JP5238250B2 - 核酸マイクロアレイ、その製造方法および核酸マイクロアレイ用基材 - Google Patents
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Description
現在用いられているDNAチップ(あるいはDNAマイクロアレイ)を作製する方法は、大別してAffymetrix社方式とスタンフォード方式とがある。前者の方法によるDNAチップは、フォトリソグラフィーと光照射化学合成を組み合わせてガラス基板上で20〜25マー程度のオリゴヌクレオチドを高密度に合成することにより作製される(米国特許第5445934号明細書、米国特許第5744305号明細書および米国特許第5700637号明細書を参照)。後者の方法によるDNAチップは、典型的には、あらかじめ調製されたDNA断片をスライドガラス上に高密度にスポットすることにより作製される(米国特許第5807522号明細書および国際公開公報98/18961号パンフレットを参照)。
一方、ガラス基板の代わりに、種々のプラスチック樹脂を用いたバイオチップも検討されている(特開2005−10004号公報を参照)が、未処理の樹脂はDNAとの結合性が低く、樹脂の基板の表面を修飾する方法がなされる。例えば、特開2005−10004号公報には、基板の表面修飾方法として、アルデヒド基を導入する方法が開示されており、アルデヒド基との反応性を高めるためにはDNAにアミノ基を導入する必要があることが記載されている。
本発明の目的は、基板や核酸に特定の反応基を導入して共有結合による固定を施さなくても充分に核酸を固定することができる核酸マイクロアレイおよび核酸マイクロアレイ用基材などを提供することにある。
本発明者らは、プラスチック基材に特定の処理を施すことにより、基材とDNAとの固定が強固になることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1) プラスチック基材に核酸を固定化した核酸マイクロアレイであって、当該基材の少なくとも表面部分に、酸化物系フィラー、水酸化物系フィラー、炭酸塩系フィラーおよび硫酸塩系フィラーからなる群より選ばれた無機フィラーを含有する核酸マイクロアレイ。
(2) 前記無機フィラーが二酸化チタンである前記(1)記載の核酸マイクロアレイ。
(3) 前記プラスチックがポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートまたはポリエチレンテレフタレートである前記(1)または(2)に記載の核酸マイクロアレイ。
(4) プラズマ処理またはイオンビーム処理されたプラスチック基材に核酸を固定化した核酸マイクロアレイであって、当該基材の少なくとも表面部分に、酸化物系フィラー、水酸化物系フィラー、炭酸塩系フィラーおよび硫酸塩系フィラーからなる群より選ばれた無機フィラーを含有する核酸マイクロアレイ。
(5) 前記無機フィラーが二酸化チタンである前記(4)記載の核酸マイクロアレイ。
(6) 前記プラスチックがポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートまたはポリエチレンテレフタレートである前記(4)または(5)に記載の核酸マイクロアレイ。
(7) 前記基材の表面粗さRa(JIS B 0601−1994)が0.06〜0.5μmである前記(4)〜(6)いずれかに記載の核酸マイクロアレイ。
(8) 少なくとも表面部分に無機フィラーを含有するプラスチック基材を、プラズマ処理またはイオンビーム処理する工程、および
前記処理後のプラスチック基材の表面に核酸を固定する工程
を含む核酸マイクロアレイの製造方法。
(9) 前記プラズマ処理工程が不活性ガス雰囲気下で行われるものであり、前記イオンビーム処理工程がイオン化ガスとして不活性ガスを用いて行われるものである前記(8)記載の製造方法。
(10) 前記不活性ガスが窒素ガスである前記(9)記載の製造方法。
(11) 前記核酸が50塩基以上の長さを有するものである前記(8)〜(10)いずれかに記載の製造方法。
(12) 前記核酸を固定する工程が、UV照射により行われる前記(8)〜(11)いずれかに記載の製造方法。
(13) プラスチックを材料としてなる核酸マイクロアレイ用基材であって、当該基材の少なくとも表面部分に酸化物系フィラー、水酸化物系フィラー、炭酸塩系フィラーおよび硫酸塩系フィラーからなる群より選ばれた無機フィラーを含有する基材。
(14) 前記無機フィラーが二酸化チタンである前記(13)記載の基材。
(15) 前記基材表面がさらにプラズマ処理またはイオンビーム処理されてなる前記(13)または(14)に記載の基材。
