JP5224619B2 - 超臨界流体を用いた油脂コーティング複合化粒子の製法及び複合化粒子 - Google Patents
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Description
本発明者等は、この技術について、継続して研究開発を行っており、次の特許文献1〜3のような発明を既に提供した。
特許文献1(特開平11−197494号公報)には、超臨界流体、亜臨界流体及び液状態の物質を含む高圧流体ならびにそれらに添加剤を加えた流体を用いて、有機及び無機物質をマイクロコーティングまたはカプセル化する技術を開示した。
この発明は急速膨張法を用いたマイクロカプセル化に関して、貧溶媒の特異的な共存効果を利用し、被膜物質としては分子量数万の高分子のみを対象としたものであり、比較的分子量の小さく、貧溶媒の特異的な共存効果が極めて小さい硬化油脂などを使用することによる、マスキング効果に優れた粒子を得ることを目的としたものではない。
この技術では、貧溶媒の特異的な共存効果によりポリマーに溶解して複合化を行っており、極性基を有する食品に使用できないアクリルなどのポリマーには有効である。しかし、食品に使用できる硬化油脂など極性のきわめて小さい素材に対しては、貧溶媒の特異的な共存効果が極めて小さいため、硬化油脂などを使用することによる、マスキング効果に優れた粒子を得ることには適さない。
しかし、これらの方法では、被覆材である高分子が、超臨界二酸化炭素に10%以上溶解する食品添加物に使用できないフッ素系高分子、シラノール系高分子、または貧溶媒共存効果で特異的に溶解できるポリエチレングリコールなどに限定されていた。また、それらは、超臨界二酸化炭素へ溶解しない無機粒子を核とする複合化技術であり、複合化の芯物質が超臨界二酸化炭素に溶解する有機物質の多い食品などの複合化には適さない。
コーティング剤としてシリコーン系化合物やフッ素系化合物を使用する技術は、特許文献5(特開2004−130296号公報)及び特許文献6(特開2004−10499号 公報)にも開示されている。
(2)油脂が菜種硬化油脂またはグリセリン脂肪酸エステルである請求項1に記載の複合化粒子。
(3)α−リポ酸含量が39%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合化粒子。
得られる複合化粒子は、微細化されており、油脂被覆が薄く、きれいにできており、被覆性及び緻密性に優れ、粒度分布がシャープであって均一性に優れている。
また、使用する油脂は食品或いは食品添加物用途のものを選択しているため、医薬品や化粧品分野だけでなく、健康食品の素材改良に好適であるものとなっている。本複合化粒子の適用剤形としては、医薬品や健康食品に用いる粉末剤、顆粒剤、錠剤がある。そして、分散性が良好であって、経時安定性に優れている。
胃または腸で崩壊・吸収できる崩壊遅延剤として使用することができる。
特に、抗酸化能原末としては、コエンザイムQ10、α-リポ酸、ビタミンE、シリマリン、シリビンに有効である。α-リポ酸では、含量が39%以上の油指コーティング粉末を提供することができる。
本願発明では、他の材料と配合した場合に、経時安定性に優れており製品化の際に有効成分材料を複数配合することが多い健康食品などに対し、有効成分の含量低下などによる品質低下を抑制することができる。本願発明により、苦味などのマスキング能力及び被覆能力に優れ、経時劣化にも強い超臨界流体を用いた油脂コーティング複合化粒子を得ることができた。シリマリンや亜鉛酵母などのミネラル含有酵母に優れたマスキング効果が確認された。さらに、錠剤、顆粒剤、散剤などの製剤化においては、均一な微細粒径であるので均一な分散性が向上する。本発明で得られる油脂コーティング複合化粒子は、流動性が向上し、製剤工程のハンドリングが向上する。
本発明における複合化粒子とは、油脂により、有効成分含有材料粒子が被覆又は内包された複合化粒子、有効成分含有材料粒子の表面に油脂の粒子が存在している粒子、及び粒子同士が凝集した粒子の内部又はその表面に油脂粒子が存在している複合化粒子をいう。本発明における油脂コーティングとは、α-リポ酸が個別ではなく複数個連なった状態でコーティングされる場合もある。
(1)硬化油脂が固有の融点以下で溶融する温度・圧力条件において有効成分含有原料と硬化油脂を接触させる。
(2)溶融している有効成分含有材料と油脂を接触させることがより好ましい。
(3)さらには有効成分含有材料及び油脂が各々固有の融点以下で溶融しない温度・圧力条件において、予め有効成分含有材料と油脂を容器内において高速攪拌にて分散・混合させることがより好ましい。
