JP5066229B2 - 穴明け工具 - Google Patents

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Description

本発明は、穴明け工具に関するものである。
プリント配線板(PCB)の穴明け加工には、図1に図示したような刃部Cを有するボデー部Aとシャンク部Bとで構成されるドリルが使用される。サイズは用途によって様々であるが、一般に直径が0.7mm以下のドリルが多く使用されている。
具体的には、刃部Cには、図2に図示したように本体20の外周にドリル先端から基端側に向かう螺旋状の切り屑排出溝22が形成され、この切り屑排出溝22のすくい面と先端に設けられた第一の逃げ面24との交差稜線部には切れ刃21が形成されている(例えば特許文献1,2参照)。尚、図中、符号25は第一の逃げ面24の工具回転方向後方側に連設される第二の逃げ面、d’は工具直径、l’は切り屑排出溝の溝長、α’はねじれ角である。
また、アルミ合金、チタン、マグネシウム、銅などの非鉄系被削材向けの耐摩耗性と耐溶着性を有する皮膜として非晶質炭素皮膜が実用化され、ドリルやエンドミル、刃先交換型切削チップなどの切削工具に被覆されて用いられている(例えば特許文献3参照)。
ところで、PCBは銅と絶縁層としてガラスクロスに樹脂を含浸させたものを張り合わせて構成されるものであり、近年のPCBは、更なる信頼性向上のため、耐熱性の向上や曲げ強度の強化並びに低熱膨張化が求められており、PCBを構成するガラスクロスや樹脂の機械的強度を高めることで、高信頼を確保しているものが多くなっている。
しかしながら、穴明け加工を行う被削材として考慮した場合、上記構成のPCBは機械的強度が高められた分だけドリルの摩耗を促進し易く、穴明け加工中のドリル折損や過度の摩耗に伴う穴位置精度等の穴品質の悪化を引き起こし易い。
一方、PCBの高密度化に伴い、要求される穴径(ドリルの直径)は年々径小化しており、直径が0.4mm以下の穴明け加工が多くなってきている。
また、穴明け加工工程においては、加工効率を考慮し、同仕様のPCBを複数枚重ねて穴明け加工をするのが一般的である。具体的には、複数枚重ねたPCBの上面にドリルの求心性を高める目的の当て板としてアルミ板または表面に樹脂が被覆された樹脂付きアルミ板を載置して穴明け加工をするのが一般的である。樹脂付きアルミ板はアルミ板よりも求心性を高める効果が高く、またドリルの折損の改善にも寄与するため、特に直径が0.4mm以下の小径ドリルの穴明け加工に用いられることが多い。
近年では、上記したような比較的加工性の悪いPCBの加工に用いるPCB用小径ドリルに対しても、加工コスト削減を目的としたPCBの重ね枚数の増加や、ドリルが折損せずに穴明け加工できる穴明け寿命の延長が要求されている。
しかしながら、当て板として樹脂付きアルミ板を用いて穴明け加工した場合、アルミ板を用いて穴明け加工した場合よりも、ドリルの刃部Cの基端部近傍に切り屑の巻き付き残りが顕著に発生し、樹脂の粘性が高い程、また被覆された樹脂が厚い程、前述の切り屑の巻き付き残りが発生する傾向が高く、上記要求の実現は困難である。
これは、通常は穴明け加工時に発生する切り屑は穴明け機に付属される切り屑吸引機能によって吸引されて所定のダストボックスに搬出されるが、樹脂付きアルミ板を用いた場合、穴明け加工時の切削熱によって軟化した樹脂が切り屑と共に切り屑排出溝にガイドされて排出され、刃部Cの基端部近傍でドリルと切り屑を粘着するように作用するためと考えられ、引き続き穴明け加工を繰り返すことで切り屑の巻き付き残り量が増加するものと考えられる。
切り屑の巻き付き残り量は、穴明け加工時のドリルの回転数や送り速度の加工条件やPCBの材質によっても変化するが、図3(a)に図示したように顕著な切り屑の巻き付き残りが発生し、この切り屑の巻き付き残りが続く穴明け加工中にその切り屑(切り屑塊)が何かしらの振動等をきっかけとしてドリルから離れ、前記吸引機能をもってしても吸引されずに当て板上に落下し、その後、穴明け加工しようとするドリルが落下した切り屑塊に干渉することで穴位置精度の悪化やドリルの折損が引き起こされると考えられる。図3(b)に当て板上に落下した切り屑塊を例示する。
