図1は、本発明の実施の形態による光学ドライブ装置1の模式図である。
光学ドライブ装置1は光ディスク11の再生及び記録を行う。光ディスク11としてはCD、DVD、BD等の各種光記録媒体を用いることができるが、本実施の形態では特に、記録面に記録層12とサーボ専用層13とが設けられ、かつ記録層12が多層膜によって多層化されている円盤状の光ディスクを用いる。また、光ディスクには、再生専用型(DVD−ROM、BD−ROMなど。)、追記型(DVD−R、DVD+R、BD−Rなど。)、書換型(DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RW、BD−REなど。)など、記録方法によって分類されるいくつかの種類があるが、本実施の形態はすべてに適用可能である。
図2は、光ディスク11の記録面の断面図である。
図2に示すように、光ディスク11の記録面では、記録層12は複数の記録層14により構成される。図2では記録層12が3つの記録層14−1〜3により構成される例を示しているが、記録層14の数は3つに限られず、1つ以上であればよい。また、トラッキングサーボ用のサーボ専用層13は、記録層12とは光ディスク11の記録面法線方向の異なる位置に設けられる。図2では記録層の奥側に配置されているが、手前側や隣接する記録層14の間(例えば、記録層14−1と記録層14−2の間)に配置されていてもよいし、複数配置されていてもよい。各層は、スペーサ層15によって隔てられている。
サーボ専用層13には周期的に溝が設けられており、溝の凸部はランドL、凹部はグルーブGと呼ばれる。ただし、溝の凸部と凹部は相対的なものであり、凸部と凹部のいずれをランドLと呼ぶかについては、光ディスク11のおもて面・うら面のいずれを下とするかによって変わってくる。なお、図2には示していないが、ランドLとグルーブGは、半径方向にわずかに蛇行(ウォブル)している。
ランドLとグルーブGのいずれか少なくとも一方は情報書込ラインに対応しており、各記録層14では、情報書込ラインに対応する位置に、情報を記憶するための符号(ピットまたは記録マーク。不図示。)が設けられる。この符号は、光ビームの照射によって記録又は消去される。また、サーボ専用層13は、符号(ピットまたは記録マーク)を持ち、位相差検出法(DPD法)でトラッキング制御することとしてもよい。
図3は、図2に示した領域Aの拡大図である。同図に示すように、記録層14−1は、光の干渉により生成されたホログラムの干渉縞でそれぞれ屈折率が異なる第1の光干渉縞記録層16a及び第2の光干渉縞記録層16b(以下、これらをまとめて「反射型ホログラム層」ということがある。)により構成された第1及び第2の部分記録層14a,14bと、これらの間に挟まれた吸収層17とから構成されている。図示していないが、記録層14−2,3も同一の構造を有する。また、第1及び第2の部分記録層14a,14bは、反射型ホログラム層に物理的に反射型でないホログラム層を積層させた構造も含んでもよい。
第1の光干渉縞記録層16aと第2の光干渉縞記録層16bとは、互いに異なった屈折率を有しており、それぞれがホログラムの光干渉による干渉縞によって構成される。第1の光干渉縞記録層16aと第2の光干渉縞記録層16bとの屈折率が互いに異なるため、光ディスク11の記録面に照射された光ビームは、第1の光干渉縞記録層16aと第2の光干渉縞記録層16bとの界面(図3に示す界面B1−1〜B1−14及び界面C1−1〜C1−14)で反射する。
ホログラムの具体的な材料としてはフォトポリマーが用いられ、光の干渉により生成された干渉縞、即ち、光干渉縞記録層の厚さは、フォトポリマーの屈折率をn、光の波長をλとすると、λ/4nで表される。以下、フォトポリマーの屈折率を1とすると、405nmの青色波長の場合は0.10125μmとなる。また、それぞれの屈折率は、フォトポリマーの構成により、ある程度の自由度をもって決めることができ、反射率を大きくするために、屈折率差を大きくするようにフォトポリマーを構成する必要がある。このようにホログラムの材料を用いて、光の干渉により干渉縞の構造を形成することにより、光干渉縞記録層間の界面を、極めて滑らかに精度よく形成することが可能になる。屈折率が異なるホログラムの干渉縞の構造は、反射型ホログラムと呼ばれている。
第1の部分記録層14aと第2の部分記録層14bとは、吸収層17を挟んで対称な構造とすることが好適である。つまり、図3にも示すように、各部分記録層を構成する光干渉縞記録層の数、並びに第1の光干渉縞記録層16aと第2の光干渉縞記録層16bの積層順を、吸収層17を挟んで対称な構造とすることが好適である。こうすることで、フォーカスサーボの際、吸収層17のちょうど中心の位置P1(光ディスク法線方向の中心位置)に光ビームの焦点を合わせることが可能になる。詳細は後述する。ただし、P1を中心とするフォーカス誤差信号の線形性が悪くなったり、ゼロ点が複数存在するような構造になってしまうと好ましくない。
吸収層17は、光ビームを吸収して熱を発する色素などの有機材料によって構成される。吸収層17の屈折率は、隣接する光干渉縞記録層(図3では第1の光干渉縞記録層16b)と同一となっていることが好ましい。各部分記録層と吸収層17との界面(図3に示す界面B2,C2)は、反射型ホログラムの光干渉縞記録層間の界面とは違ってあまり精度よく形成できないため、屈折率が異なって反射が起きると、界面の不均一性により焦点位置合わせの精度が悪化したり、乱反射成分がノイズとなったりして、フォーカスサーボの精度を悪化させることから、このように吸収層17の屈折率を隣接する光干渉縞記録層と同一とすることで、各部分記録層と吸収層17との界面で反射が起きないようにしている。吸収層17は、自身に光ビームの焦点が合うと発熱し、その熱は各部分記録層14a,14bに伝えられる。