達方式を採用してもよい。
編込み済みコイル用マガジン80は、各コイル供給用マガジン50、50の出口側に所定距離を隔てて配置されている。この編込み済みコイル用マガジン80の内部には、各コイル供給用マガジン50、50の出口から搬出された後、各ターン部42、42同士が交差した状態の編込み済みコイル線材30、30が搬送される第2搬送通路81が形成されている。
この第2搬送通路81は、図12に示すように、編込み済みコイル線材30、30とこの編込み済みコイル線材30、30を把持するコイル搬送装置90のクランパ93(後述)が第2搬送通路81を通過可能な大きさの断面形状にされている。この第2搬送通路81は、第1搬送通路51、51と同様に、直線状に延びるように形成されており、また、第2搬送通路81の通路面は、摩擦抵抗が小さくなるようにされている。第2搬送通路81は、その軸線が編込み済みコイル用マガジン80の軸線と同軸となるように形成されている。
コイル搬送装置90は、図13および図14(A)(B)に示すように、基台91と、コイル引出棒92と、クランパ93と、ボールねじ部材94およびそのボールねじ部材94を回転駆動する駆動モータ(サーボモータ)95からなる移動手段とから構成されている。基台91は、ボールねじ部材94に螺着されて、編込み済みコイル用マガジン80の出口側に配置されている。コイル引出棒92は、その基端部が基台91の内部に設けられたベアリングを含む軸受91aに回転自在に保持されており、その先端側が第2搬送通路81内に挿通配置されている。
クランパ93は、図14に示すように、コイル引出棒92先端の二股部に設けられている。このクランパ93は、二股部に両端が保持された軸部93aと、軸部93aを中心に揺動自在に設けられて編込み済みコイル線材30、30を把持する一対の爪93b、93bと、一対の爪93b、93bを閉じる(把持する)方向へ付勢するばね部材93cと、一対の爪93b、93bの間に挿入されて一対の爪93b、93bを開いた(把持しない)状態にするクランパ開きピン93dとから構成されている。
ボールねじ部材94は、その長手方向が編込み済みコイル用マガジン80の軸線に沿うようにして、編込み済みコイル用マガジン80の出口側に配設されている。このボールねじ部材94は、長手方向の両端が回転自在に支持されており、駆動モータ95の制御により回転駆動されると、ボールねじ部材94に螺着されている基台91が、図示しない支持部材により同じ姿勢を維持した状態で、ボールねじ部材94に沿って編込み済みコイル用マガジン80から遠ざかるように移動する。
これにより、基台91と共にコイル引出棒92が第2搬送通路81から抜け出る方向へ移動して、クランパ93で把持した編込み済みコイル線材31を引き出すようにして搬送する。即ち、このコイル搬送装置90は、第2搬送通路81の入口側で編込み済みコイル線材30、30の端部をクランパ93で把持して、駆動モータ95で制御されつつ、その編込み済みコイル線材30、30を第2搬送通路81の出口側へ搬送するように構成されている。
なお、コイル引出棒92は、基台91に設けられた駆動モータ(サーボモータ)96により回転駆動可能であり、駆動モータ96でコイル引出棒92の回転駆動を制御することにより、クランパ93で把持した編込み済みコイル線材30、30を軸心回りに回転させることができる。本実施形態の場合には、編込み済みコイル用マガジン80を回転させる編込み済みコイル回転装置75と併用することによって、編込み前の各コイル線材30、30と編込み済みコイル線材30、30との間に生じる回転ねじれをより良好に解消することができるので、コイル線材30、30の変形をより効果的に防止することができる。なお、コイル引出棒92の先端に設けられたクランパ93が第2搬送通路81から抜け出した時には、このコイル引出棒92の回転駆動により編込み済みコイル線材30、30を回転させる。
編込み済みコイル回転装置75は、駆動モータ77の駆動により、第2搬送通路81を搬送される編込み済みコイル線材30、30と共に編込み済みコイル用マガジン80を、編込み前の各コイル線材30、30と同一方向へ軸線周りに回転させるものである。この編込み済みコイル回転装置75は、各コイル供給用マガジン50、50を回転させるように設けられた前記のコイル回転装置70、70と同様に構成されたものであるため、詳しい説明は省略する。なお、この編込み済みコイル回転装置75は、コイル回転装置70、70によるコイル供給用マガジン50、50の回転動作と同期して、編込み済みコイル用マガジン80を回転させるように設定されている。
