JP5149791B2 - 多能性幹細胞から心筋細胞を分化誘導する方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ES細胞等の多能性幹細胞から、選択的かつ高率に心筋細胞を作製する方法に関する。
(1)多能性幹細胞を用いた心筋細胞の作製
一般的に、心筋細胞は、出生前は自律拍動しながら活発に細胞分裂を行っているが、出生直後よりその分裂能を喪失し、また未分化な幹細胞や前駆細胞が極少数しか存在しておらず、その増殖能及び分化能も極めて低いため、心筋梗塞や心筋炎等の各種ストレスに曝されることにより心筋細胞が死滅すると、喪失した心筋細胞は補充されることがないとされている。その結果、残存心筋細胞は代償性肥大により心機能を保とうとするが、各種ストレスが持続し、その許容範囲を超えてしまうと、さらなる心筋細胞の疲弊、死滅を誘起して心筋機能の低下(即ち心不全)を呈するようになる。
心不全をはじめとする心臓病は、日本国の死亡原因の第2位となっており、その予後もきわめて悪く、心疾患患者の5年生存率は50%程度である。そのため、治療効果の高い心不全治療法の開発は、医療福祉の大きな前進ならびに医療経済の改善につながるものと考えられる。心不全治療薬としては、従来、心筋の収縮力を増加させるジギタリス製剤やキサンチン製剤等の強心剤が使用されてきたが、これらの薬剤の長期投与は、心筋エネルギーの過剰消費のため、病態を悪化させることが知られている。また、最近では、交感神経系やレニン−アンジオテンシン系の亢進による過剰な心臓負荷を軽減するβ遮断薬やACE阻害薬による治療が主流になってきているが、これらは対症的治療法に過ぎず、傷害を受けた心組織そのものを回復させるものではない。これに対し、心臓移植は重症心不全に対する根本的な治療法であるが、臓器提供者の不足や医療倫理、患者の肉体的・経済的負担の重さ等の問題から本法を一般的な治療法として頻用することは困難である。
そのため、衰弱又は失われた心筋細胞を補充的に移植する方法は、心不全の治療に極めて有用であると考えられる。事実、動物を用いた実験では、胎児から未成熟な心筋細胞を取得し、それを成体心組織に移植すると、移植細胞は心筋細胞として有効に機能することが知られている(非特許文献1参照)。しかしながら、この方法で大量の心筋細胞を取得することは困難であり、倫理的観点からも臨床医療への応用は難しい。
そこで、心筋細胞を未分化な幹細胞から分化誘導し、これを移植用細胞として利用する方法が近年、特に注目されている。現在のところ、成体心組織中に心筋細胞を産生し得る前駆細胞もしくは幹細胞として明らかに同定できる細胞集団は見出されていないため、上記の方法を実施するためには、より未分化で多彩な分化能を有している多能性幹細胞の使用が考えられる。
多能性幹細胞(pluripotent stem cells)とは、試験管内培養により未分化状態を保ったまま、ほぼ永続的又は長期間の細胞増殖が可能であり、正常な核(染色体)型を呈し、適当な条件下において三胚葉(外胚葉、中胚葉、および内胚葉)すべての系譜の細胞に分化する能力をもった細胞と定義される。多能性幹細胞としては、初期胚より単離される胚性幹細胞(embryonic stem cells:ES細胞)や胎児期の始原生殖細胞から単離される胚性生殖細胞(embryonic germ cells:EG細胞)、出生直後の精巣から単離される生殖細胞系列幹細胞(germline stem cells:GS細胞)等が最もよく知られている。
特にES細胞は、試験管内培養により、心筋細胞に分化誘導できることが以前から知られている。初期の研究はその殆どがマウス由来のES細胞を用いて行われている。ES細胞を単一細胞状態(酵素処理等を施すことで細胞同士の接着がない個々の細胞が分散した状態)下で、白血病阻害因子(leukemia inhibitory factor:LIF)等の分化抑制因子を存在させずに浮遊培養を行うと、ES細胞同士が接着、凝集し、胚様体(embryoid body:EB)とよばれる初期胚類似の構造体を形成する。その後、EBを浮遊状態もしくは接着状態で培養することにより、自律拍動性を有した心筋細胞が出現することが知られている。
上記の様に作製されたES細胞由来心筋細胞は、胎児心臓由来の未成熟な心筋細胞ときわめてよく似た形質を呈している(非特許文献2、3参照)。また、実際にES細胞由来心筋細胞を成体心組織に移植した動物実験例では、胎児心筋を移植した例とほぼ変わらない、極めて高い有効性を示すことも確認されている(特許文献1、非特許文献4参照)。
1995年、Thomsonらが初めて霊長類からES細胞を樹立したことにより、多能性幹細胞に由来する心筋細胞を用いた心筋再生治療法の実用化が現実味を帯びてきた(特許文献2、非特許文献5参照)。引き続き彼らは、ヒト初期胚からヒトES細胞株の単離・樹立にも成功した(非特許文献6参照)。また、Gearhartらは、ヒト始原生殖細胞からhEG細胞株を樹立した(非特許文献7、特許文献3参照)。
マウスES細胞と同様、ヒトES細胞からも心筋細胞が分化誘導できることは、Kehatら(非特許文献8参照)およびXuら(特許文献4、非特許文献9参照)により報告されている。これらの報告によると、ヒトES細胞から分化誘導した心筋細胞は、自律拍動能を有することはもちろん、ミオシン重鎖/軽鎖やα-アクチニン、トロポニンI、心房性利尿ペプチド(atrial natriuretic peptide;ANP)等の心筋特異的蛋白質や、GATA-4やNkx2.5、MEF-2c等の心筋特異的転写因子を発現・産生しているとともに、微細解剖学的観察および電気生理学的解析からも、胎生期の未成熟な心筋細胞の形質を保持しており、再生医療への利用が期待される。
一方、多能性幹細胞に由来する心筋細胞を、細胞移植治療やその他の目的のために使用する際の重要な問題として、従来の方法によりES細胞又はEG細胞より形成されたEBからは、心筋細胞以外にも血球系細胞や、血管系細胞、神経系細胞、腸管系細胞、骨・軟骨細胞等の別種細胞が混在して発生してくることが挙げられる。更に、これらの分化した細胞の中で心筋細胞が占める割合はあまり高くなく、全体の5〜20%程度に過ぎない。
別種の細胞が混在している中から、心筋細胞のみを選択的に選別する方法としては、ES細胞の遺伝子に人為的な修飾を加え、薬剤耐性もしくは異所性発現能を付与することにより、心筋細胞又はその前駆細胞としての形質を有する細胞を回収する方法が挙げられる。例えば、Fieldおよび共同研究者らは、α型ミオシン重鎖プロモーターの制御下でネオマイシン(G418)耐性遺伝子を発現し得る遺伝子カセットを、マウスES細胞に導入することにより、そのES細胞が心筋細胞に分化し、それに伴いα型ミオシン重鎖遺伝子を発現した時のみ、G418を添加した培地中で生存し得る系を構築した(特許文献1、非特許文献4参照)。この方法によりG418耐性細胞として選別された細胞は、99%以上の確率で心筋細胞であることが確認されている。しかし、この方法では、心筋細胞の純度はきわめて高くなるものの、最終的に得られる心筋細胞数は、全細胞数の数パーセント程度に過ぎず、移植治療に必要な心筋細胞を得るのは容易なことではない。
また、Xuらは、ヒトES細胞を5-アザシチジンで処理することにより、EB中のトロポニンI陽性(心筋)細胞が15%から44%に増加することを報告している(非特許文献9参照)。しかし、この方法においても、心筋細胞の占める割合がEB中の50%を越えることはない。また、脱メチル化剤である5-アザシチジンは、DNAに結合したメチル基を離脱させることにより遺伝子の発現状態を変化させる薬剤であり、薬剤が直接染色体に作用するため、移植用細胞を作製する薬剤としては適当ではない。
その他、ES細胞から心筋細胞をより高率に発生させる方法としては、例えば、マウスES細胞では、レチノイン酸(非特許文献10参照)やアスコルビン酸(非特許文献11参照)、TGFβ、BMP-2(非特許文献12参照)、PDGF(非特許文献13参照)、Dynorphin B(非特許文献14参照)の添加、又は細胞内の活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)(非特許文献15参照)やCa2+(非特許文献16参照)を増加させる処理が、心筋細胞の分化誘導に促進的に働くことが知られているが、これらのいかなる方法においても、心筋細胞特異的又は選択的な分化誘導は成し得なかった。最近、発明者らを含む研究グループにより、ES細胞をBMPアンタゴニストで一過的に処理すると、従来法よりも高率かつ選択的に心筋細胞を分化誘導し得ることが示された(特許文献5、非特許文献17)。
(2)心筋細胞の分化・発生過程におけるWnt蛋白質の機能的役割
分泌性蛋白質であるWnt蛋白質は、脊椎動物のみならず線虫や昆虫等の無脊椎動物にも広くその存在が認められる蛋白ファミリー群であり、その遺伝子ファミリーには多数の分子種が知られている(非特許文献18、19)。例えば、ヒトやマウスに関して現在判明しているものは19種類(Wnt-1、2、2b/13、3、3a、4、5a、5b、6、7a、7b、8a、8b、9a、9b、10a、10b、11、16)である。これらのWnt遺伝子によりコードされるWnt蛋白質群は、その組織特異性は各々異なるものの、構造は互いに類似している。
Wnt蛋白質がリガンドとして細胞内シグナル伝達系に寄与する際には、細胞膜上に存在する7回膜貫通型のフリズルド(Frizzled;以下、Fzd)ファミリー受容体に結合する。Fzd受容体の下流で作用する経路には複数あるが、最も主要な経路としては、グリコーゲン合成酵素キナーゼ(Glycogen Synthase Kinase:GSK)-3βを介したβカテニンのリン酸化抑制が挙げられる。Wntシグナルが存在しない場合、βカテニンはAPC(Adenomatous polyposis coli)蛋白上でアキシン(Axin)によりGSK-3βと共に補足され、GSK-3βにより速やかにリン酸化される。リン酸化されたβカテニンは、ユビキチン化を受けてプロテアソームで分解される。
一方、Wnt蛋白質がFzd受容体に結合すると、細胞内因子であるディシュベルド(Dishevelled)が活性化されてGSK-3βが補足され、βカテニンはリン酸化を受けず、細胞質内に遊離型として残存するとともに核内に移行する。核内移行したβカテニンは、核内に存在するリンパ球活性化因子-1/T細胞因子(Lymphoid enhancer factor-1/T cell factor;以下、LEF-1/TCF)と結合して転写活性化複合体を形成し、標的遺伝子の転写を誘導する。この様なβカテニンの蓄積と核内移行を伴うシグナル伝達経路を「古典的な」Wnt経路、又はカノニカル(canonical)Wntシグナル経路と呼び、当該経路を活性化し得るWnt-1やWnt-3a、Wnt-8a等のファミリー分子種はカノニカルWntと称される。カノニカルWntシグナル経路の活性化は、各種GSK-3β阻害剤による処理でも同様に起こることが公知である。
Wntリガンドは、Fzd受容体を介してβカテニン経路以外のシグナル伝達経路も活性化することが知られており、MAPキナーゼの1種であるJNK(Jun N-terminal kinase)を活性化する平面内細胞極性(Planar cell polarity:PCP)経路や、三量体型G蛋白質の活性化とそれに続くフォスフォリパーゼ(Phospholipase)Cの活性化を介して細胞内Ca2+濃度の上昇並びにプロテインキナーゼCを活性化させるCa2+経路が挙げられる(非特許文献19、20)。これらの経路はカノニカルWntシグナル経路に対して「非古典的な」Wnt経路、又は非(ノン)カノニカル(non-canonical)Wntシグナル経路と呼ばれる。Wnt-4やWnt-11が当該経路を活性化し得るWntファミリー分子であることが報告されており、これらのWntリガンドはカノニカルWntシグナル経路に対して抑制的に作用する。
