定義
本明細書において記述されるアミノ酸残基は、「L」異性体にあることが好ましい。しかしながら、所望の機能がポリペプチドによって保持される限り、任意のL−アミノ酸残基を「D」異性体の残基で置き換えることができる。NH2は、ポリペプチドのアミノ末端に存在する遊離アミノ基を指す。COOHは、ポリペプチドのカルボキシ末端に存在する遊離カルボキシ基を指す。
本明細書において定義される「単離された」とは、その元の環境から取り出されている材料であって、すなわちその自然な状態から「人の手で」変えられた材料をいう。
本明細書において定義される場合、「遺伝子」とは、ポリペプチド鎖の産生に関与しているDNAのセグメントであり、これにはコード領域に先行する領域およびそれに続く領域、ならびに個々のコードセグメント(エクソン)間の介在配列(イントロン)が含まれる。
本明細書において用いられる場合、「タンパク質マーカー」とは、細胞のまたは場合により特異的な細胞タイプの原形質膜に特有の任意のタンパク質分子を意味する。
本明細書において用いられる場合、「富化された」とは、混合物からの望ましくない材料の排除または望ましい材料の選択および分離によって1以上の材料の量を選択的に濃縮するかまたは増大させる(すなわち、特異的な細胞マーカーを有する細胞を、集団内の全ての細胞が該マーカーを発現しているわけではない不均質な細胞集団から分離する)ことを意味する。
本明細書において用いられる場合、用語「実質的に精製された」とは、特定のマーカーまたはマーカーの組み合わせについて実質的に均質な細胞の集団を意味する。実質的に均質なとは、特定のマーカーまたはマーカーの組み合わせについて少なくとも90%、好ましくは95%均質なことを意味する。
本明細書において用いられる場合、用語「モノクローナル抗体ライブラリー」とは、独特の羊膜由来細胞タンパク質マーカーを同定するのにまたは実質的に精製された羊膜由来細胞の集団を作出するのに有用な少なくとも1種のモノクローナル抗体の集団を意味する。本明細書において定義される場合、「〜に特異的な」とは、抗体が羊膜由来細胞に特異的に結合するが、胚性幹細胞、間充織幹細胞または成体由来幹細胞に結合しないことを意味する。
本明細書において用いられる用語「胎盤」とは、早期と末期の両方の胎盤を意味する。
本明細書において用いられる場合、用語「全能細胞」とは、以下の意味を有するものとする。哺乳動物において、全能細胞は成体中の任意の細胞タイプ;胚体外膜(例えば、胎盤)の任意の細胞タイプになる可能性を有する。全能細胞は受精卵であり、その卵割によって生み出されるおおよそ最初の4細胞である。
本明細書において用いられる場合、用語「多能性幹細胞」とは、以下の意味を有するものとする。多能性幹細胞は、体内の任意の分化細胞を作り出す可能性を持った真の幹細胞であるが、栄養膜に由来する胚体外膜の成分を作り出すことには寄与することができない。羊膜は、栄養膜ではなく、胚盤葉上層から発生する。3種の多能性幹細胞、つまり胚性幹(ES)細胞(霊長類では全能性でもありうる)、胚性生殖(EG)細胞、および胚性癌腫(EC)細胞が今日までに確認されている。これらのEC細胞は奇形腫、つまり胎児の性腺に時折生じる腫瘍から単離することができる。他の2種とは異なり、それらは、通常、異数体である。
本明細書において用いられる場合、用語「多分化能」幹細胞は、真の幹細胞であるが、限定された数の種にしか分化できない。例えば、骨髄には、血液の全ての細胞をもたらすが、その他の細胞タイプに分化できない多分化能幹細胞が含まれる。
「羊膜由来細胞」とは、胎盤の羊膜に由来する細胞の集団である。支持細胞層なしで成長する羊膜由来細胞は、タンパク質テロメラーゼを発現せず、非腫瘍形成性である。羊膜由来細胞は、造血幹細胞マーカーCD34タンパク質を発現しない。この集団内にCD34陽性細胞が存在しないことで、単離物に臍帯血または胎児線維芽細胞などの造血幹細胞が混入していないことが示唆される。実質的に100%の細胞が低分子量サイトケラチンに対する抗体と反応することで、その上皮性が確認される。新鮮単離羊膜由来細胞は、幹/前駆細胞マーカーのc−kitおよびThy−1に対する抗体と反応しないであろう。満期または早期の胎盤から細胞を得るのに使われるいくつかの手順は、当技術分野において公知である(例えば、US2004/0110287;Anker et al., 2005, Stem Cells 22:1338-1345; Ramkumar et al., 1995, Am. J. Ob. Gyn. 172:493-500を参照のこと)。しかしながら、本明細書において用いられる方法では、改善された細胞の集団および組成物を提供する。
本明細書において用いられる用語「胎盤由来細胞の組成物」とは、本出願においてならびにUS2003/0235563、US2004/0161419、US2005/0124003、米国特許仮出願第60/666,949号、同第60/699,257号、同第60/742,067号および米国特許出願第11/333,849号において記述される細胞および組成物を含み、それらの内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
本明細書において記述される組成物、成長条件、培地などをいう場合の用語「動物質を含まない」とは、天然のまたは組換えにより産生されたヒトタンパク質のような、ヒト材料以外の、動物由来血清のような、動物由来材料が調製、成長、培養、増殖、もしくは組成物の配合またはプロセスで使用されないことを意味する。
羊膜由来細胞組成物に関連して、用語「増殖させた」とは、羊膜由来細胞集団が、以前の方法を用いて得られるよりもはるかに高い濃度の多分化能細胞を構成することを意味する。増殖させた組成物での羊膜組織1グラムあたりの多分化能細胞のレベルは5回継代後の初代培養物での細胞数よりも、以前の方法によるそのような細胞での約20倍の増大に比べて、少なくとも50倍および最大150倍まで高い。したがって、「増殖させた」集団は、以前の方法に比べて羊膜組織1グラムあたりの細胞数が少なくとも2倍、および最大10倍まで改善している。用語「増殖させた」とは、人が介入して羊膜由来細胞の割合を上昇させている状況しか網羅しないことを意味する。本明細書において用いられる「継代(passage)」または「継代処理(passaging)」とは、細胞の副次培養をいう。例えば、羊膜から単離された細胞は初代細胞といわれる。そのような細胞は、本明細書において記述される成長培地中での成長によって培養で増殖される。そのような初代細胞が副次培養される場合、各ラウンドの副次培養が継代といわれる。本明細書において用いられる場合、「初代培養物」とは、新鮮単離羊膜由来細胞集団を意味する。
本明細書において用いられる「馴化培地」とは、特定の細胞または細胞の集団を培養した後に取り出された培地である。細胞が培地中で培養される場合、それらは、他の細胞の挙動に支持を与えるかまたは影響しうる細胞因子を分泌することができる。そのような因子はホルモン、サイトカイン、細胞外マトリックス(ECM)、タンパク質、小胞、抗体、および顆粒を含むが、これらに限定されることはない。細胞因子を含有する培地は馴化培地である。馴化培地を調製する方法の例は米国特許第6,372,494号に記述されており、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において用いられる場合、馴化培地は、馴化培地からまたは羊膜由来細胞から回収されるおよび/または精製される、タンパク質などの成分もいう。
本明細書において用いられる用語「溶解物」とは、羊膜由来細胞が溶解されて、細胞残屑(例えば、細胞膜)が除去された場合に得られる組成物をいう。これは機械的手段により、凍結融解により、EDTAなどの、界面活性剤の使用により、または、例えば、ヒアルロニダーゼ、ディスパーゼ、プロテアーゼ、およびヌクレアーゼを用いた酵素消化により達成することができる。
本明細書において用いられる場合、用語「基材」とは、表面上の規定のコーティングであって、細胞がそれに付着する、その上で成長する、および/またはその上を移動するものを意味する。本明細書において用いられる場合、用語「マトリックス」とは、その中でまたはその上で細胞が成長する、その成分が知られているか、または知られていない物質を意味する。マトリックスは、生物学的および非生物学的な物質の両方を含む。本明細書において用いられる場合、用語「足場」とは、3次元(3D)構造(基材および/またはマトリックス)であって、その中でまたは上で細胞が成長するものを意味する。それは生物学的成分、合成成分またはその両方の組み合わせから構成されてもよい。さらに、それは細胞によって自然に構築されてもまたは人為的に構築されてもよい。さらに、足場は、適切な条件の下で生物学的活性を有する成分を含むことができる。
用語「移植」とは、ヒトまたはその他の動物への未分化、部分的分化、または完全分化形態での組成物の投与をいう。
本明細書において用いられる場合、用語「製薬上許容される」とは、治療剤に加えて、配合物を含む成分が本発明によって処置される患者への投与に適していることを意味する。
本明細書において用いられる用語「肝疾患」とは、肝硬変、α1−アンチトリプシン欠乏症およびオルニチン(omithine)トランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症などの、肝臓の代謝性疾患、アルコール性肝炎、慢性肝炎、原発性硬化性胆管炎、α1−アンチトリプシン欠乏症ならびに肝癌を含むが、これらに限定されない。本明細書において用いられる場合、用語「膵疾患」とは、膵臓癌、インスリン依存性(1型)糖尿病(IDDM)およびインスリン非依存性(2型)糖尿病(NIDDM)などのインスリン欠乏性障害、C型肝炎感染症、外分泌および内分泌膵臓疾患を含むことができるが、これらに限定されない。本明細書において用いられる場合、用語「神経学的疾患」とは、体内の神経組織の全統合系、つまり大脳皮質、小脳、視床、視床下部、中脳、橋、髄質、脳幹、脊椎、脳幹神経節および末梢神経系における任意の欠陥と関連する疾患または状態をいう。本明細書において用いられる場合、用語「血管疾患」とは、ヒト血管系の疾患をいう。本明細書において用いられる場合、用語「心疾患」または「心機能異常」とは、心臓のポンプ機能の任意の障害から生じる疾患をいう。用語「心筋症」とは、心臓が異常に肥大している、肥厚しているおよび/または硬化している心筋(心臓筋肉)の任意の疾患または機能異常をいう。
本明細書において用いられる場合、用語「肝細胞」とは、肝臓から得られる上皮細胞の特徴を有する細胞をいう。本明細書において用いられる場合、用語「膵細胞」とは、グルカゴン、インスリン、ソマトスタチン、および/または膵ポリペプチド(PP)を産生する細胞を指すために用いられる。好ましい膵細胞は、ホメオボックス転写因子Nkx−2.2、グルカゴン、ペアードボックス遺伝子6(Pax6)、膵内十二指腸ホメオボックス1(PDX1)、およびインスリンなどの、膵細胞特異的なマーカーが陽性である。本明細書において用いられる場合、用語「血管内皮細胞」とは、血管反応性の調節ならびに血漿液およびタンパク質に対する半透性障壁の供給を含めて血管内皮細胞に特有の不可欠な生理学的機能を示す内皮細胞をいう。本明細書において用いられる場合、用語「心筋細胞」とは、自発的に拍動しうるかまたはカルシウム濃度変化(カルシウムイメージングによって測定可能な細胞内カルシウム濃度の絶え間ない変化)を示しうる心臓の筋肉細胞をいう。本明細書において用いられる場合、用語「神経系細胞」とは、ニューロンの必須機能を示す細胞、ならびにグリア細胞(星状膠細胞および乏突起膠細胞)をいう。
本明細書において用いられる場合、用語「組織」とは、特定機能の遂行で結びつけられている同様に特殊化した細胞の集合体をいう。
本明細書において用いられる場合、用語「治療用タンパク質」とは、成長因子、酵素、ホルモン、サイトカイン、サイトカインインヒビター、血液凝固因子、ペプチド成長因子および分化因子を含むが、これらに限定されない、幅広い生物学的に活性なタンパク質を含む。
本明細書において用いられる場合、「膵臓」とは、脾臓と十二指腸との間の、胃の後方に横向きに位置している大きな、細長い胞状腺を一般に意味する。膵臓の外分泌機能、例えば、外分泌は消化酵素源をもたらす。これらの細胞は、トリプシノーゲン、キモトリプシノーゲン、カルボキシペプチダーゼ、リボヌクレアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、トリアシルグリセロールリパーゼ、ホスホリパーゼA2、エラスターゼ、およびアミラーゼなどの消化酵素を合成し、分泌する。膵臓の内分泌部分はランゲルハンス島を含む。ランゲルハンス島は、膵外分泌腺内に包埋された丸みのある細胞球状物のように見える。異なる4種類の細胞、つまりα、β、δ、およびφ細胞がランゲルハンス島で同定されている。α細胞は、膵島に見出される細胞の約20%を構成しており、ホルモンであるグルカゴンを産生する。グルカゴンはいくつかの組織に作用して、摂食の合間に利用可能なエネルギーを作り出す。肝臓において、グルカゴンは、グリコーゲンの分解を引き起こし、アミノ酸前駆物質からの糖新生を促進する。δ細胞は、膵臓内で作用してグルカゴンの放出を阻害し、かつ膵外分泌を減らすソマトスタチンを産生する。ホルモンである膵ポリペプチド(PP)はφ細胞において産生される。このホルモンは重炭酸塩および酵素の膵外分泌を阻害し、胆嚢の弛緩を引き起こし、胆汁分泌を減らす。細胞の60〜80%を構成する、膵島中で最も豊富な細胞は、β細胞であり、この細胞はインスリンを産生する。インスリンは、摂食の間におよびその直後に生じる過剰な栄養物の貯蔵をもたらすことが知られている。インスリンの主な標的器官は、エネルギーの貯蔵に特化した肝臓、筋肉、および脂肪性器官である。本明細書において用いられる用語「膵管」とは、副膵管、背側膵管、主膵管および腹側膵管、小葉間膵管、ならびに小葉間膵管を含む。
本明細書において用いられる場合、用語「クラスタ化させた羊膜由来細胞組成物」とは、細胞の少なくとも50%および最大約95%までがクラスタを形成している羊膜由来細胞組成物をいう。
本明細書において定義される「膵前駆細胞」とは、膵臓系統の細胞、例えば、膵細胞によって通常産生されるホルモンまたは酵素を産生できる細胞に分化できる細胞である。例えば、膵前駆細胞は、少なくとも部分的に、α、β、δ、もしくはφ膵島細胞、または外分泌腺のの運命を有する細胞に分化する。本発明の方法によれば、本発明の膵前駆細胞は、被験体への投与の前に、細胞増殖および/または分化を促進する条件の下で培養することができる。これらの条件は細胞を、in vitroで増殖させ、その時に細胞が擬似膵島様球状物を形成し、インスリン、グルカゴン、およびソマトスタチンを分泌しうるように培養することを含むが、これに限定されることはない。本明細書において用いられる用語「膵島様細胞」とは、成熟した膵島に存在する細胞タイプ(α、β、γまたはδ)のうちの1つの特徴の必ずしも全てではないがそのいくらかを有することを意味する。膵島様細胞は、以下の膵内分泌細胞ホルモンの1つだけを発現するであろう:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ポリペプチド。本明細書において定義される用語「膵島様構造物」とは、膵島様細胞を含有する構造物である。膵島様構造物とは、本発明の方法から得られた細胞球状物であって、膵臓α、β、δまたはφ細胞の外観と、その機能の両方を呈するものをいう。それらの協調的機能には、グルコースに対する応答能が含まれる。
本明細書において用いられる場合、用語「球状物」とは、懸濁培養での多細胞クラスターを意味する。本明細書において用いられる用語「芽状突起」とは、球状物の表面の群への球状物内の一部の細胞の分離を意味する。
本明細書において用いられる「生殖細胞」とは、胚生殖細胞、成体生殖細胞およびそれらが生み出す細胞(すなわち、卵母細胞および精子)を意味する。
本明細書において用いられる場合、「クローニング」とは、卵母細胞と、クローン化される対象の別の動物の核酸配列または核内に含まれる遺伝情報の組み合わせから生じる動物の作出をいう。ドナーゲノムを持った結果的に得られる卵母細胞は、本明細書において「核移植細胞」(nuclear transfer cell)といわれる。クローン化動物は、クローン化される対象の動物のものと実質的に同じまたは同一の遺伝情報を有する。「クローニング」とは、別の動物の核酸配列または核由来の遺伝情報を含有する卵母細胞の作出を含んだ、細胞のクローニングもいうことができる。この場合もやはり、ドナーゲノムを持った結果的に得られる卵母細胞は、本明細書において「核移植細胞」といわれる。
本明細書において用いられる用語「移植」とは、ヒトまたはその他の動物への未分化、部分的分化、または完全分化形態にある細胞を含む組成物の投与をいう。
本明細書において用いられる「処置」(治療)とは、哺乳動物、特にヒトの疾患もしくは状態の任意の処置を網羅し、以下のステップを含む:(a)疾患もしくは状態の素因を持ちうるが、それを有すると診断されていない被験体において疾患もしくは状態が生じるのを予防するステップ;(b)疾患もしくは状態を阻害するステップ、すなわち、その進行を阻止するステップ;または(c)疾患もしくは状態を軽減するステップ、すなわち、疾患もしくは状態の退行を引き起こすステップ。本発明の方法によって処置される被験体の集団は、望ましくない状態または疾患に苦しむ被験体、および該状態または疾患の発現の危険性がある被験体を含む。
「創傷」とは、機械的損傷、熱傷、および切開傷などの外傷;外科手術およびこれに伴う切開創ヘルニアなどの選択的損傷;急性創傷、慢性創傷、感染した創傷、および無菌的創傷、ならびに病状と関連する創傷(すなわち、糖尿病性神経障害によって引き起こされる潰瘍)を含むがこれらに限定されない、正常な生体構造の、原因のいかんを問わない、いずれかの破壊である。創傷は動的であり、治癒のプロセスは連続性であって、これは創傷時に始まり、安定な瘢痕への到達を経て初期の創傷閉鎖の後も進行する、一連の統合され、相互に関連付けられた細胞プロセスを必要とする。これらの細胞プロセスは、サイトカイン、リンホカイン、成長因子、およびホルモンを含むがこれらに限定されない体液性物質によって仲介されまたは調節される。本発明によれば、「創傷治癒」とは、何らかの形の介入によって、治癒が早くなるように、および/または生じた治癒部に傷跡が少なくなるようにおよび/または創傷部が無傷組織のものに近い組織抗張力を保有するように生来の細胞プロセスおよび体液性物質を改善することをいう。
さらなる用語の定義は、以下の略語表に記載されている。
詳細な説明
本発明によれば、当技術分野の技能の範囲内の慣行的な分子生物学、微生物学、および組換えDNA技術を利用することができる。そのような技術は文献のなかで十分に説明されている。例えば、Sambrook et al, 2001, “Molecular Cloning: A Laboratory Manual”; Ausubel, ed., 1994, “Current Protocols in Molecular Biology” Volumes I-III; Celis, ed., 1994, “Cell Biology: A Laboratory Handbook” Volumes I-III; Coligan, ed., 1994, “Current Protocols in Immunology" Volumes I-III; Gait ed., 1984, "Oligonucleotide Synthesis"; Hames & Higgins eds., 1985, "Nucleic Acid Hybridization"; Hames & Higgins, eds., 1984, "Transcription And Translation"; Freshney, ed., 1986, "Animal Cell Culture"; IRL Press, 1986, "Immobilized Cells And Enzymes"; Perbal, 1984, "A Practical Guide To Molecular Cloning"を参照されたい。
ある範囲の値が与えられる場合、その範囲の上限と下限との間に入る値(文脈上明確に他の指定のない限り下限値の単位の10分の1まで)およびその記載されている範囲の中のその他任意の記載されているか間に入る値が本発明の範囲内に包含されることが理解されよう。それぞれ独立により小さい範囲内に含まれてもよいこれらのより狭い範囲の上限および下限値は同様に、記載されている範囲において特に除外された限界値を条件として、本発明の範囲内に包含される。記載されている範囲が一方または両方の限界値を含む場合、これらの含まれる限界値をいずれも排除した範囲も本発明の中に含まれる。
特に定義しない限り、本明細書において用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者により普通に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書において記述されるものと同じかまたは同等の任意の方法および材料を本発明の実施または試験において使用することもできるが、好ましい方法および材料をこれから記述する。
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられる場合、単数形「1つの」、「および(ならびに)」および「その(該)」は、文脈上明確に他の指定のない限り複数の言及を含むことに留意しなければならない。
羊膜由来細胞組成物の製造
本発明によれば、羊膜由来細胞組成物は(a)胎盤からの羊膜の回収のステップ、(b)羊膜からの細胞の解離のステップ、(c)天然由来のまたは組換えにより産生されたヒトタンパク質の入った基礎培地中での細胞の培養のステップ;ならびに任意で(d)付加的な添加物および/または成長因子を用いた細胞のさらなる増殖のステップを用いて調製される。
羊膜の回収− 本発明の羊膜由来細胞組成物を得るうえでの最初のステップは、胎盤からの細胞の回収である。一般に、胎盤は出産後に可能な限り早く処理される。好ましい実施形態において、胎盤は出産の4時間以内に処理される。胎盤を冷蔵するなら、または羊膜をはぎ取って、冷蔵するなら、回収は最大36時間までのうちに行うことができる。使われる胎盤は、満期または早期の胎盤とすることができる。満期または早期の胎盤から細胞を得るのに使われるいくつかの手順は、当技術分野において公知である(例えば、US2004/0110287; Anker et al., 2005, Stem Cells 22:1338-1345; Ramkumar et al., 1995, Am. J. Ob. Gyn. 172:493-500を参照のこと)。しかしながら、本明細書において用いられる方法によっては、改良された該細胞の集団および組成物が得られる。
無菌条件の下で羊膜を絨毛膜から手作業ではぎ取り、添加物なしのハンクス平衡塩溶液(HBSS)の中に入れる。これは室温で行われることが好ましい。この膜をHBSS中で少なくとも3回洗浄し、必要ならばさらに洗浄して、残存する血塊を除去する。血液がそれでも大量に混入している組織は切り取って、廃棄する。
羊膜細胞の分散− かかる膜を分散用試薬とともにインキュベートする。これを少なくとも1回および10回ほども行う。いくつかの実施形態において、分散用試薬はプロテアーゼである。好ましい実施形態において、プロテアーゼはプロテアーゼXXIII(Sigma;1mg/ml)である。他の実施形態において、分散用試薬はトリプシン±EDTA、パパイン、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼ、I型、II型、III型、およびIV型コラゲナーゼ、DNase、Ca2+およびMg2+を含まないPBS、EDTA、EGTA、ディスパーゼ、コラゲナーゼ・ディスパーゼ、Tryple(Gibco)、コラゲナーゼ、ならびにディスパーゼを含むが、これらに限定されることはない。
実質的に精製された羊膜由来細胞集団の特徴付け、同定、単離および作出
公知の幹細胞マーカーに対する市販の抗体を用いて、新鮮単離羊膜由来細胞を十分に特徴付けた。実施例7に記載されるように、新鮮単離羊膜由来細胞はCD90およびCD117に関して実質的に精製されている。さらに、そのような集団はCD34、CD44、CD45、CD140b、CD105のタンパク質発現について本質的に陰性であり、CD9およびCD29のタンパク質発現について本質的に陽性であり、SSEA4、CD10、CD166およびCD227のタンパク質発現について約70〜95%陽性であり、HLA−G、EGFRおよびCD26のタンパク質発現について約60〜95%陽性であり、ならびにCD71のタンパク質発現について約10〜50%陽性である。
代替的な実施形態において、実質的に精製された羊膜由来細胞集団は、羊膜由来細胞の細胞表面に発現されるタンパク質マーカー(陽性選択)または発現されないタンパク質マーカー(陰性選択)に対する抗体を用いて作出することができる。例えば、以下の実施例8では、いかに抗体を使って実質的に精製された集団を作出できるかを実証している。これらの抗体は、さまざまな方法を用いて、それらのタンパク質マーカーを発現しているそのような実質的に精製された羊膜由来細胞集団を同定し、特徴付け、単離しまたは作出するために使用することができる。そのような手順は、抗タンパク質マーカー抗体を含有するカラムにサンプル細胞を通すことまたは電磁ビーズに結合した該タンパク質マーカー抗体との細胞の結合によるまたはタンパク質マーカー抗体でコーティングされたプレートでのパニングおよび結合した細胞の回収によるなどの、陽性選択を含むことができる。あるいは、単一の細胞懸濁液を、羊膜由来細胞タンパク質マーカーに免疫特異的に結合する1以上の蛍光標識抗体に曝露してもよい。適切な抗体とのインキュベーション後、羊膜由来細胞をバッファー中で洗って、未結合の抗体を除去する。該タンパク質マーカーを発現している羊膜由来細胞を次に、例えば、Becton Dickinson FACStarフローサイトメーターを用いて蛍光活性化細胞選別(FACS)により選別することができる。所望のタンパク質マーカーを発現している実質的に精製された羊膜由来細胞集団を作出するため、細胞を複数ラウンドのFACS選別に供することができる。