各部分記録層14a,14bは、この熱によって変形し、ブラッグの反射の条件を満たさなくなってきて、反射光強度が小さくなっていく。このようにして反射率を変化させることにより情報を記録する。また、各部分記録層14a,14bの厚さは、光の焦点深度を考慮して決められる。図4は対物レンズにより光が集光している様子を示しているが、レンズの回折の影響により、集光した時のビーム径は有限の値を持つ。また、焦点が合っている有限の範囲が生じ、この範囲の距離を焦点深度と言う。例えば、焦点深度D=4×λ×n/NA2(λは波長で青色の時は0.405um、nは屈折率で1.6、NAは青色の時は0.85)と表されるとすると、D=3.6umとなるため、各部分記録層14a,14bの厚さは、吸収層の厚さが1umで、吸収層の中心に焦点深度の中心がくる場合は、図5のように1.3um以上とするのが好ましい。即ち、記録再生時に少なくとも焦点深度内の反射光は全て利用することができるように、吸収層と各部分記録層14a,14bの合計の厚さが焦点深度以上となっていればよい。焦点深度外の反射光も利用できると、反射率を高くすることができるが、焦点深度外のデフォーカスされた反射光がRF信号やトラッキング誤差信号、フォーカス誤差信号などのサーボ信号に悪影響を及ぼす場合は、吸収層と各部分記録層14a,14bの合計の厚さを焦点深度以下にすればよい。図5は、記録再生時に、記録層にレーザー光が集光している様子を表しており、吸収層と各部分記録層14a,14bの合計の厚さが焦点深度以下の場合(a)と焦点深度以上の場合(b)とを示している。焦点深度D=3.6μmの時に、吸収層の中心に焦点深度の中心がくるように焦点が合っている時、反射型ホログラムの厚さが1.3μm以上になっていれば、焦点深度内の反射光を全て利用でき、高い反射率を得られることが分かる。また、吸収層の両側にホログラム層を配置することにより、再生時の反射率を、片側だけに部分記録層がある場合に比べて2倍程度に大きくすることができる。即ち、焦点深度の範囲は、吸収層の両側の領域に存在するため、焦点深度内の反射光を無駄にすることなく利用できる。また、吸収層の熱をホログラム層に伝える際も、遠くまでは伝わりにくいため、吸収層の両側にホログラム層がある方が良い。
スペーサ層15は、例えばUV硬化樹脂などによって構成される。スペーサ層15の屈折率も、吸収層17と同様に、隣接する光干渉縞記録層(図3では第1の光干渉縞記録層16a)と同一となっていることが好ましい。このようにすれば、スペーサ層15と記録層14の界面(図3に示す界面B0,C0)で反射が起きなくなるため、上記のような精度悪化の問題が生ずることはなくなる。
図1に戻る。図1に示すように、光学ドライブ装置1は、レーザ光源2−1,2−2、光学系3、光検出器6−1,6−2、及び処理部7を備えて構成される。これらのうち、レーザ光源2、光学系3、及び光検出器6は光ピックアップを構成する。
光学系3は、偏光ビームスプリッタ21、コリメータレンズ22、ダイクロイックプリズム23、1/4波長板24、センサレンズ(シリンドリカルレンズ)26、回折格子27、偏光ビームスプリッタ28、コリメータレンズ29、センサレンズ(シリンドリカルレンズ)31、対物レンズ4、及びアクチュエータ5を有している。光学系3は、レーザ光源2−1,2−2がそれぞれ発した光ビームを光ディスク11に導く往路光学系として機能するとともに、光ディスク11からの戻りビームを光検出器6−1,6−2に導く復路光学系としても機能する。
まず、レーザ光源2−1が発した光ビーム(以下、記録層用光ビームと称する。)の往路光学系では、記録層用光ビームはまず偏光ビームスプリッタ21に入射する。偏光ビームスプリッタ21は、入射された記録層用光ビームを通過させ、コリメータレンズ22に入射させる。コリメータレンズ22は、記録層用光ビームを平行光とし、ダイクロイックプリズム23に入射させる。ダイクロイックプリズム23は、入射された平行光を光ディスク11方向に反射させ、1/4波長板24に入射させる。1/4波長板24は、入射された平行光を円偏光とし、対物レンズ4に入射させる。
一方、レーザ光源2−2が発した光ビーム(以下、サーボ専用層用光ビームと称する。)の往路光学系では、まず回折格子27がサーボ専用層用光ビームを3ビーム(0次回折光及び±1次回折光)に分解し、偏光ビームスプリッタ28に入射させる。ビームスプリッタ28は、入射された光ビームを通過させ、コリメータレンズ29に入射させる。コリメータレンズ29は、入射されたサーボ専用層用光ビームを平行光とし、ダイクロイックプリズム23に入射させる。ダイクロイックプリズム23は、入射された平行光を通過させ、1/4波長板24に入射させる。1/4波長板24は、入射された平行光を円偏光とし、対物レンズ4に入射させる。
光学系3は、対物レンズ4に入射された2種類の光ビーム(平行光状態の光ビーム)の光軸が一致するように構成される。対物レンズ4は、これら同一の光軸を有する2種類の光ビームを光ディスク11上に集光させるとともに、光ディスク11の記録面で反射してきた戻り光ビームを平行光に戻す。
ここで、コリメータレンズ29は、フォーカス方向(記録面と垂直な方向)に駆動可能に構成されている。また、対物レンズ4は、フォーカス方向、光ディスク11の記録面に平行な方向、及び光ディスク11の記録面に対して回転する方向の3方向に駆動可能に構成されている。対物レンズ4の位置及び姿勢の制御はアクチュエータ5によって行われる。光学ドライブ装置1では、サーボ専用層用光ビームをサーボ専用層に合焦させ、かつ記録層用光ビームがアクセス対象層に合焦させるために、コリメータレンズ29及び対物レンズ4の位置制御が行われる(フォーカスサーボ)。
