以下、本発明に係る内燃機関の動弁装置の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、この実施形態では、V型6気筒内燃機関に適用され、機関弁である吸気弁の作動角とバルブリフト量を可変制御する可変機構を備えたものを示している。右バンクは#1気筒と#3気筒及び#5気筒からなり、左バンクは#2気筒、#4気筒及び#6気筒からなるが、両バンクとも構造は同じであるから、片側の右バンクについて説明する。
〔第1実施形態〕
図1〜図3は本発明の第1実施形態を示し、シリンダヘッド1内に形成された一対の吸気ポート2、2を開閉する一気筒当たり2つの第1、第2吸気弁3a,3bと、#1気筒と#3気筒及び#5気筒の上方側に機関前後方向に沿って配置され、外周に3つの駆動カム5aを有する駆動軸5と、該駆動軸5の外周面に回転自在に支持されて、作動伝達部材である各スイングアーム6を介して前記各吸気弁3a、3bを開閉作動させる一対の第1、第2揺動カム7a、7bと、前記各駆動カム5aの回転力を揺動力に変換して前記各揺動カム7a、7bに伝達する伝達機構8と、該伝達機構8を介して前記各吸気弁3a,3bの作動角とリフト量を制御する制御機構9と、シリンダヘッド1に保持されて、前記各スイングアーム6を介して各吸気弁3a、3bと各揺動カム7a、7bとの間のバルブクリアランスを零ラッシに調整する2つの支点部材(ピボット)である第1、第2油圧ラッシアジャスタ10a、10bと、機関運転状態に応じて前記一方側の第1油圧ラッシアジャスタ10aを介して前記一方の第1吸気弁3aの開閉作動を停止させる弁停止機構11と、を備えている。なお、前記駆動軸5と揺動カム7a、7b、伝達機構8及び制御機構9によって可変機構が構成されている。
以下では、便宜上、1つの気筒、例えば#3気筒における各構成部材について説明する
前記各吸気弁3a、3bは、バルブガイド4を介してシリンダヘッド1に摺動自在に保持されていると共に、各ステムエンド3cの近傍に設けられた各スプリングリテーナ3dとシリンダヘッド1の内部上面との間に弾接された各バルブスプリング12のばね力によって閉方向に付勢されている。
前記駆動軸5は、シリンダヘッド1の上端部に設けられた複数の軸受部13に前記揺動カム7a、7bが一体に形成されたカムシャフト7cを介して回転自在に支持され、一端部に設けられた図外のタイミングプーリを介してクランクシャフトの回転力がタイミングベルトによって伝達されるようになっている。また、駆動軸5の外周に一気筒当たり1つ設けられた前記駆動カム5aは、その軸心Yが駆動軸5の軸心Xから径方向へ偏心していると共に、外周のカムプロフィールが通常のほぼ円形状に形成されている。
前記各スイングアーム6は、一端部6aの凹状下面が前記各吸気弁3a、3bのステムエンド3c、3cに当接している一方、他端部6bの下面凹部6cが前記各油圧ラッシアジャスタ10a、10bに当接していると共に、中央に形成された収容孔内に、ローラ軸14aを介してローラ14が回転自在に収容配置されている。
前記各揺動カム7a、7bは、図1などにも示すように、円筒状のカムシャフト7cの両端部に一体的に設けられている。すなわち、前記伝達機構8から直接的に揺動力が伝達される第1揺動カム7aは、カムシャフト7cの一端部に一体に設けられている一方、第2揺動カム7bは、前記カムシャフト7cの一端部から軸方向に乖離した他端部に一体に設けられている。
また、各揺動カム7a、7bは、下面にベースサークル面やランプ面及びリフト面からなるカム面7dが形成されており、該ベースサークル面とランプ面及びリフト面が、揺動カム9の揺動位置に応じて前記スイングアーム6のローラ14の上面を転接するようになっている。
前記カムシャフト7cは、外周面の軸方向ほぼ中央位置に形成されたジャーナル部が前記軸受部13に微小クリアランスをもって回転自在に支持されていると共に、内周面によって前記駆動軸5の外周面を回転自在に支持するようになっている。
前記伝達機構8は、駆動軸5の上方に配置されたロッカアーム15と、該ロッカアーム15の一端部15aと駆動カム5aとを連係するリンクアーム16と、ロッカアーム15の他端部15bと一つの揺動カム7a、7bとを連係するリンクロッド17と、を備えている。
前記ロッカアーム15は、中央に有する筒状の基部が支持孔を介して後述する制御カムに回転自在に支持されていると共に、一端部15aがピン18によってリンクアーム16に回転自在に連結されている一方、他端部15bがリンクロッド17の上端部にピン19を介して回転自在に連結されている。
前記リンクアーム16は、円環状の基部の中央位置に有する嵌合孔16aに前記駆動カム5aのカム本体が回転自在に嵌合している一方、突出端が前記ピン18によってロッカアーム一端部15aに連結されている。
前記リンクロッド17は、下端部がピン20を介して第1揺動カム7aのカムノーズ部7eに回転自在に連結されている。
なお、前記ロッカアーム15の他端部15bとリンクロッド17の上端部との間には、各構成部品の組付時に各吸気弁3a、3bのリフト量を微調整するアジャスト機構23が設けられている。
前記制御機構9は、駆動軸5の上方位置に同じ軸受部に回転自在に支持された制御軸21と、該制御軸21の外周に前記ロッカアーム15の支持孔に摺動自在に嵌入されて、ロッカアーム15の揺動支点となる制御カム22が固定されている。
前記制御軸21は、駆動軸5と並行に機関前後方向に配設されていると共に、図6に示すアクチュエータ50によって回転制御されている。一方、前記制御カム22は、円筒状を呈し、軸心位置が制御軸21の軸心から所定分だけ偏倚している。
