JP5139621B2 - 金属アルコキシドの精製方法 - Google Patents
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Description
【発明の技術分野】
本発明は、金属アルコキシドの精製方法に関するものであり、さらに詳しくは、高純度の金属アルコキシドを必要とする分野、特に電子材料分野に好適に使用される、金属アルコキシドの精製方法に関する。
【0002】
【従来技術の問題点】
従来より公知となっている金属アルコキシドの合成方法としては以下の方法が挙げられる。
(1)金属とアルコールとの直接反応(例えば、非特許文献1):
M + nROH→ M(OR)n +(n/2)・H2↑
(M;Li,Na,K,Ca,Sr,Ba,Be,Mg,Al,Y 等。n;金属元素の価数。)
(2)金属塩化物とアルコールとの反応(例えば、非特許文献1):
(2-1) 直接反応:
MCln + nROH→M(OR)n + nHCl↑
( M;B,Si,P,希土類元素等。n;金属元素の価数。)
(2-2) 脱塩化水素剤を必要とする反応(例えば、非特許文献1):
(a):MCln+nROH +nNH3 →M(OR)n + nNH4Cl↓
[M;Si,Ti,Zr,Hf,Nb,Ge,Fe,V,Ce,U,Ta,Sb,Th,Pu。n;金属元素の価数。]
上記の反応(a)では、アンモニア(NH3)以外に、アルキルアミン等の使用も可能である旨記載されている。
【0003】
(b):MCln + nNaOR → M(OR)n + nNaCl↓
(M;Ga,In,Si,Ge,Sn,Fe,As,Sb,Bi,Ti,Th,U,Se,Te,W,希土類元素,Pa,Ni,Cr,Mn 等。n;金属元素の価数。)
上記の反応(b)では、Na−アルコラート以外にも、Li−アルコラートの使用も可能である旨記載されている。
(3)その他(例えば、非特許文献1)
【0004】
【化1】
【0005】
この他にも、金属水酸化物、金属アミドから合成できるものがある。
【0006】
しかしながら、これらの合成方法において上記(1)の方法は、塩素含有化合物を用いないので、生成した金属アルコキシドに塩素含有化合物が含有されてしまうという問題点はないが、上記(2)、(3)のように、金属塩化物などの塩素含有化合物を出発原料とする場合には、濾別等により除去しきれなかった未反応塩素含有化合物、塩素を含有した副反応生成物、あるいは塩素元素のすべてがアルコキシ基に置換されず一部が塩素のまま残ってしまった化合物等に由来する塩素元素が金属アルコキシド中に残存してしまい、高純度の金属アルコキシドを得ることは困難であった。
【0007】
また、前記(2)の合成法において、金属塩化物などの塩素含有化合物を出発原料とする以外に、臭素化物などのハロゲン化物を出発原料とする場合がある(例えば、特許文献7)。
【0008】
この場合にも、同様に臭素元素が金属アルコキシド中に残存してしまうという問題点があった。
【0009】
このような場合の一般的な金属アルコキシドの精製方法としては、減圧蒸留による方法が考えられる。しかしながら蒸留のみによる精製では、充分に満足のいくまでに塩素元素の除去を行なうことは困難であった。 そこで残存塩素元素の除去方法として、金属アルコキシドを構成している金属元素の種類にもよるが、以下のような方法が提案されている。
【0010】
例えば、タンタルアルコキシドにアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属のアルコキシド、金属水素化合物あるいは金属水素錯化合物、アルカリ金属水酸化物を添加し、減圧蒸留することによる残存塩素の除去方法が提示されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0011】
これらの方法では、溶液系から数100ppm程度しか副生成してこない微量のアルカリ金属塩化物、あるいはアルカリ土類金属塩化物の低減除去は困難である。また、過剰に加えられたアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属のアルコキシド、金属水素化合物あるいは金属水素錯化合物、アルカリ金属水酸化物は、目的の金属アルコキシドに溶解してしまい、ろ過等の固液分離による除去は不可能であった。従って、これら副生成物及び残存塩素の除去目的で加えられた添加物を取り除くためには、目的の金属アルコキシドを蒸留により精製することが必須となってしまう。蒸留精製を行なう場合、蒸気圧の高い金属アルコキシドについては特に問題はない。しかし、蒸気圧が低く高真空を必要とする金属アルコキシドの場合には、工業的に蒸留精製を採用することは非常に困難である。
【0012】
また、アルカリ金属炭酸塩あるいはアルカリ土類金属炭酸塩を添加し、減圧蒸留することによる残存塩素の除去方法が提示されている(特許文献4)。
【0013】
この場合においても前記したように、副生物である微量のアルカリ金属塩化物あるいはアルカリ土類金属塩化物、更に過剰に加えられたアルカリ金属炭酸塩あるいはアルカリ土類金属炭酸塩の除去が、ろ過等の工業的に簡便な方法では困難であった。従って、この文献中(特にその請求項1)にも記載されているように目的の金属アルコキシドを蒸留により精製することが必須となるという問題点があった。そのため、この方法の適用範囲は蒸気圧の高い金属アルコキシドのみに限定されてしまう。
【0014】
また、アニオン型イオン交換樹脂による残存塩素の除去方法が提示されている(特許文献5、特許文献6)。
【0015】
ここで使用されるイオン交換樹脂は脱水等の前処理が必要であり、また使用後にイオン交換樹脂の表面に付着している金属アルコキシドが空気中の水分等で加水分解されイオン交換樹脂表面が被覆されてしまうという問題点がある。その場合、再生して再利用するのが困難となり、工業的に使用するには高価なものになってしまうという欠点があった。
【0016】
こうした理由から、これまでに提案されている何れの方法においても、工業的に効率的で安価な方法により、塩素元素を低減除去することは困難であった。
【0017】
本発明者らは、かかる問題点を解決すべく鋭意検討を進めた結果、ハロゲン元素を含有する溶液状態の「金属アルコキシド疎精製物」に、金属の塩基性炭酸塩を加えて、生成した「ハロゲン結合体」を分離除去処理することによる、金属アルコキシドの精製方法によれば、著しくハロゲン含量が低減された高純度金属アルコキシドが簡単に得られることなどを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0018】
ここで、本発明中で用いられる「金属アルコキド」は、金属アルコキドの純品を意味している。そして「金属アルコキシド疎精製物」は、本発明の精製方法を実施する前の、金属アルコキシド純品の他に多量の不純物(有機溶媒以外)を含んだものを意味し、少量の有機溶媒を含んでいてもよい。また、「金属アルコキシド精製物」は、「金属アルコキシド疎精製物」に本発明の精製方法を実施して得られたものであり、金属アルコキシドの純品の他に微量の不純物を含んだものである。