サーボ専用層用光ビームの戻り光ビームはサーボ専用層13のランド・グループで回折されており、0次回折光及び±1次回折光に分解されている。この0次回折光及び±1次回折光は、回折格子27により生ずる0次回折光及び±1次回折光とは異なるもので、紛らわしいので、以下では回折格子27により分解された0次回折光,+1次回折光,−1次回折光をそれぞれメインビームMB,サブビームSB1,サブビームSB2と称し、0次回折光及び±1次回折光という場合にはサーボ専用層13のランド・グループでの回折によって生じた回折光を指すことにする。メインビームMB,サブビームSB1,サブビームSB2は、それぞれ独立して反射光を生ずる。
記録層用光ビームの復路光学系では、対物レンズ4を通過した記録層用光ビームが、1/4波長板24を介してダイクロイックプリズム23に入射され、ダイクロイックプリズム23で折り曲げられてコリメータレンズ22に入射する。コリメータレンズ22を通過した光ビームは、集光しつつ偏光ビームスプリッタ21で反射して、センサレンズ26(シリンドリカルレンズ)に入射する。センサレンズ26は、入射された記録層用光ビームに非点収差を付与する。非点収差を付与された記録層用光ビームは光検出器6−1に入射する。
サーボ専用層用光ビームの復路光学系では、対物レンズ4を通過したサーボ専用層用光ビームが、1/4波長板24及びダイクロイックプリズム23を介してコリメータレンズ29に入射する。コリメータレンズ29を通過した光ビームは、集光しつつビームスプリッタ28で反射して、センサレンズ31(シリンドリカルレンズ)に入射する。センサレンズ31は、センサレンズ26と同様、入射されたサーボ専用層用光ビームに非点収差を付与する。非点収差を付与されたサーボ専用層用光ビームは光検出器6−2に入射する。ここでは、サーボ専用層のフォーカス制御として非点収差法を考えているが、非点収差法でなく、スポットサイズ法など別の方法で行ってもよい。
図6はセンサレンズ26,31によって付与される非点収差の説明図である。同図に示すように、センサレンズは一方方向(同図MY軸方向=子線方向。)にのみレンズ効果を有している。そのため、コリメータレンズとセンサレンズによって構成される光学系の焦点の位置は、MY軸方向と、MY軸方向に垂直な方向であるMX軸方向(母線方向)とで異なっている(図6に示すMY軸焦点とMX軸焦点)。なお、MY軸方向とMX軸方向の光ビームの長さが等しい点を合焦点と称する。
フォーカスサーボでは、複数の記録層14のうちアクセス対象である記録層14で反射した記録層用光ビーム(信号光)の合掌点がちょうど光検出器6−1上に位置し、かつサーボ専用層13で反射したサーボ専用層用光ビーム(信号光)の合掌点がちょうど光検出器6−2上に位置するよう、コリメータレンズ29及び対物レンズ4の位置制御が行われる。その他の層で反射した光ビーム(迷光)の合掌点は光検出器6−1,6−2上に位置しないこととなり、迷光が光検出器6−1,6−2上に形成するスポット(迷光スポット)は、信号光が光検出器6−1,6−2上に形成するスポット(信号光スポット)に比べ、MY軸方向とMX軸方向の少なくとも一方に広がった形状を有することとなる。
図1に戻る。光検出器6−1は、光学系3から出射される記録層用光ビームの戻り光ビームの光路に交差する平面上に設置される。一方、光検出器6−2は、光学系3から出射されるサーボ専用層用光ビームの戻り光ビームの光路に交差する平面上に設置される。光検出器6−1は1つの受光面、光検出器6−2は3つの受光面をそれぞれ備えており、各受光面はそれぞれ複数の受光領域に分割されている。光学ドライブ装置1では、これらの受光領域を適宜組み合わせて用いることで、サーボ専用層用フォーカス誤差信号、記録層用フォーカス誤差信号、全加算信号(記録層プルイン信号、サーボ専用層プルイン信号、RF信号)、サーボ専用層用トラッキング誤差信号、記録層用トラッキング誤差信号などの各種信号を生成することが可能となっている。
図7及び図8はそれぞれ、本実施の形態による光検出器6−1,6−2の上面図である。これらの図には、信号光が受光面上に形成するスポットの例も示している。図8に示すスポット内の領域P1,P2は、0次回折光と±1次回折光とが干渉している領域(プッシュプル領域)である。図中に示すX,Y方向はそれぞれ、光ディスク接線方向,光ディスク半径方向に対応している。
光検出器6−1は、図7に示すように、正方形の受光面61を備えている。受光面61は、同一面積の4つの正方形(受光領域61A〜61D)に分割されている。受光面61は、記録層用光ビームの戻り光ビームを受光できる位置に配置されている。
光検出器6−2は、図8に示すように、いずれも正方形の3つの受光面62〜64を備えている。このうち受光面62は、同一面積の4つの正方形(受光領域62A〜62D)に分割されている。また、受光面63及び64は、上下2つに同一面積で分割されている(受光領域63A,63B及び受光領域64A,64B)。受光面62〜64はそれぞれ、サーボ専用層用光ビームの戻り光ビームのうち、メインビームMB、サブビームSB1、及びサブビームSB2を受光できる位置に配置されている。受光面63及び64は、差動プッシュプル法によるトラッキングサーボを行う際に用いるものである。
光ビームを受光した光検出器6−1,6−2は、受光領域ごとに、光ビームの強度を受光面で面積分して得られる値(受光量)の振幅を有する信号を出力する。以下では、受光領域Xに対応する出力信号をIXと表す。
図1に戻る。処理部7は、一例として多チャンネル分のアナログ信号をデジタルデータに変換するA/D変換機能を備えたDSP(Digital Signal Processor)で構成されており、光検出器6−1,6−2の出力信号を受け付けて上記各信号を生成するとともに、フォーカスサーボ、トラッキングサーボ、チルトサーボといった各種の対物レンズ4の位置制御を行う。
CPU8はコンピュータやDVDレコーダー等に内臓される処理装置であり、図示しないインターフェイスを介し、処理部7に対して光ディスク11上のアクセス位置を特定するための指示信号を送信する。この指示信号を受信した処理部7は、対物レンズ4を制御し、光ディスク11の表面に平行に移動させることによりオントラック状態を実現する(トラッキングサーボ)。オントラック状態になると、CPU7は処理部7が生成するRF信号をデータ信号として取得する。
