本実施例の画像形成装置は、ソフトカウントでなくRTC(Real Time Clock)37が生成するリアルタイムクロック信号(以下、RTC信号という)により時間を計測し、副走査エンコーダ45が計測する信号から移動距離を検出する。したがって、ソフトウェアが暴走しても一定時間が経過したことと、その一定時間における記録部材(以下、単に用紙18という)の移動距離を検出できるので、同じ位置を局所的に帯電してピンホールを生じさせることを事前に防止することができる。
本実施形態では、インクジェット記録装置100における用紙18の搬送を例に説明するが、同様な構成で用紙18を搬送する画像形成装置に好適に適用できる。
〔インクジェット記録装置100の構成〕
図1は、インクジェット記録装置100の主要な構造を示す上面図の一例を示す。インクジェット記録装置100は、図示しない左右の側板に横架したガイドロッド14でキャリッジ21を保持し、主走査モータ15によって、駆動プーリ16と従動プーリ17間に張架したタイミングベルト12を駆動して主走査方向に往復移動させる。
キャリッジ21には、例えばイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色のインク液滴を吐出する4個の液吐出ヘッドから成る記録ヘッド22が搭載されている。液吐出ヘッドは、複数のインク吐出口(ノズル)を形成したノズル列を主走査方向と直行する方向(副走査方向に略平行)に配列し、インク吐出口方向を鉛直下方に向けている。なお、図では独立した複数の液滴吐出ヘッドによる記録ヘッド22を示したが、各色のインク録液を吐出する複数のノズル列を有する1又は複数のヘッドを用いる構成とすることもできる。また、色の数及び配列順序は図示したものに限られない。
記録ヘッド22のインク液滴の吐出機構としては、圧電素子などの圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータなど、液滴を吐出するための圧力を発生する圧力発生手段を備えたものを適宜使用できる。
また、スリットを形成したエンコーダスケール13を主走査方向に沿って設け、キャリッジ21はエンコーダスケール13に沿って移動する。キャリッジ21は、エンコーダスケール13のスリットを検出する主走査エンコーダ52を有し、主走査エンコーダ52がスリットの通過を検出することで、主走査方向におけるキャリッジ21の位置を検知するリニアエンコーダを構成している。
一方、インクジェット記録装置100は、用紙18を搬送するために、用紙18を静電吸着して記録ヘッド22に対向する位置を通過して排紙方向に搬送する搬送ベルト11を備えている。搬送ベルト11は無端状ベルトであり、搬送ローラ19とテンションローラ20との間に張架されて、副走査方向及びその反対方向(両面印刷の場合)に周回する。そして、搬送ベルト11が周回移動しながら帯電ローラ23によって帯電(電荷付与)される。
図2は、インクジェット記録装置100のうち、帯電ローラ23と搬送ベルト11の概略図の一例を示す。図2はインクジェット記録装置100の正面図に相当する。搬送ベルト11は、1層構造のベルトでも良く、又は複層(2層以上の)構造のベルトでもよい。1層構造の搬送ベルト11の場合には、用紙18や帯電ローラ23に接触するので、層全体を絶縁材料で形成している。また、複層構造の搬送ベルト11の場合には、用紙18や帯電ローラ23に接触する側は絶縁層で形成し、用紙18や帯電ローラ23と接触しない側は導電層で形成することが好ましい。
帯電ローラ23は、搬送ベルト11の表層(絶縁層)に接触し、搬送ベルト11の回動に従動して回転する。この帯電ローラ23には、後述するように、HVP(High Voltage Power)41により正負極の高電圧が印可され、これにより搬送ベルト11は周開方向に正極と負極とが帯状に繰り返し帯電する。
給紙トレイから用紙18が1枚ずつ分離して給紙されると、用紙18は搬送ベルト11とカウンタローラとの間に挟まれて搬送され、給紙トレイの奥側から鉛直上方に搬送方向が転換される。
