JP5035545B2 - アルカリ性ジルコニアゾルの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明はジルコニアゾルの製造方法に係わり、アルカリ性で安定なジルコニアゾルの製造方法を提供するものである。
従来、ジルコニアゾルを得る方法としては、ジルコニウム塩水溶液を加熱加水分解する方法、ジルコニウム塩水溶液に過酸化水素水を加えて加熱する方法、水酸化ジルコニウムを塩基性領域で加熱する方法等が知られており、例えば以下のような方法が提案されている。
炭酸ジルコニウムアンモニウムとキレート化剤(例えば、オキシフェノール類、アミノアルコール類、オキシ酸類、ポリカルボン酸類、オキシアルデヒド類、アミノ酸類、β−ジケトン類)との反応生成物を加水分解する方法が提案されている(特許文献1参照)。
また、水酸化ジルコニウムを含有する水性懸濁液を、80℃以上の温度で、生成するジルコニアの結晶化度が80%以上となるまで加熱状態で保持して結晶化ジルコニア含有水性懸濁液を得、これに窒素含有塩基性化合物(1級アミン、2級アミン、水酸化第4級アンモニウム)又はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物を添加する塩基性ジルコニアゾルの製造方法が提案されている(特許文献2参照)。
更に、ジルコニウム塩水溶液に塩基を加えて沈殿させ、アルカリ土類金属の水酸化物又はその水溶液を加え、得られる懸濁液を90ないし200℃の温度に加熱熟成するジルコニアゾルの製造方法が提案されている(特許文献3参照)。
特開平3−174325号(特許請求の範囲) 特開昭64−83519号(特許請求の範囲) 特開昭60−176920号(特許請求の範囲)
上述したように、種々のジルコニアゾルの製造方法がこれまで提案されているが、多くはジルコニウム塩を酸性領域で加水分解し、加熱する製造方法であるために、生成する微少粒子によって反応系が不安定になりゲル化を起こしやすいという問題があった。
また、炭酸アンモニウムや水酸化アルカリを用いてアルカリ側でジルコニウム塩を加水分解する方法では、粒子が生成するものの、時間経過と共に多量の沈降物が発生し、スラリー状になり、完全に安定なゾルを得ることは出来ないという問題があった。
本発明は、上記の事情を考慮してなされたもので、その目的とするところは、ジルコニアゾル、好ましくはアルカリ性のジルコニアゾルを原料に用い、ジルコニウム塩を添加した液状媒体を熟成処理することにより、粒子性と結合性を併せ持つアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法を提供することにある。
本発明は、第1観点として、第4級アンモニウムの炭酸塩を含む水性媒体中でジルコニウム塩(B2)を60ないし110℃で加熱する工程(i)及び工程(i)に続いて110ないし250℃で水熱処理を行う工程(ii)を含む方法により得られたアルカリ性ジルコニアゾル(A)と、塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)とを混合する工程(I)を含むアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法、
第2観点として、アルカリ性ジルコニアゾル(A)のZrO2に換算した固形分(As)及び塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)のZrO2に換算した固形分(Bs)の質量比Bs/Asが0.05ないし4.0となる割合でアルカリ性ジルコニアゾル(A)と塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)とを混合する工程(I)、及び工程(I)で得られた混合液を20ないし100℃で熟成させる工程(II)を含む第1観点に記載のアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法、
第3観点として、前記第4級アンモニウムの炭酸塩が、(NR42CO3、NR4HCO3、又はそれらの混合物(ここで、Rは炭化水素基を表わす。)である第1観点又は第2観点に記載のアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法、
第4観点として、前記第4級アンモニウムの炭酸塩中の第4級アンモニウムイオンが炭素原子数1ないし18の炭化水素基で構成されているものである第1観点ないし第3観点のいずれか一つに記載のアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法、
第5観点として、前記第4級アンモニウムの炭酸塩中の第4級アンモニウムイオンが炭素原子数1ないし4の炭化水素基で構成されているものである第1観点ないし第3観点のいずれか一つに記載のアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法、
