JP5055671B2 - Soi基板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、シリコンウエーハに二酸化ケイ素膜(以下酸化膜と呼ぶ)を形成し、該酸化膜を介して他のウェーハを貼り合わせたSOI基板及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、SOI(Silicon On Insulator)基板の製造方法として、SOS法(Si On Sapphire)、ZMR法(Zone Melting Recrystallization)、SIMOX法(Separation by Implanted Oxygen)、貼り合わせ法等が開発されてきた。このうち貼り合わせ法は、デバイスに使用されるシリコン層(以下SOI層と呼ぶ)の厚さ及び絶縁分離膜として使用される埋め込み用酸化膜の厚さを自在に制御できることから、適用されるデバイス分野が広く、MOSLSIから高耐圧ICまで実用的にも多く利用されている。
【0003】
貼り合わせ法によるSOI基板の一般的な製造方法は、例えば三谷清による「シリコンの科学」(リアライズ社 1996年 大見忠弘、新田雄久 監修)P459〜P466に示されおり、初期接着工程、アニール工程、薄膜工程の3工程からなる。
【0004】
ここで、従来の貼り合わせ法によるSOI基板を製造する方法の一例を図1を参照しながら説明する。まず、工程(a)で酸化されていない支持基板となるウェーハ1(以下ベースウェーハと呼ぶ)を、また工程(b)で埋め込み酸化膜となる酸化膜3を必要な厚さに形成したウェーハ2(以下ボンドウェーハと呼ぶ)を準備する。ここで、ボンドウエーハは、水蒸気酸化(パイロジェニック酸化)法により900〜1150℃の温度範囲、最大0.5気圧程度の水蒸気分圧でシリコンウエーハに酸化膜3を所定膜厚まで成長させ、その後水蒸気酸化(パイロジェニック酸化)雰囲気から乾燥酸化雰囲気あるいは窒素雰囲気に切り換えて、3〜5℃/minの降温速度で600〜800℃まで冷却した後、熱処理炉から取り出して得られる。
【0005】
次に工程(c)において、ベースウエーハとボンドウエーハは酸化膜を介して貼り合わせられる。まず接着工程において、常温の清浄な雰囲気下で2枚のウエーハを酸化膜を介して接触させることにより、接着剤等を用いることなくウエーハ同士が接着して貼り合わせウエーハとなる。その後、貼り合わせ界面のはがれを防止するために貼り合わせたウエーハを通常は1100℃で1〜2時間程度、酸素雰囲気下で結合アニールが行われる。それによって、ベースウエーハとボンドウエーハの結合強度が高められたウエーハを得ることができる。その後、薄膜工程(d)において、得られたウエーハのボンドウェーハ側に研削・研磨を施すことによって、薄膜化及び平坦化が行われ、埋め込み酸化膜5の上に素子が形成されるSOI層4を有するSOI基板を製造することができる。
【0006】
また、貼り合わせ法を使用した薄膜SOI基板作製方法として、スマートカット(登録商標)法と呼ばれる技術がある。このスマートカット法は、初期接着工程前にボンドウェーハに軽元素のイオン注入を行い、また初期接着工程後に剥離熱処理を行って、ボンドウエーハを剥離することによってSOI層を得ることに特徴を有するが、これらの工程以外は上記貼り合わせ法とほぼ同様であり、剥離熱処理後には結合強度を高めるために結合アニールが行われる。
【0007】
しかしながら、このような従来の貼り合わせ法により作製されたSOI基板は、ボンドウェーハとベースウェーハ間にボイド(空隙:未結合部)あるいはそれより小さいサイズのマイクロボイド(直径約数μm〜数10μm、あるいはそれ以下)が存在し、その大きさ、数によっては、SOI構造を使用したデバイス作製において致命的な欠陥を招くことがあった。そのため、ボイドの大きさや数を制御し、ボイドが低減されたSOI基板を製造することが望まれている。また、デバイスの機械的信頼性を確保するために、ボンドウェーハとベースウェーハの結合強度を十分高めたSOI基板を製造することが望まれている。
