本発明は、自動車等の車両において車輪を車体に対して回転自在に支持するための車輪用軸受装置に関する。
車輪用軸受装置には、第1世代と称される複列の転がり軸受を単独に使用する構造から、外方部材に車体取付フランジを一体に有する第2世代に進化し、さらに、車輪取付フランジを一体に有するハブ輪の外周に複列の転がり軸受の一方の内側軌道面が一体に形成された第3世代、さらには、ハブ輪に等速自在継手が一体化され、この等速自在継手を構成する外側継手部材の外周に複列の転がり軸受の他方の内側軌道面が一体に形成された第4世代のものまで開発されている。
例えば、特許文献1には、第3世代と呼ばれるものが記載されている。第3世代と呼ばれる車輪用軸受装置は、図27に示すように、外径方向に延びるフランジ151を有するハブ輪152と、このハブ輪152に外側継手部材153が固定される等速自在継手154と、ハブ輪152の外周側に配設される外方部材155とを備える。
等速自在継手154は、前記外側継手部材153と、この外側継手部材153の椀形部157内に配設される内側継手部材158と、この内側継手部材158と外側継手部材153との間に配設されるボール159と、このボール159を保持する保持器160とを備える。また、内側継手部材158の中心孔の内周面にはスプライン部161が形成され、この中心孔に図示省略のシャフトの端部スプライン部が挿入されて、内側継手部材158側のスプライン部161とシャフト側のスプライン部とが係合される。
また、ハブ輪152は、筒部163と前記フランジ151とを有し、フランジ151の外端面164(反継手側の端面)には、図示省略のホイールおよびブレーキロータが装着される短筒状のパイロット部165が突設されている。なお、パイロット部165は、大径の第1部165aと小径の第2部165bとからなり、第1部165aにブレーキロータが外嵌され、第2部165bにホイールが外嵌される。
そして、筒部163の椀形部157側端部の外周面に切欠部166が設けられ、この切欠部166に内輪167が嵌合されている。ハブ輪152の筒部163の外周面のフランジ近傍には第1内側軌道面168が設けられ、内輪167の外周面に第2内側軌道面169が設けられている。また、ハブ輪152のフランジ151にはボルト装着孔162が設けられて、ホイールおよびブレーキロータをこのフランジ151に固定するためのハブボルトがこのボルト装着孔162に装着される。
外方部材155は、その内周に2列の外側軌道面170、171が設けられると共に、その外周にフランジ(車体取付フランジ)151が設けられている。そして、外方部材155の第1外側軌道面170とハブ輪152の第1内側軌道面168とが対向し、外方部材155の第2外側軌道面171と、内輪167の軌道面169とが対向し、これらの間に転動体172が介装される。
ハブ輪152の筒部163に外側継手部材153の軸部173が挿入される。軸部173は、その反椀形部の端部にねじ部174が形成され、このねじ部174と椀形部157との間にスプライン部175が形成されている。また、ハブ輪152の筒部163の内周面(内径面)にスプライン部176が形成され、この軸部173がハブ輪152の筒部163に挿入された際には、軸部173側のスプライン部175とハブ輪152側のスプライン部176とが係合する。
そして、筒部163から突出した軸部173のねじ部174にナット部材177が螺着され、ハブ輪152と外側継手部材153とが連結される。この際、ナット部材177の内端面(裏面)178と筒部163の外端面179とが当接するとともに、椀形部157の軸部側の端面180と内輪167の外端面181とが当接する。すなわち、ナット部材177を締付けることによって、ハブ輪152が内輪167を介してナット部材177と椀形部157とで挟持される。
特開2004−340311号公報
従来では、前記したように、軸部173側のスプライン部175とハブ輪152側のスプライン部176とが係合するものである。このため、軸部173側及びハブ輪152側の両者にスプライン加工を施す必要があって、コスト高となるとともに、圧入時には、軸部173側のスプライン部175とハブ輪152側のスプライン部176との凹凸を合わせる必要があり、この際、歯面を合わせることによって、圧入すれば、この凹凸歯が損傷する(むしれる)おそれがある。また、歯面を合わせることなく、凹凸歯の大径合わせにて圧入すれば、円周方向のガタが生じやすい。このように、円周方向のガタがあると、回転トルクの伝達性に劣るとともに、異音が発生するおそれもあった。このため、従来のように、スプライン嵌合による場合、凹凸歯の損傷及び円周方向のガタの両者を成立させることは困難であった。
また、筒部163から突出した軸部173のねじ部174にナット部材177を螺着する必要がある。このため、組立時にはねじ締結作業を有し、作業性に劣るとともに、部品点数も多く、部品管理性も劣ることになっていた。
ところで、スプライン嵌合において、雄スプラインと雌スプラインとの密着性の向上を図って、円周方向のガタが生じないようにしたとしても、駆動トルクが作用すれば、雄スプラインと雌スプラインとに相対変位が発生するおそれがある。このような相対変位が発生すれば、フレッティング摩耗が発生し、その摩耗粉により、スプラインがアブレーション摩耗を起すおそれがある。これによって、スプライン嵌合部位においてガタツキが生じたり、安定したトルク伝達ができなくなるおそれがある。
本発明は、上記課題に鑑みて、等速自在継手の外側継手部材の軸部が凹凸嵌合構造を介してハブ輪に長期にわたって安定して一体化される車輪用軸受装置を提供する。
本発明の車輪用軸受装置は、内周側に複数の外側軌道面を有する外方部材と、外周側に複数の内側軌道面を有する内方部材と、外方部材の外側軌道面とこれに対向する内方部材の内側軌道面との間に配置される転動体とを有する転がり軸受を備え、前記内方部材はハブ輪を有し、ハブ輪の孔部に嵌挿される等速自在継手の外側継手部材の軸部が凹凸嵌合構造を介してハブ輪に一体化される車輪用軸受装置であって、等速自在継手の外側継手部材の軸部の外径面とハブ輪の孔部の内径面とのどちらか一方に設けられて軸方向に延びる凸部を、軸方向に沿って他方に圧入し、他方に凸部に密着嵌合する凹部を凸部にて形成して、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する前記凹凸嵌合構造を構成するとともに、前記凸部には、圧縮残留応力付与手段によって圧縮残留応力が付与されているものである。
本発明の車輪用軸受装置によれば、凹凸嵌合構造は、凸部と凹部との嵌合接触部位の全体が密着しているので、この嵌合構造では、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が形成されない。外側継手部材の軸部の外径面とハブ輪の孔部の内径面とのどちらか一方に設けられて軸方向に延びる凸部を、軸方向に沿って他方に圧入し、この他方に凸部にて凸部に密着嵌合する凹部を形成して、前記凹凸嵌合構造を構成する。すなわち、相手側の凹部形成面に凸部の形状の転写を行うことになる。
しかも、凸部に圧縮残留応力が付与されているので、凸部の耐摩耗性の向上を図ることができる。すなわち、圧縮残留応力を付与することによって、残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させることができて、耐摩耗性を向上させることができる。
圧縮残留応力付与手段がショットピーニングで構成することができる。ショットピーニングとは、ショット材と呼ばれる硬質な小球を、投射装置等により加速して噴射させ、被加工部品に高速で衝突させる冷間加工法である。ショットピーニングされた被加工部品は、表面にはある粗さが形成されるが、表層部は加工硬化され、高い圧縮残留応力が付与される。また、被加工部品が浸炭材では残留オーステナイトが加工誘起型マルテンサイトに変態する。
前記凸部の硬度(ロックウェル硬度)が50HRC〜65HRCであり、凸部が圧入される相手側の硬度(ロックウェル硬度)が10HRC〜30HRCであるのが好ましい。凸部の硬度が50HRC〜65HRCであれば、相手側に圧入するための硬度を具備することができる。また、相手側の硬度が10HRC〜30HRCであれば、凸部を圧入することができる。
前記凸部が高周波熱処理にて熱処理硬化されるのが好ましい。ここで、高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用により、ジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。
前記凸部の突出方向中間部の周方向厚さを、周方向に隣合う凸部間における前記突出方向中間部に対応する位置での周方向寸法よりも小さくするこが好ましい。このように設定することによって、凸部の突出方向中間部位の周方向厚さの総和が、周方向に隣り合う凸部間に嵌合する相手側の凸部における前記中間部位に対応する位置での周方向厚さの総和よりも小さくなる。
前記ハブ輪の内径面に、等速自在継手の外側継手部材の軸部に先端部が当接してこの軸部の軸方向の位置決めとなる壁部を設けるのが好ましい。壁部を設けたことによって、ボルト固定が安定するとともに、軸方向に沿って配設される凹凸嵌合構造Mの軸方向長さを安定した長さに確保することができる。
外側継手部材の軸部とハブ輪の内径面との間に軸部抜け止め構造を設けてもよい。軸部抜け止め構造を設けることによって、ハブ輪に対する等速自在継手の外側継手部材が軸方向に抜けることを防止できる。この際、軸部抜け止め構造は、ハブ輪の内径面に係合する外側継手部材の軸部の端部拡径加締部にて構成するとともに、この端部拡径加締部は未硬化処理状態であるのが好ましい。
本発明では、凹凸嵌合構造において、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が形成されないので、嵌合部位の全てが回転トルク伝達に寄与し、安定したトルク伝達が可能であり、しかも、異音の発生も生じさせない。さらには、隙間無く密着しているので、トルク伝達部位の強度が向上する。このため、車輪用軸受装置を軽量、コンパクトにすることができる。
外側継手部材の軸部の外径面とハブ輪の孔部の内径面とのどちらか一方に設けられる凸部を、軸方向に沿って他方に圧入することによって、この凸部に密着嵌合する凹部を形成することができる。このため、凹凸嵌合構造を確実に形成することができる。しかも、凹部が形成される部材には、スプライン部等を形成しておく必要がなく、生産性に優れ、かつスプライン同士の位相合わせを必要とせず、組立性の向上を図るとともに、圧入時の歯面の損傷を回避することができて、安定した嵌合状態を維持できる。
しかも、凸部に圧縮残留応力が付与されているので、凸部の耐摩耗性の向上を図ることができる。このため、駆動トルクが作用して凹凸嵌合構造において仮に僅かな相対変位が発生したとしても、フレッティング摩耗の発生を抑えることができて、凹凸嵌合構造のアブレッシブ摩耗を防止できる。これによって、長期にわたってガタつくことなく安定してトルク伝達機能を発揮することができる。
圧縮残留応力付与手段がショットピーニングで構成することができ、ピーニング加工で圧縮残留応力を安定して増大させることができる。しかも、汎用のショットピーニングを用いることができ、コストの低減を図ることができる。
凸部の硬度が50HRC〜65HRCであれば、相手側に圧入するための硬度を具備することができ、圧入性の向上を図ることができ、また、相手側の硬度が10HRC〜30HRCであれば、この相手側に対して硬化処理を行う必要はなく、生産性の向上を図ることができる。
凸部が高周波熱処理にて熱処理硬化することができ、高周波熱処理の利点(局部加熱ができ、焼入れ条件の調整が容易である点。短時間に加熱ができるため酸化が少ない点。他の焼入れ方法に比べて、焼入れ歪が少ない点。表面硬さが高く、優れた耐摩耗性を得られる点。硬化層の深さの選定も比較的容易である点。自動化が容易で機械加工ラインへの組み入れも可能である点等の利点)を奏することができる。
特に、高周波熱処理にショットピーニングを組み合わせることで高い圧縮残留応力が付与でき、疲労強度の向上が期待できる。
凸部の突出方向中間部位の周方向厚さを、周方向に隣り合う凸部間における前記中間部位に対応する位置での寸法よりも小さくすることによって、凹部が形成される側の凸部(形成される凹部間の凸部)の突出方向中間部位の周方向厚さを大きくすることができる。このため、相手側の凸部(凹部が形成されることによる凹部間の硬度が低い凸部)のせん断面積を大きくすることができ、ねじり強度を確保することができる。しかも、硬度が高い側の凸部の歯厚が小であるので、圧入荷重を小さくでき、圧入性の向上を図ることができる。
位置決め用の壁を設けたことによって、ボルト固定が安定する。しかも、位置決めされたことによって、この車輪用軸受装置の寸法精度が安定するとともに、軸方向に沿って配設される凹凸嵌合構造の軸方向長さを安定した長さに確保することができ、トルク伝達性の向上を図ることができる。
軸部抜け止め構造によって、外側継手部材の軸部がハブ輪の孔部から軸方向に抜けることを有効に防止できる。これによって、安定した連結状態を維持でき、車輪用軸受装置の高品質化を図ることができる。また、端部拡径加締部は未硬化処理状態であれば、拡径作業の容易化を図ることができる。
以下本発明の実施の形態を図1〜図27に基づいて説明する。図1に本発明に係る車輪用軸受装置を示している。車輪用軸受装置は、内周側に複数の外側軌道面26、27を有する外方部材25と、外周側に複数の内側軌道面28、29を有する内方部材39と、外方部材の外側軌道面26、27とこれに対向する内方部材39の内側軌道面28、29との間に配置される転動体38とを有する転がり軸受2を備える。内方部材39はハブ輪1を有し、このハブ輪1に等速自在継手の外側継手部材の軸部12が一体化されている。なお、自動車等の車両に組付けた状態で車両の外側となる方をアウトボード側(図面左側)、自動車等の車両に組付けた状態で車両の内側となる方をインボード側(図面右側)という場合がある。
等速自在継手は、外側継手部材としての外輪5と、外輪5の内側に配された内側継手部材としての内輪6と、外輪5と内輪6との間に介在してトルクを伝達する複数のボール7と、外輪5と内輪6との間に介在してボール7を保持するケージ8とを主要な部材として構成される。内輪6はその孔部内径6aにシャフト10の端部10aを圧入することによりスプライン嵌合してシャフト10とトルク伝達可能に結合されている。なお、シャフト10の端部10aには、シャフト抜け止め用の止め輪9が嵌合されている。
外輪5はマウス部11とステム部(軸部)12とからなり、マウス部11は一端にて開口した椀状で、その内球面13に、軸方向に延びた複数のトラック溝14が円周方向等間隔に形成されている。そのトラック溝14はマウス部11の開口端まで延びている。内輪6は、その外球面15に、軸方向に延びた複数のトラック溝16が円周方向等間隔に形成されている。
外輪5のトラック溝14と内輪6のトラック溝16とは対をなし、各対のトラック溝14,16で構成されるボールトラックに1個ずつ、トルク伝達要素としてのボール7が転動可能に組み込んである。ボール7は外輪5のトラック溝14と内輪6のトラック溝16との間に介在してトルクを伝達する。ケージ8は外輪5と内輪6との間に摺動可能に介在し、外球面にて外輪5の内球面13と接し、内球面にて内輪6の外球面15と接する。なお、この場合の等速自在継手は、ツェパー型を示しているが、トラック溝の溝底に直線状のストレート部を有するアンダーカットフリー型等の他の等速自在継手であってもよい。
また、マウス部11の開口部はブーツ60にて塞がれている。ブーツ60は、大径部60aと、小径部60bと、大径部60aと小径部60bとを連結する蛇腹部60cとからなる。大径部60aがマウス部11の開口部に外嵌され、この状態でブーツバンド61にて締結され、小径部60bがシャフト10のブーツ装着部10bに外嵌され、この状態でブーツバンド62にて締結されている。
ハブ輪1は、筒部20と、筒部20の反継手側の端部に設けられるフランジ21とを有する。筒部20の孔部22は、軸方向中間部の軸部嵌合孔22aと、反継手側のテーパ孔22bと、継手側の大径孔22cとを備える。すなわち、軸部嵌合孔22aにおいて、後述する凹凸嵌合構造Mを介して等速自在継手3の外輪5の軸部12とハブ輪1とが結合される。また、軸部嵌合孔22aと大径孔22cとの間には、テーパ部(テーパ孔)22dが設けられている。このテーパ部22dは、ハブ輪1と外輪5の軸部12を結合する際の圧入方向に沿って縮径している。テーパ部22dのテーパ角度θ1(図4参照)は、例えば15°〜75°とされる。
転がり軸受2は、前記したように、内周側に複数の外側軌道面26、27を有する外方部材25と、外周側に複数の内側軌道面28,29を有する内方部材39と、外方部材25の外側軌道面26、27とこれに対向する内方部材39の内側軌道面28,29との間に配置される転動体30とを有する。この場合の内方部材39は、前記ハブ輪1と、ハブ輪1の筒部22の継手側に設けられた段差部23に嵌合する内輪24とからなる。なお、外方部材25の両開口部にはシール部材S1,S2が装着されている。また、この場合図示省略しているが、外方部材25である外輪には、車体の懸架装置から延びるナックル(図示省略)が取付けられている。
この場合、ハブ輪1の継手側の端部を加締めて、その加締部31にて軸受2に予圧を付与するものである。これによって、内輪24をハブ輪1に締結することができる。またハブ輪1のフランジ21にはボルト装着孔32が設けられて、ホイールおよびブレーキロータをこのフランジ21に固定するためのハブボルト33がこのボルト装着孔32に装着される。
