JP5182206B2 - ニッケル粉およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ニッケル粉およびその製造方法に関するものである。さらに詳しくは塩素含有量およびマグネシウム含有量が低く、電子部品用の材料として好適なニッケル粉およびその製造方法に関する。
ニッケル粉は、積層セラミックコンデンサなどの電子部品の導電体形成用材料に使用され、特に1.0μm以下の粒子径を有するニッケル粉は広く使用されている。
通常、積層セラミックコンデンサは、誘電体層と内部電極が交互に積層した構造の素子本体と、この素子本体の両端部に形成される一対の外部電極端子とから構成されている。また、その素子本体は、誘電体層となるセラミック誘電体グリーンシート上に内部電極材料である金属粉をペースト化した導電性ペーストを印刷し、この誘電体層と内部電極層を多層積層して加熱圧着したものを、還元雰囲気中、高温で焼成して作製されている。
このような積層セラミックコンデンサの内部電極に使用される材料には、従来、白金やパラジウムなどの貴金属が主として用いられてきたが、コスト削減のために、これらの貴金属に代わり、1.0μm以下の粒子径を有するニッケル粉が内部電極に用いられてきている。一般には、ニッケル粉等の金属粉をエチルセルロース等の樹脂とその他の添加剤を、ターピネオール等の有機溶媒中に分散、混合してペースト化したものが、内部電極の材料として用いられている。
ニッケル粉を導電体形成材料として使用した場合、ハロゲンが残留すると電子部品の性能低下につながる。例えば、残留したハロゲン化物はニッケル粉の耐錆性を阻害する原因となる。特に、塩素は、ペースト化して電子部品の材料として使用する場合において、焼成時に塩化水素ガスを発生して環境や装置へ悪影響を与えるなどの問題がある。したがって、残留ハロゲン、特に残留塩素の低減は電子部品用のニッケル粉の製造において重要な課題である。
一方で、比表面積は小さいことも要求されている。即ち、ニッケル粉の比表面積が大きい場合、ニッケル微粉をペースト化した時に酸化により劣化しやすいこと、またペースト混錬時の混合不良やペーストの経時劣化など不具合の原因となるためである。従って、電子部品材料用のニッケル粉としては、平均粒径が1.0μm以下で、かつ、比表面積の小さいニッケル粉が求められている。
ニッケル粉中のハロゲンを除去する方法として、種々の洗浄方法が提案されている。例えば、水による洗浄方法として塩化ニッケルを還元して得たニッケル粉を水洗した後、真空中で乾燥する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、有機酸によるニッケル粉の洗浄方法も提案され、例えば、金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得た金属超微粉を、グルタミン酸で洗浄することが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この中で、金属ハロゲン化物として、ハロゲン化ニッケルを用いた場合について検討され、ハロゲンとして特に塩素の場合にその洗浄方法が好適に用いられることが開示されている。
しかしながら、これらの方法はいずれの場合も金属ハロゲン化物、すなわち、ニッケルハロゲン化物、特に塩化ニッケルの蒸気を気相中で水素還元して得られるニッケル粒子に対する洗浄方法である。一般に気相還元法で形成されたニッケル粉は、ハロゲン化物が残留しやすい特徴を持つものの、粒子の比表面積が小さく結晶性が高いため、洗浄によるハロゲン除去が容易である。そのため、前述したハロゲン低減方法は効果的であった。しかし、気相還元法によるニッケル粉製造は、製造設備に多大なコストがかかるとともに、生産性が低く高コストになるという問題点があった。
一方、湿式法により水酸化ニッケルを生成し、これを還元処理することによりニッケル粉を生成する方法は、生産性も高く低コストでニッケル粉が得られる製造方法である。例えば、一定温度に保持された反応槽内のスラリーに、含ニッケル溶液を連続的に添加しつつ、このスラリーが所定のpHを保持するようにアルカリ溶液を添加して水酸化ニッケルを生成させた後にスラリーを濾過し、水洗し、乾燥して水酸化ニッケルを得、これを還元剤として水素を用い、還元温度を400〜550℃として加熱還元するニッケル微粉の製造方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
