JP4691383B2 - 核酸マイクロアレイおよびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、核酸マイクロアレイおよびその製造方法に関する。詳しくは、プラスチック基材に固定化された核酸マイクロアレイおよびその製造方法に関する。
ゲノム解析プロジェクトの進展により、種々の生物ゲノムの全塩基配列が解読され、これらの塩基配列情報をもとにして、遺伝子の発現パターンや遺伝子産物の機能を全ゲノムレベルで調べるための新たなプロジェクトが進められている。DNAチップは、これらの機能解析プロジェクトを飛躍的に進展させるための手段として開発され、ヒト、マウス、酵母等の全遺伝子のジェノタイピングや遺伝子の発現解析にDNAチップ技術が用いられている。
現在用いられているDNAチップ(あるいはDNAマイクロアレイ)を作製する方法は、大別してAffymetrix社方式とスタンフォード方式とがある。前者の方法によるDNAチップは、フォトリソグラフィーと光照射化学合成を組み合わせてガラス基板上で20〜25マー程度のオリゴヌクレオチドを高密度に合成することにより作製される(特許文献1〜3を参照)。後者の方法によるDNAチップは、典型的には、あらかじめ調製されたDNA断片をスライドガラス上に高密度にスポットすることにより作製される(特許文献4、5を参照)。
一方、ガラス基板の代わりに、種々のプラスチック樹脂を用いたバイオチップも検討されている(特許文献6を参照)が、未処理の樹脂はDNAとの結合性が低く、樹脂の基材の表面を修飾する方法がなされる。例えば、特許文献6には、基材の表面修飾方法として、アルデヒド基を導入する方法が開示されており、アルデヒド基との反応性を高めるためにはDNAにアミノ基を導入する必要があることが記載されている。
米国特許第5445934号明細書 米国特許第5744305号明細書 米国特許第5700637号明細書 米国特許第5807522号明細書 国際公開公報98/18961号パンフレット 特開2005−10004号公報
しかしながら、上記のDNAチップは、ガラス基板のチップでは作製が大掛かりでコストが高い。樹脂製のチップはコストの面で有利であるが、DNAの基材への固定がガラス基板のチップよりも劣り、固定の強固さと解析力の向上が未解決であった。
今後、医療現場においては、費用が安価で、いわゆるベッドサイドでも検出・解析が可能なテーラーメイド医療に適するDNAチップ(マイクロアレイ)が求められている。本発明は、かかるDNAマイクロアレイおよびその製造方法などを提供することを目的とする。
本発明者らは、疎水性のプラスチック表面に親水性のDNAを固定させるべく鋭意検討した結果、特定の表面処理と固定方法を組み合わせることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は下記の通りである。
(1) イオン化ガスとして不活性ガスを用いてイオンビーム処理された、または不活性ガス雰囲気下でプラズマ処理されたプラスチック基材上に核酸をUV照射により固定化してなる核酸マイクロアレイ。
(2) 前記プラスチックがポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリエチレンおよびポリメチルペンテンからなる群より選ばれたものである前記(1)に記載の核酸マイクロアレイ。
(3) 前記プラスチック基材の表面粗さRa(JIS B 0601−1994)が0.06〜0.5μmである前記(1)または(2)に記載の核酸マイクロアレイ。
(4) 前記核酸が50塩基以上の長さを有するものである前記(1)〜(3)いずれかに記載の核酸マイクロアレイ。
(5) 前記不活性ガスが窒素ガスである前記(1)〜(4)いずれかに記載の核酸マイクロアレイ。
(6) プラスチック基材を、イオン化ガスとして不活性ガスを用いてイオンビーム処理または不活性ガス雰囲気下でプラズマ処理する工程、および
処理後のプラスチック基材上に核酸をUV照射により固定する工程
を含む核酸マイクロアレイの製造方法。
(7) 前記プラスチックがポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリエチレンおよびポリメチルペンテンからなる群より選ばれたものである前記(6)に記載の製造方法。
(8) 前記不活性ガスが窒素ガスである前記(6)または(7)に記載の製造方法。
(9) 前記処理工程後のプラスチック基材と水との接触角θが60°以下である前記(6)〜(8)いずれかに記載の製造方法。