前記アクチュエータ50は、図6に示すように、図外のハウジングの一端部に固定された電動モータ51と、ハウジングの内部に設けられて、該電動モータ51の回転駆動力を前記制御軸21に伝達する減速機構としてのボール螺子機構52と、から構成されている。
前記電動モ−タ51は、比例型のDCモータによって構成され、機関運転状態を検出する後述のコントロールユニット53からの制御信号によって正逆回転制御されるようになっている。
前記第1、第2各油圧ラッシアジャスタ10a、10bは、図1〜図5に示すように、シリンダヘッド1の円柱状の保持穴1a内に上下摺動自在に保持された有底円筒状のボディ24と、該ボディ24内に上下摺動自在に収容されて、下部に一体に有する隔壁25を介して内部にリザーバ室26を構成するプランジャ27と、前記ボディ24の下部内に形成されて、前記隔壁25に貫通形成された連通孔25aを介して前記リザーバ室26と連通する高圧室28と、該高圧室28の内部に設けられて、前記リザーバ室26内の作動油を高圧室28方向へのみ流入を許容するチェック弁29と、を備えている。また、前記シリンダヘッド1の内部には、前記保持穴1a内の溜まった作動油を外部に排出する排出孔1bが形成されている。
前記ボディ24は、外周面に円筒状の第1凹溝24aが形成されていると共に、該第1凹溝24aの周壁に、前記シリンダヘッド1の内部に形成されて下流端が前記第1凹溝24aに開口した油通路30とボディ24内部とを連通する第1通路孔31が径方向に貫通形成されている。
また、第1油圧ラッシアジャスタ10a側のボディ24は、図4A,Bに示すように、底部24b側が第2油圧ラッシアジャスタ10b側のボディ24よりも下方向へ延設されてほぼ円柱状に形成されている。
前記油通路30は、シリンダヘッド1内に形成された潤滑油供給用のメインオイルギャラリ30aと連通しており、このメインオイルギャラリ30aには図6に示すオイルポンプ54から潤滑油が圧送されるようになっている。
前記プランジャ27は、軸方向のほぼ中央の外周面に円筒状の第2凹溝27aが形成されていると共に、該第2凹溝27aの周壁に前記第1通路孔31とリザーバ室26とを連通する第2通路孔32が径方向に沿って貫通形成されている。また、プランジャ27の先端頭部27bの先端面がスイングアーム6の他端部6bの球面状の下面凹部6cとの良好な摺動性を確保するために球面状に形成されている。
なお、このプランジャ27は、ボディ24の上端部に嵌着固定された円環状のストッパ部材33によってその最大突出量が規制されるようになっている。
前記第2凹溝27aは、その軸方向の幅が比較的大きく形成され、これによってボディ24に対するプランジャ27のいずれの上下摺動位置においても前記第1通路孔31と第2通路孔32とを常時連通するようになっている。
前記チェック弁29は、前記連通孔25aの下部開口縁(シート)を開閉するチェックボール29aと、該チェックボール29aを閉方向へ付勢する第1コイルばね29bと、該第1コイルばね29bを保持するカップ状のリテーナ29cと、ボディ24の底壁24cの内底面とリテーナ29cの円環状上端部との間に弾装されて、リテーナ29cを隔壁25方向へ付勢しつつプランジャ27全体を上方に付勢する第2コイルばね29dとから構成されている。
そして、揺動カム7のベースサークル区間では、前記第2コイルばね29dによる付勢力によって前記プランジャ27の進出移動(上方移動)に伴って高圧室28内が低圧になると、前記油通路30から保持穴1a内に供給された作動油が第1凹溝24aから第1通路孔31と第2凹溝27a及び第2通路孔32を通ってリザーバ室26に流入して、さらにチェックボール29aを第1コイルばね29bのばね力に抗して押し開き、作動油を高圧室28内に流入させる。
これによって、プランジャ27は、スイングアーム6の他端部6bを押し上げてローラ14と揺動カム7a、7bとの接触を介してスイングアーム6の一端部6a及び各吸気弁3a、3bのステムエンド3cとの間の隙間などを零ラッシに調整するようになっている。
そして、揺動カムカム7a、7bのリフト区間では、プランジャ27に下方荷重が作用するので、高圧室28内の油圧が上昇し、高圧室28内のオイルがプランジャ27とボディ24の隙間から漏れ出てプランジャ27は僅かに下降する(リークダウン)。
そして再び揺動カム7a、7bのベースサークル区間になると、前述のように、前記第2コイルばね29dの付勢力によるプランジャ27の進出移動(上方移動)によって、各部の隙間を零ラッシに調整するのである。
以上のような、ラッシア調整機能を、前記第1油圧ラッシアジャスタ10aと第2油圧ラッシアジャスタの両方がもっているのである。
前記弁停止機構11は、図4A、Bに示すように、前記第1油圧ラッシアジャスタ10a側にのみ設けられ、前記保持穴1aの底部側に連続して形成された円柱状の摺動用穴34と、該摺動用穴34の底面とボディ24の下面との間に弾装されて、前記第1油圧ラッシアジャスタ10aを上方向へ付勢するロストモーションスプリング35と、前記第1油圧ラッシアジャスタ10aのロストモーションを規制する規制機構36と、から構成されている。
前記摺動用穴34は、内径が前記保持穴1aの内径と同一に設定されて前記ボディ24が前記保持穴1aから連続的に上下方向へ摺動可能に保持するようになっている。
前記ロストモーションスプリング35は、コイルスプリングによって形成されて、前記ボディ24の底面を上方向へ付勢して前記プランジャ27の先端部27aが前記スイングアーム6の他端部6b下面に弾接させるようになっている。
また、前記ボディ24は、前記シリンダヘッド1の内部に挿通配置されたストッパピン37によって最大上方移動位置が規制されるようになっている。すなわち、前記ストッパピン37は、シリンダヘッド1内を前記ボディ24に向かって軸直角方向に配置され、先端部37aが前記第1凹溝24a内に摺動可能に臨設配置されて、ボディ24の上方移動に伴い前記先端部37aが第1凹溝24aの下端縁に当接することによってボディ24の最大上方の摺動位置が規制されるようになっている。
