JP4961647B2 - 希土類合金の切断方法および希土類磁石の製造方法 - Google Patents

希土類合金の切断方法および希土類磁石の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、希土類合金の切断方法および希土類磁石の製造方法に関し、特に、芯線に砥粒を固着させたワイヤソーを用いて希土類合金を切断する方法およびそれを用いた希土類磁石の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
希土類合金は、例えば、強力な磁石の材料として利用されている。希土類合金を着磁することによって得られる希土類磁石は、例えば、磁気記録装置の磁気ヘッドの位置決めに用いられるボイスコイルモータ用の磁石として好適に用いられている。
【0003】
希土類合金のインゴット(焼結体を含むものとする。)を切断する方法としては、従来から、例えば回転するスライシングブレードを用いてインゴットをスライスする技術が採用されている。しかしながら、スライシングブレードで切断する方法によれば、切断刃の厚さは比較的大きいため、削り代が多くなり、希土類合金材料の歩留まりが低く、希土類合金製品(例えば希土類磁石)のコストを上昇させる要因となっている。
【0004】
スライシングブレードよりも削りしろが少ない切断方法として、ワイヤソーを用いた方法がある。例えば、特開平11−198020号公報は、高強度の芯線の周面上に超砥粒をボンド層により固定したワイヤソー(「固定砥粒ワイヤー」という。)を用いて、シリコン、ガラス、ネオジム、フェライト等の硬脆材料を切断できることを開示している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述のような固定砥粒ワイヤソーを用いて、希土類合金のインゴットから少ない削り代で所定厚さの板を多数枚同時に作製することができれば、希土類磁石の製造コストが大幅に低減される。しかしながら、固定砥粒ワイヤソーを用いて希土類合金を量産レベルで切断したとの報告は未だに無い。
【0006】
発明者が種々検討した結果から、この主な原因として、希土類合金、特に、焼結法によって製造された希土類合金(以下、「希土類焼結合金」を呼ぶ。)の機械的な性質が、シリコン等と大きく異なることが挙げられる。具体的には、希土類焼結合金は、主に脆性的な破壊を起こす硬い主相(R2Fe14B相)と、延性的な破壊を起こす粒界相(Rリッチ相)とを有するので、シリコンに代表される硬脆材料と異なり、切削され難い。すなわち、シリコン等の硬脆材料を切断する場合に比べて、切削抵抗が高く、その結果、発熱量も多い。また、希土類合金の比重は、約7.5とシリコン等の材料に比べて大きく、切削によって生成される切削屑(スラッジ)が切削部から排出され難い。
【0007】
従って、希土類合金を、高い加工精度で、効率良く切削するためには、切削抵抗を十分に低下させるとともに、切削時に発生する熱を効率良く放熱する、すなわち切削部を効率良く冷却する必要がある。また、切削によって生成される切削屑を効率良く排出する必要がある。
【0008】
潤滑性に優れた冷却液(「切削液」ともいう。)を希土類合金の切削部に十分に供給することによって、切削抵抗を低下するとともに、切削時に発生する熱を効率良く放散することができる。発明者による実験の結果、油性の冷却液を用いて、ワイヤソーを十分な量の冷却液で濡らしておけば、走行するワイヤソーによって、狭い切削部に冷却液を十分に供給することができる。
【0009】
しかしながら、油性の冷却液には、環境破壊を起こさないように廃液を処理するためにコストがかかること、および、廃液中の切削屑を分別することが困難であり、廃液や切削屑の再利用が困難であるという問題がある。また、切削屑を再利用する際に、原料中の炭素含有量が増加し、磁気特性を低下させるため好ましくないという問題もある。これらのことを考慮すると、冷却液としては水(または水溶性の冷却液)が好ましいのであるが、水を冷却液として用いると、水は粘度(1.0mm2/s)が低いので、走行するワイヤソーに十分な量を付着させることができないので、ワイヤソーを水で濡らしても切削部に十分な量の水を供給することができない。
【0010】
特開平11−198020号公報は、冷却液の槽からオーバーフローする冷却液中にワイヤソーを走行させることによって、固定砥粒ワイヤソーを高速(例えば2000m/min)で走行させる場合においても、冷却液をワイヤソーに確実に付着させることができることを開示している。しかしながら、本発明者の実験によると、オーバーフローしている水の中にワイヤソー(例えば、特開平11−198020号公報に開示されている)を走行させながら希土類合金を切削しても、砥粒の脱落や、ひどい場合にはワイヤソーの断線が発生する。この不具合は、ワイヤソーの走行速度が例えば800m/min程度でも発生した。これは、上記の方法を採用しても、切削抵抗が高く、また、水が切削部に十分に供給されないためと考えられる。
【0011】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、水を主成分とする冷却液を用いて実行できる、固定砥粒ワイヤソーによる希土類合金の切断方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記希土類合金の切断方法を用いた希土類磁石の製造方法、ならびに当該希土類磁石を備えたボイスコイルモータを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明による希土類合金の切断方法は、芯線に砥粒を固着させたワイヤソーを用いる希土類合金の切断方法であって、前記希土類合金が前記ワイヤソーによって切削される部分を水を主成分とする冷却液に浸漬した状態で、前記ワイヤソーを走行させることによって前記希土類合金を切削する工程を包含し、前記冷却液が体積基準で500ppm以上20000ppm以下の極圧添加剤を含有することを特徴とし、そのことによって上記目的が達成される。
