JP2011202062A - 摺動用熱可塑性樹脂組成物、摺動用熱可塑性樹脂組成物の製造方法および摺動部品 - Google Patents
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Abstract
【課題】摺動用熱可塑性樹脂組成物において、摺動特性および寸法安定性を改善する。
【解決手段】この摺動用熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、固体潤滑剤0.1〜150質量部と、繊維状結晶が凝集した凝集粒子0.1〜75質量部とを含んでいる。繊維状結晶はケイ酸カルシウム(特に、ゾノトライト)の繊維状結晶であることが好ましい。熱可塑性樹脂は液晶高分子であることが好ましい。固体潤滑剤はフッ素樹脂(特に、ポリテトラフルオロエチレン)であることが好ましい。これにより、成形体の摩擦係数、摩耗量を低減して摺動特性を高めると同時に、成形体の成形収縮率を小さくして寸法安定性を改善することができる。
【選択図】なし
【解決手段】この摺動用熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、固体潤滑剤0.1〜150質量部と、繊維状結晶が凝集した凝集粒子0.1〜75質量部とを含んでいる。繊維状結晶はケイ酸カルシウム(特に、ゾノトライト)の繊維状結晶であることが好ましい。熱可塑性樹脂は液晶高分子であることが好ましい。固体潤滑剤はフッ素樹脂(特に、ポリテトラフルオロエチレン)であることが好ましい。これにより、成形体の摩擦係数、摩耗量を低減して摺動特性を高めると同時に、成形体の成形収縮率を小さくして寸法安定性を改善することができる。
【選択図】なし
Description
本発明は、機械、電気・電子、建築・土木などの分野で用いられる各種の摺動部品の原材料に適する熱可塑性樹脂組成物、つまり摺動用熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
近年の軽薄短小化の進展に伴い、種々の機構部品において、軽量化、コストダウンの要求が強まり、その原材料として合成樹脂が多用される傾向にある。こうした機構部品においては、良好な摺動特性が要求される場合も多い。
このような要求に応えるべく、従来から、ポリアセタール、ポリアミドなどの熱可塑性樹脂からなる成形体が摺動部品として使用されてきた。また、摺動特性をさらに高めるため、液晶ポリエステル樹脂に低分子量フルオロカーボン重合体を配合することが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、特許文献1で提案された技術では、成形体の摩擦係数が低下して摺動特性は向上するものの、成形収縮率が大きくて寸法安定性に優れない場合があり、この点の改良が望まれていた。
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、優れた摺動特性を有すると同時に、良好な寸法安定性をも有する成形体の原材料となる摺動用熱可塑性樹脂組成物と、この摺動用熱可塑性樹脂組成物の製造方法と、この摺動用熱可塑性樹脂組成物からなる摺動部品とを提供することを目的とする。
かかる目的を達成するため、本発明者は、成形体の摺動特性を高めるべく、固体潤滑剤を充填剤として使用することに加えて、成形体の寸法安定性を改善すべく、繊維状結晶が凝集した凝集粒子を充填剤として使用することに着目し、本発明を完成するに至った。
すなわち、請求項1に記載の発明は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、固体潤滑剤0.1〜150質量部と、繊維状結晶が凝集した凝集粒子0.1〜75質量部とを含む摺動用熱可塑性樹脂組成物としたことを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記繊維状結晶が、ケイ酸カルシウムの繊維状結晶であることを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の構成に加え、前記ケイ酸カルシウムが、ゾノトライトであることを特徴とする。
また、請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の構成に加え、前記熱可塑性樹脂が、液晶高分子であることを特徴とする。
また、請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の構成に加え、前記固体潤滑剤が、フッ素樹脂であることを特徴とする。
また、請求項6記載の発明は、請求項5に記載の構成に加え、前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする。
また、請求項7記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の摺動用熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、前記熱可塑性樹脂と前記凝集粒子の一部とを混合して混合物を得る混合工程と、この混合物に前記凝集粒子の残部を溶融混練する溶融混練工程とが含まれる摺動用熱可塑性樹脂組成物の製造方法としたことを特徴とする。
さらに、請求項8記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の摺動用熱可塑性樹脂組成物を溶融成形して得られた摺動部品としたことを特徴とする。
本発明によれば、固体潤滑剤および繊維状結晶が凝集した凝集粒子を熱可塑性樹脂に配合したので、成形体の摩擦係数、摩耗量を低減して摺動特性を高めると同時に、成形体の成形収縮率を小さくして寸法安定性を改善することができる。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
<摺動部品の構成>
[発明の実施の形態1]
<摺動部品の構成>
この実施の形態1に係る摺動部品は、摺動用熱可塑性樹脂組成物を溶融成形して得られたものである。
<摺動用熱可塑性樹脂組成物の構成>
<摺動用熱可塑性樹脂組成物の構成>
