JP4919556B2 - 歯車の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、歯車の製造方法に関し、さらに詳しくはクラウニング付き歯車を好適に製造できる歯車の製造に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般的に、歯車には歯すじ方向につけた歯のふくらみであるクラウニングが形成されている。クラウニングは各部のガタ、負荷時のたわみ等により、歯車対の歯当たりが片当たりすることを防止するために設けられる。一般に片当たりすると、歯の強度低下や歯車騒音の増大を招くことが多い。
【0003】
クラウニングが形成された歯車を製造する方法としては、クラウニングが形成されていない歯車を製造した後に、研削やシェービング等の機械的加工により、歯車にクラウニングを形成する方法や、特開平7−51788号公報に開示されたように、クラウニング付き歯車を塑性加工により製造する方法が行われている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、外面に歯が設けられている歯車(外歯歯車)については、以上のような従来技術で簡便にクラウニング付き歯車を製造することができるが、内面に歯が設けられている歯車(内歯歯車)については、従来技術の方法では簡便に高精度の歯車を製造することができなかった。特に内歯歯車を製造するための従来技術としては、特開平8−318345号公報に開示されたように、クラウニングが付いていない歯車を矯正金型で加工してクラウニング付き歯車とする方法があるが、高コストであり、簡便であるとは言い難かった。
【0005】
そこで、本発明の歯車の製造方法では、従来技術よりも簡便で低コストな歯車の製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する目的で本発明者等は鋭意研究を行った結果、歯車の製造工程において殆ど行われている歯車の熱処理に注目し、この熱処理と同時にクラウニングの形成を行うことでコストの上昇を最小限にすることに成功した。
【0007】
すなわち、本発明の歯車の製造方法は、少なくとも内面に歯が設けられている円筒状の原歯車に、該原歯車の円筒状外面と対向する内面の間隙が軸方向に異なった該内面をもつ拘束治具に同軸的に嵌合させる拘束工程と、該原歯車を加熱し熱膨張させて該原歯車の該外面を該拘束治具の該内面に押圧し、該原歯車の該外面が該拘束治具の該内面の形状に応じた形状となるように該原歯車を塑性変形変形して該内面の歯にクラウニングを付与する変形工程と、を有することを特徴とする(請求項1)。
【0008】
つまり、原歯車への熱処理時の熱膨張により原歯車の外面が拘束治具に押圧され、その拘束治具と原歯車との間隙の円筒軸方向での差に応じて原歯車が塑性変形を起こすことを利用している。たとえば、内歯歯車に対して本発明を適用する場合には、間隙の大きさを原歯車の円筒軸方向の中央部よりも両端部で大きくすることで、内歯にクラウニングを付けることができる(請求項2)。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の歯車の製造方法について実施例に基づき詳細に説明する。ここで、本発明の歯車の製造方法が適用できる歯車は、円筒状の歯車であって、平歯車、はす歯歯車等の公知の歯車であり、歯の形状については特に限定されない。また、歯が形成されている位置についても、外面、内面を問わず、さらには内外面の双方に設けられていてもよい。なお、本明細書における「円筒」とは、数学的に完全な円筒のみならず、「円錐又は円錐の一部を切り取った形状」をも含む概念である。そして、説明に使用する図面は概略図であって、縮尺や細部の構成については必ずしも正確なものではない。また、全体として異なるものであっても、個々の要素について同一の構成を採ると考えられるものには、説明の単純化のために同一の符号を付した。
【0016】
(実施例1)
本実施例の歯車の製造方法は、円筒状の原歯車に対して、拘束治具を嵌合させる拘束工程と、原歯車を塑性変形させる変形工程とをもつ。
【0017】