そのような手段をとることにより、1)適切な温度・圧力条件に制御された超臨界状態において、比較的粘性の高い有効成分材料が硬化油脂のような比較的親和性の高い材料と近接することにより、全体として、有効成分材料の粘性の低下を引き起こし、且つ、高速攪拌することにより、極めて分散・混合性がよくなっているため、材料周辺の高圧流体の存在割合が高くなり、結果として、更なる粘性の低下を引き起こすものと考えられる。そして、2)攪拌しつつノズルより放出して急速膨張させる(減圧処理する)ことにより、超臨界流体の溶解度が低下し、溶質が超臨界流体から分離され、複合化粒子を製造することができる。
具体的には、上記のような方法により、味やにおいが不快である有効成分含有材料をマスキングできる複合化粒子を得ることである。
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。本発明は、下記実施例に何ら制されるものではない。
実施例1における配合処方を表1に示す。
実施例3における配合処方を表3に、得られた複合化粒子の粒子構造の走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。
実施例4における配合処方を表4に、得られた複合化粒子の粒子構造の走査型電子顕微鏡写真を図2に示す。
市販品(日本油脂製コーティング粒子 MC−50F)、実施例3、実施例4で得られたα-リポ酸油脂複合化粒子について、粒子径を測定した。測定装置(MASTERSIZER)、測定条件(4.0Bar)、粒度分布測定結果(d(0.5)の値)である。
同時に、粒度分布を散乱強度により確認した結果、実施例3では、市販品よりもシャープであって、比較的均一な粒子が形成されていると考えられる。
また、実施例3、実施例4、市販品(MC−50F)、α-リポ酸原末、α-リポ酸原末粉末をさらに細かく粉末化したα-リポ酸原末粉末の5種類について、粒度分布を測定したので、粒度分布グラフを図7〜図11に示す。各例とも3回測定した結果を重ねているので、複数の線が表示されているグラフもある。この結果、本願実施例3,4共にピークが4〜6μmであって、粒径分布が小さく、大きい方は20μm以下となっている。これに対して、α-リポ酸原末をさらに粉砕して微粉化したものでも20〜30μmにピークがあるので、本願実施例で得られたα-リポ酸油脂複合化粒子は、超臨界処理を施すことにより、原料原末よりも小さくなっていることが分かる。
実施例3で得られたα-リポ酸油脂複合化粒子と比較品として、α-リポ酸原末、本発明品と同量のα-リポ酸を含有した市販の油脂コーティング品 (日本油脂製コーティング粒子 MC−50F)(コーティング油脂として菜種硬化油脂末を使用) 及び同量のα-リポ酸を含有した菜種硬化油脂末との物理混合物に対し、被験者5名 (A, B, C, D, E)で以下の要領で味覚及び嗅覚と触感の2種類につき官能検査を実施した。
官能評価基準1は、1.苦味、2.痺れ(ピリピリ感など)、3.におい、について、「何も感じない」から「とても感じる」までの5段階で判定する。評価基準を表6に、各評価結果を表7に示す。また、評価基準1における判定記号の、−を0点、±を1点、+を2点、++を3点、+++を4点と換算して、合計点数を表8に、棒グラフに表したものを図5に示す。
官能評価基準2は、
1.ざらつきについて、口中に含んだときに「ざらざらするか」、「なめらかであるか」、
2.残粒感について、口中に含み約10〜20秒後の「粒の感触があるかどうか」の2段階で判定し、各評価結果を表9に示す。
また、残留感に関しては、口腔内での一定時間経過後の粒子の大きさ及び崩壊性・溶解性が重要になると考えられる。α-リポ酸や油脂は水との親和性に乏しい原料であり、この場合、10数秒間で唾液による自然な流し込みに対し、ざらつき同様、溶解性や崩壊性により粒子径の大きさや粒子形状の要因が大きく占めるものと考えられる。
粒子径は小さいものの、α-リポ酸原末自体は、ざらつき、残粒感を有する。一方、市販の油脂コーティング品は、ざらつき、残粒感についてはさらに増している。実施例3で得られた本発明品については、官能評価の結果、ざらつき、残粒感があると感じた者はいなかったことから、本発明品はコーティングされてなめらかになったと考えられる。
定量法(HPLC法)
(1)各試料約0.01〜0.05gを50mLのメスフラスコに精密に量り、適当量のメタノールを加え、次いで移動相を加えて正確に50mLとする。これを孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過し、ろ液を試料溶液とする。
