JP2011042541A - 酸化ニッケル微粉末及びその製造方法 - Google Patents

酸化ニッケル微粉末及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 塩素等の不純物品位が低く且つ粒径が微細であり、電子部品材料として好適な酸化ニッケル微粉末、及びその工業的に安定な製造方法を提供する。
【解決手段】 塩化ニッケル水溶液をアルカリで中和し、得られた水酸化ニッケルを500〜800℃の温度で熱処理して酸化ニッケルとする。得られた酸化ニッケルをスラリー化し、湿式ジェットミルを用いて解砕すると同時に洗浄する。得られる酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が100質量ppm以下及びナトリウム品位が100質量ppm以下で、比表面積が6m/g以上である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、酸化ニッケル微粉末及びその製造方法に関し、更に詳しくは、不純物品位、特に塩素品位が低く、且つ微細であって、電子部品材料として好適な酸化ニッケル微粉末及びその製造方法に関する。
一般に、酸化ニッケル粉末は、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等のニッケル塩類又はニッケルメタル粉を、ロータリーキルン等の転動炉、プッシャー炉等の連続炉、あるいはバーナー炉等のバッチ炉を用いて、酸化性雰囲気下で焼成することによって製造される。これらの酸化ニッケル粉末は多様な用途に用いられており、例えば、電子部品材料としての用途では、酸化鉄、酸化亜鉛等の他の材料と混合された後、焼結されることによりフェライト部品等として広く用いられている。
上記フェライト部品のように、複数の材料を混合して焼成することにより、これらを反応させて複合金属酸化物を製造する場合には、生成反応は固相の拡散反応で律速されるので、一般に使用する原料としては微細なものが用いられる。これにより、他材料との接触確率が高くなると共に粒子の活性が高くなるため、低温度且つ短時間の処理で反応が均一に進むことが知られている。従って、このような複合金属酸化物を製造する方法においては、原料の粒径を小さくすることが効率向上の重要な要素となる。
また、粉体が微細であることを測る指標としては、比表面積も用いられている。粒径と比表面積には、下記の計算式1の関係があることが知られている。下記計算式1の関係は粒子が真球状であると仮定して導き出されたものであるため、計算式1から得られる粒径と実際の粒径との間にはいくらかの誤差を含むことになるが、比表面積が大きいほど粒径が小さくなることが分る。
[計算式1]
粒径=6/(密度×比表面積)
近年においては、フェライト部品の高機能化、並びに酸化ニッケル粉末のフェライト部品以外の電子部品等への用途の広がりに伴い、酸化ニッケル粉末に含有される不純物元素の低減が求められている。これら不純物元素の中でも特に塩素や硫黄は、電極に利用されている銀と反応して電極劣化を生じさせたり、焼成炉を腐食させたりすることから、できるだけ低減することが望ましいとされる。また、ナトリウムは、フェライト部品の焼成時に焼結を阻害するため、低減することが望ましいとされている。
従来、酸化ニッケル粉末を製造する方法としては、原料として硫酸ニッケルを用い、これを焙焼する方法が提案されている。例えば、特開2001−32002号公報(特許文献1)に記載されているように、硫酸ニッケルを原料として、キルンなどを用いて酸化雰囲気中で焙焼温度を950〜1000℃未満とする第1段焙焼と、焙焼温度を1000〜1200℃とする第2段焙焼とを行う酸化ニッケル粉末の製造方法が提案されている。この製造方法によれば、平均粒径が制御され、且つ硫黄品位が50質量ppm以下である酸化ニッケル微粉末が得られるとしている。
また、特開2004−123488号公報(特許文献2)には、450〜600℃の仮焼による脱水工程と、1000〜1200℃の焙焼による硫酸ニッケルの分解工程とを明確に分離した酸化ニッケル粉末の製造方法が提案されている。この製造方法によれば、硫黄品位が低く且つ平均粒径が小さい酸化ニッケル粉末を安定して製造できるとしている。
更に、特開2004−189530号公報(特許文献3)には、横型回転式製造炉を用いて、強制的に空気を導入しながら、最高温度を900〜1250℃として焙焼する方法が提案されている。この製造方法によっても、不純物が少なく、硫黄品位が500質量ppm以下の酸化ニッケル粉末が得られるとしている。