(16) 前記基材の表面粗さRa(JIS B 0601−1994)が0.06〜0.5μmである前記(15)記載の基材。
(17) 前記(1)〜(7)いずれかに記載の核酸マイクロアレイまたは前記(8)〜(12)いずれかに記載の製造方法により得られる核酸マイクロアレイと分析対象の核酸を含む試料とを接触させる工程、および
前記接触工程により形成された核酸ハイブリッドを検出する工程
を含む、特定の塩基配列を有する核酸の検出方法。
(18) 前記核酸ハイブリッドが標識されている前記(17)に記載の検出方法。
(19) 前記標識がアルカリホスファターゼである前記(18)に記載の検出方法。
図2は、二酸化チタンを配合したポリエチレンテレフタレート製基板と配合しない基板について、DNAの定着性を比較した図である。
図3は、二酸化チタンを配合したポリカーボネート製基板を用いたDNAマイクロアレイを発色させた図である。
本発明において、核酸マイクロアレイとは、プラスチック基材の表面に核酸(プローブともいう)が搭載されているものをいう。
本発明の核酸マイクロアレイのプラスチック基材に用いられる樹脂は、具体例として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリペンテン、ポリメチルペンテン、飽和環状ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリカーボネート;ポリアセタール;エチレン・ビニルアルコール共重合体樹脂;ポリスチレン、AS(アクリロニトリル・スチレン)樹脂、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂等のポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;酢酸セルロース;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂;ポリアミド樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリ乳酸、トウモロコシ等のデンプン由来の樹脂等の生分解性樹脂等があげられる。
上記のうち、安価であり、入手が容易であることから、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートおよびポリエチレンテレフタレートが好ましい。また、環境面からは、生分解性樹脂や、リサイクル方法が確立されている樹脂材料(例、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等)を用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。
本発明において無機フィラーとは、プラスチックの副資材として、一般に増量材として樹脂に配合されるものをいい、さらに種類によっては、粘度の上昇、成形圧縮率の低下、不透明性の向上、耐光性の向上、力学特性の向上および外観の向上などの効果を付加するものであってもよい。核酸マイクロアレイにおける発光検出を容易に目視できる観点から、不透明性の向上するものおよび外観を向上するものが好ましいが、これに限定されるものではない。
また、前記無機フィラーは、例えば、球形粒子状、繊維状およびフレーク状などが挙げられ、樹脂における無機フィラー分散性の観点から球形粒子状が好ましい。球形粒子の平均粒径は、樹脂における無機フィラー分散性の観点から、0.2〜5.0μmが好ましく、0.5〜2.0μmがより好ましい。前記無機フィラーの平均粒径は、光散乱式粒径分布測定装置により測定される値である。
本発明における無機フィラーは、酸化物系フィラー、水酸化物系フィラー、炭酸塩系フィラーおよび硫酸塩系フィラーからなる群より選ばれるものであり、例えば、酸化物系フィラーとしては二酸化チタン、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等;水酸化物系フィラーとしては水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等;炭酸塩系フィラーとしては炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等;硫酸塩系フィラーとしては硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸アンモニウム等があげられる。前記無機フィラーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
上記した無機フィラーは、核酸の固定化に有利に働くと考えられる正電荷を基材表面に付与することができる。さらには、酸化物系フィラーが好ましく、顔料としても優れる二酸化チタンがより好ましい。
