本発明の成形品は、後述する熱可塑性樹脂組成物からなり、固定手段であるスルーホール(以下、単に「スルーホール」と記載する場合がある)と、スルーホールに接するウエルドを有することを特徴とする。固定手段であるスルーホールとは、締結や嵌合などの後加工により他部品と固定するために用いられる貫通孔を指し、例えば、ネジ孔や金属挿入孔などが挙げられる。スルーホールを有する成形品を射出成形により成形する場合、スルーホール近傍で溶融した熱可塑性樹脂組成物流が分岐・合流するため、スルーホールに接するウエルドが発生する。ここで、本発明におけるウエルドとは、熱可塑性樹脂組成物合流部における合流角θが150°以下である部分を指す。なお、合流角θとは、熱可塑性樹脂組成物合流部におけるそれぞれの熱可塑性樹脂組成物流に対する垂線のなす角度であり、合流角が0°の場合は分岐した熱可塑性樹脂組成物流が正面から合流することを意味し、合流角が180°の場合は分岐した熱可塑性樹脂組成物流が合流しないことを意味する。また、本発明においてウエルドがスルーホールに接するとは、スルーホール側のウエルド端部とスルーホールとの距離が、後述するウエルドの長さ(L)の5%以下であることを指す。スルーホール側のウエルド端部とスルーホールとの距離が0であるときに本発明の効果がより顕著に奏される。かかるウエルドは、割れの起点となりやすい傾向にあるが、本発明においては、後述する特定の熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、スルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品という特定の用途において、ウエルド靱性を向上させ、割れを抑制することができる。以下、スルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品を、単に「成形品」と記載する場合がある。
スルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品の一態様を示す概略図を図1に示す。図1において、1はスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品、2はゲート、3はウエルド、4はスルーホールを示す。
本発明の成形品において、スルーホールに接するウエルドの長さ(L[mm])の、ウエルドにおける成形品の厚み(T[mm])に対する比(L/T)は、0.1〜100が好ましい。L/Tを0.1以上とすることにより、ウエルドの長さを適度に確保し、成形品の厚みを適度に抑えて流動距離を短くし、溶融樹脂の流動中の冷却を抑制することができるため、ウエルド強度およびウエルド靱性をより向上させることができる。一方、L/Tを100以下とすることにより、ウエルドの長さを適度に抑え、成形品の厚みを適度に確保することができるため、ウエルド靱性をより向上させることができる。
L/Tは、例えば、成形品の厚みや、スルーホールの位置など成形品の形状、ゲート位置やゲート数などの成形条件によって所望の範囲に調整することができる。
固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品としては、例えば、アジャスタープレートやケージクリップ等が挙げられる。
次に、本発明の成形品を構成する熱可塑性樹脂組成物について説明する。本発明に用いられる熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)および反応性官能基を有するゴム質重合体(B)を含む。耐熱性および強度に優れるポリアミド樹脂(A)とともに反応性官能基を有するゴム質重合体(B)を含むことにより、引張破断伸びおよび衝撃強度を向上させることができる。
本発明で用いるポリアミド樹脂とは、アミド結合を有する高分子からなる樹脂のことであり、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる原料とするものである。その原料の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂環族ジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。本発明においては、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマーまたはコポリマーを2種以上併用してもよい。
本発明において、特に有用なポリアミド樹脂は、150℃以上の結晶融解温度を有するポリアミド樹脂である。かかるポリアミド樹脂は、耐熱性や強度に優れる。