本発明では、磁石粉末の成形体を焼結前にワイヤソーを用いて加工する。ワイヤソーとは、一方向または双方向に走行するワイヤを、加工すべき成形体に押し付け、ワイヤと成形体との間にある砥粒によって成形体を加工する技術である。
本発明者は、酸化しやすい希土類合金磁石粉末の成形体を焼結前において加工する場合において、上記のワイヤを用いることにより、通常の回転刃などによって発生する発熱・発火の問題を回避できることを見出し、本発明を想到するに到った。
本発明の好ましい実施形態では、表面に砥粒が固着されたワイヤを用いる。ワイヤ芯線は、引っ張り強度の高い材料から形成されることが好ましく、例えば、硬鋼線(ピアノ線)、Ni−CrやFe−Niなどの合金、WやMoなどの高融点金属、またはナイロン繊維を束ねたものから形成される。また、ワイヤが太すぎると、切断代が大きくなるため、材料の歩留まりが低下してしまう。逆にワイヤが細すぎると、加工負荷によってワイヤが切断してしまうおそれがある。さらに、切断抵抗を増加させるため、発熱・発火の原因となる。このため、本発明で用いるワイヤの外径は、0.05mm以上3.0mm以下に設定されることが好ましい。より好ましいワイヤの外径は、0.1mm以上1.0mm以下である。なお、ここでいうワイヤソーとは、切込方向における幅が3.0mm以下の切断手段を広く意味し、例えば、この幅が3.0mm以下のバンドソー等を含むものとする。
一方、砥粒はダイヤモンド、SiC、またはアルミナなどの高硬度材料から形成されていることが好ましく、その粒径は、典型的には10μm以上1000μm以下である。砥粒は、樹脂膜などの結合層によってワイヤ芯線の表面に固着されていることが好ましい。樹脂膜としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂を用いることができる。樹脂膜の厚さは、0.02mm〜1.0mm程度である。
なお、結合層として樹脂膜の代わりに金属膜などを用いて砥粒を固着してもよい。例えば、電着法(電気めっき法)によって砥粒を固着したワイヤ(「電着砥粒ワイヤ」と呼ばれることがある。)は、樹脂層で砥粒を固着したワイヤよりも砥粒の突き出し量(砥粒が結合層の表面から突出している部分の高さ)を大きく出来るので、切削屑(切り粉またはスラッジ)の排出性に優れるので好ましい。また、十分な強度が得られるのであれば、拠り線を用いてもよい。拠り線を用いると切削屑の排出性をさらに向上することが出来る。なお、後述するように、切削屑の排出性を高めるために切削液を用いる場合には、切削液に対する耐性の観点からも、電着砥粒ワイヤを用いることが好ましい。
砥粒の平均粒径Dは、切削効率の観点から、30μm≦D≦1000μmの関係を満足することが好ましく、特に、40μm≦D≦200μmの関係を満足することが好ましい。また、切削効率と切削屑の排出効率の観点からは、ワイヤソーの走行方向における、互いに隣接する砥粒間の平均距離は砥粒の平均粒径Dの200〜600%の範囲内にあることが好ましく、且つ、突き出し量は、15μm〜500μmの範囲内にあることが好ましい。
なお、プレス時に印加する配向磁界によって成形体は磁化される。この磁化を取り除くことを目的として成形体に脱磁処理を施しても、0.001T〜0.1T程度の残磁が存在することになる。残磁をこれよりも小さくすることはできるが、そのためには工程数が増加するので、量産上好ましくない。成形体が残磁を有する結果、成形体をワイヤソーで切断するとき、切断代を小さくすると、切削屑が残磁によって切断面に付着してしまうため、成形体どうしを分離することが困難になる。このような問題を避けるには、0.1mm以上の切断代を設けることが好ましい。
また、砥粒が表面に固着されていないワイヤ(遊離砥粒型ワイヤ)を用いてもよいが、その場合は、砥粒が表面に固着されているワイヤ(固定砥粒型ワイヤ)を用いるよりも切削屑が排出され難く、切断溝(切削溝)内に相対的にたまりやすく、上記の残磁によって切断面に付着する切削屑が増える可能性がある。このため、固定砥粒型ワイヤを用いる方が、成形体どうしを分離しやすく、好ましい。
成形体を複数の部分にスライスする場合に成形体どうしを分離しやすくするために、一旦形成された切断面に沿って再度ワイヤソーを相対移動させてもよい。このよう切断面に沿って再度ワイヤソーを通過させることによって、成形体どうしの間隙に残存した切削屑が排出され、欠けを発生させることなく、成形体を分離することが可能になる。ワイヤソー切断面に沿って再び通過させるために、1回目の切断によって形成された溝(複数の成形体の間隙)を保持することが好ましい。
また、切断加工工程における切削屑の排出性を向上するために、少なくともワイヤソーの成形体と接触する部分に切削液が付与された状態で成形体を切削加工してもよい。ワイヤソーに切削液を付与することによって、切削屑がワイヤソーに付着しやすくなり、且つ、切削屑(粉)どうしが凝集しやすくなるため、より多くの切削屑がワイヤソーに付着し、切削部から排出される。
なお、未焼結の成形体は、機械的な強度が低いので、切削液を用いると壊れやすくなることが懸念されたが、本発明者の実験によると、切削液を用いることによる強度低下に起因する歩留まりの低下は認められなかった。むしろ、切削液を用いることによって切削屑の排出性が向上し、成形体どうしをより高い確率で分離することが可能となった結果、製造工程を簡略すること、および/または製造歩留まりを向上することが出来る。
