JP5111016B2 - 表面親水性ポリオレフィン成形体およびその製造方法 - Google Patents

表面親水性ポリオレフィン成形体およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、高い濡れ特性や低摩擦特性などの表面性状を有する、表面親水性ポリオレフィン成形体およびその製造方法に関する。
ポリオレフィンは、加工性、耐薬品性、機械的強度、透明性などの物性が優れているために、フィルム、シート、容器などをはじめとする各種成形品として広く使用されている。しかしながら、ポリオレフィンは本来疎水性であるために、成形品の表面を塗装する必要があるなど、用途によっては、そのままでは対処できないという問題点がある。
例えば、包装材料として広く使用されている二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)のガスバリアー性を高めるために、ポリビニルアルコール水溶液を塗布し、ポリビニルアルコールの薄膜を形成させる場合には、OPP表面が本質的に疎水性であるために、ポリビニルアルコール水溶液を均一に塗布させることができないという問題がある。このような問題は、一般の親水性が不足するポリオレフィン成形品に水性塗料や他の重合体水性分散液などを塗布する場合にも同様に起こる。
表面の親水性を高めたポリオレフィン成形品を得るためには、熱処理、波動エネルギーまたは粒子線による処理、プラズマ重合、コロナ処理などさまざまな表面処理が試みられており、それぞれに一応の成果を上げている。コロナ処理はポリオレフィン成形品の親水性を高めるために利用されているが、ポリプロピレンのような熱分解型ポリオレフィンの場合には、処理後に経時的に親水性が低下する傾向が見られ、根本的な解決方法とは言えない状況にある。熱分解型ポリオレフィンにおけるこのように親水性が低下する原因は、熱分解型ポリオレフィンにおいては、成形時に生成した低分子量重合体が経時的に表面にブリードアウトし、これがコロナ処理面を覆うためと考えられる。
また、プラズマ重合による表面処理では、重合にあずかる単位は、モノマー連鎖重合体ではなく、モノマーを形成している原子であって、重合の過程において原子の再配列が盛んに行われる。その結果、生じたポリマーの分子構造と出発物質のモノマーの分子構造との間には、構造上の類似性が極めて低いことが知られている(非特許文献1)。このようなことから、モノマーの官能基構造から発現される物性をポリオレフィン成形体表面に反映させることが難しいという問題点が挙げられる。また、特許文献1に示されるように、高分子に紫外線照射により高親水性モノマーをグラフト化せることで、人工関節部材として高摺動化を図る手法が開示されている。しかしながら、一般に紫外線照射では、ポリオレフィンの如くC−C結合、C−H結合のみからなる高分子の結合を解離させ、ラジカルを発生させることは難しい(非特許文献2)。そのため、ベンゾフェノンのような光増感剤等の添加が必要となるが、この場合、ポリオレフィン表面のみならず、よりラジカルを発生しやすいモノマー分子へのラジカル発生等を促進させ、非グラフト化ポリマーの生成などを起こす問題がある。また、表面に生成したラジカルからの重合もフリーラジカル機構で進行するため、分子量や分子量分布を適切にコントロールすることが難しいという問題があった。
一方、ポリオレフィンフィルム表面に導入した重合開始基から極性モノマーを制御ラジカル重合(controlled radical polymerization)させることで(メタ)アクリルエステ
ルやアクリルアミドを表面にグラフト化させたポリオレフィンフィルムを調製する手法が報告されている。例えば、非特許文献3に記載されているように、高密度ポリエチレンフィルム表面にメタクリル酸重合体を導入した例、非特許文献4に記載されているように、
イソタクチックポリプロピレンフィルム表面にN-イソプロピルアクリルアミド重合体を導入した例、または、非特許文献5に記載されているように、エチレン−アクリル酸共重合体フィルム表面にアクリルアミド重合体をグラフト化した例等が挙げられる。これらに報告されている方法は、ポリオレフィンフィルム表面のみを極性モノマー重合体に導入することを可能にし、先に述べたブリードアウトの問題が改善されるか、あるいは、単独重合体生成等の副反応が抑えられる温和な表面改質方法だといえる。しかしながら、いずれの技術も、ポリオレフィン成形体表面の高親水性化という観点からは、必ずしも十分であるとはいえない。
特開2003−310649号公報 H. Yasuda, Glow Discharge Polymerization, <Contemporary Topics in Polymer Science>, Vol.3, ed. by Mitchel Shen, Plenum Pub. Co., New York(1979) K. Tsuji, Journal of Polymer Science, 467 11 (1973) J.Polym.Sci, Part A: Polymer Chemistry 40, 3350-3359(2002)やPolymer, 44,7661-7669(2003) Polymer, 44,7645-7649 (2003) J. Appl. Polym. Sci., 92, 1589-1595 (2004)
本発明は、ポリオレフィンが有する加工性、耐薬品性、機械的強度などの物性を実質的に損なうことなく、その成形体表面に高度な親水性が付与されており、その親水性能の経時的低下が少ないポリオレフィン成形体およびその製造方法を提供することを課題としている。
本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体は、ポリオレフィン成形体(A)の表面の少なくとも一部に、双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)が形成されていることを特徴としている。