第6観点として、前記ジルコニウム塩(B2)が、オキシジルコニウム塩である第1観点ないし第5観点のいずれか一つに記載のアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法、
第7観点として前記ジルコニウム塩(B2)が、オキシ炭酸ジルコニウムである第1観点ないし第5観点のいずれか一つに記載のアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法、
第8観点として、前記塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)が、炭酸ジルコニウムアンモニウムである第1観点ないし第7観点のいずれか一つに記載のアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法、
第9観点として、前記工程(II)の熟成が、60ないし100℃で加熱することである第2観点ないし第8観点のいずれか一つに記載のアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法、及び
第10観点として、得られるアルカリ性ジルコニアゾルが、8ないし12のpHを有するものである第1観点ないし第9観点のいずれか一つに記載のアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法である。
本発明の方法で使用の対象とするものは、アルカリ性ジルコニアゾルと塩基性炭酸ジルコニウム塩とを、混合し、必要によりそれらの液状媒体を熟成する方法により得られるアルカリ性ジルコニアゾルである。
また、アルカリ性ジルコニアゾル(A)のZrO2に換算した固形分(As)及び塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)のZrO2に換算した固形分(Bs)の質量比Bs/Asが0.05ないし4.0となる割合でアルカリ性ジルコニアゾル(A)と塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)とを混合する工程(I)、及び工程(I)で得られた混合液を20ないし100℃で熟成させる工程(II)を含む製法によって得られるアルカリ性ジルコニアゾルである。
工程(I)で原料に用いるアルカリ性ジルコニアゾル(A)は、生成したアルカリ性ジルコニアゾル中で20ないし300nmの粒子径範囲を有するジルコニア粒子(a)に変化する。塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)は、生成したアルカリ性ジルコニアゾル中で、一部は20nm未満の粒子径のジルコニア粒子(b)となり、残りは原料のアルカリ性ジルコニアゾル(A)の粒子と結合や被覆を起こし、ジルコニア粒子(a)に変化する。従って、本発明により得られるアルカリ性ジルコニアゾル中のジルコニア粒子は、20nm未満の粒子径のジルコニア粒子(b)と20ないし300nmの粒子径範囲を有するジルコニア粒子(a)とが共存するものである。
このアルカリ性ジルコニアゾルは粒子性と結合性を有するため、その硬化物は大粒子と小粒子が緻密にパッキングされており、故に、被着物との密着性が高く表面硬度も高い。
上記記載の先行技術と異なり、アルカリ性ジルコニアゾルの共存下でジルコニウム塩を加水分解する本発明の方法では、最初から存在するジルコニア粒子が安定化の役割を果たし、ジルコニウム塩の加水分解で発生した微小粒子が、ジルコニア粒子の表面に一部は吸着されるので、微小粒子同士が存在する場合に比べて凝集がなく、保存安定性の高い安定なアルカリ性ジルコニアゾルが得られる。そして、得られたアルカリ性ジルコニアゾルは、20nm未満の粒子径のジルコニア粒子(b)と20ないし300nmの粒子径範囲を有するジルコニア粒子(a)とがバランス良く共存するため、20nm未満の粒子径のジルコニア粒子(b)に主に由来する結合性と、20ないし300nmの粒子径範囲を有するジルコニア粒子(a)に主に由来する粒子性とを持ち合わせ、このアルカリ性ジルコニアゾルをバインダーとして用いた場合に高い硬化物性が得られる。
これらの性質により、本発明により得られるアルカリ性ジルコニアゾルは、各種耐火物の成型加工用バインダー、各種触媒用バインダー、含浸処理、コーティング用塗剤等、或いはセラミックス繊維等の無機繊維の成形加工、精密鋳造用鋳型の造形、繊維の表面処理、燃料電池等の様々な分野において利用することができる。
本発明の方法は、第4級アンモニウムの炭酸塩を含む水性媒体中でジルコニウム塩(B2)を60ないし110℃で加熱する工程(i)及び工程(i)に続いて110ないし250℃で水熱処理を行う工程(ii)を含む方法により得られたアルカリ性ジルコニアゾル(A)と、塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)とを混合する工程(I)を含むアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法である。
