JP4892690B2 - C型肝炎ウイルス産生抑制剤 - Google Patents

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Description

本発明は、C型肝炎ウイルス産生抑制剤に関する。
C型肝炎ウイルス(Hepatitis C Virus)(以下、「HCV」という。)は、1989年に、輸血後の非A非B型肝炎の主要な原因ウイルスとして発見された。HCVは、エンベロープを有する1本鎖プラス鎖型RNAウイルスであり、フラビウイルス科(Flaviviridae)のヘパチウイルス属(Hepacivirus)に属する。
HCVの宿主免疫機構回避の機序はいまだ明らかではなく、免疫機構の発達した大人に感染した場合でも、持続感染が成立することが多い。HCV感染者の症状は、通常肝炎から始まり、上記持続感染により、多くの場合、慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌へと進展する。肝細胞癌まで進展した場合、手術により患部を摘出しても、非癌部で引き続き持続感染が起こるため、肝細胞癌再発の危険性は高い。
このようなHCV感染者において、HCVの産生や増殖を抑制する方法、又はHCVを消失させる方法としては、従来、インターフェロン療法が有効とされている。インターフェロン療法によれば、約3割のHCV感染者において、HCVを消失させることができる。HCV消失率を高めるために、抗ウイルス薬であるリバビリンをインターフェロンと併用することもある。症状の進展を抑制して肝細胞癌の発症を遅延させることを目的として、インターフェロンの少量継続投与も行われている。
その他、特許文献1には、「ブルーベリー葉の加工処理物を有効成分とするC型肝炎ウイルス産生抑制材料」が開示されている。また、特許文献2には、ピクノジェノールを含む組成物が、その抗ウイルス作用から、C型肝炎ウイルス等の感染者のクオリティオブライフ(QOL)の向上に有用である旨が記載されており、特許文献3には、プロアントシアニジンを含む組成物が抗ウイルス作用を有し、肝炎等に適用される旨が記載されている。
特開2007−119398号公報 特開2005−239581号公報 特表2006−511509号公報 飯野四郎、 「C型慢性肝炎に対する最近の話題 IFNの副作用とその対策」、 "MEDICAL DIGEST"、 1997年、 第46巻、 第6号、 p.19−22
しかしながら、インターフェロン療法によっても、約5割の感染者は、依然として肝細胞癌発症の危険性を抱えたままである。また、インターフェロンは、脱毛、食欲減退、鬱、血小板減少などの副作用を生じる場合があるため、長期にわたる継続的治療には不適である(非特許文献1参照)。
特許文献1には、ブルーベリー葉に含まれるHCV産生抑制作用を有する成分について、具体的に開示されていない。
特許文献2には、他の多くのウイルスと共にC型肝炎ウイルスが例示されているに過ぎず、ピクノジェノールによるHCV産生抑制作用に関する具体的な記述はない。しかも、HCVは、特許文献2の実施例に記載の脳心筋炎ウイルスとは異なり、実験動物に摂取できない。したがって、特許文献2は、実質的にピクノジェノールによるHCV産生抑制作用について開示したものではない。
特許文献3には、プロアントシアニジンがフラビウイルス科の西ナイルウイルスに対して抗ウイルス作用を有する旨が開示されているが、西ナイルウイルスとHCVとでは、分類学上の属が異なり、感染部位も異なる。また、プロアントシアニジンが肝炎に適用される旨は記載されているが、プロアントシアニジンのHCV産生抑制作用を示唆する記載はない。
そこで、本発明は、副作用が少なく、優れたC型肝炎ウイルス産生抑制作用を有するC型肝炎ウイルス産生抑制剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、先にブルーベリー葉に強い抗HCV活性があることを見出していたが(特許文献1参照)、その有効成分は未だ不詳であった。そこで、まずブルーベリー葉の抗HCV活性有効成分を特定したところ、プロアントシアニジン(以下、本発明の有効成分であるプロアントシアニジンを「PAC」という。)であることが判明した。次いで、PACを含有することが知られている他の天然素材を含めて、含有PACの構造と抗HCV活性につき鋭意研究を行った結果、特定構造のPACに特異的に抗HCV効果があることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、プロアントシアニジンからなる組成物を有効成分とするC型肝炎ウイルス産生抑制剤であって、組成物中のプロアントシアニジンは、下記一般式(1)で表されるフラバン−3−オール骨格が、下記(i)、(ii)又は(iii)の結合様式で3以上互いに結合した構造を有しており、組成物中のプロアントシアニジンにおける全フラバン−3−オール骨格のうち、一般式(1)中のR及びRがいずれも水酸基であるフラバン−3−オール骨格の割合が40%以下である、C型肝炎ウイルス産生抑制剤である。
(i)4位炭素及び8位炭素の結合
(ii)4位炭素及び6位炭素の結合
(iii)4位炭素及び8位炭素の結合並びに2位炭素及び7位酸素の結合
式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は水酸基、Rは水酸基、Rは水素原子又は一価の有機基を、それぞれ示す。
本発明のC型肝炎ウイルス産生抑制剤(以下、「HCV産生抑制剤」という。)は、上記のような構成を備えることにより、副作用が少なく、長期使用が可能で、かつ優れたC型肝炎ウイルス産生抑制作用を有するものとなる。
本発明のHCV産生抑制剤は、上記一般式(1)中のRが、置換基を有していてもよいガレート基を示すものであることが好ましい。
本発明のHCV産生抑制剤においては、C型肝炎ウイルス活性を50%阻害するのに要する濃度(IC50)が、細胞増殖活性を50%阻害するのに要する濃度(CC50)に対し1/10以下であることが好ましい。このようなHCV産生抑制剤は、副作用が少なく、長期使用が可能である。
本発明のHCV産生抑制剤は、上記組成物中のプロアントシアニジンが、上記一般式(1)で表されるフラバン−3−オール骨格が、上記(i)、(ii)又は(iii)の結合様式で5〜10互いに結合した構造を有するものであることが好ましい。
別の側面において、本発明は、上記HCV産生抑制剤を含有する、C型肝炎ウイルス由来の肝疾患の治療剤である。
別の側面において、本発明は、上記HCV産生抑制剤を含有する、C型肝炎ウイルス由来の肝疾患の発症又は進展抑制剤である。
別の側面において、本発明は、上記HCV産生抑制剤を含有する、C型肝炎ウイルス由来の肝疾患の、発症若しくは進展の抑制用又は治療用医薬組成物又はそのプロドラッグである。
別の側面において、本発明は、上記HCV産生抑制剤を含有する、C型肝炎ウイルス由来の肝疾患の、発症若しくは進展の抑制用又は治療用飲食組成物である。
本発明によれば、副作用が少なく、長期の服用が可能で、かつ優れたC型肝炎ウイルス産生抑制作用を有するC型肝炎ウイルス産生抑制剤を提供することが可能となる。
本発明のHCV産生抑制剤は、非常に強い抗HCVレプリコン活性を有するにもかかわらず、in vitroでの細胞毒性が軽微である。したがって、本発明のHCV産生抑制剤を有効成分とする、HCV由来の肝疾患の、治療剤、発症又は進展抑制剤、発症若しくは進展の抑制用又は治療用医薬組成物又はそのプロドラッグなどは、インターフェロンの代替治療薬等として有用である。これらは、インターフェロンと比べて副作用が少なく、長期にわたって用いることができる。HCVを病因とする肝疾患は、HCV感染から肝炎の発症、慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌まで、約30年余の長期に及ぶことから、長期使用が可能であることは極めて重要である。特に、HCV由来の肝硬変患者や、肝細胞癌摘出手術後の患者の多くは、白血球又は血小板が減少しているため、インターフェロン療法を施せない場合が少なくない。本発明のHCV産生抑制剤を用いた治療は、このようなインターフェロン療法を施せない肝疾患患者に対しても、優れた代替治療手段となり得る。また、本発明のHCV産生抑制剤を有効成分とする、HCV由来の肝疾患の、発症若しくは進展の抑制用又は治療用飲食組成物は、機能性食品や健康補助食品として有用である。
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
実施形態に係るHCV産生抑制剤は、多くの場合、複数のPACからなる組成物を有効成分としている。PACは一般式(1)に示すユニットを含み、ユニットの重合度(n)は少なくとも3である。