このような本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体は、ポリオレフィン成形体(A)の表面と、双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)との間に、共有結合が存在することが好ましい。
本発明の表面親水性ポリオレフィンは、双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)が、表面に重合開始基を有するポリオレフィン成形体(A)上で、双極イオン性ビニル系モノマーをラジカル重合して形成されたものであることが好ましい。
本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体は、気温25℃、湿度45%の条件下で測定される水接触角が、20°未満であることが好ましい。
本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体の製造方法は、表面に重合開始基を有するポリオレフィン成形体(A)上で、双極イオン性ビニル系モノマーを重合させて、双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)を形成することを特徴としている。
また、本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体の製造方法は、
ポリオレフィン成形体(A)の表面の少なくとも一部に、重合開始基を導入する工程と、
表面に重合開始基を有するポリオレフィン成形体(A)上で、双極イオン性ビニル系モノマーを重合させて、双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)を形成する工程とを有することを特徴としている。
これらの本発明の表面親水性ポリオレフィンの製造方法では、ラジカル重合を制御ラジカル重合法により行うのが好ましく、原子移動ラジカル重合法により行うのがより好ましい。
本発明の表面親水性ポリオレフィンの製造方法では、上記本発明の成形体を得ることが好ましい。
本発明によれば、ポリオレフィンが有する加工性、耐薬品性、機械的強度などの物性を実質的に損なうことなく、その成形体表面に高度な親水性が付与されており、その親水性能の経時的低下が少なく、濡れ特性や低摩擦性に優れたポリオレフィン成形体およびその製造方法を提供することができる。
以下、本発明について具体的に説明する。
<表面親水性ポリオレフィン成形体>
本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体は、ポリオレフィン成形体(A)の表面の少なくとも一部に、双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)が形成されており、ポリオレフィン成形体(A)の表面が、双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)により高親水化されている。
(A)ポリオレフィン成形体
本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体を構成するポリオレフィン成形体(A)は、ポリオレフィン樹脂を必須とする成形体であって、ポリオレフィン樹脂あるいはポリオレフィン樹脂を含む樹脂組成物を、圧縮成形、射出成形、押出成形、押出しラミネート成形、インフレーション加工、中空成形、あるいはそれらを二次加工したものなど、形状を保持できるものである。
本発明に用いられるポリオレフィン成形体(A)は、表面の一部または全面に、ポリオレフィン樹脂が露出している成形体であって、このような要件を満たす限りは、ポリオレフィン以外の材料との複合加工品の一部であってもかまわない。
本発明に係るポリオレフィン成形体(A)を構成するポリオレフィン樹脂とは、エチレンおよび/またはα−オレフィンを主成分モノマーとする(共)重合体であり、好ましいポリオレフィン樹脂として、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、エチレン系エラストマー、プロピレン系エラストマー、イソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、高圧法低密度ポリエチレン及びそのアクリル酸、アクリル酸エステル、酢酸ビニルとのコポリマー、ポリオレフィン系アイオノマー、4−メチル−1−ペンテン(共)重合体、エチレン−環状オレフィン共重合体、エチレンおよび/またはα−オレフィンと極性基含有モノマーとの共重合体などが挙げられる。
これらのポリオレフィン樹脂は、部分的または樹脂全体として架橋されていたり、3次元ネットワーク構造を形成していてもよく、また、2種類以上の重合体セグメントが、ブロック的に結合した構造や、グラフト状に結合した構造を有していてもよく、あるいは、モノマー組成が傾斜的に変化する重合体であってもよい。また、過酸化物存在下、アクリル酸エステルや無水マレイン酸などで、グラフト変性されたポリオレフィン樹脂など、上記のポリオレフィン樹脂を任意の方法で変性させた樹脂も、本発明に係るポリオレフィン成形体(A)を構成するポリオレフィン樹脂として用いることができる。
これらのポリオレフィン樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を含む樹脂組成物として用いてもよく、また、ポリオレフィン樹脂以外の樹脂成分を本発明の目的を損なわない範囲で含有した樹脂組成物として用いてもよい。