好ましくは、本発明の方法は、原料となるアルカリ性ジルコニアゾル(A)のZrO2に換算した固形分(As)及び塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)のZrO2に換算した固形分(Bs)の質量比Bs/Asが0.05ないし4.0となる割合でアルカリ性ジルコニアゾル(A)と塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)とを混合する工程(I)、及び工程(I)で得られた混合液を20ないし100℃で熟成させる工程(II)を含むアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法である。
工程(I)では、アルカリ性ジルコニアゾル(A)と塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)とを、アルカリ性ジルコニアゾル(A)のZrO2に換算した固形分(As)とジルコニウム塩(B1)のZrO2に換算した固形分(Bs)の質量比Bs/Asが0.05ないし4.0、好ましくは0.2ないし2.0となる割合で混合することが好ましい。
上記Bs/Asの値が0.2ないし2.0の範囲に設定することでより保存安定性の向上したアルカリ性ジルコニアゾルを得ることができる。
本発明の原料として用いられるアルカリ性ジルコニアゾル(A)は、好ましくはpH8ないし12のアルカリ性ジルコニアゾルを用いる事が出来る。このアルカリ性ジルコニアゾルとしては、公知のジルコニアゾルを用いることが出来るが、以下に記載のアルカリ性ジルコニアゾルを用いることが好ましい。
原料のアルカリ性ジルコニアゾル(A)は、例えば第4級アンモニウムの炭酸塩を含む水性媒体中でジルコニウム塩(B2)を60ないし110℃で加熱する工程(i)と、110ないし250℃で水熱処理を行う工程(ii)とを含む方法により得ることができる。
第4級アンモニウムの炭酸塩としては、例えば、(NR42CO3、NR4HCO3が挙げられ、これらは単独で用いる事も、混合物として用いる事も可能である。これら第4級アンモニウム炭酸塩中の第4級アンモニウムイオンとしては、炭素原子数1ないし18の炭化水素基を有するものが挙げられ、それらの炭化水素基としては、飽和又は不飽和の鎖式炭化水素基、脂環式又は芳香族の環式炭化水素基が例示される。例えば、飽和又は不飽和の鎖式炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基、エチニル基、プロペニル基等が挙げられる。また、環式炭化水素基としては、フェニル基、トリル基、スチリル基、ベンジル基、ナフチル基、アントリル基等が挙げられる。中でも、これら第4級アンモニウムイオンとして、炭素原子数1ないし4の炭化水素基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が好ましく、特に4つのメチル基で構成される、炭酸水素テトラメチルアンモニウムが好適に使用できる。
上記の炭酸塩が第4級アンモニウムイオン以外のアンモニウムイオンを含有する炭酸塩を用いた場合は、やはり安定なジルコニアゾル(A)が得られない。例えば、(CH33HN等の第3級アンモニウムイオン、(CH322N等の第2級アンモニウムイオン、(CH3)H3N等の第1級アンモニウムイオン、NH4となるアンモニウムイオンを用いた場合は十分に安定なジルコニアゾル(A)が得られない。
原料のアルカリ性ジルコニアゾル(A)の製造において、第4級アンモニウムの炭酸塩は、30ないし60質量%の割合で含有する水溶液の形態で入手可能であり、特に第4級アンモニウムの炭酸塩を水酸化第4級アンモニウムに換算した割合で44.5質量%含有する水溶液は市販品として容易に入手可能である。第4級アンモニウムの炭酸塩の濃度は、水酸化第4級アンモニウムに換算して測定する方法によって得られる。
原料のアルカリ性ジルコニアゾル(A)の製造に用いられるジルコニウム塩(B2)は、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウム等のオキシジルコニウム塩である。特にオキシ炭酸ジルコニウムが好ましく用いられる。
