以下、本発明を実施するための最良の形態として、土木建築分野における土留め壁、基礎構造、港湾河川の護岸・岸壁、さらには止水壁に用いる構造部材として用いられるハット形鋼矢板について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明を適用したハット形鋼矢板1を示している。ハット形鋼矢板1は、互いに連結することにより地中連続壁体を構成するものであって、ウェブ部11の両側に図中内側に向かって傾斜するようにフランジ部12が一体に設けられ、そのフランジ部12の先端からウェブ部11に平行にアーム部13が設けられ、更にそのアーム部13の先端部に継手部14が設けられている。この左右の継手部14のうち、一方の継手部14と、他方の継手部14は、互いに点対称の形状となるように調整されている。この継手部14は、隣接する他のハット形鋼矢板における継手部14と互いに嵌合可能な形状で成形されており、特に嵌合時において継手部14が相互に離脱しないようにかん合強度が高められている。また、ウェブ部11とフランジ部12との連設部には第1隅角部16が形成されており、フランジ部12とアーム部13との連設部には第2隅角部17が形成されている。
図2は、本発明を適用したハット形鋼矢板1の継手部14の拡大図を示している。継手部14は、凹部21の先端に形成された鉤爪22と、凹部21とアーム部13との間に突出された凸部23とを有している。鉤爪22は、互いに連結すべき相手側の継手部14の凹部21内に嵌合され、また凹部21には、かかる相手側の継手部14の鉤爪22が嵌合することになる。凸部23は、鉤爪22が立ち上げられている方向と略同一方面に向けて突出されている。
このような構成からなる、本発明を適用したハット形鋼矢板では、更に以下のアプローチに基づいて形状を最適化している。
ハット形鋼矢板における継手の損傷は、継手部34におけるのど厚部やアーム部33が変形することにより、図3(a)に示すように継手部34が開くようにして変形し、或いは図3(b)に示すように継手部34が図中矢印方向に向けて曲げ変形してしまう場合もある。また、図3(c)に示すように、鉤爪42の先端が相手側の継手部34の凹部41に擦れて損傷し、或いは図3(d)に示すように凸部43が相手側の継手部34と擦れて損傷してしまう場合もある。
このような損傷や変形は、ハット形鋼矢板の打設時や引抜時において最も発生する可能性が高い。その理由として、隣接する他のハット形鋼矢板との間で継手同士を係合させた状態で土中へ打設していくことから、鋼矢板自体に土中から或いは他の継手を介して外力が加わるためである。この鋼矢板自体に外力が加わる要因としては、単純化すると1)一方の鋼矢板の継手が回転した状態で、他方の鋼矢板の継手と近接(圧縮)すること、2)一方の鋼矢板の継手が回転した状態で、他方の鋼矢板の継手と離間(引張)すること、の2つが考えられる。
これらの要因は、鋼矢板の打設時、引抜時に生じる打設機械の面外方向への偏心等により鋼矢板が前傾し、或いは後傾することや、鋼矢板を真っ直ぐに打設できないことにより、鋼矢板自体が打ち伸び、打ち縮みした際に生じるものと考えられる。
また継手部の曲げ変形について、継手部の高さや継手部の幅さらに継手部の厚さが小さいと、剛性が低下してしまう。その結果、かかる剛性の低い継手部に外力が作用した場合に曲げ変形が生じやすくなる。また継手部の高さや継手の幅が小さい場合には、嵌合時の継手の余裕しろが小さくなり、継手部同士が接触し易くなり、係止部の損傷が生じやすくなる。
特に従来のハット形鋼矢板は、鋼矢板全体の弱軸方向の断面剛性に比べ、継手の剛性、さらに継手の板厚が小さい傾向にあり、大多数回の繰り返し打設を考えた場合、継手が変形する可能性を有する。
また継手部の高さや幅を大きくすることで、接続する継手部同士の間に形成される空隙部の面積を大きくすることができ、継手部同士が接触しにくい構造とすることができる。
以上のような知見から、本発明者らは、土中への打設時において変形を効果的に抑制可能とし、しかも経済性にも優れたハット形鋼矢板1を提供するために、以下に説明するように、各特性の調整を図った。
先ず、ハット形鋼矢板1の1枚当たりの弱軸(中立軸)方向の断面剛性(I)と継手部14について1個あたりの弱軸方向の断面剛性(Ij)との関係が(1)式を満足することを特徴とする。
