しかしながら従来の屋根構造では、以下に例示するメンテナンス作業や通信線設置等を考慮した構造になっておらず、改善の余地が有る。
例えば、図4に示す従来の屋根構造において、塩ビ鋼板13x〜15xの上から防水シートを貼り付ける等、防水のためのメンテナンス作業を行う場合がある。この場合、防水シートを貼り付ける面となる塩ビ鋼板13x〜15xの外表面が、紫外線等により劣化して十分な貼り付けができないとの不具合や、雨樋40が防水シートを貼り付ける作業の邪魔になるとの不具合が懸念される。
また、ケーブルテレビやアンテナに用いられる各種通信線や電気配線を、建物の屋根部分に設置することを要する場合がある。この場合、通信線や電気配線の設置スペースを確保することの困難性が懸念される。
本発明は、防水メンテナンスの作業性向上及び各種配線の設置スペース確保の少なくとも一方について改善が図られた屋根構造、及び防水メンテナンスの作業性向上について改善が図られた防水メンテナンス方法を提供することを主たる目的とするものである。
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
すなわち、第1の発明は、建物の屋根を構成する屋根部材と、前記屋根部材の外端部と対向するよう配置され、雨樋を支持する樋支持部材とを備え、前記樋支持部材の屋内側の面と前記屋根部材の外端部との間に間隙を設けたことを特徴とする屋根構造である。
この第1の発明によれば、以下に説明する防水メンテナンスの作業性向上及び各種配線の設置スペース確保の少なくとも一方について改善を図ることができる。
すなわち、樋支持部材の屋内側の面と屋根部材の外端部との間に間隙を設けているので、メンテナンス用防水シートの端部を前記間隙に挿入して、樋支持部材の屋内側の面に前記防水シート端部を貼り付けるようにできる。
ここで、樋支持部材の材質が樹脂(例えば樹脂を金属板に塗布して形成された塩ビ鋼板等)である場合において、メンテナンス用防水シートを樋支持部材に貼り付ける場合には、樋支持部材の樹脂が紫外線により劣化していると、貼り付け性が悪くなることが懸念される。この懸念に対し、上記第1の発明によれば、樋支持部材の屋外側の面に比べて紫外線による劣化が少ない屋内側の面に前記防水シート端部を貼り付けるようにできるので、メンテナンス用防水シートの接着性悪化を抑制できる。また、上述の如く樋支持部材の屋内側の面に防水シート端部を貼り付けるようにすれば、樋支持部材から雨樋を取り外すことなく防水シートを樋支持部材に取り付けることができる場合がある。
また、前記間隙を、ケーブルテレビやアンテナに用いられる各種通信線や電気配線を設置する設置スペースとして利用できる場合がある。例えば、図4に示す従来の屋根構造では、吊り金具42を支持する樋支持部130xが断熱材12xの外端部120xと接触しているため、通信線や電気配線の設置スペースを樋支持部130xの内側に確保することは困難である。よって、これらの配線を樋支持部130xの外側に設置せざるを得ず、建物10xの見栄えが損なわれる場合がある。これに対し、上述の如く設置スペースとして前記間隙を利用すれば、その間隙は樋支持部材の屋内側に位置するので、屋外から目隠しされた位置に各種配線の設置スペースを確保できる。
第2の発明では、前記樋支持部材の屋内側の面には、メンテナンス用防水シートを接着するための接着面が形成されていることを特徴とする。
これによれば、樋支持部材のうち紫外線による劣化の少ない屋内側の面に接着面を形成するので、メンテナンス用防水シートの樋支持部材への接着性悪化を抑制できる。
第3の発明では、前記間隙を屋外側から覆って防水する被覆シートを備えることを特徴とする。
これによれば、防水メンテナンス作業の実施前の状態においては、樋支持部材と屋根部材との間隙に対する防水を被覆シートで行うことができ、接着面が屋外に露出することを被覆シートにより回避できる。よって、接着面が風雨に晒されて劣化することを抑制でき、メンテナンス用防水シートの接着面への接着性を向上できる。そして、防水メンテナンス作業の際には、被覆シートのうち少なくとも間隙を覆っている部分を取り除くことで前記間隙を露出させることができるので、メンテナンス用防水シートの端部を間隙へ挿入する作業を容易に実施できる。