この摺動用熱可塑性樹脂組成物は、主成分として熱可塑性樹脂を有し、この熱可塑性樹脂100質量部に対して、固体潤滑剤0.1〜150質量部(好ましくは0.5〜100質量部、さらに好ましくは1〜75質量部)と、繊維状結晶が凝集した凝集粒子0.1〜75質量部(好ましくは0.5〜50質量部、さらに好ましくは1〜30質量部)とが配合されたものである。
固体潤滑剤の使用量が上述の範囲を下回ると、得られる成形体の摩擦係数を十分低くできないことがある。逆に、固体潤滑剤の使用量が上述の範囲を超えると、摺動用熱可塑性樹脂組成物の成形加工性が悪化しやすく、得られる成形体の機械的強度も低下して脆くなる傾向がある。
凝集粒子の使用量が上述の範囲を下回ると、得られる成形体の摩耗量を十分低くできないことがある。逆に、凝集粒子の使用量が上述の範囲を超えると、摺動用熱可塑性樹脂組成物の成形加工性が悪化しやすく、得られる成形体の機械的強度も低下して脆くなる傾向がある。
<熱可塑性高分子>
<熱可塑性高分子>
ここで、熱可塑性樹脂としては、各種の熱可塑性樹脂を使用することができる。具体的に例示すると、ポリスチレン、ポリメチルペンテン−1、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド12、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−エチレンプロピレン−スチレン共重合体、ポリアミド6、ポリアミド66、芳香族ポリアミド、9Tポリアミド、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリ六フッ化エチレンプロピレン、ポリ三フッ化エチレン、ポリ(エチレン−テトラフルオロエチレン)、ポリアクリロニトリル、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキサイドおよびその変性物、ポリスルホン、ポリエステルアミドなどが挙げられる。また、これらの中でも、ポリエステル、ポリアミドまたはポリエステルアミドであって液晶性を有する液晶高分子は、摺動特性の高さが知られている(例えば、小出直之編「液晶ポリマーの開発」第258頁、(株)シーエムシー出版、2001年6月発行を参照)。
この液晶高分子とは、溶融時に光学異方性を示し、500℃以下の温度で異方性溶融体を形成する高分子をいう。この光学的異方性は、直交偏光子を利用した通常の偏光検査法によって確認することができる。液晶高分子は、その分子内に、分子形状が細長く、扁平で分子の長鎖に沿って剛性が高い分子鎖(以下、剛性が高い分子鎖を「メソゲン基」と呼ぶことがある)を有する。液晶高分子は、このようなメソゲン基を主鎖または側鎖のいずれか一方または両方に有する高分子であるが、より高耐熱性の成形体を求めるならば高分子主鎖にメソゲン基を有する液晶高分子が、摺動用熱可塑性樹脂組成物には好ましい。
こうした液晶高分子の具体例としては、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド、液晶ポリエステルエーテル、液晶ポリエステルカーボネート、液晶ポリエステルイミド、液晶ポリアミドなどが挙げられるが、これらの中でも、高強度の成形体が得られる点で液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミドまたは液晶ポリアミドが好ましい。
前記の好適な液晶高分子を具体的に例示すると、以下の(a)、(b)、(c)からなる群より選ばれる少なくとも1種の液晶高分子が好ましい。
(a):構造単位(I)および/または構造単位(II)からなる、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミドまたは液晶ポリアミド。
(b):構造単位(I)および構造単位(II)からなる群より選ばれる構造単位と、構造単位(III)と、構造単位(IV)とからなる、液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステルアミド。
(c):構造単位(I)および構造単位(II)からなる群より選ばれる構造単位と、構造単位(III)と、構造単位(IV)、構造単位(V)および構造単位(VI)からなる群より選ばれる構造単位とからなる、液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステルアミド。
(a):構造単位(I)および/または構造単位(II)からなる、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミドまたは液晶ポリアミド。
(b):構造単位(I)および構造単位(II)からなる群より選ばれる構造単位と、構造単位(III)と、構造単位(IV)とからなる、液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステルアミド。
(c):構造単位(I)および構造単位(II)からなる群より選ばれる構造単位と、構造単位(III)と、構造単位(IV)、構造単位(V)および構造単位(VI)からなる群より選ばれる構造単位とからなる、液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステルアミド。
ここで、Ar1 、Ar2 、Ar5 およびAr6 は同一または異なって、2価の芳香族基を表し、Ar3 およびAr4 は同一または異なって、2価の芳香族基、2価の脂環基および2価の脂肪族基からなる群より選ばれる基を表す。なお、前記芳香族基にある芳香環上の水素原子の一部または全部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基または炭素数6〜10のアリール基で置換されていてもよい。なお、ここで脂環基とは脂環式化合物から水素原子を2つ取り去って得られる基を意味し、脂肪族基とは脂肪族化合物から水素原子を2個取り去って得られる基を意味する。
