JP4889507B2 - 保持パッド - Google Patents

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Description

本発明は保持パッドに係り、特に、微多孔が形成された表面層を有する2枚の軟質プラスチックシートの背面同士が貼り合わされ、いずれか一方の表面層側で定盤に装着され、いずれか他方の表面層側が被研磨物に当接する保持パッドに関する。
従来、フラットパネルディスプレイ(FPD)用ガラス基板、カラーフィルタ、インジウム錫酸化物(ITO)成膜済み基板等の材料(被研磨物)では、高精度な平坦性が要求されるため、研磨布を使用した研磨加工が行われている。通常、これらの被研磨物の研磨加工には、被研磨物を片面ずつ研磨加工する片面研磨機が使用されている。この片面研磨機では、表面が平坦な保持定盤に被研磨物の一面側を保持させ、表面が平坦な研磨定盤に貼付した研磨布により、研磨液を供給しながら被研磨物の他面側(加工表面)に研磨加工が行われている。
一般に、片面研磨機を使用した研磨加工では、被研磨物が金属製の保持定盤と直接接触して生じる被研磨物表面のスクラッチ(キズ)等を回避するため、保持定盤に軟質クロス等の保持パッドが装着されている。被研磨物および保持定盤間に保持パッドを介在させることで、スクラッチ等を回避することはできるが、保持パッドの被研磨物保持性が不十分なときは、研磨加工中に被研磨物の横ずれが生じて被研磨物を平坦に保持することができなくなる。被研磨物の横ずれを防止するために、保持パッドの表面には被研磨物を挿入可能な開口を形成したキャリア(型枠)等が貼付されており、キャリアの開口に被研磨物を挿入して研磨加工が行われている。キャリアを使用した場合には、研磨加工後に被研磨物がキャリアから取り外されるが、被研磨物、特にガラス基板が大型化しており、キャリアからの取り外し作業が難しくなっている。このため、保持パッドには、キャリアを使用しないキャリアレスタイプが求められており、被研磨物の横ずれや脱落を防止するために、被研磨物保持性の向上が望まれている。
通常、保持パッドには、微多孔が形成された表面層と、表面層に形成された微多孔の孔径より大きな発泡が連続して形成された発泡層とを有する軟質プラスチックシートが使用される。この軟質プラスチックシートは、軟質プラスチック(樹脂)を水混和性の有機溶媒に溶解させた樹脂溶液をシート状の成膜基材に塗布後、水系凝固液中で樹脂を凝固再生させること(湿式成膜法)で製造される。凝固再生に伴い、軟質プラスチックシートの表面には表面層を構成する微多孔が厚さ数μm程度に亘り緻密に形成され、表面層より内側には発泡層を構成する発泡が形成される。微多孔が緻密に形成された表面層は、表面が平坦で被研磨物との接触性に優れるため、被研磨物の保持が可能となる。被研磨物の研磨加工時には、保持パッドが表面層と反対側の面で保持定盤に装着され、表面層に水等の液体を含ませ被研磨物を押し付けることで表面層の微多孔に浸入した液体の表面張力の作用により被研磨物が保持される。
ところが、被研磨物を保持するときに被研磨物および保持パッド間にエアの咬み込みを生じることがある。表面層に形成された微多孔に浸入した液体が、咬み込まれたエアの軟質プラスチックシート側(発泡層側)への移動を阻害するため、エアが被研磨物および保持パッド間に貯留する。エアが貯留したまま研磨加工を行うと、エアの貯留部分で被研磨物にかかる圧力が大きくなるため、当該部分の加工表面が大きく研磨され(エア貯留部分が被研磨物に転写され)て平坦性を損なうこととなる。被研磨物および保持パッド間のエアの咬み込みを低減させるため、軟質プラスチックシートの表面に粘着性樹脂層を積層し該粘着性樹脂層の表面に凹凸を形成する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、湿式成膜された軟質プラスチックシートが柔軟性を有するため、保持定盤への装着時や運搬時に扱い難いことから、保持パッドには、ポリエステルフィルム等の基材が貼り合わされている。通常、保持定盤への装着に両面テープが使用されることから、保持パッドには、軟質プラスチックシート、基材、両面テープが積層されている。このような保持パッドとしては、例えば、ポリエステルフィルム等の基材の両面に接着剤が塗布された両面テープを使用する技術が開示されている(特許文献2参照)。この技術では、両面テープの片面側が軟質プラスチックシートと貼り合わされ、もう一方の面側が保持定盤に装着される。保持定盤への装着を容易にしエアの咬み込みを改善するために、本出願人は2枚の軟質プラスチックシートの背面同士を貼り合わせた保持パッドを開示している(特許文献3参照)。
特開2002−355755号公報 特開2005−011972号公報 特開2006−326714号公報
しかしながら、特許文献1の技術では、粘着性樹脂層の表面に被研磨物が接触するため、被研磨物に粘着性樹脂が付着する、という欠点がある。また、特許文献2の技術では、両面テープで保持定盤に保持パッドを装着することから、保持パッドおよび保持定盤間にエアの咬み込みが生じることがある。保持パッドおよび保持定盤間にエアの咬み込みが生じると、上述した被研磨物および保持パッド間にエアの咬み込みが生じたときと同様に研磨加工で被研磨物の平坦性を損なうため、保持パッドの貼り直しが必要となる。ところが、両面テープで一度貼付した保持パッドを剥離すると、却ってしわ等が発生する。特に、大型の保持パッドではエアの咬み込みが生じやすいため、保持定盤への装着には熟練を要する。また、貼り直しや寿命等で保持パッドを剥離すると接着剤が保持定盤に残留し平坦性を損なうため、新しい保持パッドを装着するには残留した接着剤を保持定盤から除去する清掃作業が必要となり保持パッドの装着の作業性が低下する。一方、特許文献3の技術では、両面テープを使用せずに保持定盤に保持パッドを装着することができ、エアの咬み込みも低減するものの、研磨加工後に保持パッドから被研磨物を取り外す場合に、被研磨物が外れるより先に保持パッドが保持定盤から剥がれてしまうことがある。継続して研磨加工を行うためには保持定盤に新たな保持パッドの装着が必要となり、保持パッドの寿命を低下させ研磨加工全体の作業効率を低下させることとなる。
本発明は上記事案に鑑み、定盤に容易に脱着可能で被研磨物の交換作業の効率を向上させることができる保持パッドを提供することを課題とする。
上記課題を解決するため、本発明は、微多孔が形成された表面層を有する2枚の軟質プラスチックシートの背面同士が貼り合わされ、いずれか一方の表面層側で定盤に装着され、いずれか他方の表面層側が被研磨物に当接する保持パッドにおいて、前記軟質プラスチックシートは、いずれも前記表面層の表面に対する水の接触角が105°以上であるとともに、それぞれ異なる圧縮率を有しており、該圧縮率の小さい方の軟質プラスチックシートの前記表面層側で前記定盤に装着されることを特徴とする。