第4の発明では、前記被覆シートは、前記樋支持部材の屋外側の面を覆う支持部材被覆部を有することを特徴とする。
これによれば、防水メンテナンス作業の実施前の状態においては、樋支持部材の屋外側の面が紫外線や風雨に晒されて劣化することを支持部材被覆部により抑制できる。また、防水メンテナンス作業の後においては、例えば支持部材被覆部を除去することなく残しておけば、メンテナンス用防水シート及び支持部材被覆部により樋支持部材を二重で防水できるので、樋支持部材に対する防水性を向上できる。
第5の発明では、前記樋支持部材は、建物の外壁材に取り付けられる取付部と、前記取付部より上方かつ前記屋根部材の前記外端部と前記間隙を隔てた位置に配置されるとともに前記接着面を形成する接着部と、前記取付部及び前記接着部を連結する連結部と、を有することを特徴とする。
これによれば、例えば、外壁材の外表面の水平方向位置と屋根部材の前記外端部の水平方向位置とが一致しない場合であっても、連結部の長さや向きを変えるだけで、接着部(図1中の符号32参照)の水平方向位置を外壁材の外表面からオフセット配置させることができる。よって、間隙が設けられていない従来の屋根構造における外壁材の水平方向位置及び屋根部材の外端部の水平方向位置を変更することなく、樋支持部材の屋内側の面と屋根部材の外端部との間に間隙を設けることを容易に実現できる。
第6の発明は、「屋根部材の外端部」の具体例を示すものであり、前記屋根部材は、屋根葺き材、及び前記屋根葺き材の下方に位置する断熱材を有し、前記間隙は、前記断熱材の外端部と前記樋支持部材との間に設けられていることを特徴とする。また、他の具体例としては、屋根葺き材の外端部と樋支持部材との間に間隙を設ける例や、断熱材の下方に配置された野地板の外端部と樋支持部材との間に間隙を設ける例等が挙げられる。
第7の発明は、建物の屋根を構成する屋根部材と、前記屋根部材の外端部と対向するよう配置され、雨樋を支持する樋支持部材と、前記樋支持部材に取り付けられ、前記樋支持部材の屋内側の面と前記外端部との間に設けられた間隙を屋外側から覆って防水する被覆シートと、を備える屋根構造に対し、メンテナンス用防水シートを取り付ける作業を行う防水メンテナンス方法である。そして、前記被覆シートのうち少なくとも前記間隙を覆う部分を除去することで、前記間隙を露出させる除去作業と、前記間隙に前記メンテナンス用防水シートを挿入し、前記樋支持部材の屋内側の面に形成された接着面に前記メンテナンス用防水シートを接着する接着作業と、を有することを特徴とする。
この第7の発明によれば、メンテナンス用防水シートの端部を前記間隙に挿入して、樋支持部材の屋内側に形成された接着面に前記防水シート端部を接着する。そのため、紫外線による劣化が激しい樋支持部材の屋外側の面にメンテナンス用防水シートを接着する場合に比べて、紫外線による劣化が少ない屋内側の接着面にメンテナンス用防水シートを接着させるので、メンテナンス用防水シートの接着性を向上できる。
さらに、上記第7の発明によれば、防水メンテナンス作業の実施前の状態においては、樋支持部材と屋根部材との間隙に対する防水を被覆シートで行うことができる。そのため、接着面が屋外に露出することを被覆シートにより回避するので、その接着面が風雨により劣化することを抑制でき、メンテナンス用防水シートの接着面への接着性を向上できる。
第8の発明では、前記被覆シートは、前記樋支持部材の屋外側の面を覆う支持部材被覆部を有しており、前記防水メンテナンス作業の除去作業では、前記支持部材被覆部を除去することなく残しておくことを特徴とする。
これによれば、防水メンテナンス作業前の時点において、樋支持部材が紫外線や風雨に晒される等により劣化することを支持部材被覆部により抑制できる。また、防水メンテナンス作業の後においては、メンテナンス用防水シート及び支持部材被覆部により樋支持部材を二重で防水できるので、紫外線等による劣化が特に懸念される部位である樋支持部材に対し、その防水性を向上できる。
