JP2004296858A - 磁気記憶素子及び磁気記憶装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】磁化反転の容易性、セル選択の信頼性向上、更にはセル面積の微細化の少なくとも二つを両立する磁気記憶装置を提供する。
【解決手段】本発明の記録層は、磁化困難軸方向の磁界Hx、磁化容易軸方向の磁界Hyについてのアステロイド曲線を示すプロット35が、磁界Hxのある値(磁化困難軸方向しきい値)を境に急峻に変化する。磁界Hxが磁化困難軸方向しきい値よりも小さい場合には反転磁界が従来の記録層のアステロイド曲線を示すプロット31よりも大きい反面、磁化困難軸方向しきい値よりも大きい場合には反転磁界がプロット31よりも小さい。よって選択されない記録層が誤って磁化反転しにくく、選択された記録層における磁化反転が容易となる。しかも記録層のアスペクト比を小さくすることができ、メモリセルの面積を増大させることもない。
【選択図】 図8
【解決手段】本発明の記録層は、磁化困難軸方向の磁界Hx、磁化容易軸方向の磁界Hyについてのアステロイド曲線を示すプロット35が、磁界Hxのある値(磁化困難軸方向しきい値)を境に急峻に変化する。磁界Hxが磁化困難軸方向しきい値よりも小さい場合には反転磁界が従来の記録層のアステロイド曲線を示すプロット31よりも大きい反面、磁化困難軸方向しきい値よりも大きい場合には反転磁界がプロット31よりも小さい。よって選択されない記録層が誤って磁化反転しにくく、選択された記録層における磁化反転が容易となる。しかも記録層のアスペクト比を小さくすることができ、メモリセルの面積を増大させることもない。
【選択図】 図8
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気記憶技術に関し、巨大磁気抵抗効果やトンネル磁気抵抗効果によりデータを記憶する磁気記憶装置に適用することができる。
【0002】
【従来の技術】
磁気抵抗(MR:magnetoresistive)効果は、磁性体に磁界を加えることにより電気抵抗が変化する現象であり、磁界センサや磁気ヘッドなどに利用されている。近年、非常に大きな磁気抵抗効果を示す巨大磁気抵抗(GMR:giant magnetoresistance)効果材料として、Fe/Cr、Co/Cuなどの人工格子膜などが例えば後掲する非特許文献1,2で紹介されている。
【0003】
また、強磁性層間の交換結合作用がなくなる程度に厚い非磁性金属層を持つ強磁性層/非磁性層/強磁性層/反強磁性層からなる構造により、強磁性層/反強磁性層を交換結合させて、その強磁性層の磁気モーメントを固定し、他方の強磁性層のスピンのみを外部磁界で容易に反転できるようにした、いわゆるスピンバルブ膜が知られている。反強磁性体としては、FeMn、IrMn、PtMnなどが用いられている。この場合、2つの強磁性層間の交換結合が弱く小さな磁界でスピンが反転できるので、上記交換結合膜に比べて高感度の磁気抵抗素子を提供できることから、高密度磁気記録用再生ヘッドとして用いられている。上記のスピンバルブ膜は、膜面内方向に電流を流すことで用いられる。
【0004】
一方、膜面に対して垂直方向に電流を流す垂直磁気抵抗効果を利用すると、更に大きな磁気抵抗効果が得られることが、例えば後掲する非特許文献3に示されている。
【0005】
更には、強磁性層/絶縁層/強磁性層からなる3層膜において、外部磁界によって2つの強磁性層のスピンを互いに平行あるいは反平行にすることにより、膜面垂直方向のトンネル電流の大きさが異なることを利用した、強磁性トンネル接合によるトンネル磁気抵抗(TMR:tunneling magneto−resistive)効果も、例えば後掲する非特許文献4に示されている。
【0006】
近年、GMR及びTMR素子を、不揮発性磁気記憶半導体装置(MRAM:magnetic random access memory)に利用する研究が、例えば非特許文献5乃至7に示されている。
【0007】
この場合、保磁力の異なる2つの強磁性層で非磁性金属層を挟んだ擬スピンバルブ素子や強磁性トンネル効果素子が検討されている。MRAMへ利用する場合にはこれらの素子をマトリックス状に配置し、別に設けた配線に電流を流して磁界を印加し、各素子を構成する2つの磁性層を互いに平行、反平行に制御することにより、“1”、“0”が記録される。読み出しはGMRやTMR効果を利用して行なわれる。
【0008】
MRAMにおいては、GMR効果に対しTMR効果を利用した方が低消費電力であるから、主としてTMR素子を用いることが検討されている。TMR素子を利用したMRAMは、室温でMR変化率が20%以上と大きく、且つトンネル接合における抵抗が大きいので、より大きな出力電圧が得られること、また読み出し時にスピン反転をする必要がなく、それだけ小さい電流で読み出しが可能であることなどの特徴があり、高速書き込み・読み出し可能な低消費電力型の不揮発性半導体記憶装置として期待されている。
【0009】
MRAMの書き込み動作においては、TMR素子における強磁性層の磁気特性を制御することが望まれる。具体的には、非磁性層を挟む2つの強磁性層の相対的な磁化方向を、平行・反平行に制御する技術、及び所望のセルにおける一方の磁性層を確実且つ効率的に磁化反転する技術が望まれる。非磁性層を挟む2つの強磁性層の相対的な磁化方向を、膜面内において均一に平行・反平行に制御する技術は、例えば後掲する特許文献1に示されている。
【0010】
またMRAMでは、高集積化のためにセルの微細化を実施した場合、磁性層の膜面方向の大きさに依存して反磁界により反転磁界が増大する。これにより書き込み時に大きな磁界が必要となり、消費電力も増大する。このため、後掲する特許文献2に示されるように強磁性層の形状を最適化し、磁化反転を容易にする技術が提案されている。
【0011】
MRAMにおける高集積化に伴いセルの微細化を実施した場合、反磁界の影響により書き込み時に更に大きな磁界が必要となるため、選択セルの周辺に及ぼす磁界の影響が大きくなり、誤った磁化反転は顕著になる。これに対処すべく、パーマロイのような高透磁率の材料により被覆した配線を形成し、TMR素子に磁界を集中させることが、例えば後掲する特許文献3で提案されている。
【0012】
【非特許文献1】
D.H. Mosca et al.,“Oscillatory interlayer coupling and giant magnetoresistance in Co/Cu multilayers”, Journal of Magnetism and Magnetic Materials 94 (1991) pp.L1−L5
【非特許文献2】
S.S.P.Parkin et al.,“Oscillatory Magnetic Exchange Coupling through Thin Copper Layers”, Physical Review Letters, vol.66, No.16, 22 April 1991, pp.2152−2155
【非特許文献3】
W.P.Pratt et al.,“Perpendicular Giant Magnetoresistances of Ag/Co Multilayers”, Physical Review Letters, vol.66, No.23, 10 June 1991, pp.3060−3063
【非特許文献4】
T. Miyazaki et al.,“Giant magnetic tunneling effect in Fe/Al2O3/Fe junction”, Journal of Magnetism and Magnetic Materials 139 (1995), pp.L231−L241
【非特許文献5】
S.Tehrani et al.,“High density submicron magnetoresistive random access memory (invited)”, Journal of Applied Physics, vol.85, No.8, 15 April 1999, pp.5822−5827
【非特許文献6】
