JP5168070B2 - 酸化ニッケル粉末及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、酸化ニッケル微粉末及びその製造方法に関し、更に詳しくは、不純物品位、特に硫黄品位、塩素品位及び第2族元素品位が低く、且つ微細であって、電子部品材料として好適な酸化ニッケル微粉末及びその製造方法に関する。
一般に、酸化ニッケル粉末は、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等のニッケル塩類又はニッケルメタル粉を、ロータリーキルン等の転動炉、プッシャー炉等のような連続炉、あるいはバーナー炉のようなバッチ炉を用いて、酸化性雰囲気下で焼成することによって製造される。これらの酸化ニッケル粉末は多様な用途に用いられており、例えば、電子部品材料としての用途では、酸化鉄、酸化亜鉛等の他の材料と混合された後、焼結されることによりフェライト部品等として広く用いられている。
上記フェライト部品のように、複数の材料を混合して焼成することにより、これらを反応させて複合金属酸化物を製造する場合には、生成反応は固相の拡散反応で律速されるので、一般に使用する原料としては微細なものが用いられる。これにより、他材料との接触確率が高くなると共に粒子の活性が高くなるため、低温度且つ短時間の処理で反応が均一に進むことが知られている。従って、このような複合金属酸化物を製造する方法においては、原料の粒径を小さくすることが効率向上の重要な要素となる。
また、粉体が微細であることを測る指標としては、比表面積も用いられている。粒径と比表面積には、下記の計算式1の関係があることが知られている。下記計算式1の関係は粒子が真球状であると仮定して導き出されたものであるため、計算式1から得られる粒径と実際の粒径との間にはいくらかの誤差を含むことになるが、比表面積が大きいほど粒径が小さくなることが分る。
[計算式1]
粒径=6/(密度×比表面積)
近年においては、フェライト部品の高機能化、並びに酸化ニッケル粉末のフェライト部品以外の電子部品等への用途の広がりに伴い、酸化ニッケル粉末に含有される不純物元素の低減が求められている。これら不純物元素の中でも特に硫黄や塩素は、電極に利用されている銀と反応して電極劣化を生じさせたり、焼成炉を腐食させたりすることから、できるだけ低減することが望ましい。
従来、酸化ニッケル粉末を製造する方法としては、原料として硫酸ニッケルを用い、これを焙焼する方法が提案されている。例えば、特許文献1(特開2001−32002号公報)に記載されているように、硫酸ニッケルを原料として、キルンなどを用いて酸化雰囲気中で焙焼温度を950〜1000℃未満とする第1段焙焼と、焙焼温度を1000〜1200℃とする第2段焙焼とを行う酸化ニッケル粉末の製造方法が提案されている。この製造方法によれば、平均粒径が制御され、且つ硫黄品位が50質量ppm以下である酸化ニッケル微粉末が得られるとしている。
また、特許文献2(特開2004−123488号公報)には、450〜600℃の仮焼による脱水工程と、1000〜1200℃の焙焼による硫酸ニッケルの分解工程とを明確に分離した酸化ニッケル粉末の製造方法が提案されている。この製造方法によれば、硫黄品位が低く且つ平均粒径が小さい酸化ニッケル粉末を安定して製造できるとしている。
更に、特許文献3(特開2004−189530号公報)には、横型回転式製造炉を用いて、強制的に空気を導入しながら、最高温度を900〜1250℃として焙焼する方法が提案されている。この製造方法によっても、不純物が少なく、硫黄品位が500質量ppm以下の酸化ニッケル粉末が得られるとしている。
一方、酸化ニッケル微粉末を合成する方法として、硫酸ニッケルや塩化ニッケル等のニッケル塩を含む水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリで中和して水酸化ニッケルを晶析させ、これを焙焼する方法も考えられる。このようにして水酸化ニッケルを焙焼する方法では、SOxを含むガスの発生がないため、低コストでの製造が可能であると考えられる。
例えば、特許文献4(特開2005−2395号公報)には、ニッケル粉を製造する際の中間物ではあるが、水酸化ニッケルを酸化性雰囲気下で加熱処理することによって、酸化ニッケル微粉末が得られることが開示されている。
