JP5092316B2 - 熱可塑性樹脂組成物およびその成形品 - Google Patents

熱可塑性樹脂組成物およびその成形品 Download PDF

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Description

本発明は、ポリアミド樹脂とポリ乳酸樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物の樹脂相分離構造を制御することで特性の相構造を形成させることによって得られる特異的な機械特性、成形性や耐熱性を有する熱可塑性樹脂組成物およびそれを加工することによって得られる成形品に関するものである。
従来のポリマーはほとんど石油資源を原料としているが、石油資源が将来的に枯渇するのではないかということ、また石油資源を大量消費することにより、地質時代より地中に蓄えられていた二酸化炭素が大気中に放出され、さらに地球温暖化が深刻化することが懸念されている。しかし、二酸化炭素を大気中から取り込み成長する植物資源を原料としてポリマーが合成できれば、二酸化炭素循環により地球温暖化を抑制できることが期待できるのみならず、資源枯渇の問題も同時に解決できる可能性がある。このため、植物資源を原料とするポリマー、すなわちバイオマス利用ポリマーに注目が集まっている。
上記の点から、バイオマス利用ポリマーは大きな注目を集め、石油資源を原料とする従来のポリマーを代替していくことが期待されている。しかしながら、バイオマス利用ポリマーは一般に機械特性、耐熱性が低く、また高コストとなるといった課題あった。これらを解決できるバイオマス利用ポリマーとして、現在、最も注目されているのは脂肪族ポリエステルの一種であるポリ乳酸である。ポリ乳酸は植物から抽出したでんぷんを発酵することにより得られる乳酸を原料としたポリマーであり、バイオマス利用ポリマーの中では機械特性、耐熱性、コストのバランスが優れている。そして、これを利用した樹脂製品、繊維、フィルム、シート等の開発が急ピッチで行われている。
しかし、このように最も有望なポリ乳酸でさえ、従来の石油資源を原料とするポリマーに比べるといくつかの欠点を有している。このうち大きなものとして、機械特性や耐熱性が低いことが挙げられる。このため、ポリ乳酸とポリアミドをブレンドし、上記欠点を補う検討が行われている。特許文献1、2においてポリ乳酸にポリアミドを分散した樹脂組成物について開示されているが、いずれもポリ乳酸が連続相を形成するため機械特性、耐熱性について更なる向上が求められている。また特許文献3ではポリアミド中にポリ乳酸が分散した樹脂組成物が開示されているがポリ乳酸含有量は少量であり環境低負荷性の観点から更なる改良が求められている。特許文献4ではポリ乳酸とポリ乳酸以外の熱可塑性樹脂との樹脂組成物において樹脂相分離構造をスピノーダル分解を利用して構造周期0.001〜2μmの両相連続構造に制御する方法が開示されているが、この場合は2成分を一旦均一に相溶することが必要であり、用いる樹脂には分子量等の制約があるため実用的には十分とは言えず更なる改良が求められている
特開2003−238775号公報(特許請求の範囲) 特開2004−51835号公報(特許請求の範囲) 特開平5−148418号公報(特許請求の範囲) 特開2004−250549号公報(特許請求の範囲)
本発明は、ポリアミド樹脂とポリ乳酸樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物の樹脂相分離構造を制御することで特性の相構造を形成させることによってポリ乳酸樹脂の欠点であった機械特性、成形性や耐熱性を大幅に向上することを課題とするものである。
そこで本発明者らは上記の課題を解決すべく検討した結果、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂を特定量配合して得られる熱可塑性樹脂組成物において、電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造においてポリアミド樹脂相が連続した相を形成するよう分散構造を制御することにより上記課題が解決されることを見出し本発明に到達した。
すなわち本発明は、
(1)ポリアミド樹脂(a)15〜50重量%およびポリ乳酸樹脂(b)50〜85重量%を配合してなり、ポリ乳酸樹脂の溶融粘度/ポリアミド樹脂の溶融粘度の比が2.3〜3.7の範囲である熱可塑性樹脂組成物であり、前記熱可塑性樹脂組成物を構成する樹脂の溶融混合物に、樹脂温度を250℃以下に制御しつつ0.15kWh/kg以上の混練エネルギーを付与することにより製造される熱可塑性樹脂組成物であり、かつ、電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造においてポリアミド樹脂(a)が連続相、ポリ乳酸樹脂(b)が分散相となる相構造を形成することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物、
(2)ポリアミド樹脂(a)25〜45重量%およびポリ乳酸樹脂(b)55〜75重量%を配合してなる(1)記載の熱可塑性樹脂組成物、
(3)前記熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、相溶化剤(c)を0.01〜10重量部添加することを特徴とする(1)〜(2)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物、
(4)相溶化剤(c)がビスフェノール−グリシジルエーテル系エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、エチレン/(メタ)アクリル酸グリシジル−g−(メタ)アクリル酸メチル共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(3)記載の熱可塑性樹脂組成物、
(5)前記熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、可塑剤(f)を0.01〜30重量部添加することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物、
(6)可塑剤(f)がポリアルキレングリコール系可塑剤であることを特徴とする(5)記載の熱可塑性樹脂組成物、
(7)前記ポリアミド樹脂(a)の主成分がナイロン6樹脂であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物、
(8)前記熱可塑性樹脂組成物を構成する樹脂の溶融混合物に、樹脂温度を250℃以下に制御しつつ0.15kWh/kg以上の混練エネルギーを付与することにより製造せしめることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法、
(9)(1)〜(7)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を加工して得られる成形品、および
(10)射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形の内から選ばれる方法によって得られる(9)に記載の成形品、
を提供するものである。
本発明によれば、ポリ乳酸樹脂の欠点であった機械特性、成形性や耐熱性が大幅に向上したポリアミド樹脂とポリ乳酸樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物を得られる。
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明において「重量」とは「質量」を意味する。
本発明で用いられるポリアミド樹脂(a)とは、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる構成成分とするポリアミドである。その主要構成成分の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジアミン、およびアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂肪族、脂環族、芳香族のジカルボン酸が挙げられ、本発明においては、これらの原料から誘導されるナイロンホモポリマーまたはコポリマーを各々単独または混合物の形で用いることができる。
本発明において、特に有用なポリアミド樹脂(a)は、150℃以上の融点を有する耐熱性や強度に優れたポリアミド樹脂であり、具体的な例としてはポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン66/6I/6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)およびこれらの混合物などが挙げられる。
