JP4927606B2 - 半導体発光素子 - Google Patents

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Description

本発明は、半導体発光素子に関し、より詳しくは、活性層に窒化物系化合物半導体を使用して青色か青色よりも長波長の光を効率よく出力できる半導体発光素子に関する。
発光波長が405nm近傍の青紫色で発光する半導体レーザが実用化されている。この素子は、InGaN(インジウムガリウム窒素)を活性層に用いている。InGaNとは、InN(インジウムナイトライド)とGaN(ガリウムナイトライド)の混晶半導体である。以下、InNのモル組成をxとするInGaNをInGa1−xNと記載する。
青紫色半導体レーザのInGaN活性層の代表的な構成は、InN組成が0〜0.4近傍のInGaNを複数組成の層として数nmの厚さ積み重ねて構成した単一量子井戸(SQW)ないしは、多重量子井戸(MQW)である。AlN(アルミナイトライド)とGaNの混晶のAlGaN(アルミニウムガリウム窒素)を加えた構成もある。
例えば、特許文献1に記載の青色レーザの実施例では、n型GaNの光ガイド層上にIn0.2Ga0.8Nの2.5nm(25オングストローム)の井戸層とIn0.01Ga0.99Nの5nmの障壁層を2回繰り返し積層して、最後に井戸層を再び成長した後、キャップ層と呼ばれるp型Al0.1Ga0.9N層を30nm積層して、3つの量子井戸層をもつMQWを構成している。
また、特許文献1には、上記の活性層に加え、クラッド層や電極や端面ミラーを形成して作製された半導体レーザ素子は、405nmの青紫色で連続発振することが記載されている。
ところで、GaNのバンドギャップエネルギは、3.5eV程度であり、大凡、0.35μmの紫外域の発光に対応する。一方、InNのバンドギャップエネルギは、0.7eV程度と小さいことが最近確かめられ、このバンドギャップは、1.8μm程度の赤外域の発光に対応する。InGa1−xNのxを0〜1の間で自由に設定できれば、可視域の全体を含む紫外域から赤外域の発光波長に対応する活性層を構成することができることが期待されている。
とりわけ、0.5μm程度の波長の緑色の領域は、直接この波長を発振する実用的半導体レーザ素子がなく、従来は、第2高調波などの波長変換を利用する他なかった。波長変換を利用する素子では、効率の低さとコストの高さのため応用範囲が限られてしまうが、緑色波長で直接発振する半導体レーザ素子が実現すれば、既に実現しているInGaN系の青色半導体レーザ素子、AlGaInP系(アルミニウムガリウムインジウムリン)の赤色半導体レーザ素子と組み合わせることで、高効率で低コストの発光モジュールを実現することが可能となり、表示分野等への応用が進むことが考えられる。
しかしながら、特許文献1に記載されているような、InGaNを活性層とする半導体レーザ素子においては、活性層のInN組成を増加して長波長化しようとすると、発振波長は次第に青紫色域から長波長化していくが、青色の0.45μm程度よりも長い領域になると、急速に素子の性能が劣化し、0.5μm程度よりも長い領域の発振波長を有する実用的な素子は実現されていない。例えば、非特許文献1に示されるように、発振波長を長波長にするために活性層のInN組成xを大きくすると急激にしきい値電流が増加してしまう。
このInN組成の増加とともに素子性能が低下する現象には、様々な原因が関与していると考えられているが、その一つにInGaNの相分離の問題がある。もともとGaNとInNは、格子定数が11%あまりも異なるため、InGaN混晶を作製しようとしても、InNとGaNに分離してしまいやすく、均一な混晶を得ることが難しい。相分離の抑制はInN組成50%に近づくほど難しくなるため、従来例の結晶成長においては、長波長化を目的として活性層のInN組成を増加すると、結晶品質が劣化して半導体レーザの活性層として機能しなくなっていると考えられる。
最近、プラズマ窒素源を利用した分子線エピタキシャル結晶法(RF−MBE法)により、GaN層上に1分子層程度と非常に薄いInN層を成長する試みが報告されている。本明細書中で、「分子層」とは、III族原子とV族原子を組として2次元的に並んだ最小の厚さの層単位を指し、モノレイヤ(ML:mono-layer)と同義に使用する。同じ単結晶についても面方位ごとに厚さの絶対値は異なる場合があることに注意されたい。非特許文献2では、1分子層程度のInN層と10〜20nmのGaN層の組み合わせを10〜40周期成長した積層体を作製しており、最も長い波長で446nm付近の発光を観測している。
この例を発光素子の活性層に応用すれば、井戸層にInGaN混晶を利用しないため、相分離による結晶品質の劣化の影響を避けることができる可能性がある、と発明者は考えた。しかしながら、非特許文献2に記載された構造の発光波長は、446nm付近であり、InGaN混晶を活性層とする発光素子においても実現可能な発光波長域である。従って、発光波長の長波長化も併せて実現する必要がある。
非特許文献2において井戸層として使用されたInNのバンドギャップエネルギは0.7eV程度であるので、発光波長が446nm程度まで短波長化しているのは、井戸幅(井戸層の厚さ)が非常に薄いため強い量子効果(量子閉じ込め効果)が関与していることと、井戸層のInが上下の障壁層のGaと相互拡散していることなどが関与していると考えられる。
従って、さらなる長波長発光を実現するには、量子効果を低減するにも、相互拡散を補償するにも、井戸層のInN層を厚くすることが適当と考えられる。しかしながら、InN層を厚くすると、格子歪みも大きくなるため、InN層の厚さにゆらぎが発生し、これをきっかけに結晶欠陥が発生しやすい状態になる。このため、長波長化を目的としてInN層を厚くすると、結晶品質が劣化するため、高性能の発光デバイスを形成しうるだけの品質を維持しつつ、450nm以上の長波長化を実現することは、困難と考えられていた。
特開平10−256662号公報 長濱慎一著、応用物理、第73巻、第2号、210−214頁、2004年 分子線エピタキシー国際会議2006(WeG1−4)"RF-MBE growth of novel InN/GaN MQWs with 1 mono-layer InNwells"H.Saito, W.Yamaguchi, S.B.Che, Y.Ishitani, and A.Yoshikawa
以上のように上記非特許文献2に記載された薄いInN層を発光素子の活性層に応用することができれば、InGaN混晶を用いた従来の相分離による結晶品質の劣化を回避できると考えられるが、この構造をベースに450nm以上の長波長化を実現するには、量子効果(量子閉じ込め効果)、或いは、相互拡散による混晶化効果を調整するために、InN層の厚さを厚くする必要があると考えられる。しかし、この方法を採用するとInN層自体の厚さが不均一となり、界面の品質が劣化することをきっかけに活性層の結晶品質が劣化するという問題があった。
他の方法として、薄いInN層の上下を挟むGaN層を薄くして量子効果を調整することが考えられる。この方法では、隣接する量子井戸同士が相互に干渉して、単一の量子井戸とは異なる量子効果を得ることができる。しかしながら、この方法では、下地に対して、多層の量子井戸構造全体の歪みが大きくなり、転位などの欠陥が発生するなどして、やはり活性層の結晶品質が劣化してしまう。
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたもので、その目的は、活性層の結晶品質を劣化させることなく、450nmよりも長波長の緑色域の発光が可能な半導体発光素子を提供することにある。
上記課題を達成するため、本発明の第1の態様に係る半導体発光素子は、活性層と、前記活性層の下地層で、基板上に形成された第1導電型の第1のクラッド層と、前記活性層の上層に形成された第2導電型の第2のクラッド層と、第1の電極および第2の電極と、を備え、前記活性層は第1の厚さのInN層と第2の厚さのGaN層とを交互に積層して形成されており、前記InN層とGaN層はそれぞれ微視的に面内で均一に積層されていることを特徴とする。
この態様によれば、活性層をInN層とGaN層とを交互に積層したInN/GaN積層構造としているので、(1)InN層とGaN層の厚さを変えてInの平均組成比を変えることで、所望の波長帯の光を発光させる(発光させる光の波長帯をコントロールする)ことが可能になる。長波長化を目的として活性層のInの組成比を増加しても、InGaNの混晶半導体で活性層を形成する場合のような相分離による活性層の結晶品質の劣化を避けることができる。
また、(2)InN層とGaN層はそれぞれ微視的に面内で均一に積層されているので、長波長化を目的としてInN層を厚くする場合に、InN層の厚さにゆらぎが発生し(厚さが不均一になり)、界面の品質が劣化することをきっかけに活性層の結晶品質が劣化するのが抑制される。
従って、活性層の結晶品質を劣化させることなく、450nmよりも長波長の緑色域の発光が可能な半導体発光素子を実現することができる。
なお、「InN層とGaN層が微視的に面内で均一に積層されている」構造は、結晶成長温度と結晶成長速度の組み合わせを適切に選定し、さらに、下地層の実効的格子定数および第1の厚さと第2の厚さの組み合わせや交互繰り返し回数を適切な組み合わせに設定することで実現される。