すなわち、有効成分であるPACは、一般式(1)に示すユニットが、(i)4位炭素及び8位炭素の結合、(ii)4位炭素及び6位炭素の結合、(iii)4位炭素及び8位炭素の結合並びに2位炭素及び7位酸素の結合、のいずれかの結合様式で3以上(好ましくは、5以上、更には5〜10)互いに結合した化合物である。
式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は水酸基、Rは水酸基、Rは水素原子又は一価の有機基を、それぞれ示す。
上記一般式(1)中のRが示す一価の有機基としては、ガレート基、有機酸残基、糖残基等が挙げられる。有機酸残基のもとになる有機酸としては、p−クマル酸、カフェ酸、フェルラ酸、シナピン酸、p−ヒドロキシ安息香酸、没食子酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸等が挙げられる。
また、Rは、ガレート基や有機酸基に糖が結合した配糖体形成残基であってもよい。その場合、例えば、糖は、ガレート基や有機酸基のフェノール水酸基とエステル結合を介して任意の位置で結合する。その配糖体形成残基の例としては、ピラノース型のヘキース残基、フラノース型のペントース残基等を挙げることができる。糖の形態としては、グルコース、ガラクトース、ラムノース、キシロース、アラビノース等の単糖類の他に、2糖類や3糖類を挙げることができる。
なかでも、Rは、置換基を有していてもよいガレート基を示すことが好ましい。「置換基を有していてもよいガレート基」には、「ガレート基」及び「置換基を有するガレート基」が含まれ、「置換基を有するガレート基」には、「糖が結合したガレート基」等が含まれる。
なお、式(1)中、A環の5位及び/又は7位の水酸基は、ガレート基、糖、有機酸などが結合した修飾基であってもよい。
上記組成物中のプロアントシアニジンにおける全フラバン−3−オール骨格のうち、上記一般式(1)中のR及びRがいずれも水酸基であるフラバン−3−オール骨格の割合は40%以下である。この割合が40%を超えると、HCV産生抑制効果が十分でなくなる傾向がある。上記割合は、チオール開裂法により求める。
上記(i)の結合様式によりフラバン−3−オール骨格が互いに結合した構造を有するプロアントシアニジンとしては、例えば、下記一般式(2)で表されるものがある。
上記(iii)の結合様式によりフラバン−3−オール骨格が互いに結合した構造を有するプロアントシアニジンとしては、例えば、下記一般式(3)で表されるものがある。
一般式(1)中のR及びRはH又はOHであり、RはOHであり、Rは水素原子又は一価の有機基であり、組成物中のPACにおける全フラバン−3−オール骨格のうち、R及びRがともにOHである割合が多くとも40%である。かかる構造を有するPAC組成物は、優れた抗HCV活性を顕す。上記割合が40%を超えると、抗HCV活性が急激に低下する。
一般式(1)で示されるユニットにおいて、A環の5位及び/又は7位は、OHであるが、必要に応じて水酸基を介する修飾基(すなわち、水酸基との結合により生じた一価の基)であっても良い。代表的な修飾基としては、ガレート基、糖、有機酸などを挙げることができる。
本発明において、抗HCV活性とは、in vitroにおけるHCVレプリコン細胞の増殖抑制活性作用を意味し、基本的には抗HCV活性値(IC50;μg/ml)、及び抗HCV活性値(IC50)と細胞毒性値(CC50;μg/ml)との比(Ratio)で表すことができる。抗HCV活性(IC50)値は、インターフェロンのIC50値との観点から、1.0μg/ml以下とするのが望ましい。また、医薬としての有効性の観点からは、抗HCV活性値(IC50)と細胞毒性値(CC50)との比は、一般的に10以上とされている(坂本直哉ら、 「HCV replicon産生細胞株の樹立とその応用」、 “日本臨床”、 2004年、 第62巻、 p.116−120参照)。本発明の効果は、抗HCV活性値(IC50)と細胞毒性値(CC50)との比により評価することができる。
PACは様々な植物に広く含有される縮合型タンニンであり、酸処理によってシアニジン、デルフィニジン、ペラルゴニジン、オーランチニジン、ルテオリニジン、ペオニジン、マルビジン、ペチュニジン、ヨーロピニジン、ロシニジン、ヒルスチジン、アピゲニニジンなどを得ることができる。一般式(1)及び下記式に示すように、PACは、主としてカテキン類すなわちフラバン−3−オールを構成単位(骨格)とする重合度が2以上の縮重合体からなるポリフェノール成分である(式中Rは、上記ORに相当する。また、フラバン環3位水酸基にしばしば没食子酸がエステル結合する)。すなわち、PACとはフラバン骨格を基本として種々な部位に水酸基を有する単量体が重合した、非常に多様な化合物群の総称である。重合体の構成単位のうち、基端部をターミナルユニット、その他をエクステンションユニットと呼び、重合度は二量体、三量体のものから100量体以上の高分子にまで及ぶ。
ある特定の単量体(骨格)が重合したPACには慣用名が与えられ、代表的なPACとしては、B環の水酸基の数に応じて定義・分類された、プロペラルゴニジン(4’−OH)、プロシアニジン(3’−OH、4’−OH)及びプロデルフィニジン(3’−OH、4’−OH、5’−OH)が挙げられる。例えば、A環5位の水酸基を欠く成分を構成単位とした重合体であるプロガイボールチニジン、プロフィセチニジン、及びプロロビネチニジンがあり、さらにその他特定部位の水酸基の有無に応じて、プロテラカシジン、プロメラカシジン、プロアピゲニニジン、プロルテオリニジン等の慣用名を持つ成分が挙げられる。
本発明においてPACは、好ましくは、プロシアニジン、プロペラルゴニジン又はプロデルフィニジンである。「プロシアニジン」の構成単位(骨格)は、同一又は異なっていてもよく、カテキン、エピカテキン、カテキンガレート及びエピカテキンガレートから選択できる。「プロデルフィニジン」の構成単位は、同一又は異なっていてもよく、ガロカテキン、エピガロカテキン、ガロカテキンガレート及びエピガロカテキンガレートから選択できる。
本発明において、一般式(1)で表されるPACにおけるRが一価の有機基である場合、その具体例としては、ガレート基、糖残基、有機酸残基などを挙げることができる(ここで、残基とは、分子中の原子又は基が除かれて生じる一価の基を意味する)。有機酸残基を形成する有機酸としては、p-クマル酸、カフェ酸、フェルラ酸、シナピン酸、p-ヒドロキシ安息香酸、没食子酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、及びリンゴ酸等を挙げることができる。
糖残基を形成する糖は必要に応じて、例えばフェノール水酸基とエステル結合を介して任意の位置で修飾される。その配糖体形成残基の例としては、ピラノース型のヘキース残基、フラノース型のペントース残基を挙げることができる。具体的には、糖の形態として、グルコース、ガラクトース、ラムノース、キシロース、アラビノース等の単糖類の他に、2糖類や3糖類を挙げることができる。
PACの構成単位同士の主たる結合部位としては、上記のように(i)、(ii)又は(iii)の結合様式があるが、具体例としては、例えば、A−タイプ結合;4位と8位および2位と7位酸素の2箇所、また例えば、B−タイプ結合;4位と6位または4位と8位のいずれか1箇所が挙げられる。またこれら結合からなる種々の立体配置を有するPACが存在する。
また、PACには、上記一般式(2)、(3)に例示すように、A−タイプとB−タイプが存在するが、本発明者等の知見によれば、A−タイプ、B−タイプの例で言えば、その延鎖方式のかかる相違、あるいはその混合比は、抗HCV活性に直接的な影響を与えない。因みに、ブルーベリー葉抽出PACではB−タイプが支配的である。なお、例示の一般式(2)、(3)において、重合度とB環のOH基の割合(パーセンテージ)については、本発明の要件を満たすことが必要である。
上述のようにPACは、各環上の結合位置の違い、構成単位内の置換基の立体配座、更には異なる構成単位の重合体内での結合順序など、非常に多様な化合物が知られている。本発明に含まれるPACの化学名(chemical name)を下記に例示する。なお、括弧内は分子式(molecular formula)である。なお、本発明においては、これらのPACが更にカテキン、エピカテキンなどの構成単位あるいは他のPACと縮合した、より高重合度のPACをも包含する。
Proanthocyanidin PZ 5 (C75 H62 O31),
Proanthocyanidin BP 1 (Unspecified),
Proanthocyanidin RP 4 (C129 H106 O67),
Proanthocyanidin RP 3 (C136 H120 O70),
Proanthocyanidin CS 4 (C136 H120 O70),
Proanthocyanidin CS 3 (C127 H128 O69),
