JP5168592B2 - ニッケル粉の製造方法 - Google Patents
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Description
このニッケル粉を導電体形成材料に使用した場合、ハロゲン元素が残留すると、形成した電子部品の性能低下につながってしまう。例えば、残留したハロゲン化物は、ニッケル粉の耐錆性を阻害する原因となり、特に、塩素は、ペースト化して電子部品の材料として使用する場合において、焼成時に塩化水素ガスを発生して環境や装置へ悪影響を与えるなどの問題がある。したがって、残留ハロゲン、特に残留塩素の低減は電子部品用のニッケル粉の製造において重要な課題である。
例えば、湿式による水酸化ニッケルの生成は、反応槽内のスラリーに含ニッケル溶液を連続的に添加しつつ、アルカリ溶液を添加して水酸化ニッケルを生成させたスラリーを濾過、水洗、乾燥して水酸化ニッケルを得るもので、この水酸化ニッケルを、還元剤に水素を用いて400〜550℃の還元温度で、加熱還元することによりニッケル粉を得る製造方法が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。
このように、電子部品製造用のペーストとして用いられるニッケル粉には、残留塩素が低濃度であるとともに高い分散性が求められている。
本発明のニッケル粉の製造方法は、以下の工程を備えるものである。
[工程A]塩化ニッケル水溶液をアルカリ水溶液で中和して水酸化ニッケルの沈殿を生成する工程、湿式による水酸化ニッケルの生成。
[工程B]工程Aで生成した水酸化ニッケルを熱処理して酸化ニッケルを生成する工程。
[工程C]工程Bで生成した酸化ニッケルを還元ガス雰囲気中で還元してニッケル粉とする工程。
[工程D]生成したニッケル粉を、有機酸水溶液とスラリー化してニッケル粉スラリーを作製する工程。
[工程E]超高圧による作用を用いて、工程Dで作製したスラリー中のニッケル粉を解砕して分散させる工程。
即ち、工程Aによる湿式による水酸化ニッケルの生成、工程Bによる水酸化ニッケルから酸化ニッケルの生成、工程Cによる低コストでのニッケル粉の生成、工程Dによるニッケル粉を有機酸水溶液に分散させてスラリー化すること、工程Eの超高圧による作用を用いたスラリー中の粗粒ニッケル粉の解砕による高い分散性のニッケル粉の生成と塩素除去であり、これらにより残留塩素濃度が低く、かつ分散性に優れたニッケル粉を簡便に製造することができるものである。
また、溶液のキャビテーションによる衝撃力の利用としては、スラリーに超高圧を与えて隘路を高速で通過させることにより、スラリー中の溶液にキャビテーションを発生させ、そのキャビテーションによる泡が隘路出口での速度低下により破裂し、その泡が破裂するときの衝撃力によりニッケル粉を解砕する方法も採られる。
この相反する点に関して、超高圧を利用してニッケル粉を分散させることで塩素を除去する本発明の場合では、ニッケル粒子の表面露出部において、局部的に瞬間的な温度上昇が生じるために露出部の塩素を効率よく低減することができる。しかも、温度上昇は局部的なものであり系全体の温度上昇は抑えられているため、比表面積は増加せずに抑制されている。
以下、工程毎に詳細に説明する。
工程Aは、塩化ニッケル水溶液をアルカリ水溶液で中和して水酸化ニッケルの沈殿を生成させる工程であり、濃度、中和条件等は公知の技術が適用できる。この時、均一な特性の水酸化ニッケルを得るために、十分に攪拌されている反応槽内に、塩化ニッケル水溶液と水酸化ナトリウム水溶液をダブルジェット方式で添加しながら中和生成することが有効である。反応槽内にあらかじめ入れておく液は純水を用いることができるが、中和生成に一度使用した濾液を所定のpHにアルカリで調整した液を用いることが好ましい。使用するアルカリ水溶液については、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液などの水酸化アルカリ金属の水溶液を用いることが好ましく、入手しやすさや価格などの点で水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
