JP5032717B2 - 多層シート及び容器 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は成形性と強度のバランスに優れ、かつ臭気が少ない多層シート及び容器に関する。
【0002】
【従来の技術】
スチレン系樹脂は安価であり、かつ成形性や剛性等の性能に優れた材料であることから多方面に利用されている。特に近年では優れた発泡特性やシート加工性を利用し、発泡シートを始めとするシート分野に大量に使用されている。しかし最近、スチレン系樹脂シートを食品容器として実用に供した場合、低分子量成分が食品に移行する問題や開封時の臭気の問題が指摘される様になった。これらの課題に対し、特開2000−95888ではスチレンダイマー及びスチレントリマーの含有量を少なくした例が記載されているが、スチレンダイマー及びスチレントリマー等の低分子量成分を少なくすると成形性や強度が低下するという問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は低分子量成分を少なく制御した場合であっても成形性や強度のバランスに優れかつ臭気の少ない多層シート及び容器に関する。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、低分子量成分を少なくした場合であっても、メタノール可溶分が特定の範囲であるスチレン系樹脂を主体としてなる層を最外に少なくとも1層有すること特徴とする多層シート及び容器が優れた成形性や強度のバランスに優れかつ臭気が少ないことを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち本発明は、スチレン系単量体が300ppm以下、スチレン2量体及びスチレン3量体の合計が1300ppm以下、かつメタノール可溶分が0.5〜3質量%であるスチレン系樹脂を主体としてなる層を最外に少なくとも1層有すること特徴とする多層シート及び容器に関する。
【0006】
以下に本発明を詳しく説明する。本発明におけるスチレン系樹脂は、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン等のスチレン系単量体を重合して得られるが、好ましくはスチレンである。スチレン系単量体は単独で使用することも混合物として使用することもできる。また、これらのスチレン系単量体と共重合可能なアクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等のスチレン系単量体以外の単量体も、スチレン系樹脂の性能を損なわない程度、すなわちスチレン系単量体100質量部に対し、5質量部以下なら添加して重合したものであっても良い。さらに本発明ではジビニルベンゼン等の架橋剤をスチレン系単量体100質量部に対し、1質量部未満を添加して重合したものであっても差し支えない。
【0007】
本発明におけるスチレン系樹脂は、ブタジエンゴムやスチレン−ブタジエンゴム等をスチレン系単量体に溶解し重合して得たハイインパクトポリスチレンであってもよい。
【0008】
スチレン系単量体の重合方法としては特に制限はなく、公知の方法が採用できるが、有機系重合開始剤を用いたラジカル重合法が好ましい。また、懸濁重合、塊状重合、溶液重合、乳化重合等公知の手法が採用でき、また、連続式でも回分式でも差し支えない。
【0009】
有機系重合開始剤としては、一時間半減期温度が70〜150℃のものが好ましく、例えば、過酸化ベンゾイル、アゾイソブチルニトリル、t−ブチルパーオキシベンゾネート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等が挙げられる。また、重合温度としては、転化率95%を越えるまで90℃以下とすることが好ましい。
【0010】
本発明におけるスチレン系樹脂中に残存するスチレン系単量体は300ppm以下、好ましくは250ppm以下、さらに好ましくは200ppm以下である。スチレン系単量体が300ppmを越えると臭気に劣るものとなったり、食品への移行の可能性が高くなり好ましくない。スチレン系単量体の量は有機系重合開始剤の種類や添加量、温度等で調整できる。また真空度等の脱揮条件や注水脱揮等で調整することもできる。
【0011】
本発明におけるスチレン系樹脂中に含まれるスチレン2量体及びスチレン3量体の合計は1300ppm以下、好ましくは1200ppm以下、さらに好ましくは1100ppm以下である。2量体及びスチレン3量体の合計が1300ppmを越えると、臭気に劣るものとなったり、食品への移行の可能性が高くなり好ましくない。2量体及びスチレン3量体の合計量の調整は有機系重合開始剤の種類や添加量、温度等で調整できる。また真空度等の脱揮条件や注水脱揮等で調整することもできる。
【0012】
なお、本発明におけるスチレン2量体とは2,4−ジフェニル−1−ブテン、1,2−ジフェニルシクロブタンをいう。またスチレン3量体とは1−フェニル−4−(1’−フェニルエチル)、2,4,6−トリフェニル−1−ヘキセンをいう。
【0013】