(10) 前記核酸が50塩基以上の長さを有するものである前記(6)〜(9)いずれかに記載の製造方法。
(11) 前記(1)〜(5)いずれかに記載の核酸マイクロアレイまたは前記(6)〜(10)いずれかに記載の製造方法により得られる核酸マイクロアレイと分析対象の核酸を含む試料とを接触させる工程、および
前記接触工程により形成された核酸ハイブリッドを検出する工程
を含む、特定の塩基配列を有する核酸の検出方法。
(12) 前記核酸ハイブリッドが標識されている前記(11)に記載の検出方法。
(13) 前記標識がアルカリホスファターゼである前記(12)に記載の検出方法。
本発明の核酸マイクロアレイによると、取り扱いの容易なプラスチック基材上に強固かつハイブリダイズに適するように核酸が固定化されているため、DNAの発現解析やジェノタイピング等の検査が低費用で高感度に行うことができる。本発明のマイクロアレイの製造方法によると、前記核酸マイクロアレイを安価で効率良く製造することができる。本発明の核酸の検出方法によると、本発明の核酸マイクロアレイを用いることにより、従来に比べて、DNAの発現解析やジェノタイピング等の検査を低費用で高感度に行うことができる。また、本発明の核酸の検出方法によると、特定の標識を核酸ハイブリッドに導入することにより、大掛かりな検出装置を使用せずにいわゆるベッドサイドで核酸の検出および判定が可能となる。
本発明は、イオン化ガスとして不活性ガスを用いてイオンビーム処理された、または不活性ガス雰囲気下でプラズマ処理されたプラスチック基材上に核酸をUV照射により固定化してなる核酸マイクロアレイを提供する。
本発明において、核酸マイクロアレイとは、プラスチック基材上に核酸(プローブともいう)が搭載されているものをいう。
本発明における核酸(プローブともいう)とは、DNA、RNA、PNAまたはそれらの誘導体をいう。前記核酸(プローブ)は、天然由来であっても人工的に合成されたものであっても、一本鎖であっても二本鎖であってもよい。また、前記DNAは、天然もしくは合成DNA、mRNAから逆転写されたcDNA等、特に限定されるものではない。前記RNAは、mRNA、cRNAまたはrRNA等、特に限定されるものではない。前記PNAは、ペプチド骨格に核酸塩基をもつ分子をいう。前記誘導体とは、前記DNA、RNA、PNAを本発明の目的の範囲内で適宜修飾したものをいう。
上記DNA、RNAおよびPNAの中では、製造コスト、種々の酵素が使用できる点および用途範囲が広い面で、一本鎖のDNAが好ましいが、これに限定されるものではない。前記用途範囲とは、例えば、患者個人の薬剤感受性の予測、病原菌のもしくは耐性の判定ならびに個人の体質の判定などがあげられ、一般的にはテーラーメード医療と呼ばれる分野での用途を指すが、これに限定されるものではない。
ここで、本発明の核酸マイクロアレイは、核酸(プローブ)が一本鎖のDNAである場合、一般にDNAチップとも呼ばれる。
本発明の核酸マイクロアレイの基材に使用されるプラスチックとは、水との接触角θが約65°以上の疎水性プラスチックをいう。具体的には、汎用の疎水性プラスチックが限定なく使用可能であり、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリエチレンおよびポリメチルペンテンなどが好適な例としてあげられる。安価で取り扱いの容易さから、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネートおよびポリプロピレンがより好ましいが、これに限定されるものではない。
前記プラスチック基材の形状としては、例えば、基板、容器、フィルムおよびチューブなどがあげられる。中でも取り扱いの容易性などを考慮すれば、基板が好ましいが、これに限定されるものではない。
前記基材の大きさは、マイクロアレイの使用目的に応じて適宜決定することができ、特に限定されるものではない。例えば、基板の場合、ベッドサイドでの取り扱いの容易性の観点から、約1〜10000mm、好ましくは約10〜1000mmである。
本発明において、前記基材は、イオン化ガスとして不活性ガスを用いてイオンビーム処理されるか、または不活性ガス雰囲気下でプラズマ処理される。前記不活性ガスは、固定する核酸がDNAまたはRNAの場合、後記本発明の製造方法に記載されるように、窒素ガスが好ましい。イオンビーム処理およびプラズマ処理の方法は、後記本発明の製造方法において説明する。