【0008】
また、従来の貼り合わせSOI基板の製造方法において、結合アニール温度の低温化が望まれている。一般に、結合アニールは1100℃程度の温度で行われているが、結合アニール温度を低下させることによって、結合アニール中の熱処理炉からの重金属等の汚染の防止、SOI層やベース基板中にスリップ転位等の新たな結晶欠陥発生の防止、SOI層、基板及び埋め込み酸化膜中のドーパント濃度の変動と偏析を防ぐことができ、より高品質のSOI基板を製造することが可能となる。しかしながら、従来技術における結合アニール温度の低温化は、ボイド誘発の原因となり、またその結果結合強度の低下を招くことから1100℃より低い温度で結合アニールを行うことは実質上困難であった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記問題点に鑑みて為されたものであり、本発明の目的は、貼り合わせSOI基板における結合界面に存在するボイドを低減し、また十分に高い結合強度を有する高品質のSOI基板及びその製造方法を提供することにあり、特に1100℃またはそれより低い温度で結合アニールを行っても、高品質のSOI基板を得ることが出来る方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明によれば、少なくとも、シリコンウエーハに熱酸化処理を行い表面に二酸化ケイ素膜を形成し、降温後取り出して得られたウエーハを他のウエーハと前記二酸化ケイ素膜を介して貼り合わせ、得られた貼り合わせウエーハに結合アニールを施すSOI基板の製造方法において、前記結合アニールを施す際の二酸化ケイ素膜の粘度を2.0×1014Poises以下とすることを特徴とするSOI基板の製造方法が提供される。
【0011】
このように、SOI基板を製造する際に、貼り合わせウエーハの酸化膜の粘度が2.0×1014Poises以下になる温度で結合アニールを行うことによって、ベースウエーハとボンドウエーハの貼り合わせ結合界面に存在するマイクロボイド等を低減でき、結合強度が高められたSOI基板を製造することができる。
【0012】
この時、前記結合アニールを施す際、二酸化ケイ素膜のOH濃度を70ppm(質量百万分率)を超える濃度、さらに好ましくは100ppm以上の濃度とすることが好ましい。
このように、酸化膜のOH濃度を70ppmを超える濃度、好ましくは100ppm以上の濃度とすることによって、比較的低温の結合アニール温度でも酸化膜の粘度を2.0×1014Poises以下にすることができ、高品質のSOI基板の製造を行うことができる。
【0013】
この場合、前記シリコンウエーハの熱酸化処理における降温工程、及び取り出し工程における全工程または一部工程を水蒸気酸化雰囲気下で行うことが好ましい。
【0014】
シリコンウエーハの熱酸化処理において、高温での酸化膜形成工程だけではなく、その後の降温工程、及び取り出し工程における全工程または一部工程を水蒸気酸化雰囲気下で行うことによって、降温及び取り出し工程中の酸化膜中のOHの外方拡散を抑制することができる。それによって、酸化膜中のOH濃度の低下を抑制し、その後行われる結合アニールにおいて、埋め込み酸化膜中のOH濃度を70ppmを超える濃度とすることができる。
【0015】
さらにこの時、シリコンウエーハの熱酸化処理における降温工程を60℃/min以上の降温速度で行うことが好ましい。
このように、降温工程において降温速度を60℃/min以上とすることによって、降温工程を短時間で行うことができ、それによって酸化膜中のOHの外方拡散が抑制され、熱酸化処理後に高いOH濃度を維持した酸化膜を有するウエーハを得ることができる。
【0016】
そして、このようにして得られた粘度の低い酸化膜を有するウエーハであれば、結合アニールを1100℃未満の温度で行っても、従来の方法で得られたSOI基板に比べて同等あるいはより品質の優れたSOI基板を得ることができる。