【0013】
前記極圧添加剤は硫黄含有化合物であることが好ましい。
【0014】
前記冷却液の25°Cにおける表面張力は25mN/m〜60mN/mの範囲内にあることが好ましい。
【0015】
前記冷却液は、水溶性の合成潤滑剤と、前記合成潤滑剤の重量の10倍〜50倍の範囲内の重量の水を含んでいることが好ましい。
【0016】
あるいは、前記冷却液は、界面活性剤と、界面活性剤の重量の10倍〜50倍の範囲内の重量の水を含んでもよい。
【0017】
前記冷却液は消泡剤を含んでもよい。前記冷却液は、PHが8〜11であることが好ましい。また、前記冷却液は、防錆剤を含んでもよい。
【0018】
前記砥粒は、前記芯線の外周面に形成されたフェノール樹脂層によって固着されていることが好ましい。
【0019】
前記ワイヤソーの走行方向における、互いに隣接する前記砥粒間の平均距離は、前記砥粒の平均粒径の200%〜600%の範囲内にあり、且つ、前記砥粒が前記フェノール樹脂層の表面から突出している部分の平均高さは、10μm〜40μmの範囲内にあることが好ましい。
【0020】
前記砥粒の平均粒径Dは、20μm≦D≦60μmの関係を満足することが好ましい。
【0021】
前記切削工程において、前記希土類合金が前記ワイヤソーによって切削される部分が槽内に収容された前記冷却液に浸漬され、前記冷却液は、前記槽の底部から前記槽内に供給されるとともに、前記槽の開口部から供給されることによって、前記開口部から溢れ出る状態に維持されることが好ましい。
【0022】
前記切削工程において、前記冷却液が1分間に溢れ出る量は、前記槽の容積の50%以上であることが好ましい。
【0023】
前記切削工程において、前記開口部から供給される前記冷却液の量は、前記底部から供給される前記冷却液の量よりも多いことが好ましい。
【0024】
前記切削工程において、前記槽の前記開口部に、カーテン状の気流または冷却液流を形成することによって、前記冷却液が前記槽の前記開口部から溢れ出るのを抑制することが好ましい。
【0025】
前記希土類合金は、R−Fe−B系希土類焼結合金であってよく、Nd−Fe−B系希土類焼結合金であってもよい。なお、RはYを含む希土類元素である。
【0026】
本発明の希土類磁石の製造方法は、希土類合金粉末から希土類磁石の焼結体を作製する工程と、上記のいずれかの希土類合金の切断方法を用いて前記焼結体から複数の希土類磁石を分離する工程とを包含し、そのことによって上記目的が達成される。
【0027】
本発明によるボイスコイルモータは、上記の希土類磁石の製造方法によって作製された希土類磁石を備えている。前記希土類磁石の厚さが0.5mm〜3.0mmの範囲にあってもよい。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明による実施形態の希土類合金の切断方法および希土類磁石の製造方法を説明する。
【0029】
本発明による希土類合金の切断方法は、芯線(典型的にはピアノ線)に砥粒(典型的にはダイヤモンド砥粒)を固着させたワイヤソーを用いる希土類合金の切断方法であって、希土類合金がワイヤソーによって切削される部分に水を主成分とする冷却液を供給しながら、ワイヤソーを走行させることによって希土類合金を切削する工程を包含し、冷却液が体積基準で500ppm以上20000ppm以下の極圧添加剤を含有する。極圧添加剤は硫黄含有化合物であることが好ましい。なお、本明細書において、「水を主成分とする冷却液」とは、全体の70重量%以上が水である冷却液をいう。
【0030】
極圧添加剤は、切断時に発生する摩擦熱によって、希土類合金を構成する金属元素(主に鉄)と化学的に反応して金属化合物を形成する。そのため、希土類合金は切削し難いが、その延性が極圧添加剤によって低減され、切削抵抗が低くなる。従って、油性の冷却液に比べ潤滑性が低い水系の冷却液を用いても、希土類合金を効率よく切断することが可能になる。
【0031】
極圧添加剤としては、硫黄(S)を含有する化合物(硫黄系極圧添加剤と呼ばれることもある)を用いることが好ましい。硫黄系極圧添加剤は、希土類合金に含まれる鉄と反応し鉄硫化物を形成し、接触面を脆化させる効果に優れている。なお、硫黄系極圧添加物のほかに、例えば、燐系極圧添加剤や、燐−硫黄系極圧添加剤を用いることもできる。
【0032】
本発明の冷却液に添加される極圧添加剤として好適に用いられる硫黄含有化合物は、特に限定されないが、水に対する親和性(溶解性または均一分散性)が高いものが好ましく、酸または塩あるいは低級アルコールであることが好ましい。例えば、硫化脂肪酸、メルカプト脂肪酸、チオカルボン酸、ポリスルフィドのα、ωジカルボン酸などの有機酸およびこれらの塩やメルカプトアルコールなどを挙げることができる。特に、硫化脂肪酸およびポリスルフィドのα、ωジカルボン酸やこれらの塩が好ましい。硫黄含有化合物は1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0033】
極圧添加剤の冷却液全体に対する添加量は、体積基準で500ppm以上20000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以上5000ppm以下であることがさらに好ましい。500ppm未満であると極圧添加剤の効果が十分に発揮されないことがあり、20000ppmを超えると、希土類合金と必要以上に反応し、信頼性(耐食性)を損ねることがある。
【0034】
さらに、冷却液の25°Cにおける表面張力は25mN/m〜60mN/mの範囲内にあることが好ましい。冷却液として、希土類合金に対する25°Cにおける動摩擦係数が0.1〜0.3のものを用いてもよい。