(2)α-リポ(標準品)約0.05gを50mLのメスフラスコに精密に量り、適当量のメタノールを加え、次いで移動相を加えて正確に50mLとし、これを孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過し、ろ液を標準溶液とする。
(3)試料溶液及び標準溶液それぞれ20μLを、次の条件で高速液体クロマトグラフ法により試験を行い、試料溶液のα-リポ酸のピーク面積At及び標準溶液のα-リポ酸のピーク面積Asを測定する。
《操作条件》
検 出 器:紫外吸光光度計(測定波長:330nm)
カ ラ ム:shiseido capcellpak C-18 UG-120 4.6×250(mm) No.AOAD14935
カラム温度:40℃付近の一定温度
移 動 相:0.05%TFA水溶液:0.05%TFAメタノール=35:65
流 速:1.0mL / min
注 入 量:20μL
計算式
本品中のα-リポ酸の濃度(W/W%)
=(標準品秤取量(g)/試料秤取値(g))×(At/As)×試料定容量/標準品定容量×100
ただし、
At:試料溶液中のα-リポ酸のピーク面積
As:標準溶液中のα-リポ酸のピーク面積
コーティング、被覆の程度を把握する一つの手段として、色差測定を実施した。測定値はL*a*b*表色系に従い、数値化している (L*は明度、a*b*は色相と彩度を示す。n=3)。また、α-リポ酸は黄色が強いため、黄方向の指標である+b*は大きい値を示す傾向にある。そこで、実施例3及び実施例4で得られた発明品、比較品としてα-リポ酸原末、本発明品と同量のα-リポ酸を含有した市販の油脂コーティング品 (コーティング油脂として菜種硬化油脂末を使用)、菜種硬化油脂末 (ラブリーワックス102H及び市販のコーティング品で使用されている油脂末)、ポエムTR-FBの L*a*b* を以下に示した。
b*の平均値を求めると、α-リポ酸原末は46.27、実施例3より得られた発明品は9.46、実施例4より得られた発明品は10.47、市販の油脂コーティング品は21.45、油脂末は順に1.52、1.37、2.35となる。この結果から、α-リポ酸原末は黄色味が強く、それをコーティングする油脂は黄色味がほとんどないことがわかる。なお、光散乱の関係で、α-リポ酸の場合は粒子径の減少に対し、b*値は小さくなる傾向があるように考えられる。粒度分布において未粉砕のα-リポ酸原末品はd(0.5)は50μm前後でb*値は46程度、さらに粉砕品のd(0.5)は25μm前後でb*値は39となるが、これらから推測すると、b*値は本願発明で得られた超臨界によるα-リポ酸油脂複合化粒子と同レベルのα-リポ酸粒子径であったとしても、超臨界複合化粒子ぐらいまでb*値は下がらないと考えられる。
本発明品と市販の油脂コーティング品の黄色味を比較するために、α-リポ酸原末のb
*を100と換算すると、実施例3より得られた発明品は20、実施例4より得られた発明品は23、市販の油脂コーティング品は46となる。この結果から、α-リポ酸原末と比較して、本発明品は約1/2、市販の油脂コーティング品は約1/4、黄色味が減少しているといえる。
したがって、本発明品及び市販の油脂コーティング品は、全体的にα-リポ酸原末が油脂で被覆されていることがわかる。さらに、本発明品は、α-リポ酸原末が油脂で被覆されている度合いが従来品に比べて格段に向上しているといえる。
一方、α-リポ酸含有量は40%以上であってb*値が市販品の1/2、α-リポ酸原末の1/4と小さい値を示していることは、油脂分の被覆状態が良好であって、油脂分の影響を反映して小さいb*値を示していると考えられる。
製剤化の際に他の配合原料との相互作用により、主剤の劣化(含量低下)や色調変化を起こすことがある。高度の製剤品質を確保するためには、反応性の低い原料を選択するか或いは主剤にコーティング等を施す必要がある。そこで、超臨界調製α-リポ酸複合化粒子の安定性(被覆性,緻密性) を評価するため、経時変化に伴うα-リポ酸の含量などの測定・評価を行った。
複合化粒子:実施例1で得られた本発明品及び市販品(日本油脂製コーティング粒子MC-50F)
配合原料(1):ガルシニア (ガルシニアパウダーJ, 日本新薬製)
配合原料(2):ステアリン酸Ca (堺化学製)
(1)各々複合化粒子及び配合原料を重量比1:1の割合で配合し、乳鉢にて混合する。
(2)その混合物をプラスチックシャーレに入れる。
(3)そのシャーレを保存安定性試験機に入れる。
注1) 経時サンプルは設定期間ごとに仕込む (1条件1シャーレ)。
注2)1シャーレにつき、複合化粒子300mg、 配合原料300mgを仕込む。
温湿度:40℃, 75% R.H.