Proanthocyanidin CS 2 (C113 H110 O62),
Proanthocyanidin CS1 (C121 H118 O65),
Proanthocyanidin RP 2 (C120 H114 O64),
Proanthocyanidin RP1 (C125 H130 O69),
Proanthocyanidin T4 (C128 H122 O65),
Proanthocyanidin T3(C105 H102 O59),
Proanthocyanidin T2 (C67 H54 O29),
Proanthocyanidin T1 (C87 H72 O43),
Proanthocyanidin C1 (C45 H38 O18)
本発明において、有効成分であるPACの平均重合度は、図11に示すように抗HCVの観点から好適には5以上である。但し、前述の重合度ユニット(一般式(1))の平均重合度nが3以上の重合体が含まれていれば、PAC中に、モノマーやダイマー、その他の断片が存在しても、結果的に後述する表4〜表5に示すように、抗レプリコン活性値(IC50)が1.0μg/ml以下で、抗レプリコン活性値(IC50)と細胞毒性値(CC50)の比は10以上であれば許容できる。
なお、本発明において平均重合度とは、(i)、(ii)又は(iii)の結合様式でフラバン−3−オール骨格が互いに結合している平均個数を意味し、例えば、後述する実施例1に示す方法などにより、測定することができる。
PACは、天然物由来、あるいは合成品を使用することができるが、植物由来のPACが好ましく、最も典型的には、野菜、ナッツ、樹皮、及びポリフェノール化合物を含む他の植物材料のような、植物から誘導される植物材料からの原料を用いることができる。例えば、殆どの色のついた果実、イチゴ類、及び野菜は、ポリフェノール化合物を含むことが知られている。ポリフェノール化合物を含む植物、果実、イチゴ類、及び野菜の例には、例えば、ブルーベリー葉、ブドウ種子、サトイモ、ビルベリー、エルダーベリー、プラム、ブラックベリー、ストロベリー、レッドカーラント、ブラックカーラント、クランベリー、チェリー、ラズベリー、グレープ実、カーラント、ハイビスカスの花、シシトウガラシ、豆、エンドウ豆、大豆皮、赤キャベツ、パープルコーン、紫サツマイモが含まれるが、それらに限定されるものではない。特に好ましい植物材料としては、ブルーベリー葉、ブドウ種子、サトイモを挙げることができる。サトイモにおいては、特に皮の部分に本発明のプロアントシアニジンが多く含まれおり好ましい。
本発明の出発素材において、使用する植物の部分は、葉、花弁、萼片、花、葉柄、新芽、根、茎、種子、鞘、塊茎、樹皮、形成層、材木、菌こぶ、果実、野菜、ハーブ、シダ、樹液、樹脂、ブドウ、リンゴ、タマネギやアボカドなどの皮、柑橘類の皮、果物の外皮を含む皮、リンゴ、ワインの絞りかす、穀粒の外皮、藁、干し草、オリーブ、アブラナ或いはカノラ由来の油製種子の塊、及びその他油料作物抽出物等を任意に用いることができる。
本発明で好ましい出発素材の一つ後述する実施例1から明らかなようにブルーベリーである。ブルーベリーは、ツツジ科(Ericaceae)スノキ属(Vaccinium)サイアノコカス節(Cyanococcus)に属するアメリカ原産の落葉性もしくは常緑性の低木または半高木果樹である。ブルーベリーはおよそ6種類からなるが、果樹園芸上重要なのは下記の三種である。本発明では、使用するブルーベリーについて、種類、由来、原産地を特に制限するものではない。
(1)ハイブッシュブルーベリー(Highbush blueberry, Vaccinium corymbosum L.):オニール、シャープブルー、ジョージアジェム、フローダブルー、レベレイ、スパルタン、ダロウ、デューク、バークレイ、ハリソン等。
(2)ラビットアイブルーベリー(Rabbiteye blueberry, V. ashei Reade, V. virgatum Aiton):ウッダード、ガーデンブルー、ティフブルー、ホームベル、マイヤー等。
(3)ローブッシュブルーベリー(Lowbush blueberry, V. angustifolium Aiton; V. myrtilloides Michaux):チグネクト、ブロンズウィック、ブロミドン等。
上記出発素材の中で、好ましいものはラビットアイブルーベリーである。
本発明の有効成分であるPACは、目的に応じて以下の工程を適宜組み合わせることにより得ることができる。
(1)前処理加工:
葉、皮、果実、茎、根等の全草部位に応じて、あらかじめ水洗、濾別などにより物理的に不純物を除く。あるいは、葉緑素、繊維素等、本発明のPAC以外の成分を溶媒で留去することもできる。この溶媒には、留去する対象により異なるが、クロロホルム、ヘキサン、アセトン等を用いることができる。生の素材は、そのまま粉砕しても乾燥後粉砕して、粉末状で次工程に供してもよいし、生素材からの搾汁液、抽出液を次工程に供してもよい。搾汁又は抽出液は、濃縮又は乾燥して粉末状で次工程に供してもよい。
乾燥手段には、本発明の薬理効果を損なわなければ特に制限はなく、真空凍結乾燥、熱風乾燥、遠赤外線乾燥、減圧乾燥、マイクロ波減圧乾燥、及び過熱蒸気乾燥等を広く用いることができる。なかでも、成分変化の少ない真空凍結乾燥も採用可能である。真空凍結乾燥条件は、原料葉の状態によって異なるので特定できないが、例えば生葉をそのまま乾燥する際、凍結温度は−30℃〜−20℃、乾燥温度は−30〜30℃、乾燥時間は15時間〜24時間の範囲が望ましい。
(3)抽出工程:
前工程で得られた加工処理物は、次に溶媒抽出する。溶媒抽出には、下記の溶媒を適宜組み合わせて、必要に応じ多段抽出する。使用する抽出溶媒は特に制限されないが、水又は水と相溶性のある極性溶媒の使用が好適である。水と相溶性のある極性溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の炭素数1〜4の低級アルキルアルコール;エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコールを挙げることができる。アルコールとしては、安全性の観点から低級アルコール、特にメタノールやエタノールの使用が実際的である。
他の有機溶媒としては、例えばアセトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチルエステル、キシレン、クロロホルム、トルエン、ヘキサンなどを挙げることができる。水と極性溶媒の組み合わせを含め、これらの溶媒は、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。例えば、アセトンとエチルエーテルの混合溶媒、好ましくはアセトンとエチルエーテルの1:1(v/v)混合液の使用が可能である。一般的には、極性溶媒と水との混合溶媒(含水溶媒)の使用が望ましい。含水溶媒としては、含水アルキルアルコール、より好ましくは含水メタノール、含水エタノールである。含水アルコール中のアルコール濃度は、5〜90容量%、好ましくは30〜90容量%、より好ましくは50〜90容量%である。アルコール以外の好ましい混合溶媒としては、水とアセトンの混液が好ましい。
抽出操作としては、加工処理物を溶媒に冷浸、温浸等、浸漬処理する。通常は、加温下で撹拌しながら抽出し、ろ過して抽出液を得る。例えば、80容量%エタノール水溶液による撹拌抽出では、溶液温度は望ましくは室温、浸漬時間は温度により異なるが30秒〜1時間の範囲内が好適である。また、パーコレーション法によることもできる。
(4)精製工程:
得られた抽出物は、必要に応じてろ過又は遠心分離により固形物を除去する。濾液は、次工程の要求に応じてそのまま用いるか、又は溶媒を留去して一部濃縮もしくは乾燥して用いてもよい。必要に応じて、これらの抽出、濃縮物は精製する。精製方法は、特に限定されないが、例えばカラム法や溶媒による分割法などを挙げることができる(例えば、WO2000−64883号公報参照)。
本発明のPACの植物素材として用いることのできるサトイモ科植物は、サトイモ科(Araceae)サトイモ属(Colocasia esculenta)に属する東南アジア原産の栽培植物である。茎の地下部分である塊茎を食用とする。また葉柄も食用にされる。コンニャク属(Amorphophallus rivieri var. konjac)も加工して食品となる。観賞用としてもいくつかの属が存在する。本発明では、使用するサトイモについて、種類、由来、原産地を特に制限するものではない。サトイモ科植物の塊茎に含まれる成分としてムチン、ガラクタン、カリウムが知られる。ムチンは粘膜の損傷を防ぎ胃腸壁の潰瘍予防となることが知られている。ガラクタンは脳細胞の活性化、免疫力を高めるなどの効果が知られている。カリウムはナトリウムを排泄して高血圧を予防すると言われている。しかし、これまでサトイモ科植物の塊茎によるHCV産生抑制機能の報告はない。