【0019】
一方、本発明の精製方法を実施することにより、目的生成物である金属アルコキシドから分離除去される「ハロゲン結合体」は、金属の塩基性ハロゲン化合物であるか、または、金属の塩基性炭酸塩とハロゲン含有の不純物とのその他の反応の生成物であってもよく、ハロゲンの物理的吸着物等であってもよい。
【0020】
【特許文献1】
特開平06−192148号公報の「請求項1」、「0014」、「0015」
【特許文献2】
特開平06−220069号公報の「請求項1」、「0014」〜「0018」
【特許文献3】
特開2002−161059号公報の「請求項1」、「0012」
【特許文献4】
特開平10−36299号公報の「請求項1」
【特許文献5】
特開昭63−227593号公報の第1〜2頁
【特許文献6】
特開平10−53594号公報の「請求項1」
【特許文献7】
特開平08−217709号号公報の「請求項2」
【非特許文献1】
D.C.BRADLEY,R.C.MEHROTRA,D.P.GAUR著、「Metal Alkoxides」,(英国),ACADEMIC PRESS出版,1978年、P.11-27。
【0021】
【発明の目的】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、電子材料等の高純度の金属アルコキシドを必要とする場面、例えば金属アルコキシドの加水分解による高純度微粉末の製造あるいは金属アルコキシドを原料とする酸化物薄膜の製造等において好適に利用可能であり、金属アルコキシド中に残存するハロゲン元素、特に塩素元素を工業的に安価に効率よく低減除去できるような、金属アルコキシドの精製方法を提供することを目的としている。
【0022】
【発明の概要】
本発明に係る金属アルコキシドの精製方法は、ハロゲン元素を含有する、溶液状態の下記式(I):
M1(OR)n・・・・・(I)
[式(I)中、M1は金属元素を示し、Rは炭素数1〜8の直鎖状あるいは分岐状アルキル基、または、総炭素数が3〜8で直鎖状あるいは分岐状のアルコキシアルキル基を示し、nは金属元素の価数を示す。]
で表される金属アルコキシドの疎精製物に、下記式(II):
M2 A(OH)B(CO3)C・DH2O・・・・・(II)
[式(II)中、M2は1種または2種以上の金属元素を示し、A、B、Cは、「(各M2の価数)×各金属のA」の和=1×B+2×Cとなるような正の数を示し、Dは0または正の数を示す。]
で表される金属の塩基性炭酸塩を加えて、生成したハロゲン結合体(例:金属の塩基性ハロゲン化物)を分離除去することにより、該疎精製物中の該ハロゲン元素含量を低減させることを特徴としている。
【0023】
本発明においては、上記金属の塩基性炭酸塩が下記式(II-a):
Mg1-XAlX(OH)2(CO3)X/2・mH2O・・・・・(II-a)
(式(II-a)中、Xは0<X≦0.5の数を示し、mは0≦m≦1の数を示す。)
で表わされるハイドロタルサイト類化合物であることが好ましい。
【0024】
本発明においては、上記金属の塩基性炭酸塩が下記組成式(イ)、(ロ)のいずれかで表されるハイドロタルサイト類化合物、あるいは両方の混合物であることが好ましい。
【0025】
Mg0.692Al0.308(OH)2(CO3)0.154・mH2O・・・・・(イ)
Mg0.750Al0.250(OH)2(CO3)0.125・mH2O・・・・・(ロ)
(式(イ)、(ロ)中、mは0≦m≦1の数を示す。)
本発明においては、上記ハロゲン元素が塩素であることが好ましい。
【0026】
本発明においては、金属アルコキシドの金属元素がTa,Nb,Ti,Zr,Hf,Ge,Sn,Bi,Si,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,希土類金属のうちの1種または2種以上から構成されていることが好ましい。
【0027】
本発明においては、該ハロゲン元素含量を金属アルコキシド精製物に対して100ppm以下、好ましくは10ppm以下に低減させることが望ましい。
【0028】
本発明によれば、著しくハロゲン含量が低減された高純度金属アルコキシドが得られる。
【0029】
本発明によれば、電子材料等の高純度な金属アルコキシドを必要とする場面、例えば金属アルコキシドの加水分解による高純度微粉末の製造あるいは金属アルコキシドを原料とする酸化物薄膜の製造等において好適に利用でき、金属アルコキシド中に残存するハロゲン元素、特に塩素元素を工業的に安価に効率よく低減除去できるような、金属アルコキシドの精製方法が提供される。
【0030】
【発明の具体的な説明】
以下、本発明に係る金属アルコキシドの精製方法について具体的に説明する。
【0031】
本発明に係る金属アルコキシドの精製方法では、ハロゲン元素を含有する、溶液状態の下記式(I)で表される金属アルコキシドの疎精製物に、下記式(II)で表される金属の塩基性炭酸塩を加えて、生成したハロゲン結合体を分離除去することにより、該疎精製物中の該ハロゲン元素含量を著しく低減させており、このような方法により、高純度の精製された金属アルコキシド(金属アルコキシド精製物、精製金属アルコキシドなどともいう。)が得られている。
【0032】
M1(OR)n・・・・・(I)
[式(I)中、M1は金属元素を示し、Rは炭素数1〜8の直鎖状あるいは分岐状アルキル基、または、総炭素数が3〜8で直鎖状あるいは分岐状のアルコキシアルキル基を示し、nは金属元素の価数を示す。]
M2 A(OH)B(CO3)C・DH2O・・・・・(II)
[式(II)中、M2は1種または2種以上の金属元素を示し、A、B、Cは、「(各M2の価数)×各金属のA」の和=1×B+2×Cとなるような正の数を示し、Dは0または正の数を示す。]
以下、精製に供される金属アルコキシド(I)の疎精製物、精製に際して用いられる金属の塩基性炭酸塩(II)、精製条件、精製・分取された金属アルコキシドなどについて順次詳説する。
【0033】
<金属アルコキシド( I )の疎精製物>
ハロゲン
この金属アルコキシドの疎精製物は、前記「従来技術の問題点」の項で述べたような方法で得られるが、該疎精製物には、金属アルコキシド(I)以外に、Cl、Br、F、Iなどのハロゲン元素がハロゲン分子、イオン、ハロゲン化合物、ハロゲン吸着物などの任意の形態で含まれている。
【0034】
このハロゲン元素は、金属アルコキシド(I)の製造の際に用いられた原料(例:金属塩化合物、塩素含有化合物)中に含まれていたハロゲン元素、金属アルコキシド(I)の製造の際に生じた副生物としてのハロゲン元素あるいはハロゲン元素を含有する化合物などであり、特に限定されない。
【0035】
