自動車等の車両のエンジン動力を車輪に伝達する動力伝達装置は、エンジンから車輪へ動力を伝達するとともに、悪路走行時における車両のバウンドや車両の旋回時に生じる車輪からの径方向や軸方向変位、およびモーメント変位を許容する必要がある。このため、例えば、エンジン側と駆動車輪との間に介装されるドライブシャフトの一端を、摺動型等速自在継手を介してディファレンシャルに連結し、他端を、固定側等速自在継手を含む車輪用軸受装置を介して車輪に連結している。
近年の高級FR車のリアアクスルは、FF車の駆動輪のように、大きな作動角を必要としない反面、高い静粛性を始めとする優れたNVH特性のみならず、卓越した走行性能との両立をも要求される。このため、回転方向のガタ詰めが比較的容易なクロスグルーブタイプの等速自在継手(特許文献1及び特許文献2)を組合せたドライブシャフトが用いられることが多い。
クロスグルーブ型等速自在継手を使用した後輪用アクスルモジュール(ドライブシャフトアセンブリ)を図18に示す。以下の説明において、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウトボード側(図面左側)と呼び、中央寄り側をインボード側(図面右側)と呼ぶ。後輪用アクスルモジュールは、アウトボード側の等速自在継手1と、インボード側の等速自在継手2と、これら等速自在継手に連結されるドライブシャフト3とを備える。この場合、アウトボード側においては、ハブ輪4と、転がり軸受5と、等速自在継手1とが一体化されて車輪用軸受装置が構成される。
アウトボード側の等速自在継手(クロスグルーブ型等速自在継手)1は、図20と図21に示すように外周面に軸線に対して互いに逆方向にねじれたボール溝6を円周方向に交互に形成した内側継手部材7と、内周面に軸線に対して互いに逆方向にねじれたボール溝8を円周方向に交互に形成した外側継手部材9と、軸線に対して互いに逆方向にねじれた内側継手部材7のボール溝6と外側継手部材9のボール溝8との交差部に組み込んだトルク伝達ボール10と、内側継手部材7の外周面と外側継手部材9の内周面との間に介在してトルク伝達ボール10を円周方向で所定間隔に保持するケージ11とを有する。また、図18に示すように、内側継手部材7の中心孔の内周面にはスプライン部が形成され、この中心孔にシャフト3の端部スプライン部3aが挿入されて、内側継手部材7側のスプライン部とシャフト3側のスプライン部とが係合される。
また、ハブ輪4は、筒部12と、ハブボルト14が植え込まれた車輪取付フランジ13とを有し、筒部12の反フランジ側端部の外周面に切欠部15が設けられ、この切欠部15に転がり軸受5の内輪19が嵌合されている。ハブ輪4の筒部12の外周面のフランジ近傍には第1内側転走面16が設けられ、内輪19の外周面に第2内側転走面17が設けられている。
転がり軸受5の外方部材(外輪)20はハブ輪4の外径側に配置され、その内周に2列の外側転走面21、22が設けられると共に、その外周にフランジ(車体取付フランジ)23が設けられている。そして、外方部材20の第1外側転走面21とハブ輪4の第1内側転走面16とが対向し、外方部材20の第2外側転走面22と、内輪19の転走面17とが対向し、これらの間に転動体23が介装される。
外側継手部材9は、碗型のマウス部25とこのマウス部25の底壁から突設される軸部(ステム部)26とからなり、ハブ輪4の筒部12に外側継手部材9の軸部26が挿入される。この軸部26において、ねじ部27とマウス部25との間にスプライン部が形成されている。また、ハブ輪4の筒部12の内周面(内径面)にスプライン部が形成され、この軸部26がハブ輪1の筒部12に挿入された際には、軸部26側のスプライン部とハブ輪4側のスプライン部とが係合する。
そして、筒部12から突出した軸部26のねじ部27にナット部材28が螺着され、ハブ輪4と外側継手部材9とが連結される。この際、ナット部材28の内端面(裏面)と筒部12の外端面とが当接するとともに、マウス部25の軸部26側の端面と内輪19の外端面とが当接する。すなわち、ナット部材28を締め付けることによって、ハブ輪4が内輪19を介してナット部材28とマウス部25とで挟持される。
また、外側継手部材9の開口部はブーツ30にて塞がれている。この場合、ブーツ30は、大径部30aと、小径部30bと、この大径部30aと小径部30bとの間に配置される蛇腹部30cとからなる。大径部30aが金属製ブーツアダプタ31を介して外側継手部材9に装着される。
ブーツアダプタ31は、外側継手部材9の開口側の外径面に圧入される大径部31aと、ブーツ30の大径部30aが外嵌される小径部31bと、大径部31aと小径部31bとを連結するテーパ部31cとを備える。ブーツ30の大径部30aにはブーツバンド32が嵌着され、これによって、ブーツ30の大径部30aとブーツアダプタ31の小径部31bとが一体化される。また、ブーツ30の小径部31bはシャフト3のブーツ装着部に、ブーツバンド33を介して装着される。
インボード側の等速自在継手2も、アウトボード側の等速自在継手1と同様、外周面に軸線に対して互いに逆方向にねじれたボール溝46を円周方向に交互に形成した内側継手部材47と、内周面に軸線に対して互いに逆方向にねじれたボール溝48を円周方向に交互に形成した外側継手部材49と、軸線に対して互いに逆方向にねじれた内側継手部材47のボール溝46と外側継手部材49のボール溝48との交差部に組み込んだトルク伝達ボール50と、内側継手部材47の外周面と外側継手部材49の内周面との間に介在してトルク伝達ボール50を円周方向で所定間隔に保持するケージ51とを有する。また、内側継手部材47の中心孔の内周面にはスプライン部が形成され、この中心孔にシャフト3の端部スプライン部3bが挿入されて、内側継手部材47側のスプライン部とシャフト3側のスプライン部3bとが係合される。