本発明では、微多孔が形成された表面層を有し背面同士が貼り合わされた2枚の軟質プラスチックシートがそれぞれ異なる圧縮率を有しており、圧縮率の小さい方の軟質プラスチックシートの表面層側で定盤に装着されるため、研磨加工時には圧縮率の大きい方の軟質プラスチックシートの表面層側が被研磨物に当接して被研磨物が保持パッドにより定盤に保持される。軟質プラスチックシートがいずれも表面層の表面に対する水の接触角が105°以上のため、軟質プラスチックシートの表面の撥水性が高くなり、研磨加工時に保持パッドと定盤または被研磨物との間に研磨液等の液体の浸入を防止できるので、保持パッドの定盤への装着力や被研磨物の保持力の低下を抑制することができる。研磨加工後に被研磨物を取り外すときに保持パッドに外力が作用しても、被研磨物に当接する側の軟質プラスチックシートが外力に対して変形しやすいのに対して、定盤に装着する側の軟質プラスチックシートが変形しにくいので、保持パッド自体が定盤から外れることなく被研磨物の取り外しを容易に行うことができ交換作業の効率を向上させることができる。
この場合において、2枚の軟質プラスチックシートがいずれも表面層より内側に、表面層に形成された微多孔より大きい孔径の発泡が形成された発泡層を有し、定盤に装着される軟質プラスチックシートの発泡層に形成された発泡が、被研磨物に当接する軟質プラスチックシートの発泡層に形成された発泡より孔径が小さいようにすれば、定盤に装着される軟質プラスチックシートの圧縮率を、被研磨物に当接する軟質プラスチックシートの圧縮率より小さくすることができる。このとき、被研磨物に当接する軟質プラスチックシートの圧縮率を30%以上70%以下とし、定盤に装着される軟質プラスチックシートの圧縮率を1%以上30%未満としてもよい。
また、軟質プラスチックシートの背面同士が基材と該基材の両面に配された粘着剤とを有する接着部材で貼り合わされていてもよい。軟質プラスチックシートの背面側がそれぞれの軟質プラスチックシートの厚さが一様となるようにバフ処理されているようにすれば、軟質プラスチックシートの表面層の表面がいずれも略平坦となるので、被研磨物を略平坦に保持することができる。
このような軟質プラスチックシートが、いずれも表面層の表面に、発泡層に形成された発泡より小さく表面層に形成された微多孔より大きい孔径の多孔が更に形成されており、該多孔が発泡層に形成された発泡と連通するようにすれば、定盤に保持パッドを装着するときや保持パッドに被研磨物を当接するときにエアの咬み込みが生じても多孔を通じて発泡層の発泡にエアが吸い込まれるので、エアが保持パッドと定盤または被研磨物との間に貯留することなく被研磨物を略平坦に保持することができる。このような保持パッドに研磨加工時の被研磨物の横ずれを防止するキャリアを更に有するようにしてもよい。
本発明によれば、微多孔が形成された表面層を有し背面同士が貼り合わされた2枚の軟質プラスチックシートがそれぞれ異なる圧縮率を有しており、圧縮率の小さい方の軟質プラスチックシートの表面層側で定盤に装着されるため、研磨加工時には圧縮率の大きい方の軟質プラスチックシートの表面層側が被研磨物に当接して被研磨物が保持パッドにより定盤に保持され、軟質プラスチックシートがいずれも表面層の表面に対する水の接触角が105°以上のため、研磨加工時に保持パッドと定盤または被研磨物との間に研磨液等の液体の浸入を防止できるので、保持パッドの定盤への装着力や被研磨物の保持力の低下を抑制することができ、研磨加工後に被研磨物を取り外すときに保持パッドに外力が作用しても、被研磨物に当接する側の軟質プラスチックシートが外力に対して変形しやすいのに対して、定盤に装着する側の軟質プラスチックシートが変形しにくいので、保持パッド自体が定盤から外れることなく被研磨物の取り外しを容易に行うことができ交換作業の効率を向上させることができる、という効果を得ることができる。
以下、図面を参照して、本発明を適用したキャリアレスタイプの保持パッドの実施の形態について説明する。
(保持パッド)
図1に示すように、保持パッド1は、ポリウレタン樹脂で形成された2枚の軟質プラスチックシートとしてのポリウレタンシート2、3を有している。ポリウレタンシート2、3は、それぞれ異なる圧縮率を有している。
ポリウレタンシート2は、被研磨物と当接する保持面P側に配された表面層2aと、表面層2aより内側(ポリウレタンシート2の内部)に配された発泡層2bとを有している。表面層2aには、図示を省略した緻密な微多孔が形成されている。発泡層2bには、ポリウレタンシート2の厚さ方向に沿って丸みを帯びた断面略三角状の発泡7が形成されている。発泡7の孔径は、保持面P側の大きさが、保持面Pの背面側より小さく形成されている。発泡7同士の間のポリウレタン樹脂中には、表面層2aに形成された微多孔より孔径が大きく発泡層2bに形成された発泡7より孔径が小さな図示しない発泡が形成されている。発泡7及び図示しない発泡は、不図示の連通孔で立体網目状につながっている。
一方、ポリウレタンシート3は、保持定盤に装着される装着面Q側に配された表面層3aと、表面層3aより内側(ポリウレタンシート3の内部)に配された発泡層3bとを有している。表面層3aには、図示を省略した緻密な微多孔が形成されている。発泡層3bには、表面層3aに形成された微多孔より大きくポリウレタンシート2の発泡層2bに形成された発泡7より小さい孔径の略球状の発泡9が略均等に形成されている。発泡9同士の間のポリウレタン樹脂中には、表面層3aに形成された微多孔より孔径が大きく発泡層3bに形成された発泡9より孔径が小さな図示しない発泡が形成されている。発泡9及び図示しない発泡は、不図示の連通孔で立体網目状につながっている。このため、ポリウレタンシート2、3のそれぞれを加圧したときは、ポリウレタンシート2の発泡7がポリウレタンシート3の発泡9より大きく変形することから、ポリウレタンシート3の圧縮率(加圧したときの厚さ減少分の加圧する前の厚さに対する百分率)がポリウレタンシート2より小さくなる。ポリウレタンシート2の圧縮率は、例えば、30%以上70%以下の範囲に設定されており、ポリウレタンシート3の圧縮率は、例えば、1%以上30%未満の範囲に設定されている。
ポリウレタンシート2の保持面P(表面層2aの表面)、ポリウレタンシート3の装着面Q(表面層3aの表面)には、それぞれ発泡層2bに形成された発泡7または発泡層3bに形成された発泡9と連通する多孔8が更に形成されている。多孔8の孔径は、表面層2a、3aに形成された微多孔より大きく、発泡層2bに形成された発泡7または発泡層3bに形成された発泡9より小さく形成されている。多孔8と発泡7または発泡9とを連通する連通孔の孔径は、表面層2a、3aの微多孔の孔径より大きく形成されている。この多孔8は、後述するポリウレタンシート2、3の湿式成膜時にポリウレタン樹脂溶液に添加された孔形成剤で形成される。また、ポリウレタンシート2、3は、保持面Pの背面側、装着面Qの背面側が、それぞれポリウレタンシート2、3の厚さ(図1の縦方向の長さ)が一様となるようにバフ処理されている。このため、保持パッド1の両面、すなわち保持面Pおよび装着面Qが略平坦となる。
