以下本発明の実施の形態を図1〜図31に基づいて説明する。図1に第1実施形態の車輪用軸受装置を示し、この車輪用軸受装置は、ハブ輪1と、複列の転がり軸受2と、等速自在継手3とが一体化されてなる。
等速自在継手3は、外側継手部材としての外輪5と、外輪5の内側に配された内側継手部材としての内輪6と、外輪5と内輪6との間に介在してトルクを伝達する複数のボール7と、外輪5と内輪6との間に介在してボール7を保持するケージ8とを主要な部材として構成される。内輪6はその孔部内径6aにシャフト10の端部10aを圧入することによりスプライン嵌合してシャフト10とトルク伝達可能に結合されている。なお、シャフト10の端部10aには、シャフト抜け止め用の止め輪9が嵌合されている。
外輪5はマウス部11とステム部(軸部)12とからなり、マウス部11は一端にて開口した椀状で、その内球面13に、軸方向に延びた複数のトラック溝14が円周方向等間隔に形成されている。そのトラック溝14はマウス部11の開口端まで延びている。内輪6は、その外球面15に、軸方向に延びた複数のトラック溝16が円周方向等間隔に形成されている。
外輪5のトラック溝14と内輪6のトラック溝16とは対をなし、各対のトラック溝14,16で構成されるボールトラックに1個ずつ、トルク伝達要素としてのボール7が転動可能に組み込んである。ボール7は外輪5のトラック溝14と内輪6のトラック溝16との間に介在してトルクを伝達する。ケージ8は外輪5と内輪6との間に摺動可能に介在し、外球面8aにて外輪5の内球面13と接し、内球面8bにて内輪6の外球面15と接する。なお、この場合の等速自在継手は、各トラック溝14、16の溝底に直線状のストレート部を有するアンダーカットフリー型を示しているが、ツェパー型等の他の等速自在継手であってもよい。
また、マウス部11の開口部はブーツ60にて塞がれている。ブーツ60は、大径部60aと、小径部60bと、大径部60aと小径部60bとを連結する蛇腹部60cとからなる。大径部60aがマウス部11の開口部に外嵌され、この状態でブーツバンド61にて締結され、小径部60bがシャフト10のブーツ装着部10bに外嵌され、この状態でブーツバンド62にて締結されている。
ハブ輪1は、筒部20と、筒部20の反継手側の端部に設けられるフランジ21とを有する。筒部20の孔部22は、軸方向中間部の軸部嵌合孔22aと、反継手側のテーパ孔22bと、継手側の大径孔22cとを備える。すなわち、軸部嵌合孔22aにおいて、後述する凹凸嵌合構造Mを介して等速自在継手3の外輪5の軸部12とハブ輪1とが結合される。また、軸部嵌合孔22aと大径孔22cとの間には、テーパ部(テーパ孔)22dが設けられている。このテーパ部22dは、ハブ輪1と外輪5の軸部12を結合する際の圧入方向に沿って縮径している。テーパ部22dのテーパ角度θ(図3参照)は、例えば15°〜75°とされる。
転がり軸受2は、ハブ輪1の軸部12の継手側に設けられた段差部23に嵌合する内方部材24と、ハブ輪1の軸部12に外嵌される外方部材25とを備える。外方部材25は、その内周に2列の外側軌道面(アウタレース)26、27が設けられ、第1外側軌道面26とハブ輪1の軸部外周に設けられる第1内側軌道面(インナレース)28とが対向し、第2外側軌道面27と、内輪24の外周面に設けられる第2内側軌道面(インナレース)29とが対向し、これらの間に転動体30としてのボールが介装される。なお、外方部材25の両開口部にはシール部材Sが装着されている。
この場合、ハブ輪1の継手側の端部を加締めて、その加締部31にて内方部材(内輪)
24に予圧を付与するものである。これによって、内輪24をハブ輪1に締結することができる。またハブ輪1のフランジ21にはボルト装着孔32が設けられて、ホイールおよびブレーキロータをこのフランジ21に固定するためのハブボルト33がこのボルト装着孔32に装着される。
凹凸嵌合構造Mは、図2と図3に示すように、例えば、軸部12の端部に設けられて軸方向に延びる凸部35と、ハブ輪1の孔部22の内径面(この場合、軸部嵌合孔22aの内径面37)に形成される凹部36とからなり、凸部35とその凸部35に嵌合するハブ輪1の凹部36との嵌合接触部位38全域が密着している。すなわち、軸部12の反マウス部側の外周面に、複数の凸部35が周方向に沿って所定ピッチで配設され、ハブ輪1の孔部22の軸部嵌合孔22aの内径面37に凸部35が嵌合する複数の凹部36が周方向に沿って形成されている。つまり、周方向全周にわたって、凸部35とこれに嵌合する凹部36とがタイトフィットしている。
この場合、各凸部35は、その断面が凸アール状の頂点を有する三角形状(山形状)であり、各凸部35の凹部嵌合部位とは、図2(b)に示す範囲Aであり、断面における山形の中腹部から山頂にいたる範囲である。また、周方向の隣合う凸部35間において、ハブ輪1の内径面37よりも内径側に隙間40が形成されている。
このように、ハブ輪1と等速自在継手3の外輪5の軸部12とを凹凸嵌合構造Mを介して連結できる。この際、前記したようにハブ輪1の継手側の端部を加締めて、その加締部31にて内方部材(内輪)24に予圧を付与するものであるので、外輪5のマウス部11にて内輪24に予圧を付与する必要がなく、ハブ輪1の端部(この場合、加締部31)に対してマウス部11を接触させない非接触状態としている。
また、外輪5の軸部12の端部とハブ輪1の内径面37との間に軸部抜け止め構造M1が設けられている。この軸部抜け止め構造M1は、外輪5の軸部12の端部から反継手側に延びてテーパ孔22bに係止するテーパ状係止片65からなる。すなわち、テーパ状係止片65は、継手側から反継手側に向かって拡径するリング状体からなり、その外周面65aの少なくとも一部がテーパ孔22bに圧接乃至接触している。