本発明におけるスチレン系樹脂のメタノール可溶分は0.5〜3質量%、好ましくは0.55〜2質量%、さらに好ましくは0.6〜1.5質量%である。メタノール可溶分が0.5質量%未満であったり3質量%を越えると、成形性や強度が低下する。メタノール可溶分は、鉱物油の添加等で調整できる。
【0014】
本発明におけるスチレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は好ましくは28万〜60万、さらに好ましくは30万〜50万である。Mwが28万未満であると強度に劣り、また60万を越えると成形性が低下する。また、数平均分子量(Mn)は好ましくは8万以上、さらに好ましくは10万以上である。8万未満の場合は強度に劣るものとなる。Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比は好ましくはMz/Mw=1.8〜3.5、さらに好ましくは2.0〜3.0である。1.8未満の場合や3.5を越える場合は強度に劣るものとなる。
【0015】
本発明のスチレン系樹脂には、所望により高級脂肪酸、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸アミド、鉱物油、酸化防止剤、耐侯剤、帯電防止剤、難燃剤、摺動剤、発泡剤、発泡助剤等公知の添加剤を添加しても良い。
【0016】
本発明の多層シートはスチレン系樹脂を主体としてなる層を最外に少なくとも1層有する。スチレン系樹脂を主体としてなる層の形状は、発泡体であっても、フィルム状であっても差し支えないが、発泡体であることが好ましい。スチレン系樹脂を主体としてなる層を最外に少なくとも1層有すれば、それ以外の層は特に制限はなく公知の層が採用できる。また、厚みは特に制限はないが、多層シートとして0.1〜10mmであることが好ましい。
【0017】
多層シートの製造方法は公知の手法が採用できる。例えばフィードブロックを付した多層シート押出機を用いて製造する方法や、シート押出機等により製造したシートにフィルムを融着させて得る方法等が採用できる。
【0018】
多層シートは、スチレン系樹脂を主体としてなる層が容器の内側となる様に成形し容器とする。成形の手法は特に制限はなく、真空成形、圧空成形等が採用できる。
【0019】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。最初に本発明における評価法を以下に説明する。
【0020】
▲1▼スチレン系樹脂中のスチレン系単量体の測定
スチレン系樹脂500mgを内部標準物質としてシクロペンタンを含むDMF10mlに溶解し、島津製作所社製ガスクロマトグラフィーGC12Aを用いて測定した。
【0021】
▲2▼スチレン系樹脂中のスチレン2量体とスチレン3量体の測定。
スチレン系樹脂200mgを2mlの1,2−ジクロロメタンに溶解し、メタノールを2ml添加してスチレン系樹脂を析出させ、静置させたのち、上澄み液について、ヒューレットパッカード社製ガスクロマトグラフィーHP−5890を用いて測定した。なお詳細な条件を以下に記す。
(イ)カラム:DB−1(ht) 0.25mm×30m 膜厚0.1mm
(ロ)インジェクション温度:250℃
(ハ)カラム温度:100〜300℃
(二)検出器温度:300℃
(ホ)スプリット比:50/1
(へ)内部標準物質:n−エイコサン
【0022】
▲3▼メタノール可溶分
質量を測定したスチレン系樹脂(Pg)をメチルエチルケトンに溶解し、該溶液をメチルエチルケトンに対し30倍量のメタノール中に投入してメタノール不溶分を沈殿させ、ろ過してメタノール不溶分を取り出した後、70℃、1.3kPa(abs)で15時間乾燥し、20分間デシケーター中で冷却した後乾燥した沈殿物の質量を測定(Ng)し、下式により求めた。
MS(%)=(P−N)/P×100
【0023】
▲4▼分子量及び重量平均分子量
東ソー社製、HLC−802A型ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、次の条件で測定した。
(イ)カラム:東ソー(株)カラム
(ロ)移動相:テトラヒドロフラン
(ハ)試料濃度:0.3重量%
(ニ)測定温度:38℃
(ホ)検出器:示差屈折計
【0024】
▲5▼成形性:多層シートを170℃のオーブンで25秒間加熱し、口径110mm、深さ121mmの丼状容器を成形した。このときスチレン系樹脂が内側となる様に成形した。成形した容器を下記基準にて判定した。
○・・・外観良好なもの
△・・・亀裂が発生したり側壁が薄いもの
×・・・穴があいていたり容器となっていないもの
【0025】
▲6▼強度:▲5▼で得た容器を底部からテンシロン測定機を用い400mm/分のスピードで圧縮して、容器が座屈したときの強度で示した。
【0026】
▲7▼臭気:▲5▼で得た容器をアルミホイルにて蓋をし、40℃30分加熱後蓋をあけた時の臭いを嗅ぎ、下記基準にて判定した。
○・・・臭気が感じられないもの
△・・・臭気がやや感じられるもの
×・・・臭気が強く感じられるもの
【0027】
実施例1
