以下に、本発明に係る動力伝達装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る動力伝達装置の概略断面図、図2は、実施形態1に係る動力伝達装置の動作を説明する線図である。
図1に示す本実施形態の動力伝達装置1は、車両に搭載され、内燃機関などの動力発生源が発生する動力(トルク)を車両の車輪に伝達するものである。 この動力伝達装置1は、接触させた回転要素間に介在させた流体例えばトラクション油(伝達油)によってこの回転要素間で動力を伝達可能ないわゆるトラクションドライブ方式の動力伝達装置である。動力伝達装置1は、一方の回転要素と他方の回転要素との接触面に介在するトラクション油をせん断するときに生ずる抵抗力を利用して動力を伝達する。本実施形態の動力伝達装置1は、伝達機構としての変速装置2と、押圧機構3とを備える。
なお、以下の説明では、特に断りのない限り、動力伝達装置1の回転軸線X1に沿った方向を軸方向といい、回転軸線X1に直交する方向、すなわち、軸方向に直交する方向を径方向といい、回転軸線X1周りの方向を周方向という。また、径方向において回転軸線X1側を径方向内側といい、反対側を径方向外側という。また、この動力伝達装置1は、回転軸線X1を中心軸線としてほぼ対称になるように構成されることから、この図1には、回転軸線X1を中心軸線として一方側のみを図示し、特に断りのない限り、回転軸線X1を中心軸線として一方側のみを説明し、他方側の説明はできるだけ省略する。
変速装置2は、回転要素間に介在させたトラクション油によって動力を伝達可能なものである。変速装置2は、回転要素として入力ディスク21と出力ディスク22と遊星ボール23とを含んで構成される。この変速装置2は、軸方向に対して入力ディスク21と出力ディスク22との間に遊星ボール23が配置される。変速装置2は、変速比変更部24が作動することで、入力ディスク21の回転速度(回転数)と出力ディスク22の回転速度(回転数)との比である変速比を無段階に変更可能なボールプラネタリ式の無段変速装置である。変速装置2は、回転要素同士の間、ここでは、入力ディスク21と遊星ボール23、出力ディスク22と遊星ボール23との間に介在するトラクション油膜のせん断力によって、入力ディスク21と遊星ボール23との間、出力ディスク22と遊星ボール23との間で動力(トルク)を伝達する。
具体的には、入力ディスク21は、変速装置2の入力部材をなし、動力発生源が発生する動力(トルク)が入力されるものである。出力ディスク22は、変速装置2の出力部材をなし、入力ディスク21に入力され変速された動力を車輪側に向けて出力するものである。入力ディスク21、出力ディスク22は、ともに円環板状の形状をなし回転軸線X1を中心として回転可能に設けられる。入力ディスク21、出力ディスク22は、軸方向に対して互いに対向して配置される。
遊星ボール23は、球状に形成され、外面が入力ディスク21、出力ディスク22と接触し、この入力ディスク21と出力ディスク22との間で動力を伝達する伝達部材である。遊星ボール23は、回転軸線X1の周方向に沿って複数設けられる。遊星ボール23は、いわゆるトラクション遊星ギヤ機構におけるボール型ピニオンに相当する。入力ディスク21、出力ディスク22は、当接面21a、22aが各遊星ボール23の外面23aにそれぞれトルク伝達可能に接触する。当接面21a、22aは、それぞれ、入力ディスク21、出力ディスク22の径方向外側端部、すなわち、外周部の遊星ボール23側の側面に設けられている。
変速比変更部24は、アーム部材、支持軸や軸受部材などを含んで構成され、複数の遊星ボール23をそれぞれ回転軸線X2周りに自転自在かつ回転軸線X1周りに公転自在に支持するものである。変速比変更部24は、遊星ボール23の回転軸線X2が回転軸線X1を含む平面内に位置し、かつその平面内で、回転軸線X1と平行な状態と、その平行状態から傾斜する状態とに揺動(傾転)させることができるように構成されている。変速比変更部24は、アーム部材などが作動し回転軸線X2を傾けることで入力ディスク21と遊星ボール23との接触半径r11と、出力ディスク22と遊星ボール23の接触半径r12との比率を変更し、これにより、入力側と出力側との回転速度比である変速比を変更する。
つまり、変速装置2は、変速比変更部24が遊星ボール23の回転軸線X2を傾斜させることで変速比を無段階に変更させることができる。ここで、接触半径r11は、入力ディスク21の当接面21aが接触している接触点での遊星ボール23の回転半径(回転軸線X2からの半径)に相当する。接触半径r12は、出力ディスク22の当接面22aが接触している接触点での遊星ボール23の回転半径に相当する。
この図1に例示する変速装置2は、回転軸線X2が回転軸線X1と平行に設定されている場合、接触半径r11と接触半径r12とがほぼ同等であることから、変速比は1となる。一方、変速装置2は、変速比変更部24が作動し回転軸線X2が回転軸線X1に対して傾斜し、例えば、図中の回転軸線X2’まで傾いた場合には、接触半径r11が相対的に減少して接触半径r11’となり接触半径r12が相対的に増加して接触半径r12’となり、変速比が変更される。このようにして変速装置2は、この遊星ボール23の自転中心である回転軸線X2の傾斜角度(傾転角度)に応じて変速比が連続的に変更される。
押圧機構3は、回転要素同士の接触部分、すなわち、入力ディスク21の当接面21aと遊星ボール23の外面23aとの接触点、出力ディスク22の当接面22aと遊星ボール23の外面23aとの接触点に押圧力を作用させるものである。上記のように構成されるトラクションドライブ方式の変速装置2は、回転要素間で動力を伝達する際には接触部分に伝達トルクの大きさに応じた大きな押圧力を必要とする。押圧機構3は、このための押圧力を発生させるものである。
押圧機構3は、回転要素同士を相対的に接近させる方向への推力を発生させ、その推力によって回転要素同士を押し付ける押圧力を発生させる。ここでは、押圧機構3は、入力ディスク21に対して、軸方向に沿った遊星ボール23側への推力を発生させることで、入力ディスク21と遊星ボール23、遊星ボール23と出力ディスク22とを相対的に接近させる方向への推力を発生させる。これにより、押圧機構3は、その推力によって入力ディスク21と遊星ボール23、遊星ボール23と出力ディスク22とを押し付ける押圧力を発生させる。
この結果、動力伝達装置1は、押圧機構3が発生させる押圧力に応じた伝達トルク容量が確保される。したがって、動力伝達装置1は、変速装置2の入力ディスク21に伝達された動力(トルク)をこの押圧力に応じた伝達トルク容量で遊星ボール23を介して出力ディスク22に伝達することができる。このとき、動力伝達装置1は、当接面21a、当接面22aと外面23aとの各接触点に介在するトラクション油をせん断するときに生ずる抵抗力を利用して動力を伝達する。そしてこの間、出力ディスク22に現れるトルクは、入力ディスク21へのトルクを変速装置2にて変速比に応じて増減したトルクとなる。