【0035】
希土類合金を固定砥粒ワイヤソーを用いて切削する工程を、25°Cにおける表面張力が約25mN/m〜約60mN/m(約25dyn/cm〜約60dyn/cm)の範囲内にある冷却液に切削部が浸漬された状態で実行することによって、ワイヤソーを効率良く冷却することができる。上記の範囲内の表面張力を有する冷却液は、水に比べて、希土類合金および/またはワイヤソーに対する濡れ性(またはなじみ)が優れるので、切削部(希土類合金とワイヤソーとが互いに接触し、希土類合金が切削される部分。切削溝ともいう。)に冷却液が効率よく浸透するためと考えられる。勿論、水を主成分とする冷却液は、油性冷却液(例えば鉱油)に比べ比熱が大きいので、冷却効率が高い。
【0036】
本発明の希土類合金の切断方法において好適に用いられる冷却液は、上記希土類合金に対する動摩擦係数によって選別することも可能で、25°Cにおける上記動摩擦係数が約0.1〜約0.3の範囲内にある冷却液は、上記の範囲内の表面張力を有する冷却液と同等の作用・効果を発揮し得る。表面張力が切削部に対する冷却液の浸透性を示す指標と考えられるのに対し、動摩擦係数は切削部に対して冷却液が与える潤滑性の指標と考えられる。なお、表面張力と動摩擦係数との間に、定性的な相関関係があることが知られている。
【0037】
冷却液の表面張力は、よく知られているデュヌイ表面張力計を用いて測定される。また、希土類合金に対する冷却液の動的摩擦係数は、日本で基礎的な試験機として多用されている増田式「四球式摩擦試験機」を用いて測定される。本明細書においては、いずれも、25°Cにおける値を、冷却液を特徴付ける値として採用する。
【0038】
なお、以下の実施例で示す動摩擦係数は、鉄球を用いて四球式摩擦試験機で求めた値である。実施例で例示するR−Fe−B系希土類合金(例えば、Nd2Fe14B金属間化合物を主相とする合金)は、鉄の含有量が成分元素の中で最も多いので、鉄球を用いて求めた冷却液の動摩擦係数は、良い近似で、希土類合金に対する動摩擦係数として採用することができる。希土類磁石として好適に用いられる希土類合金の組成および製造方法は、例えば、米国特許第4,770,723号および米国特許第4,792,368号に記載されている。
【0039】
なお、25°Cの表面張力または動摩擦係数を用いて、本発明の切断方法で好適に用いられる冷却液を特定したが、実際に使用する際の冷却液の温度は、25°Cに限られない。但し、本発明の効果を得るためには、15°C〜35°Cの範囲内に温度制御された冷却液を用いることが好ましく、20°C〜30°Cの範囲内にあることがさらに好ましく、20°C〜25°Cの範囲内にあることがさらに好ましい。よく知られているように、冷却液の表面張力や動摩擦係数は温度に依存するので、実際に使用する冷却液の温度が上記の温度範囲からあまり外れると、冷却液の表面張力や動摩擦係数がそれぞれ上記の数値範囲から外れた状態と良く似た状態となり、冷却効率が低下する。
【0040】
上記範囲の表面張力(または動摩擦係数)を有する冷却液を用いることによって、ワイヤソーの温度の異常上昇を抑制することができるので、砥粒の異常脱粒やワイヤソーの断線をさらに効率よく抑制・防止することができる。その結果、加工精度の低下が防止されるとともに、従来よりも長い期間に亘ってワイヤソーを使用することが可能となるので製造コストを低減することができる。
【0041】
上記範囲の表面張力(または動摩擦係数)を有する冷却液は、界面活性剤や、いわゆる「シンセティック(Synthetic)」と呼ばれる合成潤滑剤を水に添加することによって調製される。種類や添加量を調整することによって、所定の表面張力や動摩擦係数を得ることができる。また、水を主成分とする冷却液を用いると、比較的粘度が低いので、切削によって生成したスラッジから磁石を用いて希土類合金の切削屑を容易に分別することが可能で、冷却液を再利用することができる。また、冷却液の廃棄処理によって自然環境に悪影響を及ぼすことを防止することができる。また、スラッジ中に含まれる炭素の量を減らすことができ、スラッジから回収された切削屑を原料とする磁石の磁気特性を向上することができる。
【0042】
ワイヤソーを高速で走行させながら切削を行うと、冷却液が発泡し、冷却効率が低下することがある。消泡剤を含む冷却液を用いることによって、冷却液の発泡による冷却効率の低下を抑制することができる。さらに、PHが8〜11の範囲内にある冷却液を用いることによって、希土類合金の腐食を抑制することができる。また、防錆剤を含む冷却液を用いることによって、希土類合金の酸化を抑制することができる。これらは、希土類合金の種類や切断条件等を考慮して、適宜調整すればよい。
【0043】
ワイヤソーとしては、ダイヤモンド系砥粒を樹脂で固着したものが好適に用いられる。すなわち、芯線(典型的にはピアノ線)の外周面にダイヤモンド系砥粒を樹脂を用いて固着したワイヤソーを好適に用いることができる。そのなかでも、樹脂としてフェノール樹脂を用いることが好ましい。フェノール樹脂は、ピアノ線(硬鋼線)の外周面への接着強度が高く、また後述する冷却液に対する濡れ性(浸透性)にも優れる。また、電着法を用いて製造されるワイヤソーよりも安価であり、希土類合金の切断にかかるコストを低減することができる。電着法(例えば、Niめっき等によって砥粒を固定)によって作製されたワイヤソーに比べると砥粒の固着力は弱いが、動摩擦係数を上述した範囲に調整された冷却液を用いることによって砥粒のはがれ等を少なくできるため、切削し難い希土類合金を切断することが可能となる。
【0044】
なお、ワイヤソーの芯線は、ピアノ線に限られず、Ni−CrやFe−Ni等の合金、WやMo等の高融点金属から形成されたもの、またはナイロン繊維などの高強度繊維を束ねたものから形成されていても良い。また、砥粒の材料はダイヤモンドに限定されず、SiC、B、C、CBN(Cubic Boron Nitride)等であってもよい。
