JP5020450B2 - 粉体性状に優れた粉末線状重合体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、線状重合体のラテックスから粒度分布が狭く且つ耐ブロッキング性に優れた粉末線状重合体を回収する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に高分子成形材料は、単独で、あるいは他の添加剤等と混合して、成形に供されている。例えば、塩化ビニル系樹脂の例では、耐衝撃性改質剤としてのゴム基質グラフト共重合体、比較的高いガラス転移温度(Tg)を有するアクリル系樹脂等からなるゲル化促進剤あるいは比較的低Tgのアクリル系樹脂等からなる滑性改質剤等の高分子加工助剤と粉体混合されて、成形に供されることが広く知られている。これら高分子改質剤は、一般にその重合体のラテックスから粉末状に回収されており、成形原料としての使用あるいはこれに先立つ粉体混合に際して、その重合体粉末が、狭い粒度分布、優れた流動性および耐ブロッキング性に代表される良好な粉体特性を有することが望ましいが、従来このような要望は必ずしも満足される状態にはなかった。
【0003】
例えば、主として塩化ビニル系樹脂への滑剤型高分子加工助剤に関し、低Tg重合体を比較的多く含む低Tg重合体と高Tg重合体との積層重合体構造がいくつか提案されている(特公昭50−37699号、特開昭49−120945号、特開昭50−9653号各公報)が、粉末特性の改善にまで至っていない。
【0004】
更に云えば、一般に、高分子ラテックスから粉粒状物を得る方法としては、高分子ラテックスを電解質水溶液と攪拌下に混合して樹脂分を凝析させる方法、高分子ラテックスを熱気流中に噴霧して乾燥する方法等が用いられる。
【0005】
しかし、上記の方法で得られる粉粒状物は粒度分布が広く、微粉を多く含むことにより、その後のろ過、脱水性に劣り、さらに、乾燥後の粉立ち(すなわち粉体の移送、計量、投入等の操作時に粉塵が舞うこと)による作業環境の悪化等、取扱い上の問題が多く見られる。
【0006】
これに対し、従来より、重合体ラテックスを粉体性状の良い粉末状粒子として回収する方法として、重合体ラテックスを二段階で凝析する方法がいくつか提案されている(特開昭59−91103号、特開昭60−217224号、特開平6−240009号各公報等)。これらは、いずれも架橋ゴム基質のラテックスから粉末性状の改善された粉末重合体を回収することに関しては、ある程度成功していると解されるが、線状重合体粉末の回収方法としては成功しているものとは解し難い。これに対し、本発明者らは、比較的高いガラス転移温度を有するアクリル系線状重合体ラテックスから粉末性のよい粉末重合体を回収することに成功している(特開平10−17626号公報)が、ガラス転移温度が40℃未満である重合体成分を30重量%以上含む線状重合体ラテックスから良好な粉末特性の粉末重合体を回収することには成功していない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述の事情に鑑み、本発明の主要な目的は、ガラス転移温度が低い軟質重合体成分を多く含む線状重合体のラテックスから、微粉・粗粉が少なく粒径分布がシャープで、粉立ちが少なく、耐ブロッキング性にも優れた粉末重合体を回収することにある。
【0008】
すなわち、本発明は、ガラス転移温度が40℃未満である線状重合体Sと、より高いガラス転移温度を有する線状重合体Hとが計2層以上に積層した多層構造を有し、且つ線状重合体Sの含有量が全体として35〜75重量%含まれるとともに最外層に含まれる場合には30重量%以下である多層重合体のラテックスAを形成し、次いで凝固剤を添加してラテックスAの多層重合体の70〜98重量%を緩凝析させた後、更に凝固剤を添加して凝析を完結させることを特徴とする粉末線状重合体の製造方法を提供するものである。
【0009】
上述の目的で研究して、本発明者らが本発明に到達した経緯について、若干付言する。
【0010】
本発明者らの研究グループは、ゴム基質グラフト共重合体ラテックスの緩凝析を含む二段凝析法による粉体特性の良い粉末重合体の回収の成功(特開昭59−72230号公報)を通じて、緩凝析条件下での凝析粒子生成が、加熱温度と重合体粒子の軟化との微妙なバランスの上に進行することを認識していた。すなわち、緩凝析での加熱によりラテックス粒子の融着が進行し、球形で肥大化した凝析重合体粒子が得られるが、この状態は重合体が軟化している状態であるため、引き続いて粗大粒子の生成やブロック化が容易に起こり易い。これをある程度緩和しているのが、耐熱軟化性を有するグラフト共重合体中の幹架橋重合体の存在にある。