次に、凹凸嵌合構造Mの嵌合方法を説明する。この場合、図3に示すように、軸部12の外径部には熱硬化処理を施し、この硬化層Hに軸方向に沿う山部41aと谷部41bとからなるスプライン41を形成する。このため、スプライン41の山部41aが硬化処理されて、この山部41aが凹凸嵌合構造Mの凸部35となる。なお、この実施形態での硬化層Hの範囲は、クロスハッチング部で示すように、スプライン41の外端縁から外輪5のマウス部11の底壁の一部までである。この熱硬化処理としては、高周波焼入れや浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。ここで、高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用により、ジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。また、浸炭焼入れとは、低炭素材料の表面から炭素を浸入/拡散させ、その後に焼入れを行う方法である。軸部12のスプライン41のモジュールを0.5以下の小さい歯とする。ここで、モジュールとは、ピッチ円直径を歯数で割ったものである。
また、ハブ輪1の外径側に高周波焼入れによる硬化層H1を形成するとともに、ハブ輪の内径側を未焼き状態としたものである。この実施形態での硬化層H1の範囲は、クロスハッチング部で示すように、フランジ21の付け根部から内輪24が嵌合する段差部23の加締部近傍までである。高周波焼入れを行えば、表面は硬く、内部は素材の硬さそのままとすることができ、ハブ輪1の内径側を未焼き状態に維持できる。このため、ハブ輪1の孔部22の内径面37側においては熱硬化処理を行わない未硬化部(未焼き状態)とする。
外輪5の軸部12の硬化層Hとハブ輪1の未硬化部との硬度差は、HRCで20ポイント以上とする。具体的には、硬化層Hの硬度をHRCで50〜65程度とし、凹部形成側(ハブ輪1の孔部22の内径面37)の硬度をHRCで10〜30であるのが好ましい。
この際、凸部35の突出方向中間部位が、凹部形成前の凹部形成面(この場合、ハブ輪1の孔部22の内径面37)の位置に対応する。すなわち、図3に示すように、孔部22の内径面37の内径寸法Dを、凸部35の最大直径寸法、つまりスプライン41の山部41aである前記凸部35の頂点を結ぶ円の直径寸法(外接円直径)D1よりも小さく、凸部間に形成された谷部の最小直径寸法、つまりスプライン41の谷部41bの底を結ぶ円の直径寸法D2よりも大きく設定される。すなわち、D2<D<D1とされる。
スプライン41は、従来からの公知公用の手段である転造加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の種々の加工方法によって、形成することがきる。また、熱硬化処理としては、高周波焼入れ、浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。
また、軸部12の端面12aの外周縁部から前記テーパ状係止片65を構成するための短円筒部66を軸方向に沿って突出させている。短円筒部66の外径D4は孔部22の嵌合孔22aの内径寸法Dよりも小さく設定している。すなわち、この短円筒部66が後述するように、軸部12のハブ輪1の孔部22への圧入時の調芯部材となる。
そして、図3に示すように、ハブ輪1の軸心と等速自在継手の外輪5の軸心とを合わせた状態で、ハブ輪1に対して、外輪5の軸部12を挿入(圧入)していく。この際、ハブ輪1の孔部22に圧入方向に沿って縮径するテーパ部22dを形成しているので、このテーパ部22dが圧入開始時のガイドを構成することができる。また、孔部22の内径面37の径寸法Dと、凸部35の最大直径寸法D1と、スプライン41の谷部の最小直径寸法D2とが前記のような関係であり、しかも、凸部35の硬度が孔部22の内径面37の硬度よりも20ポイント以上大きいので、シャフト10をハブ輪1の孔部22に圧入していけば、この凸部35が内径面37に食い込んでいき、凸部35が、この凸部35が嵌合する凹部36を軸方向に沿って形成していくことになる。
これによって、図2に示すように、軸部12の端部の凸部35と、これに嵌合する凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着している。すなわち、相手側の凹部形成面(この場合、孔部22に内径面37)に凸部35の形状の転写を行うことになる。この際、凸部35が孔部22の内径面37に食い込んでいくことによって、孔部22が僅かに拡径した状態となって、凸部35の軸方向の移動を許容し、軸方向の移動が停止すれば、孔部22が元の径に戻ろうとして縮径することになる。言い換えれば、凸部35の圧入時にハブ輪1が径方向に弾性変形し、この弾性変形分の予圧が凸部35の歯面(凹部嵌合部位の表面)に付与される。このため、凸部35の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部36に対して密着する凹凸嵌合構造Mを確実に形成することができる。
ところで、外輪5の軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入する際には、外輪5のマウス部11の外径面に、図23等に示すように段差面Gを設け、圧入用治具Kをこの段差面Gに係合させて、この圧入用治具Kから段差面Gに圧入荷重(軸方向荷重)を付与すればよい。なお、段差面Gとしては周方向全周に設けても、周方向に沿って所定ピッチで設けてもよい。このため、使用する圧入用治具Kとしても、これらの段差面Gに対応して軸方向荷重を付与できればよい。
このように、外輪5の軸部12とハブ輪1の孔部22に圧入して、凹凸嵌合構造Mを介して外輪5の軸部12とハブ輪1とが一体化された状態では、図4に示すように、短円筒部66が嵌合孔22aからテーパ孔22b側に突出する。
そこで、治具67を使用してこの短円筒部66を拡径することになる。治具67は、円柱状の本体部68と、この本体部68の先端部に連設される円錐台部69とを備える。治具67の円錐台部69は、その傾斜面69aの傾斜角度がテーパ孔22bの傾斜角度と略同一され、かつ、その先端の外径が短円筒部66の内径と同一乃至僅かに短円筒部66の内径よりも小さい寸法に設定されている。そして、図5に示すように、治具67の円錐台部69をテーパ孔22bを介して嵌入することによって矢印α方向の荷重を付加し、これによって、短円筒部66の内径側にこの短円筒部66が拡径する矢印β方向の拡径力を付与する。この際、治具67の円錐台部69によって、短円筒部66の少なくとも一部はテーパ孔22bの内径面側に押圧され、テーパ孔22bの内径面に圧接乃至接触した状態となり、前記軸部抜け止め構造M1を構成することができる。なお、治具67の矢印α方向の荷重を付加する際には、この車輪用軸受装置が矢印α方向へ移動しないように、固定す