以上のように構成された本実施形態の編込み機により回転電機用コイル組立体を製造する際には、その編込み機に対して、複数のターン部が形成された2本のコイル線材30、30を次のようにセットして準備する。
先ず、各コイル供給用マガジン50、50の各第1搬送通路51、51にそれぞれコイル線材30、30を入口側から挿入し、各第1搬送通路51、51の出口側にある軸部材62上の位置で各コイル線材30、30のターン部42、42同士を交差させた状態にする。その後、編込み済みコイル用マガジン80の第2搬送通路81の入口側において、ターン部42、42同士が交差して編込み済みとなった状態のコイル線材31の端部をコイル搬送装置90のクランパ93で把持させる(図14参照)ことにより準備完了となる。
なお、支持装置60上に設置された両コイル供給用マガジン50、50の軸線のなす角度(各コイル線材30、30の各軸線のなす角度θ)は、初期設定として、用いられるコイル線材30、30の大きさ等に応じて10度〜90度の範囲で適宜調整される。また、両コイル供給用マガジン50、50は、各第1搬送通路51、51にそれぞれ配置された各コイル線材30、30が同一位相となる状態で停止している。
その状態で編込み機の運転が開始されると、コイル搬送装置90の駆動モータ95の作動により、ボールねじ部材94の回転を介して基台91が第2搬送通路81から遠ざかるように移動するのに伴って、コイル引出棒92およびクランパ93が第2搬送通路81から引き出されるように移動する。これにより、クランパ93に把持された編込み済みコイル線材30、30の端部が第2搬送通路81の出口側へ引き出されるように移動し、編込み済みコイル線材30、30に後続する両コイル線材30、30全体が所定の速度で搬送される。
これと同時に、コイル回転装置70、70の駆動モータ74、74の作動により、駆動歯車73、73および従動歯車72、72を介して、各コイル供給用マガジン50、50が回転することによって、各第1搬送通路51、51を搬送される各コイル線材30、30がそれぞれの軸線周りに同一方向へ回転する。また、コイル回転装置70、70の作動による各コイル線材30、30の回転動作と同期して、支持装置60の駆動モータ64の作動により支持装置60の上記揺動機構が作動し、両コイル供給用マガジン50、50の軸線のなす角度、即ち、各第1搬送通路51、51を搬送される各コイル線材30、30の各軸線のなす角度θが変化する。
この場合、各コイル線材30、30の上記の回転動作に、各コイル線材30、30の各軸線のなす角度θを変化させる動作が加わると、各コイル線材30、30の動作は、図15(A)〜(C)に示すようになる。なお、図15(A)〜(C)において、2本のコイル線材30、30の間にあるコイル線材30Aは、両コイル線材30、30のターン部同士が交差して編込み済まれた状態のものである。また、各コイル線材30、30、30Aは模式的に大きく示されている。
図15(A)は、2本のコイル線材30、30が縦列状に並んだ状態を示しており、この状態の時には角度θが最も大きくなる。そして、その状態から2本のコイル線材30、30がそれぞれ1/4回転して横列状に並んだ状態の時には角度θが最も小さくなるように変化する(図15(B)参照)。更に、その状態から2本のコイル線材30、30がそれぞれ1/4回転して縦列状に並んだ状態の時には角度θが再び最も大きくなるように変化する(図15(C)参照)。その後、2本のコイル線材30、30がそれぞれ1/4回転する毎に同様の動作を繰り返す。
即ち、このような動作を繰り返せば、2本のコイル線材30、30が縦列状に並んだ状態の時に角度θが最も大きくなることによって(図15(A)(C))、2本のコイル線材30、30のターン部42、42同士の干渉が回避される。また、2本のコイル線材30、30が横列状に並んだ状態の時に角度θが最も小さくなることによって(図15(B))、各コイル線材30、30の変形が確実に少なく抑えられ、編込みが確実に且つ安定的に行われる。なお、ここでの角度θは、10度以上90度以下の範囲で最適な角度が選択的に設定される。