外側継手部材49は、内周面にボール溝48が形成されたマウス部52と、このマウス部52の底壁から突設される軸部(ステム部)53とからなる。そして、外側継手部材49の開口部はブーツ60にて塞がれている。この場合、ブーツ60は、大径部60aと、小径部60bと、この大径部60aと小径部60bとの間に配置される蛇腹部60cとからなる。大径部60aが金属製ブーツアダプタ61を介して外側継手部材49に装着される。ブーツアダプタ61は、外側継手部材9の開口側の外径面に圧入される大径部61aと、ブーツ60の大径部60aが外嵌される小径部61bと、大径部61aと小径部61bとを連結するテーパ部61cとを備える。ブーツ60の大径部60aにはブーツバンド62が嵌着され、これによって、ブーツ60の大径部60aとブーツアダプタ61の小径部61bとが一体化される。また、ブーツ60の小径部61bはシャフト3のブーツ装着部に、ブーツバンド63を介して装着される。
特開昭61−149616号公報
特開昭61−160630号公報
しかしながら、上記クロスグルーブ型等速自在継手を組合せたドライブシャフトでは、ブーツの取付け構造は、鋼板製のブーツアダプタ(CVJ外輪外径に加締め固定される)を介したものである。このため、万一、ブーツが破損した場合には、ブーツ単独での交換は困難である。したがって、通常、自動車メーカーの整備マニュアルにおいては、図19に示す状態であるドライブシャフトアセンブリ(アウトボード側の等速自在継手と、インボード側の等速自在継手と、これら等速自在継手に連結されるドライブシャフトとを組み付けたもの、つまり後輪用アクスルモジュール)での交換が推奨されており、補修費用の高騰が問題となっていた。
また、一般的なクロスグルーブ型等速自在継手では、ある位相にトルク伝達ボールが存在し、作動角を大きくすると、くさび角が反転してしまい、トルク伝達ボールから保持器に使用する力のバランスが崩れ、保持器が不安定になる。特に、内輪(内側継手部材)のボール溝と外輪(外側継手部材)のボール溝がそれぞれの内輪または外輪の軸線との交差角が小さくなって来ると、トルク伝達ボールの個数が6個までの場合は、この現象が顕著に現れる。
本発明は、上記課題に鑑みて、修理交換性に優れ、かつ軽量コンパクトなFR車に最適な後輪用アクスルモジュールを提供する。
本発明の後輪用アクスルモジュールは、アウトボード側の等速自在継手と、インボード側の等速自在継手と、これら等速自在継手に連結されるドライブシャフトとを備え、各等速自在継手を、外周面に軸線に対して互いに逆方向にねじれたボール溝を円周方向に交互に形成した内側継手部材と、内周面に軸線に対して互いに逆方向にねじれたボール溝を円周方向に交互に形成した外側継手部材と、軸線に対して互いに逆方向にねじれた内側継手部材のボール溝と外側継手部材のボール溝との交差部に組み込んだトルク伝達ボールと、内側継手部材の外周面と外側継手部材の内周面との間に介在してトルク伝達ボールを円周方向で所定間隔に保持するケージとを有するクロスグルーブ型等速自在継手とし、かつアウトボード側においては、ハブ輪と転がり軸受と等速自在継手とが一体化されて車輪用軸受装置が構成される後輪用アクスルモジュールであって、各等速自在継手に交換可能にブーツを締結するとともに、インボード側の等速自在継手を、ケージの最小内径が内側継手部材の最大外径よりも小さいフロートタイプとし、アウトボード側の等速自在継手を、ケージの最小内径が内側継手部材の最大外径よりも大きいノンフロートタイプとし、各等速自在継手は、内側継手部材とボールとケージとが一体化される内部部品を構成し、かつインボード側の等速自在継手の摺動量をLiとし、アウトボード側の等速自在継手の摺動量をLoとし、アウトボード側の等速自在継手を含む内部部品の外側継手部材からの抜き出し可能摺動量をαとしたときに、Li>Lo+αとして、アウトボード側の等速自在継手における内部部品一体の外側継手部材からの抜き出しと、アウトボード側の内部部品の抜き出し後のインボード側の等速自在継手における内部部品一体の外側継手部材からの抜き出しとを可能としたものである。
本発明の後輪用アクスルモジュールによれば、分離する場合、まず各等速自在継手のブーツを取り外す。次に、シャフトをインボード側へ押圧して、アウトボード側の等速自在継手の内部部品(内側継手部材とケージとボールとが一体化したユニット体)をその外側継手部材から引き抜く。この場合、インボード側の等速自在継手の摺動量をLiとし、アウトボード側の等速自在継手の摺動量をLoとし、アウトボード側の等速自在継手の内側継手部材を含む内部部品(内側継手部材とケージとボールとが一体化したユニット体)の外側継手部材からの抜き出し可能摺動量をαとしたときに、Li>Lo+αとしたので、この引き抜きが可能となる。
その後、シャフトをアウトボード側へ引き戻しつつ、インボード側の等速自在継手のボールをボール溝(トラック溝)から脱落させて、このインボード側の等速自在継手において、外側継手部材から内部部品を引き抜く。これによって、後輪用アクスルモジュールの分離が完了する。
また、組み立てる場合は、前記分離作業の逆の作業を行えばよい。すなわち、インボード側の等速自在継手の内部部品に、シャフトのインボード側端部を嵌挿するとともに、アウトボード側の等速自在継手の内部部品に、シャフトのアウトボード側の端部を嵌挿する。その後、インボード側の等速自在継手内部部品をその外側継手部材に内嵌した後、アウトボード側の等速自在継手の内部部品をその外側継手部材に内嵌する。これによって、組立作業が完了する。