しかしながら、上記特許文献1〜3のいずれの方法においても、硫黄品位を低減するために焙焼温度を高くすると粒径が粗大になり、また粒子を微細にするために焙焼温度を下げると硫黄品位が高くなるという欠点があった。更に、加熱する際にSOxを含むガスが発生し、これを除害処理するために高価な設備が必要であった。
尚、酸化ニッケル微粉末を合成する方法として、硫酸ニッケルや塩化ニッケル等のニッケル塩を含む水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリで中和して水酸化ニッケルを晶析させ、これを焙焼する方法も考えられる。例えば、特開2005−2395号公報(特許文献4)には、ニッケル粉を製造する際の中間物ではあるが、水酸化ニッケルを酸化性雰囲気下で加熱処理することによって、酸化ニッケル微粉末が得られることが開示されている。このような水酸化ニッケルを焙焼する方法においては、陰イオン成分由来のガスの発生がほとんどないため、簡易な設備でよく低コストでの製造が可能であると考えられる。
しかしながら、上記特許文献4には、得られた酸化ニッケル粉末に含有される塩素及び硫黄の品位、粒径等については何等記載されていない。従って、上記特許文献4の製造方法によって、塩素及び硫黄などの不純物の品位が十分低く、且つ微細な酸化ニッケル粉末が得られたか否かは不明である。
特開2001−32002号公報 特開2004−123488号公報 特開2004−189530号公報 特開2005−2395号公報
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑み、不純物品位、特に塩素品位が低く、且つ粒径が微細であって、電子部品材料として好適な酸化ニッケル微粉末、及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、ニッケル塩水溶液をアルカリで中和して得られた水酸化ニッケルを熱処理して酸化ニッケル微粉末を製造する方法について、ニッケル塩の中和によって得られた水酸化ニッケルを特定の温度範囲で熱処理して酸化ニッケルとし、スラリー状態として湿式解砕することによって、塩素品位が低く且つ微細な酸化ニッケル微粉末を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
即ち、本発明の酸化ニッケル微粉末の製造方法は、ニッケル塩水溶液をアルカリで中和して水酸化ニッケルを得る工程Aと、得られた水酸化ニッケルを非還元性雰囲気中において500〜800℃で熱処理して酸化ニッケルとする工程Bと、得られた酸化ニッケルをスラリー化し、スラリー状態にて解砕メディアを用いることなく酸化ニッケルを解砕すると同時に洗浄する工程Cとを含むことを特徴とする。
上記本発明による酸化ニッケル微粉末の製造方法では、前記工程Aにおけるニッケル塩が塩化ニッケルであることが好ましい。また、前記工程Cにおいては、スラリー中の酸化ニッケルの粒子同士を衝突させて解砕と洗浄を同時に行うことが好ましい。
本発明が提供する酸化ニッケル微粉末は、上記した本発明の酸化ニッケル微粉末の製造方法により得られた酸化ニッケル微粉末であって、比表面積が6m/g以上、塩素品位が100質量ppm以下、ナトリウム品位が100質量ppm以下であることを特徴とする。また、上記本発明の酸化ニッケル微粉末は、レーザー散乱法で測定したD90が0.6μm以下であることが好ましい。
本発明によれば、不純物品位が低く、具体的には塩素品位が100質量ppm以下、ナトリウム品位が100質量ppm以下であって、しかも比表面積が6m/g以上と粒径が微細な酸化ニッケル微粉末を提供することができる。従って、本発明の酸化ニッケル微粉末は、フェライト部品などの電子部品材料として好適であるうえ、簡易な製造方法により大量の塩素やSOxガスを発生させることなく、生産性良く製造することができるから、その工業的価値は極めて大きい。
本発明の酸化ニッケル微粉末の製造方法は、ニッケル塩水溶液をアルカリで中和して水酸化ニッケルを得る工程Aと、得られた水酸化ニッケルを非還元性雰囲気中において500〜800℃で熱処理して酸化ニッケルとする工程Bと、得られた酸化ニッケルをスラリー化した後、スラリー状態にて解砕メディアを用いることなく酸化ニッケルを解砕すると同時に洗浄する工程Cとを備えている。
