JP4997789B2 - 磁気メモリ - Google Patents

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Description

本発明は、磁気メモリに関する。
MRAM(Magnetic Random Access Memory)は、格子状に配線されたビット線とワード線の交点にTMR(Tunnel Magnetoresistance)素子を配置した構造を有する。通常のTMR素子は、2つの強磁性層間に非磁性層を有する強磁性層/非磁性絶縁層/強磁性層の三層構造からなる。強磁性層は、通常は厚さ10nm以下の遷移金属磁性元素(Fe、Co、Ni)又は遷移金属磁性元素の合金(CoFe、CoFeNi、NiFe等)からなり、非磁性絶縁層は、AlやMgO等からなる。
TMR素子を構成する一方の強磁性層(固定層)は、磁化の向きを固定しており、他方の強磁性層(感磁層又は自由層)は磁化の向きが外部磁界に応じて回転する。なお、固定層の構造としては、反強磁性層(FeMn、IrMn、PtMn、NiMn等)を一方の強磁性層に付与した交換結合型が良く用いられる。
メモリ情報の「1」、「0」は、TMR素子を構成する2つの強磁性体の磁化の向きの状態に応じて、すなわち、磁化の方向が平行であるか、反平行であるかに依存して規定される。これら2つの強磁性体の磁化の向きが反平行の時、磁化の向きが平行の時に比べて、厚み方向の電気抵抗の値が大きい。
したがって、「1」、「0」の情報の読出しは、TMR素子の厚み方向に電流を流し、MR(磁気抵抗)効果によるTMR素子の抵抗値又は電流値を測定することで行う。
「1」、「0」の情報の書き込みは、TMR素子近傍に配置した配線に電流を流すことで形成される磁界の作用によって、TMR素子の感磁層の磁化の向きを回転させることで行うことが、従来、提案されているが、近年、スピン注入による書き込み方法も知られるようになった。
下記特許文献1に記載の不揮発性ランダムアクセスメモリー装置は、スピン偏極した電子の注入によってメモリ状態が切り換えられるメモリーセルが配列されてなる。メモリーセルは、具体的には、例えば第1の強磁性層と第2の強磁性層とが常磁性層を介して積層されてなり、第1の強磁性層の磁化の向きが固定されるとともに、第2の強磁性層の磁化の向きによりメモリ状態が切り換えられる。すなわち、このメモリ装置は、磁気メモリーセル内に情報を記憶する新技術としてスピン分極電子流の伝搬理論を適用したものであり、多層金属デバイスのアレイで組立可能である。個々のセル内のメモリ状態は強磁性膜スイッチング層の面内における磁化の2つの安定した配向の1つに対応している。これらの状態は記憶セル内にスピン偏極した電子流を注入することによりスイッチング可能である。同文献には、これにより、記録密度を大幅に高めることが可能で、読み取り時間の短縮や消費電力を削減することができると記載されている。
下記非特許文献1には、2端子のスピン注入デバイスが、Co−Cu−Coの積層体を用いたプロセスによって製造できたことが開示されている。同文献には、この積層体が、スパッタ法と電子ビーム蒸着によって堆積されたものあると記載されている。
下記非特許文献2には、スピン注入磁化反転について記載されている。スピン分極電流を強磁性体に注入すると磁化の歳差運動や反転が生じるが、この現象はスピン注入磁化反転と呼ばれている。第1強磁性、第1非磁性体、第2強磁性、第2非磁性体の多層膜の膜面に垂直にバイアス電流を流すと、スピン分極電流が流れる。スピン分極電流は、電流の流れにスピンの流れが伴ったものである。第1及び第2強磁性体の磁化の向きが異なると、第2磁性体の磁化にスピン電流によるスピントルクが働く。このスピントルクが磁化の運動を引き起こす駆動力となる。スピン注入磁化反転は、MRAMの書き込み技術に応用することができる。
