JP4923731B2 - 車両用乗員保護装置 - Google Patents

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Description

本発明は、車両用乗員保護装置に関し、特に車両の衝突発生を予知した際に、乗員の着座姿勢を修正して乗員保護を促進するようにしたものに関する。
一般に、自動車等には、乗員保護装置として、シートベルト装置とエアバック装置が装備されているが、これらは、通常自動車の衝突が発生したときに機能するものである。
ところで、最近自動車の衝突を予知する種々の技術が開発され、衝突発生が予知された際の乗員保護性能を高める技術の開発も要請されている。
特許文献1には、衝突形態に応じて乗員を保護できるようにしたエアシート装置が記載れている。このシート装置は、ガスを封入した気密構造のシートクッションと、ガスを封入した気密構造のシートバックを有する。シートクッション内は中央前室と中央後室と左室と右室とに区画してガスを封入し、中央前室にはガス発生器が設けられている。シートバック内は中央下室と中央上室と左室と右室とに区画してガスを封入してある。
前突発生時には、ガス発生器からのガスの充填と、排出弁からガス排出を介して、シートクッションの中央後室を減容させ且つその他の部分を膨張させ、シートバックの左右両側部を膨張させることで、乗員の腰部の前方移動や側方移動を抑制する。後突発生時には、同様にして、シートクッションの中央後室と、シートバックの中央下室を凹陥させ、その他の部分を膨張させることで、乗員の腰部をシートクッションとシートバックの交差部に拘束して、乗員の上半身の上方への移動を抑制する。側突発生時にも、同様にして、シートクッションの中央後室と、シートバックの中央下室を凹陥させ、その他の部分を膨張させることで、乗員の腰部をシートクッションとシートバックの交差部に拘束して、乗員の左右方向への移動を抑制する。
特許文献2には、シート装置のシートクッションとシートバック内に夫々複数のエアバッグを設けて個々のエアバッグにガスを充填可能に構成し、車両の走行中に、ロール加速度、ヨー加速度、ピッチ加速度を各加速度センサで検出し、加速度の大きさと方向を判定し、乗員に作用する最大加速度に対応する1又は複数のエアバッグにガスを充填することで、乗員の乗り心地や運転姿勢を確保するようになっている。
特開2004−67025号公報 特開平6−90834号公報
特許文献1のエアシート装置では、ガス封入型の特殊構造のシートクッションとシートバックを採用するため、一般的なシート装置に適用することができず、汎用性と実用性に欠ける。しかも、衝突が発生しない限り作動しないため、衝突を予知して衝突発生前から乗員のホールド性を高めたり、着座姿勢(着座位置を含む)を適正化したりことはできないので、シート装置の構造が複雑である割りには十分な機能が得られない。
特許文献2の車両用シート装置は、車両の走行中における乗員の乗り心地の向上を図り、運転姿勢を確保することは可能であるが、衝突発生時の乗員の保護、衝突が予知された場合の乗員の保護については何ら開示されていない。そのため、特許文献1の技術と同様に、衝突を予知して衝突発生前から乗員のホールド性を高めたり、着座姿勢を適正化したりことはできない。
本発明の目的は、衝突発生を予知して衝突形態に応じて乗員の着座姿勢(着座位置を含む)を適正状態に修正可能な乗員保護装置を提供することである。
請求項1の車両用乗員保護装置は、車両の衝突時に乗員を保護する車両用乗員保護装置において、車両の衝突発生とその衝突形態を予知する衝突発生予知手段と、シート装置のシートバック部内の下部に設けられ、前方へ突出しない通常状態と、前方へ突出して乗員の着座姿勢を修正する突出状態とに切り換え可能な突出部材と、衝突発生予知手段が衝突発生を予知した際に突出部材を通常状態から突出状態に切り換える切換え手段と、衝突発生予知手段が後突の発生を予知した際に、突出状態に切り換えられた突出部材を上方へ移動させる移動手段とを備えたものである。
衝突発生予知手段により車両の衝突発生とその衝突形態が予知された際、切換え手段により、シートバック部内の下部に設けられた突出部材が前方へ突出しない通常状態から前方へ突出する突出状態に切換えられる。次に、移動手段により、上記の突出部材が上方へ移動して、乗員の着座姿勢(着座位置を含む)が修正されるので、衝突時に乗員に作用する衝撃を緩和することができる。
尚、乗員の着座姿勢を修正するとは、衝突により乗員に作用する衝撃が緩和する方向へ着座姿勢を修正したり、シートベルト装置により乗員を拘束する拘束性を高める方向へ着座姿勢を修正したりすることである。