本発明に係るポリオレフィン成形体(A)を構成するポリオレフィン樹脂あるいはポリオレフィン樹脂組成物には、双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)の形成を阻害しない範囲において、各種添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、例えば軟化剤、安定剤、充填剤、酸化防止剤、結晶核剤、ワックス、増粘剤、機械的安定性付与剤、レベリング剤、濡れ剤、造膜助剤、架橋剤、防腐剤、防錆剤、顔料、充填剤、分散剤、凍結防止剤、消泡剤等が挙げられ、これらは単独で、或いは2種類以上組み合わせて配合することができる。
(B)双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層
本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体を構成する、双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)は、双極イオン性を有するビニル系モノマーを重合あるいは共重合して得られる(共)重合体の層である。
双極イオン性を有するビニル系モノマーとは、モノマー1分子中に双極イオン(zwitterion)を有する、つまり、分子内に陽電荷を持つ残基と負電荷を持つ残基とを有し、それらが中和する形で塩を形成しているビニル系モノマーである。
双極イオン性を有するビニル系モノマーの基本構造となるビニル系モノマーとは、1分子中に1つ以上の炭素−炭素二重結合を有する化合物であり、好ましくはアニオン重合またはラジカル重合可能なモノマーである。このようなビニル系モノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル系モノマー、メタクリル酸エステル系モノマー、スチリル系モノマー、(メタ)アクリルアミド系モノマー等が特に好ましい。
双極イオン性を有するビニル系モノマーの、陽電荷を有する残基としては、4級アンモニウムカチオン、N−アルキルイミダゾールカチオン、N−アルキルピリジニウムカチオン等が好ましく挙げられる。また、負電荷を有する残基としては、硫酸アニオン、リン酸アニオン、ホウ酸アニオン、カルボキシレート等が好ましく挙げられる。
双極イオン性を有するビニル系モノマーとしては、具体的には、4級アンモニウムカチオンとリン酸アニオンの塩からなるメタクリル酸エステル系モノマーの2−メタクリルオキシエチルホスホリルコリンや、4級アンモニウムカチオンと硫酸アニオンの塩からなるメタクリル酸エステル系モノマーである3-(N-[2-メタクリロイロキシエチル]−N,N-ジメ
チルアンモニオ)プロパンスルホネート、4級アンモニウムカチオンと硫酸アニオンの塩
からなるメタクリルアミド系モノマーの(3-(メタクリロイルアミノ)プロピル)ジメチル−3−スルホプロピル)アンモニウム塩、4級ピリジニウムカチオンと硫酸アニオンの塩からなる、1-(3-スルホプロピル)-2-ビニルピリジニウムヒドロキシド等が、親水性に優れ
る双極イオン性ビニル系モノマーとして例示される。中でも、特開昭54−63025号公報に示されるように、2−メタクリルオキシエチルホスホリルコリンの重合体は、生体組織に対して優れた適合性を示すことが知られており、医療・衛生用材料に本発明の成形体を用いる場合、特に好ましく用いることができる。
本発明では、これらの双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体が、ポリオレフィン成形体(A)上に形成される。本発明では、これら双極イオン性ビニル系モノマーの単独重合体がポリオレフィン成形体表面にグラフトされていることが好ましく、また、2種類以上の双極イオン性ビニル系モノマーの共重合体として用いられて良い。更に、場合によっては、双極イオン性ビニル系モノマーの特徴である親水性を残す範囲で、他のあらゆ
るビニル系モノマーとの共重合体としてグラフト化されていてもいよい。
双極イオン性ビニル系モノマーが他のビニル系モノマーと共重合されている場合、共重合体(B)セグメント中に、双極イオン性ビニル系モノマーがランダムに共重合されていても、ブロック的に共重合されていても、傾斜的に共重合されていても良い。
双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体(B)の分子量は、通常200〜1,000,000g/molの範囲で、2,000〜1,000,000g/molの範囲であることが好ましく挙げられるが、重合体(B)が架橋構造を有している場合は、分子量に制限はない。
本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体では、双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)が、ポリオレフィン成形体(A)上の表面親水性を付与すべき個所に、膜状に形成されているのが望ましい。双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)の膜厚は、特に制限はないが、数十nm程度の膜厚で、十分に双極イオン性ビニル系モノマー特有の高親水性を付与することが可能である。
双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)は、単に、ポリオレフィン成形体(A)上に形成されていてもよいが、好ましくは、双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)が、少なくともそのポリマー末端において、ポリオレフィン成形体(A)表面のポリオレフィン樹脂鎖と、共有結合により連結していることが望ましい。