例えば、上面と下面とが互いに曲率の異なるアーチ状の成形体を切断加工する場合、成形体を支持台に載置した状態で鉛直方向を含む面内に切断面を形成するように切断(縦切り)した後、切断された成形体どうしを分離する工程を特に行うことなく、そのままの状態で焼結しても、成形体どうしの溶着の発生率は低く、十分な製造歩留まりを得ることができる。
切削液としては、成形体の酸化を避けるために、非水系の切削液(有機溶剤または油系切削液)を用いることが好ましく、焼結磁石中に炭素として残留し難い、炭化水素系有機溶媒を用いることが好ましい。特に、飽和炭化水素系溶媒(例えば、イソパラフィンやノルマルパラフィン)は、容易に除去されるので、好ましい。さらに、切断後の成形体どうしの溶着をより効率的に防止するために、切削液に溶着防止粉を分散した分散液を用いても良い。
切削液は、浸漬法、滴下法または噴霧法を用いてワイヤソーに付与してもよいし、成形体の加工を切削液中で行ってもよい。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明に好適に用いられる実施形態1のワイヤソー装置の一構成例を示している。図示されている装置は、加工対象の成形体(グリーン)1を支持し、上下(z軸方向)に駆動する駆動装置2と、複数のロール3a、3b、3c、および3dとを備えている。
ワイヤソー4は、上述の砥粒がワイヤに固着されたものであり、ロール3a〜3dに巻かれ、y軸に平行な方向に走行する。ワイヤソー4は、x軸方向に等間隔で配列され、その配列間隔(ワイヤピッチ)は、ブロック状の成形体1から切り出す各プレート状部分のサイズ(厚さ)によって任意に設定される。本発明が好適に適用される用途において、ワイヤピッチは、例えば約1mm以上約30mm以下の範囲内に設定される。
ワイヤソー4に用いるワイヤの外径は、ワイヤ強度および切断代を考慮すると、0.05mm以上3.0mm以下の範囲内に設定することが好ましい。なお、焼結後の硬い焼結体をワイヤソー4で切断しようとすると、ワイヤには20〜40N程度の張力が印加されることになる。これに対して、本発明では、焼結前の柔らかい成形体1を加工するため、ワイヤに印加すべき張力も0.1〜10N程度と比較的低くてすむため、切断抵抗が小さく、比較的酸素濃度の高い雰囲気でも発火や酸化の問題なく成形体の切断・加工が可能となる。
ワイヤソー4には、加工時、イソパラフィンやエチルアルコールなどの有機溶剤を切削液として供給してもよい。ただし、切削液の供給は必須ではないが、後述するように、切削屑の排出性を向上することができる。
ワイヤソー4のy軸方向速度(vy)を、本明細書では「ワイヤ送り速度」と称することとする。所定のワイヤ送り速度で走行するワイヤソー4に対して成形体1を押し付けることにより、成形体1を切削し、複数の部分に切断・分割(スライス)することができる。成形体1をワイヤ4に押し付けてゆく速度(vz)は、図示されている例では、駆動装置のz軸方向の駆動速度に対応し、これを本明細書では「切込速度」と称することにする。この切込速度が速いほど、加工に要する時間が短縮される。
ワイヤ送り速度および切込速度は、後述する実施例の説明から明らかなように、加工負荷の値に大きく影響する。加工負荷を実用上適切な範囲に収めるには、切込速度を例えば30mm/min以上1200mm/min以下に設定することが好ましく、30mm/min以上800mm/min以下に設定することが更に好ましい。
なお、ワイヤソー4は一定の方向に走行させるだけではなく、y軸方向に沿って往復動作(レシプロカル動作)を行うようにしてもよい。この場合は、例えば複数のワイヤを張った矩形の枠体をエアシリンダなどによってy軸方向に直線的に往復動作させれば良い。また、エアシリンダの代わりに、モータとクランクを組み合わせた装置を採用しても良い。
図2は、従来の焼結体を切断する場合と、本発明による焼結前の成形体を切断する場合について、製造工程の違いを説明するフローチャートである。図2に示されるように、従来例では、まず、原料粉末を用意する工程、粉末をプレスする工程、成形体を焼結する工程、焼結体を切断する工程、切断された各焼結体部品に対して表面処理を施す工程などの各工程を行う必要があった。これに対して本発明では、プレス工程の後、焼結工程前に、成形体(グリーン)を切断し、最終磁石製品に近い形状とサイズを持つ成形体部分を作製する。このように本発明では、焼結体よりも著しく柔らかくて加工しやすい状態にある成形体(グリーン)を切断するため、切断加工に要する時間が大幅に短縮される。
なお、本発明によれば、ワイヤソーと成形体との接触面積が従来の回転刃などを用いた場合の接触面積に比べて小さく、摩擦による発熱量が極めて少ない。例えば、従来の回転刃の場合、接触面積が1000〜10000mm2程度となるような場合でも、本発明によれば、接触面積を5〜50mm2程度に抑えることができる。このため、大気雰囲気中においてワイヤソー加工を行っても、希土類合金粉末の酸化や発火の問題を充分に回避できる。