【0017】
この時、前記結合アニールを1気圧を超える高気圧雰囲気下で行うことが好ましい。
このように、結合アニールを施す際に1気圧を超える高気圧雰囲気下で行うことにより、埋め込み酸化膜中のOHの放出を防ぎ、結合界面のマイクロボイド等を低減させることができる。
【0018】
そして、本発明によれば、SOI基板の製造においてたとえ1100℃以下の温度で結合アニールを行っても、ベースウエーハとボンドウエーハの結合強度が高く、また結合界面のマイクロボイドが低減されたSOI基板とすることができる。
【0019】
また、本発明のSOI基板は、貼り合わせ法により製造されたSOI基板であって、埋め込み酸化膜が1100℃において2.0×1014Poises以下の粘度を有することを特徴とするSOI基板である。
【0020】
このように、埋め込み酸化膜が1100℃において2.0×1014Poises以下の粘度を有するSOI基板は、結合アニールが施されることによって、結合界面のボイドが低減され、十分な結合強度を有するSOI基板とすることができる。
【0021】
さらに、本発明のSOI基板は、貼り合わせ法により製造されたSOI基板であって、埋め込み酸化膜が70ppmを超えるOH濃度を有することを特徴とするSOI基板である。
【0022】
このように、SOI基板の埋め込み酸化膜が70ppmを超えるOH濃度を有することによって、1100℃においても2.0×1014Poises以下の粘度を有する酸化膜とすることができ、また、SOI基板を得るために結合アニールが1100℃以下の温度で行われたとしても、結合界面に存在するマイクロボイドが増加することなく、十分な結合強度を有する高品質のSOI基板とすることができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明者等は、ベースウェーハとボンドウェーハの結合界面におけるマイクロボイドの低減、結合強度の向上、あるいは結合アニールの低温化を図る手段として、埋め込み酸化膜の性質の一つである粘度に注目し、結合アニール時に酸化膜粘度をある一定値以下に制御することが可能であれば結合界面のボイドを低減し、結合強度を高めることことができるとともに、結合アニールの温度を低下できることを見出し、鋭意調査及び研究を重ねることによって、本発明を完成させた。
【0024】
すなわち、本発明において結合界面のボイドが低減され、また十分に強い結合強度を有する高品質のSOI基板を得る為に必要とされる結合アニール時の酸化膜粘度の臨界値を規定した。さらに、酸化膜粘度の酸化膜中OH濃度依存性、及びOH濃度と結合アニール温度の関係に注目し、酸化膜粘度を臨界値以下に低下させる為に必要な埋め込み酸化膜中のOH濃度を特定し、また酸化膜中のOH濃度と結合アニール温度の関係を明らかにすることによって、結合アニール温度を低下させても高品質のSOI基板を得ることができることを見出した。以下、これについて説明する。
【0025】
まず、従来のSOI基板の製造方法において、結合アニール温度を1100℃より低くするとボイドが誘発される原因は、低温化による埋め込み酸化膜の粘度が上昇するためではないかと考えられた。そこで、ボイドを発生させないために、1100℃の結合アニール時に必要とされる酸化膜の粘度について調査を行った。
【0026】
酸化膜の粘度と酸化膜中のOH濃度、また酸化膜の粘度と酸化雰囲気圧力の関係に関してはS.M.Huにより報告されており、OH濃度が増加するほど酸化膜の粘度は低下し、また、水蒸気分圧が大きくなるほど酸化膜の粘度が低下することが知られている(J.Appl.Phys.64(1998),P323)。
【0027】
