以下、本発明に係る液晶性樹脂組成物及びその成形体の一実施形態を説明する。
[1]液晶性樹脂組成物
本実施形態の液晶性樹脂組成物は、液晶性樹脂と、充填材としてのノイブルグ珪土とを含んでいる。さらに、本実施形態の液晶性樹脂組成物には、他の充填材を充填することも可能である。以下、これらの材料及び成形方法の一実施形態について詳述する。
<ノイブルグ珪土>
まず、ノイブルグ珪土について詳述する。
ノイブルグ珪土は、板状カオリナイトと球状非晶質シリカとから成る合体構造物である。ノイブルグ珪土は、例えばホフマン・ミネラル社(Hoffmann Mineral GmbH & Co. KG)等から、シリチン、シリコロイド、アクティジルなどの名称で、様々な粒径のものや、化学的表面処理を施したもの等が、入手できる。
本実施形態で使用されるノイブルグ珪土の平均粒径は、0.1μm〜90μmが好ましく、0.5〜10μmがより好ましく、また、1.5〜5.μmがさらに好ましい。ノイブルグ珪土の充填量等については、後述する。
<液晶性樹脂>
次に、本実施形態に好適な液晶性樹脂について、詳述する。
液晶性樹脂とは、溶融時に光学異方性を示し、500℃以下の温度で異方性溶融体を形成する高分子をいう。この光学的異方性は、直交偏光子を利用した通常の偏光検査法によって、確認することができる。液晶性樹脂は、その分子内に、分子形状が細長く、扁平で、且つ、分子の長鎖に沿って剛性が高い分子鎖(以下、剛性が高い分子鎖を「メソゲン基」と呼ぶことがある)を有する。液晶性樹脂は、このようなメソゲン基を主鎖又は側鎖のいずれか一方又は両方に有する高分子である。耐熱性が非常に高い成形体を得たい場合には、高分子主鎖としてメソゲン基を有するものを液晶性樹脂として使用することが、好ましい。
本実施形態に好適な液晶性樹脂としては、例えば液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド、液晶ポリエステルエーテル、液晶ポリエステルカーボネート、液晶ポリエステルイミド、液晶ポリアミド等が挙げられる。これらの中でも、高強度の成形体を得るためには、特に液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド又は液晶ポリアミドが好ましい。
具体的には、以下の(a)〜(c)の組成物を少なくとも一種類以上含む液晶性樹脂が好ましい。
(a)構造単位(I)及び/又は構造単位(II)を含む液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド又は液晶ポリアミド
(b)構造単位(I)及び構造単位(II)から選ばれる構造単位を含み、構造単位(III)を含み、且つ、構造単位(IV)を含む液晶ポリエステル又は液晶ポリエステルアミド
(c)構造単位(I)及び構造単位(II)から選ばれる構造単位を含み、構造単位(III)を含み、且つ、構造単位(IV)、構造単位(V)及び構造単位(VI)から選ばれる構造単位を含む、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド又は液晶ポリアミド
ここで、Ar1、Ar2、Ar5及びAr6は、それぞれ独立に、2価の芳香族基を表す。また、Ar3及びAr4は、それぞれ独立に、芳香族基、脂環基及び脂肪族基から選ばれる2価の基を表す。なお、前記芳香族基にある芳香環上の水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基又は炭素数6〜10のアリール基で置換されていてもよい。ここで、脂環基とは脂環式化合物から水素原子を2つ取り去って得られる基を意味し、脂肪族基とは脂肪族化合物から水素原子を2個取り去って得られる基を意味する。
以下、上述の各構造単位(I)〜(VI)について、詳細に説明する。最初に、構造単位(I)、(II)、(V)及び(VI)を説明する。
上述の構造単位(I)、(II)、(V)及び(VI)において、Ar1、Ar2、Ar5及びAr6に係る芳香族基は、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニレン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルホン、ジフェニルケトン、ジフェニルスルフィド、ジフェニルメタン等の、単環芳香族化合物、縮合環芳香族化合物及び複数の芳香環が2価の連結基(単結合を含む)で連結された芳香族化合物からなる群より選ばれる芳香族化合物から、芳香環に結合している水素原子を2つ取り去って得られる基である。好適な芳香族基としては、2,2−ジフェニルプロピリデン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、2,6−ナフタレンジイル基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群より選ばれる2価の芳香族基を挙げることができる。このような基を芳香族基として有する液晶性樹脂は、機械強度が優れているという長所を有する。