このように、各等速自在継手のブーツを取外すことができ、ブーツを取外すことによって、各等速自在継手の内部部品を外側継手部材から引き抜くことができて、分解(分離)することができる。また、シャフトの両端にそれぞれ等速自在継手の内部部品を装着して、その内部部品を外側継手部材に組み込んで、ブーツを装着すれば組み立てることができる。
アウトボード側の等速自在継手は、別体の転がり軸受とナット部材によって連結されたものであってもよい。
アウトボード側の等速自在継手において、ハブ輪または外側継手部材のステム軸のどちらか一方の凸部とその凸部に嵌合する他方の相手部材の凹部とが嵌合接触部全域で密着する凹凸嵌合構造を介して、ハブ輪とハブ輪の孔部に嵌挿される等速自在継手の外側継手部材のステム軸とを一体化され、その凹凸嵌合構造は、ハブ輪と外側継手部材のステム軸とが非分離となるハブ輪に対する外側継手部材のステム軸の圧入であるものであってもよい。
また、その凹凸嵌合構造は、ハブ輪と外側継手部材のステム軸とが分離可能であり、分離後の再度の圧入が可能であるハブ輪に対する外側継手部材のステム軸の圧入であるものであってもよい。
アウトボード側の等速自在継手は、車輪取付フランジを有するハブ輪と複列の転がり軸受とが一体化され、その外側継手部材の外周に転がり軸受の内側転走面が形成されている。すなわち、アウトボード側においては、いわゆる4世代構造の車輪軸受装置を構成している。
等速自在継手はトルク伝達ボールが10であるのが好ましい。また、アウトボード側の等速自在継手の外側継手部材の開口部に抜け防止用クリップを配置したり、インボード側の等速自在継手において、シャフトの端面に軸方向の予圧を付与する弾発部材を配置したりするのが好ましい。
ブーツとして、その大径部がブーツアダプタを介して外側継手部材を装着され、ブーツアダプタは、その外側継手部材の装着部の少なくとも一箇所に外方からの外力付与によって破断する破断可能部位を設けたものにて構成できる。この場合、破断可能部位に対して外力を付与すれば、ブーツアダプタを破断することができる。ブーツアダプタを破断すれば、ブーツアダプタを外側継手部材から取外すことができ、これによって、ブーツを外側継手部材から取外すことができる。
また、ブーツとして、ゴムブーツからなり、その大径部がブーツバンドを介して外側継手部材に締結されるとともに、前記ブーツバンドはブーツの大径部に外嵌されるリング部と、このリング部を拡縮させる操作部とを備えたものであってもよい。この場合、ブーツ装着状態において、操作部を操作することによってリング部を拡径させれば、ブーツバンドを介して外側継手部材に締結されているブーツをこの外側継手部材から取外すことができる。
本発明の後輪用アクスルモジュールでは、簡単に分解・分離を行うことができ、後輪用アクスルモジュール(ドライブシャフトアセンブリ)の補修・点検作業を短時間に容易に行うことができる。特に、ブーツが破損した場合には、ブーツ単独での交換が可能であり、ドライブシャフトアセンブリ全体での交換が不要となり、補修費の低減を図ることができる。
アウトボード側においては、いわゆる4世代構造の車輪用軸受装置を構成しているので、軽量およびコンパクト化を図ることができるとともに、高剛性化と耐久性の向上も図ることができる。
Li>Lo+αとしたことによって、相対的にアウトボード側の重量、いわゆるバネ下重量が低減され、車両操安性の向上を図ることができる。ここで、バネ下重量とは、タイヤ、ホイール、ブレーキ、サスペンションアームなど、サスペンションの動きによって可動する部分の重量である。
ステム軸をハブ輪の内周面に圧入する凹凸嵌合構造を形成しているので、ステム軸とハブ輪との結合においてナット締結作業を必要としない。このため、組立作業を容易に行うことができて、組立作業におけるコスト低減を図ることができる。また、軽量化を図ることができる。しかも、ハブ輪と外側継手部材との間の円周方向のガタの発生を抑えることができ、安定した回転トルクの伝達が可能であるとともに、異音の発生を防止できる。
ハブ輪と外側継手部材のステム軸とが非分離となる圧入であれば、安定した連結状態を維持でき、高品質の後輪用アクスルモジュールとなる。また、ハブ輪と外側継手部材のステム軸とが分離可能であり、分離後の再度の圧入が可能であるハブ輪に対する外側継手部材のステム軸の圧入であれば、ハブ輪と等速自在継手との分離が可能であり、また、分離後の再度の組み付けが可能であるので、修理・点検の作業性の向上を図ることができる。
クロスグルーブ型等速自在継手において、トルク伝達ボールが10個であると、内輪(内側継手部材)のボール溝と外輪(外側継手部材)のボール溝がそれぞれの内輪または外輪の軸線との交差角βが小さくなっても、ある値までは保持器(ケージ)の駆動が安定する。これは、くさび角が反転してしまったトルク伝達ボールの駆動力を、他のトルク伝達ボールが分担して、保持器(ケージ)の駆動を安定させることによる。また、トルク伝達ボールが10個であると、外輪(外側継手部材)あるいは内輪(内側継手部材)に設けられる直径方向に対応した一対のボール溝のねじれ方向が同じ方向となる。そのため、これら一対のボール溝を同時加工することができて、ボール溝の加工性が良く、生産性に優れ、コスト低下が図れる。これに対して、トルク伝達ボールの個数を8個とした場合、従来の6個の継手よりは折曲げトルク特性に優れたものとなる。しかし、8個としても、外輪あるいは内輪に設けられる直径方向に対応した一対のボール溝のねじれ方向が互いに逆方向となるため、これら一対のボール溝を同時加工することができなくて、加工性が悪く、生産性の低下、コスト増を招く。このため、この主の後輪用アクスルモジュールにおいて、ボールを10個とするのが好ましい。