この共有結合様式においては、当該双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体(B)は、ポリオレフィン成形体(A)表面に存在するポリオレフィン鎖と直接共有結合で結ばれていることが好ましいが、表面を被覆する重合体(B)の親水性能を損なわない程度の短いスペーサー連結部(好ましくは、重合体(B)の重量に対し5重量%未満)を有していてもよい。
このような本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体は、高度な親水性を有しており、良好な濡れ特性や低摩擦性を示す。また、高度な親水性を長期にわたり維持することができる。
本発明の表面親水性ポリオレフィンは、好ましくは、気温25℃、湿度45%の条件下で測定される水接触角が、20°未満、好ましくは2〜15°より好ましくは3〜12°の範囲にある。
<表面親水性ポリオレフィン成形体の製造方法>
本発明の表面親水性ポリオレフィン系成形体は、ポリオレフィン成形体(A)表面に存在する重合開始基を開始反応点として、上述した双極イオン性ビニル系モノマーを重合させて、双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)を形成することにより、好適に製造することができる。
本発明に係るポリオレフィン成形体(A)を調製するための成形加工法は特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形法、すなわち射出成形、押出成形、中空成形、熱成形、プレス成形などの各種成形法が適応できる。また、これらは、ポリオレフィン以外の各種材料との複合材料としても適用される。
本発明の表面親水性ポリオレフィン成形体の製造方法においては、双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)の形成に際して、表面に重合開始基を有するポリオレフィン成形体(A)を用いてもよく、また、ポリオレフィン成形体(A)の表面の少なくとも一部に、重合開始基を導入して用いてもよい。ポリオレフィン成形体(A)の表面に
、重合開始基を導入する方法は、特に限定されるものではないが、あらかじめ、重合開始基が導入されたポリオレフィン樹脂を成形しても、逆に、ポリオレフィン成形体に低分子あるいは高分子の重合開始基を表面修飾させても良い。また、フィルムやシートに成形された、重合開始基が導入されたポリオレフィン樹脂を他の樹脂フィルム成形体、金属、紙、木材などに積層化した状態で、双極イオン性ビニル系モノマーを重合させてもよい。
表面に重合開始基を有するポリオレフィン成形体(A)上で、双極イオン性ビニル系モノマーを重合させる方法として、アニオン重合法または、制御ラジカル重合法が有力な方法として適用可能であるが、双極性ビニルモノマーの性質を勘案すると制御ラジカル重合法が好ましく用いられる。つまり、アニオン重合法などのイオン重合法は、本系に用いられる双極イオン性モノマーが重合活性点の被毒化を起こすことが問題となる場合がある。
一方、同じラジカル種が活性種となる従来法、すなわち、有機過酸化物等のラジカル発生剤を作用させる方法、あるいは、X線照射、ガンマ線照射、電子線照射、マイクロ波、紫外線照射等を経由するグラフト化手法が知られている。しかし、これらの手法は副反応であるポリオレフィンの架橋や分解反応等が生成する、あるいは、グラフト化していないビニルモノマーホモ重合体が生成してしまうといった問題だけでなく、グラフト化された重合体を表面に高密度化させたり、高分子量化させることが難しいという問題から、双極イオン性ビニル系モノマーをポリオレフィン成形体表面に導入する技術としては万能とは言い難い。
制御ラジカル重合とは、従来の過酸化物添加系によるフリーラジカル重合技術と異なり、重合系中のラジカル濃度を低く抑えることで、停止反応や連鎖移動反応などの副反応を抑えたラジカル重合技術である。本方法によれば、しばしば重合がリビング重合的に進行することから、高分子量かつ挟分子量分布のポリマーを得ることが可能である。
本発明に適用される好ましい制御ラジカル重合法として、Trend Polym. Sci., (1996
), 4, 456 に開示されているように、ニトロキシドを有する基を結合し、熱的な開裂に
よりラジカルを発生させてモノマーを重合させる方法 (NMRP: nitroxide-Mediated Radical Polymerization)、原子移動ラジカル重合(ATRP:Atom Transfer Radical Polymerization)と呼ばれる方法、すなわち、Science,(1996),272,866、Chem. Rev., 101, 2921 (2001)、WO96/30421号公報、WO97/18247号公報、WO98/01480号公報、WO98/40415号公報、WO00/156795号公報、あるいは澤本ら、Chem. Rev., 101, 3689 (2001)、特開平8-41117号公報、特開平9-208616号公報、特開2000-264914号公報、特開2001-316410号公報、特開2002-80523号公報、特開2004-307872号公報で開示されているような、有機ハロゲン化物又は
ハロゲン化スルホニル化合物を開始剤、遷移金属を中心金属とする金属錯体を触媒としてラジカル重合性単量体をラジカル重合する方法、あるいは、可逆的付加−開裂連鎖移動重合(RAFT :Reversible Addition Fragmentation Chain Transfer)と呼ばれる重合法が
挙げられる。
ラジカル重合開始基の導入方法の容易さ、及び選択できるモノマー種の豊富さから、原子移動ラジカル重合法は、本発明に係る双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)を形成するために有力な制御ラジカル重合法である。
以下、更に具体的に、原子移動ラジカル重合法を用いた製造法を説明する。
Science,(1996),272,866等に示されるように、原子移動ラジカル重合の開始構造としては、ハロゲン原子が結合している基が必要である。