る必要があるが、ハブ輪1や等速自在継手3等の一部を固定部材にて受ければよい。ところで、短円筒部66の内径面は軸端側に拡径するテーパ形状でも良い。このような形状にしておけば、鍛造で内径面を成形することも可能であり、コスト低減に繋がる。
また、治具67の矢印α方向の荷重を低減させるため、円筒部66に切り欠きを入れても良いし、治具67の円錐台69の円錐面を周方向で部分的に配置するものでも良い。円筒部66に切り欠きを入れた場合、円筒部66を拡径し易くなる。また、治具67の円錐台69の円錐面を周方向で部分的に配置するものである場合、円筒部66を拡径させる部位が円周上の一部になるため、治具67の押し込み荷重を低減させることができる。
この凹凸嵌合構造Mでは、図6に示すように、軸部12の外径寸法D1と、ハブ輪1の孔部22の嵌合孔22aの内径寸法Dとの径差(D1−D)をΔdとし、軸部12の外径面に設けられた凸部35の高さをhとし、その比をΔd/2hとしたときに、0.3<Δd/2h<0.86とする。これによって、凸部35の突出方向中間部位(高さ方向中間部位)が、凹部形成前の凹部形成面上に確実に配置されるようにすることによって、凸部35が圧入時に凹部形成面に食い込んでいき、凹部36を確実に形成することができる。
本発明では、凹凸嵌合構造Mは、凸部35と凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着しているので、この嵌合構造Mにおいて、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が形成されない。このため、嵌合部位の全てが回転トルク伝達に寄与し、安定したトルク伝達が可能であり、しかも、異音の発生も生じさせない。
凸部側と凹部形成側との硬度差をHRCで20以上としているので、凸部35を相手側へ圧入する際に、比較的小さい圧入力(圧入荷重)を付与するのみで圧入することができ、圧入性の向上を図ることができる。また、大きな圧入荷重を付与しないで済むので、形成する側の凹凸歯の摩耗の防止、形成される凹凸歯が損傷する(むしれる)のを防止でき、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が生じない凹凸嵌合構造Mを安定して構成することができる。
特に、凸部側の硬度がHRCで50〜65であれば、凸部側が硬く、より安定した凹凸嵌合構造Mを構成することができる。また、凹部形成側の硬度がHRCで10〜30であれば、凹部形成側が柔らかく圧入性の向上を図ることができる。
凸部35を高周波熱処理により熱処理硬化させることができる。高周波熱処理にて凸部を硬化させれば、次に記載する利点がある。(a)局部加熱ができ、焼入れ条件の調整が容易である。(b)短時間に加熱ができるため酸化が少ない。(c)他の焼入れ方法に比べて、焼入れ歪が少ない。(d)表面硬さが高く、優れた耐摩耗性を得られる。(e)硬化層の深さの選定も比較的容易である。(f)自動化が容易で機械加工ラインへの組み入れも可能である。
凹部36が形成される部材(この場合、ハブ輪1)には、スプライン部等を形成しておく必要がなく、生産性に優れ、かつスプライン同士の位相合わせを必要とせず、組立性の向上を図るとともに、圧入時の歯面の損傷を回避することができ、安定した嵌合状態を維持できる。
また、ハブ輪1の内径側は比較的柔らかい。このため、外輪5の軸部12の外径面の凸部をハブ輪1の孔部内径面の凹部36に嵌合させる際の嵌合性(密着性)の向上を図ることができ、径方向及び円周方向においてガタが生じるのを精度良く抑えることができる。さらに、ハブ輪1はその外径側に硬化層H1を形成しているので、ハブ輪1の強度や耐久性の向上を図ることができる。特に、硬化層H1を高周波焼入れによって形成することによって、内径側の硬化が防止され、内径側の未焼入れ状態の確保が安定する。
軸部12の外径寸法とハブ輪1の孔部22の内径寸法との径差をΔdとし、凸部の高さをhとし、その比をΔd/2hとしたときに、0.3<Δd/2h<0.86としたので、凸部35の圧入代を十分にとることができる。すなわち、Δd/2hが0.3以下である場合、捩り強度が低くなり、また、Δd/2hが0.86を越えれば、微小な圧入時の芯ずれや圧入傾きにより、凸部35の全体が相手側に食い込み、凹凸嵌合構造Mの成形性が悪化し、圧入荷重が急激に増大する。凹凸嵌合構造Mの成形性が悪化した場合、捩り強度が低下するだけでなく、ハブ輪外径の膨張量も増大するため、ハブ輪1に装着される軸受2の機能に影響し、回転寿命が低下する等の問題もある。これに対して、Δd/2hを0.3〜0.86にすることにより、凹凸嵌合構造Mの成形性が安定し、圧入荷重のばらつきも無く、安定した捩り強度が得られる。
テーパ部22dが圧入開始時のガイドを構成することができるので、ハブ輪1の孔部22に対して外輪5の軸部12を、ズレを生じさせることなく圧入させることができ、安定したトルク伝達が可能となる。さらに、短円筒部66は、円筒部66の外径D4は孔部22の嵌合孔22aの内径寸法Dよりも小さく設定しているので、調芯部材となり、芯ずれを防止しつつ軸部をハブ輪に圧入することができ、より安定した圧入が可能となる。
軸部抜け止め構造M1によって、外輪5の軸部12がハブ輪1の孔部22からの抜け(特にシャフト側への軸方向の抜け)を有効に防止できる。これによって、安定した連結状態を維持でき、車輪用軸受装置の高品質化を図ることができる。また、軸部抜け止め構造M1がテーパ状係止片65であるので、従来のようなねじ締結を省略できる。このため、軸部12にハブ輪1の孔部22から突出するねじ部を形成する必要がなくなって、軽量化を図ることができるとともに、ねじ締結作業を省略でき、組立作業性の向上を図ることができる。しかも、テーパ状係止片65では、外輪5の軸部12の一部を拡径させればよく、軸部抜け止め構造M1の形成を容易に行うことができる。なお、外輪5の軸部12の反継手方向への移動は、軸部12をさらに圧入する方向への押圧力が必要であり、外輪5の軸部12の反継手方向への位置ズレは極めて生じにくく、かつ、たとえこの方向に位置ズレしたとしても、外輪5のマウス部11の底部がハブ輪1の加締部31に当接して、ハブ輪1から外輪5の軸部12が抜けることがない。