ところで、本実施形態の動力伝達装置1は、例えば、この動力伝達装置1を搭載した車両が停止している状態である場合、後述する油圧制御装置9のオイルポンプなども停止しトラクションドライブの接触部分、つまり、当接面21a、当接面22aと外面23aとの各接触点にトラクション油を供給するための供給系統も停止している。一般にトラクションドライブ方式の動力伝達装置では、上記のようにオイルポンプが停止した状態ではプレロードによって上記接触点に押圧力を作用させる場合があり、この場合、短期的には各接触点にトラクション油の油膜を保持することができる。しかしながら、動力伝達装置1は、例えば、車両が長期間にわたって放置された場合などには、トラクションドライブの各接触点のトラクション油が自重により落下したり蒸発して油膜が消滅したりすることで各接触点にトラクション油が不足する事態が生じるおそれがある。これにより、この動力伝達装置1は、再始動時に接触点が油切れ状態で始動されることとなり、この結果、この接触点が金属接触し耐久性が低下するおそれがある。
これに対して動力伝達装置1は、例えば、車両の停止時などに当接面21a、当接面22aと外面23aとの各接触点に作用する押圧力(押圧荷重)を十分に大きくすることで各接触点にトラクション油を長期間保持することも可能ではある。しかしながら、この場合、動力伝達装置1は、各接触点に作用する押圧力が過大になりすぎることで、通常運転時の動力の伝達効率が低下するおそれがあり、また、この接触点を構成する当接面21a、当接面22a、外面23aの寿命が短くなるおそれもある。
例えば、特開2003−028257号公報などに記載されたトロイダル型無段変速機では、トルクカム及び一部のバネによってトラクションドライブの接触面に押圧荷重を作用させる一方、油圧アクチュエータによってこの押圧荷重において余剰となる荷重分を打ち消している。しかしながら、このトロイダル型無段変速機では、打ち消されるのはトルクカム及び一部のバネ(トルクカム荷重の増大にともなってバネのたわみが減少する方向のバネ)の荷重のみであり、停止時に大きな荷重を発生する他のバネ(トルクカム荷重の増大にともなってバネのたわみが増加する方向のバネ)の荷重は基本的には打ち消されないので、上記問題を解決できない。
そこで、本実施形態の動力伝達装置1は、押圧機構3によって、少なくとも入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23の回転が停止し変速装置2による動力の伝達が停止した状態での押圧力を入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23が回転し変速装置2による動力の伝達が開始される際の押圧力より大きくすることで、耐久性の低下抑制と伝達効率の低下抑制との両立を図っている。これにより、この動力伝達装置1は、変速装置2を長期に亘って停止していた場合であっても再始動時に適正に始動することができる。
具体的には、この動力伝達装置1が備える押圧機構3は、図1に示すように、主押圧機構4と、常時押圧機構5と、押圧打消機構6とを有する。
主押圧機構4は、押圧機構3において、入力ディスク21、出力ディスク22と遊星ボール23とを相対的に接近させる方向への推力を発生させ、その推力によって入力ディスク21、出力ディスク22と遊星ボール23とを押し付ける押圧力を発生させるための主たる機構である。この主押圧機構4は、基本的には変速装置2による動力の伝達時に押圧力を発生させる。主押圧機構4は、入力ディスク21に入力され伝達されるトルクの大きさに応じて、入力ディスク21に対して、軸方向に沿った遊星ボール23側への推力を発生させる。これにより、主押圧機構4は、変速装置2に入力され伝達されるトルクの大きさに応じた押圧力を発生させる。
本実施形態の主押圧機構4は、いわゆるトルクカム機構である。主押圧機構4は、入力ディスク21と同一軸線上に対向して配置されるカムディスク41と、軸方向に対してこのカムディスク41と入力ディスク21との間に設けられるカムボールなどの転動体42とを含んで構成される。カムディスク41は、回転軸線X1を中心にして回転可能な入力軸8に対して、相互に動力伝達可能(つまり一体回転可能)かつ軸方向に沿って相対移動可能に接続される。入力ディスク21とカムディスク41とは、軸方向に対して互いに対向する面にそれぞれいわゆるカム面43、44が形成される。
主押圧機構4は、入力軸8などを介してカムディスク41に所定のトルクが作用すると、そのトルクを転動体42を介して入力ディスク21に伝達する。このとき、主押圧機構4は、カムディスク41と入力ディスク21と相対変位に伴って転動体42とカム面43、44との作用によりこのトルクに応じた軸方向の推力を発生させ、その推力によって入力ディスク21を遊星ボール23側に押し付ける。つまり、主押圧機構4は、カムディスク41と入力ディスク21との間に作用するトルクを軸方向に向けた推力に変換して入力ディスク21を遊星ボール23に向けて押圧する。
この結果、主押圧機構4は、当接面21a、当接面22aと外面23aとの接触点に、変速装置2に入力され伝達されるトルクの大きさに応じた押圧力を作用させることができる。主押圧機構4は、変速装置2に入力され伝達されるトルクが大きくなるほどトラクションドライブの接触部分に作用させる押圧力を大きくする。
常時押圧機構5は、少なくとも入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23の回転が停止し変速装置2による動力の伝達が停止した状態であるとき、ここでは、常に入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23の接触部分に押圧力を発生させるものである。つまり、常時押圧機構5は、入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23の回転が停止し変速装置2による動力の伝達が停止した状態及び入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23が回転し変速装置2により動力が伝達される状態を通じて上記押圧力を発生させるための推力を常に作用させる。
ここで、入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23の回転が停止した状態は、変速装置2での動力の伝達が停止した状態であり、典型的にはいわゆるIG−OFFの状態である。この場合、この動力伝達装置1は、後述の油圧制御装置9のオイルポンプなども停止しトラクションドライブの接触部分、つまり、当接面21a、当接面22aと外面23aとの各接触点にトラクション油を供給するための供給系統も停止している。一方、入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23が回転した状態は、押圧機構3がトラクションドライブの接触部分に押圧力を作用させることで、変速装置2で動力が伝達される状態であり、典型的にはいわゆるIG−ONの状態である。常時押圧機構5は、IG−ONの状態だけでなく、IG−OFFの状態にも常時荷重(押圧力)を作用させるための推力を発生させる。
本実施形態の常時押圧機構5は、主押圧機構4が発生させる押圧力と直列で押圧力を作用させる。この常時押圧機構5は、押圧力を発生させるバネ部材としての直列バネ51を有し、この直列バネ51の付勢力により入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23の接触部分に押圧力を作用させる。