搬送ベルト11は、HVP41により周回方向(副走査方向)に、プラスとマイナスの電荷が所定の幅で帯状に交互に印加されているので、搬送ベルト上に用紙18が給送されると、用紙18が搬送ベルト11に静電力で吸着され、搬送ベルト11の周回移動に伴って用紙18が副走査方向に搬送される。
図3は、インクジェット記録装置100の制御部30のブロック説明図の一例を示す。制御部30は、CPU31等がバスを介して接続されたコンピュータとして実装される。すなわち、CPU31、ROM32、RAM33、NVRAM(Non Volatile RAM)34、RTC37、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)38、I/O39、ホストI/F35、を有する。また、制御部30はインクジェット記録装置100のアクチュエータを制御する、副走査モータ制御部44、駆動波形制御部47、主走査モータ制御部51、維持モータ制御部54、供給モータ制御部56、を有し、各制御部は入出力インターフェイスを介して各アクチュエータと接続されている。また、制御部30には、ユーザとのインターフェイスを提供する操作/表示部36が接続されている。
CPU31は、インクジェット記録装置100の全体を統括的に制御する。CPU31はROM32に記憶されたプログラムを実行して、記録部材への印刷データの形成を実行する。CPU31は、ホストI/F35を介してPC(Pesonal Computer)から受信した印刷データに基づき印刷モード(画質、両面印刷の有無、集約印刷の有無等)を解析し、ASIC38等に印刷を要求する。印刷データは、PC側のプリンタドライバでビットマップデータに展開される場合と、インクジェット記録装置100側で展開される場合があるが、本実施形態ではどちらでもよい。
ROM32は不揮発メモリで実装され、CPU31が実行するプログラム、駆動波形データ等を記憶している。RAM33は、画像データやプログラムを一時格納する、CPU31のメインメモリである。NVRAM34は、インクジェット記録装置100の主電源が遮断されている間もデータを保持するための不揮発性メモリである。
RTC37は、時計用のICであって、電源から電力供給され定期的に時刻をカウントするためのRTC信号を生成し、システム時計(現在時刻)を記憶している。そして、RTC37は主電源が切断された後も、二次電源で駆動しシステム時計を保持している。また、RTC37は、ソフトウェアの動作状態に関係なくRTC信号を生成する。
ASIC38は、印刷データに画像処理を施して、各種信号処理、装置全体を制御するための入出力信号を処理する。ASIC38は、ビットマップデータで階調表現された印刷データにディザ処理などのインクジェット方式に好適な画像処理を施す。そして、印刷データに対応した画素値に応じて各色のインク毎にインク液滴の大きさを決定する。吐出量が3段階(小、中、大)の場合、吐出しない場合を含めて各ノズル毎に4つの状態を指示できればよいので各インク液滴(画素ドット)毎に、2ビットの信号を生成する。また、これらの信号は、記録ヘッド22の主走査方向への走査速度や記録ヘッド22の応答速度に適切な順番に並び替えられる。
また、ASIC38が有するHVP制御部61は、HVPによる高圧出力のON/OFFを制御する。HVP制御部61については詳しくは後述する。
I/O39は、図示しない各種デジタルセンサの入力や、図示しない各種センサからの出力をデジタル値に変換するA/D変換機能を有する。また、上記のホストI/F35は、例えばUSBのインターフェイスである。
操作/表示部36は、電源キー、強制排紙キー、キャンセルキー、反転キー、警告ランプ等、PCがなくても直接、インクジェット記録装置100をユーザが操作できるUI(User Interface)である。この他、LCD(Liquid Crystal Display)等の表示部を有し、エラーメッセージ等を表示できることが好適となる。
