以下、本発明に係るアクチュエータの実施形態を図面に基づいて詳述する。この実施形態では、1気筒当たり2つの吸気弁を備えた内燃機関の吸気側の動弁装置に適用し、前記吸気弁のリフト量や作動角あるいは開閉時期を制御する可変動弁装置に適用したものである。なお、本発明を排気弁側に適用することも可能である。
〔第1の実施形態〕
前記可変動弁装置は、図1〜図3に示すように、基本構造は前記公報記載の従来技術と同じであるから簡単に説明すると、シリンダヘッド1に図外のバルブガイドを介して摺動自在に設けられて、バルブスプリング3,3によって閉方向に付勢された一対の機関弁である吸気弁2,2と、該各吸気弁2,2の作動角とリフト量を可変制御する可変装置4と、該可変装置4の作動位置を制御する制御機構5と、該制御機構5を回転駆動するアクチュエータである駆動機構6とを備えている。
前記可変装置4は、図外の軸受に回転自在に支持された駆動軸13と、該駆動軸13に固設された駆動カム15と、前記駆動軸13の外周面に揺動自在に支持されて、バルブリフター16,16を介して各吸気弁2,2を開作動させる2つの揺動カム17,17と、前記駆動カム15の回転力を揺動カム17,17の揺動力として伝達する伝達手段と、を備えている。
前記駆動軸13は、一端部に設けられた図外の従動スプロケットや、該従動スプロケットに巻装されたタイミングチェーン等を介して機関のクランク軸から回転力が伝達されており、この回転方向は図1中、時計方向(矢印方向)に設定されている。
前記軸受は、駆動軸13の上部を支持するメインブラケットと、後述する制御軸32を回転自在に支持するサブブラケットを有し、両ブラケットが一対のボルトによって上方から共締め固定されている。
前記駆動カム15は、図2,図3にも示すように、ほぼリング状を呈し、カム本体の軸心Yが駆動軸13の軸心Xから径方向へ所定量だけオフセットしていると共に、後述するリンクアーム24の嵌合孔24bにベアリング14を介して回転自在に支持されている。
前記両揺動カム17は、同一形状のほぼ雨滴状を呈し、前記駆動軸13に回転自在に支持された円筒状のカムシャフト20の両端部に一体的に設けられている。前記各バルブリフター16に摺接するカム面22は、カムシャフト20側の基円面と、該基円面からカムノーズ部21側に円弧状に延びるランプ面と、該ランプ面からカムノーズ部21の先端側に有する最大リフトの頂面に連なるリフト面と、から構成されている。
前記伝達手段は、駆動軸13の上方に配置されたロッカアーム23と、該ロッカアーム23の一端部23aと駆動カム15とを連係するリンクアーム24と、ロッカアーム23の他端部23bと揺動カム17とを連係するリンクロッド25とを備えている。
前記ロッカアーム23は、中央に有する筒状基部が支持孔を介して後述する制御カム33に回転自在に支持され、一端部23aがピン26を介してリンクアーム24に回転自在に連結されている一方、他端部23bがピン27を介してリンクロッド25の一端部と回転自在に連結されている。
前記リンクアーム24は、円環状の基部24aの中央位置に、前述した駆動カム15のカム本体が回転自在に嵌合する嵌合孔24cが形成されている一方、突出端24bが前記ピン26を介してロッカアーム23の一端部23aに回転自在に連結されている。
前記リンクロッド25は、両端部25a,25bに前記ロッカアーム23の他端部23bと揺動カム17のカムノーズ部21が各ピン27,28を介して回転自在に連結されている。
前記制御機構19は、作動部材である前記制御軸32と、該制御軸32の外周に固定されてロッカアーム23の前記支持孔に摺動自在に嵌入されて、ロッカアーム23の揺動支点となる制御カム33とを備えている。
前記制御軸32は、ジャーナル部が前記軸受のメインブラケットとサブブラケットとの間に回転自在に軸受されている。
一方、前記制御カム33は、円筒状を呈し、軸心P1位置が制御軸32の軸心Pから所定分だけ偏倚している。
前記駆動機構6は、図1、図4〜図9に示すように、シリンダヘッドの後端部に固定されたハウジング35と、該ハウジング35の一端部に固定された電動モータ36と、ハウジング35の内部に設けられて電動モータ36の回転駆動力を減速して前記制御軸32に伝達する減速機構37とから構成されている。
前記ハウジング35は、図1〜図3に示すように、アルミ合金材などによって一体に形成され、内部に前記制御軸32の軸方向とほぼ直角方向に沿って配置されており、前記減速機構37が収容配置される細長い収容部35aと、該収容部35aの上端部中央に上方へ突出して、内部に前記制御軸32の一端部32aが臨む膨出部35bが形成されて、これら収容部35aと膨出部35bによって作動室が構成されている。