該疎精製物中のハロゲン含量としては、その金属アルコキシド(I)の製造法、製造条件等にも依るが、通常数千ppm程度の量で含まれていることが多い。このハロゲン元素は、疎精製物中に、1種でも2種以上含まれていてもよい。また、ハロゲン元素として、本発明の金属アルコキシド(I)の合成原料として主に金属塩化物が使用されるため、実質上、Cl(塩素)を1種のみ含むものが、本発明の第1の対象となる。
【0036】
本発明の方法は、金属アルコキシド(I)の合成時の出発原料として金属塩化物あるいは塩素含有化合物を使用する場合に特に有効であるが、原料や溶媒中の存在が予想できなかった不純物に含まれる塩素元素、合成装置から混入する塩素元素などに由来する汚染等により、塩素が金属アルコキシド製品中に残存している場合にも効果がある。
金属アルコキシド( I )
金属アルコキシド(I)としては、上記式(I)すなわち「M1(OR)n」中で、M1が金属元素、具体的には、Ta,Nb,Ti,Zr,Hf,Ge,Sn,Bi,Si,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,希土類金属のうちの1種または2種以上から構成されているものに、本発明は実施できる。希土類金属としては、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luが挙げられる。
【0037】
また、上記式(I)中のRは、炭素数1〜8の直鎖状あるいは分岐状アルキル基、または、総炭素数が3〜8で直鎖状あるいは分岐状のアルコキシアルキル基を示す。
【0038】
このような直鎖状あるいは分岐状アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−へプチル、n−オクチル等の基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
また、上記直鎖状あるいは分岐状のアルコキシアルキル基としては、メトキシエチル、2−エトキシエチル、2−プロポキシエチル、2−ブトキシエチル、1−メトキシ−2−プロピル、1−エトキシ−2−プロピル、1−ブトキシ−2−プロピル等の基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
金属アルコキシド(I)中のM1、R、nとしては、それぞれ上記したようなものが挙げられるが、このような金属アルコキシド(I)としては、具体的には、例えば、下記のようなものが挙げられる。
【0041】
(1)タンタルエトキシド、
(2)タンタル−n−プロポキシド、
(3)タンタル−i−プロポキシド、
(4)タンタル−n−ブトキシド、
(5)ニオブエトキシド、
(6)ニオブ−n−プロポキシド、
(7)ニオブ−i−プロポキシド、
(8)ニオブ−n−ブトキシド、
(9)チタンエトキシド、
(10)チタン−n−プロポキシド、
(11)チタン−i−プロポキシド、
(12)チタン−n−ブトキシド、
(13)ジルコニウムエトキシド、
(14)ジルコニウム−n−プロポキシド、
(15)ジルコニウム−i−プロポキシド、
(16)ジルコニウム−n−ブトキシド、
(17)ハフニウムエトキシド、
(18)ハフニウム−n−プロポキシド、
(19)ハフニウム−i−プロポキシド、
(20)ハフニウム−n−ブトキシド、
(21)ゲルマニウムエトキシド、
(22)ゲルマニウム−n−プロポキシド、
(23)ゲルマニウム−i−プロポキシド、
(24)ゲルマニウム−n−ブトキシド、
(25)スズエトキシド、
(26)スズ−n−プロポキシド、
(27)スズ−i−プロポキシド、
(28)スズ−n−ブトキシド、
(29)ビスマスエトキシド、
(30)ビスマス−n−プロポキシド、
(31)ビスマス−i−プロポキシド、
(32)ビスマス−n−ブトキシド、
(33)ビスマス−2−エトキシエトキシド、
(34)ビスマス−1−メトキシ−2−プロポキシド、
(35)ランタンエトキシド、
(36)ランタン−i−プロポキシド、
(37)ランタン−n−ブトキシド、
(38)ランタン−2−エトキシエトキシド、
(39)ランタン−1−メトキシ−2−プロポキシド、
(40)イットリウムエトキシド、
(41)イットリウム−i−プロポキシド、
(42)イットリウム−n−ブトキシド、
(43)イットリウム−2−エトキシエトキシド、
(44)イットリウム−1−メトキシ−2−プロポキシド、
(45)シリコンエトキシド、
(46)鉄−2−エトキシエトキシド、
(47)鉄−1−メトキシ−2−プロポキシド、
(48)マンガン−2−エトキシエトキシド、
(49)マンガン−1−メトキシ−2−プロポキシド、
(50)コバルト−2−エトキシエトキシド、
(51)ニッケル−2−エトキシエトキシド、
(52)ニッケル−1−メトキシ−2−プロポキシド、
(53)銅−2−エトキシエトキシド、
(54)亜鉛−2−エトキシエトキシドなど。
【0042】
本発明では、上記金属アルコキシドが1種または2種以上含まれていてもよい。なお、本発明では、これら金属アルコキシドに限定されるものではない。
【0043】
<金属の塩基性炭酸塩(II)>
金属の塩基性炭酸塩(II)としては、式(II)すなわち、「M2 A(OH)B(CO3)C・DH2O」(式(II)中、M2は1種または2種以上の金属元素を示し、A、B、Cは、「(各M2の価数)×各金属のA」の和(M2の価数)×A=1×B+2×Cとなるような正の数を示し、Dは0または正の数を示す。)で表され、固体塩基性を示すものであれば特に制限はない。
【0044】
M2が1種の金属元素を示す場合、A、B、Cは、(M2の価数)×A=1×B+2×Cとなるような正の数を示し、Dは0または正の数を示す。
【0045】
また、M2が2種以上のn種の金属元素(M21、M22、・・・・・、M2(n-1)、M2n)を示す場合、式(II)は、
「M21 A1・M22 A2・・・・・・M2(n-1) A(n-1)・M2n An (OH)B(CO3)C・DH2O」と表され、A、B、Cは、「(各M2の価数)×各金属のA」の和=(M21の価数)×A1+(M22の価数)×A2+・・・・・・+(M2(n-1) の価数)×A(n−1)+(M2nの価数)×An=1×B+2×Cとなるような正の数を示し、Dは0または正の数を示す。
【0046】
式(II)で表される金属の塩基性炭酸塩(II)としては、具体的には、例えば、下記のようなものが挙げられる。
(1)Mg5(OH)2(CO3)4・5H2O、
(2)Ca3(OH)2(CO3)2、
(3)Cu2(OH)2CO3、
(4)Cu3(OH)2(CO3)2、
(5)Zn5(OH)6(CO3)2、
(6)Zn4(OH)6CO3・H2O、
(7)Fe6(OH)12CO3・2H2O、
(8)Ni2(OH)2CO3・4H2O、
(9)Al5(OH)13CO3・5H2O、
(10)Al4(OH)10CO3・H2O、
(11)Mg6Al2(OH)16CO3・4H2O(例:協和化学工業(株)製、「キョーワード500」)、