等速自在継手にクロスグルーブ型等速自在継手を使用することによって、回転方向のガタ詰めを容易に行うことができる。
アウトボード側の等速自在継手に外側継手部材の開口部に抜け防止用クリップを配置したことによって、アセンブリ状態等での意図しないアウトボード側の等速自在継手の内部部品の脱落を防止でき、取り扱い性の向上を図ることができる。
インボード側の等速自在継手において、シャフトの端面に軸方向の予圧を付与する弾発部材を配置したことによって、車両搭載状態におけるガタが少なくなって、高速回転性に優れる。
ブーツとして、破断可能部位を設けたブーツアダプタを備えたものであれば、ブーツアダプタを破断することによって、ブーツを外側継手部材から取外すことができる。すなわち、外側継手部材を傷つけることなく、ブーツアダプタおよびブーツ、内部部品、シャフトの分離作業が可能となり、メンテナンス性に優れる。また、リング部を拡縮させて操作部を備えたブーツバンドを備えたものであれば、操作部を操作してブーツバンドを拡径することによって、ブーツをこの外側継手部材から取外すことができる。すなわち、車両搭載状態でのブーツの取外しを簡単に行うことができ、交換作業性の向上を図ることができる。
以下本発明の実施の形態を図1〜図9に基づいて説明する。図1に第1実施形態の後輪用アクスルモジュールを示し、この後輪用アクスルモジュールは、アウトボード側の等速自在継手81と、インボード側の等速自在継手82と、これら等速自在継手81、82に連結されるドライブシャフト83とを備える。この場合、アウトボード側においては、ハブ輪84と、転がり軸受85と、等速自在継手81とが一体化されて車輪用軸受装置が構成される。
アウトボード側の等速自在継手(クロスグルーブ型等速自在継手)81は、図2に示すように、外周面に軸線に対して互いに逆方向にねじれたボール溝86を円周方向に交互に形成した内側継手部材87と、内周面に軸線に対して互いに逆方向にねじれたボール溝88を円周方向に交互に形成した外側継手部材89と、軸線に対して互いに逆方向にねじれた内側継手部材87のボール溝86と外側継手部材89のボール溝88との交差部に組み込んだ複数個のトルク伝達ボール90と、内側継手部材87の外周面と外側継手部材89の内周面との間に介在してトルク伝達ボール90を円周方向で所定間隔に保持するケージ91とを有する。
この場合の等速自在継手81は、ケージ91の最小内径が内側継手部材87の最大外径よりも大きいノンフロートタイプとしている。また、内側継手部材7の中心孔の内周面にはスプライン部が形成され、この中心孔にシャフト83の端部スプライン部83aが挿入されて、内側継手部材87側のスプライン部とシャフト83側のスプライン部83aとが係合される。外側継手部材89は、マウス部95とこのマウス部95に連設される中空軸96とを備える。マウス部95は、中空軸96側の小径部95aと、反中空軸側の大径部95bと、大径部95bと小径部95aとを連設するテーパ部95cと、中空部96と小径部95aとの間のテーパ部95dからなる。外側継手部材89のマウス部95の小径部95aに第2内側転走面105が形成されている。
また、ハブ輪84は、筒部92と、ハブボルト94が植え込まれた車輪取付フランジ93とを有する。このハブ輪84の筒部92の外径面には第1内側転走面104が形成されている。
転がり軸受85は、ハブ輪84の筒部92および外側継手部材89のマウス部95の小径部95aの外径側に配置される外方部材100を備える。外方部材100の内周に2列の外側転走面101、102が設けられると共に、その外周にフランジ(車体取付フランジ)100aが設けられている。そして、外方部材100の第1外側転走面101とハブ輪84の第1内側転走面104とが対向し、外方部材100の第2外側転走面102と、外側継手部材89の第2内側転走面105とが対向し、これらの間に転動体106が介装される。なお、外方部材100の軸方向端部の開口部にはシール部材Sが装着されている。
ハブ輪84の内径面のフランジ対応部には凹凸部108が設けられ、さらに、高周波焼入れ等の熱硬化処理が少なくともこの凹凸部108になされている。ハブ輪84の端面84aがマウス部95の端面95d(肩部)に突合せ状となるまで外側継手部材89の中空軸96がハブ輪84に内嵌されている。この際、中空軸96の嵌合部109(凹凸部108対応部)を、マンドレル等の拡径具にて拡径させている。これによって、嵌合部109を凹凸部108に食い込ませて加締め、ハブ輪84と外側継手部材89とを一体化している。(以下、この一体化法を拡径加締めと称する。)
また、外側継手部材89の開口部はブーツ110にて塞がれている。この場合、ブーツ110は、大径部110aと、小径部110bと、この大径部110aと小径部110bとの間に配置される蛇腹部110cとからなる。大径部110aが金属製ブーツアダプタ111を介して外側継手部材89に装着される。
ブーツアダプタ111は、外側継手部材89の開口側の外径面に圧入される大径部111aと、ブーツ110の大径部110aが外嵌される小径部111bと、大径部111aと小径部111bとを連結するテーパ部111cと、大径部111aとテーパ部111cとの間の径方向壁部111dとからなる。装着状態で、この径方向壁部111dが外側継手部材89の開口端面127に当接している。また、小径部111bは短円筒状であって、ブーツ110の大径部110aが外嵌され、これにブーツバンド112が締結され、これによって、ブーツ110の大径部110aとブーツアダプタ111の小径部111bとが一体化される。また、ブーツ110の小径部111bはシャフト83のブーツ装着部83cに、ブーツバンド113を介して装着される。
