(実施形態の構成)
本発明の一実施形態に係るウエビング巻取装置について図1〜図4を用いて説明する。
図1には本発明の一実施形態に係るウエビング巻取装置10の構成の概略が正面断面図により示されている。図1に示されるように、ウエビング巻取装置10は車体の所定部位に締結固定されるフレーム12を備えている。このフレーム12は一対の脚板14、16を備えている。脚板14、16の各々は平板状に形成されており、各々の厚さ方向に互いに対向している。脚板14と脚板16との間にはスプール18が配置されている。スプール18は軸方向が脚板14と脚板16との対向方向に沿った略円筒形状に形成されており、自らの中心軸線周りに回転可能とされている。
スプール18には長尺帯状のウエビングベルト20の長手方向基端部が係止されている。スプール18は自らの中心軸線周り一方である巻取方向(図2の矢印A方向参照)に回転すると、ウエビングベルト20をその長手方向基端側から外周部に層状に巻き取る。また、ウエビングベルト20を先端側へ引っ張るとスプール18に巻き取られているウエビングベルト20が引き出されると共にスプール18が巻取方向とは反対の引出方向(図2の矢印B方向参照)に回転する。
スプール18の脚板14の側にはアダプタ22が設けられている。アダプタ22は、スプール18の脚板14の側の端部にて開口した被嵌挿部24に嵌め込まれている。被嵌挿部24の内周形状及びアダプタ22の外周形状は非円形とされており、被嵌挿部24に嵌挿されたアダプタ22はスプール18に対するスプール18の中心軸線周りの相対回転が不能とされ、スプール18の中心軸線周りにスプール18及びアダプタ22の何れかの一方が回転すると何れかの他方が一体的に回転する。
アダプタ22は脚板14を貫通して、脚板14の側方(脚板14を介して脚板16とは反対側)でフレーム12に固定されたスプリングハウジング26内に入り込んでおり、アダプタ22がスプール18の中心軸線周りに回動自在にスプリングハウジング26に支持されている。スプリングハウジング26の内部には渦巻きばね等の付勢手段(図示省略)が収容されている。この付勢手段は一部がアダプタ22に直接又は間接的に連結されており、アダプタ22が引出方向に回転すると、アダプタ22を巻取方向に付勢する。また、アダプタ22は、車両急減速時にスプール18を瞬時に巻取方向に回転させるプリテンショナーの構成部品の一つであってもよい。
一方、スプール18の軸方向一端側(脚板16側)には、ロックベース34(「ベースロック」ともいう)が設けられている。ロックベース34は、スプール18と同軸的に配置され、軸方向寸法が比較的短い円柱状の嵌挿部36を備えている。嵌挿部36に対応してスプール18には被嵌挿部38が形成されている。被嵌挿部38は内周形状がスプール18に対して同軸の円形とされてスプール18の脚板16側の端面にて開口している。被嵌挿部38の内径寸法は嵌挿部36の外径寸法よりも極僅かに大きく設定されている。被嵌挿部38に嵌挿部36が嵌挿された状態では、ロックベース34は、抜け止めされた状態でスプール18に対してスプール18の中心軸線周りに相対回転可能とされている。また、ロックベース34は、スプール18内に配設された第二内面部34Aを備えている。第二内面部34Aは、スプール18の軸方向に対して垂直な面を備えてスプール18内に臨んでいる。
一方、脚板16の側方であって脚板16を介して脚板14とは反対側(すなわち、スプール18の軸方向一端部の側方)には、ロック手段としてのロック機構30のハウジング32がフレーム12に固定されている。ロック機構30には、公知のロック機構を適用することができるので、詳細な説明は省略するが、以下簡単に説明する。ロック機構30は、ロックプレート40を備えている。ロックプレート40は、ロックベース34に取り付けられ、スプール18の半径方向に沿って所定範囲で変位可能とされている。ロックプレート40の外周部には、ラチェット歯40Aが形成されておりロックプレート40がスプール18に対してスプール18の半径方向外側に変位すると、フレーム12の脚板16に形成されたラチェット孔17のラチェット歯17Aに噛み合い、引出方向へのロックベース34の回転を規制するようになっている。