なお、Wnt蛋白質の分子種の中には、作用する細胞種やその分化段階、当該細胞に発現するFzd受容体の違いにより、カノニカル経路及び非カノニカル経路の両者を活性化することができるものもある。例えば、Wnt-5aは、アフリカツメガエル胚の2次軸形成や乳腺上皮細胞の癌化等の一般的なアッセイ系では非カノニカルWntとして作用することが知られているが、一方、ES細胞に対しては、βカテニンの安定化並びに転写活性を誘導すること、即ちカノニカルWntシグナル経路を活性化させることが報告されている(非特許文献21)。
Wnt蛋白質は様々な細胞・組織や癌の発生・増殖・分化過程において、多種多様な生物学的機能に関与することが知られている。心筋細胞は、発生初期過程において側板中胚葉の一部から出現し、その後、細胞分裂を繰り返しながら増殖し、心臓を形成していく。その過程においてWntシグナルの有無が重要な役割を担っていることが、幾つかの事例より明らかである。例えば、ニワトリやアフリカツメガエルの発生初期過程において、カノニカルWntシグナル経路を活性化させるWnt-3aやWnt-8a遺伝子の異所的及び/又は強制的な発現は心臓の形成を著しく阻害する(非特許文献22、23)。
一方、Wnt-3aやWnt-8aと結合し、そのシグナル伝達を阻害する働きを有するFrzbやDkk-1等のいわゆるWntアンタゴニストは心形成を促進することから、カノニカルWntシグナルは心筋発生に対して阻害的に作用することが示唆された。
これとは逆に、カノニカルWntシグナルに対して拮抗的に作用する非カノニカルWntシグナル経路の活性化は、心筋細胞の発生・分化を促進的に誘導することが知られている。Pandurら(非特許文献24)は、カノニカル経路を活性化させず非カノニカル経路を活性化させるWnt-11がアフリカツメガエルの心臓発生に必須の因子であることを明らかにした。その後、マウスES細胞(非特許文献25)及びヒトの血管内皮前駆細胞(非特許文献26)の心筋分化誘導系においてもWnt-11の促進効果が同様に確認された。また、非カノニカルWntシグナル経路の活性化に関しては、舌組織から心筋細胞を分化誘導することができることが知られている(特許文献6)。
一方、上記の事例とは異なり、カノニカルWntシグナル経路の活性化が、胚性癌腫細胞(Embryonic carcinoma cells:EC細胞)の心筋分化に対し促進的に働くことが知られている。EC細胞の1種であるP19細胞の亜株、P19CL6細胞はジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide:DMSO)刺激下で心筋細胞へ分化する性質を有するが、Wnt-3aやWnt-8を培地中に添加すると、βカテニンの安定化に伴い心筋細胞への分化が促進された(非特許文献27)。また、本系では、Wnt蛋白質を添加する時期は、分化誘導の直後から4日間で十分であることも示されている(非特許文献28)。
P19細胞系は、心筋細胞及び神経細胞に分化誘導できる点において、一部、ES細胞に似た形質を呈する。しかしながら、P19細胞系は、ES細胞の様な多様な分化能やキメラ形成能を有しておらず、また、細胞表面マーカーや発現遺伝子等に関しても大きな差異が認められる。即ち、P19細胞系は、ある種の実験ではES細胞のモデル系として使用される場合もあるものの、必ずしもES細胞と同様の形質を持つ細胞であるとは言い難く、本実験系で得られた知見が、そのままES細胞等の多能性幹細胞の心筋分化誘導系に外挿できるかに関しては、科学的根拠に基づいて予測することはできなかった。
最近、マウスES細胞を用いた実験系において、カノニカルWntであるWnt-3a蛋白を分化誘導開始時から3日間添加することにより、ES細胞の心筋分化が促進されると報告された(Naito Aら、第28回日本分子生物学会年会、2005.12.7〜10、博多、日本;非特許文献30)。しかし、我々の同様の検討では、有意な分化促進効果は認められず(実施例2)、また、他の研究グループからも、マウスES細胞をWnt-3a処理しても特に有意な心筋分化誘導効果をもたらさない(非特許文献25)、若しくは阻害効果がある(非特許文献29)との報告がなされている。即ち、カノニカルWntシグナル経路の活性化がES細胞をはじめとする多能性幹細胞の心筋分化に及ぼす効果は明確ではなく、心筋分化を誘導するための、至適な培養法が確立されているとは言えない状況である。
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本発明の課題は、カノニカルWntシグナル経路を活性化することにより、未分化な多能性幹細胞を高率且つ選択的に心筋細胞に分化誘導する方法;当該方法により得られる心筋細胞;及び、当該細胞を、心臓病をターゲットとした細胞移植、注入、その他の治療に用いる方法等を提供することである。
本発明者らは、心筋細胞を作製する幹細胞ソースとして多能性幹細胞、特に最も頻用される細胞であるES細胞を用い、心筋細胞又はその前駆細胞への分化誘導条件について種々検討を重ねた結果、培養時のある一定期間、培地中にカノニカルWntシグナル経路の活性化を促進する物質(以下、Wntシグナル活性化物質)を添加することにより、拍動能を有し心筋細胞と認められる細胞が、通常の方法よりも極めて選択的且つ高率に産生されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明に用いられる多能性幹細胞としては、マウス、サル、ヒト等の哺乳動物由来ES細胞、EG細胞、GS細胞、更には、すべてのES細胞と類似の形質を有する多能性幹細胞が挙げられる。この場合、ES細胞と類似の形質とは、ES細胞に特異的な表面(抗原)マーカーの存在やES細胞特異的な遺伝子の発現、又はテラトーマ(teratoma)形成能やキメラマウス形成能といった、ES細胞に特異的な細胞生物学的性質をもって定義することができる。
本発明において、カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質の具体例としては、各種カノニカルWnt蛋白質や、GSK-3β阻害剤、その他のカノニカルWntシグナル経路を活性化し得る低分子化合物等が挙げられる。また、カノニカルWntシグナル経路を活性化し得る遺伝子、例えば各種カノニカルWnt遺伝子や、βカテニン遺伝子、又はそのN末端を欠失させたり、GSK-3βによるリン酸化部位を非リン酸化アミノ酸に置換したβカテニン遺伝子活性型変異体なども使用可能である。
本発明において、カノニカルWnt蛋白質とは、Wntファミリー蛋白質群の中、Fzdファミリー受容体に結合し、GSK-3βによるβカテニンのリン酸化を抑制することにより、βカテニンの安定化並びに転写活性能を促す物質として定義される。本発明に係る好適なカノニカルWnt蛋白質としては、例えば、Wnt-1やWnt-3a、Wnt-5a、Wnt-8a等を挙げることができ、更に当該蛋白質とアミノ酸配列において80%以上、更に好ましくは90%以上のホモロジーを有し、且つβカテニン活性化能を有するものも挙げることができる。
本発明は、ES細胞等の多能性幹細胞を、Wntシグナル活性化物質で一過性に刺激することを特徴の1つとしており、その刺激の方法としては、特にこれを限定しないが、好ましくは、カノニカルWnt蛋白質、例えば、精製したカノニカルWnt遺伝子を発現させて得られたリコンビナント蛋白質(以下、リコンビナントWnt蛋白質)を含む培地中で培養する方法が挙げられる。使用するカノニカルWnt蛋白質及びそれをコードする遺伝子は、多能性幹細胞が由来する種と同種の動物由来のものが好ましいが、他種動物由来のものも使用可能である。リコンビナントWnt蛋白質を用いる場合、古い培地を無菌的に除去した上で、0.1 ng/mL〜500 ng/mL、好ましくは1 ng/mL〜200 ng/mL、より好ましくは10 ng/mL〜100 ng/mLの濃度のリコンビナントWnt蛋白質を含有する培地中で培養する。
本発明に係るGSK-3β阻害剤とは、GSK-3β蛋白質のキナーゼ活性(例えばβカテニンに対するリン酸化能)を阻害する物質として定義され、既に数十種以上のものが知られているが、その具体例としては、インジルビン誘導体であるBIO(別名、GSK-3βインヒビターIX;6-ブロモインジルビン3'-オキシム)、マレイミド誘導体であるSB216763(3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、フェニルαブロモメチルケトン化合物であるGSK-3βインヒビターVII(4-ジブロモアセトフェノン)、細胞膜透過型のリン酸化ペプチドであるL803-mts(別名、GSK-3βペプチドインヒビター;Myr-N-GKEAPPAPPQSpP-NH2)などが挙げられる。これらの化合物はCalbiochem社やBiomol社等から市販されており、容易に使用することが可能であるが、特にこれを限定しない。
これらのGSK-3β阻害剤を用いる場合、その物質特性の違いにより、その至適濃度は大きく異なってくる。そのため、使用する化合物の種類に応じて、至適濃度を変える必要がある。例えば、BIOやSB216763は好ましくは10 nmol/L〜1μmol/L、より好ましくは50 nmol/L〜200 nmol/Lの濃度のGSK-3β阻害剤を含有する培地で置換し、培養を継続する。GSK-3βインヒビターVIIの添加濃度は、好ましくは2μmol/L〜100μmol/L、より好ましくは5μmol/L〜20μmol/Lである。L803-mtsの添加濃度は、好ましくは5μmol/L〜500μmol/L、より好ましくは20μmol/L〜200μmol/L、更に好ましくは25μmol/L〜200μmol/Lである。
また、本発明の実施に用いる薬剤としては、GSK-3β阻害剤以外にも、カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す低分子物質(以下、Wntアゴニスト)であってもよく、その好適な例として、アミノピリミジン誘導体(2-アミノ-4-[3,4-(メチレンジオキシ)ベンジル-アミノ]-6-(3-メトキシフェニル)-ピリミジン;Calbiochem社)(Liu et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 44:1987, 2005)を挙げることができる。当該Wntアゴニストを用いる場合、1 nmol/L〜1000 nmol/L、好ましくは10 nmol/L〜500 nmol/L、より好ましくは50 nmol/L〜200 nmol/Lの濃度のWntアゴニストを含有する培地で置換し、培養を継続する。
Wntシグナル活性化物質を作用させる時期は、本発明の実施に用いる多能性幹細胞の分化誘導過程における各種カノニカルWnt遺伝子の発現パターンを指標として決定することができる。具体的には、多能性幹細胞を常法に基き分化誘導し、経時的に回収したサンプルからmRNAを抽出し、各種カノニカルWnt遺伝子の発現量を、RT-PCR法等の一般的な方法を用いて調べ、分化誘導後にカノニカルWnt遺伝子の発現量が、分化誘導前の未分化な多能性幹細胞よりも有意に上昇した時点を「Wnt遺伝子の発現上昇期」とする。解析の対象とするカノニカルWnt遺伝子は、1種類でも良いが、好ましくは2種類以上、さらに好ましくは3種類以上が望ましい。
本発明の実施において、多能性幹細胞は、心筋分化誘導のための培養を開始した直後から、上記方法により決定されたWnt遺伝子の発現上昇期の24時間前までの期間、Wntシグナル活性化物質を含まない培地中で培養する。また、多能性幹細胞は、上記方法により決定されたWnt遺伝子の発現上昇期の24時間前〜0時間前、好ましくは24時間前の時点から、好ましくは24時間〜96時間、より好ましくは48時間〜72時間、Wntシグナル活性化物質を含む培地中で培養する。なお、Wntシグナル活性化物質を作用させる期間は、用いる細胞が由来する動物種、用いる細胞株、用いるWntシグナル活性化物質の種類等の条件の違いにより、至適期間(時間)を変えて用いることができる。