そして、さらに、編込み済みコイル回転装置75の作動開始により、第2搬送通路81を搬送される編込み済みコイル線材30、30が、編込み済みコイル用マガジン80と共に、編込み前の各コイル線材30、30と同一方向へ軸線周りに回転する。この編込み済みコイル回転装置75による編込み済みコイル線材30、30の回転は、上記のコイル回転装置70、70による各コイル線材30、30の回転と同期して行われる。
上記のように各装置の作動が同時に開始されると、各コイル供給用マガジン50、50の各第1搬送通路51、51の出口からそれぞれ搬出された両コイル線材30、30は、各コイル線材30、30の各軸線が交差する所に位置する軸部材62上を通過する。この時、各コイル線材30、30の対応するターン部42、42同士が順次交差していくことにより連続して編込みが行われる。
本実施形態の場合には、各コイル線材30、30の回転動作と各コイル線材30、30の各軸線のなす角度θが上記のように変化する動作が同時に行われていることから、ターン部同士が交差した時に各コイル線材30、30の各軸線のなす角度θが最小となる。そのため、各コイル線材30、30のターン部同士の干渉を回避しつつ、対応するターン部同士を確実に順次交差させることが可能となり、コイル線材30、30の編込みが確実に且つ安定的に行われる。
その後、各ターン部同士が交差した状態の編込み済みコイル線材30、30は、編込み済みコイル用マガジン80の第2搬送通路81に案内され出口側へ向かって搬送される。この時、第2搬送通路81を搬送される編込み済みコイル線材30、30は、編込み済みコイル回転装置75により回転する編込み済みコイル用マガジン80と共に、編込み前の各コイル線材30、30と同一方向へ軸線周りに回転する。これにより、コイル回転装置70、70により回転された編込み前の各コイル線材30、30と編込み済みコイル線材30、30との間に生じる回転ねじれが解消され、各コイル線材30、30の変形が効果的に防止される。
以上のようにして、各第1搬送通路51、51の出口から搬出された各コイル線材30、30の最終端部が軸部材62上を通過し、各コイル線材30、30の対応する全てのターン部42、42同士の交差が終了することによって、2本のコイル線材30、30の編込みが完了する。
このように編込まれた2本一組のコイル線材は、上記の編込み機に対して、コイル搬送装置90のクランパ93等の一部が必要に応じて変更された編込み機を用いて、4本一組のコイル線材に編み込まれる。次いで、4本一組のコイル線材は、上記と同様に、8本一組のコイル線材に編み込まれる。そして、8本一組のコイル線材は、4本一組のコイル線材と編み込まれることにより、最終的に12本一組のコイル線材の編込みが完了する。この12本一組に編み込まれたコイル線材は、各コイル線材の端部が複数箇所で接合されると共に、全体をドーナツ状に成形されることによって、図3に示すコイル組立体20が完成する。
以上のように、本実施形態の回転電機用コイル組立体の編込み機によれば、各コイル供給用マガジン50、50の各第1搬送通路51、51を搬送される各コイル線材30、30を、コイル回転装置70、70によりそれぞれ軸線周りに回転させるようにしているので、ターン部42、42同士が干渉することなく編込みを行うことが可能となる。そのため、従来行われていた、一方のコイル線材30の周りに他方のコイル線材30を公転させる場合や、両方のコイル線材30、30を互いに公転させる場合と比較して、各コイル線材30、30の各軸線なす角度θを小さくすることが可能となるため、コイル線材30、30の編込み時に生じる変形を抑えることができる。
特に、本実施形態の編込み機では、コイル回転装置70、70による各コイル線材30、30の回転動作と、支持装置60の揺動機構による各コイル線材30、30の各軸線のなす角度θを上記のように変化させる動作が、同時に行われるようにしているので、ターン部同士が交差した時に各コイル線材30、30の各軸線のなす角度θが最小となる。そのため、各コイル線材30、30のターン部42、42同士の干渉を回避しつつ、対応するターン部42、42同士を確実に順次交差させることができ、コイル線材30、30の編込みを確実に且つ安定的に行うことができる。また、支持装置60の揺動機構は、簡易な構成で実現することができる。