150℃以上の結晶融解温度を有するポリアミド樹脂の具体的な例としては、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリペンタメチレンアジパミド(ポリアミド56)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリペンタメチレンセバカミド(ポリアミド510)、ポリテトラメチレンセバカミド(ポリアミド410)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカンアミド(ポリアミド11)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ポリアミド6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ポリアミド66/6I/6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリデカンアミドコポリマー(ポリアミド6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ポリアミドXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド6T/M5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド6T/5T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド/ポリペンタメチレンアジパミドコポリマー(5T/56)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)およびこれらの共重合体などが挙げられる。
とりわけ好ましいものとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド56、ポリアミド610、ポリアミド510、ポリアミド410、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6/66、ポリアミド66/6T、ポリアミド6T/6I、ポリアミド66/6I/6、ポリアミド6T/5T、ポリアミド10Tなどを挙げることができる。
これらのポリアミド樹脂を、成形性、耐熱性、靱性、表面性などの必要特性に応じて2種以上用いることも実用上好適であるが、これらの中で、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66/6T、ポリアミド10Tがさらに好ましい。
ポリアミド樹脂の末端基濃度には特に制限はないが、末端アミノ基濃度が1.5×10−5mol/g以上であるものが、反応性官能基を有するゴム質重合体との反応性の面で好ましい。ここでいう末端アミノ基濃度とは、85%フェノール−エタノール溶液にポリアミド樹脂を溶解し、チモールブルーを指示薬として使用し、塩酸水溶液で滴定することで測定できる。
ポリアミド樹脂の重合度には特に制限がなく、樹脂濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度として、1.5〜7.0の範囲が好ましい。相対粘度が1.5以上であれば、ウエルド靱性をより向上させることができる。1.8以上がより好ましい。一方、相対粘度が7.0以下であれば、成形性を向上させることができる。5.0以下がより好ましい。
本発明において、反応性官能基を有するゴム質重合体(B)は、エポキシ基、酸無水物基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩およびオキサゾリン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する。以下、これらの反応性官能基を有するゴム質重合体を単に「反応性官能基を有するゴム質重合体」と記載する場合がある。とりわけエポキシ基、酸無水物基、カルボキシル金属塩は反応性が高く、しかも分解、架橋などの副反応が少ないため好ましく用いられる。
前記記載の酸無水物基を構成する酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸が好適に用いられる。酸無水物基をゴム質重合体に導入する場合、その方法としては、通常公知の技術で行うことができ、特に制限はないが、例えば、酸無水物とゴム質重合体の原料である単量体とを共重合する方法、酸無水物をゴム質重合体にグラフトさせる方法などを用いることができる。
また、エポキシ基をゴム質重合体に導入する場合、その方法としては、通常公知の技術で行うことができ、特に制限はないが、例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジルなどのα,β−不飽和酸のグリシジルエステル化合物などのエポキシ基を有するビニル系単量体をゴム質重合体の原料である単量体と共重合する方法、エポキシ基を有する重合開始剤または連鎖移動剤を用いてゴム質重合体を重合する方法、エポキシ化合物をゴム質重合体にグラフトさせる方法などを用いることができる。
アミノ基をゴム質重合体に導入する場合、その方法としては、通常公知の技術で行うことができ、特に制限はないが、例えば、アミノ化合物とゴム質重合体の原料である単量体とを共重合する方法、アミノ基をゴム質重合体にグラフトさせる方法などを用いることができる。
カルボキシル基をゴム質重合体に導入する場合、その方法としては、通常公知の技術で行うことができ、特に制限はないが、例えば、カルボキシル基を有する不飽和カルボン酸系単量体をゴム質重合体の原料である単量体と共重合する方法などを用いることができる。不飽和カルボン酸の具体的な例としては、(メタ)アクリル酸などが挙げられる。
また前記カルボキシル基の一部を金属塩としたカルボキシル金属塩も反応性官能基として有効であり、例えば、(メタ)アクリル酸金属塩などが挙げられる。金属塩の金属は、特に限定されないが、好ましくは、ナトリウムなどのアルカリ金属やマグネシウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛などが挙げられる。
また、オキサゾリン基をゴム質重合体に導入する場合、その方法としては、通常公知の技術で行うことができ、特に制限はないが、例えば、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクリロイル−オキサゾリン、2−スチリル−オキサゾリンなどのオキサゾリン基を有するビニル系単量体をゴム質重合体の原料である単量体と共重合する方法などを用いることができる。
本発明において、反応性官能基を有するゴム質重合体のゴム質重合体とは、一般的にガラス転移温度が室温より低い重合体を含有し、分子間の一部が共有結合・イオン結合・ファンデルワールス力・絡み合い等により、互いに拘束されている重合体のことを指す。例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエンのランダム共重合体およびブロック共重合体、該ブロック共重合体の水素添加物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ブタジエン−イソプレン共重合体などのジエン系ゴム、エチレン−プロピレンのランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレン−ブテンのランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレンと炭素数5以上のα−オレフィンとの共重合体、エチレン−不飽和カルボン酸エステル共重合体などが好ましい例として挙げられる。
これらの中でも、ポリアミド樹脂との相溶性の観点から、エチレン−不飽和カルボン酸エステル共重合体が好ましく用いられる。エチレン−不飽和カルボン酸エステル共重合体における不飽和カルボン酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、より好ましくは(メタ)アクリル酸とアルコールとのエステルである。不飽和カルボン酸エステルの具体的な例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。エチレン−不飽和カルボン酸エステル共重合体中のエチレン成分と不飽和カルボン酸エステル成分の重量比は特に制限はないが、好ましくは90/10〜10/90、より好ましくは85/15〜15/85の範囲である。エチレン−不飽和カルボン酸エステル共重合体の数平均分子量は特に制限されないが、流動性、機械特性の観点から1000〜70000の範囲が好ましい。
反応性官能基を有するゴム質重合体における、一分子鎖当りの官能基の数については、特に制限はないが、通常1〜10個が好ましく、架橋等の副反応を少なくする為に1〜5個がより好ましい。また、官能基を全く有さない分子が含まれていても構わないが、その割合は少ない程好ましい。
本発明に用いられる熱可塑性樹脂組成物におけるポリアミド樹脂(A)と反応性官能基を有するゴム質重合体(B)の含有量比は、これらの合計100重量部に対して、ポリアミド樹脂50〜95重量部、反応性官能基を有するゴム質重合体5〜50重量部が好ましい。反応性官能基を有するゴム質重合体を5重量部以上含有することにより、ウエルド靭性をより向上させることができる。反応性官能基を有するゴム質重合体の含有量は、10重量部以上がより好ましく、20重量部以上がさらに好ましい。一方、反応性官能基を有するゴム質重合体の含有量を50重量部以下とすることにより、成形品の剛性を向上させ、ウエルド靭性をより向上させることができる。反応性官能基を有するゴム質重合体の含有量は、45重量部以下がより好ましく、40重量部以下がさらに好ましい。
本発明の成形品を構成する熱可塑性樹脂組成物は、電子顕微鏡観察において、前記ポリアミド樹脂(A)が連続相(α)、前記反応性官能基を有するゴム質重合体(B)が分散相(β)を形成し、かつ分散相(β)中にポリアミド樹脂と反応性官能基を有するゴム質重合体の反応により生成した化合物よりなる粒子径1〜100nmの微粒子を含有し、更に分散相(β)中における前記微粒子の占める面積が10%以上であるモルフォロジーを有することを特徴とする。分散相内の構造を前記のように高度に制御することにより、ウエルド靭性に優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。分散層(β)中にポリアミド樹脂と反応性官能基を有するゴム質重合体の反応により生成した化合物よりなる粒子径1〜100nmの微粒子を含有することにより、成形品を射出成形する際や成形品に外力がかかった際における分散層(β)の層状変形を抑制することができるため、ウエルド靱性を向上させることができる。分散相(β)中における前記微粒子の占める面積が10%以上であると、かかる効果が顕著に奏される。
ここで、モルフォロジー観察には公知の技術が適用できるが、一般的な成形条件であれば、成形前後でモルフォロジーは変化しないことから、本発明においては、熱可塑性樹脂組成物を射出成形したISO試験片の断面方向中心部を1〜2mm角に切削し、四酸化ルテニウムで反応性官能基を有するゴム質重合体を染色後、0.1μm以下(約80nm)の超薄切片をウルトラミクロトームにより−196℃で切削し、3万5千倍に拡大して透過型電子顕微鏡で観察する。得られた画像について、基本構造および分散相(β)内の粒子径1〜100nmの微粒子の有無を観察する。さらに、分散相(β)中における微粒子の占める面積は、Scion Corporation社製画像解析ソフト「Scion Image」を使用し算出する。