(12)Mg9Al4(OH)26(CO3)2・7H2O(例:協和化学工業(株)製、「キョーワード1000」)、
(13)Mg6Fe2(OH)16CO3・4H2O、
(14)CaAl2(OH)4(CO3)2・3H2O、
などであるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
このような金属の塩基性炭酸塩(II)のうちでも、付番(11)、(12)が好ましい。
【0048】
特に、金属の塩基性炭酸塩(II)のうちでも、下記式(II-a)で示されるハイドロタルサイト類化合物が好ましい。
【0049】
Mg1-XAlX(OH)2(CO3)X/2・mH2O・・・・・(II-a)
(式(II-a)中、Xは0<X≦0.5の数を示し、mは0≦m≦1の数を示す。)
このような式(II-a)で表される金属の塩基性炭酸塩(ハイドロタルサイト類化合物)としては、具体的には、例えば、下記のようなものが挙げられる。
(a-1)Mg0.600Al0.400(OH)2(CO3)0.200・0.5H2O、
(a-2)Mg0.692Al0.308(OH)2(CO3)0.154・0.5H2O、
(a-3)Mg0.692Al0.308(OH)2(CO3)0.154・0.6H2O、
(a-4)Mg0.750Al0.250(OH)2(CO3)0.125・0.5H2O、
(a-5)Mg0.750Al0.250(OH)2(CO3)0.125・0.6H2O、
(a-6)Mg0.800Al0.200(OH)2(CO3)0.100・0.5H2Oなど。
【0050】
なお、例えば、この番号(a-4)で示す金属の塩基性炭酸塩(II-a)は、書き換えると、前記式(II)中の化合物番号(11)に対応し、また下記式(ロ)に包含される。
【0051】
本発明においては、これら金属の塩基性炭酸塩(II)、(II-a)は、1種または2種以上組合わせて用いることができる。
【0052】
本発明においては、上記金属の塩基性炭酸塩(II)あるいは(II-a)が下記組成式(イ)、(ロ)のいずれかで表されるハイドロタルサイト類化合物、あるいは両方の混合物であることが高純度のものが容易に入手でき、高いハロゲン除去能力を有する点からより好ましい。
【0053】
Mg0.692Al0.308(OH)2(CO3)0.154・mH2O・・・・・(イ)
Mg0.750Al0.250(OH)2(CO3)0.125・mH2O・・・・・(ロ)
(式(イ)、(ロ)中、mは0≦m≦1の数を示す。)
なお、例えば、式(ロ)は、式(II)に準じて書き換えると、Mg6Al2(OH)16CO3・8mH2Oとなり、付番(11)の化合物かその類縁化合物である。
【0054】
ハイドロタルサイトとは、天然鉱物の名称で、代表組成は、Mg6Al2(OH)16CO3・4H2Oで示され、すなわち上記式(ロ)に包含され、式[ Mg0.75Al0.25(OH)2(CO3)0.125・0.5H2O ]で表されるものが挙げられる。
【0055】
ハイドロタルサイトは、近年その特異な酸中和作用が注目され、人工的に数多くの類似化合物が合成されている。それらを総称して「ハイドロタルサイト類」あるいは「ハイドロタルサイト類化合物」という。
【0056】
本発明においてハイドロタルサイト類化合物とは、このハイドロタルサイトを基本構造として、プラスに荷電した基本層「[ Mg1-XAlX(OH)2 ]X+」と、マイナスに荷電した中間層「[ (CO3)X/2・mH2O ]X-」とからなる層状化合物であると考えられている。基本層では、Mg2+がAl3+によって置換され、置換量に応じて生ずるプラス荷電を中間層のCO3 2-が中和して結晶全体の荷電を補償している。また、中間層の炭酸イオンCO3 2-が占めた残りのスペースをH2O(結晶水)が満たしている。炭酸イオンCO3 2-はイオン交換性でありアルミニウムイオンAl3+の置換量が多い程、イオン交換容量は増加する。具体的には、この中間層に存在する炭酸イオンCO3 2-がハロゲンイオンと置換し、ハロゲン元素を中間層に取り込むと考えられる。その結果、中間層に取りこまれたハロゲン元素は、容易に溶出することはなく、またハイドロタルサイト類化合物もほとんどの有機溶媒に不溶であり、ろ過等により簡単に分離・除去することが可能である。
【0057】
すなわち、本発明では、不純物のハロゲンを含んだ金属アルコキシド(I)疎精製物に、金属の塩基性炭酸塩(II)を加え、生成したハロゲン結合体を分離除去することにより、該疎精製物中の該ハロゲン元素含量を低減させている。
【0058】
<精製条件、方法>
次にハロゲン元素を含有する金属アルコキシド(I)疎精製物に、金属の塩基性炭酸塩(II)を加えて処理する条件、方法について述べる。
【0059】
本発明に係る金属アルコキシドの精製方法は、金属アルコキシド(I)の合成時に原料として、金属ハロゲン化物、その他のハロゲン含有化合物等を使用した場合に特に有効であるが、汚染(contamination)等により塩素等のハロゲン元素が残存している場合にも効果があり、ハロゲン元素を含有し、金属アルコキシド(I)を含む疎精製物に、金属の塩基性炭酸塩(II)を加えるなどの方法により、ハロゲン元素と金属の塩基性炭酸塩(II)とを接触させ、ハロゲンと結合した金属の塩基性炭酸塩(II)を除去処理すれば、該疎精製物からハロゲン元素を著しく効率的に容易に低減除去することができる。
【0060】
例えば、金属アルコキシド(I)を含む疎精製物が常温で固体の場合には、この金属アルコキシド疎精製物を有機溶媒に溶解させて金属アルコキシド(I)を金属の塩基性炭酸塩(II)と接触させて疎精製物中のハロゲン元素を低減除去することができる。
【0061】
また、金属アルコキシド疎精製物が常温で液体である場合には、必ずしもこの金属アルコキシド疎精製物を有機溶媒に溶解させなくとも、金属アルコキシド(I)疎精製物と金属の塩基性炭酸塩と接触させてハロゲン元素を低減除去することもできる。
【0062】
本発明では金属アルコキシド疎精製物が常温で固体であっても、液体であっても、金属アルコキシド(I)の疎精製物を有機溶媒に溶解させて金属の塩基性炭酸塩(II)を添加して、室温あるいは加熱(例:室温〜200℃)下で1時間〜24時間程度、配合成分が均一になるように撹拌しながらこれら疎精製物(特に該疎精製物中のハロゲンあるいはハロゲン化合物)と金属の塩基性炭酸塩(II)とを接触させることが好ましい。
【0063】
金属の塩基性炭酸塩(II)の使用量は、使用する金属塩基性炭酸塩の種類や金属アルコキシド(I)疎精製物中に残存するハロゲン含量、得られた精製物中の望まれるハロゲン含量などにより異なり、一概に決定されないが、金属アルコキシド(I)疎精製物中に残存している塩素含量が例えば2000ppm程度以下であれば、金属アルコキシド疎精製物100重量部に対して、通常、0.01〜20重量部、好ましくは0.1〜20重量部の量で金属塩基性炭酸塩(II)を添加することが好ましい。このような添加量で金属の塩基性炭酸塩(II)を用いれば、金属アルコキシド(I)精製物に対して残存塩素量を100ppm以下、好ましくは10ppm程度以下にすることが可能である。