また、例えば、特許文献4には、2つの切れ刃と2つの切り屑排出溝を有するPCBドリルにおいて、各切り屑排出溝を先端から所定量後退した位置で合流させ、合流点よりも後方で1つの溝とすることで、剛性を向上させる技術が開示されているが、切り屑の巻き付きについては言及がなく、上記要求を満たすことはできない。
特開昭56−39807号公報 特開2006−55915号公報 特開2001−341021号公報 特開2007−307642号公報
本発明は、上述のような現状に鑑みなされたもので、切り屑の巻き付きを防止でき、直径が0.7mm以下、特に0.4mm以下の小径ドリルであっても、折損寿命が長く安定した穴明け加工が実現可能な極めて実用性に秀れた穴明け工具を提供するものである。
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
工具本体1の先端に1つ若しくは2つの切れ刃が設けられ、この工具本体1の外周に工具先端から基端側に向かう2つの螺旋状の切り屑排出溝が設けられ、この2つの切り屑排出溝は1つの主溝2aと1つの副溝2bとで構成されており、前記主溝2aの途中部に前記副溝2bが合流するように設けられた穴明け工具であって、前記主溝2aと前記副溝2bとの合流部6には稜部7が設けられており、更に、前記合流部6には、前記副溝2bの溝深さを前記主溝2aの溝深さより浅く形成することで段差が設けられ、この段差は2μm以上で前記主溝2aの溝深さの70%以下に設定されていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
また、請求項1記載の穴明け工具において、前記主溝2a若しくは前記副溝2bのねじれ角を工具先端側と工具基端側とで異ならせることで、前記主溝2aと前記副溝2bとを合流せしめたことを特徴とする穴明け工具に係るものである。
また、請求項1,2いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記合流部6は工具先端から前記主溝2aの溝長lの50%以下の位置に設けられていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
また、請求項1〜いずれか1項に記載の穴明け工具において、潤滑性皮膜が被覆されていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
また、請求項記載の穴明け工具において、前記潤滑性皮膜として非晶質炭素皮膜が採用されていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
また、請求項1〜いずれか1項に記載の穴明け工具において、工具の直径が0.7mm以下であることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
また、請求項1〜いずれか1項に記載の穴明け工具において、工具の直径が0.4mm以下であることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
また、請求項5記載の穴明け工具において、前記非晶質炭素皮膜は基材直上に形成されていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
また、請求項5記載の穴明け工具において、基材直上に、周期律表の4a、5a、6a族及びSiから選択される1種若しくは2種以上の元素からなる金属若しくは半金属から成り、膜厚が200nm以下1nm以上である下層皮膜層が形成され、この下層皮膜層の上に前記非晶質炭素皮膜が形成されていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
本発明は上述のように構成したから、切り屑の巻き付きを防止でき、直径が0.7mm以下、特に0.4mm以下の小径ドリルであっても、折損寿命が長く安定した穴明け加工が実現可能な極めて実用性に秀れた穴明け工具となる。
