JP4911444B2 - リチウム二次電池用負極材料及びその製造方法 - Google Patents

リチウム二次電池用負極材料及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、リチウム二次電池用負極材料及びその製造方法に関する。
リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池等のリチウム二次電池は、高いエネルギー密度を有しており、近年、移動体通信機器、携帯用電子機器等の主電源として利用が拡大している。
リチウム二次電池の負極としては、従来、黒鉛、結晶化度の低い炭素等の各種炭素材料が広く用いられている。しかしながら、炭素材料からなる負極は、使用可能な電流密度が低く、理論容量も不十分である。例えば、負極に炭素材料の一つである黒鉛だけを用いた場合には、理論容量が372mAh/gと少ないため、より一層の高容量化が望まれている。
これに対して、リチウム金属を負極材料とする場合には、高い理論容量が得られることが明らかとなっている。しかしながら、リチウム金属を用いる場合には、充電時に負極にデンドライトが析出するため、充放電を繰り返すことによりデンドライトが正極側に達して内部短絡が起きるというという問題がある。また、内部短絡を生じる以前にも、デンドライトは比表面積が大きいために反応活性度が高く、その表面に溶媒の分解生成物からなる電子伝導性のない界面被膜が形成されることにより、電池の内部抵抗が高くなって充放電効率の低下が生じる。このような理由により、負極にリチウム金属を用いるリチウム二次電池は、信頼性が低く、結果的にサイクル寿命が短いという問題があり、広く実用化される段階には達していない。
このような背景から、汎用の炭素材料よりも放電容量の大きい物質であり、リチウム金属以外の材料からなるリチウム二次電池用負極材料の開発が望まれている。例えば、錫、珪素等の元素、これらの窒化物、酸化物等は、リチウムと合金を形成してリチウムを吸蔵することができ、その吸蔵量は炭素材料よりはるかに大きいため、これらの物質を含む合金負極の開発が提案されている。
しかしながら、これらの物質を負極材料とする場合にも、充放電サイクルを繰り返すうちに、リチウムの吸蔵・放出に伴って電極の大きな膨張・収縮が生じ、電極自体が瓦解するおそれがある。
その対策として、リチウムを吸蔵・放出し易い金属と、吸蔵・放出を行わない金属とからなる合金を負極材料とすることが試みられている。このような合金によれば、リチウムの吸蔵・放出を行わない金属が介在することにより電極の膨潤、微細化等を抑制できると考えられている。また、当該合金により炭素材料表面に導電性を付与することにより、充放電効率を向上させることができるとも考えられている。
例えば、下記特許文献1には、珪素を主成分とし、これに銅を固溶させた活物質薄膜が開示されている。この薄膜は、珪素単体と比べてリチウム吸蔵量が制限されており、このため体積膨張が抑制されて集電体から活物質薄膜が剥離するのを防止でき、その結果、充放電サイクル寿命を向上させることができるとされている。しかしながら、特許文献1では、10サイクル後の放電容量が初期に比べて50%と改善されているものの、長期サイクルでの容量が公表されていない。従って、特許文献1には、長期サイクル容量が低下するという課題のある合金系負極の長期サイクル容量を向上させる手段は何ら示されていない。
下記特許文献2には、活物質層の集電体層と反対側の面上に、リチウムと合金化しない金属からなる表面被覆層またはリチウムと合金化しない金属とリチウムと合金化する金属との合金からなる表面被覆層を設けてなる負極が開示されている。この負極では、活物質層の表面と電解液との反応を表面被覆層により抑制することができ、充放電サイクル特性を向上させることができるとされているが、特許文献2についても、充放電が10サイクル後の放電容量が初期に比べて50%と改善されているものの、長期サイクルでの容量が公表されておらず、合金系負極についての長期サイクル容量を向上させる手段は示されていない。
下記特許文献3には、集電体上に形成される界面層と、その界面層上に形成される活物質層とから構成される活物質薄膜が開示されている。この活物質薄膜は、界面層がスッパタリング法により形成され、活物質層が蒸着法により形成されており、集電体の強度を劣化させることなく、効率的に生産でき、界面層が存在することにより充放電サイクル特性が向上するとされている。しかしながら、特許文献3では、同一装置内で、界面層がスパッタリング法により形成され、その後活物質層が電子ビーム蒸着法により形成されているが、それぞれの圧力は、スパッタリング雰囲気が0.1Paであり、蒸着雰囲気が10−4Pa以下とされており、実現するのは現実的に困難である。しかも、特許文献3の実施例では、1、5、20サイクルでの容量が示されているが、長期サイクルでの容量は示されておらず、合金系負極の長期サイクル容量を向上させる手段は何も示されていない。