凹凸嵌合構造Mは、図2(a)(b)に示すように、例えば、軸部12の端部に設けられて軸方向に延びる凸部35と、ハブ輪1の孔部22の内径面(この場合、軸部嵌合孔22aの内径面37)に形成される凹部36とからなり、凸部35とその凸部35に嵌合するハブ輪1の凹部36との嵌合接触部位38全域が密着している。すなわち、軸部12の反マウス部側の外周面に、複数の凸部35が周方向に沿って所定ピッチで配設され、ハブ輪1の孔部22の軸部嵌合孔22aの内径面37に凸部35が嵌合する複数の凹部36が周方向に沿って形成されている。つまり、周方向全周にわたって、凸部35とこれに嵌合する凹部36とがタイトフィットしている。
この場合、各凸部35は、その断面が凸アール状の頂点を有する三角形状(山形状)であり、各凸部35の凹部嵌合部位とは、図2(b)に示す範囲Aであり、断面における山形の中腹部から山頂にいたる範囲である。また、周方向の隣合う凸部35間において、ハブ輪1の内径面37よりも内径側に隙間40が形成されている。
このように、ハブ輪1と等速自在継手3の外輪5の軸部12とを凹凸嵌合構造Mを介して連結できる。この際、前記したようにハブ輪1の継手側の端部を加締めて、その加締部31にて軸受2に予圧を付与するものであるので、外輪5のマウス部11にて内輪24に予圧を付与する必要がなく、ハブ輪1の端部(この場合、加締部31)に対してマウス部11を接触させない非接触状態としている。このため、ハブ輪1の加締部31とマウス部11の底外面11aとの間に隙間98が設けられる。
ところで、この車輪用軸受装置では、凹凸嵌合構造Mへの異物侵入防止手段Wを、凹凸嵌合構造Mよりも反継手側(インボード側、つまり車両に取付けた状態で車両の内側となる方)、及び凹凸嵌合構造Mよりも継手側(アウトボード側、つまり車両に取付けた状態で車両の外側となる方)にそれぞれ設けている。すなわち、図6(a)(b)に示すように、ハブ輪1の加締部31とマウス部11の底外面11aとの間に隙間98が設けられ、この隙間98に嵌着されるシール部材99にてインボード側の異物侵入防止手段W1を構成することができる。この場合、隙間98は、ハブ輪1の加締部31とマウス部11の底外面11aとの間から大径孔22cと軸部12との間まで形成される。この実施形態では、シール部材99はハブ輪1の加締部31と大径部12cとのコーナ部に配置される。なお、シール部材99としては、図6(a)に示すようなOリング等のようなものであっても、図6(b)に示すようなガスケット等のようなものであってもよい。
アウトボード側の異物侵入防止手段W2は、係合部である後述するテーパ状係止片65と、テーパ孔22bの内径面との間に介在されるシール材(図示省略)にて構成することできる。この場合、テーパ状係止片65にシール材が塗布されることになる。すなわち、塗布後に硬化してテーパ状係止片65と、テーパ孔22bの内径面の間において密封性を発揮できる種々の樹脂からなるシール材(シール剤)を塗布すればよい。なお、このシール材としては、この車輪用軸受装置が使用される雰囲気中において劣化しないものが選択される。
凸部35と凹部36との嵌合接触部位38、隙間40間にシール材を介在し、これによって、異物侵入防止手段W(W3)を構成してもよい。この場合、凸部35の表面に、塗布後に硬化して、嵌合接触部位38、隙間40間において密封性を発揮できる種々の樹脂からなるシール材(シール剤)を塗布すればよい。
外輪5の軸部12の端部とハブ輪1の内径面37との間に前記軸部抜け止め構造M1が設けられている。この軸部抜け止め構造M1は、外輪5の軸部12の端部から反継手側に延びてテーパ孔22bに係止する前記テーパ状係止片65からなる。すなわち、テーパ状係止片65は、継手側から反継手側に向かって拡径するリング状体からなり、その外周面65aの少なくとも一部がテーパ孔22bに圧接乃至接触している。
ところで、この車輪用軸受装置を組み立てる場合、後述するように、ハブ輪1に対して外輪5の軸部12を圧入することによって、凸部35によって凹部36を形成するようにしている。この際圧入していけば、凸部35にて形成される凹部36から材料がはみ出してはみ出し部45(図3参照)が形成される。はみ出し部45は、凸部35の凹部嵌合部位が嵌入(嵌合)する凹部36の容量の材料分であって、形成される凹部36から押し出されたもの、凹部36を形成するために切削されたもの、又は押し出されたものと切削されたものの両者等から構成される。このため、前記図1等に示す車輪用軸受装置では、はみ出し部45を収納するポケット部(収納部)50を軸部12に設けている。
軸部12のスプライン41の軸端縁に周方向溝51を設けることによって、ポケット部(収納部)50を形成している。周方向溝51よりも反スプライン側には、前記軸部抜け止め構造M1を構成する端部拡径加締部(テーパ状係止片)65が形成されている。
次に、凹凸嵌合構造Mの嵌合方法を説明する。この場合、図4に示すように、軸部12の外径部には熱硬化処理を施し、この硬化層Hに軸方向に沿う凸部41aと凹部41bとからなるスプライン41を形成する。このため、スプライン41の凸部41aが硬化処理されて、この凸部41aが凹凸嵌合構造Mの凸部35となる。なお、この実施形態での硬化層Hの範囲は、クロスハッチング部で示すように、スプライン41の外端縁から外輪5のマウス部11の底壁の一部までである。この熱硬化処理としては、高周波焼入れや浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。ここで、高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用により、ジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。また、浸炭焼入れとは、低炭素材料の表面から炭素を浸入/拡散させ、その後に焼入れを行う方法である。また、ハブ輪1の外径側に高周波焼入れによる硬化層H1を形成するとともに、ハブ輪の内径側を未焼き状態としたものである。この実施形態での硬化層H1の範囲は、クロスハッチング部で示すように、フランジ21の付け根部から内輪24が嵌合する段差部23の加締部近傍までである。
高周波焼入れを行えば、表面は硬く、内部は素材の硬さそのままとすることができ、このため、ハブ輪1の内径側を未焼き状態に維持できる。このため、ハブ輪1の孔部22の内径面37側においては熱硬化処理を行わない未硬化部(未焼き状態)とする。外輪5の軸部12の硬化層Hとハブ輪1の未硬化部との硬度差は、HRCで20ポイント以上とする。具体的には、硬化層Hの硬度を50HRCから65HRC程度とし、未硬化部の硬度を10HRCから30HRC程度とする。
そして、このように熱硬化された凸部35に対して、圧縮残留応力付与手段にて圧縮残留応力を付与することになる。圧縮残留応力付与手段はショットピーニングにて構成することができる。ここで、ショットピーニングとは、ショット材と呼ばれる硬質な小球を、投射装置等により加速して噴射させ、被加工部品に高速で衝突させる冷間加工法である。ショットピーニングされた被加工部品は、表面にはある粗さが形成されるが、表層部は加工硬化され、高い圧縮残留応力が付与される。また、被加工部品の残留オーステナイトが加工誘起型マルテンサイトに変態する。
この際、凸部35の突出方向中間部位が、凹部形成前の凹部形成面(この場合、ハブ輪1の孔部22の内径面37)の位置に対応する。すなわち、図4に示すように、孔部22の内径面37の内径寸法Dを、凸部35の最大外径、つまりスプライン41の凸部41aである前記凸部35の頂点を結ぶ円の最大直径寸法(外接円直径)D1よりも小さく、凸部間の軸部外径面の外径寸法、つまりスプライン41の凹部41bの底を結ぶ円の最大直径寸法D2よりも大きく設定される。すなわち、D2<D<D1とされる。
スプライン41は、従来からの公知公用の手段である転造加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の種々の加工方法によって、形成することがきる。また、熱硬化処理としては、高周波焼入れ、浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。
また、圧入前には軸部12の端面12aの外周縁部から前記テーパ状係止片65を構成するための短円筒部66を軸方向に沿って突出させている。短円筒部66の外径D4は孔部22の嵌合孔22aの内径寸法Dよりも小さく設定している。すなわち、この短円筒部66が後述するように、軸部12のハブ輪1の孔部22への圧入時の調芯部材となる。
そして、図4に示すように、外輪5の軸部12の付け根部(マウス部側)にOリング等のシール部材99を外嵌して、ハブ輪1の軸心と等速自在継手の外輪5の軸心とを合わせた状態で、ハブ輪1に対して、外輪5の軸部12を挿入(圧入)していく。また、凸部35の表面にシール材を塗布しておく。この際、ハブ輪1の孔部22に圧入方向に沿って縮径するテーパ部22dを形成しているので、このテーパ部22dが圧入開始時のガイドを構成することができる。また、孔部22の内径面37の径寸法Dと、凸部35の最大外径寸法D1と、スプライン41の凹部の最大外径寸法D2とが前記のような関係であり、しかも、凸部35の硬度が孔部22の内径面37の硬度よりも20ポイント以上大きいので、シャフト10を内輪6の孔部22に圧入していけば、この凸部35が内径面37に食い込んでいき、凸部35が、この凸部35が嵌合する凹部36を軸方向に沿って形成していくことになる。
このように圧入されることによって、図3に示すように、形成されるはみ出し部45は、カールしつつポケット部50内に収納されて行く。すなわち、孔部22の内径面から削り取られたり、押し出されたりした材料の一部がポケット部50内に入り込んでいく。
また、圧入によって、図2に示すように、軸部12の端部の凸部35と、これに嵌合する凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着している。すなわち、相手側の凹部形成面(この場合、孔部22に内径面37)に凸部35の形状の転写を行うことになる。この際、凸部35が孔部22の内径面37に食い込んでいくことによって、孔部22が僅かに拡径した状態となって、凸部35の軸方向の移動を許容し、軸方向の移動が停止すれば、孔部22が元の径に戻ろうとして縮径することになる。言い換えれば、凸部35の圧入時にハブ輪1が径方向に弾性変形し、この弾性変形分の予圧が凸部35の歯面(凹部嵌合部位の表面)に付与される。このため、凸部35の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部36に対して密着する凹凸嵌合構造Mを確実に形成することができる。
また、外輪5の軸部12の付け根部(マウス部側)にOリング等のシール部材99が外嵌されているので、圧入完了状態で、ハブ輪1の加締部31とマウス部11の底外面11aとの間の隙間98がこのシール部材99にて塞がれる(密封される)ことになる。さらに、凸部35と凹部36との嵌合接触部位38間が凸部35の表面に塗布されたシール材にて密封される。
ところで、外輪5の軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入する際には、外輪5のマウス部11の外径面に、図1等に示すように段差面Gを設け、圧入用治具Kをこの段差面Gに係合させて、この圧入用治具Kから段差面Gに圧入荷重(軸方向荷重)を付与すればよい。なお、段差面Gとしては周方向全周に設けても、周方向に沿って所定ピッチで設けてもよい。このため、使用する圧入用治具Kとしても、これらの段差面Gに対応して軸方向荷重を付与できればよい。
このように、凹凸嵌合構造Mが構成されるが、この場合の凹凸嵌合構造Mは転がり軸受2の軌道面26、27、28、29の避直下位置に配置される。ここで、避直下位置とは、軌道面26、27、28、29に対して径方向に対応しない位置である。
また、外輪5の軸部12とハブ輪1の孔部22に圧入して、凹凸嵌合構造Mを介して外輪5の軸部12とハブ輪1とが一体化された状態では、短円筒部66が嵌合孔22aからテーパ孔22b側に突出する。
そこで、図1の仮想線で示すような治具67を使用してこの短円筒部66を拡径することになる。治具67は、円柱状の本体部68と、この本体部68の先端部に連設される円錐台部69とを備える。治具67の円錐台部69は、その傾斜面69aの傾斜角度がテーパ孔22bの傾斜角度と略同一され、かつ、その先端の外径が短円筒部66の内径と同一乃至僅かに短円筒部66の内径よりも小さい寸法に設定されている。そして、治具67の円錐台部69をテーパ孔22bを介して嵌入することによって矢印α方向の荷重を付加し、これによって、図4に示す短円筒部66の内径側にこの短円筒部66が拡径する矢印β方向の拡径力を付与する。この際、治具67の円錐台部69によって、短円筒部66の少なくとも一部はテーパ孔22bの内径面側に押圧され、テーパ孔22bの内径面に、異物侵入防止手段W2を構成するシール材を介して圧接乃至接触した状態となり、前記軸部抜け止め構造M1を構成することができる。なお、治具67の矢印α方向の荷重を付加する際には、この車輪用軸受装置が矢印α方向へ移動しないように、固定する必要があるが、ハブ輪1や等速自在継手3等の一部を固定部材にて受ければよい。ところで、短円筒部66の内径面は軸端側に拡径するテーパ形状でも良い。このような形状にしておけば、鍛造で内径面を成形することも可能であり、コスト低減に繋がる。
また、治具67の矢印α方向の荷重を低減させるため、円筒部66に切り欠きを入れても良いし、治具67の円錐台69の円錐面を周方向で部分的に配置するものでも良い。円筒部66に切り欠きを入れた場合、円筒部66を拡径し易くなる。また、治具67の円錐台69の円錐面を周方向で部分的に配置するものである場合、円筒部66を拡径させる部位が円周上の一部になるため、治具67の押し込み荷重を低減させることができる。
この凹凸嵌合構造Mでは、図5に示すように、軸部12の外径寸法D1と、ハブ輪1の孔部22の嵌合孔22aの内径寸法Dとの径差(D1−D)をΔdとし、軸部12の外径面に設けられた凸部35の高さをhとし、その比をΔd/2hとしたときに、0.3<Δd/2h<0.86とする。これによって、凸部35の突出方向中間部位(高さ方向中間部位)が、凹部形成前の凹部形成面上に確実に配置されるようにすることによって、凸部35が圧入時に凹部形成面に食い込んでいき、凹部36を確実に形成することができる。
ところで、軸受2の外方部材25の外周面25aが車体側のナックルに嵌合組込まれる。ここでいう嵌合組込みは、外方部材25をナックルに嵌合することにより両者の組込みが完了することを意味する。この組込みは、例えば外方部材25の円筒面状の外周面25aをナックルの円筒状内周面に圧入することにより行うことができる。
凹凸嵌合構造Mは、凸部35と凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着しているので、この嵌合構造Mにおいて、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が形成されない。このため、嵌合部位の全てが回転トルク伝達に寄与し、安定したトルク伝達が可能であり、しかも、異音の発生も生じさせない。
凹部36が形成される部材(この場合、ハブ輪1)には、スプライン部等を形成しておく必要がなく、生産性に優れ、かつスプライン同士の位相合わせを必要とせず、組立性の向上を図るとともに、圧入時の歯面の損傷を回避することができ、安定した嵌合状態を維持できる。
しかも、凸部35に圧縮残留応力が付与されているので、凸部35の耐摩耗性の向上を図ることができる。すなわち、圧縮残留応力を付与することによって、残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させることができて、耐摩耗性を向上させることができる。このため、駆動トルクが作用して凹凸嵌合構造Mにおいて仮に僅かな相対変位が発生したとしても、フレッティング摩耗の発生を抑えることができて、凹凸嵌合構造のアブレッシブ摩耗を防止できる。これによって、長期にわたってガタつくことなく安定してトルク伝達機能を発揮することができる。
圧縮残留応力付与手段がショットピーニングで構成することができ、ピーニング加工で圧縮残留応力を安定して増大させることができる。しかも、汎用のショットピーニングを用いることができ、コストの低減を図ることができる。
凸部35の硬度が50HRC〜65HRCであれば、相手側に圧入するための硬度を具備することができ、圧入性の向上を図ることができ、また、相手側の硬度が10HRC〜30HRCであれば、圧入することができる。
凸部35が高周波熱処理にて熱処理硬化することができ、高周波熱処理の利点(局部加熱ができ、焼入れ条件の調整が容易である点。短時間に加熱ができるため酸化が少ない点。他の焼入れ方法に比べて、焼入れ歪が少ない点。表面硬さが高く、優れた耐摩耗性を得られる点。硬化層の深さの選定も比較的容易である点。自動化が容易で機械加工ラインへの組み入れも可能である点等の利点)を奏することができる。
特に、高周波熱処理にショットピーニングを組み合わせることで高い圧縮残留応力が付与でき、疲労強度の向上が期待できる。