構造単位(I)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位である。芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、7−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシビフェニル−4−カルボン酸を挙げることができる。さらには、これらの芳香族ヒドロキシカルボン酸にある芳香環上の水素原子の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ヒドロキシカルボン酸も、本実施形態で使用できる。なお、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基などの炭素数1〜6の直鎖、分岐又は脂環状のアルキル基が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、イソプロピオキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などの、直鎖、分岐又は脂環状のアルコキシ基が挙げらる。アリール基としてはフェニル基やナフチル基が挙げられる。また、ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。
構造単位(II)は、芳香族アミノカルボン酸から誘導される構造単位である。芳香族アミノカルボン酸としては、4−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸を挙げることができる。さらには、これら芳香族アミノカルボン酸にある芳香環上の水素原子の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はハロゲン原子に置換されてなる芳香族アミノカルボン酸が挙げられる。ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の具体例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸の置換基として例示したもの(上述)と同じものを挙げることができる。
構造単位(V)は、芳香族ヒドロキシアミンから誘導される構造単位である。芳香族ヒドロキシアミンとしては、4−アミノフェノール、3−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、4−アミノ−4’ヒドロキシジフェニルを挙げることができる。さらには、これら芳香族ヒドロキシアミンにある芳香環上の水素原子の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてる芳香族ヒドロキシアミンが挙げられる。ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の具体例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸の置換基として例示したもの(上述)と同じものを挙げることができる。
構造単位(VI)は、芳香族ジアミンから誘導される構造単位である。芳香族ジアミンとしては、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノフェニルスルフィド(すなわちチオジアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(すなわち、オキシジアニリン)を挙げることができる。さらには、これらの芳香族ジアミンにある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる香族アミノカルボン酸、上述の各芳香族ジアミンの1級アミノ基に結合している素原子がアルキル基に置換されてなる芳香族ジアミンが挙げられる。ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の具体例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸の置換基として例示したもの(上述)と同じものを挙げることができる。
次に、構造単位(III)及び(IV)について詳述する。