【0045】
切削しろが少ないという利点を得るためには、ワイヤソーの外径は、0.3mm以下が好ましく、0.25mm以下であることがさらに好ましい。ワイヤソーの外径の下限値は、十分な強度が得られるように設定され、且つ、所定の大きさの砥粒を十分な強度で固着するために、0.12〜0.20mm程度の直径の芯線が用いられる。砥粒の平均粒径Dは、切削効率の観点から、20μm≦D≦60μmの関係を満足することが好ましく、特に、40μm≦D≦60μmの関係を満足することが好ましい。また、切削効率と切削屑(スラッジ)の排出効率の観点から、ワイヤソーの走行方向における、互いに隣接する砥粒間の平均距離は、砥粒の平均粒径Dの200%〜600%の範囲内にあることが好ましく、且つ、砥粒がフェノール樹脂層の表面から突出している部分の平均高さは、10μm〜40μmの範囲内にあることが好ましい。このワイヤソーは、上記の仕様を指定すれば一般のワイヤソーの製造業者(例えば、株式会社アライドマテリアル)から供給され得る。
【0046】
このようなワイヤソーを用いると、良好な切削効率が実現でき、且つ、切削屑の排出性にも優れるので、比較的高い走行速度(例えば1000m/min)でも切削できる。また、上記の冷却液によって効率良く冷却されるので、良好な加工精度で、長期間に亘って安定に希土類合金を切削することができる。
【0047】
本発明の切断方法に用いる水を主成分とする冷却液は、粘度が低い(動粘度が約1mm2/s)ので、切削屑の排出性が油性の冷却液(一般に動粘度は5mm2/s以上)よりも低い。そこで、切削屑の排出性を高めるために、切削工程において、切削部が槽内に収容された冷却液に浸漬された状態に維持され、且つ、冷却液は、槽の底部から槽内に供給されるとともに、槽の開口部から供給されることによって、槽の開口部から溢れ出る状態に維持されることが好ましい。
【0048】
粘度の低い冷却液中に排出された切削屑は、容易に沈降し、槽の開口部付近に浮遊する切削屑は僅かである。切削部を冷却液中に浸漬した状態で切削するためには、ワイヤソーは槽の開口部付近の冷却液中を走行するように配置されるので、ワイヤソーは切削屑の少ない冷却液中を走行し、切削部には切削屑の少ない冷却液が供給される。特に、槽の開口部からも冷却液を供給し、開口部から溢れる状態に維持することによって、切削部に供給される冷却液中の切削屑の量を低下させることができる。さらに、槽の開口部から供給される冷却液の流れによって、ワイヤソーに付着した切削屑を機械的に洗い流す効果も得られる。冷却液が1分間に溢れ出る量は、槽の容積の50%以上であることが好ましい。また、開口部から供給される冷却液の量は、槽の底部から供給される冷却液の量よりも多いことが好ましい。
【0049】
さらに、槽の開口部にカーテン状の冷却液流(または気流)を形成し、冷却液が槽の開口部から溢れ出るのを抑制することによって、溢れ出る冷却液の液面を槽の壁よりも高くすると、より多くの冷却液が切削部の周囲に供給されることになるので、冷却液中の切削屑の量をさらに低下させることができる。ここでは、ワイヤソーの走行方向と交差する槽の開口部の辺上にカーテン状に冷却液流を形成した。冷却液流を形成するための吐出圧は、20MPa(2kgf)〜100MPa(10kgf)の範囲内にあることが好ましく、40MPa(4kgf)〜60MPa(6kgf)の範囲内にあることがさらに好ましい。この範囲よりも吐出圧が低いと充分な効果が得られないことがあり、この範囲よりも高いとワイヤソーがたわみ、加工精度が低下することがある。
【0050】
また、ワイヤソーを走行させるために設けられるメインローラのうち、槽の両側に配置され、ワイヤソーの走行位置を規制する一対のメインローラにも冷却液を吐出することが好ましい。これらのメインローラに冷却液を吐出することによって、メインローラの表面に設けられている、ワイヤソーを案内するための溝を有する有機高分子層(例えばウレタンゴム層)の温度上昇を抑制するとともに、ワイヤソーまたは案内溝に付着または滞留した切削屑(またはスラッジ)を洗い流すことによって、ワイヤソーの走行位置がずれたり、ワイヤソーが溝から外れたりするのを防止することができる。
【0051】
また、切削工程で生成された、希土類合金の切削屑を含むスラッジと冷却液とからなるダーティ液を回収し、スラッジのなかから希土類合金の切削屑を磁石を用いて分別することによって、冷却液を再利用(例えば、循環的に使用)することができる。上述したように、水を主成分とする冷却液は粘度が低いので、切削屑を容易に分別することができる。また、希土類合金の切削屑を分別することによって、冷却液の廃液処理を容易に且つ環境にダメージを与えないように実施することができる。さらに、切削屑を希土類合金の再生原料として利用することもできる。冷却液は水を主成分とするので、切削屑から再生された希土類合金に含まれる炭素の量を低くすることが容易なので、希土類磁石の材料として用いられる原料を得ることができる。スラッジからの切削屑の分別方法は、例えば、本願出願人が特願2000−224481号に開示した方法を用いることができる。
【0052】
本発明による切断方法は、上述したように、切断が難しい希土類焼結合金、特に、R−Fe−B系希土類焼結合金の切断に好適に適用される。本発明による切断方法によって切断された希土類合金を着磁することによって、希土類磁石が得られる。着磁工程は、切削工程の前に行ってもよいし、後に行ってもよい。R−Fe−B系希土類焼結合金を用いて製造される希土類焼結磁石は、磁気ヘッドの位置決めに用いられるボイスコイルモータ用の材料として好適に用いられる。本発明による切断方法は、特に、本願出願人らによる米国特許第4,770,723号明細書および米国特許第4,792,368号明細書に開示されているR−Fe−B系希土類焼結磁石(合金)の切断に好適に用いられる。さらに、そのなかでも、ネオジム(Nd)、鉄(Fe)およびホウ素(B)を主成分とし、正方晶構造のNd2Fe14B金属間化合物からなる硬い主相(鉄リッチ相)と、Ndリッチな粘りのある粒界相とを有する希土類焼結磁石(合金)(以下、「ネオジム磁石(合金)」と称する。)の切断および製造に好適に適用される。ネオジム磁石の代表的な例として、住友特殊金属社製、商品名NEOMAXがある。