上記工程Aは、ニッケル塩水溶液をアルカリで中和して水酸化ニッケルを沈殿生成させて得る工程であり、溶液の濃度及び中和条件等は公知の技術が適用できる。原料に使用するニッケル塩は、特に限定されないが、不純物として含まれる硫黄品位を低減させるために、塩化ニッケルを用いることが好ましい。特に、得られる酸化ニッケルを電子部品用として用いるためには、塩化ニッケル中の不純物は100質量ppm未満であることが望ましい。
上記ニッケル塩水溶液のニッケル濃度は、特に限定されるものではないが、生産性を考慮すると、50〜180g/lの範囲が好ましい。ニッケル濃度が50g/l未満では生産性が悪くなる。一方、ニッケル濃度が180g/lを超えると、水溶液中の陰イオン濃度が高くなり、生成した水酸化ニッケル中の塩素品位や硫黄品位が高くなるため、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末中の不純物品位が十分に低くならない場合がある。
中和に用いるアルカリとしては、特に限定されないが、反応液中に残留するニッケルの量を考慮すると水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどが好ましく、コストを考慮すると水酸化ナトリウムが特に好ましい。尚、アルカリは固体又は液体のいずれの状態でニッケル塩水溶液に添加してもよいが、取扱いの容易さから水溶液を用いることが好ましい。また、均一な特性の水酸化ニッケルを得るためには、十分に撹拌されている反応槽内に、ニッケル塩水溶液とアルカリ水溶液をダブルジェット方式で添加することが有効である。その際、反応槽内に予め入れておく液としては、純水にアルカリを添加し、所定のpHに調整した液が好ましい。
中和反応におけるpHは、8.3〜9.0の範囲とすることが好ましく、この範囲内でpHを一定とすることが特に好ましい。pHが8.3より低いと、水酸化ニッケル中に残存する塩素や硫酸といった陰イオン成分が増大し、次の工程Bで熱処理する際に、大量の塩酸やSOxが発生することがあるため好ましくない。一方、pHが9.0より高くなると、得られる水酸化ニッケルが微細になりすぎ、濾過が困難になることがある。また、次の工程Bで焼結が進みすぎ、微細な酸化ニッケルを得ることが困難になることがある。尚、pH9.0以下では水溶液中に僅かにニッケル成分が残存することがあるが、その場合には、中和反応の終了後に水酸化ニッケルスラリーのpHを10程度まで上げてニッケルを晶析させることが好ましい。
中和時の液温は、室温であってもよいが、水酸化ニッケル粒子を十分に成長させるために50〜70℃の範囲とすることが好ましい。水酸化ニッケル粒子を十分に成長させることで、水酸化ニッケル中への塩素の巻き込みを抑制し、最終的に酸化ニッケル微粉末の塩素品位を低減させることができる。液温が50℃未満では水酸化ニッケル粒子の成長が十分ではなく、水酸化ニッケル中への塩素の巻き込み多くなる。また、液温が70℃を超えると、水の蒸発が激しくなり、水溶液中の塩素濃度が高くなるため、生成した水酸化ニッケル中の塩素品位が高くなることがある。
上記中和反応の終了後、析出した水酸化ニッケルを濾過して回収する。回収した濾過ケーキは、次の工程Bに移る前に洗浄することが好ましい。洗浄はレパルプ洗浄とすることが好ましく、洗浄に用いる洗浄液としては水、特に純水を用いることが好ましい。洗浄時の水酸化ニッケルと水の混合比は特に限定されるものではなく、ニッケル塩に含まれる陰イオン、特に塩化ニッケルを原料とした場合は塩素イオンが、十分に除去できる混合比とすればよい。尚、1回の洗浄で陰イオンが十分に低減されない場合は、複数回繰り返して洗浄することが好ましい。
水酸化ニッケルに対する洗浄液の量は、残留陰イオンが十分に低減でき且つ水酸化ニッケルを良好に分散させるために、水酸化ニッケル/処理液の混合比を50〜150g/lとすることが好ましく、100g/l程度とすることがより好ましい。また、洗浄時間についても、処理条件に応じて、残留陰イオンが十分に低減される時間とすればよい。残留陰イオンが十分に低減できる洗浄処理条件とすることにより、酸化ニッケルの微細化効果も十分に得られる。