さらに、羊膜由来細胞の表面に発現されていないタンパク質マーカーを同様に、それらのマーカーを発現していない羊膜由来細胞の集団を同定し、単離しまたは作出するために使用することができる。そのような手順は、抗タンパク質マーカー抗体を含有するカラムにサンプル細胞を通すことまたは電磁ビーズに結合した該タンパク質マーカー抗体との細胞の結合によるかまたはタンパク質マーカー抗体でコーティングされたプレートでのパニングおよび未結合の細胞の回収によるなどの、陰性選択法を含むことができる。あるいは、単一細胞懸濁液を、該タンパク質マーカーに免疫特異的に結合する1以上の蛍光標識抗体に曝露してもよい。適切な抗体とのインキュベーション後、該細胞をバッファー中で洗って、未結合の抗体を除去する。該タンパク質マーカーを発現している細胞を次に、例えば、Becton Dickinson FACStarフローサイトメーターを用いて蛍光活性化細胞選別(FACS)により選別することができ、これらの細胞を除去することができる。抗体に結合しない残りの細胞をその後、回収することができる。所望のタンパク質マーカーを発現していない実質的に精製された羊膜由来細胞集団を作出するため、上記のように細胞を複数ラウンドのFACS選別に供することができる。
本発明はさらに、本明細書において記述される羊膜由来細胞タンパク質マーカーまたは羊膜由来細胞に対する新規の抗体を意図する。該抗体は、例えば、診断的用途における羊膜由来細胞タンパク質マーカーの検出に有用である。羊膜由来細胞または羊膜由来細胞タンパク質マーカーに対するモノクローナル抗体の調製の場合、培養中の連続する細胞株による抗体分子の産生をもたらす任意の技術を使用することができる。例えば、モノクローナル抗体の産生のための種々のプロトコルをMonoclonal Antibody Protocols, Margaret E. Shelling, Editor, Humana Press; 2nd edition (March 15, 2002)の中に見出すことができる。さらに、もとはKohlerおよびMilstein(1975, Nature 256:495-497)が開発したハイブリドーマ技術のほかに、トリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor et al., 1983, Immunology Today 4:72)、およびヒトモノクローナル抗体を産生するためのEBVハイブリドーマ技術(Cole et al., 1985,”Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy”, Alan R. Liss, Inc.中のpp. 77-96)なども本発明の範囲内である。
モノクローナル抗体はヒトモノクローナル抗体またはキメラヒト・マウス(もしくは他種の)モノクローナル(trionoclonal)抗体とすることができる。ヒトモノクローナル抗体は、当技術分野において公知の多くの技術のいずれかにより作出することができる(例えば、Teng et al., 1983, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 80:7308-7312; Kozbor et al., 1983, Immunology Today 4:72-79; Olsson et al., 1982, Meth. Enzymol. 92:3-16)。マウス抗原結合ドメインをヒト定常領域とともに含有するキメラ抗体分子を調製することができる(Morrison et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81:6851, Takeda et al., 1985, Nature 314:452)。
当技術分野において公知のさまざまな手順を、本明細書において記述される羊膜由来細胞タンパク質マーカーまたは羊膜由来細胞のエピトープに対するポリクローナル抗体の産生に使用することができる。抗体の産生のため、ウサギ、マウスおよびラットを含むがこれらに限定されない、さまざまな宿主動物を羊膜由来細胞もしくは羊膜由来細胞タンパク質マーカー、またはその断片もしくは誘導体の注射によって免疫することができる。免疫応答を高めるため、宿主動物種に応じて、フロイント(完全および不完全)アジュバント、水酸化アルミニウムなどのミネラルゲル、リゾレシチンなどの界面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油エマルジョン、キーホール・リンペット・ヘモシアニン、ジニトロフェノール、ならびにBCG(カルメットゲラン桿菌)およびコリネバクテリウム・パルブム(Corynebacterium parvum)などの潜在的に有用なヒトアジュバントを含むがこれらに限定されない、さまざまなアジュバントを使用することができる。
選択された羊膜由来細胞または羊膜由来細胞タンパク質マーカーエピトープに対する抗体の分子クローンは、公知の技術により調製することができる。モノクローナル抗体分子、またはその抗原結合領域をコードする核酸配列を構築するため、組換えDNA法(Sambrook et al, 2001, “Molecular Cloning: A Laboratory Manual”; Ausubel, ed., 1994, “Current Protocols in Molecular Biology” Volumes I-III)を使用することができる。
本発明は抗体分子およびそのような抗体分子の断片を提供する。分子のイディオタイプを含む抗体断片は、公知の技術により作出することができる。例えば、そのような断片は、抗体分子のペプシン消化により産生されうるF(ab’)2断片、F(ab’)2断片のジスルフィド架橋の還元により作出されうるFab’断片、ならびに抗体分子をパパインおよび還元剤で処理することにより作出されうるFab断片を含むが、これらに限定されることはない。別の抗体断片は一本鎖Fv(scFv)であり、これは軽鎖のV領域に合成ペプチドのストレッチによって連結された重鎖のV領域のみを有する切断Fabである。例えば、Cambridge Antibody Technology Limitedに譲渡された米国特許第5,565,332号;同第5,733,743号;同第5,837,242号;同第5,858,657号;および同第5,871,907号を参照されたく、これらは参照により本明細書に組み入れられる。抗体分子は公知の技術、例えば、免疫吸着または免疫親和性クロマトグラフィー、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)などのクロマトグラフ法、またはその組み合わせによって精製することができる。
増殖させた羊膜由来細胞集団
本明細書において記述されるように、出願人らは多能性羊膜由来細胞の単離および増殖のための新規の方法を発見した。そのような方法は、多能性細胞を増殖させた羊膜由来細胞組成物をもたらし、それにより、初めて、治療的細胞移植を可能とするのに十分な量の細胞を提供する。本発明によって作出される、増殖させた羊膜由来細胞組成物は、羊膜組織1グラムあたりの多能性細胞のレベルが、5回継代後に、以前の方法による約20倍に比べて、少なくとも50倍および最大150倍まで高い組成物である。
加えて、細胞培養および増殖に使われる方法では、動物質を含まない系において、該細胞、および胚性幹細胞を含むが、これに限定されない、その他の多能性細胞を培養する手段を提供する。さらに、記述の培養条件では、生存するのに培養表面との付着にあまり依存しない細胞を提供し、すなわち効率的なスケールアップに向けて懸濁培養を用いた細胞の増殖を可能にする。
本明細書において記述される増殖させた羊膜由来細胞組成物は、高い増殖能を示し、未分化細胞においてのみ発現されることが知られている特定の遺伝子(すなわち、NanogおよびOct−4)を発現し、全3種の胚生殖細胞層(内胚葉、外胚葉および中胚葉)から通常発生する細胞タイプに分化することができる。この分化能から、これらの増殖させた羊膜由来細胞がさまざまな細胞タイプに寄与しうる可能性が示唆される。本明細書において記述される羊膜由来細胞組成物は、胚性幹細胞(ES細胞)を含むがこれに限定されない、さまざまな細胞タイプの成長用の支持細胞層としても有用である。本明細書において記述されるものを含めて、羊膜由来細胞は同様に、多種多様なサイトカインおよび成長因子を産生し、それによって傷跡を残さない治癒を含め、迅速かつ効果的な創傷治癒を達成するのに有用な、および化粧品において、すなわち皮膚外観の改善を達成するのにも有用な細胞組成物、該細胞に由来する馴化培地、その細胞溶解物、該細胞によって産生される細胞外マトリックス、およびその組み合わせをもたらす。
羊膜細胞の培養− 該細胞は基礎培地中で培養される。そのような培地は、Epilife(Cascade Biologicals)、Opti−pro、VP−SFM、IMDM、Advanced DMEM、K/O DMEM、293 SFM II(全てGibco;Invitrogen製)、HPGM、Pro 293S−CDM、Pro 293A−CDM、UltraMDCK、UltraCulture(全てCambrex製)、Stemline IおよびStemline II(ともにSigma−Aldrich製)、DMEM、DMEM/F−12、ハムF12、M199、ならびにその他の類似の基礎培地を含むが、これらに限定されることはない。そのような培地はヒトタンパク質を含有するべきであり、またはヒトタンパク質を添加されるべきである。本明細書において用いられる「ヒトタンパク質」とは、天然に産生されるものまたは組換え技術を用いて産生されるものである。「ヒトタンパク質」とは、ヒトタンパク質を含んだ、ヒト血清または羊水などの、ヒト体液またはその派生物もしくは調製物を含むことも意図される。好ましい実施形態において、基礎培地はStemline IもしくはII、UltraCulture、またはOpti−pro、あるいはその組み合わせであり、ヒトタンパク質は少なくとも0.5%および最大10%までの濃度のヒトアルブミンである。特定の実施形態において、ヒトアルブミン濃度は約0.5〜約2%である。ヒトアルブミンは液体または乾燥(粉末)形態によってもたらされてもよく、組換えヒトアルブミン、プラスブミン(plasbumin)およびプラスマネート(plasmanate)を含むが、これらに限定されることはない。
最も好ましい実施形態において、該細胞は、異物混入を回避するために動物由来成分を含まない系を用いて培養される。この実施形態において、培地は、ヒトアルブミン(プラスブミン)を最大10%の濃度まで加えたStemline IもしくはII、Opti−pro、またはDMEMである。あるいは、ヒト組換えトランスフェリンとのトランスフェリンの置換、および最大10%までの濃度のヒトアルブミンとのウシアルブミン(BSA)の交換とともに、UltraCultureが使われてもよい。本発明はさらに、動物由来タンパク質が組換えヒトタンパク質と交換され、BSAなどの、動物由来血清がヒトアルブミンと交換されている上記の基礎培地のいずれかの使用を企図する。好ましい実施形態において、該培地は動物由来成分を含まないことに加えて、血清を含まない。
さらに、本明細書において記述される培養条件では、球状物と呼ばれる細胞の3次元クラスタの形成、つまり例えば、膵島細胞、神経系統および心臓細胞への分化の可能性を促進しうる特性をもたらす。そのような組成物は、最大10%までのレベルのヒトアルブミン、プラスマネートまたはプラスブミンの添加とともにOpti−pro SFM、VP−SFM、Iscove’s MDM、HPGM、UltraMDCK、Stemline IIおよびStemline I、DMEM、ならびにDMEM:F12からなる群より選択される基礎培地を用いて上記のように調製される。
代替的な実施形態において、in vitroでの使用の場合などの、ヒト以外の血清の使用が除外されない場合、培地に最大40%までの範囲で、ヒト以外の哺乳動物に由来する血清を添加してもよい。
さらなる増殖− 任意により、その他の増殖因子を使用してもよい。1つの実施形態において、0〜1μg/mlの濃度で、上皮成長因子(EGF)が使用される。好ましい実施形態において、EGF濃度は10ng/ml前後である。使用できる代替的な成長因子は、TGFαもしくはTGFβ(5ng/ml;範囲0.1〜100ng/ml)、アクチビンA、コレラ毒素(好ましくは約0.1μg/mlのレベルで;範囲0〜10μg/ml)、トランスフェリン(5μg/ml;範囲0.1〜100μg/ml)、線維芽細胞成長因子(bFGF 40ng/ml(範囲0〜200ng/ml)、aFGF、FGF−4、FGF−8;(全て0〜200ng/mlの範囲内))、骨形態形成タンパク質(すなわち、BMP−4)または細胞増殖を増強することが知られているその他の成長因子を含むが、これらに限定されることはない。
継代処理− 細胞を最初に組織培養処理プレートに、25,000/cm2〜1,000,000/cm2の密度で、好ましくは約130,000/cm2の密度で蒔く。1つの実施形態において、細胞をコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、またはマトリゲルなどの、細胞外マトリックス処理プレートにて生育させる。本発明の増殖させた羊膜由来細胞組成物を作出するには、実施例1において後述されるように細胞を少なくとも5回継代する。本発明の球状の羊膜由来細胞組成物を作出するには、1回の継代しか必要とされない。
ES細胞の生育− 上記の培地は、増殖させたかまたは球状の胚性幹細胞(ES細胞)調製物を産生するのに使用することもできる。いくつかの実施形態において、培地は動物由来成分を含まない。好ましい実施形態において、培地は動物由来成分を含まず、無血清で作製される。
羊膜由来細胞の大規模培養−さらなる実施形態において、羊膜由来細胞組成物、その馴化培地、および細胞溶解物の調製用の細胞を作出するために大規模培養を使用する。大規模な哺乳動物細胞培養について記述している文献は主に、治療用タンパク質を産生するためのチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの細胞のクラスターに関連している(Moreira, J. L. et al. (1995) Biotechnol Prog, 11:575)。この場合は、細胞の分泌産物が対象となる主産物である。大規模な細胞産生に最もよく使われる技術は、スピナーフラスコおよびローラーボトルであったが、ローラーボトルは使用目的によっては、特に接着細胞培養では、中空繊維培養バイオリアクタおよびマイクロキャリアバイオリアクタシステムに取って代わられている(Martin, I., et al. (2004) Trends Biotechnol, 22:80)。中空繊維バイオリアクタでは合成繊維を哺乳動物細胞と結び付ける。細胞は繊維間に播種されて、3次元組織様構造の中で成長する。該繊維は栄養素および酸素が細胞に達するよう導管としての機能を果たし、近くの細胞から除去される必要がある毒素および細胞副産物の出口にもなる。中空繊維技術の欠点の1つは細胞の回収の困難さであるが、体外肝臓補助装置などの、一部の使用目的の場合、細胞は原位置にとどまってその治療目的を果たす(Gerlach, J. C., (1997) Cell Biol Toxicol, 13:349)。
大規模細胞培養を用いて、羊膜由来細胞を、移植用細胞の生育と、馴化培地の産生用細胞の生育の両方をはじめとする、いくつかの治療目的に向けた産物として培養することができる。骨髄移植用の造血細胞(Cheshier, S. H., et al, (1999) Proc Natl Acad Sci U S A, 96:3120; Madlambayan, G. J., et al, (2001) J Hematother Stem Cell Res, 10:481)、体外補助装置用の肝細胞(Gerlach, J. C., (1997) Cell Biol Toxicol, 13:349)、人工皮膚投与用の角化細胞(Zacchi, V., et al, (1998) J Biomed Mater Res, 40:187; Pellegrini, G., et al, (1998) Med Biol Eng Comput, 36:778; Waymack, P., et al, (2000) Burns, 26:609)、および神経変性疾患用の神経幹細胞が懸濁状態で培養されている。哺乳動物細胞が足場依存性であり、懸濁状態で培養できないなら、細胞が付着でき、懸濁装置中で生育できる広い表面域としてマイクロキャリアビーズまたはマイクロキャリアを使用することができる。細胞で覆われたマイクロキャリアビーズを、細胞懸濁培養に使われる装置中で懸濁状態にて維持し、培地使用量および空間条件の低減を可能にする。マイクロキャリアビーズ培養の技術的困難の1つは、生存能力を損なうことなく、ビーズそれ自体から細胞を効率よく取り出すことである(Varani, J., et al. (1986) J Biol Stand, 14:331)。好ましい方法は羊膜由来細胞を懸濁状態で培養することであろう。
羊膜由来細胞の拡張可能な製造は、ヒト胚性幹(hES)細胞向けに現在開発中のシステムを用いて達成することができる。hES細胞に関するスケールアップの大部分の例には、スケールアップ過程の間の部分的なまたは完全な分化が挙げられており、例えば、Gerecht−Nir(Gerecht-Nir, S., et al. (2004) Biotechnol Bioeng, 86:493)は胚様体としてのES細胞の拡張性について報告している。ES細胞の分化スケールアップの他の例としては、胚様体が形成され、レチノイン酸で処理される心臓細胞(Zandstra, P. W., et al. (2003) Tissue Eng, 9:767)、および中空繊維バイオリアクタ中でのES由来肝細胞スケールアップ(Gerlach, J. C., (1997) Cell Biol Toxicol, 13:349)が挙げられる。未分化ヒトES細胞のスケールアップの報告は少ないが、マウスES細胞はその幹細胞表面特性を維持しながら、中空繊維バイオリアクタ中で増殖させることができる。
その他の実施形態において、該細胞を懸濁培養処理プレート中、およびローラーボトル中(ローラーボトル中では密度範囲100,000個/ml〜500万個/ml;好ましくは100万個/ml)、またはスピナーフラスコ中でマイクロキャリアビーズへの付着を伴ってもしくは伴わないでなど、懸濁培養条件で培養する。実施例2、3および4では、本発明によって使用できる大規模産生の方法を記載する。
実験を行って、最適な細胞成長および分化機能の発現に使用できる培地および添加物を判定する。複数のスピナーフラスコの使用によって、1実験あたり各条件の2回または3回反復の利用が可能になる。
細胞が懸濁状態でうまく生育されたら、次にそれらを移植に十分な量で培養する。移植に必要な細胞の数は特定の用途に依存することを当業者は認識するであろう。細胞を上記の第1セットの実験で決められたように回収するが、T−フラスコまたはスピナーフラスコの中に播種する代わりにそれらをWaveバッグの中に入れる。これらは、細胞および培地を加えられる無菌のプラスチックバッグ(Wave,Inc.)である。このバッグおよびその内容物を、バッグ全体を穏やかに撹拌する揺動機に置く。さらに、CO2および空気をバッグに継続的に加えて、十分な酸素およびpH制御を維持することができる。バッグサイズの範囲は1リットルから1000リットルである。1つの実施形態において、1リットルのバッグおよび125mlの最小作業量が使われる。細胞が成長するにつれて、500mlの作業量に達するまで、さらなる培地を加えることができる。
羊膜由来細胞をWaveバッグの中におよび標準的なT−フラスコの中に入れて、空気中5%CO2にて37℃でインキュベートする。細胞のサンプルを、クラス100バイオセーフティキャビネット内で、各フラスコおよび容器から毎日回収し、細胞をトリパンブルーで染色し、血球計で計測する。1mlあたりの総細胞数および生存細胞数のグラフを経時的にプロットして、羊膜由来細胞が培養液中で経時的に分裂し、生存可能なままであることを確実にする。
Waveバッグには代替的な培養容器に比べて2つの主な利点がある。第1に、それらは使い捨て可能であり、それ故に洗浄バリデーションが各ロットの細胞に必要ではない。第2に、揺動運動はバッグ内に液体の波を生み出すので、細胞が静置フラスコまたはスピナーフラスコ中であった場合よりも液体中のガス交換がはるかに高い。結果として、達成可能な総細胞数はT−フラスコまたはスピナーフラスコ中のどちらよりも高い。
特定の間隔で、時間の経過による遺伝子発現を目的に逆転写酵素および/またはリアルタイムPCRを用いてサンプルを分析する。サンプルをOct−4、nanogなどのような羊膜由来細胞特異的なマーカーについて調べる。さらに、サンプルを未分化細胞の細胞表面マーカー(SSEA−3および4、Tra−1−60ならびにTra−1−81)についてFACS分析により測定する。
さらに、懸濁培養および増殖後の羊膜由来細胞が全3種の胚系統(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)への分化を起こす能力を分析する。分化能のそのような特徴付けは、分化アッセイならびに逆転写酵素および/またはリアルタイムPCRによる遺伝子発現の分析の実施により、および低容量FACS分析(またはIHC)により評価する。
指定の時間間隔で、細胞を培養容器から取り出し、分化プロトコルにて培養して、増殖後の、3種の胚系統へのその分化能を判定する。
組成物− 本発明の組成物は、実質的に精製された集団およびその医薬組成物を含む。本発明の組成物は、組成物の使用目的に応じてさまざまな方法で調製することができる。例えば、本発明の実践に有用な組成物は、溶液中で、懸濁液中で、またはその両方(溶液/懸濁液)で本発明の作用物質、すなわち、実質的に精製された羊膜由来細胞集団を含んだ液体とすることができる。用語「溶液/懸濁液」とは、活性な作用物質の第1の部分が溶液中に存在しかつ活性な作用物質の第2の部分が液体マトリックスの懸濁液中に粒子形態で存在する液体組成物をいう。液体組成物は同様に、ゲルを含む。液体組成物は水性であってもまたは軟膏、膏薬、クリームなどの形態であってもよい。
本発明の方法を実施するのに有用な水性懸濁液または溶液/懸濁液は、1以上の高分子を懸濁化剤として含有することができる。有用な高分子は、セルロース系高分子などの水溶性高分子および架橋カルボキシル含有高分子などの不水溶性高分子を含む。本発明の水性懸濁液または溶液/懸濁液は、好ましくは粘性もしくは粘膜付着性であり、またはさらにより好ましくは粘性でもあり粘膜付着性でもある。
医薬組成物− 本発明は実質的に精製された羊膜由来細胞集団、および製薬上許容される担体の医薬組成物を提供する。用語「製薬上許容される」とは、連邦もしくは合衆国政府に係る監督官庁によって承認されていること、または米国薬局方もしくは動物で、および特に、ヒトで用いる一般的に承認された他の薬局方に収載されていることを意味する。用語「担体」とは、組成物と共に投与される希釈剤、補助剤、賦形剤、または媒体をいう。そのような医薬担体は、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油などのような、石油、動物、植物または合成由来のものをはじめとする水および油などの、無菌の液体とすることができる。適当な医薬賦形剤としてはデンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、イネ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。該組成物は、必要に応じて、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤を含むこともできる。これらの組成物は溶液剤、懸濁液剤、乳濁液剤、錠剤、丸薬、カプセル剤、散剤、徐放性製剤などの剤形をとることができる。適当な医薬担体の例は、E.W.Martinによる”Remington's Pharmaceutical Sciences”の中に記述されており、さらにその他のものが当業者によく知られている。
本発明の医薬組成物を中性形態または塩形態として製剤化することができる。製薬上許容される塩は、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などから誘導されるものなどの遊離アミノ基と形成されるもの、およびナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどから誘導されるものなどの遊離カルボキシル基と形成されるものを含む。
処置キット− 本発明は同様に、包装材と該包装材の中に含まれる本発明の医薬組成物とを含む製造品であって、該医薬組成物は実質的に精製された羊膜由来細胞集団を含み、該包装材は、糖尿尿、肝疾患、神経疾患などを含むがこれらに限定されないさまざまな障害を処置するのに該実質的に精製された羊膜由来細胞集団を使用できることを示すラベルまたは添付文書を含む製造品を提供する。
羊膜由来細胞核
羊膜由来細胞それら自体およびそれより得られる産物に加えて、本発明の別の実施形態は羊膜由来細胞の核である。そのような核は、当技術分野において公知の方法を用いて得ることができる。これらはヒアルロニダーゼを用いた処理またはピペットを用いて核を機械的に抽出することにより行われるような、機械的破砕または化学的手段によって細胞から膜を除去することを含む。この核をその後、例えば、US20030234430またはUS20040268422に記述されているように当技術分野において公知の方法を用いて、例えば、細胞質内注入または電気融合により体細胞または生殖細胞に移入することができる。羊膜由来細胞は胚外組織、具体的には羊膜から得られ、それらは非体細胞、非胎児細胞、かつ非生殖細胞であり、すなわち当技術分野において通常使われるドナー細胞の中でユニークである。
核を別の細胞に移入したら、得られた細胞をいくつかの用途に使用することができる。1つの実施形態は任意の除核細胞を羊膜由来細胞からの核と組み合わせることによる動物のクローニングまたは治療的核クローニングの方法に関する。この実施形態はさまざまな動物のクローニングを包含する。これらの動物としては全ての哺乳動物(例えば、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、家畜牛、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ブタ、ウマ、ラマ)が挙げられる。ドナー羊膜由来細胞および卵母細胞は同じ動物に由来してもそうでなくてもよい。