保存期間:1週、2週、3週、4週、6週、8週
試験例2では、コーティング、被覆の程度を把握するために、色差測定を実施した。試験例2より、実施例3及び実施例4で得られた本発明品のα-リポ酸の被覆能力は市販の油脂コーティング品と比較して優れていることがわかった。
試験例3では、超臨界調製α-リポ酸複合化粒子の安定性(被覆性,緻密性) を評価するため、経時変化に伴うα-リポ酸含量などの測定・評価を行った。試験例3より、本発明品は市販品に比べ、経時変化に伴う含量低下率が低いことがわかった。
したがって、本願発明により、苦味などのマスキング能力及び被覆能力に優れ、経時劣化にも強い、超臨界流体を用いた油脂コーティング複合化粒子を得ることができた。
さらに、錠剤、顆粒剤、散剤などの製剤化においては、均一な微細粒径であるので均一な分散性が向上する。
シリマリンはオオマリアザミの果実の精製抽出物であり、フラバノリグナンの混合物の総称である。このシリマリンは、難水溶性の粉末であり、苦い味がする (漢方薬と似ている)。そこで超臨界流体技術を用いた複合化粒子を調製することにより、苦味を抑制できる可能性検討を行なった。
<試料>
複合化粒子の調製にあたり、有効成分材料であるシリマリンET(シリマリン,インデナ社製) 及び被膜候補原料としてラブリーワックス102H (菜種硬化油脂末、m.p.67〜71℃、 川崎ファインケミカル(株)製) を用いた。
<調製方法>
シリマリンET 約5g、ラブリーワックス102H 約5gの計約10gを500mLの高圧セル内に投入し、超臨界状態の高圧流体の存在下にて、40〜42℃, 圧力 110〜130kg/cm2の条件下、約 1600rpmで攪拌し、その後、攪拌しながら徐々に温度を上昇させ、最終的に58〜60℃、圧力 200kg/cm2 付近に安定させた後、攪拌 (約1550〜1570rpm) しながら大気圧下に噴霧することにより複合化粒子を調製した。なお、超臨界流体は二酸化炭素である。
シリマリンET原末, 物理混合物(配合比1:1) 及び複合化粒子の写真を図12に示す。なお、物理混合物中のシリマリンの配合量は複合化粒子とほぼ同量である。図12に示した写真より、各々の色調を比較すると明らかに異なることが分かる。シリマリン原末は黄土色が強く、ラブリーワックス102Hは、白色であるので、よくコーティングされているとラブリーワックス102Hの色である白色が強くなる。この写真では、物理混合物より超臨界複合化粒子の方が色が薄く、コーティング比率が高いと判断できる。物理混合物は、シリマリン原末の色が強調されているのは部分的に付着しているためと考えられる。
上記で調製した複合化粒子のSEM写真をシリマリンET原末、ラブリーワックス102H(超臨界調製品) とともに図13、図14、図15に示す。
SEM写真より、複合化粒子の表面状態はラブリーワックス102Hと類似しており、シリマリン原末とは異なるものであった。シリマリンがラブリーワックス102HやRESS (Rapid Expansion Supercritical Solution ; 急速膨張法) による表面状態変化の影響を受け難いので、本複合化粒子はラブリーワックス102Hによって被覆されているものと考えられる。
シリマリン複合化粒子の苦味評価を検討する為、官能検査を実施した。複合化粒子の比較品として、シリマリンET原末及び複合化粒子と同様のシリマリンを含有した物理混合物に対し、被験者6名 (A, B, C, D, E, F)で以下の要領で味覚及び嗅覚、と触感の2種類につき評価を行なった。
官能評価基準として、1. 苦味、2. 痺れ(ピリピリ感など)、3. におい、について、「何も感じない」から「とても感じる」までの5段階で判定する項目と、4. ざらつきについて、口中に含んだときに「ざらざらするか」、「なめらかであるか」、5. 残粒感について、口中に含み約10〜20秒後の「粒の感触があるかどうか」の2段階で判定する項目を設けている。