【0053】
本発明による切断方法を採用すると、希土類合金を高精度で且つ効率良く切断できるので、例えば、磁気ヘッドの位置決めに用いられるボイスコイルモータ用の小さな希土類磁石(例えば、厚さが0.5mm〜3.0mm)を高精度で且つ効率良く製造することができる。
【0054】
(実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明による希土類合金の切断方法の実施形態をさらに具体的に説明する。本実施形態では、上述のネオジム磁石の製造に用いられるネオジム磁石焼結体の切断方法を説明する。
【0055】
ネオジム(Nd−Fe−B)焼結磁石を作製する方法を簡単に説明する。なお、磁石材料としての希土類合金を作製する方法は、例えば、上述の米国特許第4,770,723号明細書およびに米国特許第4,792,368号明細書に詳細に開示されている。
【0056】
まず、原料金属を所定の成分比に正確に秤量した後、真空またはアルゴンガス雰囲気で高周波溶解炉にて原料金属を溶解する。溶解した原料金属を水冷の鋳型に鋳込み、所定の組成の原料合金を形成する。この原料合金を粉砕し、平均粒径3〜4μm程度の微粉末を作製する。この微粉末を金型に入れ、磁界中でプレス成形する。このとき必要に応じて微粉末を潤滑剤と混合してからプレス成形を行う。次に、約1000°C〜約1200°C程度の焼結工程を行えばネオジム磁石焼結体を作製することができる。この後、磁石の保磁力を向上させるために約600°Cでの時効処理を実行し、希土類磁石焼結体の作製を完了する。焼結体のサイズは、例えば30mm×50mm×50mmである。
【0057】
得られた焼結体の切断加工を行い、焼結体から切断した複数の薄板(基板またはウェハと称される場合がある)を形成する。得られた焼結体の薄板のそれぞれに対して研磨による仕上げ加工を行い、寸法と形状を整えた後、長期的な信頼性を向上させるため、表面処理を施す。この後、着磁工程を実行した後、検査工程を経てネオジム永久磁石が完成する。なお、着磁工程を切断工程の前に行ってもよい。
【0058】
次に、本発明による切断方法を図1から図3を参照しながら説明する。
【0059】
図1は、本発明による実施形態の希土類合金の切断方法を実行するために好適に用いられるワイヤソー装置100を示す概略構成図である。
【0060】
ワイヤソー装置100は、3本のメインローラ10a、10bおよび10cと、一対のリールボビン40aおよび40bとを有している。冷却液を収容する槽30の下部に設けられているメインローラ10aが駆動ローラで、槽30の両側に設けられているメインローラ10bおよび10cは従動ローラである。ワイヤソー20は、往復走行しながら、例えば、一方のリールボビン40aから他方のリールボビン40bに巻き取られる。このとき、リールボビンの40aの巻き取り時間を他方のリールボビン40bの巻き取り時間よりも長くすることによって、ワイヤソー20を往復走行させながら、リールボビン40a側に新しいワイヤソー20を供給することができる。ワイヤソー20の走行速度は、例えば、200m/minから1500m/minの範囲であり、新線を供給する速度は、例えば、0m/min〜5m/minの範囲である。
【0061】
メインローラ10a、10bおよび10cの間には、ワイヤソー20が例えば150列に張設される。ワイヤソー20の走行位置を決めるために、メインローラ10a、10bおよび10cの表面には、ワイヤソー20を案内するための溝(例えば深さ約0.6mm、不図示)を有する有機高分子層(例えばウレタンゴム層)が設けられている。ワイヤソー20の列間の間隔は、この案内溝のピッチによって決められる。案内溝のピッチは、ワークから切り出すべき板の厚さに応じて設定される。
【0062】
リールボビン40aおよび40bの近傍には、巻き取り位置を調整するためのトラバーサ42aおよび42bがそれぞれ設けられている。リールボビン40aおよび40bからメインローラ10aに至るまでの経路中には、それぞれの側に5つのガイドローラ44と、1つのテンションローラ46とが設けられており、ワイヤソー20を案内するとともに、その張力が調整される。ワイヤソー20の張力は、種々の条件(切削長、切断速度、走行速度など)に応じて適宜変更され得るが、例えば20N〜40Nの範囲に設定される。
【0063】
上述したようにして作製された焼結体ワーク50は、以下の様にして、ワイヤソー装置100にセットされる。
【0064】
複数のワーク50は、例えばエポキシ系の接着剤(不図示)によって相互に固着され、複数のブロックとして組み立てられ状態で、炭素ベースプレート52を間に介して、鉄製のワークプレート54に固定される。ワークプレート54、ワーク50の各ブロックおよび炭素ベースプレート52も接着剤(不図示)によって互いに固着されている。炭素製ベースプレート52は、ワーク50の切断加工が終了した後、ワークプレート54の下降動作が停止するまでワイヤソー20による切断加工を受け、ワークプレート54を保護するというダミーとして機能する。
【0065】
本実施形態では、ワイヤソー20の走行方向に沿って計測した各ブロックのサイズが100mm程度になるように各ブロックの大きさを設計している。従って、ここでは、ワイヤソー20による切削長さは、約200mmである。本実施形態では上述のようにワーク50を複数のブロックに分割して配置しているが、ワイヤソー20の走行方向におけるサイズをどの程度の大きさに設定すべきかは、冷却液の表面張力や走行速度によっても変化する。また、各ワーク50の大きさによって、ひとつのブロックを構成するワーク50の数や配置も変化する。これらを考慮して、適宜最適なサイズのブロックに分けてワーク50を配置すればよい。