特開2001−32002号公報 特開2004−123488号公報 特開2004−189530号公報 特開2005−2395号公報
しかしながら、上記特許文献1〜3のいずれの方法においても、硫黄品位を低減するために焙焼温度を高くすると粒径が粗大になり、また粒子を微細にするために焙焼温度を下げると硫黄品位が高くなるという欠点がある。更に、加熱する際にSOxを含むガスが発生し、これを除害処理するために高価な設備が必要となるという問題を有している。
また、特許文献4には得られた酸化ニッケル微粉末に含有される塩素及び硫黄の品位、粒径等については何等記載されていない。即ち、この製造方法によって、塩素及び硫黄の品位が十分低く、且つ微細な酸化ニッケル微粉末が得られたとする報告はなされていない。
尚、本発明者は、特願2008−042682号において、塩化ニッケルに酸化ニッケルの粗大化抑制のためマグネシウム等の第2族元素を少量添加して中和し、得られた水酸化ニッケルを特定の温度で焙焼して酸化ニッケルとし、解砕メディアで湿式粉砕し、それを有機酸含有水溶液で洗浄することにより、硫黄品位及び塩素品位が低く、且つ微細な酸化ニッケル微粉末を得る方法を提案している。
この酸化ニッケル微粉末の製造方法では、粗大化抑制を企図して添加したマグネシウムが酸化ニッケル微粉末に混入するという問題点があった。このような製造方法で得られた酸化ニッケル微粉末は、フェライト等の原料として用いた場合、十分な焼結性が得られない場合があり、必ずしも電子部品材料に好適なものとは言えなかった。また、焼結性を改善するため、より微細な、即ち、より比表面積が大きい酸化ニッケル微粉末が求められていた。
本発明は、上記した問題点に鑑み、不純物品位、特に硫黄品位及び塩素品位が低く、且つ粒径が微細であって、電子部品材料として好適な酸化ニッケル微粉末及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明者は、上記目的を達成するため、塩化ニッケルを中和して得た水酸化ニッケルを焙焼して酸化ニッケル微粉末を製造する方法について、硫黄を含まないニッケル塩として塩化ニッケルに着目して鋭意研究を重ねた結果、塩化ニッケルをアルカリで中和し、得られた水酸化ニッケルを特定の濃度及び温度の水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウム水溶液中で加温処理した後、熱処理して酸化ニッケルとし、その酸化ニッケルを解砕することにより、硫黄品位、塩素品位及び第2族元素品位が低く、且つ微細な酸化ニッケル微粉末を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
即ち、本発明の酸化ニッケル粉末の製造方法は、塩化ニッケル水溶液とアルカリを混合して水酸化ニッケルを得る工程Aと、得られた水酸化ニッケルを0.2〜6mol/Lのアルカリを含む水溶液中で65℃以上に加温する工程Bと、水酸化ニッケルを非還元性雰囲気中において750℃以上、950℃以下の温度で熱処理して酸化ニッケルとする工程Cと、得られた酸化ニッケルを解砕する工程Dとを含むことを特徴とする。
上記本発明による酸化ニッケル粉末の製造方法においては、前記工程Aのアルカリが水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムであることが好ましい。また、前記塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度が50〜130g/Lであることが好ましい。前記工程Dにおいては、粒子同士を衝突させて解砕を行うことが好ましい。
本発明が提供する酸化ニッケル粉末は、上記した本発明の酸化ニッケル粉末の製造方法で得られた酸化ニッケル粉末であり、比表面積が6m/g以上、塩素品位が100質量ppm以下、硫黄品位が30質量ppm以下であることを特徴とする。また、本発明の酸化ニッケル粉末は、レーザー散乱法で測定したD90が1μm以下であることが好ましく、更には、ジルコニウム品位及び第2族元素品位が30質量ppm以下であることが好ましい。
本発明によれば、不純物品位、特に硫黄品位及び塩素品位が低く、且つ微細な酸化ニッケル微粉末が得られる。更に、本発明の酸化ニッケル微粉末は、不純物としてジルコニウム及び第2族元素を実質的に含まず、従来の方法によって得られるものよりも微細であり、フェライト部品などの電子部品材料として好適であるうえ、その製造方法も容易であることから、その工業的価値は極めて大きい。