前記作動室35a、35bは、一端開口(図4中手前側開口)がシール部材を介して図外のカバーによって閉塞されており、前記収容室35aは、軸方向の一端部に円形状の開口部35cが形成されていると共に、他端部側が壁部35dによって閉塞されている。
前記電動モ−タ36は、比例型のDCモータによって構成され、ほぼ円筒状のモータケーシング38の矩形状フランジ部38aが前記収容室35aの一端開口部35cを封止する状態で固定されていると共に、一端開口部35cの内周面にねじ込み固定された円筒状のリテーナ39によってボールベアリング50のアウターレースが固定されている。
前記モータケーシング38は、その内部がメカニカルシール34によって回転軸であるモータ軸36aを介してシールされている。また、電動モータ36は、図1に示すように、機関の運転状態を検出するコントロールユニット40からの制御信号によって回転駆動するようになっている。
前記コントロールユニット40は、クランク角センサ41やエアーフローメータ42、水温センサ43や、制御軸32の回転位置を検出するポテンショメータ44等の各種のセンサからの検出信号をフィードバックして現在の機関運転状態を演算などにより検出して、前記電動モータ36に制御信号を出力している。
前記減速機構37は、前記ハウジング35の収容室35a内に電動モータ36のモータ軸36aとほぼ同軸上に配置された出力軸であるボール螺子軸45と、該ボール螺子軸45の外周に螺合する移動部材であるボールナット46と、前記制御軸32の一端部に連結されたレバーであるアーム部材47と、該アーム部材47と前記ボールナット46とを連係するリンクであるリンク部材48と、から主として構成されている。
前記ボール螺子軸45は、両端部を除く外周面全体に所定幅のねじ溝であるボール循環溝49が螺旋状に連続して形成されていると共に、収容室35aの一端開口部35cと他端部の小径部内にそれぞれ臨んだ軸方向の両端部45a、45bが第1、第2ボールベアリング50、51によって回転自在に軸受けされている。
前記ボール螺子軸45は、一端部45aの先端の六角軸と電動モータ36の駆動シャフト36aの先端部が円筒状の連結部材52によって同軸上で軸方向移動可能に結合され、かかる結合によって電動モータ36の回転駆動力を前記ボール螺子軸45に伝達すると共に、ボール螺子軸45の軸方向の僅かな移動を許容している。
前記ボールナット46は、ほぼ円筒状に形成され、内周面に前記ボール循環溝49と共同して図外の複数のボールを転動自在に保持するガイド溝が螺旋状に連続形成されていると共に、複数のボールの循環列をボールナット46の軸方向の前後2個所に設定する2つのディフレクタが取り付けられている。
そして、このボールナット46は、図6〜図9に示すように、各ボールを介してボール螺子軸45の回転運動を直線運動に変換しつつボール螺子軸45の図中左右軸方向へ往復可能な移動力が付与されるようになっている。
また、ボールナット46は、左右両側部にほぼ直径方向に沿って2つの枢支穴が穿設され、この両枢支穴に挿入された支持ピン55、55を介して前記リンク部材48の二股状の他端部に回転自在に連結されている。
前記アーム部材47は、図1、図4〜図9に示すように、両側面が平面の肉厚な板状に形成され、ほぼ半円状の基部47aが中央に形成された固定用孔を介して前記制御軸32の一端部32aにボルト56により連結されていると共に、該基部47a径方向に突出した先端部47bに形成されたピン孔に挿通したピン57によって前記リンク部材48の一端部に回転自在に連結されている。また、この先端部47bは、先端の軸方向中央が肉抜きされており、ボール螺子軸45との干渉が回避されるようになっている。
前記リンク部材48は、側面ほぼL字形状に形成されて、一端側が一対のプレート状に形成されていると共に、他端部48aが二股状に形成され、前記一端側がアーム部材47の先端部47bを挟持状態に嵌合しつつ前記ピン57によって揺動自在に連結されている。一方、他端部48a側は、先端側ボールナット46の両側部を挟んだ状態で配置されて、折曲部位にそれぞれ有するピン孔に前記各ピン55を介してボールナット46に回転自在に連結されている。
したがって、このリンク部材48は、図4〜図9に示すように、前記ボールナット46がボール螺子軸45の左右軸方向に沿って移動するに伴ってその姿勢を変化させながら前記アーム部材47を介して制御軸32に正逆の回転力を伝達するようになっている。