無機フィラーの配合量は、無機フィラーが配合される樹脂と無機フィラーの種類に応じて適宜設定されるが、基材の形状を良好に保持する観点から、樹脂100重量部に対して無機フィラー20重量部以下、好ましくは10重量部以下である。
前記無機フィラーを配合することにより、疎水性のプラスチック表面の核酸に対する親和性が高くなる。本発明における疎水性とは、後述する水との接触角θが約65°以上の性質をいう。さらに、かかる疎水性のプラスチックに後述の表面処理をすれば、核酸断片を水性媒体に溶解または分散させた水性液に対する濡れ性が向上して、核酸を充分に固定することができるようになる。
無機フィラーは、少なくとも当該基材の表面部分に含有されていればよい。したがって、無機フィラーは、基材全体に含有されていても、表面部分に偏在していてもよく、偏在する箇所が表面部分全体であってもよく、核酸が固定される表面部分の一部領域であってもよい。
具体的な態様としては、無機フィラーを含有するプラスチックを成形して形成された、基材全体に無機フィラーを含有する基材;無機フィラーを含有しないプラスチックの成形板上に、無機フィラーを含有するプラスチックの成形板を積層した多層基材等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。無機フィラーを含有するプラスチックの成形板を積層する場合は、核酸を固定することを予定している部分にのみ積層してもよい。
基材は、公知の方法に従い製造することができる。例えば、樹脂および無機フィラーならびに必要によりその他の添加剤について、ミキサー、ヘンシェル、押出機、ニーダーまたはロール等による混合・混練を行い、押出成形、射出成形、圧縮成形またはカレンダー成形等によって成形することができる。中でも製造容易性およびコストの観点から、樹脂および無機フィラーを共押出しにより製造することが好ましいが、これに限定されるものはない。さらに前記基材は、必要な場合には適切なサイズに裁断して製造することができる。
具体的には、プラスチック基材がポリプロピレン製の基板である場合、例えば、ポリプロピレン樹脂100重量部に対して、二酸化チタン微粒子を約10重量部混合し、共押出しにより基板状に成形する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
前記基材の大きさは、マイクロアレイの使用目的に応じて適宜決定することができるが、ベッドサイドでの取り扱いの容易性の観点から、約1〜10000mm2、好ましくは約10〜1000mm2である。
前記プラスチック基材は、必要により表面処理が行われることが好ましい。この表面処理によって基材表面の適切な表面粗さが得られ、核酸断片を水性媒体に溶解または分散させた水性液に対する濡れ性が向上して、核酸を充分に固定することができるようになる。
前記表面処理の方法としては、イオンビーム処理またはプラズマ処理があげられ、好ましくはイオン化ガスとして不活性ガスを用いたイオンビーム処理または不活性ガス雰囲気下でのプラズマ処理である。
前記イオンビーム処理とは、不活性ガスをイオン化し、電圧をかけて高速加速して得られるイオンビームをプラスチック基材表面に照射し、衝突させることによって発生したエネルギーにより、イオン注入、膜形成、エッチングおよび濡れ性の向上の効果を付与する表面処理方法をいう。
前記イオンビーム処理における不活性ガスとしては、イオンビーム処理後の核酸固定の効率を高める観点から窒素ガスおよびアルゴンガスが好ましい。リン酸骨格を有する(ポリアニオンである)DNAまたはRNAを用いる場合は、前記プラスチック基材表面の濡れ性の向上および当該表面のイオンチャージによって、より強固に固定することができる点で、窒素ガスがより好ましい。
イオンビーム処理の方法は、特に限定されるものではないが、例えば、減圧下で、磁場中の電子のサイクロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance:ECR)を利用したECRイオン銃を搭載した装置から得られたイオンビームを、約300〜700Vの加速エネルギーで、約1.0×1020ion/cm2のドーズ量で照射する方法があげられる。使用する装置としては、例えば、エリオニクス製の小型ECRイオンシャワー装置(EIS−200ER)等があげられるが、これに限定されるものではない。かかる処理の回数は、所望の濡れ性および表面粗さを得る限りにおいては特に限定されないが、濡れ性の劣化を抑制できる観点から、1回あたり0.25〜2.0×1020ion/cm2のドーズ量を、少なくとも5回以上、好ましくは10回以上照射することが好ましいが、これに限定されるものではない。