本発明の酸化ニッケル粉末の製造方法は、塩化ニッケル水溶液をアルカリで中和して水酸化ニッケルを得る工程Aと、得られた水酸化ニッケルをアルカリを含む水溶液中で加温処理する工程Bと、水酸化ニッケルを熱処理して酸化ニッケルとする工程Cと、得られた酸化ニッケルを解砕する工程Dとを有している。かかる本発明の方法においては、工程Bにおいて水溶液中のアルカリの濃度を0.2〜6mol/L、液温を65℃以上にすることが特に重要である。なお、本明細書内において用いられている用語である「ニッケル微粉末」は、粒径が粗大ではなく比較的微細な粒径を有するニッケル粉末ほどの意味であり、特に粒径を限定することを企図して用いられているのではない。
上記工程Bのアルカリを含む水溶液の温度が65℃未満、あるいはアルカリの濃度が0.2mol/L未満では、後の工程Cの熱処理によって得られる酸化ニッケルが十分微細にならない。6mol/Lを超えても微細化の効果は変わらず、経済的ではない。微細な酸化ニッケルが得られる明確な理由は不明であるが、アルカリ水溶液中での加温処理時に水酸化ニッケル中の結晶水が離脱すると考えられ、これが関与しているものと思われる。温度は100℃以下であれば高温である方が良いが、経済性を考慮すると80℃以下とすることが好ましい。100℃を越えると、水の蒸発が激しく水溶液の濃度が一定にならないばかりか安全上も危険であり、好ましくない。
更に、工程Bのアルカリ水溶液中での加温処理は、塩化ニッケル由来の塩素品位を低減させる効果もある。上記の濃度が0.2mol/L未満ではこの塩素品位低減効果が小さくなってしまい、得られる酸化ニッケル微粉末の塩素品位が高くなり、フェライト部品等の電子部品用として好ましくない。6mol/Lを超えても塩素低減の効果は変わらず、経済的でないばかりか、酸化ニッケル微粉末に残留するアルカリ、例えば、水酸化ナトリウムを用いた場合にはナトリウム品位が増加するおそれがある。
尚、工程Bのアルカリ水溶液中での加温処理では、酸化ニッケルの粗大化を抑制するために用いられていたマグネシウム等の第2族元素を添加しないため、第2族元素、特にマグネシウムを実質的に含まない微細酸化ニッケルを得ることが可能となる。
本発明の製造方法においては、上記工程Dにおいて、解砕メディアを用いることなく解砕を行うことが望ましい。なぜなら、解砕メディアを用いると解砕自体は容易となるものの、ジルコニア等の解砕メディアの成分が不純物として混入してしまうおそれがあるからである。
不純物としてジルコニウムのみを考慮すれば良いのであれば、ジルコニア等のジルコニウムを含有しない解砕メディアを用いて解砕することで対処することができるが、この場合であっても解砕メディアから他の不純物が混入し、結果的に低不純物品位の酸化ニッケル微粉末が得られないので好ましくない。また、ジルコニウムを含有しない解砕メディア、例えば、イットリア安定化ジルコニアを含有しない解砕メディアでは強度や耐摩耗性で十分でなく、この観点からも解砕メディアを用いることなく解砕を行う方法が望ましい。
本発明の製造方法においては、前工程Cにおける熱処理によって得られる酸化ニッケルの粒子が十分に微細で、その粒子間における焼結の程度が小さいため、大きな解砕力を加えずとも、十分に微細な酸化ニッケル微粉末を得ることができる。工程Bにおける前記加温処理を行わず、前工程Cにおける熱処理によって得られる酸化ニッケルの粒子が粗大化すると、解砕メディアを用いた大きな解砕力が必要となる。
解砕メディアを用いることなく解砕する方法としては、粉体同士を衝突させる方法や、液体などの媒体により粉体にせん断力をかける方法等がある。前者を用いた解砕装置としては、例えば、ジェットミル、アルティマイザー(登録商標)等が挙げられる。また、後者を用いた解砕装置としては、例えば、ナノマイザー(登録商標)等が挙げられる。上記解砕方法のうち、粉体同士を衝突させる方法が特に好ましい。なぜなら、不純物混入の虞が少なく、比較的大きな解砕力が得られるからである。このように、解砕メディアを用いることなく解砕を行うことにより、解砕メディアからの不純物、特にジルコニウムの混入が事実上ない微細酸化ニッケルを得ることが可能となる。