ここから、記録層用光ビームを記録層14に合焦させるための処理部7の処理の詳細について説明する。併せて、光ディスク11の構造のさらなる詳細についても説明する。
図9は、処理部7の機能ブロックを示す図である。同図に示すように、処理部7は、フォーカス誤差信号生成部71(フォーカス誤差信号生成手段)、フォーカスサーボ部72(フォーカスサーボ手段)、全加算信号生成部73(プルイン信号生成手段)を有している。また、フォーカスサーボ部72は、内部に判定部74(判定手段)を有する。
フォーカス誤差信号生成部71は、図7に示した受光面61を構成する各受光領域61A〜61Dの受光量に基づいて、フォーカス誤差信号FEを生成する。具体的には、次の式(1)の演算を行って、記録層用のフォーカス誤差信号FEを生成する。
フォーカスサーボ部72は、上記フォーカス誤差信号FEの値が0となるように、対物レンズ4の位置を光ディスク11の記録面と垂直な方向に制御するための制御信号を生成する。この制御信号はアクチュエータ5に出力され、アクチュエータ5は対物レンズ4の位置を光ディスク11の記録面と垂直な方向に制御する(フォーカスサーボ)。この制御により、記録層用光ビームの焦点を、記録層14の中間部、特に吸収層17の中心(光ディスク11の記録面法線方向の中心)に合わせることが可能になる。以下、フォーカス誤差信号FEの具体例を挙げて説明する。
まず、図10(a)に、参考のために、各受光領域61A〜61Dの受光量のうち、記録層14−1(図2)の界面C1−1(図3)での反射光成分のみによって算出したフォーカス誤差信号成分FEC1−1を示す。同図において、横軸は対物レンズ4の位置(光ディスク11の法線方向の位置)である。原点は、界面C1−1に焦点が合っているときの対物レンズ4の位置としている。縦軸は、信号の振幅を示している。後掲の各図でも同様である。また、復路の光学倍率を15倍、一つの界面での反射光成分のみによって算出したフォーカス誤差信号の引き込みレンジ(ゼロクロス点を挟んで隣接する極大値間の距離)を2μmとしている。なお、以下の各図に示すフォーカス誤差信号及びその成分は近似式を用いて描画したものであり、実際に測定した結果を示すものではない。
図10(a)に示すように、フォーカス誤差信号成分FEC1−1は、光ビームの焦点が界面C1−1(図10(a)の原点)にあるときに0となる。したがって、実際には不可能であるが、仮にフォーカス誤差信号成分FEC1−1を用いてフォーカスサーボを実行したとすれば、記録層用光ビームの焦点を界面B1−1に合わせることが可能になる。
次に、図10(b)は、光ディスク11からの反射光によって得られるフォーカス誤差信号FEを示す図である。同図の例は、復路の光学倍率を15倍とし、一つの界面での反射光成分のみによって算出したフォーカス誤差信号の引き込みレンジが2μmとなる場合の例である。図2に示すように、この例における各記録層14−1〜3は、対応する中心位置P1〜P3を挟んで、対称な構造を有している。具体的には、図3に示すように、各部分記録層14a,14bは、8層の光干渉縞記録層16aと、7層の光干渉縞記録層16bとで交互に構成された15層構造を有している。したがって、この例では、光干渉縞記録層16a,16b間の界面は、界面B1−1〜界面B1−14及び界面C1−1〜界面C1−14の計28個存在する。また、光干渉縞記録層16a、吸収層17、及びスペーサ層15の屈折率は1.6とし、光干渉縞記録層16bの屈折率は1.604とした。したがって、この例においては、界面B0,B2,C0,C2では、その界面の両側に位置する層の屈折率が同じであるため、光ビームは反射しない。また、各光干渉縞記録層16a,16bの膜厚(図3に示した膜厚T1)、吸収層17の膜厚(図3に示した膜厚T2)、及び隣接する記録層14の中心位置間の距離(図2に示した距離T3)をそれぞれ、0.10125μm、1μm、及び10μmとしている。
図10(b)には、フォーカス誤差信号FEの他に、界面ごとの反射光成分のみによって算出したフォーカス誤差信号成分FEB1−1〜FEB1−14,FEC1−1〜FEC1−14も示している。フォーカス誤差信号FEは、これらのフォーカス誤差信号成分の合計信号となる。同図において、フォーカス誤差信号成分に付した上付き数字1〜3は、それぞれ記録層14−1〜3に対応する成分であることを示している。同図に示す点P1〜P3は、図2に示した各記録層14−1〜3の中心位置P1〜P3に対応している。
また、図11(a)及び(b)はそれぞれ、図10(b)の一部を拡大して示した図である。図11(a)は、図10(b)の原点付近を横方向に拡大した図であり、図11(b)は、図11(a)を縦方向に拡大した図である。
図10(b)並びに図11(a)及び(b)から理解されるように、記録層14−1〜3がそれぞれ、対応する中心位置P1〜P3を挟んで対称な構造を有する場合、フォーカス誤差信号FEがゼロとなる点は中心位置P1〜P3と一致する。したがって、フォーカス誤差信号FEを用いてフォーカスサーボを実行することで、記録層用光ビームの焦点を中心位置P1〜P3に合わせることが可能になる。
ここで、各記録層14において、部分記録層14aの0点(フォーカス誤差信号成分FEB1−1〜FEB1−14の合計信号が0になる位置)と部分記録層14bの0点(フォーカス誤差信号成分FEC1−1〜FEC1−14の合計信号が0になる位置)との間の距離は、フォーカス誤差信号の線形性を保つように、部分記録層14a,14bのフォーカス引き込みレンジの合計程度より小さいことが好ましい。以下、この点について詳しく説明する。