駆動波形制御部47は、記録ヘッド22によるインクの吐出を制御するための駆動波形を生成する。駆動波形制御部47は、ASIC38が生成した信号を受信し、信号に対応するROM32に記憶された駆動波形のパターンデータを読み出し、主走査方向の1行に相当する信号に対応した駆動波形を生成する。
そして、記録ヘッド駆動部48は、駆動波形を選択的に記録ヘッド22の圧力発生手段に印加して記録ヘッド22のインク吐出口からインクを吐出する。
主走査モータ制御部51は、CPU31から与えられる目標値と、主走査エンコーダ52が検出したキャリッジ21の位置情報に基づき制御値を決定し、主走査モータ15を駆動することで、主走査方向の位置を制御する。
副走査モータ制御部44は、CPU31から与えられる目標値と、副走査エンコーダ45が検出した搬送ベルト11の位置情報に基づき制御値を決定し、副走査モータ46を駆動することで、搬送ベルト11の副走査方向の位置を制御する。
維持モータ制御部54は、記録ヘッド22が維持ユニットで、ノズルの開口部を外気から遮断した状態で待機する際、記録ヘッド22のノズル開口部のインクの乾燥を防止するため、吸引ポンプや記録ヘッド22のキャップを装着/解除するカム軸を駆動する維持モータ55の制御を行う。
供給モータ制御部56は、インクカートリッジからインクを記録ヘッド22に供給する供給モータ57を制御する。
HVP41は、帯電ローラ23に高圧AC電圧を供給することで、搬送ベルト11を帯電させ静電力を付与し、搬送ベルト11に用紙18を吸着させる。
〔搬送ベルト11の帯電〕
続いて、搬送ベルト11の帯電について詳細に説明する。図4は、インクジェット記録装置100の高圧印加部の上面図を、図5は、インクジェット記録装置100の高圧印加部の側面図をそれぞれ示す。
印字データを受信するとCPU31は、印字データをRAM33に格納し、給紙トレイから用紙18を給紙を開始する。インクジェット記録装置100は、給紙ローラ(半月コロ)と、給紙ローラに対向し摩擦係数の大きな材質からなる分離パッドを有し、給紙トレイから用紙18を1枚ずつ分離給送する。
分離給送に伴い、副走査モータ制御部44は、副走査モータ46を駆動して搬送ベルト11を周回移動させると共に、センサにより用紙18の分離給送を検出し(用紙18の先端を検出し)、副走査エンコーダ45により用紙18の位置を検出する。この位置情報(以下、用紙位置情報という)は、副走査モータ制御部44からASIC38に送出される。
ASIC38が有するHVP制御部61は、副走査エンコーダ45が取得した用紙位置情報に応じて、高圧出力制御信号をHVP41へ送信する。HVP41は、AC高圧電圧を生成し、帯電ローラ23を帯電させる。帯電ローラ23は搬送ベルト11と接しており、搬送ベルト11は帯電ローラ23によって帯電される。
搬送ベルト11の回転に従動して帯電ローラ23が回転しながら、HVP41により正負極の高電圧が交互に印可されるので、図示するように搬送ベルト11は周回方向に正極と負極とが帯状に繰り返し帯電する。
搬送ベルト11上に正負の電化が交互に帯電することで用紙18と搬送ベルト11の間に静電力による吸着力が発生する。また、正負極の電荷が搬送ベルト11に行き渡るので、正負極の電荷を相殺し、用紙18上の表面電位を減少させ、インク液滴の着弾位置のズレやインクミストの逆流の原因となる電界を弱めることができる。
搬送ベルト11上に用紙18が給送されると、用紙18が搬送ベルト11に静電力で吸着され、搬送ベルト11の周回移動に伴って用紙18が副走査方向に搬送される。最終的に、印字データの画像が形成されると用紙18は排紙トレイに排紙される。
〔ピンホールの形成メカニズム〕
ここで、従来の帯電制御ではピンホールが形成されうる点について、図6のフローチャート図に基づき詳細に説明する。