また、ポリウレタンシート2、3は、保持面P、装着面Qに撥水性が付与されている。撥水性は、湿式成膜時の樹脂溶液に撥水性添加剤を配合しておくことで付与することができる。撥水性の程度は、保持面P、装着面Qに対する水の接触角が105°以上に調整されている。なお、接触角は、固体、液体と気体を接触させたとき、3相の接触点で液体に引いた接線と固体面とのなす角のうち液体を含む側の角である。
圧縮率が異なる2枚のポリウレタンシート2、3は、背面同士、すなわち、保持面Pの背面と装着面Qの背面とが両面テープ(接着部材)6を介して貼り合わされている。両面テープ6は、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製フィルムの基材4の両面に粘着剤5が塗着されている。このため、保持パッド1は、両面に表面層2a、3aがそれぞれ位置しており、圧縮率が低い方のポリウレタンシート3の装着面Qで研磨機の定盤に装着され、圧縮率が高い方のポリウレタンシート2の保持面Pが被研磨物に当接する。
(保持パッドの製造)
保持パッド1は、図2に示す各工程を経て製造されるが、準備工程〜洗浄・乾燥工程でそれぞれ成膜されたポリウレタンシート2、3がバフ処理工程を経て貼り合わせ工程で貼り合わされる。ポリウレタンシート2の作製、ポリウレタンシート3の作製の順に説明する。
準備工程では、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒のN、N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)、保持面Pに撥水性を付与するための撥水性添加剤および保持面Pに多孔8を形成するための孔形成剤を混合してポリウレタン樹脂溶液を調製する。ポリウレタン樹脂には、100%モジュラス(2倍長に引っ張る時の張力)が20MPa以下のポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から選択して用い、例えば、ポリウレタン樹脂が30%となるようにDMFに溶解させる。
ポリウレタン樹脂溶液に混合する孔形成剤としては、ポリウレタン樹脂溶解用のDMFに可溶性であり、水に難溶性又は不溶性のセルロース誘導体を所定量添加する。セルロース誘導体には、少なくともエステル系誘導体、エーテル系誘導体、エーテルエステル系誘導体および芳香族含有誘導体から選択される1種を使用することができる。エステル系誘導体には、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースバレレート、セルロースアセテートブチレート等を挙げることができる。エーテル系誘導体には、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等を挙げることができる。エーテルエステル系誘導体には、アセチルエチルセルロース、アセトキシプロピルセルロース等を挙げることができる。このセルロース誘導体の添加量は、表面層2aの表面(保持面P)での多孔8の孔径に合わせて設定する。
また、撥水性を付与するために、例えば、シリコーン系やポリエーテル系の撥水性添加剤をポリウレタン樹脂溶液に混合する。撥水性添加剤の配合量は、得られるポリウレタンシート2の保持面Pに対する水の接触角が105°以上となるように調整する。本例では、撥水性を付与する効果が得られ、水等の液体による保持パッドの定盤への装着や被研磨物の当接を阻害しないように、撥水性添加剤の配合量をポリウレタン樹脂溶液の100部に対して0.05〜3.0部、好ましくは0.1〜1.0部とした。得られた溶液を濾過することで凝集塊等を除去した後、真空下で脱泡してポリウレタン樹脂溶液を得る。
図2に示した塗布工程、凝固再生工程および洗浄・乾燥工程では、準備工程で得られたポリウレタン樹脂溶液を不織布、織布、可撓性フィルム等の成膜基材に連続的に塗布し、水系凝固液に浸漬することでポリウレタン樹脂を凝固再生させ、洗浄後乾燥させてポリウレタンシート2を得る。塗布工程、凝固再生工程および洗浄・乾燥工程は、図3に示す成膜装置で連続して実行される。
図3に示すように、成膜装置60は、成膜基材の不織布や織布を前処理するための水又はDMF水溶液(DMFと水との混合液)等の前処理液15が満たされた前処理槽10、ポリウレタン樹脂を凝固再生させるための、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液25が満たされた凝固槽20、凝固再生後のポリウレタン樹脂を洗浄するための水等の洗浄液35が満たされた洗浄槽30及びポリウレタン樹脂を乾燥させるためのシリンダ乾燥機50を連続して備えている。
前処理槽10の上流側には、成膜基材43を供給する基材供給ローラ41が配置されている。前処理槽10には、成膜基材43の搬送方向と同じ長手方向の略中央部の内側下部に一対のガイドローラ対13が配置されている。前処理槽10の上方で、基材供給ローラ41側にはガイドローラ11、12が配設されており、凝固槽20側には前処理した成膜基材43に含まれる過剰な前処理液15を除去するマングルローラ18が配置されている。マングルローラ18の下流側には、成膜基材43にポリウレタン樹脂溶液45を略均一に塗布するナイフコータ46が配置されている。ナイフコータ46の下流側で凝固槽20の上方にはガイドローラ21が配置されている。
凝固槽20には、洗浄槽30側の内側下部にガイドローラ23が配置されている。凝固槽20の上方で洗浄槽30側には凝固再生後のポリウレタン樹脂を脱水処理するマングルローラ28が配置されている。マングルローラ28の下流側で洗浄槽30の上方にはガイドローラ31が配置されている。洗浄槽30には、成膜基材43の搬送方向と同じ長手方向で上部に4本、下部に5本のガイドローラ33が上下交互となるように配設されている。洗浄槽30の上方でシリンダ乾燥機50側には、洗浄後のポリウレタン樹脂を脱水処理するマングルローラ38が配置されている。シリンダ乾燥機50には、内部に熱源を有する4本のシリンダが上下4段に配設されている。シリンダ乾燥機50の下流側には、乾燥後のポリウレタン樹脂を(成膜基材43と共に)巻き取る巻取ローラ42が配置されている。なお、マングルローラ18、28、38、シリンダ乾燥機50及び巻取ローラ42は、図示を省略した回転駆動モータに接続されており、これらの回転駆動力により成膜基材43が基材供給ローラ41から巻取ローラ42まで搬送される。