したがって、前記第1油圧ラッシアジャスタ10aは、スイングアーム6の揺動に伴い前記ロストモーションスプリング35のばね力を介して前記保持穴1aと摺動用穴34との間を上下にストロークしてロストモーションを行うことによって、前記スイングアーム6の揺動支点としての機能が失われて第1吸気弁3aの開閉作動を停止させるようになっている。
前記規制機構36は、前記ボディ24の底部24bの内部径方向に貫通形成された移動用孔38と、前記シリンダヘッド1内に保持穴1aと軸直角方向に形成された規制用孔39と、前記移動用孔38の内部一端側に固定されたリテーナ40と、前記移動用孔38の内部に摺動自在に設けられて、該移動用孔38から前記規制用孔39に跨って移動可能な規制ピン41と、該規制ピン41の後端と前記リテーナ40との間に弾装されて、前記規制ピン41を規制用孔39方向へ付勢するリターンスプリング42と、から主として構成されている。
前記規制用孔39は、前記ボディ24が前記ストッパピン37によって最大上方位置に規制された際に、前記移動用孔38と軸方向から合致するようになっており、内径が前記移動用孔38とほぼ同一に形成されていると共に、一端側にシリンダヘッド1内に形成された油圧回路である油通路孔43から信号油圧が導入されるようになっている。
ここで、前記ボディ24の回転方向の規制は、前記ストッパピン37の飛び出し量を僅かに増加すると共に、前記ボディ24の第1凹溝24a内に長手方向のスリットを設け、前記ストッパピン37先端と係合させることによって容易に実現できる。あるいは、別個の回転規制部材をシリンダヘッド1とボディ24の間に装着してもよい。
前記リテーナ40は、有蓋円筒状に形成されて、底部に規制ピン41の円滑な移動を確保するための呼吸孔40aが貫通形成されていると共に、軸方向の長さが図4Bに示すように、前記規制ピン41が移動用孔38に完全に収容された時点で、先端縁に規制ピン41の後端が当接してそれ以上の後退移動を規制する長さに設定されている。
前記規制ピン41は、中実円柱状に形成されて、外径が前記移動用孔38と規制用孔39の内径よりも僅かに小さく形成されて円滑な摺動性が確保されている。また、この規制ピン41は、前記油通路孔43から規制用孔39に供給された油圧を先端部41aの受圧面によって受けることにより、前記リターンスプリング42のばね力に抗して後退移動して先端部が規制用孔39から抜け出して移動用孔38内に収容されて、規制が解除されるようになっている。
前記油通路孔43(規制用孔39)には、図6に示すように、前記オイルポンプ54から圧送されたオイルが電磁切換弁55を介して信号油圧として供給されるようになっている。
前記電磁切換弁55は、図外のバルブボディの内部に摺動自在に設けられたスプール弁を、ソレノイドの電磁力とコイルスプリングのばね力とによって、オン、オフ的に2段階に切り換えるようになっており、前記ソレノイドに、前記電動モータ51の駆動を制御する同じコントロールユニット53から制御電流が通電、非通電されてポンプ吐出通路と油通路孔43とを連通するか、またはポンプ吐出通路を閉止して前記油通路孔43とドレン通路44を連通するように切り換え制御されるようになっており、これによって、信号油圧を大小2段階に制御するようになっている。
前記コントロールユニット53は、クランクセンサやエアーフローメータ、水温センサ、スロットルバルブ角度センサなどの各種センサからの情報信号に基づいて機関運転状態(機関運転条件)を検出すると共に、この機関運転状態と前記制御軸21の現在の回転位置を検出する図外の回転位置センサからの実位置情報信号によって前記電動モータ51を駆動制御して前記制御軸21の回転位置を制御する。これによって、各吸気弁3a,3bのリフト量と作動角を変化させるようになっている。
また、このコントロールユニット53は、前記電磁切換弁55を介して前記弁停止機構11のロストモーションを行わせることで弁停止作動させ、またはロストモーションを禁止することで、弁停止を禁止する制御手段である弁停止制御回路を有している。この弁停止回路は、前記制御軸21の回転角度θに基づいて前記電磁切換弁55を介して前記油通路孔43と前記ポンプ吐出通路またはドレン通路44とを連通する制御を行う。これによって、前記油通路孔43とポンプ吐出通路とを連通させた場合には、高油圧によって規制ピン41は、リターンスプリング42のばね力に抗して後退移動して、先端部41aが規制用孔39から抜け出て、シリンダヘッド1に対する第1油圧ラッシアジャスタ10aのロックが解除される。これにより、弁停止状態に移行する。
または、前記油通路孔43とドレン通路44を連通させた場合には、前記規制ピン41は、リターンスプリング42のばね力によって規制用孔39方向に移動して、規制ピン41の先端部41aが規制用孔39内に係入することにより、前記ボディ24(第1油圧ラッシアジャスタ10a)をシリンダヘッド1にロックさせ、第1油圧ラッシアジャスタ10aのロストモーションを禁止するようになり、リフト作動状態となる。
前記弁停止制御回路によって電磁切換弁55の駆動を制御するための前記制御軸21の回転角度位置は、機関運転状態などによって任意に設定できるが、本実施形態では第1吸気弁3aのリフト量が図12に示すL3の程度になる前記制御軸21のθ3の回転角度位置で制御するようになっている。