前記プラズマ処理とは、不活性ガス雰囲気下で放電することにより、前記不活性ガスの電離作用によって生じるプラズマを固体表面に照射し、この表面をエッチング、濡れ性の向上および官能基の導入などの効果を付与する処理をいう。上記放電としては、コロナ放電(高圧低温プラズマ)、アーク放電(高圧高温プラズマ)およびグロー放電(低圧低温プラズマ)などが挙げられ、中でも表面処理の反応性の観点から、コロナ放電が好ましいが、これに限定されるものではない。
前記プラズマ処理における不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、酸素ガス、ヘリウムガス、ネオンガスおよびキセノンガス等があげられるが、プラズマ処理後の核酸固定の効率を高める観点から窒素ガスおよびアルゴンガスが好ましい。リン酸骨格を有する(ポリアニオンである)DNAまたはRNAを用いる場合は、前記プラスチック基材の表面にアミン基および/またはアミノ基を発生させ、当該表面の濡れ性の向上および当該表面のイオンチャージによって、より強固に固定することができる点で、窒素ガスがより好ましい。
前記プラズマ処理の方法は、特に限定されるものではないが、例えば、コロナ放電を用いる場合、前記基材を密閉容器に入れ、約25〜50℃の窒素ガス雰囲気(約10〜20Pa)下で、出力約100〜500Wで放電し、約100〜1000秒処理する方法などがあげられる。使用する装置としては、例えば、ヤマト科学社製の小型高性能プラズマ表面処理装置(PDC200シリーズ)などが挙げられるが、これに限定されるものではない。かかる処理の回数は、所望の濡れ性および表面粗さを得る限りにおいては特に限定されないが、通常1〜10回程度である。
前記イオンビーム処理またはプラズマ処理することにより、プラスチック基材の表面の濡れ性が上昇する。前記濡れ性は、プラスチック基材と水との接触角θを測定することにより決定することができる。処理後の水の接触角θは、核酸の固定強度の観点から、60°以下、好ましくは40°以下、特に好ましくは20°以下である。なお、処理前の基材の表面の水の接触角θは、例えば、ポリメチルメタクリレートでは、約80°、ポリカーボネートでは約76°程度である。接触角θは、0.25μLの蒸留水を滴下し、光学顕微鏡で測定した値である。
前記イオンビーム処理またはプラズマ処理することにより、プラスチック基材の表面粗さを調整することができる。プラスチック基材の表面粗さRa(JIS B 0601−1994)は、核酸の固定をより強固にするという観点から、0.06〜0.5μmが好ましく、0.08〜0.45μmがより好ましい。前記表面粗さRaは、レーザ顕微鏡により測定した値である。
上記のようにして得られた基材に、核酸を固定することにより、核酸マイクロアレイを製造することができる。
本発明における核酸(プローブともいう)とは、DNA、RNA、PNAまたはそれらの誘導体をいう。前記核酸(プローブ)は、天然由来であっても人工的に合成されたものであっても、一本鎖であっても二本鎖であってもよい。また、前記DNAは、天然もしくは合成DNA、mRNAから逆転写されたcDNA等、特に限定されるものではない。前記RNAは、mRNA、cRNAまたはrRNA等、特に限定されるものではない。前記PNAは、ペプチド骨格に核酸塩基をもつ分子をいう。前記誘導体とは、前記DNA、RNA、PNAを本発明の目的の範囲内で適宜修飾したものをいう。
上記DNA、RNAおよびPNAの中では、製造コスト、種々の酵素が使用できる点および用途範囲が広い面で、一本鎖のDNAが好ましいが、これに限定されるものではない。前記用途範囲とは、例えば、患者個人の薬剤感受性の予測、病原菌のもしくは耐性の判定ならびに個人の体質の判定などがあげられ、一般的にはテーラーメード医療と呼ばれる分野での用途を指すが、これに限定されるものではない。
ここで、本発明の核酸マイクロアレイは、核酸(プローブ)が一本鎖のDNAである場合、一般にDNAチップとも呼ばれる。
本発明の核酸マイクロアレイに搭載される核酸(プローブ)の種類は、用途目的に応じて適宜設定することができる。例えば、患者個人の薬剤感受性の予測に用いる場合は、一般に一塩基多型(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)を検出することから、検出すべき各多型部位における多型の数の総和である。さらに詳しく説明すると、特開2000−350600号公報で開示されている骨粗鬆症治療薬剤の感受性を予測する場合には、VDR遺伝子のイントロン8上のBsmI制限酵素断片長多型と、ApoE遺伝子のHhaI制限酵素断片長多型およびER遺伝子のイントロン1上のXbaI制限酵素断片長多型を検出する。