請求項2の車両用乗員保護装置は、請求項1の発明において、突出部材は、インフレータに接続されたエアバックであることを特徴としている。
請求項3の車両用乗員保護装置は、請求項1の発明において、衝突発生予知手段は、他車両と通信可能な車車間通信手段を備え、この車車間通信手段による車車間通信により得られる他車両との車間距離と相対速度から車両の衝突発生を予知することを特徴としている。
請求項の車両用乗員保護装置は、請求項1〜の何れかの発明において、シートベルト装置はモータプリテンショナーを備え、衝突発生予知手段により衝突が予知された際にシートベルトの巻き込みと同時又は巻込み開始後、切換え手段が突出部材を突出状態へ切り換える動作を開始することを特徴としている。
請求項の車両用乗員保護装置は、請求項1〜の何れかの発明において、乗員の体格と着座姿勢の少なくとも一方を検知可能な体格姿勢検知手段を有し、移動手段は、乗員の体格と着座姿勢の少なくとも一方に応じて前記突出部材を移動させる移動量を設定することを特徴としている。
請求項の車両用乗員保護装置は、請求項3の発明において、衝突発生予知手段は前記車間距離と相対速度から衝撃力を予測可能に構成され、切換え手段は突出部材の突出量を調節可能に構成され且つ衝突発生予知手段により予測された予測衝撃力に応じて突出部材の突出量を調節することを特徴としている。
請求項1の発明によれば、車両用乗員保護装置は、衝突発生予知手段と、シートバック部材の内部の下部に設けられた突出部材と、切換え手段と、移動手段とを有し、車両の後突の発生が予知された際、突出部材が突出状態に切り換えられて上方へ移動駆動されて、乗員の着座姿勢が修正されるため、衝突時に乗員に作用する衝撃力を緩和したり、シートベルト装置により乗員を拘束する拘束性を高めたりすることができる。
シートバックの下部に設けられた突出部材を上方へ移動させるので、突出部材が前方に突出して乗員の背中が前方に押されて乗員の背中が伸ばされた着座姿勢になるので、後突時の乗員の首部に作用する後方向きの衝撃力を緩和できる。尚、突出部材と協働してシートベルト装置のモータプリテンショナーが作動すれば、乗員の背中を伸ばす突出部材の機能が一層顕著になり、衝撃力を緩和する効果が一層高くなる。
しかも、この車両用乗員保護装置の突出部材、切換え手段、移動手段は、通常のシート装置のシートバックに組み込み可能であるので、汎用性と実用性に優れる。
請求項2の発明によれば、突出部材がインフレータに接続されたエアバッグであるので、衝突発生が予知された際、迅速かつ瞬時に突出部材を突出状態に切り換えることができる。
請求項3の発明によれば、衝突発生予知手段は、他車両と通信可能な車車間通信手段による車車間通信により得られる他車両との車間距離と相対速度から車両の衝突発生を予知するので、精度良く車両の衝突を予知することができる。
請求項の発明によれば、シートベルト装置はモータプリテンショナーを備え、衝突発生予知手段により衝突発生が予知された際にシートベルトの巻き込みと同時又は巻込み開始後、切換え手段が突出部材を突出状態へ切り換える動作を開始するので、衝突発生前に乗員のシートへの拘束力を高めることができる。
請求項の発明によれば、乗員の体格と着座姿勢の少なくとも一方を検知可能な体格姿勢検知手段を有し、移動手段は、乗員の体格と着座姿勢の少なくとも一方に応じて前記突出部材を移動させる移動量を設定するので、乗員の体格や着座姿勢に応じて、乗員の着座姿勢の修正を適正に行うことができる。
請求項の発明によれば、衝突発生予知手段は前記車間距離と相対速度から衝撃力を予測可能に構成され、切換え手段は突出部材の突出量を調節可能に構成され且つ衝突発生予知手段により予測された予測衝撃力に応じて突出部材の突出量を調節するので、乗員の移動・拘束を適切に行うことができる。
本発明に係る車両用乗員保護装置は、車両の衝突発生とその衝突形態を予知する衝突発生予知手段と、シート装置のシートバック部内の下部に設けられ、前方へ突出しない通常状態と、前方へ突出して乗員の着座姿勢を修正する突出状態とに切り換え可能な突出部材と、衝突発生予知手段が衝突発生を予知した際に突出部材を通常状態から突出状態に切り換える切換え手段と、衝突発生予知手段が後突の発生を予知した際に、突出状態に切り換えられた突出部材を上方へ移動させる移動手段とを備えたものである。
以下、本発明の実施例について図面に基づいて説明する。
図1,図2に示すように、自動車1には運転席シート装置2及び助手席シート装置3と、リヤシート装置4が設けられ、運転席シート装置2及び助手席シート装置3は、夫々シートクッション5とシートバック6とを備え、これらシート装置2,3には、モータプリテンショナー付きのモータシートベルト装置7,8も装備されている。運転席シート装置2と助手席シート装置3の前側にはインストルメントパネル9が設けられ、運転席の前側にはステアリングホイール10も設けられている。運転席用のエアバッグ装置と助手席用のエアバッグ装置も設けられている。