成膜基材43に不織布又は織布を用いる場合は、成膜基材43が基材供給ローラ41から引き出され、ガイドローラ11、12を介して前処理液15中に連続的に導入される。前処理液15中で一対のガイドローラ13間に成膜基材43を通過させて前処理(目止め)を行うことにより、ポリウレタン樹脂溶液45を塗布するときに、成膜基材43内部へのポリウレタン樹脂溶液45の浸透が抑制される。成膜基材43は、前処理液15から引き上げられた後、マングルローラ18で加圧されて余分な前処理液15が絞り落とされる。前処理後の成膜基材43は、凝固槽20方向に搬送される。なお、成膜基材43としてPET製等の可撓性フィルムを用いる場合は、前処理が不要のため、ガイドローラ12から直接マングルローラ18に送り込むようにするか、又は、前処理槽10に前処理液15を入れないようにしてもよい。以下、本例では、成膜基材43をPET製フィルムとして説明する。
図2に示すように、塗布工程では、準備工程で調製したポリウレタン樹脂溶液45が常温下でナイフコータ46により成膜基材43に略均一に塗布される。このとき、ナイフコータ46と成膜基材43の上面との間隙(クリアランス)を調整することで、ポリウレタン樹脂溶液45の塗布厚さ(塗布量)を調整する。
凝固再生工程では、ナイフコータ46でポリウレタン樹脂溶液45が塗布された成膜基材43が、ガイドローラ21からガイドローラ23へ向けて凝固液25中に導入される。凝固液25中では、まず、塗布されたポリウレタン樹脂溶液45の表面でポリウレタン樹脂溶液45のDMFと凝固液25との置換が進行して緻密な微多孔が形成される。この微多孔は厚さ数μm程度に形成され表面層2aを構成する。その後、表面層2a及び成膜基材43間のポリウレタン樹脂溶液45中のDMFと凝固液25との置換の進行によりポリウレタン樹脂が成膜基材43の片面に凝固再生される。DMFの脱溶媒による凝固液25との置換に伴い、表面層2aより内側には発泡7、及び、発泡7を立体網目状に連通する連通孔が形成されて発泡層2bを構成する。また、脱溶媒時に、ポリウレタン樹脂溶液45に添加されているセルロース誘導体で多孔8が形成され、多孔8及び発泡7を連通する連通孔が形成される。発泡7は、PET製フィルムの成膜基材43が水を浸透させないため、ポリウレタン樹脂溶液45の表面側(表面層2a側)で脱溶媒が生じて成膜基材43側が表面側より大きく形成される。
ここで、多孔8の形成について説明すると、ポリウレタン樹脂溶液45中では、セルロース誘導体及びポリウレタン樹脂の相溶性が乏しいため、2相分離していると考えられる。その上、ポリウレタン樹脂の凝固再生時には、セルロース誘導体及びポリウレタン樹脂の凝固液25中での凝固特性が異なるため、収縮量に差が生じ、また、相溶性が乏しいことから、セルロース誘導体及びポリウレタン樹脂間の界面接合力が小さくなり脱離的現象も生じるので、多孔8が形成されると考えられる。このため、多孔8の孔径は表面層2aの微多孔より大きく発泡層2bの発泡7より小さくなり、多孔8及び発泡7を連通する連通孔の孔径は微多孔の孔径より大きくなる。
ポリウレタン樹脂の凝固再生は、ポリウレタン樹脂溶液45が塗布された成膜基材43が凝固液25中に進入してからガイドローラ23に到る間に完了する。凝固再生したポリウレタン樹脂は、凝固液25から引き上げられ、マングルローラ28で余分な凝固液25が絞り落とされた後、ガイドローラ31を介して洗浄槽30に搬送され洗浄液35中に導入される。
洗浄・乾燥工程では、洗浄液35中に導入されたポリウレタン樹脂をガイドローラ33に上下交互に通過させることによりポリウレタン樹脂が洗浄される。洗浄後、ポリウレタン樹脂は洗浄液35から引き上げられ、マングルローラ38で余分な洗浄液35が絞り落とされる。その後、ポリウレタン樹脂を、シリンダ乾燥機50の4本のシリンダ間を交互(図3の矢印方向)に、シリンダの周面に沿って通過させることで乾燥させる。乾燥後のポリウレタン樹脂は、成膜基材43と共に巻取ローラ42に巻き取られる。
次に、ポリウレタンシート3の作製について説明するが、上述したポリウレタンシート2の作製と同じ工程、条件、成膜装置についてはその説明を省略し、異なる工程のみ説明する。
準備工程では、ポリウレタン樹脂溶液に発泡調整用の調整有機溶媒を配合する。ポリウレタン樹脂、DMF、撥水性添加剤、孔形成剤を混合しポリウレタン樹脂を溶解させた後、凝固再生時のDMFと水との置換を遅らせるため、所定量の調整有機溶媒を添加し樹脂エマルジョン49を得る。調整有機溶媒には、水に対する溶解度がDMFより小さく、DMFに溶解させたポリウレタン樹脂を凝固(ゲル化)させることなく、ポリウレタン樹脂を溶解させた溶液に均一に混合又は分散できるものを用いる。具体例としては、酢酸エチル、イソプロピルアルコール等を挙げることができる。調整有機溶媒の添加量を変えることで、ポリウレタンシート3の内部に形成される発泡9の大きさや量(個数)を制御することができ、ポリウレタンシート3の圧縮率を調整することができる。本例では、ポリウレタンシート3の圧縮率を上述した範囲に設定するため、調整有機溶媒の添加量を樹脂エマルジョン49の100部に対して20〜45部の範囲とすることが好ましい。
凝固再生工程では、樹脂エマルジョン49が塗布された成膜基材43が凝固液25に導入され、ポリウレタン樹脂を凝固再生させる。凝固液25中では、まず、樹脂エマルジョン49の表面にポリウレタンシート2と同様に表面層3aが形成されるが、樹脂エマルジョン49に調整有機溶媒が添加されているため、樹脂エマルジョン49中のDMF及び調整有機溶媒と凝固液25との置換の進行が遅くなる。このため、表面層3aより内側には、表面層3aに形成された微多孔より大きくポリウレタンシート2の発泡層2bに形成された発泡7より小さい孔径の発泡9が略均等に形成される。
ここで、ポリウレタンシート2の発泡7及びポリウレタンシート3の発泡9の形成について説明する。ポリウレタン樹脂の溶解に使用したDMFは、ポリウレタン樹脂の溶解に一般に用いられる溶媒であり、水に対して任意の割合で混合することができる。このため、ポリウレタンシート2の作製では、凝固液25にポリウレタン樹脂溶液45を浸漬すると、まずポリウレタン樹脂溶液45の表面でDMFと凝固液25との置換(ポリウレタン樹脂の凝固再生)が起こり表面層2aの微多孔が形成される。その後、凝固液25が表面層2aの侵入しやすい部分からポリウレタン樹脂溶液45内部に侵入するため、DMFと凝固液25との置換が急速に進行する部分と遅れる部分とが生じ、比較的大きな発泡7が形成される。凝固液が浸透しないPET製フィルムを成膜基材43に使用することから、ポリウレタン樹脂溶液45の表面層2a側からのみDMFが溶出するため、発泡7は成膜基材43側が大きく丸みを帯びた三角錘状となる。
これに対して、ポリウレタンシート3の作製では、ポリウレタン樹脂の溶解後に調整有機溶媒を添加して樹脂エマルジョン49とする。凝固液25に樹脂エマルジョン49を浸漬すると、樹脂エマルジョン49の表面で、ポリウレタンシート2の表面層2aと同様に表面層3aの微多孔が形成される。調整有機溶媒は、水に対する溶解度がDMFより小さいため、水(凝固液25)中への溶出がDMFより遅くなる。また、樹脂エマルジョン49では、調整有機溶媒を添加した分、DMF量が少なくなる。このため、DMF及び調整有機溶媒と凝固液25との置換速度が遅くなるので、ポリウレタンシート2のような発泡7の形成が抑制され、表面層3aより内側には、発泡9が概ね均等に分散して形成される。従って、発泡9の孔径は、ポリウレタンシート2の発泡層2bの発泡7より小さく表面層3aの微多孔より大きくなる。また、発泡9は、DMF及び調整有機溶媒の脱溶媒に伴い形成されるため、発泡9の孔径より小さい連通孔で立体網目状に連通される。