ただし、本発明による場合でも、よりいっそう磁石粉末の酸化を抑制し、高性能の磁石特性を実現するためには、磁石粉末の酸素濃度が重量比率で3000ppmを超える場合には、酸素濃度がモル比で全体の10%以上15%以下に調節された不活性ガス雰囲気中でワイヤソー加工を行うことが好ましい。特に、酸素濃度が重量比率で全体の3000ppm以下となるような低酸素の磁石粉末を用いて成形体を作製する場合は、磁石粉末の酸化反応性が著しく強いため、上記よりも厳しく酸素濃度が制限された環境(例えば酸素濃度がモル比率で2%以下の不活性ガス雰囲気中)でワイヤソー加工を行うことが望ましい。酸素濃度を上記の範囲内に制御することは、切断加工を行う装置のまわりを部分的に囲えば可能であり、ワイヤソー装置のまわりを大気雰囲気から完全に分離することなく実現できる。このように気体中で成形体を切断する場合には、雰囲気をコントロールすることが好ましい。
また上述のように気体中で乾式成形体を加工する場合には、磁石粉末に対して成形前に固体または液体の潤滑剤(例えば脂肪酸エステル)を添加しておくことが好ましい。粉末表面に形成される潤滑剤の膜によって酸化が防止されるからである。また、成形体を作製した後で、加工前に成形体に潤滑剤を十分にしみこませてもよい。このような潤滑剤は、後の焼結工程において容易に成形体から除去できるものが好ましい。
なお、従来の回転刃を用いる場合は、切断代が大きく(例えば幅0.5mm以上)、切削加工部分から切削屑が粉塵化して周囲に飛散することがあった。飛散した切削屑が発火すると、極めて危険である。しかし、本発明によるワイヤソーを用いる場合は、切削屑の飛散を大きく抑制することができるので、安全に作業を行うことができる。
また、本発明によるワイヤソー加工は、イソパラフィンに代表される飽和炭化水素系溶剤などの有機溶媒中において実行しても良い。このような有機溶媒中であれば、脱脂が容易であるため、特別の脱脂工程を導入することなく、標準的な焼結プロセスにおいて、成形体中から除去される。このため、有機溶媒中の炭素が焼結磁石の磁気特性を劣化させるという問題も生じない。
次に、本発明による実施形態1の実施例を説明する。
本実施例では、図3に示すように、3列に配置したワイヤソーにより、下方から上昇する成形体(グリーン)を大気雰囲気中で切断した。ワイヤソーのワイヤ外径(線径)は0.24mmとし、ワイヤピッチは5mmとした。加工対象の成形体(グリーン)は、26質量%(Nd+Pr)、5質量%Dy、1質量%B、1質量%Co、0.2質量%Al、0.1質量%Cu、残部Feの合金組成を有する磁石粉末(FSSS粒径:3.0〜3.2μm)を公知のプレス装置を用いて成形したものである。磁界配向させるための印加磁界は1.2T程度とした。
成形体は略直方体の形状を有し、そのサイズは高さ15mm×幅41.7mm×奥行き66.2mmであった。
ワイヤソーに対する成形体の配置関係は、各ワイヤと成形体との接触部長さが41.7mmとなるように設定した。また、不図示のロードセルにより、成形体上昇時に成形体がワイヤソーから受ける加工負荷(下方向に向かう負荷)を測定した。また、この実験では、ワイヤ送り速度および切込速度を100〜150m/minの範囲で変化させ、また、切込速度を150〜420mm/minの範囲で変化させた。
図4は、加工負荷の成形密度依存性を示すグラフである。なお、図4に示す例では、ワイヤ送り速度を150m/minとし、切込速度を150mm/minとした。
図4から、成形密度の増加に伴って加工負荷が増大していることがわかる。ただし、成形密度が小さくなりすぎると、成形体の強度が低下し、成形体の割れや欠けが生じやすくなるという問題が生じるため、成形密度は最低でも3.6g/cm3以上は必要である。種々の観点から、好ましい成形密度の範囲は3.8g/cm3以上5.0g/cm3以下である。焼結後の磁気特性と成形体の割れや欠けの発生による歩留まりを考慮すると、成形体の密度は4.0g/cm3以上4.7g/cm3以下であることがさらに好ましい。なお、磁石粉末(合金材料)の真密度は、7.5g/cm3である。
図5は、加工負荷のワイヤ送り速度依存性を示すグラフである。ここでは、切込速度を150mm/minとした。また、図6は、上記潤滑剤を添加した場合における加工負荷の切込速度依存性を示すグラフである。ここでは、ワイヤ送り速度を150m/minとした。
図5からは、ワイヤ送り速度を速くするほど、加工負荷が低減されることがわかり、図6からは、切込速度を遅くするほど、加工負荷が低減されることがわかる。ワイヤ送り速度や切込速度を不適切なレベルに設定してしまうと、加工負荷が大きくなりすぎる結果、成形体の切断面が荒れてしまう。具体的には、加工負荷が大きくなると、切断面にソーマークが形成され、表面に無視できない凹凸が発生する。従って、焼結後の加工に掛かる工数が増加する。また、切断後の成形体のエッジ部に欠けが発生する割合が増加する。
図7(a)は、切断面の焼結後における面精度(「うねり」または「表面粗度」)と成形密度との関係を示すグラフである。ここでは、ワイヤ送り速度を150m/minとし、切込速度を150mm/minとした。図7(b)は、切断面のうねり測定範囲(約32mm)を示す斜視図であり、図7(c)は、うねりの測定データ(段差データ)を示すグラフである。図7(a)のグラフは、図7(c)のデータに基づいて作成されたものである。
図7(a)からわかるように、成形密度が高い(例えば4.3g/cm3以上)ほど、焼結体の面精度は良くなることがわかる。