軸部12の外径寸法とハブ輪1の孔部22の内径寸法との径差をΔdとし、凸部の高さをhとし、その比をΔd/2hとしたときに、0.3<Δd/2h<0.86としので、凸部35の圧入代を十分にとることができる。すなわち、Δd/2hが0.3以下である場合、捩り強度が低くなり、また、Δd/2hが0.86を越えれば、微小な圧入時の芯ずれや圧入傾きにより、凸部35の全体が相手側に食い込み、凹凸嵌合構造Mの成形性が悪化し、圧入荷重が急激に増大する。凹凸嵌合構造Mの成形性が悪化した場合、捩り強度が低下するだけでなく、ハブ輪外径の膨張量も増大するため、ハブ輪1に装着される軸受2の機能に影響し、回転寿命が低下する等の問題もある。これに対して、Δd/2hを0.3〜0.86にすることにより、凹凸嵌合構造Mの成形性が安定し、圧入荷重のばらつきも無く、安定した捩り強度が得られる。
テーパ部22dが圧入開始時のガイドを構成することができるので、ハブ輪1の孔部22に対して外輪5の軸部12を、ズレを生じさせることなく圧入させることができ、安定したトルク伝達が可能となる。さらに、短円筒部66は、円筒部66の外径D4は孔部22の嵌合孔22aの内径寸法Dよりも小さく設定しているので、調芯部材となり、芯ずれを防止しつつ軸部をハブ輪に圧入することができ、より安定した圧入が可能となる。
凹凸嵌合構造Mを転がり軸受2の軌道面の避直下位置に配置することによって、軸受軌道面におけるフープ応力の発生を抑える。これにより、転がり疲労寿命の低下、クラック発生、及び応力腐食割れ等の軸受の不具合発生を防止することができ、高品質な軸受を提供することができる。
軸部抜け止め構造M1によって、外輪5の軸部12がハブ輪1の孔部22からの抜け(特にシャフト側への軸方向の抜け)を有効に防止できる。これによって、安定した連結状態を維持でき、車輪用軸受装置の高品質化を図ることができる。また、軸部抜け止め構造M1がテーパ状係止片65であるので、従来のようなねじ締結を省略できる。このため、軸部12にハブ輪1の孔部22から突出するねじ部を形成する必要がなくなって、軽量化を図ることができるとともに、ねじ締結作業を省略でき、組立作業性の向上を図ることができる。しかも、テーパ状係止片65では、外輪5の軸部12の一部を拡径させればよく、軸部抜け止め構造M1の形成を容易に行うことができる。なお、外輪5の軸部12の反継手方向への移動は、軸部12をさらに圧入する方向への押圧力が必要であり、外輪5の軸部12の反継手方向への位置ズレは極めて生じにくく、かつ、たとえこの方向に位置ズレしたとしても、外輪5のマウス部11の底部がハブ輪1の加締部31に当接して、ハブ輪1から外輪5の軸部12が抜けることがない。
等速自在継手の外輪5の軸部12の凸部の軸方向端部の硬度をハブ輪1の孔部内径部よりも高くして、軸部12をハブ輪1の孔部22に凸部35の軸方向端部側から圧入するので、ハブ輪1の孔部内径面への凹部形成が容易となる。また、軸部側の硬度を高くでき、軸部12の捩り強度を向上させることができる。
また、ハブ輪1の端部が加締られて転がり軸受2に対して予圧が付与されるので、外輪5のマウス部11によって予圧を付与する必要がなくなる。このため、内輪24への予圧を考慮することなく、外輪5の軸部12を圧入することができ、ハブ輪1と外輪5との連結性(組み付け性)の向上を図ることができる。マウス部11がハブ輪1と非接触状であるので、マウス部11とハブ輪1との接触による異音の発生を防止できる。
なお、凸部35を、この種のシャフトに通常形成されるスプラインをもって構成することができるので、低コストにて簡単にこの凸部35を形成することができる。
また、軸部12をハブ輪1に圧入していくことによって、凹部36を形成していくと、この凹部36側に加工硬化が生じる。ここで、加工硬化とは、物体に塑性変形(塑性加工)を与えると,変形の度合が増すにつれて変形に対する抵抗が増大し,変形を受けていない材料よりも硬くなることをいう。このため、圧入時に塑性変形することによって、凹部36側のハブ輪1の内径面37が硬化して、回転トルク伝達性の向上を図ることができる。
ハブ輪1の内径側は比較的軟かい。このため、外輪5の軸部12の外径面の凸部35をハブ輪1の孔部内径面の凹部36に嵌合させる際の嵌合性(密着性)の向上を図ることができ、径方向及び円周方向においてガタが生じるのを精度良く抑えることができる。
異物侵入防止手段Wを設けることにより凹凸嵌合構造Mへの異物の侵入を防止できる。すなわち、異物侵入防止手段Wによって、雨水や異物の侵入が防止され凹凸嵌合構造Mへの雨水や異物等による密着性の劣化を回避することができる。
ハブ輪1の端部とマウス部11の底部との間にシール部材99が配置されるものでは、シール部材99にて、ハブ輪1の端部とマウス部11の底部との間の隙間98を塞ぐことで、この隙間98からの凹凸嵌合構造Mへの雨水や異物の侵入が防止される。シール部材99としては、ハブ輪1の端部とマウス部11の底部との間に介在できるものであればよいので、例えば、既存(市販)のOリング等を使用することができ、低コストにて異物侵入防止手段を構成でき、しかも、市販のOリング等は、種々の材質、種々の大きさのものがあり、別途特別なものを製造することなく、確実にシール機能を発揮する異物侵入防止手段を構成することができる。
凸部35と凹部36との嵌合接触部位38間にシール材が介在されるので、嵌合接触部位38間においての異物の侵入を防止でき、異物侵入防止の信頼性が向上する。凹凸嵌合構造Mよりも反継手側において、ハブ輪1の内径面(この場合、テーパ孔22bの内径面)にシール材(異物侵入防止手段W2を構成するシール部材)を介して係合する端部拡径加締部(テーパ状係止片)65を設けているので、凹凸嵌合構造Mよりも反継手側からの異物の侵入を防止することができる。すなわち、アウトボード側からの異物侵入を回避することができる。
このように、前記実施形態のように、凹凸嵌合構造Mよりも継手側及び凹凸嵌合構造Mよりも反継手側に異物侵入防止手段W1、W2を設けた場合、凹凸嵌合構造Mの軸方向両端側からの異物の侵入が防止される。このため、密着性の劣化をより安定して長期にわたって回避することができる。
圧入による凹部形成によって生じるはみ出し部45を収納するポケット部50を設けることによって、はみ出し部45をこのポケット部50内に保持(維持)することができ、はみ出し部45が装置外の車両内等へ入り込んだりすることがない。すなわち、はみ出し部45をポケット部50に収納したままにしておくことができ、はみ出し部45の除去処理を行う必要がなく、組み立て作業工数の減少を図ることができて、組み立て作業性の向上及びコスト低減を図ることができる。
ところで、凸部35(軸部12側の凸部)と相手側(ハブ輪1の内径面)との硬度差が20HRC未満では、図7にグラフで示すように、圧入荷重が大きくなって、圧入途中等で、いわゆる「むしれ」が発生する損傷状態となるおそれがある。このため、本実施形態では、具体的には、硬化層Hの硬度を50HRCから65HRC程度とし、未硬化部の硬度を10HRCから30HRC程度として、硬度差をHRCで20ポイント以上とすのが、比較的低荷重に圧入でき、しかも凸部35にむしれが発生しない。
図8は第2実施形態を示し、この車輪用軸受装置の軸部抜け止め構造M1は、図4に示すような短円筒部66を予め形成することなく、軸部12の一部を外径方向へ突出するテーパ状係止片70を設けることによって構成している。
この場合、図9に示す治具71を使用する。治具71は、円柱状の本体部72と、この本体部72の先端部に連設される短円筒部73とを備え、短円筒部73の外周面の先端に切欠部74が設けられている。このため、治具71には先端くさび部75が形成されている。先端くさび部75を打ち込めば(矢印α方向の荷重を付加すれば)、この先端くさび部75の断面形状が外径側が傾斜面であり、この傾斜面を形成する切欠部74によって、図10に示すように、軸部12の端部の外径側が拡径することになる。
これによって、このテーパ状係止片70の少なくとも一部がテーパ孔22bの内径面に圧接乃至接触することになる。このため、このようなテーパ状係止片70であっても、前記図1等に示すテーパ状係止片65と同様、外輪5の軸部12がハブ輪1の孔部22から軸方向に抜けることを有効に防止できる。これによって、安定した連結状態を維持でき、車輪用軸受装置の高品質化を図ることができる。なお、先端くさび部75の内径面がテーパ形状であってもよい。
図11は第3実施形態を示し、この車輪用軸受装置の軸部抜け止め構造M1は、軸部12の一部を外径方向へ突出するように加締めることによって形成する外鍔状係止片76にて構成している。この場合、ハブ輪1の孔部22は、嵌合孔22aとテーパ孔22bとの間に段付面22eが設けられて、この段付面22eに外鍔状係止片76が係止している。
この軸部抜け止め構造M1では、図12に示す治具77を使用することになる。この治具77は円筒体78を備える。円筒体78の外径D5を軸部12の端部の外径D7よりも大きく設定するとともに、円筒体78の内径D6を軸部12の端部の外径D7より小さく設定している。
このため、この治具77と外輪5の軸部12との軸心を合わせ、この状態で治具77の端面77aによって、軸部12の端面12aに矢印α方向に荷重を付加すれば、図16に示すように、軸部12の端面12aの外周側が圧潰して、外鍔状係止片76を形成することができる。
このような外鍔状係止片76であっても、外鍔状係止片76が段付面22eに係止することになるので、前記図1等に示すテーパ状係止片65と同様、外輪5の軸部12がハブ輪1の孔部22から軸方向に抜けることを有効に防止できる。これによって、安定した連結状態を維持でき、車輪用軸受装置の高品質化を図ることができる。
図12に示すような治具77を使用すれば、図14(a)に示すように、外鍔状係止片76は円周方向に沿って形成される。このため、治具として押圧部が周方向に沿って所定ピッチ(例えば、90°ピッチ)で配設されるものであれば、図14(b)に示すように、複数の外鍔状係止片76が周方向に沿って所定ピッチで配置される。図14(b)に示すように、複数の外鍔状係止片76が周方向に沿って所定ピッチで配設されたものであっても、外鍔状係止片76が段付面22eに係止することになるので、外輪5の軸部12がハブ輪1の孔部22から軸方向に抜けることを有効に防止できる。
軸部抜け止め構造M1としては、第4実施形態の図15に示すようにボルトナット結合を用いても、第5実施形態の図16に示すように、止め輪を用いても、第6実施形態の図17に示すように溶接等の結合手段を用いてもよい。
図15では、軸部12にねじ軸部80を連設し、このねじ軸部80にナット部材81を螺着している。そして、ナット部材81を孔部22の段付面22eに当接させている。これによって、軸部12のハブ輪1の孔部22からのシャフト側への抜けを規制している。
図16では、スプライン41よりも反継手側に軸延長部83を設けるとともに、この軸延長部83に周方向溝84を設け、この周方向溝84に止め輪85を嵌着している。そして、軸部12にハブ輪1の孔部22において、嵌合孔22aとテーパ孔22bとの間に前記止め輪85が係止する段部22fを設ける。これによって、止め輪85が段部22fに係止して軸部12のハブ輪1の孔部22からのシャフト側への抜けを規制している。
図17では、軸部12の端部外周面と嵌合孔22aの段付面22e側の開口部端縁部とを溶接にて接合している。これによって、軸部12のハブ輪1の孔部22からのシャフト側への抜けを規制している。この場合、溶接部位108として全周にわたっても、周方向に沿って所定ピッチに配設してもよい。
本発明の車輪用軸受装置においては、第7実施形態を示す図18に示すように、軸部抜け止め構造M1を設けないものであってもよい。この場合、図19に示すように、周方向溝51は、そのスプライン41側の側面51aが、軸方向に対して直交する平面であり、反スプライン側の側面51bは、溝底51cから反スプライン側に向かって拡径するテーパ面である。周方向凹溝51の側面51bよりも反スプライン側には、調芯用の円盤状の鍔部52が設けられている。鍔部52の外径寸法D4aが孔部22の嵌合孔22aの孔径と同一乃至嵌合孔22aの孔径よりも僅かに小さく設定される。この場合、鍔部52の外径面52aと孔部22の嵌合孔22aの内径面との間に微小隙間tが設けられている。
ポケット部50の軸方向反凸部側にハブ輪1の孔部22との調芯用の鍔部52を設けることによって、ポケット部50内のはみ出し部45の鍔部52側への飛び出しがなくなって、はみ出し部45の収納がより安定したものとなる。しかも、鍔部52は調芯用であるので、芯ずれを防止しつつ軸部12をハブ輪1に圧入することができる。このため、外側継手部材5とハブ輪1とを高精度に連結でき、安定したトルク伝達が可能となる。
鍔部52は圧入時の調芯用であるので、その外径寸法は、ハブ輪1の孔部22の嵌合孔22aの孔径よりも僅かに小さい程度に設定するが好ましい。すなわち、鍔部52の外径寸法が嵌合孔22aの孔径と同一や嵌合孔22aの孔径よりも大きければ、鍔部52自体を嵌合孔22aに圧入することになる。この際、芯ずれしていれば、このまま凹凸嵌合構造Mの凸部35が圧入され、軸部12の軸心とハブ輪1の軸心とが合っていない状態で軸部12とハブ輪1とが連結されることになる。また、鍔部52の外径寸法が嵌合孔22aの孔径よりも小さすぎると、調芯用として機能しない。このため、鍔部52の外径面52aと孔部22の嵌合孔22aの内径面との間の微小隙間tとしては、0.01mm〜0.2mm
程度に設定するのが好ましい。
なお、図18と図19に示すように、軸部抜け止め構造M1を有しない場合において、軸部12の調芯用としての鍔部52を省略したものであってもよい。
次に、第8実施形態を示す図20は軸部12のハブ輪1からの抜けが許容されている車輪用軸受装置である。この場合、ハブ輪1は、図1等に示すように、筒部20と、筒部20の反継手側の端部に設けられるフランジ21とを有する。筒部20の孔部22は、軸方向中間部の軸部嵌合孔22aと、反継手側のテーパ孔22bとを有し、軸部嵌合孔22aとテーパ孔22bとの間に、内径方向へ突出する位置決め用の内壁(壁部)22gが設けられている。すなわち、軸部嵌合孔22aにおいて、凹凸嵌合構造Mを介して等速自在継手3の外輪5の軸部12とハブ輪1とが結合される。なお、この位置決め用壁部22gの反軸部嵌合孔側の端面には凹窪部91が設けられている。
孔部22は、軸部嵌合孔22aよりも反位置決め用壁部側の開口側に大径部86を有し、軸部嵌合孔22aよりも位置決め用壁部側に小径部88とを有する。大径部86と軸部嵌合孔22aとの間には、テーパ部(テーパ孔)89aが設けられている。このテーパ部89aは、ハブ輪1と外輪5の軸部12を結合する際の圧入方向に沿って縮径している。テーパ部89aのテーパ角度θ1は、例えば15°〜75°とされる。なお、軸部嵌合孔22aと小径部88との間にもテーパ部89bが設けられている。
この場合、軸部12がハブ輪1の孔部22、つまり軸部嵌合孔22aに圧入されることによって、軸部12の凸部35が軸部嵌合孔22aの内径面37に、この凸部35が密着嵌合する凹部36が形成される。
また、圧入後には、反継手側から軸部12のねじ孔90にボルト部材94を螺着する。ボルト部材94は、フランジ付き頭部94aと、ねじ軸部94bとからなる。ねじ軸部94bは、大径の基部95aと、小径の本体部95bと、先端側のねじ部95cとを有する。この場合、位置決め用壁部22gに貫通孔96が設けられ、この貫通孔96にボルト部材94の軸部94bが挿通されて、ねじ部95cが軸部12のねじ孔90に螺着される。図24に示すように、貫通孔96の孔径d1は、軸部94bの大径の基部95aの外径d2よりも僅かに大きく設定される。具体的には、0.05mm<d1−d2<0.5mm程度とされる。なお、ねじ部95cの最大外径は、大径の基部95aの外径と同じか基部95aの外径よりも僅かに小さい程度とする。
このように、ボルト部材94を軸部12のねじ孔90に螺着することによって、ボルト部材94の頭部94aのフランジ部100が位置決め用壁部22gの凹窪部91に嵌合する。これによって、軸部12の反継手側の端面92とボルト部材94の頭部94aとで位置決め用壁部22gが挟持される。
また、ボルト部材94の座面100aと位置決め用壁部22gとの間もシール材(図示省略)を介在させてもよい。この場合、例えば、ボルト部材94の座面100aに、塗布後に硬化して座面100aと位置決め用壁部22gの凹窪部91の底面との間において密封性を発揮できるもの種々の樹脂からなるシール材(シール剤)を塗布すればよい。なお、このシール材としては、この車輪用軸受装置が使用される雰囲気中において劣化しないものが選択される。
ところで、軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入していけば、形成されるはみ出し部45は、図22に示すように、カールしつつ軸部12の小径部12dの外径側に設けられる空間からなる収納部97に収納されて行く。すなわち、孔部22の内径面から削り取られたり、押し出されたりした材料の一部であるはみ出し部45が収納部97内に入り込んでいく。
このように、前記圧入による凹部形成によって生じるはみ出し部45を収納する収納部97を設けることによって、はみ出し部45をこの収納部97内に保持(維持)することができ、はみ出し部45が装置外の車両内等へ入り込んだりすることがない。すなわち、はみ出し部45を収納部97に収納したままにしておくことができ、はみ出し部45の除去処理を行う必要がなく、組立作業工数の減少を図ることができて、組立作業性の向上及びコスト低減を図ることができる。
ハブ輪1と外輪5の軸部12とのボルト固定を行うボルト部材94の座面100aと、位置決め用壁部22gとの間にシール材を介在させたので、このボルト部材94からの凹凸嵌合構造Mへ雨水や異物の侵入が防止され、品質向上を図ることができる。