ドナー羊膜由来細胞のゲノムは、例えば、クローン化動物の作出のため天然のゲノムであってよく、または該ゲノムは、例えば、クローン化トランスジェニック動物の作出のためトランスジェニック配列を含むよう遺伝子改変されてもよい。
本発明で使用される卵母細胞は第I中期、第I後期、第II後期、第I終期、第II終期、および好ましくは第II中期を含めて、減数分裂のいかなる時期にあってもよいであろう。第II中期の卵母細胞は休止状態にあるものと考えられる。卵母細胞は第II中期の休止状態にあってもよく、その後、本明細書において記述される方法を用いて活性化されてもよい。卵母細胞が位置する時期は、十分な倍率下での卵母細胞の目視検査により特定することができる。減数分裂期を特定する方法は当技術分野において公知である。
卵母細胞は物理的手段(例えば、電気刺激、低温衝撃)および化学的手段(例えば、エタノール、酸性タイロード液、塩化ストロンチウム、カルシウムイオノフォア、ピューロマイシン、ヒアルロニダーゼならびにカルシウムおよびマグネシウムを欠く培地)によって活性化することができる。これらの方法のいくつかでは細胞内カルシウムレベルを増加させることで卵母細胞を活性化する。卵母細胞の活性化を可能にするいくつかの方法が存在する。特に、カルシウムイオノフォア(例えば、イオノマイシン)は、卵母細胞の膜の透過性を増大して、卵母細胞へのカルシウムの流入を可能にする作用物質である。そのような活性化の方法は米国特許第5,496,720号に記述されている。エタノールは類似の影響を及ぼす。除核の前または後に、第II中期の卵母細胞をPresicce and Yang, Mol. Reprod. Dev., 37: 61-68 (1994); およびBordignon & Smith, Mol. Reprod. Dev., 49: 29-36 (1998)に記述されるエタノール活性化処理にしたがってエタノールで活性化することができる。卵母細胞へのカルシウムの曝露は電気刺激によっても起きる。電気刺激は、いっそう高いレベルのカルシウムが卵母細胞に流入するのを可能にする。その他公知の活性化の方法を本発明で用いて、卵母細胞を活性化することができる。
卵母細胞はドナー動物から、その動物の生殖周期の間に得ることができる。例えば、卵母細胞は生殖周期の間のある時点(外因性ホルモン刺激性のすなわち過剰排卵または卵巣過剰刺激または非刺激)の卵巣の卵胞から吸引することができる。同様に、排卵後のある時点では、例えば、かなりの割合の卵母細胞が終期にある。さらに、卵母細胞を得て、その後、in vitroで停止第II中期に成熟するよう誘導することができる。in vivoまたはin vitroで産生された停止第II中期の卵母細胞を次に、終期に進入するようin vitroで誘導することができる。このように、終期の卵母細胞は本発明で用いるために容易に得ることができる。卵母細胞は、女性ドナーの卵管から卵母細胞を洗い流すことで外科的に回収することもできる。卵母細胞の回収の方法は当技術分野において公知である。
活性化卵母細胞の細胞期はドナー羊膜由来細胞の細胞周期の時期と相関することが好ましい。卵母細胞の減数期とドナー細胞の減数期との間のこの相関関係は同様に、本明細書において「同期」といわれる。
本発明では、除核された卵母細胞を利用する。除核卵母細胞は、ゲノムがないもの、または「機能的に除核された」ものである。機能的に除核された卵母細胞は、非機能的であるゲノム、例えば、複製できないまたはDNAを合成できないゲノムを含有する。例えば、Bordignon, V. and L. C. Smith, Molec. Reprod. Dev., 49: 29-36 (1998)を参照されたい。卵母細胞のゲノムは卵母細胞から除去されることが好ましい。ゲノムは照射により、X線照射により、レーザー照射により、ゲノムを物理的に除去することにより、または化学的手段により卵母細胞から機能的に除核することができる。照射を使用する方法は当業者に公知であり、例えば、Bradshaw et al., Molecul. Reprod. Dev., 41: 503-512 (1995)に記述されている。DNAを化学的に不活性化する方法は当業者に公知である(Fulka and Moore, Molecul. Reprod. Dev., 34: 427-430 (1993))。その他公知の除核の方法を本発明で用いて、卵母細胞を除核することができる。
卵母細胞のゲノムを物理的に除去するため、卵母細胞の卵透明帯を通じマイクロピペットまたは注射針を挿入して、核物質を卵母細胞から除去することができる。一例として、2つの極体を有する終期の卵母細胞は、周辺細胞質内の第2極体を除去することによりマイクロピペットまたは注射針で除核することができる。具体的には、減数分裂終期の卵母細胞は、第2極体由来の原形質膜中の突起の存在から第2極体それ自体の形成までの任意の時点で除核することができる。すなわち、本明細書において用いられる場合、第2極体の押出しまでの、原形質膜中の突起(通常は紡錘体がこれに隣接した状態にある)を示す卵母細胞は、終期の卵母細胞であると考えられる。別の例において、第II中期の卵母細胞は、卵透明帯をマイクロピペットで穿刺し、マイクロピペットを卵母細胞核に隣接させ、核および卵細胞膜(または卵母細胞膜)の一部分をピペットの中に抜き取ることにより除核することができる。マイクロピペットの抜去後、卵細胞膜をつまんで膜が完全な除核卵母細胞を残す。卵母細胞をサイトカラシンDで前処理して、このプロセスを補助することもできる。
本発明は、卵母細胞のゲノム(例えば、核クロマチン)を減数分裂成熟化の間に極体に分離するよう誘導し、それによって機能的なゲノムを欠く卵母細胞を残し、核移植手順で用いられるレシピエント細胞質体の形成をもたらしうる化合物で卵母細胞を処理することにより、卵母細胞のゲノムを除核することを含む。そのような特異的分離をもたらしうる作用物質の例としては、細胞骨格および代謝を破壊しうる作用物質が挙げられる(例えば、Andreau, J. M. and Timasheff, S. N., Proc. Nat. Acad. Sci. 79: 6753 (1982), Obrig, T. G., et al, J. Biol. Chem. 246: 174 (1971), Duskin, D. and Mahoney, W. C., J. Biol. Chem. 257: 3105 (1982), Scialli, A. R., et al, Teratogen, Carcinogen, Mutagen 14: 23 (1994), Nishiyama, I and Fujii, T., Exp. Cell Res. 198: 214 (1992), Small, J. V., et al, J. Cell Sci. 89: 21 (1988), Lee, J. C., et al, Biochem. 19: 6209 (1980)を参照のこと)。卵母細胞の細胞齢および事象(すなわち、除核、融合および活性化)のタイミングも核移植の成功に極めて重要であり、当業者に周知である。
活性化された除核卵母細胞および羊膜由来細胞からのゲノムの組み合わせを種々の方法で行って、核移植胚を形成させることができる。羊膜由来細胞のゲノムは、微量注入器(すなわち、マイクロピペットまたは注射針)の利用によって活性化卵母細胞に注入することができる。羊膜由来細胞の核ゲノムは、マイクロピペットまたは注射針を用いて抽出される。抽出されたら、羊膜由来細胞の核ゲノムは次に、マイクロピペット、または注射針を卵母細胞に挿入し、羊膜由来細胞の核ゲノムを放出することによって活性化卵母細胞に入れることができる(McGrath, J. and D. Solter, Science, 226: 1317-1319 (1984))。
本発明は同様に、融合によって、例えば、電気融合、ウイルス融合、リポソーム融合、生化学試薬による融合(例えば、フィトヘマグルチニン(PHA)タンパク質)、または化学的融合(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)もしくはエタノール)によって羊膜由来細胞のゲノムを活性化卵母細胞と組み合わせることを含む。羊膜由来細胞、羊膜由来細胞核質または羊膜由来細胞の核を、卵母細胞を含有する卵透明帯の中に入れることができる。該細胞、核質または核を卵母細胞と融合するステップを次に、当技術分野において公知の技術により行うことができる。活性化卵母細胞との羊膜由来細胞のゲノムの組み合わせによって、核移植胚が得られる。
その後、本発明の核移植細胞をレシピエント非ヒト雌性動物に移植し、クローン化動物またはトランスジェニック動物を発生または妊娠させることができよう。妊娠に適した条件は、胚を胎仔に、ひいては生きた動物に発育させ成熟させることを可能にするその条件である。そのような条件は当技術分野において公知である。核移植細胞は、少なくとも最初の卵割(2細胞期)から胞胚期まで培養系で維持することができる。核移植細胞は2細胞期または4細胞期で移植されることが好ましい。核移植細胞発育用の種々の培地が当業者に知られている。
本発明は同様に、羊膜由来細胞からの遺伝子操作されたゲノムと活性化卵母細胞を組み合わせることでトランスジェニック動物を作出する方法に関する。そのような組み合わせによってトランスジェニック核移植細胞が得られる。トランスジェニック動物は、例えば、特定のタンパク質(所望のタンパク質)を産生するよう遺伝子改変された、または特定の遺伝子をノックアウトするよう改変されたドナー細胞からのゲノムより作製された動物である。トランスジェニック動物を作製するのにDNA構築体を動物の生殖系列に導入する方法は、当技術分野において公知である。
本発明は同様に「治療的クローニング」を対象にしており、これはクローン胚からのES細胞の作出である。以前、Munsieらは、体細胞核移植によって得られた胚盤胞からのマウスES細胞の単離を報告している(Current Biology 10: 989-992, 2000)。Wakayamaらは、体細胞核移植によって得られた胚盤胞の培養から、in vitroでさまざまな種類の特定の細胞に誘導できるマウスES細胞を得ている(Science, 292 (5517); 740-743. 2001)。Wakayamaらが行った研究の結果は、ES細胞を体細胞核移植によって核移植胚から単離できることを実証している。体細胞由来の核移植ES細胞は多能性であり、正常な接合体から得られたES細胞として、任意の特定の細胞タイプに分化することができる。
本発明において、治療的クローニングは、卵母細胞への羊膜由来細胞核の核移植によって達成される。得られた核移植細胞はさらに、例えば、疾患(すなわち、糖尿病、肝不全など)に苦しむ患者によって必要とされる特定の細胞タイプに分化される。
羊膜由来細胞および分化細胞の治療的使用
これらの組成物は、以前に達成されているよりもはるかに高い細胞数/羊膜組織を含むので、それらは移植などの、数多くの細胞を必要とする状況での治療的使用を可能にする。これらの細胞は多能性であること、すなわち、造血組織、肝組織、膵組織、神経組織、筋肉組織および内皮組織を含むがこれらに限定されない種々の組織タイプに分化できることが分かっている。そのような細胞は移植治療または組織工学によって病変組織の機能を回復するのに、ならびに創薬努力のなかで化合物の代謝および毒性を研究するのに特に有用である。
医院でまたは臨床試験で現在使用されている細胞移植戦略は、有望な結果を実証している、例えば、(1)死体組織から単離された膵島は、I型糖尿病患者において適切なインスリン分泌を回復するためおよびインスリン注射の必要性を軽減するため現在移植されている、ならびに(2)死体の肝臓から単離された肝細胞は、肝臓移植を待っている患者を処置するためおよび代謝性障害の処置のため移植されている。しかしながら、臨床グレードの膵島および肝細胞の必要性は、ドナー組織から単離され移植されうる細胞の数をはるかに超えている。本明細書において記述される増殖させた羊膜由来細胞組成物は、これらの細胞タイプに分化できる豊富な細胞供給源となる。
羊膜由来細胞またはそれから分化した細胞を含む組成物を被験体に投与して、さまざまな細胞機能または組織機能を供与することができる。本明細書において用いられる場合、「被験体」とは、ヒトまたは非ヒト動物のいずれかを意味することができる。
そのような組成物は、任意により賦形剤および助剤を含んでもよい1以上の生理学上許容される担体を用いて任意の従来の方法で製剤化することができる。適切な製剤化は選択の投与経路に依存する。該組成物は組織再生、または治療的に重要な代謝機能の回復での細胞の使用に向けた取扱説明書とともに包装されてもよい。羊膜由来細胞は同様に、1以上の生理学上許容される担体中でレシピエントに投与することができる。これらの細胞の担体としては、生理学的濃度で塩の混合物を含有する乳酸加リンゲル液またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を挙げることができるが、これらに限定されることはない。
当業者は特定の目的に適した細胞濃度を容易に判定することができる。好ましい用量は細胞約0.25〜1.0×106個の範囲である。
羊膜由来細胞またはそれから分化した細胞は、被験体の標的部位への注入によって、好ましくは管、例えば、カテーテルなどの、送達器具を介して投与することができる。好ましい実施形態において、管はさらに、注射針、例えば、注射器を含み、これを通じて該細胞を所望の位置で被験体に導入することができる。細胞を被験体に投与する具体的な非限定的な例としては同様に、皮下注射、筋肉内注射、または静脈内注射による投与を挙げることができる。投与が静脈内投与であるなら、注射可能な細胞の液体懸濁液を調製し、持続点滴によってまたはボーラス注として投与することができる。
細胞を送達器具、例えば、注射器の中に、異なる形態で挿入することもできる。例えば、そのような送達器具の中に含まれる溶液に細胞を懸濁させることができる。本明細書において用いられる場合、用語「溶液」とは、本発明の細胞が生存可能なままでいられる製薬上許容される担体または希釈剤を含む。製薬上許容される担体および希釈剤は、生理食塩水、水性バッファー、溶媒および/または分散媒体を含む。そのような担体および希釈剤の使用は、当技術分野において周知である。溶液は無菌であり、容易に注入できる程度に流動性であることが好ましい。溶液は製造および保存の条件下で安定であり、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどの使用によって細菌および真菌のような微生物の汚染作用から保護されることが好ましい。本発明の溶液は、本明細書において記述される羊膜由来細胞または分化細胞を製薬上許容される担体または希釈剤および、必要に応じて、上記に列挙されるその他の成分の中に組み入れた後、ろ過滅菌により調製することができる。
未分化、部分的分化または完全分化羊膜由来細胞は、全身に(例えば静脈内に)または局所に(例えば心エコーガイダンスの下で心筋欠損に直接的にまたは外科手術の間に可視化の下で直接投与により)投与することができる。そのような注射の場合、該細胞は、注射可能な液体懸濁液の調製物にあってもよく、または液状で注射可能であり、損傷組織の部位で半固体になる生体適合性の媒体にあってもよい。従来の心腔内注射器または制御可能な内視鏡的送達装置は、針の内腔または内径が、剪断力によって送達細胞が損なわれないような十分な直径(例えば、30ゲージ以上)のものである限り、使用することができる。
細胞は、それらを意図した組織部位に移植可能にし、機能的に欠損した領域を再構成または再生可能にする方法で投与することができる。未分化、部分的分化または完全分化羊膜由来細胞は、直接投与による治療で、または一時的もしくは永続的な臓器機能をもたらす生体補助装置の一部分として使用することができる。この点において、未分化、部分的分化または完全分化羊膜由来細胞をバイオリアクタ内で成長させて、肝補助装置の場合におけるような、臓器補助用の体外臓器のサポートをもたらすことができ、臓器機能を回復するため豊富な移植用細胞供給源をもたらすことができ、または組織再生を刺激するのに使用できる馴化培地の供給源をもたらすことができる。初代ブタ細胞および初代ヒト肝細胞を利用した肝補助装置が成功裏に使用されている(Sauer, I.M., et al. Xenotransplantation (2003) 10:460-469; Irgang, M. et al. (2003) 28(2):141-154; Sauer, I.M. et al. (2002) Int. J. Art. Org. 25(10):1001-1006; Sauer, I.M. et al. (2002) J. Metabolic Brain Disease 17(4): 477-484, Sauer, I.M. et al. (2003) J. Hepatology 39(4):649-653)。羊膜由来細胞に由来する肝細胞は、この技術と併せて利用することができる。
あるいは、羊膜由来細胞はレシピエントに移植されてもよく、その内部で該細胞が増殖し分化して、新たな細胞および組織を形成し、それによってその組織により通常もたらされる生理学的プロセスをもたらすことができ、または移植の領域での細胞の移動および/もしくは分化を引き起こす因子を産生することができる。組織は、特定機能の遂行で結びつけられている同様に特殊化した細胞の集合体である。組織は、硬組織と軟組織の両方を含むあらゆる種類の生体組織を包含するよう意図される。軟組織とは身体の他の構造および臓器を結び付ける、支持する、または取り囲む組織をいう。軟組織は筋肉、腱(筋肉を骨に結び付ける線維の束)、線維組織、脂肪、血管、神経、および滑膜組織(関節周囲の組織)を含む。硬組織は、結合組織(例えば、骨組織または骨などの硬質の形態)およびその他の筋肉組織または骨格組織を含む。
羊膜由来細胞が組み込まれうるまたは埋め込まれうる支持マトリックスは、レシピエント適合性でありかつレシピエントにとって有害ではない産物に分解するマトリックスを含む。これらのマトリックスは、in vivoで未分化および分化羊膜由来細胞の支持および保護をもたらし、それ故に、そのような細胞がレシピエント被験体に移植される好ましい形態である。
天然および/または合成生分解性マトリックスはそのようなマトリックスの例である。天然生分解性マトリックスは、例えば、哺乳動物に由来する凝固血漿、コラーゲン、フィブロネクチン、およびラミニンマトリックスを含む。細胞移植マトリックスに適した合成材料は、遊走および免疫学的合併症を防ぐよう生体適合性でなければならず、外延的な細胞成長および分化した細胞機能を支持しうるべきである。それは同様に、完全に自然な組織置換を可能とするよう、再吸収可能でなければならない。該マトリックスはさまざまな形状に構成可能であるべきであり、移植時の崩壊を阻止するのに十分な強度を有するべきである。最近の研究では、ポリグリコール酸でできた生分解性ポリエステル高分子がこれらの判定基準の全てを満たすことが示唆されている(Vacanti, et al. J. Ped. Surg. 23:3-9 (1988); Cima, et al. Biotechnol. Bioeng. 38:145 (1991); Vacanti, et al. Plast. Reconstr. Surg. 88:753-9 (1991))。その他の合成生分解性支持マトリックスは、酸無水物、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの合成高分子を含む。合成高分子およびこれらのマトリックスに細胞を組み込むかまたは埋め込む方法のさらなる例は同様に、当技術分野において公知である。例えば、米国特許第4,298,002号および同第5,308,701号を参照されたい。
高分子との細胞の付着は、基底膜成分、寒天、アガロース、ゼラチン、アラビアガム、I型、II型、III型、IV型およびV型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、グリコサミノグリカン、それらの混合物、ならびに細胞培養の技術分野における当業者に公知の他の材料などの化合物で高分子をコーティングすることによって促進することができる。マトリックスに用いられる全ての高分子は、その後の成長および増殖での細胞の十分な支持をもたらすのに必要な機械的および生化学的パラメータを満たさなければならない。該高分子はインストロン試験機を用い引張強度などの機械的特性に関して、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)により高分子分子量、示差走査熱量測定法(DSC)によりガラス転移温度および赤外(IR)分光法により結合構造について、Amesアッセイおよびin vitro催奇形性アッセイを伴う初期スクリーニング検査、ならびに免疫原性に対する動物での移植試験、炎症、放出および分解試験により毒性に関して特徴付けることができる。
生分解性高分子マトリックスの利点の1つは、血管新生およびその他の生物活性化合物を支持マトリックスの中に直接的に組み込むことができ、その結果、それらは該支持マトリックスがin vivoで分解するにつれてゆっくり放出されるということである。細胞−高分子構造が血管新生化されて、該構造が分解すると、羊膜由来細胞はその生来の特徴にしたがって分化することができる。栄養素、成長因子、分化または脱分化(すなわち、分化した細胞に分化の特徴を失わせ、増殖などの特徴およびさらに一般的な機能を獲得させる)の誘導因子、分泌産物、免疫調節因子、炎症の阻害因子、退行因子、リンパネットワークまたは神経線維の内部成長を促進するまたは可能にする生物学的に活性な化合物、ヒアルロン酸、および当業者に知られておりかつCollaborative Research、Sigma Chemical Co.などの供給業者から、有効量を構成することに関する説明書とともに市販されている薬物、血管内皮成長因子(VEGF)などの血管成長因子、上皮成長因子(EGF)、ならびにヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子(HB−EGF)をはじめとする因子をマトリックスの中に組み込むかまたはマトリックスと併せて供与することができよう。同様に、付着ペプチドRGD(Arg−Gly−Asp)などのペプチドを含有する高分子をマトリックスの形成で用いるために合成することができる(例えば、米国特許第4,988,621号、同第4,792,525号、同第5,965,997号、同第4,879,237号および同第4,789,734号を参照のこと)。
別の例において、未分化、部分的分化または完全分化羊膜由来細胞は、重合して基材を形成し、その中で該細胞が生育できるゲルマトリックス(Upjohn CompanyのGelfoamなど)中で移植することができる。さまざまなカプセル化技術が開発されている(例えば、Lacy et al., Science 254:1782-84 (1991); Sullivan et al., Science 252:718-712 (1991); WO91/10470;WO91/10425;米国特許第5,837,234号;同第5,011,472号;同第4,892,538号)。損傷組織および/または損傷臓器への直接的な物理的アクセスを伴う切開外科手術の間には、未分化、部分的分化または完全分化羊膜由来細胞の送達調製物の記述の形態は全て利用可能な選択肢である。これらの細胞は、所望の治療効果が達成されるまで間隔を置いて繰り返し移植することができる。
本発明は同様に、3次元の細胞・組織培養系で羊膜由来細胞を用いて、in vivoの組織対応物に類似の構造物を形成させることに関する。得られる組織は長時間生存し、宿主レシピエントへの移植後に組織特異的な機能を果たすであろう。そのような構造物を作出する方法は、米国特許第5,624,840号および米国特許第6,428,802号に記述されており、これらはその全体が本明細書に組み入れられる。
使用される3次元マトリックスは組織形成のプロセスをガイドするよう、細胞に足場を供与する構造マトリックスである。足場は、繊維、ゲル、織物、スポンジ様シート、ならびに複雑な固体自由造形(SFFF)法を用いて孔およびチャネルが作られている複雑な3次元構造物などの形態をとることができる。3次元マトリックスにて培養された細胞は、複数の層内で成長して、導管、板、および類洞域に似た板間の空隙のような3次元に生じる臓器型構造を作り出し、それによって新たな肝組織を形成するであろう。このように、好ましい態様において、本発明は足場、多層細胞および組織培養系を提供する。本明細書において用いられる場合、用語「足場」とは、3次元(3D)構造(基材および/またはマトリックス)であって、その中でまたは上で細胞が成長するものを意味する。それは生物学的成分、合成成分またはその両方の組み合わせから構成されてもよい。さらに、それは細胞によって自然に構築されてもまたは人為的に構築されてもよい。さらに、足場は、適切な条件の下で生物学的活性を有する成分を含むことができる。足場の構造はメッシュ、スポンジを含むことができ、またはヒドロゲルから形成させることができる。
そのような足場の例としては、3次元間質組織または生きた間質マトリックスが挙げられ、これは3次元支持体にて成長する間質細胞を播種されている。間質細胞によって産生された細胞外マトリックスタンパク質は足場に沈積され、このようにして生きた間質組織を形成させる。生きた間質組織は、3次元細胞培養物を形成するよう播種された後に羊膜由来細胞または分化細胞の成長を支持することができる。その他の3次元足場の例は米国特許第6,372,494号に記述されている。
3次元マトリックスを形成させる足場作りのデザインおよび構築は最も重要である。該マトリックスは血管の内部成長のために柔軟性で、無毒性で、注入可能な多孔性の鋳型とするべきである。該細孔は血管の内部成長を可能にするべきである。これらは通常、およそ100〜300ミクロンの範囲の相互に連結された細孔であり、すなわち100〜300ミクロンの間質空隙(interstitial spacing)を有するが、もっと大きな孔を使用することができる。該マトリックスは表面積を最大限にするよう成形されて、マトリックス内部の細胞への栄養素、ガスおよび成長因子の適正な拡散を可能にするべきであり、新たな血管および結合組織の内部成長を可能にするべきである。現在のところ、圧縮に比較的耐性を示す多孔性構造が好ましいものの、マトリックスの典型的には6面のうちの1面または2面が圧縮されたとしても、該マトリックスは組織の成長をもたらすのに依然として有効であることが実証されている。