等速自在継手3の外輪5の軸部12の凸部の軸方向端部の硬度をハブ輪1の孔部内径部よりも高くして、軸部12をハブ輪1の孔部22に凸部35の軸方向端部側から圧入するので、ハブ輪1の孔部内径面への凹部形成が容易となる。また、軸部側の硬度を高くでき、軸部12の捩り強度を向上させることができる。
また、ハブ輪1の端部が加締られて転がり軸受2の内輪24に対して予圧が付与されるので、外輪5のマウス部11によって内輪24に予圧を付与する必要がなくなる。このため、内輪24への予圧を考慮することなく、外輪5の軸部12を圧入することができ、ハブ輪1と外輪5との連結性(組み付け性)の向上を図ることができる。マウス部11がハブ輪1と非接触状であるので、マウス部11とハブ輪1との接触による異音の発生を防止できる。
前記実施形態のように、軸部12に形成するスプライン41は、モジュールが0.5以下の小さい歯を用いたので、このスプライン41の成形性の向上を図ることができるとともに、圧入荷重の低減を図ることができる。なお、凸部35を、この種のシャフトに通常形成されるスプラインをもって構成することができるので、低コストにて簡単にこの凸部35を形成することができる。
また、軸部12をハブ輪1に圧入していくことによって、凹部36を形成していくと、この凹部36側に加工硬化が生じる。ここで、加工硬化とは、物体に塑性変形(塑性加工)を与えると,変形の度合が増すにつれて変形に対する抵抗が増大し,変形を受けていない材料よりも硬くなることをいう。このため、圧入時に塑性変形することによって、凹部36側のハブ輪1の内径面37が硬化して、回転トルク伝達性の向上を図ることができる。
ハブ輪1の内径側は比較的柔らかい。このため、外輪5の軸部12の外径面の凸部35をハブ輪1の孔部内径面の凹部36に嵌合させる際の嵌合性(密着性)の向上を図ることができ、径方向及び円周方向においてガタが生じるのを精度良く抑えることができる。
ところで、本発明においては、ハブ輪1の端部(この場合、加締部31)に対してマウス部11を接触させない非接触状態としている。すなわち、ハブ輪1の加締部31とマウス部11の底外面11aとの間に隙間98が設けられる。このため、図7(a)(b)に示すように、この隙間98をシール部材99にて塞ぐようにするのが好ましい。この場合、隙間98は、ハブ輪1の加締部31とマウス部11の底外面11aとの間から大径孔22cと軸部12との間まで形成される。この実施形態では、ハブ輪1の加締部31と大径部12cとのコーナ部に配置される。なお、シール部材99としては、図7(a)に示すようなOリング等のようなものであっても、図7(b)に示すようなガスケット等のようなものであってもよい。
このように、外輪5のマウス部11と、ハブ輪1の端部が加締られてなる加締部31との間に隙間98をシール部材99にて密封すれば、この隙間98から雨水や異物の侵入が防止され凹凸嵌合構造Mへの雨水や異物等による密着性の劣化を回避することができる。
図8は第2実施形態を示し、この車輪用軸受装置の軸部抜け止め構造M1は、図4に示すような短円筒部66を予め形成することなく、軸部12の一部を外径方向へ突出するテーパ状係止片70を設けることによって構成している。
この場合、図9に示す治具71を使用する。治具71は、円柱状の本体部72と、この本体部72の先端部に連設される短円筒部73とを備え、短円筒部73の外周面の先端に切欠部74が設けられている。このため、治具71には先端くさび部75が形成されている。先端くさび部75を打ち込めば(矢印α方向の荷重を付加すれば)、この先端くさび部75の断面形状が外径側が傾斜面であり、この傾斜面を形成する切欠部74によって、図10に示すように、軸部12の端部の外径側が拡径することになる。
これによって、このテーパ状係止片70の少なくとも一部がテーパ孔22bの内径面に圧接乃至接触することになる。このため、このようなテーパ状係止片70であっても、前記図1等に示すテーパ状係止片65と同様、外輪5の軸部12がハブ輪1の孔部22から軸方向に抜けることを有効に防止できる。これによって、安定した連結状態を維持でき、車輪用軸受装置の高品質化を図ることができる。なお、先端くさび部75の内径面がテー
パ形状であってもよい。
図11は第3実施形態を示し、この車輪用軸受装置の軸部抜け止め構造M1は、軸部12の一部を外径方向へ突出するように加締めることによって形成する外鍔状係止片76にて構成している。この場合、ハブ輪1の孔部22は、嵌合孔22aとテーパ孔22bとの間に段付面22eが設けられて、この段付面22eに外鍔状係止片76が係止している。
この軸部抜け止め構造M1では、図12に示す治具77を使用することになる。この治具77は円筒体78を備える。円筒体78の外径D5を軸部12の端部の外径D7よりも大きく設定するとともに、円筒体78の内径D6を軸部12の端部の外径D7より小さく設定している。
このため、この治具77と外輪5の軸部12との軸心を合わせ、この状態で治具77の端面77aによって、軸部12の端面12aに矢印α方向に荷重を付加すれば、図13に示すように、軸部12の端面12aの外周側が圧潰して、外鍔状係止片76を形成することができる。
このような外鍔状係止片76であっても、外鍔状係止片76が段付面22eに係止することになるので、前記図1等に示すテーパ状係止片65と同様、外輪5の軸部12がハブ輪1の孔部22から軸方向に抜けることを有効に防止できる。これによって、安定した連結状態を維持でき、車輪用軸受装置の高品質化を図ることができる。
図12と図13に示すような治具77を使用すれば、図14(a)に示すように、外鍔状係止片76は円周方向に沿って形成される。このため、治具として押圧部が周方向に沿って所定ピッチ(例えば、90°ピッチ)で配設されるものであれば、図14(b)に示すように、複数の外鍔状係止片76が周方向に沿って所定ピッチで配置される。図14(b)に示すように、複数の外鍔状係止片76が周方向に沿って所定ピッチで配設されたものであっても、外鍔状係止片76が段付面22eに係止することになるので、外輪5の軸部12がハブ輪1の孔部22から軸方向に抜けることを有効に防止できる。