上記方法において、塩化ニッケルを原料とすると、原料も安価で生産性も良くニッケル粉が得られるが、残留塩素が多いという問題点がある。したがって、残留塩素を除去する必要があるが、上記方法で製造したニッケル粉は、気相還元法で得られたニッケル粉に比べて比表面積が大きいため洗浄による塩素の除去が難しく、上記洗浄方法での塩素の除去は十分ではなかった。また、得られるニッケル粉を安定したペーストとして使用するためには比表面積の増加に対する配慮が必要であった。
さらに、近年の積層セラミックコンデンサの小型化、高容量化の要求に応じて、誘電体層及び内部電極の薄膜化、多層化が進み、必然的に電極材料であるニッケル粉の微粒化が要求されている。このため、水酸化ニッケルへのアルカリ土類金属の添加、酸化焙焼および還元時の雰囲気制御を行い、微細なニッケル粉を得る試みがなされている。
例えば、アルカリ土類金属を0.002〜1質量%含む水酸化ニッケル粉を焙焼して酸化ニッケル粉とし、得られた酸化ニッケル粉を還元するニッケル粉の製造方法において、水酸化ニッケル1gに対して0.02〜0.4リットル/分の空気を流すとともに250〜500℃の温度で焙焼して水酸化ニッケル粉を酸化ニッケル粉とし、さらに得られた酸化ニッケル粉を酸化ニッケル粉1gに対して0.01〜0.2リットル/分の水素を流すとともに300〜500℃の温度で還元してニッケル粉を得る方法が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
この方法により、平均粒径が0.2〜0.4μmのニッケル粉を得ることはできるが、不純物としてのアルカリ土類金属、特にマグネシウムは考慮されておらず、ニッケル粉中のマグネシウム含有量が多いという問題がある。このマグネシウム含有量が多い場合、不純物として電子部品の特性を損なう可能性がある。特に、近年の積層セラミックコンデンサの電極層及び誘電体層の薄層化を考慮すると、ニッケル粉中の不純物が電子部品に与える影響は大きく、従来から検討されていた残留塩素のみならずマグネシウムなどの不純物含有量をニッケル微粉中からできるだけ低減させることが要求されている。
さらに、上記水酸化ニッケルを還元する方法で製造したニッケル粉は、気相還元法で得られたニッケル粉に比べて比表面積が大きいため、有機酸を用いたニッケル粉の洗浄工程においてニッケルが溶出しやすい。このため、ニッケルロスが発生して製造コストが増加するだけでなく、ニッケルを含有する廃液処理に係るコストも増大する。したがって、洗浄廃液に溶出したニッケルの回収も重要な課題となっている。
特開平11−140513号公報 特開2006−219688号公報 特開2003−213310号公報 特開2009−24197号公報
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、湿式法で得た水酸化ニッケルを還元するニッケル粉の製造方法を用いて、不純物含有量が低いが低いニッケル粉と洗浄により発生したニッケルロスを容易に回収できるその製造方法を提供することを目的としている。
本発明者は、生産性が高く低コストである湿式法で得た水酸化ニッケルを還元処理することで得られるニッケル粉の不純物、特に残留塩素ならびに残留マグネシウムの低減について鋭意検討した結果、酢酸水溶液を用いて特定条件でニッケル粉を洗浄することで、比表面積の増加を抑制しつつ、残留塩素ならびに残留マグネシウムの低減が可能であること、洗浄後の洗浄液にアルカリ溶液を添加して、溶出したニッケルを水酸化ニッケルとして容易に回収できることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明のニッケル粉の製造方法は、マグネシウムをニッケルに対して0.003〜1質量%添加した塩化ニッケル水溶液をアルカリ水溶液で中和して水酸化ニッケルの沈殿を生成させる工程(A)と、該水酸化ニッケルを空気中で熱処理して酸化ニッケルを生成させる工程(B)と、該酸化ニッケルを還元ガス雰囲気中で還元してニッケル粉とする工程(C)と、還元後のニッケル粉を洗浄する工程(D)を備えたニッケル粉の製造方法であって、前記工程(D)において、ニッケル粉に対して5〜40質量%の酢酸を含み、酢酸濃度が5〜50g/Lの洗浄液を用いて洗浄することを特徴とする。前記洗浄液は30〜60℃に加熱することが好ましい。