前記VDR遺伝子のイントロン8上のBsmI制限酵素断片長多型は2種類、前記ApoE遺伝子のHhaI制限酵素断片長多型は3種類、前記ER遺伝子のイントロン1上のXbaI制限酵素断片長多型は2種類であるため、その総和は7となる。したがって、核酸マイクロアレイに搭載される核酸(プローブ)の種類は、7種類と設定することができる。さらに、対照として任意の塩基配列を有する核酸も搭載してもよい。以上に具体例を示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明における核酸(プローブ)の長さは、UV照射によりプラスチック基材への固定が容易である上で、測定対象の核酸とハイブリダイズすることができるものであれば、少なくとも50塩基であればよい。中でも、非特異吸着の頻度の観点から、50〜500塩基、好ましくは約200〜400塩基である。
固定化される核酸は、天然由来の核酸の場合、公知の方法により単離、精製し、必要に応じて酵素等で所定の長さに切断することにより調製したものを用いることができる。合成核酸の場合、核酸の種類に応じて公知の合成方法により調製したものを用いることができる。DNAの場合、逆転写反応やポリメラーゼ連鎖反応等により調製したものを好適に使用することができる。
しかしながら、検出に必要な塩基配列の長さは、約10〜30塩基程度であることが一般的である。このような場合、上記のようにして調製した核酸配列の末端に、検出に影響しないような配列を付加することにより、上記の50塩基以上の長さを達成することができる。例えば、ポリdT、ポリdA、ポリdCおよびポリdGからなる群より選ばれるオリゴマーを付加することがあげられ、吸着強度および非特異吸着の頻度の観点から、ポリdTオリゴマーを付加することが好ましい。前記ポリdTオリゴマーの付加は、ターミナルトランスフェラーゼなどにより付加することが可能であるが、これに限定されるものではない。
核酸の固定は、前記核酸の溶液を調製し、前記プラスチック基材の表面、好ましくは前記イオンビーム処理またはプラズマ処理後のプラスチック基材の表面に、当該溶液をスポッティングし、UV照射することにより行う。前記溶液は、リン酸緩衝液などの水系の溶媒を用いることが一般的である。また、スポッティング方法は特に限定されるものではないが、例えば、ディスペンサー(武蔵エンジニアリング社製のSMP−3など)を用いて行う方法があげられる。本発明においては、少なくとも表面部分に無機フィラーを含有するプラスチック基材を用いることにより、好ましくは前記基材をイオンビーム処理またはプラズマ処理した後に、
1)酸化物系フィラー、水酸化物系フィラー、炭酸塩系フィラーおよび硫酸塩系フィラーから選ばれた無機フィラーにより、核酸の固定化に有利に働くと考えられる正電荷が基材表面に付与されること、さらに好ましくは、
2)プラスチック基材表面の親水性を上げることで、前記プラスチック基材の前記溶液に対する濡れ性が向上すること、
3)プラスチック基材表面を荒くすることで、表面積を増加させることにより、核酸の固定に適した表面形状の作製が達成されること
の諸条件により、前記核酸を容易に固定することができる。
前記UV照射は、通常約250〜350nmの波長のUVを使用し、約5000〜8000μw/cm2で1〜10分程度照射するが、これに限定されるものではない。
核酸(プローブ)の固定終了後、非特異吸着を低下させる観点から、洗浄またはブロッキング処理を行ってもよい。
このようにして得られた本発明の核酸マイクロアレイは、下記本発明の検出方法に好適に用いられうる。
本発明の核酸マイクロアレイは、特定の塩基配列を有する核酸の検出方法に用いることができる。前記検出方法は、前記マイクロアレイと分析対象の核酸を含む試料とを接触させる工程、および前記接触工程により形成された核酸ハイブリッドを検出する工程を含む。以下、各工程について説明する。
(1)接触工程
(1−1)分析対象の核酸(標的)の前処理
分析対象の核酸(標的)としては、その配列や機能が未知であるDNA断片試料またはRNA断片試料を用いることができる。前記標的核酸は、遺伝子発現を調べる目的では、生体の細胞や組織サンプルから単離することができる。標的核酸がmRNAの場合、逆転写反応によりcDNAとすることが好ましい。前記標的核酸は、遺伝子の変異や多型を調べる目的では、標識プライマーもしくは標識dNTPを含む反応系で標的領域の核酸を増幅させることが好ましいが、これに限定されるものではない。
標的核酸の増幅方法としては、PCR法、LAMP法、Invader法など特に限定されるものではなく、それぞれの方法に適した試薬および装置を用いて増幅することができる。