次の工程Bは、上記工程Aで得られた水酸化ニッケルを非還元性雰囲気中で熱処理することによって、水酸化ニッケルを酸化して酸化ニッケルとする工程である。熱処理温度は500〜800℃の範囲であるが、600〜700℃の範囲とすることが好ましい。また、熱処理の雰囲気は、非還元性雰囲気であれば特に限定されないが、経済性を考慮して大気雰囲気とすることが好ましい。また、熱処理の際に水酸基の脱離により発生する水蒸気を排出するため、十分な流速を持った気流中で熱処理を行うことが好ましい。尚、熱処理には一般的な焙焼炉を使用することができる。
この熱処理により水酸化ニッケル結晶内の水酸基が脱離して酸化ニッケルとなるが、その際、粒径の微細化と残存した塩素などの陰イオン成分の大部分を揮発させることができる。熱処理温度が500℃未満では残存陰イオン成分の揮発が不十分であり、酸化ニッケル中の陰イオン成分、特に塩素品位を十分に低くすることができない。また、800℃を超えると酸化ニッケル粒子同士の焼結が顕著になり、後に行われる工程Cでの解砕が困難になり、微細な酸化ニッケルを得ることが困難になる。
熱処理時間は、処理温度及び処理量に応じて適宜設定することができるが、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末の比表面積が6m/g以上となるように設定すればよい。最終的に解砕して得られる酸化ニッケル微粉末の比表面積は、熱処理後の酸化ニッケルの比表面積に対して1〜2m/g増加する程度であるため、熱処理後の酸化ニッケルの比表面積で判断して処理条件を設定することができる。このように、熱処理の温度及び時間を調整することにより、容易に酸化ニッケル粉末の比表面積、即ち粒径を調整することができる。
工程Cは、上記工程Bでの酸化焙焼により得られた酸化ニッケルをスラリー化した後、スラリー状態の酸化ニッケルを、解砕メディアを用いることなく解砕すると同時に、洗浄する工程である。本発明の酸化ニッケル微粉末の製造方法においては、この工程Cにおいて、スラリー状態とした酸化ニッケルを解砕することにより、同時に酸化ニッケルの洗浄を実施できることが重要である。
上記した工程Bにおける熱処理では、水酸化ニッケル結晶中の水酸基を離脱させて酸化ニッケルとするが、その際に粒径の微細化が起こると共に、抑制されているものの高温の影響で酸化ニッケル粒子同士の焼結がある程度進行する。そのため、工程Cにおいて、酸化ニッケルを解砕して粒子同士の焼結部を破壊し、最終的に微細な酸化ニッケル粉末とする。また、酸化ニッケルを解砕することで酸化ニッケル粒子の新生面が現れ、これをスラリー中で撹拌することによって残留している塩素などの陰イオン成分を十分に洗浄除去することができる。
一般的に、陰イオン成分は酸化ニッケル粒子の表面近傍に多く存在すると考えられる。従って、酸化ニッケルをスラリー化して撹拌することにより、粒子表面に存在する陰イオン成分の除去は可能であるが、粒子間の焼結部に存在する陰イオン成分はスラリーの溶媒と接触することができない。このため、酸化ニッケルをスラリー化して撹拌するのみでは、塩素などの陰イオン成分を十分に除去し低減することは不可能である。しかるに、本発明によれば、スラリー状態で酸化ニッケル解砕しながら同時に洗浄することで、塩素などの陰イオン成分を十分に洗浄除去することが可能となった。
この工程Cでの解砕は、解砕メディアを用いることなく行う。解砕メディアを用いると、解砕自体は容易となるものの、ジルコニア等の解砕メディアの成分が不純物として混入しやすいため不純物が増加してしまうからである。不純物としてジルコニウムのみを考慮すれば良いのであれば、ジルコニウムを含有しないアルミナ等の解砕メディアを用いて解砕することで対処できるが、この場合であっても解砕メディアから他の不純物が混入し、結果的に低不純物品位の酸化ニッケル微粉末を得ることが難しくなる。
解砕メディアを用いることなく解砕する方法としては、粉体同士を衝突させる方法、溶媒により粉体にせん断力をかける方法、溶媒のキャビテーションによる衝撃力を用いる方法などがある。粉体同士を衝突させる解砕装置としては、例えば湿式ジェットミルがあり、具体的にはアルティマイザーやスターバースト(登録商標)等が挙げられる。また、溶媒によりせん断力を与える解砕装置としては例えばナノマイザー(登録商標)等があり、溶媒のキャビテーションによる衝撃力を用いた解砕装置としては例えばナノメーカー(登録商標)等が挙げられる。
上記解砕方法のうち粉体同士を衝突させる方法は、不純物混入の恐れが少なく、比較的大きな解砕力が得られることから特に好ましい。更に、粉体同士を衝突させることにより、酸化ニッケル粒子の表面近傍の陰イオン成分が含まれる層が剥離して、残留陰イオン成分の更なる低減が可能となる。このように、粉体同士を衝突させて解砕を行うことにより、解砕メディアからの不純物、特にジルコニウムの混入が事実上なく、塩素などの不純物品位が低く、且つ粒径が微細な酸化ニッケル微粒粉を得ることが可能となる。