上述の構造単位(III)及び(IV)において、Ar3及びAr4としては、Ar1、Ar2、Ar5及びAr6で説明した芳香族基に加えて、炭素数1〜9の飽和脂肪族化合物から水素原子を2つ取り去って得られる2価の脂肪族基や2価の脂環基から選ばれる基を挙げることができる。
構造単位(III)は、芳香族ジカルボン酸あるいは脂肪族ジカルボン酸から誘導される基である。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’’−トリフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニルエーテル−3,3’−ジカルボン酸を挙げることができる。さらには、これら芳香族ジカルボン酸にある芳香環上の水素原子の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はハロゲン原子に置換されてなる芳族ジカルボン酸が挙げられる。
上述の脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、及び、トランス−1,4−(すなわち1−メチル)シクロヘキサンジカルボン酸、トラシス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を挙げることができる。さらには、これらの脂肪族ジカルボン酸にある脂肪族基又は脂環基の水素原子の一部又は全部がアルキル基、アルコキシ基、アリール基又はハロゲン原子に置換されてなる脂肪族ジカボン酸が挙げられる。
なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の具体例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸の置換基として例示したもの(上述)と同じものを挙げることができる。
構造単位(IV)は、芳香族ジオールあるいは脂肪族ジオールから誘導される基である。芳香族ジオールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレン−2,6−ジオール、4,4’−ビフェニレンジオール、3,3’−ビフェニレンジオール、4,4’−ジヒロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンを挙げることができる。さらには、これら芳香族ジオールにある芳香環上の水素原子の一部又は全部がアルキル基、アルコキシ基、アリール基又はハロゲン原子に置換されてなる芳香族ジオールが挙げられる。
上述の脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、トランス−1,4−シクロヘキサンジオール、シス−1,4−シクロヘキサンジオール、トランス−1,4−シクロヘキサンジメタノール、シス−1,4−シクロヘキサンジメタノール、トランス−1,3−シクロヘキサンジオール、シス−1,2−シクロヘキサンジオール、トランス−1,3−シクロヘキサンジメタノールを挙げることができる。さらには、これらの脂肪族ジオールにある脂肪族基又は脂環基の水素原子の一部又は全部がアルキル基、アルコキシ基、アリール基又はハロゲン原子に換されてなる脂肪族ジオールが挙げられる。
なお、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子の具体例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸の置換基として例示したもの(上述)と同じものを挙げることができる。
上述の好適な液晶性樹脂の例において、(b)又は(c)は、構造単位(III)と構造単位(IV)に脂肪族基を有する場合がある。この場合、液晶性樹脂に対する脂肪族基の導入量は、かかる液晶性樹脂が液晶性を発現し得る範囲で選択され、さらには、かかる液晶性樹脂の耐熱性を著しく損なわない範囲で選択される。本実施形態に適用する液晶性樹脂において、2価の芳香族基の総和は、液晶分子に含まれるAr1〜Ar6の総和を100モル%としたときに、60モル%以上とすることが好ましく、75モル%以上とすることがより好ましく、90モル%上ですることがさらに好ましく、100モル%とすることが最も好ましい。