例えば1100℃において、OH濃度が0ppmである酸化膜粘度に比べ、1000ppm含有する酸化膜では粘度が約2桁低下し、また2000ppmでは約4桁低下する。また、同一の粘度を有する酸化膜におけるOH濃度と温度の関係を比較した場合、例えば1500ppmのOH濃度を有する酸化膜では、1100℃で粘度が約3×1011poises程度であるのに対し、2500ppmのOH濃度を有する酸化膜の場合、約800℃で同程度の粘度となる。さらに、酸化膜粘度と酸化膜を形成する際のアニール炉内の水蒸気分圧の関係で比較すると、酸化膜は水蒸気分圧が0気圧の時に比べ、同温度で水蒸気分圧が1気圧の場合、酸化膜粘度は約2〜3桁程度低下し、また水蒸気分圧が5気圧の場合、約6桁低下する。すなわち、高水蒸気分圧下で形成した酸化膜ほど酸化膜粘度は低下する。
【0028】
また、S.M.Huの同文献(J.Appl.Phys.64(1998),P323)に、Mikkelsenらによる温度と水蒸気分圧及び温度と酸化膜中のOH濃度の関係を表す次式が示されている。
[OH]=2.7×104×exp(−0.33eV/kT)・p1/2ppmここでkはBoltzmann定数、pは水蒸気分圧である。この関係式を用いて、温度範囲が600〜1200℃、水蒸気分圧範囲が0.1〜5気圧の場合の酸化膜中のOH濃度を図2に示す。図2より、従来の酸化膜形成条件である水蒸気雰囲気下0.5気圧、温度900〜1150℃で作製された埋め込み酸化膜のOH濃度は、およそ730〜1300ppm程度になるはずである。
【0029】
しかし、上述したように、従来の方法による酸化膜の形成は、埋め込み酸化膜を成長させた後、水蒸気酸化(パイロジェニック酸化)雰囲気から乾燥酸化雰囲気或いは窒素雰囲気に切り換えられ、その後、降温工程及びウエーハの取り出し工程が行われる。そのため、熱酸化処理の降温及び取り出し工程中は水蒸気分圧が0となり、埋め込み酸化膜中のOHは外方拡散する。そのため、熱酸化処理炉から取り出したウエーハの酸化膜中のOH濃度は、酸化膜形成時に水蒸気酸化により酸化膜中に取り込まれたOH濃度に比べ著しく低下していることがわかった。
【0030】
そこで、次に、従来のSOI基板の製造方法における埋め込み酸化膜中のOH濃度の低下を見積もる為の計算を行った。まず外方拡散は酸化膜厚さを無限大と仮定して以下の式を適用し、概算した(オーム社 半導体デバイス 電気学会編
P220)。
N/Nb=(1−erfc(x/2√Dt))
ここでN:不純物(OH)濃度、Nb:初期不純物(OH)濃度、D:拡散係数である。
また、境界条件は
N(x>0,0)=Nb、N(0,t≧0)=0
とした。ここで、降温工程及び取り出し工程における水蒸気分圧は0である。
【0031】
従来の方法で得られるウエーハの酸化膜中のOH濃度を見積もる為に、次の酸化膜形成条件を仮定して計算を行った。まず、埋め込み酸化膜の厚さは最も標準的によく使われる300nm、及び最も厚い埋め込み酸化膜の場合を想定し1000nmとした。また、水蒸気酸化直後の酸化膜中OH濃度は、最大酸化温度を想定して1150℃で水蒸気分圧0.5気圧で酸化膜を形成した時の1300ppmとした。取り出し温度は600℃とし、OHの拡散係数は、600℃〜1150℃の温度帯においておよそ1.0×10−9〜1.0×10−11cm2sec−1(リアライズ社 1999年 非晶質シリカ材料応用ハンドブック P367)であるため、その中間値である1.0×10−10cm2sec−1とした。
従来の方法では降温速度を3〜5℃/minで行うことが多いので、1150℃から600℃の降温には、およそ2〜3時間を必要とする。
【0032】
酸化膜の厚さが300nm、1000nmのそれぞれの場合について、酸化膜中のOH濃度の外方拡散による減少を先の厚さ無限大と仮定した外方拡散式を使用して、それぞれの最大濃度位置(Si基板側界面部)、厚さの中間位置、及び表面側の厚さ10%の位置について概算した。その結果を酸化膜が300nmの厚さの場合を図3(a)に、1000nmの場合を図3(b)に示す。
【0033】