次に、本発明の車両用乗員保護装置について説明するが、本実施例では、運転席の乗員を保護する車両用乗員保護装置20を例として説明する。
この車両用乗員保護装置20は、運転席シート装置2のシートバック6に組み込んだ3組のエアバッグ装置21〜23、これらエアバッグ装置21〜23を移動させる移動機構21A〜23A、衝突検知用のカメラやセンサ類、これらカメラやセンサ類からの検出信号を受けて3組のエアバッグ装置21〜23と3組の移動機構21A〜23Aを制御する制御ユニット30などを有する。
次に、上記の3組のエアバッグ装置21〜23と3組の移動機構21A〜23Aについて説明する。図2に示すように、運転席シート装置2のシートバック6の表皮材は伸縮性に優れる生地で構成されている。このシートバック6の表皮材の内部において、シートバック6の幅方向中央部の下部には、中央エアバッグ装置21と、この中央エアバッグ装置21を上下方向へ所定距離昇降移動可能に案内する1対の案内レール21aと、中央エアバッグ装置21を昇降駆動する為のワイヤ式移動駆動機構21Aとが設けられている。
中央エアバッグ装置21は、ほぼ小判形のエアバッグ21bとインフレータ21cとを有し、インフレータ21cに通電することで発生させたガスをエアバッグ21bに充填して膨張させて前方へ突出させるようになっており、この膨張状態のエアバッグ21bは「突出部材」に相当する。
前記のワイヤ式移動機構21Aは、上下1対のプーリ21pと、両端が中央エアバッグ装置21のケース体に連結されて1対のプーリ21pで支持されたワイヤ21wと、一方のプーリ21pを回転駆動する電動モータ21mとを有し、エアバッグ21bを膨張させたまま中央エアバッグ装置21を上方へ中段位置まで移動駆動可能に構成されている。
このワイヤ式移動機構21Aと案内レール21aと後述の制御ユニット30が「移動手段」に相当するものであり、制御ユニット30とインフレータ21cが「切換え手段」に相当するものである。
シートバック6の表皮材の内部において、シートバック6の左側端近傍部位と右側端近傍部位には、夫々、側部エアバッグ装置22,23と、この側部エアバッグ装置22,23を幅方向中央側へ所定距離昇降移動可能に案内する1対の案内レール22a,23aと、側部エアバッグ装置22,23を昇降駆動する為のワイヤ式移動駆動機構22A,23Aとが設けられている。
左側の側部エアバッグ装置22は、シートバック6の左側端近傍部位に配設された上下方向に細長くのびるエアバッグ22bとインフレータ22cとを有し、インフレータ22cに通電することで発生させたガスをエアバッグ22bに充填して膨張させ、山脈状に前方へ突出させるようになっている。この膨張状態のエアバッグ22bは「突出部材」に相当する。
上記のワイヤ式移動機構22Aは、上端側の左右1対のプーリ22pと、この1対のプーリ22pに支持され両端が側部エアバッグ装置22のケース体に連結された上側ワイヤ22wと、下端側の左右1対のプーリ22pと、この1対のプーリ22pに支持され両端が側部エアバッグ装置22のケース体に連結された下側ワイヤ22wと、上下の外側のプーリ22pを夫々回転駆動する1対の電動モータ22mとを有し、エアバッグ22bを膨張させたまま側部エアバッグ装置22をシートバック6の幅方向中央側へ所定距離移動駆動可能に構成されている。このワイヤ式移動機構22Aと、1対の案内レール22aと、後述の制御ユニット30が「移動手段」に相当するものであり、制御ユニット30とインフレータ22cが「切換え手段」に相当するものである。
右側の側部エアバッグ装置23と1対の案内レール23aとワイヤ式移動機構23Aは、左側のものと左右にほぼ対称に配置されているので、同様の符号を付して詳しい説明は省略する。尚、膨張したエアバッグ23bが「突出部材」に相当し、ワイヤ式移動機構23Aと1対の案内レール23aと後述の制御ユニット30が「移動手段」に相当するものであり、制御ユニット30とインフレータ23cが「切換え手段」に相当するものである。
なお、右側の側部エアバッグ装置23のエアバッグ23bは、シートバック6のうちの車体右側壁側の右側端近傍部に上下方向に細長くのびるように設けられている。
次に、この車両用乗員保護装置20の制御系について説明する。