本発明のマイクロアレイにおけるプラスチック基材の表面粗さRa(JIS B 0601−1994)は、核酸の固定をより強固にするという観点から、0.06〜0.5μmが好ましく、0.08〜0.45μmがより好ましい。前記表面粗さRaは、レーザ顕微鏡により測定した値である。表面粗さを前記所定の範囲内に調整するためには、後述するイオンビーム処理またはプラズマ処理の条件を適宜調整すればよい。
また、前記プラスチックは、自体公知の方法により製造することができる。例えば、ラジカル重合、カチオン重合およびアニオン重合などがあげられ、製造コストの観点からラジカル重合が好ましい。また、数平均分子量は、成形の容易性の観点から、約1,000〜1,000,000、好ましくは約2,000〜500,000、さらに好ましくは約5,000〜300,000であるが、これに限定されるものではない。また、前記プラスチック基材の成形方法は、自体公知の方法により行うことができる。例えば、基板の場合、押出成形または圧縮成形等があげられ、成形容易性の観点から押出成形が好ましい。
本発明の核酸マイクロアレイに搭載される核酸(プローブ)の種類は、用途目的に応じて適宜設定することができる。例えば、患者個人の薬剤感受性の予測に用いる場合は、一般に一塩基多型(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)を検出することから、検出すべき各多型部位における多型の数の総和である。さらに詳しく説明すると、特開2000−350600号公報で開示されている骨粗鬆症治療薬剤の感受性を予測する場合には、VDR遺伝子のイントロン8上のBsmI制限酵素断片長多型と、ApoE遺伝子のHhaI制限酵素断片長多型およびER遺伝子のイントロン1上のXbaI制限酵素断片長多型を検出する。前記VDR遺伝子のイントロン8上のBsmI制限酵素断片長多型は2種類、前記ApoE遺伝子のHhaI制限酵素断片長多型は3種類、前記ER遺伝子のイントロン1上のXbaI制限酵素断片長多型は2種類であるため、その総和は7となる。したがって、核酸マイクロアレイに搭載される核酸(プローブ)の種類は、7種類と設定することができる。さらに、対照として任意の塩基配列を有する核酸も搭載してもよい。以上に具体例を示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明における核酸(プローブ)の長さは、UV照射によりプラスチック基材への固定が容易である上で、測定対象の核酸とハイブリダイズすることができるものであれば、少なくとも50塩基であればよい。中でも、非特異吸着の頻度の観点から、50〜500塩基、好ましくは約200〜400塩基である。
固定化される核酸は、天然由来の核酸の場合、公知の方法により単離、精製し、必要に応じて酵素等で所定の長さに切断することにより調製したものを用いることができる。合成核酸の場合、核酸の種類に応じて公知の合成方法により調製したものを用いることができる。DNAの場合、逆転写反応やポリメラーゼ連鎖反応等により調製したものを好適に使用することができる。
しかしながら、検出に必要な塩基配列の長さは、約10〜30塩基程度であることが一般的である。このような場合、上記のようにして調製した核酸配列の末端に、検出に影響しないような配列を付加することにより、上記の50塩基以上の長さを達成することができる。例えば、ポリdT、ポリdA、ポリdCおよびポリdGからなる群より選ばれるオリゴマーを付加することがあげられ、吸着強度および非特異吸着の頻度の観点から、ポリdTオリゴマーを付加することが好ましい。前記ポリdTオリゴマーの付加は、ターミナルトランスフェラーゼなどにより付加することが可能であるが、これに限定されるものではない。
本発明の核酸マイクロアレイは、前記プラスチック基材上に前記核酸をUV照射により固定化してなるものであり、固定化方法は、後記本発明の製造方法において説明する。
本発明の核酸マイクロアレイの製造方法は、プラスチック基材を、イオン化ガスとして不活性ガスを用いてイオンビーム処理または不活性ガス雰囲気下でプラズマ処理する工程、および
処理後のプラスチック基材上に核酸をUV照射により固定する工程
を含むことを特徴とする。
前記イオンビーム処理とは、不活性ガスをイオン化し、電圧をかけて高速加速して得られるイオンビームをプラスチック基材表面に照射し、衝突させることによって発生したエネルギーにより、イオン注入、膜形成、エッチングおよび濡れ性の向上の効果を付与する表面処理方法をいう。