また、前記工程(C)においては、還元ガスが含水素ガスであり、還元を300〜450℃で行なうことが好ましい。
さらに、前記工程(D)における洗浄によるニッケル粉の比表面積の増加率を10%以下とすることができる。
本発明のニッケル粉の製造方法においては、前記工程(D)においてニッケル粉を洗浄した液中に溶出したニッケルを、工程(E)において前記液を中和することで水酸化ニッケルとして回収することができる。
本発明においては、本発明の製造方法によって得られるニッケル粉であって、塩素含有量が20〜100質量ppm、マグネシウム含有量が40〜100質量ppmであることを特徴とするニッケル粉をも提供する。
本発明のニッケル粉の製造方法によれば、特殊な装置を必要とすることなく、簡潔なプロセスで効率よく、比表面積の増大を抑制し、塩素含有量およびマグネシウム含有量が低いニッケル粉を製造することができる。また、洗浄により溶出したニッケルの回収も容易である。本発明によって得られるニッケル粉は、電子部品用として好適であり、その工業的価値は大きい。
本発明のニッケル粉の製造方法は、塩化ニッケル水溶液をアルカリ水溶液で中和して水酸化ニッケルの沈殿を生成させる工程(A)と、該水酸化ニッケルを空気中で熱処理して酸化ニッケルを生成させる工程(B)と、該酸化ニッケルを還元ガス雰囲気中で還元してニッケル粉とする工程(C)と、還元後のニッケル粉を洗浄する工程(D)を備えたニッケル粉の製造方法であって、前記洗浄する工程(D)において、ニッケル粉に対して5〜40質量%の酢酸を含む洗浄液を用いて洗浄することを特徴とするものである。
通常、ニッケル粉の微細化のために、工程(A)における塩化ニッケル水溶液にマグネシウム化合物を添加する。マグネシウムは、工程(B)において固体酸化物となり、工程ニッケル粒子同士の連結を防止する障壁として機能し、工程(C)の還元時にニッケル粒子の粗大化を抑制すると考えられる。この際、マグネシウムは複合酸化物としてニッケル粒子の表面に濃縮しているため、酢酸の洗浄により除去することができる。以下に、本発明によるニッケル粉の製造方法について詳細に説明する。
工程(A)は、塩化ニッケル水溶液をアルカリ水溶液で中和して水酸化ニッケルの沈殿を生成させる工程であり、濃度、中和条件等は公知の技術が適用できる。この時、均一な特性の水酸化ニッケルを得るために、十分に攪拌されている反応槽内に、塩化ニッケル水溶液と水酸化ナトリウム水溶液をダブルジェット方式で添加しながら中和生成することが有効である。反応槽内にあらかじめ入れておく液は純水を用いることができるが、中和生成に一度使用したろ液を所定のpHにアルカリで調整した液を用いることが好ましい。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが用いられるがコストを考慮すると、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
工程(A)においては、ニッケル粉の微細化のため、前記塩化ニッケル水溶液にアルカリ土類金属、特にマグネシウムをニッケルに対して0.003〜1質量%添加して、マグネシウムを含有する水酸化ニッケルを生成させることが好ましい。
生成した水酸化ニッケルをろ過により脱水し、ろ過ケーキを得る。中和条件によっては生成した水酸化ニッケルがゲル状になることがあるが、その場合には反応によって生成された塩などが偏って残留しやすい。このため、十分に不純物濃度を下げるため、数回のろ過・レパルプ洗浄を繰り返してもよいが、不純物濃度を下げながらスラリー濃度を上げていく方法としてクロスフロー方式のろ過を用いることも有効である。