以下に官能評価基準及び評価結果を表11,表12に示す。
コーティング、被覆の程度を把握する一つの手段として、色差測定を実施した。測定値はL*a*b*表色系に従い、数値化している (L*は明度、a*b*は色相と彩度を示す。n=3)。また、シリマリンは黄土色の色調である為、白色の菜種油脂末の添加により、L*は+方向、a*は−方向、b*は−方向に移行する傾向にある。
そこで、本発明品(超臨界複合化粒子)に対し、その比較品としてシリマリンET原末、本発明品と同量のシリマリン有効成分を含有した物理混合物及び菜種硬化油脂末 (ラブリーワックス102H) の L*a*b* を以下表13に示した。
本結果より、本発明品は原末や物理混合物に比べ、薄色傾向にあり、ラブリーワックス102Hに最も近いことがわかる。よって、本発明品の粒子表面には菜種油脂末の分布域が広く、コーティングされている可能性が高いことを示しているものと思われる。
本実施例より得られたシリマリン複合化粒子は苦味マスキング効果に優れた粒子である。
亜鉛は味覚を正常に保つのに必要であるとともに、皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素であり、亜鉛酵母は酵母培養で作られた有機亜鉛である。この亜鉛酵母の粉末は酵母独特の臭い(酵母臭) と味を有している。本実施例では、酵母臭の臭い及び味の除去或いは抑制することを目的に複合化粒子の調製を試みた。
<試料>
複合化粒子の調製にあたり、有効成分材料であるLALMIN Zn50 (亜鉛酵母, 三輪製薬(株)製) 及び被膜候補原料としてラブリーワックス102H (菜種硬化油脂末, m.p.67〜71℃, 川崎ファインケミカル(株)製) を用いた。
<調製方法>
亜鉛酵母約5g、ラブリーワックス102H約5gの計約10gを500mLの高圧セル内に投入し、超臨界状態の高圧流体の存在下にて、40〜45℃、圧力120〜130kg/cm2の条件下、約1600rpmで攪拌し、その後、攪拌しながら徐々に温度を上昇させ、最終的に60℃, 圧力 200 〜215kg/cm2 付近に安定させた後、攪拌 (約1600rpm) しながら大気圧下に噴霧することにより複合化粒子を調製した。なお、超臨界流体は二酸化炭素である。
亜鉛酵母原末, 物理混合物(配合比1:1) 及び複合化粒子の写真を図16に示す。なお、物理混合物中の亜鉛含量は複合化粒子とほぼ同量である。図16に示した写真より、各々の色調を比較すると明らかに異なることが分かる。亜鉛酵母は茶褐色が強く、ラブリーワックス102Hは、白色であるので、よくコーティングされているとラブリーワックス102Hの色である白色が強くなる傾向がある。この写真では、茶色である物理混合物より超臨界複合化粒子の方が白色が強く、コーティング比率が高いと判断できる。物理混合物は、亜鉛酵母の色が強調されているのは部分的に付着しているためと考えられる。
上記で調製した複合化粒子のSEM写真を亜鉛酵母原末、ラブリーワックス102H(超臨界調製品) とともに図17,図18、図19に示す。
図17〜図19に示すSEM写真より、今回調製した複合化粒子の形状と亜鉛酵母超臨界調製品及びラブリーワックス102H粒子の形状を比較すると亜鉛酵母粒子はラブリーワックス102H粉末に覆われているように見える。
亜鉛酵母複合化粒子の酵母の味及びにおいの評価を検討する為、官能検査を実施した。複合化粒子の比較品として、亜鉛酵母原末及び複合化粒子と同様の亜鉛(酵母) を含有した物理混合物に対し、被験者6名 (A, B, C, D, E, F)で以下の要領で味覚及び嗅覚、と触感の2種類につき評価を行なった。