S.S.P.Parkin et al.,“Exchange−biased magnetic tunnel junctions and application to nonvolatile magnetic random access memory (invited)”, Journal of Applied Physics, vol.85, No.8, 15 April 1999, pp.5828−5833
【非特許文献7】
ISSCC 2001 Dig of Tech. Papers, p.122
【特許文献1】
特開平11−273337号公報
【特許文献2】
特開2002−280637号公報
【特許文献3】
特開2000−353791号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
非磁性層を挟む2つの強磁性層の相対的な磁化方向を、平行・反平行に制御すること、所望のセルにおける一方の磁性層を確実且つ効率的に磁化反転すること、磁性層の膜面方向の大きさに依存する反磁界を小さくすることを解決するためには、外部磁界により磁化反転する強磁性体の材料を最適化すること、その形状を最適化することが有効であると考えられる。しかしながら、従来技術においては、磁化反転を容易にすること、セル選択の信頼性向上、更にはセル面積の微細化のそれぞれを両立させてはいない。また特許文献3に示される技術を採用しても、書き込み時の低消費電力化、及び書き込み線周辺部の誤った磁化反転の防止には有効であるが、書き込み線び直上若しくは直下のセルにおける誤った磁化反転を防止するものではない。
【0014】
それゆえ、本発明の目的は、磁化反転を容易にすること、セル選択の信頼性向上、更にはセル面積の微細化の少なくとも二つを両立させる磁気記憶素子及び磁気記憶装置を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
この発明の磁気記憶素子は、第1方向に延びる第1配線と、前記1配線と平面視上で交差する第2配線との間に配置される。また前記第1配線と第2配線との間で積層され、磁化方向が固定された固着層と外部磁界によって磁化方向が変化する記録層とを有する。前記記録層の平面視上の形状は、その磁化容易軸方向に対し非対称で、前記磁化容易軸と垂直な軸に対して対称である。
【0016】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかる磁気記憶素子が適用可能な磁気記憶装置の構成を示す回路図である。書き込みビット線3と読み出ししビット線121とライト線2aの組の複数が図中で左右方向に延びており、これらの組が上下方向に配列されている。これらの組の複数と交差して、ワード線104が図中で上下方向に延びており、且つ左右方向に複数配列されている。読み出しビット線121は共通にセンサアンプAMPの入力端に接続されている。
【0017】
メモリセルMCは上記の組とライト線2aとの交差部近傍に設けられ、マトリックス状に配置されている。メモリセルMCの各々は、素子選択用トランジスタ106と、磁気記憶素子たる強磁性トンネル接合素子101との直列接続を含む。より詳細には、強磁性トンネル接合素子101がライト線2aと書き込みビット線3との交差部において配置される。
【0018】
図2は、一つのメモリセルMCの構成を示す概略断面図である。半導体基板110の上面内には素子選択用トランジスタ106が形成され、ワード線104がそのゲート電極として機能し、半導体基板1との間にはゲート絶縁膜105が設けられている。またワード線104の両側にはサイドウォール106cが設けられている。素子選択用トランジスタ106のドレイン106aはコンタクトプラグ111a、導電層112をこの順に介して強磁性トンネル接合素子101と接続される。素子選択用トランジスタ106のソース106bはコンタクトプラグ111bを介して読み出しビット線121に接続されている。導電層112と半導体基板110との間には、層間絶縁膜130を介して絶縁されつつライト線2aが設けられている。
【0019】
図3は、強磁性トンネル接合素子101の構造の詳細を示す断面図である。トンネル磁気抵抗効果素子101は、固着層11と、トンネル絶縁層12と、記録層13とが半導体基板110側から順に積層された構造を有している。固着層11の磁化は、予め所定の方向、例えばライト線2aが延びる方向に固定されている。記録層13は、外部磁界によって磁化方向が変化する。そして図3(a)に示されるように、固着層11の磁化方向と、記録層13の磁化方向とが一致している状態を、強磁性トンネル接合素子101が“0”を記憶している状態とする。また図3(b)に示されるように、固着層11の磁化方向と、記録層13の磁化方向とが逆向きの状態を、強磁性トンネル接合素子101が“1”を記憶している状態とする。
【0020】
固着層11は、例えば反強磁性層14bと強磁性層14aとの積層構造とすることにより磁化方向を固定されている。つまり、反強磁性層14bが強磁性層14aのスピンの向きを固定することで、強磁性層14aの磁化方向を固定している。この反強磁性層14bは強磁性層14aの下に(つまり記録層13とは反対側に)設けられている。強磁性層14aとしては例えばCoFeを、反強磁性層14bとしては例えばIrMnを、それぞれ採用することができる。
【0021】
記録層13は強磁性層であり、例えばCoFe層とNiFe層との積層構造を有している。トンネル絶縁層12としては例えばAlOxを採用することができる。
【0022】
トンネル絶縁層12及び固着層11は記録層13と同じ形状か、あるいは記録層13の形状を含んでこれよりも大きい面積を有していてもよい。
【0023】
図2に戻り、固着層11はコンタクトプラグ111aと接触し、記録層13は書き込みビット線3と接触する。書き込みビット線3は記録層13との接触のための開口部131を有している。
【0024】
コンタクトプラグ110a,110bは、例えば層間絶縁膜130中でいずれも多段に積み上げられている。コンタクトプラグ110a,110bの各段、ライト線2a、書き込みビット線3、読み出しビット線121は、例えば銅配線201と、銅配線201を囲むバリアメタル202を含んでいる。
【0025】
次に、トンネル磁気抵抗効果素子101への書き込み動作を説明する。図4は、強磁性トンネル接合素子101の近傍を示す平面図である。書き込みビット線3とライト線2aとは互いに直交する方向に延びる。強磁性トンネル接合素子101は、ライト線2aと書き込みビット線3との平面視上の交差箇所に配置される。但し、図2に示されたように、強磁性トンネル接合素子101はライト線2aの上方(半導体基板110とは反対側)且つ書き込みビット線3の下方(半導体基板110側)に配置される。
【0026】
一般に強磁性体には、結晶構造や形状などにより磁化しやすい方向(エネルギーが低い状態)がある。この方向は磁化容易軸(easy axis)と呼ばれる。これに対し、磁化しにくい方向は、磁化困難軸(hard axis)と呼ばれる。実施の形態1においては、記録層13の磁化容易軸及び磁化困難軸は、それぞれライト線2aが延びる方向と、書き込みビット線3が延びる方向とに設定される。
【0027】
書き込み時においては、書き込みビット線3とライト線2aとに電流が流される。書き込みビット線3には、例えば矢印52方向に電流が流され、それにより書き込みビット線3を取巻く方向に磁界が生じる。この磁界により、書き込みビット線3の下方にある記録層13には磁化容易軸方向の磁界53aが印加される。一方、ライト線2aには、例えば矢印51方向に電流が流され、それによりライト線2aを取巻く方向に磁界が生じる。この磁界により、ライト線2aの上方にある記録層13には、磁化困難軸方向の磁界54aが印加される。よって書き込み時においては、記録層13に対して、磁界53a,54aの合成磁界55aが印加される。
【0028】
一方、記録層13の磁化の向きを反転させるために必要な磁界の大きさは、曲線56aで示されるアステロイド曲線となる。そして磁界55aの向きにおいて、曲線56aよりも磁界55aが大きな値となるので、記録層13は磁化容易軸方向の図中+Hで示す方向に磁化する。
【0029】