図1、図3に示すように、運転席用エアバッグ装置と、シートベルト装置7と本発明の車両用乗員保護装置20を制御する為の制御ユニット30であって、入力インタフェースとコンピュータと出力インタフェースと複数の駆動回路を有する制御ユニット30が設けられ、この制御ユニット30のコンピュータには、運転席用エアバッグ装置と、シートベルト装置7と、この車両用乗員保護装置20を制御する制御プログラムが予め格納されている。乗員保護装置20を制御する制御プログラムには、衝突予知判定マップも付随的に設けられている。
上記の中央エアバッグ装置21のインフレータ21cとそのエアバッグ21bから排気する排気弁21vと移動用モータ21m、左側の側部エアバッグ装置22のインフレータ22cとそのエアバッグ22bから排気する排気弁22vと2つの移動用モータ22m、右側の側部エアバッグ装置23のインフレータ23cとそのエアバッグ23bから排気する排気弁23vと2つの移動用モータ23mは、制御ユニット30に接続されており、制御ユニット30により駆動制御される。
次に、衝突検知用のカメラやセンサ類について説明する。
車速を検出する車速センサ31、前方からの衝突を検知する衝突検知センサ32、車体の左右方向へのローリング傾斜角を検出する車体傾斜角センサ33、車体の左側からの左側突を検出する為の左側突用カメラ34、車体の右側からの右側突を検出する為の右側突用カメラ35、車体後方からの衝突を検出する為の後突用カメラ36などが設けられ、これらが制御ユニット30に接続されている。
さらに、自車両の前後所定範囲内を走行する他車両との間で車車間通信を行う通信システムと、その車車間通信アンテナ37も設けられて制御ユニット30に接続されている。
図7に示すように、乗員の着座姿勢を検出する為に、シートバックの下部と中段部と上部には所定の荷重が作用したときにオンする姿勢センサ38〜40が組み込まれ、ヘッドレスト6Hにも同様の姿勢センサ41が組み込まれ、これらの姿勢センサ38〜41は制御ユニット30に接続されている。
運転席シート装置2のシートクッションには、着座した運転手の体重の大きさに応じた信号を出力する圧力センサ42が組み込まれ、この圧力センサ42が制御ユニット30に接続されている。インストルメントパネル9には、運転手の固有情報(氏名、身長、体重、運転技量レベル、等々)を記録したICカード43を着脱するICカードスロット43Aも設けられ、ICカード43の情報が制御ユニット30に出力される。
次に、制御ユニット30により実行される乗員保護制御について図4のフローチャートに基づいて説明する。尚、図4におけるSi(i=1,2,・・)は各ステップを示す。
自動車のイグニションキーの投入により制御が開始されと、最初に各種センサ信号が読み込まれ(S1)、次に衝突予知判定処理が実行される(S2)。
この衝突予知判定処理は、カメラ34〜36からの画像信号を解析処理し、予め格納されている衝突予知判定マップに基づいて、自動車の左方からの左側突、自動車の右方からの右側突、自動車の後方からの後突、の発生と衝突形態(左側突、右側突、後突、ロールオーバー)を予知する処理である。そのため、最新の所定微小時間(例えば、1秒)の間のカメラ34〜36からの画像信号はコンピュータのRAMに更新しつつ記憶されており、その記憶している最新の画像信号を解析処理するものとする。
但し、これらの衝突は車両との衝突に限定されず、電柱等の構築物との衝突も含む。
例えば、左側突を予知する場合、左側突用カメラ34からの画像信号と衝突予知判定マップに基づいて、自車両に左方から所定以上の相対速度以上の速度で接近する衝突対象物が、所定距離以内に存在する場合に左側突発生の可能性有りと判定する。衝突予知判定マップには、例えば、40km/hr以上で15m以内、30km/hr以上で10m以内、・・・のように設定されている。右側突、後突についても同様であるが、右側突発生の予知は右側突用カメラ35からの画像信号に基づいて判定され、後突発生の予知は後突用カメラ36からの画像信号に基づいて判定される。
ロールオーバーについては、車体傾斜角センサ33からの検出信号に基づいて、車体傾斜角の変化率が所定値以上で且つ車体傾斜角が所定値以上になった場合に、ロールオーバー発生の可能性ありと判定する。
次に、S3において、S2の衝突予知判定処理の結果に基づいて、衝突(ロールオーバも含む)の可能性があるか否か判定され、その判定がYesの場合はS4へ移行し、その判定がNoの場合はS1へ戻る。次にS4では、運転席シートベルト装置7のプリテンション用モータ7mを微小時間駆動してシートベルト7bを軽く引き込んで乗員を拘束する拘束性を高める。
次に、S5において後突予知有りか否か判定して後突予知有りの場合は、S6においてシートバックに組み込まれた中央エアバッグ装置21のインフレータ21cに通電してそのエアバッグ21bを図5に示すように膨張させる。次にS7において、中央エアバッグ装置21の移動用モータ21mを所定方向へ所定微小時間駆動することにより、図6に示すように、膨張状態の中央エアバッグ21bを所定距離だけ上方へ移動させる。