上記の方法により、ES細胞をはじめとする多能性幹細胞から分化誘導した心筋細胞は、引き続き、公知の方法による細胞回収、分離、精製法を用いることにより、高純度の心筋細胞を効率的かつ多量に得ることができる。この様にして得られた心筋細胞を以下、本発明により調製された心筋細胞と称する。
本発明により調製された心筋細胞は、心筋細胞の形態学的、生理学的及び/又は免疫学的特徴を示す細胞である。生理学的及び/又は免疫学的特徴は、特にこれを限定しないが、本発明により調製された心筋細胞が、心筋細胞として認識される、心筋細胞に特異的な1つ又はそれ以上のマーカーを発現していればよい。
また、本発明により調製された心筋細胞は、心筋細胞の発生や分化誘導、再生、生存等を促進する新規因子又は可能性ある化学療法剤を同定するためのスクリーニング方法に用いることができる。
更に、本発明により調製された心筋細胞は、心疾患状態にある心臓を治療する方法に用いることができる。
即ち、これらに限定されるものではないが、本発明は以下の事項に関する。
(1)多能性幹細胞から心筋細胞を分化誘導する方法であって、多能性幹細胞を、
i)分化誘導開始からカノニカルWnt遺伝子の発現上昇期の24時間前までの期間、カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質を含まない培養液中で培養すること;次いで、
ii)カノニカルWnt遺伝子の発現上昇期の24〜0時間前から24〜96時間の期間、カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質を含む培養液中で培養すること
を含む、多能性幹細胞から心筋細胞を分化誘導する方法。
(2)多能性幹細胞を、カノニカルWnt遺伝子の発現上昇期の24時間前から、カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質を含む培養液中で培養する、(1)に記載の方法。
(3)多能性幹細胞を、カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質を含む培養液中で培養する期間が、48〜72時間である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質が、カノニカルWnt蛋白質、GSK3β阻害剤、Wntアゴニストからなる群から選択される物質である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質がカノニカルWnt蛋白質である、(4)に記載の方法。
(6)カノニカルWnt蛋白質が、Wnt-1、Wnt-3a及びWnt-5aからなる群から選択される少なくとも1つのWnt蛋白質である、(5)に記載の方法。
(7)カノニカルWnt蛋白質の培養液中の濃度が0.1 ng/mL〜500 ng/mLである、(5)又は(6)に記載の方法。
(8)カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質がGSK3β阻害剤である、(4)に記載の方法。
(9)GSK3β阻害剤が、GSK3βインヒビターVII、L803-mts、SB216763、及びGSK3βインヒビターIX(BIO)からなる群から選択される少なくとも1つの阻害剤である、(8)に記載の方法。
(10)GSK3β阻害剤の培養液中の濃度が、GSK3βインヒビターVIIの場合2μmol/L〜100μmol/L、L803-mtsの場合5μmol/L〜500μmol/L、SB216763の場合10 nmol/L〜1μmol/L、又は、GSK3βインヒビターIX(BIO)の場合10 nmol/L〜1μmol/Lである、(8)又は(9)に記載の方法。
(11)カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質がWntアゴニストである、(4)に記載の方法。
(12)Wntアゴニストがアミノピリミジン誘導体である、(11)に記載の方法。
(13)Wntアゴニストの培養液中の濃度が1 nmol/L〜1000 nmol/Lである、(11)又は(12)に記載の方法。
(14)多能性幹細胞が、胚性幹細胞、胚性生殖細胞、又は生殖細胞系列幹細胞である、(1)〜(13)に記載の方法。
(15)多能性幹細胞が胚性幹細胞である、(14)に記載の方法。
(16)多能性幹細胞がヒト由来である、(14)又は(15)に記載の方法。
本発明に係る方法を用いることにより、ES細胞等の多能性幹細胞より心筋前駆細胞及び心筋細胞を極めて効率的且つ選択的に生産することができる。本発明に係る方法により作製された心筋(前駆)細胞は、心疾患治療に有効な薬剤の探索・開発に利用できるとともに,重篤な心疾患に対する心筋移植治療に適用できる可能性がある。
図1Aは、ES細胞の分化誘導時の過程におけるWnt遺伝子等の発現変動を示す。図中の記号に意味は以下の通りである。○:未処理群、■:コーディン処理群、▲:ダン処理群。縦軸は、内部標準として使用したGAPDH遺伝子の発現量に対する当該Wnt遺伝子発現量の相対比。また、※は、当該Wnt遺伝子の発現量が、分化誘導前の未分化のES細胞よりも有意に上昇した時点を示す。 図1Bは、ES細胞の分化誘導時の過程におけるWnt遺伝子等の発現変動を示す。図中の記号に意味は以下の通りである。○:未処理群、■:コーディン処理群、▲:ダン処理群。縦軸は、内部標準として使用したGAPDH遺伝子の発現量に対する当該Wnt遺伝子発現量の相対比。また、※は、当該Wnt遺伝子の発現量が、分化誘導前の未分化のES細胞よりも有意に上昇した時点を示す。 図1Cは、ES細胞の分化誘導時の過程におけるWnt遺伝子等の発現変動を示す。図中の記号に意味は以下の通りである。○:未処理群、■:コーディン処理群、▲:ダン処理群。縦軸は、内部標準として使用したGAPDH遺伝子の発現量に対する当該Wnt遺伝子発現量の相対比。また、※は、当該Wnt遺伝子の発現量が、分化誘導前の未分化のES細胞よりも有意に上昇した時点を示す。 図2Aは、培養液中へのリコンビナントWnt蛋白質の添加時期の違いによる拍動性EBの出現への影響を示す。 図2Bは、培養液中へのリコンビナントWnt蛋白質の添加時期の違いによる拍動性EBの出現への影響を示す。 図3Aは、ES細胞の分化誘導により出現した拍動性EBにおける心筋細胞特異的マーカー遺伝子の発現を示す。縦軸は、未処理群(None)における遺伝子発現量を1とした時の相対比。 図3Bは、ES細胞の分化誘導により出現した拍動性EBにおける心筋細胞特異的マーカー遺伝子の発現を示す。縦軸は、未処理群(None)における遺伝子発現量を1とした時の相対比。 図3Cは、ES細胞の分化誘導により出現した拍動性EBにおける心筋細胞特異的マーカー遺伝子の発現を示す。縦軸は、未処理群(None)における遺伝子発現量を1とした時の相対比。 図3Dは、ES細胞の分化誘導により出現した拍動性EBにおける心筋細胞特異的マーカー遺伝子の発現を示す。縦軸は、未処理群(None)における遺伝子発現量を1とした時の相対比。 図4は、ES細胞の分化誘導により出現した拍動性EBにおける心筋細胞特異的マーカー蛋白質の免疫組織化学的染色を示す。 図5Aは、GSK3β阻害剤による拍動性EBの出現の効果を示す。 図5Bは、GSK3β阻害剤による拍動性EBの出現の効果を示す。 図5Cは、GSK3β阻害剤による拍動性EBの出現の効果を示す。 図5Dは、GSK3β阻害剤による拍動性EBの出現の効果を示す。 図5Eは、GSK3β阻害剤による拍動性EBの出現の効果を示す。 図6は、コモンマーモセット(サル)ES細胞の分化誘導過程におけるWnt-3遺伝子の発現変動を示す。 図7は、cmES細胞の分化誘導により出現した拍動性EBにおける心筋細胞特異的マーカー遺伝子の発現を示す。 図8は、cmES細胞の分化誘導により出現した拍動性EBにおける心筋細胞特異的マーカー蛋白質の免疫組織化学的染色を示す。
発明を実施するための形態
以下に本発明の上記効果や他の利点及び特徴を含め発明を実施するための形態について述べる。
本発明の実施において、分子生物学や組換えDNA技術等の遺伝子工学の方法及び一般的な細胞生物学の方法及び従来技術について、実施者は、特に示されなければ、当該分野の標準的な書籍を参照し得る。このような書籍としては、例えば、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual第3版」(Sambrook & Russell、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001);「Current Protocols in Molecular biology」(Ausubel et al.編、John Wiley & Sons、1987);「Methods in Enzymologyシリーズ」(Academic Press);「PCR Protocols: Methods in Molecular Biology」(Bartlett & Striling編、Humana Press、2003);「Animal Cell Culture: A Practical Approach 第3版」(Masters編、Oxford University Press、2000);「Antibodies:A Laboratory Manual」(Harlow et al. & Lane編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1987)等が挙げられる。また、本明細書において参照される細胞培養、細胞生物学実験のための試薬及びキット類はSigma社やAldrich社、Invitrogen/GIBCO社、Clontech社、Stratagene社等の市販業者から入手可能である。
また、多能性幹細胞を用いた細胞培養、及び発生・細胞生物学実験の一般的方法について、実施者は、当該分野の標準的な書籍を参照し得る。これらには、「Guide to Techniques in Mouse Development」(Wasserman et al.編、Academic Press, 1993);「Embryonic Stem Cell Differentiation in vitro」(M.V. Wiles、Meth. Enzymol. 225:900, 1993);「Manipulating the Mouse Embryo:A laboratory manual」(Hogan et al.編、Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1994);「Embryonic Stem Cells」(Turksen編、Humana Press, 2002)が含まれる。本明細書において参照される細胞培養、発生・細胞生物学実験のための試薬及びキット類はInvitrogen/GIBCO社やSigma社等の市販業者から入手可能である。