この硫酸あるいは硫酸塩水溶液による洗浄は、得られた水酸化ニッケルのゲルを解消しながらの洗浄となるため、水酸化ニッケルに残留する塩素を効率よく低減させることができる。そのため、次工程以降の塩素による負荷を下げることにもなり、得られる効果は大きい。
洗浄に用いる装置は特に限定されるものではなく、通常の湿式反応槽を用いることができる。
次に、工程Bは、工程Aで作製した水酸化ニッケルを熱処理して酸化ニッケルとする工程である。
この熱処理は、静置式焙焼炉、転動炉、バーナー炉、搬送式連続炉などの一般的な焙焼炉を使用することができ、得ようとする酸化ニッケルに応じて、適宜、処理温度および時間などの処理条件を設定することができる。熱処理の雰囲気は、特に制約されるものではなく、非還元性雰囲気であれば問題ないが、コストや取り扱いやすさなどの点から空気雰囲気下で行うと良い。その際、均一な処理を行うためにガスを流通させた状態で行うことが好ましい。
工程Cは、工程Bで作製した酸化ニッケルを、還元ガス雰囲気中で還元してニッケル粉とする工程である。
この時、還元性ガスは適宜選定することができるが、入手しやすさや環境への影響を考慮すると、含水素ガスを使用することが好ましい。また、還元条件についても、得ようとするニッケル粉に応じて設定することができるが、温度は300〜450℃とすることが好ましい。還元温度が450℃よりも高い場合には、ニッケル粉の焼結が進行し、分散性の良好な粒子が得られなくなる。一方で、還元温度が300℃よりも低い場合には、酸化ニッケルからニッケルへの還元反応が起こりにくく、ニッケル粉の製造効率が著しく悪化する。
工程Dは、工程Cで作製したニッケル粉を有機酸水溶液とスラリー化する工程である。
ニッケル粉をスラリー化するための溶液は、有機酸水溶液から適宜選択することができるが、アスコルビン酸、グルタミン酸、クエン酸の水溶液は、塩素除去の効果が大きく、取り扱いも容易であり、したがって、用いる有機酸水溶液は、アスコルビン酸、グルタミン酸、クエン酸から選ばれる1種ないし2種以上を含む水溶液とすることが好ましい。
これらの水溶液を用いて処理を行った場合、効率よく塩素を除去することが可能であるので、短時間での処理となり粒子の酸化機会を減少させることができるほか、ニッケル粉の表面に吸着することで粒子の酸化そのものを抑制することが可能となる。
工程Eは、スラリー中の凝集しているニッケル粉を、超高圧による作用を用いてニッケル粉を解砕して分散させる工程である。工程Eにより、ニッケル粉の残留塩素濃度の低減と分散性の改善を行うことができる。
その残留塩素濃度は150質量ppm以下であることが好ましく、100質量ppm以下であることがより好ましい。また、湿式法により製造した水酸化ニッケルを還元処理するため、複雑な工程を備えておらず、その製造コストも低く抑えることができる。
なお、この実施例等における塩素濃度は、ニッケル粉を硝酸で溶解した後に硝酸銀を加えて塩化銀を沈殿させ、沈殿物中の塩素を蛍光X線定量分析装置(Panalytical社製Magix)を用いた検量線法で評価している。
また、比表面積は、BET比表面積測定装置(ユアサアイオニクス社製マルチソーブ16)によりBET一点法により評価している。
粒子の分散性は、レーザー光回折・散乱型粒度分布測定装置(Microtrack社製MICROTRACK HRA)により粒度分布を測定し、90%体積径(以下、D90と表記)を求めて分散状態の指標としている。
還元時の融着抑制剤となるマグネシウムを0.04g/L含んだニッケル濃度60g/Lの塩化ニッケル水溶液と、24質量%の水酸化ナトリウム水溶液をpH=8.3となるように調整しながら連続的に添加することで水酸化ニッケルの沈殿を生成させた。
その後、濾過と30分の純水レパルプを3回繰り返して水分含有率30質量%の水酸化ニッケル濾過ケーキを得た。さらに、この濾過ケーキに少量の水を加えた後、水酸化ニッケル100gに対して、先に加えた水との合計で0.0005mol/Lの硫酸1Lとなるように濃度調整した硫酸を加え、30分間攪拌して洗浄した。洗浄後に濾過し、再度純水でレパルプ洗浄し、乾燥して水酸化ニッケル粉末を得た。