ところで、図20に示す状態から、ボルト部材94を螺退させることによって、ボルト部材94を取外せば、ハブ輪1から外輪5を引き抜くことができる。すなわち、凹凸嵌合構造Mの嵌合力は、外輪5に対して所定力以上の引き抜き力を付与することにより引き抜くことができるものである。
例えば、図23に示すような治具120にてハブ輪1と等速自在継手3とを分離することができる。治具120は、基盤121と、この基盤121のねじ孔122に螺進退可能に螺合する押圧用ボルト部材123と、軸部12のねじ孔90に螺合されるねじ軸126とを備える。基盤121には貫孔124が設けられ、この貫孔124にハブ輪1のボルト33が挿通され、ナット部材125がこのボルト33に螺合される。この際、基盤121とハブ輪1のフランジ21とが重ね合わされて、基盤121がハブ輪1に取り付けられる。
このように、基盤121をハブ輪1に取り付けた状態とした後、基部126aが位置決め用壁部22gから反継手側へ突出するように、軸部12のねじ孔90にねじ軸126を螺合させる。この基部126aの突出量は、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さよりも長く設定される。また、ねじ軸126と、押圧用ボルト部材123とは、同一軸心上(この車輪用軸受装置の軸心上)に配設される。
その後は、図23に示すように、押圧用ボルト部材123を反継手側から基盤121のねじ孔122に螺着し、この状態で、矢印のようにねじ軸126側へ螺進させる。この際、ねじ軸126と、押圧用ボルト部材123とは、同一軸心上(この車輪用軸受装置の軸心上)に配設されているので、この螺進によって、押圧用ボルト部材123がねじ軸126を矢印方向へ押圧する。これによって、外輪5がハブ輪1に対して矢印方向へ移動して、ハブ輪1から外輪5が外れる。
また、ハブ輪1から外輪5が外れた状態からは、例えば、ボルト部材94を使用して再度、ハブ輪1と外輪5とを連結することができる。すなわち、ハブ輪1から基盤121を取外すとともに、軸部12からねじ軸126を取外した状態として、ボルト部材94を貫通孔96を介して軸部12のねじ孔90に螺合させる。この状態では、軸部12側の雄スプライン41と、前回の圧入によって形成されたハブ輪1の雌スプライン42との位相を合わせる。
そして、この状態にて、ボルト部材94をねじ孔90に対して螺進させる。これによって、軸部12がハブ輪1内へ嵌入していく。この際、孔部22が僅かに拡径した状態となって、軸部12の軸方向の進入を許容し、軸方向の移動が停止すれば、孔部22が元の径に戻ろうとして縮径することになる。これによって、前回の圧入と同様、凸部35の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部36に対して密着する凹凸嵌合構造Mを確実に構成することができる。
特に、ボルト部材94をねじ孔90に対して螺進させる際に、図24に示すように、ボルト部材94の基部95aが、貫通孔96に対応した状態となる。しかも、貫通孔96の孔径d1は、軸部94bの大径の基部95aの外径d2よりも僅かに大きく設定される(具体的には、0.05mm<d1−d2<0.5mm程度とされる)ので、ボルト部材94の基部95aの外径と、貫通孔96の内径とが、ボルト部材94がねじ孔90を螺進する際のガイドを構成することができ、芯ずれすることなく、軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入することができる。なお、貫通孔96の軸方向長さとしても、短すぎると、安定したガイドを発揮できず、逆に長すぎると、位置決め用壁部22gの厚さ寸法が大となって、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さを確保できないとともに、ハブ輪1の重量が大となる。このため、これらを考慮して種々変更することができる。
なお、軸部12のねじ孔90の開口部が開口側に向かって拡開するテーパ部90aとさているので、ねじ軸126やボルト部材94をねじ孔90に螺合させさせ易い利点がある。
ところで、1回目(孔部22の内径面37に凹部36を成形する圧入)では、圧入荷重が比較的大きいので、圧入のために、プレス機等を使用する必要がある。これに対して、このような再度の圧入では、圧入荷重が1回目の圧入荷重よりも小さいため、プレス機等を使用することなく、安定して正確に軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入することができる。このため、現場での外輪5とハブ輪1との分離・連結が可能となる。
このように、図20等に示す車輪用軸受装置では、外輪5の軸部12に軸方向の引き抜き力を付与することによって、ハブ輪1の孔部22から外輪5を取外すことができるので、各部品の修理・点検の作業性(メンテナンス性)の向上を図ることができる。
ボルト固定によって、ハブ輪1からの軸部12の軸方向の抜けが規制され、長期にわたって安定したトルク伝達が可能となる。特に、外輪5の軸部12の反継手側の端面92とボルト部材94の頭部94aとで挟持される位置決め用壁部22gを設けたことによって、ボルト固定が安定する。しかも、位置決めされたことによって、この車輪用軸受装置の寸法精度が安定するとともに、軸方向に沿って配設される凹凸嵌合構造Mの軸方向長さを安定した長さに確保することができ、トルク伝達性の向上を図ることができる。
ボルト部材94の座面100aと、位置決め用壁部22gとの間にシール材を介在させることによって、ボルト部材側からの雨水や異物の侵入が防止され凹凸嵌合構造への雨水や異物等の侵入による密着性の劣化を回避することができる。
前記図2に示すスプライン41では、凸部41aのピッチと凹部41bのピッチとが同一設定される。このため、前記実施形態では、図2(b)に示すように、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さLと、周方向に隣り合う凸部35間における前記中間部位に対応する位置での周方向寸法L0とがほぼ同一となっている。
なお、前記第2実施形態〜第8実施形態においても、図示省略しているが、ハブ輪1には硬化層H1が形成され、等速自在継手3の外輪5には硬化層Hが形成されている。
これに対して、図25(a)に示すように、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さL2を、周方向に隣り合う凸部43間における前記中間部位に対応する位置での周方向寸法L1よりも小さいものであってもよい。すなわち、軸部12に形成されるスプライン41において、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さ(歯厚)L2を、凸部35間に嵌合するハブ輪1側の凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さ(歯厚)L1よりも小さくしている。
このため、軸部12側の全周における凸部35の歯厚の総和Σ(B1+B2+B3+・・・)を、ハブ輪1側の凸部43(凸歯)の歯厚の総和Σ(A1+A2+A3+・・・)よりも小さく設定している。これによって、ハブ輪1側の凸部43のせん断面積を大きくすることができ、ねじり強度を確保することができる。しかも、凸部35の歯厚が小であるので、圧入荷重を小さくでき、圧入性の向上を図ることができる。凸部35の周方向厚さの総和を、相手側の凸部43における周方向厚さの総和よりも小さくする場合、全凸部35の周方向厚さL2を、周方向に隣り合う凸部35間における周方向の寸法L1よりも小さくする必要がない。すなわち、複数の凸部35のうち、任意の凸部35の周方向厚さが周方向に隣り合う凸部間における周方向の寸法と同一であっても、この周方向の寸法よりも大きくても、総和で小さければよい。
図25(a)における凸部35は、断面台形(富士山形状)としているが、図25(b)に示すように、インボリュート歯形状であってもよい。
ところで、前記各実施形態では、軸部12側に凸部35を構成するスプライン41を形成するとともに、この軸部12のスプライン41に対して硬化処理を施し、ハブ輪1の内径面を未硬化(生材)としている。これに対して、第9実施形態を示す図26に示すように、ハブ輪1の孔部22の内径面に硬化処理を施されたスプライン111(凸条111a及び凹条111bとからなる)を形成するとともに、軸部12には硬化処理を施さないものであってもよい。なお、このスプライン111も公知公用の手段であるブローチ加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の種々の加工方法によって、形成することがきる。また、熱硬化処理としても、高周波焼入れ、浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。
このハブ輪1の凸部35に対してもショットピーニング等の圧縮残留応力付与手段にて圧縮残留応力が付与される。
この場合、凸部35の突出方向中間部位が、凹部形成前の凹部形成面(軸部12の外径面)の位置に対応する。すなわち、スプライン111の凸部111aである凸部35の頂点を結ぶ円の径寸法(凸部35の最小径寸法)D8を、軸部12の外径寸法D10よりも小さく、スプライン111の凹部111bの底を結ぶ円の径寸法(凸部間の嵌合用孔内径面の内径寸法)D9を軸部12の外径寸法D10よりも大きく設定する。すなわち、D8<D10<D9とされる。この場合も、軸部12の外径寸法D10とハブ輪1の孔部22の内径寸法D9との径差をΔdとし、凸部36の高さをhとし、その比をΔd/2hとしたときに、0.3<Δd/2h<0.86とする。
軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入すれば、ハブ輪1側の凸部35によって、軸部12の外周面にこの凸部35が嵌合する凹部36を形成することができる。これによって、凸部35とこれに嵌合する凹部との嵌合接触部位38の全体が密着している。
ここで、嵌合接触部位38とは、図26(b)に示す範囲Bであり、凸部35の断面における山形の中腹部から山頂にいたる範囲である。また、周方向の隣合う凸部35間において、軸部12の外周面よりも外径側に隙間62が形成される。
この場合であっても、圧入によってはみ出し部45が形成されるので、このはみ出し部45を収納する収納部を設けるのが好ましい。はみ出し部45は軸部12のマウス側に形成されることになるので、収納部をハブ輪1側に設けることになる。
このように、ハブ輪1の孔部22の内径面に凹凸嵌合構造Mの凸部35を設けて圧入するものであっても、この凸部35は圧縮残留応力付与手段にて圧縮残留応力が付与されており、前記各実施形態と同様の作用効果を奏する。特に、軸部側の硬度処理(熱処理)を行う必要がないので、等速自在継手の外輪5の生産性に優れる利点がある。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、圧縮残留応力付与手段としてショットピーニングに限るものではなく、レーザピーニングや超音波打撃処理等の他の手段の採用も可能である。
凹凸嵌合構造Mの凸部35の形状として、前記図2に示す実施形態では断面三角形状であり、図28(a)に示す実施形態では断面台形(富士山形状)であるが、これら以外の半円形状、半楕円形状、矩形形状等の種々の形状のものを採用でき、凸部35の面積、数、周方向配設ピッチ等も任意に変更できる。すなわち、スプライン41、61を形成し、このスプライン41、111の凸部(凸歯)41a、111aをもって凹凸嵌合構造Mの凸部35とする必要はなく、キーのようなものであってもよく、曲線状の波型の合わせ面を形成するものであってもよい。要は、軸方向に沿って配設される凸部35を相手側に圧入し、この凸部35にて凸部35に密着嵌合する凹部36を相手側に形成することができて、凸部35とこれに嵌合する凹部との嵌合接触部位38の全体が密着し、しかも、ハブ輪1と等速自在継手3との間で回転トルクの伝達ができればよい。
また、ハブ輪1の孔部22としては円孔以外の多角形孔等の異形孔であってよく、この孔部22に嵌挿する軸部12の端部の断面形状も円形断面以外の多角形等の異形断面であってもよい。さらに、ハブ輪1に軸部12を圧入する際に凸部35の圧入始端部のみが、凹部36が形成される部位より硬度が高ければよいので、凸部35の全体の硬度を高くする必要がない。図2等では隙間40が形成されるが、凸部35間の凹部まで、ハブ輪1の内径面37に食い込むようなものであってもよい。なお、凸部35側と、凸部35にて形成される凹部形成面側との硬度差としては、前記したようにHRCで20ポイント以上とするのが好ましいが、凸部35が圧入可能であれば20ポイント未満であってもよい。
凸部35の端面(圧入始端)は前記実施形態では軸方向に対して直交する面であったが、軸方向に対して、所定角度で傾斜するものであってもよい。この場合、内径側から外径側に向かって反凸部側に傾斜しても凸部側に傾斜してもよい。
また、ポケット部50の形状としては、生じるはみ出し部45を収納(収容)できるものであればよく、そのため、ポケット部50の容量として、生じるはみ出し部45に対応できるものであればよい。
また、ハブ輪1の孔部22の内径面37に、周方向に沿って所定ピッチで配設される小凹部を設けてもよい。小凹部としては、凹部36の容積よりも小さくする必要がある。このように小凹部を設けることによって、凸部35の圧入性の向上を図ることができる。すなわち、小凹部を設けることによって、凸部35の圧入時に形成されるはみ出し部45の容量を減少させることができて、圧入抵抗の低減を図ることができる。また、はみ出し部45を少なくできるので、ポケット部50の容積を小さくでき、ポケット部50の加工性及び軸部12の強度の向上を図ることができる。なお、小凹部の形状は、三角形状、半楕円状、矩形等の種々のものを採用でき、数も任意に設定できる。
図20に示す結合手段としては、溶接の結合手段を用いていたが、溶接に代えて接着剤を使用してもよい。また、軸受2の転動体30として、ローラを使用したものであってもよい。さらに、前記実施形態では、第3世代の車輪用軸受装置を示したが、第1世代や第2世代さらには第4世代であってもよい。なお、凸部35を圧入する場合、凹部36が形成される側を固定して、凸部35を形成している側を移動させても、逆に、凸部35を形成している側を固定して、凹部36が形成される側を移動させても、両者を移動させてもよい。なお、等速自在継手3において、内輪6とシャフト10とを前記各実施形態に記載した凹凸嵌合構造Mを介して一体化してもよい。
なお、軸部抜け止め構造M1において、例えば、図19に示すような止め輪85等を使用する場合、軸部12の端部に軸部抜け止め構造M1を設けることなく、軸部12の付け根部側(マウス側)等に設けることができる。
ハブ輪1と軸部12とのボルト固定を行うボルト部材94の座面100aと、位置決め用壁部22gとの間に介在されるシール材は、前記実施形態ではボルト部材94の座面100a側に樹脂を塗布して構成していたが、逆に、位置決め用壁部22g側に樹脂を塗布するようにしてもよい。また、座面100a側および位置決め用壁部22g側に樹脂を塗布するようにしてもよい。なお、ボルト部材94を螺着した際において、ボルト部材94の座面100aと、位置決め用壁部22gの凹窪91の底面とが密着性に優れるものであれば、このようなシール材を省略することも可能である。すわなち、凹窪91の底面を研削することによって、ボルト部材94の座面100aとの密着性を向上させたりすることができる。もちろん、凹窪91の底面を研削することなく、鍛造肌、旋削仕上げ状態であっても、密着性を発揮できれば、シール材を省略することができる。
本発明の第1実施形態を示す車輪用軸受装置の拡大断面図である。
前記車輪用軸受装置の凹凸嵌合構造を示し、(a)は拡大断面図であり、(b)は(a)のX部拡大図である。
車輪用軸受装置の要部拡大断面図である。
前記車輪用軸受装置の分解状態を示す断面図である。
凹凸嵌合構造の要部拡大断面図である。
前記車輪用軸受装置の外輪のマウス部とハブ輪の加締部との間の隙間を密封するシール部材を示し、(a)はOリングを用いたときの拡大断面図であり、(b)がガスケットを用いたときの拡大断面図である。
圧入荷重と硬度差との関係を示すグラフ図である。
本発明の第2実施形態を示す車輪用軸受装置の縦断面図である。
前記図8の車輪用軸受装置の組立方法を示す断面図である。
前記図8の車輪用軸受装置の組立方法を示す断面図である。
本発明の第3実施形態を示す車輪用軸受装置の縦断面図である。
前記図11の車輪用軸受装置の組立方法を示す断面図である。
前記図11の車輪用軸受装置の組立方法を示す断面図である。
前記図11の車輪用軸受装置の外輪の軸部の端面を示し、(a)は全周にわたる外鍔状係止部の端面図であり、(b)は周方向に沿って所定ピッチで配設される外鍔状係止部の端面図である。
本発明の第4実施形態を示す車輪用軸受装置の縦断面図である。
本発明の第5実施形態を示す車輪用軸受装置の要部断面図である。
本発明の第6実施形態を示す車輪用軸受装置の要部断面図である。
本発明の第7実施形態を示す車輪用軸受装置の要部断面図である。
前記図18の車輪用軸受装置の要部拡大断面図である。
本発明の第8実施形態を示す車輪用軸受装置の断面図である。
前記図20の車輪用軸受装置の分解状態を示す断面図である。
前記図20の車輪用軸受装置の要部拡大断面図である。
前記図20の車輪用軸受装置の凹凸嵌合構造の分離方法を示す断面図である。
前記図20の車輪用軸受装置の再圧入方法を示す断面図である。
凹凸嵌合構造の変形例を示し、(a)は第1変形例の断面図であり、(b)第2変形例の断面図である。