官能評価基準として、1. 酵母の味、2. におい、について、「何も感じない」から「とても感じる」までの 5 段階で判定する項目と、3. ざらつきについて、口中に含んだときに「ざらざらするか」、「なめらかであるか」、4. 残粒感について、口中に含み約10〜20 秒後の「粒の感触があるかどうか」の2段階で判定する項目を設けている。
以下に官能評価基準及び評価結果の表を示す。
コーティング、被覆の程度を把握する一つの手段として、色差測定を実施した。測定値はL*a*b*表色系に従い、数値化している (L*は明度、a*b*は色相と彩度を示す。n=3)。また、亜鉛酵母は茶褐色の色調である為、白色の菜種油脂末の添加により、L*は+方向、a*は−方向、b*は−方向に移行する傾向にある。
そこで、本発明品(超臨界複合化粒子)に対し、その比較品として亜鉛酵母原末、本発明品と同量の亜鉛 (酵母) を含有した物理混合物及び菜種硬化油脂末 (ラブリーワックス102H) の L*a*b* を表16に示した。
本結果より、本発明品は原末や物理混合物に比べ、薄色傾向にあることがわかる。特にL*やb*がかなり低い値に移行しており、全体的にかなり白色寄りの色調となっていることが分かる。このことより、本発明品の粒子表面には菜種油脂末の分布域が広く、コーティングされているものと考えられる。
本実験より得られた亜鉛酵母複合化粒子は酵母独特の味のマスキング効果に優れた粒子であることが確認できた。
コエンザイムQ10(CoQ10) は世間に広く認知されているアンチエイジング素材であり、(1)経口摂取において体内吸収性が低い (2)光に不安定である(3)粉末のハンドリング性が悪いなどの特性を有している化合物である。そこで超臨界流体技術を用いることにより、これらの特性を改善することを目的に超臨界流体を用いた複合化粒子を製造した。
<試料>
複合化粒子の調製にあたり、有効成分材料であるCoQ10(m.p.47℃、カネカ(株)製) 及び被膜候補原料として(1)ラブリーワックス102H (菜種硬化油脂末,m.p.67〜71℃、 川崎ファインケミカル(株)製)、(2)ポエムTR-FB (トリグリセリン脂肪酸エステル、m.p.69℃、理研ビタミン(株)製)、(3)サンソフトQ-185SP (ポリグリセリン脂肪酸エステル:ペンタステアリン酸デカグリセリン、HLB 4.5,m.p.47〜57℃)、(4)サンソフトNo.621B (有機酸モノグリセリド:クエン酸モノステアリン酸グリセリン、 HLB7,m.p.55〜59℃)、(5)サンソフトNo.621SA (有機酸モノグリセリド:クエン酸モノステアリン酸グリセリン、HLB11,m.p.57〜61℃)、(6)サンソフトQ-18B (ポリグリセリン脂肪酸エステル:モノ・ジステアリン酸ジグリセリン、HLB6.5,m.p.53〜59℃) の6種類を用いた。また、サンソフトシリーズはすべて太陽化学(株)製である。
CoQ10約5g、上記に記載した各々の被膜候補原料約5gの計約10gを500mLの高圧セル内に投入し、超臨界状態の高圧流体の存在下にて、32〜45℃、 圧力110〜150kg/cm2の条件下、約1600rpmで攪拌し、その後、攪拌しながら徐々に温度を上昇させ、最終的に各々被膜候補原料の融点降下特性に応じた温度 (43〜55℃の範囲内), 圧力 200kg/cm2付近に安定させた後、攪拌 (約1600rpm) しながら大気圧下に噴霧することにより複合化粒子を調製した。なお、超臨界流体は二酸化炭素である。
上記で調製した複合化粒子の走査型電子顕微鏡 (SEM) 写真を図20〜図24に示す。これらの写真より、各々の複合化粒子はCoQ10原末とは形状の異なる粒子が形成されていることが分かる。また、(CoQ10+621SA) 複合化粒子(図21)に関し、その形状は比較的621SAに類似しており、図20(2)にCoQ10原末の拡大図が示されており、細長い結晶や四角の結晶が認められるのに対して、それぞれの複合化粒子は3μm前後の1次粒子が凝集し2次粒子を形成したような様子を示している。各々の複合化粒子に関し、その形状は各々で用いた添加剤に比較的類似している (ただし、Q-18Bは除く。)。油脂類を代表して、621SAの拡大図を図20(2)に示した。小さな花弁の様な小突起が多数みられる不定形をしている。
