JP4997263B2 - 熱間圧延シミュレーション装置および圧延履歴シミュレーション方法 - Google Patents
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Description
第1に、特許文献1、2の両手法とも物理モデルに立脚したシミュレーションで温度や加工履歴(ひずみ、ひずみ速度)を精細に求める手法のため、計算に多大な時間がかかるおそれがある。
第2に、熱間圧延ラインの各ポイントで、センサからオンラインで取り込まれる温度や荷重、鋼板速度の実績値を用いて、計算値と鋼板の実際の値との一致度を高める手法については考慮されていない。このため、計算結果の精度を高めるには、計算に用いるモデルや3次元格子の精細さの度合いを高める必要があり、計算をさらに複雑化する必要がある。
<<熱間圧延シミュレーション装置100の概要>>
図1は、実施形態の熱間圧延シミュレーション装置100を含む熱間圧延シミュレーションシステムSを示す概念図である。
実施形態の熱間圧延シミュレーション装置100は、制御対象150の圧延設備において、圧延前の被圧延板材であるスラブf0の抽出から圧延工程を介して圧延後の熱間圧延鋼板f2のダウンコイラ155の巻取りまでの間の熱間圧延板鋼板f(f0、f1、f2)の各部での温度履歴や加工履歴をシミュレーションする装置である。
具体的には、熱間圧延された後の熱間圧延鋼板fの圧延履歴(温度履歴、加工履歴)を、各鋼板f毎の連続的なデータとして算出し、トレーサブル化することにより、加熱炉(被圧延材供給手段)151での抽出温度、粗ミル152、仕上げミル153の各圧延機の入/出側温度、ダウンコイラ155での巻取り温度等の目標値や、各圧延機での圧下量配分の適正化のための支援データが得られる。
<熱間圧延シミュレーションシステムS>
図1に示す熱間圧延シミュレーションシステムSは、熱間圧延設備である制御対象150と、該制御対象150を直接的に制御するコントローラ120と、制御対象150を制御するための制御用計算機130と、コントローラ120、制御用計算機130にLAN142を介して接続され熱間圧延板鋼板fの熱間圧延工程での温度履歴、加工履歴等のシミュレーションを行う熱間圧延シミュレーション装置100とを備えて構成されている。
まず、制御対象150の構成を説明する。
図1に示す制御対象150は、上述したように、熱間圧延設備であり、加熱炉151から抽出された温度1200℃程度、厚さ220mm程度のスラブf0と呼ばれる鋼板fを、粗ミル(粗圧延機)152で25〜40mm程度の粗材f1と呼ばれる鋼板fに圧延し、さらに仕上げミル(仕上げ圧延機)153で1.2mm〜250mm程度の薄板の鋼板f2に圧延した後、巻取り冷却装置154で目標温度まで冷却してダウンコイラ155で巻取り、圧延製品のコイルとする。
粗ミル152は、スラブf0の板幅(図1の紙面の表裏面方向の寸法)を制御する鉛直方向(図1の紙面の上下方向)の回転軸をもつ竪型圧延機156と、板厚を制御する水平方向(図1の紙面の表裏面方向)の回転軸をもつ水平圧延機157とを備えている。
粗ミル152は、通常、スラブf0を3回程度往復(図1の矢印α1、α2方向)させて7回程度、竪型圧延機156と水平圧延機157とで圧延した後、出来上がった粗材f1を仕上げミル153に送る。
図1に示す仕上げミル153は、6つの圧延スタンド158を備えており、各圧延スタンド158は、それぞれ粗材f1に対して板厚を制御する圧延を行う水平方向(図1の紙面の表裏面方向)の回転軸をもつワークロール159を有している。
仕上げミル153は、各圧延スタンド158の連続圧延により板厚を制御し、鋼板f2を生産する。
制御対象150の熱間圧延設備には、被圧延板材である鋼板f(f0、f1、f2)の温度、圧延荷重、送り速度、板厚,板幅,クラウン(鋼板fの中央と端部の板厚差)等を計測するための種々の計測器が備えられている。