つまり、前記第1油圧ラッシアジャスタ10aのロストモーションのストローク量が、これと比例的関係にある第1吸気弁3aのリフト量が所定値(約L3)以下になったことを前記制御軸21の回転角度位置θで検出し、この時点で、前記電磁切換弁55への制御電流を出力して油通路孔43とポンプ吐出通路を連通させて、高い信号油圧を発生させ、前記規制ピン41の先端部41aが規制用孔39から抜け出て、シリンダヘッド1に対する第1油圧ラッシアジャスタ10aのロックが解除される。これにより、弁停止状態に移行するのである。
〔可変動弁装置の作動〕
以下、本実施形態における可変動弁装置の作動について説明する。
例えば、機関のアイドリング運転から低回転域では、コントロールユニット53から出力された制御電流によって電動モータ51が回転駆動し、この回転トルクがボール螺子機構52を介して前記制御軸21に伝達される。この制御軸21が一方向へ回転駆動されると、図7A,B、図8A,Bに示すように、制御カム22も一方向に回動して軸心が制御軸21の軸心の回りを同一半径で回転し、肉厚部が駆動軸5から図示のように右上方向に離間移動する。これにより、ロッカアーム15の他端部15bとリンクロッド17の枢支点(連結ピン19)は、駆動軸5に対して上方向へ移動し、このため、各揺動カム7a、7bは、リンクロッド17を介してカムノーズ部側が強制的に引き上げられる。
よって、駆動カム5aが回転してリンクアーム16を介してロッカアーム15の一端部15aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド17を介して各揺動カム7a、7b及び各スイングアーム6に伝達され、各吸気弁3はバルブスプリング12のばね反力に抗して開弁して、そのリフト量は、例えば、図7及び図8、図12のL2またはL1〜L3に示すように十分小さくなる。
例えば、機関が低回転から中、高回転領域に移行した場合は、コントロールユニット53からの制御電流によって電動モータ51が逆回転してボール螺子機構52を同方向へ回転させると、図10A、B、図11A,Bに示すように、この回転に伴って制御軸21が制御カム22を他方向へ回転させて、軸心が下方向へ移動する。
このため、ロッカアーム15は、今度は全体が駆動軸5方向に移動して他端部15bによって揺動カム7a、7bのカムノーズ部を、リンクロッド17を介して下方へ押圧して該各揺動カム7a、7b全体を所定量だけ図7、図8に示す位置から反時計方向へ回動させる。したがって、図10、図11に示すように、各揺動カム7a、7bの各スイングアーム6のローラ14外周面に対するカム面7dの当接位置が、カムノーズ部側(リフト部側)に移動する。
このため、吸気弁3の開作動時に駆動カム5aが回転してロッカアーム15の一端部15aを、リンクアーム16を介して押し上げると、各スイングアーム6を介して各吸気弁3が各バルブスプリング12のばね力に抗して開弁して、そのバルブリフト量が図10、図11、図12に示す最大リフト量L7になるまで連続的に変化しつつ回転の上昇に連れてL4〜L7まで大きくなる。これによって吸気充填効率が向上して出力の向上が図れる。
〔弁停止機構の作動〕
そして、例えば、前述したアイドリング運転から低回転域において各吸気弁3,3のリフト量が図12に示すL1〜L3の小リフト量領域になっている場合は、特に、燃費を向上させたい特定の運転条件においては、前記コントロールユニット53から電磁切換弁55に制御電流が出力されて、オイルポンプ54からの大きな吐出油圧が信号油圧として油通路孔43を通って規制用孔39内に導入される。
このため、この信号油圧を受けた規制ピン41は、リターンスプリング42のばね力に抗して後退移動して、先端部41aが規制用孔39から抜け出て、シリンダヘッド1に対する第1油圧ラッシアジャスタ10aのロックが解除される。
したがって、第1油圧ラッシアジャスタ10aは、図4Bに示すように、全体がロストモーションできるようになり、前記ロストモーションスプリング35のばね力を介して保持穴1aと摺動用孔34内を上下方向へ移動を繰り返してロストモーション状態になる。このため、第1吸気弁3aは閉弁状態(弁停止状態)となる。
すなわち、弁停止状態になるまでは、前記揺動カム7a、7bが図7Aに示す零リフト(閉弁)位置から同図Bの最大開弁リフト位置の間で変化しつつ、リフト量L2で開弁するが、弁停止になると前記揺動カム7aが最大限揺動しても、第1油圧ラッシアジャスタ10aは、図7Bに示すM2のストローク量だけロストモーションし、実際には第1吸気弁3aはバルブリフトを行わない弁停止状態に移行する。その瞬間の第1スイングアーム6と第1油圧ラッシアジャスタ10aとの間で形成される開き角度がα(図7B参照)は揺動カム7aがピークリフトとになった位置においては、α2になるが、これは過度な開き角度にはなっていない。
したがって、前記揺動カム7a、7bがピークリフト(最大開弁動作)となってもスムーズな弁停止作動が得られる。
一方、第2油圧ラッシアジャスタ10b側は、図8A,Bに示すように、第2スイングアーム6に対する通常の揺動支点として機能していることから、第2吸気弁3bは依然としてリフト量L2で開閉作動を行っており、これによって吸気スワールが強化されて燃費及び燃焼の改善が図れる。
次に、例えば機関回転数がさらに上昇して、要求トルクが高まり、2弁リフト状態に再び移行すると共に、さらにリフト量を増加し、前記制御軸21が時計方向へ回転してθ3となった場合、つまり、両吸気弁3,3のリフト量が図12に示すL3になっていた場合について考察する。この状態から再び燃費要求が高まり、弁停止移行する場合を想定すると、図9に示すように、第1スイングアーム6と第1油圧ラッシアジャスタ10aとの間で形成される開き角度がα3になってかなり開いた状態になってしまう。つまり、機関高回転時などにおける最大リフト制御時の揺動カム7a、7bの最大ピークリフト位置(図10B)の開き角度β7としたとき、この開き角度β7は約90°であり、これに対する挟み角90°よりも前記開き角α3−90°分だけ大きくなっている。