上述した好適な全芳香族液晶性樹脂(a)〜(c)の中でも、(a)の液晶ポリエステル又は(b)の液晶ポリエステルが好ましく、(b)の液晶ポリエステルが特に好ましい。さらに、(b)の液晶ポリエステルを、下記(I-1)及び/又は(I-2)の芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位と、下記(III-1)、(III-2)及び(III-3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸から誘導される構造単位と、下記(IV-1)、(IV-2)、(IV-3)及び(IV-4)からなる群より選ばれる少なくとも1種の芳香族ジオールから誘導される構造単位とによって構成することが好ましい。このような液晶ポリエステルには、成形性、耐熱性、機械強度及び難燃性といった特性がいずれも高水準の成形体が得られやすいという利点がある。
次に、好適な液晶性樹脂を製造する方法について説明する。
本実施形態の液晶性樹脂は、上述した(a)〜(c)に対応する原料モノマーをそれぞれ作製して、これら原料モノマーを公知の方法で重合することにより、製造できる。
ここで、(a)の原料モノマーとしては、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び/又は芳香族アミノカルボン酸を使用できる。
(b)の原料モノマーとしては、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び/又は芳香族アミノカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸及び/又は脂肪族ジカルボン酸と、芳香族ジオール及び/又は脂肪族ジオールとを使用できる。
また、(c)の原料モノマーとしては、芳香族カルボン酸及び/又は芳香族アミノカルボン酸と、芳香ジカルボン酸及び/又は脂肪族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、脂肪族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を使用できる。
好適な液晶性樹脂を得るためには、上述の(b)に示した液晶ポリエステルにおいて、例えば芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとを原料モノマーとして用いた重合を行うことが望ましい。
液晶性樹脂を製造する際には、上述のように、原料モノマーを直接重合してもよい。但し、重合をより容易にするためには、原料モノマーの一部をエステル形成性誘導体及び/又はアミド形成性誘導体(以下、これらの誘導体をまとめて「エステル・アミド形成性誘導体」ということがある)に転換したあとで、重合することが好ましい。エステル・アミド形成性誘導体とは、エステル生成反応又はアミド生成反応を促進するような基を有する化合物を意味する。具体的には、モノマー分子内のカルボキシル基を、ハロホルミル基、酸無水物基又はエステル基に転換してなるエステル・アミド形成性誘導体や、モノマー分子内のフェノール性水酸基及びフェノール性アミノ基をそれぞれエステル基又はアミド基に転換したエステル・アミド形成性誘導体等が挙げられる。
以下、上述の(b)に示した液晶ポリエステルを、原料モノマーの一部をエステル・アミド形成性誘導体に転換して重合を行うことにより製造する方法について、簡単に説明する。このような液晶ポリエスル製造方法は、例えば、特開2002−146003号公報に開示されている。かかる製造工程では、まず、脂肪酸無水物、好ましくは無水酢酸を用いて、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールのフェノール性水酸基をアシル基に転換してなるアシル化物を、製造する。次いで、このようにして得られたアシル化物のアシル基と、アシル化芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のカルボキシル基とが、エステル交換を生じるようにして、脱酢酸重縮合させる。これにより、液晶ポリエステルが製造される。かかる脱酢酸重縮合は、反応温度150〜400℃、反応時間0.5〜8時間という重合条件による溶融重合によって、実施できる。この溶融重合により、比較的分子量が低い液晶ポリエステル(以下、「プレポリマー」という)が得られる。液晶ポリエステル自身のさらなる特性向上のためには、このプレポリマーをさらに高分子量化させることが好ましく、また、この高分子量化には固相重合を行うことが好ましい。固相重合とは、プレポリマーを粉砕して粉末状にし、得られた粉末状プレポリマーを固相状態のまま加熱する重合方法である。このようにして固相重合を行うと、重合がより進行して、液晶ポリエステルの高分子量化を図ることができる。
<液晶性樹脂組成物>