HVP制御部61は、レジスタの設定を参照してHVP41の高圧出力をONにする(S10)。レジスタの設定とは、例えば印刷データを受信したことを示すフラグであり、CPU31によりASIC38の所定のレジスタが設定される。また、HVP制御部61は、HVP41を高圧出力にした際の、副走査エンコーダ45が検出した副走査位置の位置情報を取得する(S20)。副走査位置の位置情報は、搬送ベルト11の基準位置からの副走査方向の変位量が取得可能であればそれを用い、基準位置からの変位量が検出できなければパルスのカウント値を用いる。
従来は、ソフトタイマによって時間の経過を計測するのでソフトタイマによる経過時間を取得する(S30)。HVP制御部61は、一定時間が経過するまで待機し、一定時間が経過すると(S40のYes)、再度、副走査エンコーダ45の副走査位置の位置情報を取得する(S50)。
高圧出力をONした時の位置情報と、今回取得した副走査位置の位置情報を比較する(S60)。両者の差が閾値以上の場合(S60のYes)、副走査モータ46は動作中と判断できるので、HVP制御部61は、高圧出力をONのまま、ステップS60で比較した際の副走査位置の位置情報を記憶する(S20)。このステップS20〜S60の処理の繰り返しにより、搬送ベルト11を帯電させることができる。
一方、ステップS60の判定において、高圧出力をONした時の副走査位置の位置情報と、今回取得した位置情報の差が、閾値未満の場合(S60のNo)、搬送ベルト11が移動していないことになるので、HVP41の高圧出力をOFFにする(S70)。
ついで、HVP制御部61は、高圧出力をOFFにした際の副走査方向の位置情報を取得する(S80)。
そして、再度、ソフトタイマによって時間の経過を計測し(S90)、一定時間が経過するまで待機し、一定時間が経過すると(S100のYes)、再度、副走査エンコーダ45により副走査位置の位置情報を取得する(S110)。
高圧出力をOFFした時の位置情報と、今回取得した副走査位置の位置情報を比較する(S120)。閾値以上の場合(S120のYes)、副走査モータ46は動作中と判断できるので、HVP制御部61は、HVP41による高圧出力をONにする。
閾値未満の場合(S120のNo)、搬送ベルト11は停止状態と判断でき、高圧出力をOFFのままにする。このステップS90〜S120の処理の繰り返しにより、高圧電圧のOFF制御を行う。
以上の一連の処理によりHVP41の高圧出力を制御しているが、ソフト暴走時や処理負荷の大きい動作時の制御を考慮していなかったため、ソフトタイマによる計時や、副走査位置の位置情報の比較に誤判定が生じ、一定位置に帯電を継続する場合があり得る。高圧電圧の局所的な印加により、ピンホールが発生すると、搬送精度、印字精度に影響を与えるため、本実施形態のインクジェット記録装置100は、ピンホール発生を防止するフェールセーフ制御を備える。
〔ソフトカウントを用いない帯電制御〕
ソフトカウントを用いないフェールセーフを実現する回路が副走査エンコーダプリセット回路62である。副走査エンコーダプリセット回路62を用いたフェールセーフ制御について図7のフローチャート図と、図8のカウンタ値の時間変化を示す図により説明する。
まず、HVP制御部61は、レジスタの設定を参照してHVP41による高圧出力をONにする(S210)。そして、HVP41による高圧出力をONにした際に、カウンタにプリセット値を設定する(S220)。カウンタは例えばレジスタであり、副走査エンコーダ45が1つパルスを出力する毎に値が1つずつ減少する。図8に示すように、プリセット値は副走査エンコーダ45のパルスが検出されている間は、カウンタ値が時間の経過と共に減少する。
ところで、副走査エンコーダプリセット回路62は、副走査エンコーダ45のパルスだけでなく、RTC37が出力するRTC信号を取得しており、RTC信号をカウンタしている。これにより、時間計測が可能になっている。