サトイモ科植物の塊茎は加工処理して用いる。加工処理方法としては、塊茎をそのまま粉砕する方法も使用できるが、塊茎の乾燥粉砕、塊茎の搾汁、塊茎の溶媒抽出が実用的である。HCV産生抑制作用を効果的に発揮するために、塊茎皮の処理物を用いることが好適である。
乾燥粉砕物の調製方法としては、塊茎をそのまま乾燥した後粉砕するか、または細く切断した後乾燥する方法を挙げることができる。乾燥方法は、先述のブルーベリー葉の場合に準じて実施することができる。また、抽出工程、精製工程も同様に、ブルーベリー葉の場合と同様にして実施することができる。
本発明の有効成分であるPACは、抽出液、濃縮エキス、ペースト、乾燥、半乾燥物等、最終利用形態としてはさまざまな形で利用できる。本発明の精製されたPACは、単純な抽出物に比べて、より高い抗HCV活性を有する。
抗HCV活性の評価は、HCVが霊長類以外に感染しないため、一部のキメラマウスを除いて、in vivoでの適正な評価系がない。したがって、本発明における抗HCV活性の評価には、in vitro評価系として知られているHCVレプリコン細胞(Lohmann V. et al.、 “Science”、 1999年、 第285巻、 p.110−113参照)を用いる。HCVレプリコン細胞は、ウイルス粒子を構成するコアとエンベロープの構造タンパク質翻訳領域、及びウイルスゲノム複製などに機能する非構造タンパク質翻訳領域からなる。HCVレプリコン細胞は、この非構造領域部分を利用している。このアッセイ系におけるHCV−RNAの複製は、そのメカニズムから肝細胞に感染した全長HCV−RNAゲノムの複製と同一と見做すことができる。
本発明のHCV産生抑制剤に用いるPACにおいて、一般式(1)に示すユニットの重合度nは、少なくとも3の整数である。表1に示すように、n=1のカテキン、n=2のカテキンダイマーには抗HCV活性が認められない。他のエピカテキン、アフゼレチン、エピアフゼレチンも同様と推定できる。
また、一般式(1)中、RはOHであり、R及びRはH又はOHであり、RはH又は修飾体である。全ポリマー組成中におけるR及びRがともにOHである割合は、多くとも40%である。即ち、プロデルフィニジンと総称されるB環のR1、2、が全てOHであるガロカテキンやエピガロカテキンの構造単位が全ポリマー組成物中に含まれる量は、表2に示すように含量反比例的に抗HCV活性を有する。例えば、クロトン樹液のように40%程度を超えると細胞属性が強く、実施例1の表3に示すように、IC50とCC50のRatioが10以下となり、実用に適さない。
PACは、化学的あるいは生物学的に生成されたもの、天然由来、特に植物からの抽出精製物のいずれであっても、前記本発明の構造、機能特性を備えるものであればよい。
PACは、抽出液、濃縮エキス、ペースト、乾燥、半乾燥物等、最終利用形態としてはさまざまな形で利用できる。本発明の精製されたPACは、抽出物に比べて、より高いHCV産生抑制活性を有する。
PACを有効成分とするHCV産生抑制剤は、そのまま、もしくはプロドラッグ、又は薬剤として利用できる。PACとしては、上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物をそのまま投与してもよいが、一般的には、有効成分である上記の物質と薬理学的及び製剤学的に許容される添加物を含む医薬組成物を調製して投与することが好ましい。
薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を用いることができる。
本発明のPACを医薬品とする場合は、投与単位形態で投与することが好ましく、経口投与、組織内投与(皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与など)、局所投与(経皮投与など)又は経直腸的に投与することができる。
経口投与剤形としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤等から適宜選択すればよい。また経口投与用液状医薬製剤としては、乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤などの形態を挙げることができる。製剤にあたっては、各種製剤に応じた賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色料、矯味矯臭剤、pH調整剤等を適宜配合することができる。例えば、錠剤の場合は、必要に応じて、通常の剤皮を施した錠剤、例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶錠、フィルムコーティング錠、二重錠、又は多層錠とすることができる。錠剤の形態に調製するに際しては、担体として、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、グルコース、尿素、澱粉、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸などの賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、グルコース液、澱粉液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドンなどの結合剤;乾燥澱粉、アルギン酸ナトリウム、寒天末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、澱粉、乳糖などの崩壊剤;白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油などの崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩類、ラウリル硫酸ナトリウムなどの吸収促進剤;グリセリン、澱粉などの保湿剤;澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸などの吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、硼酸末、ポリエチレングリコールなどの潤沢剤などが例示できる。
組織内投与剤形としては、注射剤を挙げることができる。注射剤として調製する場合には、非毒性の溶液、乳剤及び懸濁剤などの形態とすることができる。これらは、殺菌され、かつ血液と等張であるのが好ましい。これら液剤、乳剤及び懸濁剤の形態に調製するに際しては、希釈剤として、例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類などを用いることができる。また、等張性の溶液を調製するに十分な量の食塩、グルコース、又はグリセリン、及び通常の溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、無痛化剤なども配合することができる。これら注射剤は、皮下、筋肉内又は静脈内に投与することができる。
局所投与剤形としては、例えば、局所用液剤、クリーム剤、粉剤、ペースト剤、ゲル剤、軟膏剤などの外用製剤を挙げることができる。これらは、PACもしくはそのプロドラッグ、又は製薬上許容されうるそれらの塩の一定量を、外用製剤の目的に適合する香料、着色料、充填剤、界面活性剤、保湿剤、皮膚軟化剤、ゲル化剤、担体、保存剤、安定剤などのうちの一種以上と組み合わせることにより調製することができる。
経直腸的投与剤形としては、坐剤を挙げることができる。坐剤の形態に調製するに際しては、基材として、例えばパルミチン酸ミリスチルエステルなどの高級エステル類、高級アルコール類、ポリエチレングリコール、カカオ脂、ゼラチン、半合成グリセリド、これらの混合物などの低融点基材を挙げることができる。座剤は、PACもしくはそのプロドラッグ、又は製薬上許容されうるそれらの塩を上記のような基材に混入し、成型することにより調製することができる。
前記のPAC、もしくはそのプロドラッグ、又は製薬上許容されうるそれらの塩を含むHCV産生抑制剤を医薬品として投与する場合、その有効投与量は、年齢、体重などの患者の状態、投与経路、病気の性質、程度等を考慮した上で決定する。通常は、ヒト成人に対しては、有効成分量として、一日当たり、1〜2000mgの範囲である。患者の状態などに応じて、上記範囲未満又は上記範囲を超える用量を投与することもできる。多量に投与するときは、一日数回に分割して投与することが望ましい。本発明の医薬品の用途は、HCV産生抑制に起因する肝疾病の病態であればよいが、HCV産生抑制剤又は肝炎、肝硬変の予防剤にも適用可能である。