スピン注入を用いた磁化反転を磁気メモリに適用した場合、書き込み電流を小さくすることができる。
特開平11−120758号公報 "Spin−torque transfer in batch−fabricated spin−valve magnetic nanojunctions", J. Appl. Phys., May 15, 2003, Vol.93, Number 10, pp.6859−6863 "Spin Pumping in Ferromagnetic−Metal/Normal−Metal Junctions", 日本応用磁気学会誌, 2003, Vol.27, No.9, pp934−939
しかしながら、磁気抵抗効果素子の膜面に垂直に流れる電流により、感磁層の磁化反転を行うことにより、データに記録を行うスピン注入記録において、磁化反転に必要な電流は、現在、1×10〜1×10A/cmであり、さらに改善の余地がある。すなわち、TMR素子の抵抗は比較的高く、書込み電流を流した場合、TMR素子部の発熱が大きくなり、場合によっては電圧印加による破壊が生じたりするなどの問題がある。すなわち、書き込みに必要な電流は小さいほど望ましい。
記録密度を高くする場合、磁化反転に必要な電流はTMR素子の面積に反比例して小さくなる。したがって、記録密度を高密度化することによって、書き込み電流を低減することができる。
しかしながら、書き込みに必要な電流が小さくなると、情報の読み出し時に流す電流によって、図らずも磁化反転が生じてしまう可能性がある。読み出し用の電流によって、磁化反転が生じないためには、書き込み電流に比較して読み出し電流を著しく小さくする必要があると思われた。ところが、この場合には、情報の読み出し機能自体が損なわれる虞があり、メモリの高密度化は困難となる。すなわち、磁気メモリの抜本的な改善が必要となった。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、記録密度を向上可能な磁気メモリを提供することを目的とする。
上述の課題を解決するため、本発明に係る磁気メモリは、複数の記憶領域を配列してなる磁気メモリにおいて、個々の前記記憶領域は、書き込み電流供給用の第1配線と、読み出し電流供給用の第2配線と、共通配線と、磁気抵抗効果素子と、磁気抵抗効果素子に設けられたスピンフィルタとを備えている。
ここで、磁気抵抗効果素子は、TMR素子であり、感磁層と、第1固定層と、前記感磁層と前記第1固定層との間に設けられたトンネルバリア層としての絶縁層と、を備え、第1配線と共通配線との間に位置し、第2配線と前記共通配線との間に位置し、共通配線に電気的に接続され、スピンフィルタを介して第1配線に電気的に接続されており、スピンフィルタを介することなく第2配線に電気的に接続されていることを特徴とする。
書き込み電流供給用の第1配線と共通配線との間に、スピンフィルタを介して書き込み電流を供給すると、磁気抵抗効果素子内にスピン分極電流が注入され、この電流が磁化反転閾値を超えた場合には、磁気抵抗効果素子の感磁層が容易に磁化反転し、情報が書き込まれる。一方、読み出し電流供給用の第2配線と共通配線との間に、読み出し電流を供給すると、これはスピンフィルタを介していないため、磁気抵抗効果素子内には、スピン分極電流が供給されず、感磁層の磁化反転は困難となる。
したがって、感磁層の面積を小さくして、書き込み電流を低減させた構造においても、読み出し電流の供給によっては磁化反転が生じず、読み出し電流を書き込み電流に比較して著しく小さくすることなく情報の読み出しを行うことができる。
また、個々の記憶領域のスピンフィルタは、磁気抵抗効果素子の感磁層上に設けられた非磁性導電層と、非磁性導電層に接触した第2固定層とを有し、第1配線は、第2固定層上の第1領域上に設けられ、第2配線は、非磁性導電層の、第1領域に隣接する第2領域上に設けられていることを特徴とする。