これに対し、線状重合体の均質構造粒子のラテックスの場合には、ある程度の粒子径を得るのに必要な程度に加熱をしようとすると熱で重合体全体が軟化して、粗大粒子の生成や、ブロック化等が容易に起る。結果的に充分な緩凝析温度およびその後の熱処理温度が与えられず、得られる粒子は嵩比重が低く、壊れやすい粒子となり、最終的には微粉を含んだ微粒状物となってしまう。本発明者らは、上述の知見の下に、更に研究を進め、グラフト共重合体の代りに、高Tg重合体を低Tg重合体で被覆した積層構造を与え、グラフト硬質重合体のゴム幹重合体の役割を高Tg重合体に荷わせることにより、線状重合体ラテックスの緩凝析を含む二段凝析処理に成功した(特開平10−17626号公報)。ここで利用した重合体の積層構造は、低Tg(軟質)重合体をS、高Tg(硬質)重合体をHで代表し、内側から外側へと順番に並べるとH/S構造と表現される。しかし、この積層構造で外側の低Tg(S)重合体を30重量%を超えて使用すると、緩凝析温度で凝析して生成した粒子のさらなる融着が進行し、粗大粒子の生成やブロック化が起こりやすくなってしまった。従って、この時点では、低Tg(S)重合体をより多く含めることは断念せざるを得なかった。しかしながら、更に研究を進めた結果、H/S積層線状重合体構造の線状S重合体の持つ融着性付与効果は、H/Sに限らずS/H構造によっても得られることが判ってきた。すなわち、線状S重合体は緩凝析において糊として機能するために、外側にあるときにのみ有効に働くものと想定していたが、内側にあっても有効に機能することが判明した。つまり、線状重合体の均質混合構造ではなく、S/HあるいはH/Sの不均質な接合状態、すなわちS重合体およびH重合体のそれぞれの性質が残るように多層化された状態が、隣接粒子の接合促進とブロック化防止の調和に有効に作用しているものと理解できる。なお、現時点では明らかでないが、SとHとの界面あるいは接合部において、SからHあるいはHからSへと各々の性質が傾斜的に存在している構造が、有効に作用している可能性もある。そして更に検討した結果、S重合体が表面に過剰に偏在しなければ、即ち多層重合体の最外層に存在するS重合体量を全重合体の30重量%以内に抑えれば(つまり、内側の層にS重合体の少なくとも一部を配置すれば)、ブロック化等の過凝析現象を防止しつつ緩凝析の円滑な進行が可能になることが判明した。結局、上記条件を満足する限りにおいて、S重合体を35重量%以上含めることも可能となるとの知見を経て、本発明に到達したものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明で緩凝析の対象とするラテックスを構成する多層重合体は、ガラス転移温度(Tg)が40℃未満である線状重合体S(以下「軟質重合体」または「S重合体」ともいう)からなる少なくとも一つの層と、より高いTgを有する線状重合体H(以下「硬質重合体」または「H重合体」ともいう)からなる少なくとも一つの層で構成される多層重合体である。ここで線状重合体とは、架橋重合体を排除する意味で用いている。
【0012】
多層重合体を構成する線状重合体100重量部のうち、ガラス転移温度が40℃未満である重合体成分の合計は35〜75重量部である。その含量が35重量部未満の場合はそもそも耐ブロッキング性が問題となる事は無く、75重量部を超える場合には本質的に良好な耐ブロッキング性を有する粉粒状重合体を得ることは困難である。
【0013】
言い換えると、硬質重合体は重合体ラテックス自身や粉粒状物に適度な固さを付与し、重合・造粒時の付着、析出を低減し、粉粒状物の耐ブロッキング性を向上させるために必要となる。そのため本発明における硬質重合体は多層重合体中に最低25重量部が必要であり、それ以外の場合は通常粉粒状物を取扱う室温程度の温度において十分な硬さを付与することはできず、耐ブロッキング性に劣る粉粒状物が得られる。
【0014】
次に、ラテックス(A)に含まれる多層重合体の構造に関して説明する。
【0015】
多層重合体における層の数は特に限定されるものではないが、製造の複雑さ、工程の長さ等を考慮すると2層あるいは3層構造が好ましい。さらに、2層あるいは3層重合体のいずれの場合でも、以下に記載されるような多層構造にすることが好ましい。
【0016】
すなわち、多層重合体の最外層がガラス転移温度が40℃以上の線状重合体か、または、ガラス転移温度が40℃未満の線状重合体0−30重量部からなるものとする。
【0017】
好ましくは、本発明で緩凝析に付される多層重合体のラテックスは、以下の二つの態様のいずれかで形成される。
【0018】
(第一の態様)
多層重合体のラテックスAを、
(a)ガラス転移温度が40℃以上である線状重合体H1 0〜60重量部の存在下に、