前記イオンビーム処理における不活性ガスとしては、イオンビーム処理後の核酸固定の効率を高める観点から窒素ガスおよびアルゴンガスが好ましい。リン酸骨格を有する(ポリアニオンである)DNAまたはRNAを用いる場合は、前記プラスチック基材表面の濡れ性の向上および当該表面のイオンチャージによって、より強固に固定することができる点で、窒素ガスがより好ましい。
イオンビーム処理の方法は、特に限定されるものではないが、例えば、減圧下で、磁場中の電子のサイクロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance:ECR) を利用したECRイオン銃を搭載した装置から得られたイオンビームを、約300〜700Vの加速エネルギーで、約1×1020ion/cmのドーズ量で照射する方法があげられる。使用する装置としては、例えば、エリオニクス製の小型ECRイオンシャーワ装置(EIS−200ER)等があげられるが、これに限定されるものではない。かかる処理の回数は、所望の濡れ性および表面粗さを得る限りにおいては特に限定されないが、濡れ性の劣化を抑制できる観点から、1回あたり0.25〜2.0×1020ion/cmのドーズ量を、少なくとも5回以上、好ましくは10回以上照射することが好ましいが、これに限定されるものではない。
前記プラズマ処理とは、不活性ガス雰囲気下で放電することにより、前記不活性ガスの電離作用によって生じるプラズマを固体表面に照射し、この表面をエッチング、濡れ性の向上および官能基の導入などの効果を付与する処理をいう。上記放電としては、コロナ放電(高圧低温プラズマ)、アーク放電(高圧高温プラズマ)およびグロー放電(低圧低温プラズマ)などが挙げられ、中でも表面処理の反応性の観点から、コロナ放電が好ましいが、これに限定されるものではない。
前記プラズマ処理における不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、酸素ガス、ヘリウムガス、ネオンガスおよびキセノンガス等があげられるが、プラズマ処理後の核酸固定の効率を高める観点から窒素ガスおよびアルゴンガスが好ましい。リン酸骨格を有する(ポリアニオンである)DNAまたはRNAを用いる場合は、前記プラスチック基材の表面にアミン基および/またはアミノ基を発生させ、当該表面の濡れ性の向上および当該表面のイオンチャージによって、より強固に固定することができる点で、窒素ガスがより好ましい。
前記プラズマ処理の方法は、特に限定されるものではないが、例えば、コロナ放電を用いる場合、前記基材を密閉容器に入れ、約25〜50℃の窒素ガス雰囲気(約10〜20Pa)下で、出力約100〜500Wで放電し、約100〜1000秒処理する方法などがあげられる。使用する装置としては、例えば、ヤマト科学社製の小型高性能プラズマ表面処理装置(PDC200シリーズ)などが挙げられるが、これに限定されるものではない。かかる処理の回数は、所望の濡れ性および表面粗さを得る限りにおいては特に限定されないが、通常1〜10回程度である。
前記イオンビーム処理またはプラズマ処理することにより、プラスチック基材の表面の濡れ性が上昇する。前記濡れ性は、プラスチック基材と水との接触角θを測定することにより決定することができる。処理後の水の接触角θは、核酸の固定強度の観点から、60°以下、好ましくは40°以下、特に好ましくは20°以下である。なお、処理前の基材の表面の水の接触角θは、例えば、ポリメチルメタクリレートでは、約80°、ポリカーボネートでは約76°程度である。接触角θは、0.25μLの蒸留水を滴下し、光学顕微鏡で測定した値である。
処理工程終了後、核酸を基材の表面に固定させる。核酸の固定は、前記核酸の溶液を調製し、前記イオンビーム処理またはプラズマ処理後のプラスチック基材に、当該溶液をスポッティングし、UV照射することにより行う。前記溶液は、リン酸緩衝液などの水系の溶媒を用いることが一般的である。また、スポッティング方法は特に限定されるものではないが、例えば、ディスペンサー(武蔵エンジニアリング社製のSMP−3など)を用いて行う方法があげられる。本発明においては、イオンビーム処理またはプラズマ処理により、
1)プラスチック基材表面を荒くすることで、表面積を増加させることにより、核酸の固定に適した表面形状の作製が達成されること、および
2)プラスチック基材表面の親水性を上げることで、前記プラスチック基材の前記溶液に対する濡れ性が向上すること