バフ処理工程では、ポリウレタンシート2の保持面Pの背面側、ポリウレタンシート3の装着面Qの背面側にバフ処理が施される。図4(A)に示すように、巻取ローラ42に巻き取られたポリウレタンシート2は成膜基材43上に形成されている。成膜時にはポリウレタンシート2の厚さにバラツキが生じるため、保持面Pには凹凸が形成されている。成膜基材43を剥離した後、図4(B)に示すように、保持面Pに、表面が平坦な圧接ローラ65の表面を圧接することで、保持面Pが平坦となり、保持面Pの背面N側に凹凸が出現する。背面N側に出現した凹凸がバフ処理で除去される。本例では、連続的に製造されたポリウレタンシート2が帯状のため、保持面Pに圧接ローラ65を圧接しながら、背面N側を連続的にバフ処理する。これにより、図4(C)に示すように、背面N側がバフ処理されて平坦な背面N’が形成されたポリウレタンシート2は、厚さのバラツキが解消される。ポリウレタンシート3についても同様にしてバフ処理を施す。なお、図4(C)では説明をわかりやすくするために保持面Pおよび背面N’を平坦に示しているが、ポリウレタンシート2の単体では両面共にポリウレタンシート2の厚さが一様となる凹凸を呈している。ポリウレタンシート2、3の背面同士を、両面テープ6を介して貼り合わせることで保持面P、装着面Qが略平坦となる。
図2に示すように、貼り合わせ工程では、ポリウレタンシート2、3のバフ処理された面同士、すなわち、保持面Pの背面と装着面Qの背面とが貼り合わされる。ポリウレタンシート2、3の貼り合わせには、基材4の両面に粘着剤5が塗着された両面テープ6を使用する。裁断工程で円形等の所望の形状、サイズに裁断した後、汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、保持パッド1を完成させる。
(作用等)
次に、本実施形態の保持パッド1の作用等について説明する。
本実施形態の保持パッド1では、ポリウレタンシート3に略均等に形成された発泡9の孔径が表面層3aの微多孔より大きくポリウレタンシート2の発泡7より小さいことから、ポリウレタンシート3の圧縮率がポリウレタンシート2の圧縮率より小さくなる。本例では、ポリウレタンシート2の圧縮率が30%以上70%以下の範囲、ポリウレタンシート3の圧縮率が1%以上30%未満の範囲にそれぞれ設定されている。このため、ポリウレタンシート3では外力に対する変形量がポリウレタンシート2より小さくなり、換言すれば、ポリウレタンシート2は外力に対して変形しやすく、ポリウレタンシート3は変形しにくい。これにより、研磨加工後に、ポリウレタンシート2に当接した被研磨物を取り外すときに外力が作用しても、ポリウレタンシート2と比較してポリウレタンシート3の変形が抑制される。従って、ポリウレタンシート3と保持定盤との密着性が保たれるので、保持パッド1自体が保持定盤から外れることなく容易に被研磨物のみを取り外すことができ、被研磨物の交換作業の効率を向上させることができる。
また、従来保持パッドと被研磨物との間に研磨液等の液体が浸入すると、被研磨物の保持力が低下し、被研磨物の裏面(保持パッドに当接する面)にヤケを生じ易くなり被研磨物を損傷するおそれがある。本実施形態の保持パッド1では、ポリウレタンシート2、3の保持面P、装着面Qに対する水の接触角が105°以上に調整されている。このため、保持面P、装着面Qが撥水性を有することから、研磨加工時に、保持パッド1と保持定盤または被研磨物との間に研磨液等が浸入しても保持定盤の回転に伴う遠心力により保持パッド1の外周側に排出され易くなる。従って、保持パッド1と保持定盤または被研磨物との間の密着性が保たれるので、保持パッド1の保持定盤への装着力、および、被研磨物の保持力の低下を抑制することができる。さらに、研磨加工中に保持パッド1に研磨液等が浸入しにくくなり、保持パッドの寿命低下を抑制することができる。
更に、本実施形態の保持パッド1では、ポリウレタンシート2が表面層2aより内側に表面層2aに形成された微多孔より大きい孔径の発泡7が形成された発泡層2bを有するため、発泡層2bが弾力性を発揮する。このため、ポリウレタンシート2が変形しつつ弾性状態で被研磨物を保持することができ、平坦化した保持面Pが被研磨物の全面に略均等に押し付けられる。これにより、被研磨物の加工表面にかかる押圧力が均等化するので、被研磨物の平坦性を向上させることができる。研磨加工される被研磨物については、大型化や高品質化などが進められることが予想されることから、被研磨物の平坦性についても、要求される品質はこれまで以上に高くなると考えられる。このような場合にも、本実施形態の保持パッド1を使用することで、要求品質を満たすことが期待できる。
また更に、本実施形態の保持パッド1では、ポリウレタンシート2の保持面Pの背面と、ポリウレタンシート3の装着面Qの背面とが貼り合わされている。このため、微多孔が形成された表面層2a、3aが保持パッド1の両面側に位置するので、表面層3aの表面、すなわち装着面Qで保持定盤に装着され、表面層2aの表面、すなわち保持面Pが被研磨物に当接する。保持定盤への装着、被研磨物の当接(保持定盤への保持)では、表面層2a、3aに少量の水を含ませることで微多孔に浸入した水の表面張力が作用するので、水のみで装着、当接を容易に行うことができる。従って、保持定盤への装着時にエアの咬み込み、位置ずれ等が生じても容易に貼り直すことができるため、装着作業に熟練を要することなく平坦かつ容易に装着することができる。また、被研磨物が水の表面張力の作用及びポリウレタンシート2の粘着力で保持されるので、研磨加工時にキャリア(型枠)を使用しなくても被研磨物の横ずれを抑制することができる。
更にまた、本実施形態の保持パッド1では、保持面P、装着面Qにそれぞれ発泡7または発泡9と連通する多孔8が形成されている。このため、表面層2a、3aに水を含ませて保持定盤に装着したとき、被研磨物を当接したときに、保持定盤及び保持パッド1間、保持パッド1及び被研磨物間にエアの咬み込みが生じても、多孔8を通じて発泡7、発泡9にエアが収容される(吸い込まれる)ので、保持定盤及び保持パッド1間、保持パッド1及び被研磨物間でのエアの貯留を防止することができる。このとき、表面層2a、3aには水を含ませているため、表面層2a、3aの微多孔にはエアが入り込むことができないが、多孔8では孔径が微多孔より大きいため、エアが入り込むことができる。従って、エアが貯留することなく被研磨物を略平坦に保持することができるため、研磨加工時に被研磨物を略均等に押圧することができ、被研磨物の加工表面の平坦性を向上させることができる。