CoQ10の融点はこれらの油脂類よりも低いので、超臨界状態では双方が融解している状態から急激に解放される際に、CoQ10が先に微粒子となり、その周囲に油脂類がコーティングされた状態となると想定されるので、各複合化粒子は油脂の花弁の様な小突起が観察されることとなる。
なお、Q-18Bに関しては、もともと鱗片状をした扁平状の固形物であるため、微粒子化されることによる表面状態変化の影響が大きいものと思われる。
粉体のハンドリング性は、粉体物性評価を行なう上で非常に重要な特性の一つである。例えば、粉末を秤量する際に、湿り気のある原料やスコップなどにこびりつき易い原料は秤量に要する時間が長くなる, ロスが大きくなる等のデメリットな点がある。また錠剤などの固形製剤では、配合原料の一つにこのような流動性や分離性が悪い粉体を用いた場合、他の配合原料との混合性が悪く、結果、含量均一性の低下を引き起こす。製剤行程においては、粉体の流動性を向上させることが重要である。そこで、本方法により調製された複合化粒子の流動性について検討を行なった。
評価方法は、安息角を測定することにより判定した。本実施例は、少量のサンプル量でも測定できるように使用装置であるホソカワミクロン製のパウダーテスターを用いて測定した。テスターの安息角測定台上に粉末状の各試料を落下堆積した。測定は、堆積物に対し分度器を用いて安息角を測定した。
各試料の安息角はそれぞれ、図25に示す(CoQ10+ポエムTR-FB) 超臨界調製複合化粒子は約46〜47°、図26に示す(CoQ10+ラブリーワックス102H) 超臨界調製複合化粒子は約45〜46°、図27に示す(CoQ10+No.621SA) 超臨界調製複合化粒子は約45〜46°、図28に示す比較例である(CoQ10+ラブリーワックス102H) 物理混合物は約52〜53°、図29に示す比較例であるCoQ10原末は約63〜65°である。
安息角は底辺に対する斜辺の角度であるので、小さい方が緩い傾斜を示し、粉粒体の流動性が高ければ小さい角度になる。図25〜図27に示される本実施例相当の複合化粒子では、46°程度あるのに対して、油脂とCoQ10を物理的に混合した図28では52°、CoQ10原末(図29)では64°である。本実施例では、流動性が改善されていることは明らかである。
特に、CoQ10原末では、ロート管から安息角測定台への粉末の落下が困難であり、体積形状も、大きく固まりとなって脱落して、安定した一定の傾斜面が形成されていない。これは、粉末の凝集があり、流動性が悪いことを示している。
本発明で得られる超臨界流体を用いた油脂コーティング複合化粒子について粒度解析試験を行った。油脂はラブリーワックス102Hを用いた。
解析対象は、シリマリン複合化粒子、亜鉛酵母複合化粒子及びそれぞれの原末を用いた。
図30にシリマリン複合化粒子粒度分布を、図31(1)にシリマリン原末の粒子粒度分布を、図31(2)にコーティング油脂として用いたラブリーワックス102Hの粒子粒度示す。
図31(1)に示されたシリマリン原末の粒子粒度分布は中央値が6.512μmであって、緩やかなカーブを描いている。図31(2)に示されたラブリーワックス102Hの粒子粒度分布は中央値が60.576μmであって、1000μm以上にも小さなピークを持つ双コブ状のカーブを描いている。図30に示されたシリマリン複合化粒子の粒子粒度分布は中央値が6.684μmであって、シャープなピークを描いている。これらの対比から、油脂は溶解してシリマリン原末粒子に油脂コーテイングされ若干粒子径が大きくなっていることが分かる。また、3回測定しているが、複合化粒子の方がピークがきれいに出ており、粒径もそろっていることがわかる。