この場合、第1領域と第2領域は隣接しているので、第1配線と共通配線を結ぶ経路と、第2配線と共通配線とを結ぶ経路とは、感磁層の位置において重複させることができるので、書き込み及び読み出し動作を簡易な構造で実現することができる。
また、個々の記憶領域において、第1領域と、第2領域との間には、段差が介在し、且つ、第1及び第2配線のいずれも形成されていないマージン領域が存在することを特徴とする。
第1配線と第2配線とは、機能が異なるので、電気的に分離している必要がある。第1領域及び第2領域は段差を介しており、かつ、両者の間にマージン領域があるので、第1及び第2配線が短絡しにくいという利点がある。
また、個々の記憶領域は、磁気抵抗効果素子と共通配線との間に介在する第2スピンフィルタを更に備えることができる。この場合、第1配線と共通電極との間に2つのスピンフィルタが介在するため、磁気抵抗効果素子内へ注入されるスピンのフィルタリング性能を向上させることができ、書き込み電流を更に低減することができる。
また、第2領域の面積S2は、第1領域の面積S1の50%以下であることが好ましい。第2配線が設けられる第2領域の面積S2が大きい場合、スピンフィルタ層の面積が制限され、強磁性層PN1の面積が小さくなるために、磁化方向の形状異方性が減少し磁化方向の安定性が損なわれる。また、磁気抵抗素子に流れるスピン偏極電流の密度分布が不均一となる。上記理由により、磁化反転効率が悪化し、磁化反転閾値が大きくなるので、面積S2は小さいほうが良い。ただし、面積S2が小さすぎると、読出し電流が制限される。
本発明の磁気メモリによれば、磁化反転可能な感磁層の面積を小さくして書き込み電流を低減させた場合においても、読み出し電流は著しく低減させる必要がないため、記録密度を向上させることができる。
以下、実施の形態に係る磁気メモリについて説明する。なお、同一要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。実施の形態に係る磁気メモリは、X列Y行の複数の記憶領域P(X,Y)を配列してなり、各記憶領域P(X,Y)は磁気抵抗効果素子MRを備えている。
図1は、1つの記憶領域P(X,Y)の斜視図である。
個々の記憶領域P(X,Y)は、書き込み電流Iの供給用の第1配線W1と、読み出し電流Iの供給用の第2配線W2と、共通配線WCと、磁気抵抗効果素子MRと、磁気抵抗効果素子MRに設けられたスピンフィルタSFとを備えている。
磁気抵抗効果素子MRは、感磁層Fと固定層FXとの間に絶縁層Tを備えたTMR素子である。TMR素子は、記憶された感磁層Fの磁化の向きと固定層FXの磁化の向きとの相違に応じて、情報の読み出し時に絶縁層Tをトンネルバリア層として通過する電子割合が異なる現象を利用した素子であり、高感度の記憶情報検出を行うことができる。固定層FXの磁化の向きは、これに交換結合した反強磁性層EXによって固定されている。
スピンフィルタSFは、磁気抵抗効果素子MR上に設けられた非磁性導電層Nと、非磁性導電層Nに接触した第1固定層PN1とを有しており、特定の極性のスピンの電子を透過又は反射して、磁気抵抗効果素子MRの感磁層F内にこの極性のスピンの電子を蓄積させる機能を有する。スピンの蓄積量が感磁層Fの磁化反転閾値を超えると、磁化反転が生じる。スピンフィルタSFと第1配線W1との間には第1電極層E1が介在しており、反強磁性層EXと共通配線WCとの間には共通電極層ECが介在している。
第1配線W1は、書き込み電流Iを供給するための書き込み用ビット線BLに接続されており、第2配線W2は、読み出し電流IRを供給するための読み出し用ビット線BL’に接続されている。共通配線WCは、スイッチ用のトランジスタQを介して基準電位に接続されている。トランジスタQのゲートはワード線WLに接続されている。