本発明の他の態様に係る半導体発光素子は、前記第1のクラッド層は、前記基板および前記活性層のうち少なくとも一方に格子整合されていることを特徴とする。
この態様によれば、第1のクラッド層を、基板および活性層のうち少なくとも基板に格子整合させることで、InN層とGaN層とを交互に成長させて形成されるInN/GaN積層構造の活性層の結晶品質を良くすることができる。
本発明の他の態様に係る半導体発光素子は、前記InN層の厚さは1〜2分子層であり、前記活性層の前記GaN層の厚さは、少なくとも前記InN層の厚さと同じか、それよりも厚く、1〜10分子層であることを特徴とする。
この態様によれば、(1)450nmよりも長波長の緑色域の発光が可能な半導体レーザダイオードとしての半導体発光素子を実現することができる。(2)450nm以下の青色や青紫色の発光が可能な半導体レーザダイオードとしての半導体発光素子を実現する際に、発光性能を向上させる効果、とりわけ、長期信頼性の改善に効果がある。(3)緑色域の発光が可能な発光ダイオードとしての半導体発光素子の発光効率を向上させることができる。
ここで、分子層について説明する。一般的に使用されているc軸面の場合、GaNのc軸方向の格子定数(c軸格子定数)は0.5186nm程度であり、InNのc軸格子定数は0.576nm程度であることが知られている。1分子層(Mono Layer:ML)の厚さは、c軸格子定数の半分の厚さで定義される。例えば、非特許文献2の例では、GaN層が10〜20nmの厚さに設定されており、この厚さは38〜79ML(分子層)に相当する。また、1分子層のInN層は、凡そ0.288nmの厚さである。
この態様により実現される均一な積層構造(InN/GaN分子層積層構造)は、InN層については、2MLが大凡の限界である。また、繰り返し積層の各井戸層が相互に影響しあって、長波長化に寄与するには、GaN層は10ML以下に設定する必要がある。
本発明の他の態様に係る半導体発光素子は、前記活性層全体の厚さは、30nm以下であることを特徴とする。
活性層全体の内蔵する総歪み量は、活性層のInN層とGaN層の交互繰り返しを増やすことで増加し、次第に微視的に面内で均一な積層構造(InN/GaN分子層積層構造)が得られにくくなる。
この態様によれば、活性層全体の厚さを30nm以下にすることで、微視的に面内で均一なInN/GaNの分子層積層構造を得ることができる。
本発明の他の態様に係る半導体発光素子は、前記活性層を上下で挟む下部活性層と上部活性層をさらに備え、前記下部活性層および前記上部活性層はそれぞれ、1分子層の厚さのInN層と6分子層付近の厚さのGaN層とを交互に積層して形成されていることを特徴とする。
この態様によれば、1分子層の厚さのInN層と6分子層付近の厚さのGaN層とを交互に積層した微視的に面内で均一な積層構造(InN/GaNの分子層積層構造)の下部活性層を備えており、この下部活性層により、基板との格子整合を維持しつつ、分子層としての二次元的な結晶の品質を良くすることができる。この下部活性層は、コアとして機能する中央の活性層内に光を安定に、効率よく閉じ込める光ガイド層としての機能を果たすだけでなく、中央の活性層を成長する際の結晶の品質を良くする機能も果たす。 また、1分子層の厚さのInN層と6分子層付近の厚さのGaN層とを交互に積層した微視的に面内で均一な積層構造(InN/GaNの分子層積層構造)の上部活性層を備えており、この上部活性層は、主に中央の活性層内に光を安定に、効率よく閉じ込める光ガイド層としての機能を果たす。これらの上下および中央の活性層の領域は、発光素子においては、極めて強い光密度のもとで、機能し続けることが要求されており、わずかでも欠陥があると、素子の駆動中に欠陥が増殖して活性層は壊れてしまう場合が多い。従って、中央の活性層を挟む上下の活性層も結晶品質の優れるInN/GaNの分子層積層構造を設けることが望ましい。
このような下部活性層と上部活性層が無くて、活性層が上記第1のクラッド層と上記第2のクラッド層とに直に接していると、活性層と各クラッド層との屈折率差が大きいので、活性層で発生した光が広く広がってしまい、広がった光を非常に狭い活性層で強くしようとしてもカップリングが悪い。活性層の両側に光ガイド層としての機能を果たす下部活性層と上部活性層があると、光が発生する場所とゲインを発生する場所との重なりあいが強くなり、発光効率が良くなる。
本発明の他の態様に係る半導体発光素子は、前記第1のクラッド層の面内格子定数は、InNの面内格子定数の90%より大きいことを特徴とする。
この態様によれば、微視的に面内で均一な積層構造(InN/GaNの分子層積層構造)の活性層を得ることができる。
c軸配向積層の場合、面内格子定数はa軸の格子定数(a軸格子定数)で定義することができる。InNのa軸格子定数は、約0.3548nmであることが知られている。活性層を形成する下地層の実効的な面内格子定数は、従来例ではGaNのa軸格子定数(約0.3189nm)とほぼ一致している。基板にGaNを用いる場合に加え、例えば、基板にSiCやサファイアを用いる場合も低温バッファ層を介するなどして、比較的厚いGaN層を積層してからAlGaN層などの積層を行ってクラッド層を構成するからである。これら従来例では、積層の構成により多少の違いがあるものの、実効的にはGaNの格子定数が反映されており、これは、InNの格子定数に比べて、約90%の格子定数に一致している。微視的に面内で均一な積層構造(InN/GaN分子層積層構造)の活性層を得るためには、第1のクラッド層の面内格子定数を、活性層のInNの面内格子定数の90%よりも大きな格子定数に設定する。
本発明の他の態様に係る半導体発光素子は、前記基板にZnO基板を用いることを特徴とする。
ZnO基板にエピタキシャル成長する層(下地層である第1のクラッド層)を活性層下部に形成することにより、大凡、第1のクラッド層の面内格子定数をZnOのa軸格子定数の約0.3241nmに一致させることができる。この場合は、活性層を形成する下地層の面内格子定数をInNの面内格子定数の約91%に一致する。
この態様によれば、InN/GaN積層構造(InN/GaNの分子層積層構造)の活性層と格子定数の近いZnO基板を使うことで、Inの組成比の高い活性層を作れるので、青色より長波長の可視光(例えば緑色)の発光が可能な半導体レーザダイオードを実現することができる。
本発明の他の態様に係る半導体発光素子は、前記第1のクラッド層および前記第2のクラッド層それぞれが、AlN層、GaN層、InNの積層により、又は、混晶AlGaInNにより、又は、これらの組み合わせにより形成されていることを特徴とする。
第1のクラッド層および第2のクラッド層はそれぞれ、典型的には、3元混晶Al0.3In0.7NやIn0.14Ga0.86Nなどがあり、これらの組み合わせのAl0.1Ga0.74In0.16Nなどが適当である。
本発明の他の態様に係る半導体発光素子は、前記第1のクラッド層の上部が、InN層とAlGaN層を交互に積層した構造、或いは、InN層、AlN層およびGaN層を積層した構造により形成されていることを特徴とする。
この態様によれば、第1のクラッド層の上部を、InN層とAlGaN層を交互に積層した構造、或いは、InN層、AlN層およびGaN層を積層した構造(微視的に面内で均一な積層構造)にすることで、第1のクラッド層の上部により、基板との格子整合を維持しつつ、レイヤとしての二次元的な結晶の品質を良くすることができる。この第1のクラッド層の上部は、上記下部活性層と同様に、活性層内に光を安定に、効率よく閉じ込める光ガイド層としての機能を果たすだけでなく、活性層を成長する際の結晶の品質を良くする機能も果たす。
このように第1のクラッド層の上部を複数の層を積層した構成とすることで、各層は格子不整合であっても、トータルで格子整合させることができる。第1のクラッド層も、InNという極めて混ざりにくい材料が入っているので、InN層をはじめからAlGaN層、或いはAlN層およびGaN層に対して積層方向に分けておくことで、活性層と同様に平坦性が失われない。
第1のクラッド層は、活性層ほど品質は重要ではないので、混晶の材料でも良いが、活性層の下地層であるため、このクラッド層で発生した結晶欠陥は上部に伝搬することが多い。このため、活性層の近傍は、良好な品質の積層状態(平坦性のある状態)にするのが好ましい。そのため、第1のクラッド層の上部をInNの分子層(モノレイヤ)にして表面の状態を良くして(平坦にして)から活性層を形成するのが好ましい。これにより、平坦性の優れた第1のクラッド層を形成できる。このクラッド層の全てをAlGaInNの混晶で形成するよりは、表面の平坦性がよくなる。その結果、平坦性のくずれから発生する結晶欠陥の発生を抑制でき、活性層の性能をさらに良くすることができる。
なお、第1のクラッド層の上部(上層部)を、例えば、数ML(分子層)のInN層と数MLのAlGaN層を交互に積層した構造、或いは、数ML(分子層)のInN層、数MLのAlN層および数MLのGaN層を積層した構造(分子層積層構造)にすることが好適である。特に、第1のクラッド層の上部の数10nmの領域を、そのような(分子層積層構造)とすることが好適である。また、第1のクラッド層の下部(下層部)は、比較的特性に影響が小さいため、分子層積層構造にせずに平均組成の混晶積層としても特性に与える影響は小さい。