鋼板fの温度を測定する計測器としては、図1に示すように、加熱炉151から抽出されたスラブf0の温度を測定する温度計161と、粗ミル152の入口で鋼板f(f0)の温度を測定する粗ミル入側温度計162と、粗ミル152の出口で鋼板f(f1)の温度を測定する粗ミル出側温度計163と、仕上げミル153の入口で鋼板f(f1)の温度を測定する仕上げミル入側温度計164と、仕上げミル153の出口で鋼板f(f2)の温度を測定する仕上げミル出側温度計165と、巻取り冷却装置154で冷却中の鋼板f(f2)の温度を測定する中間温度計167と、鋼板f(f2)がダウンコイラ155に巻取られる直前の温度を測定する巻取り温度計168とが備えられている。
さらに、仕上げミル153の出側にはマルチゲージ166が備えられており、鋼板f(f2)の板厚、板幅、クラウン等を計測する。さらに、粗ミル152、仕上げミル153の各圧延機のワークロール159の駆動系には、ワークロール159の回転速度に対応する状態量を計測する速度計178、179がそれぞれ備えられている。
図1に示す制御用計算機130は、上述の制御対象150の熱間圧延設備の各種計測器で計測され送信されるデータ等を受信するための受信手段131と、各種計測器(センサ)で計測された測定値を編集するためのデータ編集手段132と、データ編集手段132で編集したデータを記憶する編集結果蓄積手段133と、データを送信するための送信手段134とを備えている。
制御用計算機130の編集結果蓄積手段133は、外部記憶装置に、データファイル、データベース等の形式で格納されている。
熱間圧延シミュレーション装置100は、コンピュータであり、制御対象150の熱間圧延設備から取り込まれる熱間圧延鋼板fの温度、圧延荷重、圧延機のミル速度等を表す信号を、コントローラ120、制御用計算機130を介して受信し、シミュレーション演算を行う。
熱間圧延シミュレーション装置100は、制御用計算機130から送信されるデータを受信するための受信手段101と、巻取り温度予測モデル、ひずみ速度算出モデル等の各種モデルが記憶される予測モデル蓄積手段105と、制御用計算機130から送信されるデータおよび予測モデル蓄積手段105の各種モデルに基づいて熱間圧延鋼板fの搬送過程の温度履歴、加工履歴をシミュレーションするシミュレーション手段102と、シミュレーション手段102でシミュレーションした各スラブf0毎の温度履歴108、加工履歴109等を記憶する計算結果蓄積手段(記憶部)106と、計算結果蓄積手段106に記憶される情報等を送信するための送信手段110、112と、マンマシン手段140からの計算結果蓄積手段106へのアクセスを受信するための受信手段111とを具えている。
このシミュレーション手段102は、熱間圧延シミュレーション装置100のHDD等の外部記憶装置にプログラムとして記憶され、CPUによって主メモリにロードされ、実行されることにより、具現化される。
また、熱間圧延シミュレーション装置100の予測モデル蓄積手段105、計算結果蓄積手段106は、外部記憶装置に、データファイル、データベース等の形式で格納されている。
前記した各計測器で計測された熱間圧延設備(制御対象150)の情報は、図1に示すフィールドバス124を介して、PIO(Process Input Output)ステーション121に取り込まれ、さらに受信手段123を介してコントローラ120に取り込まれる。
そして、コントローラ120の送信手段122から制御用計算機130に送信されたデータは、制御用計算機130の受信手段131で受け取られ、制御用計算機130のデータ編集手段132に渡される。制御用計算機130は、データ編集手段132によってデータの編集を行い、この編集したデータを、編集結果蓄積手段133に記憶するとともに、送信手段134、LAN142を介して、熱間圧延シミュレーション装置100に送信する。
次に、図1に示す制御用計算機130のデータ編集手段132の処理について、図2に従って説明する。
なお、図2は、データ編集手段132が実行する処理を示すフローチャートである。
制御用計算機130のデータ収集手段132は、定周期で起動され、受信手段131を介して制御対象150の各計測器161〜168、171〜179、…から取り込んだデータを、鋼板fの先端縁からの距離に対応づけて編集し、編集結果蓄積手段133(図1参照)に蓄積する。