本製造方法における拘束工程の後、変形工程の前における原歯車21と、拘束治具11と、加熱手段31との位置関係について、図1及び図2(a)に示す。拘束治具11の原歯車が嵌合する位置(内面111)に原歯車21の外面211が原歯車21の円筒軸方向に大きさが変動する間隙Gを介して同軸的に嵌合されている。間隙Gの大きさは、図2に示すように、原歯車21の円筒軸方向の中央部から両端部に行くにつれて漸増している。なお、間隙Gの大きさは、特に必要がない限り、原歯車21の円筒周方向では一様、すなわち、原歯車21の円筒軸に対して回転対称である。
【0018】
間隙Gの大きさの円筒軸方向の変動は原歯車21の外面211の形状を太鼓状とすることで調節している。したがって、拘束治具11の内面111は円筒状である。間隙Gの差(一番小さい間隙Gと一番大きな間隙Gとの差、以下同じ)の大きさは、最終的に製造される歯車に必要なクラウニングの大きさや、後述する変形工程での原歯車21への加熱温度等により変化する値であるが、一般的な歯車に必要なクラウニング(大きさ数μm)を付与するために必要な間隙Gの差の大きさは加熱条件、素材の種類等によっても異なるが、最大値として数mm程度である。
【0019】
拘束治具11は、原歯車21が間隙Gを介して嵌合する内面111と、原歯車21の拘束治具11内での円筒軸方向の位置を定める位置決め部112とを介して原歯車21を嵌合できる部材である。したがって、拘束治具11の内面111については、原歯車21の外面211の形状に依存するが、拘束治具11の外面の形状については特に限定しない。本実施例では内面111と同様に拘束治具11の外面も円筒状である。なお、拘束治具11は、後述する変形工程において、内面111が原歯車21の外面211により高圧で押圧されることから耐久性を考慮することが好ましい。
【0020】
原歯車21は、前述のように、円筒軸の中央部ほど膨らんだ太鼓状の外面211をもつ。この原歯車21の外面211の形状は、金型での矯正や研削及びシェービングなどの機械的加工により製造することができる。円筒の外面に対する加工であるので前述の課題の欄で述べたような加工上の問題は少ない。また、原歯車21の外面211を太鼓状とするには、原歯車21を粉末成型や型鍛造などの塑性加工で製造することでも達成可能である。成形品を型から抜き出すときの応力緩和により成型された原歯車21の外面がしごき加工されることで、外面211の形状が太鼓状とできる。これは、特に粉末成型において顕著であり、本実施例で用いる原歯車21は粉末成形品であることが好ましい。そして原歯車21の内面には歯が形成されており、その歯の形状は円筒軸方向にほぼ一様でありクラウニングが付与されていない。
【0021】
変形工程は原歯車21の内面を所定温度にまで加熱する工程である。ここで、所定温度とは、原歯車21の外面211が熱膨張により拘束治具11に押圧され、原歯車21が塑性変形するに至る温度以上とする。また、変形工程は、通常行われる歯車の歯面に対する熱処理をも兼ねることがコスト削減の観点から好ましいので、必要な熱処理が行われる温度とするとよい。一般的に高周波焼き入れ用歯車に用いられる素材であるS45Cを用いた歯車を例に挙げて説明すると、所定温度は、800〜900℃程度が好ましい。また、加熱時間も、原歯車21の素材の種類や、必要な熱処理の種類によって変化する値であるが、1.0〜5.0秒程度の間、原歯車21の内面の温度が所定温度以上に保持されるように選択されることが好ましい。
【0022】
加熱手段31は、原歯車21の内面を所定温度にまで加熱できる手段であれば特に限定しないが、高周波誘導加熱であることが好ましい。加熱手段に流す電流値、周波数等の値により容易に、加熱温度、加熱時間、加熱深さを調節することができるからである。なお、本実施例では、原歯車21の内面を概ね均一に加熱できることが好ましいので、加熱手段31は原歯車21の円筒軸方向の長さよりも大きくして加熱を均等とすることが好ましい。また、図示しないが冷却手段を設けて原歯車21を加熱した後に急冷することで原歯車21の熱処理を効果的に遂行できる。
【0023】