前記の構造単位において、Ar1 、Ar2 、Ar5 およびAr6 で示される芳香族基としては、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニレン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルホン、ジフェニルケトン、ジフェニルスルフィド、ジフェニルメタンなどの、単環芳香族化合物、縮合環芳香族化合物および複数の芳香環が2価の連結基(単結合を含む)で連結された芳香族化合物からなる群より選ばれる芳香族化合物の芳香環に結合している水素原子を2つ取り去って得られる基であり、好適には、2,2−ジフェニルプロピリデン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、2,6−ナフタレンジイル基および4,4’−ビフェニレン基からなる群より選ばれる2価の芳香族基であり、この芳香族基がこのような基である液晶高分子は、より機械強度に優れる傾向にあるため好ましい。
構造単位(I)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位であり、この芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、7−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシビフェニル−4−カルボン酸、またはこれらの芳香族ヒドロキシカルボン酸にある芳香環上の水素原子の一部または全部が、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ヒドロキシカルボン酸が挙げられる。なお、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基などの炭素数1〜6の直鎖、分岐または脂環状のアルキル基が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、イソプロピオキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などの、直鎖、分岐または脂環状のアルコキシ基が挙げられる。アリール基としては、フェニル基やナフチル基が挙げられる。また、ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。
構造単位(II)は、芳香族アミノカルボン酸から誘導される構造単位であり、この芳香族アミノカルボン酸としては、4−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸、またはこれら芳香族アミノカルボン酸にある芳香環上の水素原子の一部または全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族アミノカルボン酸が挙げられる。ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸の置換基として例示したものと同じである。
構造単位(V)は、芳香族ヒドロキシアミンから誘導される構造単位であり、4−アミノフェノール、3−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシジフェニル、またはこれら芳香族ヒドロキシアミンにある芳香環上の水素原子の一部または全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ヒドロキシアミンが挙げられる。ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸の置換基として例示したものと同じである。
構造単位(VI)は、芳香族ジアミンから誘導される構造単位であり、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノフェニルスルフィド(チオジアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(オキシジアニリン)、これらの芳香族ジアミンにある芳香環上の水素の一部または全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基ハロゲン原子に置換されてなる芳香族アミノカルボン酸、前記に例示した芳香族ジアミンの1級アミノ基に結合している水素原子がアルキル基に置換されてなる芳香族ジアミンが挙げられる。ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸の置換基として例示したものと同じである。
前記の構造単位(III)におけるAr3 と、構造単位(IV)におけるAr4 は、Ar1 、Ar2 、Ar5 またはAr6 で説明した芳香族基に加えて、炭素数1〜9の飽和脂肪族化合物から水素原子を2つ取り去って得られる2価の脂肪族基や2価の脂環基から選ばれる基である。
構造単位(III)は、芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸から誘導される基であり、この芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−トリフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニルエーテル−3,3’−ジカルボン酸、またはこれら芳香族ジカルボン酸にある芳香環上の水素原子の一部または全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
この脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸;およびトランス−1,4−(1−メチル)シクロヘキサンジカルボン酸、トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸またはこれらの脂肪族ジカルボン酸にある脂肪族基または脂環基の水素原子の一部または全部がアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸の置換基として例示したものと同等である。
構造単位(IV)は、芳香族ジオールまたは脂肪族ジオールから誘導される基であり、この芳香族ジオールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレン−2,6−ジオール、4,4’−ビフェニレンジオール、3,3’−ビフェニレンジオール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンまたはこれら芳香族ジオールにある芳香環上の水素原子の一部または全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ジオールが挙げられる。
この脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、トランス−1,4−シクロヘキサンジオール、シス−1,4−シクロヘキサンジオール、トランス−1,4−シクロヘキサンジメタノール、シス−1,4−シクロヘキサンジメタノール、トランス−1,3−シクロヘキサンジオール、シス−1,2−シクロヘキサンジオール、トランス−1,3−シクロヘキサンジメタノールまたはこれらの脂肪族ジオールにある脂肪族基または脂環基の水素原子の一部または全部がアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる脂肪族ジオールが挙げられる。
なお、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸の置換基として例示したものと同じである。
上述の好適な液晶高分子において、前記(b)または前記(c)は、構造単位(III)と構造単位(IV)に脂肪族基を有する場合もあるが、このような液晶高分子に対する脂肪族基の導入量は、この液晶高分子が液晶性を発現し得る範囲で選択され、さらには、この液晶高分子の耐熱性を著しく損なわない範囲で選択される。本発明に適用する液晶高分子において、この液晶高分子にあるAr1 〜Ar6 の総和を100モル%としたとき、2価の芳香族基の総和が60モル%以上であると好ましく、75モル%以上であるとさらに好ましく、90モル%以上であるとより好ましく、2価の芳香族基の総和が100モル%である全芳香族液晶高分子が特に好ましい。
好適な全芳香族液晶高分子の中でも、前記(a)の液晶ポリエステルまたは前記(b)の液晶ポリエステルが好ましく、特に前記(b)の液晶ポリエステルが好ましい。さらに、前記(b)の液晶ポリエステルの中でも、以下の(I−1)および/または(I−2)の芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位と、以下の(III−1)、(III−2)および(III−3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸から誘導される構造単位と、下記の(IV−1)、(IV−2)、(IV−3)および(IV−4)からなる群より選ばれる少なくとも1種の芳香族ジオールから誘導される構造単位とからなる液晶ポリエステルは、成形性、耐熱性、高機械強度および難燃性といった特性がいずれも高水準となる成形体が得られやすいという利点がある。
次に、好適な液晶高分子を製造する方法について説明する。
この液晶高分子の製造方法としては、前記(a)においては、芳香族ヒドロキシカルボン酸および/または芳香族アミノカルボン酸を原料モノマーとし、前記(b)においては、芳香族ヒドロキシカルボン酸および/または芳香族アミノカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸および/または脂肪族ジカルボン酸と、芳香族ジオールおよび/または脂肪族ジオールとを原料モノマーとし、前記(c)においては、芳香族カルボン酸および/または芳香族アミノカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸および/または脂肪族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、脂肪族ジオール、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族ジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物とを原料モノマーとし、これらの原料モノマーを公知の重合方法で重合することにより液晶高分子は製造できる。
より好適な液晶高分子である液晶高分子である前記(b)の液晶ポリエステルにおいては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオールとを原料モノマーとして用い重合することで液晶ポリエステルを得ることができる。
上述のように、液晶高分子を製造するには、前記原料モノマーを直接重合してもよいが、より重合を容易にするためには、原料モノマーの一部をエステル形成性誘導体・アミド形成性誘導体(以下、まとめて「エステル・アミド形成性誘導体」ということがある)に転換してから重合することが好ましい。このエステル・アミド形成性誘導体とは、エステル生成反応またはアミド生成反応を促進するような基を有する化合物を意味し、具体的に例示すると、モノマー分子内のカルボキシル基をハロホルミル基、酸無水物基またはエステル基に転換したエステル・アミド形成性誘導体、モノマー分子内のフェノール性ヒドロキシル基(水酸基)またはフェノール性アミノ基をそれぞれエステル基またはアミド基にしたエステル・アミド形成性誘導体などが挙げられる。
以下、原料モノマーの一部をエステル・アミド形成性誘導体に転換して重合を行い、前記(b)の液晶ポリエステルを製造する方法について簡単に説明する。この液晶ポリエステルの製造としては、例えば、特開2002−146003号公報に記載の方法等によって実施できる。まず、脂肪酸無水物、好ましくは無水酢酸を用いて、芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジオールのフェノール性ヒドロキシル基をアシル基に転換したアシル化物を製造する。次いで、このようにして得られたアシル化物のアシル基と、アシル化芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジカルボン酸のカルボキシル基とがエステル交換を生じるようにして脱酢酸重縮合させることによって、液晶ポリエステルが製造される。この脱酢酸重縮合は、反応温度150〜400℃、反応時間0.5〜8時間という重合条件による溶融重合で実施できる。この溶融重合では、比較的低分子量の液晶ポリエステル(以下、「プレポリマー」という)が得られる。液晶ポリエステル自身のさらなる特性向上のためには、このプレポリマーをさらに高分子量化させることが好ましく、この高分子量化には固相重合を行うことが好ましい。この固相重合とは、このプレポリマーを粉砕して粉末状にし、得られた粉末状プレポリマーを固相状態のまま加熱する重合方法である。このような固相重合を用いると、重合がより進行して、液晶ポリエステルの高分子量化を図ることができる。