PCB用ドリルの概略説明側面図である。 従来例の拡大概略説明図である。 (a)ドリルの刃部Cの基端部近傍における切り屑の巻き付き残りを例示する写真と、(b)当て板上に落下した切り屑塊を例示する写真である。 本実施例の刃部の概略説明図である。 図4の先端部分の拡大概略説明図である。 図5(b)のA−A断面図である。 実験結果を示す表及びグラフである。 比較例1の切り屑の巻き付き状態及び加工後の当て板を示す写真である。 比較例2の切り屑の巻き付き状態を示す写真である。 実施例1の切り屑の巻き付き状態及び加工後の当て板を示す写真である。
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
穴明け加工時に工具先端部で生じた切り屑が切り屑排出溝に沿って排出される際、主溝2aと副溝2bとの合流部6において切り屑同士が衝突することで、また、主溝2aと副溝2bとの合流部6の段差により、合流部6において切り屑が(工具径方向に)強制的に飛散せしめられ、工具基端部まで到達し難くなるため、工具基端部における切り屑の巻き付きが防止される。
本発明の具体的な実施例について図4〜図10に基づいて説明する。
本実施例は、工具本体1の先端に1つ若しくは複数の切れ刃が設けられ、この工具本体1の外周に工具先端から基端側に向かう2つの螺旋状の切り屑排出溝が設けられ、この複数の切り屑排出溝は1つの主溝2aと1つの副溝2bとを含み、前記主溝2aの途中部に前記副溝2bが合流するように設けられた穴明け工具であって、前記主溝2aと前記副溝2bとの合流部6には稜部7が設けられており、更に、前記合流部6には、前記副溝2bの溝深さを前記主溝2aの溝深さより浅く形成することで段差が設けられ、この段差は2μm以上で前記主溝2aの溝深さの70%以下に設定されているものである。
具体的には、本実施例は、工具直径が0.075mmで溝長lが1.2mmの主溝2aと該主溝2aに合流する副溝2bとが1条ずつ設けられ、この主溝2a及び副溝2bのすくい面と前記工具本体1の先端逃げ面(第一の逃げ面)との交差稜線部には夫々前記工具本体1と一体に切れ刃が設けられたドリルであり、PCBの穴明け加工に使用されるものである。
このPCBの穴明け加工は、例えば、後述する実験例のように、難削材である半導体パッケージ用のPCB(基板:厚さ0.1mm/表裏両面Cu層)を5枚重ねて、その上面に当て板として厚さ0.1mmの樹脂付きアルミ板を載置し、貫通穴加工ができるように前記PCBの下面には捨て板として一般に使用されている厚さ1.5mmの紙フェノール材を配置した状態で行われる。当て板の厚さは0.04〜1.0mmの範囲で適宜設定する。また、厚さ0.1mm程度のPCBのCu層の厚さは通常2〜80μm程度である。
尚、本実施例においては2つの切れ刃と2つの切り屑排出溝(1つの主溝2aと1つの副溝2b)を有するドリル(2枚刃ドリル)について説明するが、主溝側にのみ切れ刃を設けた1枚刃ドリルや、3枚刃以上のドリル(例えば1つの主溝と2つの副溝を有するもの)の場合も同様である。
更に具体的には、上記のような条件の場合に、前述の切り屑の巻き付き残りが発生し易いため、これを解決すべく図2に図示した工具を改良したものであり、工具本体1に非晶質炭素皮膜を被覆し、ドリルの主溝2aに第一のねじれ角αを有する第一のねじれ領域3と第一のねじれ領域3の工具基端側に連設され第一のねじれ角αより大きい第二のねじれ角αを有する第二のねじれ領域4とを設け(副溝2bのねじれ角αは一定)、主溝2aと副溝2bとを合流させたものである(図4,5参照。尚、図5(a)〜(c)は図4の先端部分を夫々異なる回転位相で見たものである。)。
尚、主溝2aでなく副溝2bまたは主溝2a及び副溝2bの双方に第一のねじれ領域と第二のねじれ領域とを設けて合流(連設)させる構成としても良いし、主溝2aまたは副溝2bのねじれ角を工具基端側に向かって徐々に(曲線的に)変化させる(大きくする)ことで合流させる構成としても良いし、初めから主溝2a及び副溝2bのねじれ角を変えておくことで合流させる構成としても良い。