高分子マトリックスは所望とされる最終の形態、構造および機能に応じて、柔軟性または剛性に作出されてもよい。欠損の修復の場合、例えば、柔軟な繊維性マットを欠損全体とほぼ同じになるよう切断し、その後、移植の間に必要に応じて外科的にできた欠損に合わせる。繊維性マトリックスを使用することの利点は、移植時の構造の再形成および再編成の簡便さである。
3次元骨格を作出するためにスポンジ様構造を使用することもできる。該構造は開放型のスポンジ、つまり十分な羊膜由来細胞または分化細胞に対する適正な付着表面が、生きた機能的インプラントを形成することを可能にするよう、該構造の表面と相互に連結された孔隙を含有するものとすべきである。
本発明は同様に、上記の支持マトリックスのいずれかおよび羊膜由来膜と併せた、本明細書において記述される羊膜由来細胞組成物をはじめとする、羊膜由来細胞の送達を提供する。そのような膜は、羊膜由来細胞の回収のための本明細書において記述されるプロセスの副産物として、または例えば、ヒト羊膜由来の外科移植片の作出、保存および使用の方法について記述している米国特許第6,326,019号、宿主内の部位への治療用分子、タンパク質または代謝物の持続送達のための再構成羊膜および組換え羊膜について記述しているUS2003/0235580、組織表面を覆う羊膜であって、接着を阻止できる、細菌を排除できるもしくは細菌活性を阻害できる、または組織の治癒もしくは成長を促進するための羊膜について記述しているUS2004/0181240、ならびに架橋羊膜の調製および熱傷や創傷を処置する方法でのその使用に関する米国特許第4,361,552号に記述されているような、その他の方法により得ることができる。本発明によれば、羊膜由来細胞は未分化、部分的分化もしくは完全分化形態のいずれかで該膜に添加され、そのような膜にて生育されてもよく、または羊膜由来細胞の馴化培地もしくは細胞溶解物がそのような膜に添加されてもよい。あるいは、羊膜由来細胞が引き離されていない羊膜組織を用いて、羊膜由来細胞を特定の部位に送達することができる。いかなる場合でも、羊膜組織またはその他のマトリックスと併せて使われる羊膜由来細胞は、その他の治療的に有用な細胞および/または以下に記述されるものなどの生物学的に活性な治療用物質を発現する細胞と組み合わせて使用することができる。
羊膜由来細胞およびそれから分化した細胞を用いて、動物臓器をヒト化することもできる。ヒト羊膜由来細胞は同じように、膵臓または脳または心臓などの別の臓器に移植することができる。動物臓器は移植前にその天然細胞が除去されても除去されなくてもよい。マウス、ラット、サル、ブタまたはイヌなどの動物の「ヒト化」臓器は、特定の疾患を有するヒトへの臓器移植に有用とすることができよう。
ヒト化動物モデルは薬物代謝、産生物の毒性研究、研究、またはウイルス性もしくは細菌性生物の複製に関するがこれらに限定されない診断目的または研究目的に使用することもできる。キメラヒト肝臓を形成するヒト肝細胞を移植されたマウスが肝炎ウイルスの研究に現在使われている(Dandri et al. Hepatol. 33:981-988 (2001); Mercer et al. Nature Med. 7:927-933 (2001))。
羊膜由来細胞を遺伝子操作して、特定の治療用タンパク質を産生させることができる。治療用タンパク質としては、成長因子、酵素、ホルモン、サイトカイン、サイトカインインヒビター、血液凝固因子、ペプチド成長因子および分化因子を含むが、これらに限定されない、幅広い生物学的に活性なタンパク質が挙げられる。特定の分化細胞が、特定の細胞タイプによって通常発現されるタンパク質で操作されてもよい。例えば、膵細胞を操作して、消化酵素を産生させることができる。肝細胞を操作して、酵素インヒビターであるA1AT、または血友病を治療するための凝固因子を産生させることができる。さらに、神経細胞を操作して、化学的伝達物質を産生させることができる。
当業者に周知である方法を用いて、適切な転写/翻訳制御シグナルに連結された対象となるタンパク質をコードする核酸を含有する発現ベクターを構築することができる。例えば、Sambrook et al, 2001, “Molecular Cloning: A Laboratory Manual”; Ausubel, ed., 1994, “Current Protocols in Molecular Biology” Volumes I-III; Celis, ed., 1994に記述されている技術を参照されたい。
羊膜由来細胞またはそれから分化した細胞にベクターまたはプラスミドを移入するのに適した方法としては、米国特許第5,578,475号;同第5,627,175号;同第5,705,308号;同第5,744,335号;同第5,976,567号;同第6,020,202号;および同第6,051,429号に記述されているものなどの、脂質/DNA複合体が挙げられる。適当な試薬としては、リポフェクタミン、膜ろ過水中のポリカチオン性脂質2,3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)(Chemical Abstracts登録名:N−[2−(2,5−ビス[(3−アミノプロピル)アミノ]−1−オキシペンチル(oxpentyl)アミノ)エチル−]−N,N−ジメチル−2,3−ビス(9−オクタデセニルオキシ)−1−プロパンアミン−トリフルオロアセテート)、および中性脂肪ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)の3:1(w/w)リポソーム製剤が挙げられる。具体例としては製剤Lipofectamine 2000TM(Gibco/Life Technologies # 11668019より入手可能)がある。その他の試薬としてはFuGENETM6トランスフェクション試薬(Roche Diagnostics Corp. # 1814443より入手可能な、非リポソーム形態の脂質および他の化合物の80%エタノール混合物);ならびにLipoTAXITMトランスフェクション試薬(Invitrogen Corp., #204110の脂質性製剤)が挙げられる。羊膜由来細胞のトランスフェクションは、例えば、RoachおよびMcNeish(Methods in Mol. Biol. 185:1 (2002))に記述されているように、エレクトロポレーションにより行うことができる。安定な遺伝的変化を有する幹細胞を産生するのに適したウイルスベクター系は、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルスおよびその他のウイルスに基づくことができ、市販されているウイルス成分を用いて調製することができる。
分化していない、部分的に分化した、または完全に分化した羊膜由来細胞を被験体に投与または移植して、分化した細胞タイプに特異的な種々の細胞機能または組織機能をもたらすことができる。例えば、肝細胞に分化した羊膜由来細胞を肝疾患に苦しむ患者に移植することができる。そのような細胞または移植を受ける患者の経過は、肝機能検査として知られる血液検査を含むアッセイを用いて判定することができる。処置の有効性は肝細胞マーカーの免疫細胞化学的染色、細管構造が成長中の組織に生じるかどうかの顕微鏡判定、および肝特異的タンパク質の合成を回復する処置の能力によって判定することができる。本発明の羊膜由来細胞に由来する肝細胞は、肝障害を修復するその能力を目的に動物モデルで評価することができる。羊膜由来細胞に由来する肝細胞は、特異的な代謝経路の活性を検出するためのアッセイに使用することができる。上記の詳細な例については、US2003/0235563およびUS2004/0161419を参照されたく、これらは参照により本明細書に組み入れられる。
羊膜由来細胞に由来する膵細胞は、不十分な膵臓機能と関連するさまざまな疾患の治療のために治療的に使用することができる。膵疾患および本発明の羊膜由来細胞に由来する膵細胞を用いたその治療は、以下にさらに詳細に記述される。
本発明は同様に、神経学的疾患の治療のための羊膜由来細胞に由来する神経細胞の投与を提供する。「神経学的疾患」とは、体内の神経組織の全統合系、つまり大脳皮質、小脳、視床、視床下部、中脳、橋、髄質、脳幹、脊椎、脳幹神経節および末梢神経系における任意の欠陥と関連する疾患または状態をいう。実例としてはパーキンソン病、ハンチントン病、多発性硬化症、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルーゲーリック病)、筋ジストロフィー、舞踏病症候群、ジストニア症候群、脳卒中、および麻痺が挙げられるが、これらに限定されることはない。
羊膜由来細胞は、CNSの非神経性または神経性領域への移植時にニューロンになる神経幹細胞をもたらすin vitroプライミング法に使用することができる。詳細および実例としては、US2003/0235563およびUS2004/0161419を参照されたく、これらはいずれも参照により本明細書に組み入れられる。
被験体において瘢痕組織を置き換えるかまたは組織を再構築する方法で使用できる血管内皮細胞を製造するため、羊膜由来細胞を使用することができる。血管内皮細胞は血管損傷を修復するために使用することもできる。
例示的な実施形態において、血管疾患を有する被験体を治療するため、血管内皮細胞の有効量を含む医薬組成物を使用することができる。血管疾患とは、ヒト血管系の疾患をいう。実例としては末梢動脈疾患、腹部大動脈瘤、頸動脈疾患、および静脈疾患が挙げられる。
本発明は同様に、羊膜由来細胞に由来する心筋細胞であって、心機能異常と関連するさまざまな疾患の治療のために治療的に使用できる心筋細胞を提供する。本明細書において用いられる心疾患または心機能異常とは、心臓のポンプ機能の何らかの障害から生じる疾患をいう。これには、例えば、収縮性の障害、弛緩能力の障害(拡張機能不全と呼ばれることもある)、心臓の弁の異常または不適切な機能、心臓筋肉の疾患(心筋症と呼ばれることもある)、心臓筋肉への不十分な血液供給によって特徴付けられる狭心症および心筋虚血および梗塞などの疾患、アミロイド症および血色素症、大域的または局所的肥大などの浸潤性疾患(ある種の心筋症または全身性高血圧で起こりうるものなどの)、ならびに心室間の異常な連絡(例えば、心房中隔欠損症)が含まれる。さらなる考察については、Braunwald, Heart Disease: a Textbook of Cardiovascular Medicine, 5th edition, W B Saunders Company, Philadelphia Pa. (1997) (以下Braunwald)を参照されたい。心筋症とは、心臓が異常に肥大する、肥厚する、かつ/または硬化する、心筋(心臓筋肉)のいずれかの疾患または機能異常をいう。結果として、血液を送り出す心筋の能力はたいてい減弱される。この疾患または障害は、例えば、炎症性、代謝性、毒性、浸潤性、線維症性、造血性、遺伝性、または原因不明である場合がある。心筋症には一般に虚血性(酸素の不足に起因する)および非虚血性の2つのタイプが存在する。その他の疾患としては先天性心疾患が挙げられる。これは、生まれた時から存在するものおよび多くの場合には生まれる前でさえも心臓の形成中から存在する心臓関連の問題または疾患もしくは外傷の結果として心壁中の筋肉もしくは心筋への損傷を伴う心筋障害に起因した疾患である。心筋障害は、以下に限定されないが、心筋症、心筋梗塞症、または先天性心疾患などの多くのものによって起こることがある。
羊膜由来細胞および/または分化した心筋細胞を先述のようにいずれかの方法で、心疾患に苦しむ被験体に投与および/または移植することができる。
心筋細胞の分化または機能に影響を及ぼす作用物質をスクリーニングするため、いくつかの方法も提供される。詳細および実例としては、US2003/0235563およびUS2004/0161419を参照されたく、これらは参照により本明細書に組み入れられる。
別の実施形態において、羊膜由来細胞、およびその派生物を、さまざまな化合物をスクリーニングするために使用して、細胞生育、細胞の増殖または分化に及ぼす化合物の効果を判定することができる。細胞増殖を測定する方法は当技術分野において周知であり、最も一般的には細胞複製に特有のDNA合成の判定を含む。DNA合成を測定するのに当技術分野においていくつかの方法があり、そのいずれかを本発明によって使用することができる。例えば、DNA合成は放射性標識(3H−チミジン)または免疫蛍光による検出のため標識ヌクレオチド類似体(BrdU)を用いて判定することができる。化合物の有効性は、さまざまな濃度の化合物を用いて得られたデータから用量反応曲線を作成することにより評価することができる。比較用の基準を与えるため、対照アッセイを行うこともできる。所与の試験作用物質に応答して増幅された羊膜由来細胞集団の同定は、前述のような表現型決定にしたがって行うことができる。
羊膜由来細胞の分化または機能に及ぼす試験作用物質の効果を評価するため、該作用物質を羊膜由来細胞と接触させ、分化を当業者に公知の任意の手段によって評価することができる。実例および詳細としては、US2003/0235563およびUS2004/0161419を参照されたく、これらは参照により本明細書に組み入れられる。
別の実施形態において、本明細書に記述のように調製された羊膜由来細胞組成物は、胚性幹細胞の成長用の支持細胞層として使用される。そのような羊膜由来細胞組成物は、動物質を含まないことが好ましい。そのような細胞の支持細胞層としての使用の例は、Miyamoto, K., et al. Stem Cells 2004:22:433-440の中に見出すことができ、この文献は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
創傷治癒− 本発明の組成物および方法は、切開傷、圧迫損傷、熱傷、急性損傷、慢性損傷、感染した損傷、および無菌的損傷を含むがこれらに限定されない、いくつかの原因によって引き起こされる創傷の創傷治癒を早めるうえで有効である。本発明は、未分化、部分的分化または完全分化羊膜由来細胞、その馴化培地、その細胞溶解物、その細胞外マトリックスが、単独でまたは併用で、および本明細書において定義される胎盤由来細胞の組成物が、とりわけ局所的に、すなわち創傷部位の表面に投与される場合、全ての創傷タイプの創傷治癒過程を速めることができるという発見に基づいている。羊膜由来細胞および/またはこのような羊膜由来細胞の馴化培地を用いると、全ての創傷タイプ、つまり機械的損傷または熱傷、急性創傷または慢性創傷、感染した創傷または無菌的創傷は、自然に治癒するように放置された類似の創傷または現在利用できる方法で処置された類似の創傷よりも素早く治癒する。本発明の意義の範囲内で治療薬の「治療的に有効な量」は、患者の担当医師または獣医によって判定されるであろう。そのような量は当業者によって容易に確定され、本発明によって投与された場合にいっそう早い創傷治癒を可能にするであろう。治療的に有効な量がどれほどであるかに影響を及ぼす要因としては、使用される治療薬の特異的活性、創傷タイプ(機械的損傷または熱傷、全層または部分層など)、創傷のサイズ、創傷の深さ(全層ならば)、感染の有無、負傷から経過した時間、ならびに患者の年齢、身体状態、その他の病状の存在、および栄養状態が挙げられる。さらに、患者が受けているかもしれない他の投薬は、投与する治療薬の治療的に有効な量の判定に影響するであろう。
さらに、本発明の組成物は四肢の再生におけるような、さらに実質的な創傷治癒において役割を果たすことができる。参照により本明細書に組み入れられるUS2003/0212024は、尾ヒレ(distal fin)の切断後に完全な再生の能力を示すゼブラフィッシュでの再生を測定することでそのような能力について試験する方法について記載している。切断後、完全な再生は、創傷表皮の形成、創傷表皮への線維芽細胞および骨片形成細胞(または骨芽細胞)の遊走、芽体の形成、再生ヒレの特異的構造を形成させるヒレ近位部の細胞分裂および分化を介した芽体の増殖を含め、いくつかのステップで起こる。
本発明の好ましい実施形態において、羊膜由来細胞および/またはその馴化培地、および/またはその細胞溶解物は患者においていっそう早い創傷治癒を促進するよう、創傷部位に局所的に投与されるべきである。この局所投与は単回用量としてまたは複数の指定間隔で与えられる反復用量としてであってもよい。好ましい投与レジメンは、処置される損傷の種類および重症度によって変わることを当業者は容易に理解するであろう。
本発明による局所投与に適した製剤は、治療的に有効な量の治療薬を1以上の製薬上許容される担体および/または補助剤とともに含む。羊膜由来細胞、その馴化培地およびその細胞溶解物は、コラーゲンに基づくクリーム、フィルム、マイクロカプセル、または粉末;ヒアルロン酸またはその他のグリコサミノグリカン由来の調製物;クリーム;泡状物質、縫合材料;および創傷包帯などの、創傷の処置で日常的に使用されるさまざまな材料と併用することができる。あるいは、羊膜由来細胞組成物は、局所投与向けにデザインされた製薬上許容される溶液に組み入れられてもよい。
化粧用途− 未分化、部分的分化または完全分化羊膜由来細胞、その馴化培地、その細胞溶解物、その細胞外マトリックスを作出する同じ特性により、単独でまたは併用で、および創傷治癒に有用な本明細書において定義される胎盤由来細胞の組成物により、それらは老化皮膚をはじめとする美容上の状態および/または皮膚状態の処置に同様に適切となる。皮膚の弾力性および外観の維持に重要な、皮膚の真皮層は年齢とともに薄くなり、たるみやしわを引き起こす。
前述のように、胎児の皮膚はずっと効果的な修復機構を有しており、ひとたび傷つけられると、それは瘢痕の形成なしに治癒することができる。この能力には実際、胎児の免疫系、胎児血清、または羊水が必要であるように思われる(Bleacher J C, et al., J Pediatr Surg 28: 1312-4, 1993; Ihara S, Motobayashi Y., Development 114: 573-82. 1992)。胎児の組織のそのような能力が、皮膚の外観の再生および/または改善のために胎児の組織により産生される化合物を使用することの提案につながった(例えば、US2004/0170615を参照されたく、これは参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)。
本発明は新規の化粧用スキンケア組成物の使用における、本明細書において記述される羊膜由来細胞組成物、ならびにその馴化培地、およびその細胞溶解物の使用を意図する。そのような化合物は、限定されないが、溶液、ローション、軟膏、クリーム、ゲル、または皮膚用剥離可能ストリップ(skin peelable strip)によって皮膚に送達することができる。
この方法は一般に、安全かつ有効な量の組成物をその必要性がある哺乳動物の皮膚に局所的に適用するステップを含む。さらなるスキンケア組成物、および化粧上許容される、皮膚科学上許容されるまたは製薬上許容される担体がそのような組成物に含まれてもよい。
化粧用組成物は、通常、1以上の増粘剤またはゲル化剤を用いて、ゲル化された(すなわち、粘性を高められた)水相を含む。これらは、例えば、油相を含有しない水溶液であるローション、または水連続相中に分散された脂肪相もしくは油相を含む直接的な水中油型乳濁液とすることができる乳濁液、または油連続相中に分散された水相を含む油中水型の逆乳濁液とすることができる。用語「乳濁液」とは、本明細書において乳化性界面活性剤の非存在下において得られる分散液と乳化性界面活性剤の存在下において得られる乳濁液の両方を意味する。
水中油型の乳濁液は皮膚に適用された際、連続外部相中の水の存在によって、油中水型の乳濁液系よりも柔らかく、脂っぽくなく、さわやかで軽い感触を与えるという事実により化粧品に最も多く求められる乳濁液である。
水相をゲル化するのに使われる化合物の性質および組成物中でのその含量は、所望とされる類の質感に応じて選択され、これは流動的なローションから、乳液またはクリームを構成しうる多少濃厚な乳濁液までの範囲とすることができる。化粧品に使われる主な増粘剤またはゲル化剤は以下の化合物、天然高分子、例えばキサンタンガムおよびグアーガムまたはセルロース誘導体、デンプンおよびアルギン酸塩ならびに架橋ポリマーゲル化剤、例えばカルボポール(Carbopols)または架橋されかつ少なくとも部分的に中和された2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ポリマーから選択される。
難聴− 未分化、部分的分化または完全分化羊膜由来細胞、その馴化培地、その細胞溶解物、その細胞外マトリックスを、単独でまたは併用で、および本明細書において定義される胎盤由来細胞の組成物を難聴を治療するために使用することもできる。これまで、難聴は、蝸牛の感覚細胞である有毛細胞が再生しないため治癒不能と考えられてきた。しかしながら、最近になって、胚性幹細胞も成体幹細胞も機械受容(mechanosensory)有毛細胞に分化できることが示されている(Li, H. et al. Nature Med. 9:1293-1299 (2003); Li, H. et al. Proc. Natl. Acad. Sci USA 100:13495-13500)。さらに、Atoh1遺伝子治療を用いて表現型の継代(phenotypic transgeneration)を促進し、このようにして聴覚障害のある哺乳動物における非感覚細胞からの有毛細胞の生成を促進している(Izumikawa, M. et al. 2005 Nature Medicine 11(3):271-276)。さらに、モルモットの内耳に移植されたヒト羊膜上皮細胞は、最大3週間まで生存し、恒常性を維持しうる極めて重要なタンパク質を発現することが示されている(Yuge, I. et al. (2004):77(9)1452-1471)。
羊膜由来細胞を分化させる方法および分化細胞タイプ
羊膜由来細胞を、肝細胞、膵細胞、血管内皮細胞、筋肉細胞、心筋細胞および神経細胞などの特定の細胞タイプへのそのような幹細胞の分化に影響を与える種々の成長因子(分化因子と呼ばれる)と接触させることができる。例えば、US2003/0235563およびUS2004/0161419を参照されたく、これらの内容は参照により本明細書に組み入れられる。
文献には胚ならびに非胚性幹細胞または幹細胞をはじめとするその他の多能性細胞に関するさらなる分化プロトコルが充実している。例えば、米国特許第6,607,720号および同第6,534,052号では、胚性幹細胞および遺伝子改変された胚性幹細胞を用いて心臓機能を改善する方法について記述しており、この場合には心臓機能の改善および心臓組織の修復のために、分化が惹起されている。米国特許第6,387,369号では、間充織幹細胞による心臓組織および筋肉の再生の方法を提供している。Shin,S.らは塩基性線維芽細胞成長因子、ソニックヘッジホッグタンパク質、およびレチノイン酸の組み合わせを用いた胚性幹細胞の運動ニューロンへの分化を最近になって報告している(Human motor neuron differentiation from human embryonic stem cells. Stem Cells Dev. 2005 Jun; 14(3):266-9)。これらの参考文献は全てその全体が本明細書に組み入れられる。これらのプロトコルのいずれかを本明細書において記述される羊膜由来細胞組成物に適用して、そのような使用のために部分的にまたは完全に分化した細胞を製造できることを当業者は認識するであろう。その他の例示的なプロトコルを以下に記載する。
内胚葉(膵臓分化)
羊膜由来細胞を、PDX1を発現する膵前駆細胞集団の分化条件に曝露する。手短に言えば、細胞を最初にソニックヘッジホッグ(SHh)シグナル伝達経路のアンタゴニストに曝露して、内胚葉分化を促進する。早期の膵前駆細胞へのその後の分化は、細胞成長の停止、分化細胞の凝集、および早期膵決定遺伝子の発現を促進する因子および条件の組み合わせを用いて達成される。細胞をRNAを目的に回収し、Sox−17およびPDX1について逆転写酵素PCR(RT−PCR)によって分析する。
中胚葉(心臓分化)
懸濁培養から採取された細胞のクラスターを血清入りの培地(80%KO−DMEM、1mMグルタミン、0.1mM β−メルカプトエタノール、1%非必須アミノ酸、および20%FBS)中、8日間ゼラチンまたはポリ−L−リジンコーティングプレートに移す。この培養の2〜4日目に、1または10μM 5−アザ−2’−デオキシシチジンを培地に加える(Xu, C. et al. (2002) Circ. Res. 91:501-508)。分析を8日目に行う。細胞をRNAを目的に回収し、GATA−4、Nkx2.5およびMEF−2について逆転写酵素PCR(RT−PCR)によって分析する。これらの転写因子は心臓前方の中胚葉において発現されており、心臓発達において持続している。
外胚葉(神経分化)
クラスターを大規模な装置から取り出し、超低接着性6ウェルプレートに移す。以下のように分化のためヒト胚性幹細胞に関するCarpenter, M.K. et al. (2001) Exp Neurol 172:383-397に記述の分化プロトコルに従う。10mMオールトランス型レチノイン酸(RA)を、これらのクラスターを懸濁状態で含有する培地(80%KO−DMEM、1mMグルタミン、0.1mM β−メルカプトエタノール、1%非必須アミノ酸、および20%FBS)に加える。懸濁状態で4日後、クラスターを分化培地(B27(Gibco)、10ng/mlヒト上皮成長因子(hEGF)、10ng/mlヒト塩基性線維芽細胞成長因子(hbFGF)(Gibco)、1ng/mlヒト血小板由来成長因子−AA(hPDGF−AA)(R & D Systems)、および1ng/mlヒトインスリン様成長因子−1(hIGF−1)(R & D Systems)入りのDMEM/F−12)中、ポリ−L−リジン/フィブロネクチンコーティングプレートに3日間蒔いておく。これらの条件下にて3日後に、細胞をRNAを目的に回収するかまたは固定する。固定細胞をネスチン、ポリシアル酸神経細胞接着分子(PS−NCAM)、およびA2B5について免疫染色する。RNAをネスチン、GFAPおよびMAP−2について逆転写酵素PCR(RT−PCR)によって分析する。