書き込み用ビット線BLの電位を基準電位よりも高くした状態で、ワード線WLの電位を特定のレベルとしてスイッチ用のトランジスタQをONさせると、第1配線W1とトランジスタQとの間に書き込み電流Iが流れ、特定の極性のスピンが感磁層F内に注入され、例えば、「1」が書き込まれる。書き込み用ビット線BLの電位を基準電位よりも低くした状態で、ワード線WLの電位を特定のレベルとしてスイッチ用のトランジスタQをONさせると、第1配線W1とトランジスタQとの間に書き込み電流(−)Iが流れ、上記とは逆極性のスピンが感磁層F内に注入され、例えば「0」が書き込まれる。
磁気抵抗効果素子MRは、第1配線W1と共通配線WCとの間に位置し、スピンフィルタSFを介して第1配線W1に電気的に接続されている。磁気抵抗効果素子MRは、共通配線WCに電気的に接続されている。書き込み電流I供給用の第1配線W1と共通配線WCとの間に、スピンフィルタSFを介して書き込み電流Iを供給すると、磁気抵抗効果素子MR内にスピン分極電流が注入され、この電流が磁化反転閾値を超えた場合には、磁気抵抗効果素子MRの感磁層Fが容易に磁化反転し、情報が書き込まれる。
一方、磁気抵抗効果素子MRは、第2配線W2と共通配線WCとの間にも位置している。磁気抵抗効果素子MRは、スピンフィルタSFを介することなく第2配線W2に電気的に接続されている。読み出し電流Iの供給用の第2配線W2と共通配線WCとの間に、読み出し電流Iを供給すると、これはスピンフィルタSFを介していないため、磁気抵抗効果素子MR内には、スピン分極電流が供給されず、感磁層Fの磁化反転は困難となる。
したがって、記録密度を向上させるように、感磁層Fの面積を小さくして、書き込み電流Iを低減させた構造においても、読み出し電流Iの供給によっては磁化反転が生じず、読み出し電流Iを書き込み電流Iに比較して著しく小さくすることなく情報の読み出しを行うことができる。
第2配線W2は、読み出し用のビット線BL’に接続されており、読み出し用ビット線BL’の電位を基準電位よりも高くした状態で、ワード線WLの電位を特定のレベルとしてスイッチ用のトランジスタQをONさせると、第2配線W2とトランジスタQとの間に読み出し電流Iが流れ、感磁層Fの磁化の向きに応じて記憶された情報が読み出される。
図2は、磁気抵抗効果素子MRの縦断面図(磁化の向き平行時)(a)、磁気抵抗効果素子MRの縦断面図(磁化の向き反平行時)(b)である。
磁気抵抗効果素子MRは、トンネルバリア層を構成する絶縁層Tを、感磁層Fと固定層FXとで挟んだ構造を有する。固定層FXは、強磁性層PNと、磁化の向きを固定化させるために強磁性層PNに接合した反強磁性層EXとを備えている。
メモリ情報の「1」、「0」は、TMR素子を構成する強磁性層(固定層)PNと感磁層Fの磁化の向きの状態に応じて、すなわち、磁化の方向が平行であるか(図2(a))、反平行であるか(図2(b))に依存して規定される。強磁性層PNと感磁層Fの磁化の向きが反平行の時(図2(b))、磁化の向きが平行の時に比べて(図2(a))、厚み方向の電気抵抗Rの値が大きい。換言すれば、平行時の抵抗Rは閾値R以下であり、反平行時の抵抗Rは閾値Rよりも大きくなる。したがって、「1」、「0」の情報の読出しは、TMR素子の厚み方向に電流Iを流し、MR(磁気抵抗)効果によるTMR素子の抵抗値又は電流値を測定することで行う。例えば、低抵抗の平行状態を「0」、高抵抗の反平行状態を「1」とする。
図3は記憶領域P(X,Y)の平面図である。
個々の記憶領域P(X,Y)のスピンフィルタSFは、磁気抵抗効果素子MR上に設けられた非磁性導電層Nと、非磁性導電層Nに接触した固定層PN1とを有し、第1配線W1は、固定層PN1上の第1領域S1上に設けられ、第2配線W2は、非磁性導電層Nの、第1領域S1に隣接する第2領域S2上に設けられている。なお、説明の簡略化のため、第1領域S1及び第2領域S2は、それぞれの面積S1及びS2と同一符号を用いる。