また、OSが起動した状態では、OSはCPUが出力するシステムクロックを元に時間を計測する。したがって、システムクロックを元に短い一定時間Tを計測してもよい。この場合、システムクロック信号では短周期する過ぎることがあるので、システムクロック信号をそのままカウントするのでなく、システムクロック信号を分周した低速クロック単位で時間を計測する。分周する場合、RTC37、HVP制御部61又は不図示の回路がシステムクロック信号を分周する。
副走査エンコーダプリセット回路62は、副走査エンコーダ45からのパルスを検出する毎に、カウンタに記憶された値を1つ減少させる(S230)。
そして、副走査エンコーダプリセット回路62は、一定時間Tが経過すると、カウンタ値が判定閾値Yより小さいか否かを判定する(S240)。判定閾値Yは、プリセット値とソフトウェアが暴走していなければ一定時間Tの間に副走査エンコーダ45が出力するであろうパルス数に基づき、予め定められている。
副走査エンコーダプリセット回路62は、カウンタ値が判定閾値Yより小さい場合(S240のYes)、カウンタをプリセットする(S250)。図8の、正常と示された一定時間Tの間では、カウンタ値が判定閾値Yより小さくなっているので、カウンタは一定時間T毎にプリセットされる。このステップS130〜S150の処理の繰り返しにより、パルスが検出されている間は、カウンタがプリセットされるので、HVP41による高圧出力のON制御が継続される。
ステップS140において、副走査エンコーダプリセット回路62は、RTC信号に基づき一定時間Tが経過したか否かを判定し、一定時間Tが経過してもカウンタ値が判定閾値Y以上の場合(S240のNo)、副走査エンコーダ45がパルスを出力しないこと、すなわち搬送ベルト11が停止していることを検出する(S260)。図8の不良と示した領域では、副走査エンコーダ45のパルスが途中から検出されなくなり、カウンタ値が途中から一定になったまま一定時間Tが経過している。このため、HVP制御部61は、HVP41による高圧出力をOFFにする(S270)。
そして、副走査エンコーダプリセット回路62は、高圧出力をOFFにする際、カウンタにプリセット値を設定する(S280)。
副走査エンコーダプリセット回路62は、副走査エンコーダ45からのパルスを検出する毎に、カウンタに記憶された値を1つ減少させる(S290)。
同様に、副走査エンコーダプリセット回路62は、RTC信号に基づき一定時間Tが経過したか否かを判定し、一定時間Tが経過すると、カウンタ値が判定閾値Yより小さいか否かを判定する(S300)。
カウンタ値が判定閾値Yより小さい場合(S300のYes)、搬送ベルト11が動作開始したと判定し、HVP41による高圧出力をONにする(S320)。
一方、一定時間Tが経過してもカウンタ値が判定閾値Y以上の場合(S300のNo)、カウンタをプリセットする(S310)。したがって、高圧出力はOFFのままとなる。このステップS280〜S320の処理の繰り返しにより、高圧電圧を継続してOFFに制御できる。
以上のように、副走査エンコーダプリセット回路62は、RTC37が出力するRTC信号及び副走査エンコーダ45のパルスをカウントし、カウンタ値を判定閾値Yと比較するだけで構成できるので、ハードウェアのみで搬送ベルト11の停止を検出できる。したがって、ソフトウェアが暴走したり、負荷の大きい処理を実行していても、搬送ベルト11の状態をハード的に検知して、必要なときは高圧出力をOFFにすることができる。
ところで、図7では、HVP41の高圧出力を「ONからOFF」に設定する際、及び、「OFFからON」に設定する際、のいずれにおいても副走査エンコーダプリセット回路62というハードウェアで実装したが、いずれか一方をソフトにより実行してもよい。
図9は、HVP41の高圧出力を「ONからOFF」に設定する際のみ、ハードウェアにより制御するフローチャート図の一例を示す。なお、図9において図7と同一ステップには同一の符号を付しその説明は省略する。