本発明の第9実施形態を示す車輪用軸受装置を示し、(a)は横断面図である。(b)は(a)のY部拡大図である
従来の車輪用軸受装置の断面図である。
1 ハブ輪
2 軸受
3 等速自在継手
12 軸部
22g 壁部
25 外方部材
26 外側軌道面
27 外側軌道面
28 内側軌道面
29 内側軌道面
30 転動体
35 凸部
36 凹部
37 内径面
38 嵌合接触部位
39 内方部材
65 端部拡径加締部
M 凹凸嵌合構造
M1 抜け止め構造
本発明は、自動車等の車両において車輪を車体に対して回転自在に支持するための車輪用軸受装置、およびその製造方法に関する。
車輪用軸受装置には、第1世代と称される複列の転がり軸受を単独に使用する構造から、外方部材に車体取付フランジを一体に有する第2世代に進化し、さらに、車輪取付フランジを一体に有するハブ輪の外周に複列の転がり軸受の一方の内側軌道面が一体に形成された第3世代、さらには、ハブ輪に等速自在継手が一体化され、この等速自在継手を構成する外側継手部材の外周に複列の転がり軸受の他方の内側軌道面が一体に形成された第4世代のものまで開発されている。
例えば、特許文献1には、第3世代と呼ばれるものが記載されている。第3世代と呼ばれる車輪用軸受装置は、図27に示すように、外径方向に延びるフランジ151を有するハブ輪152と、このハブ輪152に外側継手部材153が固定される等速自在継手154と、ハブ輪152の外周側に配設される外方部材155とを備える。
等速自在継手154は、前記外側継手部材153と、この外側継手部材153の椀形部157内に配設される内側継手部材158と、この内側継手部材158と外側継手部材153との間に配設されるボール159と、このボール159を保持する保持器160とを備える。また、内側継手部材158の中心孔の内周面にはスプライン部161が形成され、この中心孔に図示省略のシャフトの端部スプライン部が挿入されて、内側継手部材158側のスプライン部161とシャフト側のスプライン部とが係合される。
また、ハブ輪152は、筒部163と前記フランジ151とを有し、フランジ151の外端面164(反継手側の端面)には、図示省略のホイールおよびブレーキロータが装着される短筒状のパイロット部165が突設されている。なお、パイロット部165は、大径の第1部165aと小径の第2部165bとからなり、第1部165aにブレーキロータが外嵌され、第2部165bにホイールが外嵌される。
そして、筒部163の椀形部157側端部の外周面に切欠部166が設けられ、この切欠部166に内輪167が嵌合されている。ハブ輪152の筒部163の外周面のフランジ近傍には第1内側軌道面168が設けられ、内輪167の外周面に第2内側軌道面169が設けられている。また、ハブ輪152のフランジ151にはボルト装着孔162が設けられて、ホイールおよびブレーキロータをこのフランジ151に固定するためのハブボルトがこのボルト装着孔162に装着される。
外方部材155は、その内周に2列の外側軌道面170、171が設けられると共に、その外周にフランジ(車体取付フランジ)151が設けられている。そして、外方部材155の第1外側軌道面170とハブ輪152の第1内側軌道面168とが対向し、外方部材155の第2外側軌道面171と、内輪167の軌道面169とが対向し、これらの間に転動体172が介装される。
ハブ輪152の筒部163に外側継手部材153の軸部173が挿入される。軸部173は、その反椀形部の端部にねじ部174が形成され、このねじ部174と椀形部157との間にスプライン部175が形成されている。また、ハブ輪152の筒部163の内周面(内径面)にスプライン部176が形成され、この軸部173がハブ輪152の筒部163に挿入された際には、軸部173側のスプライン部175とハブ輪152側のスプライン部176とが係合する。
そして、筒部163から突出した軸部173のねじ部174にナット部材177が螺着され、ハブ輪152と外側継手部材153とが連結される。この際、ナット部材177の内端面(裏面)178と筒部163の外端面179とが当接するとともに、椀形部157の軸部側の端面180と内輪167の外端面181とが当接する。すなわち、ナット部材177を締付けることによって、ハブ輪152が内輪167を介してナット部材177と椀形部157とで挟持される。
特開2004−340311号公報
従来では、前記したように、軸部173側のスプライン部175とハブ輪152側のスプライン部176とが係合するものである。このため、軸部173側及びハブ輪152側の両者にスプライン加工を施す必要があって、コスト高となるとともに、圧入時には、軸部173側のスプライン部175とハブ輪152側のスプライン部176との凹凸を合わせる必要があり、この際、歯面を合わせることによって、圧入すれば、この凹凸歯が損傷する(むしれる)おそれがある。また、歯面を合わせることなく、凹凸歯の大径合わせにて圧入すれば、円周方向のガタが生じやすい。このように、円周方向のガタがあると、回転トルクの伝達性に劣るとともに、異音が発生するおそれもあった。このため、従来のように、スプライン嵌合による場合、凹凸歯の損傷及び円周方向のガタの両者を成立させることは困難であった。
また、筒部163から突出した軸部173のねじ部174にナット部材177を螺着する必要がある。このため、組立時にはねじ締結作業を有し、作業性に劣るとともに、部品点数も多く、部品管理性も劣ることになっていた。
ところで、スプライン嵌合において、雄スプラインと雌スプラインとの密着性の向上を図って、円周方向のガタが生じないようにしたとしても、駆動トルクが作用すれば、雄スプラインと雌スプラインとに相対変位が発生するおそれがある。このような相対変位が発生すれば、フレッティング摩耗が発生し、その摩耗粉により、スプラインがアブレーション摩耗を起すおそれがある。これによって、スプライン嵌合部位においてガタツキが生じたり、安定したトルク伝達ができなくなるおそれがある。
本発明は、上記課題に鑑みて、等速自在継手の外側継手部材の軸部が凹凸嵌合構造を介してハブ輪に長期にわたって安定して一体化される車輪用軸受装置、およびその製造方法を提供する。
本発明は、内周側に複数の外側軌道面を有する外方部材と、外周側に複数の内側軌道面を有する内方部材と、外方部材の外側軌道面とこれに対向する内方部材の内側軌道面との間に配置される転動体とを有する転がり軸受を備え、前記内方部材はハブ輪を有し、ハブ輪の孔部に嵌挿される等速自在継手の外側継手部材の軸部がハブ輪に結合される車輪用軸受装置であって、等速自在継手の外側継手部材の軸部の外径面に設けられた軸方向に延びる凸部を、ハブ輪の孔部の内径面に設けられた小凹部に軸方向に沿って圧入し、ハブ輪の孔部内径面に、圧入した凸部による切削で凹部を形成して、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成するとともに、前記凸部には、圧縮残留応力付与手段によって圧縮残留応力が付与されていることを特徴とするものである。凸部の圧入開始側の端面は軸方向に対して直交する面で形成するのが好ましい。
この車輪用軸受装置は、等速自在継手の外側継手部材の軸部の外径面に軸方向に延びる凸部を設けて、該凸部に圧縮残留応力付与手段によって圧縮残留応力を付与し、ハブ輪の孔部の内径面に小凹部を形成し、前記凸部を軸方向に沿ってハブ輪の孔部内径面の小凹部に圧入し、ハブ輪の孔部内径面に、圧入した凸部による切削で凹部を形成して、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成することで製造することができる。
本発明の車輪用軸受装置によれば、凹凸嵌合構造は、凸部と凹部との嵌合接触部位の全体が密着しているので、この嵌合構造では、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が形成されない。外側継手部材の軸部の外径面に設けられて軸方向に延びる凸部を、軸方向に沿ってハブ輪の孔部の内径面に圧入し、この他方に凸部にて凸部に密着嵌合する凹部を形成して、前記凹凸嵌合構造を構成する。すなわち、相手側の凹部形成面に凸部の形状の転写を行うことになる。
しかも、凸部に圧縮残留応力が付与されているので、凸部の耐摩耗性の向上を図ることができる。すなわち、圧縮残留応力を付与することによって、残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させることができて、耐摩耗性を向上させることができる。
圧縮残留応力付与手段がショットピーニングで構成することができる。ショットピーニングとは、ショット材と呼ばれる硬質な小球を、投射装置等により加速して噴射させ、被加工部品に高速で衝突させる冷間加工法である。ショットピーニングされた被加工部品は、表面にはある粗さが形成されるが、表層部は加工硬化され、高い圧縮残留応力が付与される。また、被加工部品が浸炭材では残留オーステナイトが加工誘起型マルテンサイトに変態する。
前記凸部の硬度(ロックウェル硬度)が50HRC〜65HRCであり、凸部が圧入されるハブ輪の孔部内径面の硬度(ロックウェル硬度)が10HRC〜30HRCであるのが好ましい。凸部の硬度が50HRC〜65HRCであれば、相手側に圧入するための硬度を具備することができる。また、ハブ輪の孔部内径面の硬度が10HRC〜30HRCであれば、凸部を圧入することができる。
前記凸部が高周波熱処理にて熱処理硬化されるのが好ましい。ここで、高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用により、ジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。
前記凸部の突出方向中間部の周方向厚さを、周方向に隣合う凸部間における前記突出方向中間部に対応する位置での周方向寸法よりも小さくするこが好ましい。このように設定することによって、凸部の突出方向中間部位の周方向厚さの総和が、周方向に隣り合う凸部間に嵌合する相手側の山部における前記中間部位に対応する位置での周方向厚さの総和よりも小さくなる
前記ハブ輪の内径面に、等速自在継手の外側継手部材の軸部に先端部が当接してこの軸部の軸方向の位置決めとなる壁部を設けるのが好ましい。壁部を設けたことによって、ボルト固定が安定するとともに、軸方向に沿って配設される凹凸嵌合構造Mの軸方向長さを安定した長さに確保することができる。
外側継手部材の軸部とハブ輪の内径面との間に軸部抜け止め構造を設けてもよい。軸部抜け止め構造を設けることによって、ハブ輪に対する等速自在継手の外側継手部材が軸方向に抜けることを防止できる。この際、軸部抜け止め構造は、ハブ輪の内径面に係合する外側継手部材の軸部の端部拡径加締部にて構成するとともに、この端部拡径加締部は未硬化処理状態であるのが好ましい。
本発明では、凹凸嵌合構造において、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が形成されないので、嵌合部位の全てが回転トルク伝達に寄与し、安定したトルク伝達が可能であり、しかも、異音の発生も生じさせない。さらには、隙間無く密着しているので、トルク伝達部位の強度が向上する。このため、車輪用軸受装置を軽量、コンパクトにすることができる。
外側継手部材の軸部の外径面に設けられる凸部を、軸方向に沿ってハブ輪の孔部の内径面に圧入することによって、この凸部に密着嵌合する凹部を形成することができる。このため、凹凸嵌合構造を確実に形成することができる。しかも、凹部が形成されるハブ輪には、スプライン部等を形成しておく必要がなく、生産性に優れ、かつスプライン同士の位相合わせを必要とせず、組立性の向上を図るとともに、圧入時の歯面の損傷を回避することができて、安定した嵌合状態を維持できる。
しかも、凸部に圧縮残留応力が付与されているので、凸部の耐摩耗性の向上を図ることができる。このため、駆動トルクが作用して凹凸嵌合構造において仮に僅かな相対変位が発生したとしても、フレッティング摩耗の発生を抑えることができて、凹凸嵌合構造のアブレッシブ摩耗を防止できる。これによって、長期にわたってガタつくことなく安定してトルク伝達機能を発揮することができる。
また、凹部を、ハブ輪の孔部内径面に形成された小凹部に凸部を圧入することで形成しているので、凸部の圧入時に形成されるはみ出し部の容量を減じて圧入抵抗の低減を図ることができる。
圧縮残留応力付与手段がショットピーニングで構成することができ、ピーニング加工で圧縮残留応力を安定して増大させることができる。しかも、汎用のショットピーニングを用いることができ、コストの低減を図ることができる。
凸部の硬度が50HRC〜65HRCであれば、相手側に圧入するための硬度を具備することができ、圧入性の向上を図ることができ、また、相手側の硬度が10HRC〜30HRCであれば、この相手側に対して硬化処理を行う必要はなく、生産性の向上を図ることができる。
以下本発明の実施の形態を図1〜図27に基づいて説明する。図1に本発明に係る車輪用軸受装置を示している。車輪用軸受装置は、内周側に複数の外側軌道面26、27を有する外方部材25と、外周側に複数の内側軌道面28、29を有する内方部材39と、外方部材の外側軌道面26、27とこれに対向する内方部材39の内側軌道面28、29との間に配置される転動体38とを有する転がり軸受2を備える。内方部材39はハブ輪1を有し、このハブ輪1に等速自在継手の外側継手部材の軸部12が一体化されている。なお、自動車等の車両に組付けた状態で車両の外側となる方をアウトボード側(図面左側)、自動車等の車両に組付けた状態で車両の内側となる方をインボード側(図面右側)という場合がある。
等速自在継手は、外側継手部材としての外輪5と、外輪5の内側に配された内側継手部材としての内輪6と、外輪5と内輪6との間に介在してトルクを伝達する複数のボール7と、外輪5と内輪6との間に介在してボール7を保持するケージ8とを主要な部材として構成される。内輪6はその孔部内径6aにシャフト10の端部10aを圧入することによりスプライン嵌合してシャフト10とトルク伝達可能に結合されている。なお、シャフト10の端部10aには、シャフト抜け止め用の止め輪9が嵌合されている。
外輪5はマウス部11とステム部(軸部)12とからなり、マウス部11は一端にて開口した椀状で、その内球面13に、軸方向に延びた複数のトラック溝14が円周方向等間隔に形成されている。そのトラック溝14はマウス部11の開口端まで延びている。内輪6は、その外球面15に、軸方向に延びた複数のトラック溝16が円周方向等間隔に形成されている。
外輪5のトラック溝14と内輪6のトラック溝16とは対をなし、各対のトラック溝14,16で構成されるボールトラックに1個ずつ、トルク伝達要素としてのボール7が転動可能に組み込んである。ボール7は外輪5のトラック溝14と内輪6のトラック溝16との間に介在してトルクを伝達する。ケージ8は外輪5と内輪6との間に摺動可能に介在し、外球面にて外輪5の内球面13と接し、内球面にて内輪6の外球面15と接する。なお、この場合の等速自在継手は、ツェパー型を示しているが、トラック溝の溝底に直線状のストレート部を有するアンダーカットフリー型等の他の等速自在継手であってもよい。
また、マウス部11の開口部はブーツ60にて塞がれている。ブーツ60は、大径部60aと、小径部60bと、大径部60aと小径部60bとを連結する蛇腹部60cとからなる。大径部60aがマウス部11の開口部に外嵌され、この状態でブーツバンド61にて締結され、小径部60bがシャフト10のブーツ装着部10bに外嵌され、この状態でブーツバンド62にて締結されている。
ハブ輪1は、筒部20と、筒部20の反継手側の端部に設けられるフランジ21とを有する。筒部20の孔部22は、軸方向中間部の軸部嵌合孔22aと、反継手側のテーパ孔22bと、継手側の大径孔22cとを備える。すなわち、軸部嵌合孔22aにおいて、後述する凹凸嵌合構造Mを介して等速自在継手3の外輪5の軸部12とハブ輪1とが結合される。また、軸部嵌合孔22aと大径孔22cとの間には、テーパ部(テーパ孔)22dが設けられている。このテーパ部22dは、ハブ輪1と外輪5の軸部12を結合する際の圧入方向に沿って縮径している。テーパ部22dのテーパ角度θ1(図4参照)は、例えば15°〜75°とされる。
転がり軸受2は、前記したように、内周側に複数の外側軌道面26、27を有する外方部材25と、外周側に複数の内側軌道面28,29を有する内方部材39と、外方部材25の外側軌道面26、27とこれに対向する内方部材39の内側軌道面28,29との間に配置される転動体30とを有する。この場合の内方部材39は、前記ハブ輪1と、ハブ輪1の筒部22の継手側に設けられた段差部23に嵌合する内輪24とからなる。なお、外方部材25の両開口部にはシール部材S1,S2が装着されている。また、この場合図示省略しているが、外方部材25である外輪には、車体の懸架装置から延びるナックル(図示省略)が取付けられている。
この場合、ハブ輪1の継手側の端部を加締めて、その加締部31にて軸受2に予圧を付与するものである。これによって、内輪24をハブ輪1に締結することができる。またハブ輪1のフランジ21にはボルト装着孔32が設けられて、ホイールおよびブレーキロータをこのフランジ21に固定するためのハブボルト33がこのボルト装着孔32に装着される。
凹凸嵌合構造Mは、図2(a)(b)に示すように、例えば、軸部12の端部に設けられて軸方向に延びる凸部35と、ハブ輪1の孔部22の内径面(この場合、軸部嵌合孔22aの内径面37)に形成される凹部36とからなり、凸部35とその凸部35に嵌合するハブ輪1の凹部36との嵌合接触部位38全域が密着している。すなわち、軸部12の反マウス部側の外周面に、複数の凸部35が周方向に沿って所定ピッチで配設され、ハブ輪1の孔部22の軸部嵌合孔22aの内径面37に凸部35が嵌合する複数の凹部36が周方向に沿って形成されている。つまり、周方向全周にわたって、凸部35とこれに嵌合する凹部36とがタイトフィットしている。