例えば、3級炭素原子に結合したハロゲン原子、ビニル基やビニリデン基、フェニル基などの不飽和炭素―炭素結合に隣接する炭素原子に結合したハロゲン原子、あるいは、カ
ルボニル基、シアノ基、スルホニル基等の共役性基に直接または隣接する原子に結合したハロゲン原子が導入された構造などが好ましい構造として挙げられる。
このような、原子移動ラジカル重合開始能を有すハロゲン原子を、ポリオレフィン成形体(A)の表面に導入する方法としては、官能基変換法や直接ハロゲン化法などが有効である。
官能基変換法とは、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、ビニル基、シリル基等の官能基が導入されたポリオレフィンの官能基部位を原子移動ラジカル開始剤構造に変換する方法、例えば、公開特許公報(特開2004-131620号公報)の如く、水酸基含有ポリオレフ
ィンを2−ブロモイソ酪酸ブロミドの様な低分子化合物で修飾する方法により原子移動ラジカル重合開始能を有す表面ハロゲン化ポリオレフィン成形体を得る手法である。
一方、直接ハロゲン化法とは、ハロゲン化剤をポリオレフィンに直接作用させ、炭素-
ハロゲン結合を有すハロゲン化ポリオレフィンを得る方法である。
使用するハロゲン化剤や導入されたハロゲン原子の種類については特に限定されるものではないが、原子移動ラジカル開始骨格の安定性と開始効率のバランスより、臭素原子が導入された臭素化ポリオレフィンが好ましい。
このような観点より、直接ハロゲン化法によるハロゲン化ポリオレフィンを製造するにあたって、ハロゲン化剤として好ましくは、塩素、臭素(ブロミン)やN-ブロモスクシンイミド(NBS)が挙げられる。
例えば臭素化ポリオレフィンの調製については、G. A. Russelらによる、J. Am. Chem.Soc., 77, 4025 (1955) に開示されているように、臭素を光照射下で反応させることによってアルケンを臭素化させる光臭素化反応による方法、P. R. Schneinerらによる、Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 37, 1895 (1998)に開示されているように、50%NaOH水
溶液と四臭化炭素の存在下に溶媒中で加熱還流することで、環状アルキルを臭素化する方法、M. C. Fordらによる、J. Chem. Soc., 2240 (1952) に開示されているように、N−
ブロモコハク酸イミドをアゾビスイソブチロニトリル等のラジカル開始剤を用いてラジカル反応でアルキル末端を臭素化する方法等により好適に行うことができ、これにより、原子移動ラジカル重合開始能を有する、表面ブロモ化ポリオレフィン成形体を得ることが可能となる。
得られたハロゲン化ポリオレフィンの成形体を、原子移動ラジカル重合に用いる。ポリオレフィン成形体(A)の表面におけるハロゲン原子の存在は、X線光電子分光装置、電子線マイクロアナライザー、又は赤外分光光度計等の分光学的手法により確認することが可能である。
原子移動ラジカル重合は、上記により得られたハロゲン化ポリオレフィン成形体を、脱酸素雰囲気下、双極イオン性ビニル系モノマー及び触媒成分と接触させることにより好適に行うことができる。
この時溶媒を用いることも可能であるが、使用できる溶媒としては、重合反応を阻害せず、かつ、重合温度にてハロゲン化ポリオレフィン成形体を溶解させるものである。例えば、ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナンおよびデカン等の脂肪族炭化水素系溶媒、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびデカヒドロナフタレンのような脂環族炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素およびテトラクロルエチレン等の塩素化炭化水素系溶媒、メタノール、エタノ
ール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノールおよびtert-
ブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチルおよびジメチルフタレート等のエステル系溶媒、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジ-n-アミルエーテル、テトラヒドロフランおよ
びジオキシアニソールのようなエーテル系溶媒等をあげることができる。また、水を溶媒とすることもできる。これらの溶媒は、単独でも2種以上を混合して使用してもよい。
重合温度は、原子移動ラジカル重合開始基が導入されたハロゲン化ポリオレフィン成形体が溶融または膨潤しない温度でかつラジカル重合反応が進行する温度であれば任意に設定できる。所望する重合体の重合度、使用するラジカル重合開始剤および溶媒の種類や量によって一様ではないが、通常、−50℃〜150℃、好ましくは0℃〜80℃であり、更に好ましくは0℃〜50℃である。重合反応は場合によって減圧、常圧または加圧の何れでも実施できる。反応実施後は、触媒残査、未反応モノマー、溶媒を取り除くために既知の任意の精製・乾燥方法を適用することができる。
得られた成形体の表面に、双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)が形成されたことは、X線光電子分光装置、電子線マイクロアナライザー、又は赤外分光光度計等の分光学的手法により確認することが可能である。
このような製造方法によれば、上述した本発明に係る表面親水性ポリオレフィン系成形体を好適に製造することができる。
<用途>
本発明に係る表面親水性ポリオレフィン系成形体は種々の用途に使用でき、例えば以下の用途に使用できる。