第1領域S1と第2領域S2は隣接しているので、第1配線W1と共通配線WCを結ぶ経路と、第2配線W2と共通配線WCとを結ぶ経路とは、感磁層Fの位置において重複させることができるので、書き込み及び読み出し動作を簡易な構造で実現することができる。
また、個々の記憶領域P(X,Y)において、第1領域S1と、第2領域S2との間には、段差が介在し、且つ、第1配線W1及び第2配線W2のいずれも形成されていないマージン領域Mが存在する。第1配線W1と第2配線W2とは、機能が異なるので、電気的に分離している必要がある。第1領域S1及び第2領域S2は段差STPを介しており、かつ、両者の間にマージン領域Mがあるので、第1配線W1及び第2配線W2が短絡しにくいという利点がある。
また、第2領域の面積S2は、第1領域の面積S1の50%以下であることが好ましい。第2配線が設けられる第2領域の面積S2が大きい場合、スピンフィルタ層の面積が制限され、強磁性層PN1の面積が小さくなるために、磁化方向の形状異方性が減少し磁化方向の安定性が損なわれる。また、磁気抵抗素子に流れるスピン偏極電流の密度分布が不均一となる。上記理由により、磁化反転効率が悪化し、磁化反転閾値が大きくなるので、面積S2は小さいほうが良い。ただし、面積S2が小さすぎると、読出し電流が制限される。
上述の要素の構成材料は以下の通りである。
感磁層Fの材料としては、例えばCo、CoFe、NiFe、NiFeCo、CoPt、CoFeBなどの強磁性材料を用いることができる。感磁層Fは第1配線W1を流れる電流及びその電流周りの磁界にアシストされて、磁化方向を変化させることができ、感磁層Fの面積が小さいほど磁化反転のために必要な電流(電流の閾値)を小さくすることができる。感磁層Fの磁化の向きはY軸方向に平行である。感磁層Fの面積は0.01μm以下が好ましい。感磁層Fの面積が0.01μmを超えると、磁化反転に必要な閾値電流値が増大するために、情報の記録が困難になる。さらに感磁層Fは厚みが小さいほど磁化反転のための電流の閾値を小さくすることができる。感磁層Fの厚みは0.01μm以下が好ましい。厚みが0.01μmを超えると磁化反転に必要な電流値が増大し、情報の記録が困難になる。
非磁性絶縁層Tの材料としては、Al、Zn、Mgといった金属の酸化物または窒化物、例えばAlやMgOが好適である。固定層FXの構造としては、反強磁性層を強磁性層に付与した交換結合型を用いることができ、強磁性層PNの磁化の向きは+Y方向に固定されている。強磁性層PNの材料としては上述のものを用いることができる。また、反強磁性層EXの材料としては、IrMn、PtMn、FeMn、NiMn、PtPdMn、RuMn、NiO、またはこれらのうち任意の組み合わせの材料を用いることができる。非磁性導電層Nや電極層E1,ECの材料としては、CuやRuを用いることができる。各種配線材料としては、Cu、AuCu、W、Al等を用いることができる。第1固定層PN1の材料としては上述の強磁性材料を用いることができ、磁化の向きは−Y方向に固定されている。
次に、書き込み電流I及び読み出し電流Iの流れ方について説明する。
図4は、磁気抵抗効果素子MRを含む記憶素子の縦断面図である。
書き込み電流Iは、第1配線W1と共通配線WCとの間を流れる。すなわち、書き込み電流Iに含まれる特定のスピンを有する電子が、第1電極層E1及びスピンフィルタSFを通過し、残りのスピンの電子は反射されるが、通過電子は感磁層F内に流れ込み、その後、非磁性絶縁層T、強磁性層PN、反強磁性層EX、共通電極層ECを通過して共通配線WCに流れる。また、逆方向に電子が流れる場合には、スピンフィルタSFを特定のスピンを有する電子が透過し、残りのスピンの電子は反射して感磁層F内に流れ込む。