具体的には、直列バネ51は、例えば皿バネなどにより構成され、カムディスク41の入力側、すなわち、カムディスク41の入力ディスク21側とは反対側に設けられる。直列バネ51は、軸方向に対してカムディスク41と入力軸8のフランジ部81との間に設けられる。フランジ部81は、入力軸8本体に一体的に設けられる円環板状の部分である。直列バネ51は、カムディスク41に当接し、その付勢力によりカムディスク41を軸方向に沿って入力ディスク21側に押圧する推力を常に発生させる。つまり、常時押圧機構5は、直列バネ51がその付勢力によって軸方向の推力を発生させ、カムディスク41を介して入力ディスク21を遊星ボール23側に押し付け、入力ディスク21を遊星ボール23に向けて押圧する。
この結果、常時押圧機構5は、主押圧機構4が発生させる押圧力と直列的に、主押圧機構4を構成する部材であるカムディスク41を直列バネ51が押圧することで、当接面21a、当接面22aと外面23aとの接触点に押圧力を作用させることができる。常時押圧機構5は、基本的には入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23の回転が停止し変速装置2による動力の伝達が停止したIG−OFFの状態であっても直列バネ51がこの押圧力を作用させ続ける。
押圧打消機構6は、入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23が回転し変速装置2により動力が伝達される状態で上記接触点に作用する押圧力の少なくとも一部を打ち消すものである。押圧打消機構6は、入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23が回転し変速装置2により動力が伝達されるIG−ONの状態で、常時押圧機構5による常時荷重(推力)を打ち消す(キャンセルする)方向の荷重(推力)を発生させる。
具体的には、押圧打消機構6は、内部に供給される流体例えばトラクション油としても兼用される作動油の圧力により押圧力を打ち消すための力を発生させる流体室としてのキャンセル油室61を有する。キャンセル油室61は、カムディスク41の入力ディスク21側に区画される。キャンセル油室61は、カムディスク41の円筒部45と、入力軸8に設けられるフランジ部材82と、これらの間に設けられるシール部材とによって区画される。円筒部45は、カムディスク41本体に一体的に設けられる円筒状の部分である。フランジ部材82は、入力軸8本体に一体的に設けられる円環板状の部材である。キャンセル油室61は、軸方向に対してカムディスク41を挟んで直列バネ51とは反対側でかつ上述した転動体42、カム面43、44の径方向内側に設けられる。キャンセル油室61は、種々の油路を介して油圧制御装置9に接続されている。
油圧制御装置9は、例えば、電子制御装置10により制御される種々の公知の油圧制御回路によって構成される。油圧制御装置9は、この動力伝達装置1の各部に供給されトラクション油としても兼用される作動油の流量あるいは油圧を制御する。油圧制御装置9は、キャンセル油室61に接続する油圧配管を含む複数の配管、オイルリザーバ、オイルポンプ、各油圧配管の油圧を各々に増減するための複数の電磁弁などを有する。電子制御装置10は、CPU、ROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子回路を含んで構成され、格納されているプログラムを実行することにより油圧制御装置9を制御する。本実施形態の電子制御装置10は、IG−ONが実行され、入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23が回転し変速装置2による動力の伝達が開始される際に、油圧制御装置9を制御し、キャンセル油室61に作動油を供給し、キャンセル油室61内の作動油の油圧(圧力)を予め設定された一定の油圧に保持する。
この結果、押圧打消機構6は、入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23が回転し変速装置2により動力が伝達されるIG−ONの状態でキャンセル油室61に所定の油圧が導入されることで、このキャンセル油室61内の油圧によって、カムディスク41に、入力ディスク21から離間する側に向けた軸方向の推力を作用させることができる。つまり、押圧打消機構6は、常時押圧機構5がカムディスク41に作用させる力の方向とは反対方向に向けた打消力(キャンセル押圧力)を発生させる。これにより、押圧打消機構6は、常時押圧機構5の直列バネ51の付勢力によって、入力ディスク21に軸方向の遊星ボール23側に向けて作用する推力、すなわち、入力ディスク21、出力ディスク22と遊星ボール23とを接近させ、押し付ける推力を打ち消すことができる。
したがって、押圧機構3は、少なくとも入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23の回転が停止し変速装置2による動力の伝達が停止した状態での押圧力を入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23が回転し変速装置2による動力の伝達が開始される際の押圧力より大きくすることができる。
図2は、動力伝達装置1の動作の一例を模式的に示した図であり、横軸を変速装置2が伝達するトルク、縦軸を変速装置2のトラクションドライブの接触点における押圧の荷重(有効押圧荷重)としている。図中、実線L1は、常時押圧機構5による押圧荷重(常時荷重(直列バネ51による直列バネ荷重))、実線L2は、主押圧機構4による押圧荷重(主荷重)、点線L3は、常時押圧機構5による押圧荷重の一部を押圧打消機構6で打ち消した場合の押圧荷重、太実線L4は、トラクションドライブの接触点に実際に作用するトータルの押圧荷重を表している。
上記のように構成される動力伝達装置1は、図2の点Aに示すように、入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23の回転が停止し変速装置2による動力の伝達が停止したIG−OFFの状態では、常時押圧機構5によって変速装置2のトラクションドライブの接触点にプレロードがかかっている。すなわち、動力伝達装置1は、この状態ではキャンセル油室61には油圧がなく、したがって、押圧打消機構6による打消力が発生しておらず、これにより、直列バネ51の付勢力による大荷重によって、入力ディスク21、出力ディスク22と遊星ボール23との接触点に大きな押圧力が作用している。この結果、動力伝達装置1は、例えば、この動力伝達装置1を搭載した車両が長期間にわたって停止した状態であっても、変速装置2のトラクションドライブの接触部分、つまり、当接面21a、当接面22aと外面23aとの各接触点にトラクション油の油膜を保持することができる。これにより、この動力伝達装置1は、再始動時に接触点が油切れ状態で始動されることを抑制することができ、接触点が金属接触し耐久性が低下することを抑制することができる。
動力伝達装置1は、IG−ONが実行され、入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23が回転し変速装置2による動力の伝達が開始されると、押圧打消機構6により常時押圧機構5による押圧力の一部が打ち消される。すなわち、動力伝達装置1は、IG−ONが実行され、キャンセル油室61に所定の油圧(例えば、いわゆるライン圧やその他調圧油圧など)が導入されると、直列バネ51の付勢力によりトラクションドライブの接触点に作用する押圧力の一部が打ち消され、太実線L4に示すように、実際に作用するトータルの押圧力(押圧荷重)が小さくなる。これにより、この動力伝達装置1は、トラクションドライブの接触点に過大な押圧力が作用することによる伝達効率の低下を抑制することができ、また、この接触点を構成する当接面21a、当接面22a、外面23aの寿命が短くなることを抑制することができる。