図2のS21において、該当計測器に対応して鋼板fが有るか否か(鋼板fの有無)を判定する。温度計161、162、163、…であれば直下に被計測対象の鋼板fがあり、大気温を遥かに超える高温を測定しているかどうか、ロードセル171、172、…であれば該当圧延スタンド158に大きな圧下荷重が発生しているかどうかで、圧延中かどうか(鋼板fの有無)を判定する。
続いて、図2のS22において、温度計161、…、ロードセル171、…等の計測器で計測した鋼板fの計測値をワークエリア(一時記憶領域)に取り込む。
ΔLn=V・Δt (1)
ここで、ΔLn:鋼板fの進行距離、
V:ロール速度から換算した鋼板f移動速度、
Δt:データ編集手段132の起動周期
Ln=Ln-1+ΔLn (2)
ここで、Ln:計測部位の鋼板fの先端縁からの距離
Ln-1:前回計測時の鋼板fの先端縁からの距離
鋼板fが該当計測器から抜けていると判定された場合(図2のS25でYes)には、図2のS26において、鋼板fの先端縁からの距離をリセット(=0)する。
一方、図2のS25で、鋼板fが該当計測器から抜けていないと判定された場合(図2のS25でNo)には、図2のS27に移行する。
続いて、図2のS27において、対象としている全ての計測器について処理が完了したか否かを判定する。
一方、図2のS27で、完了していると判定された場合(図2のS27でYes)は、図2のS28において、編集した結果を編集結果蓄積手段133に出力して、編集結果蓄積手段133に記憶し、処理を終了する。
以上が、図2に示すデータ編集手段132の処理である。
図3は、図1に示す編集結果蓄積手段133の構成を示す図である。
図3に示す編集結果蓄積手段133は、データの計測値を取り込んだ時刻に対して、粗入側温度、粗出側温度、粗ミル152および仕上げミル153での各圧延のF1圧下量(F1圧延荷重)、F2圧下量(F2圧延荷重)・・・等の各計測値が、鋼板fの先端縁からの距離と対応づけて蓄積されている。
また、例えば、F1圧延荷重の場合、10:00:09に鋼板fの先端縁で20,752KN(キロニュートン)の圧延荷重で圧延し、その後、先端縁から3.01mの計測点で20,755KNの圧延荷重で圧延したことを示している。
図4は、編集結果蓄積手段133に蓄えられているひとつの計測値を例に、鋼板fの先端縁からの距離と計測値の関係を示すグラフである。なお、図4(a)は、横軸に経過時間の時刻をとり、縦軸に鋼板fの先端縁からの距離をとっており、図4(b)は、横軸に経過時間の時刻をとり、縦軸に図4(a)に示す鋼板fの先端縁からの距離に対する計測値の一例をプロットしたものである。
図4(a)に示すように、鋼板fありの状態が開始したタイミング(時刻)から、時間の経過とともに、圧延距離(鋼板先端縁から計測点までの距離)が増加し、鋼板fが抜けて鋼板なし状態になると圧延距離がリセットされ、零(=0)になる。
このような性質をもつ編集結果蓄積手段133(図3参照)の内容は、一定の任意の周期、各鋼板f単位等で、図1に示すように、制御用計算機130の送信手段134から、LAN142を介して、熱間圧延シミュレーション装置100に送信される。
図1に示す熱間圧延シミュレーション装置100では、受信手段101で編集結果蓄積手段133の内容(情報)を受信し、シミュレーション手段102で鋼板fの特定部位が加熱炉151から抽出されてダウンコイラ155で巻取られるまでの温度履歴と加工履歴を、受信した編集結果蓄積手段133の内容(情報)と予測モデル蓄積手段105を用いた予測演算結果を用いて算出する。
以下、シミュレーション手段102の処理を、詳細に説明する。
図1に示す熱間圧延シミュレーション装置100のシミュレーション手段102は、前記したように、温度履歴算出手段103と加工履歴算出手段104とを具えている。
まず、温度履歴算出手段103の処理について、図5に従って説明する。なお、図5は、温度履歴算出手段103の処理を示すフローチャートである。