ハブ輪1に対して外輪5の軸部12を圧入していけば、凸部35にて形成される凹部36から材料がはみ出して図15に示すようなはみ出し部45が形成される。はみ出し部45は、凸部35の凹部嵌合部位が嵌入(嵌合)する凹部36の容量の材料分であって、形成される凹部36から押し出されたもの、凹部36を形成するために切削されたもの、又は押し出されたものと切削されたものの両者等から構成される。
このため、前記図1等に示す車輪用軸受装置では、ハブ輪1に等速自在継手を組み付けた後、このはみ出し部45の除去作業を必要としていた。そこで、この図15に示す第4実施形態では、前記したように、はみ出し部45を収納するポケット部50を軸部12に設けている。
軸部12のスプライン41の軸端縁に周方向溝51を設けることによって、ポケット部50を形成している。この場合も、図17のクロスハッチング部で示すように、スプライン41の外端縁から外輪5のマウス部11の底壁の一部までにおいて硬化層Hが形成される。
ハブ輪1の軸心と等速自在継手3の外輪5の軸心とを合わせた状態で、軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入していけば、形成されるはみ出し部45は、図16に示すように、カールしつつポケット部50内に収納されて行く。すなわち、孔部22の内径面から削り取られたり、押し出されたりした材料の一部がポケット部50内に入り込んでいく。
このように、前記圧入による凹部形成によって生じるはみ出し部45を収納するポケット部50を設けることによって、はみ出し部45をこのポケット部50内に保持(維持)することができ、はみ出し部45が装置外の車両内等へ入り込んだりすることがない。すなわち、はみ出し部45をポケット部50に収納したままにしておくことができ、はみ出し部45の除去処理を行う必要がなく、組み立て作業工数の減少を図ることができて、組み立て作業性の向上及びコスト低減を図ることができる。
また、圧入完了後は、短円筒部66がテーパ孔22bに突入された状態であるので、この短円筒部66を拡径する必要がある。このため、図4に示す治具67を使用することによって、拡径させることができ、短円筒部66が拡径されれば、軸部抜け止め構造M1が形成される。
軸部抜け止め構造M1としては、第5実施形態の図18に示すようにボルトナット結合を用いても、第6実施形態の図19に示すように、止め輪を用いても、第7実施形態の図20に示すように溶接等の結合手段を用いてもよい。
図18では、軸部12にねじ軸部80を連設し、このねじ軸部80にナット部材81を螺着している。そして、ナット部材81を孔部22の段付面22eに当接させている。これによって、軸部12のハブ輪1の孔部22からのシャフト側への抜けを規制している。
図19では、スプライン41よりも反継手側に軸延長部83を設けるとともに、この軸延長部83に周方向溝84を設け、この周方向溝84に止め輪85を嵌着している。そして、軸部12にハブ輪1の孔部22において、嵌合孔22aとテーパ孔22bとの間に前記止め輪85が係止する段部22fを設ける。これによって、止め輪85が段部22fに係止して軸部12のハブ輪1の孔部22からのシャフト側への抜けを規制している。
図20では、軸部12の端部外周面と嵌合孔22aの段付面22e側の開口部端縁部とを溶接にて接合している。これによって、軸部12のハブ輪1の孔部22からのシャフト側への抜けを規制している。この場合、溶接部位108として全周にわたっても、周方向に沿って所定ピッチに配設してもよい。
本発明の車輪用軸受装置においては、図21に示すように、軸部抜け止め構造M1を設けないものであってもよい。この場合、この場合、図22に示すように、周方向溝51は、そのスプライン41側の側面51aが、軸方向に対して直交する平面であり、反スプライン側の側面51bは、溝底51cから反スプライン側に向かって拡径するテーパ面である。そして、周方向凹溝5の側面51bよりも反スプライン側には、調芯用の円盤状の鍔部52が設けられている。鍔部52の外径寸法D4a(図22参照)が孔部22の嵌合孔22aの孔径と同一乃至嵌合孔22aの孔径よりも僅かに小さく設定される。この場合、鍔部52の外径面52aと孔部22の嵌合孔22aの内径面との間に微小隙間tが設けられている。
ポケット部50の軸方向反凸部側にハブ輪1の孔部22との調芯用の鍔部52を設けることによって、ポケット部50内のはみ出し部45の鍔部52側への飛び出しがなくなって、はみ出し部45の収納がより安定したものとなる。しかも、鍔部52は調芯用であるので、芯ずれを防止しつつ軸部12をハブ輪1に圧入することができる。このため、外側継手部材5とハブ輪1とを高精度に連結でき、安定したトルク伝達が可能となる。
鍔部52は圧入時の調芯用であるので、その外径寸法は、ハブ輪1の孔部22の嵌合孔22aの孔径よりも僅かに小さい程度に設定するが好ましい。すなわち、鍔部52の外径寸法が嵌合孔22aの孔径と同一や嵌合孔22aの孔径よりも大きければ、鍔部52自体を嵌合孔22aに圧入することになる。この際、芯ずれしていれば、このまま凹凸嵌合構造Mの凸部35が圧入され、軸部12の軸心とハブ輪1の軸心とが合っていない状態で軸部1とハブ輪1とが連結されることになる。また、鍔部52の外径寸法が嵌合孔22aの孔径よりも小さすぎると、調芯用として機能しない。このため、鍔部52の外径面52aと孔部22の嵌合孔22aの内径面との間の微小隙間tとしては、0.01mm〜0.2mm程度に設定するのが好ましい。
なお、図21に示すように、軸部抜け止め構造M1を有しない場合において、軸部12の調芯用としての鍔部52を省略したものであってもよい。