特開2002−289177号公報 特開2002−289178号公報 特開2002−289181号公報
本発明は、上記従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、従来の合金系負極の製造方法と比較して容易に製造でき、しかも、高い放電容量を維持しつつ、優れたサイクル特性を発揮できる新規なリチウム二次電池用負極材料を提供することにある。
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、箔状の集電体層上に、Si元素と特定の元素からなる非晶質被膜であって、組成比が周期的に変化する周期構造を有する複合皮膜を形成した材料は、上記目的を達成し得る優れた性能を有する負極材料であることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、下記のリチウム二次電池用負極材料及びその製造方法を提供するものである。
1. Fe、Ni及びCuからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素からなる箔状の集電体と該集電体の片面又は両面に形成された複合皮膜とを含む材料であって、該複合皮膜が下記(1)〜(3)の条件を満足する皮膜であることを特徴とするリチウム二次電池用負極材料:
(1)Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素からなるA成分とSi元素とからなり、
(2)複合皮膜全体におけるA成分とSi元素の割合が、両者の合計量を100原子%として、A成分5〜55原子%とSi元素95〜45原子%であり、
(3)該複合皮膜は、非晶質構造であって、A成分とSi元素の組成比が厚さ方向に3〜30nmの周期で変化する周期構造である。
2. A成分が、Cr及びNbからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である上記項1に記載のリチウム二次電池用負極材料。
3. 複合皮膜の膜厚が0.5〜10μmである上記項1又は2に記載のリチウム二次電池用負極材料。
4. 複合皮膜上に、C、Al、Cu、Ag及びAuからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分からなる導電層を有する上記項1〜3に記載のリチウム二次電池用負極材料。
5. Fe、Ni及びCuからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素からなる箔状の集電体の片面又は両面に、
Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素からなるA成分とSi元素を、別々の材料又はA成分とSi元素との合金として用いて、真空蒸着法によってA成分とSi元素を同時に蒸着させて複合皮膜を形成し、上記項1〜3のいずれかに記載されたリチウム二次電池用負極材料とすることを特徴とする、
リチウム二次電池用負極材料の製造方法。
6. Fe、Ni及びCuからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素からなる箔状の集電体の片面又は両面に、
Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素からなるA成分とSi元素を、(1)A成分とSi元素を別々のターゲット材料とする方法、(2)A成分とSi元素の合金をターゲット材料とする方法、及び(3)A成分とSi元素からなる合金とSi元素をターゲット材料とする方法、のいずれかの方法で、同時にスパッタリングして複合皮膜を形成し、上記項1〜3のいずれかに記載されたリチウム二次電池用負極材料とすることを特徴とする、
リチウム二次電池用負極材料の製造方法。
7. 複合皮膜を形成する際に、箔状の集電体が30℃以下に冷却されていることを特徴とする上記項5又は6に記載のリチウム二次電池用負極材料の製造方法。
8. 複合皮膜を形成する前に、イオンボンバード又はArプラズマにより箔状の集電体にエッチング処理を施すことを特徴とする上記項5〜7のいずれかに記載のリチウム二次電池用負極材料の製造方法。
9. 上記項5〜8のいずれかの方法によって箔状の集電体の片面又は両面に複合皮膜を形成した後、形成された複合皮膜の表面に、湿式法又は乾式法によって、C、Al、Cu、Ag及びAuからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分からなる導電層を形成することを特徴とするリチウム二次電池用負極材料の製造方法。
本発明のリチウム二次電池用負極材料は、Fe、Ni及びCuからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素からなる箔状集電体と該集電体の片面又は両面に形成された複合皮膜を含む材料である。