(b)単独で重合して得られる重合体のガラス転移温度が40℃未満である単量体混合物を重合させて、線状重合体S 35〜75重量部を形成し、このH1およびSの存在下に、さらに
(c)単独で重合して得られる重合体のガラス転移温度が40℃以上である単量体混合物を重合させて線状重合体H2 5〜65重量部(但し、H1+S+H2=100重量部)を形成することにより得る。
【0019】
(第二の態様)
多層重合体のラテックスAを
(a)ガラス転移温度が40℃未満である線状重合体S1 5〜75重量部の存在下に、
(b)単独で重合して得られる重合体のガラス転移温度が40℃以上である単量体混合物を重合させて線状重合体H 25〜65重量部を形成し、このS1、およびHの存在下に、さらに
(c)単独で重合して得られる重合体のガラス転移温度が40℃未満である単量体混合物を重合させて線状重合体S1 0〜30重量部(但し、S1+H+S2=100重量部)を形成することにより得る。
【0020】
上記した2つの態様は、全く別のものではなく、ラテックス中の多層重合体粒子の表面付近でS、H両重合体が、それぞれの性質を残しつつ層構造を有している点において、同じ考え方に基づいているものである。
【0021】
軟質重合体S(およびS1、S2)はガラス転移温度Tgが40℃未満で特徴付けられるものであるが、より好ましくは−80℃〜35℃の範囲のものが好ましく用いられる。また硬質重合体H(およびH1、H2)は、ガラス転移温度Tgが軟質重合体Sのそれより高く、好ましくは40℃以上であることで特徴付けられるものであるが、好ましくは軟質重合体SのTgより30℃以上、特に40℃以上、高いことが好ましく、また40〜110℃の範囲にあることが特に好ましい。
【0022】
これら多層重合体の軟質重合体層と硬質重合体層の量及び層構造は造粒温度やかさ比重などにも影響するが、主として、緩凝析の操作性および粉体の耐ブロッキング性を考慮して決定されている。
【0023】
すなわち、最外層に硬質重合体を配置するか、あるいは、軟質重合体を配置する場合は30重量部以下の量が選択され、30重量部を超える軟質重合体はラテックスを構成する多層重合体の内部の層へ分配される構造をとる事が、緩凝析を円滑に進行させ、多層重合体粒子表面付近をある程度固くして、粉体での耐ブロッキング性を確保するために必要である。
【0024】
多層ラテックス重合体の構造を上記の様にすることにより、軟質重合体を比較的多く有するラテックス重合体においても耐ブロッキング性と凝析温度の良好なバランスが達成出来るのである。
【0025】
上記多層重合体の各層を形成する線状重合体は、単独重合体あるいは共重合体のいずれでも良く、使用される単量体としては、メタクリル酸エステル類、アクリル酸エステル類;スチレン,α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル類;等、線状重合体を生成する単量体であれば特に制限なく使用可能であり、目的に応じて適時選択される。
【0026】
また、各重合体成分の分子量に関しても特に限定はなく、連鎖移動剤、開始剤の使用量、重合温度、モノマーあるいはモノマーを含んだ溶液の添加方法等の変更により、用途に応じた調整をしてもよい。ここで、連鎖移動剤としては炭素数が4から12を有するアルキルメルカプタン、例えばn−オクチルメルカプタンやn−ドデシルメルカプタンがよく用いられるが、これに限定されるものではない。
【0027】
本発明に記載の樹脂構成より得られる粉末重合体の具体例としては、熱可塑性樹脂用の加工助剤としての用途が挙げられる。例えば、以下のような組成で共重合体が構成された場合、比較的柔らかい重合体成分が滑剤成分として働く滑性型加工助剤が得られる。但し、これは一例であり、本発明で得られる粉末重合体の用途を限定するものではない。
【0028】
ガラス転移温度(Tg)が40℃未満の線状重合体Sが、炭素数1〜18個のアルキル基を有するアクリル酸アルキルから選択される少なくとも1種類の単量体25〜100重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系重合体から選択される少なくとも1種類の単量体0〜75重量%とからなる単量体混合物を重合して得られ、重量平均分子量が100000以下の共重合体であり;且つ、ガラス転移温度(Tg)が40℃以上である線状重合体Hが、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレン系単量体の少なくとも1種類の単量体35〜100重量%、およびこれらと共重合可能なその他のビニル系重合体から選択される少なくとも1種類の単量体0〜65重量%とからなる単量体混合物を重合して得られ、重量平均分子量が100000以上の共重合体である、組合せ態様は好ましい一例である。