の両条件により、前記核酸を容易に固定することができる。すなわち、UV照射によりプラスチック基材への核酸の固定を行う場合、核酸固定時の表面の形状および表面の親水度が重要なファクターとなり、片方の条件のみ達成したのでは核酸の強固な固定は達成されない。プラズマ処理またはイオンビーム処理は、この2条件を達成するのに適した方法である。
前記UV照射は、通常約250〜350nmの波長のUVを使用し、約5000〜8000μw/cmで1〜10分程度照射するが、これに限定されるものではない。
核酸(プローブ)の固定終了後、非特異吸着を低下させる観点から、洗浄またはブロッキング処理を行ってもよい。
このようにして得られた本発明の核酸マイクロアレイは、下記本発明の検出方法に好適に用いられうる。
本発明の特定の塩基配列を有する核酸の検出方法は、
前記核酸マイクロアレイまたは前記製造方法により得られる核酸マイクロアレイと分析対象の核酸を含む試料とを接触させる工程、および
前記接触工程により形成された核酸ハイブリッドを検出する工程
を含むことを特徴とする。
(1)接触工程
(1−1)分析対象の核酸(標的)の前処理
分析対象の核酸(標的)としては、その配列や機能が未知であるDNA断片試料またはRNA断片試料を用いることができる。前記標的核酸は、遺伝子発現を調べる目的では、生体の細胞や組織サンプルから単離することができる。標的核酸がmRNAの場合、逆転写反応によりcDNAとすることが好ましい。前記標的核酸は、遺伝子の変異や多型を調べる目的では、標識プライマーもしくは標識dNTPを含む反応系で標的領域の核酸を増幅させることが好ましいが、これに限定されるものではない。
標的核酸の増幅方法としては、PCR法、LAMP法、Invader法など特に限定されるものではなく、それぞれの方法に適した試薬および装置を用いて増幅することができる。
標的核酸の増幅の際に、核酸の検出を容易ならしめるために、標識することが好ましい。標識方法としては、RI法と非RI法とがあるが、取り扱いの容易さから非RI法を用いることが好ましい。非RI法としては、蛍光標識法、酵素標識法等があげられる。蛍光標識としては、核酸の塩基部分と結合できるものであれば何れも用いることができ、シアニン色素(例えば、Cy DyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、N−アセトキシ−N2 −アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)などがあげられるが、これに限定されるものではない。酵素標識としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼなどがあげられるが、これに限定されるものではない。
(1−2)ハイブリダイゼーション
ハイブリダイゼーションは、標的核酸、好ましくは標識した標的核酸が溶解あるいは分散した水性液を、本発明の核酸マイクロアレイ上に点着することによって実施することができる。点着の量は、目視または装置などで検出を容易にする観点から、1〜100μLの範囲にあることが好ましいが、これに限定されるものではない。ハイブリダイゼーションは、標的核酸とアレイに固定化された核酸とがハイブリッドを形成可能な条件下で行えばよいが、通常、約25〜70℃の温度範囲で、約10分〜24時間の範囲で実施することが好ましいが、これに限定されるものではない。ハイブリダイゼーション終了後、洗浄液を用いて洗浄を行い、未反応の標的核酸を除去する。洗浄液としては、緩衝液に界面活性剤を含有するものが例示される。
(2)前記接触工程により形成された核酸ハイブリッドを検出する工程
検出方法は、標識に応じて適宜設定することができる。RI標識の場合は、オートラジオグラフィーにより検出することができる。蛍光標識の場合は、それぞれの蛍光標識に適した励起波長の光を照射し、その蛍光強度を測定することにより、検出することができる。酵素標識の場合、各酵素の基質を添加して測定することができる。アルカリホスファターゼを用いた場合、例えば、基質としてp−ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)および5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルりん酸 p−トルイジン塩(BCIP)を添加し、その発色の程度を目視または、CCDカメラおよびデンシトメーターにより測定することができるが、これに限定されるものではない。