本発明の他の態様に係る半導体発光素子は、前記第2のクラッド層の下部が、InN層とAlGaN層を交互に積層した構造、或いは、InN層、AlN層、およびGaN層を積層した構造により形成されていることを特徴とする。
この態様によれば、InN層とAlGaN層を交互に積層し、或いは、InN層、AlN層、およびGaN層を積層した微視的に面内で均一な積層構造(分子層積層構造)の第2のクラッド層の下部は、主に活性層内に光を安定に、効率よく閉じ込める光ガイド層としての機能を果たす。活性層の結晶に欠陥があると、活性層は壊れてしまう。転位などの欠陥は下から上に伝わるので、活性層の上側にもその下側と同様の分子層積層構造を有する第2のクラッド層の下部を設けることで、その分子層積層構造を設けない場合よりも、転位などの欠陥が発生しにくくなる。また、発光効率も良くなる。
本発明の他の態様に係る半導体発光素子は、前記第1のクラッド層の上部、又は、前記第2のクラッド層の下部、又は、前記第1のクラッド層の上部および前記第2のクラッド層の下部を、Alの組成が前記活性層に近づくにつれて次第に減少するグレーデッド型積層構造としたことを特徴とする。
この態様によれば、(1)キャリアの注入効率が向上すると共に、(2)光閉じ込めにも寄与し、レーザ発振が得やすくなる(発振の効率、内部量子効率が良くなる)。
つまり、(1)ヘテロ接合は、場合によってはポテンシャルのバリアを生じることがあり、そのバリアによりキャリアが通りにくくなる。活性層近傍の下部、又は上部、又はその両方を、Alの組成が活性層に近づくにつれて次第に減少する(活性層に近づくに従い、Alの比率を小さくした)グレーデッド型積層構造にすることで、電子に対するバリアと、正孔に対するバリアが低くなり或いは無くなることで、電子や正孔(キャリア)が通りやすくなって活性層に注入されやすくなり、キャリアの注入効率が向上する。
(2)内部量子効率を良くするという意味では、電子と正孔が再結合しゲインが発生する場と光のフィールドの場との重なり合いが大きくなるほど、発振の効率が良くなり、しきい値電流が下がり、損失も減る。
上下のクラッド層の活性層に近い領域では、Inリッチで、活性層から遠くなるほどAlリッチになるので、光が活性層内部により閉じ込められるようになる。活性層は非常に薄いので、各クラッド層の活性層に近い領域でAlの組成が次第に変化していることが、光閉じ込め効果に大きく影響する。
本発明の他の態様に係る半導体発光素子は、前記基板と前記第1のクラッド層との間に、厚さが第1分子層のInN層と厚さが第2分子層のGaN層とを交互に積層したInN/GaN分子層積層構造のバッファ層を備えることを特徴とする。
この態様によれば、基板と第1のクラッド層との間に、厚さが第1分子層のInN層と厚さが第2分子層のGaN層とを交互に積層したInN/GaN分子層積層構造のバッファ層を備えているので、InN層とGaN層の各層は格子不整合であっても、トータルで格子整合させることができる。このバッファ層においても、InNという極めて混ざりにくい材料が入っているので、InN層をはじめからGaN層に対して積層方向に分けておくことで、活性層と同様に平坦性が失われない。
バッファ層は、活性層ほど品質は重要ではないので、混晶の材料でも良いが、このバッファ層で発生した結晶欠陥は上部に伝搬する。だから、バッファ層も、良好な品質の積層状態(平坦性のある状態)にするのが好ましい。これにより、平坦性の優れたバッファ層を形成できる。このバッファ層をInGaNの混晶で形成するよりは、InN層とGaN層を交互に積層したInN/GaN分子層積層構造の方が表面の平坦性がよくなる。その結果、平坦性のくずれから発生する結晶欠陥の発生を抑制でき、活性層の性能をさらに良くすることができる。
本発明の他の態様に係る半導体発光素子は、前記第1の厚さのInN層と前記第2の厚さのGaN層と交互に積層した前記活性層において、前記InN層と前記GaN層の各層はInNとGaNが成長面の法線方向に相互拡散により混合した構造を有していると共に、前記InN層と前記GaN層の各層は面内においては均一であることを特徴とする。
この態様によれば、活性層を、第1の厚さのInN層と第2の厚さのGaN層とに分けて交互に成長させて形成すると、成長後、InNとGaNが完全に分離されているわけではなく、お互いに少し混ざった組成になっている。つまり、InN層とGaN層の各層はInNとGaNが成長面の法線方向に相互拡散により混合した構造になる。しかし、InN層の中にGaNが混ざって徐々に混晶になっていくが、InN層とGaN層の各層(各分子層)が平坦になっているので、各層においてInNとGaNが上下に(成長面の法線方向に)均等に混ざる。これにより、InNが面内で集まる凝集は極めて少なくて、平坦な断面組成を持つ構造の活性層が得られるので、長波長化を目的としてInN層を厚くする場合に、InN層の厚さにゆらぎが発生し(厚さが不均一になり)、界面の品質が劣化することをきっかけに活性層の結晶品質が劣化するのが抑制され、十分に性能の良い活性層が得られる。
その結果、次のような効果が得られる。(1)450nmよりも長波長の緑色域の発光が可能な半導体レーザダイオードとしての半導体発光素子を実現することができる。(2)450nm以下の青色や青紫色の発光が可能な半導体レーザダイオードとしての半導体発光素子を実現する際に、発光性能を向上させる効果、とりわけ、長期信頼性の改善に効果がある。(3)緑色域の発光が可能な発光ダイオードとしての半導体発光素子の発光効率を向上させることができる。
本発明の他の態様に係る半導体発光素子は、前記活性層の前記InN層と前記GaN層の各層において、InNとGaNが成長面の法線方向に相互拡散により混合した構造は、結晶成長後の熱拡散プロファイルを示すことを特徴とする。
この態様によれば、活性層のInN層とGaN層の各層を成長後に熱処理をすると、InN層とGaN層の各層において、InNとGaNのゆらぎがなくなり、お互いに均等に混ざった組成になる。活性層のInN層とGaN層の各層を成長後に熱処理をすることで、InN層とGaN層の各層の相互拡散が進行して、分子層程度の厚さで積層された構造は、相互拡散により均一な混晶に近い構造に変化する。この熱処理により、素子の抵抗や動作電圧が低下するという効果が得られる。
本発明の他の態様に係る半導体発光素子は、共振器端面を有する半導体レーザダイオードとして構成されたことを特徴とする。
この態様によれば、活性層の結晶品質を劣化させることなく、450nmよりも長波長の緑色域の発光が可能な半導体レーザダイオードを実現することができる。また、450nm以下の青色や青紫色の発光が可能な半導体レーザダイオードを実現する際に、発光性能を向上させる効果、とりわけ、長期信頼性の改善に効果がある。
本発明の他の態様に係る半導体発光素子は、前記半導体レーザダイオードは、500nmよりも長波長の光で発振することを特徴とする。
この態様によれば、活性層の結晶品質を劣化させることなく、500nmよりも長波長の緑色域の発光が可能な半導体レーザダイオードを実現することができる。
特徴とする。
本発明によれば、活性層の結晶品質を劣化させることなく、450nmよりも長波長の緑色域の発光が可能な半導体発光素子を実現することができる。450nm以下の青色や青紫色の発光が可能な半導体レーザダイオードとしての半導体発光素子を実現する際に、発光性能を向上させる効果、とりわけ、長期信頼性の改善に効果がある。緑色域の発光が可能な発光ダイオードとしての半導体発光素子の発光効率を向上させることができる。
以下、本発明を半導体レーザダイオードに具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態の説明において同様の部位には同一の符号を付して重複した説明を省略する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る半導体レーザダイオード10を、図1〜図6に基づいて説明する。図1は半導体レーザダイオード10の素子構成を示す断面図、図2は半導体レーザダイオード10の概略構成を示す斜視図である。図3は活性層の構造を示す説明図、図4は活性層の詳細な構造を示す断面図である。図5は活性層の断面構造と活性層のバンドギャップエネルギを示す説明図。図6は1分子層(ML)のInN層と組み合わせるGaN層の厚さを変えた場合のバンドギャップエネルギの変化を示すグラフである。
半導体レーザダイオード10は、図1に示すように、基板1と、バッファ層2と、第1導電型の第1のクラッド層3と、活性層4と、第2導電型の第2のクラッド層5と、コンタクト層6と、第1導電型のキャリアを注入するための第1の電極7と、第2導電型のキャリアを注入するための第2の電極8とを備えている。半導体レーザダイオード10はさらに、図2に示すように、共振器端面である光出射側端面11と光反射側端面12とを備えている。
半導体レーザダイオード10の特徴は、以下の構成にある。
(1)活性層4は第1の厚さのInN層4aと第2の厚さのGaN層4bとを交互に積層して形成されている。
(2)活性層4のInN層4aとGaN層4bはそれぞれ微視的に面内で均一に積層されている(図4参照)。
(3)活性層4の下地層である第1のクラッド層3は、基板1、バッファ層2および活性層4のうち少なくとも一方に格子整合されている。つまり、活性層4の下地層として、格子定数が調整された第1のクラッド層(下地層)3が用いられている。