【0029】
なお、本明細書(以下の実施例、比較例を含む)において、多層重合体の各層を形成する(共)重合体のガラス転移温度Tgとは、単量体の組成に基づき決定される以下の式(Foxの式、例えば、「Plastic Polymer Science and Technology」、by M.D.Baijal,John Wiley & Sons;p205(1982))によって求めた値に基づいている:
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+W3/Tg3+・・・・
(Foxの式)
W1:単量体成分1の重量分率
W2:単量体成分2の重量分率
W3:単量体成分3の重量分率
・
・
W1+W2+W3・・・=1.0
Tg1=単量体成分1の重合体のガラス転移温度[K]
Tg2=単量体成分2の重合体のガラス転移温度[K]
Tg3=単量体成分3の重合体のガラス転移温度[K]
・
・
例えば代表的な単量体についての重合体Tgをいくつか示せば以下の通りである:
メタクリル酸メチル(MMA)、Tg=105℃
メタクリル酸ブチル(BMA)、Tg=20℃
アクリル酸ブチル(BA)、Tg=−54℃
スチレン(ST)、Tg=105℃
アクリロニトリル(AN)、Tg=97℃。
【0030】
本発明における多層重合体のラテックスを形成させる重合方法としては、水を分散媒とする通常の乳化重合法が好ましく、乳化剤としては公知のアニオン系界面活性剤や非イオン系界面活性剤を単独で、または組合せて用いることができる。また、重合開始剤としては、通常の水溶性または油溶性のものを単独あるいはレドックス触媒系とともに用いることができる。さらに、モノマー混合物は単独または乳化された状態で反応容器内に添加することができる。
【0031】
重合は一括重合あるいは連続重合法のいずれで重合しても良い。また、各層を形成させるための重合は、反応容器への重合体の付着防止や重合発熱を抑制するためにさらに分割乳化重合することができ、分割されたモノマー混合物の組成も異なっていてもよい。これら多層重合体ラテックスを得るための重合方法はグローアウト乳化重合法として周知であり、当業者にとっては乳化剤、開始剤、モノマー投入方法などを調整することで容易に実施することができる技術である。
【0032】
該多層重合体のラテックス粒子径については特に制限は無いが、ラテックス粒子径が小さすぎる場合はラテックスの粘度が高くなりすぎて取扱いが困難になるため樹脂濃度を低くする必要があり生産効率が低下するし、ラテックス粒子径が大きすぎるときには、反応が遅くなり、未反応の単量体が多く残存するようになるなどの現象が生じてくることから、50〜1000nmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは50〜500nmである。
【0033】
本発明に該当する重合体ラテックスの製法例としては、例えば特公昭50−37699号公報に記載されている方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0034】
上記の様に、ラテックス中の多層重合体が特定の層構造を有することが本発明の目的達成には重要であり、その後、以下に示す凝析法で凝析することにより初めて粒度分布が狭く、かつ、耐ブロッキング性に優れた粉粒状共重合体を得ることができる。
【0035】
前述した方法によって製造された多層重合体ラテックス(重合体濃度は通常20〜60重量%程度)と、濃度の希薄な凝固剤水溶液とを、適当な攪拌下において混合すると、時間の経過とともに徐々に球状の粒子が生成しはじめ、凝析系の粘度が上昇する。この凝析系の粘度が上昇した状態はしばらくの間継続し、ラテックスの大部分が球状の粒子に転化するとともに凝析系の粘度が低下し、いわゆる粉粒状物のスラリーとなる。このような粉粒状物を生成させるには、該共重合体ラテックスと凝固剤水溶液とを混合したときに適当な緩凝析状態にして緩やかな凝析速度が得られる条件下に調整することが不可欠であるが、この緩凝析に使用される凝固剤の量は、多層重合体ラテックスの組成、重合に使用した乳化剤、開始剤の種類、ラテックス中の電解質の量等により変動するが、第1段目の凝析(緩凝析)において凝析した重合体量を測定して決定できる。
【0036】
本発明に示される第1段目の緩凝析においてはラテックス重合体の70〜98重量%を凝析させる条件にすることが望ましい。この凝析量は緩凝析後のスラリーを東洋濾紙N0.131(JIS P3801の第3種)で濾過し、濾紙上の重合体量から換算して得ることができる。
【0037】