第9の発明では、前記屋根部材は、複数の屋根葺き材と、前記屋根葺き材の下方に位置する断熱材とを有しており、前記複数の屋根葺き材のうち前記間隙の上方に位置する屋根葺き材を、前記断熱材から取り外した後に前記接着作業を行い、前記接着作業の後に、取り外した前記屋根葺き材を前記断熱材の元の位置に取り付け、その後、前記メンテナンス用防水シートを折り曲げて前記屋根葺き材の上に重ね合わせる作業を行うことを特徴とする。
これによれば、複数の屋根葺き材のうち間隙の上方に位置する屋根葺き材を断熱材から取り外した後に接着作業を行うので、メンテナンス用防水シートを間隙に挿入して接着する作業を行うにあたり、屋根葺き材を取り外すことで間隙の開口を大きく確保できる。よって、接着作業の作業性を向上できる。また、接着作業の後に、メンテナンス用防水シートを折り曲げて屋根葺き材の上に重ね合わせるので、防水メンテナンス作業の後においては、当該メンテナンス用防水シートにより屋根葺き材と樋支持部材との間(つまり間隙)を確実に防水できる。
なお、上記「屋根葺き材」には、メンテナンス用防水シートと同じ材質(例えば樹脂を金属板に塗布して形成された塩ビ鋼板)のものを適用することが具体例として挙げられる。
第10の発明では、前記屋根葺き材を前記断熱材の元の位置に取り付けた後に、前記メンテナンス用防水シートとは別の屋根用防水シートを前記屋根葺き材の上から覆い被せることを特徴とする。
これによれば、建物の屋根部分を、屋根葺き材及び屋根用防水シートにより二重で防水できる。
第11の発明では、前記屋根用防水シートの端部を、前記メンテナンス用防水シートと重ね合わせて接着させることを特徴とする。
そのため、メンテナンス用防水シートは樋支持部材に接着されることにより位置決めされているが、このように位置決めされているメンテナンス用防水シートに屋根用防水シートの端部を重ね合わせて接着するので、ひいては屋根用防水シートをも位置決めさせることができ、屋根用防水シートを屋根葺き材の上から覆い被せて取り付ける作業を行うにあたり、その作業性を向上できる。
以下に、本発明の屋根構造及び防水メンテナンス方法の一実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は建物10の屋根構造を示す断面図であり、後述する防水メンテナンスを実施する前の状態を示す。本実施形態ではフラット屋根(陸屋根)を対象としており、このフラット屋根は、野地板11(屋根部材)、断熱材12(屋根部材)及び屋根葺き材13,14,15から構成されている。
野地板11は、屋根フレーム18の上に設置されており、野地板11の材質には合板やALC(軽量コンクリート)等が用いられている。断熱材12は野地板11の上に設置されており、屋内の各種部材に結露が生じることを抑制するためのものである。断熱材12の材質には発泡性の樹脂(例えばポリスチレンフォーム)が用いられている。屋根葺き材13〜15の材質には、耐水材で被覆された金属板が採用されており、具体的には、ポリ塩化ビニル等の樹脂を金属板に塗布して形成された塩ビ鋼板が採用されている。以下、この屋根葺き材13〜15を塩ビ鋼板と呼ぶ。
塩ビ鋼板13〜15は、断熱材12の全体を覆うように複数枚敷き詰められており、塩ビ鋼板13〜15の上面が屋根部材の外表面を形成する。そのため、塩ビ鋼板13〜15には防水性が要求されており、隣接する塩ビ鋼板14,15の間は防水テープ16によりシールされている。
また、塩ビ鋼板13〜15は、タッピングスクリュ17等の締結部材により野地板11に固定されており、この締結部材15を防水テープ16で覆うことによりシールするようにしてもよい。また、塩ビ鋼板13〜15の上に防水シート(図示せず)を張り付けて、塩ビ鋼板13〜15の上面全体を防水シートで覆うことにより防水性を向上させるようにしてもよい。