【0066】
上述のようにセットされたワーク50は、モータ58を備える昇降装置によって下降され、走行するワイヤソー20に押し付けられ、切削加工される。ワーク50の下降速度は、種々の条件に応じて変化し得るが、例えば、20mm/hr〜50mm/hrの範囲内に設定される。
【0067】
冷却液タンク60に貯蔵されている冷却液は、吐出ポンプ62によって、配管63を介して圧送される。配管63は、途中で、下部配管64と上部配管66とに分岐されている。下部配管64および上部配管66には、それぞれへの冷却液の流量を調整するためのバルブ63bおよび63aが設けられている。下部配管64は、切削部を浸漬するための槽30の底部に設けられた下部ノズル64aに接続されている。上部配管66は、槽30の開口部から冷却液を供給するための上部ノズル66a、66bおよび66cと、メインローラ10bおよび10cをそれぞれ冷却するために設けられた上部ノズル66dおよび66eとに接続されている。
【0068】
槽30には、上部ノズル66a、66bおよび66cと下部ノズル64aとから冷却液が供給され、少なくとも切削工程の間は、図1中に矢印Fで示したように、冷却液が槽30の開口部から溢れ出る状態に維持される。槽30から溢れ出た冷却液は、槽30の下方に設けられた回収用パン70によって回収タンク72に導かれ、蓄積される。回収された冷却液は、例えば図1に示したように、吐出ポンプ74によって循環用配管76を介して、冷却液タンク60に送られる。循環用配管76の途中には、フィルタ78が設けられており、回収された冷却液中の切削屑が分別除去される。回収方法は、これに限られず、磁力を利用して切削屑を分別する機構を設けてもよい(例えば特願2000−224481号参照)。
【0069】
次に、図2を参照しながら、本発明による切断工程をさらに詳細に説明する。
【0070】
槽30は、ワイヤソー20の走行方向と交差する側壁の開口部付近に補助壁32を有している。この補助壁32は、プラスチック板(例えばアクリル板)で形成されており、図2中に破線で示した無負荷時におけるワイヤソーの走行位置と近接するように設けられている。切断するためにワーク50を下降し、ワイヤソー20に接触させるとワイヤソー20はたわみ、図2中に実線で示したように、槽30内の冷却液に切削部が浸漬された状態となる。このとき、ワイヤソー20がたわむに連れて、ワイヤソー20は補助壁32を切削し、スリットを形成する。ワイヤソー20による切削が定常状態になると、たわみ量は一定し、ワイヤソー20は補助壁32に形成されたスリット内を通過しながら、ワーク50を切削する。従って、補助壁32に形成されたスリットは、ワイヤソー20の走行位置を規制するように機能し、加工精度の安定にも寄与する。
【0071】
槽30は、例えば約35L(リットル)の容量を有しており、切削工程中は、下部ノズル64aから約30L/minの流量で冷却液が供給され、上部ノズル66a、66bおよび66cから約90L/minの流量で冷却液が供給され、常に冷却液が開口部から溢れ出る状態に維持される。ワイヤソー20に冷却液を供給することだけを考えると、図2に示したように、切削中はワイヤソー29がたわむので、冷却液を溢れさせる必要は必ずしも無いが、例示するネオジム磁石焼結体を切断するときには切削屑の排出性を向上するために、上記のような構成を採用することが好ましい。
【0072】
切削屑の排出性を高めるためには、切削部付近の冷却液内に含まれる切削屑の量を減らすことが有効である。十分な排出性を得るためには、冷却液が1分間に溢れ出る量は、槽の容積の50%以上であることが好ましい。さらに、新鮮な冷却液は、槽30の底部よりも開口部から多く供給することが好ましい。水を主成分とする粘度の低い冷却液を用いているので、冷却液中に排出された切削屑は容易に沈降するので、槽30の底部から多くの冷却液を供給すると、沈降した切削屑が切削部近傍に浮遊する原因となるので好ましくない。
【0073】
また、開口部からワイヤソー20(つまり切削溝)に供給される新鮮な冷却液が占める割合を多くするために、走行するワイヤソー20よりも上方から供給される冷却液を多くすることが好ましい。すなわち、槽30の開口部からも冷却液を供給し、開口部から溢れる状態に維持することによって、切削部に供給される冷却液に含まれる切削屑の量を低下させることができる。さらに、槽30の開口部から供給される冷却液の流れによって、ワイヤソー20に付着した切削屑を機械的に洗い流す効果も得られる。
【0074】
また、上述した補助壁32は、ワイヤソー20によって形成されたスリット以外の部分は、槽30の側壁として機能するので、冷却液の液面Sを高く保つように機能する。さらに、槽30の開口部のワイヤソー20の走行方向と交差する辺に、ノズル66bおよび66cを用いて、カーテン状の冷却液流を形成し、冷却液が槽30の開口部から溢れ出るのを抑制する。これにより、溢れ出る冷却液の液面Sを槽30の補助壁32よりも高くすると、より多くの冷却液が切削部の周囲に供給されることになるので、冷却液中の切削屑の量をさらに低下させることができる。冷却液流を形成するための吐出圧は、20MPa(2kgf)〜100MPa(10kgf)の範囲内にあることが好ましく、40MPa(4kgf)〜60MPa(6kgf)の範囲内にあることがさらに好ましい。この範囲よりも吐出圧が低いと充分な効果が得られないことがあり、この範囲よりも高いとワイヤソー20にぶれが発生し、その結果、加工精度が低下することがある。
【0075】