緩凝析において凝析したラテックス中の重合体量が70重量%未満では、その後の凝析完結時に未凝析ラテックスが急激に凝析してしまい、生成した粉粒状物の形状が不均一になり、また微粉も多く生成するようになり好ましくない。また、98重量%以上が凝析する条件では、凝析条件が強すぎ粒子径が不均一で得られるために好ましくない。
【0038】
本発明における凝析法で使用する凝固剤としては、有機酸、無機酸、無機塩、有機塩がそれぞれ単独で、あるいは組み合わせて用いられる。
【0039】
凝固剤として好ましく用いられる無機酸としては、塩酸、硫酸、リン酸等が、また有機酸としては酢酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。
【0040】
また、凝固剤として好ましく用いられる無機塩または有機塩としては1価から3価のカチオンを有する電解質が挙げられ、1価のカチオンを有するものとして塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩または、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、シュウ酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム等の有機塩が、2価のカチオンを有するものとして、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等の無機塩または、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム等の有機塩が、さらに、3価のカチオンを有するものとして硫酸アルミニウム等を挙げることができる。
【0041】
これら凝固剤種および濃度を適宜選択し、上記した70〜98重量%の凝析量が達成されるように緩凝析を行えばよい。
【0042】
多層重合体ラテックスと凝固剤水溶液との混合割合は、凝析時の造粒が円滑に行われる様に緩凝析後のスラリー濃度が5〜20重量%であることが望ましい。
【0043】
5重量%未満ではスラリー濃度が小さすぎるために球状粒子の生成が不十分になり粒度分布がブロードで、微粉の多い粉体粒子になる。一方、20重量%を越えると凝析時の粘度上昇が大きくなりすぎて均一な攪拌状態が得られにくくなり、粒度分布がブロードになり好ましくない。
【0044】
凝析温度は、目標とする粒子径および粒子径分布によって決定されるが、20〜100℃の範囲で選択して設定することが望ましい。20℃未満では通常の工業用水での冷却は得られにくく、特別な冷却装置が必要となる。一方、100℃以上の凝析温度も加圧装置を使用するなどして得ることは可能であるが、特別な設備が必要となり、エネルギーコストも多大になることから、凝析温度は100℃を超えないことが好ましく、より好ましくは30〜85℃である。
【0045】
この凝析温度は凝析剤の濃度や攪拌条件にも依存するが、最も大きな影響を及ぼす因子は多層重合体の性質である。従って、本発明の緩凝析が円滑に行われるためには多層重合体の構造が上記の通り適切な範囲にあることが重要になる。重合体の多層構造、各層を構成する共重合体のTgと凝析温度の関係を一般的に示すと、S重合体、H重合体のTgが低いほど凝析温度は低くなる。さらにS重合体の含有量が多くなるほど、S重合体の存在場所が多層重合体の表面層に多く存在する様になるほど凝析温度は低くなる。本発明の多層構造体ラテックスについて、最適凝析温度を決定するためには、多層重合体の最外層がH重合体の時はH重合体のTgより20℃低い温度、ラテックス粒子の最外層がS重合体の時はS重合体のTgより20℃高い温度を一つの目安として、予備的な凝析実験を実施し、得られた凝析粒子径が目標よりも小さい時は設定温度をより高く調整し、凝析粒子径が目標よりも大きい時は設定温度をより低く調整する方法を採用することが望ましい。
【0046】
なお最終的に得られる粉末重合体の粒径および粒径分布は、緩凝析工程後のスラリー中の重合体粒径でほぼ決定され、従って、凝析温度を含む緩凝析条件の決定は、最終的に得られる粉末重合体製品の平均粒子径(後述のd50)が80〜500μm、より好ましくは100〜300μm、粒径分布ファクター(後述のd50/d84)が1.3〜2.1、より好ましくは1.4〜1.9の範囲に入るように、予備実験等に基づいて決定することが望ましい。
【0047】
緩凝析後に、さらに凝固剤を用いて第2段目の凝析を行い、凝析を完結させる必要がある。この第2段目の凝析における凝析剤の適量は完全に未凝析ラテックスがなくなる状態から判断することができる。ここで、未凝析ラテックスを凝析するための第2段目の凝析では、凝固剤を緩凝析の凝固剤と同じものを用いる必要はなく、緩凝析より強い凝析条件を与えて、凝析が完結すれば別種の凝固剤でもよい。
【0048】