羊膜由来細胞に由来する分化細胞は、細胞表面マーカーの場合にはフローイムノサイトケミストリー法、細胞内または細胞表面マーカーの場合には(例えば、固定細胞または組織切片の)免疫組織化学法、細胞抽出物または培地中に分泌された産物の場合には、細胞抽出物のウエスタンブロット分析法、および酵素結合免疫アッセイ法などの、免疫学的技法による組織特異的マーカーの検出によって検出および/または濃縮することができる。組織特異的な遺伝子産物の発現は同様に、ノザンブロット分析、ドットブロットハイブリダイゼーション分析により、または標準的な増幅方法において配列特異的なプライマーを用いた逆転写酵素開始のポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によりmRNAレベルで検出することができる。
あるいは、分化細胞は選択マーカーを用いて検出してもよい。例えば、羊膜由来細胞を一例として組織特異的な調節領域の制御下にあるマーカーで安定にトランスフェクトし、その結果、分化の間に、該マーカーが特異的細胞において選択的に発現され、それによって該マーカーを発現しない細胞に対して特異的細胞の選択を可能にすることができる。該マーカーは、例えば、細胞表面タンパク質またはその他の検出可能なマーカー、または抗生物質耐性遺伝子などの、マーカーの非存在下において細胞が死滅する条件に対して細胞を耐性にしうるマーカーとすることができる(例えば、米国特許第6,015,671号を参照のこと)。
膵前駆細胞
本発明の別の実施形態において、細胞を、それらが膵前駆細胞に分化するように処理する。この実施形態において、HNF1α、HNF1β、HNF4α、HNF6、Fox2aおよびPDX1のタンパク質発現を含むがこれらに限定されない、内胚葉の識別的特徴を有する膵細胞を得るため、羊膜由来細胞、非インスリン産生性の胚細胞、新生児細胞または胎児細胞を、シクロパミンまたはジェルビンなどのSHhアンタゴニストを含む無血清培地中で培養する。細胞を基礎培地中での培養後にそのような培地中で培養することができる。
核でPDX1タンパク質を発現する本発明の膵前駆細胞は同様に、SHhアンタゴニストを含む培地中での細胞の培養によって得ることができる。細胞をその次にTAT−PDX1融合タンパク質を含む培地中で培養することができる。TAT−PDX1を得るための手順を以下に記述する。好ましい実施形態において、本発明の組成物、培養物または集団中の少なくとも20%の細胞が核でPDX1タンパク質を発現する。他の実施形態において、本発明の組成物、培養物または集団中の少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%の細胞が核でPDX1タンパク質を発現する。特定の好ましい実施形態において、100%の細胞が核でPDX1タンパク質を発現する。
本発明の細胞の組成物、培養物または集団は、懸濁状態でまたは接着性マトリックスもしくは基材などの、固体支持体にて培養することができる。そのような固体支持体の詳細は上述されている。1つの実施形態において、細胞の組成物をマトリゲル層にて培養する。マトリゲル(Collaborative Research,Inc.,Bedford,Mass.)は、主にラミニン、IV型コラーゲン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、ならびにニドジェン(nidogen)およびエンタクチン(entactin)からなる、マウス基底膜タンパク質の抽出物として得られるマトリックスおよび関連物質の複合混合物であり、EHS腫瘍から調製された(Kleinman et al, (1986) Biochemistry 25: 312-318)。Humatrixなどの、他のそのようなマトリックスが提供されうる。同様に、天然細胞および組換えにより操作された細胞が本発明の培養物に対する支持細胞層として提供されうる。別の実施形態において、培養容器を、フィブロネクチン、スーパーフィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、およびヘパリン硫酸プロテオグリカンを含むが、これらに限定されない、1以上の細胞外マトリックスタンパク質でコーティングする。
別の実施形態において、本発明の前駆細胞を3次元マトリックスの存在下で培養する。そのような3次元マトリックスの例は、上記に詳細に記述されている。
膵前駆細胞核− 本発明はさらに、本発明の膵前駆細胞の核を対象とする。これらの細胞の核は当技術分野において公知の方法を用いて得ることができる。これらはヒアルロニダーゼを用いた処理または核をピペットで機械的に抽出し、核が除去されている別のまたは類似の細胞にこれを挿入することにより行われるような、機械的破砕または化学的手段のいずれかによって細胞から膜を除去することを含む。
この核をその後、例えば、US20030234430またはUS20040268422に記述されているように当技術分野において公知の方法を用いて、例えば、細胞質内注入、化学的融合または電気的融合により体細胞または生殖細胞に移入することができる。
特定の実施形態において、これらの核を用い治療的クローニングを行って、内胚葉またはその他の細胞分化に使用できる細胞を得ることができる。さらに特定の実施形態において、この核を用いて胚性幹様細胞を得ることができる。治療的クローニングに関する詳細は前に述べられている。
レシピエント細胞は生殖細胞に加えて、任意の哺乳動物細胞であってもよい。1つの実施形態において、哺乳動物細胞はドナー核を受ける前に除核される。別の実施形態において、哺乳動物細胞はドナー核を受ける前に除核されない。この実施形態において、レシピエントとドナーの両方の核がレシピエント細胞に存在する。核は融合してもよくまたはそれらは別々のままであってもよい。レシピエントとドナーの両方の核が存在することが望ましい場合は、その目的がレシピエント細胞の組織特異的な機能性を維持しながらもドナー細胞の組織特異的な機能性をレシピエント細胞に与えることである場合である。その他の組み合わせが本発明の範囲内であることを当業者は認識するであろう。
膵細胞の検出− 前述の本発明の膵細胞は、HNF1α、HNF1β、HNF4α、HNF6、Foxa2、PDX1、Nkx2.2、Nkx6.1、Sox17、Cerberus、Hesx1、LeftyA、Otx1および/またはOtx2、インスリン、ヒトC−ペプチド、ソマトスタチンならびにislet−1などの、さまざまなマーカーの有無を検出することにより本発明の細胞の組成物、培養物または集団において検出することができる。1つの実施形態において、HNF1α、HNF1β、HNF4α、HNF6、Foxa2、PDX1、Nkx2.2、Nkx6.1、Sox17、Cerberus、Hesx1、LeftyA、Otx1および/もしくはOtx2、インスリン、ヒトC−ペプチド、ソマトスタチンまたはislet−1の断片を該マーカーのRNA転写を検出するためのプローブまたはプライマーとして使用することができる。該マーカーはノザンブロット分析により、例えば、細胞から単離された総RNAまたはポリA RNAのいずれかを長さが10〜500ヌクレオチドの、好ましくは長さが20〜200ヌクレオチドの、より好ましくは長さが20〜100ヌクレオチドのおよび最も好ましくは長さが20〜50ヌクレオチドのプローブおよびプライマーとハイブリダイズし、アガロースゲル電気泳動に供することにより検出することができる。あるいは、これらの断片を長さが約10〜100ヌクレオチドのRT−PCRプライマーとして用いて、細胞から単離されたRNAを増幅することができる。そのような分析に適した細胞は、ヒト組織から単離された細胞を含む。プライマーによる増幅を行うための方法(ルーチンまたはロングレンジPCR)は、当技術分野において周知である(例えば、PCR Basics: From Background to Bench, Springer Verlag (2000); Gelfand et al., (eds.), PCR Strategies, Academic Press (1998)を参照のこと)。そのようなプローブは長さが20〜5000ヌクレオチドとすることができ、好ましくは長さが20〜50ヌクレオチドとすることができる。
あるいは、上記のマーカーはRIA、ELISA、ウエスタンブロットまたは免疫細胞化学的技術において該マーカーに対する抗体を用いて検出することができる。本発明はしたがって、2以上の上記のマーカーに結合する抗体を含むキットを対象とする。
TAT−PDX1融合タンパク質− 本発明は同様に、PDX1タンパク質を膵前駆細胞の核内に含む該前駆細胞を得るために培地中で使われるTAT−PDX1融合タンパク質に関する。TAT−PDX1は下記式を有する:
式中TATは、自己細胞透過特性を有するTATペプチドである。TATペプチドは1型ヒト免疫不全ウイルスに由来し、細胞膜を通り抜けて容易に細胞内に入り込むことができる。この特性はTATペプチド配列の中央領域のタンパク質導入ドメインによるものであると考えられる。R1はグルタミン、リジン、アルギニンおよび/またはグリシンの側鎖とすることができ、nは4〜12の整数である。
具体的な実施形態において、TATペプチドはArg−Lys−Lys−Arg−Arg−Gln−Arg−Arg−Arg;Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys;またはArg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Argとすることができる。
PDX1はホメオドメイン含有タンパク質であり、β細胞におけるインスリン遺伝子転写および膵島発達の主要な調節因子であると考えられる(Inoue et al., 1996, Diabetes 6:789-794)。それは以下のアミノ酸配列を有し:
かつ、以下のヌクレオチド配列によってコードされる:
全PDX1配列を本発明の融合タンパク質において使用することができる。あるいは、PDX1活性(例えば、インスリン転写の調節、PDX1転写の調節、Nkx2.2転写の調節)を有するPDX1の断片を使用することができる。そのような断片の非限定的な例は、ホメオボックスドメインを包含するかつ下記配列を含むペプチド配列であろう:
NKRTRTAYTRAQLLELEKEFLFNKYISRPRRVELAVMLNLTERHIKIWFQNRRMKWKKEE
PDX1ペプチドは、タンパク質の折り畳みおよび/もしくは活性にあまり影響を及ぼさない同類アミノ酸置換;典型的には1から約30アミノ酸の、小さな欠失;アミノ末端のメチオニン残基などの、小さなアミノ末端もしくはカルボキシル末端の伸張;最大約20〜25残基までの小さなリンカーペプチド;またはポリヒスチジン配列(poly-histidine tract)、抗原エピトープもしくは結合ドメインなどの、正味荷電もしくは別の機能を変化させることで精製を容易にする小さな伸張を含有することができる。同類置換の例は、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジンおよびヒスチジン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸およびアスパラギン酸)、極性アミノ酸(グルタミンおよびアスパラギン)、疎水性アミノ酸(ロイシン、イソロイシンおよびバリン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシン)、ならびに小アミノ酸(グリシン、アラニン、セリン、トレオニンおよびメチオニン)の群の範囲内である。特異的な活性をほとんどの場合に変化させないアミノ酸置換は当技術分野において公知であり、例えば、H. Neurath and R.L. Hill, 1979, In, The Proteins, Academic Press, New Yorkにより記述されている。最もよく行われる交換は、Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Tyr/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Valおよび逆順のこれらである。あるいは、PDX1をコードするヌクレオチド配列は、サイレントな置換、付加、または欠失をもたらす変化であるが、コードされるポリペプチドの特性または活性を変えることのない変化を含むことができる。遺伝暗号の縮重に起因するサイレントな置換によって作出されるヌクレオチド変異体が好ましい。
融合タンパク質またはペプチドは組換えDNA法を用いて得ることができる。例えば、PDX1またはPDX1ペプチドをコードする核酸配列は、TATペプチドをコードする核酸配列を含有するベクターに挿入することができる。特定の実施形態において、TAT配列はPCRにより得られ、例えば、pETベクター、または融合タンパク質を発現できるその他のタンパク質発現ベクターに挿入される。融合タンパク質はHPLCおよびカラムクロマトグラフィーなどの、当技術分野において公知の手順を用いて発現され、単離され、精製される。
あるいは、融合タンパク質は、ペプチド合成用の有機合成機(organosynthesizer)を用いて固相合成によって生成することができる。この方法はメリフィールドの固相ペプチド合成である(J. Am. Chem. Soc. 85, 2149-2154(1963))。ペプチドは活性化後の固体支持体樹脂に付着されたペプチド鎖のアミノ末端にαアミノ保護アミノ酸を連続的にカップリングさせることにより合成される。合成後、ペプチドを樹脂から切り出し、保護基をトリフルオロ酢酸(TPA)などの試薬で除去する。ペプチドをろ過、遠心分離、またはジエチルエーテルでの抽出によりTFA溶液から分離し、これを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)またはその他の方法により精製することができる。
さらに、その他のTAT融合タンパク質を作出することができる。例えば、TAT−PDX1、TAT−Hblx9、TAT−Ngn3、TAT−p48、またはTAT−Foxa2を本発明の方法の実施において用いることができる。そのような融合タンパク質は上記の方法を用いて作出することができる。
膵前駆細胞の使用− 本発明の膵前駆細胞およびその組成物は、不十分な機能の膵臓と関連するさまざまな疾患の治療のため治療的に使用することができる。本明細書において用いられる場合、用語「膵疾患」とは、膵癌、インスリン依存性(1型)糖尿病(IDDM)およびインスリン非依存性(2型)糖尿病(NIDDM)などのインスリン欠乏性障害、C型肝炎感染症、外分泌および内分泌膵臓疾患を含むことができるが、これらに限定されない。
本発明の前駆細胞を用いて、膵部分切除、例えば、一部の膵臓の切除後の修復のため分化した膵細胞の集団を作出することができる。同様に、そのような細胞集団を用いて、膵炎、例えば、組織への酵素の漏れによって引き起こされる膵組織の自己消化による状態などの、膵組織崩壊、例えば、膵組織の破壊による膵組織消失を再生するかまたは元に戻すことができる。膵細胞は、膵臓の中にもしくは以下に限定されないが、肝臓、門脈、脾臓、乳腺、腎臓などの、異所にまたは腸の位置にもしくは近傍に移植することができる。1つの実施形態において、本発明の細胞は皮下に投与することができる。
投与の方法は、インスリンを産生する分化β膵島細胞を移植可能な中空繊維の中に封入することを含む。そのような繊維は予め繊維状にされてから、本発明の分化β膵島細胞を添加されてもよく(米国特許第4,892,538号; 米国特許第5,106,627号; Hoffman et al. Expt. Neurobiol. 110:39-44 (1990); Jaeger et al. Prog. Brain Res. 82:41-46 (1990); およびAebischer et al. J. Biomech. Eng. 113:178-183 (1991)を参照のこと)、またはβ膵島細胞周囲に高分子コーティングを形成する役割を果たす高分子と同時に押出してもよい(米国特許第4,391,909号; 米国特許第4,353,888号; Sugamori et al. Trans. Am. Artif. Intern. Organs 35:791-799 (1989); Sefton et al. Biotechnol. Bioeng. 29: 1135-1143 (1987); およびAebischer et al. Biomaterials 12:50-55 (1991))。
本発明の細胞を遺伝子操作して、特定の治療用タンパク質を産生させることができる。本明細書において用いられる場合、用語「治療用タンパク質」とは、成長因子、酵素、ホルモン、サイトカイン、サイトカインインヒビター、血液凝固因子、ペプチド成長因子および分化因子を含むが、これらに限定されない、幅広い生物学的に活性なタンパク質を含む。特定の分化細胞が、特定の細胞タイプによって通常発現されるタンパク質を用いて遺伝子操作されてもよい。特定の実施形態において、膵細胞を遺伝子操作して、消化酵素を産生させることができる。
当業者に周知である方法を用いて、適切な転写/翻訳制御シグナルに連結された対象となるタンパク質をコードする核酸を含有する発現ベクターを構築することができ、上記にさらに詳細に記述されている。
本発明の膵前駆細胞ならびに組成物、集団および培養物を用いて、膵細胞に及ぼす毒性効果が検出されるのに十分な時間、本発明の細胞を適切な量の試験作用物質と接触させ、試験作用物質が膵細胞に毒性効果を及ぼすかどうかを判定することにより、試験作用物質が膵細胞に有害であるかどうかを判定することができる。
羊膜由来細胞から分化した膵前駆細胞を用いて、動物臓器をヒト化することもできる。ヒト羊膜由来細胞は同じように、膵臓または脳または心臓などの別の臓器に移植することができる。動物臓器は移植前にそのもともとの細胞が除去されても除去されなくてもよい。
本発明の方法および組成物の作成法および使用法についての完全な開示および説明を当業者に提供するために、以下に実施例を記載する。該実施例は、発明者らが自らの発明と見なす範囲を限定するためのものではない。使用される数値(例えば、量、温度、等)に関して正確さを保証する労力が施されたが、いくらかの実験誤差および偏差が釈明されるはずであろう。特に指定しない限り、割合は重量に基づく割合であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏温度であり、気圧は大気圧または大気圧付近である。
実施例1:羊膜由来細胞組成物の調製
羊膜由来細胞の回収− 分散剤PXXIII、およびトリプシンを使用して、出発羊膜から羊膜由来細胞を分散させた。羊膜の平均重量範囲は18〜27gであった。羊膜1gあたりの回収細胞数は、PXXIIIでの分散では約10〜15×106個であり、トリプシンでの分散では5〜8×106個であった。
培養条件− 以下の培地中で初代羊膜由来細胞を5回継代培養した:Stemline II+10%FBS、Stemline II+10%プラスブミン(pb)、Ultraculture +10%プラスブミン(pb)、およびDMEM+10%FBS。初代細胞の回収に使用された酵素に応じて、1500万細胞/g羊膜、1000万細胞/g羊膜、および500万細胞/g羊膜を使用して各培養条件を試験した。例えば、PXXIIIを使用して、1500万細胞/g羊膜を取得し、トリプシンを使用して、1000万細胞/g羊膜を取得し、他の酵素では回収がさらに少なかった(500万細胞/g羊膜)。
継代− 以下のように細胞を5回継代した:細胞を、培養フラスコ(組織培養処理プラスチック上)に付着させて培養した。その細胞を分裂させて生育させた。動物質を含まないGMPグレードのトリプシン様製品である「tryple」(Gibco)を使用して、細胞をプラスチックからはがした。はがした後、細胞を遠心分離し、細胞ペレットを取り出し、タンパク質および添加物(10ng/ml EGF)を含む培養培地に再懸濁し、新しいフラスコ上に再プレートした。37℃および5%CO2で加湿雰囲気中で細胞を培養した。
結果 結果を以下の表1に示す。データは、羊膜由来細胞×10
6/1グラムの羊膜として報告する。
結果は、プラスブミン(pb)またはアルブミンが添加されているStemlineまたはUltracultureを使用すると、初代培養が、従来の方法論(ウシ胎児血清を含むDMEM)を使用して取得されるよりも少なくとも4倍で、10倍にもおよぶ高いレベルにまで増殖したことを示す。基本培地DMEM中でプラスブミン(pb)を使用した場合でさえ、羊膜由来細胞組成物が増殖し、ウシ胎児血清を含むDMEMを使用する従来法と比較して、多分化能の細胞が3倍増加した。
別の顕著な観察結果は、プラスブミンを含有する培地中で培養された細胞が継代後に球状の表現型を示したことであった。消化酵素を用いて羊膜由来細胞を組織培養表面からはがし、再プレートすると、羊膜由来細胞は細胞の小さいクラスターを形成し、それは培養表面に強く付着してはいなかった。いくつかの細胞クラスターは完全に懸濁状態であった。これらの羊膜由来細胞クラスターは、クラスター中に200個までの細胞が存在するまで増殖した。1〜5日の期間後、細胞クラスターは再付着し、平らになって付着性単層を形成した。このクラスター形成表現型は各継代時点で観察された。追加の研究では、組換えヒトアルブミン、プラスブミン、またはプラズマネート(plasmanate)を含有する以下の培地:OptiPRO SFM、VP-SFM、Iscove's MDM、HPGM、UltraMDCK、Stemline IIおよびStemline I、DMEM、およびDMEM:F12中でそのようなクラスター形成が生じるが、Advanced DMEM、Knockout DMEM、293 SFM II、Pro 293S-CDM、Pro 293A-CDMまたはUltracultureVP-SFM中では生じないことが示された。
実施例2:スピナーフラスコ中のマイクロキャリアビーズ上での羊膜由来細胞のスケールアップ
方法− 懸濁培養中で細胞を維持するための最も一般的で古い技術の1つは、スピナーフラスコの使用に基づく。細胞を、マイクロキャリアビーズに付着させる(付着性)か、あるいは表面付着が全くない状態で完全に成長させる(非付着性)ことができる。いずれの場合も、これらのフラスコは、培地の継続的撹拌を可能にする磁気撹拌機構および細胞を滅菌条件下で含有する滅菌容器からなる。この継続的撹拌によって栄養の拡散が促され、培地の酸素添加が促進され、濃度勾配が排除される。温度制御CO2インキュベーター中でその容器を撹拌する。
羊膜由来細胞は上皮細胞タイプである。上皮細胞タイプは足場依存性であり、それによって純粋な懸濁系へのその順応が妨害されるか、あるいは妨げられることがある。羊膜由来細胞は懸濁培養中で生存するかもしれないが、付着用の基質が全くないとこれらの細胞の増殖は最適ではないかもしれず、ならびに/あるいは、懸濁液中の多数の細胞は予備的分化を行うかもしれない。3次元の系中で細胞を培養する能力を維持しながら、この問題に対処する1つの方法は、マイクロキャリアビーズ上で細胞を培養することである。マイクロキャリアは、典型的に、小さな(直径30〜1000μm)ガラス、ポリスチレンまたはデキストランビーズであり、付着を増強するよう表面処理されている。そのマイクロキャリアは、細胞が付着する対象となる表面積が非常に大きいとの利点を提供し、最小容量の培地中で非常に高密度での培養を可能にする。例えば、乾燥重量1グラムの典型的なマイクロキャリアは2000cm2の表面積に等しい。細胞培養培地中の少数のマイクロキャリアは、かなりの数の足場依存性細胞の成長を支持することができる。
付着培養:3つの異なる胎盤から単離された羊膜由来細胞を、マイクロキャリアビーズを含むスピナーフラスコ(付着細胞)または通常のT型フラスコ(対照の静的付着細胞)中に入れ、37℃にて空気中5%CO2でインキュベートした。その細胞およびビーズを、66×106細胞あたりビーズ1gの割合でスピナーフラスコ中に播種した。10×106細胞を各T型フラスコ中にプレートした。定期的に、Guava PCA-96 Personal Cell Analyzer(ViaCount package)を使用して、細胞をカウントし、生存度を評価した。この分析には、20μlのサンプルしか使用しなかった。1mlあたりのトータルおよび生細胞数のグラフを時間とともにブロットして、細胞が、培養期間中、分裂し、かつ生存可能なままでありうることを確かめた。
結果− すべての3実験で、羊膜由来細胞が少なくとも1.5倍の播種密度に増殖可能であることが示され、ゆえにマイクロキャリアビーズスピナーフラスコ培養法が静置培養の実施可能な代替法であることが実証された。
実施例3:懸濁液中の羊膜由来細胞組成物のスケールアップ
超低付着性組織培養6ウェルプレート(Corning)中で種々の哺乳動物細胞培養培地中で羊膜由来細胞を培養した。これらの培養培地は、懸濁培養中で他の哺乳動物細胞タイプの増殖を促進するそれらの能力に基づいて選択された(すなわち293S、Ultraculture、Opti-MEM)。これらの実験での培養培地に対する添加物には、専売のタンパク質供給源、およびEGF(10〜20ng/ml)が含まれ、それは羊膜由来細胞の増殖に必要とされることが予備実験で示されている。羊膜由来細胞を1.3×106細胞/ウェルの密度でプレートし、37℃にて空気中5%CO2中で培養を維持した。培養培地を1日おきに交換し、細胞数を毎週評価した。予備実験では、羊膜由来細胞が懸濁培養条件で小さな浮遊クラスターを形成することがあることが示された。これらのクラスターを分散させて正確な細胞数を保証する必要があり、それはカウント前にトリプシン中で5〜10分間培養物をインキュベートすることによって達成された。Guava PCA-96 Personal Cell Analyzer(ViaCount package)を使用して、細胞をカウントし、生存度を評価した。この分析には、20μlのサンプルしか使用しなかった。1mlあたりのトータルおよび生細胞数のグラフを時間とともにプロットして、細胞が、培養期間中、分裂し、かつ生存可能なままでありうることを確かめた。細胞を1.3〜1.5×106細胞/ウェルで二次培養(subcultured)した。増殖が停止するまで培養を維持した。対照付着培養を組織培養処理6ウェルプレート上で維持し、付着および懸濁培養間で増殖率を比較した。37℃にて空気中5%CO2中で培養を維持した。付着細胞の継代は集密状態で実施した。付着培養をトリプシン処理し、洗浄した後、1.3×106細胞/ウェルで再プレートした。各継代時点で付着細胞中の細胞数および生存度を測定した。組織による変動を明らかにするために5つの異なるドナー組織に対して培養培地を試験した。
結果:5つの被験胎盤のうち、4つが、すべての試験条件下で少なくとも20日を通して、少なくとも2倍の増殖を示し、したがって、非付着性静置培養法がマイクロキャリアビーズまたは付着性フラスコ培養の実施可能な代替法であることが実証された。