固着層11において磁化が予め磁界53aと同じ方向に磁化されている場合、トンネル磁気抵抗効果素子101においては固着層11と記録層13との各磁化方向は平行となる(図3(a)の状態:“0”を記憶)。この場合には、トンネル磁気抵抗効果素子101の厚さ方向(記録層13と固着層11とが積層される方向)についての抵抗値が小さくなる。
【0030】
固着層11において磁化が予め磁界53aと反対方向に磁化されている場合、トンネル磁気抵抗効果素子101の固着層11と記録層13との磁化方向は互いに反平行となる(図3(b)の状態:“1”を記憶)。この場合には、トンネル磁気抵抗効果素子101の厚さ方向についての抵抗値が大きくなる。かかる状態は、固着層11において磁化が予め図中の磁界53aと同じ方向に磁化されており、且つ書き込みビット線3に対して矢印52と反対方向に電流を流す場合にも生じる。
【0031】
次に読み出し動作について説明する。読み出し時には、所定のワード線104を選択駆動することによりそのワード線104に接続された素子選択用トランジスタ106がオン状態とされる。更に、所定の書き込みビット線3に電流を流すことによってオン状態の素子選択用トランジスタ106に接続された強磁性トンネル接合素子101にトンネル電流が流される。このときの強磁性トンネル接合素子101の抵抗に基づいて記憶状態が判定される。つまり、強磁性トンネル接合素子101は磁化方向が平行では抵抗が小さく、反平行では抵抗が大きいという性質を有するため、この性質を利用して選択メモリセルの出力信号が参照セルの出力信号より大きいか小さいかがセンスアンプAMPによって検出される。以上のようにして選択メモリセルの記憶状態“0”、“1”が判定される。
【0032】
今、方向+Hとは反対側の向きに記録層13が磁化されている状態に対して、方向+Hの向きに磁化を設定するための書き込みを行う場合を考える。磁界53a,54aのいずれか一方のみが印加された場合においては、磁化反転は起こらない。しかし磁化容易軸方向においてアステロイド曲線56aよりも大きな磁界58が印加された場合、この磁界58のみでも記録層13は磁化反転することとなる。このように大きな磁界が印加される場合には、書き込みビット線3に沿って配置された全ての強磁性トンネル接合素子101の記録層13は、方向+Hに沿って磁化する。これは選択していないメモリセルにも誤った情報が記録されることとなる。
【0033】
ライト線2aに大きな電流を流した場合にも同様の問題が発生することが考えられる。即ち、磁界54aの大きさがアステロイド曲線56aよりも大きい場合には、僅かな磁化容易軸方向の磁界によって磁化の方向が決定されてしまう。これはライト線2aに沿ったセルで誤った書き込みを行う可能性を招来する。
【0034】
この問題をもう少し詳しく検討する。図5は記録層13が矩形を有する場合の磁化パターンを例示する図であり、各位置での磁化を矢印で示している。図5では、当該矩形の長辺に沿って磁化容易軸が存在し、記録層13が呈する矩形の短辺に対する長辺の比(以下「アスペクト比」と証する)が2.0の場合が示されている。
【0035】
図6は記録層13の材料及び厚さを同一にして、アスペクト比を変えた場合のアステロイド曲線の変化を示すグラフである。横軸には磁化困難軸方向に印加する磁界Hxの大きさを、縦軸には磁化容易軸方向に印加する磁界Hyの大きさを、それぞれ採っている。記録層13の磁化が磁界Hyの印加方向と逆に向いている状態で、一定の磁界Hxを印加し、磁化が反転するのに必要な磁界Hyをプロットしている。磁界Hx,Hyはそれぞれ、ライト線2a及び書き込みビット線3に電流を流した際に発生する磁界である。
【0036】
プロット31,32,33,34はそれぞれアスペクト比が2.0,1.5,1.2,1.0の場合を示している。プロット31で示される特性を有する記録層13を例に採ると領域40よりも大きな磁界がセルに印加された場合、選択されていないセルが誤って磁化反転するという問題がある。領域40よりも磁化容易軸方向に大きな磁界が印加されることを示す領域41に相当する磁界が印加された場合、磁化容易軸方向の一方向のみに磁界が印加されるだけで、即ちこの磁界を発生させる書き込みビット線3に沿った記録層13であればその上方のライト線2aに電流が流れていなくても、記録層13の磁化方向が決定される。これにより、当該書き込みビット線3に沿った記録層13では磁化反転が起こる可能性がある。領域40よりも磁化困難軸方向に大きな磁界が印加されることを示す領域42に相当する磁界が印加された場合も同様である。
【0037】
このような望まない磁化反転を回避するためには、アステロイド曲線の傾きを急峻にして、領域40を大きくすることが望ましい。プロット31,32,33,34から見て取れるように、アスペクト比が大きい程、磁界Hxの小さい領域でのアステロイド曲線の傾きを急峻にすることができる。
【0038】
しかしながら、磁化困難軸方向の磁界の大きさが一定の場合、記録層13の磁化を磁化容易軸方向に沿った所望の方向に向けるために必要な磁界(以下「反転磁界」と称す)は、アスペクト比が大きいほど増大する。しかもメモリセルMCとして必要な面積も増大する。
【0039】
そこでアスペクト比が小さく、且つ磁化困難軸方向の磁界についての所定の値を境として、アステロイド曲線が急峻に変化する記録層13が望まれる。
【0040】
図7は本発明の実施の形態1において提案される記録層13の形状700を示す平面図である。形状700は磁化容易軸方向に対して非対称であり、且つ磁化困難軸方向に平行な線対称軸Kを有する。形状700の輪郭は4つの直線部702,703,704a,704bと、2つの円弧701a,701bを有している。そして円弧701a、直線部702、円弧701b、直線部704a,703,704b、円弧701aはこの順に連結されて閉曲線を構成している。直線部702,703は磁化容易軸に対して平行であり、直線部704a,704bは磁化困難軸に対して平行である。また円弧701a,701bの半径705と、直線部702の長さとは等しい。かかる形状700を有する記録層13、あるいは更にトンネル絶縁層12及び固着層11を含む強磁性トンネル接合素子101は、例えばリソグラフィーを用いてパターニングされる。楕円パターンと線形パターンによる組合せの2回の露光を用いることができる。
【0041】
図8は、図7に示された形状700を有する記録層13のアステロイド曲線35を示すグラフである。図8では、図6に示されたプロット31〜34をも追記しており、プロット35の計測に用いられた試料は、プロット31〜34に用いられた材料と同一の材料、同一の厚さを有する。
【0042】
プロット35から見て取れるように、形状700を有する記録層13では、磁化困難軸方向への磁界Hxが一定値(以下「磁化困難軸方向しきい値」)を超えると、磁気容易軸方向の反転磁界は急激に減少する。換言すれば、磁界Hxが磁化困難軸方向しきい値よりも小さい領域においてのみ、大きな反転磁界が磁化容易軸方向に必要となることを示している。
【0043】
図8に示される領域43に対応する磁界を印加することで記録層13への書き込みが可能である。領域43は、図6の領域40よりも明らかに大きい。特に図8の縦軸で示される磁化容易軸方向に磁界の領域が大きくなっている。よって磁化容易軸方向の磁界Hyのみで磁化反転が可能となる領域44は、磁界Hyの値が非常に大きな場合に対応する。これにより、領域40よりも領域43を大きくすることができる。また領域45を領域42よりも広げることもない。よって書き込みエラーが起こりうる領域44は領域41と比較し小さくなる。これによって、磁化容易軸方向のみの印加磁界での磁化反転は困難となる。
【0044】
記録層13の平面視上の形状(書き込みビット線3の延びる方向とライト線2aの延びる方向とが作る平面における形状)として形状700を採用することにより、記録層13の磁気容易軸方向のみの磁界が印加された場合において、反転磁界が大きい。よって、書き込みビット線3から発生される磁界によって、当該書き込みビット線3に沿ったメモリセルMCセルの記録層13が誤って磁化反転することを防止できる。
【0045】
また、磁界Hxが磁化困難軸方向しきい値よりも小さい場合には反転磁界がプロット31よりも大きい反面、磁化困難軸方向しきい値よりも大きい場合には反転磁界がプロット31よりも小さい。よって選択されたメモリセルMCにおける記録層13の磁化反転が容易となる。しかもアスペクト比を小さくすることができ、メモリセルの面積を増大させることもない。