なお、複数の塩ビ鋼板13〜15のうち屋根の外縁に位置する塩ビ鋼板13は、断熱材12の外端部12aよりも水平方向外側に延出する延出部13aを有する。また、断熱材12の外端部12aと野地板11の外端部11aとは水平方向において同じ位置となっている。
屋根フレーム18を支持する天井梁19はブラケット20を介して柱21に支持され、この柱21には外壁材22が取り付けられている。なお、断熱材12及び野地板11の外端部12a,11aと外壁材22の外表面22aとは、水平方向において同じ位置となっている。したがって、塩ビ鋼板13の延出部13aは、外壁材22の外表面22aに対し水平方向において屋外側に延出している。ちなみに、図1中の符号23は、屋内のうちの室内空間Rを保温するとともに遮音性を向上させるための、グラスウール等による断熱材を示している。
外壁材22の上部には、タッピングスクリュ24(締結部材)により樋支持部材30が固定されており、この樋支持部材30には雨樋40が支持されている。雨樋40は、外壁材22の外表面22aに沿って水平方向に延びる樋41と、タッピングスクリュ24により樋支持部材30に固定された吊り金具42とを有して構成され、樋41は吊り金具42により支持されている。樋41の上方には水切り材43が配置されており、この水切り材43は樋支持部材30に取り付けられている。より詳細には、水切り材43は、樋支持部材30のうち後述する連結部33の部分にビス等により取り付けられている。
次に、樋支持部材30の構成について詳細に説明する。
樋支持部材30は、断熱材12及び野地板11の外端部12a,11aに沿って水平方向に延びる形状である。樋支持部材30の材質は、屋根葺き材13〜15と同様にして、耐水材で被覆された金属板が採用されており、具体的には、ポリ塩化ビニル等の樹脂を金属板に塗布して形成された塩ビ鋼板が採用されている。つまり、樋支持部材30には防水性を有する材質が採用されている。
また、樋支持部材30は、以下に説明する取付部31、接着部32及び連結部33を有する形状である。取付部31は、上下方向に延びる形状であり、外壁材22の上部に取り付けられている。詳細には、タッピングスクリュ24により取付部31を外壁材22に固定させている。接着部32は、取付部31より上方に位置するとともに上下方向に延びる形状であり、連結部33は、取付部31の上端と接着部32の下端とを連結するよう水平方向に延びる形状である。要するに、樋支持部材30は、水平方向において接着部32が取付部31よりも屋外側に位置するようクランク状に形成されている。換言すれば、樋支持部材30の形状は、外壁材22の外表面22aに平行かつ水平な方向(図1の紙面垂直方向)に対し垂直な面の断面が、略Z字状となるよう形成されている。
このように樋支持部材30をクランク状に形成することで、接着部32は、外表面22aと同一面上に位置する断熱材12及び野地板11の外端部12a,11aに対し、屋外側にオフセット配置されるとともに、外端部12a,11aと対向するように配置されることとなる。つまり、接着部32の屋内側の面(後述する接着面32aに相当)と外端部12a,11aとの間に間隙Kが設けられている。
また、連結部33及び取付部31に直射日光が照射されることを接着部32で遮るよう、樋支持部材30は形成されている。つまり、連結部33及び取付部31は、建物10の上方から照射される直射日光に対し接着部32の陰に位置する。水切り材43は連結部33から下方に延びる形状であり、取付部31に直射日光が照射されることを水切り材43で遮るよう、水切り材43は配置されている。つまり、取付部31は、建物10の上方から照射される直射日光に対し水切り材43の陰に位置する。樋41の上端は取付部31よりも上方に位置しており、取付部31に直射日光が照射されることを樋41で遮るよう、樋41は配置されている。
接着部32の上端は、上下方向において塩ビ鋼板13の延出部13aと同じ位置又は延出部13aよりも下方に位置する。接着部32の下端は、上下方向において野地板11よりも下方に位置する。連結部33は野地板11よりも下方に位置し、連結部33と延出部13aとの間に間隙Kが位置する。取付部31の上端は、上下方向において野地板11よりも下方に位置する。