以上のような構成をもつことから本実施例の製造方法は以下の作用効果をもつ。まず、製造された原歯車21は、その外面211と、拘束治具11の内面111との間に間隙Gを介して嵌合される(拘束工程)。原歯車21は拘束治具11の位置決め部112に側面が当接することで、拘束治具11内での原歯車21の円筒軸方向の位置が決定される。その後、加熱手段31により内面から原歯車21を加熱する。このときに、原歯車21の内面から必要な深さにまで所定温度以上に加熱されることで、原歯車21が熱膨張する。熱膨張は主に原歯車21の円筒周方向に生起し、その結果、原歯車21の外径が大きくなる。原歯車21は、ほぼ一様に加熱されるので、外径の膨張も円筒軸方向でほぼ一様であると考えられるが、原歯車21の外面211と拘束治具11の内面111との間隙Gが円筒軸方向に一様でないので、最初に間隙Gの大きさが小さい円筒軸中央部付近で原歯車21の外面211と拘束治具11の内面111とが当接する。
【0024】
原歯車21は拘束治具11と当接した後もその外径が大きくなる方向に応力が加わるように加熱温度、加熱時間及び加熱範囲が設定されている。その応力による変形で原歯車21の変形は弾性変形域を超え塑性変形域にまで達し、その後に加熱を終えた後にも原歯車21には恒久的な変形を残し目的とする歯車91が得られる(図2(b))。この変形は、間隔Gが最も小さい原歯車21の円筒軸中央部付近が最も大きく、結果として原歯車21の内面に設けた歯に対するクラウニングとなる(変形工程)。ここで、原歯車21の加熱後に急冷する冷却工程を設けることで鉄鋼材料などではマルテンサイト化が進行し歯面に対する熱処理も行える。
【0025】
なお、図2(a)における原歯車21の太鼓状の外面及び図2(b)における歯車91の変形は、容易に認識できるように実際の変形を誇張して描写している。また、以下の図3、図4、図5、図6においても同様に実際のものから適宜変形して描写している。
【0026】
(実施例1の変形態様1)
実施例1の製造方法で用いた拘束治具11に代えて、図3(a)に示す拘束治具12を用いる。拘束治具12に合わせて原歯車21の形態も図3(a)に示す原歯車22とする。その他の要素は実施例1と同様である。
【0027】
拘束治具12は、原歯車22の外面221と当接する内面121の原歯車22の円筒軸中央部付近に突出部1211をもつ。この突出部1211は拘束治具12の内面121に原歯車22の円周方向に連続して設けられている。突出部1211が拘束治具12の内面121から突出する高さ(すなわち、前述するところの間隙の差)は最終的に原歯車22に対して要求される変形(クラウニングの大きさ)及び突出部1211の原歯車22の円筒軸方向の幅に応じて決定される。突出部1211の高さは概ね0.1〜5.0mm程度である。なお、突出部1211の原歯車22の円筒軸方向の幅は、小さいほど原歯車21を変形させる効果が大きい。
【0028】
原歯車22は、その外面221の形状がほぼ円筒状であり、実施例1の原歯車21のように太鼓状とはなっていない。図3(a)の断面図では外面221はほぼ直線で示される。
【0029】
以上のように構成される結果、変形工程で原歯車22の内面が加熱されると、実施例1と同じく原歯車22が熱膨張して原歯車22の外面221が拘束治具12の内面121に当接する。そのときに最初に原歯車22の外面221が当接するのは拘束治具12の内面121の突出部1211である。したがって、原歯車22はその円筒軸中央部付近の突出部1211と当接する付近が両端部よりもより多く変形される結果、原歯車22の変形は弾性変形域を超え塑性変形域にまで達する部分が生じ、その後に加熱を終えた後にも原歯車22には恒久的な変形を残し内歯にクラウニングを付けた目的とする歯車92が得られる(図3(b))。
【0030】
(実施例1の変形態様2)
実施例1の製造方法で用いた拘束治具11に代えて、図4(a)に示す拘束治具13を用いる。拘束治具13に合わせて原歯車21の形態も図4(a)に示す変形態様1で用いた原歯車22とする。その他の要素は実施例1と同様である。
【0031】