第4級アンモニウムの炭酸塩を水性媒体に添加し、アルカリ性の水性媒体とする。このとき、第4級アンモニウムの炭酸塩ではなく、水酸化第4級アンモニウムを使用した場合、十分に安定なジルコニアゾルは得られず、スラリー状の二層分離した状態になる。また、アルカリ性の水性媒体とするために、その他のアルカリ源、例えば水酸化ナトリウム等を用いた場合も、やはり安定なジルコニウム塩の加水分解物が得られず、それらの加水分解物を水熱処理しても安定なジルコニアゾル(A)は得られない。しかし、第4級アンモニウムの炭酸塩とその他のアルカリ源、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア等の水溶性無機塩、n−プロピルアミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン、水酸化モノメチルトリエチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム等の水溶性有機塩基等、また第4級アンモニウムの炭酸塩以外の炭酸塩、例えば炭酸アンモニウム等を併用して使用することは可能である。アルカリ性物質を混合物で使用する場合は、第4級アンモニウムの炭酸塩とその他のアルカリ性物質との質量割合は、(第4級アンモニウムの炭酸塩):(その他のアルカリ性物質)=1:0.01ないし1であることが好ましい。
原料のアルカリ性ジルコニアゾル(A)を製造する工程(i)は、第4級アンモニウムの炭酸塩を含む水性媒体中でジルコニウム塩を60ないし110℃で加熱する工程である。
原料のアルカリ性ジルコニアゾル(A)を製造する工程(i)において用いられる水性媒体のpHは9ないし12であり、この水性媒体中では第4級アンモニウムの炭酸塩の含有量は、10ないし35質量%である。また、ジルコニウム塩はこの水性媒体中でZrO2として5ないし20質量%である。工程(i)における加熱温度が60℃以下の場合では、十分な加水分解が進行せずに、これらを水熱処理しても安定なジルコニアゾル(A)は得られない。また、工程(i)における加熱温度が110℃以上の場合では、加水分解の熟成時間がなくなり、直接に水熱処理することとなり好ましくない。この工程(i)における加熱時間は、通常は1ないし20時間である。
原料のアルカリ性ジルコニアゾル(A)を製造する工程(ii)は、工程(i)後に110ないし250℃で水熱処理を行う工程である。110℃以下では十分な水熱処理とならず、また250℃以上では装置的に大がかりなものとなる。この水熱処理は、オートクレーブ装置を用いて行われる。工程(ii)における水熱処理時間は、通常は1ないし20時間である。この水熱処理を経て、ジルコニウム塩の加水分解物がジルコニア粒子となる。この工程を経て得られるジルコニア粒子は、透過型電子顕微鏡観察によると20ないし300nmの範囲のものである。
工程(ii)を経た液体はpH8ないし12のアルカリ性である。このままでも十分にジルコニアゾル(A)として使用できるが、限外ろ過装置等を用いて純水による洗浄を行う工程(iii)を付与することにより不要な塩類を除去することができ、高純度のアルカリ性ジルコニアゾル(A)を得ることが出来る。
この工程(iii)を経たアルカリ性のジルコニアゾル(A)は、pH8ないし12、比表面積50m2/gないし300m2/g、濃度30ないし60質量%、電導度2000ないし10000μS/cm、粘度1ないし30mPa・sの物性値を有するものである。また、粒子径分布は20ないし300nmの範囲である。
このアルカリ性のジルコニアゾル(A)は50℃の条件下で1ヶ月以上安定に存在する。
原料のアルカリ性のジルコニアゾル(A)は、所望により水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア等の水溶性無機塩基、n−プロピルアミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン、水酸化モノメチルトリエチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム等の水溶性有機塩基等の添加剤を含有することができる。
このアルカリ性ジルコニアゾル(A)は、pH8ないし12、濃度10ないし60質量%の範囲で本発明の工程(I)に使用することができる。
本発明のアルカリ性ジルコニアゾル製造の工程(I)では塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)は、塩基性炭酸ジルコニウム塩水溶液として使用する。
工程(I)の塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)は、炭酸ジルコニウムアンモニウム(NH42〔Zr(CO32(OH)2〕、炭酸ジルコニウムカリウムK2〔Zr(CO32(OH)2〕、又はこれらの混合物の水溶液としてアルカリ性ジルコニアゾル(A)との混合に使用する。中でも塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)としては、炭酸ジルコニウムアンモニウムが好ましい。炭酸ジルコニウムアンモニウムは(NH42〔ZrO(CO32〕の形態をとることも可能である。
塩基性炭酸ジルコニウム塩水溶液は、pHは8ないし12、濃度1ないし30質量%で用いられる。