ブーツアダプタ111の大径部111aは、図3と図4に示すように、大径の第1部114と小径の第2部115と、第1部114と第2部115との間のテーパ部116とからなる。また、外側継手部材89のマウス部95の外径面には、周方向凹部117が設けられ、この周方向凹部117に前記第2部115が嵌合している。すなわち、第1部114が外側継手部材89のマウス部95の外径面の開口端部118に圧接し、テーパ部116が周方向凹部117の開口端部118側のテーパ面117aに圧接し、第2部115が周方向凹部117の底面117bに圧接している。
この場合、図3に示すように、ブーツアダプタ111の一部に外方からの外力付与によって破断する破断可能部位120を設けている。破断可能部位120は、第2部115からテーパ部116に達する一対のスリット121、121と、このスリット121、121に連設されて第1部114に形成された凹溝122,122(図5参照)とから構成される。また、スリット121、121間における第1部114に操作用の貫孔123が設けられている。
このため、スリット121、121間に破断用片125が形成され、この破断用片125を図4の仮想線のように起立させれば、スリット121、121に連続する凹溝122、122が切断され、ブーツアダプタ111を破断することができる。すなわち、破断用片125は、缶飲料のいわゆるプルタブ(「Pull the tab」)のような構成となっている。なお、開口端部118には周方向小溝が形成され、この周方向小溝にOリング等のシール部材126が嵌合されている。
ところで、外側継手部材89のマウス部95の開口端部の内径面には、周方向凹溝132が設けられ、この周方向凹溝132に止め輪(抜け止め用クリップ)133が嵌合されている。このクリップ133は、このアウトボード側の等速自在継手の内部部品(内側継手部材87、ボール90、ケージ91等の組合体)の外側継手部材89からの抜けを防止する。
インボード側の等速自在継手82も、アウトボード側の等速自在継手81と同様、図6に示すように、外周面に軸線に対して互いに逆方向にねじれたボール溝146を円周方向に交互に形成した内側継手部材147と、内周面に軸線に対して互いに逆方向にねじれたボール溝148を円周方向に交互に形成した外側継手部材149と、軸線に対して互いに逆方向にねじれた内側継手部材147のボール溝146と外側継手部材149のボール溝148との交差部に組み込んだトルク伝達ボール150と、内側継手部材147の外周面と外側継手部材149の内周面との間に介在してトルク伝達ボール150を円周方向で所定間隔に保持するケージ151とを有する。
このインボード側の等速自在継手82は、ケージ151の最小内径が内側継手部材147の最大外径よりも小さいフロートタイプである。また、内側継手部材147の中心孔の内周面にはスプライン部が形成され、この中心孔にシャフト83の端部スプライン部83bが挿入されて、内側継手部材147側のスプライン部とシャフト83側のスプライン部83bとが係合される。
外側継手部材149は、内周面に前記ボール溝148が形成されたマウス部152と、このマウス部152の底壁から突設される軸部(ステム部)153とからなる。そして、外側継手部材149の開口部はブーツ160にて塞がれている。この場合、ブーツ160は、大径部160aと、小径部160bと、この大径部160aと小径部160bとの間に配置される蛇腹部160cとからなる。大径部160aが金属製ブーツアダプタ161を介して外側継手部材149に装着される。
ブーツアダプタ161は、外側継手部材149の開口側の外径面に圧入される大径部161aと、ブーツ160の大径部160aが外嵌される小径部161bと、大径部161aと小径部161bとを連結するテーパ部161cと、大径部161aとテーパ部161cとの間の径方向壁部161dとからなる。装着状態で、径方向壁部161dが外側継手部材149の開口端面152bに当接している。また、小径部161bは短円筒状であって、ブーツ160の大径部160aが外嵌され、これにブーツバンド162が締結され、これによって、ブーツ160の大径部160aとブーツアダプタ161の小径部161bとが一体化される。また、ブーツ160の小径部161bはシャフト83のブーツ装着部83dに、ブーツバンド163を介して装着される。
ブーツアダプタ161の大径部161aは、図6に示すように、大径の第1部164と小径の第2部165と、第1部164と第2部165との間のテーパ部166とからなる。また、外側継手部材149のマウス部152の外径面には、周方向凹部167が設けられ、この周方向凹部167に前記第2部165が嵌合している。すなわち、第1部164が外側継手部材149のマウス部152の外径面の開口端部168に圧接し、テーパ部166が周方向凹部167の開口端部168側のテーパ面167aに圧接し、第2部165が周方向凹部167の底面167bに圧接している。
この場合、図7に示すように、ブーツアダプタ161の一部に外方からの外力付与によって破断する破断可能部位170を設けている。破断可能部位170は、前記アウトボード側の等速自在継手のブーツアダプタ111と同様、第2部165からテーパ部166に達する一対のスリット171、171と、このスリット171、171に連設される凹溝172,172とから構成される。また、スリット171、171間における第1部164に操作用の貫孔173が設けられている。
このため、スリット171、171間に破断用片175が形成され、この破断用片175を起立させれば、スリット171、171に連続する凹溝172、172が切断され、ブーツアダプタ161を破断することができる。なお、開口端部168には周方向小溝が形成され、この周方向小溝にOリング等のシール部材176(図6参照)が嵌合されている。