また、一般にポリ乳酸樹脂の融点が170℃程度であるため、ブレンド温度をなるべく低温化することを考慮し、ポリアミドの融点は250℃以下であることがより好ましく、特に好ましくは230℃以下である。またポリ乳酸樹脂にポリアミドをブレンドしたブレンドポリマー樹脂の成形性、成形体の寸法安定性を向上させるために、該ブレンドポリマー樹脂が結晶性であることが好ましい。このため、ブレンドするポリアミドも結晶性であることが好ましい。なお示差走査熱量計(DSC)測定において融解ピークを観測できれば、そのポリマーは結晶性であると判断できる。
とりわけ好ましいポリアミド樹脂(a)としては、ナイロン6、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12を挙げることができ、更にこれらのポリアミド樹脂を耐衝撃性、成形加工性、相溶性などの必要特性に応じて混合物として用いることも実用上好適である。中でも本発明においては、ポリアミド樹脂(a)の主成分がナイロン6樹脂であることが好ましい。
これらポリアミド樹脂の重合度には特に制限がないが、サンプル濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度として、2.0〜5.0の範囲が好ましく、特に2.0〜4.0の範囲のポリアミド樹脂が好ましい。相対粘度が2.0よりも小さい場合は本発明の熱可塑性樹脂組成物の特徴である優れた機械特性を発現することが困難となり、5.0より大きい場合は本発明の特徴であるポリアミド樹脂が連続相を形成した樹脂相分離構造を形成することが困難となり、また熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度が著しく増加し流動性が低下するため好ましくない。
また、本発明のポリアミド樹脂(a)には、長期耐熱性を向上させるために銅化合物が好ましく配合される。銅化合物の具体的な例としては、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅、リン酸銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅、サリチル酸第二銅、ステアリン酸第二銅、安息香酸第二銅および前記無機ハロゲン化銅とキシリレンジアミン、2ーメルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾールなどの錯化合物などが挙げられる。なかでも1価の銅化合物とりわけ1価のハロゲン化銅化合物が好ましく、酢酸第1銅、ヨウ化第1銅などを特に好適な銅化合物として例示できる。銅化合物の添加量は、通常ポリアミド樹脂100重量部に対して0.01〜2重量部であることが好ましく、さらに0.015〜1重量部の範囲であることがより好ましい。添加量が多すぎると溶融成形時に金属銅の遊離が起こり、着色により製品の価値を減ずることになる。本発明では銅化合物と併用する形でハロゲン化アルカリを添加することも可能である。このハロゲン化アルカリ化合物の例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウムおよびヨウ化ナトリウムを挙げることができ、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムが特に好ましい。
本発明でいうポリ乳酸樹脂(b)とは、L−乳酸及び/またはD−乳酸を主たる構成成分とするポリマーであるが、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよい。他の共重合成分としては、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、およびカプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。このような共重合成分としては、全単量体成分中通常30モル%以下の含有量とするのが好ましく、10モル%以下であることが好ましい。またポリ乳酸の性質を損なわない範囲でポリ乳酸以外のポリマーや粒子、難燃剤、帯電防止剤等の添加物を含有していても良い。
本発明においては、ポリ乳酸樹脂(b)として相溶性の点から、乳酸成分の光学純度が高いポリ乳酸を用いることが好ましい。すなわち、ポリ乳酸の総乳酸成分の内、L体が80%以上含まれるかあるいはD体が80%以上含まれることが好ましく、L体が90%以上含まれるかあるいはD体が90%以上含まれることが特に好ましく、L体が95%以上含まれるかあるいはD体が95%以上含まれることが更に好ましい。なお、本発明においてはL体またはD体を主成分とする光学純度の高いポリ乳酸を単独で使用することも、それらの混合物を使用することも好ましい態様である。
ポリ乳酸樹脂(b)の分子量や分子量分布については、実質的に成形加工が可能であれば特に制限されるものではないが、重量平均分子量としては、通常1万以上、好ましくは4万以上、さらに8万以上であることが望ましい。ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミテーションクロマトグラフィーで測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の分子量をいう。
ポリ乳酸樹脂(b)の融点については、特に制限されるものではないが、120℃以上であることが好ましく、さらに150℃以上であることが好ましい。
ポリ乳酸樹脂(b)の製造方法としては、公知の重合方法を用いることができ、乳酸からの直接重合法、およびラクチドを介する開環重合法などを挙げることができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物におけるポリアミド樹脂(a)およびポリ乳酸樹脂(b)の配合割合は、ポリアミド樹脂(a)15〜50重量%、ポリ乳酸樹脂(b)50〜85重量%であり、好ましくはポリアミド樹脂25〜45重量%、ポリ乳酸樹脂55〜75重量%である。ポリ乳酸樹脂(b)が50重量%未満となると本発明の熱可塑性樹脂組成物の特徴であるバイオマス利用ポリマーを使用することによる環境低負荷性が乏しくなるため好ましくない。またポリ乳酸樹脂(b)が85重量%超になると本発明の熱可塑性樹脂組成物の特徴であるポリアミド樹脂が連続相を形成するような樹脂相分離構造を形成することが困難となり、機械特性、耐熱性の低下を来すので好ましくない。
本発明の熱可塑性樹脂組成物はポリアミド樹脂(a)が連続相を形成する樹脂相分離構造を形成する。通常、2成分のポリマーブレンドの場合は、多量成分が連続相、少量成分が分散相となる樹脂相分離構造を形成するが、本発明の熱可塑性樹脂組成物ではポリアミド樹脂(a)15〜50重量%、ポリ乳酸樹脂(b)50〜85重量%の如く、ポリアミド樹脂(a)成分が少量成分であってもポリアミド樹脂/ポリ乳酸樹脂の溶融粘度比を下式(1)を満足するように適切に制御することによってポリアミド樹脂が連続相をとる相構造を形成することができる。
Figure 0005092316
本発明の熱可塑性樹脂組成物の樹脂相分離構造は、一旦相溶化した後、スピノーダル分解を使用して形成される相構造と異なり構造周期を持たないことが好ましい。ここでいう構造周期とは、スピノーダル分解を利用して相分離構造を形成した場合に得られる規則的な連続構造の繰り返し周期であり、光散乱装置や小角X線散乱装置を用いて行う散乱測定において散乱極大(ピーク)を示すことにより構造周期の存在を確認することができ、その周期の大きさは散乱光の散乱体内での波長λ、散乱極大を与える散乱角θmを用いて、次式
(構造周期)=(λ/2)/sin(θm/2)
により計算することができる。
構造周期を持たないことは、本発明の樹脂組成物を光散乱測定した際に明確なピークを示さないことから判定することができる。スピノーダル分解を使用して相構造を形成した組成物は、本発明の熱可塑性樹脂組成物の特徴である優れた機械特性を発現することが困難となるため好ましくない。
本発明の熱可塑性樹脂組成物には熱可塑性樹脂同士の相溶性を向上させる目的で相溶化剤(c)を添加することができる。ここで、相溶化剤とは、低分子化合物であっても、高分子化合物であるポリマーであってもいずれでもよいが、中でも好ましい例として、カルボキシル基反応性化合物、カルボキシル基、エポキシ基もしくは酸無水物基などを有するポリマーなどを挙げることができる。
本発明において、カルボキシル基反応性化合物としては、ポリ乳酸樹脂のカルボキシル末端基と反応性のある化合物であれば特に限定されるものではないが、ポリ乳酸樹脂の熱分解や加水分解などで生成する酸性低分子化合物のカルボキシル基とも反応性を有するものであればより好ましく、熱分解により生成する酸性低分子化合物のヒドロキシル基末端基とも反応性を有する化合物であることがさらに好ましい。