【0046】
以上より、本実施の形態では、選択されないメモリセルについては反転磁界を従来よりも大きくし、選択されたメモリについては反転磁界を従来よりも小さくすることにより、メモリセルMCの選択についての信頼性が向上し、且つメモリセル面積の増大を回避することができる。
【0047】
このように磁化容易軸方向において必要とされる反転磁界の大きさが、磁化困難軸方向の磁界の大きさによって顕著に異なる現象は、磁化容易軸方向に印加される磁界Hyが反転磁界よりも小さい場合と大きい場合とで、磁化状態が異なることに起因する。
【0048】
図9及び図10は、それぞれ磁界Hyが反転磁界よりも小さい場合と大きい場合の磁化分布を示している。具体的には磁界Hyが両図において等しく設定され、図9の反転磁界は図10の反転磁界よりも小さい。つまり、磁化困難軸方向しきい値は、図9に対応して与えられる磁界Hxよりも大きく、図10に対応して与えられる磁界Hxよりも小さい。
【0049】
一般に磁性体内の磁化は、その端部と垂直になる程エネルギーは大きくなるため、面内で磁化を留めようとする性質をもつ。このため、磁界Hxの値が磁化困難軸方向しきい値よりも小さく、よって与えられた磁界Hyが反転磁界よりも小さい場合には、記録層13における磁化分布は図9に示される形状を呈する。この磁化分布はC型と呼ばれ、内部安定な磁化状態であるため、磁気容易軸方向の反転磁界は大きい。
【0050】
これに対し、磁界Hxの値が磁化困難軸方向しきい値よりも大きく、よって与えられた磁界Hyが反転磁界よりも大きい場合には、外部印加磁界によるエネルギーが打勝ち、図10に示される形状を呈する。この磁化分布はいわゆるS型であり、磁界Hx,Hyの合成磁界にほぼ沿った磁化分布となる。
【0051】
図10に示された状態では、外部磁界によるトルクを受けやすくなり反転磁界は急激に小さくなる。この磁化状態の変化は、記録層を磁化容易軸に対し非対称とし、且つ磁化容易軸に垂直な軸に対して線対称としたことで得られる効果である。なお、磁化容易軸に垂直な方向に対して非対称とした場合は、C型及びS型のそれぞれの磁化状態を制御することが本実施の形態よりも困難となり、また、形成も複雑となる。
【0052】
従来のように記録層13の形状が磁化容易軸に対して対称な場合は、磁化困難軸方向に僅かな外部磁界が印加されるだけで図5に示されるようなS型の磁化状態となる。このため、C型及びS型のそれぞれの磁化状態を意図的に制御することは困難である。
【0053】
記録層13の形状は図7に示された形状700に限定されることはない。図11は実施の形態1の変形にかかる記録層13の形状800を示す平面図である。形状800は磁化容易軸方向に関して非対称であり、且つ磁化困難軸方向に平行な線対称軸Lを有する。形状800の輪郭は3つの直線部802a,802b,804と、23の円弧801,803a,803bを有している。そして円弧801、直線部802b、円弧803b、直線部804,円弧803a、直線部802a、円弧801はこの順に連結されて閉曲線を構成している。円弧801は半円であり、直線部804は磁化容易軸に対して平行であり、直線部802a,802bは磁化困難軸に対して平行である。
【0054】
形状800では、形状700とは異なり角を持たない。しかし磁化容易軸に対して非対称な形状且つ磁化容易軸に垂直な軸に対して対象であるため、形状700を採る場合と同様にして、形状800を採る記録層13は、上述の効果を招来する。
【0055】
しかも1回のリソグラフィーを用いて島状のパターンを形成する場合、形状700のように角を有した形状や直線的な形状を形成することは困難である。しかしながら、形状800のように直線部の間に必ず円弧のような曲線が設けることにより、角の生成を排除すると、1回のリソグラフィーのみで形成が可能であり、よって形成が容易である。
【0056】
実施の形態2.
図12は本発明の実施の形態2にかかる磁気記憶素子が適用可能な、メモリセルMCの一つを示す概略断面図である。本実施例においては、ライト線2aの底面及び側面に高透磁率材料、例えばパーマロイを用いた被覆132を設けている。書き込み・読み出し動作は実施の形態1と同様であるために説明を省略する。
【0057】
ライト線2aに電流を流すことによって発生する磁界は、被覆132に集中的に通る。よって、ライト線2aの上面側に位置する強磁性トンネル接合素子101にも、磁界が集中しやすくなる。従ってライト線2aに電流を流すことによって発生する磁界は、被覆132を設けない場合と比較して大きくし易い。つまりライト線2aに流す電流をより小さくして、効率的な磁界の印加が可能となる。これにより消費電力を低減することができる。
【0058】
低消費電力という観点からは、記録層13の磁化容易軸及び磁化困難軸を、それぞれ書き込みビット線3が延びる方向と、ライト線2aが延びる方向とに設定することがより望ましい。書き込みビット線3に流れる電流によって発生する磁界は磁化困難軸方向に平行であるが、これを小さくして反転磁界を大きくしても、更に大きな磁界がライト線2aに流れる電流によって得られるからである。
【0059】
しかしながらライト線2aに流れる電流によって得られる、磁化容易軸方向の磁界が大きくなると、ライト線2aに沿ったメモリセルMCにおいて、記録層13が誤って磁化反転する可能性があった。
【0060】
そこで実施の形態2においても、平面視上で形状700,800のように、磁化容易軸方向に関して非対称であり、且つ磁化困難軸方向に平行な線対称軸を有する記録層13を採用する。
【0061】
ライト線2aに流れる電流によって発生する磁界は、記録層の磁化容易軸方向に印加される。図8のプロット35に示されるように、記録層13は磁化困難軸方向の磁界が小さい場合(磁化困難軸方向しきい値よりも小さい場合)においては、磁化反転させるために磁気容易軸方向に大きな磁界が必要である。このため、被覆層132を設けても、ライト線2aのみから発せられる磁界に対しての磁化反転を抑制することが可能であり、ライト線2aに沿ったメモリセルMCにおいて、記録層13が誤って反転することを防止できる。
【0062】
以上のように本実施の形態によれば、選択しないメモリセルの誤反転の防止と、書き込み電力の低減の両立が可能となる。
【0063】
なお、ライト線、ビット線、及び磁気抵抗効果素子の配置は上記に限定されるものではない。
【0064】
上記の各実施の形態において、半導体基板を利用した磁気記憶装置について説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、磁気センサ、磁気記録ヘッド、磁気記録媒体などのパターン化された磁気素子及び類似する他の装置に広く適用することが可能である。
【0065】
また、メモリセル一つ当たりに一つのトンネル磁気抵抗効果素子が備えられる場合について説明したが、メモリセルは2つ以上のトンネル磁気抵抗効果素子が含まれていてもよく、それらのメモリセルは互いに積層されていてもよい。
【0066】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0067】
【発明の効果】
本発明の磁気記憶素子によれば、アステロイド曲線の傾きが急峻であるため、書き込み時のエラーを低減することが可能である。また、記録層のアスペクト比を大きくする必要がないため、この効果はメモリセルの面積を大きくすることなく得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる磁気記憶素子が適用可能な磁気記憶装置の構成を示す回路図である。
【図2】一つのメモリセルの構成を示す概略断面図である。
【図3】強磁性トンネル接合素子の構造の詳細を示す断面図である。
【図4】強磁性トンネル接合素子の近傍を示す平面図である。
【図5】記録層が矩形を有する場合の磁化パターンを例示する図である。
【図6】記録層のアスペクト比を変えた場合のアステロイド曲線を示すグラフである。
【図7】本発明の実施の形態1にかかる記録層の形状を示す平面図である。
【図8】本発明の実施の形態1にかかる記録層のアステロイド曲線を示すグラフである。
【図9】磁化容易軸方向の磁界が反転磁界よりも小さい場合の磁化分布を示す図である。