また、インボード側の等速自在継手82において、シャフト83の端面182に軸方向の予圧を付与する弾発部材180を配置している。すなわち、シャフト83の端面182に凹窪部182aが設けられ、この凹窪部182aに弾発部材180を構成するコイルばね183の一端部183aが嵌合し、コイルばね183の他端部183bが外側継手部材149の底壁152aの内面に当接している。この弾発部材180の弾発力によって、シャフト83をアウトボード側の等速自在継手側へ押圧している。
インボード側の等速自在継手82の摺動量をLiとし、アウトボード側の等速自在継手81の摺動量をLoとし、アウトボード側の等速自在継手81の内部部品(つまり、内側継手部材87とボール90とケージ91の組立体)の外側継手部材89からの抜き出し可能摺動量をαとしたときに、Li>Lo+αとする。
前記のように構成された後輪用アクスルモジュールの分解(分離)方法を説明する。まず、各等速自在継手のブーツアダプタ111、161を取外す。すなわち、各破断用片125、175を起立させて、ブーツアダプタ111、161を破断する。これによって、ブーツアダプタ111、161を外側継手部材89、149から取外すことができる。
次に、アウトボード側の等速自在継手の外側継手部材89に装着されている抜け止めクリップ133を外し、この状態から、シャフト83をインボード側へ押圧して、アウトボード側の内部部品を外側継手部材89から引き抜く。その後、シャフト83をアウトボード側へ引き戻しながら、屈曲させつつインボード側の等速自在継手のボール150を外側継手部材149のトラック溝(ボール溝)148から脱落させて、このインボード側の等速自在継手82の内部部品を外側継手部材149から引き抜く。これによって、この後輪用アクスルモジュールを分離することができる。
組み立て手順は、前記分離手順(作業)と逆の工程を行えばよい。すなわち、シャフト83の両端に等速自在継手81,82の内部部品を組み付けるとともに、シャフト83にブーツアダプタ付のブーツ110、160を装着した組立体を形成する。なお、この組立体には、予圧付与のための弾発部材180が装着されている。次に、インボード側の内部部品を外側継手部材149に嵌入した後、アウトボード側の内部部品をその外側継手部材89に嵌入する。その後、アウトボード側の外側継手部材89に抜け止めクリップ133に装着した後、各等速自在継手81,82のブーツアダプタ111、161を外輪に装着(圧入)する。これによって、この後輪用アクスルモジュールを組み立てることができる。
本発明によれば、各等速自在継手81,82のブーツ110、160を取外すことができ、ブーツ110、160を取外すことによって、各等速自在継手81、82の内部部品を外側継手部材89、149から引き抜くことができて、分解(分離)することができる。また、シャフト83の両端にそれぞれ等速自在継手81、82の内部部品を装着して、その内部部品を外側継手部材89、149に組み込んで、ブーツ110、160を装着すれば組み立てることができる。このため、簡単に分解・分離を行うことができ、後輪用アクスルモジュール(ドライブシャフトアセンブリ)の補修・点検作業を短時間に容易に行うことができる。特に、ブーツ110、160が破損した場合には、ブーツ単独での交換が可能であり、ドライブシャフトアセンブリ全体での交換が不要となり、補修費の低減を図ることができる。
アウトボード側においては、いわゆる4世代構造の車輪用軸受装置を構成しているので、軽量およびコンパクト化を図ることができるとともに、高剛性化と耐久性の向上も図ることができる。
Li>Lo+αとしたことによって、相対的にアウトボード側の重量、いわゆるバネ下重量が低減され、車両操安性の向上を図ることができる。ここで、バネ下重量とは、タイヤ、ホイール、ブレーキ、サスペンションアームなど、サスペンションの動きによって可動する部分の重量である。
ところで、前記実施形態では、等速自在継手81、82にそれぞれクロスグルーブタイプのものを使用し、ボール90、150が6個であったが、図8と図9に示すように、ボール90、150を10個としてもよい。
トルク伝達ボールが10個であると、内側継手部材87のボール溝86と外側継手部材89のボール溝88がそれぞれの内側継手部材87または外側継手部材89の軸線との交差角βが小さくなっても、ある値までは保持器(ケージ)91の駆動が安定する。これは、くさび角が反転してしまったトルク伝達ボール90の駆動力を、他のトルク伝達ボール90が分担して、保持器(ケージ)91の駆動を安定させることによる。また、トルク伝達ボール90が10個であると、外側継手部材89あるいは内側継手部材87に設けられる直径方向に対応した一対のボール溝86、88のねじれ方向が同じ方向となる。そのため、これら一対のボール溝86、88を同時加工することができて、ボール溝の加工性が良く、生産性に優れ、コスト低下が図れる。
次に、図10から図13は第2実施形態を示し、この場合、各等速自在継手81、82のブーツ185,186がクロロプレンゴム(CRゴム)等からなるゴムブーツである。
すなわち、各等速自在継手のブーツ185、186は、大径部185a、186aと、小径部185b、186bと、大径部185a、186aと小径部185b、186bとを連結する蛇腹部185c、186cとからなる。そして、大径部185a、186aが外側継手部材89、149の開口部側に外嵌され、この大径部185a、186aにブーツバンド187が締結され、また、小径部185b、186bがシャフト83のブーツ装着部83c、83dに外嵌され、この小径部185b、186bにブーツバンド188が締結されている。