また、本実施形態の保持パッド1では、発泡7、発泡9の孔径が多孔8より大きいため、保持定盤及び保持パッド1間、保持パッド1及び被研磨物間に咬み込まれたエアを確実に収容することができる。また、多孔8と発泡7または発泡9とを連通する連通孔の孔径が、表面層2a、3aの微多孔の孔径より大きいため、咬み込まれたエアを円滑に収容することができる。更に、発泡7、発泡9はそれぞれ連通孔で立体網目状に連通しているため、エアの咬み込み量が大きくても発泡層2b、3bのそれぞれ全体でエアを収容することができる。
更に、従来の保持パッドでは、保持定盤への装着に両面テープが使用されるため、一度貼付した保持パッドを保持定盤から剥離するためには両面テープの接着力以上の力で剥離し、剥離時に保持定盤に接着剤が残留(糊残り)することがある。接着剤が残留していると、新たな保持パッドを貼付したときに糊残り部分が盛り上がるため、保持パッドの表面(保持面)の平坦性が損なわれる。これを避けるため、寿命等で保持パッドを交換するときや貼り直しをするときには、保持定盤に残留している接着剤を完全に剥がし取る清掃作業が必要となるので、清掃作業に手間がかかり装着の作業性を低下させる。これに対して本実施形態の保持パッド1では、水のみで保持定盤に装着することができるため、容易に剥離することができ、更に接着剤の残留が発生しない。このため、簡単に剥離でき、剥離したときの保持定盤の清掃を簡略化することができるので、手間をかけることなく保持パッド1の脱・装着の作業効率を向上させることができる。
また更に、本実施形態の保持パッド1では、ポリウレタンシート2、3の貼り合わせに、基材4の両面に粘着剤5を塗着した両面テープ6が使用されており、この基材4にはPET製フィルムが用いられている。このため、ポリウレタンシート2、3を1枚ずつ両面テープ6と貼り合わせることができ、貼り合わせ作業を容易に行うことができる。また、ポリウレタンシート2の発泡7が形成された発泡層2bが弾力性を有することから、保持定盤の表面が若干の歪みを有していても基材4を介してポリウレタンシート2の発泡層2bが変形することで保持定盤の歪みを緩和することができる。更に、発泡層2bが弾力性を有するため、被研磨物に衝撃を与えることなく弾性状態で保持することができる。
更にまた、本実施形態のバックパッド1では、ポリウレタンシート2の保持面Pの背面、及び、ポリウレタンシート3の装着面Qの背面がそれぞれポリウレタンシート2、3の厚さが一様となるようにバフ処理されている。このため、表面層を損なうことなく、ポリウレタンシート2、3の厚さが略均一となるので、保持パッド1全体の厚さを略均一とすることができる。これにより、平坦な保持定盤に保持パッド1を装着することで保持面Pが略平坦となるので、被研磨物を略平坦に保持することができる。従って、研磨加工で被研磨物の平坦性を向上させることができる。
また、本実施形態の保持パッド1では、ポリウレタンシート2、3に100%モジュラスが20MPa以下のポリウレタン樹脂が使用されている。このため、ポリウレタンシート2の表面が被研磨物の形状に合うように密着しポリウレタンシート3の表面が保持定盤に密着して粘着性を発揮するので、被研磨物の保持、保持定盤への装着を確実にすることができる。
従来保持パッドでは、表面層を有する1枚のポリウレタンシートの背面側を保持定盤に装着するときに両面テープが使用される。このため、保持パッドおよび保持定盤間にエアの咬み込みが生じることがあり、この場合には研磨加工で被研磨物の平坦性を損なうため、保持パッドの貼り直しが必要となる。ところが、装着に失敗して貼り直しをすると保持定盤に接着剤が残留し、また、却って保持パッドにしわが生じて使用できなくなる。このため、保持パッドの装着は難しく、特に、大型の保持パッドの場合はかなりの熟練を要する。更に、寿命等で交換する場合にも保持定盤への接着剤の残留が生じるため、残留した接着剤を剥がし取る清掃作業が必要となる。このため、清掃作業に手間がかかるので、保持パッドの保持定盤への装着作業の効率がかなり低下する。また、両面テープを使用せずに保持定盤に保持パッドを装着する技術もあるが、研磨加工後に保持パッドから被研磨物を取り外す場合に、被研磨物が外れるより先に保持パッドが保持定盤から剥がれてしまうことがある。この場合には保持定盤に新たな保持パッドの装着が必要となり、保持パッドの寿命を低下させ研磨加工全体の作業の効率を低下させることがある。本実施形態は、これらの問題を解決することができる保持パッドである。
なお、本実施形態の保持パッド1では、ポリウレタンシート2の圧縮率を30%以上70%以下の範囲とし、ポリウレタンシート3の圧縮率を1%以上30%未満の範囲とする例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、保持定盤に装着する側のポリウレタンシート3の圧縮率を被研磨物に当接する側のポリウレタンシート2の圧縮率より小さくすればよい。ポリウレタンシート2の圧縮率が30%より小さい場合には、ポリウレタンシート2が硬くなり研磨加工中に被研磨物に衝撃を与えてしまうおそれがあり、圧縮率が70%を超えた場合には、研磨加工時に発生する剪断力でポリウレタンシート2が変形し平坦性を損なうおそれがある。このため、ポリウレタンシート2の圧縮率は30%以上70%以下の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは、40%以上70%以下の範囲に設定する。一方、ポリウレタンシート3の圧縮率が1%より小さい場合には、保持定盤に若干の歪が存在したときに歪をポリウレタンシート3で吸収し緩和することが難しくなり、圧縮率が30%以上の場合には、被研磨物を保持パッド1から外すときに加わる外力でポリウレタンシート3も変形してしまい保持パッド1が保持定盤から外れるおそれがある。このため、ポリウレタンシート3の圧縮率は1%以上30%未満の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは、5%以上30%未満の範囲に設定する。
また、本実施形態の保持パッド1では、多孔8を形成させる孔形成剤としてセルロース誘導体を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ポリウレタン樹脂の溶解に使用する有機溶媒に可溶性であり、凝固液に用いられる水に難溶性又は不溶性のものであればよい。このような孔形成剤としてはセルロース誘導体以外に、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニリデン/塩化ビニル共重合体、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリスチレン(PS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の高分子化合物を挙げることができる。また、これらの高分子化合物や上述したセルロース誘導体の2種以上を混合して使用してもよい。また、ポリウレタン樹脂溶液45、樹脂エマルジョン49への孔形成剤の添加量を変えることで、多孔8の孔径を調整することができる。また、本実施形態では、ポリウレタン樹脂溶液45、樹脂エマルジョン49に、それぞれ保持面P、装着面Qに撥水性を付与するための撥水性添加剤を添加する例を示したが、撥水性を付与するために、ポリウレタンシート2、3の表面を、フッ素樹脂等の撥水性添加剤で処理するようにしてもよい。付与した撥水性が強すぎると、保持パッド1を保持定盤に装着するときや被研磨物に当接するときに表面層2a、3aに水を含ませることが難しくなるため、表面層2a、3aに対する水の接触角が150°以下となるように調整することが好ましい。