次に、半導体レーザダイオード10の構成をさらに詳しく説明する。
基板1として、酸化亜鉛(ZnO)単結晶基板が用いられている。このZnO単結晶基板1上に、ZnO単結晶基板1と格子整合するバッファ層2が形成されている。バッファ層2は、酸化物系化合物半導体層(酸化物)で構成されている。 バッファ層2上に、第1導電型(n型)の第1のクラッド層3が形成されている。第1のクラッド層3は、AlInGaN混晶を成長して形成される。Al、Ga、Inの組成は、ZnO単結晶基板1、下地であるバッファ層2、および活性層4の少なくとも一つに格子整合する割合となるように設定する。例えば、Al0.1Ga0.74In0.16Nなどが格子整合組成である。なお、第1のクラッド層3にSiを1×1018cm−3ドーピングしてn型とする。第1のクラッド層3は、活性層4の格子定数に等しい格子定数或いはそれよりも小さい格子定数を有するように格子整合されるので、コアとして機能する活性層4よりも屈折率が小さく、活性層4内に光を安定に閉じ込めておく光ガイド層の役割を果たしている。
活性層4は、1〜2MLの厚さのInN層4aと、少なくともInN層4aの厚さと同じか、それよりも厚く、1〜10MLの厚さのGaN層4bとを交互に積層して形成される(図5参照)。本実施形態では、一例として、InN層4aを1MLの厚さとし、GaN層4bの厚さを1.4MLとし、これら2つの層4a,4bの積層数(InN層4aの繰り返し数)は「6」である。
活性層4は、第1のクラッド層3および第2のクラッド層5に挟まれたダブルヘテロ接合構造をとっており、外部電極(第1の電極7および第2の電極8)に順方向に電圧が印加されると、活性層4には、第1のクラッド層3から電子が、第2のクラッド層5から正孔がそれぞれ注入される。この結果、活性層4は、反転分布の状態となり、誘導放射が起こることになる。さらに活性層4の両端面は、図2に示すように、光出射側端面11と光反射側端面12とを有する共振器構造となっており、誘導放射を繰り返すうちに光が増幅され、レーザ光として外部に放射される。そして、反射ループが平衡状態に至り、レーザ光が連続発振状態に至ることとなる。
活性層4上には、第2導電型(p型)の第2のクラッド層5が形成されている。第2のクラッド層5は、AlInGaN混晶を成長して形成される。Al、Ga、Inの組成は、第1のクラッド層3と同様に、ZnO単結晶基板1、バッファ層2、および活性層4のうち少なくとも一方に格子整合する割合となるように設定する。例えば、Al0.1Ga0.74In0.16Nなどが格子整合組成である。なお、第2のクラッド層5には、Mgを1〜10×1018cm−3ドーピングしてp型とする。第2のクラッド層5は、活性層4の格子定数に等しいに格子定数或いはそれよりも小さい格子定数を有するように格子整合されるので、第1のクラッド層3と同様に、コアとして機能する活性層4よりも屈折率が小さく、活性層4内に光を安定に閉じ込めておく光ガイド層としての役割を果たしている。
第2のクラッド層5上に、p型のInGaNよりなるコンタクト層8が形成される。このコンタクト層8上に、第2導電型(p型)のキャリア(正孔)を注入するための第2の電極8が形成されている。そして、ZnO単結晶基板1の裏面側には、第1導電型(n型)のキャリア(電子)を注入するための第1の電極7が形成されている。これは、ZnO単結晶基板1が導電性であるためである。このため、半導体レーザダイオード10は、縦型デバイスを構成することが可能となっている。
また、活性層4を微視的に面内で均一な積層構造(InN/GaN分子層積層構造)にするために、活性層全体の厚さを30nm以下に設定している。
また、活性層4を微視的に面内で均一なInN/GaN分子層積層構造にするために、第1のクラッド層3の面内格子定数を、InNの面内格子定数の90%よりも大きな格子定数に設定する。c軸配向積層の場合、面内格子定数はa軸の格子定数(a軸格子定数)で定義することができる。InNのa軸格子定数(面内格子定数)は、約0.3548nmであることが知られている。
上記構成を有する半導体レーザダイオード10は、以下の工程により製造される。
(工程1)まず、図1に示すように、(0001)面であるc面を主面とするウルツ鉱型結晶のZnO単結晶基板1を用意し、化学的エッチング処理や熱処理を行うなどして、基板表面の加工損傷を取り除き調整する。ZnO単結晶基板1は、現在、高抵抗基板とn型導電性基板が利用できる。本実施形態では、ZnO単結晶基板1としてn型導電性基板を使用した。また、ZnO単結晶基板1の代わりにZnOエピタキシャル層を使用してもよい。
ZnO単結晶基板1の裏面には、Mo(モリブデン)などの高融点金属をスパッタ蒸着し、以下の成長装置において、輻射加熱により基板温度の制御性を高め、また、基板裏面からの温度の輻射加熱を実施できるように準備しておく。
ZnO単結晶基板1或いは前記ZnOエピタキシャル層上にZnO系のバッファ層をあらかじめ結晶成長してもよい。なお、ZnO系の結晶成長する場合は、所望の導電性を得るためのドーピングを行う。本実施形態では、下記の窒化物成長装置と超高真空搬送装置で接続された酸化物成長装置に導入して、InドープZnO系のバッファ層を2μm成長した。
(工程2)次に、窒化物成長装置にZnO単結晶基板1を導入する。窒化物成長装置は、プラズマ窒素ソース、および、In,Ga,Al、Si、Znなどの分子線ソースを具える超高真空装置である。
(工程3)次に、超高真空雰囲気で、ZnO単結晶基板1の温度を750℃程度として、基板表面のクリーニングを行う。
ZnO単結晶基板1上に酸化膜半導体層をあらかじめ成長し、超高真空搬送装置を介して導入したため、試料表面は清浄であるが、大気中を介して導入する場合は、さらに温度を上げるなど十分なクリーニングを行うことが望ましい。
(工程4)クリーニング後に、ZnO単結晶基板1上に、ZnO単結晶基板1と格子整合するバッファ層2を酸化物系化合物半導体層(酸化物)で形成する。
(工程5)次に、バッファ層2上に、AlGaInN混晶による第1のクラッド層3を成長する。
Al、Ga、Inの組成は、ZnO単結晶基板1、下地であるバッファ層2、および活性層4の少なくとも一つに格子整合する割合となるように設定する。例えば、Al0.1Ga0.74In0.16Nなどが格子整合組成である。なお、この層にもSiを1×1018cm−3ドーピングしてn型とする。この層の積層時に基板温度を650℃程度に設定してもよい。
(工程6)次に、第1のクラッド層3上に、InN層4aとGaN層4bとを交互に積層して、微視的に面内で均一なInN/GaN分子層積層構造の活性層4を形成する。基板温度は600℃程度とし、1MLの厚さのInN層4aと1.4MLの厚さのGaN層4bとの積層を6回繰り返す。
(工程7)次に、活性層4上に、AlInGaN層を成長させて第2のクラッド層5を形成する。
Al、Ga、Inの組成は、第1のクラッド3と同様に格子整合する割合となるように設定する。例えば、Al0.1Ga0.74In0.16Nなどが格子整合組成である。なお、この第2のクラッド層5には、Mgを1〜10×1018cm−3ドーピングしてp型とする。この第2のクラッド層5は、積層の途中に基板温度を650℃程度にしてもよい。
なお、本実施例では、プラズマ窒素ガンを用いたRF−MBE法により成長をおこなった。プラズマ窒素ガンは、プラズマ電力Pは300〜500Wに設定される。また、III族原料としては、高純度のIn、Ga及びAl金属原料をクヌーセンセルで蒸発させて基板に供給する。V族原料として、N2ガスを1〜5sccmの流量でRFラジカルセルに導入して窒素ラジカルを生成してバッファ層2上に成長する。また、n型ドーパントとしてSiを用いた。
なお、上記活性層4と、AlGaInNよりなる第1のクラッド層3と、AlGaInNよりなる第2のクラッド層5の成長温度Tgは、750℃未満、例えば400〜600℃に設定され、プラズマ電力Pは300〜500Wに設定される。III族原料としては、高純度のIn、Ga及びAl金属原料をクヌーセンセルで蒸発させて供給する。V族原料として、N2ガスを1〜5sccmの流量でRFラジカルセルに導入して窒素ラジカルを生成して成長する。
(工程8)次に、第2のクラッド層5上に、p型InGaNよりなるコンタクト層8を形成する。
また、コンタクト層8を構成するInGaNの成長温度Tgは、750℃未満、例えば400〜500℃に設定され、プラズマ電力Pは400〜500Wに設定される。III族原料としては、高純度のIn及びGa金属原料をクヌーセンセルで蒸発させて基板に供給する。V族原料として、N2ガスを1〜5sccmの流量でRFラジカルセルに導入して窒素ラジカルを生成して供給する。
なお、上記第2のクラッド層5、コンタクト層6に含有されるp型ドーパントとしてMgの他にBeや、MgとSiのコドープなどを用いても良い。
以上のように、第1のクラッド層3からコンタクト層6までの各層において、ZnO単結晶基板1に格子整合し、活性層4の井戸領域に適当な圧縮歪みを有するエピタキシャル積層構造が得られる。また、活性層4の領域では、InGaN混晶に代えて、1〜2ML程度のInN層4aとそれと同等かやや厚いGaN層4bの積層体で構成しており、積層面内において原子レベルで平坦な極めて均一性のよい(微視的に面内で均一な)InN/GaN分子層積層構造が得られる。