接着部32の屋外側の面32bには、防水性を有する被覆シート50が接着剤により接着されている。被覆シート50の材質には、屋根葺き材13〜15と同様にして、耐水材で被覆された金属板が採用されており、具体的には、ポリ塩化ビニル等の樹脂を金属板に塗布して形成された塩ビ鋼板が採用されている。
被覆シート50は、接着部32の屋外側の面32bを覆う支持部材被覆部51、及び塩ビ鋼板13の延出部13aを覆う屋根部材被覆部52を有している。つまり、被覆シート50の一方の辺が支持部材被覆部51、他方の辺が屋根部材被覆部52となるよう折り曲げられたシートである。換言すれば、被覆シート50は、外壁材22の外表面22aに平行かつ水平な方向(図1の紙面垂直方向)に対し垂直な面の断面が、L字状となるよう折り曲げられている。両被覆部51,52は、接着部32及び塩ビ鋼板13の各々に対して接着剤により接着されている。
ここで、接着部32の上端と延出部13aの先端との間には開口部CLが形成されており、接着部32及び塩ビ鋼板13から被覆シート50を取り外した状態では、間隙Kが開口部CLから屋外に露出することとなる。そこで、被覆シート50は開口部CLを覆っており、これにより間隙Kが露出することを防止している。これにより、屋外の雨水が開口部CLから間隙Kに入ることを防止している。
開口部CLは、後述するメンテナンス作業者の手が入らない程度の大きさに形成されている。一方、延出部13aを有する塩ビ鋼板13を断熱材12から取り外した状態(図2(b)に示す状態)においては、延出部13aが取り除かれることにより、間隙Kの開口部(図2(b)中の符号Ka参照)は広く開けられる。つまり、開口部CLは、接着部32の上端と延出部13aの先端との間に形成されるのに対し、開口部Kaは、接着部32の上端と断熱材12の先端との間に形成される。このように広く開けられた状態の開口部Ka及び間隙Kは、メンテナンス作業者の手が入る大きさを確保できる大きさに形成されている。
なお、図1では、被覆シート50の厚みと樋支持部材30の厚みを同程度に記載しているが、実際には被覆シート50の厚みは樋支持部材30よりも薄く、例えば、樋支持部材30は1mm〜2mmの厚みであり自重を支持できる程度に剛性を有するのに対し、被覆シート50は1mmよりも薄い厚みであり、被覆シート50を貼り付ける作業者により自在に折り曲げ可能である。
上述した間隙Kは、外端部12a,11aに沿って水平方向に延びる形状である。そして間隙Kには、ケーブルテレビやアンテナに用いられる各種通信線や電気配線(以下、単に「配線W」と記載)が設置されている。例えば、連結部33の上に配線Wを載せることが望ましい。
ここで、建物10の屋根側は塩ビ鋼板13〜15により防水され、屋根と外壁材22との境界部は、塩ビ鋼板製の樋支持部材30及び被覆シート50により防水されている。しかしながら、塩ビ鋼板13〜15及び被覆シート50に塗布されている樹脂(ポリ塩化ビニル)が紫外線により劣化したり、塩ビ鋼板13〜15の芯材となっている金属板が腐食したりする等、これらの塩ビ鋼板13〜15及び被覆シート50は経年劣化して防水性能が低下する。そこで、これらの防水性能低下を補うべく、塩ビ鋼板13〜15の上から防水シートを増張りするメンテナンスが要求される場合がある。
以下、このメンテナンス作業の手順について、図2を参照しつつ説明する。なお、図2では、柱21及び断熱材23等の図示を省略している。
先ず、図2(a)に示すように、被覆シート50のうち開口部CLを覆っている部分(例えば符号50aに示す部分)を、ナイフ等の工具を用いてメンテナンス作業者が切断して、支持部材被覆部51から屋根部材被覆部52を切り取る切取作業(除去作業)を行う。切り取った屋根部材被覆部52については、塩ビ鋼板13から剥がして廃棄する。また、防水テープ16を塩ビ鋼板13から剥がし取る。なお、支持部材被覆部51については接着部32に接着させたまま残しておく。