アルカリホスファターゼ標識と基質NBT/BCIPとの組み合わせによる検出方法は、測定結果が目視観察できることから、臨床診断に好適に用いられうる。
本発明の核酸マイクロアレイは、遺伝子発現モニタリング、ジェノタイピング、および遺伝子多型のスクリーニング等様々な用途に使用することができる。臨床においては、臨床診断およびテーラーメード医療等への応用が期待される。
以下実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、実施例は本発明の説明のために記載するものであり、本発明を何ら限定するものではない。
実施例1:イオンビームによるDNAマイクロアレイ(ポリカーボネート基板)の製造
イオンビーム照射
プラスチック基材として押出成形されたポリカーボネート(PC)基板を用いた。
イオンビーム源として、小型ECRイオンシャワー装置(エリオニクス製、EIS−200ER)を用いた。PC基板を基板ホルダに取り付け、チャンバー内を約5.0×10−3〜3.0×10−4Paに排気した後、窒素を2.38sccmでチャンバー内に導入した。そして、プラズマ源内で50Wのマイクロ波を照射することにより窒素イオンを引き出し、600eVの電圧で加速することでPC基板表面に照射した。
DNAプローブ
DNAプローブとしては、配列番号1および2に示されるDNAプローブ(シグマジェノシスジャパン社提供)を用いた。配列番号1のDNAプローブは、第1エクソンと第2エクソンの間のイントロン領域内に存在するエストロゲン受容体対立遺伝子(XbaI多型)のうち、制限酵素XbaIにより切断される配列(X型)を検出することができるものである。一方、配列番号2のDNAプローブは、エストロゲン受容体対立遺伝子(XbaI多型)のうち、制限酵素XbaIにより切断されない配列(x型)を検出することができるものである。これらのDNAプローブに3’末端をターミナルトランスフェラーゼ(New England Biolab社製)を用いて、ポリチミンの付加を行った。具体的には、ターミナルトランスフェラーゼ(20unit/μl)を4μl、デオキシチミジン三リン酸(10pmol/μl)を10μl、配列番号1および2のDNAプローブ(50mM)を4μl、製品添付のNEBuffer4を5μl、および製品添付のカコジル酸緩衝液を5μl含んだ精製水50μlを調製した後、37℃で4時間反応させ、製品添付の20X SSC緩衝液50μlを加えることで、ポリチミン付加された核酸プローブ(平均約400bp長)2pmol/μlをそれぞれ得た。
X型検出用プローブ(配列番号1):tctggagttg ggatga
x型検出用プローブ(配列番号2):gtggtctaga gttggg
DNAプローブの固定
次に、ポリチミン付加された配列番号1または2の核酸プローブを、それぞれ1.0pmol/μlとなるように、製品添付の10X SSC緩衝液で希釈し、前記イオンビーム処理されたPC基板上にそれぞれ0.5μLずつ塗布し、312nmの紫外線を2分間照射して固定化することで、核酸マイクロアレイを製造した。
比較例1:未処理のPC基板を用いたDNAマイクロアレイの製造
実施例1において、イオンビーム照射しないこと以外は実施例1と同様にして、DNAマイクロアレイを製造した。
実験例1:DNAマイクロアレイを用いた検査1
検体のゲノムDNAの増幅
xx型の検体のゲノムDNAを、配列番号3に示された塩基配列を有するフォワードプライマーおよび配列番号4に示された塩基配列を有し、かつ5’末端にビオチンを結合させたリバースプライマー、およびTaq DNAポリメラーゼ(ロシュ・ダイアグノスティクス社製)を用いたPCR法によりXbaI多型を含む塩基配列の増幅を行った。増幅反応は、変性過程を94℃、30秒、アニール過程を55℃、20秒、鎖伸長過程を72℃、20秒の1サイクルを30サイクル行った。
フォワードプライマー(配列番号3):gttccaaatg tcccagccgt
リバースプライマー(配列番号4):cctgcaccag aatatgttac c
核酸の検出