また、槽30の両側に配置され、ワイヤソー20の走行位置を規制する一対のメインローラ10bおよび10cにも冷却液を吐出することが好ましい。これらのメインローラ10bおよび10cに冷却液を吐出することによって、メインローラ10bおよび10cの表面に設けられている、ワイヤソー20を案内するための溝を有する有機高分子層(例えばウレタンゴム層)の温度上昇を抑制するとともに、ワイヤソー20または案内溝に付着または滞留した切削屑(またはスラッジ)を洗い流すことができるので、ワイヤソー20の走行位置がずれたり、ワイヤソー20が溝から外れたりするのを防止することができるとともに、排出性を向上する効果も得られる。
【0076】
水を主成分とする冷却液に混合される極圧添加剤としては、硫黄含有化合物が好ましい。硫黄含有化合物の中でも、硫化脂肪酸、メルカプト脂肪酸、チオカルボン酸、ポリスルフィドのα、ωジカルボン酸などの有機酸およびこれらの塩やメルカプトアルコールなどが好ましい。
【0077】
硫化脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸などの不飽和脂肪酸の硫化物を用いることができる。脂肪酸の炭素数が8〜22のものが好ましい。メチルカプト脂肪酸としては、チオグリコール酸、12−メルカプトステアリン酸を用いることができる。チオカルボン酸としては、チオ安息香酸、ジチオ安息香酸を用いることができ、ポリスルフィドのα、ωジカルボン酸としては、ジチオプロピオン酸、ジチオオクチル酸を用いることができる。これらの酸と塩を形成する塩基としては、アルカノールアミン、アルキルアミン、アンモニアおよび無機アルカリ化合物を用いることができる。メルカプトアルコールとしては、メルカプトエタノール、メルカプトプロパノール、メルカプトイソブタノールを用いることができる。
【0078】
水を主成分とする冷却液に添加される界面活性剤としては、アニオン系として、脂肪酸石鹸やナフテン酸石鹸等の脂肪酸誘導体、又は長鎖アルコール硫酸エステルや動植物油の硫酸化油等の硫酸エステル型、又は石油スルホン酸塩等のスルホン酸型、非イオン系として、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルやポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステル等のポリオキシエチレン系、ソルビタンモノ脂肪酸エステル等の多価アルコール系、又は脂肪酸ジエタノールアミド等のアルキロールアミド系を用いることができる。具体的には、ケミカルソリューションタイプのJP−0497N(カストロール社製)を水に2重量%程度添加することによって、表面張力および動摩擦係数を所定の範囲内に調整することができる。
【0079】
また、シンセティックタイプ合成潤滑剤としては、シンセティック・ソリューションタイプ、シンセティック・エマルションタイプおよびシンセティックソリュブルタイプを用いることができ、そのなかでも、シンセティック・ソリューションタイプが好ましく、具体的には、グリコールおよびアルカノールアミン等を含む潤滑剤(ユシロ化学工業社製の#830および#870)や、シンタイロ9954(カストロール社製)を挙げることができる。いずれも、水に2重量%〜10重量%程度添加することによって、表面張力(または動摩擦係数)を好適な範囲内に調整することができる。
【0080】
また、錆止め剤を含有させることで、希土類合金の腐食を防止することができる。ここで、PHは8〜11とすることが好ましい。錆止め剤としては、有機系として、オレイン酸塩や安息香酸塩等のカルボン酸塩、又はトリエタノールアミン等のアミン類、無機系として、りん酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、又は炭酸塩を用いることができる。
【0081】
また、非鉄金属防食剤としては、例えばベンズトリアゾール等の窒素化合物を、防腐剤としては、ヘキサハイドロトリアジン等のホルムアルデヒド供与体を用いることができる。
【0082】
また消泡剤としては、シリコーンエマルジョンを用いることができる。消泡剤を含有させることで、冷却液の泡立ちを少なくし、冷却液の浸透性をよくし、冷却効果を高め、ワイヤソー20での温度上昇を防ぎ、ワイヤソー20の温度の異常上昇や異常摩耗が起こりにくくなる。
【0083】
図3を参照しながら、本実施形態で好適に用いられるワイヤソー20の構造を説明する。なお、図中では、ワイヤソー20の一点鎖線で示した中央線から下半分は簡略化している。
【0084】
ワイヤソー20としては、芯線(ピアノ線)22の外周面にダイヤモンド砥粒24を樹脂層26で固着したものが好適に用いられる。そのなかでも、樹脂としてフェノール樹脂を用いることが好ましい。フェノール樹脂は、ピアノ線(硬鋼線)22の外周面への接着強度が高く、また上述した冷却液に対する濡れ性(浸透性)にも優れる。
【0085】
好適なワイヤソー20の具体例としては、直径が約0.18mmのピアノ線22の外周に、平均粒径が約45μmのダイヤモンド砥粒を、フェノール樹脂層26で固着し、外径が約0.24mmのワイヤソー20が挙げられる。また、切削効率と切削屑(スラッジ)の排出効率の観点から、ワイヤソー20の走行方向(軸方向:図中の一点破線に平行な方向)における、互いに隣接する砥粒26間の平均距離は、砥粒の平均粒径Dの200%〜600%の範囲内にあるものが好ましい。さらに、砥粒22がフェノール樹脂層26の表面から突出している部分の平均高さは、10μm〜40μmの範囲内にあることが好ましい。このようなワイヤソー20は、砥粒22間に適度な大きさの空間(「チップポケット」と呼ばれることもある)28が形成されているので、良好な切削効率を有するとともに、良好な排出性を有する。
【0086】
ここで、極圧添加剤として硫化オレイン酸ジエタノールアミン塩を含む冷却液について、希土類合金の切断特性に与える極圧添加剤の添加量依存性を検討した結果の例を説明する。