<固体潤滑剤>
<固体潤滑剤>
また、固体潤滑剤としては、フッ素樹脂、ポリエチレンその他のポリオレフィン系樹脂、黒鉛、カーボンブラック、二硫化モリブデン、三酸化モリブデン、アラミド樹脂などの全芳香族ポリアミド繊維、シリコーン、銅鉛合金、二硫化タングステン、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、窒化ホウ素などの粉末などが挙げられるが、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体などのフッ素樹脂、黒鉛、二硫化モリブデン、導電性や顔料用粒状カーボンブラック、アラミド樹脂、チッ化硼素などが好ましく、より好ましくは、フッ素樹脂、導電性または顔料用カーボンブラック、黒鉛などが挙げられる。
なお、フッ素樹脂は、フッ素を含むオレフィンを重合して得られる合成樹脂の総称であり、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(略号:PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、エチレン−四フッ化エチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体などが挙げられる。
<凝集粒子>
<凝集粒子>
また、繊維状結晶が凝集した凝集粒子としては、繊維長0.05〜30μmの繊維状結晶が凝集して粒子状になったものであることが好ましく、繊維長0.1〜10μの繊維状結晶が凝集して粒子状になったものであることがさらに好ましい。また、この繊維状結晶の繊維径は、10nm〜1μmであることが好ましく、50nm〜600nmであることがさらに好ましい。このような繊維長、繊維径の繊維状結晶であれば、熱可塑性樹脂との親和性が良好となる傾向がある。なお、ここでいう繊維長や繊維径は、以下のような測定方法で求められるものである。
すなわち、繊維状結晶をメタノールに分散させて分散液を調製し、この分散液をスライドガラス上に展開し、メタノールを蒸発させた後に、走査型電子顕微鏡を用い、測定倍率2000倍で顕微鏡写真をとり、その写真から繊維状結晶の繊維長を計測する。このような顕微鏡写真により、この凝集粒子100個程度の繊維長を計測し、計測値を平均して繊維長を求める。また、同様にして得られた顕微鏡写真により、繊維状結晶の繊維径を計測し、繊維長測定と同数程度の計測値を求め、それらを平均することで繊維径は求められる。
この繊維状結晶としては、ムライト繊維、炭化ケイ素繊維、炭化ケイ素ウイスカー、炭化ホウ素繊維、炭化ホウ素ウイスカー、ルチル繊維、アラゴナイト繊維、セッコウ繊維、トベルモライト、ウォラストナイトなどの人造結晶質繊維、セピオライト、ウォラストナイトなどの天然鉱物繊維などを挙げることができる。特に、ケイ酸塩を含む繊維状結晶であることが好ましく、また、人工的に合成して得られるものであることが好ましい。このケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムが挙げられ、中でも、ケイ酸カルシウムが好ましい。このような繊維状結晶からなる凝集粒子は、熱可塑性樹脂との親和性が一層良好となる傾向にある。
このケイ酸カルシウムの繊維状結晶を具体的に例示すると、トベルモライト(化学式:Ca5 Si6 O16(OH)2 ・4H2 O)の結晶、ウォラストナイト(化学式:CaO・SiO2 )の結晶、ゾノトライト(化学式:CaO・SiO2 ・H2 O)の結晶が挙げられる。
ウォラストナイトとしては、例えば、巴化学工業(株)、ナガセケムスペック(株)から、繊維長6〜25μm程度の結晶が入手できる。
ゾノトライトとしては、例えば、宇部マテリアルズ(株)から、繊維長10〜20μm程度の結晶が入手できる。
このような繊維状結晶から凝集粒子を得る。換言すれば、本発明に使用する凝集粒子とは、この繊維状結晶が集合体化した二次粒子ということができる。
この繊維状結晶を凝集した凝集粒子を得るには、種々公知の手段が採用される。具体的に先行文献を例示すると、特開平6−40715号公報には、石灰乳と結晶質珪酸原料と水とを混合して原料スラリーを得、この原料スラリーを加圧下、加熱攪拌しながら水熱合成反応を行い、トベルモライトが凝集された凝集粒子を得る方法が開示されている。また、ウォラストナイトが凝集された凝集粒子の製造方法は、特開昭53−146997号公報に開示されている。
また、ゾノトライトの結晶が凝集した凝集粒子には、市場から容易に入手できる市販品もある。こうした市販品としては、例えば、日本インシュレーション(株)製の「ゾノトライトパウダーXK」(平均粒子径30μm)や「ゾノトライトパウダーXJ」(平均粒子径22μm)が挙げられる。このような市販の凝集粒子は、これまで耐火材、断熱材、意匠材料といった建築材料用途に向けて市販されているものであるが、このような市販の凝集粒子を熱可塑性樹脂とともに摺動用熱可塑性樹脂組成物にすることで、この摺動用熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体の摺動特性の向上し得ることは、本発明者等の検討によって初めて見出されたものである。なお、ここでいう平均粒子径は、レーザー回折粒度分布測定により求められる体積平均粒子径をいう。このような市販の凝集粒子の使用は、当該凝集粒子の製造を必要としないことから、熱可塑性樹脂の製造における工程を省略できるという利点がある。
また、凝集粒子は、その形状が球状や略球状であることは必ずしも必要ではなく、異形状粒子であってもよく、この凝集粒子の表面の一部に凹凸を有するものであってもよい。また、凝集粒子は、後述する熱可塑性樹脂と溶融混練する際、混和性を一層良好にする点で、その平均粒子径が1〜100μmであることが好ましく、10〜50μmであることがより好ましく、20〜40μmであることがさらに好ましい。仮に、上述の方法により繊維状結晶を凝集させて凝集粒子を製造した後、得られた凝集粒子がこのような平均粒子径を満たさない場合には、適当な分級操作によって分級することで、所望の平均粒子径に調節することもできる。上述の市販品であるゾノトライトの繊維状結晶が凝集した凝集粒子は、その平均粒子径も好適な範囲のものである。