【0064】
特に、金属アルコキシド(I)精製物中の残存ハロゲン量を100〜10ppmに低減させるには、金属アルコキシド(I)疎精製物100重量部に対して、金属の塩基性炭酸塩(II)を0.01〜10重量部の量で添加することが好ましく、また、金属アルコキシド(I)精製物中の残存ハロゲン量を10ppm以下に低減させるには、金属アルコキシド(I)疎精製物100重量部に対して、金属の塩基性炭酸塩(II)を0.1〜20重量部の量で添加することが好ましい。
【0065】
このように本発明では、金属アルコキシド(I)精製物中の残存ハロゲン元素含量をどの程度まで低減させるかにより、金属の塩基性炭酸塩(II)の添加量を適宜調整すればよい。
【0066】
また、金属アルコキシド(I)疎精製物中に2000ppm程度以上の量でハロゲン元素が残存する場合には、金属の塩基性炭酸塩(II)の使用量を適宜増加させればよい。
【0067】
本発明では、金属アルコキシド(I)疎精製物を溶解させる際に用いられる上記有機溶媒としては、金属アルコキシドを溶解し得るものであれば特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−オクタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール等のアルコール類;
トルエン、キシレン、ベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素類;
等が挙げられる。
【0068】
本発明では、上記有機溶媒を1種単独で使用してもよく、またこれらの有機溶媒を2種以上混合して用いてもよい。
【0069】
本発明では、このような有機溶媒の使用量には特に制限はないが、本発明では、金属アルコキシド疎精製物を有機溶媒に溶解した場合の金属アルコキシド(I)濃度あるいは金属アルコキシド(I)疎精製物の濃度が、0.1〜2mol/kgとなるような量で有機溶媒を用いることが処理効率の点から好ましい。
【0070】
本発明では、金属の塩基性炭酸塩(II)を添加後の金属アルコキシド溶液は、含まれるハロゲン元素(例:塩素元素)と金属の塩基性炭酸塩との反応生成物、及び過剰量の金属塩基性炭酸塩をろ別することにより、ハロゲン元素(例:塩素)が除去される。
【0071】
なお、金属の塩基性炭酸塩、例えば、ハイドロタルサイト類化合物が、「ハロゲン結合体」となることにより、金属の塩基性炭酸塩(II)に物理的にあるいは化学的反応により、取り込まれたハロゲン元素は、容易に溶出することはなく、またハロゲンを取り込んだか否かによらずハイドロタルサイト類化合物もほとんどの有機溶媒に不溶であり、ろ過等により簡単に分離・除去することが可能である。
【0072】
本発明では、このようなハロゲン除去処理を1〜複数回繰り返して行ってもよい。
【0073】
本発明では、金属アルコキシド(I)疎精製物と、金属の塩基性炭酸塩(II)との接触の際には、カラムあるいは担体等を利用してこれらを接触させることも可能である。例えば、円筒状の管(カラム)に塩基性炭酸塩を充填して、そこに金属アルコキシド疎精製物を通過させて接触させる方法、または担体に塩基性炭酸塩を担持させたものを、金属アルコキシド疎精製物と接触させる方法などである。
【0074】
<精製された金属アルコキシド>
本発明によれば、著しくハロゲン含量が低減された高純度金属アルコキシドが得られる。
【0075】
上記のようにして得られ、塩素元素に代表されるハロゲン元素が低減除去された後の金属アルコキシド溶液は、そのまま電子材料等の原料として使用することもできるが、更に塩素元素以外の不純物も除去するなどの目的で、金属アルコキシドの沸点が比較的低い場合には蒸留等を行うことにより、不純物を分離除去することも可能である。
【0076】
このようにして精製された金属アルコキシド(I)では、ハロゲン含量が著しく低減されており、本発明においては、該ハロゲン元素含量が金属アルコキシド(I)精製物に対して100ppm以下、好ましくは10ppm以下に低減・除去されていることが望ましい。
【0077】
このように、本発明に係る金属アルコキシドの精製方法によれば、金属アルコキシド中に残存するハロゲン元素、特に塩素元素を工業的に安価に効率よく低減除去できる。
【0078】
このようにしてハロゲン元素、特に塩素の含有量が低減・除去された金属アルコキシド(I)(精製金属アルコキシド、金属アルコキシド精製物などともいう。)は、電子材料等の高純度な金属アルコキシドを必要とする場面、例えば金属アルコキシドの加水分解による微粉末の製造において、高純度微粉末となる利点があり、また金属アルコキシドを原料として、薄膜製造を、CVD、スピンコート等により行う場合においては、高純度な薄膜を形成でき、電子材料、光学材料等の製造分野で特に好適に使用される。
【0079】
【発明の効果】
本発明によれば、金属アルコキシド疎精製物あるいは精製物中に残存しているハロゲン元素、特に塩素元素を工業的に安価に効率よく、100ppm以下に、好ましくは10ppm以下に低減除去できるような、金属アルコキシドの精製方法が提供される。
【0080】
また、上記したように、その精製操作は、金属アルコキシド(I)疎精製物に、金属の塩基性炭酸塩(II)を加えて攪拌・混合し、生成したハロゲン結合体を濾過などにより分離除去するだけでよく、操作が極めて簡単である。
【0081】
また、この精製方法を適用し得る金属アルコキシド(I)の範囲も広く、種々の金属アルコキシド疎精製物あるいは精製物に対して適用し得る。
【0082】
従って、この精製方法は、高純度の金属アルコキシド(I)精製物を必要とする電子材料等の分野で、例えば金属アルコキシドの加水分解による高純度微粉末の製造、あるいは金属アルコキシドを原料とする酸化物薄膜の製造等に好適に利用できる。
【0083】
【実施例】
以下、本発明に係る金属アルコキシドの精製方法について、実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は係る実施例のみに制限されるものではない。
【0084】
【実施例1】
無水五塩化タンタル[TaCl5]100g[0.279モル]をトルエン600gに分散させエタノール160g[理論量に対して2.5当量]を冷却しながら滴下し無水五塩化タンタルを溶解した。
【0085】
この溶液に冷却しながらアンモニアガス[NH3]36g[理論量に対して1.5当量]を導入し4時間撹拌を行ない、タンタルエトキシド[Ta(OC2H5)5]を合成した。過剰のアンモニアガスを加熱還流により抜気後、室温に冷却した。
【0086】
生成した塩化アンモニウム[NH4Cl]を減圧ろ過し、更にろ過器上の塩化アンモニウムケーキ中に残存するタンタルエトキシド溶液を少量のトルエンで洗い出し、タンタルエトキシド110g[仕込み五塩化タンタルに対する収率;97%]のトルエン/エタノール溶液920gを得た。