前記モルフォロジーを有する熱可塑性樹脂組成物(以下、「ポリアミド樹脂−ゴム質重合体複合組成物(α−β)」と記載する場合がある)の製造方法としては、以下の調製法(1)〜(3)の方法が好ましい。生産性の観点から、調製法(3)の方法がより好ましい。
調製法(1)としては、例えば、特開2008−156604号公報に記載の方法が挙げられる。すなわち、ポリアミド樹脂と反応性官能基を有するゴム質重合体を、スクリュー長さLとスクリュー直径Dの比L/Dが50以上で複数箇所のフルフライトゾーンおよびニーディングゾーンを有する二軸押出機に投入し、スクリュー中のニーディングゾーンの樹脂圧力のうち最大の樹脂圧力をPkmax(MPa)、スクリュー中のフルフライトゾーンの樹脂圧力のうち最小の樹脂圧力をPfmin(MPa)としたときに、
Pkmax≧Pfmin+0.3
を満たす条件で溶融混練して製造する方法が挙げられる。なお、L/Dとは、スクリュー長さLを、スクリュー直径Dで割った値のことである。スクリュー長さとは、スクリュー根元の原料が供給される位置(フィード口)にあるスクリューセグメントの上流側の端部から、スクリュー先端部までの長さである。また、押出機において、原材料が供給される側を上流、溶融樹脂が吐出される側を下流ということがある。かかる方法においては、ニーディングゾーンの樹脂圧力を、フルフライトゾーンの樹脂圧力より、ある範囲で高めることにより、ポリアミド樹脂と反応性官能基を有するゴム質重合体との反応を効果的に促進させることが可能となる。
調製法(2)としては、例えば、国際公開第2009/119624号に記載の方法が挙げられる。すなわち、ポリアミド樹脂と反応性官能基を有するゴム質重合体を伸張流動しつつ溶融混練して製造する方法が挙げられる。ここで、伸張流動とは、反対方向に流れる2つの流れの中で、溶融した樹脂が引き伸ばされる流動形態のことである。一方、一般的に用いられる剪断流動とは、同一方向で速度の異なる2つの流れの中で、溶融した樹脂がせん断変形を受ける流動形態のことである。ポリアミド樹脂−ゴム質重合体複合組成物(α−β)の製造に利用する伸張流動混練では、溶融混練時に一般的に用いられる剪断流動と比較し、分散効率が高いことから、特にリアクティブプロセッシングの様に反応を伴うアロイ化の場合、反応が効率的に進行することが可能となる。
調製法(3)としては、例えば、特開2011−063015号公報に記載の方法が挙げられる。すなわち、ポリアミド樹脂と反応性官能基を有するゴム質重合体を伸張流動しつつ溶融混練した後に切り欠き型ミキシングスクリューで溶融混練する方法が挙げられる。
調製法(3)において、伸張流動しつつ溶融混練するゾーン(伸張流動ゾーン)の前後での流入効果圧力降下は100〜500kg/cm2(9.8〜49MPa)であることが好ましい。かかる伸張流動ゾーンの前後での流入効果圧力降下とは、伸張流動ゾーン手前の圧力差(ΔP)から、伸張流動ゾーン内での圧力差(ΔP0)を差し引くことで求めることができる。伸張流動ゾーンの前後での流入効果圧力降下が9.8MPa以上である場合には、伸張流動ゾーン内での伸張流動の形成される割合が高く、また圧力分布をより均一にすることができる。また伸張流動ゾーンの前後での流入効果圧力降下が49MPa以下である場合には、押出機内での背圧が適度な範囲に抑制され、安定的な製造が容易となる。
調製法(3)において、押出機のスクリューにおける一つの伸張流動ゾーンの長さをLkとし、スクリュー直径をDとすると、Lk/D=3〜8であることが、混練性、反応性の観点から、好ましい。
調製法(3)において、伸張流動ゾーンを形成するための具体的な方法としては、ディスク先端側の頂部とその後面側の頂部との角度である螺旋角度θが、スクリューの反回転方向に0°<θ<90°の範囲内にあるツイストニーディングディスクにより形成する方法、フライト部にスクリュー先端側から後端側に向けて断面積が縮小されてなる樹脂通路が形成されているフライトスクリューにより形成する方法、押出機中に設けられた、溶融樹脂の通過する断面積が暫時減少させた樹脂通路から形成する方法などが好ましい例として挙げられる。
調製法(3)において、切り欠きとは、スクリューフライトの山の部分を削ってできたものを示す。切り欠き型ミキシングスクリューは樹脂充満率を高くすることが可能で、その切り欠き型ミキシングスクリューを連結させたミキシングゾーンを通過する溶融樹脂は、押出機シリンダー温度の影響を受けやすい。そのため、押出機前半の伸張流動ゾーンで反応促進して発熱した溶融樹脂でも、後半の切り欠き型ミキシングスクリューからなるミキシングゾーンで効率的に冷却され、樹脂温度を低下させることが可能となる。また前半の伸張流動ゾーンで反応促進させているため、後半のミキシングゾーンを通過する際の樹脂の溶融粘度は高くなっており、切り欠き型ミキシングスクリューの切り欠きによる剪断が有効に作用して反応も促進されるようになる。すなわち、伸張流動しつつ溶融混練した後に切り欠き型ミキシングスクリューで溶融混練する手法は、樹脂温度上昇を抑制しながら、混練性、反応性を向上させることが可能で、スクリュー長さLとスクリュー直径Dの比L/Dが短い汎用の大型押出機で処理量を増加させても、発熱による樹脂劣化を抑制し、衝撃吸収性等に優れるポリアミド樹脂−ゴム質重合体複合組成物(α−β)を得ることが可能となる。