このように、この実施の形態1に係る摺動用熱可塑性樹脂組成物では、固体潤滑剤が熱可塑性樹脂に配合されているため、成形体の摩擦係数、摩耗量を低減して摺動特性を高めることができる。しかも、繊維状結晶が凝集した凝集粒子が熱可塑性樹脂に配合されているため、成形体の成形収縮率を小さくして寸法安定性を改善することができる。
<摺動用熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
<摺動用熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
摺動用熱可塑性樹脂組成物は、種々の慣用の方法によって調製することができる。たとえば、熱可塑性樹脂および凝集粒子、固体潤滑剤をヘンシェルミキサーやタンブラー等を用いて混合することにより、摺動用熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。また、押出機を用いて熱可塑性樹脂をあらかじめ加熱溶融させてから、凝集粒子および固体潤滑剤を投入して溶融混練することにより、摺動用熱可塑性樹脂組成物をペレット状(組成物ペレット)にして得ることもできる。また、このような方法を組み合わせてもよい。すなわち、予め熱可塑性樹脂および凝集粒子、固体潤滑剤をヘンシェルミキサーやタンブラー等を用いて混合して混合物とした後、さらにこの混合物を押出機を用いて溶融混練し、摺動用熱可塑性樹脂組成物をペレット状(組成物ペレット)にして得ることもできる。このようにして摺動用熱可塑性樹脂組成物を得ることができるが、この摺動用熱可塑性樹脂組成物の製造方法としては、押出機を用いて組成物ペレットとして得ることが、後の成形に使用する際に、取扱性が優れるので好ましい。なお、この押出機としては、2軸の混練押出機を用いることがより好ましい。
このとき、熱可塑性樹脂と凝集粒子の一部とを混合して混合物を得た後、この混合物に凝集粒子の残部を溶融混練するようにすることが好ましい。こうすることにより、組成物ペレット中の凝集粒子が一層均一に分散しやすくなる(分散性が良好となる)という利点がある。
摺動用熱可塑性樹脂組成物は、溶融成形、すなわち、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、Tダイを用いたフィルム成形、インフレーション成形などのフィルム成膜、溶融紡糸いずれにも適用することが可能である。
これらの溶融成形の中でも、様々な形状の成形体が製造可能であり、比較的複雑な形状の成形体を得る点で射出成形が好ましい。この射出成形は高生産性であるという点でも有利である。
ここでは、摺動用熱可塑性樹脂組成物を上述の組成物ペレットとして得た場合において、この組成物ペレットを用いた射出成形について詳述することにする。まず、この組成物ペレットの流動開始温度FT(℃)を求める。ここで、流動開始温度とは射出成形機の可塑化装置内で組成物ペレットが溶融する温度を表し、通常、摺動用熱可塑性樹脂組成物自体の流動開始温度である。なお、流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用いて、9.81MPa(100kgf/cm2 )の荷重下、4℃/分の昇温速度で加熱溶融体を昇温しながらノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポアズ)を示す温度である。このような流動開始温度は、液晶高分子の技術分野では、その分子量を表す指標として周知のものである(例えば、小出直之編「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」第95〜105頁、(株)シーエムシー出版、1987年6月5日発行を参照)。流動開始温度を測定する装置としては、例えば、(株)島津製作所製の流動特性評価装置「フローテスターCFT−500D」を用いることができる。
好適な射出成形としては、組成物ペレットの流動開始温度FT(℃)に対して、[FT]℃以上[FT+100]℃以下の温度(樹脂溶融温度)で、この組成物ペレットを溶融させて溶融物を得、0℃以上の温度に設定された金型にこの溶融物を射出する方法である。
なお、この組成物ペレットは射出成形に供する前に十分乾燥させておくことが好ましい。
この樹脂溶融温度が、FT(℃)よりも低いと、この組成物ペレットが十分溶融することができないため、溶融物の流動性が低くなり、微細な形状の成形体を得ようとすることが困難になったり、金型面への転写性が低くなって成形体表面が荒れたり、する傾向があり、好ましくない。一方、この樹脂溶融温度が、[FT+100]℃よりも高いと、成形途中で、組成物ペレット中の熱可塑性樹脂の分解が生じ、得られる成形体に膨れ状の外観異常を生じたり、熱可塑性樹脂の分解物がガス化して脱ガスなどが発生しやすくなりなったり、するので好ましくない。また、この樹脂溶融温度が、[FT+100]℃よりも高いと、射出成形後に金型を開いて成形体を取り出す際に、ノズルから溶融樹脂が流れ出るような弊害を生じやすいことから、成形体の生産性自体が低下するおそれもある。成形体の安定性と成形性(生産性)を考慮すると、この樹脂溶融温度は[FT+10]℃以上[FT+80]℃以下であることが好ましく、さらに[FT+15]以上[FT+60]℃以下であることがより好ましい。
また、金型温度は前記のとおり、通常0℃以上に設定されるが、この金型温度は、得られる成形体の寸法、機械物性、および、加工性や成形サイクルといった生産性を加味して決定される。この要件を勘案した場合、この金型温度は40℃以上が好適である。この金型温度が40℃を下回ると、連続成形する場合に金型温度のコントロールが困難になりやすく、温度のばらつきが生じて、結果として得られる成形体に悪影響を及ぼすことがある。より好ましくは、この金型温度は70℃以上である。この金型温度が70℃を下回ると、得られる成形体の表面平滑性が損なわれることがある。表面平滑性を良好にする点からは、この金型温度は高いほど有利であるが、高すぎると冷却効果が低下して冷却工程に要する時間が長くなるために生産性が低下したり、離型性の低下により成形体が変形したりするなどの問題が生じるため好ましくない。さらにいえば、この金型温度を上げすぎると、金型どうしの噛み合いが悪くなり、金型開閉時に金型自体が破損する危険性も増加する。この金型温度の上限も、前記組成物ペレットに含まれる熱可塑性樹脂の分解を防止するために、適用する組成物ペレットの種類に応じて適宜最適化することが好ましい。なお、使用する熱可塑性樹脂が好適な液晶高分子、特に全芳香族の液晶ポリエステルである場合、金型温度は70℃以上220℃以下が好ましく、130℃以上200℃以下がより好ましい。