このようなカルボキシル基反応性化合物としては、ビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ビスフェノールF、サリゲニン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、ビスフェノールS、トリヒドロキシ−ジフェニルジメチルメタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,5−ジヒドロキシナフタレン、カシューフェノール、2,2,5,5−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン等のビスフェノール−グリシジルエーテル系エポキシ化合物、フタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系エポキシ化合物、N−グリシジルアニリン等のグリシジルアミン系エポキシ化合物、グリシジルイミド化合物、脂環式エポキシ化合物、エポキシ基含有化合物、2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)などのオキサゾリン化合物、オキサジン化合物、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ポリカルボジイミドなどのカルボジイミド化合物、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するアルコキシシランなどの有機シラン化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を使用することが好ましく、なかでもビスフェノール−グリシジルエーテル系エポキシ化合物、エポキシ基、イソシアネート基を有する有機シラン化合物、カルボジイミド化合物が好ましい。上記カルボキシル基反応性化合物は、一種または二種以上の化合物を任意に選択して使用することができる。
本発明において、カルボキシル基、エポキシ基もしくは酸無水物基などを有するポリマーとしては、エチレン/(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エチル−g−無水マレイン酸共重合体、(「g」はグラフトを表わす、以下同じ)、エチレン/(メタ)アクリル酸グリシジル−g−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エチル/無水マレイン酸共重合体−g−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、二重結合を有する高分子の二重結合部をエポキシ化したエポキシ基含有高分子化合物、ノボラック型フェノール樹脂にエピクロルヒドリンを反応させたノボラック型エポキシ樹脂などを挙げることができる。
相溶化剤(c)の配合割合は熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、更に好ましくは0.1〜5重量部である。0.01重量部未満の添加量においては十分な相溶性向上効果が得られず、10重量部を超える場合は熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度が著しく増加し流動性が低下するため好ましくない。
本発明においては、さらに相溶化剤(c)の反応触媒を添加することが好ましい。ここで言う反応触媒とは、相溶化剤と、樹脂の末端や酸性低分子化合物のカルボキシル基もしくはヒドロキシル基との反応を促進する効果のある化合物であり、少量の添加で反応を促進する効果のある化合物が好ましく、例えば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステルが好ましい。反応触媒の添加量は、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂組成物100重量部に対し、0.001〜1重量部が好ましく、0.01〜0.2重量部がより好ましく、0.02〜0.1重量部が最も好ましい。
本発明の方法により得られる熱可塑性樹脂組成物には、機械的強度向上を目的に本発明の効果を損なわない範囲で充填材(d)を配合して使用することも可能である。かかる充填材(d)の具体例としてはガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカ、ワラステナイトウィスカ、硼酸アルミウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維、綿繊維、麻繊維、竹繊維、木材繊維、ケナフ繊維、ジュート繊維、バナナ繊維、ココナッツ繊維、絹、羊毛、アンゴラ、カシミヤもしくはラクダなどの動物繊維などの繊維状充填材、あるいはタルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、モンモリロナイト、合成雲母などの膨潤性の層状珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛、紙粉、木粉、竹粉、セルロース粉末、籾殻粉末、果実殻粉末、キチン粉末、キトサン粉末、タンパク質、澱粉、籾殻、木材チップ、おから、古紙粉砕材、衣料粉砕材などの非繊維状充填材が用いられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填剤を2種類以上併用することも可能である。また、これらの充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。上記充填材中、ガラス繊維および導電性が必要な場合にはPAN系の炭素繊維が好ましく使用される。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、上記の充填材は2種以上を併用して使用することもできる。なお、本発明に使用する上記の充填材はその表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤および膨潤性の層状珪酸塩では有機化オニウムイオンで予備処理することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。また、ガラス繊維はエチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被膜あるいは集束されていてもよい。
上記の充填材(d)の配合量は、本発明の熱可塑性樹脂組成物100重量部に対し、0.5〜100重量部であることが好ましい。より好ましくは5〜80重量部である。配合量が0.5重量部に満たないと補強効果が小さいため好ましくなく、一方配合量が100重量部を越えると成形加工時の流動性が損なわれるので好ましくない。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、熱安定性を保持させるために酸化防止剤を含有せしめることが好ましい。かかる耐熱剤および酸化防止剤としては、フェノール系、リン系化合物の中から選ばれた1種以上の酸化防止剤を含有せしめることが好ましく用いられる。フェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物が好ましく用いられ、具体例としては、トリエチレングリコール−ビス[3−t−ブチル−(5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N、N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどが挙げられる。
中でも、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、N、N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが好ましく用いられる。
次にリン系酸化防止剤としては、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビスフェニレンホスファイト、ジ−ステアリルペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、トリフェニルホスファイト、3,5−ジーブチル−4−ヒドロキシベンジルホスフォネートジエチルエステルなどが挙げられる。かかる耐熱安定剤および酸化防止剤の配合量は、耐熱改良効果の点から熱可塑性樹脂組成物の合計100重量部に対して、0.01重量部以上、特に0.02重量部以上であることが好ましく、成形時に発生するガス成分の観点からは、5重量部以下、特に1重量部以下であることが好ましい。また、フェノール系及びリン系酸化防止剤を併用して使用することは、特に耐熱性、熱安定性、流動性保持効果が大きく好ましい。