これらの塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)は水溶液の状態でアルカリ性ジルコニアゾル(A)と混合する方法が好ましい。ジルコニウム塩(B1)の水溶液の濃度は、1ないし30質量%の範囲で用いることが好ましい。
本発明の工程(I)は、アルカリ性ジルコニアゾル(A)と塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)とを、アルカリ性ジルコニアゾル(A)のZrO2に換算した固形分(As)及び塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)のZrO2に換算した固形分(Bs)の質量比Bs/Asが0.05ないし4.0となる割合で混合する工程である。アルカリ性ジルコニアゾル(A)と塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)の混合は工程(I)で行われるが、塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)の一部を、工程(II)において添加することもできる。
その場合、工程(I)及び工程(II)を通して、全体量として質量比Bs/Asが0.05ないし4.0となる割合で混合すればよい。
アルカリ性ジルコニアゾル(A)と塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)水溶液との混合は、塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)水溶液にアルカリ性ジルコニアゾル(A)を添加する方法、アルカリ性ジルコニアゾル(A)に塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)水溶液を添加する方法、又は両者を同時に混合する方法によって達成される。
前記質量比Bs/Asが0.05未満の場合は、アルカリ性ジルコニアゾル(A)の使用量が多くなり、製造コストが高くなることが懸念されると同時に使用場面での結合性が不十分となる可能性がある。また、前記質量比Bs/Asが4.0を越える場合には、20nm未満の粒子径範囲を有する粒子(b)の割合が多くなり、ゾルの安定性が低下する。
本発明の工程(II)は、工程(I)で得られた混合液を20ないし100℃で熟成させる工程である。この熟成は、60ないし100℃の温度における加熱により行うことがより好ましい。この熟成は、0.5時間ないし12時間かけて行うことが好ましい。
熟成は、放置により生成するコロイド粒子の大きさを調整するものである。
工程(II)を経て得られるアルカリ性ジルコニアゾルのpHは8ないし12である。
アルカリ性ジルコニアゾル(A)のジルコニア粒子は、工程(II)を経て生成したアルカリ性ジルコニアゾル中では、若干の粒子成長があるものの、概ね20ないし300nmの粒子径範囲に入るジルコニア粒子(a)であり、塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)は、工程(II)を経て、生成したアルカリ性ジルコニアゾル中において、一部は20nm未満の粒子径範囲のジルコニア粒子(b)となり、残りは原料のアルカリ性ジルコニアゾル(A)の粒子と結合や被覆を起こしてジルコニア粒子(a)となる。粒子径は透過型電子顕微鏡を用いて確認することが可能である。
アルカリ性ジルコニアゾル中のジルコニア粒子(b)は電子顕微鏡で確認できる小粒子径のジルコニア粒子もあるが、電子顕微鏡で確認できない成分は酸化ジルコニウムの極微小コロイドと考えられる。
20nm未満の粒子径のジルコニア粒子(b)を含む液は、小粒子径のジルコニア粒子であるか、又は電子顕微鏡でも判別が難しい酸化ジルコニウムの極微小コロイドである。しかし、電子顕微鏡でも判別が難しいほどの物質であっても、その液を蒸発乾固したものは、X線回折により酸化ジルコニウムであることを確認できるので、酸化ジルコニウムの極微小コロイドであると考えられる。
20ないし300nmの粒子径範囲のジルコニア粒子(a)を有するジルコニアゾルは単独でも安定に存在するが、20nm未満の粒子径範囲のジルコニア粒子(b)を有するジルコニアゾルないし酸化ジルコニウムの極微小コロイドは単独で安定に存在することは難しく、その製造過程でゲル化を起こし易い。