生成された水酸化ニッケルに関しては、そのまま次工程に使用することもできるが、特にニッケル粉の残留塩素をより低減させるためには、中和生成した水酸化ニッケルを濃度0.0004〜0.0015mol/Lの硫酸あるいは硫酸塩水溶液で洗浄した後、さらに水洗することが好ましい。硫酸あるいは硫酸塩水溶液での洗浄は、得られた水酸化ニッケルのゲルを解消しながらの洗浄となるため、水酸化ニッケルに残留する塩素を効率よく低減させることができる。そのため、次工程以降の塩素による負荷を下げることにもなり、得られる効果は大きい。
硫酸あるいは硫酸塩水溶液濃度が0.0004mol/L未満であると洗浄効果が十分に得られない。また、濃度が0.0015mol/Lを超えると洗浄効果の改善が得られないばかりか、残留する硫黄濃度が高くなり過ぎて、最終的に得られるニッケル粉が電子部品用材料として不適となる可能性があるため、好ましくない。洗浄時の水溶液の温度は常温で可能であるが、洗浄効果を高めるため加熱してもよい。
水酸化ニッケル粉に対する硫酸あるいは硫酸塩水溶液の量は、特に限定されるものではなく、残留塩素が十分に低減できる量とすればよいが、水酸化ニッケル粉を良好に分散させるためには、水酸化ニッケル/処理液の混合比を100g/L程度とすることが好ましい。また、洗浄時間は特に限定されるものではなく、洗浄条件により残留塩素が十分に低減される洗浄時間とすればよい。
洗浄に用いる装置は特に限定されるものではなく、後述の工程(D)におけるニッケル粉の洗浄と同様の装置を用いることができる。
前記硫酸あるいは硫酸塩水溶液での洗浄は、あらかじめ硫酸あるいは硫酸塩濃度を調整した水溶液を準備し、これに撹拌しながら乾燥した水酸化ニッケルの粉末を加えることで行えるが、含水したままのケーキ状のものを使用する方が、均一な処理を行いやすく洗浄の効率が良くなるばかりか、工程の短縮にもなるために好ましい。ケーキ状の水酸化ニッケルを洗浄する場合には、水酸化ニッケルのろ過ケーキに少量の水を加えてスラリー状にした後、添加後に所定の濃度となるように調整した硫酸あるいは硫酸塩水溶液を攪拌しながら一度に添加することが、均一な処理のために好ましい。
ケーキ状の水酸化ニッケルの水分含有率については、10〜40質量%であることが好ましく、30質量%程度にすることがさらに好ましい。水分含有率が10質量%よりも低い場合、均一に水溶液中に分散しにくく洗浄の効率が悪くなることや、水分含有率を下げるためにより厳しい脱水処理が必要となるなどの制約があり好ましくない。一方で、水分含有率が40質量%よりも高い場合、水酸化ニッケルのハンドリング性が悪く、均一な処理を妨げる場合がある。また、一定量の水酸化ニッケルを得るために必要な処理量が増加してしまう。
次に、工程(B)において、工程(A)で得られた水酸化ニッケルを空気中で熱処理して酸化ニッケルとする。熱処理は、一般的な焙焼炉を使用することができ、得ようとする酸化ニッケルに応じて、適宜、処理温度および時間などの処理条件を設定することができる。
前記加熱処理においては、均一な処理を行なうためにガスを流通させた状態で行なうことが好ましい。ガスの流通が不十分であると、発生した水蒸気の影響により、得られる酸化ニッケル粉の比表面積が不均一になることがある。前記加熱処理に用いる炉は、一般的な焙焼炉を使用することができ、静置式焙焼炉、転動炉、バーナー炉、搬送式連続炉、流動焙焼炉などを用いることができる。用いるガス種については、コストや取り扱いやすさなどの点で空気雰囲気とすることが好ましいが、非還元性雰囲気であれば他の雰囲気で行なっても問題なく、不活性ガスおよび酸化性ガスなど、その種類は制約されるものではない。
工程(B)で得られた酸化ニッケルを、工程(C)において、還元ガス雰囲気中で還元してニッケル粉とする。この時、還元性ガスは適宜選定することができるが、入手しやすさや環境への影響を考慮すると、含水素ガスを使用することが好ましい。また、還元時は、工程(B)と同様に雰囲気ガスを流通させた状態で行なうことが、均一な還元のために好ましい。雰囲気ガスの流通が十分でない場合、発生した水蒸気の影響でニッケル粒子が粗大化したり、還元に必要なガスが不足して得られるニッケル粉の分散性が悪化することがある。