次に、図23は軸部12のハブ輪1からの抜けが許容されている車輪用軸受装置である。この場合も、ハブ輪1は、図23と図24に示すように、筒部20と、筒部20の反継手側の端部に設けられるフランジ21とを有する。筒部20の孔部22は、軸方向中間部の軸部嵌合孔22aと、反継手側のテーパ孔22bとを有し、軸部嵌合孔22aとテーパ孔22bとの間に、内径方向へ突出する位置決め用内壁22gが設けられている。すなわち、軸部嵌合孔22aにおいて、凹凸嵌合構造Mを介して等速自在継手3の外輪5の軸部12とハブ輪1とが結合される。なお、この位置決め用内壁22gの反軸部嵌合孔側の端面には凹窪部91が設けられている。
孔部22は、軸部嵌合孔22aよりも反位置決め用内壁側の開口側に大径部86を有し、軸部嵌合孔22aよりも位置決め用内壁側に小径部88とを有する。大径部86と軸部嵌合孔22aとの間には、テーパ部(テーパ孔)89aが設けられている。このテーパ部89aは、ハブ輪1と外輪5の軸部12を結合する際の圧入方向に沿って縮径している。テーパ部89aのテーパ角度θは、例えば15°〜75°とされる。なお、軸部嵌合孔22aと小径部88との間にもテーパ部89bが設けられている。
この場合、軸部12がハブ輪1の孔部22、つまり軸部嵌合孔22aに圧入されることによって、軸部12の凸部35が軸部嵌合孔22aの内径面37に、この凸部35が密着嵌合する凹部36が形成される。
このように、凹凸嵌合構造Mが構成されるが、この場合の凹凸嵌合構造Mは転がり軸受2の軌道面26、27、28、29の避直下位置に配置される。ここで、避直下位置とは、軌道面26、27、28、29に対して径方向に対応しない位置である。なお、凹凸嵌合構造Mの配置位置としては、前記他の実施形態の車輪用軸受装置であっても、避直下位置とするのが好ましい。
また、圧入後には、反継手側から軸部12のねじ孔90にボルト部材94を螺着する。ボルト部材94は、フランジ付き頭部94aと、ねじ軸部94bとからなる。ねじ軸部94bは、大径の基部95aと、小径の本体部95bと、先端側のねじ部95cとを有する。この場合、位置決め用内壁22gに貫通孔96が設けられ、この貫通孔96にボルト部材94の軸部94bが挿通されて、ねじ部95cが軸部12のねじ孔90に螺着される。図24に示すように、貫通孔96の孔径d1は、軸部94bの大径の基部95aの外径d2よりも僅かに大きく設定される。具体的には、0.05mm<d1−d2<0.5mm程度とされる。なお、ねじ部95cの最大外径は、大径の基部95aの外径と同じか基部95aの外径よりも僅かに小さい程度とする。
このように、ボルト部材94を軸部12のねじ孔90に螺着することによって、ボルト部材94の頭部94aのフランジ部100が位置決め用内壁22gの凹窪部91に嵌合する。これによって、軸部12の反継手側の端面92とボルト部材94の頭部94aとで位置決め用内壁22gが挟持される。
また、ボルト部材94の座面100aと位置決め用内壁22gとの間もシール材(図示省略)を介在させてもよい。この場合、例えば、ボルト部材94の座面100aに、塗布後に硬化して座面100aと位置決め用内壁22gの凹窪部91の底面との間において密封性を発揮できるもの種々の樹脂からなるシール材(シール剤)を塗布すればよい。なお、このシール材としては、この車輪用軸受装置が使用される雰囲気中において劣化しないものが選択される。
ところで、軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入していけば、形成されるはみ出し部45は、図25に示すように、カールしつつ軸部12の小径部12dの外径側に設けられる空間からなる収納部97に収納されて行く。すなわち、孔部22の内径面から削り取られたり、押し出されたりした材料の一部であるはみ出し部45が収納部97内に入り込んでいく。
このように、前記圧入による凹部形成によって生じるはみ出し部45を収納する収納部97を設けることによって、図25に示すように、はみ出し部45をこの収納部97内に保持(維持)することができ、はみ出し部45が装置外の車両内等へ入り込んだりすることがない。すなわち、はみ出し部45を収納部97に収納したままにしておくことができ、はみ出し部45の除去処理を行う必要がなく、組立作業工数の減少を図ることができて、組立作業性の向上及びコスト低減を図ることができる。
凹凸嵌合構造Mを転がり軸受2の軌道面の避直下位置に配置することによって、軸受軌道面におけるフープ応力の発生を抑える。これにより、転がり疲労寿命の低下、クラック発生、及び応力腐食割れ等の軸受の不具合発生を防止することができ、高品質な軸受を提供することができる。
ハブ輪1と外輪5の軸部12とのボルト固定を行うボルト部材94の座面100aと、位置決め用内壁22gとの間にシール材を介在させたので、このボルト部材94からの凹凸嵌合構造Mへ雨水や異物の侵入が防止され、品質向上を図ることができる。
ところで、図23に示す状態から、ボルト部材94を螺退させることによって、ボルト部材94を取外せば、ハブ輪1から外輪5を引き抜くことができる。すなわち、凹凸嵌合構造Mの嵌合力は、外輪5に対して所定力以上の引き抜き力を付与することにより引き抜くことができるものである。
例えば、図26に示すような治具70にてハブ輪1と等速自在継手3とを分離することができる。治具120は、基盤121と、この基盤121のねじ孔122に螺進退可能に螺合する押圧用ボルト部材123と、軸部12のねじ孔90に螺合されるねじ軸76とを備える。基盤121には貫孔124が設けられ、この貫孔124にハブ輪1のボルト123が挿通され、ナット部材125がこのボルト123に螺合される。この際、基盤121とハブ輪1のフランジ21とが重ね合わされて、基盤121がハブ輪1に取り付けられる。
このように、基盤121をハブ輪1に取り付けた状態とした後、基部126aが位置決め用内壁22gから反継手側へ突出するように、軸部12のねじ孔90にねじ軸126を螺合させる。この基部126aの突出量は、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さよりも長く設定される。また、ねじ軸126と、押圧用ボルト部材123とは、同一軸心上(この車輪用軸受装置の軸心上)に配設される。