温度履歴算出手段103は、鋼板fの特定部位が、制御対象150の熱間圧延設備の加熱炉151のスラブf0の抽出から、圧延した鋼板fのダウンコイラ155での巻き取りまでに、どのような温度履歴であったかを算出する手段である。
図5のS51において、編集結果蓄積手段133の内容(情報)を、例えば1コイル分(一つのスラブf0に対応)取り込む。
Lq=X×(Tc/Tq) (3)
ただし、X:ダウンコイラ155で巻取られるときの鋼板fでの計算部位の距離
Tc:ダウンコイラ155で巻取られるときの鋼板fの厚み
鋼板fの板厚はスラブf0の状態で200〜250mm、粗材f1で25〜40mm、巻取り時の鋼板f2で1.2mm〜12mm程度等、圧延により変化するため、この計算部位の一致化演算では、温度履歴を求めたい部位を決め、各温度の計測点の板厚から、(3)式の演算を実行することで、ダウンコイラ155で巻取られるときの鋼板fの部位に対応した部位を各板厚について算出する。
上述の輻射モデルの輻射熱伝達係数hrは、
hr=σ・ε[{(273+Tsu)/100}4−{(273+Ta)/100}4]/(Tsu-Ta) (4a)
ただし σ:ステファンボルツマン定数(=4.88)
ε:放射率
Ta:空気温度(℃)
Tsu:鋼板の表面温度
で算出される。
hw=9.72*105*ω0.355*{(2.5-1.15*logTw)*D/(pl*pc)}0.646/(Tsu-Tw) (4b)
ただし ω:水量密度
Tw:水温
D:ノズル直径
pl:ライン方向のノズルピッチ
pc:ラインと直交方向のノズルピッチ
Tsu:鋼板fの表面温度
で算出される。
図5のS53で温度履歴が推定できたとして、図5のS54において、温度計161、162、…等を使用して検出した検出温度を用いて推定した温度履歴を補正する。
この具体的な補正方法を図6に示す。なお、図6は、推定データを検出データで補正する温度履歴の補正方法を示す図である。
ここで、正しい温度履歴推定計算が行われた場合、時刻T2での推定値603(白抜きプロット点)は計測値602(塗り潰しプロット点)と概ね一致する。そこで、図6に示すように、推定値603と計測値602の偏差から、推定温度履歴606(図6の二点鎖線)を607(実線)に補正する。
θ'(t)=θ(t)+(θact−θ(T2))×(t-T1)/(T2-T1) (5)
ただし θ'(t):補正後の時刻tの温度
θ(t):補正前の時刻tの温度
θ(T2):603の温度
θact:602の温度
式(5)では、計測値を正として推定履歴を補正したが、計測値が誤差を含んでいる場合もあるので、計測値と推定値に一定の重みを付けて補正する方法もある。その場合は、下式(6)で算出する。
θ'(t)=θ(t)+((1−α)×θact+α×θ(T2)-θ(T2))×(t-T1)/(T2-T1) (6)
ただし α:重み係数(α小:計測値を重視する場合、α大:推定値を重視する場合)
温度履歴の算出が未完の場合(図5のS55でNo)は、図5のS53〜S54の計算を繰り返す。
一方、温度履歴の算出が完了している場合(図5のS55でYes)は、図5のS56で演算結果を、図1に示す計算結果蓄積手段106に出力し、記憶させる。
以上が、図5に示す温度履歴算出手段103の処理である。
次に、シミュレーション手段102における温度履歴算出手段103の図5に示すS53の計算部位の温度履歴を推定する処理について説明する。
図7は、図5のS53の温度履歴推定処理を示すフローチャートである。
図7のS71において、シミュレーションの時刻を更新し、該当時刻の鋼板fの速度を、粗ミル152、仕上げミル153の各ワークロール159の速度から換算することにより計算する。
続いて、図7のS73において、鋼板fの温度をトラッキングする。すなわち、前回の鋼板fの温度を、鋼板fが移動した長さだけシフトし、今回の温度計算の初期値にする。
続いて、図7のS74において、鋼板fの各部位の境界条件を確定し、熱伝達係数を計算する。境界条件は、鋼板fの表裏面それぞれについて、水冷中、空冷中、圧延中等により、(4a)式、(4b)式のような数式で熱伝達係数(hr、hw等)として求める。