この場合、各凸部35は、その断面が凸アール状の頂点を有する三角形状(山形状)であり、各凸部35の凹部嵌合部位とは、図2(b)に示す範囲Aであり、断面における山形の中腹部から山頂にいたる範囲である。また、周方向の隣合う凸部35間において、ハブ輪1の内径面37よりも内径側に隙間40が形成されている。
このように、ハブ輪1と等速自在継手3の外輪5の軸部12とを凹凸嵌合構造Mを介して連結できる。この際、前記したようにハブ輪1の継手側の端部を加締めて、その加締部31にて軸受2に予圧を付与するものであるので、外輪5のマウス部11にて内輪24に予圧を付与する必要がなく、ハブ輪1の端部(この場合、加締部31)に対してマウス部11を接触させない非接触状態としている。このため、ハブ輪1の加締部31とマウス部11の底外面11aとの間に隙間98が設けられる。
ところで、この車輪用軸受装置では、凹凸嵌合構造Mへの異物侵入防止手段Wを、凹凸嵌合構造Mよりも反継手側(インボード側、つまり車両に取付けた状態で車両の内側となる方)、及び凹凸嵌合構造Mよりも継手側(アウトボード側、つまり車両に取付けた状態で車両の外側となる方)にそれぞれ設けている。すなわち、図6(a)(b)に示すように、ハブ輪1の加締部31とマウス部11の底外面11aとの間に隙間98が設けられ、この隙間98に嵌着されるシール部材99にてインボード側の異物侵入防止手段W1を構成することができる。この場合、隙間98は、ハブ輪1の加締部31とマウス部11の底外面11aとの間から大径孔22cと軸部12との間まで形成される。この実施形態では、シール部材99はハブ輪1の加締部31と大径部12cとのコーナ部に配置される。なお、シール部材99としては、図6(a)に示すようなOリング等のようなものであっても、図6(b)に示すようなガスケット等のようなものであってもよい。
アウトボード側の異物侵入防止手段W2は、係合部である後述するテーパ状係止片65と、テーパ孔22bの内径面との間に介在されるシール材(図示省略)にて構成することできる。この場合、テーパ状係止片65にシール材が塗布されることになる。すなわち、塗布後に硬化してテーパ状係止片65と、テーパ孔22bの内径面の間において密封性を発揮できる種々の樹脂からなるシール材(シール剤)を塗布すればよい。なお、このシール材としては、この車輪用軸受装置が使用される雰囲気中において劣化しないものが選択される。
凸部35と凹部36との嵌合接触部位38、隙間40間にシール材を介在し、これによって、異物侵入防止手段W(W3)を構成してもよい。この場合、凸部35の表面に、塗布後に硬化して、嵌合接触部位38、隙間40間において密封性を発揮できる種々の樹脂からなるシール材(シール剤)を塗布すればよい。
外輪5の軸部12の端部とハブ輪1の内径面37との間に前記軸部抜け止め構造M1が設けられている。この軸部抜け止め構造M1は、外輪5の軸部12の端部から反継手側に延びてテーパ孔22bに係止する前記テーパ状係止片65からなる。すなわち、テーパ状係止片65は、継手側から反継手側に向かって拡径するリング状体からなり、その外周面65aの少なくとも一部がテーパ孔22bに圧接乃至接触している。
ところで、この車輪用軸受装置を組み立てる場合、後述するように、ハブ輪1に対して外輪5の軸部12を圧入することによって、凸部35によって凹部36を形成するようにしている。この際圧入していけば、凸部35にて形成される凹部36から材料がはみ出してはみ出し部45(図3参照)が形成される。はみ出し部45は、凸部35の凹部嵌合部位が嵌入(嵌合)する凹部36の容量の材料分であって、形成される凹部36から押し出されたもの、凹部36を形成するために切削されたもの、又は押し出されたものと切削されたものの両者等から構成される。このため、前記図1等に示す車輪用軸受装置では、はみ出し部45を収納するポケット部(収納部)50を軸部12に設けている。
軸部12のスプライン41の軸端縁に周方向溝51を設けることによって、ポケット部(収納部)50を形成している。周方向溝51よりも反スプライン側には、前記軸部抜け止め構造M1を構成する端部拡径加締部(テーパ状係止片)65が形成されている。
次に、凹凸嵌合構造Mの嵌合方法を説明する。この場合、図4に示すように、軸部12の外径部には熱硬化処理を施し、この硬化層Hに軸方向に沿う山部41aと谷部41bとからなるスプライン41を形成する。このため、スプライン41の山部41aが硬化処理されて、この山部41aが凹凸嵌合構造Mの凸部35となる。なお、この実施形態での硬化層Hの範囲は、クロスハッチング部で示すように、スプライン41の外端縁から外輪5のマウス部11の底壁の一部までである。この熱硬化処理としては、高周波焼入れや浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。ここで、高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用により、ジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。また、浸炭焼入れとは、低炭素材料の表面から炭素を浸入/拡散させ、その後に焼入れを行う方法である。また、ハブ輪1の外径側に高周波焼入れによる硬化層H1を形成するとともに、ハブ輪の内径側を未焼き状態としたものである。この実施形態での硬化層H1の範囲は、クロスハッチング部で示すように、フランジ21の付け根部から内輪24が嵌合する段差部23の加締部近傍までである。
高周波焼入れを行えば、表面は硬く、内部は素材の硬さそのままとすることができ、このため、ハブ輪1の内径側を未焼き状態に維持できる。このため、ハブ輪1の孔部22の内径面37側においては熱硬化処理を行わない未硬化部(未焼き状態)とする。外輪5の軸部12の硬化層Hとハブ輪1の未硬化部との硬度差は、HRCで20ポイント以上とする。具体的には、硬化層Hの硬度を50HRCから65HRC程度とし、未硬化部の硬度を10HRCから30HRC程度とする。
そして、このように熱硬化された凸部35に対して、圧縮残留応力付与手段にて圧縮残留応力を付与することになる。圧縮残留応力付与手段はショットピーニングにて構成することができる。ここで、ショットピーニングとは、ショット材と呼ばれる硬質な小球を、投射装置等により加速して噴射させ、被加工部品に高速で衝突させる冷間加工法である。ショットピーニングされた被加工部品は、表面にはある粗さが形成されるが、表層部は加工硬化され、高い圧縮残留応力が付与される。また、被加工部品の残留オーステナイトが加工誘起型マルテンサイトに変態する。
この際、凸部35の突出方向中間部位が、凹部形成前の凹部形成面(この場合、ハブ輪1の孔部22の内径面37)の位置に対応する。すなわち、図4に示すように、孔部22の内径面37の内径寸法Dを、凸部35の最大直径寸法、つまりスプライン41の山部41aである前記凸部35の頂点を結ぶ円の直径寸法(外接円直径)D1よりも小さく、凸部間に形成された谷部の最小直径寸法、つまりスプライン41の谷部41bの底を結ぶ円の直径寸法D2よりも大きく設定される。すなわち、D2<D<D1とされる。
スプライン41は、従来からの公知公用の手段である転造加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の種々の加工方法によって、形成することがきる。また、熱硬化処理としては、高周波焼入れ、浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。
また、圧入前には軸部12の端面12aの外周縁部から前記テーパ状係止片65を構成するための短円筒部66を軸方向に沿って突出させている。短円筒部66の外径D4は孔部22の嵌合孔22aの内径寸法Dよりも小さく設定している。すなわち、この短円筒部66が後述するように、軸部12のハブ輪1の孔部22への圧入時の調芯部材となる。
そして、図4に示すように、外輪5の軸部12の付け根部(マウス部側)にOリング等のシール部材99を外嵌して、ハブ輪1の軸心と等速自在継手の外輪5の軸心とを合わせた状態で、ハブ輪1に対して、外輪5の軸部12を挿入(圧入)していく。また、凸部35の表面にシール材を塗布しておく。この際、ハブ輪1の孔部22に圧入方向に沿って縮径するテーパ部22dを形成しているので、このテーパ部22dが圧入開始時のガイドを構成することができる。また、孔部22の内径面37の径寸法Dと、凸部35の最大直径寸法D1と、スプライン41の谷部の最小直径寸法D2とが前記のような関係であり、しかも、凸部35の硬度が孔部22の内径面37の硬度よりも20ポイント以上大きいので、シャフト10を内輪6の孔部22に圧入していけば、この凸部35が内径面37に食い込んでいき、凸部35が、この凸部35が嵌合する凹部36を軸方向に沿って形成していくことになる。
このように圧入されることによって、図3に示すように、形成されるはみ出し部45は、カールしつつポケット部50内に収納されて行く。すなわち、孔部22の内径面から削り取られたり、押し出されたりした材料の一部がポケット部50内に入り込んでいく。
また、圧入によって、図2に示すように、軸部12の端部の凸部35と、これに嵌合する凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着している。すなわち、相手側の凹部形成面(この場合、孔部22に内径面37)に凸部35の形状の転写を行うことになる。この際、凸部35が孔部22の内径面37に食い込んでいくことによって、孔部22が僅かに拡径した状態となって、凸部35の軸方向の移動を許容し、軸方向の移動が停止すれば、孔部22が元の径に戻ろうとして縮径することになる。言い換えれば、凸部35の圧入時にハブ輪1が径方向に弾性変形し、この弾性変形分の予圧が凸部35の歯面(凹部嵌合部位の表面)に付与される。このため、凸部35の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部36に対して密着する凹凸嵌合構造Mを確実に形成することができる。
また、外輪5の軸部12の付け根部(マウス部側)にOリング等のシール部材99が外嵌されているので、圧入完了状態で、ハブ輪1の加締部31とマウス部11の底外面11aとの間の隙間98がこのシール部材99にて塞がれる(密封される)ことになる。さらに、凸部35と凹部36との嵌合接触部位38間が凸部35の表面に塗布されたシール材にて密封される。
ところで、外輪5の軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入する際には、外輪5のマウス部11の外径面に、図1等に示すように段差面Gを設け、圧入用治具Kをこの段差面Gに係合させて、この圧入用治具Kから段差面Gに圧入荷重(軸方向荷重)を付与すればよい。なお、段差面Gとしては周方向全周に設けても、周方向に沿って所定ピッチで設けてもよい。このため、使用する圧入用治具Kとしても、これらの段差面Gに対応して軸方向荷重を付与できればよい。
このように、凹凸嵌合構造Mが構成されるが、この場合の凹凸嵌合構造Mは転がり軸受2の軌道面26、27、28、29の避直下位置に配置される。ここで、避直下位置とは、軌道面26、27、28、29に対して径方向に対応しない位置である。
また、外輪5の軸部12とハブ輪1の孔部22に圧入して、凹凸嵌合構造Mを介して外輪5の軸部12とハブ輪1とが一体化された状態では、短円筒部66が嵌合孔22aからテーパ孔22b側に突出する。
そこで、図1の仮想線で示すような治具67を使用してこの短円筒部66を拡径することになる。治具67は、円柱状の本体部68と、この本体部68の先端部に連設される円錐台部69とを備える。治具67の円錐台部69は、その傾斜面69aの傾斜角度がテーパ孔22bの傾斜角度と略同一され、かつ、その先端の外径が短円筒部66の内径と同一乃至僅かに短円筒部66の内径よりも小さい寸法に設定されている。そして、治具67の円錐台部69をテーパ孔22bを介して嵌入することによって矢印α方向の荷重を付加し、これによって、図4に示す短円筒部66の内径側にこの短円筒部66が拡径する矢印β方向の拡径力を付与する。この際、治具67の円錐台部69によって、短円筒部66の少なくとも一部はテーパ孔22bの内径面側に押圧され、テーパ孔22bの内径面に、異物侵入防止手段W2を構成するシール材を介して圧接乃至接触した状態となり、前記軸部抜け止め構造M1を構成することができる。なお、治具67の矢印α方向の荷重を付加する際には、この車輪用軸受装置が矢印α方向へ移動しないように、固定する必要があるが、ハブ輪1や等速自在継手3等の一部を固定部材にて受ければよい。ところで、短円筒部66の内径面は軸端側に拡径するテーパ形状でも良い。このような形状にしておけば、鍛造で内径面を成形することも可能であり、コスト低減に繋がる。
また、治具67の矢印α方向の荷重を低減させるため、円筒部66に切り欠きを入れても良いし、治具67の円錐台69の円錐面を周方向で部分的に配置するものでも良い。円筒部66に切り欠きを入れた場合、円筒部66を拡径し易くなる。また、治具67の円錐台69の円錐面を周方向で部分的に配置するものである場合、円筒部66を拡径させる部位が円周上の一部になるため、治具67の押し込み荷重を低減させることができる。
この凹凸嵌合構造Mでは、図5に示すように、軸部12の外径寸法D1と、ハブ輪1の孔部22の嵌合孔22aの内径寸法Dとの径差(D1−D)をΔdとし、軸部12の外径面に設けられた凸部35の高さをhとし、その比をΔd/2hとしたときに、0.3<Δd/2h<0.86とする。これによって、凸部35の突出方向中間部位(高さ方向中間部位)が、凹部形成前の凹部形成面上に確実に配置されるようにすることによって、凸部35が圧入時に凹部形成面に食い込んでいき、凹部36を確実に形成することができる。
ところで、軸受2の外方部材25の外周面25aが車体側のナックルに嵌合組込まれる。ここでいう嵌合組込みは、外方部材25をナックルに嵌合することにより両者の組込みが完了することを意味する。この組込みは、例えば外方部材25の円筒面状の外周面25aをナックルの円筒状内周面に圧入することにより行うことができる。
凹凸嵌合構造Mは、凸部35と凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着しているので、この嵌合構造Mにおいて、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が形成されない。このため、嵌合部位の全てが回転トルク伝達に寄与し、安定したトルク伝達が可能であり、しかも、異音の発生も生じさせない。
凹部36が形成される部材(この場合、ハブ輪1)には、スプライン部等を形成しておく必要がなく、生産性に優れ、かつスプライン同士の位相合わせを必要とせず、組立性の向上を図るとともに、圧入時の歯面の損傷を回避することができ、安定した嵌合状態を維持できる。
しかも、凸部35に圧縮残留応力が付与されているので、凸部35の耐摩耗性の向上を図ることができる。すなわち、圧縮残留応力を付与することによって、残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させることができて、耐摩耗性を向上させることができる。このため、駆動トルクが作用して凹凸嵌合構造Mにおいて仮に僅かな相対変位が発生したとしても、フレッティング摩耗の発生を抑えることができて、凹凸嵌合構造のアブレッシブ摩耗を防止できる。これによって、長期にわたってガタつくことなく安定してトルク伝達機能を発揮することができる。
圧縮残留応力付与手段がショットピーニングで構成することができ、ピーニング加工で圧縮残留応力を安定して増大させることができる。しかも、汎用のショットピーニングを用いることができ、コストの低減を図ることができる。
凸部35の硬度が50HRC〜65HRCであれば、相手側に圧入するための硬度を具備することができ、圧入性の向上を図ることができ、また、相手側の硬度が10HRC〜30HRCであれば、圧入することができる。
凸部35が高周波熱処理にて熱処理硬化することができ、高周波熱処理の利点(局部加熱ができ、焼入れ条件の調整が容易である点。短時間に加熱ができるため酸化が少ない点。他の焼入れ方法に比べて、焼入れ歪が少ない点。表面硬さが高く、優れた耐摩耗性を得られる点。硬化層の深さの選定も比較的容易である点。自動化が容易で機械加工ラインへの組み入れも可能である点等の利点)を奏することができる。
特に、高周波熱処理にショットピーニングを組み合わせることで高い圧縮残留応力が付与でき、疲労強度の向上が期待できる。
軸部12の外径寸法とハブ輪1の孔部22の内径寸法との径差をΔdとし、凸部の高さをhとし、その比をΔd/2hとしたときに、0.3<Δd/2h<0.86としので、凸部35の圧入代を十分にとることができる。すなわち、Δd/2hが0.3以下である場合、捩り強度が低くなり、また、Δd/2hが0.86を越えれば、微小な圧入時の芯ずれや圧入傾きにより、凸部35の全体が相手側に食い込み、凹凸嵌合構造Mの成形性が悪化し、圧入荷重が急激に増大する。凹凸嵌合構造Mの成形性が悪化した場合、捩り強度が低下するだけでなく、ハブ輪外径の膨張量も増大するため、ハブ輪1に装着される軸受2の機能に影響し、回転寿命が低下する等の問題もある。これに対して、Δd/2hを0.3〜0.86にすることにより、凹凸嵌合構造Mの成形性が安定し、圧入荷重のばらつきも無く、安定した捩り強度が得られる。