また、本発明者等が検討した結果、熱可塑性樹脂として液晶高分子を用いた場合、この液晶高分子を射出成形して得られた成形体の一つの問題である表面剥離が大きく抑制されていることが判明した。すなわち、液晶高分子を用いてなる成形体は、通常その表面にスキン層と呼ばれる特有の層が形成される傾向がある。このスキン層では、液晶高分子が特に強く配向しており、弱く擦っただけでも、繊維状のフィブリルが手羽だってくること(表面剥離)がある。このような表面剥離は、たとえばテープ剥離試験で判定できる。簡単に、このテープ剥離試験を説明すると、成形体表面にテープを張って剥がすといった操作を所定回繰り返し、テープを貼って剥がした部分の後が目視でも判定できる場合に、表面剥離が生じていると判定する試験である。摺動用熱可塑性樹脂組成物において、前記液晶高分子と前記凝集粒子とを用いることにより得られる成形体は、このような表面剥離が極めて抑制されていることが判明した。かかる効果の発現は、成形体表面にある凝集粒子が三次元的に絡み合うことで成形体表面に露出して、いわゆるアンカー効果が生じ、表面剥離に対する耐久性、特に前記テープ剥離試験における耐剥離性が高まるものと推定される。摺動時においても凝集粒子の脱落が生じにくくなることが前記推定より予想され、成形体に摺動特性(低摩擦係数、低摩耗量)を付与しながらも相手材を傷つけにくくする効果が与えられていると考えられる。
[発明のその他の実施の形態]
[発明のその他の実施の形態]
なお、上述した実施の形態1では、熱可塑性樹脂、固体潤滑剤および凝集粒子の三成分からなる摺動用熱可塑性樹脂組成物について説明した。しかし、本発明の目的を著しく損なわない範囲で、他の諸特性、たとえば機械強度などの向上を目的として、その他の充填剤を配合してもよい。このような充填剤としては、繊維状フィラー、板状フィラー、球状フィラー、粉状フィラー、異形フィラー、ウィスカ、着色成分、潤滑剤、各種界面活性剤、酸化防止剤や熱安定剤、その他各種安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤などが挙げられる。
繊維状フィラーとしては、例えば、ガラス繊維、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、シリカアルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維が挙げられる。板状フィラーとしては、例えば、タルク、マイカ、グラファイトが挙げられる。球状フィラーとしては、例えば、ガラスビース、ガラスバルーンが挙げられる。粉状フィラーとしては、例えば、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ硫酸バリウム、酸化チタン、カーボンブラック、導電カーボン、微粒シリカが挙げられる。異形フィラーとしては、例えば、ガラスフレーク、異形断面ガラス繊維が挙げられる。
これらの充填剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
<製造例1(液晶ポリエステルの製造)>
<製造例1(液晶ポリエステルの製造)>
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)および無水酢酸1347.6g(13.2モル)および1−メチルイミダゾール0.194gを添加し、室温で15分間攪拌して反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度(145℃)を保持したまま1時間攪拌した。その後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了点としてプレポリマーを得た。このプレポリマーの流動開始温度は261℃であった。
こうして得られたプレポリマーを室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕して、液晶ポリエステルの粉末(粒子径は約0.1〜1mm)を得た。その後、窒素雰囲気下で、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、同温度(285℃)で3時間保持し、固相重合を行った。こうして得られた液晶ポリエステルの流動開始温度は327℃であった。
<実施例1>
<実施例1>
製造例1で得られた液晶ポリエステル(以下、「LCP1」という。)100質量部に対して、表1に示すように、住友スリーエム(株)製のフッ素樹脂「ダイニオンTF9205」(以下、「フッ素樹脂1」という。)11質量部および凝集粒子(ゾノトライトパウダーXK)2質量部を混合して混合物を得た。次いで、(株)池貝製の2軸押出機「PCM−30」を用いて、この混合物をシリンダー温度340℃で造粒し、摺動用熱可塑性樹脂組成物からなるペレットを作製した。
<実施例2>
<実施例2>
表1に示すように、フッ素樹脂1の添加量を12質量部にするとともに、凝集粒子(ゾノトライトパウダーXK)の添加量を6質量部にしたことを除き、上述した実施例1と同様にして、摺動用熱可塑性樹脂組成物からなるペレットを作製した。
<実施例3>
<実施例3>
表1に示すように、フッ素樹脂1の添加量を27質量部にするとともに、凝集粒子(ゾノトライトパウダーXK)の添加量を7質量部にしたことを除き、上述した実施例1と同様にして、摺動用熱可塑性樹脂組成物からなるペレットを作製した。
<実施例4>
<実施例4>
表1に示すように、フッ素樹脂1の添加量を13質量部にするとともに、凝集粒子(ゾノトライトパウダーXK)の添加量を13質量部にしたことを除き、上述した実施例1と同様にして、摺動用熱可塑性樹脂組成物からなるペレットを作製した。
<実施例5>
<実施例5>
表1に示すように、フッ素樹脂1の代わりに、旭硝子(株)製のフッ素樹脂「フルオン L169J」(以下、「フッ素樹脂2」という。)を同量(12質量部)混合したことを除き、上述した実施例2と同様にして、摺動用熱可塑性樹脂組成物からなるペレットを作製した。