内容量200Lのジャケット、撹拌機付きオートクレーブに純水100kg、第3リン酸カルシウム400g、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム10gを加え、130rpmで撹拌した。続いてスチレン80kg、鉱物油(ホワイトオイル)240g及びt−ブチルパーオキシ−2−エチル−ヘキサノエートを400g、ジクミルパーオキサイドを80g仕込み、オートクレーブを密閉して60℃に昇温した。60℃から90℃まで12時間かけて昇温しながら重合した後、120℃に昇温して2時間、さらに135℃に昇温して2時間保持し重合を完結させた。なお、60℃から90℃まで12時間かけて昇温しながら重合したときの転化率は98%であった。得られたビーズを洗浄、脱水、乾燥した後、単軸押出機を用いて、温度210℃で圧力1.3kPa(abs)で脱気しながら押出を行い、ペレット形状のスチレン系樹脂を得た。上記スチレン系樹脂100質量部に対して核剤としてタルクを0.05質量部、発泡剤としてブタンガスを3質量部使用し、サーキュレーターダイを付したタンデム型押出機にて、厚み2mm、発泡倍率8倍の発泡シートを得た。さらに上記発泡シートにTダイを付した押出機にて東洋スチレン社製ハイインパクトポリスチレンE641Nを厚さ150μmのフィルムを押し出しながら積層し、多層シートを得た。得られた多層シートの評価結果を表1に示した。
【0028】
実施例2
60℃から90℃までを15時間かけて昇温しながら重合した以外は実施例1と同様に行った。得られた多層シートの評価結果を表1に示した。
【0029】
実施例3
t−ブチルパーオキシ−2−エチル−ヘキサノエートを200gとして重合した以外は実施例1と同様に行った。得られた多層シートの評価結果を表1に示した。
【0030】
実施例4
60℃から90℃までの昇温を1時間で行い、さらに90℃で11時間保持することにより重合を行った以外は実施例1と同様に行った。得られた多層シートの評価結果を表1に示した。
【0031】
実施例5
鉱物油を480gとして重合した以外は実施例1と同様に行った。得られた多層シートの評価結果を表1に示した。
【0032】
比較例1
ジクミルパーオキサイドを仕込まなかった以外は実施例1と同様に行った。得られた多層シートの評価結果を表2に示した。
【0033】
比較例2
t−ブチルパーオキシ−2−エチル−ヘキサノエートを80gとして重合した以外は実施例1と同様に行った。得られた多層シートの評価結果を表2に示した。
【0034】
比較例3
60℃から90℃までの昇温を1時間で行い、さらに90℃で保持することなく120℃まで0.5℃/分で昇温を行い、120℃で2時間保持し、さらに135℃に昇温し2時間保持した以外は実施例1と同様に行った。得られた多層シートの評価結果を表2に示した。
【0035】
比較例4
鉱物油を仕込まなかった以外は実施例1と同様に行った。得られた多層シートの評価結果を表2に示した。
【0036】
比較例5
鉱物油2.6kgとして重合した以外は実施例1と同様に行った。得られた多層シートの評価結果を表2に示した。
【0037】
【表1】
Figure 0005032717
【0038】
【表2】
Figure 0005032717
【0039】
表1、2より、比較例で得られた多層シート及び容器は、スチレン2量体と3量体の合計量が多く、食品への移行の可能性が高いものであったり、成形性、強度、臭気の何れかが劣ることがわかる。
【0040】
【発明の効果】
以上の通り、本発明の多層シート及び容器は低分子量成分を少なく制御した場合であっても、成形性、強度のバランスに優れ、臭気が少なく、食品容器等に最適である。

Claims (6)

  1. ラジカル重合で得られるスチレン系樹脂であって、スチレン系単量体が300ppm以下、スチレン2量体及びスチレン3量体の合計が1300ppm以下、メタノール可溶分が0.5〜3質量%、かつ重量平均分子量Mwが28万〜60万であるスチレン系樹脂を主体としてなる層を最外に少なくとも1層有し、
    前記スチレン系樹脂を主体としてなる層が発泡体であることを特徴とする多層シート。
  2. 前記スチレン系樹脂は、Z平均分子量Mzと重量平均分子量Mwの比Mz/Mwが1.8〜3.5である請求項1記載の多層シート。
  3. 前記スチレン2量体及び前記スチレン3量体の合計が1100ppm以下である請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の多層シート。
  4. 前記スチレン系樹脂は、数平均分子量Mnが10万以上である請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の多層シート。
  5. 押出成形によりシート状に成形された請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の多層シート。
  6. 請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の多層シートを成形してなる容器であって、前記スチレン系樹脂を主体としてなる層が容器の内側であることを特徴とする容器。
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