調製法(3)において、切り欠き型ミキシングスクリューにより溶融混練するゾーン(以下、「ミキシングゾーン」ということがある。)は、一条ネジでスクリューピッチの長さが0.1D〜0.5D、かつ切り欠き数が1ピッチ当たり8〜16個である切り欠き型ミキシングスクリューを連結させて構成されることが、樹脂充満による溶融樹脂の冷却効率向上、混練性向上、反応性向上の観点から好ましい。スクリューピッチの長さが0.1D〜0.3D、かつ切り欠き数が1ピッチ当たり10〜15個である切り欠き型ミキシングスクリューを連結させて構成されることが、より好ましい。ここで一条ネジとは、スクリューが360度回転した際にスクリューフライトの山部分が1箇所であることを示す。
調製法(3)において、押出機のスクリューにおける一つのミキシングゾーンの長さをLmとし、スクリュー直径をDとすると、Lm/D=5〜15であることが、樹脂充満による溶融樹脂の冷却効率向上、混練性向上、反応性向上の観点から好ましい。
調製法(3)において、ミキシングゾーンは2箇所以上に設けることが、樹脂充満による溶融樹脂の冷却効率の向上、混練性向上、反応性向上の観点から好ましい。
調製法(3)において、ミキシングゾーンを構成する切り欠き型ミキシングスクリューの75%以上が、スクリュー軸の回転方向とは逆廻りのネジ廻り方向であることが、樹脂充満による溶融樹脂の冷却効率向上、混練性向上、反応性向上の観点から好ましい。
調製法(3)において、伸張流動ゾーンにおける押出機シリンダー設定温度をCk、ミキシングゾーンにおける押出機シリンダー設定温度をCmとすると、Ck−Cm≧60を満足させつつ溶融混練することが、溶融樹脂の大幅な冷却効率向上に加え、混練性、反応性も大幅に向上できるため好ましい。一般に化学反応は反応温度が高い方が進行しやすく、逆に言うと、樹脂温度が低下すると、ポリアミド樹脂と反応性官能基の反応率は低下する方向に行く。しかし、調製法(3)においては、ミキシングゾーンのシリンダー設定温度を下げて樹脂温度を低下させても、逆に反応を進行させることができ、高速引張時の衝撃吸収性、耐衝撃性、耐熱性をより大きくできる。これは、前半に伸張流動しつつ溶融混練するゾーンを設けてポリアミド樹脂と反応性官能基の反応を促進させているため、ミキシングゾーンを通過する際の溶融粘度が高くなっており、樹脂温度を低下させて更に溶融粘度を高くすると、切り欠き型ミキシングスクリューの切り欠きによる剪断が更に強く作用して、樹脂温度低下による反応率低下を補う以上に反応が促進されるようになるためと考えられる。この効果は伸張流動ゾーンの後に切り欠き型ミキシングスクリューからなるミキシングゾーンを設けたスクリュー構成で初めて発現する。一方で例えば、前半に伸張流動を形成できない一般のニーディングディスクで溶融混練した場合には、熱可塑性樹脂と反応性官能基の反応率は低いため、そのニーディングディスクゾーンの後に切り欠き型ミキシングスクリューから構成されるミキシングゾーンを設けていても、ミキシングゾーンを通過する際の溶融粘度は低い。そのため、切り欠き型ミキシングスクリューの切り欠きによる剪断も小さく、前半に伸張流動しつつ溶融混練するゾーンを有する場合に比べて反応の進行が低くなる。
調製法(3)において、使用する押出機としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、三軸以上の多軸押出機が挙げられる。中でも、単軸押出機と二軸押出機が好ましく用いられ、特に二軸押出機が好ましく用いられる。またかかる二軸押出機のスクリューとしては、特に制限はなく、完全噛み合い型、不完全噛み合い型、非噛み合い型等のスクリューが使用できるが、混練性、反応性の観点から、好ましくは、完全噛み合い型である。また、スクリューの回転方向としては、同方向、異方向どちらでもよいが、混練性、反応性の観点から、好ましくは同方向回転である。本発明において、最も好ましいスクリューは、同方向回転完全噛み合い型である。
調製法(3)は、L/Dが50未満である汎用の二軸押出機を使用した溶融混練に好ましく適用され、スクリュー直径Dの大きい二軸押出機で処理量を増加させても、発熱による樹脂劣化を抑制し、かつ耐熱性、耐衝撃性、衝撃吸収性等を有するポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
調製法(3)において、押出機のスクリューの全長に対する伸張流動しつつ溶融混練するゾーン(伸張流動ゾーン)の合計の長さの割合は10〜35%であり、かつ押出機のスクリューの全長に対する切り欠き型ミキシングスクリューにより溶融混練するゾーン(ミキシングゾーン)の合計の長さの割合は20〜35%であることが、樹脂充満による溶融樹脂の冷却効率の向上、混練性向上、反応性向上の観点から好ましい。