また、これらのロックプレート40の近傍には、スプール18に対して同軸的で相対回転可能なVギヤ(図示省略)が設けられている。前記Vギヤは、図示しない圧縮コイルスプリング(付勢部材)によってスプール18側に機械的に連結されており、スプール18の回転に追従回転すると共に、この追従回転に抗する外力が前記Vギヤに付与された場合には前記圧縮コイルスプリングが弾性変形することでスプール18に対して相対回転する。前記Vギヤは、ロックプレート40に係合していると共に、前記Vギヤがスプール18に対して相対回転した際にはロックプレート40をスプール18の半径方向外側へ変位させるようになっている。
前記Vギヤの側方には加速度センサ(図示省略)が設けられている。車両急減速状態で前記加速度センサが所定の大きさの車両の減速度を検知すると、前記Vギヤの回転はロック部材(図示省略)によってロックされる。また、スプールが急激に引出方向へ回転した状態でも同様に前記Vギヤの回転は前記ロック部材によってロックされる。これらによって、ロック機構30は、車両急減速状態及びスプール18が急激に引出方向へ回転した状態の少なくともいずれかの一方の状態で引出方向へのロックベース34の回転を規制するようになっている。
一方、スプール18には貫通孔42が貫通形成されている。貫通孔42は、スプール18に対して同軸的に形成され、その一端は被嵌挿部24の底部にて開口し、他端は被嵌挿部38の底部にて開口している。また、本実施形態では、貫通孔42は、被嵌挿部24寄りの部位に比べて被嵌挿部38寄りの部位が大径とされている。図中では、被嵌挿部38寄りの大径部を符号42Aで示す。
貫通孔42の内側には、荷重吸収部材として連結部材を構成するトーションバー44(「トーションシャフト」ともいう)が設けられている。トーションバー44は脚板14側の端部にてアダプタ22に対するスプール18の中心軸線周りの相対回転が不能な状態でアダプタ22に連結されている。また、トーションバー44は、脚板16側の端部にてロックベース34に対するスプール18の中心軸線周りの相対回転が不能な状態でロックベース34に連結されている。
ここで、前述のように、ロックベース34はスプール18の中心軸線周りにスプール18に対して相対回転可能に嵌挿部36が被嵌挿部38に嵌挿されているものの、トーションバー44がスプール18及びロックベース34の双方に対してスプール18の中心軸線周りの相対回転が不能であることから、基本的にロックベース34は、スプール18に対して相対回転が不能で、スプール18と共にロックベース34が一体的に回転する(すなわち、スプール18の回転力が伝わることでロックベース34が回転する。)。また、このことより、ロックプレート40のラチェット歯40Aが脚板16におけるラチェット孔17のラチェット歯17Aに噛み合えば、引出方向へのスプール18の回転が規制される。
また、スプール18の内側における大径部42Aには、複数(本実施形態では三個)のベース部材50(FLベース)がスプール18と同軸で直列的に配設されている。各ベース部材50は、それぞれリング状の抜止部材48を介してスプール18の内側に配設されており、スプール18に対して相対回転可能とされている。なお、抜止部材48は、スプール18の内側に固定されており、その内周面がベース部材50の外周面と接すると共に、ベース部材50がスプール18の軸方向に変位しないように縦壁が設けられてスプール18の軸方向に沿ったベース部材50の位置を規制している。
また、ベース部材50の中央部には、貫通孔52(図2参照)が貫通形成されており、この貫通孔52内をトーションバー44が貫通している。ベース部材50とトーションバー44との間には若干の隙間が設けられており、両者は互いに相対回転可能とされている。
図2には、スプール18内におけるベース部材50等の外観斜視図が示されている。なお、複数のベース部材50は実際には直列的に同じ向きに配置されているが、図2ではベース部材50の表裏の形状やその周辺構造を示すために二個のベース部材50の向きを変えて図示している。図1及び図2に示されるように、ベース部材50は、ロックベース34(図1参照)側へ向けて開口した有底円筒状に形成されると共に、ロックベース34(図1参照)側へ向いた第一面部54と、第一面部54とは反対側へ向いた第二面部56とを備えている。図2に示されるように、第一面部54の中央側からはロックベース34(図1参照)側へ突設されてスプール18と同軸に配置された円筒部58が形成されており、この円筒部58の筒内側の貫通部が前述した貫通孔52となっている。