テーパ部22dが圧入開始時のガイドを構成することができるので、ハブ輪1の孔部22に対して外輪5の軸部12を、ズレを生じさせることなく圧入させることができ、安定したトルク伝達が可能となる。さらに、短円筒部66は、円筒部66の外径D4は孔部22の嵌合孔22aの内径寸法Dよりも小さく設定しているので、調芯部材となり、芯ずれを防止しつつ軸部をハブ輪に圧入することができ、より安定した圧入が可能となる。
凹凸嵌合構造Mを転がり軸受2の軌道面の避直下位置に配置することによって、軸受軌道面におけるフープ応力の発生を抑える。これにより、転がり疲労寿命の低下、クラック発生、及び応力腐食割れ等の軸受の不具合発生を防止することができ、高品質な軸受を提供することができる。
軸部抜け止め構造M1によって、外輪5の軸部12がハブ輪1の孔部22からの抜け(特にシャフト側への軸方向の抜け)を有効に防止できる。これによって、安定した連結状態を維持でき、車輪用軸受装置の高品質化を図ることができる。また、軸部抜け止め構造M1がテーパ状係止片65であるので、従来のようなねじ締結を省略できる。このため、軸部12にハブ輪1の孔部22から突出するねじ部を形成する必要がなくなって、軽量化を図ることができるとともに、ねじ締結作業を省略でき、組立作業性の向上を図ることができる。しかも、テーパ状係止片65では、外輪5の軸部12の一部を拡径させればよく、軸部抜け止め構造M1の形成を容易に行うことができる。なお、外輪5の軸部12の反継手方向への移動は、軸部12をさらに圧入する方向への押圧力が必要であり、外輪5の軸部12の反継手方向への位置ズレは極めて生じにくく、かつ、たとえこの方向に位置ズレしたとしても、外輪5のマウス部11の底部がハブ輪1の加締部31に当接して、ハブ輪1から外輪5の軸部12が抜けることがない。
等速自在継手の外輪5の軸部12の凸部の軸方向端部の硬度をハブ輪1の孔部内径部よりも高くして、軸部12をハブ輪1の孔部22に凸部35の軸方向端部側から圧入するので、ハブ輪1の孔部内径面への凹部形成が容易となる。また、軸部側の硬度を高くでき、軸部12の捩り強度を向上させることができる。
また、ハブ輪1の端部が加締られて転がり軸受2に対して予圧が付与されるので、外輪5のマウス部11によって予圧を付与する必要がなくなる。このため、内輪24への予圧を考慮することなく、外輪5の軸部12を圧入することができ、ハブ輪1と外輪5との連結性(組み付け性)の向上を図ることができる。マウス部11がハブ輪1と非接触状態であるので、マウス部11とハブ輪1との接触による異音の発生を防止できる。
なお、凸部35を、この種のシャフトに通常形成されるスプラインをもって構成することができるので、低コストにて簡単にこの凸部35を形成することができる。
また、軸部12をハブ輪1に圧入していくことによって、凹部36を形成していくと、この凹部36側に加工硬化が生じる。ここで、加工硬化とは、物体に塑性変形(塑性加工)を与えると,変形の度合が増すにつれて変形に対する抵抗が増大し,変形を受けていない材料よりも硬くなることをいう。このため、圧入時に塑性変形することによって、凹部36側のハブ輪1の内径面37が硬化して、回転トルク伝達性の向上を図ることができる。
ハブ輪1の内径側は比較的軟かい。このため、外輪5の軸部12の外径面の凸部35をハブ輪1の孔部内径面の凹部36に嵌合させる際の嵌合性(密着性)の向上を図ることができ、径方向及び円周方向においてガタが生じるのを精度良く抑えることができる。
異物侵入防止手段Wを設けることにより凹凸嵌合構造Mへの異物の侵入を防止できる。すなわち、異物侵入防止手段Wによって、雨水や異物の侵入が防止され凹凸嵌合構造Mへの雨水や異物等による密着性の劣化を回避することができる。
ハブ輪1の端部とマウス部11の底部との間にシール部材99が配置されるものでは、シール部材99にて、ハブ輪1の端部とマウス部11の底部との間の隙間98を塞ぐことで、この隙間98からの凹凸嵌合構造Mへの雨水や異物の侵入が防止される。シール部材99としては、ハブ輪1の端部とマウス部11の底部との間に介在できるものであればよいので、例えば、既存(市販)のOリング等を使用することができ、低コストにて異物侵入防止手段を構成でき、しかも、市販のOリング等は、種々の材質、種々の大きさのものがあり、別途特別なものを製造することなく、確実にシール機能を発揮する異物侵入防止手段を構成することができる。
凸部35と凹部36との嵌合接触部位38間にシール材が介在されるので、嵌合接触部位38間においての異物の侵入を防止でき、異物侵入防止の信頼性が向上する。凹凸嵌合構造Mよりも反継手側において、ハブ輪1の内径面(この場合、テーパ孔22bの内径面)にシール材(異物侵入防止手段W2を構成するシール部材)を介して係合する端部拡径加締部(テーパ状係止片)65を設けているので、凹凸嵌合構造Mよりも反継手側からの異物の侵入を防止することができる。すなわち、アウトボード側からの異物侵入を回避することができる。
このように、前記実施形態のように、凹凸嵌合構造Mよりも継手側及び凹凸嵌合構造Mよりも反継手側に異物侵入防止手段W1、W2を設けた場合、凹凸嵌合構造Mの軸方向両端側からの異物の侵入が防止される。このため、密着性の劣化をより安定して長期にわたって回避することができる。
圧入による凹部形成によって生じるはみ出し部45を収納するポケット部50を設けることによって、はみ出し部45をこのポケット部50内に保持(維持)することができ、はみ出し部45が装置外の車両内等へ入り込んだりすることがない。すなわち、はみ出し部45をポケット部50に収納したままにしておくことができ、はみ出し部45の除去処理を行う必要がなく、組み立て作業工数の減少を図ることができて、組み立て作業性の向上及びコスト低減を図ることができる。
ところで、凸部35(軸部12側の凸部)と相手側(ハブ輪1の内径面)との硬度差が20HRC未満では、図7にグラフで示すように、圧入荷重が大きくなって、圧入途中等で、いわゆる「むしれ」が発生する損傷状態となるおそれがある。このため、本実施形態では、具体的には、硬化層Hの硬度を50HRCから65HRC程度とし、未硬化部の硬度を10HRCから30HRC程度として、硬度差をHRCで20ポイント以上とするのが、比較的低荷重に圧入でき、しかも凸部35にむしれが発生しない。
図8は第2実施形態を示し、この車輪用軸受装置の軸部抜け止め構造M1は、図4に示すような短円筒部66を予め形成することなく、軸部12の一部を外径方向へ突出するテーパ状係止片70を設けることによって構成している。
この場合、図9に示す治具71を使用する。治具71は、円柱状の本体部72と、この本体部72の先端部に連設される短円筒部73とを備え、短円筒部73の外周面の先端に切欠部74が設けられている。このため、治具71には先端くさび部75が形成されている。先端くさび部75を打ち込めば(矢印α方向の荷重を付加すれば)、この先端くさび部75の断面形状が外径側が傾斜面であり、この傾斜面を形成する切欠部74によって、図10に示すように、軸部12の端部の外径側が拡径することになる。
これによって、このテーパ状係止片70の少なくとも一部がテーパ孔22bの内径面に圧接乃至接触することになる。このため、このようなテーパ状係止片70であっても、前記図1等に示すテーパ状係止片65と同様、外輪5の軸部12がハブ輪1の孔部22から軸方向に抜けることを有効に防止できる。これによって、安定した連結状態を維持でき、車輪用軸受装置の高品質化を図ることができる。なお、先端くさび部75の内径面がテーパ形状であってもよい。
図11は第3実施形態を示し、この車輪用軸受装置の軸部抜け止め構造M1は、軸部12の一部を外径方向へ突出するように加締めることによって形成する外鍔状係止片76にて構成している。この場合、ハブ輪1の孔部22は、嵌合孔22aとテーパ孔22bとの間に段付面22eが設けられて、この段付面22eに外鍔状係止片76が係止している。
この軸部抜け止め構造M1では、図12に示す治具77を使用することになる。この治具77は円筒体78を備える。円筒体78の外径D5を軸部12の端部の外径D7よりも大きく設定するとともに、円筒体78の内径D6を軸部12の端部の外径D7より小さく設定している。
このため、この治具77と外輪5の軸部12との軸心を合わせ、この状態で治具77の端面77aによって、軸部12の端面12aに矢印α方向に荷重を付加すれば、図16に示すように、軸部12の端面12aの外周側が圧潰して、外鍔状係止片76を形成することができる。
このような外鍔状係止片76であっても、外鍔状係止片76が段付面22eに係止することになるので、前記図1等に示すテーパ状係止片65と同様、外輪5の軸部12がハブ輪1の孔部22から軸方向に抜けることを有効に防止できる。これによって、安定した連結状態を維持でき、車輪用軸受装置の高品質化を図ることができる。
図12に示すような治具77を使用すれば、図14(a)に示すように、外鍔状係止片76は円周方向に沿って形成される。このため、治具として押圧部が周方向に沿って所定ピッチ(例えば、90°ピッチ)で配設されるものであれば、図14(b)に示すように、複数の外鍔状係止片76が周方向に沿って所定ピッチで配置される。図14(b)に示すように、複数の外鍔状係止片76が周方向に沿って所定ピッチで配設されたものであっても、外鍔状係止片76が段付面22eに係止することになるので、外輪5の軸部12がハブ輪1の孔部22から軸方向に抜けることを有効に防止できる。
軸部抜け止め構造M1としては、第4実施形態の図15に示すようにボルトナット結合を用いても、第5実施形態の図16に示すように、止め輪を用いても、第6実施形態の図17に示すように溶接等の結合手段を用いてもよい。
図15では、軸部12にねじ軸部80を連設し、このねじ軸部80にナット部材81を螺着している。そして、ナット部材81を孔部22の段付面22eに当接させている。これによって、軸部12のハブ輪1の孔部22からのシャフト側への抜けを規制している。
図16では、スプライン41よりも反継手側に軸延長部83を設けるとともに、この軸延長部83に周方向溝84を設け、この周方向溝84に止め輪85を嵌着している。そして、軸部12にハブ輪1の孔部22において、嵌合孔22aとテーパ孔22bとの間に前記止め輪85が係止する段部22fを設ける。これによって、止め輪85が段部22fに係止して軸部12のハブ輪1の孔部22からのシャフト側への抜けを規制している。
図17では、軸部12の端部外周面と嵌合孔22aの段付面22e側の開口部端縁部とを溶接にて接合している。これによって、軸部12のハブ輪1の孔部22からのシャフト側への抜けを規制している。この場合、溶接部位108として全周にわたっても、周方向に沿って所定ピッチに配設してもよい。
本発明の車輪用軸受装置においては、第7実施形態を示す図18に示すように、軸部抜け止め構造M1を設けないものであってもよい。この場合、図19に示すように、周方向溝51は、そのスプライン41側の側面51aが、軸方向に対して直交する平面であり、反スプライン側の側面51bは、溝底51cから反スプライン側に向かって拡径するテーパ面である。周方向凹溝51の側面51bよりも反スプライン側には、調芯用の円盤状の鍔部52が設けられている。鍔部52の外径寸法D4aが孔部22の嵌合孔22aの孔径と同一乃至嵌合孔22aの孔径よりも僅かに小さく設定される。この場合、鍔部52の外径面52aと孔部22の嵌合孔22aの内径面との間に微小隙間tが設けられている。
ポケット部50の軸方向反凸部側にハブ輪1の孔部22との調芯用の鍔部52を設けることによって、ポケット部50内のはみ出し部45の鍔部52側への飛び出しがなくなって、はみ出し部45の収納がより安定したものとなる。しかも、鍔部52は調芯用であるので、芯ずれを防止しつつ軸部12をハブ輪1に圧入することができる。このため、外側継手部材5とハブ輪1とを高精度に連結でき、安定したトルク伝達が可能となる。
鍔部52は圧入時の調芯用であるので、その外径寸法は、ハブ輪1の孔部22の嵌合孔22aの孔径よりも僅かに小さい程度に設定するが好ましい。すなわち、鍔部52の外径寸法が嵌合孔22aの孔径と同一や嵌合孔22aの孔径よりも大きければ、鍔部52自体を嵌合孔22aに圧入することになる。この際、芯ずれしていれば、このまま凹凸嵌合構造Mの凸部35が圧入され、軸部12の軸心とハブ輪1の軸心とが合っていない状態で軸部12とハブ輪1とが連結されることになる。また、鍔部52の外径寸法が嵌合孔22aの孔径よりも小さすぎると、調芯用として機能しない。このため、鍔部52の外径面52aと孔部22の嵌合孔22aの内径面との間の微小隙間tとしては、0.01mm〜0.2mm程度に設定するのが好ましい。
なお、図18と図19に示すように、軸部抜け止め構造M1を有しない場合において、軸部12の調芯用としての鍔部52を省略したものであってもよい。
次に、第8実施形態を示す図20は軸部12のハブ輪1からの抜けが許容されている車輪用軸受装置である。この場合、ハブ輪1は、図1等に示すように、筒部20と、筒部20の反継手側の端部に設けられるフランジ21とを有する。筒部20の孔部22は、軸方向中間部の軸部嵌合孔22aと、反継手側のテーパ孔22bとを有し、軸部嵌合孔22aとテーパ孔22bとの間に、内径方向へ突出する位置決め用の内壁(壁部)22gが設けられている。すなわち、軸部嵌合孔22aにおいて、凹凸嵌合構造Mを介して等速自在継手3の外輪5の軸部12とハブ輪1とが結合される。なお、この位置決め用壁部22gの反軸部嵌合孔側の端面には凹窪部91が設けられている。
孔部22は、軸部嵌合孔22aよりも反位置決め用壁部側の開口側に大径部86を有し、軸部嵌合孔22aよりも位置決め用壁部側に小径部88とを有する。大径部86と軸部嵌合孔22aとの間には、テーパ部(テーパ孔)89aが設けられている。このテーパ部89aは、ハブ輪1と外輪5の軸部12を結合する際の圧入方向に沿って縮径している。テーパ部89aのテーパ角度θ1は、例えば15°〜75°とされる。なお、軸部嵌合孔22aと小径部88との間にもテーパ部89bが設けられている。
この場合、軸部12がハブ輪1の孔部22、つまり軸部嵌合孔22aに圧入されることによって、軸部12の凸部35が軸部嵌合孔22aの内径面37に、この凸部35が密着嵌合する凹部36が形成される。
また、圧入後には、反継手側から軸部12のねじ孔90にボルト部材94を螺着する。ボルト部材94は、フランジ付き頭部94aと、ねじ軸部94bとからなる。ねじ軸部94bは、大径の基部95aと、小径の本体部95bと、先端側のねじ部95cとを有する。この場合、位置決め用壁部22gに貫通孔96が設けられ、この貫通孔96にボルト部材94の軸部94bが挿通されて、ねじ部95cが軸部12のねじ孔90に螺着される。図24に示すように、貫通孔96の孔径d1は、軸部94bの大径の基部95aの外径d2よりも僅かに大きく設定される。具体的には、0.05mm<d1−d2<0.5mm程度とされる。なお、ねじ部95cの最大外径は、大径の基部95aの外径と同じか基部95aの外径よりも僅かに小さい程度とする。
このように、ボルト部材94を軸部12のねじ孔90に螺着することによって、ボルト部材94の頭部94aのフランジ部100が位置決め用壁部22gの凹窪部91に嵌合する。これによって、軸部12の反継手側の端面92とボルト部材94の頭部94aとで位置決め用壁部22gが挟持される。
また、ボルト部材94の座面100aと位置決め用壁部22gとの間もシール材(図示省略)を介在させてもよい。この場合、例えば、ボルト部材94の座面100aに、塗布後に硬化して座面100aと位置決め用壁部22gの凹窪部91の底面との間において密封性を発揮できるもの種々の樹脂からなるシール材(シール剤)を塗布すればよい。なお、このシール材としては、この車輪用軸受装置が使用される雰囲気中において劣化しないものが選択される。
ところで、軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入していけば、形成されるはみ出し部45は、図22に示すように、カールしつつ軸部12の小径部12dの外径側に設けられる空間からなる収納部97に収納されて行く。すなわち、孔部22の内径面から削り取られたり、押し出されたりした材料の一部であるはみ出し部45が収納部97内に入り込んでいく。
このように、前記圧入による凹部形成によって生じるはみ出し部45を収納する収納部97を設けることによって、はみ出し部45をこの収納部97内に保持(維持)することができ、はみ出し部45が装置外の車両内等へ入り込んだりすることがない。すなわち、はみ出し部45を収納部97に収納したままにしておくことができ、はみ出し部45の除去処理を行う必要がなく、組立作業工数の減少を図ることができて、組立作業性の向上及びコスト低減を図ることができる。
ハブ輪1と外輪5の軸部12とのボルト固定を行うボルト部材94の座面100aと、位置決め用壁部22gとの間にシール材を介在させたので、このボルト部材94からの凹凸嵌合構造Mへ雨水や異物の侵入が防止され、品質向上を図ることができる。
ところで、図20に示す状態から、ボルト部材94を螺退させることによって、ボルト部材94を取外せば、ハブ輪1から外輪5を引き抜くことができる。すなわち、凹凸嵌合構造Mの嵌合力は、外輪5に対して所定力以上の引き抜き力を付与することにより引き抜くことができるものである。