【図10】磁化容易軸方向の磁界が反転磁界よりも大きい場合の磁化分布を示す図である。
【図11】実施の形態1の変形にかかる記録層の形状を示す平面図である。
【図12】本発明の実施の形態2にかかる磁気記憶素子が適用可能な磁気記憶装置の構成を示す概略断面図である。
【符号の説明】
2a ライト線、3 ビット線、13 記録層、101 トンネル磁気抵抗効果素子、132 被覆。
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気記憶技術に関し、巨大磁気抵抗効果やトンネル磁気抵抗効果によりデータを記憶する磁気記憶装置に適用することができる。
【0002】
【従来の技術】
磁気抵抗(MR:magnetoresistive)効果は、磁性体に磁界を加えることにより電気抵抗が変化する現象であり、磁界センサや磁気ヘッドなどに利用されている。近年、非常に大きな磁気抵抗効果を示す巨大磁気抵抗(GMR:giant magnetoresistance)効果材料として、Fe/Cr、Co/Cuなどの人工格子膜などが例えば後掲する非特許文献1,2で紹介されている。
【0003】
また、強磁性層間の交換結合作用がなくなる程度に厚い非磁性金属層を持つ強磁性層/非磁性層/強磁性層/反強磁性層からなる構造により、強磁性層/反強磁性層を交換結合させて、その強磁性層の磁気モーメントを固定し、他方の強磁性層のスピンのみを外部磁界で容易に反転できるようにした、いわゆるスピンバルブ膜が知られている。反強磁性体としては、FeMn、IrMn、PtMnなどが用いられている。この場合、2つの強磁性層間の交換結合が弱く小さな磁界でスピンが反転できるので、上記交換結合膜に比べて高感度の磁気抵抗素子を提供できることから、高密度磁気記録用再生ヘッドとして用いられている。上記のスピンバルブ膜は、膜面内方向に電流を流すことで用いられる。
【0004】
一方、膜面に対して垂直方向に電流を流す垂直磁気抵抗効果を利用すると、更に大きな磁気抵抗効果が得られることが、例えば後掲する非特許文献3に示されている。
【0005】
更には、強磁性層/絶縁層/強磁性層からなる3層膜において、外部磁界によって2つの強磁性層のスピンを互いに平行あるいは反平行にすることにより、膜面垂直方向のトンネル電流の大きさが異なることを利用した、強磁性トンネル接合によるトンネル磁気抵抗(TMR:tunneling magneto−resistive)効果も、例えば後掲する非特許文献4に示されている。
【0006】
近年、GMR及びTMR素子を、不揮発性磁気記憶半導体装置(MRAM:magnetic random access memory)に利用する研究が、例えば非特許文献5乃至7に示されている。
【0007】
この場合、保磁力の異なる2つの強磁性層で非磁性金属層を挟んだ擬スピンバルブ素子や強磁性トンネル効果素子が検討されている。MRAMへ利用する場合にはこれらの素子をマトリックス状に配置し、別に設けた配線に電流を流して磁界を印加し、各素子を構成する2つの磁性層を互いに平行、反平行に制御することにより、“1”、“0”が記録される。読み出しはGMRやTMR効果を利用して行なわれる。
【0008】
MRAMにおいては、GMR効果に対しTMR効果を利用した方が低消費電力であるから、主としてTMR素子を用いることが検討されている。TMR素子を利用したMRAMは、室温でMR変化率が20%以上と大きく、且つトンネル接合における抵抗が大きいので、より大きな出力電圧が得られること、また読み出し時にスピン反転をする必要がなく、それだけ小さい電流で読み出しが可能であることなどの特徴があり、高速書き込み・読み出し可能な低消費電力型の不揮発性半導体記憶装置として期待されている。
【0009】
MRAMの書き込み動作においては、TMR素子における強磁性層の磁気特性を制御することが望まれる。具体的には、非磁性層を挟む2つの強磁性層の相対的な磁化方向を、平行・反平行に制御する技術、及び所望のセルにおける一方の磁性層を確実且つ効率的に磁化反転する技術が望まれる。非磁性層を挟む2つの強磁性層の相対的な磁化方向を、膜面内において均一に平行・反平行に制御する技術は、例えば後掲する特許文献1に示されている。
【0010】
またMRAMでは、高集積化のためにセルの微細化を実施した場合、磁性層の膜面方向の大きさに依存して反磁界により反転磁界が増大する。これにより書き込み時に大きな磁界が必要となり、消費電力も増大する。このため、後掲する特許文献2に示されるように強磁性層の形状を最適化し、磁化反転を容易にする技術が提案されている。
【0011】
MRAMにおける高集積化に伴いセルの微細化を実施した場合、反磁界の影響により書き込み時に更に大きな磁界が必要となるため、選択セルの周辺に及ぼす磁界の影響が大きくなり、誤った磁化反転は顕著になる。これに対処すべく、パーマロイのような高透磁率の材料により被覆した配線を形成し、TMR素子に磁界を集中させることが、例えば後掲する特許文献3で提案されている。
【0012】
【非特許文献1】
D.H. Mosca et al.,“Oscillatory interlayer coupling and giant magnetoresistance in Co/Cu multilayers”, Journal of Magnetism and Magnetic Materials 94 (1991) pp.L1−L5
【非特許文献2】
S.S.P.Parkin et al.,“Oscillatory Magnetic Exchange Coupling through Thin Copper Layers”, Physical Review Letters, vol.66, No.16, 22 April 1991, pp.2152−2155
【非特許文献3】
W.P.Pratt et al.,“Perpendicular Giant Magnetoresistances of Ag/Co Multilayers”, Physical Review Letters, vol.66, No.23, 10 June 1991, pp.3060−3063
【非特許文献4】
T. Miyazaki et al.,“Giant magnetic tunneling effect in Fe/Al2O3/Fe junction”, Journal of Magnetism and Magnetic Materials 139 (1995), pp.L231−L241
【非特許文献5】
S.Tehrani et al.,“High density submicron magnetoresistive random access memory (invited)”, Journal of Applied Physics, vol.85, No.8, 15 April 1999, pp.5822−5827
【非特許文献6】
S.S.P.Parkin et al.,“Exchange−biased magnetic tunnel junctions and application to nonvolatile magnetic random access memory (invited)”, Journal of Applied Physics, vol.85, No.8, 15 April 1999, pp.5828−5833
【非特許文献7】
ISSCC 2001 Dig of Tech. Papers, p.122
【特許文献1】
特開平11−273337号公報
【特許文献2】
特開2002−280637号公報
【特許文献3】
特開2000−353791号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
非磁性層を挟む2つの強磁性層の相対的な磁化方向を、平行・反平行に制御すること、所望のセルにおける一方の磁性層を確実且つ効率的に磁化反転すること、磁性層の膜面方向の大きさに依存する反磁界を小さくすることを解決するためには、外部磁界により磁化反転する強磁性体の材料を最適化すること、その形状を最適化することが有効であると考えられる。しかしながら、従来技術においては、磁化反転を容易にすること、セル選択の信頼性向上、更にはセル面積の微細化のそれぞれを両立させてはいない。また特許文献3に示される技術を採用しても、書き込み時の低消費電力化、及び書き込み線周辺部の誤った磁化反転の防止には有効であるが、書き込み線び直上若しくは直下のセルにおける誤った磁化反転を防止するものではない。