次に、本発明の酸化ニッケルの製造方法を工程毎に詳細に説明する。まず、工程Aは、塩化ニッケル水溶液をアルカリで中和して水酸化ニッケルの沈殿を生成する工程であり、濃度及び中和条件等は公知の技術が適用できる。原料に使用する塩化ニッケルは特に限定されないが、不純物として含まれる硫黄品位が十分に低いことが好ましく、具体的には30質量ppm以下であることが好ましい。原料由来の硫黄をこのように制限することによって、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末の硫黄品位を30質量ppm以下とすることができる。
中和に用いるアルカリとしては、特に限定されるものではないが、反応液中に残留するニッケルの量を考慮すると、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが好ましく、コストを考慮すると、水酸化ナトリウムが特に好ましい。また、アルカリは固体又は液体のいずれの状態で塩化ニッケル水溶液に添加してもよいが、取扱いの容易さから水溶液を用いることが好ましい。均一な特性の水酸化ニッケルを得るためには、十分に撹拌されている反応槽内に、塩化ニッケル水溶液とアルカリ水溶液をダブルジェット方式で添加することが有効である。その際、反応槽内に予め入れておく液は、純水にアルカリを添加し、所定のpHに調整しておくことが好ましい。
中和反応時は、pHを一定とし、pHを8.3〜9.0とすることが必要である。pHが8.3より低いと、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末中の塩素品位を十分に低減させることが困難になる。また、pHが9.0より高くなると得られる水酸化ニッケルが微細になりすぎ、濾過が困難になる。また、後に行われる工程Cで焼結が進みすぎ、微細な酸化ニッケルを得ることが困難になる。本発明の中和条件であるpH9.0以下では水溶液中に僅かにニッケル成分が残存することがあるが、この場合は、中和晶析後、pHを10程度まで上げ、濾液中のニッケルを低減させることが好ましい。
また、上記工程Aにおいて、塩化ニッケルの濃度は特に限定されるものではないが、生産性を考慮すると、ニッケル濃度で50〜130g/Lが好ましい。50g/L未満では生産性が悪くなる。一方、130g/Lを越えると水溶液中の塩素濃度が高くなり、生成した水酸化ニッケル中の塩素品位が高くなるため、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末中の塩素品位が十分に低くならない場合がある。
中和時の液温は、通常の条件で特に問題なく、室温で行うことも可能であるが、水酸化ニッケル粒子を十分に成長させるために、50〜70℃とすることが好ましい。
工程Bは、上記工程Aで得られた水酸化ニッケルをアルカリを含む水溶液で加温処理する工程である。具体的には、上記工程Aで生成した水酸化ニッケルのスラリーを濾過により脱水し、得られた濾過ケーキを加温処理する。このとき、残留塩素を下げ且つ熱処理によって得られる酸化ニッケルをより微細にするために、アルカリを含む水溶液(以下、処理液と称する)で加温処理することが必要である。
アルカリとしては、ニッケルに残留する不純物を考慮すると、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが好ましく、コストを考慮すると、水酸化ナトリウムが特に好ましい。この工程により、後に行われる工程Cでの熱処理によって得られる酸化ニッケルを微細化するとともに含有する塩素品位を低減することができる。尚、処理液で加温処理した後は、不純物低減のため水洗することが好ましい。
水酸化ニッケルに対する処理液の量は特に限定されるものではなく、残留塩素が十分に低減できる量とすればよいが、水酸化ニッケルを良好に分散させるためには、水酸化ニッケル/処理液の混合比を100g/L程度とすることが好ましい。また、処理時間についても特に限定されるものではなく、処理条件により残留塩素濃度が十分に低減される洗浄時間とすればよい。残留塩素が十分に低減できる処理条件とすることにより、酸化ニッケルの微細化効果も十分に得られる。
水酸化ニッケルの加温処理を行う場合、処理前の水酸化ニッケルの濾過ケーキの含水率は10〜40質量%であることが好ましく、30質量%程度にすることが更に好ましい。含水率が10質量%よりも低い場合、濾過ケーキが均一に処理液中に分散しにくいため加温処理の効率が悪くなることや、濾過ケーキの含水率を下げるため厳しい脱水処理が必要となるなどの制約があり好ましくない。一方、含水率が40質量%よりも高い場合には、水酸化ニッケルのハンドリング性が悪く、均一な処理を妨げる場合があるうえ、一定量の水酸化ニッケルを得るために必要な処理量が増加してしまうなどの不都合がある。