外側継手部材89、149の開口側の外径面には、図11に示すように、ブーツ嵌着用溝189が設けられるとともに、このブーツ嵌着用溝189よりも開口側に小凹溝190が設けられている。このため、ブーツ185、186が外側継手部材89、149に嵌着されて、ブーツバンド187が締結された状態では、大径部185a、186aの内径面が、ブーツ嵌着用溝189及び小凹溝190に嵌入(嵌合)することになる。
ブーツバンド187、188としては、図12に示すように、リング部191と、このリング部191を拡縮させて操作部192とを備えたいわゆるワンタッチ式ブーツバンドと呼ばれるものを使用している。すなわち、帯状の金属材からなるバンド部材を輪状に湾曲させて(リング部191を構成して)その両端を重ね合わせた状態に結合すると共に、この重ね合わせ部193の一方の面に、バンド部材よりも厚肉で剛性の高い金属材からなるレバー部材(操作部)192を固着したものである。このため、レバー部材192を、てこ作用を利用して強制的に折り返して、バンド部材192の外側面に重ね合わせる。これによって、リング部191を縮径させて、このリング部191によってブーツ185、186の大径部185a、186aや小径部185b、186bを締め付ける。この締め付け状態で、レバー部材192を止め具194で固定する。
また、この締結状態(締め付け状態)から、レバー部材192を固定している止め具194を外し、レバー部材192を起こせば、リング部191が拡径して締結状態が解除される。
図10に示す後輪用アクスルモジュールの他の構成は、図1等に示す後輪用アクスルモジュールと同様であるので、同一部材については図1等と同一符号を付してそれらの説明を省略する。
このため、ブーツバンド187、188を外せば、前記図1に示す後輪用アクスルモジュールと同様の工程によってこの後輪用アクスルモジュールを分離することができる。
組立ては、まず図13に示にように、シャフト83に各等速自在継手81、82の内部部品を装着するとともに、ブーツ185、186を装着した組立体を構成する。その後は、前記図1に示す後輪用アクスルモジュールと同様、インボード側の等速自在継手82の外側継手部材149に、インボード側の等速自在継手81の内部部品を嵌入した後、アウトボード側の等速自在継手81の外側継手部材89に、アウトボード側の等速自在継手81の内部部品を嵌入し、次に各ブーツ185、186の大径部185a、186aを各外輪に嵌着して、ブーツバンド187、188を締結すれば、組立作業が終了する。
このため、図13等に示す後輪用アクスルモジュールであっても、前記図1に示す後輪用アクスルモジュールと同様の作用効果を奏する。したがって、前記図1に示す後輪用アクスルモジュールに対し、ブーツアダプタ111、116がなく、組立作業が簡便となるため、補修用部品の形態として好適である。
後輪用アクスルモジュールのアウトボード側の構成においては、ハブ輪84と、等速自在継手81とが拡径加締めにより一体化された車輪軸受装置ではなく、図18と同様、別体の転がり軸受5と、等速自在継手1がナット部材28によって連結された構成としてもよい。(請求項2)
さらに、第3実施形態を示す図14のように、ハブ輪84とハブ輪84の孔部97に嵌挿される等速自在継手81の外側継手部材89のステム軸96とを凹凸嵌合構造Mを介して一体化された構成としてもよい。(請求項3)
ここで、凹凸嵌合構造Mとは、例えば、ステム軸96の端部に設けられて軸方向に延びる凸部と、ハブ輪84の孔部97の内径面に形成される凹部とからなり、凸部の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部の凸部嵌合部位に対して密着している。すなわち、ステム軸96の反マウス部側の外周面に、複数の凸部が周方向に沿って所定ピッチで配設され、ハブ輪84の孔部97の軸部嵌合孔の内径面に凸部が嵌合する複数の凹部が周方向に沿って形成されている。言い換えれば、周方向全周にわたって、凸部とこれに嵌合する凹部とがタイトフィットしているものであって、凸部とその凸部に嵌合する他方の相手部材の凹部とが嵌合接触部全域で密着している。
このため、ハブ輪84と等速自在継手81の外側継手部材89のステム軸96とを凹凸嵌合構造Mを介して連結できる。この際、ハブ輪84の継手側の端部を加締めて、その加締部103にて内方部材(内輪)99に予圧を付与するものである。
具体的には、ステム軸96の外径部には、少なくとも中間部96dの外周面に高周波焼入れ等により硬化層が形成され、この中間部96dに円周方向に沿う凹凸部からなるスプライン108が形成されている。このため、スプライン108の凸部が硬化処理されて、この凸部が凹凸嵌合構造Mの凸部となる。また、ハブ輪84の内径面は硬化処理がなされていない状態である。これによって、嵌合部位(つまり、スプライン成形部)側は被嵌合部位(つまり、ハブ輪84の中間孔部97cの内径面)側よりも硬度が高くなっている。
次に、この駆動車輪用軸受装置におけるハブ輪84と等速自在継手81との組立方法について説明する。なお、ハブ輪84と等速自在継手81の外側継手部材89とを連結する前に、前記したように、ハブ輪84の軸部92の反フランジ側端部が加締られて、この加締部103にて内輪99が軸部92に締結されている。これによって、内輪99に予圧(予備予圧)が付与される。