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂以外の樹脂(e)を添加することが可能である。樹脂(e)の具体例としては、芳香族ポリエステル系樹脂、ABS樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアレキレンオキサイド系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルサルフォン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリチオエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、四フッ化ポリエチレン系樹脂、および多層構造を有する多層構造重合体などが挙げられ、その配合割合は、本発明の熱可塑性樹脂組成物全体100重量部に対して30重量部を超えると熱可塑性樹脂組成物本来の特徴が損なわれるため好ましくなく、特に20重量部以下の添加が好ましく使用される。中でもオレフィン系樹脂、多層構造重合体は耐衝撃性、靱性の改良のため好ましく使用される。
オレフィン系樹脂としてはオレフィン系重合弾性体および/または不飽和カルボン酸および/またはその誘導体やビニル単量体をグラフト反応あるいは共重合して得られるオレフィン系重合弾性体および/または共役ジエン−芳香族ビニル炭化水素ブロック共重合体の共役ジエンブロック部の一部または全部が水素添加された水素添加ブロック共重合弾性体が好ましく、グラフト反応あるいは共重合されている不飽和カルボン酸および/またはその誘導体やビニル単量体の量は0.01〜20重量%が好ましい。グラフト反応あるいは共重合に用いる不飽和カルボン酸としては(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ブテンジカルボン酸、などが挙げられる。また、それらの誘導体としては、アルキルエステル、グリシジルエステル、ジ−またはトリ−アルコキシシリル基を有するエステル、酸無水物またはイミドなどが挙げられ、グリシジルエステル、ジ−またはトリ−アルコキシシリル基を有する不飽和カルボン酸エステル、酸無水物、イミドが好ましい。
不飽和カルボン酸またはその誘導体の好ましい例としては、マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、イタコン酸ジグリシジルエステル、シトラコン酸ジグリシジルエステル、ブテンジカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテンジカルボン酸モノグリシジルエステル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸イミド、イタコン酸イミド、シトラコン酸イミドなどであり、特にメタクリル酸グリシジル、無水マレン酸、無水イタコン酸、マレイン酸イミドが好ましく使用できる。また、ビニル単量体の例としてはスチレンなどの芳香族ビニル化合物、アクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物、ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン化合物を挙げることができ、これらの不飽和カルボン酸またはその誘導体あるいはビニル単量体を2種以上併用してもよい。なお、これら不飽和カルボン酸またはその誘導体あるいはビニル単量体をグラフトさせる方法については公知の手法を用いることができる。これらは2種以上併用することも可能である。
具体例としては、エチレン/メタクリル酸共重合体およびこれら共重合体中のカルボン酸部分の一部または全てをナトリウム、リチウム、カリウム、亜鉛、カルシウムとの塩としたもの、エチレン/(メタ)アクリル酸エチル−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸エチル−g−マレイミド共重合体、エチレン/アクリル酸エチル−g−N−フェニルマレイミド共重合体およびこれら共重合体の部分ケン化物、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン/ビニルアセテート/(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸メチル/(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/グリシジルエーテル共重合体、エチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン−1−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/1,4−ヘキサジエン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/2,5−ノルボルナジエン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン−g−N−フェニルマレイミド共重合体、エチレン/ブテン−1−g−N−フェニルマレイミド共重合体、水素化スチレン/ブタジエン/スチレン−g−無水マレイン酸共重合体、水素化スチレン/イソプレン/スチレン−g−無水マレイン酸共重合体などを挙げることができる。この中で、エチレン/メタクリル酸共重合体およびこれら共重合体中のカルボン酸部分の一部または全てをナトリウム、リチウム、カリウム、亜鉛、カルシウムとの塩としたもの、エチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン−1−g−無水マレイン酸共重合体、水素化スチレン/ブタジエン/スチレン−g−無水マレイン酸共重合体が好ましく、さらにエチレン/メタクリル酸共重合体およびこれら共重合体中のカルボン酸部分の一部または全てをナトリウム、リチウム、カリウム、亜鉛、カルシウムとの塩としたもの、エチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン−1−g−無水マレイン酸共重合体が好ましい。
多層構造重合体とは、最内層(コア層)とそれを覆う1以上の層(シェル層)から構成され、また、隣接し合った層が異種の重合体から構成される、いわゆるコアシェル型と呼ばれる構造を有する重合体であり、多層構造重合体を構成する層の数は、特に限定されるものではなく、2層以上であればよく、3層以上または4層以上であってもよい。内部に少なくとも1層以上のゴム層を有する多層構造重合体であることが好ましい。ゴム層の種類は、特に限定されるものではなく、ゴム弾性を有する重合体成分から構成されるものであればよい。例えば、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分またはエチレンプロピレン成分などを重合させたものから構成されるゴムが挙げられる。好ましいゴムとしては、例えば、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分、スチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分、アクリロニトリル単位やメタクリロニトリル単位などのニトリル成分またはブタンジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン成分を重合させたものから構成されるゴムである。また、これらの成分を2種以上組み合わせて共重合させたものから構成されるゴムも好ましく、例えば、(1)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分およびジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分を共重合した成分から構成されるゴム、(2)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分およびスチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分を共重合した成分から構成されるゴム、(3)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分およびブタンジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン成分を共重合した成分から構成されるゴム、(4)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分およびジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分およびスチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分を共重合した成分から構成されるゴムなどが挙げられる。また、これらの成分の他に、ジビニルベンゼン単位、アリルアクリレート単位またはブチレングリコールジアクリレート単位などの架橋性成分を共重合し架橋させたゴムも好ましい。