上記クラッド層3,5の成長温度は、比較的高温を採用することができる。この際、アンモニアを原料とするCat−MBEなどの手法を利用することができる。さらに活性層4を成長する前、あるいは、成長後(所定形状のキャップ構造を用意して)MOCVDを利用して、層構造の一部を成長することもできる。
(工程9)次に、結晶成長装置からエピウエハを取り出し、ZnO単結晶基板1の裏面に第1の電極7を、コンタクト層6上に第2の電極8をそれぞれ形成する。本実施形態では、コンタクト層6上にp型導電性の第2の電極8を形成し、n型導電性のZnO単結晶基板1の裏面にn型導電性の第1の電極7を形成する。第1の電極7は、Moを取り除き、ZnO単結晶基板1を薄くエッチングしてから形成する方がよい。
なお、本実施形態のように半導体発光素子として半導体レーザダイオード10を作製する場合は、p型導電性の第2の電極8に先立ち、ストライプ領域を形成すると半導体レーザダイオード10の性能が良好となる。例えば、ドライエッチングにより第2のクラッド層5に到達するエッチングを行い、リッジストライプを形成しておく。
(工程10)次に、図2に示すように、共振器端面である光出射側端面11と光反射側端面12とをへき開するなどの方法により、ミラーとして光共振器構造を作る。
そして、光出射側端面11と光反射側端面12の一方には、低い屈折率を有する1層以上の低反射膜であって、膜厚がλ/(4n)(λ:発光波長、n:屈折率)であり、非反射膜(AR膜)が形成される。また、その他方には、低屈折率と高屈折率を交互に積層してなる高反射膜(HR膜)が形成される。膜厚がλ/(4n)(λ:発光波長、n:屈折率)である。
以上のような工程によって発光波長が480nm以上、例えば緑色発光の半導体レーザダイオードが作製される。
なお、本実施形態のように半導体レーザダイオードを作製する場合も、或いは半導体発光素子としての発光ダイオードを作製する場合も、電極を形成しないエピや基板の表面には、適切なパッシベーション膜を配置することが望ましい。また、電極に配線をボンディングするためのパットなども適宜配置することが必要である。
以上のように構成された第1実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
○活性層4をInN層4aとGaN層4bとを交互に積層したInN/GaN分子層積層構造としているので、InN層とGaN層の厚さを変えてInの平均組成比を変えることで、所望の波長帯の光を発光させる(発光させる光の波長帯をコントロールする)ことが可能になる。
○長波長化を目的として活性層4のInの組成比を増加しても、InGaNの混晶半導体で活性層を形成する場合に発生するような相分離による活性層の結晶品質の劣化を避けることができる。
○InN層4aとGaN層4bはそれぞれ微視的に面内で均一に積層されているので(図4参照)、長波長化を目的としてInN層4aを厚くする場合にも、InN層4aの厚さにゆらぎが発生し(厚さが不均一になり)、界面の品質が劣化することをきっかけに活性層4の結晶品質が劣化するのが抑制される。
○従って、活性層4の結晶品質を劣化させることなく、450nmよりも長波長の緑色域の発光が可能な半導体レーザダイオード10を実現することができる。
○活性層4の下地層である第1のクラッド層3を、ZnO単結晶基板1、バッファ層2および活性層のうち少なくともZnO単結晶基板1に格子整合させることで、活性層4をInN層4aとGaN層4bとを交互に成長させて形成されるInN/GaN分子層積層構造の活性層の結晶品質を良くすることができる。
○活性層4は、1〜2MLの厚さのInN層4aと、少なくともInN層4aの厚さと同じか、それよりも厚く、1〜10MLの厚さのGaN層4bとを交互に積層して形成される(図5参照)。本実施形態では、InN層4aを1MLの厚さとし、GaN層4bの厚さを1.4MLとし、これら2つの層4a,4bの積層数(InN層4aの繰り返し数)を「6」としている。この構成により、(1)450nmよりも長波長の緑色域の発光が可能な半導体レーザダイオード10を実現することができる。(2)450nm以下の青色や青紫色の発光が可能な半導体レーザダイオード10を実現する際に、発光性能を向上させる効果、とりわけ、長期信頼性の改善に効果がある。
なお、均一な積層構造(InN/GaNの分子層積層構造)は、InN層については、2MLが大凡の限界である。また、繰り返し積層のInN層が相互に影響しあって、長波長化に寄与するには、GaN層は10ML以下に設定する必要がある。
なお、「InN層とGaN層が微視的に面内で均一に積層されている」構造(InN/GaNの分子層積層構造)は、結晶成長温度と結晶成長速度の組み合わせを適切に選定し、さらに、下地層の実効的格子定数およびInN層の第1の厚さとGaN層の第2の厚さの組み合わせや交互繰り返し回数を適切な組み合わせに設定することで実現される。
○活性層4全体の厚さを30nm以下に設定することで、微視的に面内で均一なInN/GaNの分子層積層構造の活性層4を得ることができる。
○第1のクラッド層3の面内格子定数を、InNの面内格子定数の90%よりも大きな格子定数に設定することで、微視的に面内で均一なInN/GaNの分子層積層構造の活性層4を得ることができる。
○基板としてZnO単結晶基板1を用い、ZnO単結晶基板1にエピタキシャル成長する層(第1のクラッド層3)を活性層4下部に形成することにより、大凡、第1のクラッド層3の面内格子定数をZnO単結晶基板1のa軸格子定数の約0.3241nmに一致させることができる。この場合は、活性層4を形成する下地層(第1のクラッド層3)の面内格子定数がInNの面内格子定数の約91%に一致する。
このように、InN/GaN積層構造(InN/GaNの分子層積層構造)の活性層4と格子定数の近いZnO単結晶基板1を使うことで、Inの組成比の高い活性層4を作れるので、青色より長波長の可視光(例えば緑色)の発光が可能な半導体レーザダイオード10を実現することができる。
次に、上記第1実施形態に係る半導体レーザダイオード10において、活性層4のInN層4aの厚さ(MLの値)とGaN層4bの厚さの組み合わせや交互繰り返し回数を適切な組み合わせ変えた実施例を、以下の表1乃至3に基づいて説明する。
Figure 0004927606
表1には、500nm程度より長波長の緑色域の発光が可能な半導体レーザダイオード(緑色域発光素子)に好適な組み合わせ例として、実施例1乃至5を示してある。
例えば、実施例1は、図3に示す活性層4のInN層4aを1ML(x1=1)の厚さにし、GaN層4bを1ML(y1=1)の厚さにしてInN層4aとGaN層4bを交互に積層し、InN層4aの繰り返し数を「13」とし、活性層4全体の厚さを約6.9nmとした構成例である。
また、実施例3は、InN層4aを2ML(x1=2)の厚さにし、GaN層4bを2.8ML(y1=2.8)の厚さにしてInN層4aとGaN層4bを交互に積層し、InN層4aの繰り返し数を「7」とし、活性層4全体の厚さを約8.4nmとした構成例である。
上記半導体レーザダイオード10の活性層を、実施例1乃至5のように構成することで、500nm程度より長波長の緑色域の発光が可能な半導体レーザダイオードを実現することができる(図6参照)。
Figure 0004927606
表2には、450nm程度の青色域の発光が可能な半導体レーザダイオード(青色域発光素子)に好適な組み合わせ例として、実施例6および実施例7を示してある。例えば、実施例6は、図3に示す活性層4のInN層4aを1ML(x1=1)の厚さにし、GaN層4bを2ML(y1=2)の厚さにしてInN層4aとGaN層4bを交互に積層し、InN層4aの繰り返し数を「13」とし、活性層4全体の厚さを約10nmとした構成例である。
上記半導体レーザダイオード10の活性層を、実施例6および実施例7のように構成することで、450nm程度の青色域の発光が可能な半導体レーザダイオードを実現することができる(図6参照)。
Figure 0004927606
表3には、405nm程度の青紫色域の発光が可能な半導体レーザダイオード(青紫色域発光素子)に好適な組み合わせ例として、実施例8を示してある。この実施例8は、図3に示す活性層4のInN層4aを1ML(x1=1)の厚さにし、GaN層4bを2ML(y1=6)の厚さにしてInN層4aとGaN層4bを交互に積層し、InN層4aの繰り返し数を「13」とし、活性層4全体の厚さを約22nmとした構成例である。
上記半導体レーザダイオード10の活性層を、実施例8のように構成することで、405nm程度の青紫色域の発光が可能な半導体レーザダイオードを実現することができる(図6参照)。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る半導体レーザダイオード10Aを、図7および図8に基づいて説明する。図7は、第2実施形態に係る半導体レーザダイオード10Aの主要部の構成を示す断面図であり、図8はその主要部の詳細な構成を示す断面図である。
第2実施形態に係る半導体レーザダイオード10Aの特徴は、図1に示す上記第1実施形態に係る半導体レーザダイオード10において、活性層を3つの領域に分けて構成した点にある。
つまり、半導体レーザダイオード10Aの活性層は、図7に示すように、上述したInN/GaNの分子層積層構造)の活性層4と、活性層4を上下で挟む下部活性層41および上部活性層42との3つの領域から構成されている。