標的核酸の増幅の際に、核酸の検出を容易ならしめるために、標識することが好ましい。標識方法としては、RI法と非RI法とがあるが、取り扱いの容易さから非RI法を用いることが好ましい。非RI法としては、蛍光標識法、酵素標識法等があげられる。蛍光標識としては、核酸の塩基部分と結合できるものであれば何れも用いることができ、シアニン色素(例えば、Cy DyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、N−アセトキシ−N2−アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)などがあげられるが、これに限定されるものではない。酵素標識としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼなどがあげられるが、これに限定されるものではない。
(1−2)ハイブリダイゼーション
ハイブリダイゼーションは、標的核酸、好ましくは標識した標的核酸が溶解あるいは分散した水性液を、本発明の核酸マイクロアレイ上に点着することによって実施することができる。点着の量は、目視または装置などで検出を容易にする観点から、1〜100μLの範囲にあることが好ましいが、これに限定されるものではない。ハイブリダイゼーションは、標的核酸とアレイに固定化された核酸とがハイブリッドを形成可能な条件下で行えばよい。通常、約25〜70℃の温度範囲で、約10分〜24時間の範囲で実施することが好ましいが、これに限定されるものではない。ハイブリダイゼーション終了後、洗浄液を用いて洗浄を行い、未反応の標的核酸を除去する。洗浄液としては、緩衝液に界面活性剤を含有するものが例示される。
(2)前記接触工程により形成された核酸ハイブリッドを検出する工程
検出方法は、標識に応じて適宜設定することができる。RI標識の場合は、オートラジオグラフィーにより検出することができる。蛍光標識の場合は、それぞれの蛍光標識に適した励起波長の光を照射し、その蛍光強度を測定することにより、検出することができる。酵素標識の場合、各酵素の基質を添加して測定することができる。アルカリホスファターゼを用いた場合、例えば、基質としてp−ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)および5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルりん酸 p−トルイジン塩(BCIP)を添加し、その発色の程度を目視または、CCDカメラおよびデンシトメーターにより測定することができるが、これに限定されるものではない。
アルカリホスファターゼ標識と基質NBT/BCIPとの組み合わせによる検出方法は、測定結果が目視観察できることから、臨床診断に好適に用いられうる。
本発明の核酸マイクロアレイは、遺伝子発現モニタリング、ジェノタイピング、および遺伝子多型のスクリーニング等様々な用途に使用することができる。臨床においては、臨床診断およびテーラーメード医療等への応用が期待される。
実施例1
基板の調製
樹脂としてポリプロピレン(PP)500gと、無機フィラーとして平均粒径約500μmの二酸化チタン粒子50gを用いて、共押出し機によって、無機フィラーを含有するPP基板を作製した。
イオンビーム照射
イオンビーム源として、小型ECRイオンシャワー装置(エリオニクス製、EIS−200ER)を用いた。上記PP基板を基板ホルダに取り付け、チャンバー内を約5.0×10−3〜3.0×10−4Paに排気した後、窒素を2.38sccmでチャンバー内に導入した。そして、プラズマ源内で50Wのマイクロ波を照射することにより窒素イオンを引き出し、600eVの電圧で加速することでPP基板表面に照射した。
DNAプローブ
DNAプローブとしては、配列番号1および2に示されるDNAプローブ(シグマジェノシスジャパン社提供)を用いた。配列番号1のDNAプローブは、第1エクソンと第2エクソンの間のイントロン領域内に存在するエストロゲン受容体対立遺伝子(XbaI多型)のうち、制限酵素XbaIにより切断される配列(X型)を検出することができるものである。一方、配列番号2のDNAプローブは、エストロゲン受容体対立遺伝子(XbaI多型)のうち、制限酵素XbaIにより切断されない配列(x型)を検出することができるものである。これらのDNAプローブに3’末端をターミナルトランスフェラーゼ(New England Biolab社製)を用いて、ポリチミンの付加を行った。具体的には、ターミナルトランスフェラーゼ(20unit/μl)を4μl、デオキシチミジン三リン酸(10pmol/μl)を10μl、配列番号1および2のDNAプローブ(50mM)を4μl、製品添付のNEBuffer4を5μl、および製品添付のカコジル酸緩衝液を5μl含んだ精製水50μlを調製した後、37℃で4時間反応させ、製品添付の20X SSC緩衝液50μlを加えることで、ポリチミン付加された核酸プローブ(平均約400bp長)2pmol/μlをそれぞれ得た。