Ij/I×tj3>0.0345 % ・・・ (1)
この(1)式の意味するところは、ハット形鋼矢板1の1枚当たりの弱軸方向の断面剛性(I)に対する継手部14について1個あたりの弱軸方向の断面剛性(Ij)を所定値以上に向上させたものである。
なお、ここでいうIjの定義については、図4(a)に示すように、継手部14を形成する面の端部から先であって、図4(a)においては凸部23を形成する曲面の端部から右に位置する継手部14の断面に係る弱軸方向の断面二次モーメントである。この断面二次モーメントを計算するためには、例えば構造計算により行うようにしてもよいし、図面作成に係るソフトウェア等を用いて行うようにしてもよい。
また、この(1)式において、閾値を0.0345としている理由について説明をする。
表1は、従来規格10Hと25H並びに、本発明例1、2について、それぞれ鋼矢板1枚当りの断面剛性(cm4/枚)、継手部14についいて1個あたりの弱軸方向の断面剛性(Ij)、有効幅b、継手部14の板厚tj、Ij/I×tj3を示したものである。
図5は、このような従来規格25Hと10H並びに本発明例1、2について、Ij/I×tj3を横軸に、たわみ量を縦軸に表したグラフである。因みにこのたわみ量は、従来規格25Hにおけるたわみ量により正規化したものであり(以下、正規化たわみ量という。)、従来規格25Hにおけるたわみ量を1としたときの比率として表している。
この図5に示すように本発明例1、2のプロットは、従来規格25H、10Hと比較してIj/I×tj3が高く、また正規化たわみ量が低い傾向が見られた。また、従来規格25Hと10H並びに本発明例1、2の各プロットを通じて、Ij/I×tj3と正規化たわみ量との間で線形関係が見られた。これら各プロットを近似させた直線αを図中に示す。
なお、この図5において、上述した(1)式で規定するラインを追記しておく。この(1)式で規定するラインと直線αとの交点から、Ij/I×tj3の範囲を(1)式で規定することにより、正規化たわみ量を20%程度減少させることが可能となること分かる。なお、本発明の更なる望ましい形態として、上述した(1)式における閾値を0.06まで絞り込んだ下記の(1)’式を適用するようにしてもよい。
Ij/I×tj3>0.06% ・・・ (1)’
この(1)’式で規定するラインを図5に示す。(1)’式で規定するラインと直線αとの交点から、Ij/I×tj3の範囲を(1)’式で規定することにより、正規化たわみ量を30%以上減少させることが可能となることが分かる。
このように、本発明を適用したるハット形鋼矢板1では、ウェブ部11の両端に一対のフランジ部12が連設され、フランジ部12の他端にアーム部13が連設されていると共に、そのアーム部13の先端部に継手部14を設けた断面ハット型形状とし、ハット形鋼矢板1の1枚当たりの弱軸方向の断面剛性(I)と継手部14の1個における弱軸方向の断面剛性(Ij)ならびに継手部の板厚(tj)との関係が(1)式を満足するように設定されていることにより、鋼矢板全体の弱軸方向の断面剛性に比べ、継手部14の剛性を向上させることが可能となり、多数回繰り返して施工した場合においても継手の損傷を抑制することが可能となる。また鋼矢板の打設時、引抜時に生じる打設機械の面外方向への偏心等により鋼矢板が前傾し、或いは後傾して、鋼矢板自体が打ち伸び、打ち縮みした場合においても、この継手部14における断面剛性や板厚を向上させていることから、当該箇所における変形を防止することができる。また本発明は、(1)式で規定する条件を満たすように断面剛性をコントロールすればよいことから、比較的安価で実現することができ、経済性にも優れている。
なお、本実施例1は、従来規格の25Hと比較して、正規化たわみ量を6割弱まで減少することができることに加え、経済性、製作性、構造性、打設性の観点からも優れているため、より好適な実施の形態である。
また、本発明例2は、従来規格の25Hと比較して、正規化たわみ量を7割強減少することができ、構造性を追及した形態といえる。
なお、本発明では、製造容易性の観点や、鋼材コスト等の経済的な観点から、(1)式の閾値において0.15%を上限とすることが望ましい。またハット形鋼矢板1の高さ(h)は、200mm以上、望ましくは240mm以上とするようにしてもよい。