次に、本発明の方法によって焼結前の成形体に対する切断加工を行った実施例と、焼結後に切断加工を行った比較例について、最も適切な面精度を得ることができた切込速度とワイヤ送り速度を記載する。
表1から明らかなように、本発明のように柔らかい成形体に対するワイヤソー切断を行う場合は、比較的遅いワイヤ送り速度でも、比較例に対する200倍以上の切込速度を達成することができた。切込速度の向上は、加工負荷の低下によって得られたものであり、工程時間の短縮に直結する。
次に、本発明の実施例について、焼結や研磨による寸法の変化を以下の表2に記載する。
ワイヤソーによる切断加工直後における成形体の厚さ(図1のx方向サイズ)を4.76mmとした。このサイズは、ワイヤピッチ(5mm)からワイヤ外径(0.24mm)を引くことにより求めた計算値である。
焼結によって成形体の厚さは30%近く収縮し、研磨によって焼結体の厚さは更に0.1mm程度小さくなった。焼結による収縮はプレス中に印加した配向磁界の向きに最も顕著に生じる。なお、本実施例では、成形体の厚さ方向に磁界を印加し、粉末の配向を行っていた。
従来、焼結による収縮が起きた後の焼結体を切断加工していたため、その切断代が焼結体の厚さに占める比率が大きかった。これに対し、本発明では収縮する前の成形体を切断するため、用いるワイヤの外径が等しい場合でも、成形体の厚さに占める切断代の比率は相対的に小さくなる。このことは、切断加工によって失われる材料をできるたけ少なくし、材料の歩留まり(利用効率)の向上に大きく寄与する結果となる。
次に、図8を参照しながら、ワイヤソーで成形体をスライスした場合の好ましい焼結方法(焼結時における成形体の配置方法)を説明する。
図8に示すように、ワイヤソーで切断分離された成形体の各切断面を近接させた状態で焼結工程を行うと、切断面が相互に溶着するという問題が生じやすい。切断代が小さいと、このような溶着は特に生じやすくなる。焼結による溶着を避けるため、切断面の間隙に例えばY2O3粉末などの溶着防止粉を置くことが好ましい。溶着防止粉は、磁石の希土類元素と反応しにくい材料から形成されたものであれば良く、Y2O3粉末に限定されない。例えば、Al2O3やCなどの粉末やフレークを用いても良い。
また、ワイヤソーによる切断の後、図8の下方に示すように、各切断面の間隙を広げるよう配置したり、別々に焼結工程を行ったりしてもよい。この場合、焼結台上に配置する成形体どうしの間隔は0.1mm以上に広げることが望ましい。
(実施形態2)
図9は、本発明に好適に用いられる実施形態2のワイヤソー装置20を備える磁石用粉末成形体作製装置100の構成例を示している。
磁石用粉末成形体作製装置100は、プレス成形装置10とワイヤソー装置20とを備えている。磁石用粉末成形体作製装置100は、さらに、プレス装置10からワイヤソー装置20へ成形体1を搬送するためのベルト16と、ワイヤソー装置20でスライスされた成形体1aを焼結ケース50に搬送するための搬送用ベルト42と、搬送用ベルト16からワイヤソー装置20へ成形体1を搬送し、ワイヤソー装置20から搬送用ベルト42にスライスされた成形体1aを搬送するための搬送装置30とを備えている。
磁石用粉末成形体作製装置100は、少なくともワイヤソー装置20の周囲の雰囲気中の酸素濃度を低下させるために、例えば、窒素ガスで空気を置換できるように、保護壁70で囲まれている。ここでは、搬送ベルト16の途中から焼結ケース50までを保護壁70で囲い、窒素ガスを保護壁70内に供給することによって、酸素濃度を上述した範囲内に制御している。
次に、磁石用粉末成形体作製装置100の動作を説明する。
プレス成形装置10は、上パンチ14aと、下パンチ14bと、ダイ14cと、これらを動作させる機構および制御機構(いずれも不図示)を有している。ダイ14cの貫通孔と下パンチ14bの上面で形成されるキャビティ内に、フィーダボックス12を用いて磁粉を落下充填し、上パンチ14aと下パンチ14bとによって一軸プレスすることによって成形体1を作製する。なお、プレス成形装置10は、磁気回路(不図示)を有し、プレス成形中に配向磁界を磁粉に印加することができる構成を有してもよい。配向磁界の方向は、プレス方向と平行であってもよいし、プレス方向に直交する方向であってもよい。また、プレス成形装置10に、脱磁磁界を発生させる磁気回路(不図示)を設けてもよい。
プレス成形装置10によって作製された成形体1は、搬送ベルト16によって、ワイヤソー装置20が配置されている保護壁70内に移送される。この搬送ベルト16に脱磁磁界発生用の磁気回路(不図示)を配置したり、成形体1に窒素ガスなど不活性ガスを吹き付ける機構を設けることによって、成形体1に付着した磁粉を除去するようにしてもよい。
搬送ベルト16で保護壁70内に運ばれた成形体1は、搬送装置30のアーム34によって、載置台28上に設けられたワイヤソー装置20にセットされる。搬送装置30は、レール32に2つのアーム34および36を有し、アーム34および36はそれぞれ、例えばマグネットチャック(磁気吸着保持機構)によって、成形体1またはスライスされた成形体1aを着脱(保持/開放)する。アーム34および36は、それぞれ互いに独立に上下方向に移動することができとともに、レール32に沿って移動する。アーム34および36の動作は例えばシーケンサによって制御され、互いに独立に制御されてもよいし、連動して制御されてもよい。アーム34および36は、例えば、エアーシリンダを用いて成形体1を挟持するようにしてもよい。