すなわち、前記ボールナット46が、図4に示すように、軸方向の最大左端側に移動している場合には、ピン55の枢支点R1でボールナット46に軸支されているリンク部材48は、ピン57の軸支点Q1を介してアーム部材47を時計方向の最大位置まで回動させる。これによって、前記制御軸32は、軸心Pを中心に時計方向の最大位置に回転して、アーム部材47との角度がθ1になる。したがって、前記伝達手段の後述する作動に基づいて吸気弁2,2が最小作動角(D1)、最小リフト(L1)に制御される。
また、ボールナット46が右方向に移動して図5から図6に示す位置になると、前記リンク部材48は、ボール螺子軸45に対してほぼ並行な姿勢となり、アーム部材47を介して前記制御軸32を図中右方向(反時計方向)へ回転させる。そして、この時点での制御軸32の回転位置による吸気弁2,2の作動角は、図10に示すように、比較的大きな中間作動角(D4)、中間リフト量(L4)になるように設定されている。
さらに前記ボールナット46が、図7から図9に示すように、図中右方向へ移動するとリンク部材48が右方向へ傾動しながらアーム部材47を介して制御軸32をさらに反時計方向へ回転させる。つまり、ボールナット46が、図9に示すように、軸方向の最大右端側に移動している場合には、リンク部材48は軸支点Q1を介してアーム部材47を反時計方向の最大位置まで回動させる。これによって、前記制御軸32は、軸心Pを中心に反時計方向の最大位置に回転してアーム部材47との角度がθ6になる。したがって、前記伝達手段の後述する作動に基づいて吸気弁2,2が最大作動角(D6)、最小リフト(L6)に制御される。
また、前記減速機構37の減速比は、後述の図11に示すように、吸気弁2,2の作動角が最小(D1)で比較的大きく、これからわずかに大きくなった小作動角(D2.5)で小さくなり、実用領域である前記所定の中間作動角(D4、D4.5)で増加するように設定されている。また、前記中間作動角(D4、D4.5)から最大作動角(D6)までに漸次小さくなるように設定されている。
前記ポテンショメータ44は、一般的なものであって、前記アーム部材47の回転に伴って回転する図外の検出ピンの回転位置をセンサ部によって検出して、この検出信号を前記コントロールユニット40に出力するようになっている。
以下、吸気弁2,2の最小作動角制御状態から最大作動角制御に至る前記アーム部材47とリンク部材48の作動姿勢を中心とした本実施形態の作用を説明する。
まず、イグニッションスイッチをオンして機関を始動させると、このクラインキング時点ではコントロールユニット40に電源が入っても電動モータ36への通電がなされないことから、ボール螺子軸45は回転することなく、バルブスプリングのばね荷重により機関停止時の状態を維持し、ボールナット46も図4に示すように、最大左端側の位置に保持される。このため、アーム部材47の角度(制御軸32の角度)はθ1に保持されて、制御軸32も最大時計方向の回転位置に保持され、制御カム33の軸心P1が図2A、Bに示すように、肉厚部が駆動軸13から左上方向に離間移動している。
よって、ロッカアーム23の他端部23bとリンクロッド25の枢支点は、駆動軸13に対して上方向へ移動し、各揺動カム17はリンクロッド25を介してカムノーズ部21側が強制的に引き上げられた状態になっている。
よって、駆動カム15が回転してリンクアーム24を介してロッカアーム23の一端部23aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド25を介して揺動カム17及びバルブリフター16に伝達されるが、そのリフト量は充分小さくなる。このため、吸気弁2,2は、最小作動角(D1)、最小リフト量(L1)の状態となる。このように、最小リフト量Lになることにより、動弁系の駆動フリクションが低減する。このため、機関の始動性が良好になり、アイドリングや軽負荷などの常用域での燃費が向上する。
続いて、例えば、低回転低負荷域(やや負荷の高い領域)になると、コントロールユニット40からの制御信号によって電動モータ36に伝達された回転トルクは、ボール螺子軸45に伝達されて一方向へ回転すると、この回転に伴って各ボールがボール循環溝とガイド溝との間を転動しながらボールナット46を所定の右方向位置まで移動させる。
したがって、ボールナット46とリンク部材48軸支点は、図5に示すように、R1から右方向へ移動してR2になる。この軸支点R2は、制御軸32の軸心Pからボール螺子軸45に下ろした垂線の足であるA点とほぼ一致する。そして、アーム部材47の角度(制御軸32の角度と以下同じ)はθ1からθ2へと反時計方向へ回転する。