その後は、図26に示すように、押圧用ボルト部材123を反継手側から基盤121のねじ孔122に螺着し、この状態で、矢印のようにねじ軸126側へ螺進させる。この際、ねじ軸126と、押圧用ボルト部材123とは、同一軸心上(この車輪用軸受装置の軸心上)に配設されているので、この螺進によって、押圧用ボルト部材123がねじ軸126を矢印方向へ押圧する。これによって、外輪5がハブ輪1に対して矢印方向へ移動して、ハブ輪1から外輪5が外れる。
また、ハブ輪1から外輪5が外れた状態からは、例えば、ボルト部材94を使用して再度、ハブ輪1と外輪5とを連結することができる。すなわち、ハブ輪1から基盤121を取外すとともに、軸部12からねじ軸76を取外した状態として、図27に示すように、ボルト部材94を貫通孔96を介して軸部12のねじ孔90に螺合させる。この状態では、軸部12側の雄スプライン41と、前回の圧入によって形成されたハブ輪1の雌スプライン42との位相を合わせる。
そして、この状態にて、ボルト部材94をねじ孔90に対して螺進させる。これによって、軸部12がハブ輪1内へ嵌入していく。この際、孔部22が僅かに拡径した状態となって、軸部12の軸方向の進入を許容し、軸方向の移動が停止すれば、孔部22が元の径に戻ろうとして縮径することになる。これによって、前回の圧入と同様、凸部35の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部36に対して密着する凹凸嵌合構造Mを確実に構成することができる。
特に、ボルト部材94をねじ孔90に対して螺進させる際に、図27に示すように、ボルト部材94の基部95aが、貫通孔96に対応した状態となる。しかも、貫通孔96の孔径d1は、軸部94bの大径の基部95aの外径d2よりも僅かに大きく設定される(具体的には、0.05mm<d1−d2<0.5mm程度とされる)ので、ボルト部材54の基部95aの外径と、貫通孔96の内径とが、ボルト部材94がねじ孔90を螺進する際のガイドを構成することができ、芯ずれすることなく、軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入することができる。なお、貫通孔96の軸方向長さとしても、短すぎると、安定したガイドを発揮できず、逆に長すぎると、位置決め用内壁22gの厚さ寸法が大となって、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さを確保できないとともに、ハブ輪1の重量が大となる。このため、これらを考慮して種々変更することができる。
なお、軸部12のねじ孔90の開口部が開口側に向かって拡開するテーパ部90aとさているので、ねじ軸126やボルト部材94をねじ孔90に螺合させさせ易い利点がある。
ところで、1回目(孔部22の内径面37に凹部36を成形する圧入)では、圧入荷重が比較的大きいので、圧入のために、プレス機等を使用する必要がある。これに対して、このような再度の圧入では、圧入荷重が1回目の圧入荷重よりも小さいため、プレス機等を使用することなく、安定して正確に部12をハブ輪1の孔部22に圧入することができる。このため、現場での外輪5とハブ輪1との分離・連結が可能となる。
前記図2に示すスプライン41では、山部41aのピッチと谷部41bのピッチとが同一設定される。このため、前記実施形態では、図2(b)に示すように、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さLと、周方向に隣り合う凸部35間における前記中間部位に対応する位置での周方向寸法L0とがほぼ同一となっている。
これに対して、図28(a)に示すように、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さL2が、周方向に隣り合う凸部35間における前記中間部位に対応する位置での周方向寸法L1よりも小さいものであってもよい。すなわち、軸部12に形成されるスプライン41において、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さ(歯厚)L2を、凸部35間に嵌合するハブ輪1側の山部43の突出方向中間部位の周方向厚さ(歯厚)L1よりも小さくしている。
このため、軸部12側の全周における凸部35の歯厚の総和Σ(B1+B2+B3+・・・)を、ハブ輪1側の山部43(凸歯)の歯厚の総和Σ(A1+A2+A3+・・・)よりも小さく設定している。これによって、ハブ輪1側の山部43のせん断面積を大きくすることができ、ねじり強度を確保することができる。しかも、凸部35の歯厚が小であるので、圧入荷重を小さくでき、圧入性の向上を図ることができる。凸部35の周方向厚さの総和を、ハブ輪1側の山部43における周方向厚さの総和よりも小さくする場合、全凸部35の周方向厚さL2を、周方向に隣り合う凸部35間における周方向の寸法L1よりも小さくする必要がない。すなわち、複数の凸部35のうち、任意の凸部35の周方向厚さが周方向に隣り合う凸部間における周方向の寸法と同一であっても、この周方向の寸法よりも大きくても、総和で小さければよい。
図28(a)における凸部35は、断面台形(富士山形状)としているが、図28(b)に示すように、インボリュート歯形状であってもよい。
ところで、前記各実施形態では、軸部12側に凸部35を構成するスプライン41を形成するとともに、この軸部12のスプライン41に対して硬化処理を施し、ハブ輪1の内径面を未硬化(生材)としている。これに対して、図29に示すように、ハブ輪1の孔部22の内径面に硬化処理を施されたスプライン61(山部61a及び谷部61bとからなる)を形成するとともに、軸部12には硬化処理を施さないものであってもよい。なお、このスプライン61も公知公用の手段であるブローチ加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の種々の加工方法によって、形成することがきる。また、熱硬化処理としても、高周波焼入れ、浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。
すなわち、ハブ輪1に内径面37の硬化層Hと軸部12の外径面の未硬化部との硬度差は、HRCで20ポイント以上とする。具体的には、硬化層Hの硬度をHRCで50〜65程度とし、凹部形成側(軸部12の外径面)の硬度をHRCで10〜30であるのが好ましい。