例えば、図23に示すような治具120にてハブ輪1と等速自在継手3とを分離することができる。治具120は、基盤121と、この基盤121のねじ孔122に螺進退可能に螺合する押圧用ボルト部材123と、軸部12のねじ孔90に螺合されるねじ軸126とを備える。基盤121には貫孔124が設けられ、この貫孔124にハブ輪1のボルト33が挿通され、ナット部材125がこのボルト33に螺合される。この際、基盤121とハブ輪1のフランジ21とが重ね合わされて、基盤121がハブ輪1に取り付けられる。
このように、基盤121をハブ輪1に取り付けた状態とした後、基部126aが位置決め用壁部22gから反継手側へ突出するように、軸部12のねじ孔90にねじ軸126を螺合させる。この基部126aの突出量は、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さよりも長く設定される。また、ねじ軸126と、押圧用ボルト部材123とは、同一軸心上(この車輪用軸受装置の軸心上)に配設される。
その後は、図23に示すように、押圧用ボルト部材123を反継手側から基盤121のねじ孔122に螺着し、この状態で、矢印のようにねじ軸126側へ螺進させる。この際、ねじ軸126と、押圧用ボルト部材123とは、同一軸心上(この車輪用軸受装置の軸心上)に配設されているので、この螺進によって、押圧用ボルト部材123がねじ軸126を矢印方向へ押圧する。これによって、外輪5がハブ輪1に対して矢印方向へ移動して、ハブ輪1から外輪5が外れる。
また、ハブ輪1から外輪5が外れた状態からは、例えば、ボルト部材94を使用して再度、ハブ輪1と外輪5とを連結することができる。すなわち、ハブ輪1から基盤121を取外すとともに、軸部12からねじ軸126を取外した状態として、ボルト部材94を貫通孔96を介して軸部12のねじ孔90に螺合させる。この状態では、軸部12側の雄スプライン41と、前回の圧入によって形成されたハブ輪1の雌スプライン42との位相を合わせる。
そして、この状態にて、ボルト部材94をねじ孔90に対して螺進させる。これによって、軸部12がハブ輪1内へ嵌入していく。この際、孔部22が僅かに拡径した状態となって、軸部12の軸方向の進入を許容し、軸方向の移動が停止すれば、孔部22が元の径に戻ろうとして縮径することになる。これによって、前回の圧入と同様、凸部35の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部36に対して密着する凹凸嵌合構造Mを確実に構成することができる。
特に、ボルト部材94をねじ孔90に対して螺進させる際に、図24に示すように、ボルト部材94の基部95aが、貫通孔96に対応した状態となる。しかも、貫通孔96の孔径d1は、軸部94bの大径の基部95aの外径d2よりも僅かに大きく設定される(具体的には、0.05mm<d1−d2<0.5mm程度とされる)ので、ボルト部材94の基部95aの外径と、貫通孔96の内径とが、ボルト部材94がねじ孔90を螺進する際のガイドを構成することができ、芯ずれすることなく、軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入することができる。なお、貫通孔96の軸方向長さとしても、短すぎると、安定したガイドを発揮できず、逆に長すぎると、位置決め用壁部22gの厚さ寸法が大となって、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さを確保できないとともに、ハブ輪1の重量が大となる。このため、これらを考慮して種々変更することができる。
なお、軸部12のねじ孔90の開口部が開口側に向かって拡開するテーパ部90aとさているので、ねじ軸126やボルト部材94をねじ孔90に螺合させ易い利点がある。
ところで、1回目(孔部22の内径面37に凹部36を成形する圧入)では、圧入荷重が比較的大きいので、圧入のために、プレス機等を使用する必要がある。これに対して、このような再度の圧入では、圧入荷重が1回目の圧入荷重よりも小さいため、プレス機等を使用することなく、安定して正確に軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入することができる。このため、現場での外輪5とハブ輪1との分離・連結が可能となる。
このように、図20等に示す車輪用軸受装置では、外輪5の軸部12に軸方向の引き抜き力を付与することによって、ハブ輪1の孔部22から外輪5を取外すことができるので、各部品の修理・点検の作業性(メンテナンス性)の向上を図ることができる。
ボルト固定によって、ハブ輪1からの軸部12の軸方向の抜けが規制され、長期にわたって安定したトルク伝達が可能となる。特に、外輪5の軸部12の反継手側の端面92とボルト部材94の頭部94aとで挟持される位置決め用壁部22gを設けたことによって、ボルト固定が安定する。しかも、位置決めされたことによって、この車輪用軸受装置の寸法精度が安定するとともに、軸方向に沿って配設される凹凸嵌合構造Mの軸方向長さを安定した長さに確保することができ、トルク伝達性の向上を図ることができる。
ボルト部材94の座面100aと、位置決め用壁部22gとの間にシール材を介在させることによって、ボルト部材側からの雨水や異物の侵入が防止され凹凸嵌合構造への雨水や異物等の侵入による密着性の劣化を回避することができる。
前記図2に示すスプライン41では、山部41aのピッチと谷部41bのピッチとが同一設定される。このため、前記実施形態では、図2(b)に示すように、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さLと、周方向に隣り合う凸部35間における前記中間部位に対応する位置での周方向寸法L0とがほぼ同一となっている。
なお、前記第2実施形態〜第8実施形態においても、図示省略しているが、ハブ輪1には硬化層H1が形成され、等速自在継手3の外輪5には硬化層Hが形成されている。
これに対して、図25(a)に示すように、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さL2を、周方向に隣り合う凸部35間における前記中間部位に対応する位置での周方向寸法L1よりも小さいものであってもよい。すなわち、軸部12に形成されるスプライン41において、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さ(歯厚)L2を、凸部35間に嵌合するハブ輪1側の山部43の突出方向中間部位の周方向厚さ(歯厚)L1よりも小さくしている。
このため、軸部12側の全周における凸部35の歯厚の総和Σ(B1+B2+B3+・・・)を、ハブ輪1側の山部43(凸歯)の歯厚の総和Σ(A1+A2+A3+・・・)よりも小さく設定している。これによって、ハブ輪1側の山部43のせん断面積を大きくすることができ、ねじり強度を確保することができる。しかも、凸部35の歯厚が小であるので、圧入荷重を小さくでき、圧入性の向上を図ることができる。凸部35の周方向厚さの総和を、ハブ輪1側の山部43における周方向厚さの総和よりも小さくする場合、全凸部35の周方向厚さL2を、周方向に隣り合う凸部35間における周方向の寸法L1よりも小さくする必要がない。すなわち、複数の凸部35のうち、任意の凸部35の周方向厚さが周方向に隣り合う凸部間における周方向の寸法と同一であっても、この周方向の寸法よりも大きくても、総和で小さければよい。
図25(a)における凸部35は、断面台形(富士山形状)としているが、図25(b)に示すように、インボリュート歯形状であってもよい。
ところで、前記各実施形態では、軸部12側に凸部35を構成するスプライン41を形成するとともに、この軸部12のスプライン41に対して硬化処理を施し、ハブ輪1の内径面を未硬化(生材)としている。これに対して、第9実施形態を示す図26に示すように、ハブ輪1の孔部22の内径面に硬化処理を施されたスプライン111(山部111a及び谷部111bとからなる)を形成するとともに、軸部12には硬化処理を施さないものであってもよい。なお、このスプライン111も公知公用の手段であるブローチ加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の種々の加工方法によって、形成することがきる。また、熱硬化処理としても、高周波焼入れ、浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。
このハブ輪1の凸部35に対してもショットピーニング等の圧縮残留応力付与手段にて圧縮残留応力が付与される。
この場合、凸部35の突出方向中間部位が、凹部形成前の凹部形成面(軸部12の外径面)の位置に対応する。すなわち、スプライン111の山部111aである凸部35の頂点を結ぶ円の径寸法(凸部35の最小直径寸法)D8を、軸部12の外径寸法D10よりも小さく、スプライン111の谷部111bの底を結ぶ円の径寸法(凸部間の谷部の最大直径寸法)D9を軸部12の外径寸法D10よりも大きく設定する。すなわち、D8<D10<D9とされる。この場合も、軸部12の外径寸法D10とハブ輪1の孔部22の内径寸法D9との径差をΔdとし、凸部36の高さをhとし、その比をΔd/2hとしたときに、0.3<Δd/2h<0.86とする。
軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入すれば、ハブ輪1側の凸部35によって、軸部12の外周面にこの凸部35が嵌合する凹部36を形成することができる。これによって、凸部35とこれに嵌合する凹部との嵌合接触部位38の全体が密着している。
ここで、嵌合接触部位38とは、図26(b)に示す範囲Bであり、凸部35の断面における山形の中腹部から山頂にいたる範囲である。また、周方向の隣合う凸部35間において、軸部12の外周面よりも外径側に隙間62が形成される。
この場合であっても、圧入によってはみ出し部45が形成されるので、このはみ出し部45を収納する収納部を設けるのが好ましい。はみ出し部45は軸部12のマウス側に形成されることになるので、収納部をハブ輪1側に設けることになる。
このように、ハブ輪1の孔部22の内径面に凹凸嵌合構造Mの凸部35を設けて圧入するものであっても、この凸部35は圧縮残留応力付与手段にて圧縮残留応力が付与されており、前記各実施形態と同様の作用効果を奏する。特に、軸部側の硬度処理(熱処理)を行う必要がないので、等速自在継手の外輪5の生産性に優れる利点がある。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、圧縮残留応力付与手段としてショットピーニングに限るものではなく、レーザピーニングや超音波打撃処理等の他の手段の採用も可能である。
凹凸嵌合構造Mの凸部35の形状として、前記図2に示す実施形態では断面三角形状であり、図25(a)に示す実施形態では断面台形(富士山形状)であるが、これら以外の半円形状、半楕円形状、矩形形状等の種々の形状のものを採用でき、凸部35の面積、数、周方向配設ピッチ等も任意に変更できる。すなわち、スプライン41、111を形成し、このスプライン41、111の山部(凸歯)41a、111aをもって凹凸嵌合構造Mの凸部35とする必要はなく、キーのようなものであってもよく、曲線状の波型の合わせ面を形成するものであってもよい。要は、軸方向に沿って配設される凸部35を相手側に圧入し、この凸部35にて凸部35に密着嵌合する凹部36を相手側に形成することができて、凸部35とこれに嵌合する凹部との嵌合接触部位38の全体が密着し、しかも、ハブ輪1と等速自在継手3との間で回転トルクの伝達ができればよい。
また、ハブ輪1の孔部22としては円孔以外の多角形孔等の異形孔であってよく、この孔部22に嵌挿する軸部12の端部の断面形状も円形断面以外の多角形等の異形断面であってもよい。さらに、ハブ輪1に軸部12を圧入する際に凸部35の圧入始端部のみが、凹部36が形成される部位より硬度が高ければよいので、凸部35の全体の硬度を高くする必要がない。図2等では隙間40が形成されるが、凸部35間の谷部まで、ハブ輪1の内径面37が食い込むようなものであってもよい。なお、凸部35側と、凸部35にて形成される凹部形成面側との硬度差としては、前記したようにHRCで20ポイント以上とするのが好ましいが、凸部35が圧入可能であれば20ポイント未満であってもよい。
凸部35の端面(圧入始端)は前記実施形態では軸方向に対して直交する面であったが、軸方向に対して、所定角度で傾斜するものであってもよい。この場合、内径側から外径側に向かって反凸部側に傾斜しても凸部側に傾斜してもよい。
また、ポケット部50の形状としては、生じるはみ出し部45を収納(収容)できるものであればよく、そのため、ポケット部50の容量として、生じるはみ出し部45に対応できるものであればよい。
また、ハブ輪1の孔部22の内径面37に、周方向に沿って所定ピッチで配設される小凹部を設けてもよい。小凹部としては、凹部36の容積よりも小さくする必要がある。このように小凹部を設けることによって、凸部35の圧入性の向上を図ることができる。すなわち、小凹部を設けることによって、凸部35の圧入時に形成されるはみ出し部45の容量を減少させることができて、圧入抵抗の低減を図ることができる。また、はみ出し部45を少なくできるので、ポケット部50の容積を小さくでき、ポケット部50の加工性及び軸部12の強度の向上を図ることができる。なお、小凹部の形状は、三角形状、半楕円状、矩形等の種々のものを採用でき、数も任意に設定できる。
図20に示す結合手段としては、溶接の結合手段を用いていたが、溶接に代えて接着剤を使用してもよい。また、軸受2の転動体30として、ローラを使用したものであってもよい。さらに、前記実施形態では、第3世代の車輪用軸受装置を示したが、第1世代や第2世代さらには第4世代であってもよい。なお、凸部35を圧入する場合、凹部36が形成される側を固定して、凸部35を形成している側を移動させても、逆に、凸部35を形成している側を固定して、凹部36が形成される側を移動させても、両者を移動させてもよい。なお、等速自在継手3において、内輪6とシャフト10とを前記各実施形態に記載した凹凸嵌合構造Mを介して一体化してもよい。
なお、軸部抜け止め構造M1において、例えば、図19に示すような止め輪85等を使用する場合、軸部12の端部に軸部抜け止め構造M1を設けることなく、軸部12の付け根部側(マウス側)等に設けることができる。
ハブ輪1と軸部12とのボルト固定を行うボルト部材94の座面100aと、位置決め用壁部22gとの間に介在されるシール材は、前記実施形態ではボルト部材94の座面100a側に樹脂を塗布して構成していたが、逆に、位置決め用壁部22g側に樹脂を塗布するようにしてもよい。また、座面100a側および位置決め用壁部22g側に樹脂を塗布するようにしてもよい。なお、ボルト部材94を螺着した際において、ボルト部材94の座面100aと、位置決め用壁部22gの凹窪91の底面とが密着性に優れるものであれば、このようなシール材を省略することも可能である。すわなち、凹窪91の底面を研削することによって、ボルト部材94の座面100aとの密着性を向上させたりすることができる。もちろん、凹窪91の底面を研削することなく、鍛造肌、旋削仕上げ状態であっても、密着性を発揮できれば、シール材を省略することができる。
本発明の第1実施形態を示す車輪用軸受装置の拡大断面図である。
前記車輪用軸受装置の凹凸嵌合構造を示し、(a)は拡大断面図であり、(b)は(a)のX部拡大図である。
車輪用軸受装置の要部拡大断面図である。
前記車輪用軸受装置の分解状態を示す断面図である。
凹凸嵌合構造の要部拡大断面図である。
前記車輪用軸受装置の外輪のマウス部とハブ輪の加締部との間の隙間を密封するシール部材を示し、(a)はOリングを用いたときの拡大断面図であり、(b)がガスケットを用いたときの拡大断面図である。
圧入荷重と硬度差との関係を示すグラフ図である。
本発明の第2実施形態を示す車輪用軸受装置の縦断面図である。
前記図8の車輪用軸受装置の組立方法を示す断面図である。
前記図8の車輪用軸受装置の組立方法を示す断面図である。
本発明の第3実施形態を示す車輪用軸受装置の縦断面図である。
前記図11の車輪用軸受装置の組立方法を示す断面図である。
前記図11の車輪用軸受装置の組立方法を示す断面図である。
前記図11の車輪用軸受装置の外輪の軸部の端面を示し、(a)は全周にわたる外鍔状係止部の端面図であり、(b)は周方向に沿って所定ピッチで配設される外鍔状係止部の端面図である。
本発明の第4実施形態を示す車輪用軸受装置の縦断面図である。
本発明の第5実施形態を示す車輪用軸受装置の要部断面図である。
本発明の第6実施形態を示す車輪用軸受装置の要部断面図である。
本発明の第7実施形態を示す車輪用軸受装置の要部断面図である。
前記図18の車輪用軸受装置の要部拡大断面図である。
本発明の第8実施形態を示す車輪用軸受装置の断面図である。
前記図20の車輪用軸受装置の分解状態を示す断面図である。
前記図20の車輪用軸受装置の要部拡大断面図である。
前記図20の車輪用軸受装置の凹凸嵌合構造の分離方法を示す断面図である。
前記図20の車輪用軸受装置の再圧入方法を示す断面図である。
凹凸嵌合構造の変形例を示し、(a)は第1変形例の断面図であり、(b)第2変形例の断面図である。
本発明の第9実施形態を示す車輪用軸受装置を示し、(a)は横断面図である。(b)は(a)のY部拡大図である
従来の車輪用軸受装置の断面図である。
1 ハブ輪
2 軸受
3 等速自在継手
12 軸部
22g 壁部
25 外方部材
26 外側軌道面
27 外側軌道面
28 内側軌道面
29 内側軌道面
30 転動体
35 凸部
36 凹部
37 内径面
38 嵌合接触部位
39 内方部材
65 端部拡径加締部
M 凹凸嵌合構造
M1 抜け止め構造