(1)フィルムまたはシート本発明に係るフィルムおよびシート状の表面親水性ポリオレフィン成形体は、ポリオレフィン特有の強度、耐衝撃性、耐溶剤安定性を保持しつつ、極めて高い親水性、生体適合性を有す。
(2)本発明に係るポリオレフィン系成形体からなる層を少なくとも1層含む積層体例えば農業用フィルム、ラップ用フィルム、シュリンク用フィルム、プロテクト用フィルム、血漿成分分離膜、水選択透過気化膜などの分離膜例、イオン交換膜、バッテリーセパレータ、光学分割膜などの選択分離膜など。
(3)マイクロカプセル、PTP包装、ケミカルバルブ、ドラッグデリバリーシステム。(4)建材・土木用材料例えば、床材、床タイル、床シート、遮音シート、断熱パネル、防振材、化粧シート、巾木、アスファルト改質材、ガスケット・シーリング材、ルーフィングシ-ト、止水シート等の建材・土木用樹脂および建材・土木用成形体など。
(5)自動車内外装材およびガソリンタンク本発明に係る表面親水性ポリオレフィン成形体からなる自動車内外装材、ガソリンタンクは剛性、耐衝撃性、耐油性、耐熱性に優れる。
(6)電気、電子部品等電気絶縁材料;電子部品処理用器材;磁気記録媒体、磁気記録媒体のバインダー、導電性フィルム、電気回路の封止材、家電用素材、電子レンジ用容器などの容器用器材、電子レンジ用フィルム、高分子電解質基材、導電性アロイ基材等。コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケーススイッチコイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、光コネクター、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶ディスプレー部品、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、HDD部品、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代
表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、電磁シールド材、スピーカーコーン材、スピーカー用振動素子等。
(7)塗料ベース表面硬化材料本発明に係る表面親水性ポリオレフィン成形体からなる成形品は各種の塗料及び極性モノマーとの親和性に富むことから、アクリル系モノマー、多官能性アクリル系モノマーや塗料等をコートすることによるによる光硬化材料または熱硬化材料として用いられる。
(8)医療・衛生用材料不織布、不織布積層体、エレクトレット、医療用チューブ、医療用容器、輸液バッグ、プレフィルシリンジ、注射器などの医療用品、医療用材料、細胞培養基板、再生医療に用いる細胞皿あるいは組織培養皿、人工臓器、人工筋肉、濾過膜、食品衛生・健康用品;レトルトバッグ、鮮度保持フィルムなど。
(9)雑貨類デスクマット、カッティングマット、定規、ペンの胴軸・グリップ・キャップ、ハサミやカッター等のグリップ、マグネットシート、ペンケース、ペーパーフォルダー、バインダー、ラベルシール、テープ、ホワイトボード等の文房具:衣類、カーテン、シーツ、絨毯、玄関マット、バスマット、バケツ、ホース、バック、プランター、エアコンや排気ファンのフィルター、食器、トレー、カップ、弁当箱、コーヒーサイフォン用ロート、メガネフレーム、コンテナ、収納ケース、ハンガー、ロープ、洗濯ネット等の生活日用雑貨類:シューズ、ゴーグル、スキー板、ラケット、ボール、テント、水中メガネ、足ヒレ、釣り竿、クーラーボックス、レジャーシート、スポーツ用ネット等のスポーツ用品:ブロック、カード、等の玩具:灯油缶、ドラム缶、洗剤やシャンプー等のボトル、等の容器;看板、パイロン、プラスチックチェーン:等の表示用具類等。
実施例
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例において、各物性の測定および評価は次の方法で行った。
・ATR/IR分析:
Biorad社製、FTS−6000型赤外分光光度計を用いて行った。
・水接触角測定:
Kruss社製DSA−10接触角測定装置を用い,大気中25℃にて2.0μlの水滴を
滴下させた際の液滴形状をビデオカメラにて撮影して解析し、静的水接触角を求めた。
・摩擦試験
新東科学製Tribostation Type 32のステージにサンプルシートを固定し,その表面に直径10mmのガラス球を接触させ垂直荷重0.49N(50gf)、摺動速度90mm/min、ストローク20mmの条件で滑走させた際の動摩擦係数を測定した。測定雰囲気は25℃にて乾燥大気中(乾燥窒素ガス気流下、湿度<20%),湿潤大気中(湿度>80%)および水中にて行った。
[実施例1]
・原子移動ラジカル重合開始基を導入したポリエチレンシートの製造
特開2002-145944記載の方法に準じて製造した、エチレン/10-ウンデセン-1-オール共重合ポリマー(高温GPC測定によるエチレン換算数平均分子量Mn=29300,Mw/Mn=2.06,1H−NMR測定より得られるコモノマー含量0.79
mol%) 40gを、脱気窒素置換された2Lガラス製重合器に入れ、トルエン600
ml、2-ブロモイソ酪酸ブロミド4.9mlをそれぞれ添加し、90℃に昇温し、2時
間加熱撹拌した。室温に戻し、析出したスラリー状ポリマー溶液を、桐山ロートでろ過した後、再度、メタノール1Lで攪拌洗浄を行い、再度、桐山ロートでろ過した。ロート上
のポリマーをメタノール200mLで3回リンスした。ポリマーを50℃、10Torrの
減圧条件下で10時間乾燥させ、白色ポリマーが得られた。1H-NMR測定の結果、水酸
基が2-ブロモイソ酪酸基で修飾されたハロゲン化ポリエチレンであった。このハロゲン