次に、図2(b)に示すように、タッピングスクリュ17を取り外して塩ビ鋼板13を断熱材12から取り外す。これにより、樋支持部材30と断熱材12との間に設けられた前述の間隙Kを屋外側に露出させる。また、延出部13aが取り除かれることにより、間隙Kの開口部Kaが広く開けられる。
次に、図2(c)に示すように、メンテナンス用防水シート60を開口部Kaから間隙Kへ挿入し、樋支持部材30に形成された接着面32aにメンテナンス用防水シート60の下方部分(接着部61)を接着剤により接着する(接着作業)。なお、このメンテナンス用防水シート60は、被覆シート50と同様の材質及び厚み寸法のシート(塩ビ鋼板)である。
次に、図2(d)に示すように、取り外した塩ビ鋼板13を断熱材12上の元の位置に戻し、タッピングスクリュ17により断熱材12へ取り付ける。その後、メンテナンス用防水シート60のうち接着面32aに接着されていない上方部分(重複部62)を折り曲げて、塩ビ鋼板13の延出部13aの上に重ね合せる。つまり、この重ね合わせた状態において、メンテナンス用防水シート60は、接着面32aに接着された接着部61と、重ね合わせられた重複部62とを有するL字状となる。なお、重複部62は延出部13aに接着してもよいし、接着することなく重ね合わせるだけでもよい。
次に、図2(d)に示すように、メンテナンス用防水シート60とは別の屋根用防水シート70を塩ビ鋼板13〜15の上から覆い被せる。これにより、塩ビ鋼板13〜15の上面全体が屋根用防水シート70により覆い被せられ、経年劣化した塩ビ鋼板13〜15の防水性能低下が補われる。また、屋根用防水シート70の端部71を、メンテナンス用防水シート60の重複部62の上に重ね合わせ、接着剤により接着する。なお、この屋根用防水シート70は、被覆シート50と同様の材質及び厚み寸法のシート(塩ビ鋼板)である。
屋根用防水シート70は、1枚で形成されていても複数枚に分割されていてもよく、いずれの場合においても、メンテナンス用防水シート60を接着面32aに接着した後に、屋根用防水シート70をメンテナンス用防水シート60に接着する。
屋根用防水シート70が複数枚に分割されている場合を例に、屋根用防水シート70の接着手順をより詳細に説明すると、先ず、複数枚の屋根用防水シート70のうちメンテナンス用防水シート60に隣接するシート70の端部71を、メンテナンス用防水シート60に重ねて接着する。その後、複数枚の屋根用防水シート70のうちメンテナンス用防水シート60に接着したシート70に隣接するシートの端部を、前記接着したシート70に接着する。このように、メンテナンス用防水シート60を接着部32に接着させた後、メンテナンス用防水シート60に近い側の屋根用防水シート70から順次接着させていく。
以上の手順により、メンテナンス用防水シート60及び屋根用防水シート70を増張りするメンテナンス作業は完了する。
なお、配線Wは、上述したメンテナンス作業を実施する前から間隙Kに配置されており、例えば新たな配線を増設する場合や、既設の配線Wを別の配線に取り替えるメンテナンスを実施する場合には、図2(b)に示すように塩ビ鋼板13を断熱材12から取り外す作業をした後に、増設する配線等を開口部Kaから間隙Kへ挿入すればよい。
以上、詳述した本実施形態の構成及び作業手順によれば、以下の優れた効果が得られる。
(1)樋支持部材30の屋内側の面に接着面32aを形成し、その接着面32aと断熱材12の外端部12aとの間に間隙Kを設ける構成であるため、メンテナンス用防水シート60の端部を間隙Kに挿入して接着面32aに接着させることができる。このように、樋支持部材30の屋内側に形成された接着面32aに防水シート60を接着できるので、樋支持部材30から雨樋40及び水切り材43を取り外すことなく防水シート60を樋支持部材30に接着することができる。よって、防水メンテナンスの作業性を向上できる。
(2)接着面32aを樋支持部材30の屋内側に形成しているので、接着面32aが紫外線により劣化することを屋外側の面に比べて低減できる。よって、メンテナンス用防水シート60の接着面32aへの接着性悪化を抑制できる。