また、還元条件についても、得ようとするニッケル粉に応じて設定することができるが、温度は300〜450℃とすることが好ましい。還元温度が450℃よりも高い場合には、ニッケル粉の焼結が進行し、分散性の良好な粒子が得られなくなる。一方で、還元温度が300℃よりも低い場合には、酸化ニッケルからニッケルへの還元反応が起こりにくく、ニッケル粉の製造効率が著しく悪化する。
さらに、工程(D)において、工程(C)で得られたニッケル粉を酢酸水溶液で水溶液洗浄し、水洗、乾燥することで、塩素含有量およびマグネシウム含有量が低減されたニッケル粉が得られる。 ニッケル粉の洗浄は、ニッケル粉に対して5〜40質量%の酢酸を含む洗浄液に、ニッケル粉を分散させてスラリー状態に保持することで行う。
酢酸の効果については必ずしも明確ではないが、塩素と交換吸着することで残留塩素を効率的に除去することができ、ニッケル粉表面を溶解することで表面に存在するマグネシウムを除去することができると考えられる。酢酸は表面に吸着してニッケル粒子を保護すると考えられ、酢酸水溶液を用いて洗浄することで、比表面積の増加を抑制しながら残留塩素を大幅に低減することが可能である。
洗浄に用いる酢酸量は、ニッケル粉に対して5〜40質量%とする。酢酸量が5質量%未満の場合は、ニッケル粉表面の溶解に必要な酢酸量が不足し、残留塩素および残留マグネシウムを除去できないだけでなく、ニッケル粉表面の水酸化や酸化により、比表面積が増加する。一方、酢酸量が40質量%を超える場合は、残留塩素および残留マグネシウムは低減されるものの、酸過剰となり、比表面積が増大する。
洗浄液の酢酸濃度は5〜50g/Lとすることが好ましい。濃度が5g/L未満の場合には、ニッケル粉表面の溶解速度が遅く、効率的な洗浄ができないことがある。濃度が50g/Lよりも大きくしても特に問題はないが、洗浄効果に向上が見られず、経済的でない。
洗浄液の温度は、30〜60℃とすることが好ましい。洗浄温度が高いほど、残留塩素および残留マグネシウムをより効率的に低減することができる。その一方で、洗浄温度が高い場合には、比表面積の増加が大きくなる傾向がある。したがって、残留塩素および残留マグネシウムの低減と比表面積の増加抑制を両立させるためには、30℃〜60℃の温度で洗浄することが好ましい。洗浄液の温度が60℃を超えた場合には、比表面積の増加が大きくなりすぎるばかりか、安全性に問題があり、エネルギー的にも不利である。洗浄液の温度が、30℃未満であるとニッケル表面の溶解速度が十分でなく残留塩素および残留マグネシウムが低減できない場合がある。
ニッケル粉と洗浄液の混合比は特に限定されるものではなく、実施する規模に応じて適宜変化させることができるが、ニッケル粉/洗浄液の混合比を50〜500g/Lとすることが好ましい。この混合比が500g/Lを超える場合には、ニッケル粉の分散が悪化して洗浄が十分に行えなくなる可能性がある。一方で混合比が50g/L未満の場合には、洗浄のために大量の薬液が必要となり、経済性や操作性に問題がある。また、洗浄時間は特に限定されるものではなく、スラリー中のニッケル粉濃度、酢酸の濃度、洗浄条件により残留塩素および残留マグネシウムが十分に低減される洗浄時間とすればよい。
洗浄に用いる装置は特に限定されるものではなく、通常の湿式反応槽を用いることができる。洗浄中は、ニッケル粉を含むスラリーを撹拌することが好ましく、洗浄には、例えば、超音波撹拌を用いるか機械式攪拌を用いることができる。
前記水洗後のニッケル粉の乾燥には、通常の乾燥方法を用いることができるが、酸化を防止して比表面積の増大を抑制するために真空中で乾燥することが好ましい。
本発明の製造方法では、酢酸の効果により比表面積の増大が抑制されるため、洗浄条件を最適化することにより、洗浄によるニッケル粉の比表面積の増加率10%以下とすることができる。なお、ニッケル粉の比表面積は、窒素ガス吸着によるBET一点法により測定したものである。電子部品材料用のニッケル粉としては、不純物の低減に加えて、比表面積が低いことが好ましく、洗浄工程における比表面積の増大は、ニッケル粉末をペースト化した場合にペースト混錬時の混合不良やペーストの経時劣化を招くことがある。