よって、前記制御カム33は、軸心P1が図2A、Bに示すように、制御軸32の軸心Pの回りを同一半径で回転して、肉厚部が駆動軸13から上方向にあった位置からやや下方向へ接近移動する。このため、ロッカアーム23の他端部23bとリンクロッド25の枢支点は、駆動軸13に対して僅かに下方向(接近方向)へ移動し、各揺動カム17はリンクロッド25を介してカムノーズ部21側が強制的に引き下げられて全体が僅かに時計方向へ回動する。
よって、駆動カム15が回転してリンクアーム24を介してロッカアーム23の一端部23aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド25を介して揺動カム17及びバルブリフター16に伝達されるが、そのリフト量はやや増加する。
したがって、かかるアイドリング運転領域では、吸気弁2,2の作動角がD2、リフト量がL2へと増加する。これにより、各吸気弁2の閉時期が遅くなり、回転数や負荷に応じた必要吸入空気量を確保できる。
前記電動モータ36が一方向へさらに回転すると、図6に示すように、ボールナット46とリンク部材48の軸支点は右方向のR3へ移動し、アーム部材47の角度がθ3へと反時計方向へ回転する。
したがって、前記伝達手段の作動に伴って図10に示すように、吸気弁2,2の作動角がD3に、リフト量がL3へと増加する。このとき、リンク部材48は、R点を支点にさらに反時計方向へ回転し、ボール螺子軸45とほぼ並行になる。すなわち、図6に示すように、アーム部材47とリンク部材48の軸支点Q3がボール螺子軸45の軸心Sとほぼ一致する。
続いて、中回転あるいは中負荷の運転域に移行すると、電動モータ36がさらに一方向へ回転して、図7に示すように、ボールナット46とリンク部材48の軸支点がさらに右方向へ移動してR4になる。アーム部材47の角度は反時計方向へ回転してθ4となる。したがって、吸気弁2,2は、図10に示すように、作動角がD4に、リフト量がL4に増加する。
ここで、アーム部材47は、ボール螺子軸45とほぼ直交する方向に位置し、つまり、θ4はほぼ90°になっている。また、アーム部材47とリンク部材48の軸支点Q4は、ボール螺子軸45の軸心Sよりも僅かに下がっている。ここで、アーム部材47の先端の軸方向中央が肉抜きされており、ボール螺子軸47との干渉が回避される。
電動モータ36がさらに一方向へ回転すると、図8に示すように、ボールナット46とリンク部材48との軸支点が右方向へ移動してR5になる。アーム部材47の角度はさらに反時計方向へ回転してθ5となる。このとき、リンク部材48は、R点を支点としてさらに時計方向に復帰回転して再びボール螺子軸45とほぼ並行になる。すなわち、リンク部材48の軸支点Q5は、ボール螺子軸45の軸心Sとほぼ一致する。
ここで、図10には示されていない作動角D3とD5を比較すると、両者ともにリンク部材48はボール螺子軸45とほぼ並行であって、前記θ3とθ5は90°(≒θ4)に対して振り分け状態になっている。
また、例えば、機関高回転域に移行して、電動モータ36がさらに一方向へ回転すると、図9に示すように、ボールナット46とリンク部材48との軸支点が右方向へ移動してR6になる。これによって、吸気弁2,2は、図10に示すように、作動角がD6に、リンク量がL6に増加する。アーム部材47の角度はさらに反時計方向へ回転してθ6となる。このとき、アーム部材47とリンク部材48の軸支点Q6は、ボール螺子軸45の軸心Sよりも僅かに上がっている。
続いて、電動モータ36を他方向へ逆回転させると、吸気弁2,2の作動角がD6からD5,D4、D3,D2、D1と減少し、また、リフト量もL6→L1へ順次減少する。
〔減速比特性〕
次に、前記減速機構37による減速比Gなどの特性を図11に基づいて考察する。
前記減速比Gとは、モータ軸36aの回転が制御軸32の回転に変換される際の瞬間速度比のことであって、G=dθm/dθ…(1)式で表せる。
ここで、θは制御軸32の回転角であり、θmはモータ軸36aの回転角である。
また、リンク部材48とボールナット46の軸支点Rの軸方向座標をX、前記ボール螺子軸45のボール循環溝49のリードをTとしたとき、θm=2πX/Tであるので、(1)式は、G=(2π/T)・dX/dθ…(1)'と変形できる。
ここで、(2π/T)は定数であるので、G∝dX/dθであり、Gは直接dX/dθと相関があることになる。
このdX/dθは、機構学的に決まる特性であり、これに(2π/T)を掛け算することによって減速比Gを求めることができ、図11はその結果を示している。