なお、シリマリンは融点が高いので、原末粒径よりもコーティングされて粒径が大きくなったものと考えられる
図32にラブリーワックス102H油脂を用いてコーティングした亜鉛酵母複合化粒子粒度を、図33に亜鉛酵母原末の粒子粒度分布を示す。測定はそれぞれ3回行った。
図33に示された亜鉛酵母原末の粒子粒度分布は中央値が33.209μmである。図32に示された亜鉛酵母複合化粒子の粒子粒度分布は中央値が5.162μmであって、ピークが2つとなっている。これらの対比から、大きな亜鉛酵母原末が高圧化の超臨界流体との混合回転工程によって、細かく粉砕され、ピークが2つある複合化粒子が形成されたものと考えられる。また、3回測定しているが、粒度分布カーブは揃っているので、さらに、分析を続けることにより、それぞれのピーク粒子の属性を解析し、特定物質を回収することが期待される。
図34(1)〜(3)にコエンザイムQ10(CoQ10)複合化粒子粒度分布グラフを、図35にCoQ10原末の粒子粒度分布を示す。図36にCoQ10と油脂の物理混合粒子粒度分布グラフの例として(1)(CoQ10+ポエムTR-FB) 物理混合粒子、(2)(CoQ10+621B) 物理混合粒子を示し、図37に油脂類粒子粒度分布グラフの例として、(1)ポエムTR-FB粒子、(2)621B粒子を示す。
測定はそれぞれ3回行った。
図34(1)に示された(CoQ10+ポエムTR-FB) 複合化粒子分布は中央値が4.987μm、(2)に示された(CoQ10+621B)複合化粒子分布は中央値が5.201μm、(3)に示された(CoQ10+18B)複合化粒子分布は中央値が6.125μmである。図35に示されたCoQ10原末の粒度分布は中央値が6.597μmであって、各複合化粒子は、いずれも原末よりも小さくなっている。これは、CoQ10の融点が低いので、超臨界撹拌工程において、CoQ10が一旦融解し、大気圧中に放出する際に微細結晶化しその表面に油剤がコーティングされた結果を示すものと考えられる。なお、この試験は、大気圧中に放出する放出ノズルの径1.1mmを用いたが、ノズル系を大きくすると得られる粒子径も大きくなる傾向はある。3回測定しているが、分散度が小さく、粒度分布カーブは揃っているので、粒径均一性が高いコエンザイムQ10(CoQ10)複合化粒子を得ることができる。
図36(1)(CoQ10+ポエムTR-FB) 物理混合粒子分布は中央値が4.250μm、、(2)(CoQ10+621B) 物理混合粒子分布は中央値が7.670μm、を示し、図37(1)ポエムTR-FB粒子分布は中央値が2.742μm、(2)621B粒子分布は中央値が402.505μm、を示す。油脂粒子あるいは油脂とCoQ10との物理混合粒子にそれぞれの粒子径が存在するが、複合化粒子はCoQ10の融点が低いので、超臨界撹拌工程において、油脂とCoQ10が一旦融解し、大気圧中に放出する際に微細結晶化しその表面に油剤がコーティングされた結果CoQ10原末の粒子より小さな粒子が得られたものと考えられる。
Claims (3)
- 二酸化炭素からなる超臨界流体若しくは亜臨界流体に溶解する抗酸化能粉末であって、二酸化炭素からなる超臨界流体若しくは亜臨界流体を用いた油脂コーティング抗酸化能粉末であって、粉末の粒度分布を測定するとき、粒度分布のピーク値が4〜6μmであるコエンザイムQ10、α−リポ酸、ビタミンEのいずれかである複合化粒子。
- 油脂が菜種硬化油脂またはグリセリン脂肪酸エステルである請求項1に記載の複合化粒子。
- α−リポ酸含量が39%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合化粒子。
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