更に、本実施形態の保持パッド1では、ポリウレタンシート2、3に、100%モジュラスを20MPa以下のポリウレタン樹脂を使用した例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ポリエステル樹脂等を使用してもよく、100%モジュラスを20MPa以下とすれば、湿式成膜したポリウレタンシート2、3が被研磨物、保持定盤に密着するので、定盤への装着性、被研磨物の保持性の向上を図ることができる。また、ポリウレタン樹脂を用いれば、湿式成膜法で容易に表面層2a、3aを形成することができる。更に、本実施形態の保持パッド1では、研磨加工時に被研磨物の横ずれを防止するキャリアを使用しない例を示したが、キャリアを使用することで被研磨物の横ずれ防止を強化することができる。
また更に、本実施形態の保持パッド1では、ポリウレタンシート2、3の貼り合わせに、基材4の両面に粘着剤5を塗着した両面テープ6を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、基材4、粘着剤5をそれぞれ別に準備して貼り合わせるようにしてもよい。作業の簡便性、保持定盤への装着時や運搬時の取り扱いの容易さを考慮すれば、基材4を有する両面テープ6を使用することが好ましい。また、基材4を使用せず粘着剤5のみで貼り合わせることも可能であり、更には、ポリウレタンシート2、3の貼り合わせる面を加熱しながら貼り合わせることで粘着剤5を使用することなく樹脂自体の粘着性で貼り合わせてもよい。加熱時の温度管理で平坦性を確保しつつ貼り合わせることが可能である。このようにすれば、基材4や粘着剤5のコスト分を削減することができる。また、本実施形態では、基材4にPET製フィルムを例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、PET製以外の可撓性フィルム、不織布、織布等を使用してもよい。更に、本実施形態以外に使用可能な粘着剤5としては、例えば、アクリル系粘着剤等を挙げることができる。
更にまた、本実施形態の保持パッド1では、湿式成膜したポリウレタンシート2、3は、バフ処理工程で、保持面P、装着面Qに圧接ローラ65を圧接させながら背面N側をそれぞれ連続的にバフ処理する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、バフ処理前のポリウレタンシートを所望の大きさに裁断した後、平坦な表面を有する平板を保持面P、装着面Qに圧接してバフ機等により背面N側をバフ処理してもよい。バフ処理量はポリウレタンシート2、3の厚さの範囲Rの2倍以上の厚みをバフ処理することが望ましい。バフ処理ではサンドペーパーやダイヤモンドバフロール等の種々のものが使用されるが、均一な処理(研削除去)ができるものであればいずれも使用することができる。このとき、バフ番手(砥粒の粗さを示す番号)を高くする程、細かな砥粒で研削でき均一なバフ処理ができる。更に、バフ処理を、1回目で低いバフ番手(粗い砥粒)で研削をし、2回目で1回目より高いバフ番手のもので研削量を小さくしてバフ仕上げ処理することで、厚み精度を更に上げることもできる。また、例えば、成膜時にポリウレタン樹脂溶液45、樹脂エマルジョン49の塗布厚さの調整精度を高めることで、ポリウレタンシート2、3の厚み精度を向上させれば、ポリウレタンシート2、3をバフ処理せずにそのまま貼り合わせることも可能である。
また、本実施形態では、湿式成膜時の成膜基材43にPET製フィルムを使用する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、不織布や織布を使用してもよい。この場合には、ポリウレタン樹脂の凝固再生後に成膜基材43を剥離することが難しいため、成膜基材43のポリウレタン樹脂が再生された面の反対面側をバフ処理し、バフ処理した面同士を貼り合わせればよい。
以下、本実施形態に従い製造した保持パッド1の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の保持パッドについても併記する。
(実施例1)
実施例1では、ポリウレタンシート2、3の作製にポリウレタン樹脂としてポリエステルMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)ポリウレタン樹脂(100%モジュラス10MPa)を用いた。ポリウレタンシート2の作製では、30%ポリウレタン樹脂溶液の100部に対して、溶媒のDMFの45部、顔料としてカーボンブラック30%を含むDMF分散液の40部、セルロース誘導体としてセルロースアセテートブチレートを0.2部、撥水性を付与するためのシリコーンオイルの0.3部を添加し混合してポリウレタン樹脂溶液45を調製した。一方、ポリウレタンシート3の作製では、調整有機溶媒の酢酸エチルの45部を添加する以外はポリウレタンシート2と同様にした。ポリウレタンシート2、3をそれぞれバフ処理し、ポリウレタン2とポリウレタンシート3とを両面テープ6で貼り合わせることで実施例1の保持パッド1を製造した。この保持パッド1をポリウレタンシート3の表面層3aで保持定盤に装着し、ポリウレタンシート2の表面層2a側を被研磨物に当接して、被研磨物を保持定盤に保持させた。
(比較例1)
比較例1では、撥水性添加剤を配合しない以外は実施例1と同様にしてポリウレタンシート2’を作製し、得られたポリウレタンシート2’同士を貼り合わせることで比較例1の保持パッドを製造した。保持定盤への装着および被研磨物の当接は、いずれもポリウレタンシート2’の表面層で行う。
(比較例2)
比較例2では、撥水性添加剤を配合しない以外は実施例1と同様にしてポリウレタンシート2’、3’を作製し、実施例1と同様にして比較例2の保持パッドを製造した。保持定盤への装着向きは、ポリウレタンシート2’を被研磨物側とした。
(評価)