動力伝達装置1は、上記のように常時押圧機構5に直列バネ51を用いた場合、変速装置2に伝達されるトルクが比較的に小さく、主押圧機構4が作用させる押圧力(実線L2)が常時押圧機構5による押圧力の一部を押圧打消機構6で打ち消した場合の押圧力(点線L3)より小さい状態では、トラクションドライブの接触点に実際に作用するトータルの押圧力(太実線L4)は直列バネ51が作用させる押圧力に応じてほぼ一定である。そして、動力伝達装置1は、変速装置2に伝達されるトルクが増加するとこれに伴って主押圧機構4が作用させる押圧力(実線L2)が大きくなり、これが常時押圧機構5による押圧力の一部を押圧打消機構6で打ち消した場合の押圧力(点線L3)より大きくなると、これに伴ってトラクションドライブの接触点に実際に作用するトータルの押圧力(太実線L4)も増加するようになる。これにより、動力伝達装置1は、伝達トルク容量に応じた適正な大きさの押圧力を作用させることができる。
以上で説明した実施形態に係る動力伝達装置1によれば、入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23間に介在させたトラクション油によって動力を伝達可能な変速装置2と、入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23同士の接触部分に押圧力を作用させると共に、少なくとも入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23の回転が停止し変速装置2による動力の伝達が停止した状態での押圧力を入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23が回転し変速装置2による動力の伝達が開始される際の押圧力より大きくする押圧機構3とを備える。したがって、この動力伝達装置1は、耐久性の低下抑制と伝達効率の低下抑制とを両立することができる。
なお、以上の説明では、キャンセル油室61は、入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23が回転し変速装置2による動力の伝達が開始された際に内部に供給される作動油の油圧が予め設定された一定の油圧に保持されるものとして説明したが運転状態に応じて変化するように制御されてもよい。
また、以上で説明した動力伝達装置1は、例えば、常時押圧機構5をなす直列バネ51に相当するような部材が複数設けられている場合、入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23の回転が停止し変速装置2による動力の伝達が停止したIG−OFFの状態で接触点に作用させる押圧力が最大となる組み合わせに対応するように、押圧打消機構6を構成するとよい。また、動力伝達装置1は、直列バネ51が複数存在し、その合力が常時押圧機構5をなす他の部材による力と比較して最大である場合には、その直列バネ51の組み合わせに対応するように、押圧打消機構6を構成するとよい。
[実施形態2]
図3は、実施形態2に係る動力伝達装置の概略断面図である。実施形態2に係る動力伝達装置は、主押圧機構の構成が実施形態1に係る動力伝達装置とは異なる。その他、上述した実施形態と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す(以下の実施形態でも同様である)。
図3に示す本実施形態の動力伝達装置201は、ボールプラネタリ式の無段変速装置である伝達機構としての変速装置2と、押圧機構203とを備える。押圧機構203は、主押圧機構204と、常時押圧機構205と、押圧打消機構206とを有する。
本実施形態の主押圧機構204は、図1で説明したトルクカム機構とは異なるいわゆる油圧アクチュエータである。主押圧機構204は、内部に供給される流体例えばトラクション油としても兼用される作動油の圧力により押圧力を発生させる押圧室としての押圧油室241を有する。押圧油室241は、軸方向に対して入力ディスク21の一方側、ここでは遊星ボール23側とは反対側に区画される。押圧油室241は、入力軸8の円筒部281と、入力ディスク21の円板部221bと、これらの間に設けられるシール部材とによって区画される。円筒部281は、入力軸8に一体的に設けられる円筒状の部分である。円板部221bは、入力ディスク21本体に一体的に設けられる円環板状の部材である。ここでは、入力ディスク21は、入力軸8の円筒部281に対して、例えばボールスプラインなどを介して相互に動力伝達可能(つまり一体回転可能)かつ軸方向に沿って相対移動可能に接続される。押圧油室241は、軸方向に対して入力ディスク21の円板部221bを挟んで遊星ボール23とは反対側に設けられる。押圧油室241は、種々の油路を介して油圧制御装置9に接続されている。
主押圧機構204は、入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23が回転し変速装置2により動力が伝達される状態において、入力軸8などを介して入力ディスク21に所定のトルクが伝達されると、電子制御装置10が油圧制御装置9を制御することで、押圧油室241に作動油が供給され、押圧油室241内の作動油の油圧(圧力)が調節される。このとき、主押圧機構204は、押圧油室241内の作動油の油圧が入力ディスク21に伝達されるトルクに応じた油圧に応じて調節され、この押圧油室241内の作動油の油圧に応じて軸方向の推力を発生させ、その推力によって入力ディスク21を遊星ボール23側に押し付ける。この結果、主押圧機構204は、当接面21a、当接面22aと外面23aとの接触点に、変速装置2に入力され伝達されるトルクの大きさに応じた押圧力を作用させることができる。
本実施形態の常時押圧機構205が有する直列バネ51は、出力ディスク22の出力側、すなわち、出力ディスク22の遊星ボール23側とは反対側に設けられる。直列バネ51は、軸方向に対して出力ディスク22と入力軸8に設けられるフランジ部材282との間に設けられる。フランジ部材282は、入力軸8の円筒部281に一体的に設けられる円環板状の部材である。直列バネ51は、出力ディスク22に当接し、その付勢力により出力ディスク22を軸方向に沿って入力ディスク21側に押圧する推力を常に発生させる。なお、ここでの入力軸8は、軸方向に沿って出力ディスク22に対して相対移動可能な構成となっている。この結果、常時押圧機構205は、主押圧機構204が発生させる押圧力と直列的に、出力ディスク22を直列バネ51が押圧することで、当接面21a、当接面22aと外面23aとの接触点に押圧力を作用させることができる。
押圧打消機構206は、キャンセル油室61の内部に供給される流体例えばトラクション油としても兼用される作動油の圧力により押圧力を打ち消す。ここでは、キャンセル油室61は、入力ディスク21の円板部221bの遊星ボール23側に区画される。キャンセル油室61は、入力ディスク21の円板部221b及び円筒部221cと、入力軸8に設けられるフランジ部材282と、これらの間に設けられるシール部材とによって区画される。円筒部221cは、入力ディスク21の円板部221bに一体的に設けられる円筒状の部分である。フランジ部材283は、入力軸8本体に一体的に設けられる円環板状の部材である。キャンセル油室61は、軸方向に対して円板部221bを挟んで押圧油室241とは反対側に設けられる。この結果、押圧打消機構206は、常時押圧機構205の直列バネ51の付勢力によって、入力ディスク21に軸方向の遊星ボール23側に向けて作用する推力、すなわち、入力ディスク21、出力ディスク22と遊星ボール23とを接近させ、押し付ける推力を打ち消すことができる。