【0014】
それゆえ、本発明の目的は、磁化反転を容易にすること、セル選択の信頼性向上、更にはセル面積の微細化の少なくとも二つを両立させる磁気記憶素子及び磁気記憶装置を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
この発明の磁気記憶素子は、第1方向に延びる第1配線と、前記1配線と平面視上で交差する第2配線との間に配置される。また前記第1配線と第2配線との間で積層され、磁化方向が固定された固着層と外部磁界によって磁化方向が変化する記録層とを有する。前記記録層の平面視上の形状は、その磁化容易軸方向に対し非対称で、前記磁化容易軸と垂直な軸に対して対称である。
【0016】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかる磁気記憶素子が適用可能な磁気記憶装置の構成を示す回路図である。書き込みビット線3と読み出ししビット線121とライト線2aの組の複数が図中で左右方向に延びており、これらの組が上下方向に配列されている。これらの組の複数と交差して、ワード線104が図中で上下方向に延びており、且つ左右方向に複数配列されている。読み出しビット線121は共通にセンサアンプAMPの入力端に接続されている。
【0017】
メモリセルMCは上記の組とライト線2aとの交差部近傍に設けられ、マトリックス状に配置されている。メモリセルMCの各々は、素子選択用トランジスタ106と、磁気記憶素子たる強磁性トンネル接合素子101との直列接続を含む。より詳細には、強磁性トンネル接合素子101がライト線2aと書き込みビット線3との交差部において配置される。
【0018】
図2は、一つのメモリセルMCの構成を示す概略断面図である。半導体基板110の上面内には素子選択用トランジスタ106が形成され、ワード線104がそのゲート電極として機能し、半導体基板1との間にはゲート絶縁膜105が設けられている。またワード線104の両側にはサイドウォール106cが設けられている。素子選択用トランジスタ106のドレイン106aはコンタクトプラグ111a、導電層112をこの順に介して強磁性トンネル接合素子101と接続される。素子選択用トランジスタ106のソース106bはコンタクトプラグ111bを介して読み出しビット線121に接続されている。導電層112と半導体基板110との間には、層間絶縁膜130を介して絶縁されつつライト線2aが設けられている。
【0019】
図3は、強磁性トンネル接合素子101の構造の詳細を示す断面図である。トンネル磁気抵抗効果素子101は、固着層11と、トンネル絶縁層12と、記録層13とが半導体基板110側から順に積層された構造を有している。固着層11の磁化は、予め所定の方向、例えばライト線2aが延びる方向に固定されている。記録層13は、外部磁界によって磁化方向が変化する。そして図3(a)に示されるように、固着層11の磁化方向と、記録層13の磁化方向とが一致している状態を、強磁性トンネル接合素子101が“0”を記憶している状態とする。また図3(b)に示されるように、固着層11の磁化方向と、記録層13の磁化方向とが逆向きの状態を、強磁性トンネル接合素子101が“1”を記憶している状態とする。
【0020】
固着層11は、例えば反強磁性層14bと強磁性層14aとの積層構造とすることにより磁化方向を固定されている。つまり、反強磁性層14bが強磁性層14aのスピンの向きを固定することで、強磁性層14aの磁化方向を固定している。この反強磁性層14bは強磁性層14aの下に(つまり記録層13とは反対側に)設けられている。強磁性層14aとしては例えばCoFeを、反強磁性層14bとしては例えばIrMnを、それぞれ採用することができる。
【0021】
記録層13は強磁性層であり、例えばCoFe層とNiFe層との積層構造を有している。トンネル絶縁層12としては例えばAlOxを採用することができる。
【0022】
トンネル絶縁層12及び固着層11は記録層13と同じ形状か、あるいは記録層13の形状を含んでこれよりも大きい面積を有していてもよい。
【0023】
図2に戻り、固着層11はコンタクトプラグ111aと接触し、記録層13は書き込みビット線3と接触する。書き込みビット線3は記録層13との接触のための開口部131を有している。
【0024】
コンタクトプラグ110a,110bは、例えば層間絶縁膜130中でいずれも多段に積み上げられている。コンタクトプラグ110a,110bの各段、ライト線2a、書き込みビット線3、読み出しビット線121は、例えば銅配線201と、銅配線201を囲むバリアメタル202を含んでいる。
【0025】
次に、トンネル磁気抵抗効果素子101への書き込み動作を説明する。図4は、強磁性トンネル接合素子101の近傍を示す平面図である。書き込みビット線3とライト線2aとは互いに直交する方向に延びる。強磁性トンネル接合素子101は、ライト線2aと書き込みビット線3との平面視上の交差箇所に配置される。但し、図2に示されたように、強磁性トンネル接合素子101はライト線2aの上方(半導体基板110とは反対側)且つ書き込みビット線3の下方(半導体基板110側)に配置される。
【0026】
一般に強磁性体には、結晶構造や形状などにより磁化しやすい方向(エネルギーが低い状態)がある。この方向は磁化容易軸(easy axis)と呼ばれる。これに対し、磁化しにくい方向は、磁化困難軸(hard axis)と呼ばれる。実施の形態1においては、記録層13の磁化容易軸及び磁化困難軸は、それぞれライト線2aが延びる方向と、書き込みビット線3が延びる方向とに設定される。
【0027】
書き込み時においては、書き込みビット線3とライト線2aとに電流が流される。書き込みビット線3には、例えば矢印52方向に電流が流され、それにより書き込みビット線3を取巻く方向に磁界が生じる。この磁界により、書き込みビット線3の下方にある記録層13には磁化容易軸方向の磁界53aが印加される。一方、ライト線2aには、例えば矢印51方向に電流が流され、それによりライト線2aを取巻く方向に磁界が生じる。この磁界により、ライト線2aの上方にある記録層13には、磁化困難軸方向の磁界54aが印加される。よって書き込み時においては、記録層13に対して、磁界53a,54aの合成磁界55aが印加される。
【0028】
一方、記録層13の磁化の向きを反転させるために必要な磁界の大きさは、曲線56aで示されるアステロイド曲線となる。そして磁界55aの向きにおいて、曲線56aよりも磁界55aが大きな値となるので、記録層13は磁化容易軸方向の図中+Hで示す方向に磁化する。
【0029】
固着層11において磁化が予め磁界53aと同じ方向に磁化されている場合、トンネル磁気抵抗効果素子101においては固着層11と記録層13との各磁化方向は平行となる(図3(a)の状態:“0”を記憶)。この場合には、トンネル磁気抵抗効果素子101の厚さ方向(記録層13と固着層11とが積層される方向)についての抵抗値が小さくなる。
【0030】
固着層11において磁化が予め磁界53aと反対方向に磁化されている場合、トンネル磁気抵抗効果素子101の固着層11と記録層13との磁化方向は互いに反平行となる(図3(b)の状態:“1”を記憶)。この場合には、トンネル磁気抵抗効果素子101の厚さ方向についての抵抗値が大きくなる。かかる状態は、固着層11において磁化が予め図中の磁界53aと同じ方向に磁化されており、且つ書き込みビット線3に対して矢印52と反対方向に電流を流す場合にも生じる。
【0031】
次に読み出し動作について説明する。読み出し時には、所定のワード線104を選択駆動することによりそのワード線104に接続された素子選択用トランジスタ106がオン状態とされる。更に、所定の書き込みビット線3に電流を流すことによってオン状態の素子選択用トランジスタ106に接続された強磁性トンネル接合素子101にトンネル電流が流される。このときの強磁性トンネル接合素子101の抵抗に基づいて記憶状態が判定される。つまり、強磁性トンネル接合素子101は磁化方向が平行では抵抗が小さく、反平行では抵抗が大きいという性質を有するため、この性質を利用して選択メモリセルの出力信号が参照セルの出力信号より大きいか小さいかがセンスアンプAMPによって検出される。以上のようにして選択メモリセルの記憶状態“0”、“1”が判定される。