実施例4:さらに大規模な増殖を促進するための成長因子添加物の添加
6ウェルプレート中で懸濁培養をサポートする培養培地の選択後、懸濁培養条件中でさらに大規模な増殖を促進する種々の成長因子添加物を試験する。これらの成長因子としては、EGF、IGF−1、IGF−II、αFGF、αFGF−h、βFGF、FGF−4、FGF−8、KGF、SCF、Fsk、SHh、Prog、Wnt−1、CT、VPAが挙げられる。これらの因子および、細胞増殖を促進するか、あるいはアポトーシスまたはアノイキス(anoikis)を減少させることが知られている他の因子を、懸濁培養中で種々の濃度で試験して、増殖に対するそれらの効果を測定する。追加の試験を実施して、これらの因子が分化を促進したり、あるいは細胞の分泌プロファイルを変化させたりしないことを保証する。
実施例5:スピナーフラスコまたはローラーボトル中でのマイクロキャリアに付着させない羊膜由来細胞の培養
EGF以外の成長因子を添加するか、または添加しない場合の懸濁液中での羊膜由来細胞の増殖をサポートする培養培地の選択後、撹拌型バイオリアクター中で細胞の増殖を評価するための実験を実施する。羊膜由来細胞をスピナーフラスコ中に入れる(懸濁細胞;3×105細胞/ml)。T型フラスコ中で培養された付着細胞を対照として使用する(付着細胞;1.3×105細胞/cm2)。37℃にて空気中5%CO2中ですべての培養をインキュベートした。スピナーフラスコを使用前にSigmacote(Sigma-Aldrich)で処理して、細胞がガラスに付着することを防ぐ。フラスコを磁気撹拌プレート上に置いて撹拌する。毎日、クラスIIバイオセーフティキャビネット中で各スピナーフラスコから細胞サンプルを取り出し、Guava PCA-96 Personal Cell Analyzer(ViaCount package)を使用して細胞数をカウントし、生存度を評価する。複数のスピナーフラスコを使用することにより、実験あたりの各条件を2回または3回反復して使用することが可能になる。
スピナーフラスコ系の難題の1つは、細胞が、回転羽根(rotating impeller)によって生じる剪断力(sheer forces)にさらされることである。スピナーフラスコのさらに穏やかな代替法は、ローラーボトル中で細胞を培養することである。組織培養処理ローラーボトル(1.2L;Corning)をポリメタクリル酸2−ヒドロキシエチル(Poly-Hema)で前処理して、細胞の付着を防ぐ。30〜40×106個の羊膜由来細胞を含有するローラーボトルをローラーボトル装置(Integra Biosciences)上に配置する。隔週ベースで細胞をサンプリングし、上記のように生存度および増殖に関して評価する。
実施例6:モノクローナル抗体の作製
一実施形態では、以前に5日までの間、好ましくは1〜2日間培養された羊膜由来細胞でBalb/cマウスを免疫化する。本実施形態では、付着細胞および非付着細胞の両者を培養から回収し、マウスの免疫化に使用する。別の実施形態では、5日までの間、好ましくは1〜2日間の培養後に、付着細胞のみを回収し、マウスの免疫化に使用する。別の実施形態では、5日までの間、好ましくは1〜2日間の培養後に、非付着細胞のみを回収し、マウスの免疫化に使用する。免疫化の4〜6週後、脾臓を取り出し、当技術分野において公知の技術を使用して脾臓細胞をマウス骨髄腫細胞株であるSP2/0-Ag14に融合させ、生存可能なハイブリドーマ細胞を作製する。1000個ものハイブリドーマを増殖させ、モノクローナル抗体の発現に関してスクリーニングし、羊膜由来細胞上の細胞表面タンパク質マーカーに対するそれらの比反応性に関してさらに試験してよい。抗体サンプルをフローサイトメトリーによって分析し、市販の抗体とともに使用して、羊膜由来細胞上の特有のタンパク質マーカーを特定する。ゆえに、本発明は、本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマならびに該モノクローナル抗体に関する。
実施例7:羊膜由来細胞表面タンパク質マーカーと反応する抗体
羊膜由来細胞の表面上の羊膜由来細胞タンパク質マーカーと反応するモノクローナル抗体を使用して、細胞集団を、実質的に精製された羊膜由来細胞集団に分離することができ、該モノクローナル抗体は、実質的に精製された各羊膜由来細胞集団をその幹細胞特性に関して特徴付けするのに有用である。本発明のモノクローナル抗体を使用して、該実質的に精製された羊膜由来細胞集団に特有の幹細胞タンパク質マーカーを単離することができる。新規に特定されたタンパク質マーカーを使用して、該タンパク質をコードする核酸配列を単離することができる。ゆえに、本発明は、羊膜由来細胞上の特有のマーカー、その単離されたタンパク質マーカー、そのタンパク質マーカーをコードする単離された核酸、ならびに哺乳動物細胞、例えばCHO、COS、等にトランスフェクトしたとき、そのタンパク質マーカーの発現が可能な発現ベクターに関する。本発明は、さらに、ベクター増殖用の、該ベクターを保持する細菌細胞に関する。
さらに、本発明は、公知の抗体を使用して、実質的に精製された羊膜由来細胞集団であって、該実質的に精製された集団の識別的特性として有用なマーカーの特有の組み合わせを有する集団を特定および作製することを意図する。このマーカーの特有の組み合わせを使用して、それらの特性を有する実質的に精製された羊膜由来細胞集団を単離、特徴付け、精製または作製することができる。
本明細書中に記載のすべての細胞の特徴付けは、新たに単離された羊膜由来細胞を使用して行われた。当業者は、マーカーの発現パターンが、培養条件および培養中の時点に応じて変動することを認識するであろう。例えば、本明細書中に記載の、増殖させた本発明の集団中で観察されるタンパク質マーカー発現パターンは、新たに単離された羊膜由来細胞中で観察されるものと異なるかもしれない。さらに、当業者は、所望の羊膜由来細胞集団を取得するために、細胞を抗体と接触させる順序は重要ではないことを認識するであろう。表2は、胎盤の羊膜から新たに単離された羊膜由来細胞のFACS解析の結果を示す。単独で、あるいは組み合わせて使用される抗体は、実質的に精製された羊膜由来細胞集団を特定、単離、特徴付けまたは作製するために有用であるかもしれない。好ましい一実施形態は、実質的に精製された羊膜由来細胞集団を特定、単離、特徴付けまたは作製するために、抗CD90および抗CD117抗体を使用することである。実質的に精製された羊膜由来細胞集団を特定、単離、特徴付けまたは作製するための他の好ましい実施形態は、以下のステップを含む:細胞を抗CD90、抗CD117、および抗CD105抗体と接触させるステップ;細胞を(i)抗CD90、抗CD117、および抗CD105抗体ならびに(ii)抗CD140b、抗CD34、抗CD44、および抗CD45抗体からなる群より選択される少なくとも1種の抗体と接触させるステップ;細胞を(i)抗CD90および抗CD117抗体ならびに(ii)抗CD29抗体と接触させるステップ;細胞を(i)抗CD90、抗CD117および抗CD105抗体ならびに(ii)抗CD29抗体と接触させるステップ;細胞を(i)抗CD90、抗CD117抗体、(ii)抗CD29抗体ならびに(iii)抗CD9、抗CD10、抗CD26、抗CD71、抗CD166、抗CD227、抗EGF−R、抗SSEA−4、および抗HLA−G抗体からなる群より選択される1種以上の抗体と接触させるステップ;細胞を(i)抗CD90、抗CD117、および抗CD105抗体、(ii)抗CD29抗体ならびに(iii)抗CD9、抗CD10、抗CD26、抗CD71、抗CD166、抗CD227、抗EGF−R、抗SSEA−4、および抗HLA−G抗体からなる群より選択される1種以上の抗体と接触させるステップ;細胞を(i)抗CD90、抗CD117、および抗CD105抗体、(ii)抗CD29抗体ならびに(iii)抗CD140b、抗CD34、抗CD44、および抗CD45抗体からなる群より選択される1種以上の抗体と接触させるステップ;(b)細胞を(i)抗CD90、抗CD117、および抗CD105抗体、(ii)抗CD29抗体、(iii)抗CD140b、抗CD34、抗CD44、および抗CD45抗体からなる群より選択される1種以上の抗体ならびに(iv)抗CD9、抗CD10、抗CD26、抗CD71、抗CD166、抗CD227、抗EGF−R、抗SSEA−4、および抗HLA−G抗体からなる群より選択される1種以上の抗体と接触させるステップ;ならびに、細胞を、抗CD90、抗CD117、抗CD140b、抗CD34、抗CD44、および抗CD45抗体からなる群より選択される1種以上の抗体;ならびに、抗CD29、抗CD9、抗CD10、抗CD26、抗CD71、抗CD166、抗CD227、抗EGF−R、抗SSEA−4、および抗HLA−G抗体からなる群より選択される1種以上の抗体と接触させるステップ。
表3は、本発明の方法を実施するために有用な抗体をどこから入手できるかを示す。
実施例8:濃縮された羊膜由来細胞集団の作製
細胞表面上で発現されている羊膜由来細胞タンパク質マーカーを使用し、種々の方法を使用して、それらのタンパク質マーカーを発現している羊膜由来細胞集団に関して濃縮することができる。そのような手順は、ポジティブ選択、例えば抗タンパク質マーカー抗体を担持するカラムに対してサンプル細胞を通過させること、または磁気ビーズコンジュゲート型のタンパク質マーカーに対する抗体に細胞を結合させることによる選択、またはタンパク質マーカー抗体でコーティングされたプレート上でパニングし、結合細胞を収集することによる選択を含むことができる。あるいは、羊膜由来細胞タンパク質マーカーに免疫特異的に結合する1種以上の蛍光標識抗体に単一細胞懸濁液を曝露することができる。適切な抗体または抗体群とインキュベートした後、羊膜由来細胞をバッファー中ですすぎ、すべての未結合抗体を除去する。次いで、タンパク質マーカー(群)を発現している羊膜由来細胞を、例えばBecton Dickinson FACStarフローサイトメーターを使用する蛍光活性化細胞選別(FACS)によってソーティングすることができる。所望のタンパク質マーカー(群)を発現している細胞集団を濃縮するために、細胞を複数ラウンドのFACSソーティングに付してよい。
さらに、羊膜由来細胞の表面上で発現されないタンパク質マーカーを使用して、それらのマーカーを発現していない羊膜由来細胞集団を濃縮してもよい。そのような手順は、ネガティブ選択法、例えば抗タンパク質マーカー抗体を担持するカラムに対してサンプル細胞を通過させること、または磁気ビーズコンジュゲート型のタンパク質マーカーに対する抗体に細胞を結合させることによる選択、またはタンパク質マーカー抗体でコーティングされたプレート上でパニングし、未結合細胞を収集することによる選択を含むことができる。あるいは、該タンパク質マーカーに免疫特異的に結合する1種以上の蛍光標識抗体に単一細胞懸濁液を曝露してよい。適切な抗体または抗体群とインキュベートした後、該細胞をバッファー中ですすぎ、すべての未結合抗体を除去する。次いで、タンパク質マーカー(群)を発現している細胞を、例えばBecton Dickinson FACStarフローサイトメーターを使用する蛍光活性化細胞選別(FACS)によってソーティングすることができ、これらの細胞を除去することができる。次いで、抗体と結合しない残りの細胞を収集することができる。所望のタンパク質マーカー(群)を発現しない細胞集団を濃縮するために、細胞を複数ラウンドの上記FACSソーティングに付してよい。
そのような濃縮された羊膜由来細胞集団を作製するために有用でありうる抗体の非限定的な例としては、抗CD10、抗CD26、抗CD71、抗CD166、抗CD227、抗EGF−R、抗SSEA−4、および抗HLA−G抗体が挙げられる。
あるいは、抗体は、望ましくない細胞を除去することによって、濃縮された羊膜由来細胞集団を作製するために有用であることがある(すなわち、ビーズに対して抗体をコンジュゲートし、不均質な羊膜由来細胞集団を含有する培養皿に該ビーズを加えて、該抗体が標的にするマーカーを発現する不均質な集団中の細胞が該ビーズに結合し、ゆえにマーカーを発現しない細胞の集団からそれらが取り出されるようにすることによる)。このプロセスにおいて有用でありうる抗体の非限定的な例は、抗CD140b、抗CD34、抗CD44、および抗CD45、抗CD90、抗CD105、および抗CD117抗体である。
実施例9:モノクローナル抗体ライブラリー
「モノクローナル抗体ライブラリー」を構築するために、本発明の羊膜由来細胞集団に特徴的な多分化能の細胞活性に関与する特定の細胞集団を特定および単離する複数のモノクローナル抗体のコレクションを選択することができる。モノクローナル抗体のパネルを、胎盤組織、胎盤由来細胞懸濁液、または胎盤由来細胞の培養物と反応させてよい。当技術分野において公知の方法、例えばFACSを使用して、モノクローナル抗体のコレクションと反応する細胞を特定および単離することができる。したがって、本発明は、モノクローナル抗体ライブラリーを形成するために使用されるモノクローナル抗体のコレクションに関する。
実施例10:創傷治癒における羊膜由来細胞組成物の使用
方法 表皮から単離されたケラチノサイト細胞株(ATCC CRL-1555)を6ウェルプレート上に0.3×106細胞/ウェルの密度で播種した。細胞を集密状態まで増殖させた後、無血清条件中に48時間置いた。各ウェル中で、1mlピペットチップを使用してウェルの上部から底部まで集密単層を掻き取るか、あるいは傷つけた。0時間、24時間、30時間および48時間の時点で掻き取り跡の画像を撮影し、各ウェルへの馴化培地の添加に応答する細胞遊走または創傷閉塞のパーセントを決定した。試験条件は、以下の条件の0%、50%、および100%であった:1)馴化培地なし(対照、0%);2)通常通りに1:3の割合で継代された羊膜由来細胞から得られた馴化培地;3)一度も継代されなかった羊膜由来細胞から得られた馴化培地;4)ATCC細胞培地中で培養された羊膜由来細胞から得られた馴化培地;および5)それら独自の培地中で培養されたATCC細胞から得られた馴化培地。位相差顕微鏡観察およびMetaMorph画像化ソフトウェアを使用して、数ミクロンの各掻き取り跡中で、各時点で、約6測定値を取得した。24時間、30時間、および48時間の時点での各創傷の幅を、ゼロ時点での創傷の出発幅と比較することによって治癒のパーセントを算出した。
結果 羊膜由来細胞から得られた馴化培地(CM)は、対照と比較して細胞遊走または掻き取り跡の治癒の顕著な増加を示した。しかし、他の細胞タイプから得られたCMはこの増加を示さなかった。羊膜由来細胞から得られたCM中で生育された細胞は、24時間より前に掻き取り跡の完全な閉塞を示した唯一の条件であった。1:3の割合で継代された細胞から得られたCMであって、50%(CM/非CM)の濃度であるCMが最良の結果をもたらした。これらの結果は、羊膜由来細胞から得られたCMの成分が細胞遊走または創傷治癒を増加させる特性を有することを示唆する。
実施例11:羊膜由来細胞、馴化培地、および細胞溶解物は、再上皮化、コラーゲン合成、および組織引っ張り強度の回復を促進する
以下の実験は、羊膜由来細胞、羊膜由来細胞馴化培地または羊膜由来細胞溶解物の適用により:(1)再上皮化率が促進可能かどうか、(2)創傷床でのコラーゲン合成および沈着を促進可能かどうか、および(3)組織引っ張り強度の回復を加速可能かどうかを評価するため、および幹細胞の移植が同一の特性を有することを実証するために行われた。該実験は、さらに、移植された羊膜由来細胞が、濾胞、腺および血管を含めた上皮および真皮構造中に組み込まれうるかどうかを評価するために行われた。
動物モデル:この初期研究では、合計で90匹のラットを使用し、それらは以下の表4の群に分配される(5屠殺時点、処置群あたり3動物、時点あたり6群)。
各動物は、研究全体で合計180の創傷に関して、6創傷/群/時点として、2ヵ所の背側全層切除創傷を施された。
皮膚創傷:使い捨てのパンチ生検(直径6mm)を使用して、背側正中の各側に一対の創傷を施した。これらの創傷は表皮および真皮を通過する全層性であった。損傷直後に創傷を以下のもので処置した:処置なし(対照)、ビヒクル(非馴化培地を浸み込ませた10mm Gelfoamスポンジ)、馴化培地(羊膜由来細胞馴化培地を浸み込ませた10mm Gelfoamスポンジ)、ヒアルロン酸ビヒクル(0.1mlのHylan Aゲル、Genzyme Corporation)、ヒアルロン酸+蛍光(CM-DiI色素、Molecular Probes, Eugene Oregon)標識羊膜由来細胞(106細胞/創傷)またはヒアルロン酸+羊膜由来細胞溶解物(106細胞由来溶解物/創傷)(上記表4を参照のこと)。背側皮膚全体を滅菌包帯(Tegaderm, 3M, Minneapolis, MN)で覆い、生体適合性接着剤(Mastisol, Ferndale Laboratories Inc, Ferndale, MI)で固定した。第1の3処置群の創傷を、創傷後2、3、4および5日目に同一の様式で再処置した。5回目の創傷処置後、創傷を7日までそのままにし、その時点でGelfoamならびに滅菌包帯を除去し、創傷を周囲環境に曝露して治癒させた。最後の3処置群の創傷は、屠殺する時点までそのままにした。
画像化および臨床評価:2人のブラインドの観察者が、損傷後の1、2、3、4、5、7、14および21日の時点で180の各創傷サンプルに関して創傷治癒の程度を評価した。以下のパラメータを確認した:止血、創傷収縮、再上皮化および炎症。各処置群に関して代表的な創傷サンプルのデジタル画像を撮影し、以後の分析のために保存した。
組織分析:上記タイムテーブルにしたがって、ケタミン/キシラジンで深く鎮静させた後にペントバルビタールナトリウムおよびフェニトインナトリウムを心臓内投与することによって、動物を安楽死させた。無菌的技術を使用して背側皮膚を取り出し、各創傷を個別に解剖し、分離した。各創傷の半分を引っ張り強度測定に使用し、他方を凍結切片化および画像解析のために包埋した。
張力測定:7、14および21日の群由来の創傷サンプルを張力測定によって解析した。引っ張り強度測定では、凍結標本から、生検とともに採取された皮下脂肪およびいかなる筋肉も切り落とし、4〜5サンプルに分離した。各標本の断面積をノギスで測定した。次いで、該標本を張力計にクランプし、皮膚が裂けるまで力を加えた。測定値をコンピュータによって記録し、以下の式を使用して引っ張り強度を算出した:最大張力計読み取り値(gに変換されている)/断面積(mm2)=引っ張り強度(g/mm2)。1創傷由来の個々の標本に関する結果をまとめて、平均TS/創傷(創傷あたりの引っ張り強度)を決定した。この値をTS/皮膚(反対側から得られた未損傷皮膚の引っ張り強度)に対して標準化した;(TS/創傷)/(TS/皮膚)=(相対TS/創傷)。その相対TS/創傷を各時点での各群に関して表にし、平均値および標準偏差を決定した。その場合、Excelデータベースソフトウェア(Microsoft Office 2000)を使用した。
顕微鏡解析:組織標本をO.C.T.(Miles, Inc., Elkhart, IN)に包埋し、−23℃でクライオスタットで切片化して、約10μm厚切片にした。顕微鏡用スライドガラスにマウントされた薄片を、防湿スライドボックス中で−70℃で保存した。代表的なスライドを、標準的技術を使用する結合組織成分の免疫組織化学的特徴付けのために処理した。ヘマトキシリンおよびエオジン染色を使用して、損傷粘膜の全体の組織学的外観を確認した。マッソンのトリクローム染色を使用して該創傷中のコラーゲンの存在をアッセイした。Picrosirius偏光法(Picrosirius-polarization method)を使用して、コラーゲン線維組織化を分析した。創傷床中に存在する蛍光の総量を測定することによって、創傷床中の蛍光標識幹細胞の定着(grafting)および生存を半定量的に分析した。細胞の局在化を記録および分析した。
創傷の再上皮化ならびに真皮コラーゲン沈着および組織化の割合に対する効果を決定した。創傷治癒プロセスのこれらの成分、ならびに他の成分のそれぞれを、特異的マーカーを使用して分析した。生存羊膜由来細胞を真皮創傷床中へ移植すると、以下の結果が得られることが予測された:(1)種々の皮膚区画への幹細胞の分化および定着および(2)種々の幹細胞因子の断続的な制御放出。
表5に示されるように、羊膜由来細胞馴化培地で創傷を処置すると、5日までに収縮した肉芽形成の増加が示され、14日までに創傷の減少、収縮の増加および治癒が示された。さらに、該創傷は、対照と比較して、より速い再上皮化および血管新生を示した。コラーゲン合成および沈着、ならびに組織引っ張り強度の回復は、実験経過にわたって変化しなかった。羊膜由来細胞で創傷を処置すると、早期時点で再上皮化および血管新生が示され、ならびにコラーゲン沈着および組織化の証拠が示された。移植細胞は検出されなかった。臨床観察において視覚的検査に基づく差異(潮紅、膨潤、サイズ等)は観察されず、組織引っ張り強度の回復も実験経過にわたって変化しなかった。
実施例12:馴化および非馴化培地サンプル中のサイトカインの検出
多能性に加えて、羊膜由来細胞は炎症反応において重要な役割を果たす可能性がある。創傷治癒の初期では、ケモカインおよびサイトカインが炎症細胞の走化性および活性化を調節する。成長因子は、細胞増殖、分化、および細胞外マトリックスの合成の調節に関して主要な役割を果たす。羊膜上皮細胞は多数のサイトカインおよび成長因子を分泌することが示されている。これらの因子には、プロスタグランジンE、PDGF、TGF−α、EGF、IL−4、IL−8、TNF、インターフェロン、アクチビンA、ノギン(noggin)、b−FGF、血管新生因子、および他の神経保護因子が含まれる(Koyano, S., et al., (2002) Dev Growth Differ 44, 103-12; Blumenstein, M., et al., (2000) Placenta 21, 210-7; Tahara, M., et al., (1995) J Clin Endocrinol Metab 80, 138-46; Paradowska, E., et al., (1997) Placenta 18, 441-6; Denison, F. C., et al., (1998) Hum Reprod 13, 3560-5; Keelan, J. A., (1998) Placenta 19, 429-34; Sun, K., et al., (2003) J Clin Endocrinol Metab 88, 5564-71; Uchida, S.,et al., (2000) J Neurosci Res 62, 585-90)。
これらのサイトカインのうちの多数は創傷治癒と関連し、一部のものは胎児において傷跡を残さない治癒に貢献することで高い評価を得ている(Robson, M. C., et al., (2001) Curr Probl Surg 38, 72-140; Ferguson, M. W. et al., (2004). Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci 359, 839-50)。
これらのサイトカインのうちのいずれが本発明の羊膜由来細胞によって分泌されるかを決定するために、組織培養処理フラスコ上に約40,000細胞/cm2の密度で播種された細胞培養から、羊膜由来細胞から得られる馴化培地を単離した。10ng/mlのEGFを添加した専売の無血清培地中で細胞を培養した。培養期間中1日おきに培養培地を交換した。細胞がほぼ集密状態に達した(単離後約1〜2週間)後、新鮮な培地を適用し、3日間の後に馴化培地を収集し、以後の分析のために−80℃で保存した。
複数タンパク質の検出用の抗体アレイ(RayBiotech, Norcross, GA, RayBio(登録商標)Human Cytokine Antibody Arrays V, VI, およびVIIを使用)によって、分泌タンパク質の内容に関して馴化培地を分析した。分析されたサンプルを以下の表6に示す。
実施例13:羊膜由来細胞/線維芽細胞の共培養
特定の条件下で、ES細胞を線維芽細胞と共培養すると、該ES細胞がケラチノサイト様細胞に分化するよう誘導されることが文献で報告されている。羊膜由来細胞と線維芽細胞の共培養が羊膜由来細胞に対していかなる効果を有するかを決定するために、3.3×106個の羊膜由来細胞を0.4×106個の線維芽細胞とコラーゲンIVコーティングT25フラスコで3、5、10、15、および25日間共培養する実験を行った。
結果− トリプシン様酵素Tryple(Invitrogen)で処理すると、羊膜由来細胞培養物および線維芽細胞培養物の両者は、単独では、単一細胞懸濁液として細胞を解離させる。しかし、羊膜由来細胞/線維芽細胞の共培養物をTrypleで処理すると、細胞は、単一細胞懸濁液としてではなくシートとして処理培養表面からはがれた。さらにまた、該シートは非常に安定であり、酵素による破壊および機械的破壊にいくらか耐性であった。
これらのシートは、真皮タイプの移植片を有することが望ましい場合に創傷包帯として使用するのに適していることが理論上想定される。僧帽弁蘇生、気道傷害の処置、熱傷創感染の抑制、および代謝亢進応答の理解に伴う最近の成功が実証されていて、丈夫な外皮を用いる熱傷創の早期の切除および迅速な閉塞は治療上の責務になっている。小さい表面積の熱傷では、これは自己皮膚移植によって達成することができる。中間層および全層の両方の大きな表面積の熱傷では、完全に満足のいく解決策は未だ存在しない。皮膚上皮性自家移植片は、患者の皮膚から培養し、全身を覆うように大量に増殖させることができる。残念ながら、真皮が欠如すると長期の脆弱性および顕著な瘢痕が導かれ、したがって多数の人々は「真皮」が上皮と同様に必要とされると考えている。
代用真皮または新真皮として想定される最近の製品、例えばIntegra、Alloderm、Transcyte、Apligraf、およびDermagraftでは、この問題の解決が試みられている。しかし、これらのすべての代用「皮膚」は、高価であり、かつ感染に対する耐性が自家移植より低いという問題を有する。熱傷に関して満足のいく迅速で信頼のおける創傷閉塞がなければ、創傷は治癒の炎症期に長期間とどまり、過剰の瘢痕が生じる。