Tn=Tn-1−(ht+hb)*Δ/(ρ*C*B) (7)
ただし Tn:現在の推定鋼板温度
Tn-1:前回の推定鋼板温度
ht:鋼板f表面の熱伝達係数
hb:鋼板f裏面の熱伝達係数
ρ:鋼板fの密度
C:鋼板fの比熱
B:鋼板fの厚み
Δ:前回からの経過時間
∂T/∂t={λ/(ρ*C)}(∂2T/∂h2) (8)
ただし λ:熱伝導率
T:材料温度
h:鋼板fの板厚方向の座標
全領域で計算が完了したと判定された場合(図7のS76でYes)、図7のS71に移行して、また時刻を更新してS71〜S75を繰り返す。
一方、全領域で計算が完了しないと判定された場合(図7のS76でNo)、図7のS74に移行して、S74〜S75を繰り返す。
以上が、温度履歴算出手段103の図7に示す温度履歴推定処理(図5に示すS53の温度履歴推定処理)である。
次に、図1に示すシミュレーション手段102の加工履歴算出手段104の処理について、図8に従って説明する。
なお、図8は、加工履歴算出手段104が実行する処理を示すフローチャートである。
本実施形態で加工とは、鋼板fが圧延により板厚や板幅が変化することと対応し、加工履歴とは板厚や板幅の変形量(ひずみ量)、ひずみ速度、変形を受けたときの鋼板fの温度等の履歴に相当する。
続いて、図8のS82において、計算に必要な圧延パラメータを抽出する。圧延パラメータとしては該当スタンドにおける圧延前後の鋼板fの厚み、圧延速度等がある。
次に、図8のS83、S84において、図1に示すシミュレーション手段102の予測モデル蓄積手段105に蓄えられているひずみ速度算出モデル等の圧延予測モデルを用いて、対数ひずみとひずみ速度を算出する。
ε=ln(H/h) (9)
ただし H:圧延前の鋼板fの板厚
h:圧延後の鋼板fの板厚
ただし v:圧延速度
R':扁平ロール径(圧延中にワークロール159が変形した場合の径)
R:ロール径
C:ヒッチコック係数
P:圧延荷重
b:板幅
続いて、図8のS86において、全ての圧延機/圧延スタンドで計算が終わったか否かを判定する。
一方、全ての圧延機/圧延スタンドで計算が終わった場合(図8のS86でYes)は、処理を終了する。
以上が、図8に示す加工履歴算出手段104が実行する処理である。
次に、図1に示すシミュレーション手段102の計算結果蓄積手段106の構成について、図9を用いて説明する。
なお、図9は、計算結果蓄積手段106の温度履歴108の構成例を示す図である。
図1に示す計算結果蓄積手段106は、温度履歴108と加工履歴109とをコイル単位(各スラブf0の圧延後の鋼板fが対応)に蓄積している。図1に示す計算結果蓄積手段106では、コイルHX10642に対して、温度履歴108と加工履歴109とが計算結果107として蓄積された例を示している。計算結果蓄積手段106には、コイルHX10642と同様に多数のコイルの温度履歴108と加工履歴109が蓄積されている。
図9に示す計算結果蓄積手段106の温度履歴108は、加熱炉151抽出からの経過時刻に対応づけて、鋼板fの各計算部位の温度履歴が格納されている。図9では、計算部位1、2、3に対応して、鋼板先端縁、鋼板ミドル部1、鋼板ミドル部2、・・・の温度履歴が格納された例を示している。例えば、鋼板fの先端縁では1158℃で抽出され、その後、徐々に温度が低下していることを示している。
なお、鋼板ミドル部1、鋼板ミドル部2、・・・とは、鋼板fの先端縁、尾端縁を除き、鋼板fの先端縁側から尾端縁に向けて、各計算部位に順番に付けた名称である。
図10は、計算結果蓄積手段106の加工履歴109が蓄積された構成を示す図である。
図10に示す計算結果蓄積手段106の加工履歴109は、図1に示す加熱炉151抽出からの経過時刻に対応づけて、加工工程と鋼板fの計算部位毎にロール速度、圧延時の鋼板fの温度(圧延温度)、対数ひずみ、ひずみ速度、・・・・が格納されている。
また、計算部位としては、図9に示す温度履歴108と同様に、鋼板fの先端縁、鋼板ミドル部、鋼板fの尾端縁等について蓄積すれば良い。