また、主溝2aと副溝2bとの合流部6における段差は、切り屑の飛散効果を目的として主溝2aと副溝2bの溝深さを異ならせることで形成されるもので、主溝2aと副溝2bの溝深さはどちらが深くてもよく、限定されるものではない。具体的には、主溝2aの溝深さ(主溝深さ、主溝2aの工具半径方向最深距離)Xを副溝2bの溝深さ(副溝深さ、副溝2bの工具半径方向最深距離)Yより深くすることで段差を形成する場合、合流部6において合流しようとする切り屑同士がぶつかって合流できず、切り屑が径方向に飛散することになる。また、副溝2bの溝深さYを主溝2aの溝深さXより深くすることで段差を形成する場合、合流部6において副溝2bがなくなって切り屑が主溝2aの壁にぶつかり、排出するスペースがなくなって、切り屑が径方向に飛散することになる。
また、本実施例においては、以下に詳細を記述した砥石痕による折損の危険性を回避するため、副溝2bの溝深さYを主溝2aの溝深さXより浅くすることで段差を形成している(図5(b)のA−A断面図を示す図6参照)。
この段差は2μm以上で主溝2aの溝深さXの70%以下とするのが望ましい。前記段差が2μm未満であると、製造上主溝2aに砥石痕ができる可能性が高く、この砥石痕に応力が集中し折損の起点となり得、折損の可能性が高まり、また工具の剛性劣化により穴位置精度に影響してしまう。本実施例1では前記段差を3μm(主溝2aの溝深さXの37%)に、本実施例2では5.2μm(主溝2aの溝深さXの64%)に設定されている。また、前記段差が主溝2aの溝深さXの70%より大きいと、副溝2bが浅くなりすぎるため、必要最低限の切り屑排出性を阻害する可能性があり、好ましくない(図7には図示しないが、段差を主溝2aの溝深さXの74%に設定したドリルの実験結果では折損した)。
尚、本願においては主溝2aと副溝2bとの合流開始点(工具先端からOの位置)から合流終了点(工具先端からPの位置)までの領域を合流部6としている。また、本願において段差の測定位置は、主溝2aと副溝2bとの合流開始点と合流終了点との中間位置Qである合流(連設)中心点の位置である。
また、合流部6の基端位置(主溝2aと副溝2bとの合流終了点)が工具先端から主溝2aの溝長lの50%以下の位置に設けられるように第一のねじれ領域3及び第二のねじれ領域4の各ねじれ角及び連設位置を設定する。この場合、工具先端から溝長lの50%を超える領域では溝が1つになって剛性が高まり、穴位置精度が向上する。合流部6を工具先端から主溝2aの溝長lの50%より後方(基端側)の位置に設けた場合、溝容積が大きくなり、工具の剛性が劣化し、穴位置精度が悪化したり折損の可能性が高くなる。本実施例では、合流部6の基端位置が工具先端から溝長lの32%の位置となるように設定されている。
各部を具体的に説明する。
このドリルは、基材としては、WCを主成分とする硬質粒子とCoを主成分とする結合材から成る超硬合金製であり、この超硬合金のWC粒子の平均粒径が0.1μm〜2μmでありCo含有量が重量%で5〜15%であるものが採用されており、少なくとも工具本体1の切り屑排出溝に非晶質炭素皮膜が被覆されている。非晶質炭素皮膜は硬質であるため工具の摩耗を抑制し、また高い潤滑性を有することから切り屑が切り屑排出溝に沿って工具本体1の基端部へ排出され易くなって切り屑詰まりを防止して折損し難くなる。
また、本実施例においては、潤滑性皮膜として、炭素原子を主体として構成されビッカース硬さが3000以上である高硬度の非晶質炭素(DLC)から成る非晶質炭素皮膜を採用しているが、ビッカース硬さが2000以上であれば、比較的低硬度の非晶質炭素(DLC)若しくはDLCと他の物質(例えば金属)との混合物から成る皮膜を採用しても良いし、クロム窒化物等、他の潤滑性皮膜を採用しても良い。
尚、本実施例においては、非晶質炭素皮膜は基材直上に形成しているが、例えば、基材直上に、周期律表の4a、5a、6a族及びSiから選択される1種若しくは2種以上の元素からなる金属若しくは半金属から成り、膜厚が200nm以下1nm以上である下層皮膜層(下地膜)を形成し、この下層皮膜層の上に前記非晶質炭素皮膜を形成する構成としても良い。また、下層皮膜層としては、上記構成に限らず、周期律表の4a、5a、6a族及びSiから選択される1種若しくは2種以上の元素と窒素及び炭素から選択される1種以上の元素との化合物から成るものを採用しても良い。