下部活性層41および上部活性層42はそれぞれ、1分子層の厚さのInN層4aと6分子層付近の厚さのGaN層4bとを交互に積層して、活性層4と同様のInN/GaNの分子層積層構造に形成されている。また、下部活性層41および上部活性層42はそれぞれ、中央の活性層4の格子定数に等しい格子定数或いはそれよりも小さい格子定数を有するように格子整合されている。その他の構成は、上記第1実施形態に係る半導体レーザダイオード10と同様である。
上記構成を有する半導体レーザダイオード10Aは、以下の工程により製造される。なお、ここでは、上述した半導体レーザダイオード10の製造工程と相違する工程についてのみ説明する。
(工程7a) 上記(工程7)において、まず、第1のクラッド層3上に、InN層4aとGaN層4bとを交互に積層して下部活性層41を形成する。基板温度は600℃程度とし、1MLの厚さのInN層4aと6MLの厚さのGaN層4bとの積層を10回繰り返す。これらInN層4aとGaN層4bの層は、アンドープとする。
次に、下部活性層41の上に、InN層4aとGaN層4bとを交互に積層して中央の活性層4を形成する。この活性層4は、上記第1実施形態と同様に、1MLの厚さのInN層4aと1.4MLの厚さのGaN層4bとの積層を6回繰り返す。これらInN層4aとGaN層4bの層は、アンドープとする。
最後に、活性層4の上に上部活性層42を形成する。この上部活性層42は、1MLの厚さのInN層4aと6MLの厚さのGaN層4bとの積層を10回繰り返す。これらInN層4aとGaN層4bの層は、アンドープとする。
以上のように構成された第2実施形態によれば、上記第1実施形態の奏する作用効果に加えて以下の作用効果を奏する。
○1分子層の厚さのInN層4aと6分子層付近の厚さのGaN層4bとを交互に積層した微視的に面内で均一な積層構造(InN/GaNの分子層積層構造)の下部活性層41を備えており、この下部活性層41により、ZnO単結晶基板1との格子整合を維持しつつ、レイヤとしての二次元的な結晶の品質を良くすることができる。
○下部活性層41は、コアとして機能する中央の活性層4内に光を安定に、効率よく閉じ込める光ガイド層としての機能を果たすだけでなく、中央の活性層4を成長する際の結晶の品質を良くする機能も果たす。
○1分子層の厚さのInN層4aと6分子層付近の厚さのGaN層4bとを交互に積層した微視的に面内で均一な積層構造(InN/GaNの分子層積層構造)の上部活性層42を備えており、この上部活性層42は、主に中央の活性層4内に光を安定に、効率よく閉じ込める光ガイド層としての機能を果たす。
○中央の活性層4の結晶に欠陥があると、活性層は壊れてしまう。転位などの欠陥は下から上に伝わるので、活性層4の上側にも下部活性層41と同様のInN/GaNの分子層積層構造を有する上部活性層42を設けることで、その上部活性層42を設けない場合よりも、転位などの欠陥が発生しにくくなる。
○このような下部活性層41と上部活性層42が無くて、活性層4が第1のクラッド層3と第2のクラッド層5とに直に接していると、活性層4と各クラッド層3,5との屈折率差が大きいので、活性層4で発生した光が広く広がってしまい、広がった光を非常に狭い活性層4で強くしようとしてもカップリングが悪い。活性層4の両側に光ガイド層としての機能を果たす下部活性層41と上部活性層42があると、光が発生する場所とゲインを発生する場所との重なりあいが強くなり、発光効率が良くなる。 次に、上記第2実施形態に係る半導体レーザダイオード10Aにおいて、下部活性層41および上部活性層42の各InN層4aの厚さ(MLの値)と各GaN層4bの厚さの組み合わせや交互繰り返し回数を適切に設定した実施例9を、以下の表4に基づいて説明する。
Figure 0004927606
表4に示す実施例9では、図8に示す活性層4については、上記表1乃至3に示す実施例1乃至8の構成例が適用される。
この実施例9では、下部活性層41のInN層4aを1ML(x2=1)の厚さにし、そのGaN層4bを6ML(y2=6)の厚さにしてInN層4aとGaN層4bを交互に積層してある。また、上部活性層42のInN層4aを1ML(x3=1)の厚さにし、そのGaN層4bを6ML(y3=6)の厚さにしてInN層4aとGaN層4bを交互に積層してある。また、InN層4aの繰り返し数を「13」とし、活性層4全体の厚さを約22nmとしている。
上記半導体レーザダイオード10Aの下部活性層41および上部活性層42を、実施例9のように構成することで、500nm程度より長波長の緑色域の発光が可能な半導体レーザダイオード、或いは、450nm程度の青色域の発光が可能な半導体レーザダイオードを実現することができる(図6参照)。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る半導体レーザダイオード10Bを、図9に基づいて説明する。
第3実施形態に係る半導体レーザダイオード10Bの特徴は、図7および図8に示す上記第2実施形態に係る半導体レーザダイオード10Aにおいて、第1のクラッド層3の上部を、InN層3aとAlGaN層3bを交互に積層したInN/AlGaNの分子層積層構造にした点にある。
つまり、半導体レーザダイオード10Bでは、図9に示すように、第1のクラッド層3は、混晶AlGaNにより形成された下部第1クラッド層(第1クラッド層の下部)31と、この下部第1クラッド層31上に、InN層3aとAlGaN層3bを交互に積層したInN/AlGaNの分子層積層構造の上部第1クラッド層(第1クラッド層の上部)32とから構成されている。
上記構成を有する半導体レーザダイオード10Bは、以下の工程により製造される。なお、ここでは、上述した半導体レーザダイオード10,10Aの製造工程と相違する工程についてのみ説明する。
(工程5a)上記工程5において、まず、バッファ層2上に、AlGaInN混晶による第1のクラッド層3の下部(下部第1クラッド層31)を成長する。
次に、第1のクラッド層の上部(上部第1クラッド層32)を、1MLの厚さのInN層3aと数MLの厚さのAlGaN層3bとを繰り返し成長させて、上部第1クラッド層32を形成する。
この後、半導体レーザダイオード10Aの製造工程で説明した上記(工程7a)を行う。
以上のように構成された第3実施形態によれば、上記第2実施形態の奏する作用効果に加えて以下の作用効果を奏する。
○第1のクラッド層3の上部を、InN層3aとAlGaN層3bを交互に積層した微視的に面内で均一な積層構造(InN/AlGaNの分子層積層構造)の上部第1クラッド層32にすることで、この上部第1クラッド層32により、ZnO単結晶基板1との格子整合を維持しつつ、レイヤとしての二次元的な結晶の品質を良くすることができる。
○上部第1クラッド層32は、上記第2実施形態で説明した下部活性層41と同様に、活性層4内に光を安定に、効率よく閉じ込める光ガイド層としての機能を果たすだけでなく、活性層4を成長する際の結晶の品質を良くする機能も果たす。
○このように第1のクラッド層の上部(上部第1クラッド層32)を複数の層を積層した構成とすることで、各層は格子不整合であっても、トータルで格子整合させることができる。
○第1のクラッド層3も、InNという極めて混ざりにくい材料が入っているので、InN層3aをはじめからAlGaN層3bに対して積層方向に分けておくことで、活性層4と同様に平坦性が失われない。
○第1のクラッド層3は、活性層4ほど品質は重要ではないので、混晶の材料でも良いが、活性層4の下地層であるため、このクラッド層3で発生した結晶欠陥は上部に伝搬することが多い。だから、活性層4の近傍である第1のクラッド層の上部は、良好な品質の積層状態(平坦性のある状態)にするのが好ましい。そのため、第1のクラッド層の上部をInNの分子層(モノレイヤ)にして表面の状態を良くして(平坦にして)から活性層を形成するのが好ましい。これにより、平坦性の優れた第1のクラッド層3を形成できる。
○第1のクラッド層3の全てをAlGaInNの混晶で形成するよりは、表面の平坦性がよくなる。その結果、平坦性のくずれから発生する結晶欠陥の発生を抑制でき、活性層4の性能をさらに良くすることができる。
なお、第1のクラッド層の下部(下部第1クラッド層31)は、比較的特性に影響が小さいため、上部第1クラッド層32のように分子層積層構造にせずに平均組成の混晶積層(AlGaInNの混晶)としても特性に与える影響は小さい。
次に、上記第3実施形態に係る半導体レーザダイオード10Bにおいて、上部第1クラッド層32の各InN層3aの厚さ(MLの値)と各AlGaN層3bの厚さの組み合わせや交互繰り返し回数を適切に設定した実施例10を、以下の表5に基づいて説明する。
Figure 0004927606
表5に示す実施例10では、図8に示す活性層4については、上記表1乃至3に示す実施例1乃至8の構成例が適用される。
この実施例10では、上部第1クラッド層32のInN層3aを1ML(x5=1)の厚さにし、そのAlGaN層3bを6ML(y5=6)の厚さにしてInN層3aとAlGaN層3bを交互に積層してある。InN層3aの繰り返し数を「13」とし、上部第1クラッド層32全体の厚さを約22nmとしている。
上記半導体レーザダイオード10Bの上部第1クラッド層32を、実施例10のように構成することで、500nm程度より長波長の緑色域の発光が可能な半導体レーザダイオード、或いは、450nm程度の青色域の発光が可能な半導体レーザダイオードを実現することができる。