マウスやヒトの多能性幹細胞の作製、継代、保存法については、すでに標準的なプロトコールが確立されており、実施者は、前項で挙げた参考書籍に加えて、複数の参考文献等を参照することにより、これらの多能性幹細胞を使用し得る。そのような文献としては、以下の文献が挙げられる:Matsui et al., Cell 70:841, 1992;Thomson et al., 米国特許第5,843,780号;Thomson et al., Science 282:114,1998;Shamblott et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726,1998;Shamblott et al., 米国特許第6,090,622号;Reubinoff et al., Nat. Biotech. 18:399, 2000;国際公開番号第00/27995号。また、その他の動物種に関しても、例えばサル(Thomson et al., 米国特許第5,843,780号;Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92, 7844, 1996)やラット(Iannaccone et al., Dev. Biol. 163:288, 1994;Loring et al.,国際公開番号第99/27076号)、ニワトリ(Pain et al., Development 122:2339, 1996;米国特許第5,340,740号;米国特許第5,656,479号)、ブタ(Wheeler et al., Reprod. Fertil. Dev. 6:563, 1994;Shim et al., Biol. Reprod. 57:1089, 1997)等に関してES細胞又はES細胞様細胞の樹立方法が知られており、各記載の方法に従って、本発明に用いられるES細胞を作製・使用することができる。
本開示において、「心筋細胞」とは、将来、機能的な心筋細胞となり得る能力を有した心筋前駆細胞や、胎児型心筋細胞、成体型心筋細胞のすべての分化段階の細胞を含み、以下に記載する少なくとも1つ、好ましくは複数の方法により、少なくとも1つ、好ましくは複数のマーカーや基準が確認できる細胞と定義する。
心筋細胞に特異的な種々のマーカーの発現は、従来の生化学的又は免疫化学的手法により検出される。その方法は特に限定されないが、好ましくは、免疫組織化学的染色法や免疫電気泳動法の様な、免疫化学的手法が使用される。これらの方法では、心筋前駆細胞又は心筋細胞に結合する、マーカー特異的ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を使用することができる。個々の特異的マーカーを標的とする抗体は市販されており、容易に使用することができる。心筋前駆細胞又は心筋細胞に特異的なマーカーとしては、例えば、ミオシン重鎖/軽鎖やα-アクチニン、トロポニンI、ANP、GATA-4、Nkx2.5、MEF-2c等が挙げられる。
あるいは、心筋前駆細胞又は心筋細胞特異的マーカーの発現は、特にその手法は問わないが、逆転写酵素介在性ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)やハイブリダイゼーション解析といった、任意のマーカー蛋白質をコードするmRNAを増幅、検出、解析するための従来から頻用される分子生物学的方法により確認することができる。心筋前駆細胞又は心筋細胞に特異的なマーカー(例えば、ミオシン重鎖/軽鎖やα-アクチニン、トロポニンI、ANP、GATA-4、Nkx2.5、MEF-2c)蛋白質をコードする核酸配列は既知であり、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のジェンバンク(GenBank)の様な公共データベースにおいて利用可能であり、プライマー又はプローブとして使用するために必要とされるマーカー特異的配列を容易に決定することができる。
更に、多能性細胞の心筋細胞への分化を確認するために、生理学的基準も追加的に使用される。即ち、多能性細胞由来の細胞が、自律的拍動性を有することや、各種イオンチャンネルを発現しており電気生理的刺激に反応し得ること等も、その有用な指標となる。
本発明の方法は、いずれの哺乳動物由来の多能性幹細胞に対しても適用することができる。例えば、マウス、ウシ、ヤギ、イヌ、ネコ、マーモセット、アカゲザル、ヒト由来の多能性幹細胞に対して使用することができるが、これらの動物種由来の多能性幹細胞だけには限定されない。例えば、本発明に用いられる多能性幹細胞としては、既に培養細胞として広く使用されているマウス、サル、ヒト等の哺乳動物由来ES細胞を挙げることができる。
マウス由来ES細胞の具体例としては、EB3細胞、E14細胞、D3細胞、CCE細胞、R1細胞、129SV細胞、J1細胞等が挙げられる。本願発明に係るマウス由来ES細胞は、例えばAmerican Type Culture Collection(ATCC)やChemicon社、Cell & Molecular Technologies社等から入手することができる。
サル由来ES細胞としては、アカゲザル(rhesus monkey:Macaca mulatta)(Thomson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7844, 1995)やカニクイザル(cynomolgus monkey:Macaca fascicularis)(Suemori et al., Dev. Dyn. 222:273, 2001)、コモンマーモセット(common marmoset:Callithrix jacchus)(Sasaki et al., Stem Cells. 23:1304, 2005)からの樹立が報告されており、使用可能である。例えば、マーモセットES細胞は、財団法人・実験動物中央研究所からも入手することができる。
ヒト由来ES細胞は、現在、全世界で数10種以上が樹立されており、例えば、米国・国立衛生研究所のリスト(http://stemcells.nih.gov /registry/ index.asp)には多数の株が登録されて使用可能であるとともに、Cellartis社やES Cell International社、Wisconsin Alumni Research Foundation等から購入することも可能である。また、日本の場合、国立大学法人・京都大学再生医科学研究所附属幹細胞医学研究センターからも入手することができる(Suemori et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 345:926, 2006)。
更に、ウシ (Mitalipova et al., Cloning 3:59, 2001)、トリ(Petitte et al., Mech. Dev. 121:1159, 2004)、ゼブラフィッシュ(Fishman, Science 294:1290, 2001)についてもES細胞の樹立が報告されている。
一般にES細胞は初期胚を培養することにより樹立されるが、体細胞の核を核移植した初期胚からもES細胞を作製することが可能である(Munsie et al., Curr. Biol. 10:989, 2000;Wakayama et al., Science 292:740, 2001 ; Hwang et al., Science 303 : 1669, 2004)。また、単為発生胚を胚盤胞期と同等の段階まで発生させ、そこからES細胞を作製する試み(米国特許公開第02/168763号;Vrana K et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100:11911-6)や、ES細胞と体細胞を融合させることにより、体細胞核の遺伝情報を有したES細胞を作る方法も報告されている(国際公開番号第00/49137号;Tada et al., Curr. Biol. 11:1553, 2001)。本発明で使用されるES細胞は、この様な方法により作製されたES細胞又はES細胞の染色体上の遺伝子を遺伝子工学的手法により改変したものも含まれる。
また、本発明に係る方法に使用できる多能性幹細胞は、ES細胞のみに限らず、哺乳動物の成体臓器や組織の細胞、骨髄細胞、血液細胞、更には胚や胎児の細胞等に由来する、ES細胞に類似した形質を有するすべての多能性幹細胞が含まれる。この場合、ES細胞と類似の形質とは、ES細胞に特異的な表面(抗原)マーカーの存在やES細胞特異的な遺伝子の発現、又はテラトーマ(teratoma)形成能やキメラマウス形成能といった、ES細胞に特異的な細胞生物学的性質をもって定義することができる。その具体例としては、始原生殖細胞より作製されるEG細胞、精巣の生殖細胞より作製されるGS細胞、及び線維芽細胞等の体細胞から特殊な遺伝子操作により作製される誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells:iPS細胞)等が挙げられる。
本発明において、ES細胞等の多能性幹細胞から心筋細胞を作製する培養法としては、心筋細胞の分化誘導に適した方法であれば、いずれも用いることができ、例えば、浮遊培養法、懸滴(hanging drop)培養法、支持細胞との共培養法、旋回培養法、軟寒天培養法、マイクロキャリア培養法等を挙げることができる。具体的な方法の例としては、単一細胞状態(酵素消化等を施すことで細胞同士の接着がない個々の細胞が液相中で分散した状態)としたES細胞を、好ましくは、培地に1×103〜1×105細胞/mLの細胞密度になるように懸濁し、その液滴10〜100μLを培養プレートの上皿に付着させて懸滴培養とする方法を挙げることができる。また、上記細胞懸濁液を、市販の細胞集塊(スフェロイド)形成用の96穴培養プレート(例えば、スミロンセルタイト・スフェロイド;住友ベークライト社)や、細胞非接着性の培養プレート(例えば、コースター超低接着プレート;Corning社)、無処理ポリスチレン製プレートに播種しても良い。その後、ES細胞を含む懸濁液を、37℃で5%の二酸化炭素を通気したCO2条件下にて培養することにより、EBが形成され、その中で心筋細胞等の分化誘導が起こる。
本発明において、カノニカルWntシグナル経路の活性化とは、βカテニンがGSK-3βのリン酸化を受けず、細胞質内及び/又は核内で安定した状態で存在していること、及び/又は、核内でLEF-1/TCFと結合して転写活性化複合体を形成し、標的遺伝子の転写誘導活性能を有している状態を意味する。カノニカルWntシグナル経路が活性化されているか否かを調べる方法としては、特にこれを限定しないが、βカテニン特異抗体を用いた免疫組織染色やウエスタン・ブロット解析等により、細胞質内及び/又は核内におけるβカテニン量を測定する方法が使用できる。また、非リン酸化型βカテニン、即ち活性型βカテニンを特異的に認識するモノクローナル抗体も市販されており、特に有用である。更には、LEF-1/TCF結合配列の下流にレポーター遺伝子を繋ぎ、当該レポーター遺伝子産物の産生能を指標とするレポーター・アッセイも有効である。当該法に使用する、LEF-1/TCF結合配列及びレポーター遺伝子を含むプラスミドは、Upstate社からTOPflashという商品名で購入することができる。
Wntシグナル活性化物質の具体例としては、各種カノニカルWnt蛋白質、GSK-3β阻害剤及びWntアゴニスト等が挙げられる。また、カノニカルWntシグナル経路を活性化し得る遺伝子、例えば各種カノニカルWnt遺伝子や、βカテニン遺伝子、又はそのN末端を欠失させたり、GSK-3βによるリン酸化部位を非リン酸化アミノ酸に置換したβカテニン遺伝子活性型変異体なども使用可能である。更に別の方法として、カノニカルWntシグナル経路を抑制的に制御するアキシンやAPC等の遺伝子の発現を、特異的アンチセンスDNAやリボザイム、RNA干渉用アンチセンスRNA、低分子化合物等により抑制又は停止する方法も使用可能である。なお、これらの分子をコードする遺伝子の塩基配列は、NCBI等の公的なDNAデータベースにおいて利用可能であり、当業者であれば、当該遺伝子のcDNAやsiRNA、アンチセンスDNAを取得、作製、使用することが可能である。
本発明において用いることができるカノニカルWnt蛋白質とは、Wntファミリー蛋白質群の中、Fzdファミリー受容体に結合し、GSK-3βによるβカテニンのリン酸化を抑制することにより、βカテニンの安定化並びに転写活性能を促す物質として定義される。本発明に係る好適なカノニカルWnt蛋白質としては、例えば、Wnt-1(配列番号1)やWnt-3a(配列番号2)、Wnt-5a(配列番号3)、Wnt-8a(配列番号4)等を挙げることができ、更に当該蛋白質とアミノ酸配列において80%以上、更に好ましくは90%以上のホモロジーを有し、且つβカテニン活性化能を有するものも挙げることができる。