図3より、水蒸気酸化から非水蒸気雰囲気へ置換した後、降温及び取り出し工程に1時間要した場合は、300nmの厚さの酸化膜中におけるOH濃度は、酸化膜中の最大濃度位置(Si基板側界面部、表面より300nm)で36.7ppm、酸化膜中の中間位置(表面より150nm)で18.3ppmとなり、また、上記工程に2時間要した場合では、それぞれ酸化膜位置で25.9ppm、13.0ppmまで低下する。また1000nm厚の厚い酸化膜のOH濃度は、水蒸気酸化から非水蒸気雰囲気への置換後、降温及び取り出し工程に1時間要した場合、酸化膜の最大濃度位置(Si基板側界面部、表面より1000nm)で122ppm、酸化膜中の中間位置(表面より500nm)で61.1ppmとなり、2時間要した場合では、それぞれ86.3ppm、43.2ppmまで低下する。以上の計算は酸化膜厚さを無限大と仮定した場合であるため、実際の酸化膜厚では、この計算値より小さくなると考えられる。このため、従来の方法で得られた埋め込み酸化膜の中間位置におけるOH濃度は酸化膜厚が1000nmと厚い場合を考えても70ppm以下、一般によく使用される300nmの厚さの酸化膜のOH濃度においては20ppm以下に低下すると言うことができる。
【0034】
このように従来のSOI基板の製造方法において、酸化膜形成の際に水蒸気酸化直後に高い濃度で酸化膜中にOHが存在していても、その後の降温、取り出し工程中にOHが外方拡散し、最終的な埋め込み酸化膜の中間位置におけるOH濃度は最大でも70ppm以下に低下してしまう。その後、2枚のウエーハをこの70ppm以下のOH濃度を有する酸化膜を介して室温で貼り合わせた後、およそ1100℃で結合アニールが行われるため、この酸化膜の結合アニール時のOH濃度は最大でも70ppmとなる。
【0035】
ここで前記S.M.Huの文献による酸化膜中のOH濃度と粘度の関係を図5(a)に示す。図5(a)より、70ppmのOH濃度を有する酸化膜は、結合アニール時(1100℃)にはおよそ2×1014Poisesの粘度となる。従来の製造方法において、結合アニールをこの1100℃より低い温度で実施すると、ベースウェーハとボンドウェーハの貼り合わせ結合界面にマイクロボイドが発生し易くなり、また、結合強度の低下が生じ始めることがわかっている。
【0036】
以上のことより、貼り合わせ法における結合アニール時に必要とされる埋め込み酸化膜の粘度の上限値は2×1014Poisesであると見積もることができ、この酸化膜の粘度が、結合アニール時の埋め込み酸化膜の粘度のしきい値と考えることができる。従って、結合アニールを施す際に、酸化膜の粘度を2×1014Poises以下に制御することによって、ベースウェーハとボンドウェーハの貼り合わせ結合界面のマイクロボイド等の低減や結合強度向上を達成することができ、高品質のSOI基板を提供することができる。また、このように、埋め込み酸化膜が1100℃において2×1014Poises以下の粘度を有する貼り合わせSOI基板であれば、貼り合わせ結合界面のマイクロボイドが低減され、また結合強度に優れた貼り合わせSOI基板とすることができる。
【0037】
尚、埋め込み酸化膜の粘度の下限値は特に限定されないが、図5(b)において、1000ppmのOH濃度を有する酸化膜の場合、1100℃の結合アニールでは約3×1012Poisesが得られる。さらに、結合アニール温度の上限である1350℃程度まで外挿すると、1×1010Poises程度の粘度が得られることがわかる。
【0038】
また、この時、結合アニールを施す際の酸化膜のOH濃度を70ppmを超える濃度とすることが好ましく、100ppm以上の濃度とすることがさらに好ましい。ここで、埋め込み酸化膜中のOH濃度が100ppmのウエーハと70ppm、20ppmのウエーハを同じ結合アニール温度での酸化膜粘度の比較を行った(図5(a))。結合アニール温度を1100℃とした場合、埋め込み酸化膜中のOH濃度が100ppmのウエーハは、OH濃度が70ppmのウエーハに比べ約11%粘度が低く、またOH濃度が20ppmのウエーハに対しては約33%粘度が低い。さらに、埋め込み酸化膜中のOH濃度を200ppmまで高めた場合、上記と同様に結合アニール温度を1100℃として比較した場合、OH濃度が70ppm、20ppmのウエーハに比べて、それぞれ40%、51%も酸化膜の粘度が低下することがわかった。