本発明のリチウム二次電池用負極材料では、集電体としては、Fe、Ni及びCuからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素からなる箔状材料を用いるる。該箔状材料は、Fe、Ni及びCuの各金属単体又はこれらの金属の合金からなるものであり、その厚さは、特に限定的ではないが、通常、8〜35μm程度であることが好ましく、9〜18μm程度であることがより好ましい。
該集電体の片面又は両面に形成される複合皮膜は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素からなるA成分とSi元素とからなるものである(条件(1))。A成分は、特に、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であることが好ましく、V、Cr、Fe、Co、Ni及びNbからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であることがより好ましい。A成分は、Liと反応し難い元素であり、Liと反応して化合物を形成するSiと組み合わせて、後述するナノメーターレベルでの周期的な積層構造を形成すると、Liと反応しないA元素のナノ層の緩衝効果により、Li吸蔵時のSiの体積変化を有効に緩和でき、サイクル寿命の向上に顕著な効果がある。また、A成分中で、特にCr及びNbは、初期充放電時に電解液の分解を促進し難いために、電解液との反応から生じる初期不可逆容量を低減する観点からは、特に優れている。Cr及びNbをSiと組み合わせた場合、初期不可逆容量は、5%以下に低減でき、数サイクル後の充放電効率は99%以上にできる。
該複合皮膜全体におけるA成分とSi元素の割合は、両者の合計量を100原子%として、A成分5〜55原子%とSi元素95〜45原子%であることが必要であり(条件(2))、A成分10〜50原子%とSi元素90〜50原子%であることが好ましい。
上記した組成範囲とすることによって、リチウム二次電池負極材料として用いる場合に、充電によるリチウム吸蔵時に、リチウム系化合物LixASi相を主に生成させることができる。この相は、LixASiにおいて、x=1.5〜5の範囲で合金の分相がなく、しかも非晶質構造を維持して、リチウムを吸蔵することが可能である。その結果、リチウム吸蔵時の体積変化を抑制するのに有効であり、高容量を維持しつつ、良好な充放電サイクル特性にすることができる。
これに対して、A成分が5原子%未満でSi元素が95原子%を超えると、Si元素のみの場合と同様に、充放電サイクル初期の放電容量は大きくなるが、サイクル特性の劣化を抑制することができない。また、A成分が55原子%を超えSi元素が45原子%未満であると、充放電サイクル特性を良好に維持できるが、Siのもつ高容量特性を発現できず、放電容量が低くなるので好ましくない。
上記複合皮膜層では、複合皮膜層の厚さは0.5〜10μmの範囲にあることが好ましく、0.6〜5μmの範囲にあることがより好ましい。実際の電池電極とした場合、2mAh/cm以上の容量を維持するためには、材料系にもよるが、通常、0.5〜10μmの範囲にある複合皮膜層の厚みが必要になる。一方、10μmを超える厚さをもつように複合皮膜を形成することは、生産効率を悪くするだけでなく、充放電に伴う体積変化が大きくなり、有効なサイクル特性が得られなくなるので好ましくない。
上記した複合皮膜層は、非晶質構造であって、A成分とSi元素は、組成比が厚さ方向に3〜30nmの範囲の周期で変化する周期構造を有するものである(条件(3))。即ち、A成分とSi元素の組成比は、該複合皮膜の厚さ方向にA成分の比率が極大値から徐々に減少して極小値となった後、徐々に増加してA成分の比率が極大値となり、この極大値から極大値の範囲を1周期として、3〜30nm程度の周期で同様な増減を繰り返す周期構造である。この場合、各周期におけるA成分の極小値及び極大値は、常に一定ではなく、各周期によって異なる値となることがあるが、複合皮膜の全体としての組成は、上記した成分5〜55原子%とSi元素95〜45原子%の範囲内である。この様な周期構造は、透過型電子顕微鏡による観察によれば、縞状模様として観察される。この様な非晶質構造であって、周期的な組成変化を示す複合皮膜は、従来知られていない新規な皮膜である。
本発明のリチウム二次電池用負極材料では、上記した特定の構造を有する複合皮膜を集電体上に形成することが必要である。該複合皮膜は、集電体の片面又は両面に形成することができる。片面のみに形成する場合には、電解質と接触する側に形成すればよい。