多層構造重合体において、ゴム層以外の層の種類は、熱可塑性を有する重合体成分から構成されるものであれば特に限定されるものではないが、ゴム層よりもガラス転移温度が高い重合体成分が好ましい。熱可塑性を有する重合体としては、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、グリシジル基含有ビニル系単位、不飽和ジカルボン酸無水物系単位、脂肪族ビニル系単位、芳香族ビニル系単位、シアン化ビニル系単位、マレイミド系単位、不飽和ジカルボン酸系単位またはその他のビニル系単位などから選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体が挙げられ、中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和グリシジル基含有単位または不飽和ジカルボン酸無水物系単位から選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体が好ましく、さらに不飽和グリシジル基含有単位または不飽和ジカルボン酸無水物系単位から選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体がより好ましい。
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位としては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく使用される。具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチルまたはメタクリル酸シクロヘキシルアミノエチルなどが挙げられ、耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、(メタ)アクリル酸メチルが好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
グリシジル基含有ビニル系単位としては、特に限定されるものではなく、(メタ)アクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−4−グリシジルエーテルまたは4−グリシジルスチレンなどが挙げられ、耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、(メタ)アクリル酸グリシジルが好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
不飽和ジカルボン酸無水物系単位としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸または無水アコニット酸などが挙げられ、耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、無水マレイン酸が好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
また、脂肪族ビニル系単位としては、エチレン、プロピレンまたはブタジエンなど、芳香族ビニル系単位としては、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレンまたはハロゲン化スチレンなど、シアン化ビニル系単位としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルまたはエタクリロニトリルなど、マレイミド系単位としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(p−ブロモフェニル)マレイミドまたはN−(クロロフェニル)マレイミドなど、不飽和ジカルボン酸系単位として、マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、イタコン酸、フタル酸など、その他のビニル系単位としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンまたは2−スチリル−オキサゾリンなどを挙げることができ、これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
多層構造重合体において、最外層の種類は、特に限定されるものではなく、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、グリシジル基含有ビニル系単位、脂肪族ビニル系単位、芳香族ビニル系単位、シアン化ビニル系単位、マレイミド系単位、不飽和ジカルボン酸系単位、不飽和ジカルボン酸無水物系単位および/またはその他のビニル系単位などを含有する重合体が挙げられ、中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和グリシジル基含有単位および/または不飽和ジカルボン酸無水物系単位を含有する重合体が好ましく、さらに不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位を含有する重合体がより好ましい。不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位としては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、さらに、(メタ)アクリル酸メチルがより好ましく使用される。
多層構造重合体の好ましい例としては、コア層がジメチルシロキサン/アクリル酸ブチル重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体、コア層がブタンジエン/スチレン重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体、コア層がアクリル酸ブチル重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体などが挙げられる。さらに、ゴム層または最外層のいずれか一つもしくは両方の層がメタクリル酸グリシジル単位を含有する重合体であることはより好ましい。
多層構造重合体の粒子径は、特に限定されるものではないが、0.01μm以上、1000μm以下であることが好ましく、さらに、0.02μm以上、100μm以下であることがより好ましく、特に0.05μm以上、10μm以下であることが最も好ましい。
多層構造重合体において、コアとシェルの重量比は、特に限定されるものではないが、多層構造重合体全体に対して、コア層が50重量部以上、90重量部以下であることが好ましく、さらに、60重量部以上、80重量部以下であることがより好ましい。
多層構造重合体としては、例えば、三菱レイヨン製”メタブレン”、鐘淵化学工業製”カネエース”、呉羽化学工業製”パラロイド”、ロームアンドハース製”アクリロイド”、武田薬品工業製”スタフィロイド”またはクラレ製”パラペットSA”などが挙げられ、これらは、単独ないし2種以上を用いることができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物には可塑剤(f)を添加することができる。可塑剤を添加することで、ポリマーを柔軟化して動きやすく結晶の成長を促進する効果があり、機械特性、成形性や耐熱性が向上するため好ましい。本発明に用いられる可塑剤(f)としては、一般によく知られているものを使用することができ、例えばポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤およびエポキシ系可塑剤などを挙げることができる。
ポリエステル系可塑剤の具体例としては、アジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸などの酸成分と、プロピレングリコール、1,3 −ブタンジオール、1,4 −ブタンジオール、1,6 −ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのジオール成分からなるポリエステルや、ポリカプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸からなるポリエステルなどを挙げることができる。これらのポリエステルは単官能カルボン酸もしくは単官能アルコールで末端封鎖されていてもよく、またエポキシ化合物などで末端封鎖されていてもよい。