後に詳述するように、成形体1は、ワイヤソー装置20によって、水平方向にスライスされ、複数の成形体1aに加工される。モータ26でボールねじ27を駆動することによって成形体保持装置22をワイヤソーユニット24に対して相対移動させ、成形体1をワイヤソーユニット24のワイヤソー24bで切断する。モータ26の回転速度を変えることによって、成形体1のワイヤソー24bに対する相対速度(切込速度)を調節することができる。得られた複数の成形体1aは、アーム34によって吸着保持され、ワイヤソー装置20から載置台28上の退避位置へ移送される。
載置台28上の退避位置に置かれた成形体1aは、アーム36によって、上面を吸着保持され、一枚ずつ分離されながら、搬送用ベルト42上に配置されたトレイ44上に移送される。本実施形態では、水平方向に切断面が形成されるように成形体1をスライス(切断)しているので、アーム36によって成形体1aの上面(あるいは切断面)を吸着し、アーム36を鉛直方向に移動させると、切断面に垂直な力だけが作用し、切断面に対してせん断力が実質的に発生しないので、成形体1aに欠けが発生することを抑制することができる。
次に、所定の枚数の成形体1aがトレイ44に収容された後、トレイ44は、搬送ベルト42によって、焼結ケース50内に搬送される。焼結ケース50は、複数の支持棒52によって形成された複数段の収納棚を有しており、リフト60の上下運動によって、搬送ベルト42からトレイ44を受容するように、収容棚の高さが調節される。
焼結ケース50内に所定数のトレイ44を収容した後、焼結ケース50は、焼結炉へ搬送される。以下、実施形態1と同様の工程を経て、焼結磁石が作製される。
次に、図10および図11を参照しながら、実施形態2のワイヤソー装置20の構造と動作を詳細に説明する。
ワイソー装置20は、成形体保持装置22とワイヤソーユニット24とを有している。
成形体保持装置22は、図11に示すように、底板22aと、背面板22bと、2枚に側面板22cとを有している。背面板22bは、成形体1を切断し終わったワイヤソーを収容するための溝26を有している。溝26はワイヤソーを完全に収容できるだけの大きさ(幅および深さ)を有している。溝26を形成しておかないと、背面板22bに達したワイヤソーが上下方向にずれたり、背面板22bと成形体1aとの間に間隙が形成されたりすることによって、成形体1の切断終端部に欠けが発生することがある。2枚の側面板22cのそれぞれには、ワイヤソー通過用のスリット23が設けられており、切断工程に亘って成形体1およびスライスされた成形体1aを一対の側面板22cの間に挟持している。
成形体1は、成形体保持装置22の底板22a上に置かれ、一対の側面板22cに挟持され、且つ、背面板22bで支持されながら、ワイヤソーユニット24に対して相対移動させられる。背面板22bと側面板22cは、例えば、図示していないエアシリンダ等によって成形体1を挟持し、切断後に解放する。
ワイヤソーユニット24は、図10に示したように、3本の固定砥粒ワイヤソー24bが張設されたフレーム24aを有し、フレーム24aは、載置台28に設けられたレール25によって摺動可能に保持されている。フレーム24aは、モータ24cに連結されたクランク24dに接続されており、モータ24cの回転に従ってレール25に沿って図中に矢印Aで示したように往復運動する。
成形体1を成形体保持装置22で保持しながら、往復運動しているワイヤソー24bに対して図中の矢印Bの方向に相対的に移動させる。すなわち、ワイヤソー24bは、成形体保持装置22の側面板22cのスリット23を通過しながら、背面板22bの溝26にまで到達し、成形体1は切断され、複数の成形体1aとなる。この後、さらに、切断された成形体1aを成形体保持装置22によって保持した状態で、ワイヤソー24bを往復運動させながら成形体保持装置22を逆方向に移動(退避)させる(図中の矢印B参照)。このように、ワイヤソー24bを切断面(複数の成形体1aの間隙)に沿って再び通過させることによって、切断面に残存している切削屑を除去する。
ワイヤソー24bの直径は比較的小さく、切削屑の排出性が低いので、成形体1aの間に多くの切削屑が残存し、成形体1a同志が密着し、容易に分離できないことがある。特に、配向磁界を印加して成形された成形体の磁粉は残留磁化を有しているので、切削屑の排出性が低い。このような状態で、成形体1aを分離すると、成形体1aに欠けが発生することがあるが、上述のように、切断面に沿ってワイヤソー24bを再度通過させることによって、成形体1a同志の間隙に残存した切削屑が除去され、欠けを発生させることなく、成形体1aを分離することが可能になる。すなわち、上述したように、マグネットチャックを用いて成形体1aの上面を吸着保持し、上方に引き上げるだけで、成形体1aを一枚ずつ分離することが可能になる。
なお、2回目のワイヤソー24bの通過は、切削屑の除去が目的であるので、切断時のワイヤソー24bの通過速度(切込速度)よりも速くしてもよい。2回目のワイヤソー24bの通過速度が遅すぎると切削屑の排出効果が十分に得られないことがあるので、切断時の通過速度と同等もしくはそれ以上の速度で通過させることが好ましい。なお、2回目のワイヤソー24bの通過方向は、切断時と逆にする必要は必ずしもないが、成形体保持装置22を次の成形体1を受容するための位置に戻す工程を兼ねることができるので、切断時と逆にすることが好ましい。