読み出し電流Iは、第2配線W2と共通配線WCとの間を流れる。すなわち、読み出し電流Iに含まれる電子(−Iとする)は、スピンフィルタSFと一部共通する非磁性導電層Nを通過して感磁層F内に流れ込むが、スピンフィルタSFを通過するわけではないため、スピンの極性によって選別されることなく、感磁層F内に流れ込む。換言すれば、特定のスピンの電子が感磁層Fには蓄積されないため、スピン注入磁化反転は生じにくい。感磁層F内に導入された電子は、非磁性絶縁層T、強磁性層PN、反強磁性層EX、共通電極層ECを通過して共通配線WCに流れる。
図5は、従来の磁気抵抗効果素子MRに供給される電流値と、磁気抵抗効果素子MRの抵抗値との関係を示すグラフである。
供給電流値の絶対値が書き込み電流閾値jcを越えると、磁化反転が生じて抵抗値が急激に変化し、現在の情報とは異なる情報の書き込みが行われる。すなわち、供給電流値が正の書き込み電流閾値jcを越えた場合には、抵抗値は急激に増加し、負の書き込み電流閾値−jcを下回った場合には、抵抗値は急激に減少する。書き込み時に供給される電流の絶対値は書き込み電流閾値jc以上である。なお、供給電流値が、ブレークダウン電流値jbを超えると素子破壊が生じる。すなわち、書き込み電流Iの絶対値は、書き込み電流閾値jc以上ブレークダウン電流値jb以下に設定する必要がある。
一方、情報の読み出し時に供給される読み出し電流Iによって磁化反転を生じさせないためには、供給電流値の絶対値は、書き込み電流閾値jcからマージン電流を減算した読み出し電流閾値ja以下に設定される。書き込みに必要な電流が小さくなると、情報の読み出し時に流す電流によって、図らずも磁化反転が生じてしまう可能性があるため、読み出し電流Iによって、磁化反転が生じないためには、書き込み電流Iに比較して読み出し電流を著しく小さくする必要がある。ところが、この場合には、情報の読み出し機能自体が損なわれる虞があり、メモリの高密度化は困難であった。
図6は、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子MRに供給される書き込み電流Iの電流値と、磁気抵抗効果素子MRの抵抗値との関係を示すグラフである。
供給電流値の絶対値が書き込み電流閾値jcwを越えると、磁化反転が生じて抵抗値が急激に変化し、現在の情報とは異なる情報の書き込みが行われる。すなわち、供給電流値が正の書き込み電流閾値jcwを越えた場合には、抵抗値は急激に増加し、負の書き込み電流閾値−jcを下回った場合には、抵抗値は急激に減少する。書き込み時に供給される電流の絶対値は書き込み電流閾値jcw以上である。なお、供給電流値が、ブレークダウン電流値jbを超えると素子破壊が生じる。すなわち、書き込み電流Iの絶対値は、書き込み電流閾値jcw以上ブレークダウン電流値jb以下に設定する必要がある。
図7は、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子MRに供給される読み出し電流Iの電流値と、磁気抵抗効果素子MRの抵抗値との関係を示すグラフである。
上述のように、読み出し電流IはスピンフィルタSFを介していないため、磁気抵抗効果素子MR内には、スピン分極電流が供給されず、感磁層Fの磁化反転は困難となる。したがって、上述のように、感磁層Fの面積を小さくして、書き込み電流Iを低減させた構造においても、読み出し電流Iの供給によっては磁化反転が生じず、読み出し電流Iを書き込み電流Iに比較して著しく小さくすることなく情報の読み出しを行うことができる。読み出し電流Iの絶対値は、磁化反転が生じて抵抗値が急激に変化する読み出し電流閾値jd以下に設定される。
従来例の場合、読み出し電流Iの絶対値は、磁化反転抑制の制限条件により、読み出し電流閾値ja以下に設定されたが、本実施形態では、電流閾値jd(>>ja)以下に設定すればよい。磁化反転抑制の制限条件がないため、読み出し電流閾値jdを、書き込み電流閾値jcw以上に設定することも可能である。読み出し電流閾値jdと書き込み電流閾値jcwとを等しくした場合には、回路構造を単純化することができる。