【0039】
従って、結合アニール温度を従来と同じ温度(1100℃)で行う場合、結合アニールを施す際に酸化膜中のOH濃度をより高くすることによって、埋め込み酸化膜の粘度をより低下させることができ、埋め込み酸化膜のOH濃度が70ppmを超えるOH濃度、好ましくは100ppm以上のOH濃度であれば、結合アニール時の埋め込み酸化膜の粘度を規定値以下に低下させることができ、高品質のSOI基板とすることができる。
【0040】
しかしながら、従来のSOI基板の製造方法では、前述したように降温・取り出し工程が非水蒸気雰囲気で行われているため、酸化膜形成時に水蒸気酸化により取り込まれたOHは降温及び取り出し工程中に外方拡散し、酸化膜中のOH濃度は70ppm以下まで減少してしまう。そこで、形成された酸化膜のOH濃度を低下させることなく、高いOH濃度を維持するために、シリコンウエーハの熱酸化処理において、酸化膜形成後の降温工程、及び取り出し工程における全工程または一部工程を水蒸気酸化雰囲気で行うことが好ましい。
【0041】
ここでウェーハの取り出し温度を700℃、800℃、900℃とし、降温工程及び取り出し工程の水蒸気分圧を0.5気圧とした場合の酸化膜中の平衡OH濃度を前記S.M.Huの文献より計算した結果、それぞれ373、539、730ppmであることがわかった(図2)。この平衡濃度がOHの外方拡散時の酸化膜表面における最低OH濃度になるため、降温工程、及び取り出し工程を水蒸気酸化雰囲気で行うことによって、結合アニール時の埋め込み酸化膜のOH濃度を高く維持することは容易に達成される。
【0042】
また、熱酸化処理において酸化膜形成温度、降温速度、取り出し温度及び水蒸気分圧を変えることによって、酸化膜のOH濃度を容易に制御することが可能となる。例えば、高速な降温が可能な熱処理炉を熱酸化処理、特に降温工程に用いることによって降温速度を制御することができ、それにより降温時間を短くし、埋め込み酸化膜中からのOHの外方拡散を抑制することができる。
【0043】
例えば、1150℃で水蒸気分圧を0.5気圧で酸化膜を形成した後、1150℃から700℃までの降温工程を非水蒸気雰囲気で450秒で行った場合、上述のOHの外方拡散の計算を用いると、酸化膜中のOH濃度は、酸化膜中の最大濃度位置(Si基板側界面部、表面より1000nm)で約248ppm、酸化膜中の平均OH濃度は約120ppm以上が達成される(図4参照)。一方、この降温工程を3600、7200秒で行うと、酸化膜中のOH濃度が格段に低下する。従って、降温温度範囲が450℃(1150℃〜700℃)と大きい場合でも、降温工程を450秒以内で、すなわち60℃/min以上の降温速度で行うことによって、酸化膜のOHを高い濃度で維持することができ、結合アニールを施す際の酸化膜の粘度を低くすることができる。
【0044】
また上記の熱酸化処理では、埋め込み酸化膜の形成を水蒸気分圧が0.5気圧程度の酸化雰囲気を想定しているが、全圧で1気圧以上が可能な高圧酸化炉を用いて水蒸気分圧を高くすることによって、さらに酸化膜中のOH濃度を高めることができる(図2参照)。図2によれば、水蒸気分圧を5気圧にすることにより、1200℃において4000〜5000ppmのOH濃度が得られることがわかる。
【0045】
以上説明したように、結合アニール時の埋め込み酸化膜の粘度を2.0×1014Poises以下にすることによって、従来の製造方法で得られるSOI基板と同等以上の品質を持つ貼り合わせSOI基板を製造することができる。
【0046】