本実施形態の液晶性樹脂組成物では、ノイブルグ珪土の充填量を、液晶性樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上150質量部以下とすることが好ましく、1質量部以上70質量部以下とすることがよりに好ましく、20質量部以上50質量部以下とすることが特に好ましい。ノイブルグ珪土の使用量が少なすぎると、得られる成形体の異方性が大きくなってしまう(すなわち、本発明の効果を十分に得られなくなってしまう)。その一方で、ノイブルグ珪土の使用量が多すぎると、液晶性樹脂組成物の成形加工性が悪化し易くなるとともに、得られる成形体の機械的強度が低下して脆くなる傾向がある。
本実施形態に係る液晶性樹脂組成物は、種々の公知の方法によって、調製することができる。例えば、液晶性樹脂及びノイブルグ珪土を、ヘンシェルミキサーやタンブラー等を用いて混合することで、本実施形態の液晶性樹脂組成物を得ることができる。また、押出機を用いて液晶性樹脂を加熱溶融させ、その後で、ノイブルグ珪土を投入して溶融混練することにより、本実施形態の液晶性樹脂組成物を、ペレット状の樹脂組成物(すなわち組成物ペレット)として得ることもできる。さらには、これらの方法を組み合わせてもよい。すなわち、熱可塑性樹脂及びノイブルグ珪土を、ヘンシェルミキサーやタンブラー等を用いて混合し、さらに、押出機を用いてこの混合物を溶融混練することで、本実施形態の液晶性樹脂組成物を組成物ペレットとして得ることもできる。いずれの方法でも本実施形態の液晶性樹脂組成物を得ることができるが、本実施形態の製造方法としては、押出機を用いて加熱溶融を行う方法が、特に好ましい。ペレット化した方が、後の成形工程での取り扱いが容易になるからである。なお、押出機としては、2軸の混練押出機を用いることが好ましい。
組成物ペレットを製造する方法としては、全ての液晶性樹脂を加熱溶融し、その後で、溶融した液晶性樹脂に全てのノイブルグ珪土を充填して溶融混練する方法を採り得る。また、他の組成物ペレット製造方法として、一部の液晶性樹脂のみを全てのノイブルグ珪土と混合し、次に、この混合物に残りの液晶性樹脂を加えて溶融混練し、さらに、この溶融物を押し出すことでストランド(すなわち紐状の組成物)を作製し、最後に、このストランドを一定長さに切断する方法がある。後者の方法には、液晶性樹脂を複数回に分けて使用するので、ノイブルグ珪土を液晶性樹脂中で均一に分散させ易いという利点がある。
本実施形態の液晶性樹脂組成物には、本実施形態の目的を著しく損なわない範囲内であれば、ノイブルグ珪土に加えて他の目的の充填材(すなわち機械的強度等の他の特性を向上させるための充填材)を使用してもよい。そのような充剤材としては、繊維状充填材、板状充填材、粉状充填材、異形充填材、ウイスカー、着色成分、潤滑剤、各種界面活性剤、酸化防止剤や熱安定剤、その他の各種安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等が使用できる。繊維状充填材としては、例えば、ガラス繊維、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、シリカアルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維等が挙げられる。板状充填材としては、例えば、タルク、マイカ、グラファイト等が挙げられる。粉状充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ硫酸バリウム、酸化チタン、カーボンブラック、導電カーボン、微粒シリカ等が挙げられる。異形充填材としては、例えば、ガラスフレーク、異形断面ガラス繊維等が挙げられる。これらの充填剤は、一種類のみ使用してもよいし、二種類以上を組み合わせて使用してもよい。その使用量は、液晶性樹脂100重部に対して、好ましくは0〜250質量部、より好ましくは0〜150質量部、さらに好ましくは0〜100質量部、最適には0〜70質量部である。
<液晶性樹脂組成物の成形方法>
本実施形態に係る液晶性樹脂組成物によれば、収縮率の異方性が非常に小さく且つフィブリル化し難い成形体を得ることができる。この効果は、樹脂組成物の分子鎖の方向が揃い易い成形法を用いる場合ほど、顕著である。例えば、射出成形法は、複雑な形状の成形体を作製し易いという利点や生産性が高いという利点を有する反面、流動方向が一定であるために分子鎖の方向が揃い易いので収縮率の異方性が大きく且つフィブリル化し易いという欠点を有する。これに対して、本実施形態の液晶性樹脂組成物を用いて射出成形を行う場合、従来の液晶性樹脂組成物を用いた射出成形と比較して、非常に大きい効果を得ることができる。
但し、本実施形態の液晶性樹脂組成物は、他の溶融成形法を用いて成形体を作製する場合にも、使用することができる。例えば、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、Tダイを用いたフィルム成形、インフレーション成形等のフィルム製膜、溶融紡糸等にも、本実施形態の液晶性樹脂組成物を使用できる。