この周期構造は親和性のない2種類の原子の分散性を高め、かつ界面エネルギーを最小にする構造であると考えられる。この皮膜の成長方向は、集電体にほぼ垂直方向に、集電体から放射状の不規則なコントラストがみられ、デンドライト構造になっている。これは薄膜の表面積を増加させる効果があると考えられる。このような、ナノメーター(nm)レベルの周期構造をもつ複合皮膜を負極材料として用いることによって、充電時には、複合皮膜材料全体が容易にリチウムと化合してリチウムを吸蔵することができ、その後、放電時にはリチウム放出することができる。さらに非晶質構造であるために、充放電時の体積変化を緩和し、複合皮膜層の微粉化を抑制し、サイクル特性を良好に維持できる。特に、Liと反応し難いA成分と、Liと反応し易いSi成分とからなるナノメーターオーダーの縞状模様として観察される周期構造の形成が、サイクル寿命の向上に効果がある。これは、充電時にLiと反応してLiSiを生成すると3倍程度の体積膨張を生じるSiに対して、Liと反応しないA元素が組み合わされており、A成分の比率が、極大値から極大値の範囲を1周期として、3〜30nm程度の周期で同様な増減を繰り返す周期構造であるために、複合皮膜全体の体積変化を緩和させることができるためであるものと考えられる。
また、上記した複合皮膜では、初充電(リチウム吸蔵)時にリチウムを含む化合物が形成され、次の放電(リチウム放出)時に、元の複合合金材料に戻るが、一部はリチウムを含む不可逆な化合物として残存する。これにより、リチウムの吸蔵・放出がこのリチウムを含む化合物を介して行われ、初充電(1回目)に形成した不可逆なリチウム化合物が骨格として存在し、2回目以後の充放電では、このリチウム化合物中にリチウムが吸蔵・放出することで、充放電による体積変化を緩和し、微粉化を抑制し、電極の劣化を防止してサイクル特性寿命の向上が実現できる。この様に、本発明の負極材料では、リチウムの吸蔵放出過程がリチウム化合物LixASiを経て行われることが重要である。この化合物が形成される場合には、体積増加が非常に少なくなり、電極の膨潤や微細化による容量低下が抑制されてサイクル寿命が向上するものと思われる。
この様に、本発明の負極材料における反応機構は、単にリチウムを吸蔵・放出する金属と吸蔵・放出しない金属とからなる合金からなる負極とは全く異なるものであり、その結果、放電容量が高く、充放電に伴う劣化が少なく、リチウム電池用負極材料として用いた場合に、高い放電容量と優れたサイクル特性を両立することができると考えられる。
本発明のリチウム二次電池用負極は、箔状集電体の片面又は両面に、上記した(1)〜(3)の条件を満足する複合皮膜を形成することによって製造できる。
上記した条件を満足する複合皮膜は、例えば、下記のスパッタリング法、真空蒸着法などの乾式法によって形成することができる。
例えば、真空蒸着法で作製する場合には、蒸着用材料としては、A成分とSi元素を別々の材料として用いるか、或いは、A成分とSi元素からなる合金を用いることができる。これらの蒸着用材料をルツボに入れて、同時に真空蒸着を行うことによって、上記した条件を満足する複合皮膜を製造することができる。この場合、特に、加熱源が電子ビームである場合には、十分な蒸発エネルギーを与えることができ、0.1μm/分以上の成膜速度にすることができる。尚、A成分として2種類以上の成分を用いる場合には、A成分の各元素を別々の材料としてもよく、或いは、A成分を合金化した材料としてもよい。
蒸着用材料として、A成分とSi元素の合金を用いる場合には、合金の種類としては、A成分5〜55原子%とSi元素95〜45原子%の範囲内であれば特に限定なく使用できる。例えば、TiSi、VSi、CrSi、Mn11Si19、FeSi、CoSi、NiSi、CuSi、YSi、ZrSi、ZrSi、NbSi、MoSiの等の各種合金材料を用いることができる。
また、スパッタリング法で作製する場合には、ターゲット材料としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素からなるA成分とSi元素を用いる。この場合、(1)A成分とSi元素を別々のターゲット材料とする方法、(2)A成分とSi元素の合金をターゲット材料とする方法、及び(3)A成分とSi元素からなる合金とSi元素を別々のターゲット材料とする方法、のいずれかの方法によって、A成分とSi元素を同時にスパッタリングすることによって、上記した条件を満足する複合皮膜を作製することができる。尚、A成分として2種類以上の成分を用いる場合には、A成分の各元素を別々のターゲットとしてもよく、或いは、A成分を合金化したものをターゲットとしても良い。
ターゲット材料としてA成分とSi元素の合金を用いる場合には、合金の種類としては、蒸着用原料の場合と同様に、A成分5〜55原子%とSi元素95〜45原子%の範囲内の合金であれば特に限定なく使用できる。