(3)樋支持部材30を構成する接着部32の屋外側の面には、被覆シート50が貼り付けられているので、接着部32の屋外側の面が紫外線や風雨に晒される等により劣化することを被覆シート50により抑制できる。
(4)切取作業時に、支持部材被覆部51については接着部32に接着させたまま残しておくので、防水メンテナンス作業後の状態(図2(d)に示す状態)において、メンテナンス用防水シート60及び被覆シート50の支持部材被覆部51により接着部32を二重で防水できるので、樋支持部材30に対する防水性を向上できる。なお、樋支持部材30を構成する連結部33及び取付部31は、接着部32の陰に位置するので、接着部32に比べて紫外線劣化が少ない。特に取付部31の位置は、水切り材43及び樋41の陰にもなっているので、取付部31の紫外線劣化は少ない。そのため、これら連結部33及び取付部31についてはメンテナンス用防水シート60及び被覆シート50を接着することを不要にできる。
(5)防水メンテナンス作業の実施前の状態(図2(a)の状態)において、被覆シート50の両端(被覆部51,52)を接着部32及び塩ビ鋼板13に接着することで、接着部32の上端と延出部13aの先端との開口部CLを被覆シート50で覆っているため、屋外の雨水が開口部CLから間隙Kに入ることを防止できる。
一方、防水メンテナンス作業の際には、屋根部材被覆部52を支持部材被覆部51から切り取るだけで間隙Kを露出させることを容易に実現できるので、メンテナンス用防水シート60を間隙Kへ挿入する作業を容易に実施できる。さらに、防水シート60を間隙Kへ挿入する前に、延出部13aを取り除く作業を行うので、間隙Kの開口部Kaを広く開けることができ、メンテナンス用防水シート60を間隙Kへ挿入する作業及び接着面32aに接着する作業の作業性を向上できる。
(6)樋支持部材30をクランク状に形成することにより、樋支持部材30のうち接着部32を外壁材22の外表面22aから屋外側にオフセット配置するので、従来の建物10x(図4参照)に対して外壁材22の位置を変更することなく、図1に示す如く間隙Kを設けることを実現できる。よって、従来の建物10xに対して間隙Kを設ける構造に変更することを容易に実現できる。
(7)メンテナンス用防水シート60を接着面32aに接着した後、メンテナンス用防水シート60を折り曲げて塩ビ鋼板13の上に重ね合わせるので、防水メンテナンス作業の実施後の状態(図2(d)の状態)において、当該メンテナンス用防水シート60により塩ビ鋼板13と樋支持部材30との間(つまり間隙K)を確実に防水できる。
(8)防水メンテナンス作業において、メンテナンス用防水シート60を接着部32の接着面32aに接着させた後、屋根用防水シート70の端部71をメンテナンス用防水シート60の重複部62の上に重ね合わせて接着する。これによれば、接着面32aとの接着によりメンテナンス用防水シート60は位置決めされ、このように位置決めされているメンテナンス用防水シート60に屋根用防水シート70の端部71を接着するので、その結果、屋根用防水シート70を、位置決めしつつメンテナンス用防水シート60に接着させることができる。
ここで、本実施形態の作業手順に反し、メンテナンス用防水シート60を接着面32aに接着する前に、メンテナンス用防水シート60に屋根用防水シート70を接着させる場合には、両シート60,70が互いに接着した状態で、両シート60,70を所定位置に移動させる位置決め作業をしなければならず、このように互いに接着した状態での位置決め作業は作業性が悪い。これに対し本実施形態によれば、上述の如く屋根用防水シート70を位置決めしつつメンテナンス用防水シート60に接着させることができるので、接着されていない状態で両シート60,70を別々に位置決め作業できる。よって、屋根用防水シート70を塩ビ鋼板13〜15の上から覆い被せて取り付ける作業を行うにあたり、その作業性を向上できる。