グリセリン系可塑剤の具体例としては、グリセリンモノアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンモノアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノオレートおよびグリセリンモノアセトモノモンタネートなどを挙げることができる。
多価カルボン酸系可塑剤の具体例としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸エステル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリヘキシルなどのトリメリット酸エステル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸n−オクチル−n−デシルアジピン酸エステルなどのセバシン酸エステル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸エステル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、およびセバシン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのセバシン酸エステルなどを挙げることができる。
リン酸エステル系可塑剤の具体例としては、リン酸トリブチル、リン酸トリ−2−エチルヘキシル、リン酸トリオクチル、リン酸トリフェニル、リン酸ジフェニル−2−エチルヘキシル、リン酸トリクレシルなどのリン酸エステルや脂肪族や芳香族の縮合リン酸エステルを挙げることができる。
ポリアルキレングリコール系可塑剤の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロックおよび/又はランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のプロピレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のテトラヒドロフラン付加重合体などのポリアルキレングリコールあるいはその末端エポキシ変性化合物、末端エステル変性化合物、および末端エーテル変性化合物などの末端封鎖化合物などを挙げることができる。
エポキシ系可塑剤とは、一般にはエポキシステアリン酸アルキルと大豆油とからなるエポキシトリグリセリドなどを指すが、その他にも、主にビスフェノールAとエピクロロヒドリンを原料とするような、いわゆるエポキシ樹脂も使用することができる。
その他の可塑剤の具体例としては、ネオペンチルグリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレートなどの脂肪族ポリオールの安息香酸エステル、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、オレイン酸ブチルなどの脂肪族カルボン酸エステル、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチルなどのオキシ酸エステル、ペンタエリスリトール、各種ソルビトール、ポリアクリル酸エステル、ポリカルボン酸ビニルエステル、シリコーンオイル、およびパラフィン類などを挙げることができる。
本発明で使用する可塑剤の分子量は、100以上3万以下であることが好ましく、500以上2万以下であることがさらに好ましく、1000以上1万以下であることが特に好ましい。
また、上記の可塑剤にポリ乳酸をブロックまたはグラフト共重合したものも、可塑剤として有用に使用できる。
本発明で使用する可塑剤としては、上記に例示したもののなかでも、特にポリエステル系可塑剤およびポリアルキレングリコール系可塑剤から選択した少なくとも1種が好ましい。また、ポリ乳酸と脂肪族ポリエステル系可塑剤の共重合体またはポリ乳酸とポリアルキレングリコール系可塑剤の共重合体から選択された少なくとも1種も好ましく使用できる。本発明に使用する可塑剤は、1種のみでもよくまた2種以上の併用を行ってもよい。
また、可塑剤の配合量は、本発明の熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、0.01〜30重量部の範囲が好ましく、0.1〜20重量部の範囲がより好ましく、0.5〜10重量部の範囲がさらに好ましく、0.1重量部〜5重量部の範囲が特に好ましい。
また本発明の熱可塑性樹脂組成物には、ポリマーの結晶核の形成を促進する結晶核剤添加することができる。
本発明で使用される結晶核剤としては、一般にポリマーの結晶核剤として用いられるものを特に制限なく用いることができ、無機系結晶核剤および有機系結晶核剤のいずれをも使用することができる。無機系結晶核剤の具体例としては、タルク、カオリナイト、モンモリロナイト、合成マイカ、クレー、ゼオライト、シリカ、グラファイト、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、硫化カルシウム、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウムおよびフェニルホスホネートの金属塩などを挙げることができる。これらの無機系結晶核剤は、組成物中での分散性を高めるために、有機物で修飾されていることが好ましい。無機系結晶核剤の平均粒径は10μm以下が好ましく、5μm以下がさらに好ましく、3μm以下が特に好ましい。有機系結晶核剤の具体例としては、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、シュウ酸カルシウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸カルシウム、オクタコサン酸ナトリウム、オクタコサン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジベンゾエート、カリウムジベンゾエート、リチウムジベンゾエート、ナトリウムβ−ナフタレート、ナトリウムシクロヘキサンカルボキシレートなどの有機カルボン酸金属塩、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、スルホイソフタル酸ナトリウムなどの有機スルホン酸塩、ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)、テレフタル酸ジアニリドなどの有機カルボン酸アミド、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン、ポリ−3−メチルブテン−1、ポリビニルシクロアルカン、ポリビニルトリアルキルシラン、高融点ポリ乳酸などのポリマー、エチレン−アクリル酸またはメタクリル酸コポリマーのナトリウム塩、スチレン−無水マレイン酸コポリマーのナトリウム塩などのカルボキシル基を有する重合体のナトリウム塩またはカリウム塩(いわゆるアイオノマー)、ベンジリデンソルビトールおよびその誘導体、ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェートなどのリン化合物金属塩、および2,2−メチルビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウムなどを挙げることができる。
本発明で使用する結晶核剤としては、上記に例示したもののなかでも、特にタルク、有機カルボン酸金属塩および有機カルボン酸アミドから選択された少なくとも1種が好ましい。好ましいタルクとしては、平均粒径0.5〜7μmであり、かつ燃焼時の損失分を除いた成分中のSiO2とMgOの割合が93重量%以上であるタルクを挙げることができる。本発明で使用する結晶核剤は、1種のみでもよくまた2種以上の併用を行ってもよい。
また、結晶核剤の配合量は、本発明の熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、0.01〜30重量部の範囲が好ましく、0.05〜20重量部の範囲がより好ましく、0.1〜15重量部の範囲がさらに好ましい。