以下、本実施形態の液晶性樹脂組成物から上述のような組成物ペレットを作製し、この組成物ペレットを用いて射出成形を行う場合について、詳述する。
まず、組成物ペレットの流動開始温度FT(℃)を求める。流動開始温度とは、射出成形機の可塑化装置内で組成物ペレットが溶融する温度を表し、通常は液晶性樹脂組成物自体の流動開始温度である。なお、流動開始温度は、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用い、9.81MPa(100kgf/cm2)の荷重の下、4℃/分の昇温速度で加熱溶融体を該ノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(4800ポイズ)となる温度を測定することにより、知ることができる。このような流動開始温度は、液晶性樹脂の技術分野では該液晶性樹脂の分子量を表す指標として、周知である(小出直之編、「液晶性ポリマー−合成・成形・応用−」、95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。流動開始温度を測定する装置としては、例えば、株式会社島津製作所製の流動特性評価装置である「フローテスターCFT−500D」を用いることができる。
射出成形では、組成物ペレットをFT(℃)〜FT+100(℃)の樹脂溶融温度で溶融させ、この溶融物を0℃以上の温度に設定された金型に射出することが好ましい。なお、組成物ペレットは、射出成形に供する前に、十分に乾燥させておくことが好ましい。
樹脂溶融温度がFT(℃)よりも低い場合は、組成物ペレットが十分に溶融していないために、溶融物の流動性が低くなって微細な形状の成形体を作製し難くなったり、金型面への転写性が低くなって成形体表面が荒れたりする。一方、樹脂溶融温度がFT+100(℃)よりも高い場合、成形の途中で液晶性樹脂の分解が発生するために成形体に膨れ状の外観異常が生じたり、液晶性樹脂の分解物がガス化するために脱ガス等の現象が発生したりするおそれがある。さらに、樹脂溶融温度がFT+100(℃)よりも高い場合、射出成形後に金型を開いて成形体を取り出す際にノズルから溶融樹脂が流れ出てしまうといった不都合も生じやすく、このために成形体の生産性が低下するおそれがある。成形体の安定性と成形性(すなわち生産性)を考慮すると、樹脂溶融温度は、FT+10(℃)〜FT+80(℃)であることがより好ましく、FT+15(℃)〜FT+60(℃)であることがさらに好ましい。
上述のように、通常、金型温度は0℃以上に設定される。かかる金型温度は、成形体の寸法、機械物性、生産性(具体的には加工性や成形サイクル等)を考慮して決定される。これらを考慮すれば、この金型温度は、40℃以上とすることが好ましい。金型温度が40℃を下回ると、連続成形する場合に該金型温度の制御が困難となって温度ばらつきが生じ、成形体に悪影響を及ぼすおそれがある。さらには、この金型温度は、70℃以上とすることが、より好ましい。金型温度が70℃よりも低い場合、成形体の表面平滑性が損なわれるおそれがある。表面平滑性を良好にするためには金型温度が高いほど良い。但し、金型温度が高すぎると、冷却に要する時間が長くなって生産性が低下したり、冷却後の取り出し時に成形体が金型から離れ難くなって該成形体が変形したりするといった欠点が生じる。また、金型温度が高すぎると、金型どうしの噛み合いが悪くなって、金型の開閉時に金型自体が破損する可能性が増大する。加えて、金型温度の上限は、液晶性樹脂の分解を防止できるように、使用される液晶性樹脂組成物の種類に応じて判断することが好ましい。液晶性樹脂が全芳香族ポリエステルの場合、金型温度は70℃〜220℃が好ましく、130℃〜200℃がより好ましい。
上述したように、本実施形態によれば、液晶性樹脂組成物にノイブルグ珪土を充填することによって、収縮率の異方性が少なく且つフィブリル化し難い成形体を得ることができる。このような効果が得られるメカニズムは明らかではないが、本発明者等は以下のように推測している。
上述のように、溶融した液晶性樹脂を射出成形したとき、かかる溶融液晶性樹脂は、金型表面でせん断を受けるために、大きく配向する(すなわち分子鎖の方向が揃った状態になる)。その結果、収縮率の異方性が生じることになる。液晶性樹脂では、分子鎖自体の配向性が、非常に強い。加えて、液晶性樹脂は、冷却固化速度が速い反面で緩和時間が長いといった特徴がある。このため、成形体における液晶配向性は、非常に強くなる。
これに対して、本実施形態の液晶性樹脂組成物では、以下の理由により、配向性が低下する。