【0087】
切断には図1に示したワイヤソー装置100を用いた。ワイヤソー20としては、直径180μmの芯線に、粒径40μm〜60μmの工業用ダイヤモンド砥粒が厚さ15μm〜40μmのフェノール樹脂層で固定されたワイヤソーを用いた。砥粒間の平均距離は約100μmであった。
【0088】
ワークとしては、住友特殊金属株式会社製のNEOMAX−46を用い、切削溝の長さは200mmとし、ワークの降下速度を40mm/hで一定に保った状態で、ワイヤソー20にかかる張力Fx(ワイヤソー20の走行方向)と降下方向に対する反力(Fz)を水晶圧電式ロードセルを用いて測定した。
【0089】
冷却水として、まず、水(水道水)にユシロ化学工業社製のシンセティックタイプ合成潤滑剤#830を10体積%混合したものを用意した。これに硫化オレイン酸ジエタノールアミン塩を表1に示す量(体積基準)を添加したものを冷却液として用いた。
【0090】
【表1】
Figure 0004961647
【0091】
表1の結果から明らかなように、極圧添加剤を500ppm以上添加することによってFxおよびFxともに低下している。この切断抵抗の低下傾向は20000ppm程度まで確認されたが、20000ppmを超えると一部のワークに腐食が見られた。また、切断抵抗の低下は、1000ppmから5000ppmの範囲でほぼ飽和する傾向が見られた。これらのことから、冷却水に対する極圧添加剤の添加量は、20000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以上5000ppm以下であることがさらに好ましいと言える。
【0092】
【発明の効果】
本発明によると、水を主成分とする冷却液を用いて実行できる、固定砥粒ワイヤソーによる希土類合金の切断方法が提供される。
【0093】
本発明の切断方法を用いると、高い加工精度で、且つ、少ない切削しろで、希土類合金を切断することができるので、高価な希土類金属合金の材料のロスを軽減することができる。また、冷却液の循環使用を容易に実現できるので、環境に優しく、また、廃液の処理のコストを低減することができる。従って、希土類金属合金の加工コストが低減され、切断品、例えば、磁気ヘッド用のボイスコイルモータを低価格で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による実施形態の希土類合金の切断方法を実行するために好適に用いられるワイヤソー装置100を示す模式図である。
【図2】図1に示したワイヤソー装置100の切削部近傍の構成を示す模式図である。
【図3】本発明による実施形態の希土類合金の切断方法を実行するために好適に用いられるワイヤソー20の断面構造を模式的に示す図である。
【符号の説明】
10a、10b、10c メインローラ
20 ワイヤソー
30 槽
40a、40b リールボビン
42a、42b トラバーサ
50 ワーク
60 冷却液タンク
70 回収用パン

Claims (11)

  1. 芯線に砥粒を固着させたワイヤソーを用いる希土類合金の切断方法であって、
    前記希土類合金が前記ワイヤソーによって切削される部分を水を主成分とする冷却液に浸漬した状態で、前記ワイヤソーを走行させることによって前記希土類合金を切削する工程を包含し、前記冷却液が体積基準で500ppm以上20000ppm以下の極圧添加剤を含有し、
    前記切削工程において、前記希土類合金が前記ワイヤソーによって切削される部分が槽内に収容された前記冷却液に浸漬され、前記冷却液は、前記槽の底部から前記槽内に供給されるとともに、前記槽の開口部から供給されることによって、前記開口部から溢れ出る状態に維持され、かつ、前記槽の前記開口部の、前記ワイヤソーの走行方向に交差する一対の辺に、カーテン状の気流または冷却液流を形成することによって、前記冷却液が前記槽の前記開口部から溢れ出るのを抑制する、希土類合金の切断方法。
  2. 前記極圧添加剤は硫黄含有化合物である、請求項1に記載の希土類合金の切断方法。
  3. 前記冷却液は、水溶性の合成潤滑剤と、前記合成潤滑剤の重量の10倍〜50倍の範囲内の重量の水を含んでいる、請求項1または2に記載の希土類合金の切断方法。
  4. 前記砥粒は、前記芯線の外周面に形成されたフェノール樹脂層によって固着されている、請求項1からのいずれかに記載の希土類合金の切断方法。
  5. 前記ワイヤソーの走行方向における、互いに隣接する前記砥粒間の平均距離は、前記砥粒の平均粒径の200%〜600%の範囲内にあり、且つ、前記砥粒が前記フェノール樹脂層の表面から突出している部分の平均高さは、10μm〜40μmの範囲内にある、請求項1からのいずれかに記載の希土類合金の切断方法。
  6. 前記砥粒の平均粒径Dは、20μm≦D≦60μmの関係を満足する、請求項1からのいずれかに記載の希土類合金の切断方法。
  7. 前記切削工程において、前記冷却液が1分間に溢れ出る量は、前記槽の容積の50%以上である、請求項1から6のいずれかに記載の希土類合金の切断方法。
  8. 前記切削工程において、前記開口部から供給される前記冷却液の量は、前記底部から供給される前記冷却液の量よりも多い、請求項1から7のいずれかに記載の希土類合金の切断方法。
  9. 前記希土類合金は、R−Fe−B系希土類焼結合金である請求項1からのいずれかに記載の希土類合金の切断方法。
  10. 前記希土類合金は、Nd−Fe−B系希土類焼結合金である請求項に記載の希土類合金の切断方法。
  11. 希土類合金粉末から希土類磁石の焼結体を作製する工程と、
    請求項1から10のいずれかに記載の希土類合金の切断方法を用いて前記焼結体から複数の希土類磁石を分離する工程と、
    を包含する希土類磁石の製造方法。
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