<実施例6>
<実施例6>
表1に示すように、フッ素樹脂2の添加量を25質量部にしたことを除き、上述した実施例5と同様にして、摺動用熱可塑性樹脂組成物からなるペレットを作製した。
<比較例1>
<比較例1>
表1に示すように、凝集粒子(ゾノトライトパウダーXK)を添加しなかったことを除き、上述した実施例1と同様にして、摺動用熱可塑性樹脂組成物からなるペレットを作製した。
<比較例2>
<比較例2>
表1に示すように、フッ素樹脂1の添加量を25質量部にしたことを除き、上述した比較例1と同様にして、摺動用熱可塑性樹脂組成物からなるペレットを作製した。
<比較例3>
<比較例3>
表1に示すように、フッ素樹脂1の代わりに、フッ素樹脂2を同量(11質量部)混合したことを除き、上述した比較例1と同様にして、摺動用熱可塑性樹脂組成物からなるペレットを作製した。
<比較例4>
<比較例4>
これらの実施例1〜6および比較例1〜4についてそれぞれ、ペレットを乾燥した後、日精樹脂工業(株)製の射出成形機「UH−1000型」を用いて、射出成形により、内径17mm、外径21mm、高さ10mmのリング状の試験片(成形体)を得た。
次に、これらの試験片についてそれぞれ、高千穂精機(株)製の鈴木式摩擦摩耗試験器「TRI−S100D型」により、相手材にSUS−304材料を用いて、圧力20MPa、速度6m/分の条件下で摩擦摩耗試験を実施し、摩擦係数および摩耗量(単位:μm)を測定した。
その結果をまとめて表2に示す。
<成形収縮率の測定>
<成形収縮率の測定>
また、実施例1〜6および比較例1〜4についてそれぞれ、ペレットを乾燥した後、日精樹脂工業(株)製の射出成形機「PS40E5ASE」を用いて、射出成形により、64mm×64mm×3mmの平板状の試験片(成形体)を得た。
次に、これらの試験片についてそれぞれ、マイクロメーターを用いて、MD2点(試料両端付近)およびTD2点(ゲート付近、流動末端付近)の距離を測定し、MD方向およびTD方向における成形収縮率を算出した。
表2から明らかなように、摩擦摩耗試験の結果、摩擦係数は実施例1〜6と比較例1〜4とで大差はないが、摩耗量は比較例1〜4より実施例1〜6の方が大幅に減少している。また、成形収縮率については、MD方向において、比較例1〜4より実施例1〜6の方が概ね減少しているとともに、TD方向において、比較例1〜4より実施例1〜6の方が大幅に減少している。
したがって、比較例1〜4に比べて実施例1〜6では、摺動特性および寸法安定性に優れることが判明した。
本発明に係る摺動用熱可塑性樹脂組成物は、機械部品、電気・電子部品その他の用途に好適である。
機械部品の用途としては、例えば、分離爪、ヒータホルダーなどの複写機、印刷機関連部品;インペラー、ファン歯車、ギヤ、軸受けなどのモーター部品およびケース:エンジン部品エンジンルーム内部品、電装部品、内装部品などの自動車部品その他の自動車用機構部品が考えられる。
電気・電子部品の用途としては、例えば、コネクター、ソケット、リレー部品、コイルボビン、光ピックアップ、発振子、プリント配線板、回路基板、半導体パッケージ、コンピューター関連部品、ハードディスク関連部品、カメラ鏡筒、光学センサー筐体、コンパクトカメラモジュール筐体(パッケージや鏡筒)、プロジェクター光学エンジン構成部材、ICトレー、ウエハーキャリヤーなどの半導体製造プロセス関連部品;VTR、テレビジョン受像機、アイロン、エアコン、ステレオ、掃除機、冷蔵庫、炊飯器、照明器具などの家庭電気製品部品;ランプリフレクター、ランプホルダー等照明器具部品;コンパクトディスク、レーザーディスク(登録商標)、スピーカーなどの音響製品部品;光ケーブル用フェルール、電話機部品、ファクシミリ部品、モデムなどの通信機器部品が考えられる。
その他の用途としては、例えば、マイクロ波調理用鍋、耐熱食器などの調理用器具;航空機、宇宙機、宇宙機器用部品;原子炉などの放射線施設部材、海洋施設部材、洗浄用治具、光学機器部品、バルブ類、パイプ類、ノズル類、医療用機器部品および医療用材料、センサー類部品、サニタリー備品、スポーツ用品、レジャー用品が考えられる。
このように、本発明に係る摺動用熱可塑性樹脂組成物は、様々な用途に使用することができるが、摺動特性に優れることから、特に摩擦摩耗特性が重視される機械部品、特にハードディスク関連部品に好適である。また、テープ剥離試験における耐剥離性にも優れることから、成形体からのパーティクルの脱落が信頼性の観点から問題となる接点部品(スイッチ、リレーなど)や光学センサー部品、カメラ部品に好適である。
Claims (8)
- 熱可塑性樹脂100質量部に対して、固体潤滑剤0.1〜150質量部と、繊維状結晶が凝集した凝集粒子0.1〜75質量部とを含むことを特徴とする摺動用熱可塑性樹脂組成物。
- 前記繊維状結晶が、ケイ酸カルシウムの繊維状結晶であることを特徴とする請求項1に記載の摺動用熱可塑性樹脂組成物。
- 前記ケイ酸カルシウムが、ゾノトライトであることを特徴とする請求項2に記載の摺動用熱可塑性樹脂組成物。
- 前記熱可塑性樹脂が、液晶高分子であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の摺動用熱可塑性樹脂組成物。
- 前記固体潤滑剤が、フッ素樹脂であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の摺動用熱可塑性樹脂組成物。
- 前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項5に記載の摺動用熱可塑性樹脂組成物。
- 請求項1乃至6のいずれかに記載の摺動用熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂と前記凝集粒子の一部とを混合して混合物を得る混合工程と、
この混合物に前記凝集粒子の残部を溶融混練する溶融混練工程と
が含まれることを特徴とする摺動用熱可塑性樹脂組成物の製造方法。 - 請求項1乃至6のいずれかに記載の摺動用熱可塑性樹脂組成物を溶融成形して得られたことを特徴とする摺動部品。
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