調製法(3)において、押出機中での滞留時間が30〜300秒であることが好ましい。かかる滞留時間とは、原料が供給されるスクリュー根本の位置(フィード口)から、原料と共に、着色剤等を投入し、着色剤等を投入した時点から、押出機の吐出口より押出され、その押出物への着色剤による着色度が最大となる時点までの時間のことである。滞留時間が30秒以上である場合、押出機中での反応が十分に促進され、ポリアミド樹脂−ゴム質重合体複合組成物(α−β)の特性(耐熱性、耐衝撃性のバランス等)や、特異な粘弾性特性を顕著に発現させた衝撃吸収性がより向上する。滞留時間が300秒以下である場合、滞留時間が長いことによる樹脂の熱劣化を抑制することができる。
本発明において用いられる熱可塑性樹脂組成物は、その特性を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の成分を含有しても構わない。
例えば、その特性を損なわない範囲で、必要に応じて、他の熱可塑性樹脂類を含有してもよい。かかる熱可塑性樹脂類としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂やABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリアルキレンオキサイド樹脂等が挙げられる。かかる熱可塑性樹脂類を2種以上併用することも可能である。かかる熱可塑性樹脂類を用いる場合、その含有量は、特に制限はないが、ポリアミド樹脂、反応性官能基を有するゴム質重合体の合計100重量部に対して、0.1〜400重量部が好ましい。
また、その特性を損なわない範囲で、必要に応じて、反応性基を有するゴム質重合体以外のゴム類を添加してもよい。かかるゴム類とは、例えば、エチレン−アクリル酸、エチレン−メタクリル酸などのエチレン−不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル、エチレン−メタクリル酸エステルなどのエチレン−不飽和カルボン酸エステル共重合体、アクリル酸エステル−ブタジエン共重合体、例えばブチルアクリレート−ブタジエン共重合体などのアクリル系弾性重合体、エチレン−酢酸ビニルなどのエチレンと脂肪酸ビニルとの共重合体、エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン−プロピレン−ヘキサジエン共重合体などのエチレン−プロピレン非共役ジエン3元共重合体、ブチレン−イソプレン共重合体、塩素化ポリエチレン、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマーなどの熱可塑性エラストマーが好ましい例として挙げられる。かかるゴム類を2種類以上併用することも可能である。かかるゴム類を用いる場合、その含有量は、特に制限はないが、ポリアミド樹脂、反応性官能基を有するゴム質重合体の合計100重量部に対して、0.1〜400重量部が好ましい。
また、その特性を損なわない範囲で、必要に応じて、各種充填材を含有してもよい。充填材の形状としては繊維状であっても非繊維状であってもよく、繊維状の充填材と非繊維状充填材を組み合わせて用いてもよい。かかる充填材としては、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填剤、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素および炭化珪素などの非繊維状充填剤が挙げられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填剤を2種類以上併用することも可能である。また、これら繊維状および/または非繊維状充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械特性を得る意味において好ましい。
強度および寸法安定性等を向上させるため、かかる充填剤を用いる場合、その含有量は特に制限はないが、ポリアミド樹脂、反応性官能基を有するゴム質重合体の合計100重量部に対して30〜400重量部が好ましい。
また、その特性を損なわない範囲で、必要に応じて、各種添加剤を含有してもよい。かかる各種添加剤類としては、例えば、結晶核剤、着色防止剤、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ化化合物などの酸化防止剤や熱安定剤、レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系などの耐候剤、脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、エチレンビスステアリルアミドや高級脂肪酸エステルなどの離型剤、p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミドなどの可塑剤、滑剤、ニグロシン、アニリンブラックなどの染料系、硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラックなどの顔料系の着色剤、アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせなどの難燃剤、発泡剤などが挙げられる。
かかる酸化防止剤や熱安定剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、リン系化合物が好ましく用いられ、ヒンダードフェノール系化合物の具体例としては、トリエチレングリコール−ビス[3−t−ブチル−(5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N、N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどが挙げられる。