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る半導体レーザダイオード10Cを、図10に基づいて説明する。
第4実施形態に係る半導体レーザダイオード10Cの特徴は、以下の構成にある。
・図9に示す上記第3実施形態に係る半導体レーザダイオード10Bにおいて、第2のクラッド層5の下部(下部第2クラッド層52G)も、第1のクラッド層3の上部(上部第1クラッド層32)と同様に、InN層3aとAlGaN層3bを交互に積層したInN/AlGaNの分子層積層構造にした。
・半導体レーザダイオード10Bの上部第1クラッド層32と同様にInN層3aとAlGaN層3bを交互に積層した上部第1クラッド層32Gと、下部第2クラッド層52Gとをそれぞれ、Alの組成が活性層に近づくにつれて次第に減少するグレーデッド型積層構造とした。
つまり、半導体レーザダイオード10Cでは、図10に示すように、第1のクラッド層3は、混晶AlGaNにより形成された下部第1クラッド層31と、この下部第1クラッド層31上に、InN層3aとAlGaN層3bを交互に積層したInN/AlGaNの分子層積層構造の上部第1クラッド層32Gとから構成されている。この上部第1クラッド層32Gは、複数のAlGaN層3bにおけるAlの組成(AlN組成)が下部活性層41に近づくにつれて次第に減少するグレーデッド型積層構造とした。
また、第2のクラッド層5は、InN層5aとAlGaN層5bを交互に積層したInN/AlGaNの分子層積層構造の下部第2クラッド層52Gと、この下部第2クラッド層52G上に、混晶AlGaNにより形成された上部第2クラッド層51とから構成されている。下部第2クラッド層52Gは、複数のAlGaN層5bにおけるAlの組成(AlN組成)が上部活性層42に近づくにつれて次第に減少するグレーデッド型積層構造とした。
このような上部第1クラッド層32Gおよび下部第2クラッド層52Gは、これらの層32G,52Gをそれぞれ構成する複数のAlGaN層3b,5bにおけるAlの組成(AlN組成)を、下部活性層41および上部活性層42に近づくにつれて連続的に減らすことで形成することができる。
以上のように構成された第4実施形態によれば、上記第3実施形態の奏する作用効果に加えて以下の作用効果を奏する。
○下部第2クラッド層52Gは、InN層5aとAlGaN層5bを交互に積層したInN/AlGaNの分子層積層構造になっているので、主に活性層4内に光を安定に、効率よく閉じ込める光ガイド層としての機能を果たす。
○活性層4の結晶に欠陥があると、活性層4は壊れてしまう。転位などの欠陥は下から上に伝わるので、活性層4の上側にもその下側と同様のInN/AlGaNの分子層積層構造を有する下部第2クラッド層52Gを設けることで、その分子層積層構造を設けない場合よりも、転位などの欠陥が発生しにくくなる。また、発光効率も良くなる。
○上記InN/AlGaNの分子層積層構造とグレーデッド型積層構造とをそれぞれ有する上部第1クラッド層32Gおよび下部第2クラッド層52Gを備えることで、(1)キャリアの注入効率が向上すると共に、(2)光閉じ込めにも寄与し、レーザ発振が得やすくなる(発振の効率、内部量子効率が良くなる)。
つまり、ヘテロ接合は、場合によってはポテンシャルのバリアを生じることがあり、そのバリアによりキャリアが通りにくくなる。活性層4近傍の下部および上部の両方を、Alの組成を活性層に近づくにつれて次第に減らしたグレーデッド型積層構造にすることで、電子に対するバリアと、正孔に対するバリアが低くなり或いは無くなる。これにより、電子や正孔が通りやすくなって活性層4に注入されやすくなり、キャリアの注入効率が向上する。
○内部量子効率を良くするという意味では、電子と正孔が再結合しゲインが発生する場と光のフィールドの場との重なり合いが大きくなるほど、発振の効率が良くなり、しきい値電流が下がり、損失も減る。
○上下のクラッド層3,5の活性層4に近い領域では、Inリッチで、活性層4から遠くなるほどAlリッチになるので、光が活性層4内部により閉じ込められるようになる。活性層4は非常に薄いので、各クラッド層3,5の活性層に近い領域でAlの組成が次第に変化していることが、光閉じ込め効果に大きく効いてくる。
なお、キャリアの注入効率も良くするし、光ガイドの調整にも使えるグレーデッド層は良く知られている技術であるが、この従来技術では、混晶のAlGaInNの混晶組成を連続的に変化させることで実現している。これに対して、本実施形態の特徴は、上下のクラッド層3,5の活性層に近い領域をInN層とAlGaN層の分子層積層構造とし、この分子層積層構造でAlの組成を活性層に近づくにつれて次第に減らしたグレーデッド型積層構造にしている点にある。
○今後重要になるZnO単結晶基板1と組み合わせの良い、波長としても応用価値のある緑色域の発光を実現する際の格子整合と、InNを1分子層(ML)付近に限定するのがレイヤの構成に好適である。この構成によれば、各クラッド層3,5のAlInGaN混晶の層31,51と、活性層4の下部活性層41,上部活性層42とをグレーデッド層で連続的につなぐので、キャリアの注入効率に優れた半導体レーザダイオードの活性層を挟む領域として優れたクラッド層を実現できる。
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態に係る半導体レーザダイオード10Dを、図11〜図14に基づいて説明する。図11は半導体レーザダイオード10Dの成長設計層構造を示す説明図である。図12は図11のコンタクト層付近の拡大図、図13は図11の活性層中央部の拡大図である。また、図14は半導体レーザダイオード10Dの成長後に観測される層構造を示す説明図である。
成長設計層構造に示されるように各セルのシャッタを開閉するなどして、成長を行うが、成長中における相互拡散および観測手法の深さ分解能の制限により、実際には図14に示されるような層構造が観測される。
第5実施形態に係る半導体レーザダイオード10Dの特徴は、以下の構成にある。
・図10に示す上記第4実施形態に係る半導体レーザダイオード10Cにおいて、バッファ層2に代えて、ZnO単結晶基板1と第1のクラッド層3との間に、第1の分子層の厚さを有するInN層と第2の分子層の厚さを有するGaN層とを交互に積層したInN/GaNの分子層積層構造のバッファ層20を設けてある(図11,図14参照)。
・図1に示す半導体レーザダイオード10のp型InGaNよりなるコンタクト層8に代えて、MgドープのGaN層(6MLの厚さ)とInN(1MLの厚さ)を交互に積層したInN/GaNの分子層積層構造のコンタクト層60を設けてある(図11,図12参照)。
・上記活性層4において、InN層4aとGaN層4bの各層はInNとGaNが成長面の法線方向に相互拡散(1nm程度の相互拡散長)により混合した構造を有している(図13,図14参照)と共に、InN層4aとGaN層4bの各層は面内においては均一である。ここでは、InNとGaNの相互拡散長が1nm程度である。
上記構成を有する半導体レーザダイオード10Dのバッファ層20は、以下のように形成される。
上記第1実施形態で説明した(工程4)において、上記クリーニング後に窒化物半導体の積層を開始する。格子整合組成のInGaN混晶を直接成長する方法もある。本実施形態では、まず、基板温度を600℃に下げて、ZnO単結晶基板1の表面に窒素ラジカルを照射して、わずかに窒化する。
次に、1MLの厚さのInNと4〜5MLの厚さのGaNを交互に積層する。
In照射後およびGa照射後に3族原料を照射しない期間(成長中断)を設けることにより積層の原子レベルの平坦性を良好とする効果が得られることがある。In照射中およびGa照射中にNラジカル照射を中断してさらに平坦性が改善される場合もある。これらは、Nラジカルの照射濃度の影響を受けるので、RHEED装置による電子線回折像を観測しながら適宜調整することが必要である。なお、これらの層(1MLのInN層と4〜5MLのGaN層)は、Siを1×1018cm−3ドーピングしてN型としている。
また、InN/GaNの分子層積層構造のコンタクト層60は、図1に示す第2のクラッド層6上に、MgドープのGaN層(6MLの厚さ)とInN(1MLの厚さ)を交互に積層して形成することができる。
以上のように構成された第5実施形態によれば、上記第4実施形態の奏する作用効果に加えて以下の作用効果を奏する。
○ZnO単結晶基板1と第1のクラッド層3との間に、第1の分子層の厚さを有するInN層と第2の分子層の厚さを有するGaN層とを交互に積層したInN/GaNの分子層積層構造のバッファ層20を備えているので、InN層とGaN層の各層は格子不整合であっても、トータルで格子整合させることができる。
○このバッファ層20においても、InNという極めて混ざりにくい材料が入っているので、InN層をはじめからGaN層に対して積層方向に分けておくことで、活性層4と同様に平坦性が失われない。
○バッファ層20は、活性層4ほど品質は重要ではないので、混晶の材料でも良いが、このバッファ層で発生した結晶欠陥は上部に伝搬する。だから、バッファ層20も、良好な品質の積層状態(平坦性のある状態)にするのが好ましい。これにより、平坦性の優れたバッファ層20を形成できる。このバッファ層20をInGaNの混晶で形成するよりは、表面の平坦性がよくなる。その結果、平坦性のくずれから発生する結晶欠陥の発生を抑制でき、活性層4の性能をさらに良くすることができる。