尚、加温処理に用いる装置は特に限定されるものではなく、加温可能な通常の湿式反応槽を用いることができる。処理中は水酸化ニッケルを含むスラリーを撹拌することが好ましく、例えば、超音波撹拌や機械式撹拌を用いることができる。
工程Cは、上記工程Bで得られた加温処理後の水酸化ニッケルを、熱処理して酸化ニッケルとする工程である。この熱処理は、非還元性雰囲気中において、700℃をえ、950℃以下、好ましくは950℃未満の熱処理温度で行う。この熱処理温度は、750〜900℃とすることがより好ましく、800〜900℃とすることが更に好ましい。尚、熱処理には、一般的な焙焼炉を使用することができる。
この熱処理により水酸化ニッケル結晶内の水酸基が脱離して酸化ニッケルとなるが、その際、粒径の微細化と加温処理後に残存した塩素の多くの部分を揮発させることができる。700℃以下では残存塩素の揮発が不十分で、酸化ニッケル中の塩素品位を十分に低くすることができない。また、水酸化ニッケルの一次粒子は板状であり、酸化ニッケルの生成にともない一次粒子が球状化するが、この球状化が進まず、酸化ニッケルの微細化も十分に起こらない。一方、950℃以上では酸化ニッケル粒子同士の焼結が顕著になり、後に行われる工程Dでの解砕が困難になって微細な酸化ニッケルを得ることが困難になるおそれがある
熱処理の雰囲気は、非還元性雰囲気であれば特に限定されないが、経済性を考慮して大気雰囲気とすることが好ましい。また、熱処理の際に水酸基の脱離により発生する水蒸気を排出するため、十分な流速を持った気流中で行うことが好ましい。
熱処理時間は、処理温度及び処理量に応じて適宜設定することができるが、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末の比表面積が6m/g以上となるように設定すればよい。最終的に粉砕して得られる酸化ニッケル微粉末の比表面積は、熱処理後の酸化ニッケルの比表面積に対して約1m/g増加する程度であるため、熱処理後の酸化ニッケルの比表面積で判断して処理条件を設定することができる。
工程Dは、上記工程Cで得られた酸化ニッケルを解砕する工程である。前工程Cにおいては、水酸化ニッケル結晶中の水酸基が離脱して酸化ニッケルとなるが、このとき粒径の微細化が起こると共に、高温の影響で酸化ニッケル粒子同士の焼結が進行する。そこで、工程Dにおいて、この焼結部を破壊して酸化ニッケル微粉末を得る。一般的な解砕方法としては、ビーズミルやボールミル等の解砕メディアを用いたものやジェットミル等の解砕メディアを用いないものがあるが、前述したように、解砕メディアを用いることなく解砕を行うことが好ましい。
解砕条件には、特に限定がなく、通常の条件の範囲内での調整により容易に目的とする粒度分布の酸化ニッケル微粉末を得ることができる。これにより、フェライト部品などの電子部品材料として好適な分散性に優れた酸化ニッケル微粉末を得ることができる。
以上の方法により製造される本発明の酸化ニッケル微粉末は、塩素品位及び硫黄品位が低く、比表面積も大きいので、電子部品用の材料として好適である。具体的には、残留塩素品位は100質量ppm以下であり、硫黄品位は30質量ppm以下である。また、比表面積は6m/g以上であり、10〜20m/gの範囲であることが好ましい。
本発明の酸化ニッケル微粉末の製造方法においては、マグネシウム等の第2族元素を添加する工程を含まないので、これらの元素が不純物として含まれることは実質的にない。更に解砕メディアを用いることなく解砕を行う場合はジルコニアも含まれなくなるので、ジルコニア品位及び第2族元素品位を30質量ppm以下にすることができる。
また、本発明の酸化ニッケル微粉末は、レーザー散乱法で測定したD90(粒度分布曲線における粒子量の積算90%での粒径)が1μm以下であることが好ましい。尚、レーザー散乱法で測定したD90は電子部品等の製造時に他の材料と混合されるときに解砕されて小さくなるが、この解砕によって比表面積が大きくなる可能性は低いため、酸化ニッケル微粉末自体の比表面積が大きいことが重要である。