θが増加すると作動角Dも増加するが、減速比Gは吸気弁2,2の最小作動角D1(θ1)の位置では比較的大きいが、θが増加するに連れて減少し、θ2を過ぎた当たり(θ2.5)で極小値を示す。さらにθが増加すると、θ4を過ぎた当たり(θ4.5)、つまり最大作動角D6より小さな中間作動角D4.5で極大値を示す。その後は、減速比Gは再び減少に転じる。
以下、この減速比G変化のメカニズムについて考察する。つまり、前述のように、G∝dX/dθであるから、dX/dθについて考える。
β=θ+α…(2)
X=−La・cosθ+Lb・cosα…(3)
Lc=La・sinθ+Lb・sinα…(4)
式(3)をθで微分すると、
dX/dθ=La・sinθ−Lb・dα/dθ・sinα…(5)
ここで、第一項(La・sinθ)についてみると、減速比Gはθ90°で最大値を示す。したがって、図12に示すように、θ=90°となるθ4付近で極大値になる。
実際に極大値となるθ4.5は、90°よりやや大きくなって、ややθが大きくなる方向へシフトしている。このシフトは第二項(−Lb・dα/dθ・sinα)の影響で説明することができる。
θ4よりも手前側は、αが減少傾向なので、dα/dθは負の値であり、またθ4付近ではαは負値であり、sinαも負値であるから、前記第二項(−Lb・dα/dθ・sinα)は負となる。
したがって、式(5)では、dX/dθ<La・sinθとなる。
一方、θ4よりも後では、αが増大傾向となるので、dα/dθは正の値であり、sinαは負値継続であるから、前記第二項(−Lb・dα/dθ・sinα)は負となる。
したがって、式(5)では、dX/dθ>La・sinθとなる。
このため、式(5)のdX/dθは、θ4よりもやや大きなθ4.5で極大値(G4.5)を示すのである。
次に、θが90°よりも十分に小さいθ1〜θ2について考察すると、第一項の影響は弱まり、第二項の影響が強くなる。θ1付近の場合、dα/dθは負値、sinαは正値であるから、第二項(−Lb・dα/dθ・sinα)は正値となり、式(5)のdX/dθは大きくなる。
したがって、θ1での減速比Gは比較的大きなG1を示す。特に、リンク部材48が立って、αが大きくなっているので、G1は大きな値を示すのである。
次に、θがθ2に増加すると、図5に示すように、ボールナット46の支点R2が軸に下ろした垂線の足であるA点に一致している。
したがって、線分、点P−点Rが最も短くなっている。このことは、図11において、βの値(β2)が最小になっているのと対応する。
ここで、θをθ2より小さくしていくと、βが漸次増加するので、αも急増を開始するため、第二項も漸次急増して、図11に示すようにG2からG1へ急増するのである。
ここで、図11において、θ変換角A14(=θ4−θ1)をA24(=θ4−θ2)よりも大きくすれば、つまり、A12(=θ2−θ1)を大きくとれば、G1を大きくすることができる。
一方、さらにθが増加してθ3付近まで大きくなると、sinαはほぼ0になるので、第二項は0になる。したがって、第一項の影響が大きくなるので、減速比Gは再び増加に転ずる(極小はθ2.5でのG2.5)。そして、前述にように、第一項の影響によってG4、G4.5と増加していく。
その後、90°(θ4)を越えθ4.5も越えると、第一項(La・sinθ)の影響により、再び減少し始める。
そして、θ5では減速比G5まで低下し、このθ5ではα=0°であり、第二項は0となる。このG5は、θ3における減速比G3と一致する。なぜならば、θ3とθ5は90°を中心に振り分けになっており(図11でA34=A45)、第一項は両者同値で、第二項も両者同値(0)であるためである。
さらにθが大きくなると、第一項が減少し、第二項は負の値が増加するので、減速比Gは増加に転じないでさらに減少を続ける。
ここで、図11におけるθ変換角A46(=θ6−θ4)を長くとれば、G6を下げることができる。
ここで、減速比G特性の全体を考察する。
最小作動角D1となるθ1付近でθを小さくしていくと、前述した第二項がα増大の伴い増加することによってGが増加する。αが立ち上がるθ2(R点≒A点)付近より小さい領域では、減速比Gが増大する傾向が強くなっており、特に、θ1とθ2の間の期間を大きく取ることで、G1を大きく取ることができる。これにより、最小作動角D1の減速比G1を他の作動角域に比べて大きく、あるいは最大値に取れ、常用運転域、すなわち、アイドリング運転や軽負荷域で用いられる最小作動角D1付近におけるモータに作用するトルクを低減させることができる。これによって、電動モータ36の消費電力を低減でき、車両の燃費を低減できる。
ここで、モータトルク=制御軸トルク/減速比Gであり、この減速比Gが大きくなると、モータトルクが低減する。モータトルクが低減するということは、電動モータ36の電流低減を意味し、これによって消費電力が低減するのである。