医薬品の有効投与量は、所望の治療効果、投与法、治療期間、性別、投与経路、その他患者の病状等の条件に応じて異なるので特定できないが、例えば、体重60kgのヒトに対する投与量は、本発明の有効成分であるPAC換算量として、1投与あたり約(100〜1000)mgの範囲から適宜選択するのが望ましい。投与時期は、特に限定されないが、望ましくはHCV感染により病状が進展しつつある患者の肝炎急性期、慢性期、肝硬変の時期が有効である。
更に、本発明のPACは、HCV感染による肝疾患の予防剤あるいは進展抑制剤としての機能性を有する健康補助食品としても利用できる。投与は、固体状、液体状、エマルジョン等で可能であるが、必要に応じて薬学的もしくは食品上許容される担体又は添加剤を配合することもできる。添加剤には、一般的な剤形補助剤等の外、他の薬剤、機能性成分、例えばビタミン類、その他の微量成分等の有効成分を含めることができる。剤形は、特に問わないが、経口に適した形態であることが好ましい。医薬品の場合、PACの有効含量は、投与量又は服用量との関係で一概に特定できないが、0.1〜99.5重量%、好ましくは0.5〜90重量%の範囲で選択すればよい。
PACを機能性健康補助飲食物として用いる場合も、その形態は特に制限されない。例えば、必要に応じて食品上配合が許容される担体や添加剤とともに、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、トローチ剤、又は溶液(ドリンク)等の形態に調製することができる。
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の実施例において、「%」は、特に言及しない限り、「w/w%(質量%)」を意味する。
[試験方法]
本実施例において、抗レプリコン活性試験(レプリコンアッセイ)及び細胞毒性試験は、以下のように行った。
HCVのゲノムRNA構造タンパク質翻訳領域を、ルシフェラーゼ翻訳領域・脳心筋ウイルス内部リボゾーム結合配列・ネオマイシン耐性遺伝子に置換し、サブゲノムレプリコンRNAを作成した。得られたRNAを、ヒト肝がん細胞Huh−7の細胞質に導入した。得られた細胞を、HCVレプリコンRNAの産生量の評価に用いた。HCVレプリコンRNAの産生量は、ルシフェラーゼアッセイ法により測定した。
抗レプリコン活性試験(レプリコンアッセイ)
HCV−RNAのコピー数を定量するために、HCV−RNAの中にレポーター遺伝子としてホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子を導入した。ルシフェラーゼ遺伝子の導入は、Kriegerら(Kriegerら、 “J. Virol.”、 2001年、 第75巻、 p.4614−4624参照)の方法に従い、HCV遺伝子のIRES(Internal Ribosome Entry Site)の直下に、ネオマイシン耐性遺伝子と融合する形で行った。In vitroで、当該RNAを合成後、エレクトロポレーション法でHuh−7細胞に導入し、G418耐性クローンとして単離した。ホタル・ルシフェラーゼHCVレプリコン細胞(3−1)を、5%ウシ胎児血清(Hyclone cat. no. SH30071.03)を含むダルベッコMEM(Gibco cat. no. 10569−010)に懸濁し、96穴プレートに5000細胞/ウェルで播種し、5%CO、37℃の条件で一夜培養した。
約20時間後、希釈した試験化合物を、ウェルあたり10μl加え、さらに3日間培養した。アッセイプレートを2系統用意し、1つは白色プレート、他はクリアープレートでアッセイを行った。培養終了後、白色プレートは、Steady−Glo Luciferase Assay System(Promega cat. no. E2520)に用いた。すなわち、ウェルあたり100μlの試薬を入れ、3〜4回ピペットで混ぜ、5分間放置後にマルチモードプレートリーダー DTX800(ベックマン・コールター)にてルミネッセンスを測定した。細胞未添加の値をバックグランドとして全ての値から差し引き、試料未添加の値を阻害0%として、各試料のIC50を算出した。
細胞毒性試験
細胞毒性の測定には、Cell counting kit−8((株)同仁化学研究所カタログNo.CK04)を用いた。クリアープレートに10μlのCell counting kit−8を添加し、37℃で30〜60分間保温した。96穴プレートリーダーにて、波長450nm、対照波長630nmで吸光度を測定した。細胞未添加の値を、バックグランドとして全ての値から差し引き、試料未添加の値を阻害率0%として、各試料のCC50(50%細胞阻害濃度)を算出した。
図1に、ブルーベリー葉由来のPACのレプリコンアッセイ結果を例示する。このサンプルのレプリコン産生抑制活性(IC50)は0.56μg/mlで、細胞毒性(CC50)は16.26μg/mlであった。IC50は1.0μg/ml以下であり、IC50に対するCC50の比(Ratio)は10以上であったことから、このブルーベリー葉から調製したPACは、レプリコン産生抑制活性を有していると言える。
[実施例1]
ブルーベリー葉に含まれるHCVレプリコン産生抑制活性を有する化合物の同定
1.抽出及び液−液分配
凍結粉砕したラビットアイブルーベリー(Vaccinium virgatum Aiton)の葉1gに、メタノール100mlを加えて15分間浸透抽出した。デカンテーションにより上澄みを回収し、No.2の濾紙でろ過し、メタノール抽出物(MeOH Extract)440mgを得た。そのメタノール抽出物にクロロホルム100mlを加え、遠心分離(1,000ppm、10min)によって上清部と沈殿部とに分け、沈殿部をメタノールに溶解後、エバポレーターで濃縮し、凍結乾燥した(CMW−ppt:63.7mg)。さらに、上清部に水150mlとMeOHを加え、液−液抽出を行い、クロロホルム相を回収した。さらにクロロホルムを100ml加えてよく振盪し、クロロホルム相を回収し、先の回収液をと合わせエバポレーターで濃縮後、凍結乾燥した(CMW−C:56.3mg)。水相も濃縮後、凍結乾燥した(CMW−W:284.2mg)。
回収したCMW−C画分にはレプリコン産生抑制活性は確認できなかったが、CMW−ppt画分とCMW−W画分には活性が見られた。回収重量が高く回収した総活性量の多いCMW−W画分を以後の精製に用いた。
2.HPLCでの分取
(HPLCによる溶出位置の確認)
まず、HCVレプリコン産生抑制活性を有する化合物の逆相HPLCによる溶出パターンの確認を行った。HPLCは、UV検出器とフォトダイオードアレイ検出器を備えた「Prominence System」((株)島津製作所製、商品名)を用いた。その他の分離条件は下記に示す。
・装置:Shimadzu Prominence LC−20A
・カラム:Atlantis dC18, 4.6mm I.D.×150mm, 3μm(Waters製)、40℃
・移動相(溶出液):(A)0.05%(v/v)トリフルオロ酢酸
(B)アセトニトリル
・グラジエント:溶出液B 15%(0分)→25%(12.5分)→100%(17.5分)→100%(25分)
・移動相流速:0.70ml/分
・検出器:UV 254nm
上記CMW−W画分を30mlのメタノールに溶解させ、50μlインジェクトした。溶出液は2.3分から19.5分まで27画分(No.0〜26)回収し、それぞれの画分についてレプリコンアッセイを行い、レプリコン産生抑制活性を測定した。レプリコンアッセイは各画分1%、5%、10%の濃度3点で行った。
図2(A)に、HPLCクロマトグラムを示し、(B)に、回収した画分位置(No.0〜26)ごとのレプリコン産生抑制活性を示した。HPLCクロマトグラムにおける溶出時間17分のピークと、レプリコン産生抑制活性を示す画分とは一致しているが、その他の溶出パターンと活性に相関は見られないことから、活性成分は複数存在していることが示唆された。また、ブルーベリー葉に多く含まれている溶出時間6分あたりのクロロゲン酸と溶出時間11分あたりのルチンには活性がないようであった。
(分取1)
最初の分取は、分離カラムを「Atlantis T3」(4.6mm×150mm、3μm、Waters製)の逆相カラムを用いた他は、上記と同じシステムを用いて行った。移動相(溶出液)の組成も上記と同じにしたが、グラジエントプログラムは以下のように変更した。
溶出液B 30%(0分)→30%(7.5分)→100%(12.5分)→100%(20分)
上記CMW−W画分を100μlインジェクトし、溶出液の2.1分から18分まで計26画分(No.0〜25)を回収した。それぞれの画分について、上記と同様にしてレプリコン産生抑制活性を測定した。図3(A)に、HPLCクロマトグラムを示し、(B)に、回収した画分位置(No.0〜25)ごとのレプリコン産生抑制活性を示した。