ここでは、成形体1とワイヤソー24bとを水平面内で相対移動させることによって切断する構成を例示したが、これに限られず、例えば、実施形態1のように、成形体1とワイヤソー24bとを鉛直面内で相対移動する構成においても、ワイヤソー24bを切断面に対して再度通過させることによる効果を得ることができる。
フレーム24aに張設されるワイヤソー24bの本数に制限は無く、また、ワイヤソー24bの張力(例えば、0.05N〜10N)は、成形体1の硬さ(加工しやすさ)や切込速度等に応じて適宜設定できる。成形体保持装置22の移動速度(切込速度)は、ワイヤソー24bの太さ、送り速度(走行速度)、張力および成形体1の硬さ等に応じて適宜設定される。適切に調節すると、切断面を平滑にすることができ、研磨工程等の工数を削減することができる。
ここでは、モータ24cとクランク24dとを用いてワイヤソー24bを往復運動させたが、ワイヤソー24bを走行させる方法はこれに限らず公知の種々の方法を用いることができる。例えば、大型のワイヤソー装置のように長いワイヤを往復走行させても良いし、一方向に走行させてもよい。また、エンドレスワイヤソーを用いることもできる。成形体1は切断されやすく、ワイヤソーの磨耗は少ないので、新線の供給も不可欠ではなく、種々の駆動方法を用いることができる。
ただし、例示したように、成形体1aとワイヤソー24bとを水平面内で相対的に移動し、ワイヤソー24bを水平面内で往復運動させると、切断によって生じる切削屑が機構部分(すなわち、モータ24c、クランク24d、モータ26およびボールねじ27)に飛散することが無いので、装置のメインテナンスが容易になるという利点がある。残留磁化を有する磁粉が機構部分に飛散すると除去することが困難であり、機構部分の破損の原因となることもある。また、成形体1を水平面内で切断すると、上述したように、成形体1aにせん断力を加えることなく分離することができるという利点も得られる。
プレス装置10で成形された成形体1は、搬送装置30によって、所定位置の成形体保持装置20にセットされるが、アーム34に回転機構を設けておくと、成形体1の任意の面に平行に切断することが可能になる。すなわち、成形体1の配向磁界の方向と切断面の方向を任意にできる。例えば、平行プレス法で成形された成形体1をそのまま成形体保持装置22にセットすると、残留磁化と直交する面内で切断することになるが、アーム34に鉛直面内で90°回転できる機構を設けると、残留磁化と平行な面内で切断することになる。あるいは、直角プレス法で成形された成形体1を残留磁化に直交する面内で切断することもできる。
(実施形態3)
図12は、本発明の実施形態3による焼結磁石の製造方法に好適に用いられる実施形態3のワイヤソー装置40の構成例を示している。
図12に示したワイヤソー装置40は、切削液付与装置5を有する点において図1に示したワイヤソー装置と異なる。図1に示したワイヤソー装置と実質的に同じ機能を有する構成要素は共通の参照符号で示し、ここではその説明を省略する。
ワイヤソー装置40においては、切削液付与装置5によってワイヤソー4に切削液が付与された後、ワイヤソー4が成形体1と接触し、切断加工が行われる。切削液付与装置5は、切削液6を保持する容器5aと、容器5aから溢れた切削液を回収するパン5bとを備えている。切削液6は、容器5aの上部開口部から溢れる状態に維持され、容器5aの側面に設けられたスリット内を走行するワイヤソー4に付与される。
ここでは、切削液として、焼結磁石中に炭素として残留し難い、飽和炭化水素系溶媒(典型的にはイソパラフィンおよびノルマルパラフィン)を用いる。飽和炭化水素系溶媒の平均分子量は、120〜500の範囲内にあることが好ましい。平均分子量が120を下回るものは結合力が弱く、切削屑を効率的に凝集させることが難しい。また、平均分子量が500を超えるものは、焼結体中に残存する炭素量が多くなり、磁気特性を低下させるので好ましくない。平均分子量が140〜450の範囲内にあるものがさらに好ましい。
飽和炭化水素系溶媒については、沸点で好ましい材料を特定することもでき、沸点が80℃〜250℃の範囲内にあるものが好ましい。沸点が80℃を下回るものは結合力が弱く、切削屑を効率的に凝集させることが難しく、沸点が250℃を超えるものは、焼結体中に残存する炭素量が多くなり磁気特性を低下させるので好ましくない。また、沸点が80℃を下回るものは、揮発性が高いので、作業環境を汚染しやすいという観点からも好ましくない。飽和炭化水素系溶媒としては、平均分子量が140〜450の範囲内にあるものまたは沸点が100℃〜230℃の範囲内にあるものがさらに好ましく、比較的少量でも、切削屑を効果的に凝集させ、排出することができる。特に、イソパラフィンは容易に除去され、焼結体中に残留する炭素量を低くできるので好ましい。以下に示す実施例では、(引火点:49℃、粘度:1.2mm2/sec、分子量:140〜150、沸点:166℃(初留温度)のイソパラフィンを用いた。