酸化ニッケルのスラリー化に用いる溶媒は、酸化ニッケルに含有する陰イオン成分を溶解するものであれば特に限定されないが、含有する陰イオン成分が水溶性であることから水を用いることが好ましく、不純物混入がない純水を用いることが更に好ましい。スラリー濃度は、適用する解砕方法で通常用いられている濃度でよく、例えば、粉体同士を衝突させる方法の場合には100〜300g/lとすることが好ましい。尚、上記工程Bで得られた酸化ニッケルに残留する塩素などの陰イオン成分は微量であるため、各解砕方法に通常用いられるスラリー濃度であっても十分に陰イオン成分を低減させることができる。
また、解砕条件については特に限定はなく、いずれの解砕方法の場合も通常の条件の範囲内での調整により、容易に目的とする不純物品位と粒度分布の酸化ニッケル微粉末を得ることができる。これにより、フェライト部品などの電子部品材料として好適な分散性に優れた酸化ニッケル微粉末を得ることができる。
以上の方法により製造される本発明の酸化ニッケル微粉末は、不純物品位が低く、比表面積が大きい、即ち粒径が微細であることから、電子部品用の材料として好適である。具体的な不純物品位は、塩素品位が100質量ppm以下、ナトリウム品位が100質量ppm以下である。また、本発明の酸化ニッケル微粉末の比表面積は6m/g以上であり、その上限は10m/g程度である。
本発明の酸化ニッケル微粉末の製造方法においては、マグネシウム等の第2族元素を添加する工程を含まないので、これらの元素が不純物として含まれることは実質的にない。更に解砕メディアを用いることなく解砕を行うので、ジルコニアの混入を防止することができる。従って、ジルコニア品位及び第2族元素品位については、いずれも30質量ppm以下にすることができる。
また、本発明の酸化ニッケル微粉末は、レーザー散乱法で測定したD90(粒度分布曲線における粒子量の体積積算90%での粒径)が0.6μm以下であることが好ましい。尚、レーザー散乱法で測定したD90は電子部品等の製造時に他の材料と混合されるときに解砕されて小さくなるが、この解砕によって比表面積が大きくなる可能性は低いため、酸化ニッケル微粉末自体の比表面積が大きいことが重要である。
更に、本発明による酸化ニッケル微粉末の製造方法においては、湿式法により製造した水酸化ニッケルを熱処理するため、有害なSOxが大量発生することがない。従って、有害なSOxを除害処理するための高価な設備も不要であることから、その製造コストも低く抑えることができる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。尚、実施例及び比較例における塩素品位の分析は、酸化ニッケル微粉末を塩素の揮発を抑制できる密閉容器内にてマイクロ波照射下で硝酸に溶解し、硝酸銀を加えて塩化銀を沈殿させ、沈殿物中の塩素を蛍光X線定量分析装置(PANalytical社製 Magix)を用いて検量線法で評価することによって行った。
また、ナトリウム品位の分析は、硝酸に溶解した後、原子吸光光度計(日立ハイテク社製 Z−2300)によって行った。酸化ニッケル粒子の粒径はレーザー散乱法により測定し、その粒度分布から体積積算90%での粒径D90を求めた。比表面積の分析は、窒素ガス吸着によるBET法により求めた。
[実施例1]
10リットルのビーカー内で純水に水酸化ナトリウムを溶解し、pH8.5に調整した水酸化ナトリウム水溶液1500mlを準備した。この水酸化ナトリウム水溶液に、塩化ニッケルを純水に溶解させたニッケル濃度120g/lの塩化ニッケル水溶液と、12.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液とを、pH8.5となるように調整しながら連続的に添加混合して、水酸化ニッケルの沈殿を生成させた。
その際、塩化ニッケル水溶液は24ml/分の速度で添加した。また、液温は60℃とし、撹拌羽により200rpmで撹拌した。3リットルの塩化ニッケル水溶液を添加した後、3時間ほど撹拌を続けながら熟成させた。
その後、濾過と30分の純水レパルプを4回繰り返して、水酸化ニッケル濾過ケーキを得た。この濾過ケーキを、送風乾燥機を用いて大気中にて110℃で24時間乾燥して、水酸化ニッケルを得た(工程A)。得られた水酸化ニッケル500gを大気焼成炉に供給し、600℃で3時間熱処理して酸化ニッケルを得た(工程B)。