更に、本発明による酸化ニッケル微粉末の製造方法においては、湿式法により製造した水酸化ニッケルを熱処理するため、有害なSOxが発生せず、従って、これを除害処理するための高価な設備も不要であることから、その製造コストも低く抑えることができる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。尚、実施例及び比較例における塩素品位の分析は、酸化ニッケル微粉末を塩素の揮発を抑制できる密閉容器内にてマイクロ波照射下で硝酸に溶解し、硝酸銀を加えて塩化銀を沈殿させ、沈殿物中の塩素を蛍光X線定量分析装置(PANalytical社製 Magix)を用いて検量線法で評価することによって行った。また、硫黄品位の分析は、硝酸に溶解した後、ICP発光分光分析装置(セイコー社製 SPS−3000)によって行った。
酸化ニッケル粒子の粒径はレーザー散乱法により測定し、その粒度分布から積算10%での粒径D10、積算50%での粒径D50、積算90%での粒径D90を求めた。また、比表面積の分析は、窒素ガス吸着によるBET法により求めた。
[実施例1]
3Lのビーカーに純水と水酸化ナトリウムからなるpH8.5に調整した水酸化ナトリウム水溶液500mLを準備した。この水溶液にニッケル濃度120g/Lの塩化ニッケル水溶液と、12.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液とを、pH8.5となるように調整しながら連続的に添加混合して、水酸化ニッケルの沈殿を生成させた(工程A)。この際、塩化ニッケル水溶液は6mL/分の速度で添加した。また、液温は60℃とし、混合は攪拌羽で200rpmとした。1Lの塩化ニッケル水溶液を添加した後、3時間ほど攪拌を続けながら熟成させた。
その後、濾過と30分の純水レパルプを4回繰り返して、水酸化ニッケル濾過ケーキを得た。得られた濾過ケーキを80℃に加熱した0.51mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で加温処理し、残留ナトリウムを低減させるため再度水洗した後、濾過してケーキを得た(工程B)。
この濾過ケーキを送風乾燥機を用いて大気中にて110℃で24時間乾燥し、水酸化ニッケルを得た。得られた水酸化ニッケル10gを大気焼成炉に供給して、800℃で3時間熱処理して酸化ニッケルを得た(工程C)。
次に、得られた酸化ニッケルを、乳鉢で解砕して微細酸化ニッケルを得た。(工程D)。
得られた酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が40質量ppm、硫黄品位が30ppm未満であった。また、比表面積は11.5m/g、D90は0.66μmであった。
[実施例2]
10LのSUS容器を用いて物量を3倍にする以外は実施例1と同様にして水酸化ニッケルの濾過ケーキを得た(工程A、B)。
この濾過ケーキを送風乾燥機により大気中にて110℃で24時間乾燥し、水酸化ニッケルを得た。得られた水酸化ニッケル300gを雰囲気焼成炉にて空気を5L/分の速度で供給して、800℃で3時間熱処理して酸化ニッケル微粉末を得た(工程C)。
得られた酸化ニッケル300gをジェットミル粉砕機(栗本鉄工製)にてセパレーター回転数18000rpm、エア圧0.6MPaにて粉砕した(工程D)。
得られた酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が30質量ppm、硫黄品位が30ppm未満であった。また、比表面積は17.0m/g、D90は0.64μmであった。
[実施例3]
工程Cの熱処理温度を850℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得た。
得られた酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が20質量ppm、硫黄品位が30ppm未満であった。また、比表面積は10.7m/g、D90は0.33μmであった。
[実施例4]
工程Bの水酸化ナトリウム濃度を0.25mol/Lとした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得た。
得られた酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が100質量ppm、硫黄品位が30ppm未満であった。また、比表面積は10.1m/g、D90は0.28μmであった。