図11は、計算結果蓄積手段106の内容(計算結果107)を、PC等の図1に示すマンマシン手段140で表示したシミュレーション画面Gを示す図である。
ユーザは、図11に示すシミュレーション画面Gに表示される表示内容特定ボタン1101、1102の何れかを押下することにより、表示内容(温度履歴、加工履歴)を切り替える。
また、ユーザは、シミュレーション画面Gに表示される表示部位特定ボタン1103の鋼板fの表示部位(鋼板先端縁、鋼板ミドル1、鋼板ミドル2、・・・、鋼板尾端縁)の何れかを押下することにより、表示部位(鋼板先端縁、鋼板ミドル1、鋼板ミドル2、・・・、鋼板尾端縁)を切り替える。
また、熱間圧延シミュレーション装置100の表示手段は、指定された鋼板fの計算対象部位に対して、加工履歴算出手段104が算出した加工履歴をマンマシン手段140の表示装置で表示するとともに、計算対象部位(鋼板先端縁、鋼板ミドル1、鋼板ミドル2、・・・、鋼板尾端縁の何れか)を入力情報として該計算対象部位に対応した表示内容に切り替える。
なお、表示手段が、対応した表示内容を計算結果蓄積手段106から抽出するのに代替して、温度履歴算出手段103、加工履歴算出手段104等で直接算出し、表示手段が、その結果をシミュレーション画面Gに表示する構成とすることも可能である。
シミュレーション画面Gに表示される制御対象模式図1106には、表示内容と関連した温度計等の検出器が表示されており、図11のシミュレーション画面Gの例では、温度計の設置部位が明示されている。ちなみに、表示内容特定ボタン1102の加工履歴の表示が選択されると荷重計の設置部位の表示に切り替わる。なお、図11においては、温度計以外の荷重計、速度計、マルチゲージの位置も表示された場合を示している。
図12は、熱間圧延シミュレーション装置100が他シミュレータ141(図1参照)である冶金特性予測シミュレータ1100に計算結果を送信する例を示す図である。
図12に示す冶金特性予測シミュレータ1100は、図1に示す温度履歴算出手段103、加工履歴算出手段104の計算結果107のデータを、熱間圧延シミュレーション装置100の送信手段110を介して送信し、シミュレーション手段1201で冶金特性、機械特性を計算し、機械・冶金特性データベース1206に出力する。
初期粒径予測手段1202は、図1に示す加熱炉151の加熱温度を取り込み、加熱後のオーステナイト粒径を予測する。熱間加工組織予測手段1203は、加工履歴と加工前後の温度履歴を取り込み、圧延後のオーステナイト粒径やフェライト粒径を予測計算する。相変態組織予測手段1204は、鋼板fが巻取り冷却装置154で冷却されるときの温度履歴を取り込み、冷却後のフェライト粒径やパーライト、ベイナイト粒径、各加工組織の体積分率等を推定する。また、材質推定手段1105は、これらの計算結果から鋼板fの引張り強度や硬度等を予測計算する。予測計算の実際の処理内容については、「制御圧延・制御冷却」(小指軍夫著,日本鉄鋼協会監修,地人書館)に詳述されている。
この構成により、冶金特性予測シミュレータ1100を使用するユーザは、PC等によって、回線1211を介して、入出力手段1208に対してコイル番号を入力して、機械・冶金特性データベース1206に蓄積されている該当コイル番号のコイルの機械・冶金特性を、回線1212を介して得る。また、鋼板fに対して実際に引張り試験や硬度試験を施したり、顕微鏡で粒径を測定した結果を、回線1210を介して入力手段1207から入力し、機械・冶金特性データベース1206に登録する。
なお、入力手段1207と入出力手段1208とを同一のものとしてもよい。