造粒が完結し、未凝析ラテックスが消失した後に、スラリーがアルカリ性を示すときは塩酸等で、スラリーが酸性を示すときは、水酸化ナトリウム等で中和を行っても良い。また、凝析粉粒物の粉体特性を改質する添加剤等も凝析操作のいずれかの段階で添加することができる。さらに、凝析した粉粒状物の凝析をより強固にし、乾燥後の粉体のかさ比重を高めるためには、スラリーを熱処理することが好ましいが、この熱処理温度は造粒で生成した粉粒状物が熱によって互いに融着しない範囲で決定される。例えば50〜100℃の温度が採用される。より具体的には、多層重合体中のH重合体のTg±10℃がおおよその目安となる。
【0049】
本発明における、凝析操作は、回分式、連続式のいずれによっても行うことが可能である。回分式では、単一の凝析槽ですべての操作を行っても良く、また、凝析完結後のスラリーを別の攪拌層に移してから中和あるいは熱処理以降の操作を行っても良い。さらに、連続式で該操作を行うときは、複数の攪拌槽を直列に配列し、第一の攪拌槽で緩凝析を行い、第二の攪拌槽で凝析を完結させてから、第三槽以降の攪拌槽で中和、熱処理等を行っても良い。熱処理後のスラリーを通常の方法により、脱水、乾燥を行うことで粉粒状重合体は回収される。
【0050】
【実施例】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、実施例に記載した物性の測定方法は以下の通りである。
(1)ラテックス粒子の平均粒子径
サブミクロン粒子径分析装置「コールターカウンターN4SD」(コールターエレクトロニクス社製)を用いて測定した。
(2)粉粒状物(粉末重合体)の平均粒子径
静電防止のためのカーボンブラック0.2gを添加した試料粉体20gを、JIS Z8801で規定するふるい(目開き850μm、500μm、355μm、300μm、250μm、212μm、150μm、106μm、45μm)を用いて外部振動を10分間加えて篩別し、各ふるい上の粉体量を測定する。その粉体量から粒度分布の累積分布曲線(目開き−累積量)を作成し、該曲線から得られる50重量%累積値の粒子径を平均粒子径d50とした。また、大なる粒径から小なる粒径へと累積して得られた84重量%累積値の粒子径d84、に対する平均粒子径の倍率を、粒度分布の目安としd50/d84で示した。d50/d84の数値が小さいほど分布がシャープである。
(3)共重合体の重量平均分子量測定
共重合体0.05gを5ccのテトラヒドロフランに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(島津製作所製「LC−6A」システムと、カラムとして昭和電工製「SHODEX KF−806L」)を用いて測定した。重量平均分子量はポリスチレン換算値である。
(4)粉粒状物のかさ比重
JIS−K−6721に記載のかさ比重測定器を用い測定した。
(5)粉立ち性
かさ比重測定時に流下する試料粉体の状態を目視観察し、次のランクに分類した。
A:粉立ちしない。
B:やや粉立ちする。
C:粉立ちが著しい。
(6)耐ブロッキング性
タブレット成型機に試料樹脂粉末0.5gを入れ、35℃に制御された恒温槽内で1.96MPaの圧力を2時間加えて、断面積1cm2のタブレットを成型する。木屋式硬度計を用い、このタブレットを破壊するに要した最小荷重(kg)を測定した。ランク分け、と概略評価を以下に示す。
−:耐ブロッキング性に優れ、タブレットが作成できない。
0〜1kg:耐ブロッキング性に優れる。
1〜2kg:やや耐ブロッキング性に劣る。
2kg以上:非常に耐ブロッキング性に劣る。
【0051】
(実施例1)
多層重合体ラテックスの製造:
攪拌機付き反応容器に、ピロリン酸四ナトリウム塩0.1重量部、硫酸第一鉄0.002重量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.003重量部、オレイン酸カリウム水溶液(15.5%)6.5重量部、イオン交換水200重量部を仕込み、窒素置換した後に、50℃に昇温した。この攪拌下の反応容器に、スチレン36重量部とアクリル酸ブチル24重量部の単量体混合物(1)と、n−オクチルメルカプタン1重量部との混合物に、t−ブチルハイドロパーオキサイド及びナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.36重量部ずつをそれぞれ添加し、50℃で3時間の乳化重合を行い軟質(S)共重合体ラテックス(a)を得た。(なお、t−ブチルハイドロパーオキサイド及びナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートは、いずれの場合も、単量体混合物100重量部に対して、それぞれ0.6重量部に相当する量を使用したので、以後の記載において、その量の記載は省略する。)この共重合体ラテックス(a)の存在下に、メタクリル酸メチル38重量部とアクリル酸ブチル2重量部の単量体混合物(2)及び相当量のt−ブチルハイドロパーオキサイドとナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートを添加し、50℃、3時間の第二層目の乳化重合を行い軟質/硬質(S/H)共重合体ラテックス(b)を得た。単量体混合物(1)を単独で重合して得られた共重合体の重量平均分子量は3万であり、また、単量体混合物(2)を単独で重合して得られた共重合体の重量平均分子量は30万であった。