Robson et.al.,(Robson, M. C., and Krizek, T. J. (1973) Ann Surg 177, 144-9.)は、ヒト羊膜を使用する実験上および臨床上の熱傷(中間層および全層の両方)の治療における成功を報告した。羊膜で処置した結果観察された効果の一部分は、創傷治癒を刺激する体液性物質または物質群に起因すると考えられた。これらの観察は、サイトカインおよび成長因子の現在の知識以前のものであった。さらに最近、組換え成長因子および成長ホルモンを使用して、熱傷創のさらに迅速な治癒に影響を与える試みが行われている。ウイルスによって伝達される疾患の危険性のせいで羊膜は実用的でないことが証明された。しかし、それらの早期実験から得られた観察を、新規知識と組み合わせると、羊膜由来細胞の多能性および、創傷治癒に関して刺激性のサイトカインおよび他の体液性物質についての、それらの現在実証されているタンパク質分泌プロファイルが、熱傷に対する迅速な早期の閉塞を提供する際に有用である可能性が支持される。
実施例14:急性創傷治癒の動物モデルにおける羊膜由来細胞馴化培地の効果
急性切除肉芽創の動物モデルを使用して、創傷治癒に関する羊膜由来細胞馴化培地の効果を評価した。
方法:急性切除肉芽創モデル:体重250〜300gの20匹のオスSprague-Dawleyラットを、ケタミン(40mg/kg)、キシラジン(10mg/kg)およびアセプロマジン(0.75mg/kg)を使用して麻酔した。麻酔後、各動物の背側を脱毛(depilitated)し、4つの対称の正中領域(1.5×1.5cm)を、銅鋳型を使用して皮膚上にトレースした。次いで、皮膚および皮筋を貫通するマークされた領域の切除により4つの創傷を作製した。該動物を以下の5群に分けた(表8)。
すべての創傷の開放創領域および進行中の全層皮膚縁の両方についてのアセテートシート(acetate sheets)上へのアナログトレーシングを72時間ごとに行った。創傷中の位置に関連するばらつきを排除するために、3個の尾側創傷のみを統計学的目的で測定した。その理由は、ほとんどの頭側創傷は異なる治癒特性を表すことが示されているからである。デジタル式面積測定(Sigma Scan; Jandel Scientific, Corte Modera, CA)を使用して創傷面積の計算を実施した。各群の創傷のサブセットに関して定量的細菌分析を毎週実施し、CFU/組織gとして表記した。
各動物の全4創傷が完全に上皮化したことが視覚的点検によって判定された後、該動物を安楽死させ、筋肉層を含めたラットの背側全体を取り出した。得られた各瘢痕に垂直な1cm幅の皮膚片を破壊強度分析のために回収した。Instron張力計(Model No. 4201; Instron Corp., Canton, MA)を、5kg張力荷重セルおよび10mm/分のクロスヘッド速度で使用した。破壊強度は、瘢痕を破裂させるために必要な力と定義し、キログラム単位で報告する。
結果− 馴化培地を適用すると、細菌に起因する創傷治癒の阻害が克服され、汚染創傷における治癒曲線が、ほぼ正常治癒の曲線にシフトする(図2)。
実施例15:慢性創傷治癒の動物モデルにおける羊膜由来細胞馴化培地の効果
方法:慢性肉芽創モデル:体重300〜350gの20匹のオスSprague-Dawleyラットを、ケタミン(40mg/kg)、キシラジン(10mg/kg)およびアセプロマジン(0.75mg/kg)を使用して麻酔する。麻酔後、各動物の背側を剃毛および脱毛する。沸騰水に浸漬することによって30cm3のサイズの全層背側熱傷を作製する。ラットを15分間放冷させた後、汚染群の動物に5×108個の大腸菌ATCC #25922を播種する。新鮮な18時間ブロス培養から細菌を取得し、バックプレーティング(backplating)によって種菌サイズを確認する。5日目の瘢痕切除後の異なる処置のために、動物を5匹からなる8個の等しい群に分ける。
動物を個別にケージに入れ、食物および水を自由に与える。熱傷を負わせた5日後、麻酔下の動物から焼痂(eschar)を切除し、慢性肉芽創を得る。この創傷の組織学的特性とヒト肉芽創の比較は以前に実施されている。上記表9に記載の同一実験群で該創傷を処理する。形成されたすべての乾燥浸出物を、外傷を起こさないように除去した後、創傷トレーシングまたは生検を行う。72時間ごとに、創傷の輪郭をアセテートシート上にトレースし、デジタル式面積測定を使用して面積計算を実施する。上皮の任意の進行端(advancing edge)ではなく進行中の全層縁を記録することにだけ注意を払う。これによって、滑らかな、ピンク色の、半透明の、無毛の新上皮によって提供される進行の重要でない成分が回避される。連続の面積測定値を時間に対してプロットする。各動物のデータに関して、Gompertzの式をフィッティングする(典型的にr2=0.85)。この曲線を使用して、創傷半減期を見積もる。生命表分析およびウィルコクソン順位検定を使用して、群間の比較を実施する。統計解析はSASを使用して行う(SAS/STAT Guide for Personal Computers, Version 6 Edition, Cary, NC, 1987, p. 1028)。
実施例16:創傷治癒の2動物モデルにおける羊膜由来細胞の効果
実施例14および15の上記肉芽創の2動物モデルを使用して、創傷治癒に対する羊膜由来細胞の効果を評価する。実験群は以下の表9の通りである。
実施例17:深い創傷の完全な再生を促進する羊膜由来細胞の能力
すべての必要な組織、例えば骨、筋肉、軟骨、皮膚、および神経組織を再現することにより、深い創傷の完全な再生を促進するための実験を設計する。最初に、羊膜由来細胞がすべての目的の細胞に分化できるかどうかを決定するためにin vitro実験を設計する。先述のように羊膜由来細胞を培養する。間葉系幹細胞(Cambrex, Rutherford, NJ)を分化実験の対照として使用する。MSCを5,000〜6,000細胞/cm2の密度で播種し、Mesenchymal Stem Cell Growth Medium(MSGM, Cambrex, Rutherford, NJ)中で培養する。
骨原性:細胞が集密状態になったら、培養培地(DMEM、10%FBS、1%pen/strep)を骨分化培地に変更する(Shi, Y. Y., et al., (2005) Plast Reconstr Surg 116, 1686-96.)(DMEM、10%FBS、1%pen/strep、250uM アスコルベート−2−ホスファート、10mM β−グリセロホスファート、2.5uM レチノイン酸)。骨分化培地を2〜3日ごとに変更する。脂肪由来間葉細胞のアルカリホスファターゼ活性を、7日間の培養後に、複数のウェルで評価する。Alkaline Phosphatase Staining Kit(Sigma)を製造元の推奨にしたがって使用して、アルカリホスファターゼ染色を実施する。実験を3回ずつ実施する。複数のウェル中でフォンコッサ染色を実施して、細胞外マトリックスを鉱化して骨結節を形成させる細胞の能力を評価する。分化培地条件中で複数のウェル中で21日の培養後に細胞に対して染色を実施する。細胞を中性緩衝ホルマリン中で30分間固定し、紫外線条件下で1%水性硝酸銀とともに15分間インキュベートし、5%チオ硫酸ナトリウムで2分間染色し、最後に1%サフラニンOで10分間対比染色する。さらに、複数のウェル中でCalcium Reagent Set(Biotron Diagnostics, Hemet, CA.)を使用する生化学比色アッセイによって細胞外マトリックス中のカルシウム濃度を決定する。実験を3回ずつ実施する。
脂肪生成:羊膜由来細胞およびMSCを脂肪分化培地(Shi, Y. Y., et al., (2005) Plast Reconstr Surg 116, 1686-96.)中で3日間培養し(DMEM、10%FBS、1%pen/strep、10ug/ml インスリン、1uM デキサメタゾン、0.5mM メチルキサンチン、200uM インドメタシン)、次いで脂肪細胞維持培地に交換してさらに2日間培養する(DMEM、10%FBS、1%pen/strep、1ug/ml インスリン)。脂肪生成培地中で5日間の培養後、オイルレッドO染色を実施して、複数のウェル中で脂肪分化を評価する(細胞内脂質充満液滴の存在によって示される)。細胞を10%中性緩衝ホルマリン中で30分間固定した後、60%オイルレッドO溶液中で30分間37℃でインキュベートする。実験を3回ずつ実施する。
軟骨形成:羊膜由来細胞およびMSCを標準非分化条件中で培養した後、回収し、1×107細胞/ml濃度で再懸濁する。次いで10μlの液滴を培養皿に入れ、37℃で2時間基層に付着させる。次いで、軟骨形成培地(Malladi, P., et al., (2006) Am J Physiol Cell Physiol 290, C1139-46.)を細胞凝集物のまわりに慎重に加える(DMEM、1%FBS、1%pen/strep、37.5ug/ml アスコルベート−2−ホスファート、ITSプレミックス(BD Biosciences)、10ng/ml TGF−B1(Research Diagnostics, Inc., Flanders, NJ))。微小塊(Micromasses)を4%ショ糖を含む4%パラホルムアルデヒド中で15分間固定し、Optimal Cutting Temperature(O.C.T.)コンパウンドで包埋する。10μmの凍結切片をスライド上にマウントし、ヘマトキシリンおよびエオシンおよびアルシアンブルー(alcain blue)によって染色する。免疫組織化学を以下のように実施する。切片を室温で30分間ブロッキングし、4℃で一晩、一次抗体とインキュベートする(抗コラーゲンII、Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)。次いで二次抗体(Vector Labs, Burlingame, CA)インキュベーションを行い、8切片を10分間室温でABC試薬(Vector Labs, Burlingame, CA)で標識する。各切片にDAB(Vector Labs, Burlingame, CA)を加え、ヘマトキシリンを使用して対比染色する。
骨格筋原性:先述のように羊膜由来細胞およびMSCを培養する。筋肉形成培地(Gang, E. J., et al., (2004) Stem Cells 22, 617-24.)(5%ウマ血清、0.1μM デキサメタゾン、および50μM ヒドロコルチゾンを添加した培養培地)で、6週までの期間、細胞を培養することによって骨格筋分化を誘発する。MyoD1、ミオゲニン(myogenin)、およびミオシン重鎖(MyHC)に関するFACSによって、筋肉分化を分析する。FACSでは、細胞をはがし、一次抗体(ヒト抗MyoDおよび抗ミオゲニン抗体; Becton Dickinson)およびFITCコンジュゲート二次抗体(FITCラット抗ヒトIgG1; Becton Dickinson)で連続的に染色する。FACSでの分析まで細胞を2%ホルムアルデヒドで固定する。細胞内タンパク質MyHCの検出では、−20℃で2分間、冷却メタノール/PBSで細胞を透過性にした後、マウス抗ミオシン(fast, Sigma)一次抗体およびFITCコンジュゲート二次抗体で染色する。
実施例18:促進された創傷強度および急性創傷損傷の防止の評価
本発明の目的の1つは、羊膜由来細胞から得られた馴化培養培地で急性創傷を処理することによって手術創損傷の発生率を減少させ、手術創の転帰を最適化することである。焦点は、外科的損傷後のin vivoの筋肉、筋膜および皮膚創傷治癒である。創傷線維芽細胞を単離して、羊膜由来細胞から得られた可溶性メディエータの、in vitro修復性線維芽細胞機能に対する効果を測定する。
方法:オスSprague-Dawleyラットをすべての実験に使用する。腹側腹壁毛を剃毛し、その領域をアルコールおよび滅菌水で洗浄する。6cmの全層皮膚切開を腹側正中の2cm外側に行った後、4cm幅の長方形の皮膚弁を作成し、無血管性前筋膜(prefascial)面を通して持ち上げて白線を露出させる。偽手術済みラットでは、この皮膚弁を戻し、4−0プロレン(Prolene)を使用して縫合する。実験群ラットでは、5cmの単離された開腹切開を腹壁の筋肉層の正中(白線)を通して行う。腹側腹壁皮膚弁モデルの設計により、覆いかぶさる皮膚創傷から独立した開腹治癒を生じさせることが可能になる。機械的にインタクトの創傷群では、ステッチ間の0.3cm縫合かみ合い(bites)および0.5cm前進を使用する連続の3−0ポリプロピレン縫合を用いて開腹を修復する。縫合糸を創傷の末端で結ぶ。このモデルでの経験から100%インタクト創傷治癒率が予測される。ヘルニア創傷群では、開腹切開を非縫合のままにする。破壊創傷(Disrupted Wound)およびヘルニア創傷の両モデルでは、皮膚弁を適所に縫合する。それは腹腔器官の飛び出しを防ぐためのスリング(sling)として働く。これらのモデルを使用する死亡率は1%未満であることがわかっている。加温床上で30分間の回復後に、ラットを個々のケージに戻す。食物および水を自由に与える。すべてのラットを毎日観察し、体重を毎週測定する。これらのモデルでの経験から、手術後28日までに、100%のインタクト創傷ラットの開腹切開が治癒し、100%の破壊創傷ラットが切開創ヘルニアを形成し始めることが予測される。
各時点で5ラットを使用して、4開腹創傷タイプのそれぞれに関して5個の別個の線維芽細胞細胞株を作成する。手術の1、7、14、28および60日後に剖検を実施する。破壊創傷群では、手術後3日目の創傷破壊の時点で0日を再定義する。全体の腹側腹壁を各安楽死ラットから切除し、皮膚を筋層から分離する。各腹壁の腹膜および皮下(腹側)表面を、開腹創傷破壊およびヘルニア形成の存在に関して慎重に検査する。切開創ヘルニアを、最小2mmの筋膜分離および/または明らかな腹腔内容物の経腹壁ヘルニア形成として定義する。白線の軸に対して垂直に生検サンプルを採取する。以後のRNA単離および、コラーゲンおよびインテグリン発現のリアルタイムPCR測定のために、各ラット由来の1生検サンプルを液体窒素中で直ちに瞬間凍結する。以後のパラフィン固定および、創傷構造、線維芽細胞形態学、炎症反応、血管新生および細胞外マトリックス形成の免疫組織学的解析のために、各ラットからの第2の隣接生検サンプルを10%緩衝ホルマリン中で直ちに固定する。最後の創傷生検サンプルをPBS中に入れる(以下の方法を参照のこと)。最初の、初回継代線維芽細胞培養を使用して、in vivoの線維芽細胞増殖、コラーゲン合成および線維芽細胞存在コラーゲンマトリックスコンパクションならびに以下の制御パターンのin vitroの機械的変形を測定する。
本モデルで創傷強度の迅速な増加を以下のように試験する:12群の1つに動物をランダムに割り当てる(群あたりn=10)。実験設計1および2では、3動物モデル(偽開腹、治癒開腹およびヘルニア)のそれぞれを、羊膜由来細胞の液性産物を含有する羊膜由来細胞馴化培地の4実験条件で処理する(処理なし、対照羊膜由来細胞培地(0%馴化)、50%羊膜由来細胞CMおよび100%羊膜由来細胞CM)。実験群に関しては表10を参照のこと。創傷化前に開腹筋膜および皮膚切開の部位に100IUの培地を送達する。これは単純な刺激(priming)と定められ、このモデルでの多数の経験により、これが、外科的切開の部位に液体培養培地を送達する信頼のおける効率的な方法であることが確立されている。治癒中の創傷から経時的に線維芽細胞を単離し、in vitroの増殖およびコラーゲンマトリックスコンパクションに対する羊膜由来細胞培地の効果に関してアッセイする。
筋膜(開腹)および皮膚切開引っ張り強度ラットをランダムに選択し、過量のネンブタール(100mg/kg i.p.)を用いて開腹後の順次的な時点で安楽死させる。腹側腹壁全体を切除し、筋膜層から皮膚を分離する。POD 7またはその後の2mmより大きい筋膜の欠損として定義される急性損傷(裂開)または初期の切開創ヘルニア形成の知見に関して、創傷治癒面を綿密に調査する。筋膜および皮膚縫合を除去する。大文字「I」の形状の2筋膜および2皮膚片を、各腹壁から創傷治癒面に垂直に採取する。切り取り型を使用して腹壁をマークする。その目的は、標本間のサイズ変動を最小にするためである。腹壁筋膜および皮膚片にラベルし、張力の機械的解析を実施するまでPBS中で保存する。筋膜(開腹)および皮膚創傷の生検サンプルを採取し、生化学的解析のために液体窒素中で直ちに瞬間凍結するか、あるいは組織学のためにホルマリン中で固定する。
腹壁筋膜および皮膚片の機械的検査を剖検の6時間以内に実施する。Digimaticノギス(Mitutoyo American Corp., Chicago, IL)でサンプル幅および厚さを測定する。サンプルに引っ張り状態をそれぞれ課して損傷させ、その間に力−伸展データを収集する。50ニュートン静負荷セルセットを備えたInstron張力計(model 5542, Instron Corporation, Canton, MA)を10mm/分のクロスヘッド速度で使用して、力伸展曲線を作成する。空気圧式捕捉器具を使用して負荷フレーム中にサンプルをマウントし、0.1ニュートンにプレ負荷し、グリップ間のゲージの長さを測定する。負荷フレームは、機械的組織破壊が生じるまで、縫合修復済み創傷に垂直に引っ張り負荷を加える。各標本に関して創傷損傷の解剖学的位置を記録する。力および組織変形データを同時に記録し、デジタルインターフェースカードを介して負荷フレームに連結されているコンピュータに取り込む。Merlin材料試験ソフトウェアパッケージ(Instron Corporation, Canton, MA)を使用してデータ解析を実施する。
伸展負荷から得られたデータを使用して、以下の臨床的に重要な生体力学特性を決定する:破壊強度−−機械的損傷時点の最大負荷(Fmax)(ニュートン);引っ張り強度−−標本中で発生する単位面積あたりの最大応力、Fmax/断面積(N/mm2)として算出される;靭性−−張力下で標本によって吸収されるエネルギー、開始点から機械的破裂までの力−伸展曲線下の全体の面積として算出される(ジュール);伸び−−負荷下の組織の長さの増加、機械的破壊時点での標本の長さから元の長さを差し引いたものとして定義される(mm);堅さ−−力−伸展曲線の線形弾性領域の勾配(N/mm)。
一時的なマトリックス構造、線維芽細胞遊走、炎症反応および創傷血管新生の組織学的解析を使用し、H&Eおよびトリクローム染色を用いて群を比較する。ラットI型およびIII型コラーゲンに特異的な抗体(Chemicon International, Inc., Temecula, CA)を使用して創傷コラーゲン形成の密度を測定する。ブラインドの観察者が顕微鏡を使用して、高倍率の3視野からの平均細胞数として、各時点での創傷内への細胞の浸潤を測定する。さらに、UMAX Astra 1200Sスキャナーを使用して組織学的標本をデジタル化し、コンピュータソフトウェアアプリケーションAdobe PhotoShop version 5.0を使用して解析する。スチューデントt検定(SigmaStat, Jandel)を使用してコラーゲン染色の細胞充実性および強度の差異を比較する。
先述のように、ラットまたはヒトからの開腹創傷または切開創ヘルニアからのサンプルを収集し、冷却されたPBS中で滅菌50mLコニカルチューブ(Corning, Corning NY)中に入れて氷上に置く。各サンプルを細かく刻んで小片にし、PBS中の0.1%コラゲナーゼを含有する直径6cmの滅菌ペトリ皿(Falcon, Franklin Lakes NJ)に室温で45分間入れる。この間、組織培養ピペットを使用して組織および細胞を数回ばらす。その溶液を滅菌50mLコニカルチューブに注ぎ、800rpmで6分間遠心分離する。PBS中のコラゲナーゼを吸引して除き、残りの細胞および浸軟組織ペレットを、10%新生児ウシ血清(GIBCO, Grand Island NY)、25μg/mLゲンタマイシン(GIBCO, Grand Island NY)、および0.375μg/mLアンホテラシンB(amphoteracin B)(Sigma, St. Louis MO)を添加した低グルコースDMEM(GIBCO, Grand Island NY)からなる15mL完全増殖培地中に再調製する。滅菌T75フラスコ(Corning, Corning NY)中に細胞を移し、37℃で5%CO2を含むインキュベーター中に入れる。細胞が10〜15%集密に達して、5×対物レンズを備えた倒立顕微鏡を使用して最少6個のコロニーが可視になるとすぐに、完全増殖培地を1日おきに交換する。標準サイトケラチン、α平滑筋アクチン、ビメンチンおよびフォン・ウィルブラント因子染色を行って、細胞を線維芽細胞として正確に特徴付けする。
細胞が集密に達したら、それらを1:2で継代する。培地を除去し、細胞層を10mLのHBSS(GIBCO, Grand Island NY)で洗浄する。0.53mM EDTAを含む10mLの0.05%トリプシン(GIBCO, Grand Island NY)で、37℃で4〜6分間、細胞をトリプシン処理する。10mLの完全増殖培地を使用して、トリプシンを阻害する。細胞を滅菌50mLコニカルチューブ中に入れ、600rpmで5分間遠心分離する。上清を除去し、細胞ペレットを完全増殖培地中に再懸濁する。細胞をフラスコに分け入れて、最終的に1:2の継代濃度を得る。細胞をトリプシン処理し、上記のように遠心分離し、40%新生児ウシ血清を含む4mLのDMEM中に再調製する。この溶液を4つの2mLクライオバイアル(Corning, Corning NY)に分け入れ、DMEM中の1mLの冷却20%DMSO(Fischer, Fairlawn NJ)を各バイアルに加える。イソプロピルアルコールを含む容器にバイアルを入れ、−80℃フリーザー中で1℃/分で冷却する。完全に凍結された時点で、それらを保存用の液体窒素中に移す。
1クライオバイアルを液体窒素から取り出し、温めたエタノール中で急速に解凍する。20mLの温かい完全増殖培地を含む50mLコニカルチューブ中にその内容物を入れ、600rpmで5分間遠心分離する。上清を除去し、細胞ペレットを15mLの温めた完全増殖培地中に再調製する。細胞をT75フラスコ中にプレートする。MIT比色アッセイを使用して、線維芽細胞の生存度を調べる。これは、それらのミトコンドリア活性を測定することによって行う。
コラーゲン、フィブリン、およびフィブロネクチンを用いて作製されたin vitroタンパク質マトリックス(FPCL)を使用する。細胞外マトリックスタンパク質格子を、製造元(Upstate Biotechnology, Lake Placid, NY)の説明にしたがって調製する。ゲルを4℃で24時間インキュベートする。線維芽細胞をカウントし、それらの細胞数を1×105細胞/mlに調節する。10万個の一次継代培養済み線維芽細胞を各作製済みの3.5cm格子に加える。格子を37℃で5%CO2とともにインキュベートし、5日間24時間ごとにゲル収縮の程度を測定する。毎日、ゲルをデジタルで画像化し、Sigma Scanソフトウェア(Jandel Scientific, Corte Madera, CA)を使用して収縮測定値を算出する。あるいは、ラット尾コラーゲンから作製されたFPCLを補強データとして使用する。このアッセイを30分〜数時間実施し、種々の機能的インヒビターに対する細胞応答の測定を可能にする。ゲル収縮の測定を経時的に実施する。コラーゲンゲルをペトリ皿から取り外し、2.5%FCSまたは2u/mlトロンビンで処理し、種々の時点で垂直軸でゲルの直径を測定する。評価対象の1つの機能は、コラーゲン収縮に対するMAPキナーゼの役割である。
動物実験から観察される効果を説明するために筋膜線維芽細胞をさらに特徴付けする目的で、創傷筋膜および真皮線維芽細胞培養に対して一連の試験を実施する。これらには、抽出RNAに対する定量的RT−PCRを使用するI型およびII型コラーゲン遺伝子発現;Sircolコラーゲンアッセイ法(Acurate Chemical and Scientific Corp., Westburg, NY)を使用する創傷治癒面の生検サンプルについての組織コラーゲンレベルの測定;FPCL収縮のいかなる低下も、不十分な遊走および線維芽細胞機能の低下に起因しなかったことを確保するための、線維芽細胞、α−1およびβ−1インテグリン発現の測定;およびPCNAおよびα−SMAに特異的なモノクローナル抗体(Sant Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)を使用してα−smooth muscle action、および増殖細胞核抗原(PCNA)を評価するための免疫組織化学が含まれる。
統計解析は以下の通りである:各実験では、各群でバランスの取れたサンプルサイズを用いる要因デザインによって、主効果の、各実験における独立変数を適切な統計解析を用いて分離できることを確かめる。パラメトリック(連続変数)およびノンパラメトリック(割合)ANOVAを使用して結果変数を比較する。ネストされたANOVAデザインを使用して、各実験からの主効果変数を単一解析に取り込む。ANOVA全体に関するF比が有意であれば、個々の群平均のpost hoc比較は各比較に関する最小二乗平均のt−プライム検定(t-prime test)によって行う。このアプローチに固有なのは、多重ペアワイズ比較を施す際の有意水準のボンフェローニ補正である。Statistical Analysis System(SAS, Carey, NC)からの一般線形モデル(GLM)アルゴリズムを使用してANOVA計算を実施する。それは、存在すれば、サンプルサイズの不均衡を明らかにする。GLM手順でlsmeansオプションを使用してpost hocペアワイズ検定を行う。測定変数間の相関および、所定の実験に関する変数間で有意な共分散が観察されるかどうかを調査し、共分散分析(ANCOVA)を適宜実施する。5%有意水準を統計学的に有意であると見なす。
実施例19:熱傷の迅速で早期の創傷閉塞のための、羊膜由来細胞、馴化培地、細胞溶解物、および細胞産物の使用
熱傷の転帰およびリハビリテーションは早期の熱傷創切除および迅速な創傷閉塞に依存する。丈夫な外皮または代用外皮を用いる創傷閉塞の速度は生存の改善に重要である。長期瘢痕形成を最小にしつつ早期の迅速な創傷閉塞を促進する新規アプローチを提供することが本発明の目的である。
確立されているin vitroの動物モデル、および臨床患者を使用して、中間層(partial-thickness)および全層熱傷の早期の迅速な創傷閉塞のための羊膜由来細胞の使用を評価する。熱傷に加えて、化学的、電気的、および寒冷損傷に関して確立されているモデルを用いて実験を行う。