上記したスパッタリング法と真空蒸着法の何れの方法を採用する場合にも、複合皮膜を形成する基板となる箔状集電体は、30℃以下に冷却されていることが好ましい。30℃以下に冷却された集電体上に複合皮膜を形成する場合には、複合皮膜の各成分が瞬時に固化して堆積し、前述した非晶質であって周期構造を有する皮膜が形成される。これに対して、集電体が冷却されていない場合には、皮膜の形成中に集電体の温度が上昇して、複合皮膜の固化時間が長くなり、複合皮膜中で各成分の分布が均一化されて、上記した周期構造を有する皮膜を得ることが困難である。
また、一例として、集電体を回転させることにより、箔集電体上のA成分とSi元素の堆積する位置が微妙にずれて、3〜30nmの厚みの各周期ごとにA成分とSi元素の比率が変動した複合皮膜を形成することも可能である。
尚、上記した複合皮膜を形成する前に、前処理として、箔状集電体の表面を清浄化するためにエッチング処理を施すことが好ましい。エッチング処理方法としては、例えば、イオンボンバード、Arプラズマ等によるエッチング処理を採用できる。この様な処理を行うことによって、集電体表面の酸化物、付着した水分やガス成分などを除去して表面の活性度を高めることができ、集電体と複合皮膜との密着強度を向上させて、充放電時の複合皮膜との間の電気伝導性を良好に維持して、サイクル寿命を向上させることができる。
また、上記した複合皮膜を形成した後、更に、必要に応じて、該複合皮膜の表面に、C、Al、Cu、Ag及びAuからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分による導電層を形成してもよい。
通常、上記した複合皮膜では、充放電時のリチウム吸蔵放出に伴う体積変化を繰り返すうちに亀裂が発生し、有効成分同士の電気抵抗が大きくなる傾向がある。また、同時に、充電時に電解液と複合皮膜層との間で反応生成するLiCOやLiO、LiF等で構成される不安定皮膜(固液界面皮膜)が形成され、放電時における複合皮膜の大きな収縮によりこれらが破壊されることがある。この様な場合には、電解液が滲入し、孤立した不導体と考えられるSi酸化物などが形成されることにより負極中の有効成分が減少し、その結果、大きな不可逆容量になることがある。
この様な場合、複合皮膜の表面に、C、Al、Cu、Ag及びAuからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分による導電層を形成することによって、上記した各種の問題点を解消乃至軽減して、サイクル特性を良好に維持することが可能となる。該導電層の厚さは、リチウム吸蔵時の原子の再配列を生じ難くさせない範囲とすれば良く、通常、60〜 100nm程度とすればよい。導電層が厚すぎると、充放電反応時にLiの移動する距離が大きくなり、反応性が低下して効率が低くなるので好ましくない。
該導電層の形成方法については特に限定はなく、例えば、化学めっき法、電気めっき法等の湿式法、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法などを適用できる。これらの内で、真空蒸着法又はスパッタリング法を採用する場合には、上記した複合皮膜の形成に引き続いて連続して導電層を形成することができる。
本発明のリチウム二次電池用負極材料を用いるリチウム二次電池は、負極として、本発明材料を用いる他は、公知のものと同様の構成でよい。例えば、公知のリチウムイオン電池の電池要素(正極、セパレ−タ−、電解液等)を用いて、公知の組み立て方法に従って、角型、円筒型、コイン型等のリチウムイオン電池とすることができる。
本発明のリチウム二次電池用負極材料は、初期充放電容量が大きく、サイクル特性が良好であり、Siを主材料とするために充放電効率にも優れたものである。また、質量当たりの放電容量が同じ場合、現状の炭素系負極材料よりも厚みを薄くすることができ、コンパクトにできる利点がある。しかも、スパッタリング法、真空蒸着法などの乾式法によって、簡単に製造することができる。
以上の様な優れた性質を有することにより、本発明の負極材材料は、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池等のリチウム二次電池用負極として有用性が高いものである。
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1
以下に示す真空蒸着法によって負極材料を作製した。
まず、真空蒸着装置中の基板上に厚さ12μmの銅箔を貼り付け、銅製ハース上に炭素製ハースライナーをのせて、その中に20原子%のCrと80原子%のSiからなる原料を入れ、真空室の圧力を2.0×10-3Pa以下に到達するまで排気した。
銅箔からなる集電体の表面には、複合皮膜を形成する前にイオンボンバード法でエッチング処理を施した。その後、該集電体を30℃以下に冷却しながら、3rpmで回転させ、電子ビーム出力2kWで通電した。これにより原料が昇華し、約30Å/秒の蒸着速度で、銅箔上に厚さ2μmのCr−Siの複合皮膜が形成された。