工程(D)では洗浄液中へのニッケルの溶出をともなうため、ニッケルの溶出によるロスが発生する。このニッケルロスを低減するために、工程(D)において洗浄した液中に溶出したニッケルを中和により水酸化ニッケルとして回収する工程(E)を備えることがさらに好ましい。残留塩素および残留マグネシウムの低減に必要な最低限の酢酸濃度、洗浄時間、洗浄温度、ニッケル濃度等の条件を選択することでニッケルロスを低減することができるが、洗浄後の液にアルカリ溶液を添加して中和することで水酸化ニッケルとして回収し、十分にニッケルロスを低減することができる。得られた水酸化ニッケルは、ニッケル粉製造の原料として使用することができ、ニッケルロスの少ないプロセスが可能になる。
洗浄に用いる有機酸としては、クエン酸等を用いることができるが、クエン酸は錯体形成能が高く、中和によっても液中に錯体として残るニッケルが多く、水酸化ニッケルが容易に生成しないと考えられる。一方、酢酸は、錯体形成能が低いため、中和によって容易に水酸化ニッケルが生成し、効率よくニッケルの回収が行えるものと考えられる。
工程(E)において中和に用いるアルカリ溶液は、特に限定されるものではないが、回収した水酸化ニッケルに不純物が混入しないように、アルカリ金属水酸化物、特に水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。また、中和の条件および方法は公知の技術が適用できるが、中和時のpHとしては、7.5〜12.5とすることが好ましい。
本発明のニッケル粉は、上記製造方法によって得られるものであって、マグネシウム含有量が100質量ppm以下であり、塩素含有量が100質量ppmであることを特徴とするものである。
マグネシウム含有量が100質量ppmを越えると、電子部品用材料として用いられた場合、電子部品の特性を損なうことがある。従って、マグネシウム含有量は、少ない方が好ましく、100質量ppm以下であることが好ましい。一方、本発明においては、通常、マグネシウムを還元時の焼結防止剤として用いるため、通常、その下限は40質量ppm程度である。
不純物として含まれる残留塩素も、電子部品材料においては低減されることが好ましく、塩素含有量は100質量ppm以下であることが好ましい。塩素含有量が100質量ppmを越えると、電子部品に用いられた場合、マイグレーション等が発生することがある。一方、本発明においては、ニッケル源として塩化ニッケルを用いるため、通常、その下限は20質量ppm程度である。
本発明のニッケル粉は、上記のように不純物含有量が少なく、かつ、比表面積の増大が抑制されているため、電子部品材料として好適に用いることができる。また、その製造方法は、複雑な工程を備えておらず、ニッケル粉の洗浄によるニッケルロスも少ないために、低コスト化が可能であり、工業的に優れたものである。
以下に、本発明の実施例を用いて詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、本実施例および比較例で用いている塩素含有量は、ニッケル粉を硝酸で溶解して、蛍光X線定量分析装置にて検量線法で評価した。マグネシウム含有量は、ニッケル粉を硝酸で溶解し、ICP発光分光分析法により測定した。また、比表面積は、窒素ガス吸着によるBET一点法により測定した。
(実施例1)
還元時の焼結防止剤となるマグネシウムを0.04g/L含んだニッケル濃度60g/Lの塩化ニッケル水溶液と、24質量%の水酸化ナトリウム水溶液をpH=8.3となるように調整しながら連続的に添加することで水酸化ニッケルの沈殿を生成させた。その後、ろ過と30分の純水レパルプを3回繰り返して水分含有率30質量%の水酸化ニッケルろ過ケーキを得た。さらに、このろ過ケーキを送風乾燥機により大気中160℃で48時間乾燥して、水酸化ニッケル乾燥物を得た。得られた乾燥物に水分含水率30質量%となるように純水を加えた後、水酸化ニッケル100gに対して、先に加えた水との合計で0.0005mol/Lの硫酸1Lとなるように濃度調整した硫酸を加え、30分間撹拌した。撹拌後、ろ過、水洗し、同様に乾燥して水酸化ニッケル粉を得た。
得られた水酸化ニッケル粉1500gを、搬送式連続焼成炉により加熱帯あたり27L/minの流量で空気を導入しながら、480℃で2時間保持の条件となるように搬送熱処理して酸化ニッケルを得た。さらに、得られた酸化ニッケル132gを雰囲気焼成炉により25L/minの流量で窒素80容量%−水素20容量%の混合ガスを導入しながら、400℃で2時間還元処理して還元ニッケル粉を得た。