その結果、図7に示すように、膨張状態の中央エアバッグ21bが乗員の胸部の背面側に位置して、胸部を前方へ押し乗員の右肩部はシートベルト7bで後方へ引かれるため、乗員の上半身の姿勢が修正されて、乗員の背筋を伸ばした状態となる。そのため、乗員の頭部からヘッドレストHまでの距離が短縮し、後突が発生した場合における乗員の頭部に作用する後方向きの衝撃力が緩和される。
S5の判定がNoのとき、S2の衝突予知判定処理の結果に基づいて、S8において側突予知有りか否か判定して側突予知有りの場合、S9においてシートバックに組み込まれた側突側の側部エアバッグ装置22又は23のインフレータ22c又は23cに通電してそのエアバッグ22b又は23bを膨張させる。次にS10において、側部エアバッグ装置22又は23の2つの移動用モータ22m又は23mを所定方向へ所定微小時間駆動することにより、膨張状態の側部エアバッグ22b又は23bを所定距離だけシートバックの中央側へ移動させる。
例えば、右側突発生を予知した場合には、図8に示すように、右側のエアバッグ23bを膨張させてから、図9に示すように中央側へ所定距離移動させる。また、左側突の発生を予知した場合には、図示省略したが、左側のエアバッグ22bを膨張させてから中央側へ所定距離移動させる。
その結果、膨張したエアバッグ22b又は23bにより乗員を側突側のドアやセンタピラーから離隔する方向へ移動させることができ、側突が発生した場合に乗員に作用する衝撃を著しく緩和することができる。しかも、膨張したエアバッグ22b又は23bで乗員の上半身の側面を保護することもできるため、乗員保護性能を高めることができる。
S8の判定がNoのとき、S2の衝突予知判定処理の結果に基づいて、S11においてロールオーバー予知有りか否か判定してロールオーバー予知有りの場合、S12においてシートバックに組み込まれた両側の側部エアバッグ装置22,23のインフレータ22c,23cに通電して、図10に示すように、それらのエアバッグ22b,23bを膨張させる。次にS13において、左側の側部エアバッグ装置22の2つの移動用モータ22mを所定方向へ所定微小時間駆動すると共に、右側の側部エアバッグ装置23の2つの移動用モータ23mを所定方向へ所定微小時間駆動することにより、図11に示すように、膨張状態の両側のエアバッグ22b,23bを所定距離だけシートバックの中央側へ所定距離移動させる。
その結果、乗員の上半身がシートバックの中央部に拘束され、且つ左右両側から膨張状態のエアバッグ22b,23bでホールドされるため、ロールオーバーが発生した際に乗員に作用する衝撃を緩和して保護性能を著しく高めることができる。
次に、S14では、衝突が発生したか又は衝突不可避か否か判定され、その判定がYesのときは、S15においてプリテンション用モータ7mを所定微小時間の間所定方向へ駆動することにより、シートベルト7bを強く引き込んだ状態にして乗員を強く拘束し、この制御は終了する。他方、S14の判定がNoのときは、S16において所定時間経過したか否か判定し、その判定がNoのうちはS14へ戻り、その判定がYesになると、S17において、膨張させたエアバッグ21b,22b,23bに対応する排気弁21v,22v,23vを開いてエアバッグ21b,22b,23bから排気し、シートベルト7bを元の状態に戻す。尚、このとき、膨張後排気したエアバッグ21b,22b,23bを元の位置に復帰させることが望ましい。
なお、この実施例においては、制御ユニット30と、車体傾斜角センサ33、カメラ34〜36などが「衝突発生予知手段」に相当する。
以上説明した乗員保護装置20の作用、効果について説明する。
衝突発生を予知した場合に、S4に示すように、シートベルト7bを軽く引き込むので、乗員の身体をシート装置2に拘束して乗員保護性能を高めることができる。
後突の発生を予知した際には、シートバック6の中央部の下部に設けたエアバッグ21bを膨張させてから、その膨張状態のエアバッグ21bを上方移動させることで、乗員の背筋がのびるように乗員の姿勢を修正するため、乗員の頭部からヘッドレスト6Hまでの距離が小さくなり、後突発生時に乗員の頭部に作用する衝撃を緩和することができる。
側突の発生を予知した際には、シートバック6の衝突発生予知した方の側端近傍部位に設けたエアバック22b又は23bを膨張させてから、シートバック6の幅方向中央側へ移動させるので、乗員の上半身を車体の側壁部(サイドドアやセンタピラーなど)から離隔する方へ移動させることができるので、側突発生時に乗員に作用する衝撃を緩和することができる。このとき、膨張したエアバッグ22b又は23bによって乗員の上半身を保護することもできるため、側突発生時における衝撃を一層緩和することができる。