(9)さらに、屋根用防水シート70を複数枚に分割して形成している場合には、メンテナンス用防水シート60を接着面32aに接着させた後、メンテナンス用防水シート60に近い側の屋根用防水シート70から順次接着させていくので、複数枚の屋根用防水シート70が互いに接着した状態で複数枚の屋根用防水シート70を所定位置に移動させるといった作業性の悪い位置決め作業を回避でき、接着されていない状態で複数枚の屋根用防水シート70を別々に位置決め作業できる。よって、屋根用防水シート70の取り付け作業性を向上できる。
(10)樋支持部材30の屋内側の面(接着面32a)と断熱材12の外端部12aとの間に間隙Kを設ける構成であるため、間隙Kを各種配線Wの設置スペースとして利用できる。
また、その間隙Kは樋支持部材30の屋内側に位置するので、屋外から目隠しされた位置に各種配線Wの設置スペースを確保することができる。しかも、間隙Kは、防水メンテナンス作業前の状態においては被覆シート50により覆われ、防水メンテナンス作業後の状態においてはメンテナンス用防水シート60により覆われているので、間隙Kに設置された配線Wが被水したり紫外線で劣化することを低減できる。
なお、本発明は上記実施形態に限らず、例えば次のように実施してもよい。
・上記実施形態では、防水メンテナンス作業時にメンテナンス用防水シート60を接着させているが、図3に示すように、建物10を建築する当初から予めメンテナンス用防水シート600を接着させてもよい。この場合におけるメンテナンス用防水シート600は、接着面32aに接着された接着部610及び非接着部620を有する。そして、メンテナンス作業前の状態(図3に示す状態)では、非接着部620は曲げられて間隙Kに収容されている。
また、図3の場合におけるメンテナンス作業の手順を説明すると、先ず、図2(a)(b)と同様にして屋根部材被覆部52を切り取り、塩ビ鋼板13を断熱材12から取り外す。その後、予め間隙Kに収容されているメンテナンス用防水シート600の非接着部620を間隙Kから取り出す。その後は、図2(d)と同様にして取り外した塩ビ鋼板13を断熱材12上の元の位置に戻し、メンテナンス用防水シート600の非接着部620を折り曲げて、塩ビ鋼板13の延出部13aの上に重ね合せる。その後、屋根用防水シート70を塩ビ鋼板13〜15の上から覆い被せ、屋根用防水シート70の端部71をメンテナンス用防水シート600の非接着部620の上に重ね合わせ、接着剤で接着する。
以上説明した図3の実施形態によれば、防水シート600が間隙Kに予め収容されているので、防水メンテナンス作業時にクレーン等を用いて防水シート600を屋根上まで揚上することを不要にできる。また、防水シート600が接着面32aに予め接着されているので、防水シート600を接着面32aに接着する作業を防水メンテナンス作業時には不要にできる。以上により、防水メンテナンスの作業性を向上できる。
・上記実施形態では、フラット屋根の建物10に本発明に係る屋根構造を適用させているが、切妻屋根の建物に適用させてもよい。図1に示すフラット屋根では、断熱材12(又は野地板11)の外端部12aが外壁材22の外表面22aと同一面上に位置する場合において、その外端部12aと樋支持部材30との間に間隙Kを形成している。これに対し、切妻屋根の場合には軒先を有する屋根構造となるため、外表面22aよりも屋外側に延出した屋根部材(断熱材又は野地板)の軒先部(外端部)と樋支持部材との間に間隙を形成することとなる。
・上記実施形態では、断熱材12及び野地板11を「屋根部材」として例示しているが、他の例示として、軒桁、垂木、小屋梁、妻梁、鼻先板、破風板等が挙げられる。
・上記実施形態では、塩ビ鋼板13〜15を「屋根葺き材」として例示しているが、他の例示として、ALC等のコンクリートアスファルトが挙げられる。
・上記実施形態では、樋支持部材30の連結部33に水切り材43を取り付けているが、取付部31や接着部32に取り付けるようにしてもよい。
・上記実施形態では、樋支持部材30の取付部31に雨樋40を取り付けているが、連結部33や接着部32に取り付けるようにしてもよい。