図1に示されるように、スプール18の内側部位であって大径部42Aの底部を構成する第一内面部142Aには、円筒部58と同様の形状でかつ同軸に配置された円筒部59が設けられている。大径部42Aの第一内面部142Aは、スプール18の内側部位でベース部材50を挟んでロックベース34とは反対側の部位であり、複数のベース部材50よりもロックベース34から離れた部位でスプール18の軸方向に対して垂直な面を備えている。
また、ベース部材50の第一面部54には、それぞれ固定部材60(図1の切断面の手前側に配置されるため二点鎖線で図示、図2参照)を介して長尺状部材としてのワイヤ62A、62B、62Cの一端部が固定され、大径部42Aの第一内面部142Aには、固定部材60(図1の切断面の手前側に配置されるため二点鎖線で図示)を介して長尺状部材としてのワイヤ62Dの一端部が固定されている。すなわち、これらのワイヤ62A、62B、62C、62D(以下、「ワイヤ62A、62B、62C、62D」を「ワイヤ62A〜62D」と略す。)は、それぞれ一端部がいずれもスプール18の軸方向の同じ側(図1では左側)にてその一端部と隣り合う、第一面部54又は第一内面部142Aに、固定されている。また、これらのワイヤ62A〜62Dは、スプール18の第一内面部142Aと、ベース部材50の第一面部54及び第二面部56と、ロックベース34の第二内面部34Aと、によって形成された各対向間隙70において円筒部58、59の外周面58A、59Aに取り回されることによってそれぞれスプール18の軸周りに約一周するように配設されており、他端部側は固定されずにフリー状態となっている。なお、ワイヤ62A〜62Dは、広義には「荷重吸収部材」や「FL要素」としても把握される要素である。また、固定部材60は、例えば、ブロック状又はピン状等に形成されて大径部42Aの第一内面部142A及びベース部材50の第一面部54に一体化されている。
ワイヤ62A〜62Dの剛性は、互いに異なる設定になっており、本実施形態では、ロックベース34に近いほど剛性が低くなっている。すなわち、ワイヤ62Aの剛性をSA、ワイヤ62Bの剛性をSB、ワイヤ62Cの剛性をSC、ワイヤ62Dの剛性をSDとした場合、SA<SB<SC<SDの関係に設定されている。なお、本実施形態では、各剛性差が明確な差となるような設定にしている。
図2に示されるように、各ベース部材50の第二面部56(ワイヤ62A〜62Dが固定されていない面部)からは、それぞれ二本のピン状の係合部64A、64Bがスプール18の軸方向他端側(図1の脚板14側)へ突出して形成されている。各ベース部材50に形成された二本の係合部64A、64Bは、互いに近接して配置されると共に、本実施形態では、対向する側の固定部材60の初期位置に近接して配置されている。
なお、図中右側のベース部材50において、二点鎖線で示される固定部材60及びワイヤ62Bは、組付状態における図中左側のベース部材50の固定部材60及びワイヤ62Bを示している。また、図中では固定部材60の初期位置により近い側の係合部を符号64Aで示し、固定部材60の初期位置からより遠い側の係合部を符号64Bで示す。
図1及び図2に示されるように、各係合部64A、64Bは、当該係合部64A、64Bが設けられた第二面部56に対して当該係合部64A、64Bの突出方向側に配設された直近のワイヤ62B、62C、62Dの中間部(初期状態では固定部材60寄りの部位)が係合されて掛け渡されており、ワイヤ62B、62C、62Dが係合側の第二面部56に対してスプール18の軸周りに相対移動した際にこの相対移動に抗してワイヤ62B、62C、62Dをしごく(広義には曲げ変形する)ように、換言すれば、ワイヤ62B、62C、62Dの引張力に抗する荷重を付与するようになっている。
また、図1に示されるロックベース34のスプール18内に配設された第二内面部34A(ワイヤ62A〜62Dが固定されていない面部)からは、ベース部材50に形成された二本の係合部64A、64B(図2参照)と同様の計二本の係合部66A、66B(図2参照)がスプールの軸方向他端側(脚板14側)となるベース部材50側へ突出して形成されている。図2に示されるように、これらの係合部66A、66Bも互いに近接して配置されると共に、本実施形態では、対向する側の固定部材60の初期位置に近接して配置されている。なお、図中では固定部材60の初期位置により近い側の係合部を符号66Aで示し、固定部材60の初期位置からより遠い側の係合部を符号66Bで示す。