図9では、ステップS210〜S270までの処理しかないが、処理手順は図7と同様である。すなわち、図9では高圧出力OFFからON制御はハードウェア(副走査エンコーダプリセット回路62)により行う。しかしながら、高圧出力OFFからON制御は、ソフトウェアにより実行する。これは、高圧出力OFFからONの制御は、ソフトウェアが暴走等しても搬送ベルト11に局所的な高圧が印可されず実害が少ないからである。このような実装例では、高圧出力し続けてしまう状況を回避しつつ、副走査エンコーダプリセット回路62の回路規模を削減することができる。
なお、高圧出力OFFからONの制御を実行するソフトウェア(プログラム)は、図6のステップS80〜S130を実行するものであり、予めROMに記憶されている。CPU31は、HVC制御部61から高圧出力の「ONからOFF」制御があったことを通知されると、かかるプログラムを起動して高圧出力OFFからONへ制御する。
本実施例では、実施例1で説明したプリセットなしに、局所的な高圧の印可を防止できるインクジェット記録装置100について説明する。
図10は、本実施例のインクジェット記録装置100の制御部30のブロック説明図の一例を示す。なお、図10において図3と同一ステップには同一の符号を付しその説明は省略する。図10において、HVP制御部61はエンコーダパルスカウンタ/時間カウンタ回路(以下、単にETカウンタ回路という)を有する。ETカウンタ回路63は、副走査エンコーダプリセット回路62と同様に、副走査エンコーダ45のパルスをカウントし、RTC37が出力するRTC信号をカウントするが、一定時間Tにおける副走査方向の移動距離と予め記憶する判定閾値Xとを比較して、搬送ベルト11の停止を検出する。すなわち、一定時間の経過毎にカウンタにプリセット値をプリセットする必要がない。
ETカウンタ回路63を用いたフェールセーフ制御について図11のフローチャート図と、図12の副走査方向の移動距離の時間変化を示す図により説明する。
まず、HVP制御部61は、レジスタの設定を参照してHVP41による高圧出力をONにする(S110)。そして、HVP41による高圧出力をONにした際に、副走査位置の位置情報を取得する(S320)。
ETカウンタ回路63は、RTC37が出力するRTC信号により時間を計測して(S330)、一定時間が経過したか否かを判定する(S340)。時間的に平行して、ETカウンタ回路63は副走査エンコーダ45が出力するパルスをカウントする(S335)。すなわち、時間と副走査位置の位置情報を共に得られる。この副走査位置の位置情報は、パルスをカウントするための初期値(=0)としてもよい。パルスをカウントするだけで搬送ベルト11が移動したか否か及び移動距離の情報が得られるからである。
図12に示す正常な領域では、一定時間Tが経過すると副走査方向の移動距離は判定閾値X以上となる。
一定時間Tが経過すると(S340のYes)、ETカウンタ回路63は、副走査エンコーダ45が出力したパルス数に基づき移動距離が判定閾値X以上か否かを判定する(S350)。例えばレジスタに記憶されたステップS320の副走査位置の位置情報と現在の位置情報の差と、判定閾値Xを比較すればよいので、この判定はハードウェア回路により容易に実装できる。このS310〜S360の処理の繰り返しにより、高圧出力のOFF制御が実現できる。
移動距離が判定閾値X以上の場合(S350のYes)、搬送ベルト11が周回移動しているので、高圧出力をON制御のまま、副走査エンコーダ45が検出するパルスから副走査位置の位置情報を取得する(S320)。同様に、パルスのカウンタをゼロに初期化してもよいし、このときのパルス値を記憶しておいてもよい。
移動距離が判定閾値X未満の場合(S350のNo)、搬送ベルト11が停止しているので、HVP制御部61は高圧出力をOFFにする(S360)。図12の不良の領域に示すように、一定時間Tの間の副走査方向の移動距離がX未満だと、高圧出力がOFFになる。これにより、局所的に高圧が印可されることを防止できる。