この場合、凸部35の突出方向中間部位が、凹部形成前の凹部形成面(軸部12の外径面)の位置に対応する。すなわち、スプライン61の山部61aである凸部35の頂点を結ぶ円の径寸法(凸部35の最小直径寸法)D8を、軸部12の外径寸法D10よりも小さく、スプライン61の谷部61bの底を結ぶ円の径寸法(凸部間の谷部の最大直径寸法)D9を軸部12の外径寸法D10よりも大きく設定する。すなわち、D8<D10<D9とされる。この場合も、軸部12の外径寸法D10とハブ輪1の孔部22の内径寸法D9との径差をΔdとし、凸部36の高さをhとし、その比をΔd/2hとしたときに、0.3<Δd/2h<0.86とする。
軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入すれば、ハブ輪1側の凸部35によって、軸部12の外周面にこの凸部35が嵌合する凹部36を形成することができる。これによって、凸部35とこれに嵌合する凹部との嵌合接触部位38の全体が密着している。
ここで、嵌合接触部位38とは、図29(b)に示す範囲Bであり、凸部35の断面における山形の中腹部から山頂にいたる範囲である。また、周方向の隣合う凸部35間において、軸部12の外周面よりも外径側に隙間62が形成される。
この場合であっても、圧入によってはみ出し部45が形成されるので、このはみ出し部45を収納する収納部97を設けるのが好ましい。はみ出し部45は軸部12のマウス側に形成されることになるので、収納部をハブ輪1側に設けることになる。
このように、ハブ輪1の孔部22の内径面に凹凸嵌合構造Mの凸部35を設けて圧入するものでは、軸部側の硬度処理(熱処理)を行う必要がないので、等速自在継手3の外輪5の生産性に優れる利点がある。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、凹凸嵌合構造Mの凸部35の形状として、前記図2に示す実施形態では断面三角形状であり、図28(a)に示す実施形態では断面台形(富士山形状)であるが、これら以外の半円形状、半楕円形状、矩形形状等の種々の形状のものを採用でき、凸部35の面積、数、周方向配設ピッチ等も任意に変更できる。すなわち、スプライン41、61を形成し、このスプライン41、61の山部(凸歯)41a、61aをもって凹凸嵌合構造Mの凸部35とする必要はなく、キーのようなものであってもよく、曲線状の波型の合わせ面を形成するものであってもよい。要は、軸方向に沿って配設される凸部35を相手側に圧入し、この凸部35にて凸部35に密着嵌合する凹部36を相手側に形成することができて、凸部35とこれに嵌合する凹部との嵌合接触部位38の全体が密着し、しかも、ハブ輪1と等速自在継手3との間で回転トルクの伝達ができればよい。
また、ハブ輪1の孔部22としては円孔以外の多角形孔等の異形孔であってよく、この孔部22に嵌挿する軸部12の端部の断面形状も円形断面以外の多角形等の異形断面であってもよい。さらに、ハブ輪1に軸部12を圧入する際に凸部35の圧入始端部のみが、凹部36が形成される部位より硬度が高ければよいので、凸部35の全体の硬度を高くする必要がない。図2等では隙間40が形成されるが、凸部35間の谷部まで、ハブ輪1の内径面37が食い込むようなものであってもよい。
凸部35の端面(圧入始端)は前記実施形態では軸方向に対して直交する面であったが、軸方向に対して、所定角度で傾斜するものであってもよい。この場合、内径側から外径側に向かって反凸部側に傾斜しても凸部側に傾斜してもよい。
また、ハブ輪1の孔部22の内径面37に、周方向に沿って所定ピッチで配設される小凹部を設けてもよい。小凹部としては、凹部36の容積よりも小さくする必要がある。このように小凹部を設けることによって、凸部35の圧入性の向上を図ることができる。すなわち、小凹部を設けることによって、凸部35の圧入時に形成されるはみ出し部45の容量を減少させることができて、圧入抵抗の低減を図ることができる。また、はみ出し部45を少なくできるので、ポケット部50の容積を小さくでき、ポケット部50の加工性及び軸部12の強度の向上を図ることができる。なお、小凹部の形状は、三角形状、半楕円状、矩形等の種々のものを採用でき、数も任意に設定できる。
図20に示す結合手段としては、溶接の結合手段を用いていたが、溶接に代えて接着剤を使用してもよい。また、軸受2の転動体30として、ローラを使用したものであってもよい。さらに、前記実施形態では、第3世代の車輪用軸受装置を示したが、第1世代や第2世代さらには第4世代であってもよい。なお、凸部35を圧入する場合、凹部36が形成される側を固定して、凸部35を形成している側を移動させても、逆に、凸部35を形成している側を固定して、凹部36が形成される側を移動させても、両者を移動させてもよい。なお、等速自在継手3において、内輪6とシャフト10とを前記各実施形態に記載した凹凸嵌合構造Mを介して一体化してもよい。
なお、軸部抜け止め構造M1において、例えば、図19に示すような止め輪85等を使用する場合、軸部12の端部に軸部抜け止め構造M1を設けることなく、軸部12の付け根部側(マウス側)等に設けることができる。
ハブ輪1と軸部12とのボルト固定を行うボルト部材94の座面100aと、位置決め用内壁22gとの間に介在されるシール材は、前記実施形態ではボルト部材94の座面100a側に樹脂を塗布して構成していたが、逆に、位置決め用内壁22g側に樹脂を塗布するようにしてもよい。また、座面100a側および位置決め用内壁22g側に樹脂を塗布するようにしてもよい。なお、ボルト部材94を螺着した際において、ボルト部材94の座面100aと、位置決め用内壁22gの凹窪91の底面とが密着性に優れるものであれば、このようなシール材を省略することも可能である。すわなち、凹窪91の底面を研削することによって、ボルト部材94の座面100aとの密着性を向上させたりすることができる。もちろん、凹窪91の底面を研削することなく、いわゆる浸炭仕上げ状態であっても、密着性を発揮できれば、シール材を省略することができる。