したがって、押圧機構203は、少なくとも入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23の回転が停止し変速装置2による動力の伝達が停止した状態での押圧力を入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23が回転し変速装置2による動力の伝達が開始される際の押圧力より大きくすることができる。そして、上記のように構成される動力伝達装置201は、図2を使って上述した動力伝達装置1の動作とほぼ同様に動作することができ、耐久性の低下抑制と伝達効率の低下抑制とを両立することができる。
[実施形態3]
図4は、実施形態3に係る動力伝達装置の概略断面図、図5は、実施形態3に係る変速装置の概略構成を説明する模式図である。実施形態3に係る動力伝達装置は、伝達機構の構成が実施形態1に係る動力伝達装置とは異なる。
図4に示す本実施形態の動力伝達装置301は、伝達機構としての変速装置302と、押圧機構303とを備える。
本実施形態の変速装置302は、回転要素間に介在させたトラクション油によって動力を伝達可能なものである。変速装置302は、回転要素として入力ディスク321と出力ディスク322とパワーローラ323とを含んで構成される。この変速装置302は、軸方向に対して入力ディスク321と出力ディスク322との間にパワーローラ323が配置される。変速装置302は、不図示の変速比変更部が作動することで、入力ディスク321の回転速度(回転数)と出力ディスク322の回転速度(回転数)との比である変速比を無段階に変更可能なトロイダル式の無段変速装置である。
具体的には、入力ディスク321は、変速装置302の入力部材をなし、動力発生源が発生する動力(トルク)が入力されるものである。出力ディスク322は、変速装置302の出力部材をなし、入力ディスク321に入力され変速された動力を車輪側に向けて出力するものである。入力ディスク321、出力ディスク322は、ともに回転軸線X1を中心として回転可能に設けられ、軸方向に対して互いに対向して配置される。この変速装置302は、一対の入力ディスク321と出力ディスク322とによって構成されるキャビティが2組設けられるいわゆるダブルキャビティ型のトロイダル式無段変速装置である。変速装置302は、軸方向に沿って一方のキャビティの入力ディスク321、出力ディスク322、他方のキャビティの出力ディスク322、入力ディスク321の順で設けられる。すなわち、変速装置302は、2つの入力ディスク321が2つの出力ディスク322を軸方向に挟み込むようにして構成される。
ここでは、各入力ディスク321は、入力軸(いわゆるバリエータ軸)8に対して、例えばボールスプラインなどを介して相互に動力伝達可能(つまり一体回転可能)かつ軸方向に沿って相対移動可能に接続される。また、各出力ディスク322は、例えばベアリングを介し入力軸8に回転可能に支持される。各出力ディスク322の間には、伝達されてきた動力を出力する出力ギヤ(不図示)が連結されている。
パワーローラ323は、ローラ状に形成され、外面が入力ディスク321、出力ディスク322と接触し、この入力ディスク321と出力ディスク322との間で動力を伝達する伝達部材である。入力ディスク321、出力ディスク322は、トロイダル面321a、322aがパワーローラ323の転動面(外周面)323aにそれぞれトルク伝達可能に接触する。パワーローラ323は、一対の入力ディスク321と出力ディスク322とによって構成されるキャビティに対してそれぞれ2つずつ、合計4つ設けられる。
変速装置302は、入力ディスク321と出力ディスク322との間に挟み込んだパワーローラ323を介して各入力ディスク321と出力ディスク322の間でトルクを伝達すると共に、パワーローラ323を傾転させて変速比を変化させる。変速装置302は、入力ディスク321、出力ディスク322及びパワーローラ323との間に形成されるトラクション油の油膜のせん断力を利用してトルクを伝達する。
各パワーローラ323は、例えば、変速比変更部をなすトラニオン(支持部材)などにより、図5に示すように、回転軸線X3を中心として回転(自転)可能に支持されている。このトラニオンは、回転軸線X4を中心として当該回転軸線X4周りに揺動可能であると共にこの回転軸線X4に沿った方向に移動可能に構成されている。回転軸線X4は、回転軸線X1と垂直な平面と平行であり、回転軸線X3は、回転軸線X4と垂直な平面と平行である。トラニオンは、回転軸線X4を回転中心として回転することで、パワーローラ323を回転軸線X4と垂直な平面内でこの回転軸線X4を中心として傾転自在とすることができる。
変速装置302は、例えば、変速比変更部をなす油圧機構などによって、パワーローラ323がトラニオンと共に入力ディスク321、出力ディスク322に対する中立位置から変速位置に移動(回転軸線X4に沿った方向への移動)することで、パワーローラ323と入力ディスク321、出力ディスク322との間に接線力が作用しサイドスリップが発生する。すると、変速装置302は、このパワーローラ323が入力ディスク321、出力ディスク322に対して回転軸線X4を中心として揺動、すなわち、傾転し、この結果、入力ディスク321とパワーローラ323との接触半径r21と、出力ディスク322とパワーローラ323の接触半径r22との比率が変更され、これにより、入力ディスク321と出力ディスク322との回転速度比である変速比が変更される。このようにして変速装置302は、パワーローラ323が入力ディスク321、出力ディスク322に対して傾転する角度、すなわち、パワーローラ323の自転中心である回転軸線X3の傾転角に応じて変速比が連続的に変更される。なおここで、接触半径r21は、入力ディスク321とパワーローラ323とが接触する接触半径(トロイダル面321aと転動面323aとの接触点と回転軸線X1との距離)に相当する。接触半径r22は、出力ディスク322とパワーローラ323とが接触する接触半径(トロイダル面322aと転動面323aとの接触点と回転軸線X1との距離)に相当する。
押圧機構303は、入力ディスク321のトロイダル面321aとパワーローラ323の転動面323aとの接触点、出力ディスク322のトロイダル面322aとパワーローラ323の転動面323aとの接触点に押圧力を作用させるものである。押圧機構303は、主押圧機構304と、常時押圧機構305と、押圧打消機構306とを有する。