ついで、HVP41の高圧出力をOFFにした際に、ETカウンタ回路63は副走査位置の位置情報を取得する(S370)。
ETカウンタ回路63は、RTC37が出力するRTC信号により時間を計測して(S380)、一定時間が経過したか否かを判定する(S390)。そして、一定時間Tが経過すると(S390のYes)、ETカウンタ回路63は副走査エンコーダ45が出力するパルスをカウントし現在の副走査位置の位置情報を取得する(S400)。ETカウンタ回路63は、高圧制御をOFFした時からの移動距離が判定閾値X以上か否かを判定する(S410)。
移動距離が判定閾値X以上でない場合(S410のNo)、高圧出力がOFFされたまま、ETカウンタ回路63は、副走査エンコーダ45が検出するパルスから副走査位置の位置情報を取得する(S380)。
移動距離が判定閾値X以上の場合(S410のYes)、HVP制御部61は、高圧制御をONにする(S420)。このステップS370〜S420の処理の繰り返しにより、高圧出力のON制御が実現される。
以上のように、ETカウンタ回路63は、RTC37が出力するRTC信号により一定時間を計測し、副走査エンコーダ45のパルスから移動距離を計測して、搬送ベルト11の状態を検知できるので、ハードウェアのみで搬送ベルト11の停止を検出できる。したがって、ソフトウェアが暴走したり、負荷の大きい処理を実行していても、搬送ベルト11の状態をハード的に検知して、必要なときは高圧出力をOFFにすることができる。
ところで、実施例1と同様に、HVP41の高圧出力の「ONからOFF」への設定と、「OFFからON」への設定、のいずれか一方をソフトにより実行してもよい。
図13は、HVP41の高圧出力を「ONからOFF」に設定する際のみ、ハードウェアにより制御するフローチャート図の一例を示す。なお、図13において図11と同一ステップには同一の符号を付しその説明は省略する。
図13では、ステップS310〜S360までの処理しかないが、処理手順は図11と同様である。すなわち、図13では高圧出力OFFからON制御はハードウェア(副走査エンコーダプリセット回路62)により行う。しかしながら、高圧出力OFFからON制御は、ソフトウェアにより実行する。これは、高圧出力OFFからONの制御は、ソフトウェアが暴走等しても搬送ベルト11に局所的な高圧が印可されず実害が少ないからである。このような実装例では、高圧出力し続けてしまう状況を回避しつつ、副走査エンコーダプリセット回路62の回路規模を削減することができる。
実施例3では、高圧出力のON/OFF制御について説明したが、本実施例では帯電後の用紙18の給送制御について説明する。搬送ベルト11の傷や汚れのない部分にのみ帯電させても、用紙18を給送する際には帯電された部位が給紙トレイに接近したタイミングで吸着させる必要がある。
本実施例では、新たに給紙モータに給紙の開始を指示するトリガ信号を供給する。トリガ信号により給紙モータが給紙を開始することで、搬送ベルト11の帯電された部位に用紙18を吸着できる。
図17は、インクジェット記録装置100の制御部30のブロック説明図の一例を、図18(a)(b)はインクジェット記録装置100の側面図の一例をそれぞれ示す。図17において図14と同一部には同一の符号を付しその説明は省略し、図18(a)(b)において図5と同一部には同一の符号を付しその説明は省略する。
図17のインクジェット記録装置100のHVP制御部61は、給紙開始指示回路65を有する。給紙開始指示回路65について説明する。図18(a)に示すように、搬送ベルト11に傷や汚れが点在している場合、この部位を避けて用紙18を搬送ベルト11に吸着させる。用紙18の搬送領域が限られるため、用紙18の給送までに時間がかかるが、吸着力が確保できるので、用紙18の凹凸が低減され印字精度が向上する。