また、本実施例では非晶質炭素皮膜や下地膜の成膜の際、アークイオンプレーティング方式の成膜装置を用いたが、スパッタリング方式やレーザーアブレーション方式などのPVD成膜装置を使っても良い。
第一のねじれ角αは30°〜45°に設定されている。ねじれ角は、切り屑の排出性とドリル剛性に影響し、ねじれ角を大きくすると切り屑排出性が向上するが、反面、剛性が低下する関係にある。小径ドリルの場合、ドリルの耐折損性は剛性のみならず切り屑排出性の影響を受けやすい。そのため、直径が0.7mm以下、特に0.4mm以下のドリルのねじれ角は大きく設定することが望ましく、40°〜50°に設定されることが一般的である。
本発明者等は、更なるドリルの耐折損性の向上を図るべく、ドリルの剛性と切り屑排出性という相反する特性を示すねじれ角について研究を重ねた結果、被削物上面にアルミ板または樹脂付きアルミ板を載置するような場合や、被削物の内外層などに銅箔が多い場合には、ねじれ角を30°未満にすると、切り屑排出性が悪化してドリルが折損しやすくなり、ねじれ角を45°より大きく設定した場合、切り屑排出性の向上に起因して耐折損性が向上するが、アルミや銅の切り屑が過度に薄く長く形成されてしまい、工具本体1(切り屑排出溝)の基端部(根元部)に切り屑の巻き付き残りが発生しやすい知見を得た。
更に、本発明者等は、非晶質炭素皮膜等の潤滑性皮膜を被覆したドリルの場合、ノンコートのドリルに比べて耐折損性向上の効果はあるが、切り屑の巻き付き残りが顕著に発生し、この切り屑の巻き付き残り(切り屑塊)が当て板上に落下し、落下した切り屑塊にドリルが干渉することで穴位置精度の悪化やドリルの折損寿命が安定せずに早期に折損する場合があることをつきとめている。
これらを勘案すると、切削を行う工具先端の切れ刃部分はねじれ角(第一のねじれ角α及び副溝2bのねじれ角α)を45°以下の角度(30°〜45°)として切り屑排出性を確保すると共に発生する切り屑を短くして切り屑が巻き付かないようにすることが望ましい。更に望ましくは、35°〜45°に設定すると良い。本実施例においては主溝2aの第一のねじれ角α及び副溝2bのねじれ角αは38°に設定されている。
第二のねじれ角αは第一のねじれ角αより5°以上大きい角度に設定され、且つ35°〜65°に設定されている。第二のねじれ角αを第一のねじれ角αより大きくすることで、切り屑排出溝の基端側の切り屑排出性が高まり耐折損性が向上する。
また、非晶質炭素皮膜(潤滑性皮膜)が被覆された効果によって第一のねじれ角αに設定されている第一のねじれ領域3における切り屑排出溝に沿ってスムーズに排出されている切り屑の排出方向を強制的に第二のねじれ角αに設定されている第二のねじれ領域4における切り屑排出溝へと変化させて遠心力との相乗効果によって工具本体1の外方へ飛散させ、この点においても切り屑の巻き付きを防止して折損寿命を長く安定させている。
第一のねじれ角αと第二のねじれ角αとの角度差が5°未満の場合は、切り屑の排出方向を強制的に変化させる効果が低下し、ねじれ角が変化することによる切り屑の工具本体1の外方への飛散効果が低下する。また、第二のねじれ角αが65°より大きいと工具本体1の基端部の剛性が低下し、耐折損性を悪化させることとなる。
更に望ましくは、第一のねじれ角αと第二のねじれ角αとの角度差を10°以上に設定し、且つ、第二のねじれ角αと45°〜60°に設定すると良い。本実施例においては、第二のねじれ角αは、第一のねじれ角α(38°)と17°の角度差設けて55°に設定されている。
また、切り屑を良好に排出するためには、できるだけ工具先端側で第二のねじれ角αへ変化することが望ましいが、一般的にPCB用のドリルは使用後に先端を研ぎ直して使用するため(再研磨)、第一のねじれ領域3と第二のねじれ領域4との連設部5は、研磨量を考慮して工具先端から0.2mm以上切り屑排出溝の溝長lの50%以下の位置に設定するのが好ましい。
本実施例においては、第一のねじれ角αと第二のねじれ角αとの変化点(連設部5)が工具先端から溝長lの20.8%の位置(C)となるように設定されている。