中でも、エステル型高分子ヒンダードフェノールタイプが好ましく、具体的には、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが好ましく用いられる。
かかる酸化防止剤や熱安定剤のリン系化合物の具体例としては、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビスフェニレンホスファイト、ジ−ステアリルペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、トリフェニルホスファイト、3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスフォネートジエチルエステルなどが挙げられる。
各種添加剤類は2種類以上併用することも可能である。その含有量は、特に制限はないが、ポリアミド樹脂、反応性官能基を有するゴム質重合体の合計100重量部に対して、0.01〜20重量部が好ましい。
これらの熱可塑性樹脂類、ゴム類、各種添加剤類は、熱可塑性樹脂組成物を製造する任意の段階で配合することが可能であり、例えば、ポリアミド樹脂、反応性官能基を有するゴム質重合体を配合する際に同時に添加する方法や、溶融混練中にサイドフィード等の手法により添加する方法が挙げられる。
得られた熱可塑性樹脂組成物を射出成形することにより、スルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品を得ることができる。
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。まず、各実施例および比較例における評価方法について説明する。
(1)モルフォロジー観察
各実施例および比較例で得られたダンベル型試験片の断面方向中心部を1〜2mm角に切削し、四酸化ルテニウムで反応性官能基を有するゴム質重合体(B)を染色後、0.1μm以下(約80nm)の超薄切片をウルトラミクロトームにより−196℃で切削し、3万5千倍に拡大して透過型電子顕微鏡で観察した。得られた画像について、基本構造および分散相(β)内の1〜100nmの微粒子の有無を観察し、更に分散相中における微粒子の占める面積は、Scion Corporation社製画像解析ソフト「Scion Image」を使用し算出した。
(2)引張強度および引張破断伸び測定
各実施例および比較例で得られたウエルドを有する引張試験片およびウエルドを有しない引張試験片について、速度を1000mm/minとすること以外はISO527−1,2に従い、チャック間距離を115mmとし、引張試験を実施し、引張強度および引張破断伸びを測定した。なお、引張破断伸びは、チャック間距離115mmを基準とした破断伸びとした。測定はそれぞれ4本の試験片について行い、数平均値を算出した。
(3)シャルピー衝撃強度測定
各実施例および比較例で得られた衝撃試験片について、ISO179に従い、シャルピー衝撃試験を実施し、衝撃強度を測定した。
(4)引張最大荷重および引張破断変位測定 各実施例および比較例で得られたスルーホールに接するウエルドを有する角板について、ゲートから60mmの地点にあるスルーホールに接するウエルドの長さLが5mmとなるように幅13mm、長さ80mmの試験片を切出した。得られた試験片について、速度50mm/min、チャック間距離を30mmとし、引張試験を実施し、引張最大荷重および引張破断変位を測定した。測定はそれぞれ4本の試験片について行い、数平均値を算出した。
スルーホールに接するウエルドを有する成形品において、引張強度や引張最大荷重および引張破断伸びや引張破断変位が高いほど、低速変形による割れを抑制することができ、シャルピー衝撃強度が高いほど、高速変形による割れを抑制することができる。
各実施例および比較例に用いた原材料を以下に示す。
ポリアミド樹脂A:融点225℃、樹脂濃度0.01g/mlの98%硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度が2.70であるポリアミド6樹脂。
反応性官能基を有するゴム質重合体A:グリシジルメタクリレート変性ポリエチレン共重合体「“ボンドファースト”(登録商標)BF−7L」(住友化学(株)製)。
反応性官能基を有するゴム質重合体B:エチレン−メタクリル酸−メタクリル酸亜鉛塩共重合体「“ハイミラン”(登録商標)1706」(三井・デュポンポリケミカル(株)製)。
(実施例1)