次に、得られた酸化ニッケル200gを水1リットルに分散させ、酸化ニッケル含有スラリーを作製した。このスラリーを、湿式ジェットミル粉砕機(スギノマシン社製)を用いて水圧200MPaにて30パスの処理を行い、酸化ニッケルの解砕と同時に洗浄した(工程C)。
このようにして得られた試料1の酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が78質量ppm、ナトリウム品位が16質量ppmであった。また、比表面積は7.2m/g、D90は0.3μmであった。
また、上記工程Bの熱処理温度を650℃、工程Cのパス回数を10回とした以外は上記試料1と同様にして、試料2の酸化ニッケル微粉末を得た。得られた試料2の酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が23質量ppm、比表面積が6.2m/g、D90は0.4μmであった。
更に、上記工程Cにおいて10%クエン酸水溶液を用いてスラリーを作製した以外は上記試料1と同様にして、試料3の酸化ニッケル微粉末を得た。得られた試料3の酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が65質量ppm、ナトリウム品位が20質量ppm、比表面積が7.4m/g、D90は0.3μmであった。
[比較例1]
上記実施例1の工程Cで用いた湿式ジェットミルを使用せず、撹拌機を用いて酸化ニッケルを6時間撹拌洗浄した以外は上記試料1と同様にして、試料4の酸化ニッケル微粉末を得た。得られた試料4の酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が300質量ppm、ナトリウム品位が48質量ppm、比表面積が5.5m/g、D90は0.6μmであった。
また、上記実施例1の工程Bにおけるの熱処理温度を650℃とし、工程Cの湿式ジェットミルを使用せず、撹拌機を用いて6時間撹拌洗浄した以外は上記試料1と同様にして、試料5の酸化ニッケル微粉末を得た。得られた試料5の酸化ニッケル微粉末は、塩素品位が250質量ppm、ナトリウム品位が48質量ppm、比表面積が5.3m/g、D90は0.6μmであった。
上記した実施例1の試料1〜3及び比較例1の試料4〜5について、熱処理温度、得られた酸化ニッケル微粉末の比表面積、塩素品位、ナトリウム品位、及びD90を下記表1にまとめて示した。
Figure 2011042541
上記の結果から分るように、本発明の実施例である試料1〜3においては、塩素品位が100質量ppm以下及びナトリウム品位が100質量ppm以下であって、比表面積が6m/g以上と非常に大きくなっており、高純度で微細な酸化ニッケル微粉末が得られた。一方、比較例1である試料4〜5では、解砕と洗浄を同時に行っていないため、不純物品、特に塩素品位が高く、比表面積は6m/g未満となっている。

Claims (5)

  1. ニッケル塩水溶液をアルカリで中和して水酸化ニッケルを得る工程Aと、得られた水酸化ニッケルを非還元性雰囲気中において500〜800℃で熱処理して酸化ニッケルとする工程Bと、得られた酸化ニッケルをスラリー化し、スラリー状態にて解砕メディアを用いることなく酸化ニッケルを解砕すると同時に洗浄する工程Cとを含むことを特徴とする酸化ニッケル微粉末の製造方法。
  2. 前記工程Aにおけるニッケル塩が塩化ニッケルであることを特徴とする、請求項1に記載の酸化ニッケル微粉末の製造方法。
  3. 前記工程Cにおいて、スラリー中の酸化ニッケルの粒子同士を衝突させて解砕と洗浄を同時に行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸化ニッケル微粉末の製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれかの製造方法で得られた酸化ニッケル微粉末であり、比表面積が6m/g以上、塩素品位が100質量ppm以下、ナトリウム品位が100質量ppm以下であることを特徴とする酸化ニッケル微粉末。
  5. レーザー散乱法で測定したD90が0.6μm以下であることを特徴とする、請求項4に記載の酸化ニッケル微粉末。
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