[実施例5]
工程Bの水酸化ナトリウム濃度を5.1mol/Lとした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得た。
得られた酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が20質量ppm、硫黄品位が30ppm未満であった。また、比表面積は9.4m/g、D90は0.38μmであった。
[実施例6]
工程Cの熱処理温度を850℃とした以外は実施例5と同様にして酸化ニッケル微粉末を得た。
得られた酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が20質量ppm、硫黄品位が30ppm未満であった。また、比表面積は9.1m/g、D90は0.55μmであった。
[実施例7]
工程Cの熱処理温度を900℃とした以外は実施例4と同様にして酸化ニッケル微粉末を得た。
得られた酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が10質量ppm、硫黄品位が30ppm未満であった。また、比表面積は7.1m/g、D90は0.29μmであった。
[実施例8]
工程Bの水酸化ナトリウム濃度を0.51mol/Lとした以外は実施例7と同様にして酸化ニッケル微粉末を得た。
得られた酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が10質量ppm、硫黄品位が30ppm未満であった。また、比表面積は9.2m/g、D90は0.32μmであった。
[実施例9]
工程Bの水酸化ナトリウム濃度を5.1mol/Lとした以外は実施例7と同様にして酸化ニッケル微粉末を得た。
得られた酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が42質量ppm、硫黄品位が30ppm未満であった。また、比表面積は9.2m/g、D90は0.54μmであった。
[比較例1]
水酸化ナトリウム水溶液での加温処理(工程B)を行わなかった以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得た。
得られた酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が100質量ppm、硫黄品位が30ppm未満であった。また、比表面積は4.2m/g、D90は0.55μmであった。
[比較例2]
水酸化ナトリウム水溶液での処理(工程C)を室温で行った以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得た。
得られた酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が90質量ppm、硫黄品位が30ppm未満であった。また、比表面積は3.8m/g、D90は0.83μmであった。
[比較例3]
水酸化ナトリウム水溶液での加温処理(工程C)を50℃で行った以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得た。
得られた酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が90質量ppm、硫黄品位が30ppm未満であった。また、比表面積は4.3m/g、D90は1.00μmであった。
[比較例4]
工程Bの水酸化ナトリウム濃度を0.01mol/Lとした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得た。
得られた酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が140質量ppm、硫黄品位が30ppm未満であった。また、比表面積は4.9m/g、D90は0.68μmであった。
[比較例5]
工程Cの熱処理温度を700℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得た。
得られた酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が960質量ppm、硫黄品位が30ppm未満であった。また、比表面積は17.5m/g、D90は0.5μmであった。