このような無理な姿勢に起因して、第1スイングアーム6の他端部6bの下面凹部6cに対する第1油圧ラッシアジャスタ10aの先端頭部27bの接触は不均一なものとなってくる。
すなわち、通常、油圧ラッシアジャスタ10aの先端頭部27aは、ローラ14側の球面部での接触を、反ローラ側の球面部での接触とがバランスしつつ第1スイングアーム6の他端部6bの下面凹部6cを安定的に保持するものであるが、前記α3大きくなると、ローラ14側球面部での接触が上下移動し、反ローラ側球面部での接触部が下方移動してしまうのである。
そこへローラ14からの荷重が作用すると、上方移動したローラ14側球面部の接触部で受ける荷重が極端に増加し、バランスが崩れて局所的な接触になりやすいのである。
さらに、接触部が先端部頭部27bの上方へ移動したことも加わり、ローラ14の荷重などによって接触にずれが生じやすく、第1スイングアーム6が反バルブ側へずれる現象が発生しやすく、最悪の場合は、第1スイングアーム6の他端部6bの下面凹部6cが先端頭部27bから外れてしまう可能性が出てくるのである。しかし、このα3のレベルでは、何とか許容範囲内に収まっている。
このα3を超えると、実際に前記外れ現象が発生する可能性が高まるのである。
そこで、このリフト量L3(開き角度α3)を超えた時点で、前記コントロールユニット53の弁停止制御回路から電磁切換弁55への制御電流が遮断されて、油通路孔43とドレン通路44が連通されて規制用孔39及び油通路孔43内の油圧がオイルパン45内に排出されて低圧状態となる。
これによって、前記規制ピン41は、図4Aに示すように、リターンスプリング42のばね力によって規制用孔39方向へ移動して、前記揺動カム7a、7bのベースサークル域で第1油圧ラッシアジャスタ10aが上昇移動して前記ストッパピン37によりそれ以上の上昇移動が規制され、移動用孔38と規制用孔39が合致した時点で、規制ピン41の先端部41aが規制用孔39内に係入して第1油圧ラッシアジャスタ10aをシリンダヘッド1にロックする。したがって、第1油圧ラッシアジャスタ10aは、この時点でロストモーションが規制されることになる。
つまり、図13に示すように、前記制御軸21の回転角度θと吸気弁3のリフト量Lは比例的関係にあることから、前記コントロールユニット53は、回転角センサからの情報信号に基づいて制御軸21の回転角度がθ3より僅かに大きくなった時点で、前記電磁切換弁55への通電を遮断する。
これによって、図13の実線で示すように、吸気弁3のリフト量がL3を超えた時点で第1油圧ラッシアジャスタ10aのロストモーション作動を強制的に禁止する。これによって、第2吸気弁3bと一緒に第1吸気弁3aも開閉作動が行われて両弁による機関駆動がなされる。
したがって、前記吸気弁3のリフト量がL3を超えた時点で第1油圧ラッシアジャスタ10aのロストモーションがなくなることから、前述の第1スイングアーム6の他端部6b側の下面凹部6cと第1油圧ラッシアジャスタ10aのプランジャ27の先端頭部27bとの不均一で局部的な当接が回避される。したがって、プランジャ27の先端頭部27bから第1スイングアーム6の下面凹部6cが例えば脱落することなく、常時円滑な作動状態が得られる。
また、例えば機関回転数がさらに上昇して制御軸21の回転角度がθ3よりもさらに大きくなり、したがって、各吸気弁3,3のリフト量が図13のL3を超えた場合には、コントロールユニット53から電磁切換弁55への非通電状態が継続されて規制用孔39へ高圧の信号油圧が導入されないことから、第1油圧ラッシアジャスタ10aのロストモーションしない状態が続き、第2油圧ラッシアジャスタ10bと同じく揺動支点としての機能を発揮することになる。
換言すれば、前記制御軸21の回転角度がθ3になるまでは、第1油圧ラッシアジャスタ10aは、ロストモーションを行うが、θ3を超えた時点でロストモーションが規制されて固定化した状態になり、通常の揺動支点として機能するのである。
なお、本実施形態では、前記第1油圧ラッシアジャスタ10aのロストモーションを禁止する時期は、第1、2吸気弁3、3の目標リフトがL3を超えたときとしているが、これに限定されるものではなく、例えば冷機始動時などの排気エミッションに有利な小作動角(小リフト量)でも出力トルクが必要である場合には、ロストモーションを禁止して2つの吸気弁3,3を開閉作動させることが好ましいことから、リフト量がL3以下でもロストモーションを禁止することも可能である。
いずれにしても、リフト量がL3を超える場合には、確実に第1吸気弁3a側のロストモーション(弁停止)が禁止されるので、弁停止作動における非円滑作動が回避される。すなわち、第2吸気弁3bのみがリフト量L3を超える状態でリフト作動する際に想定される、第1吸気弁3a側の非円滑弁停止作動を回避でき、もって該非円滑弁停止作動に起因する揺動カム全体の不安定挙動による第2吸気弁3b自身のリフト挙動の不安定化も防止されるのである。
そして、さらに本実施形態では、前記弁停止機構11を第1揺動カム7a(第1吸気弁3a)側に配置したことから、機関低回転域などにおいて前記第1油圧ラッシアジャスタ10aがロストモーションを繰り返している場合の第2揺動カム7b側の第2吸気弁3bのリフト挙動の安定化を図ることができるが、仮に弁停止機構11を第2揺動カム7b(第2吸気弁)側へ配置した場合は、第2吸気弁3bが以下のような不安点な状態になってしまうのである。