【0087】
得られたタンタルエトキシドのトルエン/エタノール溶液中のClを分析したところ、タンタルエトキシド(疎精製物)に対して300ppmであった。
【0088】
このタンタルエトキシド溶液に協和化学工業(株)製「キョーワード1000」[Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O]を1.1g[タンタルエトキシドに対して1wt%相当]加え、室温で3時間撹拌した後、減圧ろ過した。ろ過器上のケーキ中に残存するタンタルエトキシド溶液を少量のトルエンで洗い出し、タンタルエトキシド107g[仕込み五塩化タンタルに対する収率;94%]のトルエン/エタノール溶液960gを得た。得られたタンタルエトキシドのトルエン/エタノール溶液中のClを分析したところ、タンタルエトキシド(精製物)に対して2ppmであった。
【0089】
なお、タンタルエトキシド疎精製物、精製物中の塩素の定量分析は、希NaOH水により加水分解させた後、上澄みをろ過し、イオンクロマト法により行なった。
【0090】
溶液中のタンタルエトキシド含有量は、タンタルエトキシドを加水分解後蒸発乾固し、更に800℃での加熱処理によりTa2O5にして重量法で測定を行なった。
【0091】
【実施例2】
実施例1と同様にして合成したタンタルエトキシド110g[仕込み五塩化タンタルに対する収率;97%]のトルエン/エタノール溶液[920g、Cl含量は、タンタルエトキシド(疎精製物)に対して300ppm]に塩基性アルミナ[メルク社製の「活性型塩基性酸化アルミニウム90」]を11g[タンタルエトキシドに対して10wt%相当]加え、室温で5時間撹拌した後、減圧ろ過した。ろ過器上のケーキ中に残存するタンタルエトキシド溶液を少量のトルエンで洗い出し、タンタルエトキシド108g[仕込み五塩化タンタルに対する収率;95%]のトルエン/エタノール溶液980gを得た。
【0092】
得られたタンタルエトキシドのトルエン/エタノール溶液中のClを分析したところ、タンタルエトキシド(精製物)に対して5ppmであった。
【0093】
タンタルエトキシド中の塩素の定量分析及び溶液中のタンタルエトキシド含有量は、実施例1と同様な方法で行なった。
【0094】
【実施例3】
無水五塩化ニオブ[NbCl5]100g[0.370モル]をトルエン600gに分散させエタノール213g[理論量に対して2.5当量]を冷却しながら滴下し無水五塩化ニオブを溶解した。この溶液に、冷却しながらアンモニアガス[NH3]47g[理論量に対して1.5当量]を導入し5時間撹拌を行ないニオブエトキシド[Nb(OC2H5)5]を合成した。過剰のアンモニアガスを加熱還流により抜気後、室温に冷却した。
【0095】
生成した塩化アンモニウム[NH4Cl]を減圧ろ過し、更にろ過器上の塩化アンモニウムケーキ中に残存するニオブエトキシド溶液を少量のトルエンで洗い出し、ニオブエトキシド108g[仕込み五塩化ニオブに対する収率;92%]のトルエン/エタノール溶液1010gを得た。
【0096】
得られたニオブエトキシドのトルエン/エタノール溶液中のClを分析したところ、ニオブエトキシド(疎精製物)に対して230ppmであった。
【0097】
このニオブエトキシド溶液に協和化学工業(株)製キョーワード500[Mg6Al2(OH)16CO3・4H2O]を2.1g[ニオブエトキシドに対して2wt%相当]加え、室温で3時間撹拌した後、減圧ろ過した。ろ過器上のケーキ中に残存するニオブエトキシド溶液を少量のトルエンで洗い出し、ニオブエトキシド105g[仕込み五塩化ニオブに対する収率;89%]のトルエン/エタノール溶液1060gを得た。得られたニオブエトキシドのトルエン/エタノール溶液中のClを分析したところ、ニオブエトキシド(精製物)に対して8ppmであった。
ニオブエトキシド中の塩素の定量分析は、希NaOH水により加水分解させた後、上澄みをろ過し、イオンクロマト法により行なった。
【0098】
溶液中のニオブエトキシド含有量は、加水分解後蒸発乾固、更に800℃での加熱処理によりNb2O5にして重量法で行なった。
【0099】
【実施例4】
無水四塩化チタニウム[TiCl4]100g[0.527モル]をトルエン800gに溶解させ1−ブタノール188g[理論量に対して1.2当量]を冷却しながら滴下した。この溶液に冷却しながらアンモニアガス[NH3]54g[理論量に対して1.5当量]を導入し4時間撹拌を行ないチタニウムブトキシド[Ti(OC4H9)4]を合成した。生成した塩化アンモニウム[NH4Cl]を減圧ろ過し、更にろ過器上の塩化アンモニウムケーキ中に残存するチタニウムブトキシド溶液を少量のトルエンで洗い出し、チタニウムブトキシド170g[仕込み四塩化チタニウムに対する収率;95%]のトルエン/ブタノール溶液1240gを得た。
得られたチタニウムブトキシドのトルエン/ブタノール溶液中のClを分析したところ、チタニウムブトキシド(疎精製物)に対して400ppmであった。
【0100】
このチタニウムブトキシド溶液に協和化学工業(株)製キョーワード1000[Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O]を3.4g[チタニウムブトキシドに対して2.0wt%相当]加え、室温で3時間撹拌した後、減圧ろ過した。ろ過器上のケーキ中に残存するチタニウムブトキシド溶液を少量のトルエンで洗い出し、チタニウムブトキシド168g[仕込み四塩化チタニウムに対する収率;94%]のトルエン/ブタノール溶液1310gを得た。
【0101】
得られたチタニウムブトキシドのトルエン/ブタノール溶液中のClを分析したところ、チタニウムブトキシド(精製物)に対して10ppmであった。
【0102】
チタニウムブトキシド中の塩素の定量分析は、希NaOH水により加水分解させた後、上澄みをろ過し、イオンクロマト法により行なった。
【0103】
溶液中のチタニウムブトキシド含有量は、1/100MのEDTA(エチレンジアミン四酢酸)標準液を使用してキレート滴定により行なった。
【0104】
【実施例5】
無水四塩化ジルコニウム[ZrCl4]100g[0.429モル]をトルエン700gに分散させ1−ブタノール140g[理論量に対して1.1当量]を冷却しながら滴下し無水四塩化ジルコニウムを溶解した。この溶液に冷却しながらアンモニアガス[NH3]44g[理論量に対して1.5当量]を導入し5時間撹拌を行ないジルコニウムブトキシド[Zr(OC4H9)4]を合成した。生成した塩化アンモニウム[NH4Cl]を減圧ろ過し、更にろ過器上の塩化アンモニウムケーキ中に残存するジルコニウムブトキシド溶液を少量のトルエンで洗い出し、ジルコニウムブトキシド142g[仕込み四塩化ジルコニウムに対する収率;86%]のトルエン/ブタノール溶液1030gを得た。
【0105】