ロールオーバーの発生を予知した際には、左右両側の側端近傍部位に設けたエアバッグ22b,23bを膨張させてから、それらエアバッグ22b,23bをシートバックの幅方向中央側へ移動させるので、乗員の上半身をシートバック6の幅方向中央部に拘束し、車体側壁部から離隔させることができるため、ロールオーバーの発生時に乗員に作用する衝撃を緩和することができる。このとき、膨張したエアバッグ22b,23bによって乗員の上半身を両側から保護することもできるため、ロールオーバー発生時における衝撃を一層緩和することができる。
しかも、S14,S15に示すように、衝突発生した時又は衝突不可避になった時には、シートベルト7bを強く引き込むので、乗員を強固に拘束して乗員保護を確実にすることができる。そして、S16,S17に示すように、結果的に衝突が回避された場合には、膨張させたエアバッグ21b,22b,23bから排気してそのエアバッグ21b,22b,23bを元の位置に復帰させると共に、シートベルト7bを元に戻すため、その後の走行中において乗員保護装置20を本実施例と同様に機能させることができる。
前記実施例を部分的に変更する例について説明する。
(1)図4のフローチャートでは、S4をS6,S9,S12よりも先に実行するように構成したが、S4とS6、S4とS9、S4とS12を同時に実行するように構成してもよい。
(2)前記実施例では、カメラ34,35,36から受ける画像信号を解析処理して衝突発生を予知するように構成したが、車車間通信システムでは、他車両から、時々刻々の、少なくともその車両の位置情報と車速情報を受信できるため、その車車間通信で得られる情報を用いて他車両との車間距離と相対速度と衝突形態を演算し、その演算結果から衝突発生を予知するように構成してもよい。
(3)前記のワイヤ式移動駆動機構21A,22A,23Aの代わりに、ラック・ピニオン式動移動駆動機構や、小径のエアシリンダを用いたシリンダ式移動駆動機構を採用してもよい。
前記実施例の乗員保護装置20を部分的に変更した例について説明する。
図12に示すように、シートバック6には前記の乗員保護装置20とほぼ同様の乗員保護装置20Aが装備されているので、同様のものに同様の符号を付して説明を省略する。但し、この乗員保護装置20Aでは、エアバッグ装置21〜23のインフレータ21c〜23cは省略され、エアバッグ21b〜23bに加圧エアを充填する加圧エア充填系が設けられている。
上記の加圧エア充填系として、コンプレッサ50(又はブロア)と、このコンプレッサ50から加圧エアの供給を受けて所定圧(例えば、0.5MPa)の加圧エアを蓄圧するアキュムレータ51と、このアキュムレータ51からエアバッグ21b〜23bへ加圧エアを供給するエア通路52と、エアバッグ21b〜23bへ通ずる分岐エア通路に介装された電磁三方弁53〜55と、コンプレッサ50と電磁三方弁53〜55を制御する制御ユニット30Aなどが設けられている。上記の電磁三方弁53〜55は、加圧エアの供給を遮断する遮断位置と、加圧エアを供給する供給位置と、エアバッグ21b〜23b内の加圧エアを排気する排気位置とに切り換え可能なものである。
制御ユニット30Aには、図3と同様にセンサ類やカメラからの検出信号が供給されており、この制御ユニット30Aにおいても、図4のフローチャートとほぼ同様の制御が実行される。但し、この乗員保護制御においては、前記圧力センサ42からの検出信号から得られる乗員の体格と、姿勢センサ38〜41の検出信号から得られる乗員の着座姿勢との少なくとも一方に基づいて、エアバッグ21b,22b,23bを移動させる移動量を設定する。
圧力センサ42の検出信号と乗員の体格「小」、「中」、「大」との関係が予め設定されると共に、乗員の体格「小」、「中」、「大」に対応するエアバッグ21b,22b,23bの移動量「大」、「中」、「小」が予め設定されている。そして、S7、S10、S13では、乗員の体格の「小」、「中」、「大」に応じたエアバッグ21b,22b,23bの移動量「大」、「中」、「小」となるように移動用モータ21m,22m,23mが駆動制御される。そのため、乗員の体格に適合する範囲でエアバッグ21b,22b,23bを移動させることで、移動用モータ21m,22m,23mが過負荷となるのを防止し、ワイヤ式移動駆動機構21A,22A,23Aの損傷を防止できる。
さらに、この乗員保護制御においては、姿勢センサ38〜41からの検出信号に応じて膨張させたエアバッグ21bを上方へ移動させる移動量を設定する。即ち、姿勢センサ40がオンであり、乗員の背中の全体がシートバック6に接触している場合には、乗員の背筋が伸びているため、膨張させたエアバッグ21bを上方へ移動させる必要がないので、図4のS7におけるエアバッグ21bの上方移動を実行しない。