【0032】
今、方向+Hとは反対側の向きに記録層13が磁化されている状態に対して、方向+Hの向きに磁化を設定するための書き込みを行う場合を考える。磁界53a,54aのいずれか一方のみが印加された場合においては、磁化反転は起こらない。しかし磁化容易軸方向においてアステロイド曲線56aよりも大きな磁界58が印加された場合、この磁界58のみでも記録層13は磁化反転することとなる。このように大きな磁界が印加される場合には、書き込みビット線3に沿って配置された全ての強磁性トンネル接合素子101の記録層13は、方向+Hに沿って磁化する。これは選択していないメモリセルにも誤った情報が記録されることとなる。
【0033】
ライト線2aに大きな電流を流した場合にも同様の問題が発生することが考えられる。即ち、磁界54aの大きさがアステロイド曲線56aよりも大きい場合には、僅かな磁化容易軸方向の磁界によって磁化の方向が決定されてしまう。これはライト線2aに沿ったセルで誤った書き込みを行う可能性を招来する。
【0034】
この問題をもう少し詳しく検討する。図5は記録層13が矩形を有する場合の磁化パターンを例示する図であり、各位置での磁化を矢印で示している。図5では、当該矩形の長辺に沿って磁化容易軸が存在し、記録層13が呈する矩形の短辺に対する長辺の比(以下「アスペクト比」と証する)が2.0の場合が示されている。
【0035】
図6は記録層13の材料及び厚さを同一にして、アスペクト比を変えた場合のアステロイド曲線の変化を示すグラフである。横軸には磁化困難軸方向に印加する磁界Hxの大きさを、縦軸には磁化容易軸方向に印加する磁界Hyの大きさを、それぞれ採っている。記録層13の磁化が磁界Hyの印加方向と逆に向いている状態で、一定の磁界Hxを印加し、磁化が反転するのに必要な磁界Hyをプロットしている。磁界Hx,Hyはそれぞれ、ライト線2a及び書き込みビット線3に電流を流した際に発生する磁界である。
【0036】
プロット31,32,33,34はそれぞれアスペクト比が2.0,1.5,1.2,1.0の場合を示している。プロット31で示される特性を有する記録層13を例に採ると領域40よりも大きな磁界がセルに印加された場合、選択されていないセルが誤って磁化反転するという問題がある。領域40よりも磁化容易軸方向に大きな磁界が印加されることを示す領域41に相当する磁界が印加された場合、磁化容易軸方向の一方向のみに磁界が印加されるだけで、即ちこの磁界を発生させる書き込みビット線3に沿った記録層13であればその上方のライト線2aに電流が流れていなくても、記録層13の磁化方向が決定される。これにより、当該書き込みビット線3に沿った記録層13では磁化反転が起こる可能性がある。領域40よりも磁化困難軸方向に大きな磁界が印加されることを示す領域42に相当する磁界が印加された場合も同様である。
【0037】
このような望まない磁化反転を回避するためには、アステロイド曲線の傾きを急峻にして、領域40を大きくすることが望ましい。プロット31,32,33,34から見て取れるように、アスペクト比が大きい程、磁界Hxの小さい領域でのアステロイド曲線の傾きを急峻にすることができる。
【0038】
しかしながら、磁化困難軸方向の磁界の大きさが一定の場合、記録層13の磁化を磁化容易軸方向に沿った所望の方向に向けるために必要な磁界(以下「反転磁界」と称す)は、アスペクト比が大きいほど増大する。しかもメモリセルMCとして必要な面積も増大する。
【0039】
そこでアスペクト比が小さく、且つ磁化困難軸方向の磁界についての所定の値を境として、アステロイド曲線が急峻に変化する記録層13が望まれる。
【0040】
図7は本発明の実施の形態1において提案される記録層13の形状700を示す平面図である。形状700は磁化容易軸方向に対して非対称であり、且つ磁化困難軸方向に平行な線対称軸Kを有する。形状700の輪郭は4つの直線部702,703,704a,704bと、2つの円弧701a,701bを有している。そして円弧701a、直線部702、円弧701b、直線部704a,703,704b、円弧701aはこの順に連結されて閉曲線を構成している。直線部702,703は磁化容易軸に対して平行であり、直線部704a,704bは磁化困難軸に対して平行である。また円弧701a,701bの半径705と、直線部702の長さとは等しい。かかる形状700を有する記録層13、あるいは更にトンネル絶縁層12及び固着層11を含む強磁性トンネル接合素子101は、例えばリソグラフィーを用いてパターニングされる。楕円パターンと線形パターンによる組合せの2回の露光を用いることができる。
【0041】
図8は、図7に示された形状700を有する記録層13のアステロイド曲線35を示すグラフである。図8では、図6に示されたプロット31〜34をも追記しており、プロット35の計測に用いられた試料は、プロット31〜34に用いられた材料と同一の材料、同一の厚さを有する。
【0042】
プロット35から見て取れるように、形状700を有する記録層13では、磁化困難軸方向への磁界Hxが一定値(以下「磁化困難軸方向しきい値」)を超えると、磁気容易軸方向の反転磁界は急激に減少する。換言すれば、磁界Hxが磁化困難軸方向しきい値よりも小さい領域においてのみ、大きな反転磁界が磁化容易軸方向に必要となることを示している。
【0043】
図8に示される領域43に対応する磁界を印加することで記録層13への書き込みが可能である。領域43は、図6の領域40よりも明らかに大きい。特に図8の縦軸で示される磁化容易軸方向に磁界の領域が大きくなっている。よって磁化容易軸方向の磁界Hyのみで磁化反転が可能となる領域44は、磁界Hyの値が非常に大きな場合に対応する。これにより、領域40よりも領域43を大きくすることができる。また領域45を領域42よりも広げることもない。よって書き込みエラーが起こりうる領域44は領域41と比較し小さくなる。これによって、磁化容易軸方向のみの印加磁界での磁化反転は困難となる。
【0044】
記録層13の平面視上の形状(書き込みビット線3の延びる方向とライト線2aの延びる方向とが作る平面における形状)として形状700を採用することにより、記録層13の磁気容易軸方向のみの磁界が印加された場合において、反転磁界が大きい。よって、書き込みビット線3から発生される磁界によって、当該書き込みビット線3に沿ったメモリセルMCセルの記録層13が誤って磁化反転することを防止できる。
【0045】
また、磁界Hxが磁化困難軸方向しきい値よりも小さい場合には反転磁界がプロット31よりも大きい反面、磁化困難軸方向しきい値よりも大きい場合には反転磁界がプロット31よりも小さい。よって選択されたメモリセルMCにおける記録層13の磁化反転が容易となる。しかもアスペクト比を小さくすることができ、メモリセルの面積を増大させることもない。
【0046】
以上より、本実施の形態では、選択されないメモリセルについては反転磁界を従来よりも大きくし、選択されたメモリについては反転磁界を従来よりも小さくすることにより、メモリセルMCの選択についての信頼性が向上し、且つメモリセル面積の増大を回避することができる。
【0047】
このように磁化容易軸方向において必要とされる反転磁界の大きさが、磁化困難軸方向の磁界の大きさによって顕著に異なる現象は、磁化容易軸方向に印加される磁界Hyが反転磁界よりも小さい場合と大きい場合とで、磁化状態が異なることに起因する。
【0048】
図9及び図10は、それぞれ磁界Hyが反転磁界よりも小さい場合と大きい場合の磁化分布を示している。具体的には磁界Hyが両図において等しく設定され、図9の反転磁界は図10の反転磁界よりも小さい。つまり、磁化困難軸方向しきい値は、図9に対応して与えられる磁界Hxよりも大きく、図10に対応して与えられる磁界Hxよりも小さい。
【0049】
一般に磁性体内の磁化は、その端部と垂直になる程エネルギーは大きくなるため、面内で磁化を留めようとする性質をもつ。このため、磁界Hxの値が磁化困難軸方向しきい値よりも小さく、よって与えられた磁界Hyが反転磁界よりも小さい場合には、記録層13における磁化分布は図9に示される形状を呈する。この磁化分布はC型と呼ばれ、内部安定な磁化状態であるため、磁気容易軸方向の反転磁界は大きい。