また、本発明を適用したハット形鋼矢板1における1枚の幅b、継手部14の板厚tjとの関係が(2)式を満足することを必須の構成要素としている。
tj/b > 0.9 % ・・・ (2)
ここで、継手部14の板厚tjは、図4(a)に示すように凹部21を構成する部分の板厚に相当する。
この(2)式において、閾値を0.9としている理由について説明をする。
表2は、従来規格25Hと10H並びに、本発明例3、4の有効幅b、継手部14の板厚tj、計算したtj/bを示している。
図6は、このような従来規格25Hと10H並びに本発明例3、4について、tj/bを横軸に、たわみ量を縦軸に表したグラフである。因みにこのたわみ量は、従来規格25H、10Hにおけるたわみ量により正規化した正規化たわみ量であり、従来規格25H、10Hにおけるたわみ量を1としたときの比率として表している。
この図6に示すように本発明例3、4のプロットは、従来規格25H、10Hと比較してtj/bが高く、また正規化たわみ量が低い傾向が見られた。また、従来規格25Hと10H並びに本発明例3、4の各プロットを通じて、tj/bと正規化たわみ量との間で線形関係が見られた。これら各プロットを近似させた直線βを図中に示す。
なお、この図6において、上述した(2)式で規定するラインを追記しておく。この(2)式で規定するラインと直線βとの交点から、tj/bの範囲を(2)式で規定することにより、正規化たわみ量を5%以上減少させることが可能となることが分かる。なお、本発明の更になる望ましい形態として、上述した(2)式における閾値を0.99まで絞り込んだ下記の(2)’式を適用するようにしてもよい。
tj/b > 0.99 % ・・・ (2)’
この(2)’式で規定するラインを図6に示す。(2)’式で規定するラインと直線βとの交点から、tj/bの下限を(2)’式で規定することにより、正規化たわみ量を20%以上減少させることが可能となることが分かる。
このように、本発明を適用したるハット形鋼矢板1では、ウェブ部11の両端に一対のフランジ部12が連設され、フランジ部12の他端にアーム部13が連設されていると共に、そのアーム部13の先端部に継手部14を設けた断面ハット型形状とし、ハット形鋼矢板1における1枚の幅bと継手部14の板厚tjとの関係が(2)’式を満足するように設定されていることにより、継手部14の断面剛性の向上を図ることができ、打設時においてハット形鋼矢板1が曲げ変形してしまうのを防止することが可能となる。
本実施例3は、従来規格の10Hと比較して、正規化たわみ量を25%強減少することができることに加え、経済性、製作性、構造性、打設性の観点からも優れているため、より好適な実施の形態である。
また、本発明例4は、従来規格の10Hと比較して、正規化たわみ量を6割強減少することができ、構造性を追及した形態といえる。
なお、本発明では、製造容易性の観点、経済性の観点からtj/bの上限を1.5(%)としてもよい。
また本発明では、上記(1)の条件と上記(2)の条件とを組み合わせた形態として具体化されていてもよい。またハット形鋼矢板1の高さ(h)は、200mm以上、望ましくは240mm以上とするようにしてもよい。
さらに本発明では、図2に示すように、凸部23に繋がる凹部21の内面24が、鉤爪22の高さ以上まで平面状に立ち上げられ、内面24の最上端27から凸部23を形成する曲面28が開始され、凸部23は、継手部の高さ(hj)、幅(bj)と、アーム部13の表面13aを伸張した仮想平面51に対する、当該仮想平面51以上の断面積(A)との関係が(3)式を満足するように調整されていてもよい。
bj×hj×0.04 < A ・・・ (3)
ここでいう仮想平面51以上の断面積(A)とは、図2における凸部23の色付きの部分で示された領域Aの面積である。表3は、従来規格の10H、25Hと、本発明例における継手部14の各hj(mm)、bj(mm)、tj(mm)、A(mm2)を示している。
継手部14のhj(mm)、bj(mm)、Aに基づいてA/hj/bjを計算した結果も示しておく。従来規格の10H、25Hは、A/hj/bjが0.030であるのに対して、本発明例5では、0.061であった。このため、本発明例5と従来規格との閾値を0.04に設定することとした。