得られた複合皮膜に、機械的研磨とイオン研磨を行って透過型電子顕微鏡(TEM)試料を作製し、JEM2010(JEOL)(加速電圧200kV)、またはH9000NA(HITACHI)(加速電圧300kV)を用いて、像観察および電子回折図形の観測を行った。
また、JEM3000F(JEOL)(加速電圧300kV)またはTechnaiG2 (Philips)(加速電圧200kV)を用いて、複合皮膜の組成分析を行った。分析内容としては、いわゆるEDS(特性X線のエネルギースペクトルの解析)による元素分析、EELS(電子エネルギー損失スペクトルの解析)による元素分析とマッピング、及びHAADF(広角度回折線による暗視野像)による高分解元素分布の解析を行った。
図1は、形成された複合皮膜の電子回折図(左は中心部分の5倍拡大)である。図1から明らかなように、該複合皮膜はハローパターンを示し、非晶質構造であることがわかる。この図中の白線は逆空間で、2.4nm-1( 1/0.42nm)に対応する。ハロー図形の極大値はおよそ 0.198nmに対応する位置であり、透過電子・回折の中心(回折図形の原点)の近傍にサテライトとして観測された。これは、Cr成分とSi成分比がナノメーターレベルの範囲で変化したものであることに起因している。
図2は、Cr-Si複合皮膜の内部構造を示す透過型電子顕微鏡写真である。図2によれば、複合皮膜全域にわたって、基板のCu集電体にほぼ平行の縞状の周期構造が観察され、その周期は約10〜30nmであることがわかる。
図3は、Cr-Si複合皮膜の組成分析図であり、(a)は高分解 HAADF像、(b)は Cr原子によるスペクトル強度の振動を示すグラフである。図3(a)の高分解HAADF像では、図2 に示したものと同様の縞状の周期構造が観察された。(b)は、HAADF像の線に沿ったCrのEELSスペクトルの強度変化を示すグラフである。この結果から、Cr原子の組成は、HAADF像のコントラストの明暗に対応して周期的に変動しており、該複合皮膜中のCr量は、ナノメーターレベルの範囲で極大値から次の極大値に周期的に変化していることがわかる。
以上の結果から、上記した真空蒸着法で得られたCr−Si複合皮膜は、非晶質構造であって、構成成分であるCr成分とSiの組成比が10〜30nmの範囲で周期的に変化したものであることがわかる。
次いで、上記した方法で銅箔上にCr−Si複合皮膜を形成した材料を、面積1cmの円形にポンチで抜き取り、120℃で6時間真空乾燥させて、電極を作製した。
この電極を負極とし、金属リチウムを対極として、1モルのLiPF6/エチレンカ−ボネ−ト(EC)+ジエチルカ−ボネ−ト(DEC)(EC:DEC=1:1(体積比))溶液を電解液として、ドライボックス中で試験セル(CR2032タイプ)を作製した。
この試験セルにおける負極の評価を次の方法で行った。
まず、試験セルを、0.2mA/cm2 の定電流で0Vに達するまで放電し、10分間の休止後、0.2mA/cm2 の定電流で1.0Vに達するまで充電した。これを1サイクルとして、繰り返し充放電を行って放電容量を調べた。1サイクル後、10サイクル後及び50サイクル後の放電容量を下記表1に示す。

実施例2
実施例1と同様の方法で、銅箔上に真空蒸着法によって厚さ2μmのCr−Si複合皮膜を形成した後、引き続いて、真空蒸着装置中で、Wボート上にAgを入れて通電し、Agを溶解させて、30Å/秒の蒸着速度で、該複合皮膜上に厚さ90nmのAgからなる導電層を形成した。
上記方法で得られた材料を負極として、実施例1と同様にして試験セルを作製し、放電容量を測定した。結果を下記表1に示す。
実施例3
蒸着用材料として、複合皮膜の原料であるCrとSiを合金(CrSi)として用い、これ以外は実施例1と同様の方法で、銅箔上に真空蒸着法によって厚さ2μmのCr−Si複合皮膜を形成した。上記方法で得られた材料を負極として、実施例1と同様にして試験セルを作製し、放電容量を測定した。結果を下記表1に示す。
実施例4
以下に示すスパッタリング法によって負極材料を作製した。
スパッタリング装置としては、プレーーナマグネトロン型ハイレートカソードを有している高周波(RF)と直流(DC)併用のマグネトロンスッパタリング装置を用い、基板ホルダー電極に厚さ12μm銅箔を貼り付けた。ターゲット電極としては、複合皮膜の原料であるCrとSiを、別々のターゲット材料(φ101.6mm×6mm厚み)としてセットした。銅箔の表面には、複合皮膜を形成する前に、Arプラズマでエッチング処理を施した。
まず、真空室の圧力を6.7×10-4Pa以下に到達するまで排気し、その後、スパッタリングする圧力である6.7×10-1Paになるまで、Arガスを真空室に導入した。その後、銅箔を30℃以下に冷却しながら、3rpmで回転させてスパッタリングを行った。スパッタリングの条件としては、圧力:6.7×10-1Pa、Arガス流量:50SCCMとし、スパッタリング出力は、Crについて40WのDC、Siについて600WのRFとして、ターゲット基板間距離は100mmとした。その結果、約2.5Å/分の成膜速度で銅箔上に厚さ2μmのCr−Si複合皮膜(Cr/Si(原子比)=20/80)が形成された。