本実施形態の主押圧機構304は、図1で説明した主押圧機構4と同様のいわゆるトルクカム機構である。主押圧機構304は、入力ディスク321などと同一軸線上に対向して配置されるカムディスク341と、軸方向に対してこのカムディスク341と一方の入力ディスク321(例えば図中左側の入力ディスク321)との間に設けられるカムロータなどの転動体342とを含んで構成される。カムディスク341と一方の入力ディスク321とは、軸方向に対して互いに対向する面にそれぞれいわゆるカム面343、344が形成される。主押圧機構304は、入力軸8などを介して上記一方の入力ディスク321に所定のトルクが作用すると、転動体342とカム面343、344との作用によりこのトルクに応じた軸方向の推力を発生させ、その推力によって一方の入力ディスク321をパワーローラ323側、さらに言えば、対となる出力ディスク322側に押し付ける。この結果、主押圧機構304は、トロイダル面321a、トロイダル面322aと転動面323aとの接触点に、変速装置302に入力され伝達されるトルクの大きさに応じた押圧力を作用させることができる。
常時押圧機構305は、直列バネ51の付勢力により入力ディスク321、出力ディスク322、パワーローラ323の接触部分に押圧力を作用させる。直列バネ51は、他方の入力ディスク321(例えば図中右側の入力ディスク321)の背面側、すなわち、他方の入力ディスク321のトロイダル面321aとは反対側に設けられる。直列バネ51は、軸方向に対して他方の入力ディスク321と入力軸8に設けられる部材のフランジ部381との間に設けられる。フランジ部381は、入力軸8に対して、例えばスプラインなどを介して相互に動力伝達可能(つまり一体回転可能)かつ軸方向に沿って相対移動可能に接続される部材に一体的に設けられる円環板状の部分である。直列バネ51は、他方の入力ディスク321に当接し、その付勢力により他方の入力ディスク321を軸方向に沿ってパワーローラ323側、さらに言えば、対となる出力ディスク322側に押圧する推力を常に発生させる。この結果、常時押圧機構305は、主押圧機構304が発生させる押圧力と直列的に、他方の入力ディスク321を直列バネ51が押圧することで、トロイダル面321a、トロイダル面322aと転動面323aとの接触点に押圧力を作用させることができる。
押圧打消機構306は、キャンセル油室61の内部に供給される流体例えばトラクション油としても兼用される作動油の圧力により押圧力を打ち消す。ここでは、キャンセル油室61は、カムディスク341の一方の入力ディスク321側に区画される。キャンセル油室61は、入力軸8に設けられるフランジ部材382と、一方の入力ディスク321に設けられるフランジ部材321bと、これらの間に設けられるシール部材とによって区画される。フランジ部材382、フランジ部材321bは、ともに入力軸8本体、一方の入力ディスク321本体にそれぞれ一体的に設けられる円環板状の部材である。フランジ部材382、フランジ部材321bは、軸方向に互いに対向し、この対向した側にキャンセル油室61を区画する。フランジ部材382、フランジ部材321bは、軸方向に対して、フランジ部材382が一方の入力ディスク321側、フランジ部材321bがカムディスク341側に配置される。キャンセル油室61は、軸方向に対してフランジ部材321bを挟んでカムディスク341とは反対側かつ上述した転動体342、カム面343、344の径方向内側に設けられる。この結果、押圧打消機構306は、常時押圧機構305の直列バネ51の付勢力によって、入力ディスク321に軸方向のパワーローラ323側に向けて作用する推力、すなわち、入力ディスク321、出力ディスク322とパワーローラ323とを接近させ、押し付ける推力を打ち消すことができる。
したがって、押圧機構303は、少なくとも入力ディスク321、出力ディスク322、パワーローラ323の回転が停止し変速装置302による動力の伝達が停止した状態での押圧力を入力ディスク321、出力ディスク322、パワーローラ323が回転し変速装置302による動力の伝達が開始される際の押圧力より大きくすることができる。そして、上記のように構成される動力伝達装置301は、図2を使って上述した動力伝達装置1の動作とほぼ同様に動作することができ、耐久性の低下抑制と伝達効率の低下抑制とを両立することができる。
[実施形態4]
図6は、実施形態4に係る動力伝達装置の概略断面図である。実施形態4に係る動力伝達装置は、主押圧機構の構成が実施形態3に係る動力伝達装置とは異なる。
図6に示す本実施形態の動力伝達装置401は、トロイダル式の無段変速装置である伝達機構としての変速装置302と、押圧機構403とを備える。押圧機構403は、主押圧機構404と、常時押圧機構405と、押圧打消機構306とを有する。
本実施形態の主押圧機構404は、図3で説明した主押圧機構204と同様のいわゆる油圧アクチュエータである。主押圧機構404は、内部に供給される流体例えばトラクション油としても兼用される作動油の圧力により押圧力を発生させる押圧室としての押圧油室441を有する。押圧油室441は、軸方向に対して一方の入力ディスク321(例えば図4中左側の入力ディスク321)のパワーローラ323側とは反対側に区画される。押圧油室441は、入力軸8に設けられるフランジ円筒部材481と、入力ディスク321と、これらの間に設けられるシール部材とによって区画される。フランジ円筒部材481は、入力軸8に対して軸方向に相対移動可能に設けられる部材である。押圧油室441は、軸方向に対して入力ディスク321を挟んでパワーローラ323とは反対側に設けられる。押圧油室441は、種々の油路を介して油圧制御装置9に接続されている。
主押圧機構404は、入力軸8などを介して上記入力ディスク321に所定のトルクが作用すると、電子制御装置10が油圧制御装置9を制御することで、押圧油室441に作動油が供給され、押圧油室441内の作動油の油圧(圧力)が入力ディスク321に伝達されるトルクに応じた油圧に応じて調節される。これにより、主押圧機構404は、この押圧油室441内の作動油の油圧に応じて軸方向の推力を発生させ、その推力によって、一方の入力ディスク321をパワーローラ323側、さらに言えば、対となる出力ディスク322(図4参照、以下同様)側に押し付ける。この結果、主押圧機構304は、トロイダル面321a、トロイダル面322aと転動面323aとの接触点に、変速装置302に入力され伝達されるトルクの大きさに応じた押圧力を作用させることができる。
常時押圧機構405は、直列バネ51の付勢力により入力ディスク321、出力ディスク322、パワーローラ323の接触部分に押圧力を作用させる。直列バネ51は、フランジ円筒部材481の押圧油室441側とは反対側に設けられる。直列バネ51は、軸方向に対して他方の入力ディスク321と入力軸8のフランジ部482との間に設けられる。フランジ部482は、入力軸8本体に一体的に設けられる円環板状の部分である。直列バネ51は、フランジ円筒部材481に当接し、その付勢力により入力ディスク321を軸方向に沿ってパワーローラ323側、さらに言えば、対となる出力ディスク322側に押圧する推力を常に発生させる。この結果、常時押圧機構405は、主押圧機構404が発生させる押圧力と直列的に、他方の入力ディスク321を直列バネ51が押圧することで、トロイダル面321a、トロイダル面322aと転動面323aとの接触点に押圧力を作用させることができる。なお、押圧打消機構306は、図4で説明した押圧打消機構306とほぼ同様の構成であるのでその説明を省略する。
したがって、押圧機構403は、少なくとも入力ディスク321、出力ディスク322、パワーローラ323の回転が停止し変速装置302による動力の伝達が停止した状態での押圧力を入力ディスク321、出力ディスク322、パワーローラ323が回転し変速装置302による動力の伝達が開始される際の押圧力より大きくすることができる。そして、上記のように構成される動力伝達装置401は、図2を使って上述した動力伝達装置1の動作とほぼ同様に動作することができ、耐久性の低下抑制と伝達効率の低下抑制とを両立することができる。