このようにして、継手部の高さ(hj)、幅(bj)と、当該仮想平面51以上の断面積(A)を(3)式との関係で規定することにより、凸部が損傷しても、その断面積が大きいため、継手部同士が離間させる外力が作用した場合においても、離間しにくい構造とすることができる。
さらに本発明を適用したハット形鋼矢板では、更に以下のアプローチに基づいて形状を最適化するようにしてもよい。
ハット形鋼矢板において打設時や引抜時等において、生じえる変形パターンは、ウェブ部とフランジ部32との連設部としての第1隅角部、フランジ部32とアーム部33との連設部にとしての第2隅角部37における曲げ等の変形である。図7は、このうち、第2隅角部37に生じた曲げ変形を示しており、図中点線が変形後の形態を示している。このような第1隅角部、第2隅角部37における曲げ変形が生じると鋼矢板の断面形状そのものが変化してしまう。
この第1隅角部36、第2隅角部37における曲げ変形は、ハット形鋼矢板の打設時や引抜時において最も発生する可能性が高い。その理由として、隣接する他のハット形鋼矢板との間で継手同士を係合させた状態で土中へ打設していくことから、鋼矢板自体に土中から或いは他の継手を介して外力が加わるためである。さらに打設や引抜きを繰り返すことより、曲げ変形が生じる可能性が高くなる特徴を有する。
この鋼矢板自体に加わる外力の詳細としては、単純化すると、1)継手部34に生じる鉛直方向、即ち面外方向の集中荷重と、2)継手部34に生じる水平方向、即ち面内方向の集中荷重が考えられる。
図8(a)は、1)の鉛直方向の集中荷重による鋼矢板の変形形態を、また図8(b)は、2)の水平方向の集中荷重による鋼矢板の変形形態を、簡略化し、それぞれ骨組みモデルを用いて示している。
図8(a)に関しては、鋼矢板の打設時や引抜時に生じる打設機械の面外方向への偏心等により、鋼矢板が前傾又は後傾した際に生じるものと予測される。継手部34の一端側を固定し、他端側の継手部34に鉛直上向きの荷重Pyを負荷すると、点線で示されるような形態に変形する。第1隅角部36、第2隅角部37は、それぞれ第1隅角部36´、第2隅角部37´となり、曲げ変形が生じることになる。
図8(b)に関しては、鋼矢板をまっすぐに打設することができず、鋼矢板が打ち伸び、打ち縮みした際に生じるものと想定される。継手部34の一端側を固定し、他端側の継手部34に水平方向の荷重Pxを負荷すると、点線で示されるような形態に変形する可能性を有する。第1隅角部36、第2隅角部37は、それぞれ第1隅角部36´、第2隅角部37´となり、曲げ変形が生じる可能性を有する。
図9は、保管時や輸送時において、鋼矢板を積み重ねた際に、上下の鋼矢板の継手部34同士が接触するため、フランジ部やウェブ部に変形が生じる点を、骨組みモデルを用いて示したものである。継手部34同士の接触により、図9の点線で示され鋼矢板のように第1隅角部36、第2隅角部37が変形してしまう。
これら変形を効果的に、しかも経済性を確保しつつ抑制するためには、アーム部33の幅並びに第1隅角部36、第2隅角部37の断面剛性が重要なファクターとなる。
ここでアーム部33の幅をbaとし、アーム部33の剛性をE・Iとする。Eはアーム部を構成する鋼材の弾性率であり、Iは、その断面2次モーメントである。このとき、図8(a)に示すように継手部34に荷重Pyが負荷されたとき、アーム部33のたわみ最大量ymaxは、第2隅角部37を固定端した片持ち梁と考えた場合、ymax=Py・ba2/(3・E・I)で表される。即ち、baが小さくなるほど、またE・Iが大きくなるほど、アーム部33のたわみは小さくなる。
同様に、水平方向の変形に対しては、鋼矢板の高さhとし、継手部34に水平方向の荷重Pxが負荷された場合において、Pxに起因する曲げモーメントM2が継手部34に生じ、第2隅角部37を固定端した片持ち梁と考えた場合、ymax=M2・ba2/(2・E・I)、ここでM2=Px・hとして表され、baが小さくなるほど、またE・Iが大きくなるほど、アーム部33のたわみは小さくなる。
即ち、アーム部33の幅を小さくすることにより、アーム部33の変形を抑制することができ、連設部に相当する第1隅角部36、第2隅角部37の断面剛性を向上させることにより、アーム部33や、かかる隅角部36、37の変形の抑制に寄与することになる。