次に、θ1からθ2に向けてθが増加していくと、減速比GはG1からG2に減少し、θ2.5で極小値G2.5を示す。
減速比Gが減少するということは、作動角を所定量変換させる場合のモータ総回転数(回転角)が小さくて済むことを意味し、結果、変換応答性が良くなることを意味する。つまり、低負荷域走行からアクセルを踏み込んで加速する場合に、作動角がD2あるいはD2.5、D3に変換するまでのタイムラグが短くなり、トルクを速やかに立ち上げることが可能になって加速応答性が向上するのである。
補足すると、電動モータ36の回転が上昇して作動角を増大しようとした際に、電動モータ36のロータには大きなIpがあるため、自らを加速するために時間がかかってしまうのである。ここで、変換に要する電動モータ36の総回転角が減速比G小によって低減するので、変換時間が短縮されるのである。
次に、θがθ3(作動角D3)付近まで増加すると、減速比Gが再び増加に転じる。なぜなら、θ角が90°に近づいてきて前記第一項が増加して来るからである。そして、θ角が90°のθ4付近では減速比Gが大きくなり、θ4.5では極大のピーク値を示す。
このように、やや大作動角側である中間作動角域D4付近からD4.5付近では、登坂で使用される作動角である。つまり、中回転、中高負荷に対応する作動角である。
このような登坂条件では、耐熱的に厳しい条件であり、ここで、電動モータ36に大電流が流れていると、電動モータ36の自己発熱も加わって、特に夏場においては電動モータ36の耐久性や品質面に悪影響を及ぼす。
これに対して、本実施形態にように、減速比Gがこの領域で大きくなるので、モータトルク(=制御軸トルク/減速比G)も下がり、ここで、電流I∝モータトルクであるから電流Iが下がって登坂条件でのモータ自己発熱が抑制される。これにより、モータ温度上昇が抑制されて、電動モータ36の熱劣化が防止され、性能の経時的劣化や耐久性の低下を抑制できる。さらに耐熱性が向上するので、モータの小型化も可能になる。これによって、常用域を含めて全体の消費電力をさらに抑制し、車両の燃費をさらに抑制することが可能になる。
次に、θがθ5(作動角D5)付近では、減速比G5がG3とほぼ同様に再び低下する。ここで、G5=G3となるのは、両者ともαが0であり、したがって、第二項は両者ともに0であり、第一項はθ5=90°−θ3であるので、両者が同一の値となっているためである。
さらに、θが増大すると、第二項が負値の転じ、θ6(最大作動角D6)に向け、減速比Gは急激に減少していく。
したがって、全開加速する場合には、例えば登坂走行から追い越しする場合などにおいて、最大作動角付近への良好な切り換え応答性を実現できる。
ここで、高回転高負荷域では、吸入空気量を最大限増加させて出力トルクを向上させるために最大作動角D6付近に切り換える必要があるのである。
以上、説明したように、中間作動角域での減速比Gが比較的大きくすることができるので、電動モータ36への通電量を抑制することが可能になり、したがって、かかる作動角域でのモータ発熱を抑制でき、例えば、エンジンルーム内の温度が上昇し易い登坂走行などにおいて、頻繁に使用される中間作動角でのモータの自己発熱を抑制することができる。この結果、モータの熱的劣化や損傷を抑制できる。
また、合わせて常用の小作動角域での消費電力を抑えて実用燃費も改善できる。さらに、登坂走行からさらに急加速などにより、高回転域へ移行して大作動角(吸気弁2、2閉時期遅角)へ変換されるまでの電動モータ36の総回転数を低下させることができ、大作動角まで切り換え作動角応答性が向上する。よって、急加速時の加速応答性を改善することができる。
これらの減速比特性変化は、特に図1〜図3に示す可変機構としてのVEL機構と相性が良い。つまり、図3Aに示す最大作動角D6(最大リフトL6)でのピークリフト時の姿勢では、制御カム33の偏心方向が駆動軸13側に移動しており、したがって、大リフトで制御カム33の荷重が高いにも拘わらず、制御カム33にかかる制御軸32の回転トルクを小さくすることができる。
このため、大作動角D6での減速比G6が、図11に示すように小さくなってもモータトルクが過大になるのを抑制し、電動モータ36の回転のばたつきを抑制しつつ減速比G6が小さいことによる加速レスポンスの良さを最大限に得ることができる。
一方、中間作動角のD4,D4.5付近を考えると、制御カム33の偏心方向は、図2Aに最小作動角D1(最小リフト)に近づく、つまり、制御カム33の偏心方向が駆動軸13から離れる方向に変化するので、モーメントの腕が長くなり、制御軸32の回転トルクが増加する傾向になる。