化ポリエチレンを圧縮成形機(180℃,10MPa)により、厚さ1.0mmのシートに成形した。成形されたポリエチレンシート表面のATR/IR測定より、1730cm-1にエステカルボニル伸縮振動の吸収が観察されることから、シート表面に原子移動ラジカル開始基が存在することを確認した。
・ポリエチレンシート表面でのMPCの重合
十分に脱気アルゴン置換したセパラブル型重合器に、上記により得られたポリエチレンシート、臭化銅(I)15.3mg(0.107mmol)及び、4,4’ジメチル−2,2’−ビピリジル 38.0mg(0.207mmol)を入れ、真空脱気とアルゴン
置換を5回以上繰り返した。その後、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、MPC)メタノール溶液(0.891M)20mLとα-ブロモイソブチル酸エチル
(0.0482mmol)を加え、ポリエチレンシートが完全に浸漬した状態で、アルゴンガスを10分間バブリングした後、重合器をオーブンに入れ30℃で18時間重合させた。0℃条件下で大気開放し、取り出したポリエチレンシートを水中で超音波洗浄した。シートを、100℃で1時間真空乾燥し、原子移動ラジカル重合法によりMPCをグラフト化させた表面親水性ポリエチレンシートを得た。上記の方法により、シート表面の水接触角の測定及び摩擦試験を実施した。水接触角の測定結果を表1に、表面の摩擦試験結果を表2(表中の値は動摩擦係数値)にまとめた。なお、上記で用いた双極イオン性ビニル系モノマーであるMPCの構造は次のとおりである。
[実施例2]
・原子移動ラジカル重合開始基を導入したポリプロピレンシートの製造
特開2002-145944記載の方法に準じて製造したプロピレン/10-ウンデセン-1-オール共重合ポリマー(高温GPC測定によるエチレン換算数平均分子量Mn=17100,Mw/Mn=2.27,1H−NMR測定より得られるコモノマー含量0.62
mol%) 40gを、脱気窒素置換された2Lガラス製重合器に入れ、トルエン500
ml、2-ブロモイソ酪酸ブロミド4.9mlをそれぞれ添加し、90℃に昇温し、2時
間加熱撹拌した。室温に戻し、析出したスラリー状ポリマー溶液を、桐山ロートでろ過した後、再度、メタノール1Lで攪拌洗浄を行い、再度、桐山ロートでろ過した。ロート上のポリマーをメタノール200mLで3回リンスした。ポリマーを50℃、10Torrの減圧条件下で10時間乾燥させ、白色ポリマーが得られた。1H-NMR測定の結果、水酸基が2-ブロモイソ酪酸基で修飾されたハロゲン化ポリプロピレンであった。このハロ
ゲン原子含有ポリプロピレンを圧縮成形機(200℃,10MPa)により、厚さ1.0mmのシートに成形した。成形されたポリプロピレンシート表面のATR/IR測定より、1730cm-1にエステカルボニル伸縮振動の吸収が観察されることから、シート表面に原子移動ラジカル開始基が存在することを確認した。
・ポリプロピレンシート表面でのMPCの重合
十分に脱気アルゴン置換したセパラブル型重合器に、上記により得られたポリプロピレンシート、臭化銅(I) 14.5mg(0.101mmol)及び、4,4’−ジメチル−2,2’−ビピリジル36.8mg(0.200mmol)を入れ、真空脱気とアルゴン置換を5回以上繰り返した。その後、MPC/メタノール溶液(1.01M)20mLとαブロモイソブチル酸エチル0.414mmolを加え、ポリプロピレンシートが完全に浸漬した状態で、アルゴンガスを10分間バブリングした後、重合器をオーブンに入れ3
0℃で18時間重合させた。0℃条件下で大気開放し、取り出したポリプロピレンシートを水中で超音波洗浄した。シートを、100℃で1時間真空乾燥することで、表面親水性ポリプロピレンシートを得た。得られた表面親水性ポリプロピレンシートについて、上記のの方法によりシート表面の水接触角及び摩擦試験を実施した。水接触角の結果を表1に、表面の摩擦試験結果を表2(表中の値は動摩擦係数値)に示す。
[実施例3]
・二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)のブロモ化
三井化学(株)社製ポリプロピレン2軸延伸フィルム(OPPフィルム:厚さ 50μ
m)を容積1Lのガラス製密閉反応器にいれ、30L/hの高純度窒素を30分間流通させることで系内を窒素置換した。窒素の流量を約3L/hまで下げ、臭素0.2mLを系内に導入した。臭素が完全に蒸気化した後、流通させていた窒素を止め、完全に密閉した状態で、100Wの白色電球をフィルムに対し垂直に照射した。30分後、光照射をやめ、高純度窒素を流通させた後、容器よりフィルムを取り出した。得られたブロモ化OPPフィルムをX線光電子分光法(XPS,ESCA)で分析したところ、12.6atom%の臭素元素が検出された。
・フィルム表面でのMPCの重合
十分に脱気アルゴン置換したテフロン(登録商標)コック付パイレックス(登録商標)製16mm径ガラス管に、上記により得られたブロモ化OPPフィルム、臭化銅(I)7.5mg(0.052mmol)及び、4,4’ジメチル−2,2’−ビピリジル18.9mg(0.103mmol)を入れ、真空脱気とアルゴン置換を5回以上繰り返した。その後、MPCのメタノール溶液(0.881M)5.0mL(4.41mmol)とα−ブロモイソブチル酸エチルメタノール溶液(0.120M)0.120mL(0.0484mmol)を加え、フィルムが完全に浸漬した状態で、凍結脱気を5回繰り返した後、アルゴンガスを導入し密閉した。このガラス管をオイルバスに入れ、60℃で12時間重合させた。0℃まで冷却した後、大気開放することで反応を停止させ、取り出したポリエチレンシートを水中で超音波洗浄した。シートを、室温で1時間真空乾燥し、原子移動ラジカル重合法によりPMPCをグラフト化させた表面親水性ポリプロピレンフィルムを得た。上記の方法により、シート表面の水接触角を測定した。結果を表1に示す。
・細胞接着評価
ウシ胎仔血清(FBS)を添加したRPMI1640培地に、NIH3T3繊維芽細胞を分散させ,培養した。