本発明はPCBなどの非鉄系被削材の穴明け加工等に使用する非晶質炭素皮膜等の潤滑性皮膜が被覆されたドリルとして発明されたものであるが、その基材としては、WCを主成分とする硬質粒子とCoを主成分とする結合材からなる超硬合金が、硬度と靭性のバランスが取れた材料であることから望ましい。
WC粒子の平均粒径を小さくしすぎると、結合材中にWC粒子を均一に分散させることが難しくなり、超硬合金の抗折力低下を引き起こしやすい。一方、WC粒子を大きくしすぎると超硬合金の硬度が低下する。また、Co含有量を少なくしすぎると超硬合金の抗折力が低下し、逆にCo含有量を多くしすぎると超硬合金の硬度が低下する。そのため、WC粒子の平均粒径が0.1μm〜2μmであり、Co含有量が重量%で5〜15%の超硬合金を基材とすることが望ましい。
また、PCBなどの難削材に対して皮膜剥離のない安定した穴明け加工を行うためには、基材と非晶質炭素皮膜との密着性をより高くすることが望ましい。Ti,Cr,Taなどの周期律表の4a,5a,6a族元素及びSiから選択される1種若しくは2種以上の元素から成る金属または半金属を基材直上に下地膜として成膜し、その上に非晶質炭素皮膜を成膜することで、基材と非晶質炭素皮膜の密着性をより高めることができる。また、周期律表の4a,5a,6a族及びSiから選択される1種若しくは2種以上の元素と窒素及び炭素から選択される1種以上の元素との化合物を基材直上に下地膜として成膜しても良い。
下地膜は基材と非晶質炭素皮膜との密着性を向上させる目的で成膜されるので、あまり厚すぎても意味がなく、200nm以下1nm以上の膜厚にすることが望ましい。
本実施例は上述のように構成したから、少なくとも切り屑排出溝に非晶質炭素皮膜等の潤滑性皮膜を被覆することで切り屑排出溝の表面潤滑性が高くなり、よって穴明け加工で生じた切り屑のせん断角が大きくなって切り屑が薄く長くなると共に、表面潤滑性が高いことから切り屑が切り屑排出溝に沿って工具本体1(図1における刃部C)の基端部へ排出され易くなり、それだけ切り屑詰まりが防止され、折損し難くなる。
また、工具先端のねじれ角α及びαを小さくすることで、切り屑が薄く長くなり過ぎることを防止でき、切り屑が厚く短くなって工具本体1に巻き付き難くなり、さらに切れ刃の刃物角を大きく確保することができるため、切れ刃のカケを防ぐことができ穴位置精度が改善されると共に、折損し難くなる。
さらに、工具基端側のねじれ角αを大きくすることで、切り屑排出溝2の基端側の切り屑排出性が高まり耐折損性が向上し、且つ、非晶質炭素皮膜(潤滑性皮膜)が被覆された効果によって切り屑排出溝2に沿ってスムーズに排出されている切り屑の排出方向を強制的に変化させて遠心力との相乗効果によって工具本体1の外方へ飛散させ、切り屑の巻き付きを防止して折損寿命が長く安定した穴明け加工が実現可能となる。
また、穴明け加工時に工具先端部で生じた切り屑が切り屑排出溝に沿って排出される際、主溝2aと副溝2bとの合流部6において切り屑同士が衝突することで、また、主溝2aと副溝2bとの合流部6の段差により、合流部6において切り屑が(工具径方向に)強制的に飛散せしめられ、工具基端部まで到達し難くなるため、工具基端部における切り屑の巻き付きが防止されることになる。
よって、本実施例は、樹脂付きアルミ板を当て板として用いた場合でも、折損し難く且つ切り屑排出性も飛躍的に良好となって切り屑の巻き付きを防止でき、直径が0.7mm以下、特に0.4mm以下の小径ドリルであっても、折損寿命が長く安定した穴明け加工が実現可能な極めて実用性に秀れた穴明け工具となる。
本実施例の効果を裏付ける実験例について説明する。
図7は主溝2aを一定の溝深さXとし、副溝2bの溝深さYを種々変化させたドリルで穴明け加工した際の穴位置精度を評価した実験結果を示す表及びグラフである。この実験で使用したドリルは、工具直径を0.075mm、(主溝の)溝長lを1.2mmとし、比較例1は従来の2枚刃2溝形状のドリル(2つの切り屑排出溝のねじれ角はいずれも45°一定)とし、比較例2(主溝と副溝との合流部に段差のない例)、実施例1及び実施例2は、主溝2aのねじれ角α・αを38°・55°とし副溝2bのねじれ角αを38°一定とし、その他、心厚、先端角など、副溝2bの溝深さY以外の仕様を同じ値としている。なお、実施例1及び実施例2の副溝2bの溝深さYは、いずれも主溝2aの溝深さXよりも浅く設定している。また工具本体1には非晶質炭素皮膜(DLC)を被覆している。