増幅したDNA溶液20μLに、水酸化ナトリウム(5M)、エチレンジアミン四酢酸(0.05M)の溶液(20μL)を加えてよく攪拌し、5分間放置して、増幅したDNAを1本鎖に変性させた。変性DNAを含む溶液に、ドデシル硫酸ナトリウム(0.01w/v%)、塩化ナトリウム(1.8w/v%)およびクエン酸ナトリウム(1.0w/v%)を含む溶液(1mL)を加え、実施例1または比較例1のマイクロアレイ1枚を浸潤させ、反応温度45℃で30分間振とうしてハイブリダイゼーションを行った。その後、アルカリホスファターゼ標識ストレプトアビジンを加え、さらにp−ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)および5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルりん酸 p−トルイジン塩(BCIP)を加えて、各プローブと結合した試料に結合したアルカリホスファターゼによる発色反応を行った。つまり、核酸の検出が正確な場合は、配列番号1の配列を含むDNAプローブは発色せず、配列番号2の配列を含むDNAプローブは発色することになる。
発色した結果を図1に示す。実施例1のPC基板から作製された核酸マイクロアレイは目視で容易に判定できるのに対し、比較例1のPC基板から作製された核酸マイクロアレイはほとんど発色しなかった。このことにより、イオンビーム照射が核酸のプラスチック基板への固定に有効であることが示された。
実施例2:イオンビームによるDNAマイクロアレイ(PMMA基板)の製造1
実施例1において、基板としてポリカーボネートの代わりにPMMAを用い、プローブとして、配列番号2の塩基配列にポリチミンを付加した核酸のみを固定したこと以外は、実施例1と同様にして、DNAマイクロアレイを製造した。
実施例3:イオンビームによるDNAマイクロアレイ(PMMA基板)の製造2
実施例2において、不活性ガスとして、窒素ガスの代わりにアルゴンを用いたこと以外は実施例2と同様にして、DNAマイクロアレイを製造した。
比較例2:未処理のPMMA基板を用いたDNAマイクロアレイの製造
実施例1において、イオンビーム照射しないこと以外は実施例2と同様にして、DNAマイクロアレイを製造した。
実験例2:DNAマイクロアレイを用いた検査2
実施例1および比較例1のPC基板製のマイクロアレイの代わりに、実施例2、3および比較例2のPMMA基板製のマイクロアレイを用いたこと以外は実験例1と同様にして、xx型の変異を含む核酸の検出を行った。
発色した結果を図2に示す。実施例2および3のDNAマイクロアレイは目視で容易に判定できるのに対し、比較例2のDNAマイクロアレイはほとんど発色しなかった。また、実施例2のマイクロアレイの方が、実施例3のマイクロアレイよりも発色の度合いが良好であった。
実験例3:イオンビーム処理後のPMMA基板の接触角測定
実施例2、3のDNAマイクロアレイ製造時において、核酸固定直前のPMMA基板と水との接触角θ(°)を測定した。具体的には,実施例2および3におけるイオンビーム照射直後のPMMA基板表面に0.25μLの蒸留水を滴下し、光学顕微鏡で測定した。
図3にPMMA基板に各種イオンビームを照射したときのイオンドーズ量(単位面積当りのイオン数)に伴う水とPMMA基板との接触角の変化を示す。図3に示すように、アルゴンおよび窒素イオンをそれぞれ照射した結果、ドーズ量が増加するに従ってPMMAと水との接触角が初期約80°であったものが、いずれの場合も20°以下に減少した。定量的には、接触角がそれぞれ実施例2では90%、実施例3では84%減少した。以上のことから、イオンビーム照射により、核酸固定時におけるプラスチック基材と水との接触角が60°以下であることがわかった。
実施例4:プラズマ処理法によるDNAマイクロアレイの製造
実施例1において、イオンビーム処理の代わりにプラズマ処理を施したこと以外は実施例1と同様にして、DNAマイクロアレイを製造した。プラズマ処理は、小型高性能プラズマ表面処理装置(ヤマト科学社製、PDC200シリーズ)を用いた。PC基板を窒素雰囲気下のチャンバー内に配置し、約25℃、高圧(約20Pa)下、出力500Wで約600秒処理した。
比較例3:未処理のPC基板を用いたDNAマイクロアレイの製造
実施例4において、プラズマ処理しないこと以外は実施例4と同様にして、DNAマイクロアレイを製造した。
実験例3:DNAマイクロアレイを用いた検査3
実験例1において、実施例1および比較例1のマイクロアレイの代わりに、実施例4および比較例3のマイクロアレイを用いたこと以外は実験例1と同様にして、xx型の変異を含む核酸の検出を行った。
発色した結果を図4に示す。実施例4のマイクロアレイは目視で容易に判定できるのに対し、比較例3のマイクロアレイはほとんど発色しなかった。このことにより、プラズマ処理が核酸のプラスチック基板への固定に有効であることが示された。
実験例4:DNAマイクロアレイ用基板の表面粗さの測定