以上、復路の光学倍率が15倍、一つの界面での反射光成分のみによって算出したフォーカス誤差信号の引き込みレンジが2μmの時に、各部分記録層14a,14bが15層構造(厚さは、0.10125×15=1.51875μm)の時の例を示したが、部分記録層の厚さを変えた場合のフォーカス誤差信号の例を示しながら、これらの値の好ましい例について説明する。
以下では、記録層12が2つの記録層14−1,2により構成される例を用いて説明する。いずれの図においても、各記録層14−1、2は、対応する中心位置P1、P2を挟んで対称な構造を有しているとし、膜厚T1、膜厚T2、距離T3はそれぞれ、特に言及しない限り、0.10125μm、1μm、及び10μmとした。以下の説明において、信号FE14−1,FE14−2はそれぞれ、記録層14−1,2に属する界面での反射光成分のみによって算出したフォーカス誤差信号成分である。
図12は、部分記録層の層数が20層である場合の、記録層12付近における光ディスク11の断面の模式図である。この例における各部分記録層14a,14bは、10層の光干渉縞記録層16aと、10層の光干渉縞記録層16bとで交互に構成された20層構造を有している。したがって、この例では、1つの記録層14あたりの光干渉縞記録層16a,16b間の界面は、界面B1−1〜界面B1−19及び界面C1−1〜界面C1−19の計38個存在する。なお、図示していないが、図2に示した例と同様に、スペーサ層15には光干渉縞記録層16aが隣接するとした。これは、後掲の各例でも同様である。そして、光干渉縞記録層16a及びスペーサ層15の屈折率を1.604とし、光干渉縞記録層16b及び吸収層17の屈折率を1.6とした。したがって、この例においても、界面B0,B2,C0,C2では、その界面の両側に位置する層の屈折率が同じであるため、光ビームは反射しない。
図13は、図12の例における信号FE14−1,FE14−2,FEを、図10(b)と同様に示したものある。
部分記録層が20層である場合、図13に示すように、フォーカス誤差信号FEのゼロクロス点(P1,P2)付近での線形性が悪くなっている。したがって、この例のように部分記録層を20層とすることは好ましくない。なお、図示していないが、部分記録層が20層より多い場合、線形性はさらに悪化する。したがって、部分記録層の層数は、20層よりも少ない方が好ましい。ただし、少なすぎると部分記録層の反射率が低下し、フォーカス誤差信号FEの振幅が小さくなるため、線形性が問題にならない範囲で、できる限り層数を多くするのがよい。
図14は、部分記録層の層数が17層である場合の、記録層12付近における光ディスク11の断面の模式図である。この例における各部分記録層14a,14bは、9層の光干渉縞記録層16aと、8層の光干渉縞記録層16bとで交互に構成された17層構造を有している。したがって、この例では、1つの記録層14あたりの光干渉縞記録層16a,16b間の界面は、界面B1−1〜界面B1−16及び界面C1−1〜界面C1−16の計32個存在する。また、光干渉縞記録層16a、吸収層17、及びスペーサ層15の屈折率は1.6とし、光干渉縞記録層16bの屈折率は1.604とした。したがって、この例においても、界面B0,B2,C0,C2では、その界面の両側に位置する層の屈折率が同じであるため、光ビームは反射しない。
図15は、図14の例における信号FE14−1,FE14−2,FEを、図10(b)と同様に示したものある。
図15と図13を比較すると明らかなように、部分記録層の層数が17層である場合、20層である場合に比べて、フォーカス誤差信号FEのゼロクロス点(P1,P2)付近での線形性が改善されている。
図16は、部分記録層の層数が10層である場合の、記録層12付近における光ディスク11の断面の模式図である。この例における各部分記録層14a,14bは、5層の光干渉縞記録層16aと、5層の光干渉縞記録層16bとで交互に構成された10層構造を有している。したがって、この例では、1つの記録層14あたりの光干渉縞記録層16a,16b間の界面は、界面B1−1〜界面B1−9及び界面C1−1〜界面C1−9の計18個存在する。また、光干渉縞記録層16a及びスペーサ層15の屈折率を1.604とし、光干渉縞記録層16b及び吸収層17の屈折率を1.6とした。したがって、この例においても、界面B0,B2,C0,C2では、その界面の両側に位置する層の屈折率が同じであるため、光ビームは反射しない。
図17は、図16の例における信号FE14−1,FE14−2,FEを、図10(b)と同様に示したものある。
図17から理解されるように、部分記録層の層数が10層である場合も、部分記録層の層数が17層である場合(図15)と同様に、フォーカス誤差信号FEのゼロクロス点(P1,P2)付近で良好な線形性が得られている。
図18は、部分記録層の層数が5層である場合の、記録層12付近における光ディスク11の断面の模式図である。この例における各部分記録層14a,14bは、3層の光干渉縞記録層16aと、2層の光干渉縞記録層16bとで交互に構成された5層構造を有している。したがって、この例では、1つの記録層14あたりの光干渉縞記録層16a,16b間の界面は、界面B1−1〜界面B1−4及び界面C1−1〜界面C1−4の計8個存在する。また、光干渉縞記録層16a、吸収層17、及びスペーサ層15の屈折率は1.6とし、光干渉縞記録層16bの屈折率は1.604とした。したがって、この例においても、界面B0,B2,C0,C2では、その界面の両側に位置する層の屈折率が同じであるため、光ビームは反射しない。
図19は、図18の例における信号FE14−1,FE14−2,FEを、図10(b)と同様に示したものある。
図19から理解されるように、部分記録層の層数が5層である場合も、部分記録層の層数が17層,10層である場合(図15,図17)と同様に、フォーカス誤差信号FEのゼロクロス点(P1,P2)付近で良好な線形性が得られている。