図1に示すように、熱間圧延シミュレーション装置100に、熱延ライン(制御対象150)の各ポイントでセンサ(計測器)から時々刻々取り込まれる温度や圧延荷重、鋼板fの速度等の実績値を制御用計算機130から直接取り込む受信手段101と、取り込まれた温度実績値と温度予測モデルから鋼板fが加熱炉151で抽出されてからダウンコイラ155に巻き取られるまでの温度履歴を算出する温度履歴算出手段103と、取り込まれた荷重、鋼板fの厚みと速度等と予測モデルから鋼板fのひずみやひずみ速度を算出し、温度履歴算出手段103の出力を参照して鋼板fが加工されたときの温度を紐付けて出力する加工履歴算出手段104と、温度履歴算出手段103と加工履歴算出手段104の出力を鋼板f単位に蓄積する計算結果蓄積手段106とを備えている。また、計算結果を鋼板f単位に他シミュレータ141に送信する送信手段110を備えている。
上記構成によれば、熱間圧延される鋼板fの加熱炉151での抽出からダウンコイラ155巻取りまでの圧延履歴(温度履歴、加工履歴)を定量的に把握できる。この結果、熱間圧延鋼板fのトレーサビリティが向上する。
さらに、これらを予測モデルを用いた計算結果とセンサ(計測器)からの計測値を適切に融合して算出することで、高精度な圧延履歴が算出できる。また、圧延履歴を外部に出力することにより、例えば熱間圧延鋼板fの金属組織や機械特性を算出するシミュレータ等に対し、高品質な入力情報を提供できる。
本実施形態においては、制御対象150の熱間圧延設備の基本的な構成を例に説明したが、熱間圧延設備には、この他に鋼板fの表面の酸化析出物であるスケールを除去するデスケーラ装置や、鋼板fの温度低下を防止するバーヒータやエッジヒータが備えられる場合がある。さらに、スラブf0の幅を大幅に狭くできるサイジングプレスや、粗ミル152と仕上げミル153の間に粗材f1を一時的に巻取るコイルボックス、同様に粗ミル152と仕上げミル153の間に粗材f1を保熱するヒートホールディングカバーや、低温化するための冷却設備が備えられる場合もある。
さらに、各計測器161〜168、171、…で計測された情報をコントローラ120や制御用計算機130を介してではなく、直接、熱間圧延シミュレーション装置100に取り込むことも可能である。
101 受信手段
102 シミュレーション手段
103 温度履歴算出手段
104 加工履歴算出手段
105 予測モデル蓄積手段
106 計算結果蓄積手段(記憶部)
132 データ編集手段
133 編集結果蓄積手段
140 マンマシン手段(表示装置)
150 制御対象(熱間圧延ライン)
151 加熱炉(被圧延材供給手段)
152 粗ミル
153 仕上げミル
154 巻取り冷却装置
155 ダウンコイラ
161〜165、167、168 温度計
f 鋼板(被圧延板材)
f0 スラブ(被圧延板材)
f1 粗材(被圧延板材)
Claims (9)
- 被圧延材供給手段から高温で抽出された被圧延板材を圧延し、その後、冷却してコイルに巻取る熱間圧延ラインの熱間圧延シミュレーション装置であって、
被圧延板材速度、前記冷却の水量を少なくとも含む圧延状態量から前記被圧延板材の温度を予測する温度予測モデルと、
該温度予測モデルを用いて前記被圧延板材が前記被圧延材供給手段から抽出されてから前記コイルに巻取られるまでの温度履歴を連続的に算出し、前記被圧延材供給手段から抽出された後の経過時間に対応づけて出力する温度履歴算出手段と、
前記被圧延板材が圧延されているときのひずみやひずみ速度を少なくとも含む加工情報を予測する圧延予測モデルと、
前記熱間圧延ラインから取り込んだ圧延荷重、被圧延板材速度を少なくとも含む圧延状態量と、前記温度履歴算出手段が推定した圧延時の前記被圧延板材温度から、前記圧延予測モデルを用いて各圧延時の前記加工情報を算出し、前記被圧延板材の加工履歴として出力する加工履歴算出手段とを備え、
前記加工履歴算出手段は、
前記被圧延板材が前記コイルに巻取られるときの計算対象部位を定めた前記被圧延板材先端縁からの距離を前記被圧延板材が前記コイルに巻取られるときの前記被圧延板材の厚みで徐した値を、加工履歴を算出するときの前記被圧延板材の厚みに乗じることで、前記被圧延材供給手段から抽出されてから前記コイルに巻取られる工程の各部における前記計算対象部位を特定する
ことを特徴とする熱間圧延シミュレーション装置。 - 前記温度履歴算出手段は、