[比較例6〜9]
工程Bの水酸化ナトリウム濃度をそれぞれ0.01、0.05、0.25、5.1mol/Lとした以外は比較例5と同様にして酸化ニッケル微粉末を得た。
得られた酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が500〜840質量ppmと非常に高くなった。
[比較例10〜11]
工程Bの水酸化ナトリウム濃度をそれぞれ0.01、0.05mol/Lとした以外は実施例7と同様にして酸化ニッケル微粉末を得た。
得られた酸化ニッケル微粉末の比表面積はそれぞれ3.5、3.0m/gと小さかった。
実施例10
工程Cの熱処理温度を950℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得た。
得られた酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が10質量ppm、硫黄品位が30ppm未満であった。また、比表面積は6.4m/g、D90は5.96μmであった。
上記した実施例1〜10及び比較例1〜11について、工程Bの有無、加温処理の温度、水酸化ナトリウム濃度、焙焼温度及び得られた酸化ニッケル微粉末の比表面積、塩素品位とD90を下記の表1にまとめて示す。
Figure 0005168070
上記の結果から分るように、全ての実施例において、塩素品位は100質量ppm以下となっている。また、不純物である硫黄を含んだ原料を使用していないため、いずれの実施例においても、硫黄品位は30質量ppm未満となっている。更に、比表面積が6m/g以上と非常に大きくなっており、微細な酸化ニッケル微粉末が得られていることが分る。
一方、比較例1〜3では、水酸化ナトリウム水溶液中での加温処理を行わなかったか、行ってもその温度が65℃未満であったため、比表面積が4m/g程度と実施例と比較すると非常に小さくなっているとともに、塩素品位が90〜100質量ppmと実施例より高くなる傾向にあることが分る。比較例4、10、11では水酸化ナトリウムの濃度が低すぎるために比表面積が小さくなることが分る。比較例5〜9では焙焼温度が適切でないため、塩素品位が500〜960質量ppmと実施例より高くなることが分る。実施例10では焙焼温度が950℃であったため、比表面積が大きい微細な粉末は得られているもののD90が5.96μmと大きくなった

Claims (7)

  1. 塩化ニッケル水溶液とアルカリを混合して、pH8.3〜pH9.0で中和して水酸化ニッケルを得る工程Aと、得られた水酸化ニッケルを0.2〜6mol/Lのアルカリを含む水溶液中で65℃以上に加温する工程Bと、水酸化ニッケルを非還元性雰囲気中において750℃以上、950℃以下の温度で熱処理して酸化ニッケルとする工程Cと、得られた酸化ニッケルを解砕する工程Dとを含むことを特徴とする酸化ニッケル粉末の製造方法。
  2. 前記工程Bのアルカリが水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムであることを特徴とする、請求項1に記載の酸化ニッケル粉末の製造方法。
  3. 前記工程Aにおける塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度が50〜130g/Lであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸化ニッケル粉末の製造方法。
  4. 前記工程Dにおいて粒子同士を衝突させて解砕を行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の酸化ニッケル粉末の製造方法。
  5. 請求項1〜4のいずれかの製造方法で得られた酸化ニッケル粉末であり、比表面積が6m/g以上、塩素品位が100質量ppm以下、硫黄品位が30質量ppm以下であることを特徴とする酸化ニッケル粉末。
  6. レーザー散乱法で測定したD90が1μm以下であることを特徴とする、請求項5に記載の酸化ニッケル粉末。
  7. ジルコニウム品位及び第2族元素品位が30質量ppm以下であることを特徴とする、請求項5又は6に記載の酸化ニッケル粉末。
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