上記方法で得られた材料を負極として、実施例1と同様にして試験セルを作製し、放電容量を測定した。結果を下記表1に示す。
実施例5
実施例4と同様にして、スパッタリング法によって、銅箔上に厚さ2μmのCr−Si複合皮膜を形成した後、引き続いて、同一のスパッタリング装置中で ターゲット材料としてAgを用いて、実施例3におけるスパッタリング条件と同様の条件で、500WのDC出力で15Å/秒の成膜速度で、該複合皮膜上に厚さ90nmのAgからなる導電層を形成した。
上記方法で得られた材料を負極として、実施例1と同様にして試験セルを作製し、放電容量を測定した。結果を下記表1に示す。
実施例6
ターゲット材料としては、複合皮膜の原料であるCrとSiを合金(CrSi)(φ101.6mm×6mm厚み)として用い、スパッタリング出力は、500WのDCとして、これ以外は実施例4と同様の方法で、銅箔上にスパッタリング法によって厚さ2μmのCr−Si複合皮膜を形成した。上記方法で得られた材料を負極として、実施例1と同様にして試験セルを作製し、放電容量を測定した。結果を下記表1に示す。
実施例7
ターゲット材料としては、複合皮膜の原料であるCrとSiの合金(CrSi)及びSi(φ101.6mm×6mm厚み)を、別々のターゲット材料として用い、スパッタリング出力は、Siについて500WのRF、CrとSiの合金(CrSi)について500WのDCとして、これ以外は実施例4と同様の方法で、銅箔上にスパッタリング法によって厚さ2μmのCr−Si複合皮膜を形成した。上記方法で得られた材料を負極として、実施例1と同様にして試験セルを作製し、放電容量を測定した。結果を下記表1に示す。
実施例8〜40
実施例1〜7の方法と同様にして、厚さ12μmの銅箔を集電体として、実施例8〜40の各負極材料を作製した。これらの負極材料を用いて実施例1と同様にして試験セルを作製して、放電容量を測定した。結果を下記表1に示す。
尚、表1には、各負極材料における複合皮膜の組成、製造方法などを示す。尚、表中、冷却の有無とは、真空蒸着又はスパッタリングの際の基板Cu箔の冷却の有無である。また、複合皮膜法の項にVとあるのは真空蒸着法、Sとあるのはスパッタリング法である。
Figure 0004911444
表1から明らかなように、各実施例の複合皮膜を負極とした試験セルでは、初期放電容量が高く、しかも50サイクル後の放電容量も十分維持されていることがわかる。
比較例1
Fe25原子%とSi75原子%からなる原料を用いて、実施例1と同様の条件で真空蒸着法によって、銅箔上にFe−Si複合皮膜を形成した。但し、蒸着時には、Cu箔の冷却を行わなかった。
得られた複合皮膜について、実施例1と同様の方法で、透過型電子顕微鏡による像観察をしたが、該Fe-Si複合皮膜は縞状の模様は観察されず、周期的な組成変化は認められなかった。
この負極材料を用いて実施例1と同様にして試験セルを作製して、放電容量を測定した。結果を下記表2に示す。
比較例2〜11
下記表2に示す条件に従って、厚さ12μmの銅箔を集電体として、複合皮膜を形成して負極材料を作製した。これらの負極材料を用いて実施例1と同様にして試験セルを作製し、放電容量を測定した。結果を下記表2に示す。
Figure 0004911444
表2から明らかなように、各比較例の負極材料を用いた試験セルでは、初期放電容量は高容量を示したが、50サイクル後の放電容量は、500mAh/g以下へと急激に低下したことがわかる。
実施例4、8、9及び10で得た各材料(Cr−Si、Nb−Si、Ni−Si、Fe−Si)を負極として用いた試験セルについて、放電容量とサイクル数との関係であるサイクル特性を示すグラフを図4に示す。図4から明らかなように、実施例4のCr−Si複合皮膜を負極材料として用いたモデルセルは、初期放電容量が5000mAh/cc以上であって、300サイクル後でも3000mAh/ccの放電容量を維持した。同様に、実施例8のNb−Si複合皮膜を形成した負極材料は、初期放電容量が5000mAh/cc以上であって、300サイクル後でも3500mAh/ccの放電容量を維持し、実施例9のNi−Si複合皮膜を形成した負極材料は、初期放電容量が9000mAh/cc以上であって、300サイクル後でも4500mAh/ccの放電容量を維持し、更に、実施例10のFe−Si複合皮膜を形成した負極材料は、初期放電容量が3000mAh/cc以上であって、300サイクル後でも2500mAh/ccの放電容量を維持した。この結果から、いずれの負極材料も、比較例2のSi皮膜を形成した負極材料と比較して、優れたサイクル寿命を有することが判る。