図1及び図2に示されるように、係合部66A、66Bは、第二内面部34Aに対して当該係合部66A、66Bの突出方向側に配設された直近のワイヤ62Aの中間部(初期状態では固定部材60寄りの部位)が係合されて掛け渡されており、ワイヤ62Aが係合側の第二内面部34Aに対してスプール18の軸周りに相対移動した際にこの相対移動に抗してワイヤ62Aをしごく(広義には曲げ変形する)ように、換言すれば、ワイヤ62Aの引張力に抗する荷重を付与するようになっている。
ここで、図1に示されるように、ロックベース34寄りの二個のベース部材50の係合部64A、64B(図2参照)の先端側は、対向する側のベース部材50の筒内側に入り込んでおり、係合部66A、66B(図2参照)の先端側は、最もロックベース34寄りのベース部材50の筒内側に入り込んでいる。すなわち、ベース部材50に固定されたワイヤ62A、62B、62Cに対し係合する係合部64A、64B、66A、66Bは、その先端側がベース部材50の筒内側に入り込んでいる。
また、係合部64A、64B、66A、66B(以下、「係合部64A、64B、66A、66B」を「係合部64A〜66B」と略す。)のうち規制部としての機能を兼ねる係合部64B、66Bは、係合された(直近の)ワイヤ62A〜62Dが係合側の面部(第二内面部34A又は第二面部56)に対してスプール18の軸周りに所定量(本実施形態では約一周)相対移動しかつ係合部64A〜66Bとの係合状態を維持した状態(係合部64A〜66Bから抜けていない状態)でワイヤ62A〜62Dの一端部側の固定部材60が当って(干渉して)ワイヤ62A〜62Dの各係合側の面部(第二内面部34A又は第二面部56)に対する相対移動を規制するようになっている(図3(C)参照)。
(実施形態の作用・効果)
次に、上記実施形態の作用及び効果について説明する。
図1に示される本ウエビング巻取装置10では、車両の乗員の身体にスプール18から引き出されたウエビングベルト20が装着されている状態で車両減速状態になり、この状態をロック機構30の加速度センサ(図示省略)が検知したり、また、車両減速状態での慣性により乗員の身体がスプール18を急激に引っ張ることでスプール18が急激に引出方向へ回転したりすると、ロック機構30が作動する。ロック機構30が作動すると、ロックプレート40のラチェット歯40Aがフレーム12におけるラチェット孔17のラチェット歯17Aに噛み合う。
これにより、ロックベース34の引出方向への回転が規制され、ひいては、スプール18の引出方向への回転が規制される。このように、スプール18の引出方向への回転が規制されることで、スプール18に巻き取られているウエビングベルト20の引き出しが規制されるので、車両急減速時に車両前方側へ慣性移動しようとする乗員の身体がウエビングベルト20により強く拘束される。
このような状態で、車両前方側へ慣性移動しようとする乗員の身体がウエビングベルト20を引っ張ることでスプール18に付与される引出方向への回転力が、トーションバー44及びワイヤ62A〜62Dと係合部64A〜66B(図2参照)との係合構造の機械的強度を上回ると、トーションバー44の脚板16の側に対して脚板14の側が引出方向に捩じれるように塑性変形を開始して、引出方向への回転がロック機構30によって規制されたロックベース34に対し、スプール18が引出方向に相対回転を開始する。これにより、トーションバー44に捩じれ変形が生じる。
ここで、スプール18の内側には複数のベース部材50が配設され、これらのベース部材50は、スプール18と同軸でかつスプール18に対して相対回転可能となっている。また、スプール18の内側において、ベース部材50のロックベース34側へ向いた第一面部54、及びベース部材50を挟んでロックベース34とは反対側の部位である大径部42Aの第一内面部142Aには、それぞれワイヤ62A〜62Dの一端部が固定部材60(図2参照)を介して固定されてスプール18の軸周りに取り回されて配設されている。
さらに、ロックベース34のスプール18内に配設された第二内面部34A及びベース部材50の第二面部56からはそれぞれ係合部64A〜66B(図2参照)がスプール18の軸方向他端側(脚板14側)へ突出形成されており、これらの係合部64A〜66Bには、第二内面部34A及び第二面部56に対して突出方向側に配設された直近のワイヤ62A〜62Dが係合されている。
これらにより、スプール18がロックベース34に対してスプール18の軸周りに相対回転すると、図中左側三本のワイヤ62B、62C、62D及び当該ワイヤ62B、62C、62Dが係合されたベース部材50の係合部64A、64B(図2参照)によって、スプール18と一体的に三個のベース部材50が回転しようとする。これに対し、回転が規制されたロックベース34の係合部66A、66Bには、図中最も右側のベース部材50に固定されたワイヤ62Aが係合されているので、各ベース部材50には捩り荷重が作用する。