図20は、部分記録層の層数が30層である場合の、記録層12付近における光ディスク11の断面の模式図である。この例における各部分記録層14a,14bは、15層の光干渉縞記録層16aと、15層の光干渉縞記録層16bとで交互に構成された30層構造を有している。したがって、この例では、1つの記録層14あたりの光干渉縞記録層16a,16b間の界面は、界面B1−1〜界面B1−29及び界面C1−1〜界面C1−29の計58個存在する。また、光干渉縞記録層16a及びスペーサ層15の屈折率を1.604とし、光干渉縞記録層16b及び吸収層17の屈折率を1.6とした。したがって、この例においても、界面B0,B2,C0,C2では、その界面の両側に位置する層の屈折率が同じであるため、光ビームは反射しない。
図21は、図20の例における信号FE14−1,FE14−2,FEを、図10(b)と同様に示したものある。
図13に示したように、部分記録層の層数が20層である場合は、フォーカス誤差信号FEのゼロクロス点(P1,P2)付近での線形性が悪くなっていて、図示していないが、部分記録層の層数が増えていくと、線形性はより悪化していく。部分記録層の層数がさらに増え、30層の場合は、図21に示すように、ゼロクロス点が点P1,P2以外にも複数生じてくるようになり、フォーカスサーボを実施するにあたり、複数の中から点P1,P2の点を認識させるプロセスが必要となる。したがって、このように点P1,P2以外のゼロクロス点を生ずる層数30層は好ましくない。
図22は、部分記録層の層数が40層である場合の、記録層12付近における光ディスク11の断面の模式図である。この例における各部分記録層14a,14bは、20層の光干渉縞記録層16aと、20層の光干渉縞記録層16bとで交互に構成された40層構造を有している。したがって、この例では、1つの記録層14あたりの光干渉縞記録層16a,16b間の界面は、界面B1−1〜界面B1−39及び界面C1−1〜界面C1−39の計78個存在する。また、光干渉縞記録層16a及びスペーサ層15の屈折率を1.604とし、光干渉縞記録層16b及び吸収層17の屈折率を1.6とした。したがって、この例においても、界面B0,B2,C0,C2では、その界面の両側に位置する層の屈折率が同じであるため、光ビームは反射しない。
図23は、図22の例における信号FE14−1,FE14−2,FEを、図10(b)と同様に示したものある。
図23から明らかなように、部分記録層の層数が40層である場合にも、部分記録層の層数が30層である場合と同様、P1,P2以外のゼロクロス点が複数生ずる。したがって、層数40層も好ましくない。
図24は、図12の例において、吸収層17と吸収層17に隣接する光干渉縞記録層16aとの間に、厚さ2μmの反射型ホログラムではないホログラム層16cを挿入した場合の、記録層12付近における光ディスク11の断面の模式図である。即ち、この例における各部分記録層14a,14bは、1層の反射型ホログラムではないホログラム層16cに、10層の光干渉縞記録層16aと、10層の光干渉縞記録層16bとで交互に構成された20層構造が積層された構造を有している。したがって、この例では、1つの記録層14あたりの光干渉縞記録層16a,16b間の界面は、界面B1−1〜界面B1−20及び界面C1−1〜界面C1−20の計40個存在する。また、ホログラム層16c、光干渉縞記録層16a、吸収層17、及びスペーサ層15の屈折率は1.6とし、光干渉縞記録層16bの屈折率は1.604とした。したがって、この例においても、界面B0,B2,C0,C2では、その界面の両側に位置する層の屈折率が同じであるため、光ビームは反射しない。
図25は、図24の例における信号FE14−1,FE14−2,FEを、図10(b)と同様に示したものある。
図25から明らかなように、この例でもP1,P2以外のゼロクロス点が複数生じている。したがって、吸収層17の両隣に反射型ホログラムではないホログラム層16cを設けることは好ましくない。
以上より、復路光学倍率が15倍、一つの界面での反射光成分のみによって算出したフォーカス誤差信号の引き込みレンジが2μmで吸収層が1μmの場合には、吸収層のすぐ隣に、およそ20層以下の反射型ホログラムを部分記録層として用いると、ゼロクロス点が複数生じることなく、また、所望のゼロクロス点付近の線形性も良くなることが理解される。吸収層を薄くすると、その分反射型ホログラムの層数を、線形性を保ちつつ多くすることができ、反射率も大きくなる。したがって、吸収層はできるだけ薄いことが好ましい。
実際には、吸収層の厚さの下限値は、吸収層から発生する熱量(温度)とホログラム層を変形させるために必要な熱量(温度)との兼ね合いで決められ、材料の特性に依存する。
ただし、焦点深度外の反射光が悪影響を及ぼす場合は、反射型ホログラムの層数は、吸収層と各部分記録層14a,14bの合計の厚さが焦点深度以下になるように決めるのが好ましい。よって、反射型ホログラムの層数は、線形性や焦点深度を考慮して決められる。
図26は、図18に示した光ディスク11を用い、復路の光学倍率を30倍とし、一つの界面での反射光成分のみによって算出したフォーカス誤差信号の引き込みレンジが1μmとなる場合の信号FE14−1,FE14−2,FEを、図10(b)と同様に示したものある。
図26から理解されるように、この場合、復路の光学倍率が15倍、フォーカス誤差信号の引き込みレンジが2μmである図19の場合に比べて、一つの界面での反射光成分のみによって算出したフォーカス誤差信号FEのゼロクロス点(P1,P2)付近での線形性が悪くなっている。したがって、少なくとも部分記録層の層数が5層の場合、復路の光学倍率を30倍、一つの界面での反射光成分のみによって算出したフォーカス誤差信号の引き込みレンジを1μmとすることは好ましくない。