Cr−Si複合皮膜の電子回折図(左は中心部分の5倍拡大)。 Cr−Si複合皮膜の内部構造を示す透過型電子顕微鏡写真の電子データをプリントアウトした図面。 Cr−Si複合皮膜の組成分析図。 実施例の複合皮膜(Cr−Si、Nb−Si、Ni−Si、Fe−Si)と比較例Si成膜を負極材料としたときのサイクル特性を示すグラフ。

Claims (9)

  1. Fe、Ni及びCuからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素からなる箔状の集電体と該集電体の片面又は両面に形成された複合皮膜とを含む材料であって、該複合皮膜が下記(1)〜(4)の条件を満足する皮膜であることを特徴とするリチウム二次電池用負極材料:
    (1)Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Y、Zr、Nb及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素からなるA成分とSi元素とからなり、
    (2)複合皮膜全体におけるA成分とSi元素の割合が、両者の合計量を100原子%として、A成分5〜55原子%とSi元素95〜45原子%であり、
    (3)該複合皮膜は、非晶質構造であって、A成分とSi元素の組成比が厚さ方向に3〜30nmの周期で変化する周期構造であり、
    (4)該複合皮膜の膜厚が0.5〜10μmである。
  2. A成分が、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Zr、Nb及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である請求項1に記載のリチウム二次電池用負極材料。
  3. A成分が、Cr及びNbからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用負極材料。
  4. 複合皮膜上に、C、Al、Cu、Ag及びAuからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分からなる導電層を有する請求項1〜3のいずれかに記載のリチウム二次電池用負極材料。
  5. Fe、Ni及びCuからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素からなる箔状の集電体の片面又は両面に、
    Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Y、Zr、Nb及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素からなるA成分とSi元素を、別々の材料又はA成分とSi元素との合金として用いて、真空蒸着法によってA成分とSi元素を同時に蒸着させて複合皮膜を形成し、請求項1〜3のいずれかに記載されたリチウム二次電池用負極材料とすることを特徴とする、
    リチウム二次電池用負極材料の製造方法。
  6. Fe、Ni及びCuからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素からなる箔状の集電体の片面又は両面に、
    Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Y、Zr、Nb及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素からなるA成分とSi元素を、(1)A成分とSi元素を別々のターゲット材料とする方法、(2)A成分とSi元素の合金をターゲット材料とする方法、及び(3)A成分とSi元素からなる合金とSi元素をターゲット材料とする方法、のいずれかの方法で、同時にスパッタリングして複合皮膜を形成し、請求項1〜3のいずれかに記載されたリチウム二次電池用負極材料とすることを特徴とする、
    リチウム二次電池用負極材料の製造方法。
  7. 複合皮膜を形成する際に、箔状の集電体が30℃以下に冷却されていることを特徴とする請求項5又は6に記載のリチウム二次電池用負極材料の製造方法。
  8. 複合皮膜を形成する前に、イオンボンバード又はArプラズマにより箔状の集電体にエッチング処理を施すことを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のリチウム二次電池用負極材料の製造方法。
  9. 請求項5〜8のいずれかの方法によって箔状の集電体の片面又は両面に複合皮膜を形成した後、形成された複合皮膜の表面に、湿式法又は乾式法によって、C、Al、Cu、Ag及びAuからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分からなる導電層を形成することを特徴とするリチウム二次電池用負極材料の製造方法。
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