得られた還元ニッケル粉10gを洗浄液として用いた0.6gの酢酸(ニッケルに対して6質量%)を含む酢酸水溶液100mL中に分散させ、50℃で4時間攪拌洗浄した。洗浄後のニッケル粉を吸引ろ過した後、100mLの純水中に分散させ、30分間撹拌洗浄した。再度吸引ろ過した後、120℃で真空乾燥してニッケル粉を得た。得られたニッケル粉の塩素含有量は100質量ppm以下、マグネシウム含有量は100質量ppm以下であり、洗浄前後における比表面積の増加量は、0.20m2/g、比表面積の増加率は4.7%であった。
(実施例2)
実施例1と同様にして得た還元ニッケル粉200gを洗浄液として用いた12gの酢酸(ニッケルに対して6質量%)を含む酢酸水溶液800mL中に分散させ、50℃で30分間攪拌洗浄した。洗浄後のニッケル粉は、吸引ろ過後に純水で洗浄し、120℃で真空乾燥してニッケル粉を得た。得られたニッケル粉の塩素含有量は100質量ppm以下、マグネシウム含有量は100質量ppm以下、洗浄による比表面積の増加は見られなかった。洗浄後に前記ろ過により固液分離した洗浄液をICP発光分光分析法によるニッケル濃度の分析を行ったところ、6.68g/Lであった。この洗浄液を水酸化ナトリウム水溶液でpH12に調整し、洗浄により溶出したニッケルを水酸化ニッケルとして沈殿させた。24時間静置させた後に水酸化ニッケルを回収するとともに上澄み液を採取し、ICP発光分光分析法によりニッケル濃度を分析したところ、0.01g/L以下であった。
(実施例3)
前記洗浄液を1.2gの酢酸(ニッケルに対して12質量%)を含む酢酸水溶液100mLとした以外は実施例1と同様にしてニッケル粉を得た。得られたニッケル粉の塩素含有量は100質量ppm以下、マグネシウム含有量は100質量ppm以下、洗浄による比表面積の増加は見られなかった。
(実施例4)
実施例1と同様にして得た還元ニッケル粉末20gを洗浄液として用いた3.8gの酢酸(ニッケルに対して19質量%)を含む酢酸水溶液80mL中中に分散させ、50℃で30分間攪拌洗浄した。洗浄後のニッケル粉を吸引ろ過した後、80mLの純水中に分散させ、30分間撹拌洗浄した。再度、吸引ろ過した後、120℃で真空乾燥してニッケル粉を得た。得られたニッケル粉の塩素含有量は100質量ppm以下、マグネシウム含有量は100質量ppm以下であり、洗浄前後における比表面積の増加量は0.07m2/g、比表面積の増加率は1.4%であった。
(実施例5)
前記洗浄液を7.2gの酢酸(ニッケルに対して36質量%)を含む酢酸水溶液80mLとした以外は実施例4と同様にしてニッケル粉を得た。得られたニッケル粉の塩素含有量はは100質量ppm以下、マグネシウム含有量は100質量ppm以下であり、洗浄前後における比表面積の増加量は0.27m2/g、比表面積の増加率は5.5%であった。
(比較例1)
前記洗浄液を9.6gの酢酸(ニッケルに対して48質量%)を含む酢酸水溶液80mLとした以外は実施例4と同様にしてニッケル粉を得た。得られたニッケル粉の塩素含有量は100質量ppm以下、マグネシウム含有量は100質量ppm以下であり、洗浄前後における比表面積の増加量は1.54m2/g、比表面積の増加率は31%であった。
(比較例2)
前記洗浄液として純水を用いた以外は実施例1と同様にしてニッケル粉を得た。得られたニッケル粉の塩素含有量は480質量ppm、マグネシウム含有量は420質量ppmであり、洗浄前後における比表面積の増加量は0.56m2/g、比表面積の増加率は11%であった。
(比較例3)
前記洗浄液を0.49gの硫酸(ニッケルに対して4.9質量%)を含む硫酸水溶液100mLとした以外は実施例1と同様にしてニッケル粉を得た。得られたニッケル粉の塩素含有量は100質量ppm以下、マグネシウム含有量は120質量ppmであり、洗浄前後における比表面積の増加量は0.98m2/g、比表面積の増加率は20%であった。
(比較例4)