また、改質を目的として、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、他の重合体を添加することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造に用いる混練機は、単軸、2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機に供給して熱可塑性樹脂組成物の融点以上の加工温度で混練する方法などを代表例として挙げることができる。中でも押出機、特に2軸押出機が生産性の面で好ましい。また、溶融混練時に発生する水分や、低分子量の揮発成分を除去する目的で、ベント口を設けることも好んで用いられる。2軸押出機を用いて、本発明の熱可塑性樹脂組成物の樹脂相分離構造を上述の如くコントロールするためには、押出時の混練エネルギー(吐出量あたりの押出機仕事量(kW/(kg/h)))を大きくすることが必要である。好ましい混練エネルギーは、0.15以上0.65以下であり、特に好ましくは0.25以上である。これによって良好な溶融混練を行うことができ、目的とする樹脂相分離構造を形成することができる。しかしながら、通常、混練エネルギーを大きくするとせん断による発熱で樹脂温度が上昇し、溶融耐熱性の乏しいポリ乳酸樹脂の熱分解を引き起こし、ポリアミド樹脂との溶融粘度比が変化するため目的の相分離構造を形成することが困難となる。ここで言う樹脂温度とは、例えば押出機ダイより吐出された溶融樹脂を温度計により測定した温度を言う。そのため押出時の樹脂温度はポリアミド樹脂とポリ乳酸樹脂のうち融点の高い方の樹脂の融点以上250℃以下にする。このように混練エネルギーと樹脂温度を制御することにより、目的の樹脂相分離構造を形成することが可能となる。
2軸押出機を用いた溶融混練において、シリンダー温度を低温とし、スクリュー回転数を高回転とする方法は高せん断を得ることができ、高混練エネルギーを達成することができるため好ましく用いられる。しかしながら、この場合において混練部のスクリューエレメントに従来のニーディングディスクを用いた場合には、せん断による発熱量が大きく、押出時の樹脂温度を上述のように制御することが困難であり好ましくない。これに対して、混練部のスクリューエレメントに低発熱混練エレメントを用いるとせん断による発熱を抑えることができ、押出時の樹脂温度250℃以下が達成できるため好ましい。ここで言う低発熱エレメントとは、従来のニーディングディスクでは平行に配列されているフライトチップ部を螺旋角度が0〜90度あるいは90〜180度の範囲内で傾斜したスクリューエレメント等が挙げられ、これらをスクリューの混練部に導入することにより従来のニーディングディスクに不足している樹脂の温度上昇抑制効果を得ることができる。また混練部に超臨界二酸化炭素、超臨界窒素を導入する方法もせん断による発熱を抑えることができるため好ましい。
2軸押出機のシリンダー温度は、2軸押出機に投入された樹脂を可塑化する可塑化部と可塑化された溶融樹脂を溶融混練する混練部に分けた場合、可塑化部をポリアミド樹脂(a)、ポリ乳酸樹脂(b)のうち融点の高い樹脂の融点〜融点+20℃の温度とし、混練部のシリンダー温度を100〜210℃の範囲とすることが好ましい。この際、原料の混合順序には特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練し、ペレット化した後、成形前に添加して成形に供することも勿論可能である。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形方法に関しても制限はなく、公知の方法(射出成形、押出成形、吹込成形、プレス成形等)を利用することができるが、生産上好ましい方法としては、射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形である。また、成形温度については、通常、熱可塑性樹脂組成物の融点より5〜50℃高い温度範囲から選択され、一般的には、単層であるが、2色成形法により多層にしてもかまわない。2色成形を行う場合の各層の配置については特に制限はなく、全ての層を本発明の熱可塑性樹脂組成物で構成してもよいし、他の層にその他の熱可塑性樹脂を用いて構成してもよい。ここで用いられる本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の層として用いられる熱可塑性樹脂としては、飽和ポリエステル、ポリスルホン、四フッ化ポリエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリケトン共重合体、ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリチオエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリウレタン、ポリオレフィン、ABS、ポリアミドエラストマ、ポリエステルエラストマなどが例示でき、必要に応じ、これらの一種以上の熱可塑性樹脂を配合して用いることも、それらに各種添加剤を添加して所望の物性を付与して用いることもできる。また、得られた成形品同士あるいはその他の成形品と接着または溶着させてもよく、その方法は特に限定されず一般的な技術を用いることが可能である。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、機械的特性、耐熱性が優れることから自動車部品(内装・外装部品)、機械部品、電気・電子部品(各種ハウジング、歯車、ギアなど)、建築部材、土木部材、農業資材、医療、食品、家庭・事務用品、家具用部品および日用品など各種用途に利用することができる。
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の骨子は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
(1)樹脂相分離構造観察
樹脂相分離構造は以下の要領で観察した。住友重機社製SG75H−MIVを使用し、シリンダー温度230℃、金型温度80℃により成形したASTM1号ダンベル片の成形表面より500nm内部から厚み80nmの薄片を切削し、透過型電子顕微鏡で倍率10000倍にて観察した。
(2)溶融粘度比
東洋精機製キャピログラフ1C型を用いて、230℃、せん断速度100秒―1の条件で溶融粘度を測定し、[ポリ乳酸樹脂の溶融粘度/ポリアミド樹脂の溶融粘度]から溶融粘度比を求めた。
(3)樹脂温度
2軸押出機において溶融混練する際に押出機ダイより吐出される溶融樹脂を温度計により測定した。
(4)材料強度
以下の標準方法に従って測定した。
引張強度、引張伸び :ASTM D638
曲げ弾性率 :ASTM D790
(5)成形性
成形性について、引張試験片を金型から取り出す際に、変形のない固化した成形品が得られる最短の時間を成形サイクル時間として計測した。成形サイクル時間が短いほど成形性に優れているといえる。
(6)耐熱性
曲げ試験片(厚さ1/4インチ)を用いて、ASTM法D648に準じて荷重たわみ温度(0.45MPa)測定を行った。
実施例1〜11、比較例1〜5
下に示す各成分を表1に記載の各割合でドライブレンドした後、日本製鋼所社製TEX30型2軸押出機で、シリンダー温度、スクリュー回転数を表1に示した条件に設定して、実施例1〜9、比較例2〜4はスクリュー混練部に低発熱混練エレメントを導入したスクリューを用い、比較例5はスクリュー混練部に従来のニーディングディスクを導入したスクリューを用いて溶融混練を行い、ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。本実施例のペレットについて、加熱プレスにより240℃、1分で熱処理をした後、急冷して構造を固定した厚み0.5mmのシートから厚み100μmの切片を切り出して光散乱測定を行ったが明確なピークは見られなかった。これより本発明のサンプルの樹脂相分離構造は相溶過程を経てスピノーダル分解によって形成されたものではないことが示唆された。
得られたペレットは80℃で12時間真空乾燥したペレットを用い、射出成形(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度230℃、金型温度80℃)により試験片を調製した。各サンプルの機械的特性、成形性、耐熱性を評価した結果は表1に示すとおりである。比較例2、3は目的のポリアミド樹脂が連続相となる樹脂相分離構造を達成することができず、成形性、耐熱性に劣るものであった。比較例4は従来のシリンダー温度条件にて溶融混練を行ったが十分な混練エネルギーが得られず、目的の樹脂相分離構造を達成することができなかったため、成形性、耐熱性に劣るものであった。比較例5は混練部のシリンダー温度を低温として溶融混練を行ったがスクリュー混練部に従来のニーディングディスクを導入したスクリューを用いているため発熱が大きく、樹脂温度が上昇しポリ乳酸樹脂の分解が進行したため、目的の樹脂相分離構造を達成することができず、成形性、耐熱性に劣るものであった。本実施例では比較例1〜5と比較して、機械特性、成形性と耐熱性にバランスして優れるものであった。
実施例12〜13、比較例6