次に、各実施例および比較例について、ポリウレタンシート2、3の圧縮率および水の接触角を測定した。圧縮率は、日本工業規格(JIS L 1021−1974 圧縮率および圧縮弾性率 A法)に従い測定した。水の接触角は、接触角計/固液界面解析装置(DropMaster500:協和界面科学株式会社製)を用いて、測定開始から5分後の値を測定値とした。また、保持パッド1を使用し、以下の研磨条件でガラス基板の研磨テストを行った。このとき、目視にて、ガラス基板の裏側(保持パッド1とガラス基板との間)にガラス基板の外縁部から浸入したスラリー(研磨液)の有無、および、ガラス基板を交換するときの保持パッドの剥がれ状況を評価した。各評価、測定結果を下表1に示した。
(研磨条件)
使用研磨機:オスカー研磨機(スピードファム社製 SP−1200)
研磨速度(回転数):61rpm
加工圧力:76gf/cm
スラリー:セリウムスラリー
被研磨物:LCD用ガラス基板(355mm×406mm×0.5mm)
研磨時間:30min×20回
Figure 0004889507
表1に示すように、実施例1の保持パッド1では、ポリウレタンシート2について圧縮率40.4%、水の接触角106.8°、ポリウレタンシート3について圧縮率11.3%、水の接触角105.9°の測定結果が得られ、水の接触角が大きく、研磨テストでスラリーの浸入は認められなかった。このため、撥水性が十分に付与されており、ガラス基板の裏側へのスラリーの浸入が抑制されたことから、保持力の低下が認められず、ガラス基板に対するヤケ等の損傷が発生するおそれもないことが判った。また、ポリウレタンシート2、3に多孔8が形成されているため、保持パッドと保持定盤またはガラス基板との間にエアの貯留は認められなかった。また、ガラス基板の交換時でも、保持パッド1の剥がれは認められず、保持パッド1を保持定盤に装着された状態に維持することができた。従って、2枚のポリウレタンシート2、3のうち、圧縮率の小さい方を保持定盤側とすることで、研磨加工後にガラス基板等の被研磨物を取り外すときに保持パッドが剥がれることなく容易に取り外すことができ、被研磨物の交換作業を容易に行うことができる。
これに対して、比較例1では、ポリウレタンシート2’について圧縮率41.2%、水の接触角98.3°の測定結果が得られた。このポリウレタン2’同士を貼り合わせていることから、圧縮率は、被研磨物に当接する側ではポリウレタンシート2を用いた実施例1とほぼ同等であるのに対して、保持定盤に装着する側ではポリウレタンシート3を用いた実施例1より大きくなる。また、撥水性添加剤を配合していないため、水の接触角が実施例1より小さくなり撥水性が付与されていないことが判った。この比較例1の保持パッドを使用した研磨テストにおいて、ガラス基板を交換するときに、保持パッド自体が保持定盤から外れることが多く認められた。これは、ポリウレタンシート2’で保持定盤に装着したことから、ガラス基板を取り外すときの外力でポリウレタンシート2’の変形が生じたためと考えられる。また、スラリーの浸入も認められ、ガラス基板の裏面にヤケを生じるおそれがあることが判った。これは、実施例1に比べて撥水性が弱いため、ガラス基板の裏側へスラリーが浸入しやすくなっているためと考えられる。
一方、比較例2では、被研磨物に当接する側に、比較例1と同じポリウレタンシート2’を用いた。ポリウレタンシート3’について圧縮率12.4%、水の接触角95.3°の測定結果が得られた。このことから、圧縮率は実施例1とほぼ同等であるが、撥水性添加剤を配合していないため、水の接触角が実施例1より小さくなり撥水性が付与されていないことが判った。また、ポリウレタンシート2’、3’では多孔8が形成されているため、実施例1と同様に、保持パッドと保持定盤またはガラス基板との間にエアの貯留は認められなかった。この比較例2の保持パッドを使用した研磨テストでは、ガラス基板を交換するときに保持パッドの剥がれは認められなかったものの、比較例1と同様、スラリーの浸入が認められた。
本発明は定盤に容易に脱着可能で被研磨物の交換作業の効率を向上させることができる保持パッドを提供するため、保持パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
本発明を適用した実施形態の保持パッドを示す断面図である。 保持パッドの製造工程を示す工程図である。 保持パッドのポリウレタンシートの製造に用いる成膜装置の概略構成を示す正面図である。 バフ処理工程でのポリウレタンシートの変化を示す断面図であり、(A)は成膜基材に形成されたポリウレタンシート、(B)は圧接ローラに保持面を圧接したときのポリウレタンシート、(C)はバフ処理後のポリウレタンシートをそれぞれ示す。
符号の説明
P 保持面
Q 装着面
1 保持パッド
2、3 ポリウレタンシート(軟質プラスチックシート)
2a、3a 表面層
2b、3b 発泡層

Claims (7)

  1. 微多孔が形成された表面層を有する2枚の軟質プラスチックシートの背面同士が貼り合わされ、いずれか一方の表面層側で定盤に装着され、いずれか他方の表面層側が被研磨物に当接する保持パッドにおいて、前記軟質プラスチックシートは、いずれも前記表面層の表面に対する水の接触角が105°以上であるとともに、それぞれ異なる圧縮率を有しており、該圧縮率の小さい方の軟質プラスチックシートの前記表面層側で前記定盤に装着されることを特徴とする保持パッド。
  2. 前記2枚の軟質プラスチックシートは、いずれも前記表面層より内側に、前記表面層に形成された微多孔より大きい孔径の発泡が形成された発泡層を有しており、前記定盤に装着される軟質プラスチックシートの発泡層に形成された発泡は、前記被研磨物に当接する軟質プラスチックシートの発泡層に形成された発泡より孔径が小さいことを特徴とする請求項1に記載の保持パッド。
  3. 前記被研磨物に当接する軟質プラスチックシートは圧縮率が30%以上70%以下であり、前記定盤に装着される軟質プラスチックシートは圧縮率が1%以上30%未満であることを特徴とする請求項2に記載の保持パッド。
  4. 前記軟質プラスチックシートの背面同士は、基材と該基材の両面に配された粘着剤とを有する接着部材で貼り合わされていることを特徴とする請求項1に記載の保持パッド。
  5. 前記軟質プラスチックシートの背面側は、それぞれの軟質プラスチックシートの厚さが一様となるようにバフ処理されていることを特徴とする請求項1に記載の保持パッド。
  6. 前記軟質プラスチックシートは、いずれも前記表面層の表面に、前記発泡層に形成された発泡より小さく前記表面層に形成された微多孔より大きい孔径の多孔が更に形成されており、前記多孔が前記発泡層に形成された発泡と連通していることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の保持パッド。
  7. 研磨加工時に被研磨物の横ずれを防止するキャリアを更に有することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の保持パッド。
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