得られたジルコニウムブトキシドのトルエン/ブタノール溶液中のClを分析したところ、ジルコニウムブトキシド(疎精製物)に対して190ppmであった。
【0106】
このジルコニウムブトキシド溶液に協和化学工業(株)製キョーワード1000[Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O]を2.1g[ジルコニウムブトキシドに対して1.5wt%相当]加え、室温で3時間撹拌した後、減圧ろ過した。ろ過器上のケーキ中に残存するジルコニウムブトキシド溶液を少量のトルエンで洗い出し、ジルコニウムブトキシド137g[仕込み四塩化ジルコニウムに対する収率;83%]のトルエン/ブタノール溶液1090gを得た。得られたジルコニウムブトキシドのトルエン/ブタノール溶液中のClを分析したところ、ジルコニウムブトキシド(精製物)に対して8ppmであった。
【0107】
ジルコニウムブトキシド中の塩素の定量分析は、希NaOH水により加水分解させた後、上澄みをろ過し、イオンクロマト法により行なった。
【0108】
溶液中のジルコニウムブトキシド含有量は、1/100MのEDTA標準液を使用してキレート滴定により行なった。
【0109】
【実施例6】
無水四塩化ハフニウム[HfCl4]100g[0.312モル]をトルエン600gに分散させ1−ブタノール111g[理論量に対して1.2当量]を冷却しながら滴下し無水四塩化ハフニウムを溶解した。この溶液に冷却しながらアンモニアガス[NH3]32g[理論量に対して1.5当量]を導入し6時間撹拌を行ないハフニウムブトキシド[Hf(OC4H9)4]を合成した。生成した塩化アンモニウム[NH4Cl]を減圧ろ過し、更にろ過器上の塩化アンモニウムケーキ中に残存するハフニウムブトキシド溶液を少量のトルエンで洗い出し、ハフニウムブトキシド132g[仕込み四塩化ハフニウムに対する収率;90%]のトルエン/ブタノール溶液910gを得た。
【0110】
得られたハフニウムブトキシドのトルエン/ブタノール溶液中のClを分析したところ、ハフニウムブトキシド(疎精製物)に対して150ppmであった.このハフニウムブトキシド溶液に協和化学工業(株)製キョーワード1000[Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O]を2.6g[ハフニウムブトキシドに対して2.0wt%相当]加え、室温で4時間撹拌した後、減圧ろ過した。ろ過器上のケーキ中に残存するハフニウムブトキシド溶液を少量のトルエンで洗い出し、ハフニウムブトキシド126g[仕込み四塩化ハフニウムに対する収率;86%]のトルエン/ブタノール溶液980gを得た。
【0111】
得られたハフニウムブトキシドのトルエン/ブタノール溶液中のClを分析したところ、ハフニウムブトキシド(精製物)に対して7ppmであった。
【0112】
ハフニウムブトキシド中の塩素の定量分析は、希NaOH水により加水分解させた後、上澄みをろ過し、イオンクロマト法により行なった。
【0113】
溶液中のハフニウムブトキシド含有量は、1/100MのEDTA標準液を使用してキレート滴定により行なった。
【0114】
【実施例7】
無水四塩化ゲルマニウム[GeCl4]100g[0.466モル]をトルエン800gに溶解させエタノール129g[理論量に対して1.5当量]を冷却しながら滴下した。この溶液に冷却しながらアンモニアガス[NH3]48g[理論量に対して1.5当量]を導入し4時間撹拌を行ないゲルマニウムエトキシド[Ge(OC2H5)4]を合成した。過剰のアンモニアガスを加熱還流により抜気後、室温に冷却した。生成した塩化アンモニウム[NH4Cl]を減圧ろ過し、更にろ過器上の塩化アンモニウムケーキ中に残存するゲルマニウムエトキシド溶液を少量のトルエンで洗い出し、ゲルマニウムエトキシド115g[仕込み四塩化ゲルマニウムに対する収率;98%]のトルエン/エタノール溶液1140gを得た。
得られたゲルマニウムエトキシドのトルエン/エタノール溶液中のClを分析したところ、ゲルマニウムエトキシド(疎精製物)に対して220ppmであった。
【0115】
このゲルマニウムエトキシド溶液に協和化学工業(株)製キョーワード1000[Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O]を1.2g[ゲルマニウムエトキシドに対して1wt%相当]加え、室温で4時間撹拌した後、減圧ろ過した。ろ過器上のケーキ中に残存するゲルマニウムエトキシド溶液を少量のトルエンで洗い出し、ゲルマニウムエトキシド114g[仕込み四塩化ゲルマニウムに対する収率;97%]のトルエン/エタノール溶液1260gを得た。
【0116】
得られたゲルマニウムエトキシドのトルエン/エタノール溶液中のClを分析したところ、ゲルマニウムエトキシド(精製物)に対して9ppmであった。
【0117】
ゲルマニウムエトキシド中の塩素の定量分析は、希NaOH水により加水分解させた後、上澄みをろ過し、イオンクロマト法により行なった。
【0118】
溶液中のゲルマニウムエトキシド含有量は、加水分解後蒸発乾固、更に800℃での加熱処理によりGeO2にして重量法で行なった。
【0119】
【実施例8】
無水四塩化スズ[SnCl4]100g[0.384モル]をトルエン300gに溶解させ1−ブタノール120gを冷却しながら滴下した。この溶液に70℃に加温したナトリウムn−ブトキシド[NaOnC4H9] 145g[1.51モル、理論量に対して0.98当量]のトルエン/ブタノール溶液500gを加え、6時間還流を行ない、スズブトキシド[Sn(OC4H9)4]を合成した。生成した塩化ナトリウム[NaCl]を減圧ろ過し、更にろ過器上の塩化ナトリウムケーキ中に残存するスズブトキシド溶液を少量のトルエンで洗い出し、スズブトキシド150g[仕込み四塩化スズに対する収率;95%]のトルエン/ブタノール溶液[1100g]を得た。
得られたスズブトキシドのトルエン/ブタノール溶液中のClを分析したところ、スズブトキシド(疎精製物)に対して600ppmであった。
【0120】
このスズブトキシド溶液に協和化学工業(株)製キョーワード1000[Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O]を7.5g[スズブトキシドに対して5wt%相当]加え、室温で4時間撹拌した後、減圧ろ過した。ろ過器上のケーキ中に残存するスズブトキシド溶液を少量のトルエンで洗い出し、スズブトキシド145g[仕込み四塩化スズに対する収率;92%]のトルエン/ブタノール溶液[1170g]を得た。得られたスズブトキシドのトルエン/ブタノール溶液中のClを分析したところ、スズブトキシド(精製物)に対して9ppmであった。
【0121】
スズブトキシド中の塩素の定量分析は、希NaOH水により加水分解させた後、上澄みをろ過し、イオンクロマト法により行なった。
【0122】
溶液中のスズブトキシド含有量は、1/100MのEDTA標準液を使用してキレート滴定により行なった。