溶出液の極性を少し下げることで活性画分を早く溶出させ、活性のない極性の低い部分を除く目的でグラジエントプログラムを作成した。活性の高い溶出時間3.3分から5.2分の画分を集め、140.2mgの分取1画分を回収した。
(分取2)
装置とカラムは分取1と同じ条件にし、グラジエントプログラムを以下のようにした。
溶出液B 20%(0分)→20%(7.5分)→100%(12.5分)→100%(20分)
分取1画分140.2mgをメタノール11mlに溶解した後、100μlインジェクトし、溶出液の2.1分から18分まで計26画分(No.0〜25)を回収した。それぞれの画分について、上記と同様にしてレプリコン産生抑制活性を測定した。図4(A)に、HPLCクロマトグラムを示し、(B)に、回収した画分位置(No.0〜25)ごとのレプリコン産生抑制活性を示した。
分取1より少し極性を上げ、各成分を保持させるプログラムを組んだ。活性画分は複数存在し、一つは溶出時間3.9分から10分までのブロードに溶出した画分で、もう一つは12分あたりの強い活性を示す画分であった。この活性の強い溶出時間11.9分から13.2分の部分を集め、24.6mgの分取2画分を回収した。
(分取3)
溶出液Bをアセトニトリルからメタノールに変更し、以下のプログラムで分取を行った。
溶出液B 40%(0分)→65%(12.5分)→100%(17.5分)→100%(25分)
分取2画分24.6mgをメタノール2.5mlに溶解させた後、100μlインジェクトし、溶出液の2.3分から17.5分まで計26画分(No.0〜25)を回収した。それぞれの画分について、上記と同様にしてレプリコン産生抑制活性を測定した。図5(A)に、HPLCクロマトグラムを示し、(B)に、回収した画分位置(No.0〜25)ごとのレプリコン産生抑制活性を示した。
その結果、早い段階で溶出し、活性の高い溶出時間3.1分から6.2分までを回収して、分取3画分(活性画分)2.9mgを得た。
表2は、上記メタノール抽出物、CMW−W画分、分取1画分(LC分取1)、分取2画分(LC分取2)、及び分取3画分(LC分取3)の各精製段階についてまとめたものである。初めのメタノール抽出物のレプリコン産生抑制のIC50は5.47μg/mlであったが、精製を重ねるに従って活性は上昇し、最終的には0.087μg/mlとなり、精製度として約63倍活性の上がった精製画分を得ることができた。メタノール抽出物の全活性の値が約80であるのに対して、CMW−W画分と分取1画分における全活性の値が100を超えているのは、レプリコン産生抑制活性を抑制する化合物が液−液分配(クロロホルム−メタノール−水)で除去されたことが一因であると考えられる。
3.電子線マイクロアナライザー(EPMA)による構成元素分析
HPLCによる分取によって精製したHCVレプリコン産生抑制の活性画分の構成元素をEPMA(「EPMA−1600」、(株)島津製作所製、商品名)を用いて以下の条件で測定した。
加速電圧:15kV、ビーム電流:100nA、ビーム径:50μm
サンプルは前もってカーボン蒸着を行った。図6に示されるように、この精製画分は、窒素(N)を含まず、炭素(C)と酸素(O)と水素(H)で構成されていることが判明した。
4.LC/MS−IT−TOFによる組成推定
ブルーベリー葉からHCVレプリコン産生抑制活性を指標にして調製した精製化合物の組成を推定するため、LC/MS−IT−TOF(Liquid Chromatography/Mass Spectrometry−Ion Trap−Time of Flight)を用いて解析を実施した。装置は、フォトダイオードアレイを装備した「Prominence HPLCシステム」((株)島津製作所製)に「MS−IT−TOF」((株)島津製作所製)検出器を備えたシステムを使用した。その他の分析条件は以下に示す。
・装置:Shimadzu LC/MS−IT−TOF
・カラム:Atlantis T3, 2.1mm I.D.×100mm, 3μm(Waters製)、40℃
・移動相(溶出液):(A)0.05%(v/v)トリフルオロ酢酸
(B)アセトニトリル
・グラジエント:B 10%(0分)→25%(7.5分)→100%(12.5分)→100%(20分)
・移動相流速:0.25ml/分
・検出器1:フォトダイオードアレイ280nm
・検出器2:APCI−MS
(Negative−Ion Mode、インターフェイス電圧:−3.0kV、インターフェイス温度:450℃、CDL温度:200℃、ネブライズガス流量:2.0L/分、ドライガス圧力:70kPa、ヒートブロック温度:200℃)
LC/MSの分析において、当初イオン化プローブはESI(エレクトロスプレーイオン化)を用いて行った。フォトダイオードアレイ検出器では、目的化合物を検出していたが、ESI−MSでは検出できなかったため、APCI(大気圧化学イオン化)に替えた。しかし、APCIでも通常のイオン化温度域(インターフェイス温度として200〜300℃)ではほとんどイオン化しなかったため、上記のような条件となった。
検出されたMSスペクトルを図7に示す。m/z=689.1135と401.0494は、それぞれm/z=575.1196と287.0553のトリフルオロ酢酸の付加イオンとして検出され、MS/MSスペクトルから、m/z=449.0870と287.0553は、m/z=575.1196のフラグメントイオンであることが分かった。このことから、親イオンをm/z=575.1196と推定し組成推定を行ったところ、C30H24O12(Error=0.17ppm)と推定した。この組成式から既存の化合物を検索した結果、A−タイプのプロシアニジンであることが分かった。
5.ブタノール−塩酸加水分解法(ポーター法)によるPACの同定
下記文献の方法に従い、ポーター法を用いて精製画分の分析を行った。
・Porter L. J. et al.、 “Phytochemistry”、 1986年、 第25巻、 p.223−230
・Shoji T. et al.、 “J. Agric. Food Chem.”、 2006年、 第54巻、 p.884−892
PACは酸性条件下における加熱により、フラバン間の結合が切断され、カルベニウムイオンとカテキン類を与える。前者はさらに酸化されて赤色のアントシアニジンとなる。この原理を利用した呈色法がポーター法であり、540nmの吸光度の上昇により、試料中のPACを鋭敏に検出できる。
(1)ポーター法によるPACの定性及び定量
精製画分をメタノールに溶解し、その200μlに5%(v/v)塩酸を含む1−ブタノール750μlと1%(w/v)硫酸鉄アンモニウムを含む2mol/L塩酸50μlを添加し、105℃で40分間反応させた。反応液を室温に戻し、540nmにおける吸光度を測定した。コントロールとしてプロシアニジンB2(Sigma社製)を用いた。
(2)組成分析;LC/MS法
LC/MSを用いて上記ポーター法反応分解物の分析を実施した。もしブルーベリー葉から精製したレプリコン産生抑制活性を有する化合物がPACであれば、アントシアニジンを検出するはずである。LC/MSに用いた装置及び条件は下記の通りである。
・装置:Shimadzu LC/MS−IT−TOF
・カラム:Atlantis T3, 2.1mm I.D.×100mm, 3μm(Waters製)、40℃
・移動相(溶出液):(A)5mMギ酸アンモニウムを含む0.5%(v/v)ギ酸
(B)アセトニトリル
・グラジエント:溶出液B 10%(0分)→40%(15分)→100%(15分)→100%(22.5分)
・移動相流速:0.25ml/分
・検出器1:フォトダイオードアレイ540nm
・検出器2:ESI−MS
(Positive−Ion Mode、インターフェイス電圧:4.5kV、
CDL温度200℃、ネブライズガス流量:1.5L/分、
ドライガス圧力:200kPa、ヒートブロック温度:200℃)
精製した画分をポーター法で分析した結果、その反応液は赤色を呈したことから、PACの存在が明らかとなった。さらにプロシアニジンB2を標品として定量したところ、精製画分のPAC含量は86.33%となった。さらに、LC/MS分析の結果を図8に示した。図8(A)がシアニジン標品(m/z=287.0550)のMS/MSスペクトルで、(B)がブルーベリー葉精製物のポーター法分解物(m/z=287.0555)のMS/MSスペクトルである。ポーター法反応分解物のメインピークの溶出時間はシアニジン標品と同じであり、さらにMS/MSスペクトルも一致した。また、その分解物のほとんどがシアニジンもしくはシアニジン誘導体であり、極微量であるがデルフィニジンも検出した。これらのことから、HCVレプリコン産生抑制活性を有する化合物は、PACであると判明した。
6.チオール開裂によるPACの平均重合度と構成ユニット組成の解析