図Y2(a)は、部分記録層の層数が4層である場合の、記録層12付近における光ディスク11の断面の模式図である。この例における各部分記録層14a,14bは、2層の光干渉縞記録層16aと、2層の光干渉縞記録層16bとで交互に構成された4層構造を有している。したがって、この例では、1つの記録層14あたりの光干渉縞記録層16a,16b間の界面は、界面B1−1〜界面B1−3及び界面C1−1〜界面C1−3の計6個存在する。また、光干渉縞記録層16a及びスペーサ層15の屈折率を1.604とし、光干渉縞記録層16b及び吸収層17の屈折率を1.6とした。したがって、この例においても、界面B0,B2,C0,C2では、その界面の両側に位置する層の屈折率が同じであるため、光ビームは反射しない。
図28は、図27の光ディスク11を用い、その他は図26と同条件下で得られる信号FE14−1,FE14−2,FEを、図10(b)と同様に示したものある。
図28から理解されるように、この場合、図26の場合に比べて、フォーカス誤差信号FEのゼロクロス点(P1,P2)付近での線形性が良くなっている。
図29は、部分記録層の層数が3層である場合の、記録層12付近における光ディスク11の断面の模式図である。この例における各部分記録層14a,14bは、2層の光干渉縞記録層16aと、1層の光干渉縞記録層16bとで交互に構成された3層構造を有している。したがって、この例では、光干渉縞記録層16a,16b間の界面は、界面B1−1〜界面B1−2及び界面C1−1〜界面C1−2の計4個存在する。また、光干渉縞記録層16a、吸収層17、及びスペーサ層15の屈折率は1.6とし、光干渉縞記録層16bの屈折率は1.604とした。したがって、この例においても、界面B0,B2,C0,C2では、その界面の両側に位置する層の屈折率が同じであるため、光ビームは反射しない。
図30は、図29の光ディスク11を用い、その他は図26と同条件下で得られる信号FE14−1,FE14−2,FEを、図10(b)と同様に示したものある。
図30から理解されるように、この場合、図28の場合と同様に、フォーカス誤差信号FEのゼロクロス点(P1,P2)付近において、良好な線形性が得られている。
以上のように、復路光学倍率が30倍、一つの界面での反射光成分のみによって算出したフォーカス誤差信号の引き込みレンジが1μmの場合には、吸収層のすぐ隣に、およそ5層以下の反射型ホログラムを部分記録層として用いると、所望のゼロクロス点付近の線形性も良くなってくる。このように、フォーカス誤差信号の引き込みレンジ(復路光学倍率)の値によって、最適な反射型ホログラム層の構造が決められる。ただし、反射型ホログラム層を構成する光干渉縞記録層数が少なくなってくると、その分反射が減り、反射光強度が小さくなってくる。
線形性の観点からは、反射型ホログラム層の中心間の距離が一つの界面での反射光成分のみによって算出したフォーカス誤差信号の引き込みレンジの値のおよそ1.5倍より小さくなるように、吸収層の厚さ、反射型ホログラムの厚さ(干渉縞記録層数)を決めればよいことが分かる。
図9に戻る。全加算信号生成部73は、記録層用光ビームを受光するための受光面61を構成する各受光領域61A〜61Dの受光量に基づいて、RF信号RF及びプルイン信号PIを生成する。具体的には、次の式(2)の演算を行ってこれらの信号を生成する。式(2)から明らかなように、RF信号RFとプルイン信号PIとは同一の信号である。ただし、プルイン信号PIは通常、ローパスフィルタを通すことにより帯域制限がなされた状態で出力される。帯域制限をするのは、符号Mの有無に応じた変動やノイズを除去するためである。
RF信号RFは、データ信号としてCPU8に入力される。CPU8は、RF信号RFに基づいて光ディスク11に書き込まれている情報を取得する。
プルイン信号PIはフォーカスサーボ部72において層認識のために用いられる。つまり、プルイン信号PIは、光ビームの焦点位置が層間を移動する際、記録層14付近に焦点が合っているときに極大になるという性質を有している。部分記録層14a及び14bの中心付近では、それぞれの光干渉縞記録層からのプルイン信号の加算により、極大値をもつ。記録層14のプルイン信号PIは、部分記録層14aと14bのプルイン信号の加算となり、部分記録層の中心間の距離が小さくなってくると記録層14の中心に極大点を持つことになる。フォーカスサーボ部72は、このようなプルイン信号PIの性質を利用し、各記録層14に対応する焦点位置の範囲を検出する。そして、検出された複数(記録層14の数分)の範囲の中からアクセス対象である記録層14に対応する焦点位置の範囲を選択し、その範囲内でフォーカスサーボを行う。これにより、アクセス対象である記録層14の吸収層17に焦点を合わせることが可能になる。以下、プルイン信号PIの具体例を挙げて説明する。
まず、図31に、参考のために、各受光領域61A〜61Dの受光量のうち、記録層14−1(図2)の界面C1−1(図3)での反射光成分のみによって算出したプルイン信号成分PIC1−1を示す。同図の横軸及び縦軸は、図10(a)と同様である。なお、以下の各図に示すプルイン信号及びその成分も近似式を用いて描画したものであり、実際に測定した結果を示すものではない。
図31に示すように、プルイン信号成分PIC1−1は、光ビームの焦点が界面C1−1(図31の原点)付近にあるときに最大となる。したがって、実際には不可能であるが、仮にプルイン信号成分PIC1−1を用いて層認識を実行したとすれば、フォーカス誤差信号成分FEC1−1と併せて記録層用光ビームの焦点を界面C1−1に合わせることが可能になる。即ち、フォーカス誤差信号がゼロとなる点は図10より、焦点が離れていく場合でも存在するため、焦点が合っているゼロ点を選択できるように、プルイン信号のスライス信号がハイであるという条件を組合わせている。よって、プルイン信号は層認識以外にも、正しく焦点位置を合わすために、フォーカス誤差信号と組合わせて用いられる。