ポリアミド樹脂Aおよび反応性官能基を有するゴム質重合体Bを表1に示す配合組成で混合し、窒素フローを行いながら、スクリュー径が65mm、2条ネジの2本のスクリューのL/D=45の同方向回転完全噛み合い型二軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX−65αII)を使用し、シリンダー温度260℃、スクリュー回転数300rpm、押出量200kg/hで溶融混練を行い、吐出口(L/D=45)よりストランド状の溶融樹脂を吐出した。スクリュー構成は、L/D=13の位置から、ニーディングディスク先端側の頂部とその後面側の頂部との角度である螺旋角度θが、スクリューの反回転方向に20°であるツイストニーディングディスクをLk/D=5.0分連結させて、伸張流動しつつ溶融混練するゾーン(伸張流動ゾーン)を形成させた。さらに伸張流動ゾーンの下流側に、L/D=0.5の逆スクリューゾーンを設けた。スクリュー全長に対する伸張流動ゾーンの合計の長さの割合(%)を、(伸張流動ゾーンの合計長さ)÷(スクリュー全長)×100により算出すると、11%であった。また、ツイストニーディングディスクの手前の圧力差(ΔP)から、伸張流動ゾーン内での圧力差(ΔP0)を差し引くことにより、伸張流動ゾーン前後における流入効果圧力降下を求めた結果、19.6MPaであった。更にL/D=23および31の位置から、一条ネジでスクリューピッチが0.25Dかつ切り欠き数が1ピッチ当たり12である切り欠き型ミキシングスクリューを、それぞれLm/D=5.0分連結させて、2箇所のミキシングゾーンを形成させた。スクリュー全長に対するミキシングゾーンの合計の長さの割合(%)を、(ミキシングゾーンの合計長さ)÷(スクリュー全長)×100により算出すると、22%であった。またミキシングゾーンを構成する切り欠き型ミキシングスクリューのうち、スクリュー軸の回転方向とは逆廻りのネジ廻り方向であるスクリューの割合(%)は80%とした。ベント真空ゾーンをL/D=38の位置に設け、ゲージ圧力−0.1MPaで揮発成分の除去を行った。吐出樹脂をストランド状に引いて冷却バスを通過させて冷却し、ペレタイザーにより引取りながら裁断することにより、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得た。
得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを、FANUC社製 S−2000i成形機を用いて、成形温度260℃、金型温度80℃、射出速度100mm/秒、スクリュー回転数100rpmの条件で射出成形することにより、長さ127mm、幅10mm、厚み4mmのダンベル型試験片を得た。このとき、金型の溶融樹脂を流し込む箇所を長さ方向の片端とすることにより、ウエルドを有しない引張試験片を作製し、溶融樹脂を流し込む箇所を長さ方向の両端とすることにより、長さ方向の中央部にウエルドを有する引張試験片を作製した。また、前述の引張試験片の平行部から長さ80mmに切り出し、ノッチ加工を行うことにより衝撃試験片を作製した。
また、射出速度を20mm/秒とすること以外は前述と同様の条件で射出成形することにより、長さ119mm、幅80mm、厚み2mm、幅方向の中央部にあるゲートから20mm、60mm、100mm距離に直径8mmのスルーホールを有する角板を得た。 前述の方法により評価した結果を表1に示す。なお、モルフォロジー観察では、ポリアミド樹脂が連続相(α)、反応性官能基を有するゴム質重合体が分散相(β)を形成すること、分散相(β)中に、ポリアミド樹脂と反応性官能基を有するゴム質重合体の反応により生成した化合物よりなる粒子径1〜100nmの微粒子を有すること、分散相(β)中における微粒子の占める面積が30%であることを確認した。
(比較例1)
ポリアミド樹脂Aのペレットを、実施例1と同様の条件で射出成形することにより、引張試験片、衝撃試験片、スルーホールに接するウエルドを有する試験片を得た。前述の方法により評価した結果を表1に示す。
(比較例2〜3)
ポリアミド樹脂Aと、反応性官能基を有するゴム質重合体AまたはBとを表1に示す配合組成で混合し、窒素フローを行いながら、スクリュー径が65mm、2条ネジの2本のスクリューのL/D=45の同方向回転完全噛み合い型二軸押出機(日本製鋼所社製、TEX−65αII)を使用し、シリンダー温度260℃、スクリュー回転数300rpm、押出量200kg/hで溶融混練を行い、吐出口(L/D=45)よりストランド状の溶融樹脂を吐出した。スクリュー構成は、L/D=13、23、31の位置から、一般のニーディングディスクを、それぞれL/D=5.0分連結させて、ニーディングゾーンを形成させた。さらにニーディングゾーンの下流側に、L/D=0.5の逆スクリューゾーンを設けた。スクリュー全長に対するニーディングゾーンの合計の長さの割合(%)を、(ニーディングゾーンの合計長さ)÷(スクリュー全長)×100により算出すると、33%であった。ベント真空ゾーンをL/D=38の位置に設け、ゲージ圧力−0.1MPaで揮発成分の除去を行った。吐出樹脂をストランド状に引いて冷却バスを通過させて冷却し、ペレタイザーにより引取りながら裁断することにより、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得た。
得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを、実施例1と同様の条件で射出成形することにより、引張試験片、衝撃試験片、スルーホールに接するウエルドを有する試験片を得た。
前述の方法により評価した結果を表1に示す。なお、モルフォロジー観察では、ポリアミド樹脂が連続相(α)、反応性官能基を有するゴム質重合体が分散相(β)であることを確認したが、分散相(β)中に、ポリアミド樹脂と反応性官能基を有するゴム質重合体の反応により生成した化合物よりなる微粒子は認められなかった。