姿勢センサ40がオフで且つ姿勢センサ39がオンの場合には、乗員の背筋が概ね伸びているものとして、膨張させたエアバッグ21bの上方移動量は、例えばフル移動量の約半分に設定される。また、姿勢センサ40がオフで且つ姿勢センサ39オンオフが繰り返されている場合には、膨張させたエアバッグ21bの上方移動量は、例えばフル移動量に設定される。
この実施例3では、実施例2と同様の乗員保護装置20Aが採用される。但し、本実施例の乗員保護制御では、実施例1の変更例(2)と同様に、車車間通信により得られる他車両との車間距離と相対速度と衝突形態とを演算し、その演算結果から衝突の発生を予知すると共に、衝突発生時の衝撃力を演算し、その衝撃力の大きさに応じてエアバッグ21b,22b,23bを膨張させる膨張度合いを調節する。
即ち、この乗員保護制御では、衝突発生予知の際における自車両と他車両との間の距離と相対接近速度とをパラメータとして衝突時の衝撃力を予め設定したマップが予め設けられており、前記図4とほぼ同様の乗員保護制御が実行されるが、S2において、衝突発生予知の際に衝突発生時の衝撃力も演算される。そして、図4のS7、S10、S13において、エアバッグ21b〜23bを膨張させる際に、対応する何れかの電磁三方弁53〜55をエア供給位置に切り換えて膨張させてから遮断位置にする。
このとき、S2で演算した衝撃力の「小」、「中」、「大」に応じてエアバッグ21b〜23bに供給する加圧エアの圧力を「小」、「中」、「大」に調節する。この場合、電磁三方弁53〜55をエア供給位置に保持する時間の長さを調節することで、加圧エアの圧力を調節することができる。なお、S17に相当するステップにおいては、膨張させたエアバッグ21b〜23bから排気してから、エアバッグ21b〜23bを元の位置に復帰させ、シートベルトbも元に戻す。このように、衝撃力の大きさに応じてエアバッグを膨張させる際の加圧エアの圧力を調節するので、乗員の移動、拘束を適切に行うことができる。
図13に示すように、この実施例3の運転席シート装置2Aは、シートクッション5Aとシートバック6Aとを有し、そのシートバック6Aの表皮材は、前記シートバック6の表皮材と同様に伸縮可能な生地で構成されている。乗員保護装置20Bとして、シートバック6Aの幅方向中央部には、独立の4つのエアバッグ61a〜61dが直列状に装備されている。シートバック6Aの左端寄り部位には、上下方向に細長い3つの独立のエアバッグ62a〜62cが併設状に装備され、シートバック6Aの右端寄り部位には、上下方向に細長い3つの独立のエアバッグ63a〜63cが併設状に装備されている。
図14に示すように、上記の乗員保護装置20Bの3群のエアバッグ61a〜61d、62a〜62c、63a〜63cに加圧エアを充填する加圧エア充填系として、コンプレッサ64と、このコンプレッサ64から加圧エアの供給を受けて所定圧の加圧エアを蓄圧するアキュムレータ65と、このアキュムレータ65から3群のエアバッグ61a〜61d、62a〜62c、63a〜63cの各エアバッグに加圧エアを供給するエア通路と、複数の分岐エア通路に夫々介装された複数の電磁三方弁66a〜66d、67a〜67c、・・であって前記電磁三方弁53〜55と同様の複数の電磁三方弁などを有する。
上記コンプレッサ64と複数の電磁三方弁66a〜66d、67a〜67c、・・は制御ユニット30Bにより制御されるが、この制御ユニット30Bは図3に図示のように、センサ類やカメラに接続されており、制御ユニット30と同様に衝突予知判定処理を行う。後突発生を予知した際には、エアバッグ61a〜61dを順に1つずつ膨張させることで、恰も膨張させたエアバッグを上方へ移動させるのと同様に挙動させる。即ち、最初にエアバッグ61aのみを膨張させ、次にエアバッグ61bのみを膨張させ、次にエアバッグ61cのみを膨張させ、最後にエアバッグ61dのみを膨張させる。
左側の側突発生を予知した場合には、エアバッグ62a〜62cを順に1つずつ膨張させることで、膨張させたエアバッグを側部から中央側へ移動させるのと同様に挙動させる。即ち、最初にエアバッグ62aのみを膨張させ、次にエアバッグ62bのみを膨張させ、最後にエアバッグ62cのみを膨張させる。右側の側突発生を予知した場合にも、エアバッグ63a〜63cを前記と対称に膨張させる。
但し、左側の側突の場合には、最初にエアバッグ62aを膨張させ、次に2つのエアバッグ62a,62bを膨張させ、最後に3つのエアバッグ62a,62b,62cを膨張させてもよい。このことは、右側の側突の場合におけるエアバッグ63a〜63cについても同様である。