具体的に説明すると、前記弁停止機構11を仮に第2吸気弁3b側に配置した場合について考察すると、前記駆動カム5aは、リンクアーム16やロッカアーム15、リンクロッド17を介して第1揺動カム7aからカムシャフト7cの一端部に揺動力を伝達する。このとき、前記リンクアーム16やロッカアーム15及びリンクロッド17は軸受幅が狭いことから、傾動による倒れ現象が生じ、特にリンクロッド17は、自身のほかリンクアーム16とロッカアーム15の倒れの影響も受けるため、幅方向左右の複雑な動的倒れが発生する。
前記リンクロッド17の下端部が、前記第1揺動カム7aのカムノーズ部7eにピン20を介して連結されて前記第1揺動カム7aを揺動運動させるが、このとき、リンクロッド17自体に前記動的な倒れが発生するため、図1の矢印aに示すように、リンクロッド17に図中左側の側壁プレートが実質的なカムシャフト7cの作用点となったり、あるいは逆に右側の側壁プレートが作用点となり、また、両側壁プレートで均等に荷重を発生させる場合などがあり、前記下端部に近い第1揺動カム7aの揺動(リフト)挙動は動的倒れなどに伴って不安定になりやすい。
ここで仮に、前記第1揺動カム7aの方に弁停止機構がなく、前記第2揺動カム7bの方に弁停止機構があるとして、第1吸気弁3aを通常に開閉作動させたとしたら、この第1揺動カム7aの前記不安定な挙動によって、第1吸気弁3aの開閉作動も不安定になってしまう。
すなわち、図14に示すように、リンクロッド17の前述した複雑な動的倒れ挙動よって、ある瞬間は図14の矢印dに示す荷重によって、左側壁プレートが実質的なカムシャフト7cへの作用点となる。この結果、ある瞬間には、前記矢印dの荷重による反時計方向の回転モーメント(矢印e)がカムシャフト7cに作用し、別の瞬間には矢印d’の荷重による時計方向の回転モーメントe’が作用する。つまり、回転モーメントがeとe’の方向が逆になっており、これによるカムシャフト7cの挙動が不安定になる。ここで、リンクロッド17からの荷重d、d’と第1スイングアーム6からの荷重fは、互いに逆方向で作用点も近いので、丁度、カムシャフト7cの第1揺動カムを挟む形になって、荷重d、d’のバランス変化に伴い該カムシャフト7cの姿勢は不安定になりやすいのである。
さらに、第2揺動カム7bは弁停止機構によって弁停止状態にあるため、弁停止機構のロストモーションスプリングの小さな荷重gも作用することから、これも外乱要素として加わってさらにカムシャフト7c全体の挙動が不安定になる。したがって、第1吸気弁3aの開弁リフト挙動は一層不安定になる。この結果、燃焼への悪影響や気筒間の燃焼ばらつきなどを招いてしまう。
〔本実施形態の作用〕
そこで、本実施形態では、第1吸気弁3a(第1揺動カム7a)側に弁停止機構11を設け、第2吸気弁3b(第2揺動カム7b)側は常時通常の開閉作動を行うようにした。すなわち、第2揺動カム7b側では、図1の矢印bや図15の矢印fに示すように、第2スイングアーム6(バルブスプリング12)からの大きなばね荷重がカムシャフト7cの一端部側から大きな距離S2をもって離間した位置に作用する。このため、図1の矢印cや図15の矢印iに示すように、カムシャフト7c全体を第1揺動カム7a(一端部)回りの反時計方向の大きな回転モーメントiが作用する。
この結果、前述したリンクロッド17にe、e’といった不安定なモーメントが作用しても、あるいは図1の矢印jや図15の矢印g示すような第1揺動カム7aにロストモーションスプリングによる小さなロストモーション荷重が作用した場合であっても、前記カムシャフト7cに作用する大きな回転モーメントiが、カムシャフト7c全体を座りの良い倒れ姿勢に安定的に保持する。これによって、第2吸気弁3bのリフト挙動を安定化させることができるのである。
これらの効果は、図15に示すような、カムシャフト7cの軸方向中央にシリンダヘッド1との軸受部が設けられている場合も、設けられていない場合も同様である。
これによって、第2吸気弁7bの開弁リフト期間中のリフト挙動が安定して、燃焼への悪影響や気筒間の燃焼のばらつきなどを抑制することができる。この結果、燃費効率を高めることが可能になる。
また、第2吸気弁7bの閉弁期間について考えると、第2油圧ラッシアジャスタ10bが第2揺動カム7bを付勢するが、この付勢力は前記図15の回転モーメントiが小さいながら発生して、開弁リフト期間と同様にカムシャフト7cを安定的に保持する。
したがって、予め閉弁期間もカムシャフト7cが安定に保持されるので、開弁リフト期間のリフト挙動がリフト開始直後から安定するのである。
一方、前述のように、弁停止挙動が非円滑となるリフト量L3を超える領域では、第1吸気弁3aの弁停止移行が禁止されるので、該非円滑な弁停止作動に起因するカムシャフト7cの挙動不安定化によって第2吸気弁7bのリフト挙動が不安定になるのを回避できる。
〔第2実施形態〕
図16は第2実施形態を示し、基本構成は特開2009−180114号公報に記載されたものでと同一であって、前記伝達機構8(リンクロッド17)によって第1揺動カム7aのベースサークル側の部位、つまりカムノーズ部7eと反対側の部位を引き上げることによってカムシャフト7cを介して第1、第2吸気弁3a、3bを開弁作動させるようになっている。
すなわち、伝達機構8のロッカアーム15におけるリンクアーム16との作用点とリンクロッド17の作用点が、ロッカアーム15の揺動支点に対して同じ側に存在する。したがって、駆動カム5aがリンクアーム16を押し上げるときにリンクロッド17が引き上げられることになる。このリンクロッド17は、図16の矢印oに示すように、第1吸気弁3aを作動させる第1揺動カム7aのベースサークル側の部位に位置するカムシャフト7cの一端部を引き上げ回転させることによって第1揺動カム7aを開弁方向(時計方向)に揺動するようになっている。