下に示す各成分を表2に示す割合でポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、相溶化剤をドライブレンドした後、日本製鋼所社製TEX30型2軸押出機のメインフィーダーに導入して、シリンダー温度、スクリュー回転数を表2に示した条件に設定して、スクリュー混練部に低発熱混練エレメントを導入したスクリューを用いて溶融混練を行い、押出機下流のサイドフィーダーよりガラス繊維を導入した。ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間真空乾燥したペレットを用い、射出成形(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度230℃、金型温度80℃)により試験片を調製した。各サンプルの機械的特性、成形性、耐熱性を評価した結果は表2に示すとおりである。比較例6と比較して実施例12、13はポリアミド樹脂が連続相となる樹脂相分離構造を達成するため成形性、耐熱性に優れるものであった。
実施例14、比較例7
下に示す各成分を表2に示す割合でポリアミド樹脂(a)、ポリ乳酸樹脂(b)、相溶化剤(c)、タルクをドライブレンドした後、日本製鋼所社製TEX30型2軸押出機のメインフィーダーに導入して、シリンダー温度、スクリュー回転数を表2に示した条件に設定して、スクリュー混練部に低発熱混練エレメントを導入したスクリューを用いて溶融混練を行い、ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間真空乾燥したペレットを用い、射出成形(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度230℃、金型温度80℃)により試験片を調製した。各サンプルの機械的特性、成形性、耐熱性を評価した結果は表2に示すとおりである。比較例7と比較して実施例14はポリアミド樹脂が連続相となる樹脂相分離構造を達成するため成形性、耐熱性に優れるものであった。
実施例15〜20、比較例8
下に示す各成分を表3に記載の各割合でドライブレンドした後、日本製鋼所社製TEX30型2軸押出機で、シリンダー温度、スクリュー回転数を表3に示した条件に設定して、スクリュー混練部に低発熱混練エレメントを導入したスクリューを用いて溶融混練を行い、ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間真空乾燥したペレットを用い、射出成形(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度230℃、金型温度80℃)により試験片を調製した。各サンプルの機械的特性、成形性、耐熱性を評価した結果は表3に示すとおりである。比較例8は目的のポリアミド樹脂が連続相となる樹脂相分離構造を達成することができず、成形性、耐熱性に劣るものであるのに対して、実施例15〜20は機械特性、成形性と耐熱性が特異的に優れるものであった。
本実施例および比較例に用いたポリアミド樹脂(a)は以下の通りである。
(A−1):融点225℃、相対粘度2.30のナイロン6樹脂。
(A−2):融点225℃、相対粘度2.80のナイロン6樹脂。
(A−3):融点180℃、相対粘度2.50のナイロン12樹脂。
(A−4):融点225℃、相対粘度2.70のナイロン610樹脂。
同様に、ポリ乳酸樹脂(b)は以下の通りである。
(B−1):重量平均分子量(PMMA換算)21万、D体含有率1.2%のポリL乳酸樹脂。
(B−2):重量平均分子量(PMMA換算)16万、D体含有率1.2%のポリL乳酸樹脂。
同様に、相溶化剤(c)は以下の通りである。
(C−1):エポキシ当量600〜700、分子量1060のビスフェノールA型エポキシ樹脂。
(C−2):ポリカルボジイミド(日清紡製“カルボジライト”LA−1)。
(C−3):エチレン/グリシジルメタクリレート−g−ポリメタクリル酸メチル(日本油脂製“モディパー”A−4200)。
同様に、充填剤(d)は以下の通りである。
(D−1):平均繊維径13μmのガラス繊維(日本電気硝子社製T−289)。
(D−2):タルク(日本タルク製SG−200)。
同様に、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂以外に添加した樹脂(e)は以下の通りである。
(E−1):エチレン/メタクリル酸共重合体中のカルボン酸部分の一部を亜鉛塩としたもの(三井・デュポンポリケミカル製“ハイミラン”1706)。
(E−2):コア層がシリコーン/アクリル重合体でシェル層がメタクリル酸メチル重合体である多層構造重合体(三菱レイヨン製“メタブレン”S2001)。
同様に、可塑剤(f)は以下の通りである。
(F−1):ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合体(旭電化社製、プルロニックF68)
(F−2):ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合体(旭電化社製、プルロニックL101)
(F−3):ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合体(旭電化社製、プルロニックP85)
(F−4):ポリプロピレングリコール(旭電化社製、アデカポリエーテルP−3000)
(F−5):ポリエチレングリコール−ポリ乳酸ブロック共重合体
なお、(F−5)のポリエチレングリコール−ポリ乳酸ブロック共重合体は下記製造例1の方法で製造した。
(製造例1)平均分子量10000のポリエチレングリコール71重量部とL−ラクチド29重量部に対し、オクチル酸錫0.025重量部を混合し、攪拌装置付きの反応容器中で窒素雰囲気中140℃で30分間、180℃で60分間重合し、平均分子量2,000のポリ乳酸セグメントを有する、ポリエチレングリコールとポリ乳酸のブロック共重合物を得た。
Figure 0005092316
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Claims (10)

  1. ポリアミド樹脂(a)15〜50重量%およびポリ乳酸樹脂(b)50〜85重量%を配合してなり、ポリ乳酸樹脂の溶融粘度/ポリアミド樹脂の溶融粘度の比が2.3〜3.7の範囲である熱可塑性樹脂組成物であり、前記熱可塑性樹脂組成物を構成する樹脂の溶融混合物に、樹脂温度を250℃以下に制御しつつ0.15kWh/kg以上の混練エネルギーを付与することにより製造される熱可塑性樹脂組成物であり、かつ、電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造においてポリアミド樹脂(a)が連続相、ポリ乳酸樹脂(b)が分散相となる相構造を形成することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
  2. ポリアミド樹脂(a)25〜45重量%およびポリ乳酸樹脂(b)55〜75重量%を配合してなる請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
  3. 前記熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、相溶化剤(c)を0.01〜10重量部添加することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
  4. 相溶化剤(c)がビスフェノール−グリシジルエーテル系エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、エチレン/(メタ)アクリル酸グリシジル−g−(メタ)アクリル酸メチル共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項記載の熱可塑性樹脂組成物。
  5. 前記熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、可塑剤(f)を0.01〜30重量部添加することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
  6. 可塑剤(f)がポリアルキレングリコール系可塑剤であることを特徴とする請求項記載の熱可塑性樹脂組成物。
  7. 前記ポリアミド樹脂(a)の主成分がナイロン6樹脂であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
  8. 前記熱可塑性樹脂組成物を構成する樹脂の溶融混合物に、樹脂温度を250℃以下に制御しつつ0.15kWh/kg以上の混練エネルギーを付与することにより製造せしめることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
  9. 請求項1〜のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を加工して得られる成形品。
  10. 射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形の内から選ばれる方法によって得られる請求項に記載の成形品。
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