本発明は、ES細胞等の多能性幹細胞を、Wntシグナル活性化物質で一過性に刺激することを特徴の1つとしており、その刺激の方法としては、特にこれを限定しないが、好ましくは、カノニカルWnt蛋白質、例えば、リコンビナントWnt蛋白質を培地中に添加し、その中で培養する方法が挙げられる。その他にも、同様の効果を示す方法であれば、いずれも用いることができ、例えば、生体組織から抽出、精製したカノニカルWnt蛋白質を添加しその中で培養する方法、カノニカルWnt蛋白質をコードする遺伝子の発現ベクターを多能性幹細胞自身に導入する方法や、当該発現ベクターを支持細胞に導入し、その導入細胞を共培養細胞として用いる方法、又はその導入細胞の培養上清等の細胞産生物を用いる方法、等が挙げられ、本発明に係る方法においては、何れもカノニカルWnt蛋白質を培地中に添加する実施形態として含まれる。
本発明の実施において、使用するカノニカルWnt蛋白質及びそれをコードする遺伝子は、多能性幹細胞が由来する種と同種の動物由来のものが好ましいが、他種動物由来のものも使用可能である。例えば、本発明において、マウスES細胞やサルES細胞を使用する場合、ヒトWNT-1蛋白を使用することができる。リコンビナントWnt蛋白質として、マウス由来のWnt-3aやWnt-5a、ヒト由来のWNT-7AがR&D Systems社より、ヒト由来のWNT-1がPeprotech社より市販されており、容易に使用できる。これらのリコンビナント蛋白質を用いる場合、古い培地を無菌的に除去した上で、0.1 ng/mL 〜 500 ng/mL、好ましくは1 ng/mL〜 200 ng/mL、より好ましくは10 ng/mL 〜 100 ng/mLの濃度のWnt蛋白質を含有する培地中で培養を継続する。
目的とするWnt蛋白質を自ら作製する場合、Wnt蛋白質はパルミチン酸修飾を受けていないと生物学的活性を呈しないことが知られているため、当該遺伝子の発現ベクターをL細胞等の動物由来細胞に導入・発現させ、その培養上清中に分泌されたリコンビナント蛋白を精製する必要があるが、その具体的な方法は既に公知である(Willert et al., Nature 423:448, 2003;Kishida et al., Mol. Cell. Biol. 24:4487;http://www.stanford.edu/~rnusse/ wntwindow.html)。
なお、これらの因子をコードする遺伝子の塩基配列は、NCBI等の公的なDNAデータベースにおいて利用可能であり、当業者であれば、当該遺伝子のcDNAを取得・使用することが可能である。例えば、Wnt-3aやWnt-8a遺伝子は既にヒトやマウスで同定されており、ヒトのWNT-3A(配列番号5)、マウスのWnt-3a(配列番号2)、ヒトのWNT-8A(配列番号6)、マウスのWnt-8a(配列番号4)の塩基配列は、それぞれアクセス番号:NM_033131、NM_009522、NM_031933、NM_009290として登録されている。
本発明に係るGSK-3β阻害剤とは、GSK-3β蛋白質のキナーゼ活性、例えばβカテニンに対するリン酸化能、を阻害する物質として定義され、既に数十種以上のものが知られている(Martinez et al., Med. Res. Rev. 22:373, 2002;Meijer L et al., Trends Pharmacol. Sci. 25:471, 2004)。その具体例としては、リチウムや、バルプロ酸、ベンズアゼピノン(benzazepinone)ファミリーのケンパウロン(Kenpaullone;9-ブロモ-7,12-ジヒドロインドロ[3,2-d][1]ベンズアセピン-6(5H)-オン)やアルスターパウロン(Alsterpaullone;9-ニトロ-7,12-ジヒドロインドロ[3,2-d][1]ベンズアセピン-6(5H)-オン)、インジルビン誘導体である5-クロロ-インジルビン、インジルビン-3’-モノオキシムやBIO(別名、GSK-3βインヒビターIX;6-ブロモインジルビン-3'-オキシム)、マレイミド誘導体であるSB216763(3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)やSB415286(3-[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、チアジアゾリジノン(TDZD:thiadiazolidinone)類似体であるTDZD-8(別名、GSK-3βインヒビターI;4-ベンジル-2-メチル-1,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオン)やOTDZT(別名、GSK-3βインヒビターIII;2,4-ジベンジル-5-オキソチアジアゾリジン-3-チオン)、フェニルαブロモメチルケトン化合物であるGSK-3βインヒビターVII(4-ジブロモアセトフェノン)、細胞膜透過型のリン酸化ペプチドであるL803-mts(別名、GSK-3βペプチドインヒビター;Myr-N-GKEAPPAPPQSpP-NH2)などが挙げられる。これらの化合物はCalbiochem社やBiomol社等から市販されており、容易に使用することが可能であるが、特にこれを限定しない。
なお、これらのGSK-3β阻害剤を用いる場合、その物質特性の違いにより、その至適濃度が異なる。そのため使用する化合物の種類に応じて、至適濃度を変える必要があり、当該濃度のGSK-3β阻害剤を含有する培地中で培養する。
例えば、BIOやSB216763の場合、好ましくは10 nmol/L〜1μmol/L、より好ましくは50 nmol/L〜200 nmol/Lの濃度を含有する培地中で培養する。GSK-3βインヒビターVIIの場合は、好ましくは2μmol/L〜100μmol/L、より好ましくは5μmol/L〜20μmol/Lである。また、L803-mtsの場合は、好ましくは5μmol/L〜500μmol/L、より好ましくは20μmol/L〜200μmol/L、更に好ましくは25μmol/L〜200μmol/Lである。
また、本発明の実施に用いる薬剤としては、GSK-3β阻害剤以外にも、カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す低分子物質(Wntアゴニスト)、例えば、有機又は無機化合物やペプチド断片等であってもよい。その好適な例として、アミノピリミジン誘導体(2-アミノ-4-[3,4-(メチレンジオキシ)ベンジル-アミノ]-6-(3-メトキシフェニル)ピリミジン;Calbiochem社)(Liu et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 44:1987, 2005)を挙げることができる。当該Wntアゴニストを用いる場合、1 nmol/L〜1000 nmol/L、好ましくは10 nmol/L〜500 nmol/L、より好ましくは50 nmol/L〜200 nmol/Lの濃度のWntアゴニストを含有する培地中で培養する。
多能性幹細胞に対してWntシグナル活性化物質を作用させる時期の決定は、本発明の実施において、きわめて重要な要件となる。即ち、不適当な時期に、Wntシグナル活性化物質を作用させた場合、多能性幹細胞の心筋分化能に促進効果を示さなくなるのみならず、むしろ抑制効果を呈することもある。例えば、多能性幹細胞を分化誘導した直後から、Wntシグナル活性化物質を培養液に添加した状態で1週間程度培養を行うと、培養液に何も添加しない群(未処理群)よりも心筋分化能が低くなることがある。
Wntシグナル活性化物質を作用させる時期を決定する場合、本発明の実施に用いる多能性幹細胞の分化誘導過程における各種カノニカルWnt遺伝子の発現パターンを指標とすることができる。具体的には、多能性幹細胞を常法に基き分化誘導し、経時的に回収したサンプルからmRNAを抽出し、各種カノニカルWnt遺伝子の発現量を、RT-PCR法等の一般的な方法を用いて調べれば良い。サンプルの回収は、分化誘導のための培養を開始してから(拍動性)心筋細胞の出現を認めるまでの間、例えば、マウスES細胞、サルES細胞及びヒトES細胞の場合は6〜14日間程度、好ましくは24時間毎、より好ましくは12時間毎に行う。解析の対象とするカノニカルWnt遺伝子は、1種類でも良いが、好ましくは2種類以上、さらに好ましくは3種類以上が望ましい。
ES細胞等の多能性幹細胞において、各種カノニカルWnt遺伝子の発現は、未分化状態や分化誘導直後では一般的に低く、分化誘導の数日後に急激に高まる(実施例1)。この様に、分化誘導後にカノニカルWnt遺伝子の発現量が、分化誘導前の未分化な多能性幹細胞よりも有意に上昇した時点を「Wnt遺伝子の発現上昇期」とする。有意な発現上昇は、一般的に使用されるStudent's t-テストの様な統計的検定(危険率:5%)により判断することが可能である。その際に判断の基準とする危険率は、好ましくは5%、より好ましくは1%である。また、計測したカノニカルWnt遺伝子の発現が分化誘導後の数日間に急激に上昇し、その後、数日間以内にその発現が消失する場合、すなわち、カノニカルWnt遺伝子が短期間のみの発現上昇を示す場合には、最大発現量を呈した時点をWnt遺伝子の発現上昇期としてもよい。
多能性幹細胞を、分化誘導を行う2,3日前から、及び/又は分化誘導直後に、BMPアンタゴニストを含む培地中で培養すると、有意にその心筋分化能が高まることが知られている(WO2005/033298;Yuasa et al., Nat. Biotechnol. 23:607, 2005)が、当該培養時に、上記の各種カノニカルWnt遺伝子の発現上昇が認められることを見出した。当該知見は、本願発明におけるカノニカルWnt遺伝子の発現上昇期を決定する際に有用であり、当該発現上昇期を決定する際は、BMPアンタゴニストを含む培地中で培養することが望ましい。BMPアンタゴニストとしては、BMP分子(例えば、BMP-2、BMP-4、BMP-7等)に結合して、BMPシグナル伝達を抑制する物質を指し、ノギン(Noggin)やコーディン(Chordin)、ダン(DAN)等を挙げることができ、培地への添加に用いることができるこれらの物質は、例えばR&D systems社から購入することができる。
本願発明において、多能性幹細胞は、心筋分化誘導のための培養を開始した直後から、上記方法により決定されたWnt遺伝子の発現上昇期の24時間前までの期間内は、Wntシグナル活性化物質を含まない培地中で培養する。次いで、上記方法により決定されたWnt遺伝子の発現上昇期の24〜0時間前、好ましくは24時間前の時点から、24〜96時間、好ましくは48〜72時間の期間、Wntシグナル活性化物質を含む培地中で培養する。例えば、マウスES細胞の1つの事例では、当該細胞の心筋分化誘導のための培養を行うと、代表的なカノニカルWnt遺伝子であるWnt-3やWnt-3a、Wnt-8aの発現は、未分化時や分化誘導直後では極めて低いが、分化誘導後72時間目から96時間目にかけて強い発現を呈する(実施例1)。そのため、当該細胞を本願発明の方法に使用する場合、カノニカルWnt遺伝子の発現上昇期は分化誘導の72時間後となり、分化誘導開始から48時間目までは、Wntシグナル活性化物質を含まない培地中で培養する。その後、当該細胞は、分化誘導開始後48時間目から、Wntシグナル活性化物質を含む培地中で24時間〜96時間、好ましくは48時間〜72時間の培養を行う。なお、Wntシグナル活性化物質を作用させる期間(時間)は、用いる細胞が由来する動物種、用いる細胞株、用いるWntシグナル活性化物質の種類等の条件の違いにより、適宜、至適期間(時間)設定すればよく、当該期間(時間)は上記のWntシグナル活性化物質を作用させる時期を決定する方法により得られたカノニカルWnt遺伝子の発現上昇期に基づいて設定することができる。例えば、サル(コモンマーモセット)ES細胞の場合、Wnt-3遺伝子の発現は分化誘導後72〜120時間にかけて強い発現がみられ(実施例5)、ヒトES細胞の場合もWnt-3a遺伝子は分化誘導後72時間前後をピークとした発現を呈する(Beqqali et al., Stem Cells 24:1956, 2006)。