上記実施例の結果より、ブルーベリー葉由来のHCVレプリコン産生抑制活性化合物の主成分がPACであることが示された。次いでここでは、PACの構成単位、結合様式及び重合度を調べるために、Guyotらの方法(Guyot S. et al.、 “J. Agric. Food Chem.”、 2001年、 第49巻、 p.14−20参照)に基づきチオール開裂分析を行った。
図9に、チオール開裂の基本反応を示す。チオール開列の基本反応においては、PACを酸性条件下でトルエン−α−チオールと反応させることにより、エクステンションユニットはベンジルチオエーテル付加物となり、ターミナルユニットは遊離のフラバン−3−オールとなる。それらチオール開裂反応産物を逆相HPLCで分析することにより、ターミナルユニットとエクステンションユニットの各組成や平均重合度(mDP)の情報を得ることができる。平均重合度(mDP)は、以下の式により求めることができる。

平均重合度(mDP)=[ターミナルユニット+エクステンションユニット]/[ターミナルユニット]
標品としてカテキンとエピカテキンを用い、チオール開裂の反応中に生じる遊離のフラバン−3−オールの異性化も考慮に入れて補正を行った(Gu L. et al.、 “J. Agric. Food Chem.”、 2002年、 第50巻、 p.4852−4860参照)。
(1)チオール開裂、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)条件
ブルーベリー葉由来活性化合物PACを、メタノールで1mg/mlに調製し、50μlを取り、3.3%(v/v)塩酸メタノール50μlを加え、5%(v/v)トルエン−α−チオール100μlを加え、50℃で30分間反応させた後、反応液を5倍にメタノールで希釈し、HPLCに供した。HPLC条件を以下に示す。
・装置:Shimadzu Prominence LC−20A
・カラム:Atlantis T3, 4.6mm I.D.×150mm, 3μm(Waters製)、40℃
・移動相(溶出液):(A)0.05%(v/v)トリフルオロ酢酸
(B)アセトニトリル
・グラジエント:溶出液B 15%(0分)→25%(10分)→100%(40分)→100%(45分)
・移動相流速:0.70ml/分
・検出器:UV280nm
(2)反応物の同定;液体クロマトグラフ質量分析(LC/MS)
上記反応物を同様にLC/MSに供し各検出ピークの同定を行った。分析条件は下記に示す。
・装置:Shimadzu LC/MS−IT−TOF
・カラム:Atlantis T3, 2.1mm I.D.×100mm(Waters製)
・移動相(溶出液):(A)0.05%(v/v)トリフルオロ酢酸
(B)アセトニトリル
・グラジエント:溶出液B 15%(0分)→25%(10分)→60%(40分)→100%(40分)
・移動相流速:0.25ml/分
・検出器1:フォトダイオードアレイ280nm
・検出器2:ESI−MS
(Positive−Ion Mode、インターフェイス電圧:4.5kV、
CDL温度200℃、ネブライズガス流量:1.5L/分、
ドライガス圧力:200kPa、ヒートブロック温度:200℃)
ブルーベリー葉から精製したレプリケーション抑制の活性化合物をチオール開裂し、HPLCで分離したところ、主に8本のメインピークが確認できた。HPLCの結果を図10に示す。カテキン、エピカテキンとトルエン−α−チオールは、標品の溶出時間より確認を行い、ピークAはカテキン、ピークCはエピカテキン、そしてピークHはトルエン−α−チオールと判明した。他のピークはLC/MSで再度分析を行い、各ピークのMSスペクトルを確認した。
ピークEはm/z=411.0892を検出し、この組成を組成推定によりC22H20O6S(Error=−3.8ppm)と推定した。また、MS/MSスペクトルにm/z=287.0510を検出し、親MSとMS/MSの差が124.0382であったことから、ピークEはベンジルチオエーテル付加物であることが推定された。加えて、親イオンから推定した組成式C22H20O6Sからトルエン−α−チオールの組成式C7H8Sの部分を差し引くとC15H14O6となり、これらのことからピークEはカテキンもしくはエピカテキンのベンジルチオエーテル付加物であることが確認できた。さらに、プロシアニジンB2標品をチオール開裂した場合、エピカテキンとエピカテキンベンジルチオエーテルが生成する。この分解物を分析したとき、エピカテキンベンジルチオエーテルとピークEの溶出時間が同じであったことから、ピークEはエピカテキンベンジルチオエーテルとした。
ピークGは、親イオンとしてm/z=697.1385を、MS/MSにm/z=573.0987を検出し、その差が124.0398になることからこのピークもベンジルチオエーテル付加物であることが分かった。この精密質量からC37H30O12Sと推定した。この組成からベンジルチオエーテル付加物を除くと、C30H24O12となることから、ピークGはカテキンやエピカテキンからなるA−タイプ2量体のベンジルチオエーテル付加物であると推定された。
Thompsonら(Thompson R. S. et al.、 “J. Chem. Soc. Perkin Trans. I”、 1972年、 p.1387−1399参照)によると、A−タイプのフラバン間結合はチオール開裂に対して抵抗性があるとされている。チオール開裂反応後、ターミナルユニットにA−タイプが存在すれば、それに対応するA−タイプ2量体として遊離し、エクステンションユニットにあればそれに相当するベンジルチオエーテル付加物が検出される(Foo L. Y. et al.、 “J. Nat. Prod.”、 2000年、 第63巻、 p.1225−1228参照)。
ピークBの親イオンはm/z=863.1822で、この精密質量から組成を推定するとC45H36O18(Error=−0.86ppm)となった。B−タイプ3量体の分子式はC45H38O18であり、A−タイプはC45H34O18であることから、このピークBはA−タイプとB−タイプが混在した3量体と推測した。
また、ピークDはm/z=985.2009であり、ベンジルチオエーテル付加物を除くとC45H36O18となり、この化合物はA−B−タイプ混在型の3量体ベンジルチオエーテルであることが推測できた。
ピークFはm/z=605.1449を検出し、MS/MSでm/z=481.1109を検出したことから、このピークはベンジルチオエーテル付加物と考えられたが、付加物を除くとC25H24O10となりそれ以上の情報は得られなかったため、表3ではUnknownと表示している。
レプリコン産生抑制活性を有するPACをチオール開裂した結果、その分解物にフラバン−3−オールモノマーとフラバン−3−オールモノマーのベンジルチオエーテル付加物以外に遊離の3量体とA−タイプ2量体と3量体ベンジルチオエーテル付加物が検出され、その組成比が比較的多いことから、mDPの計算方法を改めた。
すなわち、検出されたフラバン−3−オールの重合度をnとすると(ベンジルチオエーテル付加物も含めて)mDPは、以下の式により求める値とした。

mDP=[(ベンジルチオエーテル付加物×n)の総和+(遊離フラバン−3−オール×n)の総和]/[遊離フラバン−3−オールの総和]
加えて、検出されたフラバン−3−オールとそのベンジルチオエーテル付加物の面積比は、既知のプロシアニジンB2標品のチオール開裂反応物から算出し、それぞれ補正を行った。その結果、表3に示すとおり、ブルーベリー葉から精製したPACのmDPは7.7であった。加えて、その組成は全体的にエピカテキンの比率が高く、ターミナルユニットでは65.1%、エクステンションユニットでは58.1%であったが、検出されたA−タイプ2量体やA−B−タイプ混在3量体の組成が不明なので、検出されたモノマーのみで全体の組成を見ると、約95%がエピカテキンで構成されていることが分かった。
[実施例2]
PACを含有する素材の抽出及びそのレプリコン産生抑制活性
1.各素材からのPACの調製
実施例1の結果より、ブルーベリー葉由来のHCVレプリコン産生抑制活性を有する化合物がPACであることが示された。このPACは、上述のとおり、広く植物界から見いだされている。PACを含有することが報告されている下記に挙げる素材(試料1〜9及び試料N)を入手し、PAC画分を調製して、レプリコン産生抑制活性を調べた。
・試料1:ブルーベリー葉
・試料2:ブルーベリー実
・試料3:サトイモ皮
・試料4:マツ樹皮抽出物(ピクノジェノールTM
・試料5:ブドウ種子抽出物(グラヴィノールTM:キッコーマン株式会社)
・試料6:リンゴポリフェノール(アップルフェノンTM:アサヒビール株式会社)
・試料7:グランベリー(クランベリーパウダー:キッコーマン株式会社
・試料8:ストロベリー果実(ストロベリーパウダー:ナチュリ・フルーツ)
・試料9:落花生種皮
・試料N:クロトン樹液(Sangre de Drago; Raintree Nutrition, Inc.)