前記熱間圧延ラインに備えられた温度計で計測された前記被圧延板材の計測温度を取り込み、前記被圧延板材の温度履歴の計測温度と前記温度予測モデルを用いて算出した対応する部分のモデル温度を抽出し、該抽出されたモデル温度と前記計測温度を用いた演算で該対応する部分の温度を再計算し、該再計算された該当部分の温度を用いて前記被圧延板材の温度履歴を補正する
ことを特徴とする請求項1記載の熱間圧延シミュレーション装置。 - 前記熱間圧延ラインに備えられた温度計や荷重計を含む計測器で測定された計測値のそれぞれを前記被圧延板材の測定部位の情報と対応づけて編集するデータ編集手段と、
前記計測器で測定された計測値のそれぞれを前記被圧延板材の測定部位の情報と対応づけて格納する編集結果蓄積手段とを
備えたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の熱間圧延シミュレーション装置。 - 前記被圧延板材の測定部位の情報とはその先端縁からの距離である
ことを特徴とする請求項3記載の熱間圧延シミュレーション装置。 - 前記温度履歴算出手段は、
前記被圧延板材の予め定められた計算対象部位が前記被圧延材供給手段から抽出されてから前記コイルに巻取られるまでの温度履歴を、抽出後の経過時間に対して連続的に算出するとともに、該計算対象部位に対応して計測された前記被圧延板材温度を前記編集結果蓄積手段から取り出し、該取り出した前記被圧延板材温度を用いて請求項2記載の補正処理を行い、該補正処理を施した温度履歴を前記被圧延材供給手段から抽出されてからの経過時間に対応づけて出力する
ことを特徴とする請求項3記載の熱間圧延シミュレーション装置。 - 前記加工履歴算出手段は、
前記被圧延板材の予め定められた計算対象部位が前記被圧延材供給手段から抽出されてから前記コイルに巻取られるまでの前記加工情報を、前記抽出後の経過時間に対応づけて出力する
ことを特徴とする請求項1記載の熱間圧延シミュレーション装置。 - 指定された被圧延板材部位に対して、前記温度履歴算出手段が算出した温度履歴と前記熱間圧延ラインに備えられた温度計で計測した前記被圧延板材温度を同一の画面に重ねて表示装置で表示するとともに、前記被圧延板材部位を入力情報として該被圧延板材部位に対応した表示内容に切り替える表示手段を備える
ことを特徴とする請求項1から請求項5のうちの何れか一項記載の熱間圧延シミュレーション装置。 - 指定された前記計算対象部位に対して、前記加工履歴算出手段が算出した加工履歴を表示装置で表示するとともに、前記計算対象部位を入力情報として該計算対象部位に対応した表示内容に切り替える表示手段を備える
ことを特徴とする請求項1または請求項2または請求項6記載の熱間圧延シミュレーション装置。 - 被圧延材供給手段から高温で抽出された被圧延板材を圧延し、その後、冷却してコイルに巻取る熱間圧延ラインの圧延履歴シミュレーション方法であって、
温度履歴算出手段は、
少なくとも被圧延板材速度、前記冷却の水量を含む圧延状態量から前記被圧延板材の温度を予測する温度予測モデルを用いて、前記被圧延板材が前記被圧延材供給手段から抽出されてから前記コイルに巻取られるまでの温度履歴を連続的に算出し、前記被圧延材供給手段から抽出された後の経過時間に対応づけて出力し、
加工履歴算出手段は、
前記熱間圧延ラインから取り込んだ圧延荷重、被圧延板材速度を少なくとも含む圧延状態量と、前記温度履歴算出手段が推定した圧延時の前記被圧延板材温度から、前記被圧延板材が圧延されているときのひずみやひずみ速度を少なくとも含む加工情報を予測する圧延予測モデルを用いて各圧延時の前記加工情報を算出し、前記被圧延板材の加工履歴として出力し、かつ、
前記被圧延板材が前記コイルに巻取られるときの計算対象部位を定めた前記被圧延板材先端縁からの距離を前記被圧延板材が前記コイルに巻取られるときの前記被圧延板材の厚みで徐した値を、加工履歴を算出するときの前記被圧延板材の厚みに乗じることで、前記被圧延材供給手段から抽出されてから前記コイルに巻取られる工程の各部における前記計算対象部位を特定する
ことを特徴とする圧延履歴シミュレーション方法。
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