なお、変形の抑制を図る上では、フランジ部やウェブ部の板厚も重要なファクターとなり得るが、これらを大きく設定し過ぎるとその影響範囲や鋼重が大きくなり、却って経済性を悪化させる要因ともなる。
なお、鋼矢板の変形には、上述した変形に加えて、フランジ部等においても変形が生じる場合があるが、本発明者らは、打設に係る検討や数値解析等により、そのフランジ部等における変形が相対的に小さいことを確認している。また、鋼矢板の土中への打設状況を踏まえると、鋼矢板は土中でアーム部33や隅角部36、37、さらには一部のウェブ部やフランジ部により形成される屈曲した2面により拘束されることになるため、フランジ部のみが大きく変形することは想定しにくい。
以上のような知見から、本発明者らは、土中への打設時において変形を効果的に抑制可能とし、しかも経済性にも優れたハット形鋼矢板1を提供するために、以下に説明するように、各サイズの調整を図った。
先ず、本発明を適用したハット形鋼矢板1は、図10に示すアーム部33の幅(ba)と、当該ハット形鋼矢板1の高さ(h)との関係が(4)式を満足することを必須の構成要素としている。
ba/h<0.247 ・・・ (4)
この(4)式に意味するところは、ハット形鋼矢板1の高さ(h)に対するアーム部33の幅(ba)を所定範囲内に抑え込んだものである。換言すれば、アーム部33の幅(ba)をハット形鋼矢板1の高さ(h)との関係において所定範囲内まで短く構成したものである。
また、この(4)式において、閾値を0.247としている理由について説明をする。
表4は、従来規格25Hと10H並びに、本発明例6、7の各寸法を示す。
ここで有効幅bとは、図10に示すように一端側の継手部14の継手嵌合位置から他端側の継手部14の継手嵌合位置に至るまでの幅を示している。厚さtは、ウェブ部11、フランジ部12、アーム部13の板厚を示している。さらにアーム部33の幅(ba)とは、第2隅角部17の曲面の端部から継手部14を形成する面の端部に至る、アーム部の長さを意味している。なお継手部14を形成する面については、図4の実施例では曲面であるが、曲面であっても平面であってもいずれの形状であってもよい。また左右のアームについて、その幅が異なる場合は、短い方の幅を用いるものとする。一方、この表4において、鋼矢板の高さhと、アーム部の幅baとの間で計算したba/hも示しておく。
図11は、このような従来規格25Hと10H並びに本発明例6、7について、ba/hを横軸に、正規化たわみ量を縦軸に表したグラフである。この正規化たわみ量は、従来規格25Hにおけるたわみ量を1としたときの比率として表している。
この図11に示すように本発明例6、7のプロットは、従来規格25H、10Hと比較してba/hが低く、また正規化たわみ量が低い傾向が見られた。また、従来規格25Hと10H並びに本発明例6、7の各プロットを通じて、ba/hと正規化たわみ量との間で線形関係が見られた。これら各プロットを近似させた直線γを図中に示す。
なお、この図11において、上述した(4)式で規定するラインを追記しておく。この(4)式で規定するラインと直線γとの交点から、ba/hの範囲を(4)式で規定することにより、正規化たわみ量を15%以上減少させることが可能となることが分かる。なお、本発明の更になる望ましい形態として、上述した(4)式における閾値を0.20まで絞り込んだ下記の(4)’式を適用するようにしてもよい。
ba/h <0.20 ・・・ (4)’
この(4)’式で規定するラインを図11に示す。(4)’式で規定するラインと直線γとの交点から、ba/hの範囲を(4)’式で規定することにより、正規化たわみ量を30%以上減少させることが可能となることが分かる。
このように、本発明を適用したるハット形鋼矢板1では、ウェブ部11の両端に一対のフランジ部12が連設され、フランジ部12の他端にアーム部13が連設されていると共に、そのアーム部13の先端部に継手部14を設けた断面ハット型形状とし、アーム部13の幅(ba)と、ハット形鋼矢板1の高さ(h)との関係が(1)式を満足するように設定されていることにより、アーム部13の幅を小さくすることによるアーム部13の変形の抑制を実現することができる。また、正規化たわみ量を15%以上減少させることができるということは、逆に耐力を2割程度以上に大きくすることが可能となることを意味するものであることから、土中へ打設を行う上でより大きな応力が負荷された場合においても、これに抵抗することが可能となる。また本発明は、(4)式で規定する条件を満たすようにサイズをコントロールすればよいことから、比較的安価で実現することができ、経済性にも優れている。