(ブルーベリー葉(試料1)由来PAC画分の調製)
ラビットアイブルーベリー種(Vaccinium virgatum Aiton)の生葉を、凍結乾燥(FTS System、Dura−Top MP&Dura−Dry MP)し、超遠心粉砕機(MRK&RETSCH、EM−1)で粉砕することで、ブルーベリー葉の凍結乾燥粉末を得た。この凍結乾燥粉末10gに100mlのヘキサンを加え、室温で30分間振盪抽出し、デカンテーションにより残渣を回収した。この抽出操作を3回繰り返し、ブルーベリー葉ヘキサン洗浄物を得た。
さらに、得られたブルーベリー葉ヘキサン洗浄物に、100mlの酢酸エチルを加え、同様に30分間振盪抽出し、デカンテーションにて残渣を回収した。これも同様に3回繰り返し、ヘキサン−酢酸エチル洗浄物を得た。
次に、ヘキサン−酢酸エチル洗浄物に100mlのメタノールを加え、30分間振盪抽出し、ろ過にて抽出液を回収し、残渣に再度メタノール100mlを加え、同様に3回繰り返し抽出液を合わせた。
抽出液をエバポレーターで減圧濃縮後、凍結乾燥し、ブルーベリー葉メタノール抽出物約3.5gを得た。さらに、この抽出物約500mgを60%メタノールに溶解し、60%メタノールで平衡化したセファデックスTMLH−20(容量100ml;GEヘルスケアバイオサイエンス社製)カラムにアプライし、60%メタノール400mlで洗浄し、次に100%メタノール400mlで洗浄した。その後70%アセトン400mlで溶出させ、減圧濃縮後、凍結乾燥し、ブルーベリー葉由来PAC画分を約100mg得た。同様に以下の試料を調製した。
(試料2〜9及び試料N由来のPAC画分の調製)
試料2、3及び9は、素材を直接入手して、試料4〜9は、PACを含有している製品を購入して、100%メタノールで抽出を行い、減圧濃縮後、凍結乾燥した。その後、上記調製と同じように、セファデックスLH−20でPAC画分を調製した。
2.PAC調製物の組成解析
各起源から抽出された上記試料1〜9及びNについて、上述のポーター法とチオール開裂反応を用いて、PAC純度、各フラバン−3−オール組成及び平均重合度を調べた。表4に、各試料のPAC画分の平均重合度及び組成を示す。
また、チオール開裂の結果から、プロペラルゴニジン(PP)、プロシアニジン(PC)及びプロデルフィニジン(PD)の組成を算出し、レプリコン産生抑制活性とPAC含量を表5に示した。表5において、PAC含量を表記していない起源のサンプルは、PAC画分調製の際、回収量が少なく測定できなかったものである。
表4〜6に示されるように、各起源のPAC調製物は、それぞれ特徴を有していた。ブルーベリー由来のPAC(試料1及び2)は、平均重合度が12前後で、エピカテキンリッチな組成を有しており、A−タイプの結合を持っていることが明らかになった。サトイモ皮(試料3)は、平均重合度が10.5で、ほとんどがエピカテキンで構成されており、一部A−タイプの結合を有していた。ピクノジェノール(試料4)は、平均重合度が約6.5で、エクステンションユニットはエピカテキンの組成比が高いが、ターミナルユニットはカテキンが多く存在していた。
グラヴィノール(試料5)は、平均重合度が比較的長く14.4で、エピカテキンガレートの組成比が高いのが特徴であった。アップルフェノン(試料6)の平均重合度は、ストロベリー(試料8)と同程度で比較的短い4.4で、エピカテキンの組成比が高かったが、ストロベリーは、エピカテキンリッチであるものの、エピアフゼレチンが約10%含まれているのが特徴であった。クランベリー(試料7)と落花生種皮(試料9)の平均重合度は、それぞれ6.6と7.4で、それぞれエピカテキン組成比が比較的高いが、両サンプルとも、A−タイプの結合存在比が高いのが特徴であった。最後にクロトン種樹液(試料N)は、平均重合度が8.3で、エピカテキンリッチな組成を有しているが、他の起源と比較すると、ガロカテキンとエピガロカテキンが検出され、プロデルフィニジン(PD)組成比に換算すると37.4%になった。
また、レプリコン産生抑制活性は、試料1から試料9までは、IC50が1.0μg/ml以下で、IC50に対するCC50の比(Ratio)は10以上となっているため、活性があると判断した。しかし、試料Nのクロトン種樹液由来のPACは、IC50が1.0μg/ml以上でRatioが10以下のため、活性がないと判断された。
これらの結果から、様々な植物由来のほとんどのPACにレプリコン産生抑制活性を確認できたが、クロトン種樹液由来のPACのように、プロデルフィニジン(PD)組成比の多いものには活性がないということが分かった。
[実施例3]
ブルーベリー葉由来PACの大量調製
ブルーベリー葉凍結乾燥粉末105gに、クロロフィルを除く目的でアセトン1200mlを加え、室温で10分間振盪抽出し、デンカンテーションにより上清を除去した。この操作を5回繰り返し、アセトン洗浄物を得た。その後、上記試料1の調製と同じ方法で、メタノール抽出物を約30g得た。但し、使用した各溶媒量は1200mlずつとした。
その後、上記試料1と同様にセファデックスLH−20(容量約1800ml)で分画を実施した。各画分の溶出量は9000mlずつ年、1000ml毎回収した。PACオリゴマーが回収できる100%メタノール画分は全部で9画分得られ、合計3.3g回収できた。さらに、ポリマー画分(70%アセトン溶出画分)も計9画分、合計1.3g回収できた。これらの画分について、レプリコン産生抑制活性試験と、チオール開裂による平均重合度の解析と、組成解析を実施した。
図1に、ブルーベリー葉由来のPAC各画分の平均重合度(mDP)と、レプリコン産生抑制活性の相関を示した。横軸に平均重合度(mDP)、縦軸にレプリコン産生抑制活性(比活性)を取りプロットした。その結果、活性が高い画分は、100%メタノールの8番目の画分であり、平均重合度が8.75であった。また、平均重合度が8くらいまでは、重合度の増加につれて比活性が上昇しているが、平均重合度が9を超えると、比活性は低下していく傾向にあった。本実施形態において、平均重合度は5以上が好ましい。
(考察)
表4〜6から明らかなように、チオール開裂分析で組成分析をした結果、PAC中のプロデルフィニジンユニット(R=R=R=OH)の含量が高いと、試料Nのように、IC50が1.0μg/ml以上、かつIC50に対するCC50の比(Ratio)が10以下となり、抗HCV剤としては使用できない。すなわち、本発明のPAC組成物は、重合度が3以上で、デルフィニジン含量が低いほど、レプリコン産生抑制活性値が高くなり、抗HCV剤として有用である。
本発明のHCV産生抑制剤は、優れたHCV産生抑制効果を有するため、インターフェロンに代わるHCV由来肝疾患の治療剤や、健康補助食品等に適用される。
ブルーベリー葉由来のPACのレプリコンアッセイの結果を例示した図である。 (A)はブルーベリー葉メタノール抽出物のHPLC溶出パターンであり、(B)はそのレプリコン産生抑制活性を示した図である。 (A)は分取1画分(LC分取1)の溶出パターンであり、(B)はそのレプリコン産生抑制活性を示した図である。 (A)は分取2画分(LC分取2)の溶出パターンであり、(B)はそのレプリコン産生抑制活性を示した図である。 分取3画分(LC分取3)の溶出パターンとそのレプリコン産生抑制活性を示した図である。 ブルーベリー葉精製物の電子線マイクロアナライザー(EPMA)解析結果を示した図である。(i)はRAP、(ii)はPBST、(iii)はLIF、(iv)はPETのスペクトルをそれぞれ示す。 精製物のLC/MS−IT−TOFによるMSスペクトルである。 (A)はシアニジン標品のMS/MSスペクトルで、(B)はブルーベリー葉精製物のポーター法分解物のMS/MSスペクトルである。 PACを酸性条件下、トルエン−α−チオールと反応させるチオール開裂を模式的に示した図である。 ブルーベリー葉精製物のチオール開裂反応生成物の逆相クロマトグラムを示した図である。 ブルーベリー葉の分画物における平均重合度と比活性との関係を示した図である。

Claims (8)

  1. プロアントシアニジンからなる組成物を有効成分とするC型肝炎ウイルス産生抑制剤であって、
    前記組成物中のプロアントシアニジンは、下記一般式(1)

    [式(1)中、 は水素原子、R は水素原子又は水酸基、Rは水酸基、Rは水素原子又はガレート基を、それぞれ示す。]
    で表されるフラバン−3−オール骨格が、下記(i)、(ii)又は(iii)の結合様式で3以上互いに結合した構造を有しており、
    (i)4位炭素及び8位炭素の結合
    (ii)4位炭素及び6位炭素の結合
    (iii)4位炭素及び8位炭素の結合並びに2位炭素及び7位酸素の結合
    CVレプリコン産生抑制活性値(IC50)が、1.0μg/ml以下である、C型肝炎ウイルス産生抑制剤。
  2. C型肝炎ウイルス活性を50%阻害するのに要する濃度が、細胞増殖活性を50%阻害するのに要する濃度に対し1/10以下である、請求項1に記載のC型肝炎ウイルス産生抑制剤。
  3. 前記組成物中のプロアントシアニジンが、前記一般式(1)で表されるフラバン−3−オール骨格が、前記(i)、(ii)又は(iii)の結合様式で5〜10互いに結合した構造を有する、請求項1又は2に記載のC型肝炎ウイルス産生抑制剤。
  4. 前記組成物中のプロアントシアニジンの平均重合度(mDP)が5〜9である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のC型肝炎ウイルス産生抑制剤。
  5. 植物材料を出発素材とする溶媒抽出物を精製してなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のC型肝炎ウイルス産生抑制剤。
  6. 前記溶媒抽出物を、該溶媒抽出物に比して6.15倍以上の精製度で精製してなる、請求項5に記載のC型肝炎ウイルス産生抑制剤。
  7. 前記植物材料が、ブルーベリーである、請求項5又は6に記載のC型肝炎ウイルス産生抑制剤。
  8. 前記植物材料が、サトイモ科植物である、請求項5又は6に記載のC型肝炎ウイルス産生抑制剤。
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