実施例1〜4および比較例1〜3で用いたプラスチック基板の表面粗さRaを、レーザ顕微鏡(キーエンス社製)を用いて測定した。具体的には、観察視野内の表面粗さの平均を製品添付の解析ソフトを用いて測定した。その結果を表1に示す。
実験例5:DNAマイクロアレイ用基板の表面分析
実施例2、3および比較例2のPMMA基板の表面における元素組成比を、X線光電子分光分析装置(XPS、アルバックファイ社製)を用いて測定した。具体的には、X線源としてAl Kα線を用い、約25℃、減圧下(約10−5Pa以下)で帯電中和銃を用いながら測定した(分析面積:直径800μm)。
その結果を表2に示す。実施例3のアルゴンイオンビーム照射後および比較例2の未処理の基板表面よりも、実施例2の窒素イオンビーム照射後の基板表面の方が窒素の元素組成比が増加していることから、PMMA基板表面にアミン基および/またはアミノ基が発生していることが推測される。
図1は、ポリカーボネート基板のイオンビーム処理後のDNAの固定の程度を示す図である。図中、実施例1は窒素雰囲気下でイオンビーム処理したポリカーボネート、比較例1はイオンビーム未照射のポリカーボネートを示す。 図2は、PMMA基板のイオンビーム照射時の異なるイオンビーム種におけるDNAの固定の程度を示す図である。図中、実施例2は窒素、実施例3はアルゴン、比較例2は未処理を示す。 図3は、イオンビーム照射量と、照射後のポリカーボネート基板の水との接触角との関係を示すグラフである。 図4は、プラズマ処理後のDNAの固定の程度を示す図である。実施例4はプラズマ処理、比較例3は未処理を示す。

Claims (14)

  1. 活性ガスをイオン化し、高速加速して得られたイオンビームをプラスチック基材の表面に照射することによって処理された、または不活性ガス雰囲気下で当該不活性ガスの電離作用によって生じるプラズマをプラスチック基材の表面に照射することによって処理された、表面粗さRa(JIS B 0601−1994)が0.06〜0.5μmであるプラスチック基材の表面に核酸をUV照射により固定化してなる核酸マイクロアレイ。
  2. 前記プラスチックがポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリエチレンおよびポリメチルペンテンからなる群より選ばれたものである請求項1に記載の核酸マイクロアレイ。
  3. 前記核酸が50塩基以上の長さを有するものである請求項1または2に記載の核酸マイクロアレイ。
  4. 前記核酸がポリdTオリゴマーを含む請求項1〜3いずれかに記載の核酸マイクロアレイ。
  5. 前記不活性ガスが窒素ガスである請求項1〜4いずれかに記載の核酸マイクロアレイ。
  6. プラスチック基材の表面に、不活性ガスをイオン化し、高速加速して得られたイオンビームまたは不活性ガス雰囲気下で当該不活性ガスの電離作用によって生じるプラズマを照射し、表面粗さRa(JIS B 0601−1994)が0.06〜0.5μmであるプラスチック基材を準備する工程、および
    前記照射後のプラスチック基材の表面に核酸をUV照射により固定する工程
    を含む核酸マイクロアレイの製造方法。
  7. 前記プラスチックがポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリエチレンおよびポリメチルペンテンからなる群より選ばれたものである請求項6に記載の製造方法。
  8. 前記不活性ガスが窒素ガスである請求項6または7に記載の製造方法。
  9. 前記準備工程で提供されるプラスチック基材と水との接触角θが60°以下である請求項6〜8いずれかに記載の製造方法。
  10. 前記核酸が50塩基以上の長さを有するものである請求項6〜9いずれかに記載の製造方法。
  11. 前記核酸がポリdTオリゴマーを含む請求項6〜10いずれかに記載の製造方法。
  12. 請求項1〜5いずれかに記載の核酸マイクロアレイまたは請求項6〜11いずれかに記載の製造方法により得られる核酸マイクロアレイと分析対象の核酸を含む試料とを接触させる工程、および
    前記接触工程により形成された核酸ハイブリッドを検出する工程
    を含む、特定の塩基配列を有する核酸の検出方法。
  13. 前記核酸ハイブリッドが標識されている請求項12に記載の検出方法。
  14. 前記標識がアルカリホスファターゼである請求項13に記載の検出方法。
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