本実施形態におけるVEL機構の構造は、制御カム33の偏心量が短く、もともと制御軸32の回転トルクが他の機構に比べて小さくなる特徴をもっているが、それでも中間作動角域ではやや大きくなってしまい、この領域でのモータ耐熱性やモータ軸36aのばたつきが懸念されるが、これを本実施形態のように中間作動角域の減速比を大きく設定することで、モータ熱劣化やモータ軸36aのばたつきを一層抑制することができるのである。
図12は本実施形態における減速比と吸気弁2,2の開閉タイミング(バルブタイミング)との対応関係を示し、横軸にアーム部材47(制御軸32)の回転角度θ、縦軸に吸気弁2,2の開時期(IVO)と閉時期(IVC)及び減速比Gを表している。
図12中のIVCとIVOとの間の期間が作動角になっている。中間作動角域のθ4〜θ4.5付近では、作動角はD4〜D4.5付近の中間作動角域であり、前述のように、車両登坂中の中回転、中高負荷域に対応する作動角になっている。
また、吸気弁2,2の閉時期(IVC)でみると、IVC6ほど過度に遅角していない。また、IVC1ほど過度に進角していないIVC4〜4.5付近であり、登坂中の中回転、中高負荷で充填効率を高められるような中間IVCに設定されている。そして、このとき、前述のように、減速比が大きめのG4〜G4.5付近に設定されているので、モータ電流を抑制し、耐熱性を高められるのである。
本実施形態では、最大作動角D6付近では、IVO6が進角するので、排気弁とのいわゆるバルブオーバーラップを大きくすることができ、もって十分な出力を確保することが可能になり、登坂から全開加速した場合の加速性能の向上が図れる。
以下に前記減速比特性の設定についての説明を補足する。
図11において、A14、A46の比率について考察すると、A14を相対的に長くすると、G1がより増加できるので、常用運転での消費電力低減による燃費低減効果を高めることができる。
逆にA46をA14と同程度まで近づけると、A46が相対的に長くなり、減速比G6をさらに低減することが可能になり、全開加速のレスポンスがさらに向上する。
ここで、減速比G6が最小なら登坂走行などからの全開加速性能をさらに向上させることができ、減速比G2.5を最小にすれば緩加速時の加速レスポンスの向上が図れる。減速比G1を最大にできれば、常用域の燃費が特に良好になり、減速比G4.5を最大にすれば登坂走行における耐熱性が一層良好にできるのである。
〔第2実施形態〕
図13A、Bは第2の実施形態を示し、可変装置としては、例えば特開2001−248410号公報に記載された遊星歯車を用いたバルブタイミング制御装置、つまり吸気弁3,3の開閉時期(ピークリフト位相)を可変にするものに適用され、後述するサンギア54に結合された制御軸50が第1実施形態の前記駆動機構6によって回転駆動されるようになっている。
具体的に説明すると、外周側に配置された円環状のプーリ51は、外周にタイミングベルトの歯51aを有すると共に、内周に平歯車状の内歯51bが形成されている。この内歯51bには、キャリア52に軸52aを介して取り付けられた2個の遊星歯車53が噛み合わされていると共に、この各遊星歯車53には、中央に位置する前記サンギア54が噛み合わされている。
前記キャリア52は出力軸55に結合されている一方、前記サンギア54は前記制御軸50が軸方向から結合されている。前記出力軸55は、外周に一気筒当たり2つの駆動カム57aが設けられたカムシャフト57が軸方向から結合されている。
前記各遊星歯車53は、外周に前記内歯51bに噛合する外歯53aが形成されている一方、前記サンギア54の外周には、前記外歯53aに噛み合う外周歯54aが形成されている。
したがって、前記プーリ51が図外のタイミングベルトによってクランクシャフトから回転力が伝達されて回転すると、各遊星歯車53が外歯53aに噛み合った内歯51bとサンギア54の内周歯54aの噛み合いに拘束されつつ回転して、前記キャリア52を回転させる。このキャリア52の回転に伴い出力軸55を介してカムシャフト57(駆動カム57a)が回転して吸気弁3、3を開閉作動させる。
前記制御軸50は、前記サンギア54と一体となってプーリ51とカムシャフト57の相対回転位相を変換するようになっており、前記制御軸50の回転よってサンギア54の回転位置を制御して前記キャリア52を介してカムシャフト57をプーリ51に対して増減速を行い吸気弁3,3の開閉時期を図14に示すように、最大進角側から最大遅角側まで連続に制御するようになっている。つまり、制御軸50は、図13Aのフロントビューで時計方向へ回転すると、バルブタイミング(IVO、IVC)が進角し、反時計方向へ回転すると遅角するようになっている。