拘束治具13は、原歯車22の外面221と当接する内面131の原歯車22の円筒軸中央部ほど突出した太鼓状の形状をもつ。その結果、原歯車22の外面221と拘束治具13の内面131との間隙は原歯車22の円筒軸中央部から両端部に行くにつれて漸増する。原歯車22の外面221と拘束治具13の内面131との間隙の差は最終的に原歯車22に対して要求される変形(クラウニングの大きさ)に応じて決定されるが、最大値として概ね0.1〜5.0mm程度である。
【0032】
以上のように構成される結果、変形工程で原歯車22の内面が加熱されると、実施例1と同じく原歯車22が熱膨張して原歯車22の外面221が拘束治具13の内面131に当接する。そのときに原歯車22の外面221と拘束治具13の内面131との間隙が円筒軸方向に一様でないので、最初に間隙の大きさが小さい円筒軸中央部付近で原歯車22の外面221と拘束治具13の内面131とが当接する。
【0033】
原歯車22は加熱により拘束治具13と当接した後もその外径が大きくなる方向に応力が加わる。その応力による変形で原歯車22の変形は弾性変形域を超え塑性変形域にまで達し、その後に加熱を終えた後にも原歯車22には恒久的な変形を残し目的とする歯車93が得られる(図4(b))。この変形は、原歯車22の円筒軸中央部付近が最も大きく結果として原歯車22の内面に設けた歯に対するクラウニングとなる。
【0034】
(実施例1の変形例3)
本実施例では、原歯車21の形状は、内面のみに歯をもつ内歯歯車であったが、その他にも外面211に歯をもつものであっても良い。その場合に内面にも歯をもつことは任意である。原歯車21の外面211に歯をもつ場合には、拘束治具11の内面111の形状を原歯車21の外面211の形状(歯形)に合わせた形状とすることもできるし、原歯車21の外面211に設けられた歯の歯先が接する包絡面とすることもできる。
【0035】
外面にも歯をもつ原歯車を用いる場合には、原歯車を変形させたい方向に合わせて原歯車の外面と拘束治具の内面との間隙の大きさを変化させる。間隙が小さい部分ほど、間隙が大きい部分と比較して、より大きな塑性変形を受ける。
【0036】
(実施例2)
本実施例の歯車の製造方法は、原歯車を塑性変形させる変形工程をもつ。
【0037】
本製造方法における変形工程を図5に基づいて説明する。原歯車22は、その内面に歯が形成されており、円筒状の形状をもつ。その歯の形状は円筒軸方向でほぼ一様でありクラウニングが付与されていないが、特にその形状が限定されるものではない。また、特にその製造方法、材質等に限定はないが、熱処理により焼きが入ることが必要である。
【0038】
変形工程は原歯車22の内面222に焼きを入れる工程である。焼き入れの深さは原歯車22の円筒軸方向の両端部が中央部よりも深く行われる。内面222への焼き入れは、原歯車22の内面222を所定温度にまで加熱することで行われる。さらに、必要に応じてその後に冷却する工程をも含む。ここで、所定温度とは、原歯車22の内面222に焼きが入る温度である。一般的に歯車に汎用されるS45C系の素材では800〜900℃程度であり、その後に急冷する工程を含む。加熱時間は、原歯車22の素材の種類や、必要な熱処理の種類によって変化する値であるが、1〜5秒程度の間、原歯車22の内面の温度が所定温度以上に保持されるように選択されることが好ましい。
【0039】
加熱手段32は、原歯車22の内面を所定温度にまで加熱できる手段であれば特に限定しないが、高周波誘導加熱であることが好ましい。加熱手段に流す電流値、周波数等の値により容易に、加熱温度、加熱時間、加熱深さを調節することができるからである。そして加熱手段32は原歯車22の内面222の円筒軸方向の両端部ほど深く焼き入れするために、その両端部ほどより深い部位まで所定温度以上に加熱する。加熱手段32が高周波誘導加熱装置であるときには、誘導コイルからなる加熱手段32と内面222との距離によって焼き入れ深さを調節可能である。具体的には加熱手段32と内面222との両端部での距離を中央部での距離よりも近接させる。
【0040】