このように、本発明の高品質なSOI基板を得るためには、2.0×1014Poises以下の埋め込み酸化膜粘度を達成すれば良い。そして、前記S.M.Huによる酸化膜中の粘度と温度の関係を示した図5からわかるように、例えば埋め込み酸化膜のOH濃度を500ppmまで高めたウエーハを用いることによって、結合アニール温度は約1040℃にすることができ、1000ppmのウエーハを用いた場合では約960℃に低下することができる。このように、酸化膜中のOH濃度を高く制御することによって、1100℃未満の低い温度で結合アニールを行っても、埋め込み酸化膜の粘度を所定値以下とすることができるので、結合界面のマイクロボイドを増加させることなく、優れた結合強度を有するSOI基板を製造することができる。さらに、結合アニール温度を低温化したことによって、結合アニール中の金属等の汚染、スリップ等の新たな結晶欠陥の発生、ドーパント濃度の変動や偏析が非常に低減された高品質のSOI基板を製造することができる。
【0047】
また、従来の結合アニールは常圧(熱処理雰囲気気圧)で熱処理を行っていたが、ベースウェーハとボンドウェーハの貼り合わせ結合界面の結合強度向上、マイクロボイドの低減、また酸化膜中のOH放出の防止のために、高圧酸化炉を用いて結合アニールを1気圧を超える高気圧雰囲気下で行うことが好ましく、またこの場合水蒸気雰囲気の分圧が高い方が望ましい。このように、高圧雰囲気下で結合アニールを行うことによって、より高品質のSOI基板を製造することが可能となる。
【0048】
【実施例】
以下、本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1、比較例1)
直径200mmのシリコン単結晶ウエーハに、1150℃で水蒸気分圧0.5気圧で熱酸化を行い、厚さ400nmの埋め込み用酸化膜を形成した。その際、酸化炉からの取り出し温度である600℃までの降温雰囲気及び取り出し雰囲気を、水蒸気分圧0.1気圧雰囲気で行った。従って、形成された酸化膜中のOH濃度は図2より、約100ppmと見積もることができる。また、1100℃におけるその粘度は、図5より、約1.5×1014Poisesと見積もることができる。
【0049】
この酸化膜付きウエーハの表面から水素イオン注入(ドーズ量8×1016ions/cm2)を行って水素高濃度層を形成し、他のシリコンウエーハと室温で密着させた後、500℃、30分の熱処理を行って水素高濃度層で剥離し、SOI層厚が約400nmのSOIウエーハを作製した。その後、乾燥酸素雰囲気中で1100℃、2時間の結合アニールを行い結合強度を高めた後、SOI表面の酸化膜を除去し、さらに、SOI表面を約100nm研磨して表面粗さを向上させたSOIウエーハを作製した(実施例1)。
【0050】
一方、埋め込み用酸化膜の形成工程において、600℃までの降温雰囲気及び取り出し雰囲気を乾燥窒素雰囲気で行った以外は、実施例1と同様の工程によりSOIウエーハを作製し(比較例1)、両者のマイクロボイドの発生状況を観察した結果、実施例1のSOIウエーハはマイクロボイドがほとんど発生しておらず、従来法である比較例1に比べてマイクロボイドを低減することができることがわかった。
【0051】
尚、マイクロボイドの観察は、レーザー等を光源とする光散乱方式のパーティクル測定器を用いてSOIウエーハ表面を測定し面内のパーティクルの座標を得て、散乱光の強度が強くサイズが大きい輝点(パーティクル)として検出されたものを光学顕微鏡により観察することにより評価した。
【0052】
(実施例2)
直径200mmのシリコン単結晶ウエーハに、1150℃で水蒸気分圧0.5気圧で熱酸化を行い、厚さ400nmの埋め込み用酸化膜を形成した。その際、酸化炉からの取り出し温度である800℃までの降温雰囲気及び取り出し雰囲気を、水蒸気分圧0.5気圧雰囲気で行った。従って、形成された酸化膜中のOH濃度は、図2より、約500ppmと見積もることができる。また、1050℃におけるその粘度は、図5より、約1.5×1014Poisesと見積もることができる。
【0053】