X型検出用プローブ(配列番号1):tctggagttg ggatga
x型検出用プローブ(配列番号2):gtggtctaga gttggg
DNAプローブの固定
次に、ポリチミン付加された配列番号1または2の核酸プローブを、それぞれ1.0pmol/μlとなるように、製品添付の10X SSC緩衝液で希釈し、前記イオンビーム処理されたPP基板上にそれぞれ0.5μLずつ塗布し、312nmの紫外線を2分間照射して固定化することで、核酸マイクロアレイを製造した。
比較例1
実施例1において、無機フィラーを含有しないこと以外は実施例1と同様にして、DNAマイクロアレイを製造した。
実験例1:DNAマイクロアレイを用いた検査1
検体のゲノムDNAの増幅
xx型の検体のゲノムDNAを、配列番号3に示された塩基配列を有するフォワードプライマーおよび配列番号4に示された塩基配列を有し、かつ5’末端にビオチンを結合させたリバースプライマー、およびTaq DNAポリメラーゼ(ロシュ・ダイアグノスティクス社製)を用いたPCR法によりXbaI多型を含む塩基配列の増幅を行った。増幅反応は、変性過程を94℃、30秒、アニール過程を55℃、20秒、鎖伸長過程を72℃、20秒の1サイクルを30サイクル行った。
フォワードプライマー(配列番号3):gttccaaatg tcccagccgt
リバースプライマー(配列番号4):cctgcaccag aatatgttac c
核酸の検出
増幅したDNA溶液20μLに、水酸化ナトリウム(5M)、エチレンジアミン四酢酸(0.05M)の溶液(20μL)を加えてよく攪拌し、5分間放置して、増幅したDNAを1本鎖に変性させた。変性DNAを含む溶液に、ドデシル硫酸ナトリウム(0.01w/v%)、塩化ナトリウム(1.8w/v%)およびクエン酸ナトリウム(1.0w/v%)を含む溶液(1mL)を加え、実施例1または比較例1のマイクロアレイ1枚を浸潤させ、反応温度45℃で30分間振とうしてハイブリダイゼーションを行った。その後、アルカリホスファターゼ標識ストレプトアビジンを加え、さらにp−ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)および5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルりん酸 p−トルイジン塩(BCIP)を加えて、各プローブと結合した試料に結合したアルカリホスファターゼによる発色反応を行った。つまり、核酸の検出が正確な場合は、配列番号1の配列を含むDNAプローブは発色せず、配列番号2の配列を含むDNAプローブは発色することになる。
発色した結果を図1に示す。実施例1の二酸化チタンを含有するPP基板から作製されたDNAマイクロアレイは目視で容易に判定できるのに対し、比較例1の二酸化チタンを含有しないPP基板から作製されたDNAマイクロアレイはほとんど発色しなかった。このことにより、プラスチック基板に無機フィラーを含有させることが核酸を効率的にプラスチック基板に固定できることが示された。
実施例2
実施例1において、ポリプロピレン基板の代わりにポリエチレンテレフタレート(PET)基板を用いたこと以外は実施例1と同様にして、DNAマイクロアレイを製造した。
比較例2
実施例2において、無機フィラーを含有しないこと以外は実施例2と同様にして、DNAマイクロアレイを製造した。
実験例2:DNAマイクロアレイを用いた検査2
実施例1および比較例1のPP基板から製造されたDNAマイクロアレイの代わりに、実施例2および比較例2のPET基板から製造されたDNAマイクロアレイを用いたこと以外は実験例1と同様にして、核酸の検出を行った。
発色した結果を図2に示す。実施例2の無機フィラーを含有するPET基板から作製されたDNAマイクロアレイは目視で容易に判定できるのに対し、比較例2の無機フィラーを含有しないPET基板から作製されたDNAマイクロアレイはほとんど発色しなかった。
実施例3
実施例1において、PP基板の代わりにポリカーボネート(PC)基板を用いたこと以外は実施例1と同様にして、DNAマイクロアレイを製造した。その発色の様子を図3に示す。
実施例4
表面粗さ測定およびX線光電子分光分析(XPS)用の試料を作製した。具体的には、実施例3において、核酸を固定せずに基板そのものを用いた。
実験例3:DNAマイクロアレイ用基板の表面粗さの測定
実施例4で用いたポリカーボネート基板表面のイオンビーム照射前後における表面粗さRaを、レーザ顕微鏡(キーエンス社製)を用いて測定した。具体的には、観察視野内の表面粗さの平均を製品添付の解析ソフトを用いて測定した。