次に、図32(a)は、図10(b)と同じ条件下で得られるプルイン信号PIを示す図である。同図には、界面ごとの反射光成分のみによって算出したプルイン信号成分PIB1−1〜PIB1−14,PIC1−1〜PIC1−14も示している。同図において、これらのプルイン信号成分に付した上付き数字1〜3は、それぞれ記録層14−1〜3に対応する成分であることを示している。プルイン信号PIは、これらのプルイン信号成分の合計信号となる。また、同図には、他にも、記録層14−1の部分記録層14aに属する界面での反射光成分のみによって算出したプルイン信号成分PI14−1a、記録層14−1の部分記録層14bに属する界面での反射光成分のみによって算出したプルイン信号成分PI14−1b、記録層14−2の部分記録層14aに属する界面での反射光成分のみによって算出したプルイン信号成分PI14−2a、記録層14−2の部分記録層14bに属する界面での反射光成分のみによって算出したプルイン信号成分PI14−2b、記録層14−3の部分記録層14aに属する界面での反射光成分のみによって算出したプルイン信号成分PI14−3a、記録層14−3の部分記録層14bに属する界面での反射光成分のみによって算出したプルイン信号成分PI14−3b、プルイン信号成分PI14−1aとプルイン信号成分PI14−1bの加算信号PI14−1、プルイン信号成分PI14−2aとプルイン信号成分PI14−2bの加算信号PI14−2、プルイン信号成分PI14−3aとプルイン信号成分PI14−3bの加算信号PI14−3も示している。同図に示す点P1〜P3は、図10(b)に示したものと同様、記録層14−1〜3の吸収層17の中心の位置に対応している。
また、図32(b)は、図32(a)の原点付近を、縦方向及び横方向に拡大して示した図である。
上述したように、プルイン信号PIは層認識に用いられる。しかし、これはプルイン信号PIが各記録層14の中心位置P1〜P3付近でそれぞれ極大値を有するからこそ可能になることである。つまり、これらの極大値と層間の極小値との間にしきい値を設定し、プルイン信号PIの値とこのしきい値とを比較し、このしきい値より高くなっている部分を検出することで、層認識を行うことが可能になる。
しかしながら、図32(a)に示したプルイン信号PIは上記のような極大値を有しておらず、記録層ごとに分離されていない。したがって、このプルイン信号PIでは記録層14−1〜3の層認識が行えない。よって、何かしらの方法でプルイン信号PIの層間分離を行う必要がある。単純に、スペーサ層の厚みを大きくしていくと、層間分離がされてくるが、メディアの厚さが大きくなり、好ましくない。
図33は、図26と同じ条件下(復路光学倍率が30倍で、フォーカス誤差信号の引き込みレンジが1μm。記録層12が2つの記録層14−1,2により構成される。)で得られるプルイン信号PIを示す図である。同図に示す各信号の意味は、図32(a)と同様である。
この場合、加算信号であるプルイン信号PIが記録層ごとに分離されているため、層認識が可能である。受光面上のスポット光の直径Rは、復路光学倍率をβ、対物レンズのNA、フォーカス誤差信号の引き込みレンジxを用いて、R=2×β×NA×xと表されるため、同じスポット光サイズにおいて、引き込みレンジが半分になれば、復路光学倍率を2倍にする必要がある。このように、復路光学倍率を大きくすることができれば、プルイン信号PIの層間分離がされてくる。
図34は比較例として、復路光学倍率が15倍で、一つの界面での反射光成分のみによって算出したフォーカス誤差信号の引き込みレンジが2μmの時の図であり、これらの条件以外は図33と同じである。
層認識について具体的に説明する。フォーカスサーボ部72は、初めに対物レンズ4を光ディスク11の記録面法線方向に移動させ、同時に、判定部74にプルイン信号PIの値としきい値とを比較させる。そして、判定部74による比較の結果、しきい値より大きいプルイン信号PIが得られていたときの対物レンズ4の位置の範囲を、記録層14に対応する焦点位置の範囲であると認識して記憶する。図32(a)の例では、それぞれ記録層14−1〜3に対応する3つの範囲R1〜R3が記憶されることになる。
フォーカスサーボ部72は、アクセス対象層である記録層14に対応する焦点位置の範囲内においてフォーカスサーボを実施する。例えば、記録層14−2がアクセス対象層である場合には、範囲R2の中で対物レンズ4の位置制御を行うことにより、フォーカスサーボを実施する。上述したように、フォーカス誤差信号FEは、光ビームの焦点が各記録層14の中心位置にあるときに0となるので、上記処理により、アクセス対象である記録層14の吸収層17の中心に記録層用光ビームの焦点を合わせることが可能になる。
以上説明したように、本実施の形態による光学ドライブ装置1によれば、記録層14の中間部に吸収層17を設けることにより、スペーサ層15や吸収層17の界面での反射を用いずに、反射型ホログラムの光干渉縞記録層間の滑らかな界面での反射光を用いてフォーカス制御が行えるため、精度よく吸収層17に焦点を合わすことが可能になる。
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
例えば、上記実施の形態では記録層14の中間部に吸収層17を設けたが、吸収層17がなくとも記録層14の中間部に光ビームの焦点を合わせることができるのはもちろんである。
図35(a)は、吸収層17を有しない記録層14を用いる場合のフォーカス誤差信号FEの例を示している。図35(b)は、図35(a)の原点付近を縦方向に拡大した図である。
図35(a)及び(b)から理解されるように、吸収層17を有しない記録層14でも、記録層14の中心位置P4においてフォーカス誤差信号FEは0となっている。したがって、フォーカスサーボによって記録層14の中心位置P4に光ビームの焦点を合わせることは可能である。