【0050】
これに対し、磁界Hxの値が磁化困難軸方向しきい値よりも大きく、よって与えられた磁界Hyが反転磁界よりも大きい場合には、外部印加磁界によるエネルギーが打勝ち、図10に示される形状を呈する。この磁化分布はいわゆるS型であり、磁界Hx,Hyの合成磁界にほぼ沿った磁化分布となる。
【0051】
図10に示された状態では、外部磁界によるトルクを受けやすくなり反転磁界は急激に小さくなる。この磁化状態の変化は、記録層を磁化容易軸に対し非対称とし、且つ磁化容易軸に垂直な軸に対して線対称としたことで得られる効果である。なお、磁化容易軸に垂直な方向に対して非対称とした場合は、C型及びS型のそれぞれの磁化状態を制御することが本実施の形態よりも困難となり、また、形成も複雑となる。
【0052】
従来のように記録層13の形状が磁化容易軸に対して対称な場合は、磁化困難軸方向に僅かな外部磁界が印加されるだけで図5に示されるようなS型の磁化状態となる。このため、C型及びS型のそれぞれの磁化状態を意図的に制御することは困難である。
【0053】
記録層13の形状は図7に示された形状700に限定されることはない。図11は実施の形態1の変形にかかる記録層13の形状800を示す平面図である。形状800は磁化容易軸方向に関して非対称であり、且つ磁化困難軸方向に平行な線対称軸Lを有する。形状800の輪郭は3つの直線部802a,802b,804と、23の円弧801,803a,803bを有している。そして円弧801、直線部802b、円弧803b、直線部804,円弧803a、直線部802a、円弧801はこの順に連結されて閉曲線を構成している。円弧801は半円であり、直線部804は磁化容易軸に対して平行であり、直線部802a,802bは磁化困難軸に対して平行である。
【0054】
形状800では、形状700とは異なり角を持たない。しかし磁化容易軸に対して非対称な形状且つ磁化容易軸に垂直な軸に対して対象であるため、形状700を採る場合と同様にして、形状800を採る記録層13は、上述の効果を招来する。
【0055】
しかも1回のリソグラフィーを用いて島状のパターンを形成する場合、形状700のように角を有した形状や直線的な形状を形成することは困難である。しかしながら、形状800のように直線部の間に必ず円弧のような曲線が設けることにより、角の生成を排除すると、1回のリソグラフィーのみで形成が可能であり、よって形成が容易である。
【0056】
実施の形態2.
図12は本発明の実施の形態2にかかる磁気記憶素子が適用可能な、メモリセルMCの一つを示す概略断面図である。本実施例においては、ライト線2aの底面及び側面に高透磁率材料、例えばパーマロイを用いた被覆132を設けている。書き込み・読み出し動作は実施の形態1と同様であるために説明を省略する。
【0057】
ライト線2aに電流を流すことによって発生する磁界は、被覆132に集中的に通る。よって、ライト線2aの上面側に位置する強磁性トンネル接合素子101にも、磁界が集中しやすくなる。従ってライト線2aに電流を流すことによって発生する磁界は、被覆132を設けない場合と比較して大きくし易い。つまりライト線2aに流す電流をより小さくして、効率的な磁界の印加が可能となる。これにより消費電力を低減することができる。
【0058】
低消費電力という観点からは、記録層13の磁化容易軸及び磁化困難軸を、それぞれ書き込みビット線3が延びる方向と、ライト線2aが延びる方向とに設定することがより望ましい。書き込みビット線3に流れる電流によって発生する磁界は磁化困難軸方向に平行であるが、これを小さくして反転磁界を大きくしても、更に大きな磁界がライト線2aに流れる電流によって得られるからである。
【0059】
しかしながらライト線2aに流れる電流によって得られる、磁化容易軸方向の磁界が大きくなると、ライト線2aに沿ったメモリセルMCにおいて、記録層13が誤って磁化反転する可能性があった。
【0060】
そこで実施の形態2においても、平面視上で形状700,800のように、磁化容易軸方向に関して非対称であり、且つ磁化困難軸方向に平行な線対称軸を有する記録層13を採用する。
【0061】
ライト線2aに流れる電流によって発生する磁界は、記録層の磁化容易軸方向に印加される。図8のプロット35に示されるように、記録層13は磁化困難軸方向の磁界が小さい場合(磁化困難軸方向しきい値よりも小さい場合)においては、磁化反転させるために磁気容易軸方向に大きな磁界が必要である。このため、被覆層132を設けても、ライト線2aのみから発せられる磁界に対しての磁化反転を抑制することが可能であり、ライト線2aに沿ったメモリセルMCにおいて、記録層13が誤って反転することを防止できる。
【0062】
以上のように本実施の形態によれば、選択しないメモリセルの誤反転の防止と、書き込み電力の低減の両立が可能となる。
【0063】
なお、ライト線、ビット線、及び磁気抵抗効果素子の配置は上記に限定されるものではない。
【0064】
上記の各実施の形態において、半導体基板を利用した磁気記憶装置について説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、磁気センサ、磁気記録ヘッド、磁気記録媒体などのパターン化された磁気素子及び類似する他の装置に広く適用することが可能である。
【0065】
また、メモリセル一つ当たりに一つのトンネル磁気抵抗効果素子が備えられる場合について説明したが、メモリセルは2つ以上のトンネル磁気抵抗効果素子が含まれていてもよく、それらのメモリセルは互いに積層されていてもよい。
【0066】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0067】
【発明の効果】
本発明の磁気記憶素子によれば、アステロイド曲線の傾きが急峻であるため、書き込み時のエラーを低減することが可能である。また、記録層のアスペクト比を大きくする必要がないため、この効果はメモリセルの面積を大きくすることなく得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる磁気記憶素子が適用可能な磁気記憶装置の構成を示す回路図である。
【図2】一つのメモリセルの構成を示す概略断面図である。
【図3】強磁性トンネル接合素子の構造の詳細を示す断面図である。
【図4】強磁性トンネル接合素子の近傍を示す平面図である。
【図5】記録層が矩形を有する場合の磁化パターンを例示する図である。
【図6】記録層のアスペクト比を変えた場合のアステロイド曲線を示すグラフである。
【図7】本発明の実施の形態1にかかる記録層の形状を示す平面図である。
【図8】本発明の実施の形態1にかかる記録層のアステロイド曲線を示すグラフである。
【図9】磁化容易軸方向の磁界が反転磁界よりも小さい場合の磁化分布を示す図である。
【図10】磁化容易軸方向の磁界が反転磁界よりも大きい場合の磁化分布を示す図である。
【図11】実施の形態1の変形にかかる記録層の形状を示す平面図である。
【図12】本発明の実施の形態2にかかる磁気記憶素子が適用可能な磁気記憶装置の構成を示す概略断面図である。
【符号の説明】
2a ライト線、3 ビット線、13 記録層、101 トンネル磁気抵抗効果素子、132 被覆。
Claims (3)
- 第1方向に延びる第1配線と、前記1配線と平面視上で交差する第2配線との間に配置され、
前記第1配線と第2配線との間で積層され、磁化方向が固定された固着層と外部磁界によって磁化方向が変化する記録層とを有し、
前記記録層の平面視上の形状は、その磁化容易軸方向に対し非対称で、前記磁化容易軸と垂直な軸に対して対称であることを特徴とする磁気記憶素子。 - 前記記録層の前記形状は角を有しない、請求項1記載の磁気記憶素子。
- 請求項1又は請求項2に記載の前記第1配線と、前記第2配線と、前記磁気記憶素子とを備え、
前記第1配線は前記記録層の前記磁化容易軸方向に磁界を印加し、
前記第1配線は高透磁率材料により被覆されることを特徴とする磁気記憶装置。
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