○活性層4を、第1の厚さのInN層4aと第2の厚さのGaN層4bとに分けて交互に成長させて形成すると、成長後、InNとGaNが完全に分離されているわけではなく、お互いに少し混ざった組成になっている。つまり、InN層4aとGaN層4bの各層はInNとGaNが成長面の法線方向に相互拡散により混合した構造になる(図12参照)。しかし、InN層4aの中にGaNが混ざって混晶にだんだんなっていくが、InN層4aとGaN層4bの各層(各分子層)が平坦になっているので、各層においてInNとGaNが上下に(成長面の法線方向に)均等に混ざる。
これにより、InNが面内で集まる凝集は極めて少なくて、平坦な断面組成を持つ構造の活性層4が得られるので、長波長化を目的としてInN層を厚くする場合に、InN層の厚さにゆらぎが発生し(厚さが不均一になり)、界面の品質が劣化することをきっかけに活性層の結晶品質が劣化するのが抑制され、十分に性能の良い活性層が得られる。
その結果、次のような利点が得られる。(1)450nmよりも長波長の緑色域の発光が可能な半導体レーザダイオードを実現することができる。(2)450nm以下の青色や青紫色の発光が可能な半導体レーザダイオードを実現する際に、発光性能を向上させる効果、とりわけ、長期信頼性の改善に効果がある。
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態に係る半導体レーザダイオード10Eを、図15に基づいて説明する。図13は成長後に熱処理を施した半導体レーザダイオード10Eの層構造を示す説明図である。
第6実施形態に係る半導体レーザダイオード10Eの特徴は、以下の構成にある。
・図11〜図14に示す上記第5実施形態に係る半導体レーザダイオード10Dにおいて、成長後に熱処理を施して、InNとGaNを成長面の法線方向に十分に拡散させて作製されている点にある。ここでは、成長後に熱処理を施すことにより、活性層4のInN層4aとGaN層4bの各層は、InNとGaNが成長面の法線方向に十分に相互拡散(5nm程度の相互拡散長)により混合した構造になっている。つまり、活性層4のInN層4aとGaN層4bの各層において、InNとGaNが成長面の法線方向に相互拡散により混合した構造は、図15に示すような結晶成長後の熱拡散プロファイルを示している。
ここでの熱処理は、次のようにして行う。上述した結晶成長装置から取り出されたエピウエハに追加熱処理を実施する。例えば、SiNによる保護膜を表面に施し、RTA法で1000℃まで加熱した。
以上のように構成された第6実施形態によれば、上記第5実施形態の奏する作用効果に加えて以下の作用効果を奏する。
○活性層4のInN層4aとGaN層4bの各層を成長後に熱処理をすると、InN層4aとGaN層4bの各層において、InNとGaNのゆらぎがなくなり、お互いに均等に混ざった組成になる。既存のAuger Electron Spectroscopy(AES)で組成を分析すると、図15に示すような組成が観測される。つまり、熱処理により滑らかな組成になる。
○成長後に行う上記熱処理により、活性層4のInN層4aとGaN層4bの各層の相互拡散が進行して、分子層程度の厚さで積層された構造は、相互拡散により均一な混晶に近い構造に変化する。この熱処理により、素子の抵抗や動作電圧が低下するという効果が得られる。
なお、この発明は以下のように変更して具体化することもできる。
・上記各実施形態では、本発明を半導体発光素子としての導体レーザダイオードに適用した構成について説明したが、本発明は半導体発光素子としての発光ダイオードにも適用可能である。例えば、本発明を緑色域の発光が可能な発光ダイオードに適用することで、発光ダイオードの発光効率を向上させることができる。
・図9に示す上記第3実施形態において、上部第1クラッド層32のAlGaN層3bを、ある分子層厚さのAlN層とある分子層厚さのGaN層とにさらに分けた構成にも本発明は適用可能である。
・同様に、図10に示す上記第4実施形態において、下部第2クラッド層52GのAlGaN層5bを、ある分子層厚さのAlN層とある分子層厚さのGaN層とにさらに分けた構成にも本発明は適用可能である。
第1実施形態に係る半導体レーザダイオードの素子構成を示す断面図。 同半導体レーザダイオードの概略構成を示す斜視図。 同半導体レーザダイオードの活性層の詳細な構造を示す説明図。 同半導体レーザダイオードの活性層の構造を示す説明図。 活性層の断面構造とバンドギャップエネルギを示す説明図。 1分子層(ML)のInN層と組み合わせるGaN層の厚さを変えた場合のバンドギャップエネルギの変化を示すグラフ。 第2実施形態に係る半導体レーザダイオードの主要部の構成を示す断面図。 同半導体レーザダイオードの主要部の詳細な構成を示す断面図。 第3実施形態に係る半導体レーザダイオードの素子構成を示す断面図。 第4実施形態に係る半導体レーザダイオードの素子構成を示す断面図。 第5実施形態に係る半導体レーザダイオードの成長設計構造を示す説明図。 図11のコンタクト層付近の拡大図。 図11の活性層中央部の拡大図。 第5実施形態に係る半導体レーザダイオードの成長後に観測される層構造を示す説明図。 成長後に熱処理を施した第6実施形態に係る半導体レーザダイオードの層構造を示す説明図。
符号の説明
1…ZnO単結晶基板
2,20…バッファ層
3…第1のクラッド層
3a…InN層
3b…GaN層
4…活性層
4a…InN層
4b…GaN層
5…第2のクラッド層
6,60…コンタクト層
7…第1の電極
8…第2の電極
10,10A,10B,10C,10D,10E…半導体レーザダイオード
31…下部第1クラッド層
32,32G…上部第1クラッド層
41…下部活性層
42…上部活性層
51…上部第2クラッド層
52G…下部第2クラッド層

Claims (9)

  1. 活性層と、
    前記活性層の下地層で、ZnO基板上に形成された第1導電型の第1のクラッド層と、
    前記活性層の上層に形成された第2導電型の第2のクラッド層と、
    第1の電極および第2の電極と、を備え、
    前記第1のクラッド層は、前記基板および前記活性層のうち少なくとも一方に格子整合されており、
    前記活性層は1または2分子層の厚さのInN層と、該InN層の分子層数と同じかそれよりも層数が多い分子層の厚さのGaN層とを交互に積層して形成され、
    記InN層とGaN層はそれぞれ微視的に面内で均一に積層されており
    前記活性層の全体の厚さは、30nm以下であり、
    さらに、前記活性層内で積層される前記InN層の分子層数xと、前記活層内で積層される前記GaN層の分子層数であるyで定義される平均In組成x/(x+y)が0.4以上0.5以下であり、緑色域で発光することを特徴とする半導体発光素子。
  2. 前記第1のクラッド層および前記第2のクラッド層それぞれが、AlN層、GaN層、InNの積層により、又は、混晶AlGaInNにより、又は、これらの組み合わせにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
  3. 前記第1のクラッド層の上部が、InN層とAlGaN層を交互に積層した構造、或いは、InN層、AlN層およびGaN層を積層した構造により形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体発光素子。
  4. 前記第2のクラッド層の下部が、InN層とAlGaN層を交互に積層した構造、或いは、InN層、AlN層、およびGaN層を積層した構造により形成されていることを特徴とする請求項3に記載の半導体発光素子。
  5. 前記第1のクラッド層の上部、又は、前記第2のクラッド層の下部、又は、前記第1のクラッド層の上部および前記第2のクラッド層の下部を、Alの組成が前記活性層に近づくにつれて次第に減少するグレーデッド型積層構造としたことを特徴とする請求項3又は4に記載の半導体発光素子。
  6. 前記基板と前記第1のクラッド層との間に、InN層と、GaN層とを交互に積層したInN/GaN分子層積層構造のバッファ層を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の半導体発光素子。
  7. 前記活性層において、前記InN層と前記GaN層の各層はInNとGaNが成長面の法線方向に相互拡散により混合した構造を有していると共に、前記InN層と前記GaN層の各層は面内においては均一であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の半導体発光素子。
  8. 前記活性層の前記InN層と前記GaN層の各層において、InNとGaNが成長面の法線方向に相互拡散により混合した構造は、結晶成長後の熱拡散プロファイルを示すことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の半導体発光素子。
  9. 共振器端面を有する半導体レーザダイオードとして構成されたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載の半導体発光素子。
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