上記で得た表面親水性ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム−MPC重合体)を10cm皿に固定し, 培養したNIH3T3細胞 (1×106cells)を植え付けた。細胞は5%
CO2.雰囲気下37℃で24時間培養した。細胞培養後の、表面の位相差顕微鏡写真を
図1に示す。対照実験として用いた未修飾OPPフィルム(図2)やポリスチレンシート(
図3)に比べOPPフィルム−MPC重合体の表面には細胞が接着していないことが明らかとなった。
[実施例4]
・ナノインプリンティング加工OPPフィルムのブロモ化
ラインパターン(幅500 nm)を有するシリコン製モールドをオプツールDSXに
て表面処理し、これを圧力50MPaにて360秒間、OPPフィルム(三井化学(株)
社製、厚さ 50μm)に押し付けることで表面をナノインプリント加工した。押し付け
温度は50℃である。
得られたナノインプリンティング加工OPPフィルムを1Lのガラス製密閉反応器にいれ、実施例3と同様の方法により表面のブロモ化を行った。X線光電子分光法(XPS,ESCA)で分析したところ、6.4atom%の臭素元素が検出された。
・フィルム表面でのMPCの重合
十分に脱気アルゴン置換したテフロン(登録商標)コック付パイレックス(登録商標)製16mm径ガラス管に、上記により得られたブロモ化OPPフィルム、臭化銅(I)7.5mg(0.052mmol)及び、4,4’ジメチル−2,2’−ビピリジル18.9mg(0.103mmol)を入れ、真空脱気とアルゴン置換を5回以上繰り返した。その後、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、MPC)メタノール溶液(0.881M)5.0mL(4.41mmol)とα−ブロモイソブチル酸エチルメタノール溶液(0.120M)0.120mL(0.0484mmol)を加え、フィルムが完全に浸漬した状態で、凍結脱気を5回繰り返した後、アルゴンガスを導入し密閉した。このガラス管をオイルバスに入れ、30℃で12時間重合させた。0℃まで冷却した後、大気開放することで反応を停止させ、ポリエチレンシートを水中で超音波洗浄した。シートを室温で1時間真空乾燥し、原子移動ラジカル重合法によりMPCをグラフト化させた表面親水性ポリプロピレンフィルムを得た。上記の方法により、シート表面の水接触角を測定した。結果を表1に示す。
[比較例1]
実施例1の、原子移動ラジカル重合開始基を導入したポリエチレンシートの製造で得た、表面処理前のポリエチレンシートについて、上記の方法により水接触角の測定及び摩擦試験を実施した。結果を表1および2に示す。
[比較例2]
実施例2の、原子移動ラジカル重合開始基を導入したポリプロピレンシートの製造で得た、表面処理前のポリプロピレンシートについて、上記の方法により水接触角の測定及び摩擦試験を実施した。結果を表1および2に示す。
実施例1〜4に示されるように、原子移動ラジカル重合法にて、双極イオン性ビニル系モノマーの重合体をポリオレフィンシートに共有結合を介しグラフト化させることで、表面が高親水化されたポリエチレン成形体及びポリプロピレン成形体が得られることが示された。表面の高親水性は、長期的に保持されることが明らかとなった。また、実施例1および2から、双極イオン性ビニル系モノマーの重合体の表面への導入によりシート表面の動摩擦係数が著しく低下することが明らかとなった。
本発明に係る表面親水性ポリオレフィン成形体は、例えば(1)フィルムまたはシート、(2)本発明のポリオレフィン系成形体からなる層を少なくとも1層含む積層体、(3)マイク
ロカプセル、PTP包装、ケミカルバルブ、ドラッグデリバリーシステム、(4)建材・土
木用材料、(5)自動車内外装材およびガソリンタンク、(6)電気、電子部品等電気絶縁材料、(7)塗料ベース表面硬化材料、(8)医療・衛生用材料、(9)雑貨類など様々な産業分野で
有用である。
図1は、実施例3で得たOPPフィルム−MPC重合体の細胞接着評価における、細胞培養後の表面の位相差顕微鏡写真である。 図2は、対照である未修飾OPPフィルムの細胞接着評価における、細胞培養後の表面の位相差顕微鏡写真である。 図3は、対照であるポリスチレンシートの細胞接着評価における、細胞培養後の表面の位相差顕微鏡写真である。

Claims (4)

  1. ポリオレフィン成形体(A)の表面の少なくとも一部に、重合開始基を導入する工程と、
    表面に重合開始基を有するポリオレフィン成形体(A)上で、双極イオン性ビニル系モノマーを、原子移動ラジカル重合法により重合させて、双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)を形成する工程とを有し、
    前記重合開始基を導入する工程が、官能基変換法または直接ハロゲン化法により原子移動ラジカル重合開始能を有するハロゲン原子を導入する工程である
    ことを特徴とする表面親水性ポリオレフィン成形体の製造方法。
  2. 請求項1に記載の製造方法により得られ、ポリオレフィン成形体(A)の表面の少なくとも一部に、双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)が形成されていることを特徴とする表面親水性ポリオレフィン成形体。
  3. ポリオレフィン成形体(A)の表面と、双極イオン性ビニル系モノマーの(共)重合体層(B)との間に、共有結合が存在することを特徴とする請求項2に記載の表面親水性ポリオレフィン成形体。
  4. 気温25℃、湿度45%の条件下で測定される水接触角が、20°未満であることを特徴とする請求項2または3に記載の表面親水性ポリオレフィン成形体。
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