ロールオーバーの発生を予知した場合には、最初にエアバッグ62a,63aを膨張させ、次にエアバッグ62b,63bのみを膨張させ、最後にエアバッグ62c,63cのみを膨張させる。但し、最初に2つのエアバッグ62a,63aを膨張させ、次に4つのエアバッグ62a,63a,62b,63bを膨張させ、最後に6つのエアバッグ62a〜62c,63a〜63cを膨張させてもよい。
この乗員保護装置20Bでは、シートバック6内に、膨張させたエアバッグ21b,22b,23bを移動させるためのワイヤ式移動駆動機構21A,22A,23Aなどのクッション性を損なうような部材や機構を組み込む必要がなく、3群のエアバッグ61a〜61d、62a〜62c、63a〜63cと、そのエア通路を組み込めばよいので、一般的なシート装置に適用可能で、汎用性と実用性に優れ、製作費の面でも有利である。
本発明の実施例1に係る自動車の概略平面図である。 シート装置とそこに組み込んだ乗員保護装置の正面図である。 乗員保護装置の制御系のブロック図である。 乗員保護制御のフローチャートである。 中央エアバッグを膨張させた状態を示す説明図である。 中央エアバッグを膨張させ上方移動させた状態を示す説明図である。 シート装置とセンサ類と乗員とシートベルトを示す説明図である。 側部エアバッグを膨張させた状態を示す説明図である。 側部エアバッグを膨張させ移動させた状態を示す説明図である。 両側の側部エアバッグを膨張させた状態を示す説明図である。 両側の側部エアバッグを膨張させ移動させた状態を示す説明図である。 実施例2のシート装置と乗員保護装置の構成図である。 実施例4のシート装置と乗員保護装置の斜視図である。 実施例4の乗員保護装置の構成図である。
1 自動車
2 シート装置
6 シートバック
7 シートベルト装置
20,20A,20B 乗員保護装置
21 中央エアバッグ装置
22,23 側部エアバッグ装置
21A,22A,23A ワイヤ式移動駆動機構
21b,22b,23b エアバッグ
30,30A,30B 制御ユニット
50,64 コンプレッサ
51,65 アキュムレータ
53,54,55 電磁三方弁
61a〜61c エアバッグ
62a〜62c エアバッグ
63a〜63c エアバッグ
66a〜66d 電磁三方弁
67a〜67c 電磁三方弁

Claims (6)

  1. 車両の衝突時に乗員を保護する車両用乗員保護装置において、
    車両の衝突発生とその衝突形態を予知する衝突発生予知手段と、
    シート装置のシートバック部内の下部に設けられ、前方へ突出しない通常状態と、前方へ突出して乗員の着座姿勢を修正する突出状態とに切り換え可能な突出部材と、
    前記衝突発生予知手段が衝突発生を予知した際に前記突出部材を通常状態から突出状態に切り換える切換え手段と、
    前記衝突発生予知手段が後突の発生を予知した際に、前記突出状態に切り換えられた突出部材を上方へ移動させる移動手段と、
    を備えたことを特徴とする車両用乗員保護装置。
  2. 前記突出部材は、インフレータに接続されたエアバッグであることを特徴とする請求項1に記載の車両用乗員保護装置。
  3. 前記衝突発生予知手段は、他車両と通信可能な車車間通信手段を備え、この車車間通信手段による車車間通信により得られる他車両との車間距離と相対速度から車両の衝突発生を予知することを特徴とする請求項1に記載の車両用乗員保護装置。
  4. シートベルト装置はモータプリテンショナーを備え、前記衝突発生予知手段により衝突発生が予知された際にシートベルトの巻き込みと同時又は巻込み開始後、前記切換え手段が突出部材を突出状態へ切り換える動作を開始することを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の車両用乗員保護装置。
  5. 乗員の体格と着座姿勢の少なくとも一方を検知可能な体格姿勢検知手段を有し、
    前記移動手段は、乗員の体格と着座姿勢の少なくとも一方に応じて前記突出部材を移動させる移動量を設定することを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の車両用乗員保護装置。
  6. 前記衝突発生予知手段は前記車間距離と相対速度から衝撃力を予測可能に構成され、
    前記切換え手段は前記突出部材の突出量を調節可能に構成され且つ衝突発生予知手段により予測された予測衝撃力に応じて前記突出部材の突出量を調節することを特徴とする請求項3に記載の車両用乗員保護装置。
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