次に、上述の磁気抵抗効果素子MRを備えた記憶素子の製造方法について説明する。
図8〜図11は、記憶素子の製造方法を説明するための記憶素子中間体の縦断面図である。
まず、トランジスタQなどの回路が形成されたシリコンからなる半導体基板10を用意する((図8−(a))。半導体回路を形成した基板10上に半導体層の垂直配線(コンタクトプラグ)と接続した金属層WC’を形成する。すなわち、半導体層の垂直配線に接続するように、スパッタ装置によりTi層、Cu層、Ti層を順次積層して、金属層WC’を形成する(図8−(b))。その後、パターンを形成するために、リソグラフィ装置によりマスクとなるホトレジストR1を金属層WC’上に形成し(図8−(c))、イオンミリングにより、金属層WC’をエッチングし(図8−(d))、配線パターンを有する下部共通配線WCを形成する。続いて、RFスパッタ装置を用いてSiOなどの絶縁層I1を基板の露出表面上に積層し(図8−(e))、その後、ホトレジストR1を除去する(図9−(f))。
次に、高真空スパッタ装置により、基板の露出面上に、共通電極層(Ta)EC’、反強磁性層(IrMn)EX’、強磁性層(CoFe)PN’を形成し、続いて、非磁性絶縁層T’を形成する。非磁性絶縁層T’は、Alを強磁性層PN’上に形成し、その後、酸素によりAl層の酸化を行い、Alとする。感磁層(CoFe)F’、非磁性導電層(Ru)N’、固定層(CoFe)PN1’、第1電極層(Ta)E1’を順次積層する(図9−(g))。感磁層Fや強磁性層PNの材料として例えばCoFeBを用いてもよいし、非磁性絶縁層T’の材料としてMgOを用いることもできる。
次に、第1電極層E1’上にリソグラフィ装置によりホトレジストR2を形成し(図9−(h))、これをマスクとして、積層した磁性層をドライエッチングする。このエッチングにはイオンミリングを用いる。これにより、TMR素子の積層体のパターンが形成される(図9−(i))。
続いて、スパッタ装置によりたとえばSiO2などの絶縁層I2を基板の露出表面上に堆積し(図10−(j))、その後、ホトレジストR2を溶解し、第1電極層E1上の絶縁層I2をリフトオフにより除去する(図10−(k))。さらに、第1電極層E1上の、下部の共通配線WCに対向する位置にホトレジストR3を形成し(図10−(l))、これをマスクとして、第1電極層E1と固定層PN1の一部領域をイオンミリングにより除去し、しかる後、ホトレジストR3を除去し、非磁性導電層Nの一部領域を露出させる(図11−(m))。
次に、第2配線W2と非磁性導電層Nとの接続部のパターンを形成するため、第1電極層E1の一部表面と、これに段差を介して隣接する非磁性導電層Nの一部表面に跨るようにホトレジストR4を形成し、この上にスパッタ装置により金属層(Cu)W’を形成し(図11−(n))、しかる後、ホトレジストR4を溶解する。このリフトオフにより、第1配線W1と第2配線W2の境界部分の金属層が除去される(図11−(o))。金属層W’は、Ti層、Cu層、Ta層からなる積層体とすることもできる。その後、CVD装置を用いて、例えばSi(OCを用いて、露出表面上にSiOからなる保護層I3を形成し、記憶素子が完成する。
図12は、別の実施形態に係る磁気メモリの記憶素子の縦断面図である。この記憶素子では、反強磁性層EXの代わりに、非磁性導電層N2と強磁性層PN2を積層してなる第2スピンフィルタSF2を用いている。強磁性層PNの共通配線WC側には、非磁性導電層N2と強磁性層PN2が順に位置する。図1に示した個々の記憶領域P(X,Y)は、磁気抵抗効果素子MRと共通配線WCとの間に介在する第2スピンフィルタSFを更に備えている。この場合、第1配線W1と共通配線WCとの間に2つのスピンフィルタSF、SF2が介在するため、磁気抵抗効果素子MR内へ注入されるスピンのフィルタリング性能を向上させることができ、書き込み電流Iを更に低減することができる。
本発明は、磁気メモリに利用することができる。