なお、本実施例1は、従来規格の25Hと比較して、正規化たわみ量を3割強減少することができることに加え、経済性、製作性、構造性、打設性の観点からも優れているため、より好適な実施の形態である。
また、本発明例2は、従来規格の25Hと比較して、正規化たわみ量を6割強減少することができ、構造性を追及した形態といえる。
なお、本発明では、製造容易性の観点や、打設時に使用する圧入機の把持部の径の関係から、ba/hの下限を0.1とすることが望ましい。また、ハット形鋼矢板1の高さ(h)は、200mm以上、望ましくは240mm以上とするようにしてもよい。
また、本発明を適用したハット形鋼矢板1は、図10に示すアーム部13の幅(ba:mm)とアーム部13の板厚 (ta:mm)との関係が(5)式を満足することを必須の構成要素としている。
ba2/ta3<2.55 (1/mm) ・・・ (5)
この(5)式において、閾値を2.55としている理由について説明をする。
表5は、従来規格25Hと10H並びに、本発明例8、9の各寸法を示す。
図12は、このような従来規格25Hと10H並びに本発明例8、9について、ba2/ta3を横軸に、正規化たわみ量を縦軸に表したグラフである。
この図12に示すように本発明例8、9のプロットは、従来規格25H、10Hと比較してba2/ta3が低く、また正規化たわみ量が低い傾向が見られた。また、従来規格25Hと10H並びに本発明例8、9の各プロットを通じて、ba2/ta3と正規化たわみ量との間で線形関係が見られた。これら各プロットを近似させた直線ηを図中に示す。
なお、この図12において、上述した(5)式で規定するラインを追記しておく。この(5)式で規定するラインと直線ηとの交点から、ba2/ta3の範囲を(5)式で規定することにより、正規化たわみ量を5%以上減少させることが可能となることが分かる。なお、本発明の更になる望ましい形態として、上述した(2)式における閾値を1.8まで絞り込んだ下記の(5)’式を適用するようにしてもよい。
ba2/ta3<1.8 (1/mm) ・・・ (5)’
この(5)’式で規定するラインを図12に示す。(5)’式で規定するラインと直線ηとの交点から、ba2/ta3の上限を(5)’式で規定することにより、正規化たわみ量を20%以上減少させることが可能となることが分かる。
このように、本発明を適用したるハット形鋼矢板1では、ウェブ部11の両端に一対のフランジ部12が連設され、フランジ部12の他端にアーム部13が連設されていると共に、そのアーム部13の先端部に継手部14を設けた断面ハット型形状とし、アーム部13の幅(ba:mm)と、アーム部13の板厚 (ta:mm)との関係が(5)式を満足するように設定されていることにより、アーム部13の変形の抑制を実現することができる。
なお、本発明例8は、従来規格の25Hと比較して、正規化たわみ量を20%強減少することができることに加え、経済性、製作性、構造性、打設性の観点からも優れているため、より好適な実施の形態である。
また、本発明例9は、従来規格の10Hと比較して、正規化たわみ量を7割強減少することができ、構造性を追及した形態といえる。
なお、本発明では、製造容易性の観点並びに打設時に使用する圧入機の把持部の径の関係からから、ba2/ta3の下限を0.065としてもよい。
また本発明では、上記(3)の条件と上記(4)の条件とを組み合わせた形態として具体化されていてもよい。図13は、上記(3)の条件と上記(4)の条件とを組み合わせたハット形鋼矢板1の形態を示している。実線で描いた本発明に係るハット形鋼矢板1は、これとほぼ同一高さで構成される25Hと比較して、アーム部13の幅が狭くなっているのが分かる。また、本発明に係るハット形鋼矢板1は、25Hと比較して、アーム部13の幅が狭い分においてフランジ部12における傾斜が緩やかになっている。