さらに、切断後の成形体どうしの溶着をより効率的に防止するために、切削液に溶着防止粉を分散した分散液を用いても良い。ここでは、溶着防止粉としてY2O3粉末(イットリア粉末)を用いる。もちろん、溶着防止粉は、Y2O3粉末に限定されず、Al2O3やCなどの粉末やフレークを用いても良い。切削液中に分散させる溶着防止粉の量は、適宜設定されるが、例えば、10g/L以上500g/L以下の範囲に設定される。
切削液中に溶着防止粉を分散させ、この分散液をワイヤソー4に供給するためには、図12の容器5a内に溶着防止粉が滞留しないように、分散液を撹拌することが好ましい。ワイヤソー4の表面に切削液とともに付着した溶着防止粉は、切断過程で形成される切断面に付着し、その後の焼結工程に成形体どうしが溶着することをより効果的に防止することができる。
図12に示したワイヤソー装置40を用いた実施例について、切削液を用いることによって排出性が向上する効果を説明する。切削液としてイソパラフィンのみを用いた例と、イソパラフィンにイットリアを分散させた例(イットリア濃度:200g/L)と、切削液を用いない通常切断の例とを比較検討した。
成形体1として、図12に示したような上面と下面とが互いに曲率の異なるアーチ状の成形体を用いた。成形体1の形成に用いた磁石粉末は、例えば、実施形態1の実施例と同じである。成形密度は4.2g/cm3である。
上述の成形体1を駆動装置2の支持台に載置した状態で鉛直方向を含む面内に切断面を形成するように切断(縦切り)した。ワイヤソー4として、電着砥粒ワイヤソー(外径0.257mm、砥粒径40〜60μm)を用いて、ワイヤ送り速度230m/秒、切り込み速度150mm/minの条件で切断した。
その後、切断された成形体どうしを分離する工程を特に行うことなく、切断後の状態のままで焼結工程を行った。得られた焼結体(切断された成形体)どうしの溶着の発生率および割れの発生率を評価した結果を表3に示す。サンプル数は、それぞれ約150個である。
なお、焼結工程は、例えば約1000℃〜約1100℃の温度で、不活性ガス(希ガスや窒素ガス)雰囲気下、または真空中で、約1〜5時間実行される。必要に応じて、得られた焼結体を、例えば約450℃〜約800℃の温度で、約1〜8時間時効処理を行っても良い。なお、焼結体に含まれる炭素の量を減らし、磁気特性を向上するために、上記焼結工程の前に、必要に応じて、合金粉末に添加した潤滑剤や切断工程で用いた切削液を加熱除去してもよい。加熱除去工程は、潤滑剤や切削液の種類にもよるが、例えば、約 100℃から600℃の温度で、減圧雰囲気下で、約3時間〜約6時間実行される。ここでは、500℃で2時間とした。
表3の結果からわかるように、ワイヤソー4に切削液を付与した状態で切断することによって、切削液を用いない通常切断に比べて、溶着率が大きく低減している。このように、切削液を付与することによって、製造歩留まりを向上出来ることがわかる。なお、割れの発生率には大きな差が認められないのは、切削液を付与することによって成形体の強度が低下しないためと考えられる。
また、表3に示したように、切削液を用いることによって、通常切断に比べ切断負荷が上昇している。これは、切削液が付与されたワイヤソー4を用いることによって、切削屑がワイヤソー4の表面に凝集して付着し、ワイヤソー4に引きずられて切断部から排出されるためであると考えられる。
なお、切削液を用いることによって切断負荷が上昇したとは言え、その切断負荷の大きさは約30gf程度であり、非常に小さい負荷である。従って、図12に示したような異形状の成形体で、支持台と接触する部分の面積が小さく、切削負荷によって、変形や欠けなどが発生しやすい成形体であっても、高い歩留まりで切断することができる。このように、最終的な焼結磁石の形状に近い成形体を高い歩留まりで切断できるので、外形を整えるための後工程を省略あるいは後工程の時間を短くすることができる。
また、切断時の成形体に掛かる負荷(摩擦抵抗)を低減するために、図13に示すワイヤソー装置50を用いても良い。
ワイヤソー装置50では、略鉛直方向に走行しているワイヤソー4に対して、成形体1を略水平方向(図13中に白抜き矢印で示す。)に相対移動させることによって、鉛直方向を含む面内に切断面を形成するように切断することができる。従って、走行するワイヤソー4と成形体4とが接触する面積(切断部の長さ)が、図12のワイヤソー装置40を用いる場合よりも短いので、成形体1に対する負荷より低減することができ、よりスムーズな切断面が得られる。
ワイヤソーの走行方向4や成形体1の相対移動方向は、図12および図13に示した例に限られず、成形体1の形状などに応じて、適宜設定すればよい。なお、上述したように、切断部の長さが短くなる方向で切断することによって、スムーズな切断面が得られるので好ましい。
また、ワイヤソー装置50は、ケース9内にワイヤソーの駆動部と湿式集塵機7とを有している。このように、切断加工を行う位置の下部にワイヤソーの駆動部を配置することによって、切断加工およびそれに伴う工程(例えば成形体1の搬送など)を行う空間を十分に確保できる。また、図13に示したような湿式集塵機を用いて切削屑を回収液8に集めることによって、作業環境の汚染を防止することが出来る。ケース9内は、窒素ガスで置換することが好ましい。