本発明に用いられるアルカリ性ジルコニアゾル(A)は、そのジルコニア粒子の表面がアルカリ側ではマイナスに帯電している。一方、塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)、例えば炭酸ジルコニウムアンモニウムでは炭酸ジルコニウムイオンはマイナスに帯電している。例えば、アルカリ性ジルコニアゾル(A)と塩基性炭酸ジルコニウムアンモニウム(B1)を混合する工程(I)では、炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液中とアルカリ性ジルコニアゾルを混合することにより、アルカリ性ジルコニアゾル(A)のジルコニア粒子と、炭酸ジルコニウムアンモニウム(B1)の炭酸ジルコニウムイオンが共にマイナス電荷で安定に存在し、工程(II)においてその混合液を熟成することにより、アルカリ性ジルコニアゾル(A)に由来するジルコニア粒子と、塩基性炭酸ジルコニウムアンモニウム(B1)に由来する微少なジルコニア粒子が生成する。この微少なジルコニア粒子は、熟成又は加熱により、一部はアルカリ性ジルコニアゾル(A)に由来するジルコニア粒子と化学結合を起こし、その微少なジルコニア粒子が結合や被覆された分だけジルコニア粒子は粒子成長を起こすが、他の微少なジルコニア粒子はアルカリ性ジルコニアゾル(A)に由来するジルコニア粒子から離れ、液中に単独で存在するか、又は微少なジルコニア粒子同士が熟成又は加熱により結合して粒子成長してゆく。
本発明によれば、得られたアルカリ性ジルコニアゾルは、原料として用いたアルカリ性ジルコニアゾルよりも、より粒子径分布が広く、大粒子ジルコニアから小粒子ジルコニア、及びジルコニア極微小コロイドが存在したアルカリ性ジルコニアゾルとなる。小粒子のジルコニアやジルコニア極微小コロイドのみからなるアルカリ性ジルコニアゾルの場合は安定性が低いが、本発明による大粒子のジルコニアの存在下に形成した小粒子のジルコニア、及びジルコニア極微小コロイドを含むアルカリ性ジルコニアゾルは安定性が高い。
原料のアルカリ性ジルコニアゾル(A)の存在下において、塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)を熟成又は加熱加水分解することにより、大粒子のジルコニア粒子(a)と酸化ジルコニウム極微小コロイドを含む小粒子のジルコニア粒子(b)を含有する本発明のアルカリ性ジルコニアゾルが得られる。
原料のアルカリ性ジルコニアゾル(A)を用いず、塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)の水溶液のみで本発明の工程(II)を行っても、ゲル状物質が生成しやすく、安定なジルコニアゾルは製造できない。
このアルカリ性ジルコニアゾルは、pH調整剤として塩酸、硝酸、酢酸等の酸性物質を添加することによりpHを下げて、酸性ジルコニアゾルとすることや、水酸化ナトリウム、アンモニア、第四級アンモニウム等のアルカリ性物質を添加してpHを上げることもできる。
実施例1
3リットルのガラス製容器に、炭酸水素テトラメチルアンモニウム水溶液(多摩化学工業(株)製、水酸化テトラメチルアンモニウムに換算して44.5質量%を含有する。)1306.1gと、純水592.2gとを投入し希釈水溶液とする。この水溶液を攪拌しながら、オキシ炭酸ジルコニウム粉末(ZrOCO3、第一稀元素化学工業(株)製、ZrO2として42.1質量%を含有する。)を水溶液中に徐々に添加し、総量で801.7g投入した。添加終了後、この混合液を攪拌しながら105℃まで加熱し、適宜純水を添加し、濃度調整を行いながら105℃で6時間熟成した。この熟成終了時点では、混合液は、スラリー状であり、ZrO2として12.5質量%含有し、pH10.7であった。このスラリーを、ステンレス製オートクレーブ容器に移し替え、攪拌下140℃で3時間の水熱合成反応を行った。この反応後に得られたものは、未溶解物もなく完全にゾル化しており、ZrO2として12.5質量%含有し、pH10.0であった。次いで、このゾルを限外ろ過装置を使用して、純水を徐々に添加しながら、ゾルを洗浄、濃縮したところ、ZrO2濃度42.7質量%の高濃度のジルコニアゾル711gが得られた。この得られたアルカリ性ジルコニアゾル(A)は、比重1.576、pH9.5、粘度5.5mPa・s、水酸化テトラメチルアンモニウム濃度(滴定法)1.0質量%、動的光散乱法による粒子径は77nmであった。動的光散乱法ではゾル中の粒子の粒子径が観測され、粒子同士の凝集があるときはそれらの凝集粒子の平均粒子径が観測される。透過型電子顕微鏡により粒子を確認したところ、10nm前後の一次粒子が凝集や結合した凝集粒子がほとんどで、その凝集粒子1個の大きさは20ないし150nmであった。また、このジルコニアゾルは、沈降物もなく、50℃の条件下で1ヶ月以上安定であった。
このアルカリ性ジルコニアゾル(A)を原料として、炭酸ジルコニウムアンモニウムとの混合(工程I)を行った。