ステム軸96をハブ輪84に反フランジ側から圧入する。この際、スプライン108の端部(周方向溝96cの中間部96d側の径方向端面の外径部)はエッジが立っており、圧入し易い。ステム軸96のスプライン108は硬化され、ハブ輪84の内径面は硬化処理されていない生材のままであるため、ステム軸96のスプライン108がハブ輪84の内径面に形状転写される。すなわち、ステム軸96をハブ輪84の孔部97に圧入していけば、凸部がハブ輪84の孔部97の内径面に食い込んでいき、凸部が、この凸部が嵌合する凹部を、軸方向に沿って形成していくことになる。これにより、ハブ輪84の内周面とステム軸96の外周面とが一体化される。すなわち、スプライン108の凸部の圧入時にハブ輪84の軸部92が径方向に弾性変形し、この弾性変形分の予圧が凸部の歯面に付与される。このため、スプライン108の凸部の凹部嵌合部の全体が凹部に対して密着する。このように、ステム軸96とハブ輪84とは一体化される。すなわち、ハブ輪84とステム軸96とが非分離となる。
ステム軸96をハブ輪84の内周面に圧入する凹凸嵌合構造Mを形成した場合、ステム軸96とハブ輪84との結合においてナット締結作業を必要としない。このため、組立作業を容易に行うことができて、組立作業におけるコスト低減を図ることができる。また、軽量化を図ることができる。しかも、ハブ輪84と外側継手部材89との間の円周方向のガタの発生を抑えることができ、安定した回転トルクの伝達が可能であるとともに、異音の発生を防止できる。
図15は、凹凸嵌合構造Mの静捩り強度を示している。具体的には、A、Bが1回だけ圧入したもの、C〜Eが一旦引抜いた後再度圧入したものである。このように、いずれの場合も必要強度を越えた強度を備えていることがわかる。すなわち、凹凸嵌合構造Mは、一度分解した後、再度圧入によって組立てても、強度的に劣ることがない。
したがって、第4実施形態を示す図16のように、アウトボード側の等速自在継手81において、ハブ輪84と外側継手部材149とが分離可能とされた構成としてもよい。(請求項4)
この場合、ハブ輪84に隔壁部200が設けられ、この隔壁部200に引き込み用の治具であるボルト部材201が装着されている。隔壁部200が孔部97に設けられた円盤状体からなり、この軸心部にボルト部材201が挿通される貫通孔202が設けられている。また、外側継手部材149のステム軸96の端面96eにネジ孔203が設け、このネジ孔203にボルト部材201の先端ネジ部201aが螺合する。
図17は、凹凸嵌合構造Mを用い、ハブ輪84と外側継手部材149とが分離可能とされた構成の第5実施形態を示し、ハブ輪84にエンドキャップ205と止め輪206とが装着されている。すなわち、ステム軸96の端面96eに凸部207を設けるとともに、凸部207の付け根部に周方向溝208を設け、この周方向溝208に止め輪206を嵌着している。
エンドキャップ205は、円盤状の基板205aと、この基板205aの外周縁部に連設される短円筒部205bとからなる。短円筒部205bが孔部97の内径面に嵌合した状態で、基板205aの内径端部209が止め輪206とステム軸96の端面96eとの間に挟持される。なお、ハブ輪84の孔部97は、端部孔部97a、97bと、端部孔部97a、97b間に配設される中間孔部97cとからなる。端部孔部97bは、大径部210と小径部211とを備える。端部孔部97aは、開口側の大径の第1部212aと、第1部212aから軸方向内方へ向かって縮径する第2部212bと、この第2部212bに連設される小径の第3部212cとからなる。このため、第3部212cにエンドキャップ205の短円筒部205bが嵌合している。
また、ステム軸96は、その基部96aに凹周方向溝213が形成され、この凹周方向溝183にシール部材214が嵌合されている。なお、シール部材214としては、図例のようにOリングを使用することができる。
このように、ハブ輪84とステム軸96とが分離可能であり、分離後の再度の圧入が可能であるハブ輪84に対するステム軸96の圧入であれば、修理・点検の作業性の向上を図ることができる。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、図1等の後輪用アクスルモジュールのように、ブーツアダプタを備えたものである場合に、設ける破断可能部位120、170の数としては、任意に設定することができ、最低1箇所あればよい。また、破断可能部位120、170を複数個設ける場合、周方向に沿って等ピッチで設けても、不等ピッチで設けてもよい。破断用片125、175の幅寸法等は、操作可能な範囲で任意に設定することができる。
各等速自在継手81、82において、内側継手部材87,147とシャフト83との連結としては、前記実施形態のようなスプライン嵌合の他、溶接、加締、凹凸嵌合構造(シャフト83を内側継手部材87,147に圧入して、嵌合部位をこの嵌合部位よりも硬度が低い被嵌合部位に転写せしめて、内側継手部材87,147とシャフト83とを接合する)等にて一体化するものであってもよい。
アウトボード側の等速自在継手81において、抜け止めクリップ133を有さないものであってもよい。また、インボード側の等速自在継手82に配置される予圧付与用の弾発部材180としては、コイルばねに限るものではなく、ゴム等の弾性材を用いてもよい。また、図10のゴムブーツを使用する場合、ブーツバンドとして、ワンタッチ式ブーツバンドに代えて、オメガバンドと呼ばれるものを使用してもよい。
凹凸嵌合構造Mを介して、ハブ輪84とハブ輪84の孔部97に嵌挿される外側継手部材84のステム軸96とを一体化する場合、前記実施形態では、ステム軸96の外径面に凸部を設けるとともに、ハブ輪84の孔部97の内径面に、凸部にて形成される凹部を設けるようにしたが、逆に、ハブ輪84の孔部97の内径面に凸部を設けるとともに、ステム軸96の外径面に凸部にて形成される凹部を設けるようにしてもよい。