前記洗浄液を0.37gの塩酸(ニッケルに対して3.7質量%)を含む塩酸水溶液100mLとした以外は実施例1と同様にしてニッケル粉を得た。得られたニッケル粉の塩素含有量は270質量ppm、マグネシウム含有量は120質量ppmであり、洗浄前後における比表面積の増加量は0.72m2/g、比表面積の増加率は15%であった。
(比較例5)
前記洗浄液を0.8gのクエン酸(ニッケルに対して8.0質量%)を含むクエン酸水溶液100mLとした以外は実施例1と同様にしてニッケル粉を得た。得られたニッケル粉の塩素含有量は100質量ppm以下、マグネシウム含有量は100質量ppm以下であり、洗浄前後における比表面積の増加量は0.17m2/g、比表面積の増加率は3.1%であった。一方、実施例2と同様に処理して分析した洗浄液のニッケル濃度は1.87g/Lであり、静置させた後の上澄み液のニッケル濃度は、1.67g/Lであった。
以上からわかるように、本発明による実施例1〜5は、塩素含有量およびマグネシウム含有量が大幅に低減されているとともに比表面積の増加が抑制されており、電子部品用材料として好適である。
一方、酢酸量がニッケルに対して40質量%を超え、多量の酢酸で洗浄した比較例1では、塩素含有量およびマグネシウム含有量が大幅に低減されるものの、比表面積の増加が著しい。洗浄液として純水を用いた比較例2では、塩素含有量およびマグネシウム含有量の低減が十分でなく、洗浄液に硫酸を用いた比較例3では、マグネシウム含有量の低減が十分でなく、塩酸を用いた比較例4では、塩素含有量およびマグネシウム含有量の低減が十分でない。また、比較例3および4では、比表面積が増加している。これらより、比較例1〜4では、電子部品用材料として好適なニッケル粉が得られないことがわかる。
さらに、クエン酸を洗浄液とした比較例5では、塩素含有量およびマグネシウム含有量が低減されているとともに比表面積の増加が抑制されているが、pH調整後も洗浄液中に高濃度のニッケルが残留して回収できず、ニッケルロスが大きいことがわかる。
本発明のニッケル粉は、塩素含有量およびマグネシウム含有量が低減され、電子部品材料、特に配線材料、電極材料等として好適であり、ペーストとしても安定して用いることができる。

Claims (7)

  1. マグネシウムをニッケルに対して0.003〜1質量%添加した塩化ニッケル水溶液をアルカリ水溶液で中和して水酸化ニッケルの沈殿を生成させる工程(A)と、該水酸化ニッケルを空気中で熱処理して酸化ニッケルを生成させる工程(B)と、該酸化ニッケルを還元ガス雰囲気中で還元してニッケル粉とする工程(C)と、還元後のニッケル粉を洗浄する工程(D)を備えたニッケル粉の製造方法であって、前記洗浄する工程(D)において、ニッケル粉に対して5〜40質量%の酢酸を含み、酢酸濃度が5〜50g/Lの洗浄液を用いて洗浄することを特徴とするニッケル粉の製造方法。
  2. 前記工程(D)において、洗浄液を30〜60℃に加熱することを特徴とする請求項1に記載のニッケル粉の製造方法。
  3. 前記工程(C)において、前記還元ガスが含水素ガスであることを特徴とする請求項1または2に記載のニッケル粉の製造方法。
  4. 前記工程(C)において、還元を300〜450℃で行なうことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のニッケル粉の製造方法。
  5. 前記工程(D)において、洗浄によるニッケル粉の比表面積の増加率が10%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のニッケル粉の製造方法。
  6. 前記工程(D)においてニッケル粉を洗浄した後の液中に溶出したニッケルを中和により水酸化ニッケルとして回収する工程(E)を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のニッケル粉の製造方法。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載のニッケル粉の製造方法によって得られるニッケル粉であって、塩素含有量が20〜100質量ppm、マグネシウム含有量が40〜100質量ppmであることを特徴とするニッケル粉。
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