[実施形態5]
図7は、実施形態5に係る動力伝達装置の概略断面図、図8は、実施形態5に係る動力伝達装置の動作を説明する線図である。実施形態5に係る動力伝達装置は、常時押圧機構の構成が実施形態1に係る動力伝達装置とは異なる。
図7に示す本実施形態の動力伝達装置501は、ボールプラネタリ式の無段変速装置である伝達機構としての変速装置2と、押圧機構503とを備える。押圧機構503は、主押圧機構4と、常時押圧機構505と、押圧打消機構506とを有する。主押圧機構4は、図1で説明した主押圧機構4とほぼ同様の構成のトルクカム機構であるのでその説明を省略する。ただし、動力伝達装置501のカムディスク41は、回転可能な入力軸8本体に一体的に設けられ、円筒部45(図1参照)などを有さない。
本実施形態の常時押圧機構505は、主押圧機構4が発生させる押圧力と並列で押圧力を作用させる。この常時押圧機構505は、直列バネ51にかえて、押圧力を発生させるバネ部材としての並列バネ551を有し、この並列バネ551の付勢力により入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23の接触部分に押圧力を作用させる。
具体的には、並列バネ551は、例えば皿バネなどにより構成され、入力ディスク21の入力側、すなわち、入力ディスク21の遊星ボール23側とは反対側に設けられる。並列バネ551は、軸方向に対してカムディスク41と入力ディスク21の円板部521aとの間に設けられる。円板部521aは、入力ディスク21本体に一体的に設けられる円環板状の部材であり、円筒部521bを介して入力ディスク21本体と一体で形成される。並列バネ551は、一方の端部(内周側端部)がスナップリング552を介して入力軸8に位置決めされ、他方の端部(外周側端部)が入力ディスク21に当接する。並列バネ551は、その付勢力により入力ディスク21を軸方向に沿って遊星ボール23側、すなわち、出力ディスク22側に押圧する推力を常に発生させる。この結果、常時押圧機構505は、主押圧機構4が発生させる押圧力と並列的に、並列バネ551が入力ディスク21を押圧することで、当接面21a、当接面22aと外面23aとの接触点に、押圧力を作用させることができる。
押圧打消機構506は、キャンセル油室61の内部に供給される流体例えばトラクション油としても兼用される作動油の圧力により押圧力を打ち消す。ここでは、キャンセル油室61は、入力ディスク21の円板部521aの遊星ボール23側に区画される。キャンセル油室61は、入力ディスク21の円板部521a及び円筒部521bと、入力軸8のフランジ部581と、これらの間に設けられるシール部材とによって区画される。フランジ部材581は、入力軸8本体に一体的に設けられる円環板状の部分である。キャンセル油室61は、軸方向に対して円板部521aを挟んで並列バネ551とは反対側に設けられる。この結果、押圧打消機構506は、常時押圧機構505の並列バネ551の付勢力によって、入力ディスク21に軸方向の遊星ボール23側に向けて作用する推力、すなわち、入力ディスク21、出力ディスク22と遊星ボール23とを接近させ、押し付ける推力を打ち消すことができる。
したがって、押圧機構503は、少なくとも入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23の回転が停止し変速装置2による動力の伝達が停止した状態での押圧力を入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23が回転し変速装置2による動力の伝達が開始される際の押圧力より大きくすることができる。
図8は、動力伝達装置501の動作の一例を模式的に示した図であり、図中、実線L1は、主押圧機構4による押圧荷重(主荷重)に常時押圧機構505による押圧荷重(常時荷重(並列バネ551による並列バネ荷重))を加えた加算荷重、実線L2は、主荷重、点線L3は、上記加算荷重の一部を押圧打消機構506で打ち消した場合の押圧荷重、太実線L4は、トラクションドライブの接触点に実際に作用するトータルの押圧荷重を表している。ここでは、実線L1−実線L2に相当する荷重が並列バネ551による並列バネ荷重に相当する。
上記のように構成される動力伝達装置501は、図8の点Aに示すように、入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23の回転が停止し変速装置2による動力の伝達が停止したIG−OFFの状態では、押圧打消機構506による打消力が発生しておらず、これにより、並列バネ551の付勢力による大荷重によって、入力ディスク21、出力ディスク22と遊星ボール23との接触点に大きな押圧力が作用している。動力伝達装置501は、IG−ONが実行され、入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23が回転し変速装置2による動力の伝達が開始されキャンセル油室61に所定の油圧が導入されると、並列バネ551の付勢力によりトラクションドライブの接触点に作用する押圧力の一部が打ち消され、太実線L4に示すように、実際に作用するトータルの押圧力(押圧荷重)が小さくなる。
そして、動力伝達装置501は、上記のように常時押圧機構505に並列バネ551を用いた場合、直列バネ51を用いた場合とは異なり、一旦、変速装置2にトルクが伝達されはじめると、常に、主押圧機構4が作用させる押圧力に並列バネ551による押圧力を加えた荷重がトラクションドライブの接触点に作用することになる。したがって、動力伝達装置501は、変速装置2に伝達されるトルクの大小にかかわらず、伝達トルクの増加に伴ってトラクションドライブの接触点に実際に作用するトータルの押圧力(太実線L4)も増加するようになる。これにより、動力伝達装置501は、伝達トルク容量に応じた適正な大きさの押圧力を作用させることができる。
以上で説明した実施形態に係る動力伝達装置501によれば、耐久性の低下抑制と伝達効率の低下抑制とを両立することができる。
[実施形態6]
図9は、実施形態6に係る動力伝達装置の概略断面図である。実施形態6に係る動力伝達装置は、常時押圧機構の構成が実施形態2に係る動力伝達装置とは異なる。
図9に示す本実施形態の動力伝達装置601は、ボールプラネタリ式の無段変速装置である伝達機構としての変速装置2と、押圧機構603とを備える。押圧機構603は、主押圧機構204と、常時押圧機構605と、押圧打消機構206とを有する。主押圧機構204、押圧打消機構206は、図3で説明した主押圧機構204、押圧打消機構206とほぼ同様の構成であるのでその説明を省略する。