その結果、イオンビーム照射前では約0.03μmであったが、照射後では約0.15μmとなり、表面粗さRaが増加したことが確認された。
実施例5
X線光電子分光分析(XPS)用の試料を作製した。具体的には、実施例4において、イオンビーム照射の回数を2回としたこと以外は、実施例4と同様にして、核酸マイクロアレイ用基板を製造した。なお、本実施例ではX線光電子分光分析(XPS)用の試料の作製を目的としているため、核酸の固定は行っていない。また、イオン照射のインターバルは30秒とした。
実施例6
実施例5において、イオンビーム照射の回数を3回としたこと以外は、実施例5と同様にして、核酸マイクロアレイ用基板を製造した。
実施例7
実施例5において、イオンビーム照射の回数を4回としたこと以外は、実施例5と同様にして、核酸マイクロアレイ用基板を製造した。
比較例4
実施例4において、基板に無機フィラーを含有しないこと以外は、実施例4と同様にして、核酸マイクロアレイ用基板を製造した。
実験例4:DNAマイクロアレイ用基板の表面分析
実施例4〜7および比較例4のポリカーボネート基板表面における元素組成比を、X線光電子分光分析装置(XPS、アルバックファイ社製)を用いて測定した。具体的には、X線源としてAl Kα線を用い、約25℃、減圧下(約10−5Pa以下)で帯電中和銃を用いながら測定した(分析面積:直径800μm)。
その結果を表1に示す。表面から深さ5nmの領域にチタンが確認されたことから、ポリカーボネート基板の少なくとも表面部分に二酸化チタンが含有されていることが確認された。また、イオンビーム照射の回数が増加することにより、チタンの組成比が増加することが確認された。このことが、イオンビーム照射回数を多くすることにより核酸がより固定化される原因であると考えられる。
本出願は、日本で出願された特願2005−105392(出願日:2005年3月31日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
[配列表]
Claims (14)
- プラスチック基材に、UV照射によりポリチミン付加された核酸を固定化した核酸マイクロアレイであって、当該基材の少なくとも表面部分に、酸化物系フィラー、水酸化物系フィラー、炭酸塩系フィラーおよび硫酸塩系フィラーからなる群より選ばれた無機フィラーを含有する核酸マイクロアレイ。
- 前記無機フィラーが二酸化チタンである請求項1記載の核酸マイクロアレイ。
- 前記プラスチックがポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートまたはポリエチレンテレフタレートである請求項1または2に記載の核酸マイクロアレイ。
- プラズマ処理またはイオンビーム処理されたプラスチック基材に、UV照射によりポリチミン付加された核酸を固定化した核酸マイクロアレイであって、当該基材の少なくとも表面部分に、酸化物系フィラー、水酸化物系フィラー、炭酸塩系フィラーおよび硫酸塩系フィラーからなる群より選ばれた無機フィラーを含有する核酸マイクロアレイ。
- 前記無機フィラーが二酸化チタンである請求項4記載の核酸マイクロアレイ。
- 前記プラスチックがポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートまたはポリエチレンテレフタレートである請求項4または5に記載の核酸マイクロアレイ。
- 前記基材の表面粗さRa(JIS B 0601−1994)が0.06〜0.5μmである請求項4〜6いずれかに記載の核酸マイクロアレイ。
- 少なくとも表面部分に無機フィラーを含有するプラスチック基材を、プラズマ処理またはイオンビーム処理する工程、および
前記処理後のプラスチック基材の表面に、UV照射によりポリチミン付加された核酸を固定する工程
を含む核酸マイクロアレイの製造方法。 - 前記プラズマ処理工程が不活性ガス雰囲気下で行われるものであり、前記イオンビーム処理工程がイオン化ガスとして不活性ガスを用いて行われるものである請求項8記載の製造方法。
- 前記不活性ガスが窒素ガスである請求項9記載の製造方法。
- 前記核酸が50塩基以上の長さを有するものである請求項8〜10いずれかに記載の製造方法。
- 請求項1〜7いずれかに記載の核酸マイクロアレイまたは請求項8〜11いずれかに記載の製造方法により得られる核酸マイクロアレイと分析対象の核酸を含む試料とを接触させる工程、および
前記接触工程により形成された核酸ハイブリッドを検出する工程
を含む、特定の塩基配列を有する核酸の検出方法。 - 前記核酸ハイブリッドが標識されている請求項12に記載の検出方法。
- 前記標識がアルカリホスファターゼである請求項13に記載の検出方法。
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