この捩り荷重が所定値を上回って、ワイヤ62A〜62Dが係合部64A〜66Bから引き摺り出される方向に係合側の第二内面部34A、第二面部56に対してスプール18の軸周りに相対移動した際には係合部64A〜66Bがワイヤ62A〜62Dをしごくようになっており、複数のワイヤ62A〜62Dは互いに剛性が異なってロックベース34に近いほど剛性が低くなっている。このため、まず複数のワイヤ62A〜62Dのうち最も剛性が低いワイヤ62Aが、係合部66A、66B(図2参照)から引き摺り出される方向に引っ張られて係合部66A、66Bによってしごかれながら係合側の第二内面部34Aに対してスプール18の軸周りに(図中最も右側のベース部材50の回転に合わせて)相対移動する。このとき、他のワイヤ62B、62C、62Dはワイヤ62Aよりも剛性が高いため各係合側の第二面部56に対して相対移動しない。
図3には、ワイヤ62Aが係合部66A、66Bによってしごかれていく状態変化が模式的に示されており、図3(A)、図3(B)、図3(C)の順に状態変化していく。図3(A)に示されるように、初期においては、ワイヤ62Aは、固定部材60の近傍部位が係合部66A、66Bに係合している。図3(B)及び図3(C)に示されるように、移動中のワイヤ62Aは、係合部66A、66Bにしごかれながら係合部66A、66Bに係合される部位を変えていく。このときに発生するワイヤ62Aのしごき荷重は、フォースリミッタ荷重としてウエビングベルト20(図1参照)に作用する。
一方、図1に示されるように、ロックベース34の第二内面部34A及びベース部材50の第二面部56に設けられた係合部64B、66Bは規制部(ストッパ)としての機能を兼ねる。つまり、例えば、係合部66Bは、ワイヤ62Aが係合側の第二内面部34Aに対してスプール18の軸周りに所定量(本実施形態では約一周)相対移動しかつ係合部66A、66Bとの係合状態を維持した状態で、ワイヤ62Aの一端部側の固定部材60(図3(C)参照)が当ってワイヤ62Aの相対移動を規制する。このため、図3(C)に示されるように、相対移動したワイヤ62Aは、係合部66A、66Bとの係合が解除される前(ワイヤ62Aが所謂空走をする前)に係合部66Bによって相対移動が規制され、それ以上相対移動しない。
このように最も剛性が低いワイヤ62Aの相対移動が規制されると、図1に示される複数のワイヤ62A〜62Dのうち二番目に剛性が低いワイヤ62Bが係合部64A、64B(図2参照)によってしごかれながら係合側の第二面部56(図1の最も右側のベース部材50の第二面部56)に対してスプール18の軸周りに相対移動する。このワイヤ62Bのしごき荷重はワイヤ62Aのしごき荷重よりも一段階高い荷重であるため、ウエビングベルト20に作用するフォースリミッタ荷重が一段階上げられる。二番目に剛性が低いワイヤ62Bも最も剛性が低いワイヤ62Aの場合と同様に係合側の第二面部56に対してスプール18の軸周りに所定量(本実施形態では約一周)相対移動すると、係合部64A、64B(図2参照)との係合が解除される前(ワイヤ62Bが所謂空走をする前)に相対移動が規制される。
以下同様に複数のワイヤ62C、62Dは剛性の低い順(ワイヤ62C、ワイヤ62Dの順)に係合部64A、64B(図2参照)によってしごかれながら係合側の第二面部56に対してスプール18の軸周りに相対移動(作動)する。このため、各ワイヤ62A〜62Dが係合部64A〜66Bによってそれぞれしごかれる際のしごき荷重が段階的に上がり、その結果、ウエビングベルト20に作用するフォースリミッタ荷重が段階的に上げられる。
図4には、本実施形態に係るウエビング巻取装置10のFL荷重特性がグラフにて示されている。FL荷重F1は、ワイヤ62Aのしごき荷重とトーションバー44の変形荷重との和であり、FL荷重F2は、ワイヤ62Bのしごき荷重とトーションバー44の変形荷重との和であり、FL荷重F3は、ワイヤ62Cのしごき荷重とトーションバー44の変形荷重との和であり、FL荷重F4は、ワイヤ62Dのしごき荷重とトーションバー44の変形荷重との和である。このように、ウエビング巻取装置10は、フォースリミッタ荷重が段階的に(多段階で)上げられ、エネルギーの吸収を図る。