本実施形態において、各コイル線材30、30をそれぞれ軸線周りに回転させるコイル回転装置70、70は、コイル線材を互いに公転させるタイプの回転装置よりも小型化することが可能であるので、編込み機の小型化および低コスト化を図ることができる。さらに、各コイル線材30、30の回転動作が小さいので、容易に高速回転させることができ、編込みの高速化を実現することが可能となる。
また、コイル回転装置70、70は、各コイル線材30、30を各軸線周りに同期をとりながら回転させるので、各コイル線材30、30の各ターン部42、42同士を一端側から他端側に向かって順次、円滑に交差させていくことができる。また、本実施形態では、コイル回転装置70、70によって、各コイル線材30、30を同一位相(即ち、位相角差0度)で回転させるので、ターン部42、42同士の干渉を回避しつつ、対応するターン部42、42同士を確実に順次交差させることができる。
また、本実施形態においては、編込み済みコイル回転装置75を作動させて編込み済みコイル用マガジン80を回転させることによって、第2搬送通路81を搬送される編込み済みコイル線材31を、編込み前の各前記コイル線材と同一方向へ軸線周りに回転させるようにしているため、コイル回転装置70、70により回転された編込み前の各コイル線材30、30と編込み済みコイル線材30、30との間に生じる回転ねじれを解消することができるので、各コイル線材30、30の変形を効果的に防止することができる。
なお、本実施形態では、コイル搬送装置90のコイル引出棒92が駆動モータ96により回転駆動可能に設けられているため、コイル引出棒92の先端に設けられたクランパ93が第2搬送通路81から抜け出した後は、このコイル引出棒92の回転駆動を続行することによって、クランパ92で把持した編込み済みコイル線材30、30を回転させることができる。
なお、本実施形態では、各コイル線材30、30を各軸線周りに同一位相(位相角差0度)でそれぞれ回転させるように構成されているが、0度より大きく且つ90度以下の位相で回転させるようにしてもよい。各コイル線材30、30の回転位相をずらすことによって、ターン部42、42同士の干渉が生じない範囲で、各コイル線材30、30の各軸線のなす角度θをより小さく設定しつつ、対応するターン部42、42同士を確実に順次交差させることができる。ボールねじ部材94および駆動モータ95は、上記と同じものである。
図16および図17(A)(B)は、各コイル線材30、30の位相角差が90度とされ、その位相角差が編込み中に変化する場合に用いられるコイル搬送装置90Aを示す図である。このコイル搬送装置90Aは、コイル引出棒が、内軸部材92aとこの内軸部材92aの外周に嵌装された外筒部材92bとにより構成されている点で、図13および図14に示すコイル搬送装置90と異なる。内軸部材92aと外筒部材92bは、相対回転可能であり、その基端部が基台91の内部に設けられたベアリングを含む軸受91aに回転自在に保持されている。そして、内軸部材92aは駆動モータ(サーボモータ)96aにより回転駆動可能とされ、外筒部材92bは駆動モータ(サーボモータ)96bおよびギヤ96cにより回転駆動可能とされている。
図17(A)(B)に示すように、内軸部材92aの先端には、径方向外方へ突出する円弧状のフランジ部92cが設けられている。一方、外筒部材92b先端のフランジ部92cと径方向において対向する部位には、軸方向外方へ突出する円弧状の突出部92dが設けられている。内軸部材92aのフランジ部92cは、図18(B)に示すように、外筒部材92bに対して角度α(約90度)の範囲で相対回転可能とされている。
フランジ部92cの軸方向外面には、編込み済みの一方のコイル線材30aを把持するクランパ97が、2本の連結棒97a、97aを介して取り付けられている。このクランパ97は、固定ねじ97bで着脱可能な押さえ板97cにより一方のコイル線材30aを把持するように構成されている。また、突出部92dの軸方向端面には、編込み済みの他方のコイル線材30bを把持するクランパ98が、2本の連結棒98a、98aを介して取り付けられている。このクランパ98は、固定ねじ98bで着脱可能な押さえ板98cにより他方のコイル線材30bを把持するように構成されている。
なお、ここで用いられる編込み済みコイル用マガジン80Aは、内軸部材92aと外筒部材92bがそれぞれのクランパ97、98で2本のコイル線材30a、30bを把持した状態で回転するように構成されていることから、図18に示すように、第2搬送通路81の断面形状が円形にされている。