この水酸化ニッケル粉末200gを、雰囲気焼成炉により20L/minの流量で、空気を導入しながら400℃で6時間熱処理して酸化ニッケルを生成した。
この工程Bで作製した酸化ニッケル132gを、25L/minの流量で窒素80容量%−水素20容量%の混合ガスを導入しながら、雰囲気焼成炉を用いて、400℃で2時間還元処理して還元ニッケル粉を作製した。
次に、この還元ニッケル粉50gを、窒素ガスの導入により溶存酸素を除去した濃度10g/Lの室温のクエン酸水溶液500mL中に分散させニッケル粉含有スラリーを作製した。
湿式ジェットミル装置(スギノマシン社製StarBurst Labo)を用い、先の工程Dで作製したスラリーに対して、圧力が245MPaになるような条件で10パスの分散処理を行い、ニッケル粉分散スラリーを得た。得られたニッケル粉分散スラリーを、吸引濾過後に再度純水でレパルプ洗浄し、濾過後、80℃で真空乾燥して脱塩素処理したニッケル粉を得た。
還元後のニッケル粉をスラリー化する際の有機酸水溶液を、窒素ガスの導入により溶存酸素を除去した純水に変更した以外は実施例1と同様にして、ニッケル粉を作製して、その残留塩素濃度、比表面積を測定した。その結果を表1に示す。
このニッケル粉の残留塩素濃度は310質量ppmと高い値であり、その比表面積は4.81m2/gであり、D90は0.42μmであった。
湿式ジェットミル装置による超高圧の衝突力を用いたニッケル粉を分散させる処理を行わず、60℃に加熱しながら攪拌機を用いて30分間攪拌洗浄した以外は実施例1と同様にしてニッケル粉を作製し、その残留塩素濃度、比表面積を測定した。その結果を表1に示す。作製したニッケル粉の残留塩素濃度は30質量ppm未満であり、その比表面積は4.91m2/gであったが、D90は0.73μmであった。
また、ニッケル粉を機械式攪拌によって洗浄した比較例2では、残留塩素濃度が30ppm未満まで低減されているものの、D90が0.73μmと分散性が実施例1に比べて劣っていることがわかる。さらに、比較例2では、残留塩素の低減のために60℃に液を加熱する必要があったが、実施例1では加熱処理を必要としていない。
Claims (6)
- 塩化ニッケル水溶液からニッケル粉を生成するニッケル粉の製造方法であって、
前記塩化ニッケル水溶液を、アルカリ水溶液で中和して水酸化ニッケルの沈殿を生成させる工程Aと、
前記水酸化ニッケルを、熱処理して酸化ニッケルを生成させる工程Bと、
前記酸化ニッケルを、還元ガス雰囲気中で還元してニッケル粉とする工程Cと、
前記工程Cで得られたニッケル粉をクエン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸から選ばれる1種ないし2種以上の有機酸水溶液とスラリー化して、ニッケル粉スラリーを作製する工程Dと、
前記ニッケル粉スラリー中で、超高圧による作用を用いてニッケル粉を分散させる工程Eを、
備えることを特徴とするニッケル粉の製造方法。 - 前記工程Eの作用が、対向衝突による衝突力あるいは溶液のキャビテーションによる衝撃力であることを特徴とする請求項1に記載のニッケル粉の製造方法。
- 前記工程Eの作用が、ニッケル粉スラリー中のニッケル粉の対向衝突による衝突力であることを特徴とする請求項2に記載のニッケル粉の製造方法。
- 前記工程Eの超高圧が、100MPa以上の圧力であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のニッケル粉の製造方法。
- 前記工程Dの有機酸水溶液の濃度が、5〜50g/Lであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のニッケル粉の製造方法。
- 前記工程Dの有機酸水溶液が、予め溶存酸素を除去された有機酸水溶液であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のニッケル粉の製造方法。
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