また、図1に示されるように、ベース部材50がロックベース34側へ向けて開口した有底筒状に形成されると共に、これらのベース部材50の筒内側に係合部64A〜66B(図2参照)の先端が入り込んでいる。このように、係合部64A〜66B(図2参照)の先端側がベース部材50の筒内側に入り込むことで、スプール18内のスペースがスプール18の軸方向において有効利用され、スプール18の軸方向への装置の大型化が抑えられる。
また、係合部64A〜66B(図2参照)によってしごかれる対象の長尺状部材がワイヤ62A〜62Dで構成されているので、スプール18の軸方向における大型化が容易に抑えられる。また、係合部64B、66Bが規制部の機能を兼ねているので、規制部が別途設けられている構成に比べてスプール18内のスペースが有効利用される。
なお、本実施形態に係るウエビング巻取装置10では、上記特許文献1の従来技術のような切削刃によってスプール18の内面を切削してフォースリミッタ荷重を得ているわけではないので、十分なフォースリミッタ荷重を得るために切削量を増やす必要もなく、ひいてはスプール18を径方向に大型化する必要がない。
以上説明したように、本実施形態に係るウエビング巻取装置10によれば、フォースリミッタ荷重を段階的に上げることが可能で、かつ装置の小型化を図ることができる。
(実施形態の補足説明)
なお、上記実施形態では、ウエビング巻取装置10は、フォースリミッタ荷重の底上げを図るためにトーションバー44が配設された構造となっているが、ウエビング巻取装置は、例えば、スプールと共にロックベースを基本的には一体的に回転させる連結手段(スプールの回転力が伝わることでロックベースが回転可能な構造)を備えてトーションバーが配設されない構造としてもよい。
また、上記実施形態では、係合部64A〜66B(図2参照)によってしごかれる対象の長尺状部材がワイヤ62A〜62Dで構成されているが、長尺状部材は、例えば、プレート等のような他の長尺状部材としてもよい。
また、上記実施形態では、ワイヤ62A〜62Dの剛性は、ロックベース34に近いほど低く設定されているが、長尺状部材(ワイヤ)の剛性は、例えば、ロックベースに近いほど高く設定される場合や四本のうち二本が同じ剛性に設定される場合等のように、長尺状部材(ワイヤ)の剛性が互いに異なるものを含む設定であれば長尺状部材(ワイヤ)の配列順序との関係は上記実施形態以外の関係であってもよい。
また、上記実施形態では、図1に示されるスプール18内に三個のベース部材50が配設されているが、スプール内に配設されるベース部材は、例えば、三個以外の複数個であってもよく一個(単一)であってもよい。
さらに、上記実施形態では、係合部64B、66Bが規制部を兼ねているが、規制部は、例えば、係合部とは別に形成されたストッパ等のような他の規制部としてもよい。
さらにまた、上記実施形態では、係合部64A〜66Bは、ベース部材50やロックベース34に一体に形成されているが、係合部や規制部は、ベース部材やロックベースとは別体とされた部材がベース部材やロックベースに固定されることによって構成された係合部や規制部としてもよい。
なお、上記実施形態では、ベース部材50がロックベース34側へ向けて開口した有底筒状に形成されているが、ベース部材は、例えば、概ね円盤状に形成されたような他のベース部材としてもよい。また、ベース部材がロックベース側とは反対側へ向けて開口した有底筒状に形成されると共に、当該ベース部材に固定された長尺状部材に対し係合する係合部は、その先端側がベース部材の筒内側に入り込んでいてもよい。
また、上記実施形態では、ベース部材50の第一面部54にワイヤ62A、62B、62Cの一端部が固定され、スプール18の第一内面部142Aにワイヤ62Dの一端部が固定されると共に、ベース部材50の第二面部56から係合部64A、64Bが形成され、ロックベース34の第二内面部34Aから係合部66A、66Bが形成されているが、例えば、ベース部材の第二面部及びロックベースの第二内面部に長尺状部材の一端部が固定されると共に、ベース部材の第一面部及びスプールの第一内面部から係合部及び規制部が形成されてもよい。すなわち、複数の長尺状部材のそれぞれ一端部は、いずれもスプールの軸方向の同じ側にてその一端部と隣り合う第一内面部、第一面部、第二面部、及び第二内面部のうちのいずれかに固定され、係合部及び規制部は、第一内面部、第一面部、第二面部、及び第二内面部のうち、長尺状部材が固定されていない面部に設けられていればよい。