この実験では、難削材である半導体パッケージ用のPCB(基板:厚さ0.1mm/表裏両面Cu層)を5枚重ねてその上面に当て板として厚さ0.1mmの樹脂付きアルミ板を載置し、貫通穴加工ができるように前記PCBの下面には捨て板として一般に使用されている厚さ1.5mmの紙フェノール材を配置した。またドリル(スピンドル)の回転数を300krpm、送り速度を1.8m/minとし、設定ヒット数を10,000ヒットとした。
図7,8より、比較例1はライフ後半で顕著な切り屑の巻き付きが発生し、当て板進入側に巻き付きの擦り跡や巻き付いた切り屑の落下が確認された。そして、これらが当て板進入側表面に凹凸を形成し、ドリルの食付き性を劣化させ、ドリルが曲がり易くなることが確認された。一方、図7,10より、実施例1及び実施例2では、工具基端側で溝が1つになるため、工具基端側の剛性が高く、このような問題は生じず、ドリルが曲がり難くなることが確認され、主溝・副溝深さ差(段差)/主溝深さが70%以下で穴位置精度の改善が確認された。尚、主溝・副溝深さ差(段差)/主溝深さが70%を超えると穴位置精度が悪化することも確認されている。また、巻き付きの量は、図8〜10より、比較例1、比較例2、実施例1の順に少なくなり、図示しないが実施例2の巻き付き量は実施例1と同等であることが確認された。よって、本実施例によれば従来のドリル(比較例1)に比し巻き付き性が改善することが確認された。
1 工具本体
2a 主溝
2b 副溝
6 合流部
稜部
l 溝長

Claims (9)

  1. 工具本体の先端に1つ若しくは2つの切れ刃が設けられ、この工具本体の外周に工具先端から基端側に向かう2つの螺旋状の切り屑排出溝が設けられ、この2つの切り屑排出溝は1つの主溝と1つの副溝とで構成されており、前記主溝の途中部に前記副溝が合流するように設けられた穴明け工具であって、前記主溝と前記副溝との合流部には稜部が設けられており、更に、前記合流部には、前記副溝の溝深さを前記主溝の溝深さより浅く形成することで段差が設けられ、この段差は2μm以上で前記主溝の溝深さの70%以下に設定されていることを特徴とする穴明け工具。
  2. 請求項1記載の穴明け工具において、前記主溝若しくは前記副溝のねじれ角を工具先端側と工具基端側とで異ならせることで、前記主溝と前記副溝とを合流せしめたことを特徴とする穴明け工具。
  3. 請求項1,2いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記合流部は工具先端から前記主溝の溝長の50%以下の位置に設けられていることを特徴とする穴明け工具。
  4. 請求項1〜いずれか1項に記載の穴明け工具において、潤滑性皮膜が被覆されていることを特徴とする穴明け工具。
  5. 請求項記載の穴明け工具において、前記潤滑性皮膜として非晶質炭素皮膜が採用されていることを特徴とする穴明け工具。
  6. 請求項1〜いずれか1項に記載の穴明け工具において、工具の直径が0.7mm以下であることを特徴とする穴明け工具。
  7. 請求項1〜いずれか1項に記載の穴明け工具において、工具の直径が0.4mm以下であることを特徴とする穴明け工具。
  8. 請求項5記載の穴明け工具において、前記非晶質炭素皮膜は基材直上に形成されていることを特徴とする穴明け工具。
  9. 請求項5記載の穴明け工具において、基材直上に、周期律表の4a、5a、6a族及びSiから選択される1種若しくは2種以上の元素からなる金属若しくは半金属から成り、膜厚が200nm以下1nm以上である下層皮膜層が形成され、この下層皮膜層の上に前記非晶質炭素皮膜が形成されていることを特徴とする穴明け工具。
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