常時押圧機構605は、直列バネ51にかえて、押圧力を発生させるバネ部材としての並列バネ551を有し、この並列バネ551の付勢力により入力ディスク21、出力ディスク22、遊星ボール23の接触部分に押圧力を作用させる。本実施形態の並列バネ551は、押圧油室241の内部に設けられる。並列バネ551は、軸方向に対して入力軸8の円筒部281と入力ディスク21の円板部221bとの間に設けられる。並列バネ551は、一方の端部(内周側端部)が円板部221bに当接して位置決めされ、他方の端部(外周側端部)が円筒部281に当接して位置決めされる。並列バネ551は、その付勢力により入力ディスク21を軸方向に沿って遊星ボール23側、すなわち、出力ディスク22側に押圧する推力を常に発生させる。この結果、常時押圧機構605は、主押圧機構204が発生させる押圧力と並列的に、並列バネ551が入力ディスク21を押圧することで、入当接面21a、当接面22aと外面23aとの接触点に、押圧力を作用させることができる。そして、上記のように構成される動力伝達装置601は、図8を使って上述した動力伝達装置501の動作とほぼ同様に動作することができ、耐久性の低下抑制と伝達効率の低下抑制とを両立することができる。
[実施形態7]
図10は、実施形態7に係る動力伝達装置の概略断面図である。実施形態7に係る動力伝達装置は、常時押圧機構の構成が実施形態3に係る動力伝達装置とは異なる。
図10に示す本実施形態の動力伝達装置701は、トロイダル式の無段変速装置である伝達機構としての変速装置302と、押圧機構703とを備える。押圧機構703は、主押圧機構304と、常時押圧機構705と、押圧打消機構306とを有する。主押圧機構304、押圧打消機構306は、図4で説明した主押圧機構304、押圧打消機構306とほぼ同様の構成であるのでその説明を省略する。
常時押圧機構705は、直列バネ51にかえて、押圧力を発生させるバネ部材としての並列バネ551を有し、この並列バネ551の付勢力により入力ディスク321、出力ディスク322、パワーローラ323の接触部分に押圧力を作用させる。並列バネ551は、軸方向に対して一方の入力ディスク321とカムディスク341との間に設けられる。並列バネ551は、一方の端部(内周側端部)がカムディスク341に当接して位置決めされ、他方の端部(外周側端部)が入力ディスク321に当接して位置決めされる。並列バネ551は、その付勢力により一方の入力ディスク321を軸方向に沿ってパワーローラ323側、さらに言えば、対となる出力ディスク322側に押圧する推力を常に発生させる。この結果、常時押圧機構705は、主押圧機構304が発生させる押圧力と並列的に、入力ディスク321を並列バネ551が押圧することで、トロイダル面321a、トロイダル面322aと転動面323aとの接触点に押圧力を作用させることができる。上記のように構成される動力伝達装置701は、図8を使って上述した動力伝達装置501の動作とほぼ同様に動作することができ、耐久性の低下抑制と伝達効率の低下抑制とを両立することができる。
[実施形態8]
図11は、実施形態8に係る動力伝達装置の概略断面図である。実施形態8に係る動力伝達装置は、常時押圧機構の構成が実施形態4に係る動力伝達装置とは異なる。
図11に示す本実施形態の動力伝達装置801は、トロイダル式の無段変速装置である伝達機構としての変速装置302と、押圧機構803とを備える。押圧機構803は、主押圧機構404と、常時押圧機構805と、押圧打消機構306とを有する。主押圧機構404、押圧打消機構306は、図6で説明した主押圧機構404、押圧打消機構306とほぼ同様の構成であるのでその説明を省略する。なお、本実施形態の一方の入力ディスク321は、ボールスプラインにかえて、入力軸8、フランジ円筒部材481、スプラインを介して径方向外側端部(外周部)から動力が伝達される構成となっている。
常時押圧機構805は、直列バネ51にかえて、押圧力を発生させるバネ部材としての並列バネ551を有し、この並列バネ551の付勢力により入力ディスク321、出力ディスク322、パワーローラ323の接触部分に押圧力を作用させる。並列バネ551は、軸方向に対して一方の入力ディスク321とフランジ部材382との間に設けられる。並列バネ551は、一方の端部(内周側端部)がフランジ部材382に当接して位置決めされ、他方の端部(外周側端部)が入力ディスク321に当接して位置決めされる。並列バネ551は、その付勢力により一方の入力ディスク321を軸方向に沿ってパワーローラ323側、さらに言えば、対となる出力ディスク322側に押圧する推力を常に発生させる。この結果、常時押圧機構805は、主押圧機構404が発生させる押圧力と並列的に、入力ディスク321を並列バネ551が押圧することで、トロイダル面321a、トロイダル面322aと転動面323aとの接触点に押圧力を作用させることができる。上記のように構成される動力伝達装置801は、図8を使って上述した動力伝達装置501の動作とほぼ同様に動作することができ、耐久性の低下抑制と伝達効率の低下抑制とを両立することができる。
なお、上述した本発明の実施形態に係る動力伝達装置は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。本発明の実施形態に係る動力伝達装置は、以上で説明した実施形態を複数組み合わせることで構成してもよい。
動力伝達装置は、例えば、常時押圧機構が押圧力を発生させるバネ部材として、直列バネ51と並列バネ551との両方を有していてもよい。この場合の動力伝達装置は、上記で説明した実施形態を組み合わせること構成できるのでここでは具体的な説明を省略する。図12、図13は、直列バネと並列バネとを組み合わせた場合の変形例に係る動力伝達装置の動作を説明する線図である。図12は、並列バネより直列バネによる押圧力のほうが大きく押圧打消機構によって直列バネによる押圧力の一部を打ち消す場合、図13は、直列バネより並列バネによる押圧力のほうが大きく押圧打消機構によって並列バネによる押圧力の一部を打ち消す場合の一例を表している。
図12、図13中、実線L1は、常時押圧機構による常時荷重であって直列バネによる直列バネ荷重、実線L2は、主押圧機構による押圧荷重(主荷重)、実線L3は、主荷重に常時押圧機構による常時荷重であって並列バネによる並列バネ荷重を加えた加算荷重、太実線L5は、トラクションドライブの接触点に実際に作用するトータルの押圧荷重、点Aは回転要素の回転が停止し伝達機構による動力の伝達が停止したIG−OFFの状態を表している。そして、図12中、点線L4は、直列バネ荷重の一部を押圧打消機構で打ち消した場合の押圧荷重を表す一方、図13中、点線L4は、上記加算荷重の一部を押圧打消機構で打ち消した場合の押圧荷重を表している。
また、以上で説明した動力伝達装置は、押圧機構が主押圧機構を備えない構成であってもよい。図14は、押圧機構が主押圧機構を備えない場合の変形例に係る動力伝達装置の動作を説明する線図である。図14中、実線L1は、常時押圧機構による常時荷重(例えばバネ部材によるバネ荷重=主荷重)、点線L2は、常時荷重の一部を押圧打消機構で打ち消した場合の押圧荷重、太実線L3は、トラクションドライブの接触点に実際に作用するトータルの押圧荷重、点Aは回転要素の回転が停止し伝達機構による動力の伝達が停止したIG−OFFの状態を表している。
また、以上で説明した動力伝達装置は、押圧機構が常時押圧機構、押圧打消機構、主押圧機構を有さない構成であってもよい。押圧機構は、例えば、回転要素の回転が停止し伝達機構による動力の伝達が停止した状態で蓄圧すると共に内燃機関などの始動に伴って回転要素が回転し伝達機構による動力の伝達が開始される際に蓄圧した圧力を低下させる蓄圧機によって構成されてもよい。
これらの場合であっても動力伝達装置は、押圧機構によって少なくとも回転要素の回転が停止し伝達機構による動力の伝達が停止した状態での押圧力を回転要素が回転し伝達機構による動力の伝達が開始される際の押圧力より大きくすることができ、耐久性の低下抑制と伝達効率の低下抑制とを両立することができる。