共重合体ラテックス(b)の凝析:
攪拌機付きの凝析槽に凝析剤(I)として0.1%の塩酸水溶液600重量部を仕込み、80℃に昇温し、上記のS/H共重合体ラテックス(b)314重量部(樹脂分100重量部)を投入した。このときの凝析量は表2(1)に示す。さらに追加凝析剤(II)として2%の塩酸水100重量部を添加し、凝析を完結させた。凝析完結後、水酸化ナトリウムで中和し、次いでスラリー温度を95℃に昇温して熱処理した。この様にして得られたスラリーをろ過、水洗、脱水、乾燥することにより粉粒状物(A)を得た。(なお、凝析温度は、予備の実験により、凝析後において回収された粉粒状物の粒子径が100〜200μmとなる温度として定めた。)
(実施例2)
多層重合体ラテックスの製造:
重合に使用する乳化剤をラウリル硫酸ソーダ水溶液(20%)5重量部にし、単量体混合物(1)をメタクリル酸メチル18重量部とスチレン2重量部の単量体混合物、また、単量体混合物(2)をスチレン30重量部とアクリル酸ブチル20重量部の単量体混合物とし、n−オクチルメルカプタンを使用しないこと以外は実施例1と同様に乳化重合を行った。更にこの共重合体ラテックスにスチレン22.5重量部とアクリロニトリル7.5重量部の単量体混合物(3)及び相当量のt−ブチルハイドロパーオキサイドとナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートを同時に添加し、50℃、3時間の第三層目の乳化重合を行いH/S/H共重合体ラテックス(c)を得た。次いで、凝析の条件を表3に示すように変更し、中和を行わなかった以外は実施例1と同様にして共重合体ラテックス(c)を凝析し、粉粒状物(B)を得た。
【0052】
上記実施例1および2で得られた粉粒状物(A)、(B)は粒度分布が狭く、微粉が極めて少ない上に、耐ブロッキング性の優れた粉粒状物であった。
【0053】
(比較例1および2)
共重合体ラテックス(c)の緩凝析の条件を表3に示したように変更した以外は実施例2と同様にして凝析を行い、粉粒状物(C)、(D)を得た。その性状を表3に示した。粉粒状物(C)は緩凝析での未凝析ラテックスが多かったため、追加凝析剤の添加で急激に凝析して微粉と粗大粒子が混在した非常に分布が悪い粉粒状物となっている。一方、粉粒状物(D)は初めの緩凝析操作中に急激に凝析したために生成した粗大粒子を非常に多く含む。このことから、緩凝析時の凝析量を適当な範囲にすることが粒度分布に優れた粉粒状物を得るために必要であることがわかる。
【0054】
(実施例3)
重合に使用する乳化剤をN−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム(30%)5重量部にし、単量体混合物を表2に示したように変更した以外は実施例2と同様にして乳化重合を行いS/H/S共重合体ラテックス(d)を得た。この共重合体ラテックス(d)について、単量体混合物(1)と(3)をそれぞれ単独で重合したときの重量平均分子量は5万以下であり、単量体混合物(2)を単独で重合したときの重量平均分子量は30万以上であった。このラテックスに対し、凝析に使用する凝固剤の種類と濃度、凝析の条件を表3に示したように変更した以外は実施例2と同様に凝析し、粉粒状物(E)を得た。
【0055】
(比較例3)
重合に使用する乳化剤をN−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム(30%)5重量部にし、単量体混合物を表2に示したように変更し、n−オクチルメルカプタンを使用しないこと以外は実施例1と同様にして乳化重合を行いH/S共重合体ラテックス(e)を得た。このラテックスに対し、凝析に使用する凝固剤の種類と濃度、凝析の条件を表3に示したように変更し、熱処理温度を80℃に変更した以外は実施例1と同様に凝析し、粉粒状物(F)を得た。この場合、最外層にS重合体が多く存在しているために凝析操作中の熱により粗大粒子が生成してしまった。さらに、充分な熱処理温度が与えられないため、嵩比重が低く、耐ブロッキング性に劣る粉粒状物となっている。
【0056】