以上のような構成をもつことから本実施例の製造方法は以下の作用効果をもつ。まず、製造された原歯車22に対してその内面222から加熱する。所定温度にまで加熱される内面222からの加熱深さは、原歯車22の円筒軸方向の両端部が中央部よりも深いのでより深い部位まで焼きが入ることとなる。原歯車22に焼きが入った部分の素材の結晶構造が変化する。たとえば、鉄系材料ではマルテンサイト化に伴う結晶構造の変化により焼き入れ前よりもその体積が膨張する。したがって、焼きがより深く入った円筒軸方向両端部ほど膨張が大きくなる結果、原歯車22の外径及び内径が円筒軸方向で変動し、内面に設けられた歯にクラウニングが付与された歯車94となる。また、原歯車22の内面222(歯面)への焼き入れを行うことから同時に歯面の強化もできる。
【0041】
(実施例2の変形態様)
本変形態様の歯車の製造方法は、実施例2の製造方法に対して、その変形工程の前に、円筒状の原歯車に対して、拘束治具を嵌合させる拘束工程をもつ。
【0042】
本製造方法における拘束工程の後、変形工程の前における原歯車22と、拘束治具11と、加熱手段33との位置関係について、図6(a)に示す。拘束治具11の原歯車が嵌合する位置(内面111)に原歯車22の外面221がほぼ間隙なく同軸的に嵌合されている。
【0043】
拘束治具11は、原歯車22が嵌合する内面111と、原歯車22の拘束治具11内での円筒軸方向の位置を定める位置決め部112とを介して原歯車22を嵌合できる部材である。したがって、拘束治具11の内面111については、原歯車22の外面221の形状に依存するが、拘束治具11の外面の形状については特に限定しない。本実施例では内面111と同様に拘束治具11の外面も円筒状である。なお、拘束治具11は、後述する変形工程において、内面111が原歯車22の外面221により高圧で押圧されることから耐久性を考慮することが好ましい。
【0044】
また、実施例2の加熱手段32に代えて加熱手段33を用いる。加熱手段33は、その形状が原歯車22の円筒軸方向の厚みの半分程度の厚みであり、その配設位置が原歯車22の円筒軸方向中央部付近であること以外は実施例2で説明した加熱手段32と同様である。その結果、原歯車22の円筒軸方向中央部付近をより深く加熱できる。
【0045】
以上のような構成をもつことから本変形態様の製造方法は以下の作用効果をもつ。まず、製造された原歯車22は、その外面221と、拘束治具11の内面111との間に嵌合される(拘束工程)。原歯車22は拘束治具11の位置決め部112に側面が当接することで、拘束治具11内での原歯車22の円筒軸方向の位置が決定される。その後、加熱手段33により内面から原歯車22を加熱する。このときに、原歯車22の内面222から必要な深さにまで焼きが入ることで、原歯車22が膨張する。この膨張は主に原歯車22の円筒周方向に生起し、その結果、原歯車22の外径が大きくなる。原歯車22は、その円筒軸方向中央部付近ほど深く焼きが入れられるので、外径の膨張も円筒軸方向中央部付近で大きくなると考えられるが、原歯車22の外面221が拘束治具11の内面111と、ほぼ間隙なく嵌合しているので、その膨張が抑制される結果、原歯車22の変形が弾性変形域を超え塑性変形域にまで達し、原歯車22には恒久的な変形を残し目的とする歯車95が得られる(図6(b))。この変形は、原歯車22の円筒軸中央部付近が最も大きく結果として原歯車22の内面に設けた歯に対するクラウニングとなる。
【0046】
(実施例2の変形態様2)
本実施例では、原歯車22の形状は、内面のみに歯をもつ内歯歯車であったが、その他にも外面221に歯をもつものであっても良い。その場合に内面にも歯をもつことは任意である。原歯車22の外面221に歯をもつ場合には、焼きを入れる深さを適正に変化させる必要がある。
【0047】
(実施例3)
本実施例の製造方法は、変形工程における原歯車22の内面への加熱を焼き入れの有無に関係なく行う点を除いて、実施例2の変形態様1とほぼ同様の構成を有する。
【0048】
したがって、本実施例の製造方法によると、原歯車の素材が焼きが入らない、又は目的とする歯車に焼きを入れたくない場合であっても、加熱による熱膨張のみで実施例2の変形態様1と同様のクラウニングを付けた歯車を得ることができる。
【0049】
(実施例3の変形態様1)