1つの記憶領域P(X,Y)の斜視図である。 磁気抵抗効果素子MRの縦断面図(磁化の向き平行時)(a)、磁気抵抗効果素子MRの縦断面図(磁化の向き反平行時)(b)である。 記憶領域P(X,Y)の平面図である。 磁気抵抗効果素子MRを含む記憶素子の縦断面図である。 従来の磁気抵抗効果素子MRに供給される電流値と、磁気抵抗効果素子MRの抵抗値との関係を示すグラフである。 本実施形態に係る磁気抵抗効果素子MRに供給される書き込み電流IWの電流値と、磁気抵抗効果素子MRの抵抗値との関係を示すグラフである。 本実施形態に係る磁気抵抗効果素子MRに供給される読み出し電流IRの電流値と、磁気抵抗効果素子MRの抵抗値との関係を示すグラフである。 記憶素子の製造方法を説明するための記憶素子中間体の縦断面図である。 記憶素子の製造方法を説明するための記憶素子中間体の縦断面図である。 記憶素子の製造方法を説明するための記憶素子中間体の縦断面図である。 記憶素子の製造方法を説明するための記憶素子中間体の縦断面図である。 別の実施形態に係る磁気メモリの記憶素子の縦断面図である。
符号の説明
10・・・基板、BL・・・ビット線、E1・・・電極層、EC・・・共通電極層、EX・・・反強磁性層、F・・・感磁層、FX・・・固定層、I1・・・絶縁層、I2・・・絶縁層、I3・・・保護層、M・・・マージン領域、MR・・・磁気抵抗効果素子、N・・・非磁性導電層、N2・・・非磁性導電層、P・・・記憶領域、PN・・・強磁性層、PN1・・・固定層、PN2・・・強磁性層、Q・・・トランジスタ、R・・・抵抗、R1・・・ホトレジスト、R2・・・ホトレジスト、R3・・・ホトレジスト、R4・・・ホトレジスト、SF・・・スピンフィルタ、SF2・・・スピンフィルタ、STP・・・段差、T・・・非磁性絶縁層、W1・・・第1配線、W2・・・第2配線、WC・・・共通配線、WL・・・ワード線。

Claims (3)

  1. 複数の記憶領域を配列してなる磁気メモリにおいて、
    個々の前記記憶領域は、
    書き込み電流供給用の第1配線と、
    読み出し電流供給用の第2配線と、
    共通配線と、
    磁気抵抗効果素子と、
    前記磁気抵抗効果素子に設けられたスピンフィルタと、
    を備え、
    前記磁気抵抗効果素子は、
    TMR素子であり、
    感磁層と、
    第1固定層と、
    前記感磁層と前記第1固定層との間に設けられたトンネルバリア層としての絶縁層と、
    を備え、
    前記第1配線と前記共通配線との間に位置し、
    前記第2配線と前記共通配線との間に位置し、
    前記共通配線に電気的に接続され、
    前記スピンフィルタを介して前記第1配線に電気的に接続されており、
    前記スピンフィルタを介することなく前記第2配線に電気的に接続され、
    個々の前記記憶領域の前記スピンフィルタは、
    前記磁気抵抗効果素子の前記感磁層上に設けられた非磁性導電層と、
    前記非磁性導電層に接触した第2固定層と、
    を有し、
    前記第1配線は、前記第2固定層上の第1領域上に設けられ、
    前記第2配線は、前記非磁性導電層の、前記第1領域に隣接する第2領域上に設けられている、
    ことを特徴とする磁気メモリ。
  2. 個々の前記記憶領域において、
    前記第1領域と、前記第2領域との間には、段差が介在し、且つ、前記第1及び第2配線のいずれも形成されていないマージン領域が存在することを特徴とする請求項に記載の磁気メモリ。
  3. 前記第2領域の面積S2は、前記第1領域の面積S1の50%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気メモリ。
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