【0123】
【実施例9】
無水三塩化ビスマス[BiCl3]100g[0.317モル]をトルエン250gに分散させ1−ブタノール85gを冷却しながら滴下し無水三塩化ビスマスを溶解する。この溶液に70℃に加温したナトリウムn−ブトキシド[NaOnC4H9] 87g[0.903モル、理論量に対して0.95当量]のトルエン/ブタノール溶液350gを加え、4時間還流を行ない、ビスマスブトキシド[Bi(OC4H9)3]を合成した。生成した塩化ナトリウム[NaCl]を減圧ろ過し、更にろ過器上の塩化ナトリウムケーキ中に残存するビスマスブトキシド溶液を少量のトルエンで洗い出し、ビスマスブトキシド118g[仕込み三塩化ビスマスに対する収率;87%]のトルエン/ブタノール溶液850gを得た。
得られたビスマスブトキシドのトルエン/ブタノール溶液中のClを分析したところ、ビスマスブトキシド(疎精製物)に対して2000ppmであった。
【0124】
このビスマスブトキシド溶液に協和化学工業(株)製キョーワード1000[Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O]を12g[ビスマスブトキシドに対して10wt%相当]加え、室温で3時間撹拌した後、減圧ろ過した。ろ過器上のケーキ中に残存するビスマスブトキシド溶液を少量のトルエンで洗い出し、ビスマスブトキシド100g[仕込み三塩化ビスマスに対する収率;74%]のトルエン/ブタノール溶液910gを得た。
【0125】
得られたビスマスブトキシドのトルエン/ブタノール溶液中のClを分析したところ、ビスマスブトキシド(精製物)に対して9ppmであった。
【0126】
ビスマスブトキシド中の塩素の定量分析は、希NaOH水により加水分解させた後、上澄みをろ過し、イオンクロマト法により行なった。
【0127】
溶液中のビスマスブトキシド含有量は、1/100MのEDTA標準液を使用してキレート滴定により行なった。
【0128】
【実施例10】
無水三塩化ランタン[LaCl3]100g[0.408モル]をトルエン300gに分散させ1−ブタノール120gを冷却しながら滴下し無水三塩化ランタンを溶解する。この溶液に70℃に加温したナトリウムn−ブトキシド[NaOnC4H9] 115g[1.20モル、理論量に対して0.98当量]のトルエン/ブタノール溶液480gを加え、6時間還流を行ない、ランタンブトキシド[La(OC4H9)3]を合成した。生成した塩化ナトリウム[NaCl]を減圧ろ過し、更にろ過器上の塩化ナトリウムケーキ中に残存するランタンブトキシド溶液を少量のトルエンで洗い出し、ランタンブトキシド118g[仕込み三塩化ランタンに対する収率;81%]のトルエン/ブタノール溶液[1060g]を得た。
【0129】
得られたランタンブトキシドのトルエン/ブタノール溶液中のClを分析したところ、ランタンブトキシド(疎精製物)に対して1200ppmであった。
【0130】
このランタンブトキシド溶液に協和化学工業(株)製キョーワード1000[Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O]を12g[ランタンブトキシドに対して10wt%相当]加え、室温で3時間撹拌した後、減圧ろ過した。ろ過器上のケーキ中に残存するランタンブトキシド溶液を少量のトルエンで洗い出し、ランタンブトキシド107g[仕込み三塩化ランタンに対する収率;73%]のトルエン/ブタノール溶液[1110g]を得た。
【0131】
得られたランタンブトキシドのトルエン/ブタノール溶液中のClを分析したところ、ランタンブトキシド(精製物)に対して9ppmであった。
【0132】
ランタンブトキシド中の塩素の定量分析は、希NaOH水により加水分解させた後、上澄みをろ過し、イオンクロマト法により行なった。
【0133】
溶液中のランタンブトキシド含有量は、1/100MのEDTA標準液を使用してキレート滴定により行なった。
Claims (7)
- ハロゲン元素を含有する、溶液状態の下記式(I):
M1(OR)n・・・・・(I)
[式(I)中、M1は金属元素を示し、Rは炭素数1〜8の直鎖状あるいは分岐状アルキル基、または、総炭素数が3〜8で直鎖状あるいは分岐状のアルコキシアルキル基を示し、nは金属元素の価数を示す。]
で表される金属アルコキシドの疎精製物に、下記式(II):
M2 A(OH)B(CO3)C・DH2O・・・・・(II)
[式(II)中、M2は1種または2種以上の金属元素を示し、A、B、Cは、「(各M2の価数)×各金属のA」の和=1×B+2×Cとなるような正の数を示し、Dは0または正の数を示す。]
で表される金属の塩基性炭酸塩を加えて、生成したハロゲン結合体を分離除去することにより、該疎精製物中の該ハロゲン元素含量を低減させることを特徴とする金属アルコキシドの精製方法。 - 金属の塩基性炭酸塩が下記式(II-a):
Mg1-XAlX(OH)2(CO3)X/2・mH2O・・・・・(II-a)
(式(II-a)中、Xは0<X≦0.5の数を示し、mは0≦m≦1の数を示す。
)
で表わされるハイドロタルサイト類化合物であることを特徴とする請求項1に記載の金属アルコキシドの精製方法。 - 金属の塩基性炭酸塩が下記組成式(イ)、(ロ)のいずれかで表されるハイドロタルサイト類化合物、あるいは両方の混合物であることを特徴とする請求項1〜2の何れかに記載の金属アルコキシドの精製方法。
Mg0.692Al0.308(OH)2(CO3)0.154・mH2O・・・・・(イ)
Mg0.750Al0.250(OH)2(CO3)0.125・mH2O・・・・・(ロ)
(式(イ)、(ロ)中、mは0≦m≦1の数を示す。) - ハロゲン元素が塩素であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の金属アルコキシドの精製方法。
- 金属アルコキシドの金属元素がTa,Nb,Ti,Zr,Hf,Ge,Sn,Bi,Si,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,希土類金属のうちの1種または2種以上から構成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の金属アルコキシドの精製方法。
- ハロゲン元素含量を金属アルコキシド精製物に対して100ppm以下に低減させることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の金属アルコキシドの精製方法。
- ハロゲン元素含量を金属アルコキシド精製物に対して10ppm以下に低減させることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の金属アルコキシドの精製方法。
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