(実施例4)(比較例4〜6)
実施例2における単量体混合物を表2に示したように変更した以外は実施例2と同様にして乳化重合を行い共重合体ラテックス(f)〜(i)を得た。但し、単量体混合物(1)と(3)にモノマー重量部100重量部あたり1.7重量部のn−オクチルメルカプタンを混合して使用した。これら共重合体ラテックス(f)〜(i)は、単量体混合物(1)と(3)をそれぞれ単独で重合したときの重量平均分子量は5万以下であり、単量体混合物(2)を単独で重合したときの重量平均分子量は30万以上であった。これらのラテックスに対し、凝析に使用する凝固剤の種類と濃度、凝析の条件を表4に示したように変更し、比較例4、5、6の熱処理温度を、それぞれ60℃、80℃、80℃に変更した以外は実施例2と同様に凝析し、粉粒状物(G)〜(J)を得た。比較例3と同様に、S重合体が最外層に多く存在する比較例4および5の多層重合体から得られた粉粒状物(H)および(I)は、凝析条件の不適合により粗大粒子を生成した。
【0057】
(参考例)
実施例2における単量体混合物を表2に示す様に変更した以外は実施例2と同様にして乳化重合を行い、同一モノマー組成の共重合体の実質的に均質な3層構造を有する共重合体のラテックス(j)を得た。このラテックスに対し、凝析に使用する凝固剤の種類と濃度、凝析の条件を表4に示したように変更し、熱処理温度を65℃に変更した以外は実施例2と同様に凝析し、粉粒状物(K)を得た。均質構造の重合体ラテックスの場合、凝析での加熱でラテックス粒子全体が軟化してしまうために、目標とする平均粒子径を得ようとすると粗大粒子が生成してしまう。また、熱処理のために温度を上げようとすると、さらに粗大粒子が生成し、ブロック化まで起こってしまうため充分な熱処理温度を与えることができなかった。その結果、得られた粉体は粗大粒子を多く含む一方で、嵩比重が小さく、壊れやすい粒子となり、最終的には微粉も多く含んだ粉粒状物となった。
【0058】
上記実施例および比較例において得られた粉末重合体の粉体性状に関する評価結果をまとめて表3および4に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
【発明の効果】
上記表1〜4の結果を見れば明らかなように、本発明に従い特定の層構造を採用して、緩凝析を含む二段凝析操作と組合せることにより、高い濃度で軟質重合体を含む線状重合体ラテックスの緩凝析が円滑に進行して、粉立ちを起す微粉が少なく、粒度分布がシャープで且つ耐ブロッキング性に優れた粉末重合体が得られていることがわかる。
Claims (2)
- ガラス転移温度が40℃未満である線状重合体Sと、40℃以上のガラス転移温度を有する線状重合体Hとが計2層以上に積層した多層構造を有し、且つ線状重合体Sの含有量が全体として35〜75重量%含まれる多層重合体のラテックスAを形成し、次いで凝固剤を添加してラテックスAの多層重合体の70〜98重量%を緩凝析させた後、更に凝固剤を添加して凝析を完結させる粉末線状重合体の製造方法であって、多層重合体のラテックスAを、
(a)ガラス転移温度が40℃以上である線状重合体H1 0〜60重量部の存在下に、
(b)単独で重合して得られる重合体のガラス転移温度が40℃未満である単量体混合物を重合させて、線状重合体S 35〜75重量部を形成し、このH1およびSの存在下に、さらに
(c)単独で重合して得られる重合体のガラス転移温度が40℃以上である単量体混合物を重合させて線状重合体H2 5〜65重量部(但し、H1+S+H2=100重量部)を形成することにより得ることを特徴とする粉末線状重合体の製造方法。 - ガラス転移温度が40℃未満である線状重合体Sと、40℃以上のガラス転移温度を有する線状重合体Hとが計2層以上に積層した多層構造を有し、且つ線状重合体Sの含有量が全体として35〜75重量%含まれる多層重合体のラテックスAを形成し、次いで凝固剤を添加してラテックスAの多層重合体の70〜98重量%を緩凝析させた後、更に凝固剤を添加して凝析を完結させる粉末線状重合体の製造方法であって、多層重合体のラテックスAを
(a)ガラス転移温度が40℃未満である線状重合体S1 5〜75重量部の存在下に、
(b)単独で重合して得られる重合体のガラス転移温度が40℃以上である単量体混合物を重合させて線状重合体H 25〜65重量部を形成し、このS1およびHの存在下に、さらに
(c)単独で重合して得られる重合体のガラス転移温度が40℃未満である単量体混合物を重合させて線状重合体S2 0〜30重量部(但し、S1+H+S2=100重量部)を形成することにより得ることを特徴とする粉末線状重合体の製造方法。
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