すなわち、前記電動モータ36のモータ軸36aが一方向へ回転して、ボールナット46が図4に示す最大左方向位置になると、制御軸50を図13の時計方向に回転させる。そうすると、キャリア52が時計方向(プーリ51の回転方向)に回転することから、吸気弁3,3のピークリフト位相は最進角する。
一方、電動モータ36のモータ軸36aが他方向に回転して、ボールナット46が図9に示す最大右方向位置になると、制御軸50を反時計方向に回転させる。そうすると、キャリア52が反時計方向(プーリ51と逆回転方向)に回転することから、前記ピークリフト位相は最遅角する。
そして、吸気弁2,2のIVCの変化は、前述した図12に示す変化と同じであり、登坂に対応するIVC4〜4.5付近では、減速比Gが大きめのG4〜G4.5付近に設定されているので、モータ電流を抑制することができ、耐熱性が向上するなど、第1実施形態と同様な作用効果が得られる。
ここで、第1実施形態との相違点としては、常用域のθ1付近でIVO1'が進角するので、バルブオーバーラップが増加したポンピングロスが低減する。このため、常用域での燃費をさらに向上させることが可能になる。
〔第3実施形態〕
図15は第3実施形態を示し、可変装置や電動モータ36及び制御軸32などは第1の実施形態と同じであるが、前記電動モータ36の回転力を一定減速比とする図外の一定減速比の減速機構と図15に示す歯車機構からなる別異の減速機構60を介して制御軸32を回転させるものである。
すなわち、この減速機構60は、2つの平歯車を用いたもので、前記電動モータ36の回転力が前記一定減速機構により減速されて伝達される入力軸61と、該入力軸61の外周に設けられて、特殊なピッチ円軌跡(入力歯車ピッチ円軌跡)をもつ入力歯車62と、前記制御軸32が連結された出力軸63と、該出力軸63の外周に設けられて、前記入力歯車62に噛み合う特殊なピッチ円軌跡(出力歯車ピッチ円軌跡)をもつ出力歯車64と、とから構成されている。
前記両歯車62、64は、それぞれ外周に有する外歯が小ピッチに形成されていると共に、これら外歯62a、64aの歯数が多く滑らかな噛み合いを実現している。
図15に示す噛み合い状態は、最小作動角でかつ吸気弁2,2のIVCが最進角の位置になっており、これは、前述した図12に示すθ1に対応している。
このとき、入力歯車62の1'点と出力歯車64の1点とが接しており、入力歯車62の動径(ピッチ径)R1'は小さめであり、出力歯車64の動径(ピッチ径)R1は大きめである。したがって、ギア比は大きく前記一定減速機構の一定減速比を掛け合わせた減速比G(=dθm/dθ)は大きなG1になる。
そして、θ2.5まで回転すると、入力歯車62の外歯62aの2.5'点と出力歯車64の外歯64aが2.5点で接触するようになる。
R2.5'>R1'、R2.5<R1であるから、減速比GはG1よりも小さくなり、図12のG2.5に対応する。
次に、θ4.5まで回転すると、入力歯車62の4.5'点と出力歯車64の4.5点が接触するようになる。R2.5'>R4.5>R1'であり、入力歯車Rは再び減少し、R2.5<R4.5<R1であり、出力歯車64のRは再び増加するので、減速比GはG2.5より大きくなって図12のG4.5に対応する。
さらに制御軸32が回転すると、吸気弁2,2の最大作動角とIVC最遅角の位置、すなわち、図12におけるθ6と対応する位置になる。ここでは、入力歯車62側のR6'は最大となり、出力歯車64のR6は最小となるので、減速比は図12のG6に対応して最小になる。
したがって、図15に示すようなギア式の減速機構でも図12に示す減速比特性を実現できる。
本実施形態では、リンク機構などを用いずに特殊なピッチ円軌跡を有する一対の歯車62,64により構成することができるので、構造が簡素化できる。
また、ピッチ円軌跡を任意して設定することができるので、減速比特性に自由度をもたせることができる。
本発明は、前記各実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば減速機構としてボール螺子機構に変えて雌ねじと雄ねじとの螺合を得て移動部材を移動させる滑り式の螺子機構とすることも可能であって、電動モータを用いて制御軸を回転させるものに限らず、軸方向へ移動させるものであってもよい。
すなわち、可変装置としては、制御軸を回転あるいは軸方向へ移動させることによって機関弁の作動特性を変化できるものであればいずれのものでもよい。後者の場合、軸方向移動量を前記(1)式におけるθに置き換えればよい。