本実施形態3においては、浸漬法によって、切削液をワイヤソー4に付与する方法を例示したが、滴下法や噴霧法を用いてもよく、これらを組み合わせてもよい。さらに、切削液中に成形体を保持し、切削液中で切断加工を行っても良い。但し、切削液の処理などの問題があるので、少量の切削液で十分な効果が得られるように、浸漬法、滴下法や噴霧法を用いることが好ましい。また、浸漬法、滴下法や噴霧法によって切削液をワイヤソーに付与する構成は比較的簡単に構造または装置で実現できるので、例えば、実施形態2のワイヤソー装置20(図10)に適用することも出来る。
上記実施形態において好適に用いられるR−Fe−B系希土類磁石粉末は、例えば、以下のような工程を経て作製される。
まず、公知のストリップキャスト法を用いてR−Fe−B系希土類磁石合金の鋳片を作製する。具体的には、まず所望の組成の合金を高周波溶解によって溶融し、合金溶湯を形成する。この合金溶湯を1350℃に保持した後、単ロール法によって、合金溶湯を急冷し、厚さ約0.3mmのフレーク状合金鋳塊を得ることができる。このときの急冷条件は、例えば、ロール周速度約1m/秒、冷却速度500℃/秒、過冷度200℃とする。
このようにして形成された急冷合金の厚さは0.03mm以上10mm以下の範囲にある。この合金は、短軸方向サイズが0.1μm以上100μm以下で長軸方向サイズが5μm以上500μm以下のR2T14B結晶粒と、R2T14B結晶粒の粒界に分散して存在するRリッチ相とを含有し、Rリッチ相の厚さは10μm以下である。ストリップキャスト法による原料合金の製造方法は、例えば、米国特許第5,383,978に開示されている。
次に、粗粉砕された原料合金を複数の原料パックに充填し、ラックに搭載する。この後、前述の原料搬送装置を用いて、原料パックが搭載されたラックを水素炉の前まで搬送し、水素炉の内部へ挿入する。そして、水素炉内で水素粉砕処理を開始する。原料合金は水素炉内で加熱され、水素粉砕処理を受ける。粉砕後、原料合金の温度が常温程度に低下してから原料の取り出しを行うことが好ましい。しかし、高温状態(例えば40〜80℃)のまま原料を取り出しても、原料が大気と接触しないようにすれば、特に深刻な酸化は生じない。水素粉砕によって、希土類合金は0.1〜1.0mm程度の大きさに粗粉砕される。なお、合金は、水素粉砕処理の前において、平均粒径1〜10mmのフレーク状に粗粉砕されていることが好ましい。
水素粉砕後、ロータリクーラ等の冷却装置によって、脆化した原料合金をより細かく解砕するとともに冷却することが好ましい。比較的高い温度状態のまま原料を取り出す場合は、ロータリクーラ等による冷却処理の時間を相対的に長くすれば良い。
ロータリクーラ等によって室温程度にまで冷却された原料粉末に対して、ジェットミルなどの粉砕装置を用いて更なる粉砕処理を行い、原料の微粉末を製造する。上記の実施形態では、ジェットミルを用いて窒素ガス雰囲気中で微粉砕し、平均粒径(FSSS粒径)が3.0〜3.2μmの磁石粉末を得た。この窒素ガス雰囲気中の酸素量は10000ppm程度に低く抑えることが好ましい。このようなジェットミルは、特公平6−6728号公報に記載されている。微粉砕時における雰囲気ガス中に含まれる酸化性ガス(酸素や水蒸気)の濃度を制御し、それによって、微粉砕後における磁石粉末の酸素含有量(重量)を6000ppm以下に調整することが好ましく、3000ppm以下に調整することがさらに好ましい。磁石粉末中の酸素量が6000ppmを超えて多くなりすぎると、磁石中に非磁性酸化物の占める割合が増加し、最終的な焼結磁石の磁気特性が劣化してしまうからである。
次に、この磁石粉末に対し、ロッキングミキサー内で潤滑剤を例えば0.3質量%添加・混合し、潤滑剤で磁石粉末粒子の表面を被覆する。潤滑剤としては、脂肪酸エステルを石油系溶剤で希釈したものを用いることができる。上述の実施形態では、脂肪酸エステルとしてカプロン酸メチルを用い、石油系溶剤としてはイソパラフィンを用いる。カプロン酸メチルとイソパラフィンの重量比は、例えば1:9とする。このような液体潤滑剤は、磁石粉末粒子の表面を被覆し、粒子の酸化防止効果を発揮するとともに、プレスに際して成形体の密度を均一化し、配向の乱れを抑制する機能を発揮する。
なお、潤滑剤の種類は上記のものに限定されるわけではない。脂肪酸エステルとしては、カプロン酸メチル以外に、例えば、カプリル酸メチル、ラウリル酸メチル、ラウリン酸メチルなどを用いても良い。溶剤としては、イソパラフィンに代表される石油系溶剤やナフテン系溶剤等を用いることができる。潤滑剤添加のタイミングは任意であり、微粉砕前、微粉砕中、微粉砕後の何れであっても良い。液体潤滑剤に代えて、あるいは液体潤滑剤とともに、ステアリン酸亜鉛などの固体(乾式)潤滑剤を用いても良い。
上記磁石粉末は、0.5MA/m以上1.5MA/mの配向磁界を圧縮方向に垂直または平行に印加された状態で、公知のプレス装置により成形される。
以上、酸化しやすく、加工しにくいR−Fe−B系焼結磁石について本発明を説明してきたが、本発明を他の材料からなる希土類焼結磁石や他の焼結磁石に適用することも可能である。
また、成形体を切断する例を説明したが、ワイヤソーに対して成形体をNC制御によって2次元または3次元的に相対移動させながら切削加工することによって、成形体の外形加工に利用することもできる。これによって、弓形形状やかまぼこ形状等、任意の形状に成形体を切り出すことができる。