また、第1実施形態と同じく、前記第1吸気弁3a側にロストモーションを行う第1油圧ラッシアジャスタ10aが設けられ、第2吸気弁3b側に通常の第2油圧ラッシアジャスタ10bが設けられている。
ここで、リンクアーム16やリンクロッド17などは、前述と同じく、軸受幅が狭いことから、作動中において動的な倒れが発生し易くなり、特に、リンクロッド17に動的な倒れがあり、図16の矢印oに示すように、リンクロッド17の駆動カム5aと反対側に位置する一方の側壁プレートがカムシャフト7cへの作用点となったり、あるいは逆に駆動カム5a側に位置する他方の側壁プレートが作用点となったり、あるいは、両側壁プレートで均等に荷重を発生させる場合などがあり、前記カムシャフト7cの一端部に近い第1揺動カム7aの揺動(リフト)挙動は動的な倒れなども伴って不安定になりやすい。
ここで仮に、前記第1揺動カム7aの方に弁停止機構がなく、前記第2揺動カム道カム7bの方に弁停止機構があるとして、第1吸気弁3aを通常に開閉作動させたとしたら、この第1揺動カム7aの前記不安定な挙動によって、第1吸気弁3aの開閉作動も不安定になってしまう。
すなわち、図17A、Bに示すように、カムシャフト7cの一端部(第1揺動カム7a)付近では、前記一方の側壁プレート側の伝達機構8からの荷重pないし他方の側壁プレート側の荷重p’によって上方へ持ち上げられており、また、第1スイングアーム6からも上方に荷重fを受けている。したがって、カムシャフト7cの一端部及び第1揺動カム7aの付近は軸受の微小クリアランス内で最大限上方に移動している。
次に、第2揺動カム7bの付近の荷重について考察すると、前記リンクロッド17に前述した複雑な動的倒れが発生しているため、ある瞬間は図17Aの矢印pに示す荷重によって、一方の側壁プレートがカムシャフト7cへの作用点となり、別の瞬間には図17Bの矢印p’の荷重によって、他方の側壁プレートがカムシャフト7cの作用点となっている。
図17Aに示す瞬間では、弁停止機構のロストモーションスプリングにより第2揺動カム7bへ作用する矢印qによる反時計方向の回転モーメントと、荷重pによる生じる反時計方向のモーメントが支配的でカムシャフト7c全体は反時計方向にモーメントrを受ける。一方、第1揺動カム7aは、第1スイングアーム6から上方に荷重fを受けている。この結果、図17Aに示すように、カムシャフト7c全体が軸受の微小クリアランス内で上方向に移動して傾かない状態になっている。図17Bに示す瞬間では、矢印p’による時計方向のモーメントの方が小荷重qによる反時計方向のモーメントよりもが支配的となって、カムシャフト7c全体が時計方向への傾きが発生する。
以上のように、カムシャフト7cが傾かない状態(図17A)と、傾いた状態(同図B)を繰り返す。この不安定な挙動によって第1吸気弁3aの開弁リフト挙動が不安定になってしまうのである。
これに対して、本実施形態では、前述のように、第2吸気弁3b側にはロストモーションをしない第2油圧ラッシアジャスタ10bを設け、第1吸気弁3a側にロストモーションを行う第1油圧ラッシアジャスタ10aを設けたことから、図16の矢印uや図18の矢印fに示すように、バルブスプリング12からの大きなばね荷重が第2スイングアーム6を介してカムシャフト7cの他端部側に作用する。これによって、図16の矢印sや図18の矢印iで示すように、カムシャフト7c全体を一端部回りの大きな反時計方向の回転モーメントiで倒そうとする。
この結果、リンクロッド17が前述のような不安定な挙動をしようとした場合でも、あるいは図16の矢印tや図18の矢印gに示すような第1揺動カム7aにロストモーションスプリングの小さな外乱荷重が作用した場合でも、前記カムシャフト7cに作用する大きなモーメント(図16のsや図18のi)が安定的に作用する。その結果、バルブスプリング12から第2揺動カム7bへの大きな荷重(図16のuや図18のf)と相俟って図18に示すように、カムシャフト7c全体が駆動軸との微小クリアランス内で上方向に移動した状態で、カムシャフト7cを座りの良い倒れ姿勢に安定的に保持し、それによって開弁リフト挙動を安定化させるのである。
図18に基づいてさらに補足説明すると、リンクロッド17に動的な左右の倒れがあり、作用点がdとd’を繰り返した場合、それによる反時計方向の回転モーメント(矢印e)と時計方向の回転モーメント(矢印e’)が発生する。しかしながら、この回転モーメントe、e’よりも、第2揺動カム7bの作用荷重によるカムシャフト7cの一端部回りの反時計方向の回転モーメント(図16のsや図18のi)の方が十分に大きい。
なぜならば、第2吸気弁3b側が開閉作動側なので、バルブスプリング12による大きな作用荷重(矢印f)が作用し、かつその作用点とカムシャフト7cの一端部との距離S2も大きく、よって、S2×fの反時計方向のモーメントiも十分大きくなるのである。
この結果、前記回転モーメントe、e’の変化に拘わらずカムシャフト7c全体を大きな回転モーメントで反時計方向に付勢している。一方、第1揺動カム7a側の一端部付近では、dないしd’により大きな荷重で上方にクリアランス内で最大限移動させられており、結果的にカムシャフト7cは傾きのない状態で、クリアランス内で最大限上方に移動した位置に安定的に保持されることになる。
一方、閉弁区間では、バルブスプリング12のばね荷重が作用しなくなるが、第2揺動カム7bは、第2油圧ラッシアジャスタ10bによって押し上げられおり、また、第1揺動カム7aも弁停止機構11のロストモーションスプリング35によって押し上げられていることから、カムシャフト7c全体は傾きのない状態で、クリアランス内で最大限上方に移動した位置のまま安定する。
この結果、次の開弁リフト開始の最初からリフト挙動が安定するのである。