上述のように、ノイブルグ珪土は、板状カオリナイトと球状非晶質シリカとから成る合体構造物である。このため、ノイブルグ珪土を含む液晶性樹脂組成物では、異方性を持った板状物質が球状物質に対してランダムな物理的結合を行うことで、異方性を低下させている。加えて、板状物質と球状物質との結合体であるというノイブルグ珪土の独特な構造のために、金型のキャビティを溶融液晶性樹脂が流れる際のせん断配向が阻害される。このため、成形体中の分子鎖の配向が阻害されて異方性が小さくなり、したがって、成形体の収縮率の異方性も小さくなる。
なお、本発明者等の検討結果によれば、液晶性樹脂組成物にノイブルグ珪土を充填しても、機械的強度や耐熱性等の他の特性は殆ど悪化しない。すなわち、本実施形態によれば、液晶性樹脂の利点を損なうこと無しに、収縮の異方性を低減することができる。
また、本発明者等の検討結果によれば、液晶性樹脂組成物にノイブルグ珪土を充填することにより、射出成形体の表面剥離の問題が大きく改善されることが判明した。これは、以下のような理由によると推測される。
液晶性樹脂の成形体では、通常、その表面に、スキン層と呼ばれる特有の層が形成され易い。このスキン層では、液晶性樹脂が、特に強く配向している。このため、従来の液晶性樹脂成形体では、弱く擦っただけでも表面剥離が発生して、繊維状のフィブリルが毛羽立つ場合がある。表面剥離は、例えばテープ剥離試験(すなわち成形体の表面にテープを張って剥がす操作)を繰り返すことにより、目視で観察できる。このような表面剥離は、従来、液晶性樹脂組成物を用いた射出成形体の欠点の一つであった。
これに対して、本実施形態の成形体では、このような表面剥離の発生が大きく抑制される。本実施形態によって耐剥離性が向上するのは、ノイブルグ珪土の板状カオリナイトが成形体の表面に露出するために、いわゆるアンカー効果が生じて表面強度が増すからであると思われる。
<成形体の用途>
本実施形態の液晶性樹脂組成物は、電気・電子部品や光学部品等の成形に好適である。かかる電気・電子部品や光学部品としては、例えば、コネクター、ソケット、リレー部品、コイルボビン、光ピックアップ、発振子、プリント配線板、回路基板、半導体デバイスのパッケージ、コンピュータ関連部品、カメラの鏡筒、光学センサーの筐体、コンパクトカメラのモジュール筐体(例えばパッケージや鏡筒等)、プロジェクター光学エンジンの構成部材、半導体製造プロセスの関連部品(例えばICトレーやウエハーキャリヤー等)、家庭電気製品の部品(例えばVTR、テレビ、アイロン、エアーコンディショナー、ステレオ、掃除機、冷蔵庫、炊飯器、照明器具等の部品)、照明器具の部品(例えばランプリフレクター、ランプホルダー等)、音響製品の部品(例えばコンパクトディスク、レーザーディスク(登録商標)、スピーカー部品等)、通信機器の部品(例えば光ケーブル用フェルール、電話機の部品、ファクシミリの部品、モデムの部品等)等を挙げることができる。
また、その他の用途、例えば、複写機・印刷機の関連部品(例えば分離爪、ヒータホルダー等)、機械部品(例えばインペラー、ファン歯車、ギヤ、軸受け、モーター部品及びケース等)、自動車の部品(例えば自動車用機構部品、エンジン部品、エンジンルーム内部品、電装部品、内装部品等)、調理用器具(例えばマイクロ波調理用鍋、耐熱食器等)、建築資材又は土木建築用材料(例えば床材や壁材等の断熱・防音用材料、梁・柱等の支持材料、屋根材等)、航空機・宇宙機・宇宙機器用部品、原子炉等の放射線施設部材、海洋施設部材、洗浄用治具、光学機器部品、バルブ類、パイプ類、ノズル類、フィルター類、膜、医療用機器部品及び医療用材料、センサー類部品、サニタリー備品、スポーツ用品、レジャー用品に用いることができる。
このように、様々な用途に本実施形態の樹脂成形体を使用することができる。本実施形態は、表面剥離に対する耐性が優れることから、成形体からのパーティクル(粉塵)の脱落が不良の原因となりやすいもの、例えば接点部品(スイッチやリレー等)や光学センサー部品、カメラ部品などに、特に好適である。
以下、本発明の一実施例について説明するが、本発明は、本実施例に限定されるものではない。
<評価サンプルの製造>
本実施例では、以下のようにして、評価サンプルを作製した。
本実施例の液晶性樹脂として、液晶ポリエステルを使用した。液晶ポリエステルは、以下のようにして作製した。
反応器としては、攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えたものを使用した。