図18(b)に示すように、傷Kの直後から搬送ベルト11を帯電させる場合を考える。実施例3で説明した特定部位検出回路64により傷Kの位置は検出されているので、HVP制御部61は傷Kの直後から搬送ベルト11を帯電させる。図では、帯電ローラ23から移動距離aの長さに渡り、正極と負極の交互に帯電されている。
一方、用紙18の先端は、移動距離aの起点(すなわち傷Kの直後)から搬送ベルト11に吸着されることが好ましい。したがって、搬送ローラ19が帯電ローラ23から移動距離aだけ移動する時間に基づき、用紙18が給紙モータトレイから移動距離bだけ移動するように、トリガ信号を給紙モータに供給すればよい。これにより、用紙18を傷Kの直後から吸着できる。帯電ローラ23が搬送ベルト11を帯電するタイミングは傷Kの位置により定まってしまうので、給紙モータにトリガ信号を供給するタイミングを制御する。
図19は、給紙モータにトリガ信号を供給するタイミングを定めるタイミングチャートの一例を示す図である。時刻t1で給紙モータにトリガ信号を供給すると、時刻t2までの時間Tbの間に用紙18が移動距離bだけ移動する。このとき、時刻t2では搬送ローラ19が移動距離aだけ移動していなければならない。
傷Kの手前から帯電させるため、HVP制御部61が高圧出力をON制御した時から時刻t2までの移動距離aを、搬送ベルト11が移動する時間をTaとする。傷Kが帯電ローラ23を通過してからの移動距離aは、搬送速度と時間により一意に決定されるので、搬送ベルト11が移動距離aだけ移動する時間Taも一意に定まる。また、給紙ローラを駆動する給紙モータにトリガ信号を供給してから、用紙18の先端が搬送ローラ19に到着するまでの移動距離bは固定値としてよいので、移動距離bを移動する時間Tbは給紙モータの給送速度により一意に定まる。
時間Ta、Tbは上記のように既知であるので、「時間Tb−時間Ta」が算出でき、高圧出力のON制御から「時間Tb−時間Ta」だけ遡った時刻が時刻t1に対応する。以上から、給紙開始指示回路65は、高圧出力をON制御する時刻から「時間Tb−時間Ta」だけ遡った時刻になると、トリガ信号を給紙モータに供給する。
高圧出力をON制御する時刻は、RAM33に記憶された傷や汚れの位置情報と搬送ベルト11の搬送速度から算出される。例えば、図18(b)の汚れGの直後から帯電する場合、距離L(RAM33の位置情報から明らか)と、搬送速度V(既知)から高圧出力がONになるまでの時間(L/V)が明らかとなり、その時間(L/V)から「時間Tb−時間Ta」だけ手前の時刻に、給紙開始指示回路65は、トリガ信号を給紙モータに供給する。
図20は、HVP制御部61が高圧をONするタイミングを制御する手順を示すフローチャート図の一例である。
インクジェット記録装置100が起動すると、特定部位検出回路64は搬送ベルト11を間欠的に空回し(S510)、停止した間に光学センサ59を主走査方向に走査することを繰り返し、搬送ベルト11の全周の傷や汚れを検出する(S520)。特定部位検出回路64は、基準位置を基準に傷や汚れの位置をRAM33に記憶する。
ついで、印字動作が始まると(S530)。HVP制御部61はRAM33に傷や汚れの位置情報を読み出し、給紙開始指示回路65は、傷や汚れがあるか否かを判定する(S540)。傷等がない場合(S540のNo)、傷等を避けた帯電制御が不要なので、給紙開始指示回路65はタイミングを制御することなくトリガ信号を給紙モータに供給する(S550)。
また、傷等がある場合(S540のYes)、給紙開始指示回路65は、傷や汚れの位置と搬送ベルト11の搬送速度から高圧出力がON制御されるまでの時間を算出し、それと時間Ta、Tbからトリガ信号を供給するタイミングを決定する(S560)。
そして、HVP制御部61は、実施例3と同様に傷等の有無に応じて高圧の印加をON/OFFする(S570)。
以上の制御により、搬送ベルト11上の傷や汚れを回避して、高圧出力でき、高圧出力した部分に用紙18が吸着されるように給紙のタイミングを制御できる。搬送ベルト11に用紙18を密着させることができるので印字精度が向上する。