3Lのガラス製容器にアルカリ性ジルコニアゾル(A)1124.1gと純水275.9gを投入した。この溶液を攪拌しながら、ZrO2として20.0質量%を含有する塩基性炭酸ジルコニウムアンモニウム溶液(日本軽金属製)を徐々に添加し、総量で600.0gを投入し、投入後30分攪拌し、原料混合液とした。この混合液はZrO2を30.0質量%含有し、そしてアルカリ性ジルコニアゾルのZrO2に換算した固形分と塩基性炭酸ジルコニウムアンモニウムのZrO2に換算した固形分との質量比(固形分比)は4:1で、pH9.6であった(工程I)。この原料混合液を攪拌下で80℃まで加熱後、更に80℃で1時間加熱した。この加熱後に得られたものは、ゲルも見られず完全にゾル化していた(工程II)。この得られたアルカリ性ジルコニアゾルゾルは、ZrO230.0質量%、pH9.9、B型粘度11.2mPa・s、全アルカリ量1.5質量%(滴定法で測定できる全アルカリを全てNH3として換算)、動的光散乱法による粒子径は121nmであった。動的光散乱法ではゾル中の粒子の粒子径が観測され、粒子同士の凝集があるときはそれらの凝集粒子の平均粒子径が観測される。透過型電子顕微鏡により粒子を確認したところ、20nm未満のほぼ単分散状態で存在する微小な一次粒子と、10nm前後の一次粒子が凝集や結合した凝集粒子が共存しており、その凝集粒子1個の大きさは20ないし150nmであった。また、このゾルは、沈降物もなく、50℃の条件下で1ヶ月以上安定であった。
実施例2
3Lのガラス製容器に実施例1と同様に作成した原料のアルカリ性ジルコニアゾル(A)1171.0gと純水79.0gを投入した。この溶液を攪拌しながら、ZrO2として20.0質量%を含有する塩基性炭酸ジルコニウムアンモニウム溶液(日本軽金属製)を徐々に添加し、総量で500.0gを投入し、投入後30分攪拌し、原料混合液とした。この混合液はZrO2を32.4質量%含有し、そしてアルカリ性ジルコニアゾルのZrO2に換算した固形分と塩基性炭酸ジルコニウムアンモニウムのZrO2に換算した固形分との質量比(固形分比)は5:1で、pH9.6であった(工程I)。この原料混合液を攪拌下で75℃まで加熱後、更に75℃で1時間加熱した。この加熱後に得られたものは、ゲルも見られず完全にゾル化していた。次いで、75℃に保ったまま攪拌下に、ZrO2として20.0質量%を含有する塩基性炭酸ジルコニウムアンモニウム溶液(日本軽金属製)を徐々に添加し、総量で750.0gを追加投入し、投入後75℃で更に30分加熱した。アルカリ性ジルコニアゾルのZrO2に換算した固形分と塩基性炭酸ジルコニウムアンモニウムのZrO2に換算した固形分との質量比(固形分比)は2:1であった(工程II)。この加熱後に得られたアルカリ性ジルコニアゾルは、ゲルも見られずゾル様のままであった。得られたアルカリ性ジルコニアゾルは、ZrO230.0質量%、pH9.6、B型粘度11.6mPa・s、全アルカリ量3.0質量%(滴定法で測定できる全アルカリを全てNH3として換算)、動的光散乱法による粒子径は96nmであった。動的光散乱法ではゾル中の粒子の粒子径が観測され、粒子同士の凝集があるときはそれらの凝集粒子の平均粒子径が観測される。透過型電子顕微鏡により粒子を確認したところ、20nm未満のほぼ単分散状態で存在する微小な一次粒子と、10nm前後の一次粒子が凝集や結合した凝集粒子が共存しており、その凝集粒子1個の大きさは20ないし150nmであった。また、このゾルは、沈降物もなく、50℃の条件下で1ヶ月以上安定であった。
実施例3
3Lのガラス製容器に実施例1と同様に作成した原料のアルカリ性ジルコニアゾル(A)585.5gと純水664.5gを投入した。この溶液を攪拌しながら、ZrO2として20.0質量%を含有する塩基性炭酸ジルコニウムアンモニウム溶液(日本軽金属製)を徐々に添加し、総量で625.0gを投入し、投入後30分攪拌し、原料混合液とした。この混合液はZrO2を20.0質量%含有し、そしてアルカリ性ジルコニアゾルのZrO2に換算した固形分と塩基性炭酸ジルコニウムアンモニウムのZrO2に換算した固形分との質量比(固形分比)は2:1で、pH9.6であった(工程I)。この原料混合液を攪拌下で75℃まで加熱後、更に75℃で1時間加熱した。この加熱後に得られたものは、ゲルも見られず完全にゾル化していた。次いで、75℃に保ったまま攪拌下に、ZrO2として20.0質量%を含有する塩基性炭酸ジルコニウムアンモニウム溶液(日本軽金属製)を徐々に添加し、総量で625.0gを追加投入し、投入後75℃で更に1時間加熱した。アルカリ性ジルコニアゾルのZrO2に換算した固形分と塩基性炭酸ジルコニウムアンモニウムのZrO2に換算した固形分との質量比(固形分比)は1:1であった(工程II)。この加熱後に得られたアルカリ性ジルコニアゾルは、ゲルも見られずゾル様のままであった。得られたゾルは、ZrO220.0質量%、pH9.6、B型粘度5.2mPa・s、全アルカリ量3.0質量%(滴定法で測定できる全アルカリを全てNH3として換算)、動的光散乱法による粒子径は95nmであった。動的光散乱法ではゾル中の粒子の粒子径が観測され、粒子同士の凝集があるときはそれらの凝集粒子の平均粒子径が観測される。透過型電子顕微鏡により粒子を確認したところ、20nm未満のほぼ単分散状態で存在する微小な一次粒子と、10nm前後の一次粒子が凝集や結合した凝集粒子が共存しており、その凝集粒子1個の大きさは20ないし150nmであった。また、このゾルは、沈降物もなく、50℃の条件下で1ヶ月以上安定であった。