上記の方法により、ES細胞をはじめとする多能性幹細胞から分化誘導した心筋細胞は、引き続き、公知の方法による細胞回収、分離、精製法を用いることにより、高純度の心筋細胞(本発明により調製された心筋細胞)を効率的かつ多量に得ることができる。
心筋細胞の精製方法は、公知となっている細胞分離精製の方法であればいずれも用いることができるが、その具体的例として、フローサイトメーターや磁気ビーズ、パンニング法等の抗原−抗体反応に準じた方法(「Monoclonal Antibodies: principles and practice, Third Edition」(Acad. Press, 1993);「Antibody Engineering: A Practical Approach」(IRL Press at Oxford University Press, 1996)や、ショ糖、パーコール等の担体を用いた密度勾配遠心による細胞分画法を挙げることができる。また、別の心筋細胞選別法としては、元となるES細胞等の多能性幹細胞の遺伝子に前もって人為的な修飾を加え、薬剤耐性もしくは異所性蛋白質の発現能を付与することにより、心筋細胞としての形質を有する細胞を回収する方法が挙げられる。例えば、Fieldおよび共同研究者らは、α型ミオシン重鎖プロモーターの制御下でネオマイシン(G418)耐性遺伝子を発現し得る遺伝子カセットを、マウスES細胞に導入することにより、そのES細胞が心筋細胞に分化し、それに伴いα型ミオシン重鎖遺伝子を発現した時のみ、G418を添加した培地中で生存し得る系を構築し、この方法によりG418耐性細胞として選別された細胞は、99%以上の確率で心筋細胞であることが確認されている(米国特許第6,015,671号;Klug et al., J. Clin. Invest. 98:216, 1996)。また別の例としては、心筋細胞が他の細胞と比較してミトコンドリア含量が高いことを利用し、ミトコンドリア選択的蛍光色素やミトコンドリア膜電位感受性試薬を用いてミトコンドリアを多く含む細胞集団、即ち心筋細胞を特異的に回収する方法(WO 2006/022377)も有効である。さらに別の例としては、心筋細胞の特異的な代謝特性を利用し、低糖条件下に乳酸やアスパラギン酸等のアミノ酸を添加することにより、心筋細胞を特異的に精製する方法も好適である(特願2006-23770)。
本発明により調製された心筋細胞は、各種生理活性物質(例えば、薬物)や機能未知の新規遺伝子産物などの薬理評価および活性評価に有用である。例えば、ES細胞等の多能性幹細胞から心筋細胞への分化制御に関する物質や薬剤、又は心筋細胞の機能調節に関する物質や薬剤、さらには心筋細胞に対して毒性や障害性を有する物質や薬剤のスクリーニングに利用することができる。特に現状では、ヒト心筋細胞を用いたスクリーニング法はほとんど存在しておらず、本発明により調製された心筋細胞は、当該スクリーニング法を実施するための有用な細胞ソースとなる。さらなる態様では、本発明により調製された心筋細胞を含む評価キットは、上記スクリーニングのために有用である。
スクリーニングに供する被験物質としては、培養系に添加できるものであれば種類を問わず、例えば、低分子化合物、高分子化合物、有機化合物、無機化合物、蛋白質、ペプチド、遺伝子、ウイルス、細胞、細胞培養液、微生物培養液などが挙げられる。遺伝子を効率的に培養系に導入する方法としては、レトロウイルス、アデノウイルス等のウイルスベクターを用いて培養系に添加する方法、又はリポソームなどの人工的構造物に封入して培養系に添加する方法などが挙げられる。
被験物質の評価は、ES細胞等の多能性幹細胞から心筋細胞への分化誘導効率や、心筋細胞機能の質的又は量的な変化を測定することで行なうことができる。例えば、被験物質の心筋分化誘導効率は、本発明記載の方法を用いて培養している多能性幹細胞を、培養開始後5〜15日目、好ましくは7〜12日目の時点において、心筋細胞に特異的な種々のマーカーの発現を、生化学的又は免疫化学的手法で検出することにより測定できる。生化学的又は免疫化学的手法としては特に限定されないが、好ましくは、免疫組織化学的染色法や免疫電気泳動法の様な、免疫化学的手法が使用できる。これらの方法では、心筋細胞に結合する、マーカー特異的ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を使用することができる。個々の特異的マーカーを標的とする抗体は市販されており、容易に使用することができる。心筋細胞に特異的なマーカーは、例えば、ミオシン重鎖/軽鎖やα-アクチニン、トロポニンI、ANP、GATA-4、Nkx2.5、MEF-2c等が挙げられる。
また、被験物質を評価する指標としての心筋細胞機能としては、心筋細胞の生存性を一例として挙げることができる。具体的には、本発明記載の方法によって調製された心筋細胞を、適切な細胞密度になるように培養プレートに播種し、血清を含まない培地で培養すると細胞死(アポトーシス)を誘導することができるが、その際、適当量の被験物質を培地中に添加し、心筋細胞の生存率又は死亡率を測定すれば良い。心筋細胞の生存率又は死亡率の測定方法としては、トリパンブルー等の色素の取り込みを指標とした肉眼的な観察によるものでも良いし、脱水素酵素の活性(還元活性)を指標とした方法、さらにはアポトーシス細胞に特異的なカスパーゼ活性やアネキシンVの発現を指標とした方法を用いても良い。当該メカニズムを利用したキットは、Sigma社やClontech社、Promega社等、多くのメーカーより当該メカニズムを利用したキットが市販されており、容易に使用することができる。
かかるスクリーニング方法により得られた物質や薬剤は、心筋細胞の分化誘導作用や機能調節作用を有するため、例えば心筋梗塞、虚血性心疾患、うっ血性心不全、肥大型心筋症、拡張型心筋症、心筋炎、慢性心不全などの心疾患予防薬又は治療薬として用いることができる。これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。
また、本発明により調製された心筋細胞は、心筋再生薬又は心臓疾患治療薬として用いることができる。心臓疾患としては、心筋梗塞、虚血性心疾患、うっ血性心不全、肥大型心筋症、拡張型心筋症、心筋炎、慢性心不全などを挙げることができる。心筋再生薬又は心臓疾患治療薬としては、本発明により調製された心筋細胞を高純度で含むものであれば、細胞を培地等の水性担体に浮遊させたもの、細胞を生体分解性基質等の支持体に包埋したもの、あるいは単層もしくは多層の心筋細胞シート(Shimizu et al, Circ. Res. 90:e40, 2002)に加工したもの等、どの様な形状のものでも用いることができる。
上記の治療薬を障害部位に輸送する方法としては、開胸し、注射器を用いて直接心臓に注入する方法、心臓の一部を外科的に切開して移植する方法、さらにはカテーテルを用いた経血管的方法により移植する方法等(Murry et al., Cold Spring Harb. Symp. Quant. Biol. 67:519, 2002;Menasche、Ann. Thorac. Surg. 75:S20, 2003;Dowell et al., Cardiovasc. Res. 58:336, 2003)が挙げられるが、特にこれを限定しない。この様な方法により、胎児心臓から回収した心筋細胞を心傷害動物の心臓に移植すると、きわめて良い治療効果を示すことが報告されている(Menasche、Ann. Thorac. Surg. 75:S20, 2003 ;Reffelmann et al., Heart Fail. Rev. 8:201, 2003)。ES細胞由来の心筋細胞は、胎児心臓由来の心筋細胞ときわめてよく似た形質を呈している(Maltsev et al., Mech. Dev. 44:41, 1993;Circ. Res. 75:233, 1994;Doevendans et al., J. Mol. Cell. Cardiol. 32:839, 2000)。また、実際にES細胞由来の心筋細胞を成体心臓に移植した動物実験例では、胎児心筋を移植した例とほぼ変わらない、極めて高い生着性を示すことも確認されている(Klug et al., J. Clin. Invest. 98:216, 1996;Laflamme et al., Am. J. Pathol. 167:663)。そのため、心筋細胞の疲弊および脱落に起因する上記の心疾患において、本発明記載の方法により調製した心筋細胞を、病的心臓組織に補充的に移植することにより、心機能の改善を促すことが期待できる。
次に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
実施例1:ES細胞の分化誘導過程における各種Wnt遺伝子発現様式の検討(1)
マウスES細胞の分化誘導過程における各種Wnt遺伝子の発現を検討した。マウスES細胞は、20%仔牛胎児血清、2 mmol/L L-グルタミン、及び0.1 mmol/L 2-メルカプトエタノールを含むKnockout−DMEM(Invitrogen社)培地(以下、ESMと称する)に1000 U/mLのLIF(ESGRO;Chemicon社)を添加したものを用い、「Manipulating the Mouse Embryo:A Laboratory Manual」(Hogan et al.編、Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1994)、「Embryonic Stem Cells:Methods and Protocols」(Turksen編、Humana Press, 2002)等に記載の方法に従い、未分化な形質を保ちながら継代培養したものを実験に供した。この条件で継代培養したES細胞を、以下、通常の培養条件下で継代培養したES細胞と称する。また、以下の実験には、マウスES細胞として、D3細胞、R1細胞、及び129SV細胞(大日本製薬株式会社より購入)を用いたが、総じてES細胞株の違いによる実験結果の相違はみられなかった。以下、特に断りがない場合、D3細胞株を用いた実施例データを示す。なお、実施例4までの実施例においてはマウスES細胞を用いて実験を行なった。
通常の培養条件下で継代培養したES細胞をリン酸緩衝液(phosphate-buffered saline;以下、PBS)で2回洗浄後、1 mmol/L EDTAを含む0.25%トリプシン溶液で処理して単一細胞状態にし、ESMに懸濁した。以下、特に明示しない限り、ES細胞をプレートから剥離し、分化誘導やその他の実験に使用する際は、当該条件を用いた。
ES細胞から心筋細胞や神経細胞等への分化を誘導するための培養は、常法に基き、以下の様にして行った。ES細胞をLIF不含培地に懸濁し、その懸濁液を市販の細胞集塊(スフェロイド)形成用の96穴培養プレート(スミロンセルタイト・スフェロイド;住友ベークライト社)の1穴中に500細胞/50μLずつ播種した。本実験条件では、浮遊培養直後からES細胞が凝集してEBの形成が認められ、浮遊凝集培養(分化誘導)後7〜8日目ごろから一部のEBで自律拍動性が観察されるようになり、EB中の少なくとも一部の細胞は心筋細胞に分化誘導していることがわかる。