本実施例では、原歯車22の形状は、内面のみに歯をもつ内歯歯車であったが、その他にも外面221に歯をもつものであっても良い。その場合に内面にも歯をもつことは任意である。原歯車22の外面221に歯をもつ場合には、加熱する深さを適正に変化させる必要がある。
【0050】
(試験例)
図1に示したような装置を用い、実施例1の方法で歯車を製造した。全幅22mm、外径Φ135.0mmのはす歯の内歯をもつ原歯車21(モジュール1.3、BBD:ビトウィーンボール径Φ102.1mm)を粉末成型により形成した。原歯車21は、図7に示すように、ワーク上端面からの距離に対する外径の値からも明らかなように、幅方向の中央部ほど径が大きい太鼓状であった。そして、図8に示す歯すじプロファイルや、図9に示すBBDの値の結果から、原歯車21に形成されている歯の歯すじは、ほぼ直線であり、クラウニングは付与されていない。これは、原歯車21が粉末成型により形成されたために原歯車21を型抜きする際にしごき加工されて外面が太鼓状となったものである。
【0051】
この内歯車21を内径Φ135.3mmの治具11内に嵌合させ(拘束工程)、周波数40kHz、出力100kW、4.2秒間加熱を行った後、9.0秒間水系冷却剤で冷却した(変形工程)。
【0052】
その結果製造された歯車は、外径が図10に示すように、当初の太鼓状から反対の形状に変形しており、それに対応して図11に示すBBDも中央部が両端部よりも歯厚方向に突出している。また、図12に示す製造された歯車の歯すじプロファイルからも中央部が両端部よりもふくらんでおり、クラウニングが付与されていることがわかる。
【0053】
これは、原歯車21の外面に存在した太鼓状のふくらみが治具11の内面に押圧されることで原歯車21がその太鼓状のふくらみと反対の方向に塑性変形を起こした結果、外面と反対側の内面に存在する内歯にもその塑性変形が及んだものと考えられる。
【0054】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明の歯車の製造方法では、従来から行われている熱処理と同様の簡便な操作により、クラウニング等の複雑な加工を歯車に付与することができる簡便で低コストな歯車の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1及び試験例の製造方法を説明する概略図である。
【図2】図1のII−II断面図である。
【図3】実施例1の変形態様1の製造方法を説明する概略図である。
【図4】実施例1の変形態様2の製造方法を説明する概略図である。
【図5】実施例2の製造方法を説明する概略図である。
【図6】実施例2の変形態様1と実施例3との製造方法を説明する概略図である。
【図7】試験例における原歯車の外径を示した図である。
【図8】試験例における原歯車の歯すじプロファイルを示した図である。
【図9】試験例における原歯車のBBDを示した図である。
【図10】試験例における製造された歯車の外径を示した図である。
【図11】試験例における製造された歯車のBBDを示した図である。
【図12】試験例における製造された歯車の歯すじプロファイルを示した図である。
【符号の説明】
11、12、13…拘束治具
21、22…原歯車 211、221…外面 222…内面
G…間隙
31、32、33…加熱手段
91、92、93、94、95…歯車

Claims (2)

  1. 少なくとも内面に歯が設けられている円筒状の原歯車に、該原歯車の円筒状外面と対向する内面の間隙が軸方向に異なった該内面をもつ拘束治具に同軸的に嵌合させる拘束工程と、
    該原歯車を加熱し熱膨張させて該原歯車の該外面を該拘束治具の該内面に押圧し、該原歯車の該外面が該拘束治具の該内面の形状に応じた形状となるように該原歯車を塑性変形して該内面の歯にクラウニングを付与する変形工程と、を有することを特徴とする歯車の製造方法。
  2. 前記原歯車は、内面に歯が設けられており、
    前記間隙は、該原歯車の円筒軸方向の中央部よりも両端部で大きい請求項1に記載の歯車の製造方法。
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