この酸化膜付きウエーハを用い、結合アニール温度を1050℃に低温化した以外は実施例1と同一条件のスマートカット法によりSOIウエーハを作製した。そして、このウエーハのマイクロボイドの発生状況を観察した結果、結合アニール温度を1050℃に低温化したにもかかわらず、実施例1と同様にSOIウエーハはマイクロボイドがほとんど発生しておらず、高品質のSOIウエーハが得られた。
【0054】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0055】
例えば、本発明は2枚の半導体ウエーハ(シリコンウエーハ)を貼り合わせる場合が主に例示されているが、本発明はこれには限定されず、半導体ウエーハと絶縁基板(例えば、石英、サファイア、アルミナ基板等)とを直接結合してSOIウエーハを作製する場合にも同様に適用することができる。また、形成される酸化膜はボンドウエーハに形成されるとは限らず、ベースウエーハに酸化膜を形成しても良い。
【0056】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、ボンドウエーハとベースウエーハを貼り合わせて得られたウエーハに結合アニールを施す際に、酸化膜の粘度を2.0×1014Poises以下とすることによって、マイクロボイドの少ない高品質な貼り合わせSOI基板を製造することが可能になった。また酸化膜の粘度を2.0×1014Poises以下に制御することによって、結合アニール温度を1100℃以下で行うことが可能となり、結合熱処理中の金属等の汚染、スリップ等の新たな結晶欠陥発生、ドーパント濃度の変動・偏析が低減されたSOI基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】貼り合わせSOI基板の一般的な製造方法を示したフロー図である。
【図2】温度と水蒸気分圧と酸化膜中のOH濃度の関係を示すグラフである。
【図3】水蒸気酸化後から取り出しまでのOH濃度の時間依存性を示したグラフである。
(a)埋め込み酸化膜厚が300nmの場合、(b)埋め込み酸化膜厚が1000nmの場合。
【図4】埋め込み酸化膜厚が1000nmのウエーハにおける降温速度に対する埋め込み酸化膜内のOH濃度分布を示したグラフである。
【図5】温度と酸化膜粘度の関係を示したグラフである。
(a)OH濃度が20、70、100、200ppmの酸化膜で、温度範囲が900〜1200℃の場合、(b)OH濃度が100、200、500、1000ppmの酸化膜で、温度範囲が600〜1200℃の場合。
【符号の説明】
1…ベースウエーハ、 2…ボンドウエーハ、
3…酸化膜、 4…SOI層、 5…埋め込み酸化膜。
Claims (4)
- 少なくとも、シリコンウエーハに熱酸化処理を行い表面に二酸化ケイ素膜を形成し、降温後取り出して得られたウエーハを他のウエーハと前記二酸化ケイ素膜を介して貼り合わせ、得られた貼り合わせウエーハに結合アニールを施すSOI基板の製造方法において、前記シリコンウエーハの熱酸化処理における降温工程、及び取り出し工程における全工程または一部工程を水蒸気酸化雰囲気下で行い、前記結合アニールを施す際の二酸化ケイ素膜のOH濃度を70ppmを超える濃度とし、前記結合アニールを施す際の二酸化ケイ素膜の粘度を2.0×1014Poises以下とすることを特徴とするSOI基板の製造方法。
- 前記シリコンウエーハの熱酸化処理における降温工程を60℃/min以上の降温速度で行うことを特徴とする請求項1に記載されたSOI基板の製造方法。
- 前記結合アニールを1100℃未満の温度で行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載されたSOI基板の製造方法。
- 前記結合アニールを1気圧を超える高気圧雰囲気下で行うことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載されたSOI基板の製造方法。
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