本発明は、前記各実施形態の構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨から逸脱しない範囲であればいずれの構成であってもよい。
例えば、内燃機関としては前記V型6気筒ばかりではなく、V型8気筒や、これらの片バンク、その他の機関に適用することも可能である。
また、カムシャフト7cを駆動軸5以外の支持軸に支持させることも可能である。
さらに、前記リンクロッド17をプレートをコ字形状に折曲して形成したが、一枚の厚めのプレートによって構成してもよく、この場合でも伝達機構8に動的な挙動の不安定化が生じれば、カムシャフトに挙動不安定が生じるという課題が発生するのであれば本発明に含まれる。
前記実施形態では、第1吸気弁が完全に弁停止する場合を示したが、僅かなリフトをおこない、完全弁停止で懸念されるバルブ傘部での燃料溜まり現象を回避することも可能である。たとえば、図9において第1油圧ラッシアジャスタ10a全体が降下して行く際、最大限降下してしまう前に、ロストモーションスプリング35が密着するような設計とすれば、容易に実現できる。
前記僅かなリフトによる荷重は小さく、しかも一瞬であるので、リフト挙動の安定化は維持できる。
前記実施形態では、第1揺動カム7aと第2揺動カム7bが同じカムプロフィールの場合を示したが、前記2つの揺動カム7a、7bのカムプロフィールを異ならせても良く、これによって、エンジン負荷が高い両方の弁作動の領域において、吸気充填効率を維持しながら僅かなスワールによる燃焼改善も図れる。機関弁としては前記吸気弁3の他に、排気弁側にも適用することが可能であり、この場合は排気ガスのスワールを強化できるので、触媒での排気エミッション転化性能を向上できる。
本実施形態では、弁停止機構として、第1油圧ラッシアジャスタ10aが直接にアルミニウム材のシリンダヘッド1の保持孔とロストモーション摺動する例を示したが、鉄製円筒カラーを介して摺動するようにしてもよい。この場合、耐摩耗性が向上する。
また、弁停止機構を第1スイングアーム6に設けることも可能であり、この場合は、例えば特表2009−503345に示す、メインスイングアームに変位(ロストモーション)できるローラエレメントを設け、このローラエレメントとメインスイングアームを締結あるいは非締結を切り換えればよい。この場合でも、過度なロストモーションによって、ローラエレメントと揺動カムとの当接が外れたり、干渉したり、あるいはロストモーション時に底付きなど、無理な姿勢を抑制して円滑な作動を実現できる。
また、特開2010−270633に記載された油圧ラッシアジャスタを有しないリフタ型の動弁機構にも適用できる。この場合、特開昭63−16112に示すようなバルブリフタに内蔵した弁停止機構を用いればよい。
前記実施形態から把握される前記請求項以外の発明の技術的思想について以下に説明する。
〔請求項a〕請求項1または2に記載の内燃機関の可変動弁装置において、
前記他方側の機関弁の閉弁期間中に、前記他方の作動伝達部材を他方側の揺動カム方向へ付勢する付勢手段を設けたことを特徴とする内燃機関の可変動弁装置。
この発明によれば、他方側の機関弁の閉弁期間中も付勢手段の付勢力によるモーメントによってカムシャフトが安定的に保持されることから、他方の機関弁のリフト挙動がさらに安定する。
〔請求項b〕請求項aに記載の内燃機関の可変動弁装置において、
前記付勢手段は、油圧ラッシアジャスタであることを特徴とする内燃機関の可変動弁装置。
〔請求項c〕請求項1〜bに記載の内燃機関の可変動弁装置において、
前記機関の所定運転領域とは、前記各機関弁のバルブリフト量が所定のバルブリフト量になるまでの領域であることを特徴とする内燃機関の可変動弁装置。
この発明によれば、作動中において一方の作動伝達部材が無理な姿勢になるのを回避して、弁停止機構の円滑な作動を得ることができる。引いては、一方側における弁停止機構の非円滑な作動に起因して発生する他方側のリフト挙動の不安定化を防止し、他方側のリフト挙動の悪化を防止できる。
〔請求項d〕請求項1または2に記載の内燃機関の可変動弁装置において、
前記弁停止機構は、前記作動伝達部材の揺動運動を吸収することによって前記機関弁の開閉作動を停止することを特徴とする内燃機関の可変動弁装置。
〔請求項e〕
請求項bに記載の内燃機関の可変動弁装置において、
前記弁停止機構は、前記作動伝達部材の揺動支点となる油圧ラッシアジャスタの移動を吸収すると共に、該油圧ラッシアジャスタの移動状態と該移動を規制する状態とを択一的に選択する機構であることを特徴とする内燃機関の可変動弁装置。
この発明によれば、変換過渡時に不安定な中間リフトにならないので、該中間リフト特性による過渡性能不安定、エンジンブレーキ違和感などを回避できる。
〔請求項f〕請求項1に記載の内燃機関の可変動弁装置において、
前記伝達機構は、前記揺動カムに変換した揺動運動を、前記揺動カムのカムシャフトの軸心から偏倚したカムノーズ部に伝達したことを特徴とする内燃機関の可変動弁装置。
カムシャフトから偏倚した位置に揺動力を伝達するため、揺動カムと作動伝達部材とが当接する位置が伝達位置を挟んで行き来するため、伝達位置を支点としての揺動カムのカムノーズ部側と基部側では回転モーメントが発生し易くなって、動的倒れが発生しやすくなる。そのような場合であっても、リフト挙動の安定化を得ることができる。
〔請求項g〕請求項eに記載の内燃機関の可変動弁装置において、
前記作動伝達部材は、前記揺動カムと機関弁との間に配置されたスイングアームによって構成され、該スイングアームは一端部が前記油圧ラッシアジャスタに揺動自在に支持されている一方、他端部が前記機関弁に当接していることを特徴とする内燃機関の可変動弁装置。
スイングアームを用いることによって、弁停止機構による揺動運動を容易に吸収することができる。