その際、一部の実験群では、分化誘導の3日前および分化誘導直後に市販のリコンビナント・コーディン蛋白又はダン蛋白(15 ng/mL;ともにR&D systems社)を培地中に添加した。この様にES細胞をBMPアンタゴニストで一過的に処理することにより、その心筋分化能が著しく高まることが公知である(WO2005-033298;Yuasa et al., Nat. Biotechnol. 23:607, 2005)。以下、コーディン蛋白やダン蛋白等のBMPアンタゴニストを培地中に添加しES細胞に作用させることを「BMPアンタゴニスト処理」と称する。
この様にして作製したEBを経時的に回収し、RNeasy mini kit(Qiagen社製)を用いて全RNAを調製し、DNase処理を行った。DNase処理した全RNA(1μg)よりSuperScriptTM First-Strand Synthesis System for RT-PCR(Invitrogen社)を用いてcDNAを合成した。遺伝子の発現解析はABI PRISM 7700(PE Applied Biosystems社)により、Luxプライマーを用いたリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction;PCR)定量システムにより、各種遺伝子の発現量を調べた。リアルタイムPCR定量反応は、上記cDNAを鋳型として、Platinum Quantitative PCR SuperMix-UDG(Invitrogen社)を用いて添付の説明書に記載の方法に従って行った。
各種Wnt遺伝子等を検出するためのLuxプライマーは、プライマー設計用ソフト(D-LUXTM Designer;Invitrogen社)を用い、各種遺伝子の塩基配列情報を基に設計した。各種Wnt遺伝子の各転写産物の検出に用いたLuxプライマーの塩基配列は以下の通りである。
Wnt-3
(順方向)5’-CAACAGTAGCAAGGAGCATGGACTGTTG-3’(配列番号7)
(逆方向)5’-GGCTGGGTCCAGGTCGTTTA-3’(配列番号8)
Wnt-3a
(順方向)5’-GACAAACCGGGAGTCAGCCTTTGTC-3’(配列番号9)
(逆方向)5’-TGCTGCACCCACAGATAGCA-3’(配列番号10)
Wnt-8a
(逆方向)5’-GTACATGCGCTCTGCTGCCATCATGTAC-3’(配列番号11)
(順方向)5’-GACTCGTCACAGCCGCAGTT-3’(配列番号12)
上記の方法に基いて行った実験例の1つを図1に示す。ES細胞の分化誘導24時間目(1日目)から168時間目(7日目)におけるWnt遺伝子の発現を調べたところ、Wnt-3およびWnt-3a、Wnt-8aの遺伝子について、有意な発現上昇が認められた。これらのWnt遺伝子は、分化誘導後72時間目から96時間目にかけて強い発現のピークを呈し、その後、120時間目以降には著しく低下した。そのため、当該ES細胞の場合、Wnt遺伝子の発現上昇期を分化誘導後72時間目と判断することができる。
コーディン蛋白やダン蛋白等のBMPアンタゴニストで処理した群では、未処理群と同様、分化誘導72時間目に強いWnt遺伝子の発現上昇がみられ、その発現量は未処理群よりも有意に高くなることがわかった。この様に、BMPアンタゴニスト処理は、ES細胞の分化過程におけるWnt遺伝子の発現上昇時期を、より明確に判断できる方法であることがわかる。
実施例2:リコンビナントWnt蛋白質処理によるES細胞由来心筋細胞の出現増強効果(1)
ES細胞の分化誘導初期過程において、心筋細胞の出現に先立ち、各種Wnt遺伝子の一過的な発現上昇がみられたため、この時期のES細胞にリコンビナントWnt蛋白質を処理し、その心筋分化誘導効果を検討した。ES細胞の分化誘導は実施例1と同様の方法で行ったが、一部の実験群では、市販のリコンビナントWNT-1蛋白(Peprotech社)、Wnt-3a蛋白(R&D systems社)、又はWnt-5a蛋白(R&D systems社)を含む培地中で培養した。以下、WNT-1等のカノニカルWntのリコンビナント蛋白質を培地中に添加しES細胞に作用させることを「Wnt処理」と称する。
ES細胞から心筋細胞が分化、発生したことの1つの指標として、自律拍動性を呈するEBの出現率を経時的に調べた。未処理群では、浮遊培養後13日目において拍動がみられるEBの出現率は20%程度であったが、分化誘導後48時間目〜96時間目までの48時間(2日間)のみWnt処理を行った群(Wnt48〜96h)および48時間目〜120時間目までの72時間(3日間)Wnt処理を行った群(Wnt48〜120h)では、有意に高い割合のEBで拍動性が確認できた(図2A、B)。その効果はBMPアンタゴニスト処理(図中、コーディン群)に匹敵する強さであった。
一方、分化誘導後の初めの48、72、96、又は120時間(2,3,4又は5日間)Wnt処理を行った群(それぞれWnt〜48h、Wnt〜72h、Wnt〜96h、Wnt〜120h)や分化誘導120時間目又は144時間目(5日目又は6日目)以降にWnt処理を行った群(Wnt120h〜、Wnt144h〜)等では、拍動能を有するEBは未処理群と同程度しか出現しなかった。また、未処理群等の拍動性EBの割合が低い群のEBでは、拍動する部域はEBの一部に限定されていたが、Wnt48〜96h群やWnt48〜120h群のEBでは、コーディン処理EBと同様、EB表層のほぼ全域の拍動が観察できた。即ち、当該ES細胞を、分化誘導直後からWnt遺伝子の発現上昇が認められる時期(分化誘導開始後72時間目)の24時間前までの期間に、Wnt蛋白質を含む培地中で培養すると、有意な心筋分化誘導効果は得られなかった。
一方、当該ES細胞を、Wnt遺伝子の発現上昇が認められる時期(分化誘導開始後72時間目)の24時間前から48時間(2日間)又は72時間(3日間)、リコンビナントWnt蛋白質を含む培地中で培養すると、著しい心筋分化能促進効果が得られた。
以上の結果より、Wnt処理はES細胞の心筋分化を著しく誘導するが、その効果は分化誘導過程のごく限られた期間でのみ得られることが示された。以下の実験では、特に明示しない限り、「Wnt処理」とは、分化誘導開始後48時間目〜96時間目までの48時間(2日間)、又は分化誘導開始後48時間目〜120時間目までの72時間(3日間)Wnt処理を行ったものを示す。
「Wnt処理」において、リコンビナントWnt蛋白質の添加濃度の違いが、心筋分化誘導に及ぼす影響について検討したところ、例えばWnt-3aやWnt-5a、WNT-1を用いた場合、ともに同様の濃度依存性を示し、1 ng/mL〜100 ng/mL濃度のリコンビナント蛋白質添加により、未処理群より有意に高い拍動性EBの出現率が得られた。特に10 ng/mL〜50 ng/mL濃度のWnt蛋白質添加により、きわめて良好な拍動性EBの出現がみられた。
実施例3:Wnt処理により分化誘導したES細胞由来心筋細胞の形質
実施例2で示す様に、Wnt処理を行うことにより、ES細胞から作製したEBの拍動性が有意に高まったが、この拍動性EBにおいて、その拍動性細胞が心筋細胞であることを確認するため、各種心筋特異的マーカー分子の遺伝子発現ならびに蛋白質産生を検討した。実施例2と同様の方法でES細胞の分化誘導を行い、分化誘導後10日目にEBを回収し、cDNAを調製した。リアルタイムPCR定量反応はTaqManプローブ法で行った。即ち、上記cDNA(1μL)を鋳型として、TaqMan Universal PCR Master Mix(PE Applied Biosystems社)を用いて添付の説明書に記載の方法に従って行った。各種遺伝子を検出するためのTaqManプローブは、プライマー設計用ソフト(ABI PRISM Primer Express)を用い、各種遺伝子の塩基配列情報を基に設計した。GATA-4、Nkx-2.5、MLC-2a、MLC-2v、およびGAPDHの各転写産物の検出に用いたプライマー及びTaqManプローブの塩基配列は以下の通りである。
GATA-4
(順方向)5’-ACGGAAGCCCAAGAACCTGA-3’(配列番号13)、
(逆方向)5’-CATTGCTGGAGTTACCGCTG-3’(配列番号14)、
(TaqManプローブ)5’-TAAATCTAA GACGCCAGCAGGTCCTGCTG -3’(配列番号15);
Nkx-2.5
(順方向)5’-TGACCCAGCCAAAGACCCT-3’(配列番号16)、
(逆方向)5’-CCATCCGTCTCGGCTTTGT-3’(配列番号17)、
(TaqManプローブ)5’-CGGATAAAAAAGA GCTGTGCGCGC-3’(配列番号18);
MLC-2a
(順方向)5’-CCAGGCAGACAAGTTCTCTCCT-3’(配列番号19)、
(逆方向)5’-CTTGTAGTCAATGTTGCCGGC-3’(配列番号20)、
(TaqManプローブ)5’-CAACTGTTTGCGCTGACACCCATGGA-3’(配列番号21);
MLC-2v
(順方向)5’- GCAGAGAGGTTCTCCAAAGAGG -3’(配列番号22)、
(逆方向)5’-AAGATTGCCGGTAACGTCAGG-3’(配列番号23)、
(TaqManプローブ)5’-ATCGACCAGATGTTCGCAGCCTTTCC-3’(配列番号24)
GAPDH
(順方向)5’-TGCACCACCAACTGCTTAG-3’(配列番号25)、
(逆方向)5’-GGATGCAGGGATGATGTTC-3’(配列番号26)、
(TaqManプローブ)5’-CAGAAGACTGTG GATGGCCCCTC-3’(配列番号27)
分化誘導10日目のWnt処理群(Wnt48〜120h群)EBでは、代表的な心筋細胞マーカーとして知られるGATA-4やNkx-2.5、MLC-2a、MLC-2v(図3)、αMHC、βMHC等の遺伝子に関し、未処理群よりも有意に強い発現が認められた。
一方、拍動性EBの出現率が低かったWnt〜48h、Wnt〜120h、Wnt144h〜群では、未処理群と同程度の発現量であり、拍動性EBの出現率と各種心筋マーカー遺伝子の発現量はほぼ同様の傾向を示した。
引き続き、Wnt処理群EB中に発生した拍動性細胞が、心筋細胞特異的マーカー蛋白質を産生していることを、免疫組織化学的染色法を用いて確認した。分化誘導10日目のWnt処理群(Wnt48〜120h群)EBを、凍結切片作製用包埋剤(OCT Compound、Sakura Finetek USA 社)で新鮮包埋し、液体窒素で凍結して作製した凍結標本を薄切(6μm)後、スライドグラスに添付した。この凍結切片に対し、1次抗体として抗サルコメア・ミオシン抗体(MF20;American Type Culture Collection)、抗GATA-4抗体(C-20;Santa Cruz社)、又は抗Nkx-2.5抗体(N-19;Santa Cruz社)と反応させた後、引き続きホースラディッシュペルオキシダーゼ標識2次抗体(Bio-RAD社)と反応させ、最後にACE(3-アミノ-9-エチルカルバゾール:3-amino-9-ethylcarbazole)基質液(ニチレイ社)を用いた呈色反応を行った後、光学顕微鏡下にて観察を行った。
結果を図4に示した。未処理群では、心筋細胞に特異的なマーカー蛋白質であるサルコメア・ミオシン(図中MHC)やNkx-2.5、GATA-4の陽性細胞が、EB中のごく一部にのみ観察されるのに対し、Wnt処理群では、BMPアンタゴニスト(ダン)処理群と同様、EBを構成している細胞の大多数が陽性像を呈し、心筋細胞集塊(cardiospheres)を形成していることが確認できた。以上の結果より、Wnt処理により分化誘導されたES細胞由来の拍動性細胞が心筋細胞であることが実証され、本法はEB内の心筋細胞の分化ならびに発生を強く促進する方法であることが明らかとなった。
実施例4:βカテニンの活性化剤によるES細胞由来心筋細胞の出現増強効果