まず、このような反応器に、パラヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)、無水酢酸1347.6g(13.2モル)及び1−メチルイミダゾール0.194gを仕込んだ。そして、室温で15分間攪拌して反応器内を十分に窒素ガスで置換し、さらに、攪拌しながら昇温した。そして、反応器内の温度が145℃となったところで、この温度を保持したまま1時間攪拌した。その後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点まで反応させた。これにより、プレポリマーが得られた。かかるプレポリマーの流動開始温度は、261℃であった。
次に、このプレポリマーを室温まで冷却し、さらに祖粉砕機で粉砕することにより、液晶ポリエステルの粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)を得た。そして、窒素雰囲気下で室温から250℃まで1時間かけて昇温し、さらに、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、その後、285℃で3時間保持することにより、固相重合を行った。このようにして得られた液晶ポリエステルの流動開始温度は、327℃であった。
次に、この液晶ポリエステルに表1に示されたような充填材をそれぞれ充填し、さらに、二軸押出機(本実施例では、池貝鉄工株式会社製PCM−30)を用いて、シリンダー温度350℃で造粒した。これにより、実施例サンプル1、2及び比較例サンプル1〜4に対応する、六種類の組成物ペレットを得た。
ここで、本実施例では、ノイブルグ珪土として、ホフマン・ミネラル社(Hoffmann Mineral GmbH & Co. KG)製のシリチンV−85を使用した。かかるノイブルグ珪土は、平均粒子径D50(レーザー回折法)が4.0μm、嵩密度(DIN ISO903−1976)が0.35g/cc、吸油量(DIN ISO787−5)が45g/100g、比表面積(DIN 66 131/66 132)が9m2/gである。
また、ガラス繊維としては、セントラル硝子株式会社製のEFH75−01(平均繊維長75μm)を用いた。さらに、タルクとしては日本タルク株式会社製のX−50、カーボンブラックとしては三菱化学株式会社製のカーボンブラックCB#45を用いた。なお、カーボンブラックは、着色剤である。
その後、上述のようにして得られた組成物ペレットを、乾燥させた後、射出成形機(本実施例では、日精樹脂工業株式会社製のPS40E−5ASE)を用いて射出成形した。これにより、実施例1、2及び比較例1〜4のそれぞれについて、評価サンプルを成形した。
<サンプルの評価試験>
次に、このようにして得られた成形品について、異方性及び耐剥離性を評価した。
異方性の評価では、外形寸法が64×64×3mmの成形品を使用した。ここでは、実施例1、2及び比較例1〜4に対応する成形品すべてについて、評価を行った。この評価では、まず射出成形時に溶融樹脂が流れる方向(MD)の収縮率とそれに直角な方向(TD)との収縮率とを測定し、さらにこれら収縮率の比TD/MDを演算した。従って、TD/MDが1.0から離れているほど、異方性が大きいことになる。異方性の評価結果を、表2に示す。
耐剥離性の評価では、外形寸法が64×64×1mmの成形品を使用した。ここでは、実施例2及び比較例2に対応する成形品のみについて、評価を行った。この評価では、成形品の表面全長にわたってテープを貼った後でそれを素早く引き剥がすという作業を、30回繰り返した。テープとしては、ニチバン株式会社製のセロテープ(登録商標)である、CT−18を使用した。また、テープを貼る方向は、上述のMD及びTDの両方向とした。この作業の後で、成形品に表面剥離(すなわちフィブリル)が発生しているかどうかを、目視で観察した。耐剥離性の評価結果を、表3に示す。
表2から解るように、液晶ポリエステル100質量部に対してノイブルグ珪土を42質量部充填した成形品(すなわち実施例1)は、同量のガラス繊維を充填した成形品(すなわち比較例1)や、充填材がカーボンブラックのみの成形品(すなわち比較例4)と比べて、異方性が低減された。また、液晶ポリエステル100質量部に対してノイブルグ珪土を67質量部充填した成形品(すなわち実施例2)は、同量のガラス繊維を充填した成形品(すなわち比較例2)や、同量のタルクを充填した成形品(すなわち比較例3)や、充填材がカーボンブラックのみの成形品(すなわち比較例4)と比べて、異方性が低減された。
また、表3から解るように、耐剥離性の評価では、ガラス繊維を充填した成形品(すなわち比較例2)でMD及びTDの両方向について表面剥離が観察されたのに対して、ノイブルグ珪土を充填した成形品(すなわち実施例2)では両方向ともに表面剥離が観察されなかった。
以上説明したように、本実施例によれば、ノイブルグ珪土を充填した液晶ポリエステルを用いることにより、収縮率の異方性が少なく且つフィブリル化し難い射出成形体を得ることができた。