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、第1隅角部16及び/又は第2隅角部17において、板厚を増加させた間隔保持部を形成させるようにしてもよい。
図14は、間隔保持部18を第1隅角部16の外側に形成させた例を示している。この間隔保持部18は、ウェブ部11やフランジ部12等とは異なる部材を第1隅角部16の外側に取り付けるようにしてもよいし、第1隅角部16より外側の肉厚を厚く構成するようにしてもよい。
このような間隔保持部18を設けることによる作用効果について以下に説明する。
図15(a),(b)は、このような間隔保持部18が設けられたハット形鋼矢板1を上下に積み重ねた例を示している。因みに図15(a)は、アーム部13が下側になるように、また図15(b)は、ウェブ部11が下側になるように、ハット形鋼矢板1を互いに積み重ねた例である。
図15(a)のケースでは、下段のハット形鋼矢板1における間隔保持部18が、その直上に積み上げられるハット形鋼矢板1に当接することになる。その結果、この直上に積み上げられる上段のハット形鋼矢板1は、下段のハット形鋼矢板1における間隔保持部18による当接を介して固定され、その状態で静止することになる。その結果、上段のハット形鋼矢板1における継手部14は、下段のハット形鋼矢板1における継手部14と離間した状態で静止することになる。上下の継手部14を互いに離間させて積み上げ可能な構成とすることにより、アーム部やフランジ部が隅角部を基点に曲がったり、鋼矢板が傾いてしまうことを防止することが可能となる。
図15(b)のケースでは、上段に積み上げられるハット形鋼矢板1における間隔保持部18が、その直下に位置するハット形鋼矢板1に当接することになる。その結果、この直上に積み上げられる上段のハット形鋼矢板1は、その間隔保持部18による当接を介して固定され、その状態で静止することになる。その結果、上段のハット形鋼矢板1における継手部14は、下段のハット形鋼矢板1における継手部14と離間した状態で静止することになる。
因みに、この間隔保持部18は、ちょうどこの図15(a)に示すように、上段のハット形鋼矢板1を積み上げた時において、上下の継手部14が離間するように、そのサイズや形状等が予め調整されている必要がある。
図16は、この間隔保持部18を取り付けたハット形鋼矢板1の他の例を示している。図16(a)は、間隔保持部18を第1隅角部16内側に設けた例である。図16(b)は、間隔保持部18を第2隅角部17外側に設けた例である。図16(c)は、間隔保持部18を第2隅角部17外側並びに第1隅角部16内側に設けた例である。図16(d)は、間隔保持部18を第2隅角部17外側、第1隅角部16外側に設けた例である。
何れのケースにおいても、上段に積み上げるべきハット形鋼矢板1が間隔保持部18による当接を介して固定され、その状態で静止することになる。その結果、上段のハット形鋼矢板1における継手部14は、下段のハット形鋼矢板1における継手部14と離間した状態で静止させることが可能となる。
また図17(a),(b)に示すように、第1隅角部16並びに第2隅角部17の凹部側を隅角凹部41とし、凸部側を隅角凸部42としたとき、第1隅角部16並びに第2隅角部17は、フランジ部12の板厚が8mm以上であるという前提の下で、隅角凹部41を形成する曲率半径と、その隅角凸部42を形成する曲率半径との差が50mm以下の範囲において、その板厚を増加させることにより構成されていてもよい。因みに図17(a),(b)の例では、フランジ部の板厚が8mmである場合において、隅角凹部41の曲率半径が75mmであり、隅角凸部42の曲率半径が40mmである場合を示している。
隅角凹部41を形成する曲率半径と、隅角凸部42を形成する曲率半径との差を上述した範囲に抑えることにより、第1隅角部16、第2隅角部17における変形を効果的に抑制することが可能となる。なおハット形鋼矢板の高さ(h)、アーム部の幅(ba)、アーム部の板厚(ta)、ハット形鋼矢板1枚当たりの弱軸方向の断面剛性(I)と継手部1個における弱軸方向の断面剛性(Ij)、ハット形鋼矢板1枚の幅(b)、継手部の板厚(tj)、継手部の高さ(hj)、幅(bj)、アーム部表面を伸張した仮想平面以上の断面積(A)は、設計で用いられる公称の値を意味するものである。