比較例1
3Lのガラス製容器に実施例1と同様に作成した原料のアルカリ性ジルコニアゾル(A)258.5gを投入した。この溶液を攪拌しながら、ZrO2として20.0質量%を含有する塩基性炭酸ジルコニウムアンモニウム溶液(日本軽金属製)を徐々に添加し、総量で2741.5gを投入し、投入後30分攪拌した。この混合液はZrO2を21.9質量%含有し、そしてアルカリ性ジルコニアゾルのZrO2に換算した固形分と塩基性炭酸ジルコニウムアンモニウムのZrO2に換算した固形分との質量比(固形分比)は1:5で、pH9.9であり、凝集、白濁して外観は白色で、スラリー状であった。この混合液を攪拌下で80℃まで加熱後、更に80℃で1時間加熱した。この加熱後に得られたものは、加熱前の混合液と比較して、多少ゾル様になっていたが、微少なジルコニア粒子同士が加熱により結合して粒子成長しながら、それらが更に凝集することにより、多量の沈降ゲルが生成し、不安定な状態であった。
本発明により得られるジルコニアゾルは、粒子径分布の広い安定なものであるため、このような性質を利用し、各種耐火物の成型加工用バインダー、各種触媒用バインダー、含浸処理、コーティング用塗剤等、或いはセラミックス繊維等の無機繊維の成形加工、精密鋳造用鋳型の造形、繊維の表面処理、燃料電池等の分野に利用することができる。

Claims (10)

  1. 第4級アンモニウムの炭酸塩を含む水性媒体中でジルコニウム塩(B2)を60ないし110℃で加熱する工程(i)及び工程(i)に続いて110ないし250℃で水熱処理を行う工程(ii)を含む方法により得られたアルカリ性ジルコニアゾル(A)と、塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)とを混合する工程(I)を含むアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法。
  2. アルカリ性ジルコニアゾル(A)のZrO2に換算した固形分(As)及び塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)のZrO2に換算した固形分(Bs)の質量比Bs/Asが0.05ないし4.0となる割合でアルカリ性ジルコニアゾル(A)と塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)とを混合する工程(I)、及び工程(I)で得られた混合液を20ないし100℃で熟成させる工程(II)を含む請求項1記載のアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法。
  3. 前記第4級アンモニウムの炭酸塩が、(NR42CO3、NR4HCO3、又はそれらの混合物(ここで、Rは炭化水素基を表わす。)である請求項1又は請求項2に記載のアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法。
  4. 前記第4級アンモニウムの炭酸塩中の第4級アンモニウムイオンが炭素原子数1ないし18の炭化水素基で構成されているものである請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法。
  5. 前記第4級アンモニウムの炭酸塩中の第4級アンモニウムイオンが炭素原子数1ないし4の炭化水素基で構成されているものである請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法。
  6. 前記ジルコニウム塩(B2)が、オキシジルコニウム塩である請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法。
  7. 前記ジルコニウム塩(B2)が、オキシ炭酸ジルコニウムである請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法。
  8. 前記塩基性炭酸ジルコニウム塩(B1)が、炭酸ジルコニウムアンモニウムである請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法。
  9. 前記工程(II)の熟成が、60ないし100℃で加熱することである請求項2ないし請求項8のいずれか1項に記載のアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法。
  10. 得られるアルカリ性ジルコニアゾルが、8ないし12のpHを有するものである請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載のアルカリ性ジルコニアゾルの製造方法。
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