羊膜由来細胞が中胚葉および外胚葉細胞に分化できることが理論的に想定される。ゆえに、そのような細胞を使用して、熱傷創の早期かつ永続的な閉塞を提供することが可能である可能性がある。現在、創傷が炎症期にある期間が長いことが増殖性の瘢痕形成を導く変量であることが知られているため、熱傷創の早期の永続的な閉塞は瘢痕形成を減少させ、ゆえに、機能を増加させることが予測される。
方法:中間層および全層熱傷の3動物モデルを使用する。第1のモデルは約3週間の上皮化による中間層治癒を模倣し、第2および第3のモデルは収縮および上皮化による全層治癒を模倣し、8週までの間、未治癒のままでありうることから、3モデルは異なっている。後者の2モデルはヒト肉芽創と組織学的に比較されている。後者の2全層創傷の差異は宿主である。一方の群は、インタクトな免疫系を有する正常ラットであり、他方は、Tリンパ球を欠いている胸腺欠損「ヌード」ラットである。
中間層熱傷:この部分の実験全体を通して、体重350〜450グラムの40匹のメスHartley系統モルモットを使用する。ネンブタール麻酔(35mg/kgで腹腔内投与)下で、動物の背部を剃毛および脱毛する。体表の10%にわたる均一の熱湯傷を75℃で10秒間実施する。このモデルではモルモットを使用するが、その理由は、それらが発情(毛)周期を欠くこと、それらにおいて均一の中間層損傷を発生させることができるからである。動物を個別にケージに入れ、食物および水を自由に与える。
24時間の時点で、動物を再麻酔し、中間層焼痂を穏やかに擦過する。40動物を各10動物からなる4群に分ける。各群は以下の通りである:群I−熱傷、擦過傷、かつ無処置のままである対照のモルモット;群II−熱傷、擦過傷、かつ1日目(擦過の日)および7日目に非馴化培地で処置;群III−熱傷、擦過傷、かつ1日目および7日目に羊膜由来細胞馴化培地で処置;群IV−熱傷、擦過傷、かつ熱傷全体におよぶ羊膜由来細胞懸濁液での処置ならびに網包帯および厚い包帯の着用。5日ごとまたは必要に応じて外側の包帯を静かに取り除く。動物にブプリノルフィン(buprinorphine)(0.1mg/kg)を前投薬し、ハロタン吸入によって麻酔し、治癒時まで、週ベースで熱傷創生検サンプルを取得する。生検標本を切片にして染色し、顕微鏡によって毛包をカウントし、高倍率視野あたりの数で表記する。さらに、治癒中の皮膚の組織学的解析を行う。全体の観察を行い、治癒の特性および毛髪分布に関して写真撮影によって記録する。
全層熱傷(正常ラット):体重300〜350グラムの50匹のオスSprague-Dawleyラットを1週間順応させてから使用する。腹腔内ネンブタール麻酔下で、ラット背側を剃毛および脱毛する。沸騰中の湯に浸漬することによって30cm2のサイズの全層背側熱傷を作製する。7mLの乳酸リンガー液を皮下注射によって各ラットに投与して脱水を防ぐ。動物を個別にケージに入れ、食物および水を自由に与える。熱傷を負わせた5日後、麻酔下の動物から焼痂を切除し、肉芽創を形成させる。ヒト肉芽創と比較されたこの創傷の組織学的特徴付けは以前に実施されている(Robson MC, et al., J Surg Res 16: 299-306, 1974)。ラットを各10動物からなる5群に分け、以下のように処置する:群Iは創傷処置を受けず、対照となる;群IIは0日目(瘢痕切除(escharectomy)の日)および7日目に非馴化培地での処置を受ける;群IIIは0日目および7日目に羊膜由来細胞馴化培地での処置を受ける;群IVは羊膜由来細胞懸濁液で処置され、網包帯および厚い包帯を着用する。包帯を5日ごとまたは必要に応じて交換する。群Vは、羊膜由来細胞を播種された細胞外マトリックスで処置し、群IVのように包帯を巻く。群I〜IIIの動物の創傷は露出したままにする。いずれかの創傷トレーシングまたは生検を行う前に、すべての乾燥浸出物を、外傷を起こさないように除去する。群I〜IIIのラットでは72時間ごとに、あるいは群IVおよびVでは包帯の交換が必要になるたびに、ラットにブプリノルフィン(0.1mg/kg)を前投薬し、ハロタン吸入で麻酔し、それらの創傷の輪郭をアセテートシート上にトレースする。デジタル式面積測定を使用して面積計測を実施する。連続の測定値を時間に対してプロットする。各動物のデータに関して、Gompertzの式をフィッティングする(典型的にr2=0.85)。この曲線を使用して、創傷半減期を見積もる。生命表分析およびウィルコクソン順位検定を使用して、群間の比較を実施する。統計解析はSAS(SAS/STAT Guide for Personal Computers, Version 6 Edition, Cary, North Carolina, 1987, p 1028)およびBMDP(BMDP Statistical Software, Inc. 1988)を使用して実施する。個々の創傷に関する最良適合曲線から、元の創傷の25%、50%、および75%治癒に必要な日数を算出する。瘢痕切除の5、10、15、20、および25日後(または熱傷の10、15、20、25、および30日後)に再麻酔下のラットから無作為の創傷生検部位を取得し、組織学的研究のために適切な保存溶液中に入れる。
全層熱傷(免疫学的障害ラット):50匹の非近交系の先天的胸腺欠損「ヌード」ラットを商業的に購入する(Harlan Sprague Dawley, Inc., Indianapolis, IN)。すべての動物はオスであり、250〜300グラムの範囲の体重を有する。免疫欠損であるから、病原体を含まないバリア設備中で、密封エアフィルター、動物アイソレータ、層流ユニット、および層流室を備えたケージ中で動物を飼育する。すべての供給物、例えば食物、水、寝床等を滅菌して感染を予防する。Guide for the Care and Use of the Nude Mouse in Biomedical Research(Institute of Laboratory Animal Resources)で推奨される手順をすべての時点で使用する。ラットを取り扱う人は、キャップ、マスク、滅菌ガウン、滅菌グローブ、およびシューズカバーを着用する。「ヌード」ラットに対するすべての操作は、35mg/kg体重の腹腔内ネンブタール麻酔下で、無菌的外科技術を使用して行う。一方向流の生物学的フード下で操作を実施する。高圧蒸気殺菌によって外科手術用の器具を滅菌し、手術部位をポビドンヨード液で処理する。50動物を各10動物からなる5群に分ける。麻酔、鎮痛、手順、創傷処置、および測定は、上記インタクトのラットモデルと同一である。トレーシング、面積測定、および統計学の取り扱いも上記と同じである。
in vitro線維芽細胞存在コラーゲン格子:Kuhn, et al(Kuhn MA, et al., Internat J Surg Invest 2: 467- 474, 2001)によって以前に報告されるように線維芽細胞を調製する。I型ラット尾コラーゲン(酢酸抽出)から、製造元(Upstate Biotechnology, Lake Placid, NY)によって推奨されるようにコラーゲン格子を調製する(11)。希釈されていないコラーゲン(1ml)を35mm培養皿(Falcon 1008)に入れ、均一に広げる。その皿をアンモニア蒸気チャンバーに3分間入れて凝固させる。滅菌蒸留水(5ml)を培養皿に加え、1時間置いた後に吸引する。これを4回反復して過剰のアンモニアを除去し、コラーゲン格子を4℃で24時間インキュベートする。1.0%血清を含むPBSを加えて、最終吸引物を戻す。18ゲージ針を使用して、培養皿の表面からコラーゲンゲル格子を取り外してゆるませ、生理食塩水に懸濁する。トータルで30のコラーゲン格子を調製して、5処置群と無処置対照に基づく5回反復(quintruplicate)測定を可能にする。FPCLを形成させるために、格子の入った35mm培養皿からすべての生理食塩水を吸引する。作製済みの各コラーゲンゲル格子の表面上に2mlの2×105個の線維芽細胞/mlを置く。FPCLを以下のように6群に分ける:群Iは処置なしの対照として維持される;群IIには非馴化培地を施す;群IIIには羊膜由来細胞馴化培地を施す;群IVには羊膜由来細胞懸濁液を施す;群Vは細胞外マトリックスで覆う;ならびに群VIは、羊膜由来細胞を播種された細胞外マトリックスで覆う。そのFPCLを、37℃、5%二酸化炭素でインキュベートする。5日間24時間ごとにゲル収縮の量を測定する。
ゲルの領域のトレーシングにアセテートオーバーレイを使用する。確立されている線維芽細胞細胞株に関してゲルを5回反復(5ゲルで)実施し、デジタル式面積測定およびSigma Scanソフトウェア(Jandel Scientific, Corte Madera, CA)を使用して測定値を算出する。各コラーゲンゲル面積の測定値を、経時的に維持される面積のパーセンテージおよびその後のゲル収縮のパーセンテージを反映するように変換する。一元配置分散分析を使用して、群間の有意差を決定する。差異が明らかになったら、Tukey検定(全ペアワイズ多重比較検定(all pairwise multiple comparison test))を使用して差異を図にする。Sigma Stat統計ソフトウェアをデータ解析に使用する。さらに、24時間のFPCLを顕微鏡によって調査し、写真撮影する。トリパンブルー排除アッセイを利用して、5日目の線維芽細胞生存度に関してゲルの1つを評価する。別のゲルは、MTT法を使用したミトコンドリア活性に比例する細胞数の分光光度的(spectrophometrically)測定に含める。試験物質に対する曝露後、5日の懸濁培養を再インキュベートし、[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミドすなわちMTTに曝露する。生存線維芽細胞由来のミトコンドリアデヒドロゲナーゼはテトラゾリウム環を切断し、紫色のホルマザン結晶を生じさせる。これらを酸性化イソプロパノールに溶解すると、紫色の溶液が得られ、それを分光光度的に測定する。細胞数が増加または減少すると、それに付随してホルマザンの形成量が変化し、適用試験材料についての任意の毒性の程度が示される。
実施例20:羊膜由来細胞から初期膵前駆細胞への分化
膵島を構成する全4種の膵臓内分泌細胞タイプは、共通の膵前駆細胞からの段階的分化によって発達する。この共通の膵前駆細胞は、その発生上の個体発生の初期およびその後にPDX1遺伝子を発現し、この遺伝子の発現は膵臓分化についての早期の識別可能な細胞マーカーとして役立つ。この初期膵前駆細胞をin vitroで生成および/または増殖させると、それは成熟膵島を構成する全4種の内分泌細胞タイプを生じさせる潜在能力を有する。
発生上、内分泌および外分泌膵臓細胞は前腸内胚葉からの立方上皮生成物(outgrowths of cuboidal epithelium)に由来する。この3次元構造は、外分泌および内分泌の両細胞タイプの発達および発現に重要であると考えられている。この環境を模倣する試みでは、懸濁培養中の羊膜由来細胞の球状物を優先的にサポートし、かつ維持する新規培養条件を使用する。簡潔に言えば、細胞を単層として培養し、次いでプロテイナーゼXXIIIで処理して単一細胞または小クラスターの細胞を取得する。PDX1タンパク質発現(細胞質および核周囲の発現)の検出は、羊膜由来細胞球状物の最も外側の表面上の芽状突起に存在する細胞において最初に生じる。免疫細胞化学技術では、これらの細胞がさらにCD29タンパク質を発現していることが示される。これらの膵前駆細胞の芽状突起は、成体膵管細胞分化において顕著に観察される細胞に類似している(Bonner_Weir, S., et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2000. 97(14): p. 7999-8004., Jones, E.M. and N. Sarvetnick, Horm Metab Res, 1997. 29(6): p. 308-10; Ramiya, V.K., et al., Nature Medicine, 2000. 6(3): p. 278-82)。
次いで、球状物の3次元構造を維持するが、細胞質PDX1のタンパク質発現を促進する基質またはマトリックス上に細胞を配置する。数日後、少ない割合の分化中の細胞においてPDX1タンパク質の核移行を促進する因子を細胞に添加する。PDX1タンパク質の核局在化を促進する因子/細胞培養条件の存在下では、懸濁液中で培養された大多数の羊膜由来細胞球状物上で多数のこれらの芽状突起が出現する。上記因子の存在下での細胞外マトリックスの存在下で羊膜由来細胞を培養してもよい。その結果、細胞は、細胞外マトリックス上で、あるいは細胞外マトリックス内に組み込まれて球状物を形成する。
実施例21:膵島細胞タンパク質を発現する細胞の決定
4%緩衝PFA中で固定され、0.02%アジ化ナトリウムを含有する1×PBS中で保存された細胞を1×PBSですすぐ。次いで、カルシウムおよびマグネシウムを含まないリン酸緩衝生理食塩水(CMF−PBS)中の5%BSAで30分間、非特異的結合に関して細胞をブロッキングし、PBS−TX(CMF−PBS/0.3%Triton−X−100)で透過性にする。追加の高塩処理(0.3M NaCl、20mM Tris−HCl pH7.2、0.1%Tween−20、0.1%Triton−X−100)を使用し、一次抗体と一晩インキュベートして、核抗原の染色を実施する。特に記載しない限り、すべての抗体をPBS−TX中の5%BSAで希釈する。抗PDX1(ウサギポリクローナル、1:2000、C.V. Wright)、抗Nkx2.2(マウスモノクローナル1:100、T. Jessell)、抗Nkx6.1(マウスモノクローナル、1:8000、T. Jessell)、および抗HB9(マウスモノクローナル、1:30、T. Jessell)で細胞を染色することによって膵臓転写因子を見出す。内分泌細胞は、抗インスリン(1:2000、Linco 4012-01)、抗プロインスリン、(1:400、Novacastra Peninsula, IHC-7165)および抗ソマトスタチン(1:2000、Peninsula, IHC-8001)で染色することによって特定する。使用される二次抗体には以下のものが含まれる:フルオレセインイソチオシアネート(FITC)(1:200)、インドカルボシアニン(Cy3)(1:1000)およびインドジカルボシアニン(Cy5)(1:400)コンジュゲート型ロバ抗マウス、ウサギおよびモルモットIgG(Jackson ImmunoResearch, ML grade)。Vectashieldマウント用培地(Vector, H1200)の一部分であるDAPI蛍光によって細胞核を可視化する。Autoquant 3-D Imagingソフトウェアを備えたNikon Eclipse E2000U蛍光/DIC倒立顕微鏡およびOlympus FV300 FluoView共焦点レーザー走査顕微鏡で細胞を分析する。
実施例22:移植研究−腎被膜(kidney capsule)下での羊膜由来細胞と胚性(胎児)膵島前駆細胞のin vivo共培養
3実験群を使用して、12.5日目の胚性(e12.5)マウス由来の背側膵芽がPDX1タンパク質発現羊膜由来細胞の分化を促進するかどうかを決定する。
A.群1−−4月齢の12匹の免疫無防備状態マウスの腎被膜下に106個のPDX1タンパク質発現細胞および2個のe12.5背側膵臓外植片を移植する。隔週(移植後2、4、6、および8週の時点)で3マウスを屠殺して分析する。
B.群2(対照)−−4月齢の12匹の免疫無防備状態マウスの腎被膜下に106個の新たに単離された羊膜由来細胞および2個のe12.5背側膵臓外植片を移植する。隔週(移植後2、4、6、および8週の時点)で3マウスを屠殺して分析する。
C.群3(対照)−−4月齢の12匹の免疫無防備状態マウス、腎被膜下の2個のe12.5背側膵臓外植片。隔週(移植後2、4、6、および8週の時点)で3マウスを屠殺して分析する。
直接、各胚の前腸から背側膵芽を手作業で切除し、ならびに/あるいは0.2Wunsch U/ml Liberase Blendzyme-3(Roche, 11814176)および0.15mg/ml DNaseIと37℃15分間インキュベートする。10%(w/v)BSAを含有する等容量の1×PBSを加えることによって、酵素による分散を直ちに終結させる。背側膵芽を4℃のHBSSですすぎ、200μlピペットチップを使用して短時間ばらす。周囲の間充織から上皮を手作業ではぎ取り、移植前に4℃のHBSS中に移す。
マウスおよびヒトの羊膜由来細胞を免疫無防備状態マウスの腎被膜下に配置して、実験経過にわたって移植細胞の免疫拒絶を防ぐ。各時点で、3マウスを屠殺し、移植細胞を単離し、4%PFA中で固定する。次いで、その組織を一連の増加濃度のショ糖に浸し、OCTで包埋し、切片にする。凍結切片(Cyro-sections)(10μm)をヒト核抗原タンパク質および特定の膵島内分泌細胞マーカータンパク質の共発現に関して解析する。これらのマーカーには以下のものが含まれる:プロインスリン、C−ペプチド、グルカゴン、ソマトスタチン、Nkx2.2、Pax6、Nkx6.1およびPDX1タンパク質。
実施例23:移植研究−乳腺における羊膜由来細胞と胚性膵島前駆細胞のin vivo共培養
3実験群を使用して、12.5日目の胚性(e12.5)マウス由来の背側膵芽がPDX1タンパク質発現羊膜由来細胞の分化を促進するかどうかを決定する。
A.群1−−4月齢の12匹の免疫無防備状態マウスの乳腺に106個のPDX1タンパク質発現細胞および2個のe12.5背側膵臓外植片を移植する。隔週(移植後2、4、6、および8週の時点)で3マウスを屠殺して分析する。
B.群2(対照)−−4月齢の12匹の免疫無防備状態マウスの乳腺に106個の新たに単離された羊膜由来細胞および2個のe12.5背側膵臓外植片を移植する。隔週(移植後2、4、6、および8週の時点)で3マウスを屠殺して分析する。
C.群3(対照)−−4月齢の12匹の免疫無防備状態マウス、乳腺における2個のe12.5背側膵臓外植片。隔週(移植後2、4、6、および8週の時点)で3マウスを屠殺して分析する。
直接、各胚の前腸から背側膵芽を手作業で切除し、ならびに/あるいは0.2Wunsch U/ml Liberase Blendzyme-3(Roche, 11814176)および0.15mg/ml DNaseIと37℃15分間インキュベートする。10%(w/v)BSAを含有する等容量の1×PBSを加えることによって、酵素による分散を直ちに終結させる。背側膵芽を4℃のHBSSですすぎ、200μlピペットチップを使用して短時間ばらす。周囲の間充織から上皮を手作業ではぎ取り、移植前に4℃のHBSS中に移す。
マウスおよびヒトの羊膜由来細胞を免疫無防備状態ヌードマウスの乳腺に配置して、実験経過にわたって移植細胞の免疫拒絶を防ぐ。各時点で、3マウスを屠殺し、移植細胞を単離し、4%PFA中で固定する。次いで、その組織を一連の増加濃度のショ糖に浸し、OCTで包埋し、切片にする。凍結切片(10μm)をヒト核抗原タンパク質および特定の膵島内分泌細胞マーカータンパク質の共発現に関して解析する。これらのマーカーには以下のものが含まれる:プロインスリン、C−ペプチド、グルカゴン、ソマトスタチン、Nkx2.2、Pax6、Nkx6.1およびPDX1タンパク質。
実施例24:未分化羊膜由来細胞、核周囲PDX1を発現する半分化(semi-differentiated)羊膜由来細胞および核PDX1融合タンパク質を安定に発現する羊膜由来細胞の、免疫無防備状態マウスへの移植
未分化羊膜由来細胞、核周囲のPDX1を発現する半分化羊膜由来細胞および核PDX1融合タンパク質を安定に発現する羊膜由来細胞を非糖尿病性免疫無防備状態マウスに移植して、乳腺が、分化中の細胞の形態特性およびPDX1タンパク質の発現を維持する許容的な移植部位であるかどうかを決定する。
15匹の免疫無防備状態マウス(Hilltop Labs)に以下のように移植を行う:群1:対照群、因子低減(Reduced Factor)Matrigel注射、5マウス;群2:因子誘発型(Factor Induced)PDX1発現羊膜由来細胞;5マウス;群3:レンチウイルスPDX1融合タンパク質に感染させた羊膜由来細胞;5マウス。
移植後、通常の飼育条件で31日間マウスを維持した。次いで、移植細胞を含有する乳腺組織を取り出し、固定し、O.C.T.で包埋し、−80℃で凍結した。さらに、反対の(非移植)乳腺から追加の対照サンプルを対照として切除した。PDX1、プロインスリンおよびインスリン発現に関して切片を解析する。
実施例25:追加の移植研究
さらに、非糖尿病性免疫無防備状態マウスを使用して、PDX1タンパク質発現細胞を、門脈、脾臓および乳腺内に移植する。上記の分化中の羊膜由来細胞に、まず分化中のマウスe12背側膵芽を移植し、それらが初期胚の膵臓上皮細胞と同じ因子に応答し、膵島様細胞を生じさせることができるかどうかを決定する。PDX1タンパク質発現細胞を移植されたすべての組織を、移植2週間および6週間後に取り出し、固定し、凍結保存し、切片にする。PDX1抗血清、プロインスリン、C−ペプチド、グルカゴンおよびソマトスタチン抗体で組織切片を染色する。ヒト核抗原免疫染色を使用して、ラット膵臓において内分泌細胞マーカーを発現する細胞の起源を検証する。
実施例26:STZ誘発型糖尿病性NOD免疫無防備状態マウスにおける正常血糖の回復
さらに、STZ誘発型糖尿病性NOD免疫無防備状態マウスにおいて正常血糖を回復させる実験を行う。400ng/dlを超える当初血糖値を示すマウスを実験に用いる。当初血糖測定後で、細胞移植前の動物にインスリン治療(Linbit)を施す。これにより、正常血糖環境における羊膜由来細胞の初期移植が可能になる。ヒトC−ペプチドRIAまたはELISAアッセイを使用して、ヒトC−ペプチド発現の当初の知見を決定する。ヒトC−ペプチドの検出が確認されたら、インスリン治療を中断し、2日おきに血糖をモニターする。STZ誘発型糖尿病性マウスにおいて分化細胞が正常血糖を回復できた場合、移植細胞を移植40〜60日後に取り出し、以前に観察された血糖値(>400ng/dl)への復帰に関してマウスを毎日評価する。
実施例27:因子による刺激(priming)実験
一実験では、常在性膵臓細胞から機能的膵島への分化を促進する因子でマウスの膵臓を刺激する。これらの因子には、任意の個別または組み合わせの以下の因子が含まれる:FGF(群)、フォルスコリン、フォリスタチン、血管原性因子、糖質コルチコイドファミリーメンバー、インスリン、EGF、EGF様因子、ヘパリン、ニコチンアミド、SHhアンタゴニスト、HGF、GLP−1アナログ、1〜20mMの範囲のグルコース、2価カチオン。
別の実験では、マウスの膵臓を、この部位に対する移植済み未分化羊膜由来細胞の再分化を促進して分化を可能にする因子で刺激する。未分化羊膜由来細胞とは、内胚葉分化を確認する因子(SHhアンタゴニスト、球状物培養)で処理された、新たに単離された(培養されていない)細胞でありうる。
別の実験では、マウスの膵臓を、この部位に対する移植済み部分的分化羊膜由来細胞の再分化を促進して追加の分化を可能にする因子で刺激する。部分的分化とは、本明細書中に記載の任意の条件において羊膜由来細胞がin vitroで培養されていることを意味する。
別の実験では、他の因子でマウスの膵臓を刺激した後、以下の細胞を移植する:未分化または部分的分化羊膜由来細胞と、分化中の胚性膵臓もしくは非膵臓組織(上皮、間充織、島、管、外分泌細胞)または分化中もしくはあらかじめ分化済み(pre-differentiated)の非胚性異種性(ドナー)または自家(自己)組織(上皮、間充織、島、管、外分泌細胞、等)との共培養物。これらの細胞は、未分化または部分的分化羊膜由来細胞が膵臓細胞に分化するために必要な活性因子および/または生物学的状態(biological niche)を提供する。さらに、これらの因子および/または状態は、細胞の分子組織化(molecular organization)を促進して、細胞が膵島様細胞として成熟および機能するようにする可能性もある。
別の実験では、専売の因子の組み合わせで膵臓を刺激した後、未分化または部分的分化羊膜由来細胞と、分化中の胚性膵臓もしくは非膵臓組織(上皮、間充織、島、管、外分泌細胞)または分化中もしくはあらかじめ分化済みの非胚性異種性(ドナー)または自家(自己)組織(上皮、間充織、島、管、外分泌細胞、等)との共培養物を移植する。これらの細胞は、未分化または部分的分化羊膜由来細胞が膵臓細胞に分化するために必要な活性因子および/または生物学的状態を提供する。さらに、これらの因子および/または状態は、細胞の分子組織化を促進して、細胞が膵島様細胞として成熟および機能するようにする可能性もある。
別の実験では、in vitroで刺激されている(in vivoの移植部位で刺激されていない)未分化または部分的分化羊膜由来細胞を直接膵臓内に移植する。別の実験では、肝臓、乳腺、腎被膜、脾臓または、該細胞が定着できる任意の他の部位内に細胞を皮下移植する。
別の実験では、外科的または化学的に損傷している膵臓に静脈内注射によって未分化または部分的分化羊膜由来細胞を移植し、そしてそれは上に列挙される因子で刺激されるか、あるいは刺激されない。この実験では、細胞は炎症部位に「帰巣(home)」し、常在性細胞と一体になる。
別の実験では、膵臓または任意の他の組織内に(すなわち、肝臓、乳腺、腎被膜、脾臓または、該細胞が定着できる任意の他の部位内に皮下で)移植(あるいは静脈内注射によって導入)された未分化、部分的分化または機能的分化羊膜由来細胞を使用して、自己免疫疾患(例えば糖尿病)を有する患者の免疫寛容を誘発する。移植された羊膜由来細胞のみの間で、ならびに/あるいは患者の細胞(すなわち損傷膵島、β細胞、等)とともに、同期された細胞分化が生じるかもしれない。羊膜由来細胞は、それらに伴う細胞を免疫系から保護するHLA抗原を提供するかもしれない。
外植片をヒト膵島前駆細胞に関して評価する。未分化および部分的分化羊膜由来細胞は、分化についての膵島細胞特異的タンパク質マーカーを発現する細胞に分化する。解析には、免疫細胞化学およびあらかじめ標識された細胞のGFP発現が含まれる。
本発明は、その思想または本質的特性から逸脱することなく、他の具体的形態で具体化してよい。いかなる等価な実施形態も本発明の範囲内であるものと意図される。実際、本明細書中で提示および記載されている内容に加えて、前記記載から本発明の様々な改変が当業者に自明になるであろう。そのような改変もまた、特許請求の範囲内に含まれるものとする。
本明細書全体を通して、様々な刊行物を参照している。各刊行物は、参照によりその内容全体が本明細書中に組み入れられるものとする。