上記カノニカルWnt蛋白質処理は、細胞内でGSK3βの作用を阻害することにより、βカテニンの安定化並びに転写活性能を促すことが公知である。そこで、βカテニンの安定化並びに転写活性能を促す各種薬剤処理が、Wnt処理と同様、ES細胞の心筋分化誘導効果を示すことを確認した。βカテニンの安定化並びに転写活性能を促す薬剤としては、市販のGSK3β阻害剤であるBIO(Calbiochem社)、GSK3βインヒビターVII(Calbiochem社)、細胞膜透過型GSK3βペプチドインヒビター(L803-mts ;Calbiochem社)、SB216763(Biomol社)、およびGSK3β阻害を介さずにβカテニンの転写活性能を促すWntアゴニスト(Calbiochem社)の5種類を用いた。ES細胞の分化誘導は、上記実施例と同様に行い、上記化合物はリコンビナントWnt蛋白質と同様、分化誘導後48時間目から120時間目(3〜5日目)の期間、上記化合物を含む培地中で培養した。
その結果、図5に示す通り、上記化合物の添加群では、その至適濃度において、リコンビナントWnt蛋白質処理群と同様、若しくはそれ以上に強い心筋分化誘導活性を示すことが確認できた。実施例3と同様の方法で、これらの化合物で処理したEB中の心筋マーカー遺伝子並びに心筋マーカー蛋白の発現を検討したところ、リコンビナントWnt蛋白質処理群と同様、未処理群と比較して有意に高い遺伝子及び蛋白の発現上昇効果が認められた。
実施例5: ES細胞の分化誘導過程におけるWnt遺伝子発現様式の検討(2)
サルの1種、コモンマーモセットに由来するES細胞(以下、cmES細胞と称する)を用い、その分化過程におけるWnt遺伝子の発現について検討を行った。cmES細胞の培養には、20% Knockout Serum Replacement(Invitrogen社)、0.1 mmol/L MEM非必須アミノ酸液、1mmol/L L-グルタミン、0.1 mmol/L 2-メルカプトエタノールを含むKnockout−DMEM培地(Invitrogen社)(以下、cmES培地と称する)に10 ng/mL リコンビナントLIF(alomone labs社)および10 ng/mLリコンビナント塩基性線維芽細胞増殖因子(Invitrogen社)を添加した培地を用い、フィーダー細胞として前もって播種したマイトマイシン処理済みの初代マウス胚線維芽細胞の上で、未分化な形質を保ちながら継代培養したものを実験に供した。
cmES細胞を分化誘導するための培養は、常法に基き、以下の様にして行った。cmES細胞をPBSで洗浄後、市販の霊長類ES細胞用細胞剥離液(ReproCELL社)で37℃、5分間処理し、cmES細胞の細胞塊を含む細胞懸濁液を回収した。次に、フィーダー細胞とcmES細胞を分離するために、細胞懸濁液を孔径100μmのメッシュで濾過した後、その通過細胞画分を孔径40μmのメッシュで濾過して非通過画分を回収した。更に、このcmES細胞塊を含む非通過画分を、高い細胞接着能を呈する市販の培養プレート(プライマリア;ベクトン・ディッキンソン社)に播種し、30分間培養した後、プレートに接着せず培地中で浮遊している細胞塊を回収した。この様にして得られたcmES細胞塊は、cmES培地で満たした市販の細胞非接着性培養プレート(ハイドロセル;CellSeed社製)に、細胞塊同士が互いに接触・接着しない様な状態で培養してEBを形成させ、分化誘導を行なった。
この様にして作製したEBを経時的に回収し、RNeasy mini kit(Qiagen社)を使用して全RNAを調製した。続いて、逆転写酵素を用いてcDNAを合成した後、PCRにより、コモンマーモセットWnt-3遺伝子(cmWnt-3)及び内因性コントロールとしてβActin(cmβActin)の発現を検出した。検出に用いたプライマーは以下の通りである。
cmWnt-3
(順方向)5'- GAGGTGAAGACCTGCTGGTGGGC -3'(配列番号28)
(逆方向)5'- GTTGGGCTCACAAAAGTTGG -3'(配列番号29)
cmβActin
(順方向)5'- TCCTGACCCTGAAGTACCCC -3'(配列番号30)
(逆方向)5'- GTGGTGGTGAAGCTGTAGCC -3'(配列番号31)
上記の方法に基いて行った実験例の1つを図6に示す。cmES細胞の分化誘導24時間目(1日目)から168時間目(7日目)における発現を調べたところ、Wnt-3遺伝子は、分化誘導後72時間目から120時間目にかけて強い発現のピークを呈し、その後、その発現は消失した(図6)。そのため、当該ES細胞の場合、Wnt-3遺伝子の発現上昇期を分化誘導後72時間目と判断することができ、マウスES細胞とほぼ同様の結果が得られた。
実施例6:リコンビナントWnt蛋白質処理によるES細胞由来心筋細胞の出現増強効果(2)
cmES細胞を用い、リコンビナントWnt蛋白処理効果の検討を行った。実施例5の方法と同様にcmES細胞の培養及び分化誘導を行った。その際、一部の実験群では、分化誘導後48時間目〜120時間目までの72時間(3日間)、市販のリコンビナントWNT-1蛋白(PeproTech社)、Wnt-3a蛋白(R&D systems社)又はWNT-7A蛋白(R&D systems社)を含む培地中で培養した。
cmES細胞から心筋細胞が分化、発生したことを確認するため、EBの自律拍動能の観察、及び各種心筋特異的マーカー分子の遺伝子並びに蛋白の発現を検討した。未処理群では、10%以下のEBにおいて、分化誘導後2週間前後より、EBの一部の領域で拍動が認められたが、それに対しWnt処理群では、分化誘導後10日目前後から自律拍動が始まり、分化誘導後16日目にはほぼ半数のEBが拍動性を示した。
また、発現遺伝子の解析のため、分化誘導後10日目にEBを回収し、実施例5の方法と同様に各種マーカー遺伝子の発現を検出した。コモンマーモセットのNestin、ANP、MLC-2a、MLC-2vの各転写産物(以下、cmNestin、cmANP、cmMLC-2a、cmMLC-2v)の検出に用いたプライマーは以下の通りである。
cmNestin
(順方向)5'- GCCCTGACCACTCCAGTTTA-3'(配列番号32)、
(逆方向)5'- GGAGTCCTGGATTTCCTTCC-3'(配列番号33)
cmANP
(順方向)5'- GAACCAGAGGGGAGAGACAGA -3'(配列番号34)、
(逆方向)5'- CCCTCAGCTTGCTTTTTAGGAG -3'(配列番号35)
cmMLC-2a
(順方向)5'- GAGGAGAATGGCCAGCAGGAA-3'(配列番号36)、
(逆方向)5'- GCGAACATCTGCTCCACCTCA-3'(配列番号37)
cmMLC-2v
(順方向)5'- AGGAGGCCTTCACTATCATGG -3'(配列番号38)、
(逆方向)5'- GTGATGATGTGCACCAGGTTC -3'(配列番号39)
分化誘導後10日目のWnt-3a処理群EBでは、代表的な心筋細胞マーカーであるcmANP、cmMLC-2a、cmMLC-2v遺伝子に関し、未処理群よりも有意に強い発現が認められた(図7)。Wnt-1処理群EBでも同様の結果が得られた。
一方、神経マーカーとして知られているcmNestinの発現は、Wnt処理群において著明な発現減少が認められた。
引き続き、Wnt処理群EB中に発生した拍動性細胞が、特異的マーカー蛋白質を産生している心筋細胞であることを、実施例2と同様に、免疫組織化学的染色法を用いて確認した。分化誘導16日目のWnt処理群(Wnt-3a、WNT-1)EBから作製した凍結切片に対し、1次抗体として抗サルコメア・ミオシン抗体、抗GATA-4抗体、又は抗Nkx-2.5抗体を反応させ、呈色反応を行った後、光学顕微鏡下にて観察を行った。
その結果、未処理群では、心筋細胞に特異的なマーカー蛋白質であるサルコメア・ミオシンやGATA-4の陽性細胞が、EB中のごく一部にのみ観察され、またNkx-2.5陽性細胞はほとんど観察されないのに対し、Wnt-3aやWNT-1で処理した群では、EBを構成している細胞の大多数が陽性像を呈していることが確認できた(図8)。WNT-7A処理群EBでも同様の結果が得られた。
以上の結果より、Wnt処理はげっ歯類のES細胞のみならず霊長類のES細胞に対しても著明に心筋分化を促進誘導できることが明らかとなった。

Claims (14)

  1. 多能性幹細胞から心筋細胞を分化誘導する方法であって、多能性幹細胞を、
    i)分化誘導開始からカノニカルWnt遺伝子の発現上昇期の24時間前までの期間、カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質を含まない培養液中で培養すること;次いで
    ii)カノニカルWnt遺伝子の発現上昇期の24〜0時間前から24〜96時間の期間、カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質を含む培養液中で培養すること、
    を含み、カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質が、カノニカルWnt蛋白質、GSK3β阻害剤、及び、アミノピリミジン誘導体であるWntアゴニストからなる群より選択される、上記方法。
  2. 多能性幹細胞を、カノニカルWnt遺伝子の発現上昇期の24時間前から、カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質を含む培養液中で培養する、請求項1に記載の方法。
  3. 多能性幹細胞を、カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質を含む培養液中で培養する期間が、48〜72時間である、請求項1又は2に記載の方法。
  4. カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質がカノニカルWnt蛋白質である、請求項に記載の方法。
  5. カノニカルWnt蛋白質が、Wnt-1、Wnt-3a及びWnt-5aからなる群から選択される少なくとも1つのWnt蛋白質である、請求項に記載の方法。
  6. カノニカルWnt蛋白質の培養液中の濃度が0.1ng/mL〜500ng/mLである、請求項4又は5に記載の方法。
  7. カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質がGSK3β阻害剤である、請求項に記載の方法。
  8. GSK3β阻害剤が、GSK3βインヒビターVII、L803-mts、SB216763、及びGSK3βインヒビターIX(BIO)からなる群から選択される少なくとも1つの阻害剤である、請求項に記載の方法。
  9. GSK3β阻害剤の培養液中の濃度が、GSK3βインヒビターVIIの場合2μmol/L〜100μmol/L、L803-mtsの場合5μmol/L〜500μmol/L、SB216763の場合10nmol/L〜1μmol/L、又は、GSK3βインヒビターIX(BIO)の場合10nmol/L〜1μmol/Lである、請求項7又は8に記載の方法。
  10. カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質がWntアゴニストである、請求項に記載の方法。
  11. Wntアゴニストの培養液中の濃度が1nmol/L〜1000nmol/Lである、請求項10に記載の方法。
  12. 多能性幹細胞が、胚性幹細胞、胚性生殖細胞又は生殖細胞系列幹細胞である、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
  13. 多能性幹細胞が胚性幹細胞である、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
  14. 多能性幹細胞がヒト由来である、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
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