以上のように構成されたコイル搬送装置90Aおよび編込み済みコイル用マガジン80Aを備えた編込み機により、コイル組立体を製造する場合には、コイル搬送装置90Aのコイル引出棒が、それぞれ先端にクランパ97、98が設けられた内軸部材92aおよび外筒部材92bにより構成されているので、編込み済みの2本のコイル線材30a、30bを各クランパ97、98で個別に把持することができる。そのため、編込まれるコイル線材30a、30bの位相角差が編込み途中で変化する場合でも、各クランパ97、98で個別に把持した各コイル線材97、98を、編込み前の各コイル線材30a、30bと同じ回転方向へそれぞれ回転させることができる。これにより、編込み前のコイル線材30a、30bと編込み済みのコイル線材30a、30bとの間に生じる回転ねじれを解消することができるので、コイル線材30a、30bのねじれ変形を確実に防止することができる。
なお、この場合、各コイル線材30、30の位相角差が90度とされているため、各コイル線材30、30の各軸線のなす角度θを最小に設定することができる。
図19は、上記実施形態において用いられた支持装置60の変形例に係る支持装置60Aを示す図である。この支持装置60Aは、図示しないコイル供給用マガジンをそれぞれ支持する支持基板61、61と、各支持基板61、61の各コイル供給用マガジンの入口側端部にそれぞれ一端が揺動自在に連結された2本のリンク部材66、66と、各リンク部材66、66の他端部同士が1箇所で揺動自在に連結されたラック67と、ラック67の歯に噛合され図示しない駆動モータに駆動されるピニオン68と、からなる揺動機構を備えている。なお、支持基板61、61は、図示しないベース上に設けられた軸部材62に、一端部が重ね合わされた状態で枢支されており、軸部材62を中心にして水平方向へ揺動可能とされている。
この支持装置60Aは、図示しない駆動モータによりピニオン68が回転駆動されると、ピニオン68に噛合されたラック67が、ピニオン68の回転方向により各支持基板61、61に対して前進移動または後退移動する。ラック67が前進した時には、リンク部材66、66の支持基板61、61側の端部同士が離間するように移動することによって、支持基板61、61の各コイル供給用マガジンの入口側端部同士が離間するように移動する。これにより、各支持基板61、61上に設置される各コイル供給用マガジンの各第1搬送通路を搬送されるコイル線材の軸線のなす角度θが大きくされる。
また、ラック67が後退した時には、リンク部材66、66の支持基板61、61側の端部同士が接近するように移動することによって、支持基板61、61の各コイル供給用マガジンの入口側端部同士が接近するように移動する。これにより、各支持基板61、61上に設置される各コイル供給用マガジン50、50の各第1搬送通路51、51を搬送されるコイル線材30、30の軸線のなす角度θが小さくされる。
以上のように構成された支持装置60Aによれば、コイル回転装置70、70による各コイル線材30、30の回転動作と同期して、各コイル供給用マガジン50、50の入口側端部を揺動させることにより、各第1搬送通路51、51を搬送される各コイル線材30、30の各軸線のなす角度θを変化させる揺動機構を備えているため、ターン部42、42同士の干渉を回避しつつ、対応するターン部42、42同士を確実に順次交差させることが可能となり、コイル線材30、30の編込みを確実に且つ安定的に行うことができる。また、支持装置60Aの揺動機構は、簡易な構成で実現することができる。
20…コイル組立体 30、30A、30a、30b…コイル線材 42…ターン部 50…コイル供給用マガジン 51…第1搬送通路 60、60A…コイル支持装置 61…支持基板 62、66…リンク部材 63…ボールねじ部材 64…駆動モータ 67…ラック 68…ピニオン 70…コイル回転装置 72…従動歯車 73…駆動歯車 75…編込み済みコイル回転装置 80…編込み済みコイル用マガジン 81…第2搬送通路 90、90A…コイル搬送装置 91…基台 92…コイル引出棒 92a…内軸部材(棒状部材) 92b…外筒部材(棒状部材) 93…クランパ 94…ボールねじ部材(移動手段) 95、96…駆動モータ